(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】演算増幅器
(51)【国際特許分類】
H03F 3/34 20060101AFI20240116BHJP
H03F 3/45 20060101ALI20240116BHJP
H03F 3/68 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
H03F3/34 210
H03F3/45 110
H03F3/45 210
H03F3/68 220
(21)【出願番号】P 2020028195
(22)【出願日】2020-02-21
【審査請求日】2022-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100133215
【氏名又は名称】真家 大樹
(72)【発明者】
【氏名】野村 尚弘
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 貴俊
【審査官】▲高▼橋 徳浩
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-204468(JP,A)
【文献】特開2010-041131(JP,A)
【文献】特開2014-204291(JP,A)
【文献】特開平08-237051(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03F1/00-H03F3/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1入力電圧を受ける非反転入力端子および第2入力電圧を受ける反転入力端子と、
前記非反転入力端子および前記反転入力端子と接続されるPMOS入力差動対と、
前記PMOS入力差動対のソースと接続される第1入力テイル電流源と、
前記非反転入力端子および前記反転入力端子と接続されるNMOS入力差動対と、
前記NMOS入力差動対のソースと接続される第2入力テイル電流源と、
前記PMOS入力差動対および前記NMOS入力差動対の出力を受ける出力段と、
前記PMOS入力差動対のオフセット電圧を補正する第1補正回路と、
前記NMOS入力差動対のオフセット電圧を補正する第2補正回路と、
を備え、
前記第1補正回路は、
前記非反転入力端子および前記反転入力端子と接続されるPMOS補正差動対を含む第1補正差動アンプと、
前記第1補正差動アンプの出力信号を電流信号に変換し、前記出力段に供給する第1gmアンプと、
を含むことにより、前記PMOS入力差動対の動作領域と、前記NMOS入力差動対の動作領域と、前記PMOS入力差動対と前記NMOS入力差動対の両方が同時に動作する遷移領域と、において、前記PMOS入力差動対のオフセット電圧を補正できるように構成され、
前記第2補正回路は、
前記非反転入力端子および前記反転入力端子と接続されるNMOS補正差動対を含む第2補正差動アンプと、
前記第2補正差動アンプの出力信号を電流信号に変換し、前記出力段に供給する第2gmアンプと、
を含むことにより、前記PMOS入力差動対の動作領域と、前記NMOS入力差動対の動作領域と、前記PMOS入力差動対と前記NMOS入力差動対の両方が同時に動作する遷移領域と、において、前記NMOS入力差動対のオフセット電圧を補正できるように構成されることを特徴とする演算増幅器。
【請求項2】
前記第1補正差動アンプは、前記PMOS補正差動対に加えて、
前記PMOS補正差動対のソースと接続される第1補正テイル電流源と、
前記PMOS補正差動対のドレインと接続される第1負荷回路および第1補正電流源と、 を含み、
前記第2補正差動アンプは、前記NMOS補正差動対に加えて、
前記NMOS補正差動対のソースと接続される第2補正テイル電流源と、
前記NMOS補正差動対のドレインと接続される第2負荷回路および第2補正電流源と、
を含むことを特徴とする請求項
1に記載の演算増幅器。
【請求項3】
前記出力段は、
前記PMOS入力差動対の差動電流および前記第1補正回路の差動電流を折り返す第1定電流回路と、
前記第1定電流回路によって折り返される差動電流の経路に設けられる第1ゲート接地回路と、
前記NMOS入力差動対の差動電流および前記第2補正回路の差動電流を折り返す第2定電流回路と、
前記第2定電流回路によって折り返される差動電流の経路に設けられる第2ゲート接地回路と、
を含むことを特徴とする請求項1
または2に記載の演算増幅器。
【請求項4】
前記第1入力テイル電流源の電流は、前記第1入力電圧および前記第2入力電圧の増大にともなって減少し、
前記第2入力テイル電流源の電流は、前記第1入力テイル電流源の電流に対して相補的に変化することを特徴とする請求項1から
3のいずれかに記載の演算増幅器。
【請求項5】
前記第1入力テイル電流源の電流は、前記第1入力電圧および前記第2入力電圧の増大にともなって減少し、
前記第2入力テイル電流源および前記第2gmアンプの電流は、前記第1入力テイル電流源の電流に対して相補的に変化することを特徴とする請求項
1または2に記載の演算増幅器。
【請求項6】
前記第1gmアンプは、
PMOS差動対と、
前記PMOS差動対のソース側に設けられる電流源と、
前記PMOS差動対と前記電流源の間に設けられ、前記PMOS入力差動対に流れる電流がゼロになると、遮断状態となる停止回路と、
を含むことを特徴とする請求項
5に記載の演算増幅器。
【請求項7】
前記停止回路は、ソース同士、
ドレイン同士が接続される2個のPMOSトランジスタを含み、一方のゲートは前記反転入力端子と接続され、他方のゲートは前記非反転入力端子と接続されることを特徴とする請求項
6に記載の演算増幅器。
【請求項8】
前記第1gmアンプは、前記電流源と前記停止回路の接続ノードから、前記第1入力テイル電流源の電流に対して相補的に変化する電流をシンクする可変電流源をさらに含むことを特徴とする請求項
6または7に記載の演算増幅器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、演算増幅器(差動増幅器)に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の低消費電力化の要請から、演算増幅器に供給される電源電圧は低下の一途をたどっている。低電圧アプリケーションにおいて、演算増幅器の入力電圧のレンジを広げるためRail-To-Rail動作が必要となる。
【0003】
図1は、Rail-To-Railの折り返しカスコード演算増幅器1Rの回路図である。演算増幅器1Rは、差動入力端子INP,INNに入力される2つの電圧の差分を増幅し、出力端子OUTから出力する。演算増幅器1Rは主として、PMOS入力差動対10、NMOS入力差動対12、第1入力テイル電流源14、第2入力テイル電流源16、出力段20、切り替え回路30を備える。
【0004】
PMOS入力差動対10は、PMOSトランジスタである第1トランジスタM1、第2トランジスタM2を含む。第1入力テイル電流源14は、適切にバイアスされたPMOSトランジスタを含み、PMOS入力差動対10にテイル電流Itpを供給する。
【0005】
NMOS入力差動対12は、NMOSトランジスタである第3トランジスタM3、第4トランジスタM4を含む。第2入力テイル電流源16はNMOS入力差動対12にテイル電流Itnを供給する。
【0006】
出力段20は、PMOS入力差動対10に流れる差動電流およびNMOS入力差動対12に流れる差動電流を出力電圧Voutに変換する。出力段20は、下側回路21、上側回路22およびバイアス回路23を含む。
【0007】
下側回路21は、PMOS入力差動対10の差動電流を折り返す定電流回路24(M5,M6)と、折り返された差動電流の経路上に設けられるゲート接地回路25を含む。ゲート接地回路25は、ゲートがバイアスされたNMOSトランジスタM7,M8のペアである。上側回路22は、NMOS入力差動対12の差動電流を折り返す定電流回路26(M9,M10)と、折り返された差動電流の経路上に設けられるゲート接地回路27を含む。ゲート接地回路27は、ゲートがバイアスされたPMOSトランジスタM11,M12のペアである。
【0008】
切り替え回路30は、入力電圧V+,V-の同相成分(同相入力電圧VCM)に応じて、PMOS入力差動対10とNMOS入力差動対12を切り替える。切り替え回路30は、PMOSトランジスタであるトランジスタM21を含む。トランジスタM21のソースは、第1トランジスタM1、第2トランジスタM2のソースと共通に接続され、そのゲートには、出力段20によってバイアス電圧Vbが与えられる。
【0009】
Vgs1とVgs2のうち、大きい方の電圧をVgsと表す。同相入力電圧VCMがバイアス電圧Vbよりも十分に低い状態(Vgs21<Vgs)では、第1入力テイル電流源14が生成するテイル電流Itpはすべて、PMOS入力差動対10側に流れ(I1_1=Itp)、トランジスタM21に電流は流れない(I1_2=0)。
【0010】
同相入力電圧VCMがバイアス電圧Vb程度まで増加すると、言い換えると、Vgs21≒Vgsとなると、トランジスタM21に電流I1_2が流れ始める。切り替え回路30のトランジスタM22,M23は、第2入力テイル電流源16のトランジスタM24,M25とともにカレントミラーを形成しており、電流I1_2がコピーされ、テイル電流ItnとしてNMOS入力差動対12に供給される。同相入力電圧VCMが電源電圧VDDに近づくにしたがい、言い換えるとVgsがVgs21より小さくなるにしたがい、PMOS入力差動対10に供給されるテイル電流I1_1が減少し、NMOS入力差動対12に供給されるテイル電流Itnが増大していく。これにより、同相入力電圧VCMに応じて、PMOS入力差動対10とNMOS入力差動対12が切り替えられる。
【0011】
トランジスタM1とM2のミスマッチ、トランジスタM3とM4のミスマッチ、トランジスタM5とM6のミスマッチ、トランジスタM9とM10のミスマッチは、演算増幅器1Rの入力オフセット電圧の要因となる。
【0012】
入力オフセット電圧を減少させるために、下側回路21の抵抗R1,R2の抵抗値がトリミングするなどの手法が採られる。
【0013】
図2は、
図1の演算増幅器1Rの入力オフセット電圧と同相入力電圧VCMの関係を示す図である。特性(i)は補正前の入力オフセット電圧を示す。特性(ii)および(iii)はオフセット補正のためのトリミングを行った後の入力オフセット電圧を示す。特性(ii)に示すように、PMOS入力差動対10の動作領域における入力オフセット電圧が小さくなるようにトリミングを行うと、NMOS入力差動対12の動作領域において入力オフセット電圧が大きくなる。特性(iii)に示すように、NMOS入力差動対12の動作領域における入力オフセット電圧が小さくなるようにトリミングを行うと、PMOS入力差動対10の動作領域における入力オフセット電圧が大きくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は係る課題に鑑みてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、幅広い電圧範囲において入力オフセット電圧を補正可能な演算増幅器の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明のある態様は、演算増幅器に関する。演算増幅器は、第1入力電圧を受ける非反転入力端子および第2入力電圧を受ける反転入力端子と、非反転入力端子および反転入力端子と接続されるPMOS入力差動対と、PMOS入力差動対のソースと接続される第1入力テイル電流源と、非反転入力端子および反転入力端子と接続されるNMOS入力差動対と、NMOS入力差動対のソースと接続される第2入力テイル電流源と、PMOS入力差動対およびNMOS入力差動対の出力を受ける出力段と、PMOS入力差動対のオフセット電圧を補正する第1補正回路と、NMOS入力差動対のオフセット電圧を補正する第2補正回路と、を備える。第1補正回路および第2補正回路は、PMOS入力差動対の動作領域、NMOS入力差動対の動作領域およびそれら両方が動作する遷移領域にわたって動作するように構成される。
【0017】
この態様によると、幅広い電圧範囲において入力オフセット電圧を補正できる。
【0018】
第1補正回路は、非反転入力端子および反転入力端子と接続されるPMOS補正差動対を含む第1補正差動アンプと、第1補正差動アンプの出力信号を電流信号に変換し、出力段に供給する第1gmアンプと、を含んでもよい。第2補正回路は、非反転入力端子および反転入力端子と接続されるNMOS補正差動対を含む第2補正差動アンプと、第2補正差動アンプの出力信号を電流信号に変換し、出力段に供給する第2gmアンプと、を含んでもよい。第1補正差動アンプは、PMOS補正差動対に加えて、PMOS補正差動対のソースと接続される第1補正テイル電流源と、PMOS補正差動対のドレインと接続される第1負荷回路および第1補正電流源と、を含んでもよい。第2補正差動アンプは、NMOS補正差動対に加えて、NMOS補正差動対のソースと接続される第2補正テイル電流源と、NMOS補正差動対のドレインと接続される第2負荷回路および第2補正電流源と、を含んでもよい。
【0019】
出力段は、PMOS入力差動対の差動電流および第1補正回路の差動電流を折り返す第1定電流回路と、第1定電流回路によって折り返される差動電流の経路に設けられる第1ゲート接地回路と、NMOS入力差動対の差動電流および第2補正回路の差動電流を折り返す第2定電流回路と、第2定電流回路によって折り返される差動電流の経路に設けられる第2ゲート接地回路と、を含んでもよい。
【0020】
第1入力テイル電流源の電流は、第1入力電圧および第2入力電圧の増大にともなって減少し、第2入力テイル電流源の電流は、第1入力テイル電流源の電流に対して相補的に変化してもよい。入力電圧に応じて、PMOS差動対とNMOS差動対を切り替えることにより、無駄な電流を削減できる。
【0021】
第1入力テイル電流源の電流は、第1入力電圧および第2入力電圧の増大にともなって減少してもよい。第2入力テイル電流源および第2gmアンプの電流は、第1入力テイル電流源の電流に対して相補的に変化してもよい。
【0022】
第1gmアンプは、PMOS差動対と、PMOS差動対のソース側に設けられる電流源と、PMOS差動対と電流源の間に設けられ、PMOS入力差動対に流れる電流がゼロになると、遮断状態となる停止回路と、を含んでもよい。
これにより、
【0023】
第1gmアンプは、電流源と停止回路の接続ノードから、第1入力テイル電流源の電流に対して相補的に変化する電流をシンクする可変電流源をさらに含んでもよい。
【0024】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0025】
本発明のある態様によれば、幅広い電圧範囲において入力オフセット電圧を補正できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】Rail-To-Railの折り返しカスコード演算増幅器の回路図である。
【
図2】
図1の演算増幅器の入力オフセット電圧と同相入力電圧VCMの関係を示す図である。
【
図4】第1補正回路および第2補正回路の動作範囲を示す図である。
【
図5】比較技術1に係る演算増幅器の等価回路図である。
【
図6】
図5の演算増幅器を含むバッファ回路の等価回路図である。
【
図7】
図4の演算増幅器を含むバッファのオフセット電圧を示す図である。
【
図8】
図3の演算増幅器を含むバッファ回路の等価回路図である。
【
図9】
図3の演算増幅器を含むバッファのオフセット電圧を示す図である。
【
図10】
図3の演算増幅器の具体的な構成例を示す回路図である。
【
図11】
図11(a)、(b)は、遷移領域におけるオフセット電圧のピークやディップを示す図である。
【
図12】実施例2に係る演算増幅器の回路図である。
【
図13】
図12の演算増幅器の具体的な構成例を示す回路図である。
【
図14】
図14(a)は、
図12の演算増幅器を含むバッファのオフセット電圧を示す図であり、
図14(b)は、比較技術1において得られるオフセット電圧を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0028】
本明細書において、「部材Aが、部材Bと接続された状態」とは、部材Aと部材Bが物理的に直接的に接続される場合や、部材Aと部材Bが、電気的な接続状態に影響を及ぼさない他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0029】
同様に、「部材Cが、部材Aと部材Bの間に設けられた状態」とは、部材Aと部材C、あるいは部材Bと部材Cが直接的に接続される場合のほか、電気的な接続状態に影響を及ぼさない他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0030】
(実施例1)
図3は、実施例1に係る演算増幅器1Aの回路図である。演算増幅器1Aは、PMOS入力差動対10、NMOS入力差動対12、第1入力テイル電流源14、第2入力テイル電流源16、出力段20、第1補正回路40、第2補正回路70を備える。
【0031】
非反転入力端子INPには、第1入力電圧V+が入力され、反転入力端子INNには第2入力電圧V-が入力される。上側電源端子VDDには上側の電源電圧が入力され、下側電源端子(接地端子)VSSには下側の電源電圧(たとえば接地電圧)が供給される。演算増幅器1は、第1入力電圧V+と第2入力電圧V-の差分を増幅し、出力端子OUTから出力電圧Voutを出力する。
【0032】
PMOS入力差動対10、NMOS入力差動対12、第1入力テイル電流源14、第2入力テイル電流源16、出力段20は、Rail-To-Railの折り返しカスコード演算増幅器を構成する。
【0033】
PMOS入力差動対10は、2つのPMOSトランジスタMP1,MP2を含み、一方のゲートは反転入力端子INNと接続され、他方のゲートは非反転入力端子INPと接続される。
【0034】
NMOS入力差動対12は、2つのNMOSトランジスタMN1,MN2を含み、一方のゲートは非反転入力端子INPと接続され、他方のゲートは反転入力端子INNと接続される。
【0035】
第1入力テイル電流源14は、PMOS入力差動対10に第1テイル電流Itpを供給する。第2入力テイル電流源16は、NMOS入力差動対12に第2テイル電流Itnを供給する。
【0036】
出力段20は、電源ラインVDDと接地ラインVSSの間に縦積みされる上側回路22および下側回路21を含む。下側回路21は、PMOS入力差動対10に接続され、上側回路22はNMOS入力差動対12と接続される。出力端子OUTは、出力段20の内部のノードから引き出される。この例では、上側回路22と下側回路21の接続ノードがOUT端子である。
【0037】
第1補正回路40は、PMOS入力差動対10のオフセット電圧VOSPを補正する。第2補正回路70は、NMOS入力差動対12のオフセット電圧VOSNを補正する。
【0038】
第1補正回路40および第2補正回路70の構成は限定されない。
図3の第1補正回路40は、第1補正差動アンプ50および第1gmアンプ60を含む。第1補正差動アンプ50は、非反転入力端子および反転入力端子と接続されるPMOS補正差動対52、第1補正テイル電流源54、第1負荷回路56、第1オフセット電流源58を含む。
【0039】
PMOS補正差動対52には、オフセットに応じた差動電流が流れる。差動電流は第1負荷回路56によって電圧信号に変換される。第1負荷回路56は、コモンモードフィードバック回路としても動作する。
【0040】
第1gmアンプ60は、PMOS差動対62および電流源64を含み、第1補正差動アンプ50の出力である差動電圧信号を、差動電流信号に変換する。差動電流信号は、出力段20の下側回路21に供給される。
【0041】
第1補正差動アンプ50において、第1オフセット電流源58が生成する電流量と、その極性を調節することにより、PMOS入力差動対10の入力オフセット電圧VOSPをキャンセルすることができる。
【0042】
第2補正回路70は、第2補正差動アンプ80および第2gmアンプ90を含み、第1補正回路40と同様に構成されている。第2補正差動アンプ80は、第1補正差動アンプ50と同様に構成され、NMOS補正差動対82、第2補正テイル電流源84、第2負荷回路86、第2オフセット電流源88を含む。
【0043】
また第2gmアンプ90は、NMOS差動対92および電流源94を含み、第1gmアンプ60と同様に構成されている。第2補正差動アンプ80において、第2オフセット電流源88が生成する電流量と、その極性を調節することにより、NMOS入力差動対12の入力オフセット電圧VOSNをキャンセルすることができる。
【0044】
演算増幅器1Aが、フィードバックループに組み込まれるとき、第1入力電圧V+と第2入力電圧V-は実質的に等しくなる(仮想接地)。この等しい入力電圧V+,V-が、低い領域(PMOS差動対動作領域という)では、PMOS入力差動対10の動作が支配的となり、高い領域(NMOS差動対動作領域という)では、NMOS入力差動対12の動作が支配的となる。PMOS入力差動対10とNMOS入力差動対12の両方が動作する電圧範囲を遷移領域と称する。
【0045】
図4は、第1補正回路40および第2補正回路70の動作範囲を示す図である。第1補正回路40および第2補正回路70は、いずれも、PMOS差動対動作領域、NMOS差動対動作領域、およびそれら両方が動作する遷移領域にわたって動作するように構成される。
【0046】
以上が演算増幅器1Aの構成である。演算増幅器1Aの動作を説明する前に、その構成を簡約化した構成(比較技術1という)の演算増幅器1Sについて検討する。
【0047】
(比較技術1)
図5は、比較技術1に係る演算増幅器1Sの等価回路図である。この構成は、
図3の演算増幅器1Aから、第2補正回路70を省略した構成とみなすことができる。
【0048】
図6は、
図5の演算増幅器1Sを含むバッファ回路の等価回路図である。PMOS入力差動対10とNMOS入力差動対12は、入力電圧V
+,V
-に応じて動作が切り替わる。PMOS入力差動対10およびNMOS入力差動対12は、それぞれオフセット電圧V
OSP,V
OSNを有する。第1補正回路40のオフセット電圧はゼロと仮定することができる。G
1,G
2,G
S,G
0は各ステージの電圧利得を表す。
【0049】
演算増幅器1Sにおいて、オフセット電圧VOFSが出力電圧VOUTに及ぼす影響を検討する。
(VOSP-VOUT)G1-VOUT×GS=V1
VOUT=V1×G0
VOUT=G0{(VOSP-VOUT)G1-VOUT×GS)}
VOUT/G0=(VOSP-VOUT)G1-VOUT×GS)≒0
VOUT(G1+GS)=VOSPG1
VOUT=VOSP/(1+GS/G1)
【0050】
すなわち、第1補正回路40の利得GSが十分に大きく、GS≫G1が成り立つとき、メインアンプのオフセット電圧VOSPの影響は非常に小さくできる。なお、NMOS入力差動対12に関しては、オフセット電圧VOSNは補正されずにそのまま出力される。
【0051】
図7は、
図4の演算増幅器1Sを含むバッファのオフセット電圧V
OFS(シミュレーション結果)を示す図である。オフセット電圧V
OFSは、出力電圧V
OUTと基準電圧V
REFの差分V
OUT-V
REFとして把握される。縦軸は、オフセット電圧V
OFSを、横軸は入力電圧(基準電圧V
REF)を示す。
【0052】
比較技術1では、NMOS入力差動対12のオフセット電圧が補正されないため、遷移領域とNMOS差動対動作領域において、オフセット電圧VOFSが大きくなる。
【0053】
実施例1に係る演算増幅器1Aの動作の説明に戻る。
図8は、
図3の演算増幅器1Aを含むバッファ回路の等価回路図である。第1補正回路40、第2補正回路70のオフセット電圧はゼロと仮定することができる。G
1,G
2,G
S1,G
S1,G
0は各ステージの電圧利得を表す。
【0054】
PMOS差動対動作領域において、出力電圧VOUTに含まれるオフセット電圧VOSPの影響は以下の式で表される。
VOUT=VOSP/(1+GS1/G1)
したがって、GS1≫G1が成り立つとき、オフセット電圧VOSPの影響は、第1補正回路40によって補正される。
【0055】
NMOS差動対動作領域において、出力電圧VOUTに含まれるオフセット電圧VOSNの影響は以下の式で表される。
VOUT=VOSN/(1+GS2/G2)
したがって、GS2≫G2が成り立つとき、オフセット電圧VOSNの影響は、第2補正回路70によって補正される。
【0056】
遷移領域に着目する。遷移領域では、第1補正回路40と第2補正回路70の両方が動作している。出力電圧VOUTに含まれるオフセット電圧VOSPの影響は以下の式で表される。
VOUT=VOSP/(1+(GS1+GS2)/G1)
(GS1+GS2)≫G1が成り立つから、オフセット電圧VOSPの影響は、第1補正回路40および第2補正回路70の両方によって補正される。
【0057】
同様に、出力電圧VOUTに含まれるオフセット電圧VOSNの影響は以下の式で表される。
VOUT=VOSN/(1+(GS1+GS2)/G2)
(GS1+GS2)≫G2が成り立つから、オフセット電圧VOSNの影響は、第1補正回路40および第2補正回路70の両方によって補正される。
【0058】
図9は、
図3の演算増幅器1Aを含むバッファのオフセット電圧V
OFS(シミュレーション結果)を示す図である。
図3の演算増幅器1Aによると、幅広い入力電圧範囲において、オフセット電圧V
OFSを低減できる。
【0059】
特に、遷移領域において、PMOS入力差動対10のオフセット電圧VOSPは、第1補正回路40のみでなく、第2補正回路70によっても補正することができる。つまり、遷移領域におけるPMOS入力差動対10のオフセット電圧VOSPの影響は、比較技術1におけるそれよりも小さくなることに留意されたい。
【0060】
同様に遷移領域において、NMOS入力差動対12のオフセット電圧VOSNは、第2補正回路70のみでなく、第1補正回路40によっても補正することができる。
【0061】
図10は、
図3の演算増幅器1Aの具体的な構成例を示す回路図である。第1入力テイル電流源14の電流Itpは、第1入力電圧V
+および第2入力電圧V
-の増大にともなって減少する。たとえば第1入力テイル電流源14は、PMOSトランジスタMP3、MP4を含む。PMOSトランジスタMP3のゲートには、定電流Ip
0が流れるように、カレントミラー電圧V
CMPが入力される。
【0062】
PMOSトランジスタMP4のゲートには、バイアス回路23が生成する定電圧Vpが入力される。PMOSトランジスタMP4には、Ip0-Itpの電流IP4が流れる。この電流が、NMOSトランジスタMN4,MN3を含むカレントミラー回路によってコピーされる。NMOSトランジスタMN3は、第2入力テイル電流源16に対応する。つまり第2入力テイル電流源16の電流Itnは、第1入力テイル電流源Itpの電流の減少にともない増加する。
【0063】
PMOS差動対62は、PMOSトランジスタMP5,MP6を含む。電流源64は、PMOSトランジスタMP7を含む。PMOS補正差動対52は、PMOSトランジスタMP12,MP13を含み、第1補正テイル電流源54は、PMOSトランジスタMP14を含む。PMOSトランジスタMP7,MP14のゲートには、定電流が流れるようにカレントミラー電圧VCMPが印加される。
【0064】
出力段20は、PMOSトランジスタMP8~MP11、NMOSトランジスタMN7~MN10を含む。PMOSトランジスタMP10,MP11のゲートには、定電流が流れるようにカレントミラー回路電圧VCMPが印加される。
【0065】
PMOSトランジスタMP8,MP9のゲートには、図示しないバイアス回路が生成するバイアス電圧Vbpが印加される。バイアス電圧Vbpは、カレントミラー電圧VCMPと等しくてもよい。
【0066】
定電流回路24およびゲート接地回路25は、低電圧カスコードカレントミラー回路を構成する。ゲート接地回路25であるNMOSトランジスタMN7,MN8のゲートには、バイアス電圧Vbnが印加される。バイアス電圧Vbnは、カレントミラー電圧VCMNと等しくてもよい。
【0067】
NMOS差動対92は、NMOSトランジスタMN5,MN6を含む。電流源94は、NMOSトランジスタMN6を含む。NMOS補正差動対82は、NMOSトランジスタMN11,MN12を含む。第2補正テイル電流源84は、NMOSトランジスタMN13を含む。
【0068】
NMOSトランジスタMN6,MN13のゲートには、定電流が流れるようにカレントミラー電圧VCMNが印加される。
【0069】
なお演算増幅器1Aの構成は
図10のそれに限定されない。たとえば、接地ライン(GND)側の定電流源84,94,16は、NMOSトランジスタを2段積み重ねたカスコードカレントミラー回路で構成してもよい。
【0070】
(第2実施例)
PMOS入力差動対10を構成するPMOSトランジスタ、NMOS入力差動対12を構成するNMOSトランジスタのしきい値電圧がばらつくと、遷移領域において、オフセット電圧がピークやディップを有する場合がある。
図11(a)、(b)は、遷移領域におけるオフセット電圧のピークやディップを示す図である。
図11(a)に示すように、PMOS入力差動対10およびNMOS入力差動対12の動作領域は、一点鎖線や破線で示すようにばらつく。このばらつきに起因して、
図11(b)に示すように、遷移領域において、オフセット電圧にはピーク(破線)やディップ(一点鎖線)が発生する場合がある。実施例2では、遷移領域におけるオフセット電圧をフラットにする技術を説明する。
【0071】
図12は、実施例2に係る演算増幅器1Bの回路図である。実施例1との共通点の説明は省略し、相違点にフォーカスして説明する。
【0072】
上述のように第1入力テイル電流源14が生成するテイル電流Itpは、入力電圧V+,V-の上昇にともなって、減少する。
【0073】
実施例1では、第2入力テイル電流源16が第1入力テイル電流源14と相補的に動作し、テイル電流Itpの減少とともに、テイル電流Itnが増加していた。一方で、第2gmアンプ90の電流源94は、入力電圧V+,V-によらずに定電流を生成していた。
【0074】
これに対して実施例2では、第2入力テイル電流源16および第2gmアンプ90の電流源94の電流が、第1入力テイル電流源14の電流に対して相補的に変化する。
【0075】
第1gmアンプ60は、PMOS差動対62、電流源64に加えて、停止回路66および可変電流源68を含む。停止回路66は、PMOS入力差動対10に流れる電流がゼロになる状態を検出すると、オフ状態となり、PMOS差動対62に供給される電流を遮断する。
【0076】
可変電流源68は、電流源64と停止回路66の接続ノードから電流をシンクする。可変電流源68の電流は、第2入力テイル電流源16および電流源94と連動しており、第1入力テイル電流源14の電流に対して相補的に変化する。
【0077】
図12における1第1入力テイル電流源14、第2入力テイル電流源16、可変電流源68、電流源94は、可変電流源のシンボルで示されており、それらに付される矢印の向きは、電流変化の方向を表している。
【0078】
図13は、
図12の演算増幅器1Bの具体的な構成例を示す回路図である。
停止回路66は、ソース同士、ドレイン同士が接続されたPMOSトランジスタMP15,MP16を含む。PMOSトランジスタMP15、MP16それぞれのゲートには、入力電圧V
+,V
-が印加される。
【0079】
これらのPMOSトランジスタMP15,MP16は、PMOS入力差動対10のPMOSトランジスタMP1,MP2のレプリカであり、PMOS入力差動対10の状態と連動して動作する。入力電圧V+,V-が上昇してPMOS入力差動対10に流れる電流がゼロになると、停止回路66はオフ状態となる。
【0080】
可変電流源68は、PMOSトランジスタMP17と、NMOSトランジスタMN14を含む。NMOSトランジスタMN14のゲートは、NMOSトランジスタMN3,MN4,MN6のゲートと接続され、カレントミラー回路が形成される。NMOSトランジスタMN14は、NMOSトランジスタMN3(第2入力テイル電流源16)と連動した電流をシンクする。
【0081】
以上が演算増幅器1Bの構成である。
図14(a)は、
図12の演算増幅器1Bを含むバッファのオフセット電圧V
OFS(シミュレーション結果)を示す図である。比較のために、
図14(b)には、比較技術1において得られるオフセット電圧(
図7再掲)を示す。
【0082】
図14(a)からわかるように、実施例2によれば、幅広い電圧範囲において、オフセット電圧を低減できる。また、遷移領域において発生するオフセット電圧のピークやディップを抑制できる。
【0083】
実施の形態にもとづき、具体的な語句を用いて本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【符号の説明】
【0084】
1 演算増幅器
10 PMOS入力差動対
12 NMOS入力差動対
14 第1入力テイル電流源
16 第2入力テイル電流源
20 出力段
21 下側回路
22 上側回路
23 バイアス回路
24 定電流回路
25 ゲート接地回路
26 定電流回路
27 ゲート接地回路
40 第1補正回路
50 第1補正差動アンプ
52 PMOS補正差動対
54 第1補正テイル電流源
56 第1負荷回路
58 第1オフセット電流源
60 第1gmアンプ
62 PMOS差動対
64 電流源
66 停止回路
68 可変電流源
70 第2補正回路
80 第2補正差動アンプ
82 NMOS補正差動対
84 第2補正テイル電流源
86 第2負荷回路
88 第2オフセット電流源
90 第2gmアンプ
92 NMOS差動対
94 電流源
Vp 第1入力電圧
Vn 第2入力電圧
INN 反転入力端子
INP 非反転入力端子