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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-29
(45)【発行日】2024-02-06
(54)【発明の名称】透明樹脂板
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/14 20150101AFI20240130BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20240130BHJP
【FI】
G02B1/14
B32B7/023
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020066097
(22)【出願日】2020-04-01
(65)【公開番号】P2021162770
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】399034253
【氏名又は名称】株式会社レニアス
(74)【代理人】
【識別番号】100091719
【弁理士】
【氏名又は名称】忰熊 嗣久
(72)【発明者】
【氏名】野尻 秀智
(72)【発明者】
【氏名】岩井 和史
(72)【発明者】
【氏名】足立 真希
【審査官】池田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-115502(JP,A)
【文献】特開2009-175226(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102792191(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104321693(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108196327(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 1/14
B32B 7/023
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハードコート層と樹脂シート基板の間にプライマー層が設けられた透明樹脂板において、前記ハードコート層には中空微粒子が存在しておらず、前記プライマー層は、厚さ1乃至4μmの膜厚を有し、かつ中空微粒子が均一に存在しており、当該中空微粒子の濃度は4重量%以上8重量%以下であり、かつ
前記プライマー層の中空微粒子は、粒径50~100nmであることを特徴とする透明樹脂板。
【請求項2】
請求項1の透明樹脂板において、前記プライマー層の中空微粒子は、粒径50~100nmの中空シリカで、かつシリカの殻の厚さが5~15nmの範囲でバラ付く中空微粒子であることを特徴とする透明樹脂板。
【請求項3】
請求項1若しくは2の透明樹脂板において、前記プライマー層の中空微粒子の濃度は6重量%以上8重量%以下であることを特徴とする透明樹脂板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、干渉縞を低減させた透明樹脂板に関する。
【背景技術】
【0002】
無色透明なポリカーボネート基板は、強度が高く、軽量であり、かつ加工や成形が容易であることから、ガラスに代わる透明樹脂板として利用が広まっている。しかし、ポリカーボネート基板は、ガラスの基板に比べ表面は非常に傷がつきやすい。そこでポリカーボネート基板上にハードコート層と称する硬質薄膜を形成し、耐擦傷性の向上を図ることが行われている。このハードコート層は、ポリカーボネート基板の表面にアクリル樹脂あるいはシリコーンポリマーを塗布形成し硬質薄膜を形成することによって行われる。
【0003】
一方、屈折率の差が大きい層を積層させた積層体にあっては、互いに重なり合った層の界面において、界面反射および干渉縞が生じる。表層と下層との屈折率が相違する場合、干渉縞の発生が生じ易いとされている。透明樹脂板表面の全ての場所に対してシリコーンポリマーを膜厚が均一になるように塗布することは殆ど不可能で有り、うねり状の膜厚ムラが生じる。このような膜厚ムラにより干渉縞が生じる。
【0004】
ハードコート層の膜厚ムラによって反射光の光路長が場所によって異なり、ハードコート層の表面で反射した光とハードコート層とその下の層との界面で反射した光が互いに重なり合う際に、お互いに強め合う場所と弱め合う場所が生じ、干渉縞になるのである。
【0005】
このような干渉縞を防止するため、液晶画面に用いられる特許文献1のフィルムにおいては、干渉防止塗膜層には透明樹脂ビーズ(平均粒径1.0μm~5.0μm)を含有させて所定の範囲の表面粗さからなる微細凹凸面を形成し、その上にハードコート層を成膜する。この構成によれば、表面から入射し隣接層の界面で反射された反射光が散乱され、表面で反射した光との干渉を生じさせないとしている。
【0006】
特許文献2の光学積層体においては、光透過基材の上にハードコート層が設けられ、その界面が実質的に存在しないようにして、界面による反射を抑制している。具体的には、ハードコート層の組成物を、光学積層体に対して浸透性を有する溶剤とする。光学積層体に浸透することにより、ハードコート層と光学積層体との境がぼやける。さらにハードコート層内に透明樹脂ビーズを含有させて防眩効果を発揮させることも開示している。尚、この技術も液晶画面に用いられるものである。
【0007】
また、特許文献1、2においては、ハードコート層の上層に低屈折率層を成膜している。ハードコート層よりも低い屈折率の層を設けることにより、光学積層体の反射率を下げることができるからである。特許文献2の低屈折率層には、内部に空洞を有する中空微粒子が分散されている。このような中空微粒子は、特許文献3に開示されており、コア粒子の外周にシリカ等の素材をコーティングし、その後コア粒子を溶解させて、内部に中空を設ける。この中空微粒子を一定以上分散させることにより、反射防止膜として利用することができる。
【0008】
この中空微粒子は、シリカを外殻とした中空構造内部に空気を含んでおり、この中空微粒子を整列させかつ、粒子間の隙間を減らして成膜することで、膜自体の屈折率を下げる。ガラス基板(屈折率1.5)に対してこのような反射防止膜を設けるとき、反射防止膜の膜厚を波長の1/4にすると、反射防止膜の屈折率をガラス基板と空気の中間程度の屈折率1.2~1.3にすれば、原理的には反射防止膜表面の反射光と反射防止膜裏面の反射光が互いに打ち消し合い、反射を抑制することができるのである。また、例えば、特許文献4によれば、このような微粒子の他の用途としては、断熱フィルムの内部に分散して、透明フィルムに遮熱機能を持たせる用途もある。
【文献】特開2004-69867号公報
【文献】特開2006-293279号公報
【文献】特開2001-233611号公報
【文献】特開2012-56138号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
透明樹脂板のハードコート層の厚みに起因して、虹色の縞模様の干渉縞が見える。干渉縞、は蛍光灯下で目立ち、外観を損なうという問題がある。
特許文献1においては、プライマー層に含有させる透明樹脂ビーズの粒径が大きく、プライマー層を制御することが難しい。また、特許文献2においては、ハードコート層の溶剤の選定について制限がある。
従って本発明の目的は、透明性と耐擦傷性を保ち、かつ干渉縞の少ない透明樹脂板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
従って、本発明は、ハードコート層と樹脂シート基板の間にプライマー層が設けられた透明樹脂板において、前記ハードコート層には中空微粒子が存在しておらず、前記プライマー層は、厚さ1乃至4μmの膜厚を有し、かつ中空微粒子が均一に存在しており、当該中空微粒子の濃度は4重量%以上8重量%以下であり、かつ前記プライマー層の中空微粒子は、粒径50~100nmであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の透明樹脂板は、ハードコート層と樹脂シート基板の間に設けられるプライマー層は、アクリル樹脂に中空微粒子を分散して成膜したものであり、ハードコート層には中空微粒子は分散させない。ランダムの深さに存在する中空微粒子により発生する反射光により干渉縞を低減することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】透明樹脂板の断面図である。
図2】実施例1による透明樹脂板の外観を示す図である。
図3】実施例1による透明樹脂板の特性値を示す図である。
図4】実施例1による透明樹脂板の表面粗さを示す図である。
図5】実施例1による透明樹脂板のヘイズの測定結果を示す図である。
図6】実施例1による透明樹脂板の反射率を示す図ある。
図7】実施例2による透明樹脂板の外観と特性値を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
ポリカーボネート、アクリル等の樹脂シート基板は表面の硬度は高く無く非常に傷がつきやすいため、樹脂シート上に、シロキサンを含むシリコーンポリマーによるハードコート層を形成し、耐擦傷性の向上を図ることが行われている。一方、車両のフロントガラスの用途に透明樹脂板を用いる場合、ワイパーにより表面が頻繁に摩耗されるため耐擦傷性のさらなる向上が要求される。このような要求に対して、ハードコート層のシリコーンポリマーに含まれるSi-O-Si結合を、波長が200nm以下の真空紫外光(Xeランプ等)を照射することによって表面を二酸化ケイ素に改質する。
【0014】
特許文献1、2では、反射防止の為に反射防止膜を形成することが行われているが、車両のフロントガラスの用途に透明樹脂板の用途では、最表面にさらに反射防止膜を形成することは、耐擦傷性の観点から行えない。ワイパーにより、反射防止膜の中空微粒子が容易に割れて透過率が低減することにより、反射防止膜の機能が保てないからである。よって、このような用途では、反射防止膜が設けられないので、透明樹脂板の表面からの反射光は比較的大きな状態のままである。ハードコート層とその下層の界面からの反射光が、表面からの反射光に重なり干渉する。プライマ-層とハードコート層との界面もしくはプライマ-層と樹脂シート基板との界面では、互いの屈折率が近い数値のため反射光は弱いけれども、ハードコート層とプライマ-層の膜厚のうねりにより光路差が変化して薄らと干渉縞が生じるのである。
【0015】
本発明においては、ハードコート層と樹脂シート基板の間に設けられるプライマー層は、アクリル樹脂等の樹脂に中空微粒子を混入して成膜したものである。ハードコート層には中空微粒子は混入しない。ハードコート層と樹脂シート基板の屈折率は1.5前後である。また、中空微粒子を混入する前のアクリル樹脂も同程度の1.5前後の屈折率である。尚、ハードコート層とポリカーボネートとプライマー層の間での屈折率の大きさについての順序性は特に限定されない。
【0016】
中空微粒子は、内部には、その周囲とは屈折率の大きく異なる空気を含み、中空微粒子に侵入した光はその界面で拡散反射する。ハードコート層の屈折率、プライマー層の屈折率、樹脂ガラス基板の屈折率は1.5前後であり、ほぼ似たような値であるが、中空微粒子から拡散反射された反射光は、各界面からの反射光に対して干渉する十分な強度を持っていると考えられる。本発明では、中空微粒子をプライマー層内の任意の高さ位置に配置し、プライマー層に入射した光が任意の高さ位置の中空微粒子を通過するようにする。
【0017】
図1において、透明樹脂板1において、中空微粒子2は適度な頻度で、プライマー層4(アクリル樹脂等)に分散している。中空微粒子2の中空に対して、そのまわりの素材(シリカ等)やプライマー層4の屈折率の差が大きいため、プライマー層4から中空微粒子2内に入射した光に対する拡散反射の反射光r1はある程度の強度を有している。ハードコート層5とプライマ-層4の界面k1、および、プライマ-層4と樹脂シート基板3の界面k2からの反射光s1、s2と反射光r1が、ハードコート層からの反射光Rに干渉する。中空微粒子2のプライマー層4における界面k1からの距離はランダムであり、反射光r1の位相もランダムである。よって、プライマ-層4や、ハードコート層5の塗布による連続的な膜厚の変化による干渉縞の発生は抑えられる。
【0018】
尚、樹脂シート基板3の裏側(図面の下側)にも、ハードコート層とプライマ-層が設けられても良いが、樹脂シート基板3の厚さの絶対的な厚さが圧倒的に厚いので、樹脂シート基板3の裏側からの反射光は、干渉縞には影響がほぼ無い。
【0019】
中空微粒子からの反射光の強度を各界面からの反射光よりも優勢にするため、中空微粒子の数、大きさ、プライマー層に対する濃度を調整する。プライマー層に入射した光が任意の深度で少なくともn個の中空微粒子を通過する比率を、最低限度の中空微粒子の濃度と仮定する。また、界面よりも入射光の波長の1/8よりも浅い位置に多くの中空微粒子が存在するようになると、界面の形状に倣った反射光になってしまう。このため、界面よりも入射光の波長の1/8より深い位置からの反射光が多くの割合となるような中空微粒子の比率を最大限度の中空微粒子の濃度と仮定する。
【0020】
以下、計算により、中空微粒子の比率の下限と上限を求めるが、実際の中空微粒子は、その大きさをある特定の大きさに揃えることは困難であり、ある程度ばらついており、例えば、実施例において使用する中空微粒子は、粒径が比較的大きな範囲でばらついている。また、殻の厚さも大きな範囲でばらついている。中空微粒子の形状は、立方体形状のものもあれば、球状のものもある。また、その形状も、完全な立方体若しくは球ではない。
【0021】
以下、プライマ-層の厚さをtμmとし、一辺がxnmの立方体の中空微粒子が理想的に均一に分散されているとして、中空微粒子の濃度についての考え方を示す。球の場合は、濃度を4/π倍して考えれば良い。以下、単に濃度と言うときには、重量パーセント濃度をいうものとする。
【0022】
まず、中空微粒子の重量比の下限について検討する。プライマ-層に垂直に入射した光が、プライマ-層の界面からランダムの深さでいくつの中空微粒子と衝突すれば、各界面の反射光よりも中空微粒子の反射光が優位になり、干渉縞が抑制できるのかを検証する。
【0023】
立方体の中空微粒子が、縦x、横t、厚さtのプライマ-層の中に厚さ方向にn個ずつ存在するとして濃度を求めると以下のように計算できる。

中空微粒子の重量=n×a×x×t/x=n×a×x×t=A

プライマー層の重量=b×(x×t-x×t)=B
aは中空微粒子の比重、bはプライマー層の比重

中空微粒子の濃度=A/(A+B)――――(1)
【0024】
粒径75nmとし、プライマ-層の膜厚を2μmとすると、中空微粒子の濃度は(n×4.5)%である。
尚、中空微粒子の殻の厚さ10nmとし、シリカの比重を2、プライマ-層の比重を1として計算した。
【0025】
仮に平均粒径10nmで、中空微粒子の殻の厚さ1.3nmの中空微粒子が利用可能な中空微粒子として存在すれば、上記式に当てはめると中空微粒子の濃度は(n×0.6)%となるはずである。
【0026】
次に、中空微粒子の濃度の上限について検討する。光の波長λに対して、λ/8の中に中空微粒子が50%の確率で存在するためには、縦横xλ/4、界面からの深さλ/4の範囲に少なくとも1つの中空微粒子が均一に存在することとして、重量比を求めると以下のとおりである。
【0027】
中空微粒子の重量=a×x×λ/(4×x)=a×x×λ/4=C
アクリル樹脂の重量=b×(x×(λ/4)-x×(λ/4))=D

中空微粒子の濃度=C/(C+D)――――(2)
【0028】
光の可視光の波長は400nmから800nmである。例えば400nmの波長の光に対しては、78%の濃度にすれば、おおよそ当該波長の1/4の辺り(100nm)から50%以上の中空微粒子を存在することになる。また、800nmの波長の光に対しては、42%の濃度にすれば、おおよそ当該波長の1/4の辺り(200nm)から50%以上の中空微粒子が存在することになる。よって、光の全ての可視光の波長に対しては、濃度の上限は42%である。
【0029】
仮に平均粒径10nmで、中空微粒子の殻の厚さ1.3nmの中空微粒子が利用可能な中空微粒子として存在すれば、上記式に当てはめると中空微粒子の濃度は400nmの波長の光に対しては11.7%となり、800nmの波長の光に対しては5.9%になるはずである。光の全ての可視光の波長に対しては、濃度の上限は5.9%である。
【0030】
一方で、中空微粒子の比率を増やすと、ヘイズが増加する。従って、中空微粒子の上限量は、上記C/(C+D)により得られる濃度、若しくは適正なヘイズが得られる濃度とすべきである。
【0031】
一方、透明性を維持するために、中空微粒子の粒径は可視光の波長の1/2以下、すなわち200nm以下にする必要がある。また、中空微粒子を小さくすると、殻のために空洞を確保できなくなる。よって、以下の各実施例においては、粒径50~100nmの範囲でバラ付き、殻の厚さも5~15nmの範囲でバラ付いてはいるが、現時点で安定して利用可能な中空微粒子を使用する。また、この中空微粒子は、中空シリカであって角の丸い立方体形状である。尚、中空微粒子としては、シリカの他にチタニア、硫化亜鉛、硫化カドミウム、有機ポリマー等がある。また、形状はコア粒子の形状によっており、球状形状のものもある。いずれも利用可能である。球状形状の場合は、立方体の中空微粒子と比べて、投影面積がπ/4になってやや減ってしまうので、立方体よりも高いの濃度の中空微粒子が必要と考えられ、理論上は4/π程度増量すれば良い。しかしながら、式(1)は、そもそも、現実に対してばらつきを相当許容しているので、中空微粒子として球状形状のものを使用する際にも、式(1)を利用しても差し支えない。
【0032】
以上の考察の上で、以下に実施例を示して検証する。
各実施例においては、樹脂シート基板としては、ポリカーボネ-トを用いる。樹脂シート基板の上に設けられるプライマー層としては、例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ウレタンアクリレート樹脂等の各樹脂を使用する。プライマー層は湿式法のうちディップコーティング法により塗布する。尚、プライマー層の厚さは1μm-4μmが一般的である。
【0033】
ハードコート層としては、シリコーンポリマーからなり、具体的には、アルコキシシランをベースとして、縮合反応を経由して得られたシロキサンゾルを、加水分解して得られるシロキサン樹脂を用いることが知られている。ハードコート層は湿式法により塗布される。ハードコート層の厚さは、どのような厚さでも良く、4μm程度である。
【0034】
ハードコート層の表面側に対してさらに強度を持たせるため、シリコーンポリマーに含まれるSi-O-Si結合を、波長が200nm以下の真空紫外光(Xeランプ等)を照射することによって二酸化ケイ素に改質してもよい。二酸化ケイ素の膜厚が厚くなるに従って、改質に必要な酸素が大気中から酸素が取り込めず、ハードコート層内の酸素が欠乏してくるため、膜厚の成長の速度は鈍化する。また二酸化ケイ素膜の光吸収係数は、波長172nmにおいて1×104cm-1程度であるため、1.3μm程度でその膜厚は飽和する。この改質膜は、塗布によって形成されるものではなく、光改質によるものであって均一であり、改質膜とハードコート層の界面における反射光は干渉縞には影響がない。ハードコート層には、中空微粒子が存在していないので、改質膜の中に中空微粒子が混在することがなく、均一な改質膜が作成できる。
【0035】
[実施例1]
粒径50~100nmの中空微粒子をアクリル樹脂に添加し分散させた。その際、プライマー固形分に対して中空微粒子の濃度が、0%、2%、4%、6%、8%、10%となるように分散液を作成した。これらを、屈折率が1.6のポリカーボネートにディップコーティング法により成膜して、中空微粒子の濃度の異なるプライマー層を作成した。各プライマー層の厚さは、2μm(若干の+/-有り、図3参照)である。プライマー層の乾燥後にハードコート層をディップコーティング法により成膜し乾燥させた。ハードコート層の屈折率は1.4である。
【0036】
図2はこのようにして作成された透明樹脂板の表面を観察した結果を示している。0%、2%、4%、6%、8%、10%と中空微粒子の濃度を次第に増やしてゆくと、干渉縞が次第に薄くなって行く様子が示されている。干渉縞の有無について目視にて評価すると、4%以上の濃度にすると、干渉縞が薄く見えづらくなり、6%以上で見えなくなっている。これは、上記計算式(1)によれば、n=1にして求めた数値4.5%にほぼ一致しており、プライマー層に入射した光が少なくとも1つの中空微粒子を通過する濃度であれば、干渉縞の発生を抑制できると考えられる。
【0037】
図3は、各濃度の透明樹脂板について物理的な数値を示している。プライマー層の厚さはほぼ2μmである。ハードコート層(図中の表記は「トップ層」)の厚さはほぼ5.5μmになっている。図4は各層の表面粗さを示しており、図4Aは中空微粒子の濃度10%のプライマー層の表面で有り、図4Bはそのハードコート層の表面を示している。プライマー層の表面は、数百nmの範囲で厚さが揺らいでいることが分かる。一方、ハードコート層の表面は平滑化されており、ハードコート層からの反射光と、ハードコート層とプライマー層との界面からの反射光とが、場所によって光路差が生じて干渉縞が起こり得る状態であることを示している。
【0038】
図5はこのようにして作成された透明樹脂板のヘイズの測定値をグラフ化したものである。中空微粒子の濃度が増加するに従って、ヘイズが増加する様子が示されている。中空微粒子を添加しない場合には、プライマー層によるヘイズは0.04%であることから、中空微粒子の存在によりヘイズが大きく増加しているのがわかる。一般に、ポリカーボネートのヘイズは2%、アクリルのヘイズは0.5%とされていることから、最終的な製品としての透明樹脂板の透明度を確保するためには、プライマー層単独でもせいぜい1%以下にヘイズを押さえなくてはならない。
【0039】
図5に示すように、中空微粒子の濃度が10%を以上であれば、ヘイズは1%を超えるので、中空微粒子の濃度の上限値は、計算式(2)によらずに、ヘイズの大きさが中空微粒子の濃度の上限を決める要因となる。
【0040】
よって、本粒径50~100nmの中空微粒子を分散させた厚さ2μmのプライマー層は、入射した光が界面からいずれかの深さで少なくとも1つ程度の中空微粒子と衝突するだけの中空微粒子の濃度を下限として含んでいれば良い。そして、その値は図3より、干渉縞が薄くなっていることが観察できる4%の場合の透明樹脂板である。そして、好ましくは、6%以上の透明樹脂板である。そして中空微粒子の濃度の上限は、式(2)の光波長800nmのときの42%である。一方で、ヘイズを考慮すると、ヘイズを1%に押さえるためには、中空微粒子の濃度の上限は、図5より8%である。
【0041】
また、ハードコート表面(透明樹脂板の表面)の反射率を測定し、可視光380~830nm での反射率のばらつきを測定した。測定結果を図6に示す。反射率のばらつきを反射率の標準偏差として計算すると、中空微粒子を分散しない場合に比べて、中空微粒子を分散した場合にはランダムの深さで発生する反射により反射率の標準偏差が低減されることが確認できた。
【0042】
干渉縞についてその存在の程度を数値的に評価する数値的な指標は存在していない。しかしながら、干渉縞は光路差により強め有ったり弱め有ったりするものであり、光路差は波長に依存するものであるから、反射率のばらつきが少なければ、光路差つまり膜厚が変動しても周波数による反射光の強さは影響を受けにくくなるので、干渉縞が出にくい環境を示しているのではないかと考えられる。よって、本明細書では、反射率の標準偏差が一応の数値的な指標として使用するものとする。
【0043】
干渉縞が薄く見えづらくなる中空微粒子の濃度は4%であり、好ましいとされる中空微粒子の濃度7%に対応する反射率の標準偏差は0.417であり、6%に対応する反射率の標準偏差は0.328である。反射率の標準偏差が0.417を上回ると干渉縞が見えやすい環境になると考えられる。
【0044】
[実施例2]
粒径50~100nmの中空微粒子を4%アクリル樹脂に添加し分散させ、プライマー膜の膜厚が実験例1の2倍の4μmになるように狙って成膜した。干渉縞の存在確認のためにプライマー膜の膜厚を厚くした中空微粒子の混入0%の透明樹脂板を作成した。図7において、中空微粒子の混入0%の透明樹脂板は、プライマー膜の膜厚を2.8μmに増加しても反射率の標準偏差は0.61であり、干渉縞が観測される。反射率の標準偏差0.61は、プライマー膜の膜厚1.9μmの透明樹脂板における反射率の標準偏差0.574(図6)と同程度である。
【0045】
4%の中空微粒子を分散して作成した透明樹脂板では、干渉縞は観測されなかった。この透明樹脂板におけるプライマー膜の膜厚は3.5μmであり、反射率の標準偏差は0.29であった。式(1)に従うと中空微粒子の濃度は膜厚に反比例するので、膜厚が厚ければ、中空微粒子の濃度は低くても良い。仮にプライマー膜の膜厚は2μmで換算した中空微粒子の濃度は、7%(4×3.5÷2)である。反射率の標準偏差は0.29は、図6における中空微粒子の濃度の6%と8%と間の値で有り、図7図2との比較においても中空微粒子の濃度の6%と8%と間の干渉縞の見え方であることが観察される。
【0046】
よって、実施例2においても式(1)においても、n=1として干渉縞を低減する中空微粒子の濃度を求めても支障がないことがわかった。
【0047】
以上、実施例1及び2に示したように、ハードコート層と樹脂シート基板の間に設けられるプライマー層は、アクリル樹脂に中空微粒子を分散して成膜したものである。ハードコート層00には中空微粒子は分散させない。ランダムの深さに存在する中空微粒子により発生する反射光により干渉縞を低減することができる。
【0048】
使用する中空微粒子の粒径は、可視光の波長の1/2以下である。また、粒径50~100nmの中空微粒子を分散させた厚さ2μmのプライマー層の場合、中空微粒子の濃度は4%を下限とし、好ましくは、6%以上である。そして中空微粒子の濃度の上限は42%であり、好ましくは8%以下である。
【0049】
また、中空微粒子の濃度は、プライマ-層の中に均等に分散した中空微粒子の少なくと1個に対して、垂直に入射した光が衝突する濃度、すなわち式(1)のn=1とした式(3)により求めた濃度を下限とする。

式(3)=ax/(ax+bt-bx)
但し、プライマ-層の厚さをt、中空微粒子の一辺がxnm、中空微粒子の比重a、アクリル樹脂の比重bとする。
【0050】
また、中空微粒子の濃度の上限は、式(2)の波長λ800nmの1/4の中に中空微粒子が50%の確率で存在する濃度であり、すなわち式(4)から求めた濃度である。

式(4)=ax/((a-b)x+b×(200nm))
但し、プライマ-層の厚さをt、中空微粒子の一辺がxnm、中空微粒子の比重a、アクリル樹脂の比重bとする。
【0051】
上記実施例において、本発明の趣旨を逸脱しない限り、ハードコート層とプライマー層との間、プライマー層と樹脂シート基板との間に、他の層を設けても良い。
【符号の説明】
【0052】
1 透明樹脂板
2 中空微粒子
3 樹脂シート基板
4 プライマー層
5 ハードコート層


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7