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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-05
(45)【発行日】2024-02-14
(54)【発明の名称】トランスアクスル構造
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/027 20120101AFI20240206BHJP
   B60K 17/06 20060101ALI20240206BHJP
【FI】
F16H57/027
B60K17/06 G
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020031005
(22)【出願日】2020-02-26
(65)【公開番号】P2021133792
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2022-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100180644
【弁理士】
【氏名又は名称】▲崎▼山 博教
(72)【発明者】
【氏名】日下部 慧
【審査官】藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-199890(JP,A)
【文献】特開2013-170638(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/00-57/12
B60K 17/06
B60K 17/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランスアクスルハウジング内に減速機構と、デファレンシャル機構とが配設されたトランスアクスル構造であって、
前記トランスアクスルハウジングは、
前記減速機構を収容する減速機構室と、
前記デファレンシャル機構を収容するデフ室と、
前記減速機構室及び前記デフ室を仕切る仕切り壁と、
前記減速機構室及び前記デフ室と連通した通気路と、
前記通気路に設けられたブリーザと、を有し、
前記ブリーザは、
前記減速機構室及び前記デフ室の一方又は双方の内圧の上昇に伴い、前記通気路と前記トランスアクスルハウジングの外部とを連通させることが可能なものであり、
前記通気路は、
前記減速機構室及び前記デフ室に跨がるように配置された前記トランスアクスルハウジングの内壁に設けた溝であり、
前記仕切り壁の外周縁の一部が、前記通気路の前記溝の内部に位置することを特徴とするトランスアクスル構造。
【請求項2】
前記仕切り壁の外周縁にリブが形成されていることを特徴とする請求項1に記載のトランスアクスル構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のトランスアクスル構造に関する。さらに詳しくは、ブリーザを備えたトランスアクスル構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トランスアクスルでは、ハウジング内のギアや軸などを潤滑するためにハウジング内に充填されたオイルを掻き上げて飛沫させることが行われている(例えば、特許文献1)。特許文献1のトランスアクスルは、デファレンシャルギア側のオイルとトランスミッション側のオイルが共有されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-11734号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のようなトランスアクスルは、デファレンシャルギアを潤滑するべく、高粘度のデフオイルが用いられている。したがって、トランスミッション側のギアの受ける回転抵抗が大きくなり、燃費や電気自動車等における電費が悪くなる問題があった。一方、トランスアクスルに用いるオイルを低粘度化した場合、デファレンシャルギアの焼き付きが発生する問題があった。
【0005】
上述の従来技術の課題を解決すべく、本発明者らが鋭意検討したところ、トランスアクスルを、デファレンシャルギアが収容されるデフ室と、トランスミッションのギアが収容される減速機構室とに分けた構成にすると良いとの知見を得た。このように、減速機構室とデフ室とを分けておき、減速機構室には低粘度のオートマチックトランスフルード(ATFとも称する)のようなオイルを用い、デフ室には高粘度のデフオイルを用いることで、デファレンシャルギアの焼き付きを抑制しつつ、燃費や電費を向上させることが考えられる。
【0006】
ところで、トランスアクスルは、内部でギアが回転するために、内圧が上昇したり、内圧が低下して負圧となったりする。そのため、トランスアクスル内の内圧と外圧との差を解消しなければ、トランスアクスルが破損したり、オイルリークが発生したりする問題がある。したがって、上述したトランスアクスル内の外圧と内圧の差を解消するために空気抜きとしてのブリーザが設けられている。
【0007】
かかる知見に基づけば、上述のように減速機構室とデフ室とを分けて、二室化を行った場合、減速機構室及びデフ室のそれぞれにブリーザを設ければ良いとも考えられる。しかしながら、このような構成とした場合には、ブリーザを複数設けることになる分だけ、製造コストの増大や、重量の増加、大型化等の問題が生じる懸念がある。
【0008】
そこで、本発明は、減速機構室とデフ室とを分けて二室化する場合であっても、ブリーザの使用数を増やすことなく、製造コストや重量の増加、大型化等の問題を抑制可能なトランスアクスル構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上述した課題を解決すべく提供される本発明のトランスアクスル構造は、トランスアクスルハウジング内に減速機構と、デファレンシャル機構とが配設されたトランスアクスル構造であって、前記トランスアクスルハウジングは、前記減速機構を収容する減速機構室と、前記デファレンシャル機構を収容するデフ室と、前記減速機構室及び前記デフ室を仕切る仕切り壁と、前記減速機構室及び前記デフ室と連通した通気路と、前記通気路に設けられたブリーザと、を有し、前記ブリーザは、前記減速機構室及び前記デフ室の一方又は双方の内圧の上昇に伴い、前記通気路と前記トランスアクスルハウジングの外部とを連通させることが可能なものであり、前記通気路は、前記減速機構室及び前記デフ室に跨がるように配置されていることを特徴とするものである。
【0010】
本発明のトランスアクスル構造は、減速機構室及びデフ室が仕切り壁によって仕切られており、減速機構室及びデフ室と連通した通気路が、減速機構室とデフ室とに跨がるように配置されている。さらに、通気路には、減速機構室及びデフ室の一方又は双方の内圧が上昇した場合に、当該通気路とトランスアクスルハウジングの外部とを連通させることが可能なブリーザが設けられている。したがって、減速機構室及びデフ室の二室を設けた場合であっても、一つのブリーザのみで、トランスアクスルハウジングの内部と外部との圧力差を解消することができる。これにより、部品点数を削減できるので、トランスアクスルの軽量化、コスト削減及び小型化が図れると共に部品組付け工数も削減できる。また、トランスアクスルハウジングの内部と外部との圧力差が解消されるので、トランスアクスルの破損やオイルリークを抑制することができる。
【0011】
また、通気路が、減速機構室及びデフ室に跨がるように配置されているので、減速機構室とデフ室とが連通している。したがって、減速機構室又はデフ室のいずれか一方が小さく形成されていても、他方の空間を利用できる。これにより、減速機構室又はデフ室のいずれか一方が小さく形成されていた場合であっても、ブリーザの開閉頻度を下げることができる。さらには、減速機構室とデフ室の圧力を等しくすることができるので、減速機構室とデフ室間の相互のオイルの混入を抑制することができる。
【0012】
また、仕切り壁によって減速機構室とデフ室とが仕切られているので、減速機構室とデフ室との間での相互のオイルの混入を抑制することができる。したがって、減速機構室とデフ室とで、それぞれ異なったオイルを使用することができる。これにより、例えば、減速機構室には低粘度のATFを用い、デフ室には高粘度のデフオイルを用いることで、燃費や電費を向上させることができる。
【0013】
(2)上述した課題を解決すべく提供される本発明のトランスアクスル構造は、前記仕切り壁の外周縁の一部が、前記通気路の内部に位置することを特徴とするものである。
【0014】
かかる構成によれば、通気路内を仕切り壁によって減速機構室とデフ室とに隔てることができるので、通気路内で減速機構室のオイルとデフ室のオイルとが、混入することを抑制することができる。
【0015】
(3)上述した課題を解決すべく提供される本発明のトランスアクスル構造は、前記仕切り壁の外周縁にリブが形成されていることを特徴とするものである。
【0016】
かかる構成によれば、仕切り壁の外周縁のリブによって、通気路にオイルが跳ね上がることを抑制することができる。これにより、ブリーザからオイルが噴出することを抑制できる。
(4)上述した課題を解決すべく提供される本発明のトランスアクスル構造は、前記リブが、外周縁に向けて先細り傾斜した傾斜部を有していることを特徴とするものである。
【0017】
かかる構成によれば、前記リブの傾斜部の傾斜方向に沿って、減速機構室及びデフ室へと空気がスムーズに流れるので、減速機構室及びデフ室の内圧上昇を効果的に抑制することができる。また、リブによって、通気路にオイルが跳ね上がることを抑制することができる。これにより、ブリーザからオイルが噴出することを抑制できる。
【0018】
(6)上述した課題を解決すべく提供される本発明のトランスアクスル構造は、前記通気路に、前記傾斜部に沿った形状の面取り部が形成されていることを特徴とするものである。
【0019】
かかる構成によれば、傾斜部及び面取り部の傾斜方向に沿って、空気がスムーズに流れるので、減速機構室及びデフ室の内圧上昇を効果的に抑制することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、減速機構室とデフ室とを分けて二室化した場合であっても、ブリーザの使用数を増やすことなく、製造コストや重量の増加、大型化等の問題を抑制可能なトランスアクスル構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明のトランスアクスル構造を平面方向から見た概略図である。
図2】本発明のトランスアクスル構造を側面視した概念図である。
図3図1のA-A方向断面矢視図である。
図4図1のB-B方向断面矢視図である。
図5図2における本発明のトランスアクスル構造の要部を拡大した断面図である。
図6】(a)及び(b)は、本発明のトランスアクスル構造における通気路と仕切り壁の設置例を示す説明図である。
図7】本発明のトランスアクスル構造における別の実施形態を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下では、本発明のトランスアクスル構造11の一実施形態について、図1図5を参照しつつ詳細を説明する。なお、説明を容易にするため、形状については、簡略化して描いてあることに留意されたい。
【0023】
図1に示すように、トランスアクスル10は、車両1に搭載されている。トランスアクスル10は、後方側にモータ2(動力源とも称する)等が接続されている。トランスアクスル10とモータ2とは、車両1の駆動装置3を構成している。
【0024】
駆動装置3は、例えば車両1の前方側に配置されており、モータ2から出力された回転動力を、減速機構50を介して一対のドライブシャフト82に伝達させることができる。それぞれのドライブシャフト82は、一対の駆動輪80に接続されており、ドライブシャフト82を介して駆動輪80が駆動されることにより車両1が走行する。モータ2は、車両走行用の動力を駆動輪80に向けて出力するモータ機能に加え、発電機能をも有するモータジェネレータが用いられている。
【0025】
図1に示すように、トランスアクスル10は、本発明のトランスアクスル構造11を有したものとされている。トランスアクスル構造11は、トランスアクスルハウジング20、通気路30、ブリーザ40、減速機構50、駆動軸60、デファレンシャル機構70等を備えている。減速機構50、駆動軸60及びデファレンシャル機構70は、トランスアクスルハウジング20内に収容されている。また、トランスアクスルハウジング20は、減速機構50を収容する減速機構室51と、デファレンシャル機構70を収容するデフ室71とを備えている。なお、本実施形態では、モータ2とトランスアクスル構造11が直列に配置された縦置き型のものを例に説明する。
【0026】
減速機構50は、トランスアクスルハウジング20内の後方側に形成された減速機構室51の内部に収容されている。また、減速機構50は、入力ギア52と、出力側ギアとしての駆動ギア53と、デフリングギア73等を備えている。
【0027】
図1に示すように、入力ギア52は、入力ギア軸52aの中間部において、軸線L1周りに形成されている。入力ギア軸52aは、減速機構室51内の前後方向(図示左右方向)に沿って設けられている。入力ギア軸52aの両端側は、減速機構室51内の支持壁に回転可能に支持されている。また、入力ギア軸52aは、後端側にモータ2のモータ軸(図示しない)が接続されている。そのため、モータ2の動力が入力ギア軸52aに入力される。
【0028】
駆動ギア53は、駆動ギア軸53aの中間部において、軸線L2周りに形成されている。駆動ギア軸53aは、入力ギア軸52aと平行となるように配置されている。駆動ギア軸53aは、後端側が減速機構室51の支持壁に軸受57を介して回転可能に支持されている。また、駆動ギア軸53aの前端側は、後述するスプライン嵌合部56が形成されており、スプライン嵌合部56がトランスアクスルハウジング20の内壁に回転可能に支持されている。駆動軸60は、駆動ギア軸53aと、後述するデフ軸74aとが接続されることで形成されている。また、入力ギア52と駆動ギア53とが係合しており、モータ2の回転動力が入力ギア52から駆動ギア53に伝達される。
【0029】
図2は、本発明のトランスアクスル構造11を側面視した概念図である。図2に示すように、減速機構室51は、収容された駆動ギア53等を潤滑するように例えば、低粘度のATFのようなオイル62aが注入されている。なお、詳細は後述するが、本実施形態においては、仕切り壁61(オイルシール61とも称する)によって減速機構室51とデフ室71とが仕切られており、オイル62aは、デフ室71側に流入することが抑制されている。
【0030】
図1に示すように、デファレンシャル機構70は、減速機構室51の前方側に形成されたデフ室71の内部に収容されている。また、デファレンシャル機構70は、デフ軸74aと、差動歯車機構72と、デフリングギア73等を備えている。
【0031】
デフ軸74aは、前端側に中間ギア74が設けられている。また、デフ軸74aは、駆動ギア軸53aの軸線L2と同軸線上に設けられている。
【0032】
図3は、図1のA-A方向から見た断面矢視図である。図3に示すように、デフ軸74aは、駆動ギア軸53aの前端側にスプライン嵌め合いにて接続されている。これにより、デフ軸74aの後端側にスプライン嵌合部56が形成されている。また、デフ軸74aは、中間ギア74とスプライン嵌合部56との間において径が小さく形成されたくびれ部74bを有している。
【0033】
図1に示すように、スプライン嵌合部56は、減速機構室51と、デフ室71との境界部分に位置し、外周部分が、トランスアクスルハウジング20の内壁に軸受57を介して回転可能に支持されている。また、仕切り壁61は、デフ軸74aに形成されたくびれ部74b上に位置するように、デフ軸74aの外周に嵌め込まれている。くびれ部74bを形成しておくことにより、くびれ部74b上において仕切り壁61で仕切る位置を容易に変更することができる。これにより、トランスアクスル構造11の汎用性を高めることができ、設計の自由度を高めることができる。
【0034】
また、スプライン嵌合部56は、デフ軸74aと駆動ギア軸53aとを一体化し、駆動軸60を形成している。駆動軸60は、入力ギア軸52aの回転を減速機構50、差動歯車機構72及びドライブシャフト82を介して駆動輪80に伝達することができる。
【0035】
図1に示すように、デフ軸74aは、前端側と、中間部とが、それぞれテーパローラベアリング55(円すいころ軸受55とも称する)で回転可能に支持されている。このように、スプライン嵌め合いによって連結されたデフ軸74aや駆動ギア軸53aのいずれか一方又は双方をテーパローラベアリング55で回転可能に支持することにより、スプライン嵌合部56に発生する捻れの力を解消することができる。これにより、スプライン嵌合部56の強度を維持することができ、デフ軸74aや駆動ギア軸53aの損傷も抑制することができる。
【0036】
上述したように、複数のテーパローラベアリング55や複数の軸受57によって駆動軸60を支持することにより、駆動軸60を支持する荷重を分散させることができる。したがって、テーパローラベアリング55や軸受57を小型化することができ、これら軸受55,57の無負荷時の損失トルクを減じることができる。これにより、車両1の燃費や電費を向上させることができる。
【0037】
中間ギア74は、差動歯車機構72のデフリングギア73と?み合っている。これにより、減速機構50は、モータ2の出力を減速して差動歯車機構72に伝達することができる。
【0038】
差動歯車機構72は、デフリングギア73を備えている。また、差動歯車機構72は、駆動軸60と直交する軸周りに回転可能なように一対のドライブシャフト82が支持されている。ドライブシャフト82には、駆動輪80が接続されている。差動歯車機構72は、デフリングギア73に伝達されたモータ2の動力を、一対の駆動輪80のそれぞれに分配して伝達する。また、差動歯車機構72は、一対の駆動輪80の相互間に回転差が生じた場合に、当該回転差を吸収しながら動力伝達を行う。
【0039】
図4は、図1のB-B方向から見た断面矢視図である。図4に示すように、仕切り壁61は、円形のドーナツ状に形成されており、外周縁がトランスアクスルハウジング20の内壁と接している。これにより、デフ室71と、減速機構室51とは、仕切り壁61を介して隔てられる。仕切り壁61を駆動軸60上に設ける場合は、仕切り壁61を上述したように円形のドーナツ状に形成し、駆動軸60の軸回りに圧入等で固定すれば良い。なお、仕切り壁61を他の形状とする場合は、仕切り壁61に駆動軸60を挿通し、仕切り壁61に対して、駆動軸60が回動可能となるようにすれば良い。
【0040】
ここで、仕切り壁61は、例えば、ニトリルゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム、樹脂等から形成されたものを使用できる。なお、仕切り壁61は、使用するオイル62に対して耐油性のあるものを使用することが望ましい。
【0041】
図2に示すように、デフ室71は、差動歯車機構72やデフ軸74a等を潤滑するために例えば、比較的高粘度のデフオイル等のオイル62bが注入されている。オイル62bは、仕切り壁61により、減速機構室51に流入することが抑制されている。なお、仕切り壁61は、トランスアクスルハウジング20の内壁と接しながらデフ軸74aと一体に回転することが許容されている。
【0042】
上述したように、本実施形態においては、仕切り壁61によって、減速機構室51と、デフ室71とが隔てられており、減速機構室51とデフ室71とで異なるオイル62a,62bを収容することができる。したがって、減速機構室51のように回転抵抗を減らしたい領域には低粘度のオイル62aを用い、デフ室71のようにギアに負荷が大きくかかる領域には、高粘度のオイル62bを用いることができる。これにより、トランスアクスル10の回転抵抗を減じることができるので、車両1の燃費や電費を向上させることができる。また、デフ室71側に高粘度のオイル62bを用いることができるので、デファレンシャル機構70の焼き付きを抑制することができる。
【0043】
図5は、図2における通気路30及びブリーザ40の周辺を拡大した断面図である。図5に示すように、仕切り壁61の上方側には、減速機構室51とデフ室71とに跨がるように通気路30が形成されており、減速機構室51とデフ室71とが連通している。通気路30は、トランスアクスルハウジング20の内壁に穴を開けたり、内壁の一部を加工したり、あるいは成型により形成することができる。また、通気路30は、仕切り壁61の上方側にブリーザ40が設けられており、通気路30は、ブリーザ40を介して、トランスアクスルハウジング20の外側と連通している。
【0044】
本実施形態では、通気路30及びブリーザ40が仕切り壁61の延長線上に位置している。なお、通気路30及びブリーザ40の位置は、仕切り壁61の延長線上に位置するものでなくても良い。かかる場合は、減速機構室51及びデフ室71の内圧が高まりやすい側の空間が広くなるように通気路30を形成したり、ブリーザ40を設けたりすれば良い。
【0045】
ブリーザ40は、筒部42と、キャップ41とを有している。ブリーザ40は、筒部42の上端部にキャップ41が形成されており、筒部42に爪41aが係合している。また、キャップ41は、筒部42との間に隙間が形成されており、筒部42と外部とが連通している。また、筒部42の上端には、昇降板43が設けられ、筒部42の上端部分の開口を塞いでいる。昇降板43は、キャップ41内の上下方向に設けられたバネ44によって下方に付勢されており、バネ44に抗した上昇が可能である。
【0046】
すなわち、ブリーザ40は、筒部42と連通する部分の内圧が高まった際に、図示二点鎖線のように昇降板43が上昇し、内部の空気を外部に排出する構造とされている。したがって、減速機構室51及びデフ室71の間の内圧が、ブリーザ40を介して一定に保たれる。これにより、オイル62a,62bがトランスアクスル10からオイルリークすることを抑制できる。また、減速機構室51とデフ室71との間に跨がって通気路30が形成されていても、内圧が一定に保たれるので、オイル62aとオイル62bとが相互に混じり合うことを抑制することができる。これにより、減速機構室51とデフ室71の一方が小さく形成されていても、空間を大きく利用できる。したがって、小さい方の空間の内圧が一方的に高まることを抑制することができる。
【0047】
なお、本実施形態においては、ブリーザ40が、仕切り壁61の延長線上における上方側に位置しているが、通気路30のいずれの位置に設けても良い。なお、減速機構室51及びデフ室71の内圧を均等に保つためには、仕切り壁61の延長線上に配置することが望ましい。
【0048】
以上が、本発明のトランスアクスル構造11の一実施形態である。次に、本発明のトランスアクスル構造11の別の実施形態について、図6(a)及び図6(b)に基づいて以下に詳細を説明する。
【0049】
図6(a)は、仕切り壁61の一部が、通気路30の内部に位置している場合のトランスアクスル構造11を示すものである。かかる構成とすることで、通気路30内を、仕切り壁61によって減速機構室51側とデフ室71側とに隔てることができるので、通気路30内で減速機構室51のオイル62aとデフ室71のオイル62bとが、相互に混入することを抑制することができる。
【0050】
なお、本実施形態では、トランスアクスルハウジング20の内壁に、仕切り壁61の外周縁に沿って溝を形成し、当該溝と仕切り壁61とが、トランスアクスルハウジング20の内壁に接するようにすれば良い。また、当該溝の一部に通気路30を形成するようにすれば良い。上述の構成とすることで、仕切り壁61の一部を通気路30の内部に位置させることができ、仕切り壁61が、トランスアクスルハウジング20の内壁に接しながら回転することを許容できる。これにより、減速機構室51及びデフ室71の間の相互のオイル流入が抑制される。
【0051】
図6(b)は、仕切り壁61の外周縁に、仕切り壁61の幅方向へ突出したリブ61aが形成されている場合のトランスアクスル構造11を示すものである。リブ61aは、オイル62aやオイル62bが通気路30内に侵入することを抑制する。
【0052】
本実施形態では、リブ61aが、外周縁に向けて先細り傾斜するように形成され、断面が台形状を呈する傾斜部61bを有している。また、通気路30の傾斜部61bと対向する部分には、面取り部20aが形成されている。これにより、リブ61aの下面側でオイル62a、62bが通気路30に侵入することを抑制しながら、通気路30内の空気の流れを整流することができる。したがって、減速機構室51及びデフ室71の内圧調整がよりスムーズに行われる。
【0053】
次に、仕切り壁61が異なる位置に配置されたトランスアクスル構造11の別の実施形態について、図7に基づいて以下に詳細を説明する。なお、上述した実施形態と同一の部材については同一の符号を用いている。また、上述した実施形態と同様の部分の説明は省略する。
【0054】
図7に示すように、本実施形態においては、スプライン嵌合部56の外周部分に、仕切り壁61が嵌め込まれている。また、仕切り壁61の上方側において、通気路30が減速機構室51及びデフ室71に跨がるように形成されている。また、通気路30上にブリーザ40が設けられている。したがって、上述の実施形態と同様に、減速機構室51及びデフ室71の間の内圧が高まり過ぎることを、ブリーザ40を介して解消させることができる。また、減速機構室51とデフ室71との間の内圧が、一定に保たれる。そのため、減速機構室51とデフ室71との間に跨がって通気路30が形成されていても、減速機構室51のオイル62aとデフ室71のオイル62bとが相互に混じり合うことがない。なお、仕切り壁61を設ける位置は、テーパローラベアリング55や軸受57等の潤滑も考慮した上で、適宜の位置に変更することができる。
【0055】
通気路30には、仕切り壁61の上方側に位置するようにブリーザ40が接続されている。このように、スプライン嵌合部56の外周部分に仕切り壁61を設けることにより、駆動軸60にかかる捻れ方向の力が仕切り壁61に及ぶことを抑制できる。これにより、仕切り壁61の寿命を延ばすことができる。
【0056】
また、仕切り壁61は、スプライン嵌合部56とトランスアクスルハウジング20の内壁との間を仕切っている。これにより、減速機構室51とデフ室71とが、隔てられるので、減速機構室51及びデフ室71の間の相互のオイル流入が抑制される。
【0057】
以上が、本発明のトランスアクスル構造11の実施形態であるが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、発明の範囲内で適宜の変更を行うことができる。
【0058】
本実施形態では、仕切り壁61により、減速機構室51とデフ室71とを隔てた構造としているが、仕切り壁61を取り除いて、減速機構室51とデフ室71とが連通したものとすることもできる。本発明のトランスアクスル構造11は、仕切り壁61を除去した場合であっても、他の構造を変更することなく、動作させることが可能である。仕切り壁61を除去して使用する場合は、減速機構室51及びデフ室71に、例えば、デフオイルのような低コストのオイル62を用いることが望ましい。このように低コストのオイル62を注入することにより、車両1の低コスト化を図ることができる。
【0059】
また、減速機構室51とデフ室71とを仕切り壁61により隔てる構造とすることにより、車両1の使用目的に応じて仕切り壁61を取り除くことで、容易にトランスアクスル構造11の構造を変更することができる。これにより、トランスアクスル構造11を汎用化することができるので、車両1の設計を共用化できる。そのため、設計コストや製造コストを低減することができる。
【0060】
また、仕切り壁61の形状や材質は、上述の実施形態に限定されるものではない。仕切り壁61の形状は、トランスアクスルハウジング20の内壁の形状や駆動軸60の形状に応じて、適宜変更することができる。また、本実施形態では、仕切り壁61が駆動軸60と一体的に回転するものとしたが、例えば、仕切り壁61がトランスアクスルハウジング20の内壁に固定され、駆動軸60が仕切り壁61と接しながら回転するものであっても良い。
【0061】
また、通気路30の形状は、上述した実施形態に限定されるものではなく、減速機構室51及びデフ室71に跨がるように配置されるものであれば、各種の形状に形成することが可能である。通気路30の形状は、仕切り壁61が形成される位置やトランスアクスルハウジング20の内壁の形状等に合わせて、例えば、穴や溝等の適宜の形状とすれば良い。また、通気路30が形成される位置は、仕切り壁61の配置される延長線上でなくても良い。かかる場合は、内圧が高まりやすい側の空間が大きくなるように、通気路30を形成すれば良い。
【0062】
また、ブリーザ40の構造や形状は、上述した実施形態に限定されるものではなく、トランスアクスルハウジング20の内外を連通させて圧力を調整可能なものであれば、各種の構造や形状のものを採用することが可能である。また、ブリーザ40を設ける位置は、仕切り壁61の延長線上に位置するものでなくても良く、通気路30の適宜の場所に設けることができる。すなわち、通気路30をトランスアクスルハウジング20の外部と連通させることができる位置であれば、各種の位置に設けることができる。かかる場合は、ブリーザ40は、内圧が高まりやすい側の位置に設けることが望ましい。
【0063】
本実施形態では、仕切り壁61の外周縁の一部が、通気路30の内部に位置するものを例示したが、仕切り壁61が通気路30の外部に位置していても良い。この場合は、減速機構室51及びデフ室71からの空気が、通気路30内に流入しやすいように、通気路30と仕切り壁61とを近接させることが望ましい。
【0064】
本実施形態では、仕切り壁61の外周縁にリブ61aが形成されているものを例示したが、仕切り壁61にリブ61aが設けられていないものであっても良い。また仕切り壁61にリブ61aを設ける場合は、リブ61aの大きさや形状を各種のものとすることができる。例えば、リブ61aは、矩形状、三角形状、円形状、楕円状等の各種の形状とすることができる。また、リブ61aを設ける位置もオイル62a,62bが通気路30へ侵入することを抑制できるものであれば、外周縁だけに制限されるものではない。また、傾斜部61bの傾斜角度や形状も適宜変更することができる。また、通気路30に、面取り部20aを形成する場合は、面取り部20aの形状や傾斜角度を傾斜部61bの形状に応じて適宜変更することができる。
【0065】
また、トランスアクスルハウジング20、減速機構室51及びデフ室71の形状も収容する入力ギア52、駆動ギア53、差動歯車機構72の形状や構造に応じて、各種の形状のものが採用できる。また、減速機構室51及びデフ室71の配置や入力ギア52、駆動ギア53及び差動歯車機構72の配置も発明の範囲内で適宜変更することができる。
【0066】
また、本実施形態では、駆動軸60が駆動ギア軸53aとデフ軸74aとをスプライン嵌め合いにより連結したものとしたが、本発明のトランスアクスル構造11は、これに限定されず、駆動軸60が一体に形成されているものであっても良い。また、駆動軸60は、2以上の複数の軸の連結によるものとすることもできる。また、駆動ギア軸53aとデフ軸74aとの連結は、スプライン嵌め合いによるものだけではなく、各種の連結方法を採用することができる。
【0067】
本実施形態では、仕切り壁61が、くびれ部74b上に設けたものと、スプライン嵌合部56上に設けたものとを例示したが、本発明は、これに限定されるものではない。仕切り壁61は、減速機構室51とデフ室71とを隔てることができるものであれば各種の位置に配置することができる。
【0068】
本実施形態では、デフ軸74aと駆動ギア軸53aとが、それぞれが複数の軸受55,57で回転可能に支持されているが、軸受55,57は、1つであっても良い。なお、軸受55,57にかかる荷重を分散させて、軸受55,57を小さくし、これにより、無負荷時のトルク損失を減じる上では、二以上の軸受55,57を用いることが望ましい。また、スプライン嵌合部56を設ける場合には、テーパローラベアリング55を用いることが望ましい。テーパローラベアリング55を用いることにより、スプライン嵌合部56の接続部における捻れの力を解消することができる。
【0069】
本実施形態では、デフ室71と減速機構室51に注入するオイル62は、車両1の使用目的に応じて適宜の粘度のオイル62を用いることができる。車両1の使用目的は、例えば、コスト重視、あるいは、燃費・電費重視等が挙げられる。また、オイル62の注入量も適宜変更することができる。
【0070】
なお、本発明は上述した実施形態や変形例において例示したものに限定されるものではなく、特許請求の範囲を逸脱しない範囲でその教示及び精神から他の実施形態があり得ることは当業者に容易に理解できよう。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、トランスアクスルを備えたガソリン車、ディーゼル車、ハイブリッド車、電気自動車等の各種の車両において好適に利用することが可能である。本発明は、縦置き型のトランスアクスルを採用する車両において好適に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0072】
1 :車両
2 :モータ(動力源)
10 :トランスアクスル
11 :トランスアクスル構造
20 :トランスアクスルハウジング
20a :面取り部
30 :通気路
40 :ブリーザ
50 :減速機構
51 :減速機構室
53 :駆動ギア
53a :駆動ギア軸
55 :テーパローラベアリング(円すいころ軸受)
56 :スプライン嵌合部
60 :駆動軸
61 :仕切り壁(オイルシール)
61a :リブ
61b :傾斜部
62 :オイル
62a :オイル
62b :オイル
70 :デファレンシャル機構
71 :デフ室
72 :差動歯車機構
73 :デフリングギア
74a :デフ軸
74b :くびれ部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7