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特許7442452形状記憶合金ワイヤサーモスタット式ねじりアクチュエータおよびこれを含むバルブ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-22
(45)【発行日】2024-03-04
(54)【発明の名称】形状記憶合金ワイヤサーモスタット式ねじりアクチュエータおよびこれを含むバルブ
(51)【国際特許分類】
   F03G 7/06 20060101AFI20240226BHJP
   F03G 1/02 20060101ALI20240226BHJP
   F16K 31/70 20060101ALI20240226BHJP
【FI】
F03G7/06 B
F03G7/06 D
F03G1/02
F16K31/70 B
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020545257
(86)(22)【出願日】2019-03-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-05
(86)【国際出願番号】 IB2019051951
(87)【国際公開番号】W WO2019175742
(87)【国際公開日】2019-09-19
【審査請求日】2022-02-25
【審判番号】
【審判請求日】2022-12-26
(31)【優先権主張番号】102018000003494
(32)【優先日】2018-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】511020829
【氏名又は名称】サエス・ゲッターズ・エッセ・ピ・ア
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ダヴィデ・フリジェリオ
(72)【発明者】
【氏名】ミケーレ・スカルラタ
(72)【発明者】
【氏名】マルコ・チトロ
【合議体】
【審判長】河端 賢
【審判官】山本 信平
【審判官】倉橋 紀夫
(56)【参考文献】
【文献】特開平8-261138(JP,A)
【文献】特開2001-304095(JP,A)
【文献】特開平5-104475(JP,A)
【文献】特開昭60-71187(JP,A)
【文献】特開2005-336534(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03G7/06
F16K31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーモスタット式形状記憶合金ねじりアクチュエータ(10、20、30、40、50、60)であって、
・静止要素(2)と、
・少なくとも1つの係合特徴(4)が設けられた回転可能要素(3)と、
・形状記憶合金要素であって、前記形状記憶合金要素は、前記形状記憶合金要素の両端部で前記静止要素(2)を前記回転可能要素(3)と接続して、前記回転可能要素を休止位置と動作位置との間で移動させ、前記形状記憶合金要素と前記回転可能要素の回転軸に垂直な平面との間の角度が、75°~90°であり、前記形状記憶合金要素と前記回転軸との間の横方向の最大のずれが5mm以下となるよう、前記回転可能要素(3)の回転軸に沿って位置する、形状記憶合金要素と、
・前記回転可能要素(3)に作用して、前記回転可能要素を前記動作位置と前記休止位置との間で移動させる戻り要素(11、21、22、31、66)と、
を含み、
前記形状記憶合金要素は、0.3mm~3mmの直径を備えた直線状のねじり形状記憶合金ワイヤ(1)であり、その作動は、それを包囲/それと接触している媒体の温度のみに基づいて、前記ねじり形状記憶合金ワイヤ(1)の全長に亘ってねじれまたはねじれ解除につながり、
前記アクチュエータ(10、20、30、40、50、60)は、前記形状記憶合金要素の電流供給/温度制御のためのいかなる手段をも含まないことを特徴とする、
サーモスタット式形状記憶合金ねじりアクチュエータ(10、20、30、40、50、60)。
【請求項2】
前記ねじり形状記憶合金ワイヤ(1)の長さは、5mm~100mmであり、請求項1に記載のサーモスタット式形状記憶合金ねじりアクチュエータ(10、20、30、40、50、60)。
【請求項3】
前記ねじり形状記憶合金ワイヤ(1)のトルクと直径の三乗との間の比率は、3MPa~100MPaである、請求項1または2に記載のサーモスタット式形状記憶合金ねじりアクチュエータ(10、20、30、40、50、60)。
【請求項4】
前記ねじり形状記憶合金ワイヤ(1)の材料は、40℃以下のマルテンサイト相温度Mfおよび60℃以上のオーステナイト相温度Afを有する、請求項1から3のいずれか一項に記載のサーモスタット式形状記憶合金ねじりアクチュエータ(10、20、30、40、50、60)。
【請求項5】
前記ねじり形状記憶合金ワイヤ(1)の材料は、Hf、Nb、Pt、Cuの1つまたは複数を任意選択で含むNi-Ti合金から選択される、請求項4に記載のサーモスタット式形状記憶合金ねじりアクチュエータ(10、20、30、40、50、60)。
【請求項6】
前記形状記憶合金ワイヤ(1)の端部は、圧着、塑性変形、はんだ付けのうちの1つによって固定されている、請求項1から5のいずれか一項に記載のサーモスタット式形状記憶合金ねじりアクチュエータ(10、20、30、40、50、60)。
【請求項7】
前記戻り要素(11、21、22、31、66)は弾性要素である、請求項1から6のいずれか一項に記載のサーモスタット式形状記憶合金ねじりアクチュエータ(10、20、30、40、50、60)。
【請求項8】
前記戻り要素は、フレクシャ、ばね(11、66)、薄金属ストリップ(21、22)、シース(31)、金属チューブから選択される、請求項7に記載のサーモスタット式形状記憶合金ねじりアクチュエータ(10、20、30、40、50、60)。
【請求項9】
前記回転可能要素(3)に存在する前記少なくとも1つの係合特徴(4)は係合ピンまたはスロットである、請求項1から8のいずれか一項に記載のサーモスタット式形状記憶合金ねじりアクチュエータ(10、20、30)。
【請求項10】
前記回転可能要素(3)の少なくとも一部は歯車またはプーリとして成形されている、請求項1から8のいずれか一項に記載のサーモスタット式形状記憶合金ねじりアクチュエータ(10、20、30)。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載のサーモスタット式形状記憶合金ねじりアクチュエータ(10、20、30、40、50、60)を含む流体制御サーモスタット式バルブ。
【請求項12】
流体の流れ方向が、前記ねじり形状記憶合金ワイヤ(1)と本質的に平行または整列している、請求項11に記載の流体制御サーモスタット式バルブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、形状記憶合金ワイヤサーモスタット式ねじりアクチュエータおよびこのようなアクチュエータを組み込んだサーモスタット式バルブに関する。
【背景技術】
【0002】
形状記憶要素によるねじり回復を利用してねじりアクチュエータを実現する考えは、1996年以来、Proceedings Volume 2717、Smart Structures and Materials 1996: Smart Structures and Integrated Systemsに掲載された論文「Investigation of torsional shape memory alloy actuators」から原理が知られている。この記事では、SMA(Shape Memory Alloy:形状記憶合金)ねじれロッドの特性に焦点を当てて、SMA要素がワイヤまたはばねの形態である、SMAベースのアクチュエータの標準的な使用に関して、その挙動を区別している。
【0003】
形状記憶合金ねじり棒で作製されたねじりアクチュエータは、EP0895885およびEP2772647にも記載されている。
【0004】
上のすべてはしたがって、作動させるべき外部電流源を必要とする、大きくて厚い要素、形状記憶合金棒の使用に限定されている。
【0005】
回転作動を達成する他の代替方法は、米国特許出願公開第2017/0138354号に示されているように、円筒形要素(ドラム)に巻回および拘束された形状記憶合金ワイヤの線形作動によるものである。この場合も、ジュール効果によって作動が達成されることが指定されており、またドラムは、軽量の解決策およびアクチュエータ内部の自由容積が要求される用途におけるその実際の使用を妨げる関連障害物を備えた要素である。コンテナヒンジに適用される回転運動に関する米国特許出願公開第2017/0121068号に記載された解決策にも同様の欠点が存在する。
【0006】
2015年にSmart Material and Structuresに掲載されたShimらからの記事「A smart soft actuator using a single shape memory alloy for twisting actuation」において、作動が電流制御されるねじりアクチュエータが開示されており、ねじり作動用の低電流供給の欠点も記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】EP0895885
【文献】EP2772647
【文献】米国特許出願公開第2017/0138354号
【文献】米国特許出願公開第2017/0121068号
【非特許文献】
【0008】
【文献】「Investigation of torsional shape memory alloy actuators」、Proceedings Volume 2717、Smart Structures and Materials 1996: Smart Structures and Integrated Systems
【文献】Shimら、「A smart soft actuator using a single shape memory alloy for twisting actuation」、Smart Material and Structures、2015年
【文献】「Shape Memory Alloy Shape Training Tutorial」の鍛練セクション「ME559 - Smart Materials and Structures」、2004年秋
【文献】「Improved design and performance of the SMA Torque Tube for the DARPA Smart Wing Program」、the SPIE conference on Industrial and Commercial Applications of Smart Structures、1999年
【文献】Karbaschi、Zohreh、「Torsional behavior of nitinol: modeling and experimental evaluation」(2012)、the 2012 University of Toledo thesis
【文献】http://memry.com/nitinol-iq/nitinol-fundamentals/transformation-temperatures
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的は、外部電流供給を作動させることが要求されないより軽いSMAベースのねじりアクチュエータで既知の技術に依然として存在する欠点を克服することであり、その第1の態様において、
・静止要素と、
・好ましくは少なくとも1つの係合特徴が設けられた回転可能要素と、
・静止要素を回転可能要素と接続して、回転可能要素を休止位置と動作位置との間で移動させる形状記憶合金要素であって、回転可能要素の回転軸に沿って位置する、形状記憶合金要素と、
・回転可能要素に作用して、回転可能要素を上記動作位置と上記休止位置との間で移動させる戻り要素と、
を含み、
形状記憶合金要素は、0.3と3mmとの間、好ましくは0.4と2mmとの間に含まれる直径を備えたねじり形状記憶合金ワイヤであることを特徴とする、
サーモスタット式形状記憶合金ねじりアクチュエータにある。
【0010】
「回転可能要素の回転軸に沿って位置する」という表現は、ねじり形状記憶合金ワイヤを回転軸の中心に置くという理想的な場合からの逸脱も包含するように意図されるものであり、特に一定レベルの傾斜が許容される。より具体的には、ねじり形状記憶合金ワイヤと回転可能要素の回転軸に垂直な平面との間の角度は、傾斜方向に関係なく、75°と90°(90°は、SMAねじりワイヤが回転軸に平行な理想的な状況を表す)との間とすることができる。また、SMAねじりワイヤと回転軸との間の一定程度の、特に0(完全な位置合わせ-理想的な状態)と5mmとの間の横方向のずれが可能である。
【0011】
理想的な状態からの上の離脱は、「回転軸に沿って位置する」の定義に包含され、本発明が実際のシステム、すなわち「現実世界」のアクチュエータに言及しているという事実を考慮に入れている。
【0012】
形状記憶合金ねじりワイヤは現実の物であり、その動作原理により、円形断面から離脱することになるため、「直径」という用語は、マルテンサイト相およびオーステナイト相の両方においてワイヤの全長に沿った最小の囲み円の直径として意図されるものであることに注意することが重要である。
【0013】
本発明および既知の技術の欠点の文脈において「サーモスタット式形状記憶合金ねじりアクチュエータ」という表現は、その作動および制御がねじり形状記憶合金ワイヤを包囲/それと接触している媒体の温度のみに基づく解決策を包含し、形状記憶合金要素(ねじりSMAワイヤ)のいかなる電流供給/温度制御をも明示的に除外することを強調することも重要である。
【0014】
以下の図の助けを借りて本発明をさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1A】本発明によるサーモスタット式形状記憶合金ねじりアクチュエータの第1の実施形態の斜視図である。
図1B】本発明によるサーモスタット式形状記憶合金ねじりアクチュエータの第1の実施形態の斜視図である。
図2A】本発明によるサーモスタット式形状記憶合金ねじりアクチュエータの第2の実施形態の斜視図である。
図2B】本発明によるサーモスタット式形状記憶合金ねじりアクチュエータの第2の実施形態の斜視図である。
図3A】本発明によるサーモスタット式形状記憶合金ねじりアクチュエータの第3の実施形態の斜視図である。
図3B】本発明によるサーモスタット式形状記憶合金ねじりアクチュエータの第3の実施形態の斜視図である。
図4A】本発明によるサーモスタット式形状記憶合金ねじりアクチュエータの第4の実施形態の斜視図である。
図4B】本発明によるサーモスタット式形状記憶合金ねじりアクチュエータの第4の実施形態の斜視図である。
図5A】本発明によるサーモスタット式形状記憶合金ねじりアクチュエータの第5の実施形態の斜視図である。
図5B】本発明によるサーモスタット式形状記憶合金ねじりアクチュエータの第5の実施形態の斜視図である。
図6A】本発明によるサーモスタット式形状記憶合金ねじりアクチュエータの第6の実施形態の異なる図である。
図6B】本発明によるサーモスタット式形状記憶合金ねじりアクチュエータの第6の実施形態の異なる図である。
図6C】本発明によるサーモスタット式形状記憶合金ねじりアクチュエータの第6の実施形態の異なる図である。
図6D】本発明によるサーモスタット式形状記憶合金ねじりアクチュエータの第6の実施形態の異なる図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
上の参照図においては本発明の理解に不可欠な要素のみが示され、またいくつかの場合において、要素の寸法および寸法比を変更してその読みやすさを改善している。
【0017】
本発明者らは、先行技術に開示されたものとは異なり、形状記憶合金棒の代わりに、細い形状記憶合金ワイヤを用いて形状記憶合金ねじりアクチュエータを作製することが可能であること、およびこのような解決策により、ジュール効果による加熱に依存するのではなく、周囲の/環境的な/包囲する媒体温度に基づいたSMAワイヤの自動作動および非作動が可能になることを見出した。
【0018】
このタイプのアクチュエータの最も有用な用途の1つは、流体制御用のサーモスタット式バルブ、リクローザ、ラッチ、ロックおよびロック解除システム用の熱アクチュエータ内にある。
【0019】
明確さのため、「torsion(ねじり)」または「torsional(ねじりの)」という用語で、ねじれまたはねじれ解除につながるSMAワイヤに対する温度上昇の効果が示される一方、「rotary(回転の)」または「rotation(回転)」という用語は、SMAワイヤのねじりの結果として与えられる効果および移動を示す。
【0020】
形状記憶合金は2つの相間の転移によって特徴付けられ、1つは低温で安定している、いわゆるマルテンサイト相で、1つは高温で安定している、いわゆるオーステナイト相である。形状記憶合金は、Mf、Ms、As、Afの4つの温度によって特徴付けられる。Mfは、これを下回ると形状記憶合金が完全にマルテンサイト相にある、すなわちマルテンサイト構造を有する温度であり、Afは、これを上回ると形状記憶合金が完全にオーステナイト相にある、すなわちオーステナイト構造を有する温度である。MsおよびAsは代わりに形状記憶合金の相転移温度を示し、Msは、冷却時の、オーステナイトからマルテンサイトへの転移開始温度、Asは、加熱時の、マルテンサイトからオーステナイトへの転移開始温度である。形状記憶合金からなるワイヤ、棒、シートなどのような要素は、SMA要素としても知られており、温度がMf未満からAfを超えて、およびその逆に変化すると、その形状が変化するように鍛えることができる。SMA要素の加工および鍛練は、2004年秋に遡る「Shape Memory Alloy Shape Training Tutorial」の鍛練セクション「ME559 - Smart Materials and Structures」によって例示されたように、当該分野において広く知られている手順である。
【0021】
SMA要素の鍛練およびねじり挙動は当業者に知られており、たとえばSMAチューブのねじり鍛練に関連して、the SPIE conference on Industrial and Commercial Applications of Smart Structuresの一部として1999年に掲載された記事「Improved design and performance of the SMA Torque Tube for the DARPA Smart Wing Program」、およびSMAワイヤのねじり鍛練に関連して、the 2012 University of Toledo thesis、Karbaschi、Zohreh、「Torsional behavior of nitinol: modeling and experimental evaluation」(2012)を参照されたい。
【0022】
図1Aおよび図1Bは、本発明によるサーモスタット式形状記憶合金ねじりアクチュエータ10の第1の実施形態の斜視図を示す。ねじり形状記憶合金ワイヤ1が、下方の静止要素2を上方の回転可能要素3と接続している。上方の回転可能要素3には係合特徴4およびばね11の一方の端部11’’があり、その他方の端部11’はアクチュエータ自体の外部にあって図示していない要素(ケース、壁、システムの構成要素など)に固定/拘束されている。
【0023】
図1Aは休止状態にあるねじりアクチュエータ10を示す一方、図1Bは一旦作動させたねじりアクチュエータを示し、すなわちねじり形状記憶合金温度はAfより高い温度にある。図1Bにおいて、係合特徴4の回転変位、ばね11の伸長、および図1Aのねじれ構成からの形状記憶合金ワイヤ1のねじれ解除を理解することが可能である。アクチュエータ10において、ねじり形状記憶合金ワイヤ1は、係合特徴4を図1Aのその初期位置(ワイヤ温度がAs以下のとき)から図1Bのその最終位置(ワイヤ温度がAf以上のとき)へ移動させる。
【0024】
ばね11(上記の戻り要素)の目的は、形状記憶合金ワイヤ温度がMsを下回ると、アクチュエータ10の非作動化、すなわち図1Aに図示および例示する状況におけるワイヤ1の再ねじれを促進することである。
【0025】
図1Aおよび図1Bに示すように、ねじりアクチュエータを作製する好ましい方法は、Af以上の温度でねじれ解除構成に入る/向かうAs以下の温度でねじれ構成にあるねじり形状記憶合金ワイヤの使用を想定しており、これは、より低い温度で、ワイヤがマルテンサイト状態(冷構成)にあるとき、形状記憶合金ワイヤがより容易に加工される(ねじられる)という事実を考慮したものである。
【0026】
代替のサーモスタット式形状記憶合金ねじりアクチュエータ20を図2Aおよび図2Bに示し、それぞれ休止状態(Asを下回るねじり形状記憶合金ワイヤ1の温度)および作動状態(Afを上回るねじり形状記憶合金ワイヤ1の温度)にあるアクチュエータ20を示す。この場合、戻り要素は、アクチュエータ20の両側に配置された2つの弾性ストリップ21、22からなる。ストリップ21および22は、それらの先端が一端で静止要素2に、および他端で回転可能要素3に固定されている。
【0027】
この構成において、戻り要素は、固定に関して外部環境から自律的であり、すなわちねじりアクチュエータ自体の外部に固定点が要求されない。
【0028】
本発明によるサーモスタット式形状記憶合金ねじりアクチュエータ30の第3の実施形態を図3Aおよび図3Bに示す。この場合、ねじりアクチュエータ30は、ねじり形状記憶合金ワイヤ1を包囲してその端部が静止要素2および回転可能要素3に固定されている弾性シース31の戻り要素としての使用を想定している。したがって、この構成においても、戻り要素は、固定に関して外部環境から自律的であり、ねじりアクチュエータ自体の外部に固定点が要求されない。これら両方の図における破断図Aが、ねじり形状記憶合金ねじりワイヤ1と弾性シース31との間の関係をよりよく示している。
【0029】
図1A図1B図2A図2B図3A図3Bに示すすべての実施形態は、係合特徴4としてスロットを描いている。これは、このような係合特徴4のための可能な解決策の1つに過ぎず、本発明はこれに限定されない。たとえば、複数の係合特徴が回転可能要素、3に存在してもよく、または係合特徴4は、異なるタイプ、たとえばピン、突起のようなエンボス特徴であってもよい。
【0030】
係合特徴の存在は、このような特徴が設けられていない以下に記載のさらなる実施形態によって示すように、任意選択であることが強調されるべきである。
【0031】
同様に静止要素2および回転可能要素3は円形状で示されているが、本発明はこれに限定されず、たとえば好ましい代替一実施形態において、回転可能要素3の一部はプーリであり、または歯車形状を有し、さらにより好ましくは、回転可能要素は歯車である。
【0032】
他の最も興味深い構成の中には、回転可能要素3が空の回転シリンダであり、ねじり形状記憶合金ワイヤ1がそのベースに接続されてその回転および対称軸に沿って位置する場合がある(図6A図6D参照)。
【0033】
サーモスタット式形状記憶合金ねじりアクチュエータ40の他の一実施形態を図4Aおよび図4Bに示す。この実施形態において静止要素はアクチュエータケース2であり、これは少なくとも壁23を有し、これにはその中央部分でねじり形状記憶合金ワイヤ1が接続されている。この場合、回転可能要素3は、ねじり形状記憶合金ワイヤ1がその中心において接続された平らな層状シートである。ねじり形状記憶合金ワイヤ1の作動により、要素3が垂直構成(図4A)から水平構成(図4B)へ移動する。
【0034】
ケース2は、壁23に対向する壁を有することができ、形状記憶合金ワイヤ1はこの第2の静止要素にも接続することができる。この場合、ねじりSMAワイヤがねじれ解除されても非拘束の先端で印加された力のために回転運動が加えられないが、その長さに沿って固定された回転可能要素に適用されたワイヤ変形(ねじれ解除状態に戻る)によって回転運動が与えられる。ねじれたおよびねじれ解除されたねじりSMAワイヤは、図4Aおよび図4Bに明示的に示していない。
【0035】
したがって本発明の目的のため、1つの静止要素2が存在しなければならないが、任意選択でもう1つ存在することもできる。この場合、好ましい戻り要素(図示せず)は、ねじりSMAワイヤを包囲する弾性シースである。
【0036】
図5Aおよび図5Bは、実施形態40の一変形である第5の実施形態50を示す。この場合、ねじり形状記憶合金ワイヤ1は、壁23および回転可能要素3の最上部に固定され、この構成において、ねじり形状記憶合金ワイヤ1、静止要素/ケース2、回転可能要素3は、作動/非作動状態の1つにおいて流れ遮断形状を画定するように協調的に作用することが重要である。ねじり形状記憶合金ワイヤ1が作動し、図5Bに示す水平構成において回転可能要素3を回転させると、流れが通過することが可能になる。
【0037】
図5A図5Bのアクチュエータ50についても、図4Aおよび図4Bに関してなされた戻り要素、回転原理および任意選択の第2の静止要素に関する同じ考慮事項が有効である。
【0038】
すでに述べたように、図4A図4Bおよび図5A図5Bに示す実施形態について、好ましい戻り要素は、ねじり形状記憶合金ワイヤ1を包囲する弾性シース(これらの図には表していない)である。これらの実施形態は、サーモスタット式スロットルバルブを作製するのに特に有用である。
【0039】
第6の実施形態60を図6A図6Dに例示しており、図6Aおよび図6Bはそれぞれ、アクチュエータの上方からの図および断面斜視図を示す一方、図6Cおよび図6Dは、ねじり形状記憶合金ワイヤ1の作動の効果を示すアクチュエータの長手方向断面である。
【0040】
この実施形態において静止要素は、一端で開いており、他端でベース61によって閉じられている円筒形アクチュエータケース2であり、回転可能要素3は、ケース2の内側に回転可能に嵌合し、同様に一端で開いて他端でベース62が設けられた円筒体である。このベース62は、ベース61に対向して配置されて、流体用の通路、ならびにねじりばね66が取り付けられた外部ペグが配備され、上記ばね66は、近位端がベース62と係合している一方、その遠位端は回転戻り要素として作用するようにケース2と係合している。
【0041】
2つの、好ましくは同一の、長手方向アパーチャ63、64が、ケース2に同じ軸方向位置で形成され、角度をなすように間隔を置かれ、流れダイバータとして作用し、好ましくはわずかに大きなアパーチャ65が、回転可能要素3の本体に上記アパーチャ63、64と重なる対応する位置で形成されている。ねじり形状記憶合金ワイヤ1は、その作動の結果、2つのアパーチャ63および64が開口65の角度運動を通じて選択的かつ交互に開かれるよう、ベース61および62の中心間に接続されている。
【0042】
より具体的には、図6Cは、アパーチャ65がアパーチャ64と重なっているため、アパーチャ64が開いてアパーチャ63が閉じている、休止(ねじれ)状態にある形状記憶合金ワイヤ1を示す一方、図6Dにおいてはアパーチャ65がアパーチャ63と重なっているため、アパーチャ64が閉じてアパーチャ63が開くように(図6Bにも示すように)ワイヤが作動して(ねじれ解除されて)いる。
【0043】
この実施形態のケース2であれば、ダイバータバルブのケースとして機能することさえでき、これによってアクチュエータは実際に実質的にバルブ全体を具現化することができるということが留意されるべきである。
【0044】
上の例示された実施形態から観察可能なように、本発明は、ばね、フレクシャ、薄金属ストリップ、弾性シースのような弾性要素の使用が好ましいが、いかなる特定の戻り要素にも限定または制限されない。他の戻り手段、たとえば、その作動により戻り力が提供される線形形状記憶合金ワイヤを適切に用いることもできるので、本発明は弾性戻り要素に限定されないことも強調する。
【0045】
弾性戻り要素はまた、アクチュエータワイヤ1と同心に配置されており、これと接触していない(ワイヤとの最小距離が少なくとも0.1mmである)金属チューブとすることもできる。このチューブは、鋼またはアルミニウムのような良好な弾性特性を備えた一般的な金属ならびにニッケルチタン合金で作製することができる。好ましいのは、0.3と3mmとの間に含まれる壁厚を有するチューブの使用である。この場合、壁の厚さはSMAワイヤの直径より大きくしてはならない。
【0046】
薄金属ストリップ21、22について適切な材料の中には、たとえば、鋼およびアルミニウムがあり、好ましくは0.1mmと1mmとの間に含まれる厚さ、および1と10mmとの間に含まれる幅を有する一方、静止要素と回転可能要素との間の距離(すなわち本質的にねじり形状記憶合金ワイヤの長さ)によって長さが決定される。
【0047】
弾性シース31について適切な材料の中には、たとえば、好ましくは1と10mmとの間に含まれる厚さを備えた、シリコーンゴム、ポリブタジエンゴムおよびポリイソプレンゴムのようなエラストマーがある。
【0048】
弾性シース31は本質的に、ねじり形状記憶合金ワイヤ1に接触して固定されたカバーであり、したがってねじり形状記憶合金ワイヤ1に取り付けられ、次いでたとえば熱収縮シースを加熱することによってこれに堅く固定され、または代わりにねじり形状記憶合金ワイヤ1を適切な前駆体でコーティングして次いで後者を固化することによって得られる独立型限定要素とすることができるということを強調することが重要である。
【0049】
典型的には、本発明によるサーモスタット式形状記憶合金ねじりアクチュエータは、30と1200Nmmとの間に含まれる回転可能要素に接続されたワイヤ先端でのトルクを生成することができ、この広い変動は、ねじり形状記憶合金ワイヤの長さと直径との間の可能な結合、およびどのように相対力が非線形にスケールするかを考慮に入れている。
【0050】
特に、ねじり形状記憶合金ワイヤのトルクと直径の三乗との間の比率は、好ましくは3と100MPaとの間、より好ましくは10と60MPaとの間に含まれる。このパラメータは、圧力測定単位を用いて表されているが、これはこの量が、ねじりを受ける材料の部分に対する最大接線応力に正比例するためである。
【0051】
好ましくはねじり形状記憶合金ワイヤは、5mmと100mmとの間に含まれる長さを有する。
【0052】
本発明によるサーモスタット式形状記憶合金ねじりアクチュエータに用いられる形状記憶合金は好ましくは、40℃以下のマルテンサイト相温度Mfおよび60℃以上のオーステナイト相温度Afを有する。
【0053】
このような温度を有する適切な合金は、Hf、Nb、Pt、Cuのような、追加元素あり、またはなしの、ニチノールのようなNi-Tiベースの合金である。合金およびその特性の適切な選択は当業者に知られており、たとえば以下を参照されたい。
http://memry.com/nitinol-iq/nitinol-fundamentals/transformation-temperatures
【0054】
本発明は、圧着、塑性変形、はんだ付けが好ましいが、ねじり形状記憶合金ワイヤを静止および回転可能要素に固定する特定の方法に限定または制限されない。はんだ付けに関して、レーザはんだ付けが最も便利である。
【0055】
本発明によるサーモスタット式形状記憶合金アクチュエータがサーモスタット式バルブに用いられるとき、ねじり記憶合金ワイヤ1は好ましくは、流体の流れ方向と揃えられ、この構成は、バルブシャッタ(回転可能要素またはこれによって駆動される要素)に対する圧力/流量の直接の影響を回避するという利点を有し、バルブシャッタの回転軸は流れ方向に平行である。これにより、作動温度および角度変位のような、SMAアクチュエータの機能的特性に対する異なる流量での流体圧力の影響が最小化される。
【0056】
他の利点は、ねじり形状記憶合金ワイヤが流れ方向と「揃って」いるため、これが流体によってより迅速に「濡れ」、したがって熱伝達およびアクチュエータ応答速度が向上するという事実によるものである。
【0057】
本発明において主張する直径範囲の技術的効果を、上記範囲内およびその外側のワイヤのサンプルから得られた以下のテストデータによってさらに示す。
【0058】
30mmの長さおよび異なる直径のねじり形状記憶合金ワイヤを、2つのワイヤ先端の一方をベースプレートに固定する一方、他方のワイヤ先端を回転させてインジケータ/ハンドルを接着させることによって得られた、1.5mm(幅)×15mm(長さ)×0.2mm(厚さ)の寸法を備えた平らな金属シートからなるテストアセンブリを作製することによってテストした。ねじり形状記憶合金ワイヤの先端は、インジケータ/ハンドルの中央において固定されている。
【0059】
ハンドルを180°回転させることによって手動でねじりをテストアセンブリに適用し、次いでテストアセンブリを120℃の温度に予熱したエアオーブンに入れた。
【0060】
30秒後に少なくとも10°回転すればテストアセンブリは適切に機能していると見なされる。上のテスト条件は、サーモスタット式アクチュエータにおいてシステムがどのように挙動することになるか、したがって使用されるべきねじりワイヤの適切さをよく表している。
【0061】
結果を以下の表にまとめる。
【0062】
【表1】
【0063】
上の表は、本発明の特徴を備えたサンプルS1~S3のSMAワイヤのみが、サーモスタット式ねじりアクチュエータにおいて用いるのに適していることを示している。特に、比較サンプルC1は、十分な機械的強度を有さず、ワイヤが曲がるにつれてその形状構成を失っており、したがってこのテストアセンブリは、ワイヤを回転可能要素の回転軸に沿って位置させるという要件に違反するので、請求項1によってもはや包含されない一方、比較サンプルC2は過度の慣性を示している(すなわち完全に組み立てられたアクチュエータにおいて用いれば、応答が遅すぎる)。
【符号の説明】
【0064】
1 ねじり形状記憶合金ワイヤ
2 静止要素
3 回転可能要素
4 係合特徴
10 サーモスタット式形状記憶合金ねじりアクチュエータ
11 ばね
11’ 他方の端部
11’’ 一方の端部
20 サーモスタット式形状記憶合金ねじりアクチュエータ
21 ストリップ
22 ストリップ
23 壁
30 サーモスタット式形状記憶合金ねじりアクチュエータ
31 弾性シース
40 サーモスタット式形状記憶合金ねじりアクチュエータ
50 サーモスタット式形状記憶合金ねじりアクチュエータ
60 サーモスタット式形状記憶合金ねじりアクチュエータ
61 ベース
62 ベース
63 アパーチャ
64 アパーチャ
65 アパーチャ
66 ばね
図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図6C
図6D