(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-31
(45)【発行日】2024-02-08
(54)【発明の名称】伝動装置
(51)【国際特許分類】
F16H 1/28 20060101AFI20240201BHJP
F16H 57/04 20100101ALI20240201BHJP
F16H 48/08 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
F16H1/28
F16H57/04 N
F16H57/04 J
F16H48/08
(21)【出願番号】P 2021545023
(86)(22)【出願日】2019-09-11
(86)【国際出願番号】 JP2019035638
(87)【国際公開番号】W WO2021048941
(87)【国際公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000238360
【氏名又は名称】武蔵精密工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110002192
【氏名又は名称】弁理士法人落合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】淺井 亮輔
(72)【発明者】
【氏名】佛田 尚文
【審査官】鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-183762(JP,A)
【文献】特開2013-224720(JP,A)
【文献】特許第3287972(JP,B2)
【文献】特開2012-041947(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0191168(US,A1)
【文献】実開平02-038562(JP,U)
【文献】特開2017-096325(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/28
F16H 57/04
F16H 48/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンギヤ(31)、該サンギヤ(31)と同心状に配設されると共にミッションケース(10)に固定されるリングギヤ(32)、前記サンギヤ(31)及び前記リングギヤ(32)と噛合する複数の遊星ギヤ(P)、並びに該複数の遊星ギヤ(P)を各々枢軸(33)を介して回転自在に支持するキャリア(C)を有する減速機(R)と、
前記減速機(R)から回転力を受けるデフケース(40)、及び該デフケース(40)内に配設されて前記回転力を一対の出力軸(51,52)に対し差動回転を許容しつつ分配する差動機構(41)を有する差動装置(D)とを備え、
前記キャリア(C)と、該キャリア(C)に結合される前記デフケース(40)とを備えた伝動ケース(20)が、前記ミッションケース(10)に少なくとも一対のケース支持軸受(Bc1,Bc2)を介して回転自在に支持、収容され、
軸方向で前記差動機構(41)の一方側には前記遊星ギヤ(P)の特定遊星ギヤ部(P1)が、また前記差動機構(41)の他方側には特定の前記ケース支持軸受(Bc2)がそれぞれ配置される伝動装置において、
前記伝動ケース(20)の回転に伴い前記ミッションケース(10)内の前記特定遊星ギヤ部(P1)の周辺で撥ね上げられる潤滑油を捕集可能な油捕集部(Tc)と、
前記油捕集部(Tc)で捕集した潤滑油を貯溜可能に径方向の通路幅を前記油捕集部(Tc)よりも拡大させて前記油捕集部(Tc)に連な
り、当該油捕集部(Tc)で捕集した潤滑油を前記特定のケース支持軸受(Bc2)に供給する
油貯溜部(Ta)と、を備えた油通路形成体(T)が、
上向きに開口するとともに、前記油貯溜部(Ta)を前記差動機構(41)の軸方向他方側に配置された前記キャリア(C)の外面に沿わせるようにして、前記ミッションケース(10)の内壁に設けられることを特徴とする伝動装置。
【請求項2】
前記油貯溜部(Ta)は、それの下流部分の通路幅を上流側から下流側に向けて縮径していることを特徴とする、請求項1記載の伝動装置。
【請求項3】
サンギヤ(31)、該サンギヤ(31)と同心状に配設されると共にミッションケース(10)に固定されるリングギヤ(32)、前記サンギヤ(31)及び前記リングギヤ(32)と噛合する複数の遊星ギヤ(P)、並びに該複数の遊星ギヤ(P)を各々枢軸(33)を介して回転自在に支持するキャリア(C)を有する減速機(R)と、
前記減速機(R)から回転力を受けるデフケース(40)、及び該デフケース(40)内に配設されて前記回転力を一対の出力軸(51,52)に対し差動回転を許容しつつ分配する差動機構(41)を有する差動装置(D)とを備え、
前記キャリア(C)と、該キャリア(C)に結合される前記デフケース(40)とを備えた伝動ケース(20)が、前記ミッションケース(10)に少なくとも一対のケース支持軸受(Bc1,Bc2)を介して回転自在に支持、収容され、
軸方向で前記差動機構(41)の一方側には前記遊星ギヤ(P)の特定遊星ギヤ部(P1)が、また前記差動機構(41)の他方側には特定の前記ケース支持軸受(Bc2)がそれぞれ配置される伝動装置において、
前記伝動ケース(20)の回転に伴い前記ミッションケース(10)内の前記特定遊星ギヤ部(P1)の周辺で撥ね上げられる潤滑油を捕集可能な、上向きに開口した油捕集部(Tc)と、前記油捕集部(Tc)に連なり且つ該油捕集部(Tc)で捕集した潤滑油を貯溜し且つ前記特定のケース支持軸受(Bc2)に供給する油貯溜部(Ta)とを備えた油通路形成体(T)が、前記ミッションケース(10)の内壁に設けられ、
前記油通路形成体(T)は、前記ミッションケース(10)の内面に凹設した取付溝(11g)内を通るように該ミッションケース(10)に取付けられた樋状部材で構成されており、
前記ミッションケース(10)の内周には、前記取付溝(11g)の上方の該ミッションケース(10)の内周面を伝い下る潤滑油を前記油捕集部(Tc)の上部開口に誘導する切欠き状凹部(11z)が、前記油捕集部(Tc)の少なくとも一部と軸方向位置を一致させるようにして形成されることを特徴とする伝動装置。
【請求項4】
サンギヤ(31)、該サンギヤ(31)と同心状に配設されると共にミッションケース(10)に固定されるリングギヤ(32)、前記サンギヤ(31)及び前記リングギヤ(32)と噛合する複数の遊星ギヤ(P)、並びに該複数の遊星ギヤ(P)を各々枢軸(33)を介して回転自在に支持するキャリア(C)を有する減速機(R)と、
前記減速機(R)から回転力を受けるデフケース(40)、及び該デフケース(40)内に配設されて前記回転力を一対の出力軸(51,52)に対し差動回転を許容しつつ分配する差動機構(41)を有する差動装置(D)とを備え、
前記キャリア(C)と、該キャリア(C)に結合される前記デフケース(40)とを備えた伝動ケース(20)が、前記ミッションケース(10)に少なくとも一対のケース支持軸受(Bc1,Bc2)を介して回転自在に支持、収容され、
軸方向で前記差動機構(41)の一方側には前記遊星ギヤ(P)の特定遊星ギヤ部(P1)が、また前記差動機構(41)の他方側には特定の前記ケース支持軸受(Bc2)がそれぞれ配置される伝動装置において、
前記伝動ケース(20)の回転に伴い前記ミッションケース(10)内の前記特定遊星ギヤ部(P1)の周辺で撥ね上げられる潤滑油を捕集可能な、上向きに開口した油捕集部(Tc)と、前記油捕集部(Tc)に連なり且つ該油捕集部(Tc)で捕集した潤滑油を貯溜し且つ前記特定のケース支持軸受(Bc2)に供給する油貯溜部(Ta)とを備えた油通路形成体(T)が、前記ミッションケース(10)の内壁に設けられ、
前記ケース支持軸受(Bc2)は、前記伝動ケース(20)に突設されて一方の前記出力軸(52)の外周を回転自在に嵌合、支持する軸受ボス部(21b2)と、前記ミッションケース(10)に突設されて前記一方の出力軸(52)が内部を軸方向に貫通する環状の伝動ケース支持部(11b)との間に介装され、
前記ミッションケース(10)は、前記伝動ケース支持部(11b)の外周部と内周部とを連通する切欠き部(11bk)を有し、
前記油通路形成体(T)は、下流端が前記切欠き部(11bk)まで達していて、該油通路形成体(T)を流れてきた潤滑油を前記一方の出力軸(52)と前記軸受ボス部(21b2)との嵌合部に供給可能であることを特徴とする伝動装置。
【請求項5】
前記遊星ギヤ(P)は、前記サンギヤ(31)と噛合する第1遊星ギヤ部(P1)と、該第1遊星ギヤ部(P1)よりも小径に形成され且つ軸方向で前記特定のケース支持軸受(Bc2)に近い位置に在って前記リングギヤ(32)と噛合する第2遊星ギヤ部(P2)とを一体に有した二段遊星ギヤであり、
前記第1遊星ギヤ部(P1)が前記特定遊星ギヤ部を構成することを特徴とする、請求項1~
4の何れか1項に記載の伝動装置。
【請求項6】
前記油捕集部(Tc)は、前記伝動ケース(20)の回転軸線(X1)と直交する投影面で見て、該回転軸線(X1)を通る鉛直線の一側方側の前記ミッションケース(10)の半周部の周方向中間部に配置されており、
前記一側方側のミッションケース(10)の半周部は、正転時の前記伝動ケース(20)の外周部が該ミッションケース(10)の頂部から底部へ向かって周方向に移動する側の半周部であることを特徴とする、請求項1~
5の何れか1項に記載の伝動装置。
【請求項7】
前記油貯溜部(Ta)は、径方向で前記リングギヤ(32)と前記ミッションケース(10)との間の空間(17)を通るように配置されることを特徴とする、請求項1~
6の何れか1項に記載の伝動装置。
【請求項8】
前記リングギヤ(32)は、前記ミッションケース(10)の内周面に嵌合、固定される該リングギヤ(32)の外周面に、周方向に間隔をおいて並ぶ複数の回り止め用突起部(32t)を一体に有しており、
前記油貯溜部(Ta)は、前記リングギヤ(32)の外周側では、周方向に相隣なる2個の前記回り止め用突起部(32t)間の該リングギヤ(32)の該外周面に臨む前記空間(17)を通るように配置されることを特徴とする、請求項
7に記載の伝動装置。
【請求項9】
前記伝動ケース(20)は、前記特定遊星ギヤ部(P1)の周辺の外周において、前記ミッションケース(10)内の底部に貯溜される潤滑油を撥ね上げ可能な複数の撥ね上げ用突部(2t)を一体に有することを特徴とする、請求項1~
8の何れか1項に記載の伝動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝動装置、特にサンギヤ、サンギヤと同心状に配設されるリングギヤ、サンギヤ及びリングギヤと噛合する複数の遊星ギヤ、並びに複数の遊星ギヤを各々枢軸を介して回転自在に支持するキャリアを有する減速機と、減速機から回転力を受けるデフケース、及びデフケース内に配設されて該回転力を一対の出力軸に対し差動回転を許容しつつ分配する差動機構を有する差動装置とを備える伝動装置に関する。
【0002】
本発明及び本明細書において、「軸方向」とは、伝動ケースの中心軸線(回転軸線)に沿う方向をいい、また「周方向」とは、伝動ケースの中心軸線を基準とした円周方向をいい、また「径方向」とは、伝動ケースの中心軸線を基準とした半径方向をいう。
【背景技術】
【0003】
上記伝動装置は、例えば、下記特許文献1に開示されるように既に知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1の伝動装置では、キャリアと、キャリアに結合されるデフケースとを備えた伝動ケースが、ミッションケースに一対のケース支持軸受42,44を介して回転自在に支持、収容され、軸方向で差動機構の一方側には二段遊星ギヤの特定遊星ギヤ部(即ち大径ピニオン24)が、また差動機構の他方側(即ち大径ピニオン24から軸方向に遠い側)には特定のケース支持軸受44がそれぞれ配置される。
【0006】
ところで、伝動中、大径ピニオン24からは多量の潤滑油が飛散するが、この飛散油を、大径ピニオン24から軸方向に遠い特定のケース支持軸受44まで供給することは容易ではない。また、ミッションケース内の底部には所定量の潤滑油が貯溜されるが、その貯溜油面を仮に高めに設定すると、伝動ケースの回転の伴い貯溜油を撥ね上げる油量が増えてしまい、それと共に伝動ケースが受ける潤滑油の撹拌抵抗が増加して、伝動効率の低下要因となる。
【0007】
本発明は、上記に鑑み提案されたもので、上記した問題を簡単な構造で解決可能とした伝動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、サンギヤ、該サンギヤと同心状に配設されると共にミッションケースに固定されるリングギヤ、前記サンギヤ及び前記リングギヤと噛合する複数の遊星ギヤ、並びに該複数の遊星ギヤを各々枢軸を介して回転自在に支持するキャリアを有する減速機と、前記減速機から回転力を受けるデフケース、及び該デフケース内に配設されて前記回転力を一対の出力軸に対し差動回転を許容しつつ分配する差動機構を有する差動装置とを備え、前記キャリアと、該キャリアに結合される前記デフケースとを備えた伝動ケースが、前記ミッションケースに少なくとも一対のケース支持軸受を介して回転自在に支持、収容され、軸方向で前記差動機構の一方側には前記遊星ギヤの特定遊星ギヤ部が、また前記差動機構の他方側には特定の前記ケース支持軸受がそれぞれ配置される伝動装置において、前記伝動ケースの回転に伴い前記ミッションケース内の前記特定遊星ギヤ部の周辺で撥ね上げられる潤滑油を捕集可能な油捕集部と、前記油捕集部で捕集した潤滑油を貯溜可能に径方向の通路幅を前記油捕集部よりも拡大させて前記油捕集部に連なり、当該油捕集部で捕集した潤滑油を前記特定のケース支持軸受に供給する油貯溜部と、を備えた油通路形成体が、上向きに開口するとともに、前記油貯溜部を前記差動機構の軸方向他方側に配置された前記キャリアの外面に沿わせるようにして、前記ミッションケースの内壁に設けられることを第1の特徴とする。
【0009】
また本発明は、第1の特徴に加えて、前記油貯溜部は、それの下流部分の通路幅を上流側から下流側に向けて縮径していることを第2の特徴とする。
【0010】
また本発明は、サンギヤ、該サンギヤと同心状に配設されると共にミッションケースに固定されるリングギヤ、前記サンギヤ及び前記リングギヤと噛合する複数の遊星ギヤ、並びに該複数の遊星ギヤを各々枢軸を介して回転自在に支持するキャリアを有する減速機と、前記減速機から回転力を受けるデフケース、及び該デフケース内に配設されて前記回転力を一対の出力軸に対し差動回転を許容しつつ分配する差動機構を有する差動装置とを備え、前記キャリアと、該キャリアに結合される前記デフケースとを備えた伝動ケースが、前記ミッションケースに少なくとも一対のケース支持軸受を介して回転自在に支持、収容され、軸方向で前記差動機構の一方側には前記遊星ギヤの特定遊星ギヤ部が、また前記差動機構の他方側には特定の前記ケース支持軸受がそれぞれ配置される伝動装置において、前記伝動ケースの回転に伴い前記ミッションケース内の前記特定遊星ギヤ部の周辺で撥ね上げられる潤滑油を捕集可能な、上向きに開口した油捕集部と、前記油捕集部に連なり且つ該油捕集部で捕集した潤滑油を貯溜し且つ前記特定のケース支持軸受に供給する油貯溜部とを備えた油通路形成体が、前記ミッションケースの内壁に設けられ、前記油通路形成体は、前記ミッションケースの内面に凹設した取付溝内を通るように該ミッションケースに取付けられた樋状部材で構成されており、前記ミッションケースの内周には、前記取付溝の上方の該ミッションケースの内周面を伝い下る潤滑油を前記油捕集部の上部開口に誘導する切欠き状凹部が、前記油捕集部の少なくとも一部と軸方向位置を一致させるようにして形成されることを第3の特徴とする。
【0011】
また本発明は、サンギヤ、該サンギヤと同心状に配設されると共にミッションケースに固定されるリングギヤ、前記サンギヤ及び前記リングギヤと噛合する複数の遊星ギヤ、並びに該複数の遊星ギヤを各々枢軸を介して回転自在に支持するキャリアを有する減速機と、前記減速機から回転力を受けるデフケース、及び該デフケース内に配設されて前記回転力を一対の出力軸に対し差動回転を許容しつつ分配する差動機構を有する差動装置とを備え、前記キャリアと、該キャリアに結合される前記デフケースとを備えた伝動ケースが、前記ミッションケースに少なくとも一対のケース支持軸受を介して回転自在に支持、収容され、軸方向で前記差動機構の一方側には前記遊星ギヤの特定遊星ギヤ部が、また前記差動機構の他方側には特定の前記ケース支持軸受がそれぞれ配置される伝動装置において、前記伝動ケースの回転に伴い前記ミッションケース内の前記特定遊星ギヤ部の周辺で撥ね上げられる潤滑油を捕集可能な、上向きに開口した油捕集部と、前記油捕集部に連なり且つ該油捕集部で捕集した潤滑油を貯溜し且つ前記特定のケース支持軸受に供給する油貯溜部とを備えた油通路形成体が、前記ミッションケースの内壁に設けられ、前記ケース支持軸受は、前記伝動ケースに突設されて一方の前記出力軸の外周を回転自在に嵌合、支持する軸受ボス部と、前記ミッションケースに突設されて前記一方の出力軸が内部を軸方向に貫通する環状の伝動ケース支持部との間に介装され、前記ミッションケースは、前記伝動ケース支持部の外周部と内周部とを連通する切欠き部を有し、前記油通路形成体は、下流端が前記切欠き部まで達していて、該油通路形成体を流れてきた潤滑油を前記一方の出力軸と前記軸受ボス部との嵌合部に供給可能であることを第4の特徴とする。
【0012】
また本発明は、第1~第4の何れかの特徴に加えて、前記遊星ギヤは、前記サンギヤと噛合する第1遊星ギヤ部と、該第1遊星ギヤ部よりも小径に形成され且つ軸方向で前記特定のケース支持軸受に近い位置に在って前記リングギヤと噛合する第2遊星ギヤ部とを一体に有した二段遊星ギヤであり、前記第1遊星ギヤ部が前記特定遊星ギヤ部を構成することを第5の特徴とする。
【0013】
また本発明は、第1~第5の何れかの特徴に加えて、前記油捕集部は、前記伝動ケースの回転軸線と直交する投影面で見て、該回転軸線を通る鉛直線の一側方側の前記ミッションケースの半周部の周方向中間部に配置されており、前記一側方側のミッションケースの半周部は、正転時の前記伝動ケースの外周部が該ミッションケースの頂部から底部へ向かって周方向に移動する側の半周部であることを第6の特徴とする。
【0014】
また本発明は、第1~第6の何れかの特徴に加えて、前記油貯溜部は、径方向で前記リングギヤと前記ミッションケースとの間の空間を通るように配置されることを第7の特徴とする。
【0015】
また本発明は、第7の特徴に加えて、前記リングギヤは、前記ミッションケースの内周面に嵌合、固定される該リングギヤの外周面に、周方向に間隔をおいて並ぶ複数の回り止め用突起部を一体に有しており、前記油貯溜部は、前記リングギヤの外周側では、周方向に相隣なる2個の前記回り止め用突起部間の該リングギヤの該外周面に臨む前記空間を通るように配置されることを第8の特徴とする。
【0016】
また本発明は、第1~第8の何れかの特徴に加えて、前記伝動ケースは、前記特定遊星ギヤ部の周辺の外周において、前記ミッションケース内の底部に貯溜される潤滑油を撥ね上げ可能な複数の撥ね上げ用突部を一体に有することを第9の特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
第1の特徴によれば、遊星ギヤ式減速機と差動装置を備え、その減速機のキャリアとデフケースとが結合された伝動ケースがミッションケースにケース支持軸受を介して支持され、軸方向で差動機構の一方側には遊星ギヤの特定遊星ギヤ部が、また差動機構の他方側には特定のケース支持軸受がそれぞれ配置される伝動装置において、伝動ケースの回転に伴いミッションケース内の特定遊星ギヤ部の周辺で撥ね上げられる潤滑油を捕集可能な、上向きに開口した油捕集部と、油捕集部で捕集した潤滑油を貯溜可能に径方向の通路幅を油捕集部よりも拡大させて油捕集部に連なり、当該油捕集部で捕集した潤滑油を特定のケース支持軸受に供給する油貯溜部と、を備えた油通路形成体が、上向きに開口するとともに、油貯溜部を差動機構の軸方向他方側に配置されたキャリアの外面に沿わせるようにして、ミッションケースの内壁に設けられる。これにより、軸方向で差動機構を挟んで互いに離れた位置に特定遊星ギヤ部と特定のケース支持軸受とが配置されるも、特定遊星ギヤ部の周辺で撥ね上げられた潤滑油を油通路形成体の油捕集部で捕集し、そこから軸方向に遠い特定のケース支持軸受まで油通路形成体を経て流動、供給できるため、該特定のケース支持軸受に対し十分な潤滑を行うことができる。しかも、差動機構の一方側にある特定遊星ギヤ部の周辺で撥ね上げられた潤滑油が、軸方向に長い油貯溜部を経由してケース支持軸受に供給されるため、油通路形成体は、伝動装置の伝動中、比較的多量の潤滑油を一時的に貯溜可能な補助タンク機能を発揮することができ、その分、伝動中のミッションケース内の貯溜油面を低めに設定可能となり、これにより、伝動ケースが受ける潤滑油の撹拌抵抗を低下させることができて、油撥ね上げに伴う伝動効率の低下が抑えられる。
【0018】
また第3の特徴によれば、第1の特徴の効果に加えて、油通路形成体は、ミッションケースの内周に凹設した取付溝内を通るようにミッションケースに取付けられた樋状部材で構成され、ミッションケースの内周には、取付溝の上方のミッションケースの内周面を伝い下る潤滑油を油捕集部の上部開口に誘導する切欠き状凹部が、油捕集部の少なくとも一部と軸方向位置を一致させるようにして形成される。これにより、正転時の伝動ケースの特定遊星ギヤ部の周辺から飛散してミッションケースの内周面に沿って下向きに流れようとする潤滑油を、油捕集部に更に効率よく捕集することができる。
【0019】
また第4の特徴によれば、第1の特徴の効果に加えて、ケース支持軸受は、伝動ケースに突設されて一方の出力軸の外周を回転自在に嵌合、支持する軸受ボス部と、ミッションケースに突設されて一方の出力軸が内部を軸方向に貫通する環状の伝動ケース支持部との間に介装され、ミッションケースは、伝動ケース支持部の外周部と内周部とを連通する切欠き部を有し、油通路形成体は、下流端が切欠き部まで達していて、油通路形成体を流れてきた潤滑油を一方の出力軸と軸受ボス部との嵌合部に供給可能である。これにより、出力軸と軸受ボス部の内周との嵌合部は、ケース支持軸受によってミッションケースの内部空間から区切られていても、油通路形成体から切欠き部を通じてミッションケースの支持部の径方向内方側に潤滑油を供給できるため、出力軸と軸受ボス部の内周との嵌合部を、油通路形成体からの供給潤滑油で直接潤滑することができる。
【0020】
また第5の特徴によれば、上記特定遊星ギヤ部が二段遊星ギヤの大径の第1遊星ギヤ部であるため、その大径の第1遊星ギヤ部によってミッションケース底部の潤滑油を勢いよく撥ね上げ可能となり、これにより、油捕集部による油捕集効果が高められる。
【0021】
また第6の特徴によれば、油捕集部は、伝動ケースの回転軸線と直交する投影面で見て、該回転軸線を通る鉛直線の一側方側のミッションケースの半周部の周方向中間部に配置され、該一側方側のミッションケースの半周部は、正転時の伝動ケースの外周部がミッションケースの頂部から底部へ向かって周方向に移動する側の半周部である。これにより、正転時の伝動ケースの特定遊星ギヤ部の周辺から飛散してミッションケースの内周に沿って下向きに流れようとする潤滑油を、油捕集部に効率よく捕集することができる。
【0022】
また第7の特徴によれば、油貯溜部は、径方向でリングギヤとミッションケースとの間の空間を通るように配置されるので、特定遊星ギヤ部と特定のケース支持軸受とが、リングギヤによってミッションケースの内面上で軸方向に区切られていても、リングギヤを越えて潤滑油を支障なく流動、供給可能である。
【0023】
また第8の特徴によれば、ミッションケースの内周に嵌合、固定されるリングギヤの外周面に、周方向に間隔をおいて並ぶ複数の回り止め用突起部が突設され、油通路形成体の油貯溜部が、リングギヤの外周側では周方向に相隣なる2個の回り止め用突起部間を通るので、その2個の回り止め用突起部間でリングギヤの外周側のスペースを利用して、油貯溜部を無理なく取り回すことができる。
【0024】
また第9の特徴によれば、伝動ケースの、特定遊星ギヤ部の周辺の外周には、ミッションケース内の底部に貯溜される潤滑油を撥ね上げ可能な複数の撥ね上げ用突部を一体に有するので、伝動ケースの外周の撥ね上げ用突部でミッションケース底部の潤滑油をより効率よく撥ね上げ可能となり、油捕集部による油捕集効果を更に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は本発明の一実施形態に係る伝動装置を示す全体縦断面図(
図2の1-1線断面図)である。(第1の実施の形態)
【
図2】
図2は
図1の2-2線断面図である。(第1の実施の形態)
【
図3】
図3は
図1の3-3線断面図である。(第1の実施の形態)
【
図4】
図4は
図1の4-4線断面図である。(第1の実施の形態)
【
図5】
図5は
図1の5-5線断面図である。(第1の実施の形態)
【
図6】
図6は
図4の6-6線断面図である。(第1の実施の形態)
【
図7】
図7は油路形成体のミッションケースにおける取付態様を示す平断面図(
図2の7-7線断面図)である。(第1の実施の形態)
【
図8】
図8は前記伝動装置の分解斜視図である。(第1の実施の形態)
【
図9】
図9はミッションケースを省略した前記伝動装置の要部分解斜視図である。(第1の実施の形態)
【
図10】
図10は油路形成体の、ミッションケース本体への取付態様を示す斜視図である。(第1の実施の形態)
【
図11】
図11はミッションケースを省略した前記伝動装置の要部斜視図である。(第1の実施の形態)
【符号の説明】
【0026】
A・・・・・・伝動装置
Bc1,Bc2・・一対のケース支持軸受としての第1,第2ケース支持軸受
C・・・・・・キャリア
C1o・・・・特定外周壁部としての、第1キャリア部の外周壁部
D・・・・・・差動装置
P・・・・・・遊星ギヤ
P1・・・・・特定遊星ギヤ部としての第1遊星ギヤ部
P2・・・・・第2遊星ギヤ部
R・・・・・・減速機
T・・・・・・油通路形成体
Ta・・・・・油貯溜部
Tc・・・・・油捕集部
X1・・・・・回転軸線
2t・・・・・撥ね上げ用突部
10・・・・・ミッションケース
11b・・・・伝動ケース支持部としての第2支持ボス部
11bk・・・切欠き部
11g・・・・取付溝
11z・・・・切欠き状凹部
17・・・・・空間
20・・・・・伝動ケース
21Ao・・・特定外周壁部としての、第1端壁の外周壁部
21b2・・・軸受ボス部としての第2軸受ボス部
31・・・・・サンギヤ
32・・・・・リングギヤ
32t・・・・回り止め用突起部
33・・・・・枢軸
40・・・・・デフケース
41・・・・・差動機構としての差動ギヤ機構
51,52・・一対の出力軸としての第1,第2出力軸
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、添付図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【第1の実施の形態】
【0028】
先ず、
図1~
図6において、車両、例えば自動車に搭載した伝動装置Aは、支持部13(例えば車体)に固定支持されたミッションケース10と、そのミッションケース10内に回転可能に収容、支持された伝動ケース20と、この伝動ケース20内に配備されて、図示しない動力源(例えば車載の電動モータ)からの動力を減速して伝える減速機Rと、同じく伝動ケース20内に配備されて、減速機Rの出力を第1,第2出力軸51,52に差動回転を許容しつつ分配して伝達する差動装置Dとを備える。そして、第1,第2出力軸51,52は、図示しない連動機構を介して左右の駆動車輪を連動回転させる。
【0029】
ミッションケース10は、例えば有底円筒状のミッションケース本体11と、ミッションケース本体11の開放端を塞ぐ蓋体12とで軸方向に分割構成される。ミッションケース本体11は、これの胴部11aが端壁部11sに近づくにつれて徐々に(図示例では段階的に)小径となるよう形成される。そして、端壁部11sの中心孔には、第2出力軸52の中間部がシール部材14を介して嵌挿される。尚、端壁部11sには、シール部材14を保護、支持するためのカバー板15がビス止めされる。
【0030】
一方、蓋体12は、ミッションケース本体11の開放端に複数のボルトB1で着脱可能に接合される円盤状の端板部12sと、端板部12sの外側面に一体に突設される胴部12aとを備える。また端板部12sは、複数のボルトB2で前記支持部13に着脱可能に固定される。
【0031】
伝動ケース20は、ミッションケース10の両端壁(より具体的には上記した端板部12s及び端壁部11s)の内面に内向きに突設した第1,第2支持ボス部12b,11bに、第1,第2ケース支持軸受Bc1,Bc2を介して第1軸線X1回りにそれぞれ回転自在に支持される。而して、第1軸線X1が伝動ケース20の回転軸線となる。そして、伝動ケース20は、ミッションケース本体11及び蓋体12相互の対向面(即ちミッションケース本体11の開放端)を通してミッションケース本体11内に軸方向外方より装入可能である。
【0032】
また本実施形態の伝動ケース20は、これの主要部となる伝動ケース本体21と、その伝動ケース本体21の円盤状の第1端壁(即ち一端壁)21Aに複数のボルトB3で着脱可能に接合される、減速機Rの一部(即ち後述する第1キャリア部C1)とで分割構成される。
【0033】
伝動ケース本体21は、上記第1端壁21Aと、この第1端壁21Aと軸方向に間隔をおいて対向する円盤状の第2端壁21Bと、それら第1,第2端壁21A,21B間を一体に結合する複数(図示例は2個)の連結壁21Lとを備える。その連結壁21Lは、減速機Rの後述する遊星ギヤP及び枢軸33とは周方向で異なる位置に存する。
【0034】
而して、伝動ケース本体21は、第1,第2端壁21A,21Bの、径方向内方側の各半部と、連結壁21Lとが互いに協働して、差動装置Dのデフケース40として機能する。そして、そのデフケース40の両端壁、即ち第1,第2端壁21A,21Bの中央側の外側面には、第1,第2出力軸51,52を各々回転自在に嵌合、支持する外向きの第1,第2軸受ボス部21b1,21b2がそれぞれ一体に突設される。
【0035】
第1,第2出力軸51,52と第1,第2軸受ボス部21b1,21b2との嵌合面の少なくとも一方には、螺旋溝G2,G3が凹設される。それらの螺旋溝G2,G3は、第1,第2出力軸51,52の正転(車両の前進)に伴い上記嵌合面間で相対回転が生じたときにねじポンプ作用を発揮して、当該嵌合面及び隣接する可動部分(例えば差動ギヤ機構41)に対しミッションケース10内の潤滑油をデフケース40内へ強制的に送り込むポンプ機能を果たす。
【0036】
尚、第1,第2軸受ボス部21b1,21b2の各先端部には、上記相対回転時にその先端部周辺の潤滑油を螺旋溝G2,G3内に掻込むための油掻込用突起部が、螺旋溝G2,G3の外側開口端に各々対応して突設される。
【0037】
次に
図8及び
図9も併せて参照して、減速機Rの一例を説明する。減速機Rは、伝動ケース20内に臨むサンギヤ31と、サンギヤ31から軸方向にオフセットした位置でサンギヤ31に対し同心状に配置されるリングギヤ32と、サンギヤ31及びリングギヤ32と噛合する複数(図示例は4個)の遊星ギヤPと、複数の遊星ギヤPを各々枢軸33を介して回転自在に支持するキャリアCとを有する。
【0038】
遊星ギヤPは、サンギヤ31と噛合する第1遊星ギヤ部P1と、第1遊星ギヤ部P1よりも小径に形成され且つ軸方向で第2ケース支持軸受Bc2と近い位置に在ってリングギヤ32と噛合する第2遊星ギヤ部P2とを一体に有した二段遊星ギヤであり、本実施形態では枢軸33と同軸且つ一体に形成される。そして、第1,第2遊星ギヤ部P1,P2、サンギヤ31及びリングギヤ32は、上記噛合の反力によりスラスト荷重を発生させるギヤ歯(本実施形態ではヘリカル歯)を有している。
【0039】
サンギヤ31は、これの中間部外周が軸受Bsを介してミッションケース10(蓋体12)に回転自在に支持される。しかもサンギヤ31の内周面は、前記した第1軸受ボス部21b1の外周面に回転自在に嵌合、支持されており、従って、サンギヤ31と第1軸受ボス部21b1とは、軸方向に一部がオーバラップした配置となっている。サンギヤ31の、図示しない外端部は、不図示の動力源の出力側と不図示の連動機構を介して連動、連結される。
【0040】
またサンギヤ31の先端面(即ち軸方向内端面)と、第1端壁21Aの外側面との間には、減速機Rの作動に伴い伝動ケース20内をケース外周側から中心部側へ流動する潤滑油の一部が流入可能な第1空間部25が介在する。サンギヤ31と第1軸受ボス部21b1との嵌合面間(図示例では第1軸受ボス部21b1の外周面)には、第1空間部25に一端が連通する螺旋溝状の油路G1が設けられると共に、その油路G1の他端が、第1軸受ボス部21b1の軸方向外方側においてサンギヤ31の中心孔31hと第1出力軸51の外周部との間に画成される第2空間部26に開口する。これにより、油路G1は、第2空間部26を介して第1軸受ボス部21b1と第1出力軸51との嵌合部と連通し、その嵌合部に潤滑油を供給可能である。
【0041】
上記した油路G1は、螺旋溝状であることから、サンギヤ31の正転(車両の前進)に伴い上記嵌合面相互に相対回転が生じた時に、前述の螺旋溝G2,G3と同様、ねじポンプ作用を発揮して第1空間部25の潤滑油を第2空間部26側に給送可能である。尚、油路G1を螺旋溝以外の溝形態(例えば直線溝)に形成してもよい。また、本実施形態では油路G1は第1軸受ボス部21b1の外周面に設けられているものを示したが、サンギヤ31の内周面に油路G1が設けられていてもよい。
【0042】
リングギヤ32は、これの外周面が、ミッションケース本体11(より具体的には胴部11a)の軸方向中間部の内周面に嵌合、固定(例えばサークリップ等の係止手段70で係止)される。そのリングギヤ32の外周面には、多数の回り止め用突起部32tが周方向に間隔をおいて一体に形成され、その回り止め用突起部32tは、胴部11aの内周面にスプライン溝状に形成した多数の回り止め溝に相対回転不能に係合する。またリングギヤ32は、これの内径が第2端壁21Bの最大外径よりも小さく形成される。
【0043】
キャリアCは、本実施形態では、遊星ギヤPの枢軸33の一端、即ち第1遊星ギヤ部P1側の外端を支持する前記第1キャリア部C1と、枢軸33の他端、即ち第2遊星ギヤ部P2側の外端を支持する第2キャリア部C2とに分割構成される。第1キャリア部C1は、これの外側面より軸方向外方に突出するボス部C1bを、第1軸受ボス部21b1よりも軸方向外方側に一体に有する。そして、ボス部C1bと、ミッションケース10(蓋体12)の内面の支持ボス部12bとの間に、伝動ケース20の一端側を回転自在に支持する前記第1ケース支持軸受Bc1が介装される。
【0044】
一方、第2キャリア部C2は、伝動ケース本体21の第2端壁21Bと一体化されている。即ち、第2端壁21Bの径方向外方側の半部が第2キャリア部C2としての機能を果たす。
【0045】
また遊星ギヤPの枢軸33は、第1遊星ギヤ部P1側の一端部が第1軸受Bp1を介して伝動ケース20の第1キャリア部C1に、また第2遊星ギヤ部P2側の他端部が第2軸受Bp2を介して伝動ケース20の第2キャリア部C2にそれぞれ支持される。そして、それら第1,第2軸受Bp1,Bp2のうち第1軸受Bp1のみが、ラジアル荷重、並びに軸方向一方側・他方側のスラスト荷重を何れも受け止め可能な軸受構造(例えば玉軸受)とされる。また第2軸受Bp2としては、ラジアル荷重のみ受け止めてスラスト荷重を受け止めない軸受(例えばニードル軸受)が用いられる。
【0046】
伝動ケース20の第2端壁21B、特に第2キャリア部C2として機能する部分は、
図5及び
図8で明らかなように、第2端壁21Bを貫通するよう形成されて第2軸受Bp2を介して枢軸33の他端を嵌合、支持する複数の軸受孔21h4と、径方向で第2軸受Bp2よりも内方側において第2端壁21Bの外側面に凹設されて、軸受孔21h4の軸方向外方端よりも軸方向で内方側に底面が位置する凹所21z1と、凹所21z1の底面より軸方向外方側に突出して第2出力軸52を回転自在に嵌合、支持する第2軸受ボス部21b2とを備える。
【0047】
而して、上記軸受孔21h4は、枢軸支持部の一例であり、また後述する第2遊星ギヤ用差込孔の一例でもある。
【0048】
また第2軸受ボス部21b2の外周部は、ミッションケース10の内面に突設した前記第2支持ボス部11bに第2ケース支持軸受Bc2を介して支持される。しかも第2ケース支持軸受Bc2及び第2支持ボス部11bは、各々の少なくとも一部が上記凹所21z1内に配置される。言い換えると、第2ケース支持軸受Bc2、第2支持ボス部11b及び凹所21z1は、軸方向で第2軸受Bp2と一部がオーバラップして配置される。
【0049】
更に第2端壁21Bの外側面には、径方向で第2軸受ボス部21b2及び凹所21z1よりも外方側で且つ周方向に相隣なる第2軸受Bp2の各間において凹部21z2が各々形成される。これら凹部21z2の開口面の径方向外方部と第2軸受Bp2の軸方向外端の径方向外方部とを覆う油保持部材としての円環状の油保持板27が、
図5に明示したように凹部21z2及び第2軸受Bp2に跨がって周方向に延びるように配置される。そして、この油保持板27は、第2端壁21Bの外側面に着脱可能に固定(例えばビス止め)される。
【0050】
尚、本実施形態では、油保持板27が円環状に形成されて、全ての凹部21z2の開口面の径方向外方部と全ての第2軸受Bp2の軸方向外端の径方向外方部を覆うようにしたものを示したが、油保持板27を第2端壁21Bの周方向に延びる円弧状に形成して、一部の凹部21z2の開口面の径方向外方部と一部の第2軸受Bp2の軸方向外端の径方向外方部を覆うようにしてもよい。
【0051】
また遊星ギヤPの第1遊星ギヤ部P1は、特定遊星ギヤ部の一例であって、伝動ケース本体21の第1端壁21Aと第1キャリア部C1との相対向面間に配置される。そして、その相対向面には、第1遊星ギヤ部P1を収容するギヤポンプ室28が画成される。
【0052】
ギヤポンプ室28は、
図3及び
図9に明示した如く、上記相対向面の一方の面(即ち第1端壁21Aの外側面)にポンプ室画成用の凹部21Acを形成することで、これと上記相対向面の他方の面(即ち第1キャリア部C1の内側面)との間に画成される。尚、本実施形態とは逆に、上記相対向面の他方の面(即ち第1キャリア部C1の内側面)にポンプ室画成用の凹部を形成した変形例の実施も可能である。また、上記相対向面のうち第1端壁21Aの外側面と第1キャリア部C1の内側面の両方にポンプ室画成用の凹部21Acを形成した変形例も実施可能である。
【0053】
図3で明らかなように、第1遊星ギヤ部P1のギヤ歯の外径と、ギヤポンプ室28の内径とは略一致し、即ち、そのギヤ歯とギヤポンプ室28の内周面とは径方向で対向、近接した位置にある。また、第1遊星ギヤ部P1の軸方向両側面と、ギヤポンプ室28の軸方向両内側面(即ち凹部21Acの底面及び第1キャリア部C1の内側面)との相対向面は、軸方向で比較的近接した位置にある。
【0054】
従って、遊星ギヤPが回転すると、第1遊星ギヤ部P1のギヤ歯の谷部に保持された潤滑油は、ギヤポンプ室28の内周面に沿って伝動ケース20の外周側から中心部側に給送され、その一部は、サンギヤ31の先端面と第1端壁21Aの外側面との間の前記第1空間部25にも供給される。而して、第1遊星ギヤ部P1とギヤポンプ室28とは、潤滑油の上記給送を担うギヤポンプGPを構成する。
【0055】
そして、遊星ギヤPの回転中、第1遊星ギヤ部P1のギヤ歯の谷部に保持された潤滑油は、サンギヤ31との噛合いによって該谷部から押し出される。この際、前述のとおり、サンギヤ31と第1遊星ギヤ部P1は互いにヘリカル歯で噛合っており、更にヘリカル歯のねじれ角は両ギヤが噛合うことで潤滑油が第1空間部25側に押し出されるように設定されている。より具体的には、サンギヤ31と第1遊星ギヤ部P1が噛合って両ギヤが回転するとき、第1遊星ギヤ部P1の各ギヤ歯は、これの軸方向外方側からサンギヤ31のギヤ歯と噛合い、更に回転することによって軸方向内方側のギヤ歯と噛合うように設定される。これにより、ギヤポンプGPによって伝動ケース20の外周側から給送された潤滑油が第1空間部25まで効率的に到達することが可能となる。
【0056】
また第1キャリア部C1及び第1端壁21Aは、これらの外周壁部C1o,21Aoの一部が、ミッションケース10内の底部に貯溜される潤滑油に浸漬する高さにある。そして、本実施形態の第1キャリア部C1の外周壁部C1oには、ミッションケース10内の貯溜潤滑油を撥ね上げ可能な複数の撥ね上げ用突部2tが周方向に間隔をおいて設けられる。上記した各外周壁部C1o,21Aoは、伝動ケース20の最大外径を有する外周部分であって、伝動ケース20の特定外周壁部の一例である。
【0057】
また第1端壁21Aの外周壁部21Aoは、第1遊星ギヤ部P1の一部を伝動ケース20の外周面より露出させる複数の油導入窓21Awを有しており、各油導入窓21Awは、一部の撥ね上げ用突部2tと軸方向に隣接配置される。尚、撥ね上げ用突部2tは、図示例の構造に代えて、又は加えて、第1端壁21Aの外周壁部21Aoの、油導入窓21Awに隣接した部位にも設置可能である。尚また、前述のように第1キャリア部C1の内側面にポンプ室画成用の凹部を形成した変形例の場合には、ギヤポンプGPの油導入窓は第1キャリア部C1の外周壁部C1oに設けられる。
【0058】
差動装置Dは、第1,第2端壁21A,21B及び連結壁21Lの結合体であって減速機R(キャリアC)から回転力を受ける前記デフケース40と、デフケース40内に配設されてデフケース40の回転力を一対の出力軸51,52に対して差動回転を許容しつつ分配する差動ギヤ機構41とを備える。そして、差動ギヤ機構41は、差動機構の一例である。
【0059】
差動ギヤ機構41は、
図1,
図4及び
図6で明らかなように、伝動ケース本体21の一対の連結壁21Lに両端部が嵌合、固定(図示例では圧入ピン47で抜け止め)されて、第1軸線X1と直交する第2軸線X2上に配置されるピニオン軸42と、このピニオン軸42に回転自在に支持される複数(図示例は2個)のピニオンギヤ43と、各ピニオンギヤ43と噛合し且つ第1軸線X1回りに回転可能な左右のサイドギヤ44とを備える。而して、ピニオンギヤ43及びサイドギヤ44は、差動機構構成ギヤの一例である。
【0060】
ピニオンギヤ43及びサイドギヤ44は、本実施形態ではベベルギヤで構成される。両サイドギヤ44は、差動ギヤ機構41の出力ギヤとして機能するものであり、両サイドギヤ44の内周面には、第1,第2出力軸51,52の内端部がそれぞれスプライン嵌合される。
【0061】
各ピニオンギヤ43の球面状をなす背面は、連結壁21Lの球面状の内面に第2軸線X2回りにワッシャを介して回転自在に支持されており、また各サイドギヤ44の平坦な背面は、第1,第2端壁21A,21Bの相対向面に第1軸線X1回りにワッシャを介して回転自在に支持される。尚、ワッシャは、必要に応じて省略してもよい。
【0062】
而して、キャリアCから伝動ケース本体21(従ってデフケース40)に伝達された回転駆動力は、差動ギヤ機構41により、第1,第2出力軸51,52に対し差動回転を許容しつつ分配される。尚、差動ギヤ機構41の差動機能は従来周知であるので、説明を省略する。
【0063】
また伝動ケース本体21は、ピニオンギヤ43及びサイドギヤ44の、デフケース40内への組付けを許容する作業窓21wを、第1,第2端壁21A,21B間に備える。この作業窓21wは、周方向で相隣なる2つの連結壁21Lの、周方向で隣り合い且つ回転軸線X1に沿って各々直線状に延びる端縁間に画成される。
【0064】
上記組付けのための作業は、例えば、次のようにして行う。先ず、作業窓21wを通して一対のサイドギヤ44をデフケース40に組み付けた状態で、作業窓21wを通してピニオンギヤ43をサイドギヤ44との噛合位置まで組み入れる。次いで、その噛合状態を維持しながら、サイドギヤ44周りにピニオンギヤ43を公転させるようにしてギヤ背面を連結壁21Lのピニオンギヤ支持面に当接させる。そして、その当接状態でピニオン軸42をピニオンギヤ43及び連結壁21Lに挿通させると共に、圧入ピン47で連結壁21Lにピニオン軸42を固定する。
【0065】
ところで作業窓21wは、差動ギヤ機構41を構成する全ての差動機構構成ギヤ(即ちピニオンギヤ43及びサイドギヤ44)の歯面の少なくとも噛合い部分(本実施形態では歯面全面)の回転軌跡を該回転軌跡の軸方向幅一杯に亘り伝動ケース20の外に露出させるサイズ(より具体的には軸方向・周方向の各開口幅)を有している。
【0066】
しかも本実施形態の作業窓21wの開口面は、
図4でも明らかように上記回転軌跡を該開口面よりも外側に張り出させる形状に形成される。換言すれば、作業窓21wの開口面は、周方向で相隣なる2つの連結壁21Lの、周方向で隣り合う端縁相互を結び且つ
図4の紙面と直交する仮想平面上に位置するものであって、その位置関係からも上記回転軌跡が上記開口面よりも外側に張り出していることは明らかである。
【0067】
そして、第2遊星ギヤ部P2と、全ての差動機構構成ギヤ43,44とは、各々の少なくとも一部が作業窓21wの開口部を介して互いに対向し、且つ軸方向で互いにオーバラップするよう伝動ケース20に配設される。
【0068】
これにより、減速機Rの作動中、第2遊星ギヤ部P2から飛散する潤滑油を、デフケース40内の全ての差動機構構成ギヤ(即ち各ピニオンギヤ43及び各サイドギヤ44)のの歯面の少なくとも噛合い部分(本実施形態では歯面全面)に直接供給可能となり、またその逆に差動機構構成ギヤ43,44の歯面から飛散する潤滑油を第2遊星ギヤ部P2に直接供給可能となるため、簡単な構造で差動装置D及び減速機Rに対する潤滑効果が高められる。この場合、特に本実施形態では、作業窓21wが、前記噛合い部分を該回転軌跡の軸方向幅一杯に亘り伝動ケース20の外に露出させるので、伝動ケース20内に飛散した潤滑油を当該噛合い部分に供給することが容易となって、前記潤滑効果がより高められる。しかも作業窓21wの開口面は、前記噛合い部分の回転軌跡を該開口面よりも外側に張り出させる形状に形成されるので、その回転軌跡(従って前記噛合い部分)を第2遊星ギヤ部P2に対しより近接させることができ、その結果、第2遊星ギヤ部P2から飛散する潤滑油を前記噛合い部分に一層効率よく供給可能となり、またその逆に差動機構構成ギヤ43,44から飛散する潤滑油を第2遊星ギヤ部P2に一層効率よく供給可能となるため、前記潤滑効果が更に高められる。
【0069】
また、第2遊星ギヤ部P2と差動ギヤ機構41が軸方向で互いにオーバラップするよう伝動ケース20に配設されることで、第2遊星ギヤ部P2と差動ギヤ機構41が軸方向で互いにオーバラップした長さだけ伝動ケース20を軸方向の小型化することが可能となる。
【0070】
また、伝動ケース20の伝動ケース本体21は、全体を一体に鋳造成形される。そして、伝動ケース本体21は、これに対して第1,第2出力軸51,52を軸方向で両外側方から各々挿入可能な第1,第2出力軸用差込孔21h1,21h2と、遊星ギヤPを軸方向で第1キャリア部C1との対向面側から挿入可能な第1,第2遊星ギヤ用差込孔21h3,21h4とを備える。
【0071】
第1,第2出力軸用差込孔21h1,21h2は、前述の第1,第2軸受ボス部21b1,21b2の中心孔に相当し、また第1遊星ギヤ用差込孔21h3は、これに第2遊星ギヤ部P2が通過可能な内径で第1端壁21Aに貫通形成される。更に第2遊星ギヤ用差込孔は、前述の第2端壁21Bに設けた軸受孔21h4で構成される。
【0072】
ところで本実施形態の伝動装置Aでは、軸方向で差動ギヤ機構41の一方(
図1で左方)側には遊星ギヤPの第1遊星ギヤ部P1が、また差動ギヤ機構41の他方(
図1で右方)側には特定のケース支持軸受としての第2ケース支持軸受Bc2がそれぞれ配置されている。即ち、第1遊星ギヤ部P1と第2ケース支持軸受Bc2とは、軸方向で差動ギヤ機構41を挟んで互いに離れた位置にあり、特に第2ケース支持軸受Bc2は、ミッションケース10内で減速機R及び差動装置Dからの飛散潤滑油が十分には届きにくい部位に存する。また、ミッションケース本体11の内周面の第1遊星ギヤ部P1と第2ケース支持軸受Bc2との間には、リングギヤ32が嵌合されており、これが壁となって潤滑油の飛散を妨げる虞がある。
【0073】
これに対して、第1キャリア部C1及び第1端壁21Aの各外周壁部C1o,21Aoは、伝動ケース20の最大外径部分、即ち特定外周壁部であって、伝動ケース20の回転に伴いミッションケース10内の底部の貯溜潤滑油を大量に撥ね上げ可能である。
【0074】
そこで本実施形態では、その特定外周壁部C1o,21Aoが撥ね上げた潤滑油の一部を第2ケース支持軸受Bc2側に効率よく供給するための油供給構造が付加されている。次に、その油供給構造の一例を、
図7,
図8及び
図10を併せて参照して、具体的に説明する。
【0075】
即ち、ミッションケース本体11の内壁には、第1遊星ギヤ部P1及び/又は上記した特定外周壁部C1o,21Aoがミッションケース10内で撥ね上げる潤滑油を捕集可能な、上向きに開口した油捕集部Tcと、同じく上向きに開口して油捕集部Tcに連なり且つ油捕集部Tcで捕集した潤滑油を貯溜可能に径方向の通路幅を油捕集部Tcよりも拡大し且つ油捕集部Tcで捕集した潤滑油を第2ケース支持軸受Bc2に供給する油貯溜部Taとを備えた油通路形成体Tが取付けられる。
【0076】
油捕集部Tcは、伝動ケース20の回転軸線X1と直交する投影面で見て、回転軸線X1を通る鉛直線の一側方側(
図3で右方側)のミッションケース本体11の半周部(即ち
図3で右半周部)の周方向中間部に配置される。ここで、上記した半周部は、正転時の伝動ケース20の外周部がミッションケース本体11の頂部から底部へ向かって周方向に移動する側の半周部に相当し、その周方向中間部とは、図示例のようなミッションケース本体11の頂部から中心角で90度の位置だけに限定されず、上記中心角で90度の位置より多少小さい角度位置でも大きい角度位置でもよい。
【0077】
油通路形成体Tは、上面が開放した樋状部材で構成されていて、ミッションケース本体11(より具体的には胴部11a及び端壁部11s)の内周面に一連に凹設した取付溝11g内を通るように配置され、且つミッションケース本体11に固定(例えば、図示例のように複数のビスでねじ止め)される。尚、ミッションケース本体11の外面には、取付溝11gに対応した位置において、溝周壁部分の肉厚確保のための膨出部11yが一体に形成される。
【0078】
しかもこの油通路形成体Tには、これの上流端(より具体的には油捕集部Tcの上流端)から下流端(より具体的には油貯溜部Taの下流端)に向かって僅かに下る勾配が付与されている。そのため、油捕集部Tcで捕集された潤滑油は、油捕集部Tc及び油貯溜部Taを極く緩やかに流れ下り、その下流端に臨む第2ケース支持軸受Bc2に供給される。また、油通路形成体Tは、差動機構41の軸方向一方側にある第1遊星ギヤ部P1から、差動機構41の軸方向他方側にある第2ケース支持軸受Bc2まで、油貯溜部Taを当該差動機構41の軸方向他方側に配置されたキャリアCの外面に沿わせるようにして伸びるため、軸方向に長く形成されることとなる。
【0079】
図3,
図8に明示されるように、ミッションケース本体11の内周面には、取付溝11gよりも上方のミッションケース本体11の内周面を伝い下る潤滑油を油捕集部Tcの上部開口に誘導する切欠き状凹部11zが、油捕集部Tcの少なくとも一部(図示例では全部)と軸方向位置を一致させるようにして形成される。
【0080】
油貯溜部Taは、その途中部分が、
図4で明らかなように径方向でリングギヤ32とミッションケース本体11との間の空間17を通るように配置される。より具体的に言えば、油貯溜部Taは、リングギヤ32の外周側においては、周方向に相隣なる2個の回り止め用突起部32t間のリングギヤ32の外周面に臨む空間17を通るように配置される。
【0081】
第2ケース支持軸受Bc2は、前述のように第2端壁21Bの第2軸受ボス部21b2と、ミッションケース本体11の端壁部11sの第2支持ボス部11bとの間に介装される。その第2支持ボス部11bは、伝動ケース支持部の一例であって、内部を第2出力軸52が軸方向に貫通する。そして、上記端壁部11sは、第2支持ボス部11bの外周部と内周部とを連通する切欠き部11bkを有しており、この切欠き部11bkは、端壁部11sの内面の取付溝11gの径方向内端部と直接連通している。
【0082】
而して、油通路形成体T(より具体的には油貯溜部Ta)は、下流端が切欠き部11bkまで達している。これにより、油通路形成体Tを流れ下ってきた潤滑油を第2ケース支持軸受Bc2のみならず、第2出力軸52と第2軸受ボス部21b2の嵌合部に対しても直接、供給可能である。
【0083】
かくして、第2出力軸52と第2軸受ボス部21b2の嵌合部は、第2ケース支持軸受Bc2でミッションケース10の内部空間から区切られていても、油通路形成体Tから切欠き部11bkを通じて第2支持ボス部11bの径方向内方側に潤滑油を供給できるため、当該嵌合部を、油通路形成体Tからの供給潤滑油で直接且つ十分に潤滑可能となる。
【0084】
次に前記実施形態の作用を説明する。
【0085】
伝動装置Aにおいて、不図示の動力源(例えば電動モータ)でサンギヤ31が回転駆動されると、サンギヤ31及びリングギヤ32と、二段遊星ギヤPの第1及び第2遊星ギヤ部P1,P2とがそれぞれ互いに噛合して、サンギヤ31の回転駆動力を二段階に減速しながらキャリアCに伝達する。そして、キャリアCと一体の伝動ケース20に伝達された回転駆動力が、伝動ケース20の一部であるデフケース40内の差動ギヤ機構41により、第1,第2出力軸51,52に対し差動回転を許容しつつ分配され、更にその第1,第2出力軸51,52から左右の駆動車輪に伝達される。
【0086】
斯かる伝動装置Aにおいて、減速機RのキャリアCは、二段遊星ギヤPにおける枢軸33の、第1遊星ギヤ部P1寄りの一端部を支持する第1キャリア部C1と、同枢軸33の、第2遊星ギヤ部P2寄りの他端部を支持する第2キャリア部C2とに分割構成され、伝動ケース20は、デフケース40及び第2キャリア部C2を一体化した伝動ケース本体21と、伝動ケース本体21の第1端壁21Aに接合、固定される第1キャリア部C1とで分割構成される。そして、第1遊星ギヤ部P1は、第1端壁21Aと第1キャリア部C1との対向面間に配置され、伝動ケース本体21は、遊星ギヤPを軸方向で上記対向面側から挿入可能な複数の第1,第2遊星ギヤ用差込孔21h3,21h4と、第1,第2出力軸51,52を軸方向で両外側方から各々挿入可能な第1,第2出力軸用差込孔21h1,21h2と、差動機構構成ギヤ(即ちピニオンギヤ43及びサイドギヤ44)のデフケース40内への組付けを許容する作業窓21wとを有している。
【0087】
これにより、遊星ギヤPは、これを伝動ケース本体21内に上記対向面側から挿入した後、第1端壁21Aと第1キャリア部C1とを、その相互間に第1遊星ギヤ部P1を挟むようにして相互間をボルトB3で接合、固定すれば、遊星ギヤPを伝動ケース20に容易に組付け可能となり、その遊星ギヤP組付けのための専用作業窓を伝動ケース20のキャリア構成部分に特別に成形する必要はない。この場合、伝動ケース本体21の鋳造工程で必要となる中子は、デフケース40の内面とこれに連続した、差動ギヤ機構組付け用の作業窓21wとを一連に成形するための中子だけで足りるから、全体として鋳造工程が単純化されて、鋳造コストの節減を達成できる優位性がある。
【0088】
これに対し、前記特許文献1のように二段遊星ギヤを支持する大型のキャリア(22)をデフケース(38)と共に一体物とした伝動ケース構造では、キャリア(22)の周壁部に、複数の遊星ギヤ(30)をキャリア(22)に組付けるための大きな遊星ギヤ装入用作業窓を複数成形する必要がある。従って伝動ケースの鋳造過程では、それら遊星ギヤ装入用作業窓の成形用の複数の中子と、デフケースの内面を成形するための中子とを各々別々に用意する必要があるから、全体として鋳造工程での中子の使用数が増え、工程が複雑化してコスト増となる不利点がある。
【0089】
また、本実施形態の伝動ケース本体21は、第1出力軸51を嵌合、支持する第1端壁21Aと、第1端壁21Aと軸方向に間隔をおいて対向し且つ第2出力軸52を嵌合、支持する第2端壁21Bと、遊星ギヤPの枢軸33及び第2遊星ギヤ部P2とは周方向で異なる位置に在って第1,第2端壁21A,21B間を一体に結合する複数の連結壁21Lとを備え、上記作業窓21wは、周方向で相隣なる2つの連結壁21Lの、周方向で隣り合う端縁間に画成される。
【0090】
これにより、伝動ケース本体21は、これの両端壁21A,21B間を複数の連結壁21Lで結合一体化しただけの簡単な構造で、相隣なる連結壁21L間に上記作業窓21wを容易に形成可能である。しかもその連結壁21Lは、これと軸方向でオーバラップした位置に存する二段遊星ギヤPの枢軸33及び第2遊星ギヤ部P2とは、周方向で異なる位置に存するため、連結壁21Lを、枢軸33及び第2遊星ギヤ部P2を迂回して径方向外方側に配置、形成する必要はなくなり、それだけ伝動ケース本体21の径方向小型化が図られる。
【0091】
更に本実施形態の伝動ケース20では、伝動ケース本体21(より具体的には第1端壁21A)と第1キャリア部C1との対向面間に画成したギヤポンプ室28と、遊星ギヤPの第1遊星ギヤ部P1とにより、ギヤポンプGPが構成されている。これにより、遊星ギヤPを利用した簡単なギヤポンプ構造で、伝動ケース20の外周側から中心部側(例えば第1空間部25)へ潤滑油を強制的に給送可能となるから、伝動ケース20に専用の潤滑油ポンプを設ける必要はなくなり、伝動装置Aの構造簡素化、延いてはコスト節減が図られる。
【0092】
また、サンギヤ31と第1遊星ギヤ部P1は互いにヘリカル歯で噛合っており、そのヘリカル歯のねじれ角は、両ギヤが噛合うことで、第1遊星ギヤ部P1のギヤ歯の谷部内の潤滑油が第1空間部25側に押し出されるように設定されている。これにより、ギヤポンプGPによって給送された潤滑油が第1空間部25に効率的に到達可能となる。
【0093】
その上、この遊星ギヤPは、サンギヤ31と噛合する大径の第1遊星ギヤ部P1と、リングギヤ32と噛合する小径の第2遊星ギヤ部P2とを一体に有した二段遊星ギヤであって、特に大径の第1遊星ギヤ部P1がギヤポンプGPのギヤ部となるため、この大径の第1遊星ギヤ部P1を利用した簡単な構造でギヤポンプGPのポンプ効率が高められる。
【0094】
しかも第1キャリア部C1の外周壁部C1oには、ミッションケース10内の底部に貯溜される潤滑油を撥ね上げ可能な複数の撥ね上げ用突部2tが一体に設けられ、また第1キャリア部C1と略同径の第1端壁21Aの外周壁部21Aoには、第1遊星ギヤ部P1の一部を伝動ケース20外に露出させる油導入窓21Awが開設されていて、その油導入窓21Awが一部の撥ね上げ用突部2tと軸方向で隣接配置される。これにより、伝動ケース20の回転に応じてミッションケース10の貯溜油を撥ね上げ用突部2tが撥ね上げることで、その潤滑油の一部を油導入窓21Aw側に効率よく供給可能となり、ギヤポンプGPのポンプ効率が更に高められる。
【0095】
また本実施形態の減速機Rでは、リングギヤ32がミッションケース10に固定される一方、動力源からの回転駆動力がサンギヤ31に入力されるので、その回転駆動力の入力に伴い、伝動ケース20の回転方向に対し第1遊星ギヤ部P1が逆方向に回転する。このとき、伝動ケース20の回転によって掻き上げられた潤滑油は重力方向に落下しようとするため、伝動ケース20とは逆方向に回転している第1遊星ギヤ部P1で潤滑油を伝動ケース20内に引き込み易くなる。これにより、ギヤポンプGPのポンプ効率が更に高められる。
【0096】
また本実施形態の伝動装置Aでは、デフケース40及び第2キャリア部C2を一体化した伝動ケース本体21と、伝動ケース本体21の第1端壁21Aの外側面に接合される第1キャリア部C1とで、ミッションケース10に回転自在に支持される伝動ケース20が分割構成され、その第1端壁21Aの、サンギヤ31側の側面には、第1出力軸51の外周部を嵌合、支持する第1軸受ボス部21b1が突設され、その第1軸受ボス部21b1は、サンギヤ31と軸方向にオーバラップする位置に在って、第1軸受ボス部21b1の外周部がサンギヤ31の中心孔31hに嵌合される。
【0097】
これにより、伝動ケース20の分割面、特に第1端壁21Aの、外部に広く露出可能な外側面に、第1出力軸51を嵌合、支持する軸方向に長い第1軸受ボス部21b1を容易に加工、形成でき、のみならず、この長い第1軸受ボス部21b1で第1出力軸51を安定よく嵌合、支持できる。その上、この第1軸受ボス部21b1は、これをサンギヤ31の中心孔31hに嵌合させたことで、サンギヤ31の支持手段にも兼用できるため、簡単な構造でサンギヤ31に対する支持剛性が高められる。その上、第1軸受ボス部21b1をサンギヤ31と軸方向にオーバラップさせたことで、第1軸受ボス部21b1の突設に伴う伝動ケース20の軸方向寸法増が抑えられるため、伝動装置Aの軸方向小型化を図る上で有利になる。
【0098】
しかもサンギヤ31の先端面と伝動ケース本体の第1端壁21Aとの間には、減速機Rの作動に伴い伝動ケース20内をその外周側から中心部側へと流動する潤滑油の一部が流入可能な第1空間部25が存在し、この第1空間部25には、前述のギヤポンプGPにより潤滑油も強制的に給送される。これにより、第1空間部25を経てサンギヤ31と第1軸受ボス部21b1との嵌合部側に潤滑油を効率よく供給可能となり、その嵌合部を支障なく潤滑可能となる。
【0099】
その上、サンギヤ31と第1軸受ボス部21b1との嵌合面間には、第1空間部25に一端が連通する油路G1が設けられると共に、この油路G1の他端が、第1軸受ボス部21b1の軸方向外方側においてサンギヤ31の中心孔31hと第1出力軸51の外周との間の嵌合部に臨む第2空間部26に開口している。これにより、第1軸受ボス部21b1の外周がサンギヤ31と嵌合していて第1出力軸51がミッションケース10内や伝動ケース20内に露出していなくても、第1出力軸51と第1軸受ボス部21b1との嵌合部に対しては、前述の如く第1空間部25へ流動してきた潤滑油(ギヤポンプGPからの給送油を含む)を油路G1及び第2空間部26を通して十分に供給可能となり、その嵌合部の潤滑を支障なく行うことができる。
【0100】
ところで本実施形態の伝動装置Aでは、軸方向で差動ギヤ機構41の一方側(
図1で左方側)に遊星ギヤPの第1遊星ギヤ部P1が、また差動ギヤ機構41の他方側(
図1で右方側)に第2ケース支持軸受Bc2がそれぞれ配置される。しかも第1遊星ギヤ部P1、及び/又は伝動ケース20の特定外周壁部(より具体的には第1キャリア部C1及び第1端壁21Aの各外周壁部C1o,21Ao)がミッションケース10内で撥ね上げる潤滑油を捕集可能な、上向きに開口した油捕集部Tcと、同じく上向きに開口して油捕集部Tcに連なり且つこれで捕集した潤滑油を貯溜可能に
径方向の通路幅を油捕集部Tcよりも拡大し且つ
油捕集部Tcで捕集した潤滑油を第2ケース支持軸受Bc2に供給する油貯溜部Taとを形成する油通路形成体Tが、
油貯溜部Taを差動機構41の軸方向他方側に配置されたキャリアCの外面に沿わせるようにして、ミッションケース本体11の内壁に設けられる。
【0101】
これにより、軸方向で差動ギヤ機構41を挟んで互いに離れた位置に第1遊星ギヤ部P1と第2ケース支持軸受Bc2とが配置されるも、第1遊星ギヤ部P1及び/又は特定外周壁部C1o,21Aoが撥ね上げた潤滑油を油捕集部Tcで捕集し、そこから軸方向に離れて配置される第2ケース支持軸受Bc2まで油貯溜部Taを経て緩やかに且つ継続的に流動、供給できるため、第2ケース支持軸受Bc2に対し十分な潤滑を行うことができる。しかも、差動機構41の軸方向一方側にある第1遊星ギヤ部P1から、差動機構41の軸方向他方側にある第2ケース支持軸受Bc2まで延びることで軸方向に長くなる油通路形成体Tは、伝動装置Aの伝動中、比較的多量の潤滑油を一時的に貯溜可能な補助的なタンク機能を発揮し得るため、その一時貯溜した潤滑油の分、伝動中のミッションケース10内の貯溜油面を低めに設定可能となる。これにより、伝動ケース20の潤滑油の撹拌抵抗を低減可能となって、貯溜油の撥ね上げに伴う伝動効率の低下が抑えられる。
【0102】
その上、第1遊星ギヤ部P1が二段遊星ギヤPの大径側の遊星ギヤ部であり、またその第1遊星ギヤ部P1の周辺に位置する特定外周壁部C1o,21Aoが伝動ケース20の最大外径部であるため、その大径の第1遊星ギヤ部P1及び/又は特定外周壁部C1o,21Aoによってミッションケース10内の底部に貯溜される潤滑油を勢いよく撥ね上げ可能となって、油捕集部Tcによる油捕集効果が高められる。
【0103】
また上記油捕集部Tcは、伝動ケース20の回転軸線X1と直交する投影面で見て、回転軸線X1を通る鉛直線の一側方側(
図3で右方側)のミッションケース本体11の半周部の周方向中間部に配置され、ここで、該一側方側の半周部は、正転時(即ち車両前進時)の伝動ケース20の外周部がミッションケース本体11の頂部から底部へ向かって周方向に移動する側の半周部である。これにより、正転時の伝動ケース20の特定外周壁部C1o,21Ao及び/又は第1遊星ギヤ部P1から飛散してミッションケース本体11の内周に沿って下向きに流れようとする潤滑油を、油捕集部Tcに効率よく捕集することが可能となる。
【0104】
また上記油通路形成体Tは、ミッションケース本体11の内周に凹設した取付溝11g内を通るようにミッションケース本体11に固定(例えばビス止め)された樋状部材で構成される。そして、ミッションケース本体11の内周には、取付溝11gの上方のミッションケース本体11の内周面を伝い下る潤滑油を油捕集部Tcの上部開口に誘導する切欠き状凹部11z(
図3,
図8参照)が、油捕集部Tcの少なくとも一部(図示例では略全部)と軸方向位置を一致させるようにして形成される。これにより、正転時の伝動ケース20の特定外周壁部C1o,21Ao及び/又は第1遊星ギヤ部P1から飛散してミッションケース本体11の内周に沿って下向きに流れようとする潤滑油を、油捕集部Tcに更に効率よく捕集可能となる。
【0105】
しかも上記油貯溜部Ta及び取付溝11gは、その途中部分が、
図4で明らかなように径方向でリングギヤ32とミッションケース本体11との間の空間17を通るように配置されるため、第1遊星ギヤ部P1と第2ケース支持軸受Bc2とが、リングギヤ32によってミッションケース本体11の内面上で軸方向に区切られていても、リングギヤ32を越えて潤滑油を支障なく供給可能である。
【0106】
また特に本実施形態のミッションケース本体11の内周に嵌合、固定されるリングギヤ32の外周面には、周方向に間隔をおいて並ぶ複数の回り止め用突起部32tが突設され、油貯溜部Taは、リングギヤ32の外周側においては、周方向に相隣なる2個の回り止め用突起部32t間のリングギヤ32の外周に臨む空間17を通るように配置される。これにより、その2個の回り止め用突起部32t間でリングギヤ32の外周側のスペースを利用して、油貯溜部Taを無理なく取り回すことができる。
【0107】
また前述のように伝動ケース20の少なくとも一方の特定外周壁部C1o,21Aoには、複数の潤滑油撥ね上げ用突部2tが突設されるため、その撥ね上げ用突部2tでミッションケース本体11の底部に貯溜された潤滑油をより効率よく撥ね上げ可能となり、油捕集部Tcによる油捕集効果を更に高めることができる。
【0108】
更に本実施形態の伝動装置Aでは、減速機Rにおける二段遊星ギヤPの枢軸33が、大径の第1遊星ギヤ部P1側の一端部を第1軸受Bp1を介して第1キャリア部C1に、また小径の第2遊星ギヤ部P2側の他端部を第2軸受Bp2を介して第2キャリア部C2にそれぞれ支持される。そして、それら第1,第2軸受Bp1,Bp2のうち特に第1軸受Bp1のみに、軸方向一方側及び他方側のスラスト荷重を支持する軸受(例えば玉軸受)が選定され、一方、第2軸受Bp2には、スラスト荷重を支持しない軸受(例えばニードル軸受)が選定される。
【0109】
かくして第2軸受Bp2は、これにスラスト荷重を負担させないため、第2軸受Bp2(従って軸受面21h4)の径方向小型化、延いては第2キャリア部C2を含む第2端壁21Bの、第2軸受Bp2周囲の壁部分の径方向小型化が達成可能となる。その結果、伝動ケース20は、これに二段遊星ギヤPを含む遊星ギヤ式の減速機Rと差動装置Dとを両方設けても、特に第2端壁21Bの上記壁部分を径方向に効果的に小型化できる。その上、第2軸受Bp2に隣接する第2遊星ギヤ部P2が比較的小径であることから、ミッションケース本体11の、上記壁部分及び第2遊星ギヤ部P2を囲繞する周壁部分の径方向小型化を達成可能となる。
【0110】
また、本実施形態の伝動ケース20の、第2キャリア部C2を一体化した第2端壁21Bは、第2端壁21Bを貫通するよう形成されて第2軸受Bp2を介して枢軸33の他端部を支持する複数の軸受面21h4(枢軸支持部)と、径方向で第2軸受Bp2よりも内方側において前記第2端壁21Bの外側面に凹設されて、軸受面21h4の軸方向外方端よりも軸方向で内方側に底面が位置する円形状の凹所21z1と、その凹所21z1の底面より軸方向外方側に突出して第2出力軸52を回転自在に嵌合、支持する第2軸受ボス部21b2とを備える。そして、第2軸受ボス部21b2の外周部は、ミッションケース本体11の内面に突設した第2支持ボス部11bに第2ケース支持軸受Bc2を介して支持され、それら第2ケース支持軸受Bc2及び第2支持ボス部11bは、各々の少なくとも一部が凹所21z1内に配置される。
【0111】
これにより、スラスト荷重を受けない第2軸受Bp2が径方向幅狭且つ軸方向幅広となる関係で、第2軸受Bp2を支持する第2端壁21Bの外側面には、第2軸受Bp2よりも径方向内方側において、大径且つ軸方向に深い凹所21z1を形成可能となって、第2端壁21Bの駄肉軽減が図られる。しかもこの大径且つ軸方向に深い凹所21z1の空間を利用して、第2出力軸52を支持する第2軸受ボス部21b2や、第2軸受ボス部21b2を囲繞する第2ケース支持軸受Bc2、更にはミッションケース本体11側の第2支持ボス部11bを各々無理なく配置可能となるため、それだけ伝動装置Aの軸方向小型化を図る上で有利となる。
【0112】
さらに上記した第2端壁21Bの外側面には、径方向で第2軸受ボス部21b2よりも外方側で且つ周方向に相隣なる2つの第2軸受Bp2の各間において凹部21z2が形成され、凹部21z2の開口面の径方向外方部と第2軸受Bp2の外端の少なくとも一部とを覆う環状の油保持板27が、凹部21z2及び第2軸受Bp2に跨がるようにして周方向に延びるように配設される。これにより、伝動ケース20の回転中は、凹部21z2内の潤滑油を遠心力で凹部21z2内の径方向外方側に偏らせて保持することができる。またその伝動ケース20の回転が止まると、それまで凹部21z2内に保持されていた潤滑油が油保持板27を伝って自然流下して第2軸受Bp2側に誘導可能となるため、第2軸受Bp2に対する潤滑効果を高めることができる。
【0113】
その上、スラスト荷重を受けない第2軸受Bp2が前述のように径方向幅狭且つ軸方向幅広となる関係で、第2軸受Bp2を支持する第2端壁21Bの外側面には、周方向で相隣なる第2軸受Bp2の相互間において、大径且つ軸方向に深い凹部21z2を形成可能となって、第2端壁21Bの駄肉軽減が図られる。しかもこの大径且つ深い凹部21z2の空間を利用して潤滑油の保持容量を高めることができる。
【0114】
また本実施形態の伝動ケース20は、ミッションケース10を分割構成するミッションケース本体11及び蓋体12相互の対向面を通してミッションケース本体11内に装入可能であり、伝動ケース20の、第2軸受Bp2を支持する壁部分(即ち第2端壁21B)の最大外径よりも、ミッションケース本体11に固定のリングギヤ32の内径の方が大きく形成される。これにより、油路形成体Tやリングギヤ32をミッションケース本体11内に予め組み入れ、固定した状態で、そのミッションケース本体11内に上記対向面より伝動ケース20を組付け可能となる。またスラスト荷重を受けない第2軸受Bp2が径方向幅狭となって、第2端壁21Bの、第2軸受Bp2を支持する前記壁部分を小径化できることに関係して、該壁部分を通過させるリングギヤ32や、これを固定するミッションケース本体11の径方向小型化も達成可能となる。
【0115】
また特に本実施形態のように第2遊星ギヤ部P2と差動機構41とが軸方向で互いにオーバラップする構造では、第2遊星ギヤ部P2と差動機構41との干渉を無理なく回避するためには第2遊星ギヤ部P2を小径化することが有利であり、また減速機Rの減速比を高く設定するためにも第1遊星ギヤ部P1に対し第2遊星ギヤ部P2を小径化することが有利となる。しかし第2遊星ギヤ部P2を小径化すれば、それと噛合うリングギヤ32も小径化し、これに伴い、リングギヤ32の内径と、第2端壁21Bの第2軸受Bp2を支持する壁部分の外径が近くなって、その壁部分がリングギヤ32内を通過困難又は通過しにくくなる。しかるに本実施形態では、第2軸受Bp2を、スラスト荷重を支持しない軸受としたことで、その軸受周りの上記壁部分を十分に小型化することが可能となり、上記壁部分がリングギヤ32内を無理なく通過可能となる。
【0116】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。
【0117】
例えば、前記実施形態では、伝動装置Aの入力部(サンギヤ31)に回転駆動力を付与する動力源として電動モータを例示したが、電動モータに代えて、或いは加えて、車載のエンジンを動力源としてもよい。
【0118】
また前記実施形態では、伝動装置Aを車両(例えば自動車)用伝動装置に実施して、その伝動装置A中の差動装置Dで車両の左右の駆動車輪に回転駆動力を分配、付与するようにしたものを示したが、本発明では、差動装置Dをセンターデフとして用いて車両の前後の駆動車輪に回転駆動力を分配、付与するようにしてもよい。或いはまた、本発明の伝動装置Aを車両以外の種々の機械装置における、減速機R及び差動装置Dを複合した伝動装置として実施してもよい。
【0119】
また前記実施形態では、遊星ギヤPの第1,第2遊星ギヤ部P1,P2を枢軸33と一体化したものを示したが、第1,第2遊星ギヤ部P1,P2を連結軸部を介して結合、一体化した遊星ギヤ部結合体と、枢軸33とを別部品としてもよく、その場合は、上記遊星ギヤ部結合体を枢軸33に回転自在に嵌合、支持させるようにする。
【0120】
また前記実施形態では、差動装置Dにおいてピニオンギヤ43が2個であるものを示したが、ピニオンギヤ43は3個以上であってもよく、その場合は、ピニオンギヤ43の個数に応じたピニオン軸42及び連結壁21Lを適宜配置してもよい。