(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】塗料組成物及び成形品
(51)【国際特許分類】
C09D 201/02 20060101AFI20240109BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20240109BHJP
C03C 17/34 20060101ALI20240109BHJP
E03C 1/22 20060101ALI20240109BHJP
A47K 1/04 20060101ALI20240109BHJP
A47K 11/00 20060101ALI20240109BHJP
E03D 11/02 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
C09D201/02
B32B27/18 F
C03C17/34 A
E03C1/22 Z
A47K1/04 A
A47K11/00 103
E03D11/02 Z
(21)【出願番号】P 2020044618
(22)【出願日】2020-03-13
【審査請求日】2023-01-04
(73)【特許権者】
【識別番号】504163612
【氏名又は名称】株式会社LIXIL
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 圭
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 陽一
【審査官】福山 駿
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-071118(JP,A)
【文献】特開2016-020461(JP,A)
【文献】特表2010-531156(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
B32B 27/18
C03C 17/34
E03C 1/22
A47K 1/04
A47K 11/00
E03D 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チオール基又は(メタ)アクリロイル基を含有する下地層に塗布する用途に用いられる塗料組成物であって、
親水性化合物と、抗菌性化合物と、を含有し、
前記親水性化合物は、前記下地層に含まれる前記チオール基又は(メタ)アクリロイル基に反応する反応性基と、親水性基とを有し、
前記抗菌性化合物は、前記下地層に含まれる前記チオール基又は(メタ)アクリロイル基に反応する反応性基と、抗菌性基とを有し、
前記抗菌性基が、第4級アンモニウム塩を有する基であ
り、
前記親水性基が、水酸基、スルホン酸基、カルボキシル基、エーテル基、エステル基、又はアミド基である、塗料組成物。
【請求項2】
前記親水性基が、エーテル基又はスルホン酸基である、請求項1に記載の塗料組成物。
【請求項3】
前記第4級アンモニウム塩を有する基が、下記一般式(1)で表される1価の基である、請求項1又は2に記載の塗料組成物。
【化1】
[式中、R
11は、単結合又は炭素数1~5のアルキレン基であり、R
12及びR
13は、それぞれ独立に炭素数1~3のアルキル基であり、R
14は、炭素数1~20のアルキル基であり、X
-はハロゲン化物イオンである。]
【請求項4】
前記抗菌性化合物が、2-アクリロイルオキシエチルヘキサデシルジメチルアンモニウムブロマイド, 2-アクリロイルオキシエチルヘキサデシルジメチルアンモニウムクロライド、2-アクリロイルオキシエチルオクタデシルジメチルアンモニウムブロマイド, 2-アクリロイルオキシエチルオクタデシルジメチルアンモニウムクロライド, (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド、及び[2-(アクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリドの群から選択される1種以上である、請求項1~3の何れか一項に記載の塗料組成物。
【請求項5】
前記親水性化合物が、2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸塩、メトキシポリエチレングリコールアクリレート、及びポリエチレングリコールアクリレートの群から選択される1種以上である、請求項1~4の何れか一項に記載の塗料組成物。
【請求項6】
前記下地層にラジカル重合開始剤が含まれている、請求項1~5の何れか一項に記載の塗料組成物。
【請求項7】
基材と、前記基材の表面に形成された下地層とを備えた成形品であり、
前記下地層にはチオール基又は(メタ)アクリロイル基が含有され、
前記下地層の前記チオール基又は(メタ)アクリロイル基に親水性化合物及び抗菌性化合物が結合しており、
前記親水性化合物は、前記下地層に含まれる前記チオール基又は(メタ)アクリロイル基に反応する反応性基と、親水性基とを有し、
前記抗菌性化合物は、前記下地層に含まれる前記チオール基又は(メタ)アクリロイル基に反応する反応性基と、抗菌性基とを有し、
前記抗菌性基が、第4級アンモニウム塩を有する基であ
り、
前記親水性基が、水酸基、スルホン酸基、カルボキシル基、エーテル基、エステル基、又はアミド基である、成形品。
【請求項8】
前記親水性基が、エーテル基又はスルホン酸基である、請求項7に記載の成形品。
【請求項9】
前記第4級アンモニウム塩を有する基が、下記一般式(1)で表される1価の基である、請求項7又は8に記載の成形品。
【化2】
[式中、R
11は、単結合又は炭素数1~5のアルキレン基であり、R
12及びR
13は、それぞれ独立に炭素数1~3のアルキル基であり、R
14は、炭素数1~20のアルキル基であり、X
-はハロゲン化物イオンである。]
【請求項10】
前記抗菌性化合物が、2-アクリロイルオキシエチルヘキサデシルジメチルアンモニウムブロマイド, 2-アクリロイルオキシエチルヘキサデシルジメチルアンモニウムクロライド、2-アクリロイルオキシエチルオクタデシルジメチルアンモニウムブロマイド, 2-アクリロイルオキシエチルオクタデシルジメチルアンモニウムクロライド, (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド、及び[2-(アクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリドの群から選択される1種以上である、請求項7~9の何れか一項に記載の成形品。
【請求項11】
前記親水性化合物が、2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸塩、メトキシポリエチレングリコールアクリレート、及びポリエチレングリコールアクリレートの群から選択される1種以上である、請求項7~10の何れか一項に記載の成形品。
【請求項12】
前記基材がガラス又はセラミックスである、請求項7~11の何れか一項に記載の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料組成物及び成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属製品の水が接触する表面に抗菌性を付与する組成物が提案されている。例えば特許文献1には、特定の4級アンモニウム塩の基を有するシラン系化合物と、2以上のカルボキシル基を有する多価芳香族カルボン酸とを含む抗菌処理剤が提案されている。この技術によれば、例えばステンレス製のキッチンシンクの表面に、抗菌性及び耐熱水性に優れた抗菌処理面を形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、洗面台やトイレ等の陶器製品には、その表面に付着した油分を含む汚れを容易に洗い落とすことが求められている。さらにはその表面が抗菌性を有することも求められている。油汚れを容易に除去するためには、対象の表面に親水性を付与すればよい。しかしながら、親水性と抗菌性の両方を対象の表面に付与する技術は、従来開示されていない。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、抗菌性及び親水性を有する表面を形成することが可能な塗料組成物、及び抗菌性及び親水性を有する表面を備えた成形品の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1] チオール基又は(メタ)アクリロイル基を含有する下地層に塗布する用途に用いられる塗料組成物であって、親水性化合物と、抗菌性化合物と、を含有し、前記親水性化合物は、前記下地層に含まれる前記チオール基又は(メタ)アクリロイル基に反応する反応性基と、親水性基とを有し、前記抗菌性化合物は、前記下地層に含まれる前記チオール基又は(メタ)アクリロイル基に反応する反応性基と、抗菌性基とを有し、前記抗菌性基が、第4級アンモニウム塩を有する基である、塗料組成物。
[2] 前記親水性基が、エーテル基又はスルホン酸基である、[1]に記載の塗料組成物。
[3] 前記第4級アンモニウム塩を有する基が、下記一般式(1)で表される1価の基である、[1]又は[2]に記載の塗料組成物。
[4] 前記抗菌性化合物が、2-アクリロイルオキシエチルヘキサデシルジメチルアンモニウムブロマイド, 2-アクリロイルオキシエチルヘキサデシルジメチルアンモニウムクロライド、2-アクリロイルオキシエチルオクタデシルジメチルアンモニウムブロマイド, 2-アクリロイルオキシエチルオクタデシルジメチルアンモニウムクロライド, (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド、及び[2-(アクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリドの群から選択される1種以上である、[1]~[3]の何れか一項に記載の塗料組成物。
[5] 前記親水性化合物が、2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸塩、メトキシポリエチレングリコールアクリレート、及びポリエチレングリコールアクリレートの群から選択される1種以上である、[1]~[4]の何れか一項に記載の塗料組成物。
[6] 前記下地層にラジカル重合開始剤が含まれている、[1]~[5]の何れか一項に記載の塗料組成物。
[7] 基材と、前記基材の表面に形成された下地層とを備えた成形品であり、前記下地層にはチオール基又は(メタ)アクリロイル基が含有され、前記下地層の前記チオール基又は(メタ)アクリロイル基に親水性化合物及び抗菌性化合物が結合しており、前記親水性化合物は、前記下地層に含まれる前記チオール基又は(メタ)アクリロイル基に反応する反応性基と、親水性基とを有し、前記抗菌性化合物は、前記下地層に含まれる前記チオール基又は(メタ)アクリロイル基に反応する反応性基と、抗菌性基とを有し、前記抗菌性基が、第4級アンモニウム塩を有する基である、成形品。
[8] 前記親水性基が、エーテル基又はスルホン酸基である、[7]に記載の成形品。
[9] 前記第4級アンモニウム塩を有する基が、下記一般式(1)で表される1価の基である、[7]又は[8]に記載の成形品。
[10] 前記抗菌性化合物が、2-アクリロイルオキシエチルヘキサデシルジメチルアンモニウムブロマイド, 2-アクリロイルオキシエチルヘキサデシルジメチルアンモニウムクロライド、2-アクリロイルオキシエチルオクタデシルジメチルアンモニウムブロマイド, 2-アクリロイルオキシエチルオクタデシルジメチルアンモニウムクロライド, (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド、及び[2-(アクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリドの群から選択される1種以上である、[7]~[9]の何れか一項に記載の成形品。
[11] 前記親水性化合物が、2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸塩、メトキシポリエチレングリコールアクリレート、及びポリエチレングリコールアクリレートの群から選択される1種以上である、[7]~[10]の何れか一項に記載の成形品。
[12] 前記基材がガラス又はセラミックスである、[7]~[11]の何れか一項に記載の成形品。
【0007】
【化1】
[式中、R
11は、単結合又は炭素数1~5のアルキレン基であり、R
12及びR
13は、それぞれ独立に炭素数1~3のアルキル基であり、R
14は、炭素数1~20のアルキル基であり、X
-はハロゲン化物イオンである。]
【発明の効果】
【0008】
本発明の塗料組成物によれば、チオール基又は(メタ)アクリロイル基を含有する下地層に塗布することにより、前記下地層に抗菌性及び親水性を有する表面(表層)を形成することができる。
本発明の成形品は、抗菌性及び親水性を有する表面(表層)を備えているので、表面における雑菌の増殖を防ぎ、表面に付着した油汚れを洗浄しやすいので、表面を清潔に保つことが容易になる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書及び特許請求の範囲において、(メタ)アクリロイル基とは、アクリロイル基又はメタクリロイル基を意味する。
【0010】
≪塗料組成物≫
本発明の第一態様は、チオール基又は(メタ)アクリロイル基を含有する下地層に塗布する用途に用いられる塗料組成物である。前記塗料組成物は、親水性化合物と、抗菌性化合物と、を含有する。
前記親水性化合物は、前記下地層に含まれる前記チオール基又は(メタ)アクリロイル基に反応する反応性基と、親水性基とを有する。
前記抗菌性化合物は、前記下地層に含まれる前記チオール基又は(メタ)アクリロイル基に反応する反応性基と、抗菌性基とを有する。
前記抗菌性基が、第4級アンモニウム塩を有する基である。
前記親水性基は、エーテル基又はスルホン酸塩を有する基であることが好ましい。
【0011】
前記下地層にチオール基が含まれる場合、前記親水性化合物及び前記抗菌性化合物は、前記下地層に含まれるチオール基に反応する反応性基を有する。
前記下地層に(メタ)アクリロイル基が含まれる場合、前記親水性化合物及び前記抗菌性化合物は、前記下地層に含まれる(メタ)アクリロイル基に反応する反応性基を有する。
【0012】
前記下地層は、基材の表面に形成されたコーティング層(膜)であり、他の反応性基と反応可能なフリーのチオール基(-SH基)又は(メタ)アクリロイル基が表面に露出(表出)している層である。
前記基材の材料は特に限定されず、例えば、陶器等のセラミックス、ステンレス等の金属、ガラス、等の無機化合物が挙げられる。また、前記材料として、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、等の合成樹脂も挙げられる。なかでも、フリーのチオール基又は(メタ)アクリロイル基を有する前記下地層を形成しやすい観点から、前記基材の材料は、セラミックス、ガラス又は合成樹脂が好ましい。
前記基材としては、例えば、洗面台、便器、風呂桶、ユニットバスシステム等のバス用品や、シンク、調理器具等のキッチン用品が挙げられる。
【0013】
前記下地層において、チオール基又は(メタ)アクリロイル基は、例えば、シランカップリング剤を介して、前記基材の表面に結合する形態をとり得る。ここで、チオール基又は(メタ)アクリロイル基は、シランカップリング剤が有する官能基であってもよいし、チオール基又は(メタ)アクリロイル基を有する化合物とシランカップリング剤との反応物が有する基であってもよい。
下地層を形成する方法として、例えば、チオール基を有するシランカップリング剤として、3-メルカプトプロピルトリメトキシシランを直接反応させる方法と、チオール基を有しない3-アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランを反応させ、これと多官能チオールとを反応させてチオール基を有する下地層を形成させる方法と、が挙げられる。
【0014】
前記塗料組成物が含有する親水性化合物は、前記下地層に含まれるチオール基又は(メタ)アクリロイル基に反応する反応性基と、親水性基を有する化合物である。
前記チオール基又は(メタ)アクリロイル基に反応する反応性基としては、例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、アクリルアミド基、ビニル基、アリル基、スチリル基、イソシアネート基等が挙げられる。なかでも、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、アクリロイルオキシ基、アクリルアミド基(CH2=C-C(=O)-NH-)がより好ましい。
前記スルホン酸、カルボキシル基は塩として、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等として用いることが好ましい。
【0015】
前記親水性化合物は、水酸基、スルホン酸基、カルボキシル基、エーテル基、エステル基、アミド基を有する化合物であることが好ましい。ここで、スルホン酸基、カルボキシル基は、プロトン以外のカチオンと塩を形成していてもよい。
【0016】
スルホン酸塩を有する親水性化合物の具体例としては、例えば、2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸塩、ビニルスルホン酸塩、アリルスルホン酸塩、p-スチレンスルホン酸塩)等が挙げられる。
水酸基を有する親水性化合物の具体例としては、例えば、ポリエチレングリコールアクリレート、ポリビニルアルコールのアクリレート誘導体等が挙げられる。
エーテル基を有する親水性化合物の具体例としては、例えば、メトキシポリエチレングリコールアクリレート、エトキシポリエチレングリコールアクリレート、等が挙げられる。
前記親水性化合物は、1種単独でもよいし、2種以上でもよい。
【0017】
前記塗料組成物が含有する抗菌性化合物は、前記下地層に含まれるチオール基又は(メタ)アクリロイル基に反応する反応性基と、抗菌性基である第4級アンモニウム塩を有する基と、を有する化合物である。
前記チオール基又は(メタ)アクリロイル基に反応する反応性基としては、例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、アクリルアミド基、ビニル基、アリル基、スチリル基、イソシアネート基等が挙げられる。アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、アクリルアミド基が好ましく、アクリロイルオキシ基、アクリルアミド基がより好ましい。
【0018】
前記抗菌性化合物が有する第4級アンモニウム塩を有する基としては、例えば、下記一般式(1)で表される1価の基が好ましい。
【0019】
【化2】
[式中、R
11は、単結合又は炭素数1~5のアルキレン基であり、R
12及びR
13は、それぞれ独立に炭素数1~3のアルキル基であり、R
14は、炭素数1~20のアルキル基であり、X
-はハロゲン化物イオンである。]
【0020】
R11は、前記チオール基又は(メタ)アクリロイル基に反応する反応性基に結合していることが好ましい。
R11は、炭素数2~3のアルキレン基であることが好ましい。
R12及びR13は、それぞれ独立に、メチル基又はエチル基であることが好ましい。
R14は、炭素数1~18のアルキル基であることが好ましく、炭素数1~6又は炭素数12~18のアルキル基であることがより好ましく、炭素数1~3又は炭素数14~18のアルキル基であることがさらに好ましい。
X-は、塩化物イオン、臭化物イオン、又はヨウ化物イオンであることが好ましい。
上記の好ましい第4級アンモニウム塩の基であると、前記下地層が有するチオール基又は(メタ)アクリロイル基に対する前記抗菌性化合物の反応性がよく、前記親水性化合物が前記チオール基又は(メタ)アクリロイル基に結合することを阻害し難い。
【0021】
好適な抗菌性化合物の具体例としては、例えば、2-アクリロイルオキシエチルヘキサデシルジメチルアンモニウムブロマイド, 2-アクリロイルオキシエチルヘキサデシルジメチルアンモニウムクロライド、2-アクリロイルオキシエチルオクタデシルジメチルアンモニウムブロマイド, 2-アクリロイルオキシエチルオクタデシルジメチルアンモニウムクロライド, (3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド、[2-(アクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド等が挙げられる。
前記抗菌性化合物は、1種単独でもよいし、2種以上でもよい。
【0022】
前記親水性化合物と前記抗菌性化合物の好ましい組み合わせを次に例示する。
前記親水性化合物及び前記抗菌性化合物のうち少なくとも一方がアクリルアミド基を有することが好ましく、両方がアクリルアミド基を有することがより好ましく、両方がアクリルアミド基を有し、かつ親水性化合物がスルホン酸基又はその塩を有することがさらに好ましい。
【0023】
前記塗料組成物には、公知のラジカル重合開始剤が含まれていてもよい。ラジカル重合開始剤は、光により分解してラジカルを発生する光ラジカル重合開始剤でもよいし、熱により分解してラジカルを発生する熱ラジカル重合開始剤でもよい。
前記下地層が有するチオール基又は(メタ)アクリロイル基に対する、前記親水性化合物及び前記抗菌性化合物の反応性を高める観点から、下記のラジカル重合開始剤が好ましい。
好ましいラジカル重合開始剤としては、例えば、1-ヒドロキシシクロヘキシル-フェニルケトン(イルガキュア184)、2-[4-(メチルチオ)ベンゾイル]-2-(4-モルホリニル)プロパン(イルガキュア907)、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン(イルガキュア1173)、2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノン(イルガキュア2959)、4,4’-カルボニルビス(ジペルオキシフタル酸ジ-tert-ブチル)(BTTB)、tert-ブチル=2-エチルペルオキシヘキサノアート(パーブチルO)等が挙げられる。
【0024】
前記塗料組成物には、前記抗菌性化合物及び前記親水性化合物の相溶性(分散性)を高める観点から、相溶化剤を添加することができる。前記塗料組成物がラジカル重合開始剤を含まない場合には、前記塗料組成物は相溶化剤を含むことが好ましい。
相溶化剤として、例えば、ポリエーテル誘導体、ポリエステル誘導体、ポリオキシエチレン-ビスフェノールAエーテル、ポリオキシプロピレン-ビスフェノールAエーテル、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン-ビスフェノールAエーテル等のビスフェノールA誘導体を添加することができる。
ビスフェノールA誘導体の市販品として、例えば、日油化学社製のユニオールDA-400、ユニオールDA-700、ユニオールDB-400、ユニルーブ50DB-22が挙げられる。
【0025】
前記塗料組成物には、溶剤、表面調整剤、レベリング剤、可塑剤、消泡剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、粘性制御剤等の任意成分が含まれていてもよい。
【0026】
前記塗料組成物における各成分の配合量としては、前記下地層が有するチオール基又は(メタ)アクリロイル基に対する前記親水性化合物及び前記抗菌性化合物の反応性が優れる観点から、例えば下記が好ましい。
前記塗料組成物における前記親水性化合物の含有量は、例えば、0.5~1000mMが好ましく、5~500mMがより好ましく、10~100mMがさらに好ましい。
前記塗料組成物における前記抗菌性化合物の含有量は、例えば、0.1~2000mMが好ましく、1~200mMがより好ましく、5~150mMがさらに好ましい。
前記塗料組成物に含まれる前記親水性化合物と前記抗菌性化合物の配合割合としては、前記親水性化合物の含有量が、前記抗菌性化合物の含有量と同じであるか又はより多く含まれることが好ましい。具体的には、例えば、モル基準で、前記親水性化合物の含有量/前記抗菌性化合物の含有量=1~50が好ましく、1.5~40がより好ましく、2~30がさらに好ましく、3~20が特に好ましい。
【0027】
前記塗料組成物における前記ラジカル重合開始剤の含有量は、例えば、1~1000mMが好ましく、5~500mMがより好ましく、8~100mMがさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、前記抗菌性化合物及び前記親水性化合物の反応性基を下地層のチオール基又は(メタ)アクリロイル基に対して充分に反応させることができる。上記範囲の上限値以下であると、発生するラジカルの量が過剰になることを防ぎ、前記抗菌性化合物及び前記親水性化合物の両方を下地層に結合させることが容易になる。
【0028】
前記塗料組成物における相溶化剤の含有量は、前記抗菌性化合物及び前記親水性化合物の合計100質量部に対して、例えば、0.1~10質量部が好ましく、1~5質量部がより好ましい。
【0029】
前記塗料組成物に含まれる、溶剤以外の不揮発成分(固形分)の含有量は、前記塗料組成物の総質量100質量%に対して、0.1~60質量%であることが好ましい。
0.1質量%以上であると、前記下地層の表面に対して充分な抗菌性及び親水性を付与することができる。60質量%以下であると、前記塗料組成物中の各成分の分散性が良好となり、前記下地層の表面に対して各成分をムラ無く塗布することが容易になる。
【0030】
<作用効果>
本態様の塗料組成物によれば、前記下地層が有するチオール基又は(メタ)アクリロイル基に対して、前記抗菌性化合物及び前記親水性化合物の両方を結合させることができる。この結果、前記下地層に対して抗菌性と親水性の両方を付与することができる。
【0031】
≪塗料組成物を用いた成形品の製造方法≫
本発明の第二態様の成形品の製造方法は、下地層形成工程および表層形成工程のうち、少なくとも表層形成工程を有する。以下、各工程を説明する。
【0032】
<下地層形成工程>
下地層形成工程は、基材の表面に対して、チオール基又は(メタ)アクリロイル基含有化合物が含まれるプライマー溶液を塗布することにより、前記表面にフリーのチオール基又は(メタ)アクリロイル基を有する下地層を形成する工程である。
前記基材の材料及び前記基材の具体例は前述したものが挙げられる。
前記基材の表面には、フリーのチオール基又は(メタ)アクリロイル基を表出させることが容易である観点から、水酸基が存在することが好ましい。
【0033】
前記プライマー溶液には、チオール基又は(メタ)アクリロイル基含有化合物が含まれる。
【0034】
チオール基含有化合物としては、チオール基とチオール基以外の官能基を有する化合物、又は、チオール基を2つ以上有する化合物が好ましい。このような化合物としては、例えば、1つ以上のチオール基及び1つ以上のアルコキシ基を有するシランカップリング剤(A)、多官能2級チオール化合物等が挙げられる。
【0035】
前記シランカップリング剤(A)の具体例としては、例えば、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。
【0036】
前記多官能2級チオール化合物の具体例としては、例えば、ペンタエリスリトール テトラキス(3-メルカプトブチレート)、1,4-ビス(3-メルカプトブチリルオキシ)ブタン、1,3,5-トリス(3-メルカプトブチリルオキシエチル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン等が挙げられる。
【0037】
チオール基含有化合物が、チオール基を2つ以上有する化合物であり、アクリロイル基等の他の反応性基を有しない場合、前記プライマー溶液には、チオール基に反応する反応性基を有するシランカップリング剤(B)を含むことが好ましい。
前記シランカップリング剤(B)としては、例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、アクリルアミド基、ビニル基、アリル基、スチリル基、イソシアネート基、等のチオール基に反応する反応性基の1つ以上と、1つ以上のアルコキシ基を有するシランカップリング剤が挙げられる。
前記シランカップリング剤の具体例としては、例えば、3-アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、等が挙げられる。
【0038】
(メタ)アクリロイル基含有化合物としては、(メタ)アクリロイル基と(メタ)アクリロイル基以外の官能基を有する化合物、又は、(メタ)アクリロイル基を2つ以上有する化合物が好ましい。このような化合物としては、例えば、1つ以上の(メタ)アクリロイル基及び1つ以上のアルコキシ基を有するシランカップリング剤(C)、多官能(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0039】
前記シランカップリング剤(C)の具体例としては、例えば、3-アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0040】
前記多官能(メタ)アクリレートの具体例としては、例えば、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、エトキシ化ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート等が挙げられる。
【0041】
前記プライマー溶液には、公知のラジカル重合開始剤が含まれていることが好ましい。
前記プライマー溶液にラジカル重合開始剤が含まれていると、形成される下地層にラジカル重合開始剤が含まれる。この場合、後段で塗布する塗料組成物に含まれる抗菌性化合物及び親水性化合物の、下地層のチオール基又は(メタ)アクリロイル基に対する反応性を高めることができる。
前記プライマー溶液にラジカル重合開始剤が含まれる場合、後段で塗布する塗料組成物にラジカル重合開始剤が含まれる必要はない。また、抗菌性化合物及び親水性化合物の下地層に対する結合を両立させることが容易である観点から、上記の場合、後段で塗布する塗料組成物にはラジカル重合開始剤が含まれないことが好ましい。
また、前記下地層に対して、前記塗料組成物を塗布する前に、ラジカル重合開始剤を含む別の溶液を塗布して、前記下地層にラジカル重合開始剤を含ませてもよい。
前記プライマー溶液にラジカル重合開始剤が含まれない場合、後段で塗布する前記塗料組成物にラジカル重合開始剤が含まれていることが好ましい。
【0042】
前記ラジカル重合開始剤としては、例えば、1-ヒドロキシシクロヘキシル-フェニルケトン、(イルガキュア184)、2-[4-(メチルチオ)ベンゾイル]-2-(4-モルホリニル)プロパン(イルガキュア907), 2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン(イルガキュア1173)、2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノン(イルガキュア2959)等が挙げられる。
【0043】
前記プライマー溶液には、シランカップリング剤のアルコキシ基を加水分解する触媒、溶剤等の任意成分が含まれていてもよい。
前記触媒としては、例えば、酢酸、ギ酸、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸等の酸の水溶液や、アンモニア、トリエチルアミン、水酸化ナトリウム等の塩基性化合物の水溶液が挙げられる。
前記溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、2-プロパノール等のアルコールが挙げられる。
【0044】
前記プライマー溶液における各成分の配合量としては、前記基材表面に対して前記下地層を形成することが容易である観点から、例えば下記が好ましい。
前記プライマー溶液における前記チオール基含有化合物の含有量は、例えば、0.1~1000mMが好ましく、1~500mMがより好ましく、10~200mMがさらに好ましい。
前記プライマー溶液における前記(メタ)アクリロイル基含有化合物の含有量は、例えば、0.1~1000mMが好ましく、1~500mMがより好ましく、10~200mMがさらに好ましい。
前記プライマー溶液における、1つ以上のチオール基及び1つ以上のアルコキシ基を有する前記シランカップリング剤(A)の含有量は、例えば、0.1~1000mMが好ましく、1~500mMがより好ましく、10~200mMがさらに好ましい。
前記プライマー溶液における、チオール基に反応する反応性基を有する前記シランカップリング剤(B)の含有量は、例えば、0.1~1000mMが好ましく、1~500mMがより好ましく、10~200mMがさらに好ましい。
前記プライマー溶液における、1つ以上の(メタ)アクリロイル基及び1つ以上のアルコキシ基を有する前記シランカップリング剤(C)の含有量は、例えば、0.1~1000mMが好ましく、1~500mMがより好ましく、10~200mMがさらに好ましい。
【0045】
前記プライマー溶液における前記ラジカル重合開始剤の含有量は、例えば、10~10000mMが好ましく、20~5000mMがより好ましく、100~1000mMがさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、前記抗菌性化合物及び前記親水性化合物の反応性基を下地層のチオール基又は(メタ)アクリロイル基に対して充分に反応させることができる。上記範囲の上限値以下であると、発生するラジカルの量が過剰になることを防ぎ、前記抗菌性化合物及び前記親水性化合物の両方を下地層に結合させることが容易になる。
【0046】
前記プライマー溶液に含まれる、溶剤以外の不揮発成分(固形分)の含有量は、前記プライマー溶液の総質量100質量%に対して、0.1~60質量%であることが好ましい。
0.1質量%以上であると、チオール基又は(メタ)アクリロイル基を充分に表出した下地層を形成することができる。60質量%以下であると、前記プライマー溶液中の各成分の分散性が良好となり、前記基材の表面に対して各成分をムラ無く塗布することが容易になる。
【0047】
前記プライマー溶液を前記基材の表面に対して塗布する方法は、特に制限されず、ロールコート、シャワーコート、スプレー、浸漬、刷毛塗り等が挙げられる。
塗布する量は、)が単位表面積当たりの塗布重量として、0.1~10g/m2程度となる量が好ましい。
乾燥方法としては、例えば60℃以下で10~60分程度で加熱する方法が挙げられる。加熱により溶剤を揮発させるとともに、シランカップリング剤のシラノール基を基材表面に容易に結合させることができる。
【0048】
<表層形成工程>
表層形成工程は、前記下地層に対して、第一態様の塗料組成物を塗布することにより、前記下地層に対して、抗菌性化合物及び親水性化合物が結合した表層を形成する工程である。
前記塗料組成物を前記下地層に塗布する前に、前記下地層の塗布面を水などで洗浄し、前記プライマー溶液の余りを洗い落とすことが好ましい。
前記塗料組成物を前記下地層に塗布する方法は、特に制限されず、ロールコート、シャワーコート、スプレー、浸漬、刷毛塗り等が挙げられる。
また、単位表面積当たりの塗布重量として、0.1~10g/m2程度となる量が好ましい。
【0049】
前記下地層又は前記塗料組成物に光ラジカル重合開始剤が含まれる場合、前記塗料組成物の塗膜に対して、例えば、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、紫外線LEDランプ等を用いて紫外線を照射する公知方法を適用して、ラジカルを発生させることができる。
前記下地層又は前記塗料組成物に熱ラジカル重合開始剤が含まれる場合、前記塗料組成物の塗膜に対して、例えば、電気オーブン、熱風乾燥機、赤外線照射装置等を用いて塗膜を加熱する公知方法を適用して、ラジカルを発生させることができる。
ラジカルを発生させることにより、前記抗菌性化合物及び前記親水性化合が有する反応性基を前記下地層が有するチオール基又は(メタ)アクリロイル基に結合させることができる。
【0050】
前記下地層が有するチオール基に対しては、多官能(メタ)アクリロイル基を有する親水性化合物又は抗菌性化合物を反応させることができる。また、前記下地層が有する(メタ)アクリロイル基に対しては、多官能(メタ)アクリロイル基又は多官能チオール基を有する親水性化合物又は抗菌性化合物を反応させることができる。
【0051】
≪成形品≫
本発明の第三態様の成形品は、基材と、前記基材の表面に形成された下地層とを備えている。前記下地層にはチオール基又は(メタ)アクリロイル基が含有され、前記下地層の前記チオール基又は(メタ)アクリロイル基に親水性化合物及び抗菌性化合物が結合している。
前記親水性化合物は、前記チオール基又は(メタ)アクリロイル基に反応する反応性基と、親水性基とを有する。
前記抗菌性化合物は、前記チオール基又は(メタ)アクリロイル基に反応する反応性基と、抗菌性基とを有する。
前記親水性基は、水酸基又はスルホン酸塩を有する基であることが好ましい。
前記抗菌性基は、第4級アンモニウム塩を有する基である。
【0052】
前記下地層のチオール基は、前記親水性化合物及び前記抗菌性化合物と結合しているので、フリーのチオール基(-SH)ではなく、チオール基に由来する硫黄原子(-S-)として存在する。
前記親水性化合物及び前記抗菌性化合物は、前記下地層のチオール基に結合しているので、「チオール基に反応する反応性基」は、「チオール基の硫黄原子に結合した反応性基」として存在する。前記親水性化合物及び前記抗菌性化合物の説明は、第一態様の説明と同様であるので省略する。
【0053】
前記下地層の(メタ)アクリロイル基は、前記親水性化合物及び前記抗菌性化合物と結合しているので、フリーの(メタ)アクリロイル基ではなく、(メタ)アクリロイル基に由来する2価の連結基として存在する。
前記親水性化合物及び前記抗菌性化合物は、前記下地層の(メタ)アクリロイル基に結合しているので、「(メタ)アクリロイル基に反応する反応性基」は、「(メタ)アクリロイル基に由来する2価の連結基に結合した反応性基」として存在する。前記親水性化合物及び前記抗菌性化合物の説明は、第一態様の説明と同様であるので省略する。
【0054】
前記基材の説明は、第一態様の説明と同様であるので省略する。
【0055】
前記下地層に含まれるチオール基由来の硫黄原子は、基材表面の原子(例えば酸素原子)から1~7原子以内の比較的近傍に存在していてもよいし、基材表面の原子から8~20原子程度の比較的離れた位置に存在していてもよい。例えば、前述した、チオール基を有するシランカップリング剤を基材表面に結合させて形成した下地層においては、硫黄原子は基材表面から比較的近傍に存在することが多い。一方、チオール基を有しないシランカップリング剤を介して、チオール基を有する別の化合物を結合させて形成した下地層においては、硫黄原子は基材表面から比較的離れた位置に存在することが多い。
【0056】
前記下地層に含まれるチオール基又は(メタ)アクリロイル基に結合した、前記抗菌性化合物及び前記親水性化合物は、前記下地層の表面に、抗菌性及び親水性を有する表層(表面)を形成する。前記下地層の1つのチオール基又は(メタ)アクリロイル基に対して結合している、前記抗菌性化合物及び前記親水性化合物は1分子に限られず、反応性基を介して重合することにより、2分子以上が連結していてもよい。つまり、前記下地層の任意の1つのチオール基又は(メタ)アクリロイル基に対して、前記抗菌性化合物が2分子以上連結していてもよいし、前記親水性化合物が2分子以上連結していてもよいし、前記抗菌性化合物と前記親水性化合物の両方が任意の比率で任意の順序で2分子以上連結していてもよい。
【0057】
本態様の成形品は、第一態様の塗料組成物を用いて、第二態様の製造方法により製造することができる。
【0058】
前記成形品の前記表層について、後述する方法で測定される水の接触角は、40°以下が好ましく、35°以下がより好ましい。水の接触角が小さいほど、表層が親水性であり、油汚れが落ちやすい。前記表層の水の接触角の下限値は特に制限されず、3°程度が目安として挙げられる。
【0059】
前記成形品の前記表層について、後述する方法で測定される油汚れ除去時間は、20秒以下が好ましく、10秒以下がより好ましい。油汚れ除去時間が短いほど、洗浄が容易である。油汚れ除去時間の下限値は特に制限されない。
【0060】
前記成形品の前記表層について、後述する方法で測定される抗菌活性値は、2.0以上が好ましく、2.5以上がより好ましく、3.0以上がさらに好ましく、3.5以上が特に好ましい。抗菌活性値が高いほど、抗菌性に優れる。抗菌活性値の上限値は特に制限されない。
【実施例】
【0061】
以下、本発明について実施例を示して具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の記載に限定されるものではない。
【0062】
<抗菌活性値の測定方法>
JIS Z 2801に準拠して抗菌試験を行なった。試験対象菌はEscherichia coli(NBRC3972)とした。具体的には、試験片(5cm×5cm)を滅菌シャーレに入れ、接種用菌液0.4mlを処理面に接種し、さらに4cm角のポリプロピレンフィルムで試験片の処理面を覆った。これを温度35℃、RH90%以上のデシケーターの中に置き、接触時間24時間後の生菌数を下記の測定方法により測定した。また、上記試験片の代わりに同サイズの無加工フィルム(ABSフィルム)を用いた対照品についても同様に接種用菌液を接種し、接種直後、接触時間24時間後の生菌数を試験片と同様に下記の測定方法により測定した。
(生菌数の測定方法)
ポリプロピレンフィルムと試験片をともにストマッカー用滅菌ポリ袋に入れ、SCDLP培地10mlを加え、ストマッカーで試験菌を洗い出した。この洗い出し液1ml中の生菌数を、SCDLP寒天培地混釈法により測定した。生菌数は、試験片1cm2あたりに換算した。
下記式に従って各試験片の抗菌活性値を算出した。
抗菌活性値=対照品の10分後生菌数対数値-試験片の10分後の生菌数対数値
【0063】
<接触角の測定方法>
協和界面科学株式会社のDropMasterを用いて、各試験片の処理面における水に対する接触角をθ/2法により3点測定し、その平均値を求めた。
【0064】
<油汚れ除去性の測定>
1Lのビーカーに水 500ml、スーダンレッドで着色したオレイン酸50mlを入れた。この際、水とオレイン酸は、それぞれ下層と上層の2層に分かれた。この2層の試験液の液面に対して各試験片を垂直にして差し込み、各試験片の処理面全体が浸るように、ゆっくりと沈めた後、ゆっくりと引き上げた。再び処理面全体が浸るように、ゆっくりと沈め、下層の水中に試験片を留め置き、各試験片の処理面に付着した赤色のオレイン酸が水中において処理面から自然に完全にはがれる時間を測定した。この時間を油汚れ除去秒数とした。
【0065】
<試験片の作製>
以下の各実施例で使用した試薬の製造会社を特に明記しない場合、当該試薬は富士フィルム和光純薬社製である。
【0066】
[実施例1]
3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン(信越化学社製、品番:KBM803)1mmol及び酢酸5.5mmolを、水1wt%を含有した2-プロパノール10gに溶解し、1時間撹拌した。この溶液に2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノン(イルガキュア2959)4mmolを添加してプライマー溶液とした。
2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸0.24mmol、水酸化ナトリウム 0.24mmol、(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド(KJケミカルズ社製、品番: DMAPAA-Q)0.08mmol、及びビスフェノールA誘導体(日油社製、品番:ユニオールDA-700)0.25gを、水20wt%を含有する2-プロパノール8gに溶解して塗料組成物とした。この塗料組成物において、2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸(親水性化合物)の濃度は約30mMであり、(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド(抗菌性化合物)の濃度は約10mMである。
洗浄した5cm×5cmサイズのガラス板の表面にプライマー溶液をマイクロピペットにより400μl塗布し、60℃で1時間加熱を行った。得られたガラス板の下地層の表面に前記塗料組成物をマイクロピペットにより400μl塗布した後、メタルハライドランプ(照度50)にて10秒間照射した後、表面を水で洗浄して未反応分を除去した。
以上のようにプライマー溶液及び塗料組成物を塗布したガラス表面を処理面と呼ぶ。
【0067】
[比較例1]
実施例1において、(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリドの量を0mmolにする以外は実施例1と同様に行った。
[比較例2]
実施例1において、2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸及び水酸化ナトリウムの量を0mmolにする以外は、実施例1と同様に行った。
【0068】
[実施例2]
実施例1において、メタルハライドランプの照度を100にする以外は、実施例1と同様に行った。
【0069】
[実施例3]
実施例1において、2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸を0.5mmol、水酸化ナトリウム を0.5mmol、(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド(KJケミカルズ社製、品番:DMAPAA-Q)を0.2mmolとする以外は、実施例1と同様に行った。
本実施例の塗料組成物において、2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸(親水性化合物)の濃度は約62.5mMであり、(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド(抗菌性化合物)の濃度は約25mMである。
【0070】
[実施例4]
実施例1において、2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸を3.0mmol、水酸化ナトリウム を3.0mmol、(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド(KJケミカルズ社製、品番:DMAPAA-Q)を1mmolとする以外は、実施例1と同様に行った。
本実施例の塗料組成物において、2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸(親水性化合物)の濃度は約375mMであり、(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド(抗菌性化合物)の濃度は約125mMである。
【0071】
[実施例5]
実施例1において、2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸を0.16mmol、水酸化ナトリウム を0.16mmol、(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド(KJケミカルズ社製、品番:DMAPAA-Q)を0.16mmolとする以外は、実施例1と同様に行った。
本実施例の塗料組成物において、2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸(親水性化合物)の濃度は約20mMであり、(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド(抗菌性化合物)の濃度は約20mMである。
【0072】
[実施例6]
実施例1において、2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸を0.8mmol、水酸化ナトリウム を0.8mmol、(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド(KJケミカルズ社製、品番:DMAPAA-Q)を0.24mmolとする以外は、実施例1と同様に行った。
本実施例の塗料組成物において、2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸(親水性化合物)の濃度は約100mMであり、(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド(抗菌性化合物)の濃度は約30mMである。
【0073】
[実施例7]
実施例1において、2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノンの濃度を8mmolとする以外は、実施例1と同様に行った。
【0074】
[実施例8]
3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン(信越化学社製、品番:KBM803)0.2mmol、及び酢酸 0.5mmolを、水1wt%を含有した2-プロパノール10gに溶解し、1時間撹拌した。この溶液に2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノン1mmolを添加してプライマー溶液とした。
2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸0.03mmol、水酸化ナトリウム0.03mmol、[2-(アクリロイルオキシ)エチル]ヘキサデシルジメチルアンモニウムブロマイド(TCIケミカルトレーディング社製)0.005mmol、及びビスフェノールA誘導体(日油社製、品番:ユニオールDA-700)0.25gを、水20wt%を含有する2-プロパノール8gに溶解して塗料組成物とした。この塗料組成物において、2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸(親水性化合物)の濃度は約3.75mMであり、[2-(アクリロイルオキシ)エチル]ヘキサデシルジメチルアンモニウムブロマイド(抗菌性化合物)の濃度は約0.63mMである。
洗浄した5cm×5cmサイズのガラス板の表面にプライマー溶液をマイクロピペットにより400μl塗布し、60℃で1時間加熱を行った。得られたガラス板の下地層の表面に前記塗料組成物をマイクロピペットにより400μl塗布した後、メタルハライドランプ(照度100)にて10秒間照射した後、表面を水で洗浄して未反応分を除去した。
【0075】
[実施例9]
3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン(信越化学社製、品番:KBM803)1mmol及び酢酸5.5mmolを、水1wt%を含有した2-プロパノール10gに溶解し、1時間撹拌した。この溶液に2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノン4mmolを添加してプライマー溶液とした。
ポリエチレングリコールアクリレート(日油社製、品番:AME-400)3.2mmol、(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド(KJケミカルズ社製、品番:DMAPAA-Q)0.8mmolを、水20wt%を含有する2-プロパノール8gに溶解して塗料組成物とした。この塗料組成物において、ポリエチレングリコールアクリレート(親水性化合物)の濃度は約400mMであり、(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド(抗菌性化合物)の濃度は約100mMである。
洗浄した5cm×5cmサイズのガラス板の表面にプライマー溶液をバーコーター(番線♯11)にて塗布し、60℃で1時間加熱を行った。得られたガラス板の下地層の表面に塗料組成物をマイクロピペットにより400μl塗布した後、メタルハライドランプ(照度200)にて10秒間照射した後、表面を水で洗浄して未反応分を除去した。
【0076】
[実施例10]
3-アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学社製、品番:KBM5103)1mmol及び酢酸5.5mmolを、水2.7wt%を含有した2-ブタノール10gに溶解し、30分撹拌してプライマー溶液とした。
2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸1.80mmol、水酸化ナトリウム 1.80mmol、(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド(KJケミカルズ社製、品番: DMAPAA-Q)0.08mmol、及び2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノン0.30mmolを、水20wt%を含有する2-プロパノール8gに溶解して塗料組成物とした。この塗料組成物において、2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸(親水性化合物)の濃度は約225mMであり、(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド(抗菌性化合物)の濃度は約10mMである。
洗浄した5cm×5cmサイズのガラス板の表面にプライマー溶液をバーコーター(番線♯3)により塗布し、60℃で1時間加熱を行った。得られたガラス板の下地層の表面に前記塗料組成物をマイクロピペットにより400μl塗布した後、メタルハライドランプ(照度200)にて1分間照射した後、表面を水で洗浄して未反応分を除去した。
以上のようにプライマー溶液及び塗料組成物を塗布したガラス表面を処理面と呼ぶ。
【0077】
[比較例3]
実施例10において、(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリドの量を0mmolにする以外は実施例10と同様に行った。
[比較例4]
実施例10において、2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸及び水酸化ナトリウムの量を0mmolにする以外は、実施例10と同様に行った。
【0078】
[実施例11]
実施例10において、2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸を3.0mmol、水酸化ナトリウム を3.0mmol、(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド(KJケミカルズ社製、品番:DMAPAA-Q)を1.0mmolとする以外は、実施例10と同様に行った。
本実施例の塗料組成物において、2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸(親水性化合物)の濃度は約375mMであり、(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド(抗菌性化合物)の濃度は約125mMである。
【0079】
[実施例12]
実施例10において、2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノンの濃度を0.07mmolとする以外は、実施例10と同様に行った。
【0080】
[実施例13]
3-アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学製、品番:KBM5103)1mmol及び酢酸5.5mmolを、水1wt%を含有した2-プロパノール10gに溶解し、1時間撹拌した。この溶液に、ペンタエリスリトール テトラキス(3-メルカプトブチレート)(昭和電工社製、品番:カレンズMT PEI)0.5mmolを添加してプライマー溶液とした。
2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸1.8mmol、水酸化ナトリウム 1.8mmol、(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド(KJケミカルズ社製、品番:DMAPAA-Q)0.6mmol、及び2-ヒドロキシ-4′-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノン0.3mmolを、水20wt%を含有する2-プロパノール8gに溶解して塗料組成物とした。この塗料組成物において、2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸(親水性化合物)の濃度は約225mMであり、(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド(抗菌性化合物)の濃度は約75mMである。
洗浄した5cm×5cmサイズのガラス板の表面にプライマー溶液をバーコーター(番線♯11)にて塗布し、60℃で1時間加熱を行った。得られたガラス板の下地層の表面に前記塗料組成物をマイクロピペットにより400μl塗布した後、メタルハライドランプ(照度200)にて60秒間照射した後、表面を水で洗浄して未反応分を除去した。
【0081】
[実施例14]
実施例13において、ペンタエリスリトール テトラキス(3-メルカプトブチレート)(昭和電工社製、品番:カレンズMT PEI)の添加量を0.1mmol、プライマー溶液の塗布をマイクロピペットにより400μlとする以外は、実施例13と同様に行った。
【0082】
[実施例15]
3-アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学社製、品番:KBM5103)0.2mmol、及び70% 2-ヒドロキシエタンスルホン酸 水溶液 0.56 mmolを、水1wt%を含有した2-プロパノール10gに溶解し、30分間撹拌してプライマー溶液とした。
2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸1.52mmol、水酸化ナトリウム1.52mmol、[2-(アクリロイルオキシ)エチル]ヘキサデシルジメチルアンモニウムブロマイド(TCIケミカルトレーディング社製)0.28mmol、及び2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノン1.2mmolを、水20wt%を含有する2-プロパノール8gに溶解して塗料組成物とした。この塗料組成物において、2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸(親水性化合物)の濃度は約190mMであり、[2-(アクリロイルオキシ)エチル]ヘキサデシルジメチルアンモニウムブロマイド(抗菌性化合物)の濃度は約35mMである。
洗浄した5cm×5cmサイズのガラス板の表面にプライマー溶液をバーコーター(番線♯3)により塗布し、60℃で1時間加熱を行った。得られたガラス板の下地層の表面に前記塗料組成物をマイクロピペットにより400μl塗布した後、高圧水銀ランプ(照度100)にて30秒間照射した後、表面を水で洗浄して未反応分を除去した。
【0083】
[実施例16]
3-アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学社製、品番:KBM803)1mmol及び酢酸5.5mmolを、水3wt%を含有した2-ブタノール10gに溶解し、1時間撹拌してプライマー溶液とした。
ポリエチレングリコールアクリレート(日油社製、品番:AME-400)3.2mmol、(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド(KJケミカルズ社製、品番:DMAPAA-Q)0.8mmolを、水20wt%を含有する2-プロパノール8gに溶解して塗料組成物とした。この塗料組成物において、ポリエチレングリコールアクリレート(親水性化合物)の濃度は約400mMであり、(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド(抗菌性化合物)の濃度は約100mMである。
洗浄した5cm×5cmサイズのガラス板の表面にプライマー溶液をバーコーター(番線♯3)にて塗布し、60℃で1時間加熱を行った。得られたガラス板の下地層の表面に塗料組成物をマイクロピペットにより400μl塗布した後、メタルハライドランプ(照度200)にて1分間照射した後、表面を水で洗浄して未反応分を除去した。
【0084】
以上の各試験例で用いたプライマー溶液と塗料組成物の成分を表1に示す。表1中、「SC剤」は主剤を意味する。
また、各試験例で作製した試験片における各測定を表2に示す。
【0085】
【0086】
表1に示した各成分は、下記の通りである。
(1):3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン
(2):2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノン
(3):2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸+水酸化ナトリウム
(4):(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド
(5):ビスフェノールA誘導体(日油社製、品番:ユニオールDA-700)
(6):3-アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン
(7):[2-(アクリロイルオキシ)エチル]ヘキサデシルジメチルアンモニウムブロマイド
(8):ペンタエリスリトール テトラキス(3-メルカプトブチレート)
(9):ポリエチレングリコールアクリレート
(10):2-ヒドロキシエタンスルホン酸
【0087】
【0088】
表2から、各実施例の塗料組成物を用いた処理面は、良好な抗菌性と良好な親水性が両立していることが理解される。
実施例8においては、2つの短鎖アルキル基と1つの長鎖アルキル基を有する第4級アンモニウム塩を備えた抗菌性化合物を用いているので、処理面に対して優れた抗菌性を付与でき、さらに充分な親水性も付与できた。実施例8の塗料組成物における抗菌性化合物及び親水性化合物の濃度は、他の実施例の濃度よりも低いにもかかわらず、他の実施例と同等以上の抗菌性及び親水性を得られた。この結果は、短鎖アルキル基及び長鎖アルキル基を有する第4級アンモニウム塩を備えた抗菌性化合物は、下地層に対する反応性に優れ、親水性化合物が下地層に結合することを妨げないことを示していると考えられる。