(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】発光素子
(51)【国際特許分類】
H10K 50/854 20230101AFI20240123BHJP
F21S 6/00 20060101ALI20240123BHJP
F21V 3/00 20150101ALI20240123BHJP
F21V 3/06 20180101ALI20240123BHJP
G09F 9/00 20060101ALI20240123BHJP
H10K 50/10 20230101ALI20240123BHJP
H10K 59/10 20230101ALI20240123BHJP
F21Y 115/20 20160101ALN20240123BHJP
【FI】
H10K50/854
F21S6/00 500
F21V3/00 350
F21V3/00 320
F21V3/00 530
F21V3/06 110
G09F9/00 336H
H10K50/10
H10K59/10
F21Y115:20
(21)【出願番号】P 2019167380
(22)【出願日】2019-09-13
【審査請求日】2022-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】呉屋 剛
(72)【発明者】
【氏名】▲桑▼田 健二
(72)【発明者】
【氏名】森井 克行
【審査官】藤岡 善行
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-039811(JP,A)
【文献】特開2011-028890(JP,A)
【文献】特開2003-308977(JP,A)
【文献】特開2015-191690(JP,A)
【文献】国際公開第2017/018525(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0021628(US,A1)
【文献】特開2016-001548(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 50/854
H10K 50/10
H10K 59/10
F21V 11/00
G09F 9/30
F21S 6/00
F21V 3/00
F21V 3/06
G09F 13/22
G09F 13/08
F21V 13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と陰極との間に複数の層が積層された構造を有
し、更に封止層を有する有機電界発光素子と、立体形状の部材とを有する発光素子であって、
該発光素子は、平面形状の該有機電界発光素子に接して、該有機電界発光素子の光取り出し面上の少なくとも一部に、表面の少なくとも一部が曲面状である、立体印刷法による印刷造形物であるシート状以外の立体形状の部材が配置されたものであ
り、
該立体形状の部材の材料は、有機電界発光素子の封止材料との屈折率の差が0.01以下である
ことを特徴とする発光素子。
【請求項2】
前記有機電界発光素子の光取り出し面上の少なくとも一部に、立体形状の光拡散部材が配置されていることを特徴とする請求項1に記載の発光素子。
【請求項3】
前記有機電界発光素子は、陽極と、基板上に形成された陰極との間に複数の層が積層された構造を有する有機電界発光素子であることを特徴とする請求項1又は2に記載の発光素子。
【請求項4】
前記有機電界発光素子は、総膜厚が200μm以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の発光素子。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の発光素子を含むことを特徴とする表示装置。
【請求項6】
請求項1~4のいずれかに記載の発光素子を含むことを特徴とする照明装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子に関する。より詳しくは、電子機器の表示部等の表示装置や照明装置等としての利用可能な発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機電界発光素子は、表示装置として用いた場合には、高輝度、高精細な表示が可能となり、液晶表示装置に比べて視野角も広い等の優れた特徴を有することから、テレビや携帯電話のディスプレイや照明装置としての利用の拡大が期待されている。また有機電界発光素子をより有効に利用するための方法についても検討がされており、照明装置として使用する場合により輝度を高めたり、輝度ムラをなくしたりするために素子上にフィルムや光学部材を配置することが開示されている(特許文献1、2参照)。また近年は、有機電界発光素子を三次元光源として利用することも検討されており、例えば、平行に並べられた複数の有機電界発光素子を曲面状のカバーで覆った光源装置が提案されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-185940号公報
【文献】特許第6119460号公報
【文献】特開2017-208226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、有機電界発光素子を用いた三次元光源として、平行に並べられた複数の有機電界発光素子を曲面状のカバーで覆った光源装置が提案されているが、構造が複雑であり、また光源の形を変える場合、その形状によっては光源を構成する複数の部品の設計変更が必要となるため、少量多品種といった要求に沿うには課題が多かった。
【0005】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、従来の有機電界発光素子を用いた三次元光源に比べて簡便に製造でき、少量多品種の要求にも対応しやすい発光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、製造が簡便で少量多品種の要求にも対応しやすい三次元光源として使用できる発光素子について検討し、有機電界発光素子に接して表面の少なくとも一部が曲面状である立体形状の部材を配置すると、製造が簡便で少量多品種の要求にも対応しやすい三次元光源が得られることを見出し、本発明に到達したものである。
【0007】
すなわち本発明は、陽極と陰極との間に複数の層が積層された構造を有する有機電界発光素子と、該有機電界発光素子に接して配置され、表面の少なくとも一部が曲面状である立体形状の部材とを有することを特徴とする発光素子である。
【0008】
上記発光素子は、有機電界発光素子の光取り出し面上の少なくとも一部に、立体形状の光拡散部材が配置されていることが好ましい。
【0009】
上記発光素子は、有機電界発光素子の光取り出し面とは逆の面が立体形状の部材の曲面状の表面に接して配置されていることもまた好ましい。
【0010】
上記立体形状の部材は、印刷造形物であることが好ましい。
【0011】
上記有機電界発光素子は、陽極と、基板上に形成された陰極との間に複数の層が積層された構造を有する有機電界発光素子であることが好ましい。
【0012】
上記有機電界発光素子は、総膜厚が200μm以下であることが好ましい。
【0013】
本発明はまた、本発明の発光素子を含むことを特徴とする表示装置又は照明装置でもある。
【発明の効果】
【0014】
本発明の発光素子は、簡便に製造することができ、また、形状の変更も容易であるため少量多品種の要求にも対応しやすく、三次元光源が望まれる様々な用途において用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例1で作製した、有機電界発光素子上に立体形状の部材が形成された発光素子1の写真である。
【
図2】実施例2で作製した、有機電界発光素子上に立体形状の部材が形成された発光素子2の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明を詳述する。
なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
【0017】
本発明の発光素子は、陽極と陰極との間に複数の層が積層された構造を有する有機電界発光素子と、該有機電界発光素子に接して配置され、表面の少なくとも一部が曲面状である立体形状の部材とを有することを特徴とする。
有機電界発光素子が光取り出し面側で立体形状の部材と接している場合、立体形状の部材が光を透過し、拡散する部材であれば、有機電界発光素子の光取り出し面からの光が立体形状の部材内部を通って立体形状の部材の表面(本発明の発光素子の表面)から放出される。ここで、光が放出される立体形状の部材の表面(すなわち、立体形状の部材の表面のうち、有機電界発光素子と接していない部分)の少なくとも一部が曲面状であれば、本発明の発光素子は三次元光源となる。
また、立体形状の部材の曲面状部分と有機電界発光素子とが接している場合、有機電界発光素子の表面が曲面状になるため、有機電界発光素子の外側表面(立体形状の部材と接している側とは逆側の面)が光取り出し面であれば、発光素子は三次元光源となる。
このように、有機電界発光素子と、表面の少なくとも一部が曲面状である立体形状の部材とを組み合わせることで三次元光源を簡便に作製することができ、立体形状の部材の形状を変更することで三次元光源の形状を容易に変更できるため、少量多品種の要求にも対応しやすい。
なお、本発明の発光素子において、表面の少なくとも一部が曲面状である立体形状の部材とは、部材全体の外形表面の少なくとも一部が肉眼で確認できる程度の大きさの曲面状部分を有する立体形状の部材を意味する。したがって、顕微鏡なければ確認できない微細な曲面(凹凸)を表面に有し、全体としては平面的な形状である光拡散板、光拡散シート等は本発明における表面の少なくとも一部が曲面状である立体形状の部材には含まれない。
また本発明の発光素子において、有機電界発光素子と一部が曲面状である立体形状の部材とが接している形態には、有機電界発光素子の面上に立体形状の部材が直接形成され、有機電界発光素子の面と立体形状の部材とが接している場合の他、後述する接着層等を介して光取り出し面と遮光部材とが接している場合も含まれる。
【0018】
上記立体形状の部材は、厚みが最も厚い部分の厚みが1mm以上であることが好ましい。このような厚みを有する部材であることで、本発明の発光素子が三次元光源としての機能をより充分に発揮することができる。最も厚い部分の厚みはより好ましくは、5mm以上であり、更に好ましくは、10mm以上である。また、立体形状の部材の製造のしやすさ等の点から、最も厚い部分の厚みは100mm以下であることが好ましい。
なお、上記立体形状の部材は、中空形状のものであってもよく、中空形状のものである場合には、部材の外形の厚みが上記値であることが好ましい。
立体形状の部材の厚みはノギス等で測定することができる。
【0019】
上記立体形状の部材は、曲面状部分が凸型形状であることが好ましい。このような形状であることで、本発明の発光素子が三次元光源としての機能をより充分に発揮することができる。より好ましくは、立体形状の部材における凸型形状部分の端部の、立体形状の部材の厚みが最も薄い部分の厚みに対する、凸型形状部分の中央の、立体形状の部材の厚みが最も厚い部分の厚みの比が1~1000である形状であることである。このような形状であると、発光素子が三次元光源としての機能を更に充分に発揮することができ、また、立体形状の部材の曲面状部分に沿わせて有機電界発光素子を配置することも容易である。当該比は、更に好ましくは、1~100であり、特に好ましくは、1~10である。
なお、ここで凸型形状部分の端部の厚みとは、凸型形状部分の最も端の厚みと、該端から凸型形状部分の中央までの長さの10分の1の長さ分だけ中央に寄った位置の厚みとの平均値を意味する。
【0020】
また上記立体形状の部材は、曲面状部分の表面積が、有機電界発光素子の発光面積の50%以上であることが好ましい。曲面状部分がこのような大きさを有することで、発光素子が三次元光源としての機能をより充分に発揮することができる。曲面状部分の表面積は、より好ましくは有機電界発光素子の発光面積の70%以上であり、更に好ましくは90%以上である。
【0021】
上記発光素子が、有機電界発光素子の光取り出し面上の少なくとも一部に立体形状の光拡散部材が配置され、該光拡散部材の有機電界発光素子と接していない表面の少なくとも一部が曲面状であることは、本発明の好適な実施形態の1つである。
上記のとおり、このように有機電界発光素子と立体形状の光拡散部材が配置されたものであれば、有機電界発光素子の光取り出し面からの光が立体形状の部材内部を通って立体形状の部材の曲面状表面から放出され、三次元光源となる。このような構成にすると、有機電界発光素子は平面形状のままで発光素子が三次元光源となるため、厚みがあり、曲げにくい有機電界発光素子を用いた場合でも三次元光源を得ることができる。
以下においては、この形態を本発明の発光素子の第一の実施形態ともいう。
【0022】
上記発光素子が、有機電界発光素子の光取り出し面とは逆の面が立体形状の部材の曲面状の表面に接して配置されていることもまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
上記のとおり、立体形状の部材の曲面状部分と、有機電界発光素子の光取り出し面とは逆の面とが接している場合、有機電界発光素子が光取り出し面側を外側にして曲面状になるため、三次元光源となる。
以下においては、この形態を本発明の発光素子の第二の実施形態ともいう。
【0023】
上記第一の実施形態の場合には、立体形状の部材が光を透過することが求められるため、可視光透過率が5%以上の材料を用いることが好ましい。より好ましくは、20%以上の材料である。
第一の実施形態の場合の材料としては、上記可視光透過率を満たす樹脂、ガラス、シリコーン等を材料として用いることが好ましい。
上記第二の実施形態の場合には、立体形状の部材が透明であることは求められない。このため、立体形状の部材の材料は特に制限されず、金属、木材、樹脂、ガラス等の様々な材料を用いることができる。
中でも、後述する立体印刷法を用いることで、様々な色や形状の部材を容易に形成することができるため、立体印刷法の材料として汎用されているABS樹脂、PLA樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ナイロン、ポリカーボネート、ポリオレフィン等の各種樹脂;SUS、チタン、銅、アルミニウム等の金属の中から、発光素子の実施形態に応じて適した材料を選択して用いることは、本発明の好適な実施形態の1つである。
【0024】
上記第一の実施形態に用いる立体形状の部材の材料は、有機電界発光素子の封止材料と屈折率の差が0.01以下の材料であることが好ましい。そのような材料を用いて形成された立体形状の部材を用いることで、有機電界発光素子と立体形状の部材との界面で光の反射が起こりにくくなり、本発明の発光素子が三次元光源としてよりきれいに発光する素子となる。上記屈折率の差は、より好ましくは、0.05以下であり、更に好ましくは、0.1以下である。
立体形状の部材の材料や有機電界発光素子の封止材料の屈折率は、屈折計により確認することができる。
【0025】
上記立体形状の部材を形成する方法は特に制限されないが、立体印刷法が好ましい。立体印刷法を用いることで、効率的に、かつ高い寸法精度で所望の立体形状の部材を形成することができる。したがって、上記立体形状の部材が、印刷造形物であることは本発明の好適な実施形態の1つである。
印刷造形物の形成には、3Dプリンタを材料に合わせて選択して用いることができる。
【0026】
本発明の発光素子が、上記第一の実施形態のものである場合、有機電界発光素子上に直接立体形状の部材を形成して製造してもよく、立体形状の部材を別に形成した後、有機電界発光素子上に配置して製造してもよい。
本発明の発光素子が、上記第二の実施形態のものである場合、立体形状の部材を別に形成した後、立体形状の部材の曲面状部分と有機電界発光素子とが接するように有機電界発光素子を配置して製造することができる。
立体形状の部材を別に形成した後、有機電界発光素子と該立体形状の部材とを接するように配置する場合、有機電界発光素子と該立体形状の部材との間に接着層を有していてもよい。
接着層を形成する材料としては、エポキシ樹脂等の、透明な接着層を形成することができる通常の接着剤等を用いることができる。本発明の発光素子が上記第一の実施形態のものである場合、立体形状の部材の材料と接着剤との屈折率の差が0.01以下であることが好ましいため、そのような接着剤を選択して用いることが好ましい。
【0027】
上記有機電界発光素子は、総膜厚が200μm以下であることが好ましい。有機電界発光素子の総膜厚が200μm以下であると、有機電界発光素子を曲面形状にしやすいため、特に上記第二の実施形態に用いる有機電界発光素子として好適なものとなる。有機電界発光素子は、総膜厚は、より好ましくは、150μm以下であり、更に好ましくは、100μm以下である。有機電界発光素子は、総膜厚は、通常1000μm以上である。
有機電界発光素子の総膜厚は、デジタルノギスにより測定することができる。
【0028】
以下においては、本発明の発光素子を構成する有機電界発光素子の構造や材料について記載する。
本発明の発光素子を構成する有機電界発光素子は、陽極と陰極との間に複数の有機化合物層が積層された構造を有する。本発明における有機電界発光素子の構成は特に制限されないが、陰極、電子注入層及び/又は電子輸送層、発光層、正孔輸送層及び/又は正孔注入層、陽極の各層をこの順に隣接して有する素子であることが好ましい。なお、これらの各層は、1層からなるものであってもよく、2層以上からなるものであってもよい。
上記構成の有機電界素子において、素子が電子注入層、電子輸送層のいずれか一方のみを有する場合には、当該一方の層が陰極と発光層とに隣接して積層されることになり、素子が電子注入層と電子輸送層の両方を有する場合には、陰極、電子注入層、電子輸送層、発光層の順にこれらの層が隣接して積層されることになる。また、素子が正孔輸送層、正孔注入層のいずれか一方のみを有する場合には、当該一方の層が発光層と陽極とに隣接して積層されることになり、素子が正孔輸送層と正孔注入層の両方を有する場合には、発光層、正孔輸送層、正孔注入層、陽極の順にこれらの層が隣接して積層されることになる。
【0029】
上記有機電界発光素子は、基板上に陽極が形成された順構造の素子であってもよく、基板上に陰極が形成された逆構造の素子であってもよいが、基板上に形成された陰極と陽極との間に複数の層が積層された構造を有する逆構造の素子であることが好ましい。
逆構造の有機電界発光素子では、陰極に大気安定性の高い材料を用いることで基板上に陽極が形成された順構造の有機電界発光素子に比べて大気安定性の高い素子とすることができ、厳密な封止が必要でなくなるため、素子の厚みを薄くすることができる。これにより、上記第一の実施形態において、3Dプリンタを用いて有機電界発光素子上に立体形状の部材を形成する際に、より多くの様々なプリンタを支障なく使用することが可能となる。また、上記第二の実施形態においても素子の厚みが薄くなることで立体形状の部材の曲面状部分に有機電界発光素子を沿わせることが容易になる。
【0030】
本発明の発光素子を構成する有機電界発光素子は、更に陰極と陽極との間に金属酸化物層を有する有機無機ハイブリッド型の有機電界発光素子であることが好ましい。金属酸化物を素子の材料として用いることで、素子がより連続駆動寿命や保存安定性に優れたものとなる。
本発明における有機電界発光素子は、基板上に隣接して陰極が形成され、陽極と陰極との間に金属酸化物層を有する有機無機ハイブリッド型の有機電界発光素子であって、発光層と陽極とを有し、陰極と発光層との間に、電子注入層と、必要に応じて電子輸送層とを有し、陽極と発光層との間に正孔輸送層及び/又は正孔注入層を有する構成の素子であることが好ましい。本発明における有機電界発光素子は、これらの各層の間に他の層を有していてもよいが、これらの各層のみから構成される素子であることが好ましい。すなわち、陰極、電子注入層、必要に応じて電子輸送層、発光層、正孔輸送層及び/又は正孔注入層、陽極の各層がこの順に隣接して積層された素子であることが好ましい。なお、これらの各層は、1層からなるものであってもよく、2層以上からなるものであってもよい。
【0031】
本発明の発光素子を構成する有機電界発光素子において、発光層を形成する材料としては、発光層の材料として通常用いることができるいずれの化合物も用いるができ、低分子化合物であっても高分子化合物であってもよく、これらを混合して用いてもよい。
なお、本発明において低分子材料とは、高分子材料(重合体)ではない材料を意味し、分子量が低い有機化合物を必ずしも意味するものではない。
【0032】
上記発光層を形成する高分子材料としては、例えば、トランス型ポリアセチレン、シス型ポリアセチレン、ポリ(ジ-フェニルアセチレン)(PDPA)、ポリ(アルキル,フェニルアセチレン)(PAPA)のようなポリアセチレン系化合物;ポリ(パラ-フェンビニレン)(PPV)、ポリ(2,5-ジアルコキシ-パラ-フェニレンビニレン)(RO-PPV)、シアノ-置換-ポリ(パラ-フェンビニレン)(CN-PPV)、ポリ(2-ジメチルオクチルシリル-パラ-フェニレンビニレン)(DMOS-PPV)、ポリ(2-メトキシ,5-(2’-エチルヘキソキシ)-パラ-フェニレンビニレン)(MEH-PPV)のようなポリパラフェニレンビニレン系化合物;ポリ(3-アルキルチオフェン)(PAT)、ポリ(オキシプロピレン)トリオール(POPT)のようなポリチオフェン系化合物;ポリ(9,9-ジアルキルフルオレン)(PDAF)、ポリ(ジオクチルフルオレン-アルト-ベンゾチアジアゾール)(F8BT)、α,ω-ビス[N,N’-ジ(メチルフェニル)アミノフェニル]-ポリ[9,9-ビス(2-エチルヘキシル)フルオレン-2,7-ジル](PF2/6am4)、ポリ(9,9-ジオクチル-2,7-ジビニレンフルオレニル-オルト-コ(アントラセン-9,10-ジイル)のようなポリフルオレン系化合物;ポリ(パラ-フェニレン)(PPP)、ポリ(1,5-ジアルコキシ-パラ-フェニレン)(RO-PPP)のようなポリパラフェニレン系化合物;ポリ(N-ビニルカルバゾール)(PVK)のようなポリカルバゾール系化合物;ポリ(メチルフェニルシラン)(PMPS)、ポリ(ナフチルフェニルシラン)(PNPS)、ポリ(ビフェニリルフェニルシラン)(PBPS)のようなポリシラン系化合物;更には特願2010-230995号、特願2011-6457号に記載のホウ素化合物系高分子材料等が挙げられる。
【0033】
上記発光層を形成する低分子材料としては、例えば、配位子に2,2’-ビピリジン-4,4’-ジカルボン酸を持つ、3配位のイリジウム錯体、ファクトリス(2-フェニルピリジン)イリジウム(Ir(ppy)3)、8-ヒドロキシキノリン アルミニウム(Alq3)、トリス(4-メチル-8キノリノレート) アルミニウム(III)(Almq3)、8-ヒドロキシキノリン 亜鉛(Znq2)、(1,10-フェナントロリン)-トリス-(4,4,4-トリフルオロ-1-(2-チエニル)-ブタン-1,3-ジオネート)ユーロピウム(III)(Eu(TTA)3(phen))、2,3,7,8,12,13,17,18-オクタエチル-21H,23H-ポルフィン プラチナム(II)のような各種金属錯体;ジスチリルベンゼン(DSB)、ジアミノジスチリルベンゼン(DADSB)のようなベンゼン系化合物;ナフタレン、ナイルレッドのようなナフタレン系化合物;フェナントレンのようなフェナントレン系化合物;クリセン、6-ニトロクリセンのようなクリセン系化合物;ペリレン、N,N’-ビス(2,5-ジ-t-ブチルフェニル)-3,4,9,10-ペリレン-ジ-カルボキシイミド(BPPC)のようなペリレン系化合物;コロネンのようなコロネン系化合物;アントラセン、ビススチリルアントラセンのようなアントラセン系化合物;ピレンのようなピレン系化合物;4-(ジ-シアノメチレン)-2-メチル-6-(パラ-ジメチルアミノスチリル)-4H-ピラン(DCM)のようなピラン系化合物;アクリジンのようなアクリジン系化合物;スチルベンのようなスチルベン系化合物;2,5-ジベンゾオキサゾールチオフェンのようなチオフェン系化合物;ベンゾオキサゾールのようなベンゾオキサゾール系化合物;ベンゾイミダゾールのようなベンゾイミダゾール系化合物;2,2’-(パラ-フェニレンジビニレン)-ビスベンゾチアゾールのようなベンゾチアゾール系化合物;ビスチリル(1,4-ジフェニル-1,3-ブタジエン)、テトラフェニルブタジエンのようなブタジエン系化合物;ナフタルイミドのようなナフタルイミド系化合物;クマリンのようなクマリン系化合物;ペリノンのようなペリノン系化合物;オキサジアゾールのようなオキサジアゾール系化合物;アルダジン系化合物;1,2,3,4,5-ペンタフェニル-1,3-シクロペンタジエン(PPCP)のようなシクロペンタジエン系化合物;キナクリドン、キナクリドンレッドのようなキナクリドン系化合物;ピロロピリジン、チアジアゾロピリジンのようなピリジン系化合物;2,2’,7,7’-テトラフェニル-9,9’-スピロビフルオレンのようなスピロ化合物;フタロシアニン(H2Pc)、銅フタロシアニンのような金属または無金属のフタロシアニン系化合物;更には特開2009-155325号公報および特願2010-230995号、特願2011-6458号に記載のホウ素化合物材料等が挙げられる。また、ケミプロ化成社の製品であるKHLHS-04、KHLDR-03等も用いることができる。
【0034】
上記発光層の平均厚さは、特に限定されないが、10~150nmであることが好ましい。より好ましくは、20~100nmであり、更に好ましくは、40~100nmである。
発光層の平均厚さは、低分子化合物の場合は水晶振動子膜厚計により、高分子化合物の場合は接触式段差計により測定することができる。
【0035】
本発明の発光素子を構成する有機電界発光素子が、電子輸送層を有する場合、その材料としては、電子輸送層の材料として通常用いることができるいずれの化合物も用いるができ、これらを混合して用いてもよい。
電子輸送層の材料として用いることができる化合物の例としては、トリス-1,3,5-(3’-(ピリジン-3’’-イル)フェニル)ベンゼン(TmPyPhB)のようなピリジン誘導体、(2-(3-(9-カルバゾリル)フェニル)キノリン(mCQ))のようなキノリン誘導体、2-フェニル-4,6-ビス(3,5-ジピリジルフェニル)ピリミジン(BPyPPM)のようなピリミジン誘導体、ピラジン誘導体、バソフェナントロリン(BPhen)のようなフェナントロリン誘導体、2,4-ビス(4-ビフェニル)-6-(4’-(2-ピリジニル)-4-ビフェニル)-[1,3,5]トリアジン(MPT)のようなトリアジン誘導体、3-フェニル-4-(1’-ナフチル)-5-フェニル-1,2,4-トリアゾール(TAZ)のようなトリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、2-(4-ビフェニリル)-5-(4-tert-ブチルフェニル-1,3,4-オキサジアゾール)(PBD)のようなオキサジアゾール誘導体、2,2’,2’’-(1,3,5-ベントリイル)-トリス(1-フェニル-1-H-ベンズイミダゾール)(TPBI)のようなイミダゾール誘導体、ナフタレン、ペリレン等の芳香環テトラカルボン酸無水物、ビス[2-(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾチアゾラト]亜鉛(Zn(BTZ)2)、トリス(8-ヒドロキシキノリナト)アルミニウム(Alq3)などに代表される各種金属錯体、2,5-ビス(6’-(2’,2’’-ビピリジル))-1,1-ジメチル-3,4-ジフェニルシロール(PyPySPyPy)等のシロール誘導体に代表される有機シラン誘導体等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
これらの中でも、Alq3のような金属錯体、TmPyPhBのようなピリジン誘導体が好ましい。
【0036】
上記電子注入層としては、窒素含有化合物から形成される窒素含有膜からなる層を用いることができる。
窒素含有膜からなる層を形成する窒素含有化合物としては、例えば、ポリビニルピロリドンのようなピロリドン類、ポリピロールのようなピロール類又はポリアニリンのようなアニリン類、又はポリビニルピリジンのようなピリジン類、同様に、ピロリジン類、イミダゾール類、ピペリジン類、ピリミジン類、トリアジン類などの含窒素複素環を有する化合物や、アミン化合物が挙げられる。
【0037】
上記窒素含有化合物としてはまた、窒素含有率の高い化合物が好ましく、ポリアミン類が好ましい。ポリアミン類は、化合物を構成する全原子数に対する窒素原子数の比率が高いため、有機電界発光素子を高い電子注入性と駆動安定性を有するものとする点から適している。
ポリアミン類としては、塗布により層を形成することができるものが好ましく、低分子化合物であっても高分子化合物であってもよい。低分子化合物としては、ジエチレントリアミン、ペンタメチルジエチレントリアミンのようなポリアルキレンポリアミンが好適に用いられ、高分子化合物では、ポリアルキレンイミン構造を有する重合体が好適に用いられる。特にポリエチレンイミンが好ましい。中でも、窒素含有化合物が、ポリエチレンイミン又はジエチレントリアミンであることは本発明の好適な実施形態の1つである。
なお、ここで低分子化合物とは、高分子化合物(重合体)ではない化合物を意味し、分子量の低い化合物を必ずしも意味するものではない。
【0038】
上記窒素含有膜の平均厚さは、特に限定されないが、0.5~10nmであることが好ましい。より好ましくは、1~5nmであり、更に好ましくは、1~3nmである。
発光層の平均厚さは、低分子化合物の場合は水晶振動子膜厚計により測定することができる。
【0039】
本発明の発光素子を構成する有機電界発光素子が、正孔輸送層を有する場合、正孔輸送層として用いる正孔輸送性有機材料には、各種p型の高分子材料や、各種p型の低分子材料を単独または組み合わせて用いることができる。
p型の高分子材料(有機ポリマー)としては、例えば、ポリアリールアミン、フルオレン-アリールアミン共重合体、フルオレン-ビチオフェン共重合体、ポリ(N-ビニルカルバゾール)、ポリビニルピレン、ポリビニルアントラセン、ポリチオフェン、ポリアルキルチオフェン、ポリヘキシルチオフェン、ポリ(p-フェニレンビニレン)、ポリチニレンビニレン、ピレンホルムアルデヒド樹脂、エチルカルバゾールホルムアルデヒド樹脂またはその誘導体等が挙げられる。
またこれらの化合物は、他の化合物との混合物として用いることもできる。一例として、ポリチオフェンを含有する混合物としては、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン/スチレンスルホン酸)(PEDOT/PSS)等が挙げられる。
【0040】
上記p型の低分子材料としては、例えば、1,1-ビス(4-ジ-パラ-トリアミノフェニル)シクロへキサン、1,1’-ビス(4-ジ-パラ-トリルアミノフェニル)-4-フェニル-シクロヘキサンのようなアリールシクロアルカン系化合物、4,4’,4’’-トリメチルトリフェニルアミン、N,N,N’,N’-テトラフェニル-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン、N,N’-ジフェニル-N,N’-ビス(3-メチルフェニル)-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(TPD1)、N,N’-ジフェニル-N,N’-ビス(4-メトキシフェニル)-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(TPD2)、N,N,N’,N’-テトラキス(4-メトキシフェニル)-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(TPD3)、N,N’-ジ(1-ナフチル)-N,N’-ジフェニル-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(α-NPD)、TPTEのようなアリールアミン系化合物、N,N,N’,N’-テトラフェニル-パラ-フェニレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラ(パラ-トリル)-パラ-フェニレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラ(メタ-トリル)-メタ-フェニレンジアミン(PDA)のようなフェニレンジアミン系化合物、カルバゾール、N-イソプロピルカルバゾール、N-フェニルカルバゾールのようなカルバゾール系化合物、スチルベン、4-ジ-パラ-トリルアミノスチルベンのようなスチルベン系化合物、OxZのようなオキサゾール系化合物、トリフェニルメタン、m-MTDATAのようなトリフェニルメタン系化合物、1-フェニル-3-(パラ-ジメチルアミノフェニル)ピラゾリンのようなピラゾリン系化合物、ベンジン(シクロヘキサジエン)系化合物、トリアゾールのようなトリアゾール系化合物、イミダゾールのようなイミダゾール系化合物、1,3,4-オキサジアゾール、2,5-ジ(4-ジメチルアミノフェニル)-1,3,4-オキサジアゾールのようなオキサジアゾール系化合物、アントラセン、9-(4-ジエチルアミノスチリル)アントラセンのようなアントラセン系化合物、フルオレノン、2,4,7-トリニトロ-9-フルオレノン、2,7-ビス(2-ヒドロキシ-3-(2-クロロフェニルカルバモイル)-1-ナフチルアゾ)フルオレノンのようなフルオレノン系化合物、ポリアニリンのようなアニリン系化合物、シラン系化合物、1,4-ジチオケト-3,6-ジフェニル-ピロロ-(3,4-c)ピロロピロールのようなピロール系化合物、フローレンのようなフローレン系化合物、ポルフィリン、金属テトラフェニルポルフィリンのようなポルフィリン系化合物、キナクリドンのようなキナクリドン系化合物、フタロシアニン、銅フタロシアニン、テトラ(t-ブチル)銅フタロシアニン、鉄フタロシアニンのような金属または無金属のフタロシアニン系化合物、銅ナフタロシアニン、バナジルナフタロシアニン、モノクロロガリウムナフタロシアニンのような金属または無金属のナフタロシアニン系化合物、N,N’-ジ(ナフタレン-1-イル)-N,N’-ジフェニル-ベンジジン、N,N,N’,N’-テトラフェニルベンジジンのようなベンジジン系化合物等が挙げられる。
【0041】
本発明の発光素子を構成する有機電界発光素子が、電子輸送層や正孔輸送層を有する場合、これらの層の平均厚さは、特に限定されないが、10~150nmであることが好ましい。より好ましくは、20~100nmであり、更に好ましくは、40~100nmである。
電子輸送層や正孔輸送層の平均厚さは、低分子化合物の場合は水晶振動子膜厚計により、高分子化合物の場合は接触式段差計により測定することができる。
【0042】
本発明の発光素子を構成する有機電界発光素子が金属酸化物層を有する場合、陰極から発光層までの間、陽極から発光層までの間のいずれか又は両方に金属酸化物層を有することになるが、陰極から発光層までの間との発光層から陽極までの間の両方に金属酸化物層を有することが好ましい。陰極から発光層までの間の金属酸化物層を第1の金属酸化物層、陽極から発光層までの間の金属酸化物層を第2の金属酸化物層とすると、第1の金属酸化物層は電子注入層、第2の金属酸化物層は正孔注入層として用いられることが好ましい。本発明における有機電界発光素子の好ましい素子の構成の一例を表すと、陰極、第1の金属酸化物層、窒素含有膜からなる層、発光層、正孔輸送層、第2の金属酸化物層、陽極がこの順に隣接して積層された構成である。なお、窒素含有膜からなる層と、発光層との間に必要に応じて電子輸送層を有していてもよい。金属酸化物層の重要性は、第1の金属酸化物層の方が高く、第2の金属酸化物層は、最低非占有分子軌道の極端に深い有機材料、例えば、HATCNでも置き換える事ができる。
【0043】
上記第1の金属酸化物層は、単体の金属酸化物膜の一層からなる層、もしくは、単体又は二種類以上の金属酸化物を積層及び/又は混合した層である半導体もしくは絶縁体積層薄膜の層である。金属酸化物を構成する金属元素としては、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、インジウム、ガリウム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、カドミウム、アルミニウム、ケイ素からなる群から選ばれる。これらのうち、積層又は混合金属酸化物層を構成する金属元素の少なくとも一つが、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、ジルコニウム、ハフニウム、ケイ素、チタン、亜鉛からなる層であることが好ましく、その中でも単体の金属酸化物ならば、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化亜鉛からなる群から選ばれる金属酸化物を含むことが好ましい。
【0044】
上記単体又は二種類以上の金属酸化物を積層及び/又は混合した層の例としては、酸化チタン/酸化亜鉛、酸化チタン/酸化マグネシウム、酸化チタン/酸化ジルコニウム、酸化チタン/酸化アルミニウム、酸化チタン/酸化ハフニウム、酸化チタン/酸化ケイ素、酸化亜鉛/酸化マグネシウム、酸化亜鉛/酸化ジルコニウム、酸化亜鉛/酸化ハフニウム、酸化亜鉛/酸化ケイ素、酸化カルシウム/酸化アルミニウムなどの金属酸化物の組合せを積層及び/又は混合したものや、酸化チタン/酸化亜鉛/酸化マグネシウム、酸化チタン/酸化亜鉛/酸化ジルコニウム、酸化チタン/酸化亜鉛/酸化アルミニウム、酸化チタン/酸化亜鉛/酸化ハフニウム、酸化チタン/酸化亜鉛/酸化ケイ素、酸化インジウム/酸化ガリウム/酸化亜鉛などの三種の金属酸化物の組合せを積層及び/又は混合したものなどが挙げられる。これらの中には、特殊な組成として良好な特性を示す酸化物半導体であるIGZOやエレクトライドである12CaO・7Al2O3も含まれる。
これら第1の金属酸化物層は、電子注入層ともいえ、また、電極(陰極)ともいえる。
なお、本発明においては、シート抵抗が100Ω/□より低い物は導電体、シート抵抗が100Ω/□より高い物は半導体または絶縁体として分類される。従って、透明電極として知られているITO(錫ドープ酸化インジウム)、ATO(アンチモンドープ酸化インジウム)、IZO(インジウムドープ酸化亜鉛)、AZO(アルミニウムドープ酸化亜鉛)、FTO(フッ素ドープ酸化インジウム)等の薄膜は、導電性が高く半導体または絶縁体の範疇に含まれないことから上記第1の金属酸化物層を構成する一層に該当しない。
【0045】
また上記第1の金属酸化物層は、金属酸化物の層を含む限り、金属酸化物の層と金属単体の層とが積層したものであってもよい。
金属酸化物を構成する元素は上記のとおりである。
金属単体の層の材料となる金属としては、銀、パラジウム等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0046】
上記第1の金属酸化物層が、金属酸化物の層と金属単体の層とが積層したものである場合、金属酸化物の層と金属単体の層とが交互に積層したものであることが好ましい。この場合、金属酸化物の層と金属単体の層の数は、金属酸化物の層が2層であり、金属単体の層が1層であることが好ましい。すなわち、1つの金属単体の層が2つの金属酸化物の層に挟まれた構造が好ましい。
【0047】
上記第2の金属酸化物層を形成する金属酸化物としては、特に制限されないが、酸化バナジウム(V2O5)、酸化モリブテン(MoO3)、酸化タングステン(WO3)、酸化ルテニウム(RuO2)等の1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、酸化バナジウム又は酸化モリブテンを主成分とするものが好ましい。第2の金属酸化物層が酸化バナジウム又は酸化モリブテンを主成分とするものにより構成されると、第2の金属酸化物層が陽極から正孔を注入して発光層又は正孔輸送層へ輸送するという正孔注入層としての機能により優れたものとなる。また、酸化バナジウム又は酸化モリブテンは、それ自体の正孔輸送性が高いため、陽極から発光層又は正孔輸送層への正孔の注入効率が低下するのを好適に防止することもできるという利点がある。より好ましくは、酸化バナジウム及び/又は酸化モリブテンから構成されるものである。
【0048】
上記第1の金属酸化物層の平均厚さは、1nmから数μm程度まで許容できるが、低電圧で駆動できる有機電界発光素子とする点から、1~1000nmであることが好ましい。より好ましくは、2~100nmである。
上記第2の金属酸化物層の平均厚さは、特に限定されないが、1~1000nmであることが好ましい。より好ましくは、5~50nmである。
第1の金属酸化物層の平均厚さは、触針式段差計、分光エリプソメトリーにより測定することができる。
第2の金属酸化物層の平均厚さは、水晶振動子膜厚計により成膜時に測定することができる。
【0049】
本発明の発光素子を構成する有機電界発光素子において、陽極及び陰極としては、公知の導電性材料を適宜用いることができるが、光取り出しのために少なくともいずれか一方は透明であることが好ましい。公知の透明導電性材料の例としてはITO(錫ドープ酸化インジウム)、ATO(アンチモンドープ酸化インジウム)、IZO(インジウムドープ酸化亜鉛)、AZO(アルミニウムドープ酸化亜鉛)、FTO(フッ素ドープ酸化インジウム)などが上げられる。不透明な導電性材料の例としては、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、錫、インジウム、銅、銀、金、白金やこれらの合金などが挙げられる。
陰極としては、この中でも、ITO、IZO、FTOが好ましい。
陽極としては、これらの中でも、Au、Ag、Alが好ましい。
上記のように、一般に陽極に用いられる金属を陰極及び陽極に用いる事ができる事から、上部電極からの光の取り出しを想定する場合(トップエミッション構造の場合)も容易に実現でき、上記電極を種々選んでそれぞれの電極に用いる事ができる。例えば、下部電極としてAl、上部電極にITOなどである。逆構造の有機ELでは、大気安定性の高いITOを陰極に用いることができるため、大気安定性が高く、素子寿命の長い素子とすることができる。
【0050】
上記陰極の平均厚さは、特に制限されないが、10~500nmであることが好ましい。より好ましくは、100~200nmである。陰極の平均厚さは、触針式段差計、分光エリプソメトリーにより測定することができる。
上記陽極の平均厚さは、特に限定されないが、10~1000nmであることが好ましい。より好ましくは、30~150nmである。また、不透過な材料を用いる場合でも、例えば平均厚さを10~30nm程度にすることで、トップエミッション型及び透明型の陽極として使用することができる。
陽極の平均厚さは、水晶振動子膜厚計により成膜時に測定することができる。
【0051】
本発明における有機電界発光素子において、有機化合物から形成される層の成膜方法は特に限定されず、材料の特性に合わせて種々の方法を適宜用いることができるが、溶液にして塗布できる場合はスピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイヤーバーコート法、スリットコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェット印刷法等の各種塗布法を用いて成膜することができる。このうち、膜厚をより制御しやすいという点でスピンコート法やスリットコート法が好ましい。塗布しない場合や溶媒溶解性が低い場合は真空蒸着法や、ESDUS(Evaporative Spray Deposition from Ultra-dilute Solution)法などが好適な例として挙げられる。
【0052】
上記有機化合物から形成される層を、有機化合物溶液を塗布して形成する場合、有機化合物を溶解するために用いる溶媒としては、例えば、硝酸、硫酸、アンモニア、過酸化水素、水、二硫化炭素、四塩化炭素、エチレンカーボネイト等の無機溶媒や、メチルエチルケトン(MEK)、アセトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、メチルイソプロピルケトン(MIPK)、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール(DEG)、グリセリン等のアルコール系溶媒、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,2-ジメトキシエタン(DME)、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、テトラヒドロピラン(THP)、アニソール、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグリム)、ジエチレングリコールエチルエーテル(カルビトール)等のエーテル系溶媒、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、フェニルセロソルブ等のセロソルブ系溶媒、ヘキサン、ペンタン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒、トルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒、ピリジン、ピラジン、フラン、ピロール、チオフェン、メチルピロリドン等の芳香族複素環化合物系溶媒、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMA)等のアミド系溶媒、クロロベンゼン、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン等のハロゲン化合物系溶媒、酢酸エチル、酢酸メチル、ギ酸エチル等のエステル系溶媒、ジメチルスルホキシド(DMSO)、スルホラン等の硫黄化合物系溶媒、アセトニトリル、プロピオニトリル、アクリロニトリル等のニトリル系溶媒、ギ酸、酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸等の有機酸系溶媒のような各種有機溶媒、または、これらを含む混合溶媒等が挙げられる。
これらの中でも、溶媒としては、非極性溶媒が好適であり、例えば、キシレン、トルエン、シクロヘキシルベンゼン、ジハイドロベンゾフラン、トリメチルベンゼン、テトラメチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒、ピリジン、ピラジン、フラン、ピロール、チオフェン、メチルピロリドン等の芳香族複素環化合物系溶媒、ヘキサン、ペンタン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒等が挙げられ、これらを単独または混合して用いることができる。
【0053】
上記陰極、陽極、及び、酸化物層は、スパッタ法、真空蒸着法、ゾルゲル法、スプレー熱分解(SPD)法、原子層堆積(ALD)法、気相成膜法、液相成膜法等により形成することができる。陽極、陰極の形成には、金属箔の接合も用いることができる。これらの方法は各層の材料の特性に応じて選択するのが好ましく、層ごとに作製方法が異なっていても良い。第2の金属酸化物層は、これらの中でも、気相製膜法を用いて形成するのがより好ましい。気相製膜法によれば、有機化合物層の表面を壊すことなく清浄にかつ陽極と接触よく形成することができ、その結果、上述したような第2の金属酸化物層を有することによる効果がより顕著なものとなる。
【0054】
上記有機電界発光素子の特性をさらに向上させる等の理由から、必要に応じて例えば正孔阻止層、電子阻止層などを有していてもよい。これらの層を形成するための材料としては、これらの層を形成するために通常用いられる材料を用い、また、これらの層を形成するために通常用いられる方法により層を形成することができる。
【0055】
また、積層構造の最後の電極を形成した後に、表面を保護するパッシベーション層をその上に形成してもよい。パッシベーション層の材料としてはこれらの層を形成するために通常用いられる材料を用いることができる。例えば、上述した正孔輸送層の材料及び/又は金属酸化物層の材料を用いることができるが、絶縁を保持できる組み合わせであればこれに限らない。
【0056】
上記パッシベーション層の平均厚さは、特に制限されないが、20~300nmであることが好ましい。より好ましくは、50~200nmである。
パッシベーション層の平均厚さは、水晶振動子膜厚計により成膜時に測定することができる。
【0057】
本発明の発光素子を構成する有機電界発光素子において、基板の材料としては、樹脂材料、ガラス材料等が挙げられる。
基板に用いられる樹脂材料としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、ポリアミド、ポリエーテルサルフォン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリアリレート等が挙げられる。基板の材料として、樹脂材料を用いた場合、柔軟性に優れた有機電界発光素子が得られる。
基板に用いられるガラス材料としては、石英ガラス、ソーダガラス等が挙げられる。
【0058】
上記基板の平均厚さは、10~150μmであることが好ましい。より好ましくは、10~50μmである。
基板の平均厚さはデジタルノギスにより測定することができる。
【0059】
上記有機電界発光素子は、パッシベーション層の上に更に封止層を有していてもよい。封止層を形成する材料としては上記基板の材料と同様のものを用いることができ、封止層の厚みも上記基板の厚みと同様であることが好ましい。
【0060】
本発明の発光素子を構成する有機電界発光素子に封止を施す場合、封止工程としては、通常の方法を適宜使用できる。例えば、不活性ガス中で封止容器を接着する方法や、有機電界発光素子の上に直接封止膜を形成する方法などが挙げられる。これらに加えて、水分吸収材を封入する方法を併用してもよい。
上述した逆構造の有機電界発光素子は、順構造の有機電界発光素子に比べると厳密な封止は必要ないが、必要であれば封止を施しても良い。
【0061】
上記有機電界発光素子は、基板がある側とは反対側に光を取り出す(すなわち、基板がある側とは反対側が光取り出し面である)トップエミッション型のものであってもよく、基板がある側に光を取り出す(すなわち、基板がある側が光取り出し面である)ボトムエミッション型のものであってもよい。
【0062】
本発明の発光素子は、三次元光源として好適に用いることができる素子であって、表示装置や照明装置等に好適に用いることができる。このような本発明の発光素子を含む表示装置や照明装置もまた、本発明の1つである。
【実施例】
【0063】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0064】
1.有機電界発光素子の作製
(製造例1)
以下に示す方法により、有機電界発光素子1を製造した。
[工程1]
基板1として、尾池工業から購入した厚さ25μmのバリア層付PETフィルム上に、日本化薬製のSU-8をスピンコートにより塗布し、100℃に加熱されたホットプレート上でベークした。
[工程2]
基板1をスパッタリング装置にセットし、基板1上に、亜鉛金属をターゲットとし、反応ガスとして酸素をキャリアガスとしてアルゴンを用いたスパッタ法により、平均厚さ20nmの酸化亜鉛(ZnO)層を形成した。その後、真空蒸着装置にセットし、平均厚さ8nmの銀層を形成した。その後、再びスパッタリング装置にセットし、平均厚さ2nmの酸化亜鉛層を形成した。基板1を大気下に移し、ホットプレートにより100℃30分アニールを行うことで、透明電極2と酸化物層3を形成した。
[工程3]
次に、日本触媒製ポリエチレンイミンを酸化物層3の上にスピンコートにより塗布し、電子注入層4を形成した。電子注入層4の平均厚さは、2nmであった。
[工程4]
次に、電子注入層4までの各層が形成された基板1を、真空蒸着装置の基板ホルダーに固定した。また、ケミプロ化成より購入したKHLHS-04、KHLDR-03、下記式(1)で示されるN,N’-ジ(1-ナフチル)-N,N’-ジフェニル-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(α-NPD)をそれぞれアルミナルツボに入れて蒸着源にセットした。そして、真空蒸着装置内を約1×10-5Paの圧力となるまで減圧して、KHLHS-04を10nm蒸着し、電子輸送層5を形成した。次にKHLHS-04、α-NPDをホスト材料、KHLDR-03を発光ドーパントとして15nm共蒸着し、発光層6を成膜した。 次に、α-NPDを40nm蒸着することにより、正孔輸送層7を成膜した。さらに、三酸化モリブデンMoO3を真空一貫で蒸着することにより成膜し、膜厚が10nmの正孔注入層8を形成した。
[工程5]
次に、正孔注入層8まで形成した基板1上に、アルミニウム(陽極9)を膜厚が70nmとなるように蒸着した。
[工程6]
次に、陽極9まで形成した基板1上にα-NPDを100nm蒸着し、続いてスパッタリング装置で酸化亜鉛を20nm成膜することで、パッシベーション層10を得た。
[工程7]
次にパッシベーション層10まで形成した基板1をグローブボックスに輸送し、基板1上にスリーボンド製TB1655、尾池工業から購入した厚さ25μmのバリア層付PETフィルムをそれぞれ積層し、90℃に加熱されたホットプレート上で1時間アニールすることにより、封止層11を形成し、「有機電界発光素子1」を得た。
ミツトヨ製デジマチックインジケーター、ID-C112ABにより得られた有機電界発光素子1の厚みを測定したところ、総膜厚は72μmであった。
【0065】
【0066】
2.有機電界発光素子と立体形状の部材とを有する発光素子の作製
(実施例1)
製造例1で作製した有機電界発光素子1上に、XYZプリンティング社製の3Dプリンター、ノーベル1.0を用い、クリア色の標準レジンを材料として3Dプリントし、
図1に示す写真の様な、厚さ約65mm、幅約45mmの柱が多数組み合わさった形状の3D曲面を有する立体形状の部材を造形することで、曲面表面まで導光された発光素子1が得られた。3Dプリント造形された立体形状部材の表面積は、有機電界発光素子1の発光面の面積の200%以上であった。ATAGO社の屈折計DR-M2を用いて、有機電界発光素子1の封止材と3Dプリントした硬化樹脂の屈折率差を測定すると0.05であった。
【0067】
(実施例2)
製造例1で作製した有機電界発光素子1上に、XYZプリンティング社製の3Dプリンター、ノーベル1.0を用いて、クリア色の標準レジンを材料として3Dプリントし、
図2に示す写真の様な、直径約3mmの中央の柱から厚さ約65mm、幅約45mmの6枚の葉が垂れ下がったような形状の部材を造形することで、曲面表面まで導光された発光素子2が得られた。3Dプリント造形された立体形状部材の表面積は、有機電界発光素子1の発光面の面積の200%以上であった。ATAGO社の屈折計DR-M2を用いて、有機電界発光素子1の封止材と3Dプリントした硬化樹脂の屈折率差を測定すると0.05であった。