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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-17
(45)【発行日】2024-01-25
(54)【発明の名称】鍛造シミュレーション方法
(51)【国際特許分類】
   B21J 5/00 20060101AFI20240118BHJP
【FI】
B21J5/00 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020147732
(22)【出願日】2020-09-02
(65)【公開番号】P2022042335
(43)【公開日】2022-03-14
【審査請求日】2022-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【弁理士】
【氏名又は名称】前堀 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100218132
【弁理士】
【氏名又は名称】近田 暢朗
(72)【発明者】
【氏名】内堀 智博
(72)【発明者】
【氏名】柿本 英樹
(72)【発明者】
【氏名】池上 智紀
【審査官】堀内 亮吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-158369(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21J 5/00
G06F 30/10
G06F 30/23
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
素材を金型に設置して鍛造を行う工程を数値解析する鍛造シミュレーション方法であって、
前記金型を剛体としてモデル化して、一連の鍛造工程を解析する第1次シミュレーションを実行し、
前記第1次シミュレーションにおける最終圧下時の前記金型の面圧分布を取得し、
前記金型を弾性体としてモデル化して、前記第1次シミュレーションで取得した前記面圧分布を荷重条件とした前記金型の変形を解析する第2次シミュレーションを実行し、
前記第2次シミュレーションでの変形後の前記金型を剛体としてモデル化して、前記一連の鍛造工程の中の少なくとも後段部を含む鍛造工程を解析する第3次シミュレーションを実行し、
前記第3次シミュレーションの結果を最終的なシミュレーション結果とする
ことを含む、鍛造シミュレーション方法。
【請求項2】
繰返し圧下を行うハンマー鍛造を対象とする、請求項1に記載の鍛造シミュレーション方法。
【請求項3】
前記素材を再結晶温度以上に昇温して行う熱間鍛造を対象とする、請求項1に記載の鍛造シミュレーション方法。
【請求項4】
前記第3次シミュレーションは、前記一連の鍛造工程の中の後段部の鍛造工程のみを解析する、請求項1から3のいずれか1項に記載の鍛造シミュレーション方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鍛造シミュレーション方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1,2には、計算時間を短縮するため金型を剛体としてモデル化した鍛造シミュレーション方法が開示されている。しかし、実機の金型は素材からの反力により変形するため、そのような鍛造シミュレーション方法は解析精度に改善の余地がある。
【0003】
特許文献3には、金型の変形も考慮して金型を弾性体として鍛造シミュレーションを行う方法が開示されている。そのような鍛造シミュレーション方法では、金型の変形も考慮して解析を行うため、解析精度の向上を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-177213号公報
【文献】特開2005-275551号公報
【文献】特開2014-104482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献3の鍛造シミュレーション方法では解析精度の向上を図ることができる一方、金型の変形も考慮した解析を実行する必要があるために計算時間が膨大となるおそれがある。
【0006】
本発明は、鍛造シミュレーション方法において、解析精度の向上および計算時間の短縮を両立させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、素材を金型に設置して鍛造を行う工程を数値解析する鍛造シミュレーション方法であって、前記金型を剛体としてモデル化して、一連の鍛造工程を解析する第1次シミュレーションを実行し、前記第1次シミュレーションにおける最終圧下時の前記金型の面圧分布を取得し、前記金型を弾性体としてモデル化して、前記第1次シミュレーションで取得した前記面圧分布を荷重条件とした前記金型の変形を解析する第2次シミュレーションを実行し、前記第2次シミュレーションでの変形後の前記金型を剛体としてモデル化して、前記一連の鍛造工程の中の少なくとも後段部を含む鍛造工程を解析する第3次シミュレーションを実行し、前記第3次シミュレーションの結果を最終的なシミュレーション結果とすることを含む、鍛造シミュレーション方法を提供する。
【0008】
この方法によれば、第1次シミュレーションに加えて第2次シミュレーションおよび第3次シミュレーションを実行することで、金型の変形を考慮した解析を行う。従って、単に金型を剛体としてモデル化しただけの解析に比べて解析精度を向上させることができる。また、詳細には、第1次シミュレーションによって最終圧下時の金型の面圧分布を取得し、第2次シミュレーションによって当該面圧分布を利用して金型の変形を解析し、第3次シミュレーションによって当該金型の変形を考慮した鍛造工程の解析を行う。従って、連続的に金型の変形を解析する計算工程を省略し、簡易的に金型の変形を解析したうえで鍛造工程の解析を実行するため、計算時間が膨大となることを抑制できる。よって、鍛造シミュレーション方法において、解析精度の向上および計算時間の短縮を両立させることができる。なお、「剛体」とは解析上変形しない部材のことをいい、「弾性体」とは、解析上変形し得る部材のことをいう。また、「後段部」とは、鍛造の全工程の中の後半の工程のことをいう。
【0009】
前記鍛造シミュレーション方法は、繰返し圧下を行うハンマー鍛造を対象としてもよい。
【0010】
前記鍛造シミュレーション方法は、前記素材を再結晶温度以上に昇温して行う熱間鍛造を対象としてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、鍛造シミュレーション方法において、金型の変形を考慮するとともに連続的に金型の変形を解析する計算工程を省略できるため、解析精度の向上および計算時間の短縮を両立できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る鍛造シミュレーション方法で使用する金型の正面図。
図2】鍛造シミュレーション方法の各工程を示すフローチャート。
図3】一連のハンマー鍛造工程を示すフローチャート。
図4】金型の上型の変形結果を示す正面図。
図5】金型の下型の変形結果を示す正面図。
図6】鍛造によって成形されたクランク軸の端部の断面図。
図7】鍛造によって成形されたクランク軸のピン部の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0014】
図1は、本実施形態で使用する金型10の正面図を示している。本実施形態では、金型10を使用してクランク軸(図示せず)を成形する鍛造工程を数値解析する鍛造シミュレーション方法について説明する。
【0015】
図1では、クランク軸の長手方向をX方向とし、水平面内でX方向に直交する方向をY方向とし、金型10の可動方向である上下方向(鉛直方向)をZ方向とする。当該方向の表記に関しては図2以降においても同様に示す。
【0016】
金型10は、上型11と下型12とを有している。金型10の外側には、即ち、上型11の上側と、下型12の下側には、拘束用および耐衝撃用のアンビル13,14がそれぞれ配置されている。金型10の大きさは様々であるが、例えば全長が2m程度の大型のものであり得る。従って、金型10によって成形されるクランク軸も2m程度の大きさとなり得る。
【0017】
上型11は、複数の凸部11aが設けられた鍛造面11bを有している。同様に、下型12も、複数の凸部12aが設けられた鍛造面12bを有している。ただし、凸部11a,12aの位置、形状、および大きさなどは特に限定されない。従って、成形されるクランク軸の形状についても特に限定されない。例えば、クランク軸は、軸対称形状を有してもよい。この場合、後述する解析モデルについても軸対称モデルを使用でき、解析モデルとして全体を作成する場合に比べて解析の計算時間を低減し得る。代替的には、クランク軸は、非軸対称形状を有してもよい。この場合、後述する解析モデルについては、軸対称モデルを使用できず、解析モデルとして全体を作成する必要がある。しかし、本実施形態の鍛造シミュレーション方法は、後述するように計算時間が短いため、効率的に解析を行うことができる。
【0018】
鍛造工程では、素材を金型10に設置して繰返し圧下を行うことにより、素材を所望のクランク軸の形状に成形する。このような鍛造をハンマー鍛造ともいう。
【0019】
上記素材としては、例えばクロムモリブデン鋼を挙げることができる。
【0020】
図2は、本実施形態の鍛造シミュレーション方法の各工程を示すフローチャートである。本実施形態の鍛造シミュレーション方法においては有限要素解析を採用している。
【0021】
まず、図1に示す金型10の解析モデル(金型モデル1)を作成する(ステップS2-1)。金型モデル1は、実際の金型10の設計寸法通りに作成される。即ち、金型モデル1は、設計寸法から未だ変形していないモデルである。
【0022】
次に、金型モデル1を剛体として設定し、ハンマー鍛造シミュレーション(第1次シミュレーション)を実行する(ステップS2-2)。このハンマー鍛造シミュレーションでは、一連のハンマー鍛造工程(図3参照)を模擬した解析を行う。本実施形態では、1~4ヒート目の各ヒートにおいて加熱とハンマー鍛造を行う。ただし、これはあくまでも一例である。特に、ハンマー鍛造工程におけるヒート数は限定されず、例えば1ヒートのみを行うものであってもよいし、2ヒートまたは3ヒートなどの複数ヒートの鍛造工程を実行するものであってもよい。このようなハンマー鍛造シミュレーション(第1次シミュレーション)を行うことにより、最終圧下時(4ヒート目完了時)の金型モデル1の鍛造面11b,12bにおける面圧分布を取得する(ステップS2-3)。
【0023】
次に、上記ハンマー鍛造シミュレーション(第1次シミュレーション)で取得した面圧分布を荷重条件として金型モデル1に付与し、変形シミュレーション(第2次シミュレーション)を実行する(ステップS2-4)。
【0024】
図4は、上記変形シミュレーションによる金型10の上型11の変形結果を示す正面図である。図5は、上記変形シミュレーションによる金型10の下型12の変形結果を示す正面図である。図4,5において、上下方向(Z方向)の変位は、図示を明瞭にするために500倍にして示されている。図4,5では、アンビル13,14(図1参照)で拘束された部分の外側(X方向における両端部)が大きく変形を受けていることが確認できる。従って、金型10を剛体の解析モデルとして設定する(即ち金型10が変形しないと設定する)と、当該変形を考慮できず、解析精度が低下することが考えられる。換言すれば、当該変形を考慮することにより、解析精度の向上を図ることができる。
【0025】
次に、上記変形シミュレーション(第2次シミュレーション)によって得られた金型10の解析モデル(金型モデル2)を作成する(ステップS2-5)。金型モデル2は、図4,5の金型10の形状に対応したモデルであり、変形を考慮した寸法を有する。即ち、金型モデル2は、設計寸法から変形したモデルである。
【0026】
次に、金型モデル2を剛体として設定し、ハンマー鍛造シミュレーション(第3次シミュレーション)を再度実行する(ステップS2-6)。このハンマー鍛造シミュレーションでは、図3に示すハンマー鍛造工程の全部を模擬した解析を実行してもよい。代替的には、このハンマー鍛造シミュレーションでは、図3に示すハンマー鍛造工程の後段部を模擬した解析を実行してもよい。ここで、「後段部」とは、鍛造の全工程の中の後半の工程のことをいい、本実施形態では3ヒート目および4ヒート目の工程のことをいう。
【0027】
本実施形態の鍛造シミュレーション方法では、上記のハンマー鍛造シミュレーション(第3次シミュレーション)によって得られた結果を最終的なシミュレーション結果とする。
【0028】
本実施形態によれば、第1次シミュレーションに加えて第2次シミュレーションおよび第3次シミュレーションを実行することで、金型10の変形を考慮した解析を行う。従って、単に金型10を剛体としてモデル化しただけの解析に比べて解析精度を向上させることができる。また、詳細には、第1次シミュレーションによって最終圧下時の金型10の面圧分布を取得し、第2次シミュレーションによって当該面圧分布を利用して金型10の変形を解析し、第3次シミュレーションによって当該金型10の変形を考慮した鍛造工程の解析を行う。従って、連続的に金型10の変形を解析する計算工程を省略し、簡易的に金型10の変形を解析したうえで鍛造工程の解析を実行するため、計算時間が膨大となることを抑制できる。よって、鍛造シミュレーション方法において、解析精度の向上および計算時間の短縮を両立させることができる。
【0029】
図6,7を参照して、本実施形態の鍛造シミュレーション方法の解析精度を他の方法と比較した結果について説明する。図6は、鍛造によって成形されたクランク軸20の端部21の断面図を示している(図1の破線枠VI内に対応)。図7は、鍛造によって成形されたクランク軸20のピン部22の断面図を示している。
【0030】
図6,7では、金型10を剛体として解析した場合(比較例)のクランク軸20の形状(破線C1参照)と、金型10の変形を考慮して解析した場合(本実施形態)のクランク軸20の形状(実線C2参照)とが示されている。比較例と本実施形態の結果を比較すると、金型10の上型11と下型12との間隔は、図6のクランク軸20の端部21において、比較例では28.16mmであったが、本実施形態では28.06mmであった。また、図7のクランク軸20のピン部22において、比較例では28.16mmであったが、本実施形態では27.77mmであった。特に図7のクランク軸20のピン部22におけるバリの長さは、比較例に比べて本実施形態の方が2.16mm長くなることを確認した(D=2.16mm)。
【0031】
以下の表1は、素材および金型10の変形を同時に連続的に計算した鍛造シミュレーション(比較例1)と、金型10の変形を考慮しない鍛造シミュレーション(比較例2)と、変形後の金型10を剛体として計算した鍛造シミュレーション(本実施形態)とを計算時間で比較した結果を示している。
【0032】
【表1】
【0033】
本実施形態に関しては、比較例2の処理を行った後に、前述の第3次シミュレーションにおいて3ヒート目および4ヒート目のみを再計算している。換言すれば、本実施形態では、第3次シミュレーションにおいて1ヒート目および2ヒート目については再計算していない。そのため、本実施形態の合計計算時間は、第3次シミュレーションにおける3ヒート目(12時間)および4ヒート目(16時間)に、比較例2の合計計算時間47時間を加えた75時間を結果として示している。詳細には、本実施形態では、この75時間に追加して、金型10の変形を解析するシミュレーション(第2次シミュレーション)の時間(金型変形計算時間)がかかる。この金型変形計算時間は、解析条件によっても異なるが、例えば2分程度(CPUのコア数は2)である。
【0034】
上記解析では、解析条件として、比較例1の解析モデルにおける素材と金型10の要素サイズをともに100mmとした。また、比較例2および本実施形態の素材の要素サイズを30mmとした。これらの計算に用いたCPUのコア数は2である。表1より、本実施形態では比較例1に比べて計算時間を大幅に短縮できることを確認できた。
【0035】
以上より、本発明の具体的な実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の一例である。従って、本発明は上記実施形態に限定されず、この発明の範囲内で種々変更して実施することができる。
【0036】
例えば、上記実施形態の鍛造シミュレーション方法において、素材を再結晶温度以上に昇温して行う熱間鍛造を対象としてもよい。
【符号の説明】
【0037】
1,2 金型モデル
10 金型
11 上型
11a 凸部
11b 鍛造面
12 下型
12a 凸部
12b 鍛造面
13,14 アンビル
20 クランク軸
21 端部
22 ピン部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7