(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】制御装置及び制御方法
(51)【国際特許分類】
G05B 13/02 20060101AFI20240214BHJP
B62D 6/00 20060101ALI20240214BHJP
B62D 113/00 20060101ALN20240214BHJP
【FI】
G05B13/02 C
B62D6/00
B62D113:00
(21)【出願番号】P 2023006531
(22)【出願日】2023-01-19
【審査請求日】2023-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004222
【氏名又は名称】弁理士法人創光国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【氏名又は名称】泉 通博
(74)【代理人】
【識別番号】100154070
【氏名又は名称】久恒 京範
(74)【代理人】
【識別番号】100153280
【氏名又は名称】寺川 賢祐
(74)【代理人】
【識別番号】100167793
【氏名又は名称】鈴木 学
(72)【発明者】
【氏名】矢作 修一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 元哉
【審査官】今井 貞雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-41661(JP,A)
【文献】特許第7332005(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御対象への目標値と、前記制御対象からの出力値との差に基づいて、前記制御対象への制御入力値をPI制御する制御装置であって、
測定ノイズを含む前記制御対象の出力値の微分が、前記制御入力値と規範モデルに対するずれ量とで規定された制御モデルにおける前記ずれ量を、状態空間モデルから構成されるカルマンフィルタによって推定する推定部と、
推定した前記ずれ量、比例ゲイン及び積分ゲインに基づいて、前記制御入力値を求める算出部と、
前記カルマンフィルタのカルマンゲインを設定するためのパラメータを調整する調整部と、
を備える、制御装置。
【請求項2】
前記調整部は、
前記パラメータを入力とし、前記目標値、前記制御入力値及び前記出力値で規定される評価関数の評価値を出力とした関数を推定し、
推定した前記関数の最小値を求めることで、前記パラメータを調整する、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記調整部は、前記パラメータを前記カルマンフィルタに入力してPI制御を行った場合の前記目標値、前記制御入力値及び前記出力値の評価値を求めて、前記関数を再度推定する、
請求項2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記調整部は、前記制御入力値の微分が所定値以下になるように制約して、前記パラメータを調整する、
請求項2に記載の制御装置。
【請求項5】
前記目標値は、車両の目標ヨーレートであり、
前記制御対象への制御入力は、前記車両の操舵角であり、
前記制御対象からの出力は、前記車両の実ヨーレートである、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項6】
プロセッサが実行する、
制御対象への目標値と、前記制御対象からの出力値との差に基づいて、前記制御対象への制御入力値をPI制御する制御方法であって、
測定ノイズを含む前記制御対象の出力値の微分が、前記制御入力値と規範モデルに対するずれ量とで規定された制御モデルにおける前記ずれ量を、状態空間モデルから構成されるカルマンフィルタによって推定するステップと、
推定した前記ずれ量、比例ゲイン及び積分ゲインに基づいて、前記制御入力値を求めるステップと、
前記カルマンフィルタのカルマンゲインを設定するためのパラメータを調整するステップと、
を有する、制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PI制御を行う制御装置及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
目標値と制御対象からの出力値との差に基づいて制御対象への制御入力値を制御する制御装置として、車両のヨーレートを制御するヨーレート制御装置が知られている。ヨーレート制御装置は、例えば、目標ヨーレートと実ヨーレートの差に応じて、車両の操舵角を制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、目標値と制御対象の出力値の乖離を抑制すべく、PI制御を用いると共に、ウルトラローカルモデル(Ultra-Local Model)に規定された制御対象からの出力のずれ量を推定して制御入力を求める方式が提案されている。
しかし、上記の方式では、誤差を推定する際に出力を微分するため、出力に含まれる外乱である測定ノイズの影響が増大するおそれがあった。
【0005】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、測定ノイズの影響を抑制しつつ、モデル誤差を補償することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様においては、制御対象への目標値と、前記制御対象からの出力値との差に基づいて、前記制御対象への制御入力値をPI制御する制御装置であって、測定ノイズを含む前記制御対象の出力値の微分が、前記制御入力値と規範モデルに対するずれ量とで規定された制御モデルにおける前記ずれ量を、状態空間モデルから構成されるカルマンフィルタによって推定する推定部と、推定した前記ずれ量、比例ゲイン及び積分ゲインに基づいて、前記制御入力値を求める算出部と、前記カルマンフィルタのカルマンゲインを設定するためのパラメータを調整する調整部と、を備える、制御装置を提供する。
【0007】
また、前記調整部は、前記パラメータを入力とし、前記目標値、前記制御入力値及び前記出力値で規定される評価関数の評価値を出力とした関数を推定し、推定した前記関数の最小値を求めることで、前記パラメータを調整することとしてもよい。
【0008】
また、前記調整部は、前記パラメータを前記カルマンフィルタに入力してPI制御を行った場合の前記目標値、前記制御入力値及び前記出力値の評価値を求めて、前記関数を再度推定することとしてもよい。
【0009】
また、前記調整部は、前記制御入力値の微分が所定値以下になるように制約して、前記パラメータを調整することとしてもよい。
【0010】
また、前記目標値は、車両の目標ヨーレートであり、前記制御対象への制御入力は、前記車両の操舵角であり、前記制御対象からの出力は、前記車両の実ヨーレートであることとしてもよい。
【0011】
本発明の第2の態様においては、プロセッサが実行する、制御対象への目標値と、前記制御対象からの出力値との差に基づいて、前記制御対象への制御入力値をPI制御する制御方法であって、測定ノイズを含む前記制御対象の出力値の微分が、前記制御入力値と規範モデルに対するずれ量とで規定された制御モデルにおける前記ずれ量を、状態空間モデルから構成されるカルマンフィルタによって推定するステップと、推定した前記ずれ量、比例ゲイン及び積分ゲインに基づいて、前記制御入力値を求めるステップと、前記カルマンフィルタのカルマンゲインを設定するためのパラメータを調整するステップと、を有する、制御方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、測定ノイズの影響を抑制しつつ、モデル誤差を補償できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態に係る車両Sの概要を説明するための図である。
【
図2】制御入力値を決定する動作を説明するための制御ブロック図である。
【
図3】パラメータQ、Rの自動調整の流れを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<車両Sの概要>
図1は、本実施形態に係る車両Sの概要を説明するための図である。
図1に示す車両Sは、センサ部1と、状態特定部2と、操舵部3と、制御装置4を備える。車両Sは、設定された設定経路に沿って走行するための操舵角を算出し、旋回時の車両Sを自動操舵する機能を有する。
【0015】
センサ部1は、例えば操舵角センサ及びヨーレートセンサを有しており、走行中の車両Sの操舵角及びヨーレートを検出する。
【0016】
状態特定部2は、GNSS(Global Navigation Satellite System)等の外部の測位システムから車両Sの位置を示す電波を受信する受信装置と、加速度センサ及び角速度センサを含むIMU(Inertial Measurement Unit)とを有する。状態特定部2は、受信装置及びIMUを用いて、設定経路を走行するための目標ヨーレートを特定する。
【0017】
状態特定部2は、例えば、受信装置が受信した電波に基づいて複数の時刻における車両Sの位置を特定することにより車両Sの進行方向を特定する。状態特定部2は、設定経路が示す方向と特定した車両Sの進行方向との差、及び設定経路に含まれる位置と車両Sの位置との差に基づいて目標ヨーレートを特定する。
【0018】
操舵部3は、車両Sを自動操舵する機能を有する。操舵部3は、例えば、制御装置4から入力された操舵角に基づいて、操舵用モータ等によりステアリング軸を回転させ、走行中の車両Sを左又は右に旋回させる。
【0019】
制御装置4は、センサ部1が検出した車両Sのヨーレートと状態特定部2が特定した車両Sの目標ヨーレートとに基づいて、旋回時の車両Sの操舵角を算出する処理を実行する。制御装置4は、所定時刻ごとに算出した操舵角に基づいて操舵部3に旋回時の車両Sを自動操舵させることで、旋回時の車両Sのヨーレートを制御する。
【0020】
<制御装置の詳細構成>
制御装置4は、制御対象への目標値と制御対象からの出力値との差に基づいて、制御対象への制御入力値をPI制御する。以下では、制御対象として操舵部3を例に挙げて説明するが、これに限定されず、制御対象が車両Sの他のユニットであってもよい。
【0021】
制御装置4は、車両の目標ヨーレートと実ヨーレートとの差に基づいて、制御入力である車両Sの操舵角をPI制御する。制御装置4は、
図1に示すように、記憶部20と制御部30を有する。
【0022】
記憶部20は、コンピュータのBIOS(Basic Input Output System)等を格納するROM(Read Only Memory)、作業領域となるRAM(Random Access Memory)を含む。また、記憶部20は、OS(Operating System)やアプリケーションプログラム、当該アプリケーションプログラムの実行時に参照される種々の情報を格納するHDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)等の大容量記憶装置である。
【0023】
制御部30は、CPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)等のプロセッサである。制御部30は、記憶部20に記憶されたプログラムを実行することによって、データ取得部32、モデル変換部33、推定部34、算出部35及び調整部36として機能する。なお、制御部30は、1つのプロセッサで構成されていてもよいし、複数のプロセッサ又は1以上のプロセッサと電子回路との組み合わせにより構成されていてもよい。
【0024】
データ取得部32は、目標ヨーレートと実ヨーレートを取得する。例えば、データ取得部32は、状態特定部2が特定した目標ヨーレートを取得する。また、データ取得部32は、センサ部1が検出した実ヨーレートを取得する。データ取得部32は、車両Sの走行中の所定間隔毎に、目標ヨーレート及び実ヨーレートを取得しうる。
【0025】
モデル変換部33は、制御対象の制御モデルを状態空間モデルに変換する。ここで、制御モデルは、外乱である測定ノイズを含んでおり、操舵部3の出力値の微分が、制御入力値と規範モデルに対するずれ量とで規定されたモデルである。規範モデルは、所望の応答特性を満たすように設計されたモデルである。
【0026】
ここで、制御対象の制御モデルについて、
図2を参照しながら説明する。
図2は、制御入力値を決定する動作を説明するための制御ブロック図である。
図2において、制御対象102は、車両Sの操舵部3である。制御対象102には、制御入力である操舵角uが入力される。また、制御対象102からは出力として実ヨーレートyが出力される。制御装置4は、目標値である目標ヨーレートrと実ヨーレートyの偏差に基づいて、制御対象102の制御入力である操舵角uを制御する。制御装置4は、目標ヨーレートrと実ヨーレートyの偏差eをゼロにするように、操舵角uをフィードバック制御する。また、制御装置4は、PI制御を行うべく、比例器105a及び積分器105bを有する。
【0027】
制御装置4は、所望のヨーレート応答を実現すべく、制御対象102の制御モデルとして公知のウルトラローカルモデル(Ultra-Local Model)を用いる。ウルトラローカルモデルは、超局所モデルとも呼ばれ、式(1)のように示される。
【0028】
式(1)において、aは設計パラメータであり、Fはずれ量である。ずれ量Fは、所望の応答特性に設計された規範モデルに対するずれ量であり、様々な誤差を含めたものである。
【0029】
ずれ量Fを推定した推定ずれ差F
eは、式(1)から式(2)のように示される。
式(2)のu
eは、制御入力である操舵角uを推定した推定入力であり、式(3)のように示される。
式(3)において、Tは時定数である。
【0030】
この場合、操舵角uは、
図2から分かるように式(4)のように示される。
式(4)において、K
pは比例ゲインであり、K
iは積分ゲインであり、sはラプラス演算子である。
【0031】
制御対象102の出力ypと測定ノイズdとから、実ヨーレートyが決定される。このため、式(1)に示すウルトラローカルモデルは、測定ノイズdを含む制御対象102の出力の微分を、操舵角uとずれ量Fとで規定したモデルである。
【0032】
式(2)の推定ずれ量F
eは、式(5)のように示される。
【0033】
式(2)に示されるように、推定ずれ量Feは、実ヨーレートyを微分した値を用いてあらわされ、また、式(5)に示されるように、測定ノイズdを微分した値であらわされる。そして、測定ノイズdを微分すると増大するため、推定ずれ量Feが測定ノイズdの影響を受けやすい。この結果、制御入力である操舵角uも、振動してしまうことになる。
【0034】
これに対して、本実施形態では、詳細は後述するが、推定部34が、カルマンフィルタを適用して推定ずれ量Feを求めることで、測定ノイズdの影響を抑制できるヨーレート制御を実現できる。
【0035】
モデル変換部33は、制御対象102のウルトラローカルモデル(式(1)参照)を、状態空間モデルに変換する。ウルトラローカルモデルの状態空間モデルへの変換は、以下のように行われる。
【0036】
ここでは、前述した式(1)のずれ量Fの変化速度が微小であると仮定する。この場合、式(6)が満たされる。
【0037】
上記の仮定のもとで、モデル変換部33は、ウルトラローカルモデルを状態空間モデルに変換する。変換された状態空間モデルは、式(7)~式(12)で規定される。
なお、式(7)が状態方程式であり、式(8)が観測方程式である。xは状態変数であり、A、B、Cは、例えば設計者によって設定される係数である。
【0038】
推定部34は、制御モデルにおいて規範モデルに対するずれ量を、状態空間モデルから構成されるカルマンフィルタによって推定する。カルマンフィルタは、状態空間モデルにおける状態を推定するための手法である。カルマンフィルタは、ここでは定常カルマンフィルタであり、式(13)~式(15)で規定される。
【0039】
なお、式(13)におてい、x
eは、状態変数xの推定値であり、y
eは、実ヨーレートyの推定値である。また、カルマンゲインLは、代数的リカッチ方程式を用いて下記のように計算できる。
式(16)において、Pは、リカッチ方程式の解であり、Q及びRは、設計パラメータである正定値行列である。
【0040】
算出部35は、推定ずれ量F
e、比例ゲイン及び積分ゲインに基づいて、制御入力値を求める。すなわち、算出部35は、推定ずれ量F
eの推定則とPI制御則から、操舵角uを求める。具体的には、算出部35は、下記の式(18)~(22)から、制御入力である車両の操舵角uを求める。
【0041】
式(13)~式(15)から明らかなように、カルマンフィルタを適用する場合には、推定ずれ量Feを推定する際に実ヨーレートyを微分する必要がない。このため、実ヨーレートyに含まれる測定ノイズdの影響を抑制して推定ずれ量Feを推定できる。この結果、式(18)で示される操舵角uが測定ノイズdの増大に起因して振動することも抑制できる。
【0042】
推定部34でカルマンフィルタを用いる場合には、パラメータ調整が必要である。カルマンフィルタのカルマンゲインLを直接調整する方策を検討しうるが、カルマンゲインLを直接調整する場合には、システムが不安定になるおそれがある。本実施形態では、上述した問題を解消すべく、カルマンゲインLを直接調整するのではなく、カルマンゲインLを設定するパラメータQ、Rを自動調整する方策を採用している。これにより、カルマンフィルタのパラメータを試行錯誤しながら調整する必要がなくなる。
【0043】
調整部36は、カルマンフィルタのカルマンゲインLを設定するためのパラメータQ、Rを調整する。具体的には、まず、調整部36は、パラメータQ、Rを入力とし、目標値(目標ヨーレートr)、制御入力値(操舵角u)及び出力値(実ヨーレートy)で規定される評価関数の評価値を出力とした関数を推定する。上記の関数は、公知のガウス過程回帰(Gaussian Process Regression)によって得られた関数である。
【0044】
調整部36は、推定した関数の最小値を求めることで、パラメータQ、Rを調整する。具体的には、調整部36は、ベイズ最適化を行うことによって、パラメータQ、Rを調整する。ベイズ最適化は、ガウス過程回帰により未知の関数をデータから学習しつつ、少ない試行回数で前記関数の大域的最適解の推定を行う手法である。ベイズ最適化では、ガウス過程回帰によって得られた関数に対し、獲得関数と呼ばれる関数を用いて大域的最適解の推定において最適な入力を算出する。これにより、少ない試行回数で、カルマンフィルタを設計するためのパラメータQ、Rを最適化できる。また、ベイズ最適化を用いる場合には、他の手法を用いる場合に比べて高速に反復することができるため、パラメータQ、Rを短時間で調整しやすくなる。
【0045】
調整部36は、制御入力値の微分が所定値以下になるように制約して、パラメータQ、Rを調整してもよい。例えば、調整部36は、操舵角uの速度が所定値以下になるように制約を行い、パラメータQ、Rを調整する。所定値は、設計者が設定した値である。特定の制約下でパラメータQ、Rを調整することで、より最適なパラメータに調整できる。
【0046】
調整部36は、下記の式を用いて、パラメータQ、Rを求める。
なお、式(23)において、θがパラメータQ、Rを意味しており、θを求めることでパラメータQ、Rを求めることになる。式(23)の右辺の第1項は、実際の応答と目標応答の差の二乗を示し、第2項はペナルティ項を示していている。T
dは、設計者が希望する応答であり、P
c(u)がペナルティ関数であり、wが重みである。式(2
であり、一例として1又は0.1である。
【0047】
ペナルティ関数を用いるペナルティ関数法は、制約付き最適化問題を無制約最適化問題に変換して解く方法である。ペナルティ関数法では、制約を満たさないことに対するペナルティ項(式(24)の右辺の第2項)を目的関数(式(24)の右辺の第1項項)に加えて定義されるペナルティ関数を無制約最適化することを、ペナルティ項の重みを増やしながら繰り返す。
【0048】
本実施形態では、調整部36は、パラメータQ、Rを自動調整するために、
図3に示す処理を行う。
図3は、パラメータQ、Rの自動調整の流れを説明するための図である。調整部36は、
図3に示す処理(ステップS102~S106)を繰り返すことで、パラメータQ、Rを最適化する。
【0049】
まず、調整部36は、前述したベイズ最適化を行う(ステップS102)。すなわち、調整部36は、パラメータQ、Rを入力とし、目標値、制御入力値及び出力値で規定される評価関数の評価値を出力とした関数を推定し、当該関数の最小値を求めることで最適化されたパラメータQ、Rを求める。
【0050】
次に、ステップS102で求まったパラメータQ、Rをカルマンフィルタに入力して、PI制御の実験を行う(ステップS104)。制御装置4は、パラメータQ、Rが最適化されたカルマンフィルタを用いて、ヨーレートのPI制御を行う。
【0051】
次に、調整部36は、ステップS104の実験結果から取得したデータを用いて、PI制御の評価を行う(ステップS106)。例えば、調整部36は、操舵追従性とノイズレベルの評価を行う。取得されるデータは、目標値r、制御入力値u、出力値yであり、データ取得部32によって取得される。調整部36は、前述した式(23)の評価関数の評価値zを求める。
【0052】
その後、調整部36は、ステップS102に戻って、ステップS106で求めた評価値zを用いて、ベイズ最適化を行う(S102)。すなわち、調整部36は、パラメータQ、Rをカルマンフィルタに入力してPI制御を行った場合の、目標値、制御入力値及び出力値の評価値を求めて、関数を再度推定する。そして、調整部36は、推定した関数の最小値を求めることで、パラメータQ、Rを再度最適化する。調整部36は、ステップS102~S106を所定回数だけ繰り返す。これにより、制御モデルが精度良くなり(別言すれば、モデル誤差を補償することになり)、より最適なパラメータQ、Rを求めることができる。
【0053】
<本実施形態における効果>
上述した実施形態の制御装置4は、測定ノイズを含む制御対象102の出力値の微分が、制御入力値と規範モデルに対するずれ量とで規定された制御モデルにおけるずれ量Feを、状態空間モデルから構成されるカルマンフィルタによって推定する推定部34と、推定したずれ量Fe、比例ゲイン及び積分ゲインに基づいて、制御入力値を求める算出部35と、カルマンフィルタのカルマンゲインLを設定するためのパラメータR、Qを調整する調整部36を有する。
推定部34がカルマンフィルタを適用して推定ずれ量Feを推定する場合には、カルマンフィルタが実ヨーレートy(制御対象の出力)の微分を行わないため、実ヨーレートyに含まれる測定ノイズdの影響を抑制できる。また、調整部36は、カルメンゲインLを直接調整する代わりにパラメータR、Qを調整することで、システムが不安定になることを抑制しつつ、カルマンフィルタを設計するためのパラメータを最適化できる。
【0054】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の全部又は一部は、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を併せ持つ。
【符号の説明】
【0055】
3 操舵部
4 制御装置
34 推定部
35 算出部
36 調整部
102 制御対象
R、Q パラメータ
S 車両
【要約】
【課題】測定ノイズの影響を抑制しつつ、モデル誤差を補償する。
【解決手段】制御対象への目標値と、制御対象からの出力値との差に基づいて、制御対象への制御入力値をPI制御する制御装置4は、測定ノイズを含む制御対象の出力値の微分が、制御入力値と規範モデルに対するずれ量とで規定された制御モデルにおけるずれ量を、状態空間モデルから構成されるカルマンフィルタによって推定する推定部34と、推定したずれ量、比例ゲイン及び積分ゲインに基づいて、制御入力値を求める算出部35と、カルマンフィルタのカルマンゲインを設定するためのパラメータを調整する調整部36を備える。
【選択図】
図1