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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-26
(45)【発行日】2024-01-10
(54)【発明の名称】鉄管の突部形成方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/04 20060101AFI20231227BHJP
   B23K 9/028 20060101ALI20231227BHJP
   F16L 21/04 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
B23K9/04 Q
B23K9/028 N
B23K9/04 A
B23K9/04 K
F16L21/04
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019051135
(22)【出願日】2019-03-19
(65)【公開番号】P2020151733
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2022-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100112575
【弁理士】
【氏名又は名称】田川 孝由
(74)【代理人】
【識別番号】100167380
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 隆
(72)【発明者】
【氏名】小川 耕平
【審査官】山内 隆平
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-229800(JP,A)
【文献】特開昭60-240380(JP,A)
【文献】特開昭55-081070(JP,A)
【文献】特開2017-094343(JP,A)
【文献】特開平09-013579(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/04
B23K 9/028
F16L 21/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄管(P)外面全周に亘って肉盛り溶接し、その鉄管外面一周の各肉盛り溶接を鉄管(P)の径方向に複数回重ねて、鉄管外周面にその複数の重なった溶接ビード(a1、a2、a3)からなって幅方向の規制をすることなく突部(4)を形成する鉄管の突部形成方法であって、
上記重なった溶接ビート(a1、a2、a3)の上記鉄管(P)外面一周の各肉盛り溶接は、開始から鉄管(P)外面一周回って終了に至るものであり、その肉盛り溶接の開始と終了を重ね、その重なった各溶接ビード(a1、a2、a3)の肉盛り溶接の開始・終了の重なり部(s1、s2、s3)を、鉄管(P)外周方向の異なる位置とする鉄管の突部形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、耐震継手構造のダクタイル鋳鉄管の挿し口等の鉄管の外周面に突部を形成する方法、及びその突部を有する鉄管に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋳鉄管には、例えば、図4に示すように、内外径が一定な円筒形直部の一方の端部が受口1に、他方の端部が挿し口2となり、前記受口1内面にロックリング3が装填され、前記挿し口2外周面に突部4を有する管がある。この管Pは、一方の管Pの挿し口2を他方の管Pの受口1にロックリング3を乗り越えて挿入し、そのロックリング3に突部4が係止する(一点鎖線状態)ことによって一方の管Pの挿し口2の他方の管Pの受口1からの抜け出しが防止され、同挿し口2の先端部が同受口1内面の端壁1aに当接(二点鎖線状態)してそれ以上の挿し込みが防止される耐震継手構造をなすものである。図中、5はロックリングホルダー、6はゴム輪である。
【0003】
この種の管Pは、通常、遠心鋳造法によって鋳造されるが、挿し口2外面の突部4は、その挿し口2にリングを嵌めて溶接してそのリングで形成したり、図5(a)に示すように、挿し口2外面全周に亘る肉盛り溶接による溶接ビードaで形成したり、している(特許文献1~4参照)。その溶接ビードaによる突部4は、切削によって図4及び図5(b)に示す、所要断面形状に仕上げ加工している。
【0004】
従来、その溶接ビードaの肉盛り溶接は、一周の肉盛り溶接で突部を形成している(特許文献1、図2図3、特許文献2、図7、特許文献3、図1、特許文献4、図3等参照)。この一周の肉盛りで形成できる突部4の形状や強度には技術的な限界があり、突部4を図5(b)に示す所要の断面形状とするのは容易ではない。このため、この一周の肉盛りで所要高さ・幅の突部4を形成するには熟練が必要である。
この点から、図6に示すように、その一周の肉盛り溶接a1、a、aを鋳鉄管Pの径方向に複数回重ねてその外周面に複数の溶接ビードa1、a、aからなる突部4を形成することが考えられる(図5(a)参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-158792号公報
【文献】特開2008-185114号公報
【文献】特開平09-189388号公報
【文献】特許第6082087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このとき、その肉盛り開始位置と終了位置は肉盛り溶接aが重なる重なり部、s、sとなる。その重なり部はオーバーラップ部であり、以下、単に、適宜に「ラップ部s 、s 、s 」という。そのラップ部s、s、s図7に示すように重なると(径方向同一線上になると)、そのラップ部s、s、sが同じ位置にある(重なっている)ことから、そのラップ部が他の部分より盛り上がった(その部分のみが厚い)状態となる。この盛り上がりは、溶接形状の崩れが生じて良好な溶接ビードaとならなかったり、その盛り上がりの切削による仕上げ工程が煩雑(時間と手間がかかるもの)となったりする。
【0007】
この発明は、以上の実状の下、上記肉盛り溶接による所要断面形状の突部の形成を容易にすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を達成するため、この発明は、まず、鉄管外面一周の各肉盛り溶接を鉄管の径方向に複数回重ねてその複数の溶接ビードから突部を形成することとしたり、鉄管外面にリングを嵌めて、そのリングの側面と前記鉄管外周面との全周に亘って複数層の肉盛り溶接する隅肉溶接によって前記リングからなる突部を形成することとしたりしたのである。
この複数の溶接ビードによれば、その肉盛り溶接を所要の形状・大きさ等にし易く、その溶接ビードによる突部の形成は、一度の溶接による突部の形成に比べれば、その幅や高さを所要の寸法にしやすく、熟練を必要としない。
このとき、一周の肉盛り溶接の開始・終了のラップ部は他の部分とその高さや幅をほぼ同一とすることができる(全周に亘って高さや幅がほぼ均一化できる)。
【0009】
つぎに、この発明は、上記各溶接ビードの肉盛り溶接の開始・終了のラップ部を、鉄管外周方向の異なる位置にずらしたのである。
このように、各周の肉盛り溶接の開始・終了のラップ部が周方向にずれれば、上記のように、一周の肉盛り溶接のラップ部は他の部分とその高さや幅がほぼ同一となって、従来のように、その各肉盛りラップ部が重なることがなくなり、そのラップ部の盛り上がりも抑制される。すなわち、各周の肉盛りを連続して行う場合の連続溶接部の形状に近づけることができる。
【0010】
具体的な一手段は、鉄管外面全周に亘って肉盛り溶接し、その鉄管外面一周の各肉盛り溶接を鉄管の径方向に複数回重ねて、鉄管外周面に複数の溶接ビードからなる突部を形成する鉄管の突部形成方法であって、前記鉄管外面一周の肉盛り溶接は開始と終了を重ね、その各溶接ビードの肉盛り溶接の開始・終了のラップ部(重なり部)を、鉄管外周方向の異なる位置とする構成を採用したのである。
【0011】
具体的な他の手段は、鉄管外面にリングを嵌めて、そのリングの側面と前記鉄管外周面との全周に亘って複数層の肉盛り溶接する隅肉溶接によって前記リングを突部とする鉄管の突部形成方法であって、前記リング側面と鉄管外周面の肉盛り溶接は開始と終了を重ね、その各溶接ビードの肉盛り溶接の開始・終了のラップ部を、鉄管外周方向の異なる位置とする構成を採用したのである。
これらの鉄管の突部形成方法によって外周面に突部を有する鉄管を得ることができる。
【発明の効果】
【0012】
この発明は、以上のように構成して、一周の溶接ビードの開始・終了のラップ部をずらしたので、そのラップ部の肉盛り溶接の盛り上がりが抑制される。このため、その部分における溶接形状の崩れが生じにくく、良好な溶接ビード層となる(突部の形状が安定する)とともに、その盛り上がりの仕上げ工程作業も容易(簡易)となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】この発明に係る鉄管の突部形成方法の一実施形態による鉄管の要部断面図
図2】同他の実施形態による鉄管の一部斜視図
図3】同実施形態の各例の切断正面図
図4】耐震継手用ダクタイル鋳鉄管を示し、(a)は接続状態の一部切断断面図、(b)は一部斜視図
図5】肉盛り溶接による一の突部形成方法を示し、(a)は溶接後の一部断面図、(b)は切削仕上げ後の一部断面図
図6】肉盛り溶接による突部形成方法の一作用説明図
図7】同突部形成方法の一作用説明用断面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
この発明に係る鉄管の突部形成方法の一実施形態を図1に示し、この方法は、図4で示した、耐震継手用ダクタイル鋳鉄管Pの挿し口2外周面に幅方向の規制をすることなく抜け止め用突部4を溶接ビードaによって形成する場合である。なお、幅方向の規制は、例えば、特開2007-229800号公報等に記載のように、溶接ビードaの両側に一対の当て板を配置する。
その形成は、上記と同様に、アーク溶接によって、鋳鉄管P外面全周に亘って一周の肉盛り溶接し、その一周の肉盛り溶接を鋳鉄管Pの径方向に複数回重ねて、その鋳鉄管P外周面に複数の溶接ビードa1、a2、a3からなる突部4を形成する。
その溶接の際、鋳鉄管Pの外周の一回の肉盛り溶接は、開始から鉄管P外面一周回って終了に至るものであり、その開始と終了を重ねてラップ部sとし、図1に示すように、各溶接ビードa1、a2、a3のラップ部s(s1、s2、s3)を、鋳鉄管P(挿し口2)外周方向の異なる位置とする。
溶接ビードaの数やラップ部sの間隔tは、突部4がその作用を有効に発揮できるようにその高さや幅を考慮して実験等によって適宜に決定する。この実施形態では、溶接ビードa数:3回、ラップ部s(s1、s2、s3)は径方向に重ならないようにした(径方向同一線上とならないようにした)。
【0015】
このように、複数の溶接ビードa(a、a、a)による突部4の形成は、一度の溶接による突部4の形成に比べれば、その幅や高さを所要の寸法にしやすく、熟練を必要としない。
また、その肉盛り溶接の開始・終了のラップ部s(s、s、s)が鋳鉄管P外周方向にずれれば、そのラップ部sの肉盛りがずれるため、従来のように、その各肉盛りが重なることがなくなり盛り上がりも抑制される。
以上から、溶接部(突部4)における溶接形状の崩れが生じにくく、良好な溶接ビードaとなる(突部4の形状が安定する)とともに、図5(b)に示す、その複数の溶接ビードa、a、aによる突部4の所要形状への切削による仕上げ工程作業も容易(簡易)となる。
【0016】
この発明に係る鉄管の突部形成方法は、ダクタイル鋳鉄管P以外に、複数層の溶接ビードによる種々の鉄管P外周面への突部の形成に採用することができる。このとき、挿し口2には限定されないことは勿論である。各溶接ビードaの層数は任意である。また、鋳鉄管Pは上記実施形態の形式の鋳鉄管に限らず、外周面に突部を有する種々の鋳鉄管において、その突部を肉盛り溶接によって形成する場合に採用できることは勿論である。
【0017】
この発明の各溶接ビードのラップ部をビードの長さ方向にずらす考えは、複数の溶接ビ
ードを重ねる際、その各溶接ビートのラップ部が重なる種々の溶接においても採用することができる。例えば、この発明の他の実施形態を示す図2図3のように、鉄管P外面にリング14を嵌めてそのリング14の側面と鉄管P外周面との全周に亘って鉄管Pの径方向に重なる複数層の肉盛り溶接する隅肉溶接によって前記リング14を突部とする鉄管の突部形成方法において、前記重なる隅肉溶接の溶接ビードa 、a 、a リング14側面と鉄管P外周面の一周の肉盛り溶接aは、同様に、その開始と終了を鉄管周方向で重ね、その重なった各溶接ビードa、a、aの肉盛り溶接の開始・終了のラップ部を、鉄管外周方向の異なる位置とする。この場合、突部4をリング14でもって設ける場合にも採用できることは勿論である。
このとき、リング14の側面は、両側面を複数層の肉盛り溶接aしたり(図3(a))、一側面のみを複数層の肉盛り溶接したり(同図(b))、一側面は複数層の肉盛り溶接a(a、a、a)、他側面は一層の肉盛り溶接aとしたり(同図(c))、することができる。
【0018】
さらに、この発明は、特許文献4の図11の突部形成においても採用し得て、鋳鉄管Pに限らず、肉盛り溶接が可能な種々の鉄管における突部形成にも採用し得る。また、鉄管に種々のリング14を隅肉溶接する場合にも採用できることは言うまでもない。
このように、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。この発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0019】
P 鋳鉄管(鉄管)
a、a、a、a 溶接ビード(肉盛り溶接)
s、s、s、s 肉盛り溶接ラップ部(溶接・終了位置)
1 鋳鉄管の受口
2 同挿し口
4 突部
14 リング
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7