(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】エンジン構造
(51)【国際特許分類】
F02F 1/00 20060101AFI20240214BHJP
【FI】
F02F1/00 S
(21)【出願番号】P 2023036278
(22)【出願日】2023-03-09
【審査請求日】2023-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004222
【氏名又は名称】弁理士法人創光国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【氏名又は名称】泉 通博
(74)【代理人】
【識別番号】100154070
【氏名又は名称】久恒 京範
(74)【代理人】
【識別番号】100153280
【氏名又は名称】寺川 賢祐
(74)【代理人】
【識別番号】100167793
【氏名又は名称】鈴木 学
(72)【発明者】
【氏名】後藤 操
(72)【発明者】
【氏名】山本 和成
(72)【発明者】
【氏名】小宮山 巧
【審査官】櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0114373(US,A1)
【文献】中国実用新案第205744169(CN,U)
【文献】米国特許出願公開第2015/0219042(US,A1)
【文献】特開平08-042393(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 1/00-1/42
7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダボアが形成されたシリンダブロックと、
前記シリンダボア内に設けられたピストンと、
前記シリンダボアを塞ぐように前記シリンダブロックの上部に設けられたシリンダヘッドと、
前記シリンダボアの上端側に挿入され、前記シリンダボアの直径よりも小さな内径を有するリングと、
を備え、
前記リングの内周面に、前記ピストンの外周面と接触して摩耗する第1アブレーダブル層が形成されている、
前記シリンダヘッドのうち前記シリンダボアを覆う円形領域の少なくとも一部に前記第1アブレーダブル層とは異なる他のアブレーダブル層が形成されている、
エンジン構造。
【請求項2】
前記シリンダボアの内周面のうち、前記リングの直下の領域に第2アブレーダブル層が形成されている、
請求項1に記載のエンジン構造。
【請求項3】
前記円形領域には、
燃料を噴射する燃料噴射部材と、
複数のバルブと、
が設けられており、
前記
他のアブレーダブル層は、前記燃料噴射部材と前記複数のバルブよりも外側のリング状の領域に形成されている、
請求項
1又は2に記載のエンジン構造。
【請求項4】
前記第1アブレーダブル層の硬度は、前記ピストンの硬度よりも低い、
請求項1に記載のエンジン構造。
【請求項5】
シリンダボアが形成されたシリンダブロックと、
前記シリンダボア内に設けられたピストンと、
前記シリンダボアを塞ぐように前記シリンダブロックの上部に設けられたシリンダヘッドと、
を備え、
前記シリンダボアの上端側の部分は、前記シリンダボアの下端側の部分よりも直径が小さく、
前記シリンダボアは、前記シリンダボアの上端側の部分の内周面に、前記ピストンよりも硬度が低い
第1アブレーダブル層を有
し、
前記シリンダヘッドのうち前記シリンダボアを覆う円形領域の少なくとも一部に前記第1アブレーダブル層とは異なる他のアブレーダブル層が形成されている、
エンジン構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンのピストンは、頂面にキャビティと呼ばれる凹部が形成されている。キャビティは燃焼室の一部を形成し、燃料はこの燃焼室の内部に噴射される(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ディーゼルエンジンの熱効率を向上させるためには、燃焼室に連通する無駄な容積を低減することが好ましく、特許文献1の構成はこの点で改善の余地がある。
【0005】
そこで、本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、ディーゼルエンジンの熱効率を向上させることができるエンジン構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のエンジン構造は、シリンダボアが形成されたシリンダブロックと、前記シリンダボア内に設けられたピストンと、前記シリンダボアを塞ぐように前記シリンダブロックの上部に設けられたシリンダヘッドと、前記シリンダボアの上端側に挿入され、前記シリンダボアの直径よりも小さな内径を有するリングと、を備え、前記リングの内周面に、前記ピストンの外周面と接触して摩耗する第1アブレーダブル層が形成されている。
【0007】
前記シリンダボアの内周面のうち、前記リングの直下の領域に第2アブレーダブル層が形成されていてもよい。
【0008】
前記シリンダヘッドのうち前記シリンダボアを覆う円形領域の少なくとも一部に第3アブレーダブル層が形成されていてもよい。
【0009】
前記円形領域には、燃料を噴射する燃料噴射部材と、複数のバルブと、が設けられており、前記第3アブレーダブル層は、前記燃料噴射部材と前記複数のバルブよりも外側のリング状の領域に形成されていてもよい。
【0010】
前記第1アブレーダブル層の硬度は、前記ピストンの硬度よりも低くてもよい。
【0011】
本発明の他の形態のエンジン構造は、シリンダボアが形成されたシリンダブロックと、前記シリンダボア内に設けられたピストンと、前記シリンダボアを塞ぐように前記シリンダブロックの上部に設けられたシリンダヘッドと、を備え、前記シリンダボアの上端側の部分は、前記シリンダボアの下端側の部分よりも直径が小さく、前記シリンダボアは、前記シリンダボアの上端側の部分の内周面に、前記ピストンよりも硬度が低いアブレーダブル層を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ディーゼルエンジンの熱効率を向上させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態のエンジン構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明の一実施形態のエンジン構造を示す断面図である。
【0015】
エンジン構造S100は、例えばディーゼルエンジンの一部を構成する。ディーゼルエンジンは、一例として複数のシリンダを有するが、
図1では、1つのシリンダ及びその周辺構造のみが示されている。
【0016】
エンジン構造S100は、主要な構成要素として、シリンダブロック10と、ピストン20と、シリンダヘッド30と、リング40とを備えている。
【0017】
本明細書において、「半径方向」とは、シリンダ軸CLを基準とした半径方向のことをいう。方向を示す語句に関し、「上」は、ピストン20の上死点側のことをいう。「下」は、ピストン20の下死点側のことをいう。
【0018】
シリンダブロック10は、金属製の部材である。シリンダブロック10には、円筒状のシリンダボア11が形成されている。
図1では、シリンダボア11の中心軸がシリンダ軸CLとして描かれている。シリンダボア11は、ピストン20が収容され、ピストン20が上下に往復運動を行うことが可能な筒状の空間である。
【0019】
ピストン20は、円柱状の部材である。ピストン20は、シリンダボア11の内部をシリンダ軸CLに沿って往復移動するように構成されている。ピストン20は、クランクシャフトに動力を伝達可能に連結されている。ピストン20の上部には、燃焼室25の一部を形成する凹部22が設けられている。凹部22はキャビティとも呼ばれる部分である。
【0020】
ピストン20の外周面には、複数のリング状部材26が設けられている。この例では、3つのリング状部材26がシリンダ軸CLに沿う方向に互いに所定の間隔をあけて設けられている。なお、
図1の各構成要素はあくまで模式的に描かれたものである。
図1では、リング状部材26がシリンダボア11の内周面から離れているが、リング状部材26は実際にはシリンダボア11の内周面に接する。
【0021】
シリンダヘッド30は、シリンダブロック10の上部に設けられている。シリンダヘッド30は、シリンダボア11を塞ぐように配置されている。シリンダヘッド30の下面31は、一例として平面であり、シリンダボア11の開口部を塞いでいる。
【0022】
シリンダヘッド30には、燃料を噴射する燃料噴射部材38と、複数のバルブ36とが設けられている。燃料噴射部材38及び複数のバルブ36は、具体的には、シリンダヘッド30の下面31のうちシリンダボア11を覆う円形領域に設けられている。燃料噴射部材38は、燃焼室25に向けて燃料を噴射する。複数のバルブ36は、燃焼室25内に空気を取り込んだり、燃焼後のガスを排気したりするために往復移動するように設けられている。
【0023】
リング40は、シリンダボア11の上端側に挿入されている。シリンダボア11の上端側は、ピストン20の往復運動における上死点側に対応する。また、シリンダボア11の上端側は、燃料噴射部材38やバルブ36が設けられ、燃料や空気が入ってくる側であることから、シリンダボア11の入口部分であるともいう。リング40は、シリンダボア11の上端側に形成された座繰り部に固定的に配置されている。座繰り部は、シリンダボア11の内径よりも大きな内径となるように形成された段状部である。リング40は、シリンダボア11の直径よりも小さな内径を有している。別の言い方をすれば、リング40はシリンダボア11の内周面よりも径方向内側に突出している。
図1に示すように、ピストン20が上死点付近に位置した状態では、ピストン20の上端部はリング40の内側に入り込む。
【0024】
このようなリング40が設けられていることにより、最上部のリング状部材26の周辺の容積が低減する。その結果、燃焼室25における圧縮比が向上し、熱効率が向上する。
【0025】
このように、シリンダボア11の半径方向内側に向かって突出するリング40が設けられていることにより、熱効率が向上するという利点が得られるが、リング40の内径が小さすぎるとリング40がピストン20の外周面と干渉するおそれがある。他方、熱効率の観点から、ピストン20とリング40との間の隙間はなるべく狭いことが好ましい。
【0026】
そこで本実施形態では、リング40の内周面に、アブレーダブル層51が形成されている。他の部品に形成されるアブレーダブル層と区別するため、以下、この層を第1アブレーダブル層51という。第1アブレーダブル層51は、例えばアブレーダブル溶射によりリング40の内周面に設けられた皮膜である。第1アブレーダブル層51は、リング40の内周面の全体に設けられていてもよいし、部分的に設けられていてもよい。第1アブレーダブル層51は、例えば、リング40の内周面のうちピストン20の外周面と対向する領域に部分的に設けられていてもよい。
【0027】
第1アブレーダブル層51は、例えば、コバルト、ニッケル、クロム、アルミニウム、又はイットリウム等を含む金属成分を主体とする材料で形成される。この材料は、固体潤滑材としての窒化ホウ素及び気孔率制御のためのポリエステルを含有していてもよい。この材料が、例えばプラズマ溶射(APS:Atmosphric Plasma Spraying)等により溶射される。その後、溶射された材料は加熱処理される。この加熱処理によって、ポリエステルが消失する。これにより多孔質組織の第1アブレーダブル層51が形成される。
【0028】
第1アブレーダブル層51は、エンジンを構成する他の部材と比較して硬度が低くなるように構成される。第1アブレーダブル層51の硬度は、少なくともピストン20の硬度よりも低い。したがって、例えばピストン20に接触した際に、ピストン20を損傷させることなく、摩耗する。第1アブレーダブル層51は、初期状態(摩耗前の状態)で、第1アブレーダブル層51が形成されたリング40の内径がピストン20の直径よりも小さくなるような厚さで形成される。すなわち、第1アブレーダブル層51はピストン20の外周面に接触するように形成されている。第1アブレーダブル層51はピストン20の外周面と接触して摩耗する。
【0029】
このような第1アブレーダブル層51が形成されたエンジン構造S100によれば、各部品が組み立てられた状態で、ピストン20が往復移動することでピストン20の外周面が第1アブレーダブル層51と接触し、第1アブレーダブル層51が摩耗する。その結果、ピストン20の外周面とリング40の内周面(第1アブレーダブル層51を含む)との間の隙間が小さく抑えられる。
【0030】
(エンジン構造S100の効果)
以上のように構成されたエンジン構造S100では、リング40の内周面に第1アブレーダブル層51が形成されており、第1アブレーダブル層51が摩耗することによってピストン20の外周面とリング40の内周面(第1アブレーダブル層51を含む)との間の隙間が小さく抑えられる。したがって、燃焼室25に連通する無駄な容積が低減し、燃焼室25における圧縮比の向上及び熱効率の向上を図ることができる。
【0031】
リング40の内周面に第1アブレーダブル層51が形成されている構成によれば、例えば、予めリング40の内周面に第1アブレーダブル層51を形成し、第1アブレーダブル層51が形成されたリング40をシリンダボア11に取り付けるという手順でエンジン構造S100を作製できる。このような手順の場合、リング40が取り付けられたシリンダボア11の内面に対してアブレーダブル溶射を行う必要がないため、作業性がよい。
【0032】
<変形例>
本発明は上記の構成に限定されない。
図2は他の実施形態を示す図である。
図2に示すように、エンジン構造S101は、リング40の内周面だけではなくシリンダブロック10及びシリンダヘッド30の一方又は双方にアブレーダブル層が形成されている。
【0033】
具体的には、
図2のエンジン構造S101では、シリンダボア11の内周面のうち、リング40の直下の領域に第2アブレーダブル層52が形成されている。第2アブレーダブル層52は、具体的には、リング40よりも下方であって最上部の複数のリング状部材26よりも上方の領域を少なくとも含む領域に形成されている。
【0034】
また、
図2のエンジン構造S101では、第3アブレーダブル層53も形成されている。第3アブレーダブル層53は、シリンダヘッド30のうちシリンダボア11を覆う円形領域の少なくとも一部に形成され
た、第1アブレーダブル層51とは異なる他のアブレーダブル層である。第3アブレーダブル層53は、摩耗する前の状態で、上死点に位置するピストン20の頂面21に接する程度の厚みに形成されていてもよい。ピストン20が動作することにより、第3アブレーダブル層53が摩耗する。その結果、頂面21の周辺部と第3アブレーダブル層53との隙間が小さく抑えられた構成が得られる。
【0035】
このような構成によれば、燃焼室25に連通する無駄な容積が低減し、燃焼室25における圧縮比の向上及び熱効率の向上を図ることができる。
【0036】
図3は、さらに他の変形例を示す模式図である。
図2では、第3アブレーダブル層53がシリンダヘッド30のうちシリンダボア11を覆う円形領域に全面的に形成されていたが、本発明はこれに限定されない。
【0037】
図3に示すように、第3アブレーダブル層53Aが、燃料噴射部材38と複数のバルブ36よりも外側のリング状領域Rに形成されていてもよい。
【0038】
リング状領域Rの内径は、一例として、複数のバルブ36が存在する円形領域Raの直径よりも大きい。このようなリング状領域Rに第3アブレーダブル層53Aが設けられている場合、第3アブレーダブル層53Aはバルブ36に接しない。そのため、シリンダヘッド30の表面のアブレーダブル材の被膜がバルブ36に接して剥離することが防止される。
【0039】
なお、上述の実施形態では、シリンダボア11の上端側の内径を小さくするため、リング40が挿入されていたが、本発明は当該構成に限定されない。すなわち、シリンダボア11の上端側の部分の内径が、シリンダボア11の下端側の部分の内径よりも小さくできれば、上記構成に限定されない。例えば、鋳造時にシリンダボア11の上端側の径が小さくなるように形成されてもよいし、後加工によってシリンダボア11の下端側の径を拡げてもよい。
【0040】
本発明に係るエンジン構造の他の実施形態としては、シリンダボア11の上端側の部分の内径がシリンダボア11の下端側の部分の内径よりも小さく、かつ、シリンダボア11の上端側の部分の内周面にピストン20よりも硬度が低いアブレーダブル層51を有するエンジン構造であってもよい。なお、シリンダボア11の下端側の部分は、シリンダボア11内でピストン20が往復運動をするにあたり、シリンダヘッド30と反対側の部分である。
【0041】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の全部又は一部は、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を併せ持つ。
【符号の説明】
【0042】
10 シリンダブロック
11 シリンダボア
20 ピストン
21 頂面
22 凹部
25 燃焼室
26 リング状部材
30 シリンダヘッド
31 下面
36 バルブ
38 燃料噴射部材
40 リング
51 第1アブレーダブル層
52 第2アブレーダブル層
53 第3アブレーダブル層
CL シリンダ軸
R リング状領域
Ra 円形領域
S100 エンジン構造
【要約】
【課題】ディーゼルエンジンの熱効率を向上させることができるエンジン構造を提供する。
【解決手段】このエンジン構造S100は、シリンダボア11が形成されたシリンダブロック10と、シリンダボア11内に設けられたピストン20と、シリンダボア11を塞ぐようにシリンダブロック10の上部に設けられたシリンダヘッド30と、シリンダボア11の上端側に挿入され、シリンダボア11の直径よりも小さな内径を有するリング40と、を備え、リング40の内周面に、ピストン20の外周面と接触して摩耗する第1アブレーダブル層51が形成されている。
【選択図】
図1