(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】廃電池からの有価物の回収方法、粉砕設備
(51)【国際特許分類】
H01M 10/54 20060101AFI20240123BHJP
B09B 3/30 20220101ALI20240123BHJP
B09B 5/00 20060101ALI20240123BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20240123BHJP
C22B 23/02 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
H01M10/54 ZAB
B09B3/30
B09B5/00 A
C22B7/00 C
C22B23/02
(21)【出願番号】P 2019104505
(22)【出願日】2019-06-04
【審査請求日】2022-02-17
(31)【優先権主張番号】P 2019074948
(32)【優先日】2019-04-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】眞野 匠
【審査官】高野 誠治
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-223264(JP,A)
【文献】特開2005-011698(JP,A)
【文献】中国実用新案第205944325(CN,U)
【文献】特開2019-153561(JP,A)
【文献】特開平11-185833(JP,A)
【文献】特開2000-313926(JP,A)
【文献】特開2013-004299(JP,A)
【文献】特開2003-010706(JP,A)
【文献】特開2017-174517(JP,A)
【文献】特開2018-120716(JP,A)
【文献】特開2002-194448(JP,A)
【文献】特表平05-502187(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109473747(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/54
B09B 1/00 - 5/00
C22B 7/00
C22B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極材料が充填されている外装材を含む廃電池から、該電極材料に含まれる有価物を回収する有価物の回収方法であって、
前記有価物は、電極材料のうち正極材を構成するニッケル及び/又はコバルトを少なくとも含み、
前記外装材を含む状態のままの廃電池を粒径1mm以下の粉塵状に粉砕する粉砕工程と、
前記粉砕工程で生成した粒径1mm以下の粉塵物を集塵する集塵工程と、
前記集塵工程にて集塵した前記粒径1mm以下の粉塵物から前記有価物を分別回収する分別回収工程と、を有し、
前記集塵工程では、前記粉砕工程での処理を行った処理空間の気相を集塵装置に排気させて、該気相に含まれる粉塵物を集塵し、
前記分別回収工程では、前記粉塵物を、所定の比重を基準として選別して、ニッケル及び/又はコバルトを含む対象物を回収する
廃電池からの有価物の回収方法。
【請求項2】
電極材料が充填されている外装材を含む廃電池から、該電極材料に含まれる有価物を回収する有価物の回収方法であって、
前記有価物は、電極材料のうち正極材を構成するニッケル及び/又はコバルトを少なくとも含み、
前記外装材を含む状態のままの廃電池を粒径1mm以下の粉塵状に粉砕する粉砕工程と、
前記粉砕工程で生成した粒径1mm以下の粉塵物を集塵する集塵工程と、
前記集塵工程にて集塵した前記粒径1mm以下の粉塵物から前記有価物を分別回収する分別回収工程と、を有し、
前記集塵工程では、前記粉砕工程での処理を行った処理空間の気相を集塵装置に排気させて、該気相に含まれる粉塵物を集塵し、
前記分別回収工程では、前記粉塵物を、所定の風力により選別して、ニッケル及び/又はコバルトを含む対象物を回収する
廃電池からの有価物の回収方法。
【請求項3】
前記粉砕工程では、無害化処理後の廃電池を粉砕する
請求項1又は2に記載の廃電池からの有価物の回収方法。
【請求項4】
前記廃電池は、廃リチウムイオン電池である
請求項1又は2に記載の廃電池からの有価物の回収方法。
【請求項5】
前記粉砕工程では、チェーンクラッシャー式の装置を用いて破砕する
請求項1又は2に記載の廃電池からの有価物の回収方法。
【請求項6】
電極材料が充填されている外装材を含む廃電池を粉砕するための粉砕設備であって、
前記廃電池は、電極材料のうち正極材を構成するニッケル及び/又はコバルトを含む有価物を含有し、
前記廃電池を粒径1mm以下に粉砕する粉砕装置と、
前記粉砕装置での粉砕により生成した粒径1mm以下の粉塵物を集塵する集塵装置と、を備え、
前記粉砕装置は、粉砕部と、該粉砕部にて粉砕して得られる前記粒径1mm以下の粉塵物以外の粉砕物を回収する回収部と、から構成されており、
前記集塵装置は、前記粉砕装置における前記粉砕部に直接接続された排気ラインを介して該粉砕部内の気相を該集塵装置に排気させて、該気相に含まれる粉塵物を集塵し、
前記集塵装置にて集塵した前記粒径1mm以下の粉塵物を、所定の比重を基準として選別し、ニッケル及び/又はコバルトを含む対象物を回収する比重選別装置をさらに備える
粉砕設備。
【請求項7】
電極材料が充填されている外装材を含む廃電池を粉砕するための粉砕設備であって、
前記廃電池は、電極材料のうち正極材を構成するニッケル及び/又はコバルトを含む有価物を含有し、
前記廃電池を粒径1mm以下に粉砕する粉砕装置と、
前記粉砕装置での粉砕により生成した粒径1mm以下の粉塵物を集塵する集塵装置と、を備え、
前記粉砕装置は、粉砕部と、該粉砕部にて粉砕して得られる前記粒径1mm以下の粉塵物以外の粉砕物を回収する回収部と、から構成されており、
前記集塵装置は、前記粉砕装置における前記粉砕部に直接接続された排気ラインを介して該粉砕部内の気相を該集塵装置に排気させて、該気相に含まれる粉塵物を集塵し、
前記集塵装置にて集塵した前記粒径1mm以下の粉塵物を、所定の風力により選別し、ニッケル及び/又はコバルトを含む対象物を回収する風力選別装置をさらに備える
粉砕設備。
【請求項8】
前記粉砕装置における前記粉砕部は、前記廃電池を構成する前記外装材を粒径1mm以下の粉塵状に粉砕することが可能な程度の力で粉砕する
請求項
6又は7に記載の粉砕設備。
【請求項9】
前記粉砕装置は、前記粉砕部と、前記回収部とから構成されているチェーンクラッシャー式の装置である
請求項
8に記載の粉砕設備。
【請求項10】
前記粉砕装置においては、前記粉砕部と前記回収部とが防音壁により取り囲まれて防音室を構成しており、
前記防音室内の粉塵物を含む気相を集塵装置に排気する排気ラインを備える
請求項
6又は7に記載の粉砕設備。
【請求項11】
前記粉砕装置における前記回収部にて回収した粉砕物を、所定の目開きの篩により篩別けする篩別装置をさらに備える
請求項
6又は7に記載の粉砕設備。
【請求項12】
前記篩別装置による篩上回収物を、所定の磁力で選別する磁力選別装置をさらに備える
請求項
11に記載の粉砕設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃電池から有価物を回収する方法に関し、より詳しくは、破砕の際の発塵に伴う作業環境の悪化を抑制するとともに有価物を効率よく回収する廃電池からの有価物の回収方法、及びその方法に用いる粉砕設備に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、リチウムイオン二次電池(lithium-ion battery:単に「リチウムイオン電池」ともいう)は、小型、軽量で高電気容量かつ高電圧であり、ノートブックパソコン、携帯電話、デジタルカメラ、工具等の携帯用の電子・電気機器への利用や、今後拡大が予想されるEVやPHEV等の広範な車載用としての利用が予想されている。
【0003】
そのリチウムイオン電池において、正極は、例えば活物質として有価金属であるコバルトやニッケルとリチウムとの複合酸化物がアルミニウム箔に塗布されて構成され、負極は、銅箔に活物質である炭素系の材料が塗布されて構成されている。また、電池外装材として、ニッケルメッキした鉄、アルミニウム等が使用されている。このように、リチウムイオン電池には、コバルトやニッケル等の有価物(有価金属)が含まれている。
【0004】
一方、リチウムイオン電池は、製造過程で不良品が発生することがある。また、リチウムイオン電池は、上述したように広範に使用されており、使用機器及び電池の寿命に伴って使用済み電池として廃棄されることになる。これらの製造工程での不良品や使用済み電池から、コバルトやニッケル等の有価物を効率的かつ安価に回収することは、資源の有効利用の観点から極めて重要である。
【0005】
製造工程での不良品や使用済みリチウムイオン電池を含む、いわゆる廃リチウムイオン電池から有価物を回収する方法として、例えば特許文献1には、外装材から内部の有価物等を取り出すために800℃以上の高温で廃リチウムイオン電池を破裂させて、外装材から有価物粉末を分離回収する技術が開示されている。また、例えば特許文献2には、500℃以下、10Pa以下の低温減圧条件で焼成した後に、粉砕、篩分けして有価物を回収する技術が開示されている。
【0006】
ここで、リチウムイオン電池等の電池は、安全性を高めるために、外装材の板厚は比較的厚く頑丈に構成され、電極材料等の有価物が緻密に充填されている。そのため、破砕するためには大きな外力を与える必要がある。
【0007】
しかしながら、外装材が破壊されるほどの十分な外力が加えられると、外装材の内部に充填されている有価物は比較的脆いために容易に解砕又は粉砕されて粉粒状、粉塵状となり、作業床面又は破砕装置内部に落下し、あるいは作業環境中に飛散する。
【0008】
落下する有価物の一部は、破断、変形した外装材に挟まれ、巻き込まれて一体化する場合があり、分別回収の妨げになるという問題がある。また、落下あるいは飛散した有価物は、公知の方法により回収されるものの、作業場には回収漏れの粉塵が蓄積されて作業環境が悪化するだけでなく、有価物の回収率が低下するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平10-330855号公報
【文献】特開2014-055312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、使用済みのリチウムイオン電池やニッケル水素電池等の廃電池から、作業環境の悪化を抑制しながら、有価物の回収効率を向上させることができる、廃電池からの有価物の回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、電極材料が充填されている外装材を含む廃電池を粉塵状に粉砕する粉砕処理を行い、生成した粉塵物を集塵装置にて集塵することで、外装材構成成分に有価物の粉末が付着したり、挟み込まれたりする状態となることを防ぐことができ、その結果、有価物を有効に回収できるようになることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
(1)本発明の第1の発明は、電極材料が充填されている外装材を含む廃電池から、該電極材料に含まれる有価物を回収する有価物の回収方法であって、前記外装材を含む状態のままの廃電池を粉塵状に粉砕する粉砕工程と、前記粉砕工程で生成した粉塵物を集塵する集塵工程と、前記粉塵物から前記有価物を分別回収する分別回収工程と、を有する、廃電池からの有価物の回収方法である。
【0013】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記集塵工程では、前記粉砕工程での処理を行った処理空間の気相を集塵装置に排気させて、該気相に含まれる粉塵物を集塵する、廃電池からの有価物の回収方法である。
【0014】
(3)本発明の第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記粉砕工程では、無害化処理後の廃電池を粉砕する、廃電池からの有価物の回収方法である。
【0015】
(4)本発明の第4の発明は、第1乃至第3のいずれかの発明において、前記廃電池は、廃リチウムイオン電池であり、前記有価物は、ニッケル及び/又はコバルトを少なくとも含む、廃電池からの有価物の回収方法である。
【0016】
(5)本発明の第5の発明は、第1乃至第4のいずれかの発明において、前記粉砕工程では、チェーンクラッシャー式の装置を用いて粉砕する、廃電池からの有価物の回収方法である。
【0017】
(6)本発明の第6の発明は、電極材料が充填されている外装材を含む廃電池を粉砕するための粉砕設備であって、前記廃電池を粉砕する粉砕装置と、前記粉砕装置での粉砕により生成した粉塵物を集塵する集塵装置と、を備え、前記粉砕装置は、粉砕部と、該粉砕部にて粉砕して得られる粉塵物以外の粉砕物を回収する回収部と、から構成されており、前記集塵装置は、前記粉砕装置における前記粉砕部に直接接続された排気ラインを介して該粉砕部内の気相を該集塵装置に排気させて、該気相に含まれる粉塵物を集塵する、粉砕設備である。
【0018】
(7)本発明の第7の発明は、第6の発明において、前記粉砕装置における前記粉砕部は、前記廃電池を構成する前記外装材を粉塵状に粉砕することが可能な程度の力で粉砕する、粉砕設備である。
【0019】
(8)本発明の第8の発明は、第7の発明において、前記粉砕装置は、前記粉砕部と、前記回収部とから構成されているチェーンクラッシャー式の装置である、粉砕設備である。
【0020】
(9)本発明の第9の発明は、第6乃至第8のいずれかの発明において、前記粉砕装置においては、前記粉砕部と前記回収部とが防音壁により取り囲まれて防音室を構成しており、前記防音室内の粉塵物を含む気相を集塵装置に排気する排気ラインを備える、粉砕設備である。
【0021】
(10)本発明の第10の発明は、第6乃至第9のいずれかの発明において、前記集塵装置にて集塵した粉塵物を、所定の比重を基準として選別する比重選別装置をさらに備える、粉砕設備である。
【0022】
(11)本発明の第11の発明は、第9の発明において、前記集塵装置にて集塵した、前記防音室内の気相に含まれていた粉塵物を、所定の風力により選別する風力選別装置をさらに備える、粉砕設備である。
【0023】
(12)本発明の第12の発明は、第6乃至第11のいずれかの発明において、前記粉砕装置における前記回収部にて回収した粉砕物を、所定の目開きの篩により篩別けする篩別装置をさらに備える、粉砕設備である。
【0024】
(13)本発明の第13の発明は、第12の発明において、前記篩別装置による篩上回収物を、所定の磁力で選別する磁力選別装置をさらに備える、粉砕設備である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、作業環境の悪化を抑制しながら、有価物の回収効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】廃電池から有価物の回収方法の流れを示す工程図である。
【
図3】粉砕設備に有価物を回収するための回収装置を接続させたときの構成の一例を示す図である。
【
図4】従来の破砕設備の構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。なお、本明細書にて、「X~Y」(X、Yは任意の数値)との表記は、「X以上Y以下」の意味である。
【0028】
≪1.廃電池からの有価物の回収方法≫
本発明に係る有価物の回収方法は、電極材料が充填されている外装材を含む廃電池から、その電極材料に含まれる有価物を回収する方法である。
【0029】
「廃電池」とは、自動車や電気機器等の劣化による廃棄や寿命に伴い発生した使用済み電池や電池の製造過程において発生した不良品等の廃材等が挙げられ、これらの総称を意味する。また、電池の種類は特に限定されず、例えばリチウムイオン電池やニッケル水素電池等が挙げられる。さらに、電池以外の有価金属を含む合金であって外装材を備えるものも処理対象として用いることができる。
【0030】
以下では、廃電池として廃リチウムイオン電池を処理対象とする場合を例に挙げて説明する。なお、上述したように、有価物の回収対象(処理対象)としては、廃リチウムイオン電池に限られず、例えば廃ニッケル水素電池等の他の電池の使用済み品や不良品であってもよい。
【0031】
ここで、リチウムイオン電池は、外装材と、内容物(正極や負極の電極及び電解質(電解液))とで構成されている。
【0032】
正極材は、リチウム酸化物である。例えば、コバルト系正極材の場合にはコバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル系正極材の場合にはニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン系正極材の場合にはマンガン酸リチウム(LiMn2O4)、リン酸鉄系正極材の場合にはリン酸鉄リチウム(LiFePO4)等が使用されている。また、負極材は、基本的にグラファイト(C)が使用されている。
【0033】
電解液の成分として、有機物質を含む。具体的に、有機物質としては、電解液であるプロピレンカーボネート等の有機溶剤や、電解液に溶解している六フッ化リン酸リチウム等の電解質、電極間に絶縁体薄膜として用いる多孔質ポリプロピレン、活物質の結着剤であるポリフッ化ビニリデン等が含まれている。特に、有機溶剤は100℃前後の引火点を有する易燃性のものであり、電池中に10~20重量%程度含まれている。
【0034】
「有価物」とは、廃リチウムイオン電池の電極材料を構成する有価金属であり、例えばニッケルやコバルト、銅、リチウム等が挙げられる。なお、例えば廃ニッケル水素電池においても、ニッケルやコバルト、銅等の有価物が電極材料を構成している。
【0035】
図1は、本発明に係る廃リチウムイオン電池から有価物の回収方法(以下、単に「有価物の回収方法」ともいう)の流れを示す工程図である。
図1に示すように、この回収方法は、電極材料が充填されている外装材を含む状態のままの廃リチウムイオン電池を粉塵状に粉砕する粉砕工程S1と、生成した粉塵物を集塵する集塵工程S2と、粉塵物から有価物を分別回収する分別回収工程S3と、を有する。
【0036】
(1)粉砕工程
粉砕工程S1は、電極材料が充填されている外装材を含む状態のままの廃リチウムイオン電池を粉砕する工程である。粉砕工程S1では、その廃リチウムイオン電池を、粉塵状に粉砕することを特徴としている。ここで、「粉塵状に粉砕」とは、その粉砕により生成する粉塵物のほとんどが集塵装置により集塵される状態に粉砕することをいい、例えば粒径1mm以下の粉状に粉砕することをいう。
【0037】
従来、廃リチウムイオン電池からの有価物の回収に際し、その廃リチウムイオン電池を破砕した直後、有価物の一部は、破断、変形した外装材の破片に挟まれたり、巻き込まれたりして、その破片と一体化した塊状物となってしまっていた。そのような塊状物は、取り扱いが比較的容易で手間を掛けずに全量を回収できるものの、塊状物中の外装材破片と有価物とを分別することは困難であり、何らかの手段がさらに必要となるという問題があった。分別困難という問題に関して、破断、変形した外装材の破片に有価物が挟まれてあるいは巻き込まれて生成した塊状物が原因であることは明確であるが、外装材が破砕されて破片となる際に有価物との接触を防止して塊状物となることを防ぐことは困難である。すなわち、有価物が充填された状態のままで外装材を含む廃リチウムイオン電池全体を破砕することが前提であって、例えば、破砕の前処理として、外装材とその外装材に充填された充填物とを分離させる処理を新たに追加するといった方法は、処理コストの増加等の観点からも現実的ではない。
【0038】
そこで、本発明に係る有価物の回収方法では、粉砕工程S1において、電極材料が充填されている外装材を含む状態のままの廃リチウムイオン電池を、粉塵状に粉砕して粉塵物を得ることを特徴としている。このように、外装材を含む廃リチウムイオン電池のほぼすべてを粉塵状に粉砕することにより、外装材を含めて粉塵状としていることから、例えば外装材の破片のような大きな粉砕片の発生がなくなり、そういった破片に有価物が挟まれたりして塊状物が生成することを防ぐことができる。なお、外装材に充填された電極材料は、比較的脆いものであるため、容易に粉塵状に粉砕される。
【0039】
そして、粉塵状に粉砕して得られる粉塵物は、次の集塵工程S2において集塵装置により集塵されるため、粉塵状となった外装材も含めて、回収物として容易にかつロスなく回収することができる。
【0040】
このような方法によれば、外装材の破片に有価物が挟まれた塊状物の生成を防ぐことができるため、破片に挟まった有価物を回収するための別途の処理が不要となり、有価物の回収ロスも有効に低減することができる。また、詳しくは後述するが、外装材を含めて粉塵状に粉砕して得られる粉塵物を、集塵装置にて回収し(集塵工程S2)、その後、その粉塵物から有価物を回収するようになるため(分別回収工程S3)、例えば比重選別処理や風力選別処理、磁力選別処理等の方法によって、目的とする有価物をより効率的に回収することが可能となる。
【0041】
粉砕処理の対象の廃リチウムイオン電池は、上述したように、電極材料が充填されている外装材を含む状態のままの廃リチウムイオン電池であるが、無害化処理を行った後の廃リチウムイオン電池であることが好ましい。このように、無害化処理後の廃リチウムイオン電池であれば、発火は破裂等の危険を減らして処理を施すことができる。
【0042】
なお、無害化処理とは、廃リチウムイオン電池に残留する電荷を解消するための処理であり、その具体的な処理方法は特に限定されない。
【0043】
粉砕処理の方法は、電極材料が充填されている外装材を含む状態のままの廃リチウムイオン電池に対し、粉塵状に粉砕できる程度の力を加えて、その廃電池のほぼすべてを粉塵物とすることができる方法であれば、特に限定されない。例えば、チェーンクラッシャー式の装置(粉砕装置)を用いることができる。このようなチェーンクラッシャー式の装置を用いることで、外装材であっても効率的に粉塵状に粉砕することができる。
【0044】
(2)集塵工程
集塵工程S2は、粉砕工程S1で生成した粉塵物を集塵する工程である。すなわち、集塵工程S2では、粉砕工程S1にて外装材を含めて廃リチウムイオン電池のほぼすべてを粉塵状に粉砕することで生成した粉塵物を集塵して回収する。
【0045】
従来の方法では、廃リチウムイオン電池を破砕等すると、生成した破片状の破砕物を例えば破砕装置を構成する回収部にて回収していた。これに対して、本発明に係る有価物の回収方法では、上述した粉砕工程S1において、廃リチウムイオン電池のほぼすべてを粉塵状に粉砕して粉塵物としていることから、粉砕装置に接続された集塵装置により集塵して回収する。これにより、粉砕により生成した粉塵物を効率的にかつ有効に回収できる。
【0046】
具体的に、粉塵物を回収するにあたっては、粉砕工程S1での粉砕処理を行った処理空間の気相を集塵装置に排気させて、その気相に含まれる粉塵物を集塵する。詳しいは後述するが、粉砕装置における粉砕処理を行う処理空間(粉砕室)と集塵装置とを直接的に排気ラインにより接続し、その処理区間の気相を、排気ラインを介して集塵装置に排気させることにより、集塵装置ではその排気ガス(気相)を内部に取り込んでその排気ガスに含まれる粉塵物を集塵する。
【0047】
これにより、生成した粉塵物を漏れなく集めることができ、その粉塵物に含まれる有価物を有効に回収することができる。
【0048】
(3)分別回収工程
分別回収工程S3は、集塵工程S2にて集塵した(集塵装置内に集めた)粉塵物から有価物を分別回収する工程である。
【0049】
上述したように、粉砕工程S1では、廃リチウムイオン電池の構成する外装材を含めて粉塵状に粉砕して粉塵物としていることから、集塵工程S2にて集塵された粉塵物は、有価物だけでなく外装材に由来する粉体(外装材構成成分)も含まれている。そこで、分別回収工程S3では、そのような粉塵物から有価物のみを選択して回収する。
【0050】
回収方法、すなわち有価物の選択回収方法としては、ニッケルやコバルト、リチウム等の有価物を選択的に回収できれば特に限定されない。例えば、磁力選別処理等の方法により行うことができる。あるいは、比重選別処理や風力選別処理、篩別処理等の方法であってもよい。本発明に係る有価物の回収方法によれば、粉塵物とした状態で有価物を回収することから、公知の簡易な処理により高い選択性でもって有価物を回収することができる。これにより、有価物の回収ロスを効果的に防ぐことができる。
【0051】
より具体的には、詳しくは後述する粉砕設備において、例えば、集塵装置に対して比重選別装置や風力選別装置を接続して設けるようにし、集塵装置にて集塵した粉塵物を、所定の比重や風力を基準として選別する。これにより、所定の比重を閾値としたときに比重の大きな粉塵物と比重の小さな粉塵物とに効率的に分けることができる。例えば、廃電池には、負極材料として用いられたカーボンや、外装材の一部として用いられていたアルミニウムやアルミニウム合金が含まれていることがあり、カーボンやアルミニウム等は比重が小さなものである。したがって、このような比重選別装置や風力選別装置等によって比重差に基づいて粉塵物を選別することで、カーボンやアルミニウム等の比重が小さな成分と、回収対象である例えばニッケルやコバルト等の金属成分とを、効率的に分離させることができ、選択性高く有価物を回収することができる。
【0052】
なお、分別回収工程S3における回収対象(有価物回収対象物)として、集塵工程S2にて集塵装置にて集められた粉塵物とともに、粉塵物として集塵装置に集塵されなかったもの(粉砕物)も含めることができる。そのような粉砕物は、例えば粉砕工程S1にて使用した粉砕装置の回収部から回収することができる。
【0053】
≪2.粉砕設備≫
次に、上述した廃リチウムイオン電池からの有価物の回収方法で使用することができる粉砕設備について説明する。
【0054】
図2は、本発明に係る粉砕設備の構成の一例を示す図である。粉砕設備1は、電極材料が充填されている外装材を含む廃リチウムイオン電池を粉砕するための設備である。粉砕設備1は、
図2に示すように、廃リチウムイオン電池を粉砕する粉砕装置10と、粉砕装置10での粉砕により生成した粉塵物を集塵する集塵装置20と、を備えている。
【0055】
[粉砕装置]
粉砕装置10は、廃リチウムイオン電池を粉砕する装置である。粉砕装置10は、粉砕部11と、その粉砕部11にて粉砕して得られる粉砕物を回収する回収部12と、から構成されている。
【0056】
(粉砕部)
粉砕部11は、例えばチェーンクラッシャー式の装置により構成され、粉砕処理を行う処理空間である。なお、粉砕部11は、閉鎖された密閉空間により構成されている。
【0057】
具体的に、粉砕設備1における粉砕部11では、外装材を含む状態のままの廃リチウムイオン電池に対して、その廃リチウムイオン電池のほぼすべてを粉塵状に粉砕することが可能な程度の力を加えて粉砕処理を行うことを特徴としている。したがって、粉砕処理後の粉砕部11内には、粉砕物が生成している。
【0058】
ここで、粉砕部11には、内部の気相を排気する排気ライン30が接続されている。排気ライン30は、他端が集塵装置20に接続されており、粉砕部11の気相が排気ライン30を介して直接的に集塵装置20に取り込まれるようになっている。上述したように、粉砕部11では、外装材を含む廃リチウムイオン電池のほぼすべてが粉塵状に粉砕され粉塵物となっており、粉塵物を含む気相が排気ライン30を介して排気されて、集塵装置20に導入される。
【0059】
(回収部)
回収部12は、粉砕部11に併設され、粉砕部11にて生じた粉砕物を回収する。なお、粉砕物とは、粉砕部11にて廃リチウムイオン電池に対する粉砕処理を経て生成する粉塵物以外のもので、粉砕部11において粉塵状に粉砕されきれず、排気ライン30を介し集塵装置20に集塵されなかったものである。
【0060】
回収部12は、例えば、粉砕部11よりも低位に設けられており、粉砕部11の床面全体から延びるスロープ等により連結され、粉砕部11内に粉砕物が自然と回収部12に集められるように構成されている。
【0061】
回収部12で回収された粉砕物にも、有価物が含まれていることがある。したがって、回収部12では、回収した粉砕物を有価物回収対象物として、有価物回収処理の場に供給する。なお、有価物回収対象物の主なる成分は、粉砕部11にて粉砕されて集塵装置20にて集められた粉塵物である。
【0062】
(防音室)
防音室40は、粉砕部11と回収部12とを防音壁41で取り囲んで構成されている。防音壁41は、遮音性を有する材質から構成されており、粉砕部11での粉砕処理に伴う音が外部に漏れることを抑え、作業環境の悪化を防ぐ。なお、粉砕部11においても遮音性を有する壁等により構成され騒音対策がなされているが、さらに防音壁41で取り囲んで防音室40を構成することで、より良好な作業環境とすることができる。
【0063】
防音室40には、その防音壁41に一端を接続させる形態で排気ライン32が備えられている。排気ライン32は、他端が集塵装置20に接続されており、粉砕部11から防音室40内に流出した粉塵物を含む気相が排気ライン32を介して集塵装置20に取り込まれるようになっている。これにより、粉砕部11から流出した粉塵物の回収漏れを防ぐことができ、有価物の回収ロスをより低減することができる。なお、粉砕部11から防音室40内に流出した粉塵物は、例えば、粉砕部11での廃リチウムイオン電池の粉砕によって極微細な大きさとなって、粉砕部11の隙間から流出したものである。
【0064】
[集塵装置]
集塵装置20は、粉砕装置10での粉砕処理により生成した粉塵物を集塵する集塵装置である。集塵装置20には、一端が粉砕装置10における粉砕部11に直接的に接続された排気ライン30がその他端で接続されている。集塵装置20は、排気ライン30を介して、粉砕部11の内部の気相、すなわち粉塵物を含む気相が排気されて導入され、その気相に含まれる粉塵物を集塵する。
【0065】
集塵装置20としては、特に限定されず、公知の集塵機により構成することができる。
【0066】
集塵装置20には、上述したように排気ライン30を介して粉砕部11から気相が導入されるが、排気ライン30の途中に排気装置31を設けて、その排気装置31による排気処理により気相を効率的に吸引して集塵装置20に取り込むようにすることができる。
【0067】
また、集塵装置20には、一端が防音室40の防音壁41に接続された排気ライン32がその他端で接続されている。したがって、集塵装置20には、防音室40内の気相も排気ライン32を介して導入することもでき、粉砕部11から防音室40内に流出した粉塵物も漏れなく集塵することができる。なお、排気ライン32の途中にも排気装置33を設けて、その排気装置33により排気処理により気相を効率的に吸引して集塵装置20に取り込むようにすることができる。
【0068】
このように集塵装置20は、粉砕装置10における粉砕部11と排気ライン30を介して接続されており、粉砕部11の内部の気相を直接的に吸引して取り込むことができるようになっている。上述したように、粉砕部11では、廃リチウムイオン電池のほぼすべてを粉塵状に粉砕していることから粉砕部11における気相には粉塵物が含まれており、その気相を、排気ライン30を介して取り込むことで、有価物を含む粉塵物を集塵装置20により効率的に集塵することができる。また、粉塵物を有効に集塵できることから、粉砕部11内で粉塵物が堆積する等して作業環境が悪化することを防ぐこともできる。
【0069】
集塵装置20では、集塵した粉塵物を、有価物回収対象物として、有価物回収処理の場に供給する。有価物回収の処理(
図1の分別回収工程S3での処理)では、主として集塵した粉塵物から、磁力選別処理や比重選別処理、風力選別処理等の方法で有価物のみを選択的に回収する。
【0070】
なお、上記の説明においては、排気ライン32を介して防音室40内の粉塵物を含む気相を排気してその粉塵物を集塵する集塵装置として、排気ライン30を介して粉砕部11の気相に含まれる粉塵物を集塵する集塵装置20を併用する例を示したが、これに限定されない。すなわち、排気ライン30に接続される集塵装置と、排気ライン32に接続される集塵装置とを、別々の装置としてもよい。
【0071】
[回収装置]
上述したように、粉砕設備1においては、集塵装置20にて集塵した粉塵物を有価物回収対象物として、その対象物から有価物を回収する。また、粉砕装置10における回収部12から回収される粉砕物についても有価物回収対象物として、その対象物から有価物を回収することができる。
【0072】
このとき、粉砕設備1においては、集塵装置20に所定の回収装置、具体的には比重選別装置や風力選別装置、篩別装置、磁力選別装置等の回収装置を接続させることにより、目的とする有価物とその他の成分とを分別しながら、効率的にかつ選択性高く有価物を回収することができる。同様に、回収部12から回収される粉砕物についても、その回収部12に篩別装置等の回収装置を接続させることにより、効率的に有価物を回収することができる。
【0073】
図3は、詳細を上記した粉砕設備1に、有価物を回収するための回収装置を接続させたときの構成の一例を示す図である。なお、
図3に示す構成の粉砕設備を「粉砕設備1A」とし、
図2の粉砕設備1とは区別するが、設備における同一構成については同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0074】
ここで、このように回収装置も備えた粉砕設備1Aは、「廃電池からの有価物の回収設備」として定義することもできる。
【0075】
(比重選別装置)
粉砕設備1Aにおいては、集塵装置20にて集塵した粉塵物を、所定の比重を基準として選別する比重選別装置25が設けられている。具体的に、比重選別装置25は、集塵装置20に接続して設けられ、集塵装置20からの粉塵物が装入される。比重選別装置25では、装入された粉塵物を、所定の比重を基準として、その基準比重より大きな粉塵物と小さな粉塵物とに分別する。
【0076】
本発明に係る粉砕設備1A(粉砕設備1)では、粉砕装置10における粉砕部11において廃リチウムイオン電池のほぼすべてを粉塵状に粉砕して粉塵物とし、排気ライン30を介して集塵装置20にて集塵していることから、廃電池からの回収対象である有価物も、そのほとんどが粉塵物として含まれている状態である。そして、例えば負極材料のカーボンや外装材の一部を構成するアルミニウム等に比べて、ニッケルやコバルト等の回収対象物はその比重が大きいことから、集塵装置20にて集塵した粉塵物を比重選別装置25によって比重差に基づき選別すると、基準比重よりも大きな粉塵の回収物には、有価物が選択的に含まれるようになる。一方で、基準比重よりも小さな粉塵の回収物には、上述したカーボンやアルミニウム等の比重の小さな成分が分離される。
【0077】
このようにして、集塵装置20にて集塵した粉塵物を、その集塵装置20に接続させた比重選別装置25を用いて比重選別すると、回収対象となるニッケルやコバルト等の有価物を効率的にかつ選択性高く回収することができる。これにより、有価物の回収率も向上させることができる。
【0078】
なお、比重選別装置25にて選別される比重の小さな粉塵物については、
図3に示すように、例えば比重選別装置25内の気相を排気する排気ライン34を排気装置33に接続させて、集塵装置20により再度集塵することができる。
【0079】
(風力選別装置)
また、粉砕設備1Aにおいては、集塵装置20にて集塵した粉塵物を、所定の風力により選別する風力選別装置26が設けられている。具体的に、風力選別装置26は、集塵装置20に接続して設けられ、主として粉砕装置10の防音室40内の粉塵物を集塵装置20にて集塵した粉塵物が装入される。風力選別装置26では、所定の力の風を装置内に流通させることで、装入された粉塵物を、その風力値に基づく比重を基準として、比重の大きな粉塵物と小さな粉塵物とに分別する。
【0080】
排気ライン32を介して集塵装置20にて集塵された粉塵物は、主として粉砕装置10の防音室40内の気相に含まれていた粉塵物であり、例えば、粉砕部11での廃リチウムイオン電池の粉砕によって極微細な大きさとなって粉砕部11の隙間から流出した粉塵物である。また、上述したように集塵装置20には、排気ライン34を介して比重選別装置25にて選別された基準比重よりも小さな比重の粉塵物が集塵される。したがって、風力選別装置26では、集塵装置20から比重の小さな粉塵物が装入され、その粉塵物を所定の風力により選別する。例えば、比重の小さな粉塵物として、上述したようにカーボンやアルミニウム等の成分が挙げられる。一方、防音室40から集塵装置20にて集塵される粉塵物や比重選別装置25にて選別された小さな比重の粉塵物の中には、ニッケルやコバルト等の回収対象の有価物も含まれることがあり、それらは、風力選別装置26にて比重の大きな粉塵物として効率的に選別することができる。
【0081】
このようにして、集塵装置20にて集塵した粉塵物を、その集塵装置20に接続させた風力選別装置26を用いて風力選別すると、回収対象となるニッケルやコバルト等の有価物の回収漏れを効果的に防ぐことができ、廃電池からの有価物の回収率を向上させることができる。
【0082】
(篩別装置)
また、粉砕設備1Aにおいては、粉砕装置10における回収部12にて回収した粉砕物を、所定の目開きの篩により篩別けする篩別装置27が設けられている。具体的に、篩別装置27は、回収部12に接続して設けられ、回収部12にて回収した粉砕物が装入される。篩別装置27では、装入された粉砕物を、設置された篩の目開きを基準として、篩上回収物と篩下回収物とに分別する。
【0083】
本発明に係る粉砕設備1A(粉砕設備1)では、粉砕部11において廃リチウムイオン電池のほぼすべてを粉塵状に粉砕して粉塵物とし、排気ライン30を介して集塵装置20にて集塵している。ところが、集塵装置20では集塵されなかったものや、細かな粉塵状にまで十分に粉砕されなかったものが、微量に残存することがあり、それらは粉砕部11に併設された回収部12にて回収される。したがって、回収部12にて回収される粉砕物は、上述した集塵装置20にて集塵される粉塵物よりも比較的大きなもの(粉砕物)である。このような粉砕物は、主として、廃電池を構成する外装材により構成されるが、その一部として、例えば外装材の粉砕断片に挟持されるようにニッケルやコバルト等の有価物が含まれることがある。このとき、回収部12に接続させる形態で、所定の目開きの篩により選別する篩別装置27を設けることで、その粉砕物を大きさの違いによって、効率的に選別することができる。例えば、粉砕物のうち、外装材の粉砕断片等を篩上回収物として回収し、有価物を篩下回収物として回収する。
【0084】
このようにして、回収部12にて回収した粉砕物を、その回収部12に接続させた篩別装置27を用いて篩別けすると、回収対象となるニッケルやコバルト等の有価物の回収漏れを効果的に防ぐことができ、廃電池からの有価物の回収率を向上させることができる。
【0085】
なお、
図3に示すように、篩別装置27にて篩分けられた篩下回収物は、そのまま回収してもよいが、上述した比重選別装置25に繰り返し装入してもよい(
図3中の「X」部)。これにより、篩下回収物に含まれる、回収対象となるニッケルやコバルト等の有価物の回収漏れをより効果的に防ぐことができる。また、例えば篩別装置27内の気相を排気する排気ライン35を排気装置33に接続させて、その気相に含まれる粉塵物を、集塵装置20により集塵するようにしてもよい。これによっても、有価物の回収漏れをより効果的に防ぐことができる。
【0086】
(磁力選別装置)
さらに、粉砕設備1Aにおいては、篩別装置27による篩上回収物を、所定の磁力で選別する磁力選別装置28が設けられている。具体的に、磁力選別装置28は、篩別装置27にて篩別けられる篩上回収物が装入されるように、その篩別装置27に接続して設けられている。磁力選別装置28では、装入された篩上回収物を、所定の磁力を基準として、着磁物と非着磁物とに分別する。
【0087】
篩別装置27にて篩別けられる篩上回収物には、主として、廃電池の外装材の粉砕断片等が含まれており、その外装材は例えば鉄等により構成されている。また、例えばその一部には、鉄等の金属とは磁力の異なる金属によってメッキ(例えばニッケルメッキ等)が施された断片も存在することがある。そのような外装材等は、それぞれの構成金属成分に応じた精製処理を施すことによって、有効にリサイクルすることができる。このとき、篩別装置27に接続させる形態で、篩上回収物が装入されるように磁力選別装置28を設けることで、篩上回収物を構成する例えば外装材の金属種の磁力に応じて、着磁物と非着磁物とに分別することができる。例えば、鉄成分のみを選択的に着磁物として回収することができる。
【0088】
このようにして、篩別装置27にて篩別けられる篩上回収物を、磁力選別装置28を用いて選別すると、例えば回収した外装材に含まれる金属成分に対する精製処理をより効果的にかつ適切に行うことができ、その金属成分を有効にリサイクルすることができる。
【実施例】
【0089】
以下に、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されない。
【0090】
[実施例1]
無害化処理後の廃リチウムイオン電池(円筒形φ18×64mm)を用いて、電極材料を構成する有価物の回収処理を行った。以下に、処理対象の廃リチウムイオン電池を構成する外装材、その外装材に充填された電極材、及び電池投入重量(処理に供した電池重量)を示す。なお、ニッケル組成は、製品データシートからの計算値である。
(外装材) :鉄(表面にニッケルメッキ)
(電極材)
正極材 :ニッケル系合金
負極材 :グラファイト
(廃リチウムイオン電池の投入重量)
投入重量 :20,870kg(ニッケル組成20wt%)
【0091】
図2に示す構成の粉砕設備1を用いて、電極材料を充填した外装材を含む状態のままの廃リチウムイオン電池に対して粉砕処理を行った。粉砕処理は、廃リチウムイオン電池に対して粉塵状に粉砕することが可能な程度の力を加えて処理し、粉塵物を得た。
【0092】
なお、粉砕設備1における粉砕装置10は、粉砕部11と回収部12とを備えるチェーンクラッシャー式の装置(クロスフローシュレッダー 型番S-1000,佐藤鉄工株式会社製)により構成した。
【0093】
次に、粉砕設備1において、粉砕装置10での粉砕により生成した粉塵物を、排気ライン30を介して集塵装置20に排気して集塵する処理を行った。
【0094】
集塵装置20により集塵して回収した粉塵物のうち、外装材に由来する破片(外装材構成成分)を観察したところ、その外装材構成成分に対して有価物の粉末の付着や取り込まれは確認されず、外装材と有価物の粉末とはよく分離されている状態であった。また、防音室40の内外に粉塵の漏洩はなく、床面は清浄な状態であった。
【0095】
また、集塵装置20にて集塵した粉塵物と回収部12から排出された回収物との合計重量は20,578gであり、ニッケル組成は19wt%(化学分析値)であった。この合計重量は、廃リチウムイオン電池の投入重量の98.6%に相当するもので、極めて高い割合であった。
【0096】
そして、集塵装置20にて集塵した粉塵物及び回収部12から排出された回収物を、有価物回収対象物として、有価物を選択的に回収する処理を行った結果、電極材料に由来する有価物(ニッケル及びコバルト)を有効に回収することができた。
【0097】
[比較例1]
比較例1では、
図4に構成図を示す従来の破砕設備100を用いて、無害化処理後の廃リチウムイオン電池から有価物を回収する処理を行った。処理対象として用いた廃リチウムイオン電池の構成や投入重量は実施例1と同様である。
【0098】
具体的に、比較例1では、破砕装置50の破砕部51において、電極材料を充填した外装材を含む状態のままの廃リチウムイオン電池に対し、粉塵状となるまでの粉砕処理は行わず、外装材を破砕する程度の力で破砕処理を行った。電極材料は比較的脆いために容易に粉末となったものの、外装材は破砕片の状態で回収部52を経て回収された。
【0099】
回収部52を経て回収された外装材の破砕片を観察したところ、有価物の粉末の付着しており、また破砕片の隙間に有価物の粉末が挟まった状態であった。また、防音室60内は多量の粉塵が蓄積され、防音室60外にも粉塵が漏洩して床面が汚染され、粉塵除去の掃除作業に半日を費やす必要があった。
【0100】
なお、破砕部51での破砕処理を経て生成した粉塵については、防音壁61に一端が接続された排気ライン80を介して、防音室60内の気相を集塵装置70に排気することによって集塵した。
【0101】
回収部52を経て回収された破砕片(回収物)と集塵装置70による集塵物との合計重量は19,242gであり、この合計重量は廃リチウムイオン電池の投入重量の92.2%であり、実施例1よりも低下した。
【0102】
そして、回収部52を経て回収された破砕片(回収物)と集塵装置70による集塵物とを、有価物回収対象物として、有価物を選択的に回収する処理を行ったところ、破砕片に挟まれた状態の有価物(ニッケル及びコバルト)を別途分離する処理が必要になり、効率的に有価物を有効に回収することができなかった。
【0103】
[実施例2]
無害化処理後の廃リチウムイオン電池(角形B6版サイズ)を用いて、電極材料を構成する有価物の回収処理を行った。以下に、処理対象の廃リチウムイオン電池を構成する外装材、その外装材に充填された電極材、及び電池投入重量(処理に供した電池重量)を示す。なお、B6版サイズとは、180mm×125mm×25mm程度の直方体である。また、ニッケル組成は、製品データシートからの計算値である。
(外装材) :アルミニウム合金
(電極材)
正極材 :ニッケル系合金
負極材 :グラファイト
(廃リチウムイオン電池の投入重量)
投入重量 :20,870kg(ニッケル組成4.0wt%)
【0104】
図2に示す構成の粉砕設備1を用いて、電極材料を充填した外装材を含む状態のままの廃リチウムイオン電池に対して粉砕処理を行った。粉砕処理は、廃リチウムイオン電池に対して粉塵状に粉砕することが可能な程度の力を加えて処理し、粉塵物を得た。
【0105】
なお、粉砕設備1における粉砕装置10は、粉砕部11と回収部12とを備えるチェーンクラッシャー式の装置(クロスフローシュレッダー 型番S-1000,佐藤鉄工株式会社製)により構成した。
【0106】
集塵装置20により集塵して回収した粉塵物のうち、外装材に由来する破片(外装材構成成分)を観察したところ、その外装材構成成分に対して有価物の粉末の付着や取り込まれは確認されず、外装材と有価物の粉末とはよく分離されている状態であった。また、防音室40の内外に粉塵の漏洩はなく、床面は清浄な状態であった。
【0107】
また、集塵装置20にて集塵した粉塵物と回収部12から排出された回収物との合計重量は20,703gであり、ニッケル組成は3.6wt%(化学分析値)であった。この合計重量は、廃リチウムイオン電池の投入重量の99.2%に相当するもので、極めて高い割合であった。
【0108】
[比較例2]
比較例2では、
図4に構成図を示す従来の破砕設備100を用いて、無害化処理後の廃リチウムイオン電池から有価物を回収する処理を行った。処理対象として用いた廃リチウムイオン電池の構成や投入重量は実施例2と同様である。
【0109】
具体的に、比較例2では、破砕装置50の破砕部51において、電極材料を充填した外装材を含む状態のままの廃リチウムイオン電池に対し、粉塵状となるまでの粉砕処理は行わず、外装材を破砕する程度の力で破砕処理を行った。電極材料は比較的脆いために容易に粉末となったものの、外装材は破砕片の状態で回収部52を経て回収された。
【0110】
回収部52を経て回収された外装材の破砕片を観察したところ、有価物の粉末の付着しており、また破砕片の隙間に有価物の粉末が挟まった状態であった。また、防音室60内は多量の粉塵が蓄積され、防音室60外にも粉塵が漏洩して床面が汚染され、粉塵除去の掃除作業に半日を費やす必要があった。
【0111】
なお、破砕部51での破砕処理を経て生成した粉塵については、防音壁61に一端が接続された排気ライン80を介して、防音室60内の気相を集塵装置70に排気することによって集塵した。
【0112】
回収部52を経て回収された破砕片(回収物)と集塵装置70による集塵物との合計重量は19,159gであり、この合計重量は廃リチウムイオン電池の投入重量の91.8%であり、実施例2よりも低下した。
【0113】
そして、回収部52を経て回収された破砕片(回収物)と集塵装置70による集塵物とを、有価物回収対象物として、有価物を選択的に回収する処理を行ったところ、破砕片に挟まれた状態の有価物(ニッケル及びコバルト)を別途分離する処理が必要になり、効率的に有価物を有効に回収することができなかった。
【0114】
[実施例3]
無害化処理後の廃リチウムイオン電池(円筒形φ18×64mm)を用いて、電極材料を充填した外装材を含む状態のままの状態で粉砕処理を行い、電極材料を構成する有価物の回収処理を行った。この実施例3では、
図3に示す構成の粉砕設備1Aを用いた。
【0115】
具体的に、粉砕処理については実施例1と同様にして行い、その結果、集塵装置20にて集塵した粉塵物と回収部12から排出された回収物との合計重量は20,578gであり、ニッケル組成は19wt%(化学分析値)であった。この合計重量は、廃リチウムイオン電池の投入重量の98.6%に相当するもので、極めて高い割合であった。
【0116】
そして、集塵装置20にて集塵した粉塵物と回収部12から排出された回収物とを得たのち、
図3に示す回収装置(比重選別装置25、風力選別装置26、篩別装置27、磁力選別装置28)を使用して回収処理を行った。
【0117】
下記表1に、それぞれの回収装置から回収した回収物に含まれる金属成分の割合をICP発光光度分析法発光分光分析法により測定した結果を示す。なお、表1中における回収物[1]~[4]は、
図3中の記載に回収物1~4にそれぞれ対応する。
【0118】
【0119】
表1に示すように、それぞれの回収装置から回収される回収物ごとに、回収対象の金属の分別が可能であることがわかる。
【0120】
[実施例4]
無害化処理後の廃リチウムイオン電池(角形B6版サイズ)を用いて、電極材料を充填した外装材を含む状態のままの状態で粉砕処理を行い、電極材料を構成する有価物の回収処理を行った。この実施例4では、
図3に示す構成の粉砕設備1Aを用いた。
【0121】
具体的に、粉砕処理については実施例2と同様にして行い、その結果、集塵装置20にて集塵した粉塵物と回収部12から排出された回収物との合計重量は20,703gであり、ニッケル組成は3.6wt%(化学分析値)であった。この合計重量は、廃リチウムイオン電池の投入重量の99.2%に相当するもので、極めて高い割合であった。
【0122】
そして、集塵装置20にて集塵した粉塵物と回収部12から排出された回収物とを得たのち、
図3に示す回収装置(比重選別装置25、風力選別装置26、篩別装置27、磁力選別装置28)を使用して回収処理を行った。
【0123】
下記表2に、それぞれの回収装置から回収した回収物に含まれる金属成分の割合をICP発光光度分析法発光分光分析法により測定した結果を示す。なお、表2中における回収物[1]~[4]は、
図3中の記載に回収物1~4にそれぞれ対応する。
【0124】
【0125】
表1に示すように、それぞれの回収装置から回収される回収物ごとに、回収対象の金属の分別が可能であることがわかる。
【符号の説明】
【0126】
1,1A 粉砕設備
10 粉砕装置
11 粉砕部
12 回収部
20 集塵装置
25 比重選別装置
26 風力選別装置
27 篩別装置
28 磁力選別装置
30 排気ライン
31 排気装置
32 排気ライン
33 排気装置
40 防音室
41 防音壁