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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】パティキュレートフィルタ
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/035 20060101AFI20240109BHJP
   B01J 23/58 20060101ALI20240109BHJP
   B01J 35/57 20240101ALI20240109BHJP
   B01D 46/00 20220101ALI20240109BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20240109BHJP
   F01N 3/28 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
F01N3/035 A
B01J23/58 A ZAB
B01J35/04 301E
B01J35/04 301L
B01D46/00 302
B01D53/94 241
F01N3/28 301Q
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019119019
(22)【出願日】2019-06-26
(65)【公開番号】P2021004579
(43)【公開日】2021-01-14
【審査請求日】2022-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000104607
【氏名又は名称】株式会社キャタラー
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】田▲崎▼ 凌
(72)【発明者】
【氏名】尾上 亮太
(72)【発明者】
【氏名】岩井 桃子
(72)【発明者】
【氏名】松下 大和
【審査官】藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/126321(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/058948(WO,A1)
【文献】特開2003-154223(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/035
B01J 23/58
B01J 35/04
B01D 46/00
B01D 53/94
F01N 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に配置されて該内燃機関から排出される排ガス中の粒子状物質を捕集するために用いられるパティキュレートフィルタであって、
排ガス流入側の端部のみが開口した入側セル、該入側セルと隣り合い排ガス流出側の端部のみが開口した出側セル、並びに前記入側セルと前記出側セルとを仕切る多孔質の隔壁を有するウォールフロー構造の基材と、
前記隔壁の内部に形成されたウォッシュコート層と
を備え、
前記ウォッシュコート層は、
前記入側セルに接する前記隔壁の表面から前記隔壁の内方に所定の厚みで形成され、かつ、前記排ガス流入側の端部近傍から前記隔壁の延伸方向に沿って所定の長さで形成された入側層と、
前記出側セルに接する前記隔壁の表面から前記隔壁の内方に所定の厚みで形成され、かつ、前記排ガス流出側の端部近傍から前記隔壁の延伸方向に沿って所定の長さで形成されている出側層と
を備え、
前記入側層と前記出側層とが一部重複するように、前記入側層および前記出側層の各々の厚みと長さが設定されており、
前記入側層は前記粒子状物質の燃焼を促進する貴金属触媒を含有しており、前記出側層は前記貴金属触媒を実質的に含有しておらず、かつ、
前記延伸方向における前記隔壁の全長を100%としたとき、前記入側層は、前記排ガス流入側の端部近傍から50%以上75%以下の領域に形成されている、パティキュレートフィルタ。
【請求項2】
前記延伸方向における前記隔壁の全長を100%としたとき、前記入側層は、前記排ガス流入側の端部近傍から60%以上の領域に形成されている、請求項1に記載のパティキュレートフィルタ。
【請求項3】
前記入側層における貴金属触媒の含有量は0.1g/L以上である、請求項1または2に記載のパティキュレートフィルタ。
【請求項4】
前記隔壁の厚みを100%としたとき、前記入側層は、前記入側セルと接する表面から前記隔壁の内方に60%以上100%以下の厚みで形成されている、請求項1~3のいずれか一項に記載のパティキュレートフィルタ。
【請求項5】
前記隔壁の厚みを100%としたとき、前記出側層は、前記出側セルと接する表面から前記隔壁の内方に60%以上100%以下の厚みで形成されている、請求項1~4のいずれか一項に記載のパティキュレートフィルタ。
【請求項6】
前記貴金属触媒が、Pt、Pd、Rhの群より選択される少なくとも一種類以上の白金族元素を含むことを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載のパティキュレートフィルタ。
【請求項7】
前記内燃機関はガソリンエンジンである、請求項1~6のいずれか1項に記載のパティキュレートフィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パティキュレートフィルタに関する。詳しくは、内燃機関から排出される排ガスに含まれる粒子状物質(PM:Particulate Matter)を捕集するパティキュレートフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
ガソリンやディーゼル油等を燃料とする内燃機関からの排ガスには、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)等の気体成分の他に、炭素を主成分とする粒子状物質(以下、「PM」ともいう。)が含まれている。HC、CO、NOx等の気体成分と同様に、このPMは、人体への影響を考慮した排出量が定められている。
【0003】
このPMを排ガスから除去する技術の一例として、PMを捕集するパティキュレートフィルタ(以下、単に「フィルタ」ともいう。)を内燃機関の排気通路に配置する技術が挙げられる。かかるパティキュレートフィルタの一例として、ウォールフロー型のフィルタが挙げられる。このウォールフロー型のフィルタは、複数の中空部(セル)を有したハニカム構造の基材をベースにし、出口を閉塞させた入側セルと、入口を閉塞させた出側セルとを交互に形成することによって構築される。かかるウォールフロー型のフィルタに供給された排ガスは、入側セルに流入して多孔質の隔壁を通過した後に、出側セルを通ってフィルタ外部へ排出される。このとき、排ガス中のPMが隔壁の細孔内に捕集される。また、このようなウォールフロー型のフィルタでは、高温安定性やPM捕集性能などの向上のために、隔壁の内部(細孔の壁面)にウォッシュコート層を形成することがある。
【0004】
この種のウォールフロー型のフィルタでは、隔壁の細孔内へのPM堆積量が増加すると、細孔の目詰まりによってガス流通性が低下し、圧力損失(以下、「圧損」ともいう。)が増大する可能性がある。このため、近年のパティキュレートフィルタでは、細孔内に堆積したPMの酸化(燃焼)を促進する貴金属触媒がウォッシュコート層に担持されている。このような貴金属触媒を担持させたパティキュレートフィルタの一例が特許文献1~3に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-220029号公報
【文献】特開2016-182536号公報
【文献】特許5689685号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、近年では、PM排出量に対する規制が強化されているため、従来よりもPM捕集性能に優れたパティキュレートフィルタが求められている。かかる要求を受けて検討を行った結果、本発明者らは、ウォールフロー型のフィルタでは、細孔径の小さな細孔にPMが優先的に捕集されることと、PM堆積量の増加によって隔壁の細孔が小径化することを見出した。これらの知見より、本発明者らは、ウォールフロー型のフィルタでは、継続した使用によるPM堆積量の増加に伴ってPM捕集性能が向上すると考えた。
【0007】
しかしながら、上述したように、細孔内へのPM堆積量が増加すると、ガス流通性の低下による圧損増大が生じる可能性があるため、近年のパティキュレートフィルタでは、PMの燃焼を促進する貴金属触媒がウォッシュコート層に担持されている。このような構造のパティキュレートフィルタでは、PM堆積量の増加に伴うPM捕集性能の向上の恩恵を得ることが難しい。このように、ウォールフロー構造のフィルタでは、PM捕集性能と圧損抑制性能とを高いレベルで両立させることが困難であることが分かった。
【0008】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、PM捕集性能と圧損抑制性能とを高いレベルで両立することができるパティキュレートフィルタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の課題を解決するための検討を行う際に、本発明者らは次の点に着目した。
内燃機関から排出される排ガスの中でも、内燃機関の運転を開始した直後である運転初期の排ガスと、内燃機関の回転数を上げた高負荷運転時の排ガスは、PM含有量が特に多くなる傾向がある。そして、運転初期の排ガスは、流量が少ないため、ガス流れ方向における上流側の隔壁を通過する傾向がある。一方、高負荷運転時の排ガスは、比較的に流量が多いため、下流側の隔壁を通過する傾向がある。
【0010】
上述の点から、本発明者らは、圧損抑制性能を低下させることなく、運転初期および高負荷運転時というPM含有量が多い排ガスの各々を好適に浄化できる構成のフィルタを設計できれば、PM捕集性能と圧損抑制性能とを高いレベルで両立できると考えた。そして、種々の検討を重ねた結果、隔壁の上流側の領域に貴金属触媒を存在させ、かつ、下流側の領域に貴金属触媒を存在させないようにした上で、隔壁の全長に対する上流側の領域の長さを所定の範囲に調節することに思い至った。
【0011】
具体的には、先ず、隔壁の上流側の領域に貴金属触媒を存在させると、当該上流側の領域において、PMの燃焼によるガス流通性の回復が生じやすくなる一方で、PMの堆積によるPM捕集性能の向上が生じにくくなる。しかし、運転初期は、パティキュレートフィルタの暖機が完了していないため、上流側の領域に貴金属触媒が存在していても、PMの燃焼が生じにくい。このため、運転初期の排ガスが供給されている間は、上流側の領域においても、PMの堆積が生じやすく、高いPM捕集性能を発揮できる。一方、運転中期以降は、PM含有量が少なく、流量の多い排ガスが供給されるが、このときにはパティキュレートフィルタが十分に昇温しており、PMの燃焼によるガス流通性の回復が上流側の領域で好適に生じるため、大幅な圧損上昇を抑制することができる。
【0012】
そして、隔壁の下流側の領域に貴金属触媒を存在させないことによって、当該下流側の領域において、PM堆積量の増加によるPM捕集性能の向上が生じやすくなる。これによって、高負荷運転が行われる前に下流側の領域のPM捕集性能を予め向上させることができるため、高負荷運転が行われた際に好適にPMを捕集することができる。一方で、下流側の領域に貴金属触媒を存在させないと、当該領域においてPMが堆積して圧損抑制性能(ガス流通性)が低下する可能性がある。しかし、高負荷運転時の排ガスは、比較的に高温であるため、貴金属触媒が存在していなくても、PMを少しずつ燃焼させることができる。このため、隔壁の下流側の領域に貴金属触媒を存在させていない場合でも、急激な圧損上昇は生じにくい。
【0013】
ここに開示されるパティキュレートフィルタは、上述の知見に基づいてなされたものである。かかるパティキュレートフィルタは、内燃機関の排気通路に配置されて該内燃機関から排出される排ガス中の粒子状物質を捕集するために用いられる。このパティキュレートフィルタは、排ガス流入側の端部のみが開口した入側セル、該入側セルと隣り合い排ガス流出側の端部のみが開口した出側セル、並びに入側セルと出側セルとを仕切る多孔質の隔壁を有するウォールフロー構造の基材と、隔壁の内部に形成されたウォッシュコート層とを備えている。そして、ウォッシュコート層は、入側セルに接する隔壁の表面から隔壁の内方に所定の厚みで形成され、かつ、排ガス流入側の端部近傍から隔壁の延伸方向に沿って所定の長さで形成された入側層と、出側セルに接する隔壁の表面から隔壁の内方に所定の厚みで形成され、かつ、排ガス流出側の端部近傍から隔壁の延伸方向に沿って所定の長さで形成されている出側層とを備え、入側層と出側層とが一部重複するように、入側層および出側層の各々の厚みと長さが設定されている。そして、ここに開示されるパティキュレートフィルタでは、入側層は粒子状物質の燃焼を促進する貴金属触媒を含有しており、出側層は貴金属触媒を実質的に含有しておらず、かつ、延伸方向における隔壁の全長を100%としたとき、入側層は、排ガス流出側の端部近傍から50%以上75%以下の領域に形成されている。
【0014】
ここに開示されるパティキュレートフィルタでは、入側領域に貴金属触媒が存在しているため、多くのPMが供給される運転初期において細孔の目詰まりが生じることを抑制し、当該入側領域のガス流通性を高い状態に維持することができる。さらに、隔壁の全長に対する入側層の長さ(入側領域の長さ)を50%以上75%以下にし、入側領域を十分に確保しているため、当該領域におけるPM捕集性能を十分に確保できる。そして、ここに開示されるパティキュレートフィルタでは、出側領域に貴金属触媒が存在していないため、高負荷運転が行われる前に当該出側領域のPM捕集性能を十分に向上させることができる。また、出側領域には、高温の高負荷運転時の排ガスが供給されやすいため、貴金属触媒が存在していなくてもPMを燃焼させることができ、十分なガス流通性を確保できる。
【0015】
なお、本明細書では、説明の便宜上、入側層が形成されており、貴金属触媒が存在する領域を「入側領域」と称する。また、出側層のみが形成されており、貴金属触媒が実質的に存在しない領域を「出側領域」と称する。すなわち、ここに開示されるパティキュレートフィルタでは、ウォッシュコート層が形成されていない領域が生じることを避けるために、入側層と出側層とが一部重複しているが、この入側層と出側層と重複した領域は、貴金属触媒が存在しているため「入側領域」とみなされる。
【0016】
ここに開示されるパティキュレートフィルタの好ましい一態様では、延伸方向における隔壁の全長を100%としたとき、入側層は、排ガス流出側の端部近傍から60%以上の領域に形成されている。これにより、より好適な圧損抑制性能を得ることができる。
【0017】
ここに開示されるパティキュレートフィルタの好ましい一態様では、入側層における貴金属触媒の含有量は0.1g/L以上である。これにより、入側領域のガス流通性をより高い状態に維持することができる。
【0018】
ここに開示されるパティキュレートフィルタの好ましい一態様では、隔壁の厚みを100%としたとき、入側層は、入側セルと接する表面から隔壁の内方に60%以上100%以下の厚みで形成されている。これにより、入側層の体積を十分に確保してより好適なPM捕集性能を得ることができる。
【0019】
ここに開示されるパティキュレートフィルタの好ましい一態様では、隔壁の厚みを100%としたとき、出側層は、出側セルと接する表面から隔壁の内方に60%以上100%以下の厚みで形成されている。これにより、出側領域におけるPM捕集性能をより向上させることができる。
【0020】
ここに開示されるパティキュレートフィルタの好ましい一態様では、貴金属触媒が、Pt、Pd、Rhの群より選択される少なくとも一種類以上の白金族元素を含む。これらの白金族元素は、PM燃焼促進作用に優れているため、入側領域のガス流通性をより高い状態にすることができる。
【0021】
ここに開示されるパティキュレートフィルタの好ましい一態様では、内燃機関は、ガソリンエンジンである。ガソリンエンジンからの排ガスは、比較的に高温であり、PMが燃焼しやすいため、PM堆積に伴うPM捕集性能の向上が生じにくい傾向がある。ここに開示されるパティキュレートフィルタは、このようなガソリンエンジンの排気通路に配置した場合でも、入側領域にPMを適切に堆積させることができるため、ガソリンエンジン用のパティキュレートフィルタ(GPF:Gasoline Particulate Filter)として特に好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施形態に係るパティキュレートフィルタが配置された排気系を模式的に示す図である。
図2】本発明の一実施形態に係るパティキュレートフィルタを模式的に示す斜視図である。
図3】本発明の一実施形態に係るパティキュレートフィルタを延伸方向に沿って切断した際の断面を模式的に示す図である。
図4】本発明の一実施形態に係るパティキュレートフィルタを径方向に沿って切断した際の断面を模式的に示す図である。
図5図3のV領域を拡大した断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、排気経路におけるパティキュレートフィルタの配置に関する一般的事項等)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。また、本明細書において数値範囲を示す「A~B」との表記は、「A以上B以下」を意味する。
【0024】
A.全体構成
先ず、本実施形態に係るパティキュレートフィルタが使用された排ガス浄化装置の全体構成を説明する。図1は本実施形態に係るパティキュレートフィルタが配置された排気系を模式的に示す図である。図1に示される排気系では、内燃機関2の排気通路に排ガス浄化装置1が設けられている。
【0025】
内燃機関2には、酸素と燃料ガスを含む混合気が供給される。内燃機関2は、この混合気が燃焼した際の熱エネルギーを運動エネルギーに変換する。そして、混合気の燃焼によって生じた排ガスは、図1中の矢印に示すように、エキゾーストマニホールド3と排気管4とから構成された排気通路に排出される。なお、本明細書では、説明の便宜上、排ガスの流れ方向における内燃機関2に近い側を上流側といい、内燃機関2から遠い側を下流側という。
【0026】
排ガス浄化装置1は、排気通路に排出された排ガスを浄化する。この排ガス浄化装置1は、エンジンコントロールユニット(ECU:Engine Control Unit)7と、センサ8とを備えている。センサ8は、排ガスの成分や温度に関する情報を検知する。ECU7は、内燃機関2の運転を制御するための情報の一つとしてセンサ8における検知結果を受信する。さらに、図1に示される排ガス浄化装置1は、触媒部5とフィルタ部6とを備えている。
【0027】
触媒部5は、排気管4の内部に設けられている。触媒部5には、排ガス中の三元成分(NOx、HC、CO)を浄化する排ガス浄化触媒が用いられ得る。触媒部5に使用される排ガス浄化触媒の具体的な構成は、本発明を特徴付けるものではないため詳細な説明を省略する。なお、図1に示される排ガス浄化装置1では、フィルタ部6よりも上流側に触媒部5が配置されているが、触媒部の配置位置は特に制限されない。例えば、触媒部は、フィルタ部よりも下流側に配置されていてもよいし、フィルタ部の上流側と下流側の両方に一対配置されていてもよい。
【0028】
フィルタ部6は、排ガス中の粒子状物質(PM)を捕集することによって排ガスを浄化する。本実施形態に係るパティキュレートフィルタは、この排ガス浄化装置1のフィルタ部6に用いられ得る。換言すると、本実施形態に係るパティキュレートフィルタは、排ガス浄化装置1の一構成要素として内燃機関2の排気通路(排気管4)に配置されている。
【0029】
B.パティキュレートフィルタ
以下、図2図5を参照しながら本実施形態に係るパティキュレートフィルタを説明する。図2および図3中の符号Xは「排ガスの流通方向」を示す。そして、符号X1は「排ガス流入側(上流側)」を示し、符号X2は「排ガス流出側(下流側)」を示す。なお、図2は本実施形態に係るパティキュレートフィルタを模式的に示す斜視図である。また、図3図2に示すパティキュレートフィルタを延伸方向(排ガスの流通方向X)に沿って切断した際の断面を模式的に示す図であり、図4はパティキュレートフィルタの径方向((排ガスの流通方向Xに対して垂直な方向)に沿って切断した際の断面を模式的に示す図である。そして、図5図3中の領域Vを拡大した断面模式図である。
【0030】
図2図5に示すように、本実施形態に係るパティキュレートフィルタ100は、ウォールフロー構造の基材10と、当該基材10の隔壁16内に形成されたウォッシュコート層20とを備えている。以下、各々について説明する。
【0031】
1.基材
図2に示すように、本実施形態に係るパティキュレートフィルタ100では、排ガスの流通方向Xに沿って伸びた円柱形の基材10が用いられている。上述したように、この基材10はウォールフロー構造を有している。具体的には、基材10は、複数の中空部(セル12、14)を有したハニカム構造を備えている。これらのセル12、14は、排ガスの流通方向Xに沿って延びている。そして、図3および図4に示すように、本実施形態における基材10のセル12、14は、入側セル12と、該入側セル12に隣り合う出側セル14とによって構成されている。そして、入側セル12と出側セル14との間は、多孔質の隔壁16によって仕切られている。なお、基材10の材料は、従来のこの種の用途に用いられ得る種々の材料を特に制限なく使用できる。この基材10の材料の一例として、コージェライト、炭化ケイ素(SiC)等のセラミックスまたは合金(ステンレス等)等が挙げられる。また、本実施形態では、円柱形の基材10が用いられているが、基材の外形は特に制限されず、楕円柱形や多角柱形等であってもよい。
【0032】
入側セル12は、基材10内部に形成されたセル12、14のうち、排ガス流入側X1の端部のみが開口したセルを指す(図3参照)。すなわち、入側セル12は、排ガス流入側X1の端部がガス流入口12aとしてフィルタ外部に開放されていると共に、排ガス流出側X2の端部が封止部12bによって封止されている。一方、出側セル14は、排ガス流出側X2の端部のみが開口したセルを指す。すなわち、出側セル14は、排ガス流入側X1の端部が封止部14aによって封止されていると共に、排ガス流出側X2の端部がガス流出口14bとしてフィルタ外部に開放されている。
これらの入側セル12、出側セル14の形状や大きさは、パティキュレートフィルタ100に供給される排ガスの流量や成分を考慮して適宜変更できる。例えば、図4に示すように、本実施形態では、基材10の延伸方向Xと直交する断面(基材10の径方向に沿った断面)におけるセル12、14の断面形状が正方形である。この入側セル12と出側セル14の各々の断面積は、同程度であってもよいし、排ガスの流量を考慮して異ならせてもよい。また、セル12、14の断面形状は、本実施形態のような正方形に限定されず、平行四辺形、長方形、台形、三角形、五角形、円形などの一般的な形状を特に制限なく採用することができる。
また、図2および図4に示すように、基材10は、入側セル12と出側セル14の各々が相互に隣り合うように形成される。本実施形態の基材10は、断面正方形の入側セル12と出側セル14とが市松模様状に配置されるように形成されている。
【0033】
上述したように、入側セル12と出側セル14は、隔壁16によって仕切られている。本実施形態では、格子状に形成された隔壁16の各々が排ガスの流通方向Xに沿って延びており、当該隔壁16に囲まれた空間がセル12、14となる(図3および図4参照)。この隔壁16は、複数の細孔を有する多孔質構造を有している。具体的には、隔壁16の壁体17には、図5に示すような細孔18が複数形成されており、かかる細孔18の一部を通じて入側セルと出側セルとが連通している。これによって、図3中の矢印のように、入側セル12に流入した排ガスを隔壁16に通過させて出側セル14へ流出させることができる。なお、隔壁16の厚みTおよび全長Lは、PM捕集性能と圧損抑制性能とを両立するという観点で調節すると好ましい。例えば、隔壁16の厚みTは、概ね0.2mm~1.6mm程度であると好ましい。また、隔壁16の全長Lは、概ね50mm~500mm(好ましくは100mm~200mm)程度であると好ましい。
【0034】
隔壁16の気孔率は、圧損増大の抑制という観点から、40%以上が好ましく、45%以上がより好ましく、50%以上がさらに好ましく、55%以上が特に好ましい。一方、隔壁16の気孔率の上限は、基材10の機械的強度の維持という観点から、80%以下が好ましく、75%以下がより好ましく、70%以下がさらに好ましく、65%以下が特に好ましい。なお、本明細書における「隔壁の気孔率」は、基材10の隔壁16の全体積(壁体17と細孔18の合計体積)に対する細孔18の体積の割合を指し、水銀圧入法によって測定された値である。
【0035】
また、細孔18の平均細孔径は、圧損抑制性能の向上という観点から、1μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましく、7μm以上がさらに好ましく、10μm以上が特に好ましい。一方、PM捕集性能の向上という観点から、細孔18の平均細孔径の上限は、50μm以下が好ましく、40μm以下がより好ましく、30μm以下がさらに好ましく、25μm以下が特に好ましい。なお、本明細書における「細孔18の平均細孔径」は、水銀圧入法によって求められた細孔分布の平均値を指す。
【0036】
2.ウォッシュコート層
図3に示すように、ウォッシュコート層20は、基材10の隔壁16の内部に形成された被覆層である。具体的には、図5に示すように、ウォッシュコート層20は、細孔18の壁面(細孔18と接する壁体17の表面)に形成された多孔質の耐熱層である。かかるウォッシュコート層20は、高温安定性や吸水性等を向上させる機能を備え得る。また、ウォッシュコート層20は、表面積の拡大や細孔18の小径化によるPM捕集性能の向上にも寄与し得る。本実施形態におけるウォッシュコート層20には、従来公知の材料を特に制限なく使用できる。典型的には、ウォッシュコート層20は、耐熱性材料を主体として構成されている。典型的には、ウォッシュコート層20は、耐熱性材料を50質量%以上含むと好ましく、85質量%以上含むとより好ましい。かかる耐熱性材料には、JIS R2001に規定される耐火物が使用され得る。かかる耐火物の一例として、アルミナ(Al)等の中性耐火物、シリカ(SiO)、ジルコニア(ZrO)等の酸性耐火物、マグネシア(MgO)、カルシア(CaO)等の塩基性耐火物が挙げられる。これらの耐火物の中でもアルミナ(好ましくは、活性アルミナ)が好ましい。また、ウォッシュコート層20の耐熱性材料は、上述した耐火物のいずれか1種のみから構成されていてもよいし、2種以上の混合物(または複合体)によって構成されていてもよい。複合体としては、例えば、セリア-ジルコニア複合酸化物等が挙げられる。また、ウォッシュコート層20は、副成分として他の材料(典型的には無機酸化物)を含んでいてもよい。かかる副成分の一例として、イットリア(Y)等の希土類金属酸化物、酸化バリウム(BaO)等のアルカリ土類金属酸化物などが挙げられる。
【0037】
なお、ウォッシュコート層20によってセル12、14が閉塞されて急激な圧損の増大が生じることを確実に防止するという観点から、セル12、14と接する隔壁16の表面16a(図5参照)には、ウォッシュコート層20が実質的に存在しないことが好ましい。なお、「隔壁の表面にウォッシュコート層が実質的に存在しない」とは、ウォッシュコート層20の総コート量を100%とした場合に、隔壁16の細孔18の内部に存在するコート量が90%以上(好ましくは95%以上)であることをいう。
【0038】
そして、図3に示すように、本実施形態におけるウォッシュコート層20は、入側層22と出側層24とを備えている。そして、これらの入側層22と出側層24の厚みと長さは、入側層22と出側層24とが一部重複するように設定されている。以下、各々の層について説明する。
【0039】
(1)入側層
入側層22は、ガス流入口12a近傍の隔壁16を含む領域に形成されたウォッシュコート層である。具体的には、入側層22は、入側セル12に接する隔壁16の表面から隔壁16の内方に所定の厚みで形成され、かつ、排ガス流入側X1の端部近傍から隔壁16の延伸方向(排ガスの流通方向X)に沿って所定の長さで形成されている。この入側層22の厚みTは、特に限定されず、隔壁16の厚みTの50%以上であってもよい。なお、入側層22の体積を十分に確保して好適なPM捕集性能を得るという観点からは、入側層22の厚みTを60%以上にすることが好ましく、70%以上にすることがより好ましく、80%以上にすることがさらに好ましい。また、入側層22の厚みTの上限は、特に制限されず、隔壁16の厚みTの100%以下であってもよいし、95%以下であってもよいし、90%以下であってもよい。なお、上記したように、本明細書では、この入側層22が形成された領域を「入側領域」と称する。この「入側領域」は、後述の出側層24と入側層22とが重複する領域を含むものとする。
【0040】
そして、本実施形態に係るパティキュレートフィルタ100では、入側層22に貴金属触媒が含まれている。この貴金属触媒は、PMの燃焼を促進する機能を有する触媒材料であり、金(Au)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、オスミウム(Os)等の貴金属を含有する。これらの中でもPt、Pd、Rh等の白金族元素は、PM燃焼を促進する作用に特に優れているため、入側層22に含有させる貴金属として特に好適である。また、貴金属触媒は、上述した貴金属の他に、当該貴金属を担持する担体を含んでいてもよい。かかる担体の材料としては、アルミナ(Al)、希土類金属酸化物、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、ジルコニア(ZrO)、セリア(CeO)、シリカ(SiO)、マグネシア(MgO)、チタニア(TiO)等が挙げられる。
上述した貴金属触媒を入側層22に含有させることによって、入側領域に堆積したPMの燃焼を運転中期以降に促進することができる。このため、本実施形態に係るパティキュレートフィルタ100では、入側領域の隔壁16の細孔18がPMによって目詰まりすることが防止され、当該入側領域におけるガス流通性が高い状態に維持される。
【0041】
なお、入側層22における貴金属触媒の含有量(入側層22の体積1Lに対する貴金属触媒の含有量gの割合)は、0.1g/L以上であることが好ましい。これにより、入側領域におけるガス流通性をより高い状態に維持することができる。また、入側領域におけるガス流通性を更に高い状態に維持するという観点から、入側層22における貴金属触媒の含有量は、0.5g/L以上がより好ましく、0.7g/L以上がさらに好ましく、1g/L以上が特に好ましい。また、入側層22における貴金属触媒の含有量の上限は、特に限定されず、20g/L以下であってもよい。但し、入側層22を容易に形成するという観点からは、10g/L以下が好ましく、7g/L以下がより好ましく、5g/L以下がさらに好ましく、2g/L以下が特に好ましい。
【0042】
さらに、本実施形態に係るパティキュレートフィルタ100では、隔壁16の延伸方向における入側層22の長さ(すなわち、入側領域の長さL)が、隔壁16の全長L(100%)の50%以上に設定されている。このように、入側層22を十分に確保することによって、貴金属触媒が存在する入側領域においても、十分なPM捕集性能を確保することができる。なお、より好適なPM捕集性能を得るという観点から、上記入側領域の長さLは、55%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましい。一方、本実施形態では、上記入側領域の長さLの上限が75%以下に設定されている。これは、入側層22を長くしすぎると、貴金属触媒が存在しない出側領域の長さLが短くなりすぎて、高負荷運転時の排ガスに対するPM捕集性能が低下する可能性があるためである。なお、高負荷運転時のPM捕集性能をより好適に確保するという観点から、入側領域の長さLの上限は70%以下が好ましい。
【0043】
(2)出側層
出側層24は、ガス流出口14b近傍の隔壁16を含む領域に形成されたウォッシュコート層である。具体的には、出側層24は、出側セル14に接する隔壁16の表面から隔壁16の内方に所定の厚みTで形成され、かつ、排ガス流出側X2の端部近傍から隔壁16の延伸方向(排ガスの流通方向X)に沿って所定の長さで形成されている。PM捕集性能の向上という観点から、出側層24の厚みは、隔壁16の厚みTの50%以上が好ましく、60%以上がより好ましく、70%以上がさらに好ましい。また、出側層24の厚みTの上限は、特に制限されず、上記隔壁16の厚みTの100%以下であってもよく、95%以下であってもよく、90%以下であってもよく、85%以下であってもよい。なお、上記したように、本明細書では、この出側層24のみが形成された領域を「出側領域」と称する。
【0044】
そして、本実施形態に係るパティキュレートフィルタ100では、上述した入側層22と異なり、出側層24に貴金属触媒(例えば、Au、Ag、Pd、Rh、Pt、Ru、Ir、Os等)が実質的に含有されていない。このような貴金属触媒を実質的に含有しない出側層24を形成することにより、出側領域に堆積したPMが燃焼することを抑制できる。このため、本実施形態に係るパティキュレートフィルタ100では、出側領域において、PM堆積量の増加に伴うPM捕集性能の向上が生じやすくなっている。
【0045】
なお、本明細書において「貴金属触媒を実質的に含有しない」とは、貴金属触媒と解釈され得る成分が意図的に添加されていないことを指す。したがって、貴金属触媒と解釈され得る成分が原料や製造工程等に由来して微量に含まれるような場合や、他の触媒層から出側層に微量の貴金属触媒が移動した場合(例えば、入側層から出側層に貴金属触媒が移動した場合)などは、本明細書における「貴金属触媒を実質的に含有しない」の概念に包含される。例えば、出側層24の体積に対する貴金属触媒の含有量の割合(g/L)が0.05g/L以下(好ましくは0.03g/L以下、より好ましくは0.01g/L以下、さらに好ましくは0.005g/L以下、特に好ましくは0.001g/L以下)である場合、「貴金属触媒を実質的に含有しない」ということができる。
【0046】
(3)入側層と出側層との関係
上述した本実施形態に係るパティキュレートフィルタ100によると、PM捕集性能と圧損抑制性能とを高いレベルで両立することができる。
具体的には、図3に示すように、運転初期の排ガスG1は、流量が少ないため隔壁16の入側領域を通過しやすい。この運転初期の排ガスG1は、多くのPMを含有し、かつ、温度が低いため、PMが燃焼しにくく、PMの堆積によるPM捕集性能の向上が生じやすい。このため、貴金属触媒が存在している入側領域であっても、好適にPMを捕集することができる。そして、運転中期以降は、PM含有量が少なく、流量の多い排ガスが供給されるが、パティキュレートフィルタ100が十分に昇温しており、PMの燃焼によるガス流通性の回復が上流側の領域において好適に生じるため、大幅な圧損上昇を抑制することができる。
一方、高負荷運転時の排ガスG2は、流量が多いため隔壁16の出側領域を通過しやすい。この高負荷運転時の排ガスG2は、多くのPMを含有しているため、出側領域には高いPM捕集性能が求められる。これに対して、本実施形態に係るパティキュレートフィルタ100では、出側領域に実質的に貴金属触媒が存在していないため、高負荷運転が行われる前に出側領域のPM捕集性能を予め向上させることができる。なお、高負荷運転時の排ガスG2は、比較的に高温であるため、貴金属触媒が存在していなくても、堆積したPMを少しずつ燃焼させることができる。このため、流量が大きな高負荷運転時が出側領域に供給されたとしても、圧損の急激な上昇は生じにくい。
【0047】
(5)他の材料
ここに開示されるパティキュレートフィルタのウォッシュコート層には、本願発明の本質を損なわない範囲で、他の材料を添加することができる。かかるウォッシュコート層に添加され得る材料としては、OSC材(酸素吸放出材)、NOx吸収材、SCR(Selective Catalytic Reduction:選択的接触還元)触媒等が挙げられる。
【0048】
OSC材は、排ガス中の酸素濃度が高い(即ち空燃比がリーンである)ときに酸素を吸蔵し、排ガス中の酸素濃度が低い(即ち空燃比がリッチである)ときに酸素を放出する材料である。かかるOSC材の一例として、酸化セリウム(セリア:CeO)をベースとした材料が挙げられる。かかるCeOをベースとした材料としては、CZ系複合材料(CeO-ZrO複合酸化物)が挙げられる。このCZ系複合材料は、CeOとZrOとを主成分とした多結晶体または単結晶である。また、CZ系複合材料には、種々の付加成分が添加されていてもよい。かかる付加成分の一例として、希土類酸化物、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、遷移金属、アルミナ、シリカ等が挙げられる。
【0049】
なお、OSC材は、隔壁16を通過する排ガスを酸化雰囲気に維持するという作用を有しているため、PMの燃焼を促進する機能を発揮し得る。このため、ウォッシュコート層20にOSC材を添加する場合には、出側層24にOSC材を実質的に含有させない方が好ましい。これによって、圧損抑制性能とPM捕集性能とをさらに高いレベルで両立させることができる。なお、本明細書における「出側層がOSC材を実質的に含有しない」とは、OSC材と解釈され得る成分が原料や製造工程等に由来して微量に含まれるような場合を包含する。すなわち、出側層24の体積1Lに対するOSC材の含有量gの割合(g/L)が5g/L以下(好ましくは3g/L以下、より好ましくは2g/L以下、さらに好ましくは1g/L以下、特に好ましくは0.5g/L以下)である場合、「出側層がOSC材を実質的に含有しない」ということができる。
【0050】
NOx吸収材は、排ガスの空燃比が酸素過剰のリーン状態にあると排ガス中のNOxを吸収し、空燃比がリッチ状態になるとNOxを放出する材料である。かかるNOx吸収材としては、NOxに電子を供与し得る金属の一種または二種以上を含む塩基性材料を好ましく用いることができる。例えば、カリウム(K)、ナトリウム(Na)、セシウム(Cs)のようなアルカリ金属、バリウム(Ba)、カルシウム(Ca)のようなアルカリ土類金属、ランタノイドのような希土類および銀(Ag)、銅(Cu)、鉄(Fe)、イリジウム(Ir)等の金属が挙げられる。これらの中でもバリウム化合物(例えば硫酸バリウム)は、高いNOx吸蔵能を有しているため好適である。
【0051】
SCR触媒は、排ガス中の窒素酸化物(NOx)を浄化するものであればよい。SCR触媒としては特に限定されないが、例えば、β型ゼオライト、SAPO(シリコアルミノホスフェート)系ゼオライトが挙げられる。SAPOとしては、SAPO-5、SAPO-11、SAPO-14、SAPO-17、SAPO-18、SAPO-34、SAPO-39、SAPO-42、SAPO-47等が例示される。SCR触媒は、任意の金属成分を含んでいてもよい。そのような金属成分として、銅(Cu)、鉄(Fe)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、銀(Ag)、鉛(Pb)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、イットリウム(Y)、セリウム(Ce)、ネオジム(Nd)、タングステン(W)、インジウム(In)、イリジウム(Ir)等が例示される。SAPOに上記金属を含有させることで、NOxをより効率良く浄化できるようになる。なお、ウォッシュコート層20にSCR触媒を含有させる場合には、アンモニアを生成するための還元剤(例えば尿素水)を供給する還元剤供給手段をパティキュレートフィルタよりも上流側(例えば、図1中のフィルタ部5よりも上流側)に配置すると好ましい。
【0052】
C.用途
上述したように、本実施形態に係るパティキュレートフィルタ100は、排ガス中のPMを除去するフィルタ部5として内燃機関2の排気通路に配置され得る(図1参照)。しかし、ここに開示されるパティキュレートフィルタは、これに限定されず、種々の用途に使用することができる。例えば、ここに開示されるパティキュレートフィルタは、入側層に貴金属触媒が含まれているため、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)を浄化する三元触媒としても機能し得る。このため、ここに開示されるパティキュレートフィルタは、図1中の触媒部5とフィルタ部6の両方の機能を兼ねた排ガス浄化触媒として使用することもできる。なお、ここに開示されるパティキュレートフィルタを三元触媒として使用する場合には、上述したOSC材やNOx吸収材などがウォッシュコート層に添加されていると好ましい。
【0053】
また、本発明を限定する意図はないが、ここに開示されるパティキュレートフィルタは、内燃機関2が自動車のガソリンエンジンである場合に特に好ましく使用される。ガソリンエンジンから排出される排ガスは、比較的に高温であるため、隔壁の細孔内にPMが堆積しにくい傾向がある。これに対して、ここに開示されるパティキュレートフィルタでは、出側領域に貴金属触媒が実質的に存在していないため、当該出側領域にPMを好適に堆積させることができる。このため、ここに開示されるパティキュレートフィルタは、ガソリンエンジンに使用した場合でもPM捕集性能を好適に向上させることができる。
【0054】
なお、ここに開示されるパティキュレートフィルタは、ガソリンエンジンに限らず、他のエンジン(例えばディーゼルエンジン)からの排ガスを浄化するために使用することもできる。特に、上述したように、ウォッシュコート層にSCR触媒を添加し、パティキュレートフィルタの上流側に還元剤供給手段を配置した場合には、ディーゼルエンジンからの排ガスに含まれるNOxを浄化するSCR装置と、PMを除去するフィルタ部とを兼ねることができる。
【0055】
D.パティキュレートフィルタの製造
以下、本実施形態に係るパティキュレートフィルタ100を製造する方法の一例を説明する。なお、ここに開示されるパティキュレートフィルタは、以下の製造方法によって製造されたパティキュレートフィルタに限定されない。
【0056】
本実施形態に係るパティキュレートフィルタ100は、例えば、ウォッシュコート層20の材料を含むスラリーを調製し、当該スラリーを基材10の隔壁16の細孔18内に導入することによって製造できる。以下、各工程について説明する。
【0057】
(1)スラリーの調製
本工程では、上述したウォッシュコート層20の材料を所定の分散媒に分散させることによってスラリーを調製する。分散媒には、この種のスラリーの調製に用いられ得る分散媒を特に制限なく使用できる。例えば、分散媒は、極性溶媒(例えば、水)であってもよいし、非極性溶媒(例えば、メタノール等)であってもよい。また、スラリーには、上述したウォッシュコート層20の材料と分散媒の他に、粘度調整用の有機成分が含まれていてもよい。かかる粘度調整用の有機成分としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシエチルメチルセルロース(HEMC)等のセルロース系ポリマーが挙げられる。
【0058】
そして、本実施形態に係るパティキュレートフィルタ100を作製する際には、貴金属触媒を含有する入側層用のスラリーと、貴金属触媒を実質的に含有しない出側層用のスラリーの2種類のスラリーを調製する。貴金属触媒に関する詳細な説明は、上述の説明と重複するため省略する。なお、入側層用スラリーと出側層用スラリーは、貴金属触媒以外の材料が異なっていてもよい。例えば、粘度調整用の有機成分の添加量や種類を異ならせることによって、入側層用スラリーと出側層用スラリーとの間で粘度を異ならせ、入側層と出側層の各々が形成される領域の調節を容易に行うことができる。
【0059】
(2)スラリーの導入
本工程では、上述のスラリーを隔壁16の細孔18内に導入することによってウォッシュコート層20を形成する。なお、スラリーを細孔18内に導入する手段は、特に限定されず、従来から公知の手段を特に制限なく使用することができる。かかるスラリー導入手段の一例として、エアブロー法や吸引コート法などが挙げられる。エアブロー法では、基材10の端部をスラリーに浸漬させてセル12、14内部にスラリーを浸透させた後に、基材10を取り出してエアブローを実施することによって、スラリーを細孔18内に導入する。一方、吸引コート法では、基材10の端部をスラリーに浸漬させた状態で、反対側の端部から吸引することによってスラリーを細孔18内に導入する。
【0060】
そして、本実施形態に係るパティキュレートフィルタ100では、入側層22と出側層24とを備えたウォッシュコート層20が形成されている。吸引コート法を使用して、このようなウォッシュコート層20を形成するには、先ず、基材10のガス流入口12aを入側層用のスラリーに浸漬させた状態でガス流出口14bから吸引する。これによって、排ガス流入側X1の端部近傍から所定の長さと厚みで入側層用のスラリーが塗布されるため、このスラリーを乾燥・焼成することによって入側層22が形成される。次に、基材10のガス流出口14bを出側層用のスラリーを浸漬させた状態でガス流入口12aから吸引する。これによって、排ガス流出側X2の端部近傍から所定の長さと厚みで出側層用のスラリーが塗布されるため、このスラリーを乾燥・焼成することによって出側層24が形成される。このとき、スラリー粘度や吸引コート装置の吸引力を調節することによって、各々のスラリーが塗布される領域を制御することができる。これによって、焼成後の入側層22の一部と出側層24の一部とを重複させ、かつ、隔壁16の全長Lに対する入側層22の長さを50%以上75%以下に制御することができる。
【0061】
なお、入側層22と出側層24を形成する順序は特に限定されず、出側層24を形成した後に入側層22を形成してもよい。但し、粘度が適切に設定された入側層のスラリーを適切な吸引力で吸引することによって、排ガスの流通方向Xにおける入側層22の厚みTの分布を均一にすることが容易になり、入側領域における細孔を小さく、かつ、細孔径のばらつきを少なくする(細孔径分布をシャープにする)ことができる。また、上述した方法では、入側層用のスラリーの乾燥と焼成を行って入側層22を形成した後に、出側層用のスラリーを基材内部へ導入している。しかし、入側層用のスラリーを乾燥した後に、出側層用のスラリーを導入し、入側層用のスラリーと出側層用のスラリーの両方を同時に焼成してもよい。これらの場合でも、入側層22と出側層24とを備えたウォッシュコート層20を形成できる。
【0062】
また、スラリー導入後かつ乾燥前にエアブローを実施してもよい。これによって、セル12、14内にスラリーが残留することを防止できるため、セル12、14に接した隔壁16の表面16a(図5参照)に、ウォッシュコート層が形成されることを抑制できる。
【0063】
このようにして製造されたパティキュレートフィルタ100は、入側層22に貴金属触媒が含まれており、かつ、出側層24に貴金属触媒が実質的に含まれていない。そして、隔壁16の全長Lに対する入側層22の長さLが50%以上75%以下に制御されている。上述したように、かかる構成のパティキュレートフィルタ100によると、フィルタ全体としてPM捕集性能と圧損抑制性能とを高いレベルで両立することができる。
【0064】
[試験例]
以下、本発明に関する試験例を説明するが、本発明を以下の試験例に示すものに限定することを意図したものではない。本試験例では、隔壁内部における貴金属触媒が存在する領域が異なるパティキュレートフィルタを複数作製し、各々のパティキュレートフィルタのPM捕集性能と圧損抑制性能を評価した。
【0065】
1.サンプルの準備
(1)サンプル1
アルミナ粉末と、酸化バリウム粉末と、イオン交換水とを混合してPd未含有スラリーを調製した。そして、ウォールフロー型のフィルタ基材(コージェライト製、長さ152.4mm、セルの総容積1.7L)のガス流入口をPd未含有スラリーに含浸させた状態で、吸引コート装置を用いてガス流出口から吸引することによって、基材の隔壁の上流側に所定の長さ・厚みでPd未含有スラリーを導入した。そして、乾燥・焼成することによって入側層を形成した。次に、ガス流出口をPd未含有スラリーに含浸させてガス流入口から吸引することによって、隔壁の下流側に所定の長さ・厚みでPd未含有スラリーを導入した。そして、乾燥・焼成することによって出側層を形成した。入側領域と出側領域の各々の「長さL、L」、「コート量(導入したスラリー量)」および「Pdの含有量」を表1に示す。
【0066】
(2)サンプル2
本サンプルでは、硝酸パラジウム溶液(貴金属触媒の前駆体)を含有していることを除いて、上記サンプル1のPd未含有スラリーと同じ成分のPd含有スラリーを調製した。すなわち、硝酸パラジウム溶液と、アルミナ粉末と、酸化バリウム粉末と、イオン交換水とを混合することによって、Pd含有スラリーを調製した。そして、隔壁の上流側と下流側の両方にPd含有スラリーを導入し、各々の領域に導入されたスラリーの乾燥・焼成を行うことによって、入側層と出側層の両方に貴金属触媒(Pd)が含まれているパティキュレートフィルタを作製した。なお、他の条件は、サンプル1と同様に設定した。
【0067】
(3)サンプル3
本サンプルでは、上述したPd含有スラリーを隔壁の上流側に導入することによって貴金属触媒(Pd)を含有する入側層を形成すると共に、Pd未含有スラリーを隔壁の下流側に導入することによって貴金属触媒を含有しない出側層を形成した。さらに、隔壁の全長Lに対する入側層の長さ(入側領域の長さL)が40%になるように、吸引コート装置の吸引力を調節した。なお、他の条件は、サンプル1と同様に設定した。
【0068】
(4)サンプル4~7
サンプル4~7では、吸引コート装置の吸引力をサンプル3よりも強くし、隔壁の全長Lに対する入側層の長さ(入側領域の長さL)をサンプル3よりも長くした。具体的には、サンプル4の入側領域の長さLは、隔壁の全長Lの50%であり、サンプル5の入側領域の長さLは、隔壁の全長Lの60%である。また、サンプル6の入側領域の長さLは、隔壁の全長Lの75%であり、サンプル7の入側領域の長さLは、隔壁の全長Lの80%である。なお、他の条件は、サンプル3と同様に設定した。
【0069】
2.評価試験
(1)PM捕集性能
本評価では、各サンプルのPM捕集率を測定してPM捕集性能を評価した。具体的には、サンプル1~7の各々のパティキュレートフィルタを車両(2Lガソリンエンジン)の排気経路に設置して、当該車両をWLTP(Worldwide harmonized Light dutydriving Test Procedure)によるPhase4のモードで運転した。そして、パティキュレートフィルタを設置した状態のPM排出量Xと、パティキュレートフィルタを取り外した状態のPM排出量Yを測定し、下記の式に基づいてPM捕集率を算出した。結果を表1に示す。
PM捕集率(%)=[(Y-X)/Y]×100
【0070】
【表1】
【0071】
表1に示すように、サンプル1において最も高いPM捕集率が得られる一方で、サンプル2~7の何れにおいてもPM捕集率がサンプル1から低下するという結果が得られた。このことから、ウォッシュコート層に貴金属触媒(Pd)を添加すると、程度は異なるが、PM捕集性能が低下する傾向があることが分かった。
そして、入側領域の長さLを50%以上75%以下にしたサンプル4~6では、入側層と出側層の両方に貴金属触媒を含有させたサンプル2よりも高いレベルのPM捕集性能を発揮できることが確認された。
【0072】
(2)圧損抑制性能
サンプル1、2、5のパティキュレートフィルタに対して再生処理を実施し、当該再生処理における圧損とPM堆積重量の変化を測定した。具体的には、上記PM捕集率測定によってPMが堆積したパティキュレートフィルタをエンジンベンチに取り付け、高温の排ガス(温度:500℃、空燃比:14.7)を60分間供給する再生処理を実施した。そして、再生処理開始直後(0分後)、30分後、60分後における圧損(kPa)とPM堆積重量(g)を測定した。結果を表2に示す。
【0073】
【表2】
【0074】
表2に示すように、ウォッシュコート層にPdを含まないサンプル1では、再生処理を行っても、PM堆積重量が減少せず、圧損が殆ど回復しなかった。一方で、ウォッシュコート層にPdを含むサンプル2、5では、時間経過に伴ってPM堆積重量が減少し、60分後には圧損が同程度まで回復した。このことから、PM捕集性能が若干低下したとしても、圧損抑制性能を考慮すると、ウォッシュコート層にPd等の貴金属触媒を含ませる必要があることが分かる。そして、上述したPM捕集性能の結果を考慮してサンプル2、5を比較すると、サンプル5のように、入側層に貴金属触媒を含有させ、かつ、出側層に貴金属触媒を含有させない方が高いレベルでPM捕集性能と圧損抑制性能とを両立できることが分かった。
【符号の説明】
【0075】
1 排ガス浄化装置
2 内燃機関
3 エキゾーストマニホールド
4 排気管
5 触媒部
6 フィルタ部
7 エンジンコントロールユニット
8 センサ
10 基材
12 入側セル
14 出側セル
16 隔壁
18 細孔
20 ウォッシュコート層
22 入側層
24 出側層
100 パティキュレートフィルタ
図1
図2
図3
図4
図5