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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-16
(45)【発行日】2024-01-24
(54)【発明の名称】温度検出回路
(51)【国際特許分類】
   G01K 7/00 20060101AFI20240117BHJP
   G01K 7/01 20060101ALI20240117BHJP
【FI】
G01K7/00 321C
G01K7/01 C
G01K7/00 321J
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020017095
(22)【出願日】2020-02-04
(65)【公開番号】P2021124342
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2022-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100133215
【弁理士】
【氏名又は名称】真家 大樹
(72)【発明者】
【氏名】小野 克幸
(72)【発明者】
【氏名】橋本 望
【審査官】平野 真樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-205085(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01K 7/00,7/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電流密度が異なる2つのPN接合の順方向電圧の差分にもとづく正の温度特性を有する第1電圧と、PN接合の順方向電圧にもとづく負の温度特性を有する第2電圧と、を生成する電圧生成回路と、
前記第1電圧と前記第2電圧を比較するコンパレータと、
を備え、
前記コンパレータは、その入力オフセット電圧が前記第2電圧に応じて変化するように構成されることを特徴とする温度検出回路。
【請求項2】
前記コンパレータは、
差動対と、
前記差動対にテイル電流を供給するテイル電流源と、
前記差動対に負荷として接続されるカレントミラー回路と、
を含み、
前記カレントミラー回路に、前記第2電圧に応じたオフセット電流が入力されることを特徴とする請求項に記載の温度検出回路。
【請求項3】
電流密度が異なる2つのPN接合の順方向電圧の差分にもとづく正の温度特性を有する第1電圧と、PN接合の順方向電圧にもとづく負の温度特性を有する第2電圧と、を生成する電圧生成回路と、
前記第1電圧と前記第2電圧を比較するコンパレータと、
を備え、
前記コンパレータは、
差動対と、
前記差動対にテイル電流を供給するテイル電流源と、
前記差動対に負荷として接続されるカレントミラー回路と、
を含み、
前記カレントミラー回路に、前記第2電圧に応じたオフセット電流が入力されることを特徴とする温度検出回路。
【請求項4】
前記電圧生成回路は、サイズが異なるバイポーラトランジスタのペアを有するPTAT(Proportional To Absolute Temperature)電流源を含み、
前記第1電圧は、前記PTAT電流源において生成されるPTAT電流に比例し、
前記第2電圧は、前記PTAT電流源の前記バイポーラトランジスタのペアの一方の電圧降下に応じていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の温度検出回路。
【請求項5】
前記電圧生成回路は、
前記PTAT電流を前記第1電圧に変換する第1I/V変換回路と、
前記バイポーラトランジスタのペアの前記一方の電圧降下を定数倍する定数倍回路と、
をさらに含むことを特徴とする請求項4に記載の温度検出回路。
【請求項6】
電流密度が異なる2つのPN接合の順方向電圧の差分にもとづく正の温度特性を有する第1電圧と、PN接合の順方向電圧にもとづく負の温度特性を有する第2電圧と、を生成する電圧生成回路と、
前記第1電圧と前記第2電圧を比較するコンパレータと、
を備え、
前記電圧生成回路は、サイズが異なるバイポーラトランジスタのペアを有するPTAT(Proportional To Absolute Temperature)電流源を含み、
前記第1電圧は、前記PTAT電流源において生成されるPTAT電流に比例し、
前記第2電圧は、前記PTAT電流源の前記バイポーラトランジスタのペアの一方の電圧降下に応じており、
前記電圧生成回路は、
前記PTAT電流を前記第1電圧に変換する第1I/V変換回路と、
前記バイポーラトランジスタのペアの前記一方の電圧降下を定数倍する定数倍回路と、
をさらに含むことを特徴とする温度検出回路。
【請求項7】
前記第1I/V変換回路は、前記PTAT電流の経路上に設けられた抵抗を含むことを特徴とする請求項5または6に記載の温度検出回路。
【請求項8】
前記抵抗の抵抗値は、前記コンパレータの出力に応じて二値で変化することを特徴とする請求項に記載の温度検出回路。
【請求項9】
前記定数倍回路は、
前記バイポーラトランジスタのペアの前記一方の電圧降下を電流信号に変換するV/I変換回路と、
前記V/I変換回路の出力電流を、前記第2電圧に変換する第2I/V変換回路と、
を含むことを特徴とする請求項5から8のいずれかに記載の温度検出回路。
【請求項10】
前記コンパレータは、
差動対と、
前記差動対にテイル電流を供給するテイル電流源と、
前記差動対に負荷として接続されるカレントミラー回路と、
を含み、
前記テイル電流は、前記V/I変換回路が生成する前記電流信号に応じており、
前記カレントミラー回路には、前記V/I変換回路が生成するオフセット電流が供給されることを特徴とする請求項に記載の温度検出回路。
【請求項11】
前記コンパレータは、前記V/I変換回路が生成する電流信号を可変係数倍した補正電流を前記カレントミラー回路に供給するリペア回路をさらに含み、前記可変係数はトリミング可能であることを特徴とする請求項10に記載の温度検出回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度検出回路に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路には、サーマルシャットダウンなどの過熱保護や過熱報知のために、温度検出回路が搭載される。図1は、従来の温度検出回路の一例を示す回路図である。温度検出回路900は、温度依存電圧源910、基準電圧源920、コンパレータ930を備える。温度依存電圧源910は、PN接合を含むダイオード(あるいはバイポーラトランジスタ)と、PN接合に定電流を供給する電流源を含む。定電流でバイアスされたダイオードの順方向電圧Vf(T)は、負の温度係数を示す。温度依存電圧源910はこの性質を利用して、負の温度係数を有する電圧Vf(T)を生成する。基準電圧源920は、バンドギャップリファレンス回路であり、温度に依存しない基準電圧VREFを生成する。コンパレータ930は、負の温度係数の電圧Vfを基準電圧VREFと比較し、比較結果を示す信号TEMP_DETを出力する。
【0003】
図2は、図1の温度検出回路の動作を説明する図である。上段は、負温特の電圧Vfと基準電圧VREFの温度依存性を示し、下段は、温度Tと温度検出信号TEMP_DETの関係を示す。温度が低い領域では、Vf>VREFであり、温度が上昇するに従い、Vfが低下していき、あるしきい値温度TTHにおいて、電圧VfとVREFの大小関係が反転し、コンパレータ930の出力が変化する。この温度検出回路900によれば、それが集積化される半導体装置の温度が、あるしきい値を超えたこと(あるいは下回ったこと)を検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-241252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
温度検出回路のしきい値TTHは、プロセスばらつき、電源電圧変動、マッチングばらつきの影響を受ける。プロセスばらつき、電源電圧変動を総称して、PVばらつきという。またマッチングばらつきとは、ペアリングした素子のミスマッチであり、ペアリングした素子間(トランジスタ同士、あるいは抵抗同士)の相対精度が悪化するばらつきをいう。
【0006】
PVばらつきによるしきい値温度の変動は、キャンセルすることができるが、マッチングばらつきによるしきい値温度の変動はキャンセルできず、したがって最終的なしきい値温度の安定性は、マッチングばらつきの影響が支配的となる。本発明者らがシミュレータを用いて図1の温度検出回路900について検討したところ、マッチングばらつきに起因するしきい値温度の変動が大きいという問題を認識するに至った。
【0007】
本発明は係る課題に鑑みてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、しきい値温度のばらつきや変動を抑制した温度検出回路の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある態様は、温度検出回路に関する。温度検出回路は、電流密度が異なる2つのPN接合の順方向電圧の差分にもとづく正の温度特性を有する第1電圧と、PN接合の順方向電圧にもとづく負の温度特性を有する第2電圧と、を生成する電圧生成回路と、第1電圧と第2電圧を比較するコンパレータと、を備える。
【0009】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置などの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。さらに、この項目(課題を解決するための手段)の記載は、本発明の欠くべからざるすべての特徴を説明するものではなく、したがって、記載されるこれらの特徴のサブコンビネーションも、本発明たり得る。
【発明の効果】
【0010】
本発明のある態様によれば、温度検出回路のしきい値温度のばらつきや変動を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】従来の温度検出回路の一例を示す回路図である。
図2図1の温度検出回路の動作を説明する図である。
図3】実施の形態に係る温度検出回路のブロック図である。
図4図3の温度検出回路の動作を説明する図である。
図5図5(a)は、図1の温度検出回路におけるオフセットの影響を示す図であり、図5(b)は、図3の温度検出回路におけるオフセットの影響を示す図である。
図6】実施例1に係る温度検出回路のブロック図である。
図7】実施例2に係る温度検出回路のブロック図である。
図8】コンパレータの構成例を示す回路図である。
図9】実施例3に係る温度検出回路の回路図である。
図10図10(a)、(b)は、温度検出回路の動作を示す図(シミュレーション結果)である。
図11】コンパレータに導入される入力オフセット電圧VOFSを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(実施の形態の概要)
本明細書に開示される一実施の形態は、温度検出回路に関する。温度検出回路は、電流密度が異なる2つのPN接合の順方向電圧の差分にもとづく正の温度特性を有する第1電圧と、PN接合の順方向電圧にもとづく負の温度特性を有する第2電圧と、を生成する電圧生成回路と、第1電圧と第2電圧を比較するコンパレータと、を備える。
【0013】
この構成によれば、第1電圧と第2電圧の相対的な電位がばらついたときの、しきい値温度の変動幅を小さくできる。
【0014】
コンパレータは、その入力オフセット電圧が第2電圧に応じて変化するように構成されてもよい。これにより、しきい値温度のばらつき、変動を一層抑制できる。
【0015】
コンパレータは、差動対と、差動対にテイル電流を供給するテイル電流源と、差動対に負荷として接続されるカレントミラー回路と、を含んでもよい。カレントミラー回路に、第2電圧に応じたオフセット電流が入力されてもよい。これにより、PN接合のサイズなどのばらつきに起因するしきい値温度のばらつきを低減できる。
【0016】
電圧生成回路は、ベースコレクタ間が結線された第1バイポーラトランジスタと、ベースコレクタ間が結線され、第1バイポーラトランジスタよりサイズが大きい第2バイポーラトランジスタと、第2バイポーラトランジスタのコレクタに接続される抵抗と、第2バイポーラトランジスタに流れる電流を折り返して第1バイポーラトランジスタに供給するカレントミラー回路と、を含んでもよい。第1電圧は、第2バイポーラトランジスタに流れる電流に比例してもよい。
【0017】
第2電圧は、第1バイポーラトランジスタのベースエミッタ間電圧に応じていてもよい。
【0018】
電圧生成回路は、サイズが異なるバイポーラトランジスタのペアを有するPTAT(Proportional To Absolute Temperature)電流源を含んでもよい。第1電圧は、PTAT電流源が生成するPTAT(Proportional To Absolute Temperature)電流に比例し、第2電圧は、PTAT電流源のバイポーラトランジスタのペアの一方の電圧降下に応じていてもよい。
【0019】
電圧生成回路は、PTAT電流を第1電圧に変換する第1I/V変換回路と、バイポーラトランジスタのペアの一方の電圧降下を定数倍する定数倍回路と、をさらに含んでもよい。
【0020】
第1I/V変換回路は、PTAT電流の経路上に設けられた抵抗を含んでもよい。これにより、抵抗の電圧降下を、第1電圧として取り出すことができる。
【0021】
抵抗の抵抗値は、コンパレータの出力に応じて二値で変化してもよい。これによりコンパレータにヒステリシスをもたせることができる。
【0022】
定数倍回路は、バイポーラトランジスタのペアの一方の電圧降下を電流信号に変換するV/I変換回路と、V/I変換回路の出力電流を、第2電圧に変換する第2I/V変換回路と、を含んでもよい。
【0023】
コンパレータは、差動対と、差動対にテイル電流を供給するテイル電流源と、差動対に負荷として接続されるカレントミラー回路と、を含んでもよい。テイル電流は、V/I変換回路が生成する電流信号に応じており、カレントミラー回路には、V/I変換回路が生成するオフセット電流が供給されてもよい。これによりコンパレータに、温度に依存せず、プロセスばらつきに依存する入力オフセット電圧を導入できる。
【0024】
コンパレータは、V/I変換回路が生成する電流信号を可変係数倍した補正電流をカレントミラー回路に供給するリペア回路をさらに含み、可変係数はトリミング可能であってもよい。
【0025】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0026】
本明細書において、「部材Aが、部材Bと接続された状態」とは、部材Aと部材Bが物理的に直接的に接続される場合や、部材Aと部材Bが、電気的な接続状態に影響を及ぼさず、あるいは機能を阻害しない他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
同様に、「部材Cが、部材Aと部材Bの間に設けられた状態」とは、部材Aと部材C、あるいは部材Bと部材Cが直接的に接続される場合のほか、電気的な接続状態に影響を及ぼさず、あるいは機能を阻害しない他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0027】
図3は、実施の形態に係る温度検出回路100のブロック図である。温度検出回路100は、半導体チップに集積化され、半導体チップの温度が、所定のしきい値より高いか低いかを判定する。温度検出回路100は、主として電圧生成回路110およびコンパレータ130を備える。電圧生成回路110は、電流密度が異なる2つのPN接合の順方向電圧の差分ΔVfにもとづく正の温度特性を有する第1電圧Vと、PN接合の順方向電圧Vfにもとづく負の温度特性を有する第2電圧Vと、を生成する。第1電圧Vは、いわゆるPTAT(Proportional To Absolute Temperature)電圧である。
【0028】
コンパレータ130は、第1電圧Vと第2電圧Vを比較し、比較結果を示す温度検出信号TEMP_DETを出力する。コンパレータ130はヒステリシスを有していてもよい。
【0029】
以上が温度検出回路100の基本構成である。続いてその動作を説明する。図4は、図3の温度検出回路100の動作を説明する図である。図4の上段は、第1電圧Vおよび第2電圧Vの温度依存性を示し、下段は、温度Tと温度検出信号TEMP_DETの関係を示す。
【0030】
<Vの状態では、コンパレータ130の出力である温度検出信号TEMP_DETは第1レベル(この例ではロー)をとり、V>Vの状態では、温度検出信号TEMP_DETは第2レベル(この例ではハイ)をとる。
【0031】
ここで第1電圧Vは、温度Tが上昇するほど大きくなり、第2電圧Vは、温度Tが上昇するほど小さくなる。2つの電圧VおよびVは、あるしきい値温度TTHにおいて交差するから、温度検出信号TEMP_DETは、温度Tとしきい値TTHとの大小関係を示すこととなる。なお後述のように、コンパレータ130に入力オフセット電圧VOFSを持たせる場合には、VとVの電位差が、入力オフセット電圧VOFSに等しくなったときに、コンパレータ130の出力が変化することとなる。
【0032】
以上が温度検出回路100の動作である。続いてその利点を説明する。
【0033】
簡単のため、PVばらつきやマッチングばらつきによって、コンパレータに入力される2つの電圧の少なくとも一方が、上側あるいは下側にオフセットするものとする。ここでは理解の容易化のため、図1の温度検出回路900、図3の温度検出回路100それぞれにおいて、負の温度係数を有する電圧Vf,Vが高電位側にVSHIFTだけオフセットするものとする。図5(a)は、図1の温度検出回路900におけるオフセットの影響を示す図であり、図5(b)は、図3の温度検出回路100におけるオフセットの影響を示す図である。
【0034】
図1の温度検出回路900では、負の温度係数α(<0)を有する電圧Vfが、Vf’で示すようにVSHIFTだけ上側にシフトすると、しきい値温度TTHは、ΔTTH=VSHIFT/|α|、高くなる。
【0035】
一方、図3の温度検出回路100では、負の温度係数α(<0)を有する電圧Vが、V’に示すように、VSHIFTだけ上側にシフトすると、しきい値温度TTHは、ΔTTH=VSHIFT/(|α|+β)、高くなる。βは、第2電圧Vの正の温度係数(V/度)である。
【0036】
したがって図3の温度検出回路100は、図1の温度検出回路900に比べて、電圧オフセットの影響を受けにくくなっているといえる。これが温度検出回路100の第1の利点である。
【0037】
続いて、温度検出回路100の第2の利点を説明する。図1の温度検出回路900と図3の温度検出回路100それぞれの、PVばらつきおよびマッチングばらつきの影響について説明する。図1に示した従来の温度検出回路900と、図3の温度検出回路100について、回路シミュレータにより、PVばらつきと、マッチングばらつきの大きさを検証した。
【0038】
従来回路では、PVばらつきによるしきい値温度TTHの変動幅ΔTTHは14.69度、マッチングばらつきに起因するしきい値温度TTHの変動幅ΔTTHは9.37度であり、全体として、24.06度の変動が見込まれる。
【0039】
これに対して図4の温度検出回路100について、同じデバイスパラメータを用いてシミュレーションを行うと、PVばらつきによるしきい値温度TTHの変動幅ΔTTHは18.52度、マッチングばらつきに起因するしきい値温度TTHの変動幅ΔTTHは2.06度という結果が得られた。したがって全体としての変動幅ΔTTHは20.58度となり、従来技術に比べて抑制することができる。
【0040】
上述したように、シフト量VSHIFTのうち、PVばらつきに起因する成分については、オフセット回路を追加することにより、ある程度低減することができる。一方で、シフト量VSHIFTのうち、マッチングばらつきに起因する成分については、キャンセルすることができない。図3の温度検出回路100は、図1の温度検出回路900に比べて、マッチングばらつきの影響が小さいため(2.06度と9.37度でおよそ1/4倍)、オフセット回路を追加した場合に残留するしきい値温度TTHの変動幅ΔTTHを小さくできる。
【0041】
本発明は、図3のブロック図や回路図として把握され、あるいは上述の説明から導かれるさまざまな装置、方法に及ぶものであり、特定の構成に限定されるものではない。以下、本発明の範囲を狭めるためではなく、発明の本質や動作の理解を助け、またそれらを明確化するために、より具体的な構成例や実施例を説明する。
【0042】
(実施例1)
図6は、実施例1に係る温度検出回路100Aのブロック図である。電圧生成回路110Aは、PTAT電流源112、I/V変換回路114、定数倍回路116を含む。PTAT電流源112は、PTAT電流IPTATを生成する。PTAT電流源112は、2つのダイオードD1,D2、抵抗R1およびカレントミラー回路CM1を含む。ダイオードD1,D2は、ベースコレクタ間を結線したバイポーラトランジスタであってもよい。
【0043】
たとえば第2ダイオードD2は、第1ダイオードD1のn倍(たとえば8倍)のサイズを有しており、抵抗R1は、第2ダイオードD2と直列に接続される。カレントミラー回路CM1は、2つのノードX,Yの電位Vx,Vyが等しくなるようにバイアスされ、このとき2つのダイオードD1,D2に流れる電流ID1,ID2が等しくなる。2つのダイオードD1,D2はサイズが異なっているから、それらに同じ電流が流れるとき、第1ダイオードD1の電流密度は、第2ダイオードD2の電流密度のn倍となる。このとき、2つのダイオードD1,D2の順方向電圧Vf,Vfの差分電圧ΔVfは、
ΔVf=Vf-Vf=Vln(n)
となる。
【0044】
差分電圧ΔVfを温度で微分すると、
dΔVf/dT=(k/q)ln(n)
を得る。kはボルツマン定数、qは電気素量であり、nを含めていずれも定数であるから、ΔVfは、絶対温度Tに比例した電圧となる。
【0045】
差分電圧ΔVfは、抵抗R1の両端間に発生する。したがって、抵抗R1に流れる電流、言い換えれば、第2ダイオードD2に流れる電流ID2は、
D2=ΔVf/R1
となり、絶対温度に比例(PTAT)した電流となる。カレントミラー回路CM1は、第2ダイオードD2に流れる電流ID2をコピーし、PTAT電流IPTATとして出力する(この例ではソース)。なおPTAT電流源112を天地反転して構成してもよく、この場合、PTAT電流IPTATはシンクされる。
【0046】
I/V変換回路114は、カレントミラー回路CM1が出力するPTAT電流IPTATを電圧信号である第1電圧Vに変換する。I/V変換回路114の変換利得をgとするとき、V=g×IPTATとなり、第1電圧Vは、絶対温度に比例する(PTAT)電圧となる。
【0047】
また電圧生成回路110Aは、2つのダイオードD1,D2の一方(この例ではD1)の順方向電圧Vfに応じた第2電圧Vを出力する。たとえば定数倍回路116は、2つのダイオードD1,D2の一方(この例ではD1)の順方向電圧Vfを定数倍(k倍)し、第2電圧Vとして出力する。
=k×Vf
定電流でバイアスされたダイオード(PN接合)の順方向電圧Vfは、負の温度特性を有し、その温度係数は、T=300K、Vf=750mVにおいて、-1.5mV/°Kとなることが知られている。したがって第2電圧Vの温度係数αは、(k×-1.5)mV/°Kとなる。なお定数倍回路116を省略してもよく、この場合、k=1となる。
【0048】
(実施例2)
図7は、実施例2に係る温度検出回路100Bのブロック図である。電圧生成回路110Bの基本的な構成は、図6の電圧生成回路110Aと同様である。定数倍回路116は、V/I変換回路118およびI/V変換回路120を含む。V/I変換回路118は、第1ダイオードD1の順方向電圧Vfを電流信号Iに変換する。I/V変換回路120は、電流信号Iを電圧信号に再変換し、第2電圧Vとして出力する。またV/I変換回路118は、順方向電圧Vfを電流信号Iに変換する。
【0049】
コンパレータ130Bは、外部からオフセット調節端子OFSに供給されるオフセット電流IOFSに応じて、入力オフセット電圧VOFSが調節可能に構成される。オフセット調節端子OFSには、オフセット電流IOFSとして、V/I変換回路118が生成する電流Iが供給される。これにより、プロセスばらつきおよび電源変動に起因するしきい値温度TTHの変動をキャンセルすることができる。
【0050】
図8は、コンパレータ130Bの構成例を示す回路図である。コンパレータ130Bは、差動入力段132、出力段134、リペア回路136を備える。
【0051】
差動入力段132は、入力差動対138、テイル電流源140、負荷142を含む。テイル電流源140は、電流入力端子C1に供給される定電流IC1に比例したテイル電流ITAILを、入力差動対138に供給する。
【0052】
負荷142は、カスコードカレントミラーであり、入力差動対138に接続される。カスコードカレントミラーは、バイアス端子BIASに供給される電圧VBIASによってバイアスされる。また負荷142からは、オフセット端子OFSが引き出されている。
【0053】
出力段134は、差動入力段132の出力を、ハイ、ロー2値の信号に変換し、出力端子COMPOUTから出力する。
【0054】
リペア回路136は、調節可能な補正電流(リペア電流ともいう)ICOMP1,ICOMP2を生成し、負荷142であるカスコードカレントミラーに供給する。オフセット電圧VOFSを補正する方向によって、補正電流ICOMP1とICOMP2の一方が選択的に生成され、その電流量は、半導体チップの製造検査工程において、プロセスばらつきに起因するしきい値温度TTHがキャンセルされるように調整(トリミング)される。
【0055】
電流IC1,IC2およびオフセット電流IOFSはすべて、第2電圧Vに比例した電流とするとよく、具体的には、図7のV/I変換回路118によって生成した電流を用いることができる。
【0056】
(実施例3)
図9は、実施例3に係る温度検出回路100Cの回路図である。PTAT電流源112は、第1ダイオードD1、第2ダイオードD2、抵抗R1、トランジスタM11,M12、第1カレントミラー回路CM11および第2カレントミラー回路CM12を含む。PTAT電流源112は、図7のPTAT電流源112を天地反転した構成を有する。
【0057】
カレントミラー回路CM11,CM12は、ダイオードD1,D2に流れるPTAT電流を折り返し、I/V変換回路114に供給する。この実施例においてI/V変換回路114は、一端が接地された抵抗R2を含み、抵抗R2の電圧降下(R2×IPTAT)が、第1電圧Vとなる。第1電圧Vは、コンパレータ130Bの非反転入力端子(+)に供給される。
【0058】
V/I変換回路118は、第1ダイオードD1の電圧降下Vfを電流信号に変換する。V/I変換回路118は、オペアンプOA3、トランジスタM31~M33、抵抗R31~R33を含む。
【0059】
オペアンプOA3において、非反転入力端子(+)の電圧と、反転入力端子(-)の電圧が等しくなるようにフィードバックがかかるため(仮想接地)、抵抗R31の電圧降下は、第1ダイオードD1の電圧降下Vfと等しくなる。その結果、抵抗R31には、Vf/R31の電流Iが流れる。この電流Iは、ダイオードの順方向電圧Vfに比例するから、負の温度特性を有する。
【0060】
コンパレータ130Bの構成は、図8に示した通りである。カレントミラー回路CM2は、電流Iをコピーし、コンパレータ130BのC1端子、C2端子それぞれに、バイアス電流IC1,IC2を供給する。バイアス電流IC1,IC2は、負の温度係数を有することとなる。
【0061】
図7と同様に、定数倍回路116は、V/I変換回路118およびI/V変換回路120を含む。V/I変換回路118においては、抵抗R32、R33それぞれの電圧降下も、第1ダイオードD1の順方向電圧Vfと等しくなる。抵抗R32およびトランジスタM32に流れる電流IはVf/R32となり、抵抗R33およびトランジスタM33に流れる電流IはVf/R33となる。
【0062】
電流Iは、I/V変換回路120に供給される。I/V変換回路120は、抵抗回路であり、電流Iに比例した電圧降下が発生する。I/V変換回路120の電圧降下が、第2電圧Vとなり、コンパレータ130Bの反転入力端子(-)に供給される。
【0063】
実施例3においてコンパレータ130Bはヒステリシスコンパレータとなっており、I/V変換回路120の抵抗値は、コンパレータ130Bの出力に応じて、二値で切り替わる。これにより、I/V変換回路120のゲインが変化する。
【0064】
I/V変換回路120は、たとえば抵抗R41,R42およびトランジスタM41を含み、トランジスタM41のオン、オフが、コンパレータ130Bの出力に応じて制御される。なお、図9では、コンパレータ130Bの後段には、インバータ152、ローパスフィルタ154、シュミットバッファ156、インバータ158が接続されており、最終的な温度検出信号TEMP_DETが生成される。この場合、トランジスタM41のオン、オフは、コンパレータ130Bの出力によって直接制御するのではなく、最終的な温度検出信号TEMP_DETに応じて制御してもよい。
【0065】
V/I変換回路118が生成する電流Iは、コンパレータ130Bのオフセット調節端子OFSに供給される。この電流Iにもとづくオフセット電流IOFSは、ダイオードD1の順方向電圧に比例しており、したがって負の温度係数を有する。
【0066】
以上が実施例3に係る温度検出回路100Cの構成である。続いてその動作を説明する。図10(a)、(b)は、温度検出回路100Cの動作を示す図(シミュレーション結果)である。図10(a)の上段には、第1ダイオードD1、第2ダイオードD2それぞれのカソード(実際には、ベースコレクタ間が結線されたバイポーラトランジスタのエミッタあるいはコレクタ)の電圧V11,V12の温度依存性が示される。図10(a)の下段には、第1ダイオードD1の順方向電圧Vfと、抵抗R1の電圧降下ΔVfが示される。
【0067】
図10(b)の最上段には、温度検出回路100Cの出力TEMP_DETが示され、その中段には、第1電圧Vおよび第2電圧Vが示され、最下段には、コンパレータ内の電流(テイル電流ITAIL、バイアス電流IC1、オフセット電流IOFS)が示される。この例ではしきい値温度TTHは160℃に設定されている。
【0068】
図11は、コンパレータ130に導入される入力オフセット電圧VOFSを示す図である。シミュレーションにおいて、第1ダイオードD1であるNPNトランジスタのサイズを、3通り(typ,small,large)で変化させたときの、オフセット電圧VOFSの温度依存性を調べたものである。オフセット電圧VOFSは、温度変動に関しては不変である一方で、第1ダイオードD1のサイズに応じて変化する。図5に示したように、ダイオードD(あるいはD)のサイズが変化すると、第1電圧Vと第2電圧Vが相対的にシフトするところ、オフセット電圧VOFSはこのシフト量VSHIFTに追従して変化するため、しきい値温度TTHのばらつきを抑制することができる。
【0069】
上述のように、コンパレータ130の入力オフセット電圧VOFSを最適化しないばあい、しきい値温度TTHの変動幅ΔTTHは20.58度であったが、同じ条件で図9の温度検出回路100Cを動作させると、しきい値温度の変動幅ΔTTHを9.8度まで減らすことができ、より正確な温度検出が可能となる。
【0070】
実施の形態にもとづき、具体的な語句を用いて本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【符号の説明】
【0071】
100 温度検出回路
110 電圧生成回路
112 PTAT電流源
D1 第1ダイオード
D2 第2ダイオード
114 I/V変換回路
116 定数倍回路
118 V/I変換回路
120 I/V変換回路
CM1 カレントミラー回路
130 コンパレータ
132 差動入力段
134 出力段
136 リペア回路
138 入力差動対
140 テイル電流源
142 負荷
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11