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特許7413741蓄電池データ蓄積装置、コンピュータプログラム及び蓄電池データ蓄積方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】蓄電池データ蓄積装置、コンピュータプログラム及び蓄電池データ蓄積方法
(51)【国際特許分類】
   B60R 16/04 20060101AFI20240109BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20240109BHJP
   G01R 31/392 20190101ALI20240109BHJP
   G01R 31/389 20190101ALI20240109BHJP
   G01R 31/382 20190101ALI20240109BHJP
   B60L 58/10 20190101ALN20240109BHJP
【FI】
B60R16/04 W
H01M10/48 P
G01R31/392
G01R31/389
G01R31/382
B60L58/10
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019219000
(22)【出願日】2019-12-03
(65)【公開番号】P2021088249
(43)【公開日】2021-06-10
【審査請求日】2022-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 克征
【審査官】久保田 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-129493(JP,A)
【文献】特開2015-191859(JP,A)
【文献】特開2017-138128(JP,A)
【文献】特開2019-168453(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0016956(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 16/04
H01M 10/48
G01R 31/392
G01R 31/389
G01R 31/382
B60L 58/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電池の第1電気値及び第2電気値それぞれの時系列データを取得する取得部と、
前記取得部で取得した第1電気値及び第2電気値に基づいて、前記第1電気値の時系列データが与えられたときに推定期間での前記第2電気値の時系列データを推定できる複数のパラメータを算出する算出部と、
前記第1電気値の時系列データ及び前記第2電気値の時系列データに代えて前記算出部で算出した複数のパラメータを記憶する記憶部と
を備える蓄電池データ蓄積装置。
【請求項2】
前記第2電気値の時系列データを破棄する破棄部を備える請求項1に記載の蓄電池データ蓄積装置。
【請求項3】
前記複数のパラメータ数は、前記第2電気値の時系列データの前記推定期間での時系列データのサンプル数より少ない請求項1又は請求項2に記載の蓄電池データ蓄積装置。
【請求項4】
前記第1電気値は、前記蓄電池の放電時の電流であり、
前記第2電気値は、前記蓄電池の放電時の電圧である請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の蓄電池データ蓄積装置。
【請求項5】
前記第1電気値は、前記蓄電池の充電時の電圧であり、
前記第2電気値は、前記蓄電池の充電時の電流である請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の蓄電池データ蓄積装置。
【請求項6】
前記算出部は、
前記複数のパラメータとして前記蓄電池の等価回路のパラメータを算出する請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の蓄電池データ蓄積装置。
【請求項7】
前記算出部で算出した等価回路のパラメータに基づいて前記蓄電池の状態を判定する判定部を備える請求項6に記載の蓄電池データ蓄積装置。
【請求項8】
前記取得部は、
車載の蓄電池の時系列データを取得する請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の蓄電池データ蓄積装置。
【請求項9】
コンピュータに、
蓄電池の第1電気値及び第2電気値それぞれの時系列データを取得する処理と、
取得した第1電気値及び第2電気値に基づいて、前記第1電気値の時系列データが与えられたときに推定期間での前記第2電気値の時系列データを推定できる複数のパラメータを算出する処理と、
前記第1電気値の時系列データ及び前記第2電気値の時系列データに代えて、算出した複数のパラメータを記憶部に記憶する処理と
を実行させるコンピュータプログラム。
【請求項10】
蓄電池の第1電気値及び第2電気値それぞれの時系列データを取得し、
取得された第1電気値及び第2電気値に基づいて、前記第1電気値の時系列データが与えられたときに推定期間での前記第2電気値の時系列データを推定できる複数のパラメータを算出し、
前記第1電気値の時系列データ及び前記第2電気値の時系列データに代えて、算出された複数のパラメータを記憶部に記憶する蓄電池データ蓄積方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電池データ蓄積装置、コンピュータプログラム及び蓄電池データ蓄積方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用蓄電池や非常用電源又は重要電源としての産業用蓄電池は幅広く使用されている。特に、近年、HEV(Hybrid Electric Vehicle:ハイブリッド自動車)及びEV(Electric Vehicle:電気自動車)等の車両が普及しつつある。車両に搭載された蓄電池は、車両の走行によって充放電を繰り返すが、蓄電池は、充放電を繰り返すことで劣化が進行することが知られている。
【0003】
蓄電池の劣化はその使用履歴によって劣化形態やその進行も異なるためルールベースでの診断が難しい。特許文献1には、充放電履歴を学習データとして用いることで内部状態を診断するシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4075925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、充放電履歴データを用いて内部状態などの診断を精度よく行うためには、蓄電池に流れる電流の時系列データ、及び蓄電池の端子電圧の時系列データが大量に必要である。このため、蓄電池の状態を継続して精度よく推定するためには、大容量の記憶装置などのリソースを確保しなければならない。
【0006】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであり、蓄電池の状態を推定するために必要なデータの蓄積量を低減することができる蓄電池データ蓄積装置、コンピュータプログラム及び蓄電池データ蓄積方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
蓄電池データ蓄積装置は、蓄電池の第1電気値及び第2電気値それぞれの時系列データを取得する取得部と、前記取得部で取得した第1電気値及び第2電気値に基づいて、前記第1電気値の時系列データが与えられたときに推定期間での前記第2電気値の時系列データを推定できる複数のパラメータを算出する算出部と、前記第1電気値の時系列データ及び前記算出部で算出した複数のパラメータを記憶する記憶部とを備える。
【0008】
コンピュータプログラムは、コンピュータに、蓄電池の第1電気値及び第2電気値それぞれの時系列データを取得する処理と、取得した第1電気値及び第2電気値に基づいて、前記第1電気値の時系列データが与えられたときに推定期間での前記第2電気値の時系列データを推定できる複数のパラメータを算出する処理と、前記第1電気値の時系列データ及び算出した複数のパラメータを記憶部に記憶する処理とを実行させる。
【0009】
蓄電池データ蓄積方法は、蓄電池の第1電気値及び第2電気値それぞれの時系列データを取得し、取得された第1電気値及び第2電気値に基づいて、前記第1電気値の時系列データが与えられたときに推定期間での前記第2電気値の時系列データを推定できる複数のパラメータを算出し、前記第1電気値の時系列データ及び算出された複数のパラメータを記憶部に記憶する。
【0010】
取得部は、蓄電池の第1電気値及び第2電気値それぞれの時系列データを取得する。第1電気値及び第2電気値は、蓄電池の状態を推定するために必要なデータであり、例えば、蓄電池の充放電時の電圧及び電流の一方及び他方とすることができる。
【0011】
算出部は、複数のパラメータを算出する。複数のパラメータは、第1電気値及び第2電気値それぞれの時系列データに基づいて算出することができ、第1電気値の時系列データを用いることにより、推定期間での元の第2電気値の時系列データを再現することができるパラメータとすることができる。ここで、再現は、全く同一という意味だけでなく、ある程度の誤差が存在しても、当該誤差が許容範囲内であればよいという意味である。
【0012】
記憶部は、第1電気値の時系列データ及び算出した複数のパラメータを記憶する。これにより、蓄電池の第1電気値及び第2電気値それぞれの時系列データを記憶する場合に比べて、第2電気値の時系列データに代えて複数のパラメータを記憶すればよいので、蓄電池の状態を推定するために必要なデータの蓄積量を低減することができる。
【0013】
蓄電池データ蓄積装置は、前記第2電気値の時系列データを破棄する破棄部を備えてもよい。
【0014】
破棄部は、第2電気値の時系列データを破棄してもよい。第2電気値の時系列データは、第1電気値の時系列データ及び算出した複数のパラメータによって再現できるので、記憶する必要がない。破棄することによって、不要な記憶容量を確保する必要がなくなる。
【0015】
蓄電池データ蓄積装置は、前記複数のパラメータ数は、前記第2電気値の時系列データの前記推定期間での時系列データのサンプル数より少なくてもよい。
【0016】
複数のパラメータ数は、第2電気値の時系列データの推定期間での時系列データのサンプル数より少なくてもよい。例えば、推定期間を10分間とし、時系列データのサンプリング周期を1秒とすると、推定期間内の時系列データのサンプル数は、600個となる。パラメータの数を、例えば、5個(<600個)とし、時系列データ及びパラメータの1個当たりのデータサイズを、仮に、4バイトとする。推定期間内の時系列データを全て記憶するには、2400バイト必要とするのに対し、パラメータを記憶するには、20バイトで済む。このように、蓄電池の状態を推定するために必要なデータの蓄積量を低減することができる。
【0017】
蓄電池データ蓄積装置において、前記第1電気値は、前記蓄電池の放電時の電流であり、前記第2電気値は、前記蓄電池の放電時の電圧であってもよい。
【0018】
蓄電池が放電時には、第1電気値は電流とし、第2電気値は電圧としてもよい。すなわち、蓄電池が放電時のとき、電流値の時系列データと複数のパラメータとを用いることにより、放電時の蓄電池の電圧(端子電圧)の時系列データを推定することができる。
【0019】
蓄電池データ蓄積装置において、前記第1電気値は、前記蓄電池の充電時の電圧であり、前記第2電気値は、前記蓄電池の充電時の電流であってもよい。
【0020】
蓄電池が充電時には、第1電気値は電圧とし、第2電気値は電流としてもよい。すなわち、蓄電池が充電時のとき、電圧値の時系列データと複数のパラメータとを用いることにより、充電時の蓄電池の電流(充電電流)の時系列データを推定することができる。
【0021】
蓄電池データ蓄積装置において、前記算出部は、前記複数のパラメータとして前記蓄電池の等価回路のパラメータを算出してもよい。
【0022】
算出部は、複数のパラメータとして蓄電池の等価回路のパラメータを算出してもよい。等価回路(等価回路モデルとも称する)は、蓄電池の端子電圧を表す等価回路であり、例えば、図3に示すように、起電力Ve(開放電圧OCVとも称する)を有する電圧源、合金部材の電気的抵抗等に対応し、電圧源に直列に接続される抵抗R0、界面電荷移動抵抗及び拡散インピーダンス等に対応する抵抗R1、R2、電気二重層キャパシタンスを表し、抵抗R1、R2それぞれに並列に接続されるキャパシタC1、C2などの組み合わせで構成される。
【0023】
等価回路のパラメータの算出は、例えば、蓄電池が放電時の場合、時系列データで表される電流が流れた際の実測電圧値の時系列データ(実測電圧波形)に対して、同等の電流が流れた際の等価回路のパラメータによって計算される計算電圧値の時系列データ(計算電圧波形)との誤差が最小となるようにパラメータを繰り返し調整することによって行うことができる。また、同様に、蓄電池が充電時の場合、時系列データで表される電圧が印加された際の実測電流値の時系列データ(実測電流波形)に対して、同等の電圧が印加された際の等価回路のパラメータによって計算される計算電流値の時系列データ(計算電流波形)との誤差が最小となるようにパラメータを繰り返し調整することによって行うことができる。
【0024】
蓄電池データ蓄積装置は、前記算出部で算出した等価回路のパラメータに基づいて前記蓄電池の状態を判定する判定部を備えてもよい。
【0025】
判定部は、算出部で算出した等価回路のパラメータに基づいて蓄電池の状態を判定してもよい。例えば、内部抵抗の大小(初期値との差分の大小)に応じて、劣化の度合いを判定してもよい。
【0026】
蓄電池データ蓄積装置において、前記取得部は、車載の蓄電池の時系列データを取得してもよい。
【0027】
取得部は、車載の蓄電池の時系列データを取得してもよい。例えば、コネクテッドカーが普及し、車載の蓄電池から取得するデータ量が爆発的に増大したとしても、蓄電池の状態を推定するために必要なデータ量を低減することが可能となる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、蓄電池の状態を推定するために必要なデータの蓄積量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本実施の形態の蓄電池データ蓄積システムの概念を示す図である。
図2】サーバの構成を示す図である。
図3】蓄電池の等価回路の例を示す図である。
図4】蓄電池の電流波形の例を示す図である。
図5】蓄電池の電圧波形の例を示す図である。
図6】蓄電池の放電時のサーバの処理を示す図である。
図7】蓄電池の充電時のサーバの処理を示す図である。
図8】蓄電池DBの構成を示す図である。
図9】蓄電池の状態判定の例を示す図である。
図10】サーバの処理手順の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は本実施の形態の蓄電池データ蓄積システムの概念を示す図である。蓄電池データ蓄積システムは、蓄電池データ蓄積装置としてのサーバ50を備える。サーバ50は、通信ネットワーク1を介して路側装置20と接続されている。車両10(例えば、コネクテッドカー)には、蓄電池11及び通信装置12が搭載されている。蓄電池11は、鉛蓄電池でもよく、リチウムイオン電池でもよく、他の二次電池でもよい。通信装置12は、蓄電池11の電圧、電流、温度などを所定のサンプリング周期で計測して得られた時系列データを一時的に記憶する記憶部(不図示)、記憶部に記憶した時系列データを外部に送信するための通信部(不図示)を備える。時系列データは、電圧、電流、温度など計測値とともに計測した時刻を含む。
【0031】
具体的には、通信装置12は、例えば、携帯電話網(例えば、LTE[Long Term Evolution]、4G、3Gなど)を利用して、あるいは、無線LAN(例えば、WiFiなど)を利用して、蓄電池IDとともに時系列データをサーバ50へ送信することができる。また、通信装置12は、ITS(Intelligent Transport System)無線を利用して、蓄電池IDとともに時系列データを路側装置20へ送信することができる。路側装置20は、受信した蓄電池ID及び時系列データをサーバ50へ送信することができる。なお、図1では、車両10を1台図示しているが、車両10は多数存在してもよい。このようにして、サーバ50は、多数の車両10から、蓄電池11の時系列データを大量に取得(受信)することができる。
【0032】
図2はサーバ50の構成を示す図である。サーバ50は、サーバ全体を制御する制御部51、通信部52、記憶部53、パラメータ算出部54、判定部55、蓄電池DB56を備える。蓄電池DB56は、サーバ50とは別個のデータサーバに組み込んでもよい。制御部51は、CPU、ROM、RAM等で構成することができる。
【0033】
通信部52は、車両10及び路側装置20との間の通信機能を有する。通信部52は、車両10に搭載された蓄電池11の蓄電池ID及び時系列データを、車両10から直接、あるいは路側装置20を経由して取得することができる。時系列データは、蓄電池11の電圧、電流、温度の時系列データを含む。また、時系列データには、電圧、電流、温度などに基づいて算出できる物理量(例えば、SOC、SOHなど)を含めてもよい。通信部52は、蓄電池11の第1電気値及び第2電気値それぞれの時系列データを取得することができる。ここで、第1電気値及び第2電気値は、蓄電池11の状態を推定するために必要なデータであり、例えば、蓄電池11の充放電時の電圧及び電流の一方及び他方とすることができる。通信部52を介して取得した時系列データは、記憶部53に記憶してもよい。
【0034】
記憶部53は、フラッシュメモリ、あるいはハードディスクなどで構成することができる。
【0035】
パラメータ算出部54は、複数のパラメータを算出することができる。複数のパラメータは、第1電気値及び第2電気値それぞれの時系列データに基づいて算出することができるパラメータであり、所要の推定期間内の第1電気値の時系列データを用いることにより、当該推定期間での元の第2電気値の時系列データを再現することができるパラメータとすることができる。ここで、再現は、全く同一という意味だけでなく、ある程度の誤差が存在しても、当該誤差が許容範囲内であればよいという意味である。
【0036】
制御部51は、通信部52を介して取得した第1電気値及び第2電気値それぞれの時系列データのうち、第1電気値の時系列データとパラメータ算出部54で算出した複数のパラメータを蓄電池DB56に記憶することができる。すなわち、制御部51は、第1電気値の時系列データと算出された複数のパラメータに基づいて推定できる第2電気値の時系列データは記憶しなくてよい。制御部51は、第2電気値の時系列データを破棄してもよい。第2電気値の時系列データは、第1電気値の時系列データ及び算出した複数のパラメータによって再現できるので、記憶する必要がない。
【0037】
これにより、蓄電池の第1電気値及び第2電気値それぞれの時系列データを記憶する場合に比べて、第2電気値の時系列データに代えて複数のパラメータを記憶すればよいので、蓄電池11の状態を推定するために必要なデータの蓄積量を低減することができる。また、第2電気値の時系列データを破棄することにより、不要な記憶容量を確保する必要がなくなる。
【0038】
特に、コネクテッドカーが普及し、車載の蓄電池11から取得するデータ量が爆発的に増大したとしても、蓄電池11の状態を推定するために必要なデータ量を低減することが可能となる。
【0039】
パラメータ算出部54は、蓄電池11の等価回路のパラメータを算出してもよい。
【0040】
図3は蓄電池11の等価回路の例を示す図である。等価回路(等価回路モデルとも称する)は、蓄電池11のインピーダンスを表す等価回路であり、例えば、図3に示すように、起電力Ve(開放電圧OCVとも称する)を有する電圧源、抵抗R0、抵抗とキャパシタとの並列回路(図3では、抵抗R1とキャパシタC1との並列回路、抵抗R2とキャパシタC2との並列回路)が直列に接続された構成をなす。なお、抵抗とキャパシタとの並列回路の数は2個に代えて、1個でもよく、3個以上でもよい。
【0041】
より具体的には、抵抗R0は、例えば、合金部材の電気的抵抗等を表し、抵抗R1、R2は、例えば、界面電荷移動抵抗及び拡散インピーダンスを表し、キャパシタC1、C2は、例えば、電気二重層キャパシタンスを表す。抵抗R0が、蓄電池11の内部抵抗に相当し、蓄電池11の劣化とともに、その値が大きくなる傾向がある。抵抗とキャパシタとの並列回路は、蓄電池11内部の過渡的な現象を表現するパラメータである。
【0042】
図4は蓄電池11の電流波形の例を示す図である。図中、縦軸は電流を示し、横軸は時間を示す。図5は蓄電池11の電圧波形の例を示す図である。図中、縦軸は電圧を示し、横軸は時間を示す。電流値及び電圧値の時系列データは、図に示すような電流波形及び電圧波形から所定のサンプリング周期(例えば、1秒など)で計測して得られた数値の時系列データである。図4及び図5は、例えば、車両10が急加速や急減速なく比較的定速度で走行している場合の充放電パターンとすることができる。逆に言えば、車両10の走行状態(加速、減速、アイドリング、高速運転など)に応じて電流波形及び電圧波形は変化する。
【0043】
等価回路のパラメータの算出は、例えば、蓄電池11が放電時の場合、時系列データで表される電流が流れた際の実測電圧値の時系列データ(実測電圧波形)に対して、同等の電流が流れた際の等価回路のパラメータによって計算される計算電圧値の時系列データ(計算電圧波形)との誤差が最小となるようにパラメータを繰り返し調整することによって行うことができる。また、同様に、蓄電池11が充電時の場合、時系列データで表される電圧が印加された際の実測電流値の時系列データ(実測電流波形)に対して、同等の電圧が印加された際の等価回路のパラメータによって計算される計算電流値の時系列データ(計算電流波形)との誤差が最小となるようにパラメータを繰り返し調整することによって行うことができる。
【0044】
設定する等価回路モデルやパラメータ算出の手法としては、例えば、正負極電位と分極抵抗を考慮した等価回路モデルに対して、実測値と計算値の残差が最小となるようにフィッティングする手法や、高次式の指数関数モデルに対して、Gauss-Newton法やLevenberg-Marquardt法を用いてフィッティングする手法などの公知の手法を用いればよい。
【0045】
図6は蓄電池11の放電時のサーバ50の処理を示す図である。期間T、T+1は推定期間であり、例えば、10分としてもよいが、充放電の状態や蓄電池11の状態に応じて適宜調整してよい。例えば、蓄電池11の電流や電圧の変動が大きい場合には、推定期間を短くし、蓄電池11の電流や電圧の変動が小さい場合には、推定期間を長くしてもよい。また、蓄電池11の劣化度合いが進むにつれて推定期間を短くしてもよい。図6に示すように、推定期間Tにおいて、取得した時系列データを、電圧V1、V2、…、Vnとし、電流I1、I2、…、Inとする。推定期間T内の電圧値及び電流値の時系列データによって算出されたパラメータを、Ve、R0、R1、C1、R2、C2とする。これらのパラメータは、図3で例示したものである。
【0046】
推定期間Tが放電時の場合、サーバ50は、推定期間T内の電流I1、I2、…、Inと算出されたパラメータVe、R0、R1、C1、R2、C2を蓄電池DB56に記憶することができる。また、サーバ50は、電圧V1、V2、…、Vnを破棄してもよい。
【0047】
上述のように、蓄電池11が放電時には、記憶する第1電気値は電流とし、破棄できる第2電気値は電圧としてもよい。すなわち、電圧値の時系列データを破棄しても、電流値の時系列データと複数のパラメータとを用いることにより、放電時の蓄電池11の電圧(端子電圧)の時系列データを推定(再現)することができる。
【0048】
図7は蓄電池11の充電時のサーバ50の処理を示す図である。図7に示すように、推定期間Tにおいて、取得した時系列データを、電圧V1、V2、…、Vnとし、電流I1、I2、…、Inとする。推定期間T内の電圧値及び電流値の時系列データによって算出されたパラメータを、Ve、R0、R1、C1、R2、C2とする。これらのパラメータは、図3で例示したものである。
【0049】
推定期間Tが充電時の場合、サーバ50は、推定期間T内の電圧V1、V2、…、Vnと算出されたパラメータVe、R0、R1、C1、R2、C2を蓄電池DB56に記憶することができる。また、サーバ50は、電流I1、I2、…、Inを破棄してもよい。
【0050】
上述のように、蓄電池11が充電時には、記憶する第1電気値は電圧とし、破棄できる第2電気値は電流としてもよい。すなわち、電流値の時系列データを破棄しても、電圧値の時系列データと複数のパラメータとを用いることにより、充電時の蓄電池11の電流の時系列データを推定(再現)することができる。
【0051】
パラメータ数(図6図7の例では、6個)は、第2電気値の時系列データの推定期間Tでの時系列データのサンプル数(図6図7の例では、n個)より少なくてもよい。例えば、推定期間Tを10分間とし、時系列データのサンプリング周期を1秒とすると、推定期間内の時系列データのサンプル数は、600個となる。パラメータの数を、例えば、6個(<600個)とし、時系列データ及びパラメータの1個当たりのデータサイズを、仮に、4バイトとする。推定期間内の時系列データを全て記憶するには、2400バイト必要とするのに対し、パラメータを記憶するには、24バイトで済む。このように、蓄電池11の状態を推定するために必要なデータの蓄積量を低減することができる。
【0052】
図8は蓄電池DB56の構成を示す図である。蓄電池DB56は、蓄電池11毎に、図8に示すような、期間(推定期間)、充放電の別、蓄積するデータの各項目で構成されている。推定可能データは、蓄電池DB56に記憶されるデータを表すのではなく、必要に応じて、蓄積されたデータから推定(再現)できるデータを表している。例えば、期間T1が充電の場合、蓄積するデータは、期間T1の電圧の時系列データ及び等価回路パラメータとすることができる。期間T2が放電の場合、蓄積するデータは、期間T2の電流の時系列データ及び等価回路パラメータとすることができる。他の期間も同様である。このように、期間T1、T2、…の蓄積されたデータに基づいて、充電時の電流の時系列データ、及び放電時の電圧の時系列データは、記憶することなく、必要に応じて推定できる。
【0053】
蓄電池DB56に記録された時系列データと推定(再現)された時系列データは、他の時系列データ(例えば、温度)とともに、蓄電池11の状態(例えば、SOC、SOHなど)を推定するのに用いることができる。
【0054】
図9は蓄電池11の状態判定の例を示す図である。図において、縦軸は蓄電池11の内部抵抗を示し、横軸は時間を示す。判定部55は、パラメータ算出部54で算出した等価回路のパラメータに基づいて蓄電池11の状態を判定してもよい。例えば、内部抵抗の大小(初期値との差分の大小)に応じて、劣化の度合いを判定してもよい。図9の例では、内部抵抗の計算値と内部抵抗の初期値(蓄電池11が新品の場合の内部抵抗)との差が閾値を超えた場合、蓄電池11の劣化がありと判定できる。
【0055】
図10はサーバ50の処理手順の例を示すフローチャートである。便宜上、以下では、処理の主体を制御部51として説明する。制御部51は、蓄電池11の電圧及び電流の時系列データを車両10から取得し(S11)、取得した時系列データに基づいて、充放電の切替時点を特定する(S12)。
【0056】
制御部51は、例えば、日時の古い方から新しい方に向かって、充電期間又は放電期間が推定期間の長さよりも短いか否かを判定する(S13)。充電期間又は放電期間が短い場合には、電圧値又は電流値の時系列データのサンプル数とパラメータの数との間に大きな差がなくなり、電圧値又は電流値の時系列データに代えてパラメータを記憶しても、記憶容量の低減を図ることができない場合があるからである。
【0057】
充電期間又は放電期間が推定期間の長さよりも短い場合(S13でYES)、制御部51は、当該充電期間又は放電期間内の電圧及び電流の時系列データを蓄電池DB56に記憶し(S14)、ステップS13以降の処理を続ける。充電期間又は放電期間が推定期間の長さよりも短くない場合(S13でNO)、制御部51は、当該期間(推定期間)は充電期間であるか否かを判定する(S15)。
【0058】
当該期間が充電期間である場合(S15でYES)、制御部51は、当該充電期間内の電圧及び電流の時系列データに基づいて等価回路パラメータを算出し(S16)、当該充電期間内の電圧の時系列データ及び算出した等価回路パラメータを蓄電池DB56に記憶し、当該充電期間内の電流の時系列データを破棄し(S17)、後述のステップS18の処理を行う。
【0059】
当該期間が充電期間でない場合(S15でNO)、制御部51は、当該期間(推定期間)は放電期間であるか否かを判定する(S18)。当該期間が放電期間である場合(S18でYES)、制御部51は、当該放電期間内の電圧及び電流の時系列データに基づいて等価回路パラメータを算出し(S19)、当該放電期間内の電流の時系列データ及び算出した等価回路パラメータを蓄電池DB56に記憶し、当該放電期間内の電圧の時系列データを破棄し(S20)、後述のステップS21の処理を行う。
【0060】
当該期間が放電期間でない場合(S18でNO)、制御部51は、他の推定期間(日時がより新しい推定期間)の有無を判定し(S21)、他の推定期間がある場合(S21でYES)、ステップS15以降の処理を続ける。他の推定期間がない場合(S21でNO)、制御部51は、処理を終了する。
【0061】
サーバ50は、CPU(プロセッサ)、ROM、RAMなどを備えたコンピュータを用いて実現することもできる。図10に示すような処理の手順を定めたコンピュータプログラム(記録媒体に記録可能)をコンピュータに備えられたRAMにロードし、コンピュータプログラムをCPU(プロセッサ)で実行することにより、コンピュータ上でサーバ50を実現することができる。
【0062】
上述のように、本実施の形態によれば、蓄電池の状態を推定するために必要な電圧値の時系列データ及び電流値の時系列データに基づいて、等価回路パラメータを算出し、電圧値の時系列データ又は電流値の時系列データに代えて等価回路パラメータを保存することにより、従来よりも少ないデータ量を保存するだけで、必要に応じて蓄電池の状態を推定することができ、蓄積リソースに制約されずに高精度な状態推定に必要なデータを保存することができる。また、同じ記憶容量のリソースに対しては、より多くのサンプル数のデータを保存できるので、蓄電池の推定をより高精度に行うことが可能となる。
【0063】
また、蓄電池の充放電挙動を、より少ないデータ量で保存することができるので、機械学習(例えば、ニューラルネットワーク)の大量の学習用データへの活用が可能となり、機械学習を組み合わせることにより、蓄電池の、より高精度な状態推定を可能とすることが期待される。
【0064】
上述の実施の形態では、車載の蓄電池について説明したが、車載用だけでなく、据置型の蓄電池に対しても本実施の形態を適用することができる。
【符号の説明】
【0065】
1 通信ネットワーク
10 車両
11 蓄電池
12 通信装置
20 路側装置
50 サーバ
51 制御部
52 通信部
53 記憶部
54 パラメータ算出部
55 判定部
56 蓄電池DB
図1
図2
図3
図4
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図6
図7
図8
図9
図10