(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-29
(45)【発行日】2024-03-08
(54)【発明の名称】基板処理方法および基板処理装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20240301BHJP
F26B 5/04 20060101ALI20240301BHJP
【FI】
H01L21/304 651L
H01L21/304 651B
H01L21/304 648G
F26B5/04
(21)【出願番号】P 2020139221
(22)【出願日】2020-08-20
【審査請求日】2023-06-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100105935
【氏名又は名称】振角 正一
(74)【代理人】
【識別番号】100136836
【氏名又は名称】大西 一正
(72)【発明者】
【氏名】尾辻 正幸
(72)【発明者】
【氏名】加藤 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】山口 佑
【審査官】正山 旭
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-004948(JP,A)
【文献】特開2020-077826(JP,A)
【文献】特開2020-035986(JP,A)
【文献】特開2015-185713(JP,A)
【文献】特開2012-243869(JP,A)
【文献】特開2018-56176(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0133456(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
F26B 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を経ずに気体に変化する昇華性物質を含む凝固体が表面全体に形成された基板から前記凝固体を昇華させて前記基板を乾燥させる基板処理方法であって、
前記基板の表面中央部に向けて第1気体を吐出して前記第1気体を前記凝固体の全体を経由して前記基板の周辺に流通させて前記凝固体の全体を昇華させる第1昇華工程と、
前記基板の表面周縁部に向けて第2気体を吐出して前記第2気体を前記凝固体のうち前記表面周縁部上の周縁領域を経由して前記基板の周辺に流通させて前記周縁領域を昇華させる第2昇華工程と、を備え、
前記第2昇華工程の開始が前記第1昇華工程よりも早い、または
前記第2気体の流量が前記第1気体の流量よりも多い
ことを特徴とする基板処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載の基板処理方法であって、
前記第2昇華工程の開始後、前記第2気体の吐出を継続したまま前記第1昇華工程が開始される、基板処理方法。
【請求項3】
請求項2に記載の基板処理方法であって、
前記第1昇華工程の開始後における前記第1気体の流量は第1流量であり、
前記第2気体の流量は前記第1流量よりも多い第2流量である、基板処理方法。
【請求項4】
請求項2に記載の基板処理方法であって、
前記第1昇華工程の開始時点より、
前記第1気体の流量は時間経過に伴って増大する一方で、前記第2気体の流量は時間経過に伴って減少する、基板処理方法。
【請求項5】
請求項1に記載の基板処理方法であって、
前記第1昇華工程は前記第2昇華工程と同時または前記第2昇華工程の開始以降に開始され、
前記第2気体の流量は前記第1気体の流量よりも多い第2流量である、基板処理方法。
【請求項6】
請求項1に記載の基板処理方法であって、
前記第2昇華工程を行った後で前記第1昇華工程が実行される、基板処理方法。
【請求項7】
請求項2、3、4または6に記載の基板処理方法であって、
前記第1昇華工程および前記第2昇華工程が実行されるチャンバの内部空間を排気する工程と、
前記内部空間に存在する気体成分および前記内部空間から排気される気体成分のうちの少なくとも一方の流量値を計測する工程と、を備え、
前記流量値に基づいて前記第1昇華工程を開始するタイミングを決定する、基板処理方法。
【請求項8】
請求項2、3、4または6に記載の基板処理方法であって、
前記第1昇華工程および前記第2昇華工程が実行されるチャンバの内部空間を排気する工程と、
前記内部空間に存在する気体状の昇華性物質および前記内部空間から排気される気体状の昇華性物質のうちの少なくとも一方を昇華性物質検出センサで検出する工程と、を備え、
前記昇華性物質検出センサの検出値に基づいて前記第1昇華工程を開始するタイミングを決定する、基板処理方法。
【請求項9】
液体を経ずに気体に変化する昇華性物質を含む凝固体が表面全体に形成された基板から前記凝固体を昇華させて前記基板を乾燥させる基板処理装置であって、
前記基板の表面中央部に向けて第1気体を吐出する第1吐出部と、
前記基板の表面周縁部に向けて第2気体を吐出する第2吐出部と、
前記第1吐出部から前記第1気体を吐出させて前記第1気体を前記凝固体の全体を経由して前記基板の周辺に流通させて前記凝固体の全体を昇華させ、前記第2吐出部から前記第2気体を吐出させて前記第2気体を前記凝固体のうち前記表面周縁部上の周縁領域を経由して前記基板の周辺に流通させて前記周縁領域を昇華させる制御部と、を備え、
前記制御部は、前記第2気体の吐出開始を前記第1気体の吐出開始よりも早める吐出タイミング制御および前記第2気体の流量を前記第1気体の流量よりも多くする流量制御の少なくとも一方を行う
ことを特徴とする基板処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、基板を乾燥させる基板処理方法および基板処理装置に関する。基板には、半導体ウエハ、液晶表示装置用基板、有機EL(electroluminescence)表示装置などのFPD(Flat Panel
Display)用基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、光磁気ディスク用基板、フォトマスク用基板、セラミック基板、太陽電池用基板などが含まれる。
【背景技術】
【0002】
半導体装置や液晶表示装置などの電子部品の製造工程においては、基板の表面に成膜やエッチングなどの処理を繰り返し施してパターンを形成する工程が含まれる。また、このパターン形成後において、薬液による洗浄処理、リンス液によるリンス処理および乾燥処理などがこの順序で行われるが、パターンの微細化に伴い乾燥処理の重要性が特に高まっている。つまり、乾燥処理においてパターン倒壊の発生を抑制または防止する技術が重要となっている。そこで、例えば特許文献1に記載されているように、液体を経ずに気体に変化する昇華性物質を利用して基板を乾燥させる基板処理方法および基板処理装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の基板処理技術では、樟脳などの昇華性物質と当該昇華性物質と溶け合う溶媒とを含む溶液が乾燥前処理液として準備される。乾燥前処理液は、パターンが形成された基板の表面に供給される。基板の表面上の乾燥前処理液から溶媒を気化させることで、昇華性物質からなる固体膜(本発明の「凝固体」の一例に相当)が基板の表面全体に形成される。その後で、昇華により固体膜が基板の表面から除去される。
【0005】
従来技術では、固体膜の昇華は基板の表面中央部に向けて吐出される窒素ガスにより行っている。より詳しくは、基板の表面中央部の上方にノズルが配置される。そして、当該ノズルから窒素ガスが基板の表面中央部に向けて吐出される。窒素ガスはまず固体膜の中央領域に供給され、さらに固体膜に沿って放射状に流れ、基板の周辺に流通する。このような窒素ガスの流通と並行し、固体膜の中央領域から周縁領域へと昇華性物質の気化が進行する。このため、後で
図8を参照しつつ詳述するが、固体膜の周縁領域の上方雰囲気に中央領域から昇華した昇華性物質が窒素ガスと一緒に流れ込む。したがって、当該上方雰囲気での昇華性物質(気体)の濃度が高まり、固体膜の周縁領域での昇華が抑制されることがあった。その結果、従来技術には、基板の表面周縁部においてパターン倒壊が発生することがあった。
【0006】
この発明は上記課題に鑑みなされたものであり、昇華性物質の昇華を利用して基板を乾燥させる基板処理技術において、基板の表面周縁部でのパターン倒壊を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、液体を経ずに気体に変化する昇華性物質を含む凝固体が表面全体に形成された基板から凝固体を昇華させて基板を乾燥させる基板処理方法であって、基板の表面中央部に向けて第1気体を吐出して第1気体を凝固体の全体を経由して基板の周辺に流通させて凝固体の全体を昇華させる第1昇華工程と、基板の表面周縁部に向けて第2気体を吐出して第2気体を凝固体のうち表面周縁部上の周縁領域を経由して基板の周辺に流通させて周縁領域を昇華させる第2昇華工程と、を備え、第2昇華工程の開始が第1昇華工程よりも早い、および/または第2気体の流量が第1気体の流量よりも多いことを特徴としている。
【0008】
また、本発明の他の態様は、液体を経ずに気体に変化する昇華性物質を含む凝固体が表面全体に形成された基板から凝固体を昇華させて基板を乾燥させる基板処理装置であって、基板の表面中央部に向けて第1気体を吐出する第1吐出部と、基板の表面周縁部に向けて第2気体を吐出する第2吐出部と、第1吐出部から第1気体を吐出させて第1気体を凝固体の全体を経由して基板の周辺に流通させて凝固体の全体を昇華させ、第2吐出部から第2気体を吐出させて第2気体を凝固体のうち表面周縁部上の周縁領域を経由して基板の周辺に流通させて周縁領域を昇華させる制御部と、を備え、制御部は、第2気体の吐出開始を第1気体の吐出開始よりも早める吐出タイミング制御および第2気体の流量を第1気体の流量よりも多くする流量制御の少なくとも一方を行うことを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
このように構成された発明では、凝固体の周縁領域に対して第1気体に先立って第2気体が与えられる、または凝固体のうち周縁領域に多量の第2気体が与えられる。このため、凝固体の周縁領域における昇華が促進される。その結果、基板の表面周縁部におけるパターン倒壊を効果的に改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に係る基板処理装置の第1実施形態を装備する基板処理システムの概略構成を示す平面図である。
【
図2】
図1に示す基板処理システムの側面図である。
【
図3】本発明に係る基板処理装置の第1実施形態に相当する処理ユニットの構成を示す部分断面図である。
【
図4】処理ユニットを制御する制御系の電気的構成を示すブロック図である。
【
図5】対向部材が対向位置に位置したときのスピンベース、基板および対向部材の位置関係を模式的に示す図である。
【
図6A】対向部材および中心軸ノズルの部分断面図である。
【
図6B】中心軸ノズルの下端部近傍を下方から見た模式図である。
【
図7】処理ユニットにおいて実行される基板処理の内容を示すフローチャートである。
【
図8】従来技術において実行される昇華処理を示す図である。
【
図9】本発明の第1実施形態において実行される昇華処理を示す図である。
【
図10】本発明の第2実施形態において実行される昇華処理を示す図である。
【
図11】本発明の第3実施形態において実行される昇華処理を示す図である。
【
図12】本発明に係る基板処理装置の第4実施形態に相当する処理ユニットの構成を示す図である。
【
図14A】ガスノズルの構成を模式的に示す図である。
【
図14B】ガスノズルを鉛直下方から見た図である。
【
図15】本発明の第4実施形態において実行される昇華処理を示す図である。
【
図16】本発明に係る基板処理装置の第5実施形態に相当する処理ユニットの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は本発明に係る基板処理装置の第1実施形態を装備する基板処理システムの概略構成を示す平面図である。また、
図2は
図1に示す基板処理システムの側面図である。これらの図面は基板処理システム100の外観を示すものではなく、基板処理システム100の外壁パネルやその他の一部構成を除外することでその内部構造をわかりやすく示した模式図である。この基板処理システム100は、例えばクリーンルーム内に設置され、一方主面のみに回路パターン等(以下「パターン」と称する)が形成された基板Wを一枚ずつ処理する枚葉式の装置である。そして、基板処理システム100に装備される処理ユニット1において本発明に係る基板処理方法が実行される。本明細書では、基板の両主面のうちパターン(後で説明する
図6A中の符号PT参照)が形成されているパターン形成面(一方主面)を「表面」と称し、その反対側のパターンが形成されていない他方主面を「裏面」と称する。また、下方に向けられた面を「下面」と称し、上方に向けられた面を「上面」と称する。また、本明細書において「パターン形成面」とは、基板において、任意の領域に凹凸パターン形成されている面を意味する。
【0012】
ここで、本実施形態における「基板」としては、半導体ウエハ、フォトマスク用ガラス基板、液晶表示用ガラス基板、プラズマ表示用ガラス基板、FED(Field Emission Display)用基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、光磁気ディスク用基板などの各種基板を適用可能である。以下では主として半導体ウエハの処理に用いられる基板処理装置を例に採って図面を参照して説明するが、上に例示した各種の基板の処理にも同様に適用可能である。
【0013】
図1に示すように、基板処理システム100は、基板Wに対して処理を施す基板処理部110と、この基板処理部110に結合されたインデクサ部120とを備えている。インデクサ部120は、基板Wを収容するための容器C(複数の基板Wを密閉した状態で収容するFOUP(Front Opening Unified Pod)、SMIF(Standard
Mechanical Interface)ポッド、OC(Open Cassette)など)を複数個保持することができる容器保持部121を有している。また、インデクサ部120は、容器保持部121に保持された容器Cにアクセスして、未処理の基板Wを容器Cから取り出したり、処理済みの基板Wを容器Cに収納したりするためのインデクサロボット122を備えている。各容器Cには、複数枚の基板Wがほぼ水平な姿勢で収容されている。
【0014】
インデクサロボット122は、装置筐体に固定されたベース部122aと、ベース部122aに対し鉛直軸まわりに回動可能に設けられた多関節アーム122bと、多関節アーム122bの先端に取り付けられたハンド122cとを備える。ハンド122cはその上面に基板Wを載置して保持することができる構造となっている。このような多関節アームおよび基板保持用のハンドを有するインデクサロボットは公知であるので詳しい説明を省略する。
【0015】
基板処理部110は、インデクサロボット122が基板Wを載置する載置台112と、平面視においてほぼ中央に配置された基板搬送ロボット111と、この基板搬送ロボット111を取り囲むように配置された複数の処理ユニット1とを備えている。具体的には、基板搬送ロボット111が配置された空間に面して複数の(この例では8つの)処理ユニット1が配置されている。これらの処理ユニット1に対して基板搬送ロボット111は載置台112にランダムにアクセスし、載置台112との間で基板Wを受け渡す。一方、各処理ユニット1は基板Wに対して所定の処理を実行する。本実施形態では、これらの処理ユニット1は同一の機能を有している。このため、複数基板Wの並列処理が可能となっている。なお、基板搬送ロボット111はインデクサロボット122から基板Wを直接受け渡すことが可能であれば、必ずしも載置台112は必要ない。各処理ユニット1としては、以下に説明する処理ユニット(1A~1C)などを用いることができる。
【0016】
図3は本発明に係る基板処理装置の第1実施形態に相当する処理ユニットの構成を示す図である。また、
図4は処理ユニットを制御する制御系の電気的構成を示すブロック図である。なお、本実施形態では、各処理ユニット1Aに対して制御部4を設けているが、1台の制御部により複数の処理ユニット1Aを制御するように構成してもよい。また、基板処理システム100全体を制御する制御ユニット(図示省略)により処理ユニット1Aを制御するように構成してもよい。
【0017】
処理ユニット1Aは、内部空間21を有するチャンバ20と、チャンバ20の内部空間21に収容されて基板Wを保持するスピンチャック30とを備えている。
図1および
図2に示すように、チャンバ20の側面にシャッター23が設けられている。シャッター23にはシャッター開閉機構22(
図4)が接続されており、制御部4からの開閉指令に応じてシャッター23を開閉させる。より具体的には、処理ユニット1Aでは、未処理の基板Wをチャンバ20に搬入する際にシャッター開閉機構22はシャッター23を開き、基板搬送ロボット111のハンドによって未処理の基板Wがフェースアップ姿勢でスピンチャック30に搬入される。つまり、基板Wは表面Wfを上方に向けた状態でスピンチャック30上に載置される。そして、当該基板搬入後に基板搬送ロボット111のハンドがチャンバ20から退避すると、シャッター開閉機構22はシャッター23を閉じる。そして、チャンバ20の内部空間21内で後述のように薬液、DIW(脱イオン水)、IPA(イソプロピルアルコール)処理液、乾燥前処理液および窒素ガスが基板Wの表面Wfに供給されて所望の基板処理が常温環境下で実行される。また、基板処理の終了後においては、シャッター開閉機構22がシャッター23を再び開き、基板搬送ロボット111のハンドが処理済の基板Wをスピンチャック30から搬出する。このように、本実施形態では、チャンバ20の内部空間21が常温環境に保ちつつ基板処理を行う処理空間として機能する。なお、本明細書において「常温」とは、5℃~35℃の温度範囲にあることを意味する。
【0018】
スピンチャック30は複数のチャックピン31を有する。スピンチャック30では、複数のチャックピン31は円盤形状のスピンベース32の上面の周縁部に設けられている。この実施形態では、チャックピン31はスピンベース32の周方向に適当な間隔(たとえば等間隔)を空けて配置され、基板Wの周縁部を把持する。これによって、スピンチャック30により基板Wは保持される。
【0019】
スピンベース32には回転軸33が連結されている。この回転軸33はスピンチャック30により支持された基板Wの表面中心から延びる面法線と平行な回転軸線AX1まわりに回転自在に設けられている。回転軸33はモータなどを含む基板回転駆動機構34に連結される。このため、スピンチャック30に載置された基板Wをチャックピン31により保持した状態で制御部4からの回転指令に応じて基板回転駆動機構34のモータが作動すると、基板Wは上記回転指令に対応する回転速度で回転軸線AX1まわりに回転する。また、このように基板Wを回転させた状態で、制御部4からの供給指令に応じて対向部材50を鉛直方向に挿通する中心軸ノズル60から薬液、IPA処理液、DIW、乾燥前処理液および窒素ガスが基板Wの表面Wfに供給される。
【0020】
図5は、対向部材が対向位置に位置したときのスピンベース、基板および対向部材の位置関係を模式的に示す図である。対向部材50は、
図3および
図5に示すように、スピンチャック30に従って回転する従動型の対向部材である。すなわち、対向部材50は、基板処理中において、対向部材50がスピンチャック30に一体回転可能に支持される。これを可能とするために、対向部材50は、対向板51と、対向板51に同伴昇降可能に設けられた係合部材52と、係合部材52と係合して対向板51を上方から支持するための支持部53とを有している。
【0021】
対向板51は基板Wの径よりも大きい円板状であり、基板Wを鉛直上方から覆うキャップ形状を有している。より詳しくは、対向板51は、水平な姿勢で保持された円板部511と、円板部511の外周部から下方に延びる円筒部512とを有している。対向板51の内面513は下向きに凹んだカップ面となっている。内面513は基板対向面513a、中央傾斜面513bおよび内周面513cを有している。
【0022】
基板対向面513aは円板部511の下面に相当している。より具体的には、基板対向面513aは基板Wの上面と平行な平坦面に仕上げられ、基板Wの表面Wfに対向している。
【0023】
また、中央傾斜面513bは基板対向面513aに取り囲まれた傾斜面を有している。より具体的には、中央傾斜面513bは、基板対向面513aから斜め上に回転軸線AX1に延びる環状の中央傾斜部を有しており、次のような特徴を有している。中央傾斜部は、回転軸線AX1に対する傾斜角が一定の緩斜面を有している。中央傾斜部の断面は下向きに開いている。中央傾斜面513bの内径は中央傾斜面513bの下端に近づくに従って増加している。中央傾斜面513bの下端は基板対向面513aと繋がっている。このため、対向部材50が対向位置にある状態で中心軸ノズル60の下端部は中央傾斜面513bに取り囲まれながら下方に露出する(後で説明する
図6Aおよび
図6B参照)。
【0024】
さらに、内周面513cが円筒部512の内側面に相当している。より具体的には、内周面513cは、基板対向面513aから斜め下に外方に延びる環状の内傾斜部を有しており、次のような特徴を有している。内傾斜部は、回転軸線AX1に対する傾斜角が連続的に変化する円弧状の断面を有している。内傾斜部の断面は下向きに開いている。内周面513cの内径は内周面513cの下端に近づくに従って増加している。内周面513cの下端はスピンベース32の外径よりも大きい内径を有している。このため、
図3の1点鎖線で示すように、対向部材50が対向位置にある状態で基板Wの外周端およびスピンベース32の外周面(外周端)32bと対向する。
【0025】
対向板51は、基板対向面513aに設けられて第1の係合部材35に係合するための複数の第2の係合部材514をさらに有している。基板対向面513aの中央部には、対向部材50を上下に貫通する貫通孔515が形成されている。貫通孔515は、円筒状の内周面によって区画されている。第2の係合部材514は、第1の係合部材35と同数、第1の係合部材35と一対一対応で設けられている。なお、第1の係合部材35および第2の係合部材514の構成は従来より周知である。例えば特開2019-57599号に記載された構成を本実施形態の係合部材35、514として用いることができる。第1の係合部材35と第2の係合部材514とが係合することで、当該係合体を介して対向部材50はスピンベース32に支持される。そして、モータの作動によりスピンベース32が回転すると、それと一体的に対向部材50が回転軸線AX1まわりに回転する。
【0026】
係合部材52は、
図3に示すように、対向板51の上面において、貫通孔515の周囲を包囲する円筒部521と、円筒部521の上端から径方向外方に広がるフランジ部522とを有している。フランジ部522は、支持部53の一構成部品であるフランジ支持部531よりも上方に位置しており、フランジ部522の外周はフランジ支持部531の内周よりも大径とされている。
【0027】
支持部53は、水平なフランジ支持部531と、略円板状の支持部本体532と、フランジ支持部531と支持部本体532とを接続する接続部533とを有している。そして、支持部53および対向板51の内部空間を挿通するように中心軸ノズル60が、対向板51および基板Wの中心を通る鉛直な軸線、すなわち、回転軸線AX1に沿って上下方向に延びている。また、中心軸ノズル60は支持部53とともに対向板昇降駆動機構56により昇降する。例えば
図3の実線で示すように中心軸ノズル60および対向部材50が基板Wから鉛直上方に離れた退避位置に位置決めされているとき、中心軸ノズル60の先端部はスピンチャック30に保持された基板Wの表面Wfから上方に離間している。そして、制御部4からの下降指令に応じて対向板昇降駆動機構56が中心軸ノズル60および支持部53を下方に降下させ、
図3の1点鎖線や
図5に示すように、対向部材50を対向位置に位置決めする。これにより、対向部材50の対向板51が基板Wの表面Wfに近接する。その結果、基板対向面(第1対向面)513a、内周面(第2対向面)513cおよびスピンベース32の外周面(外周端)32bによって、スピンチャック30に保持された基板Wを取り囲む、半密閉状の空間SPが形成される。そして、基板Wを半密閉状の空間SPに閉じ込めて周辺雰囲気から遮断したまま、
図6Aおよび
図6Bに示すように、中心軸ノズル60から薬液、IPA処理液、DIW、乾燥前処理液および窒素ガスが当該基板Wの表面Wfに供給される。
【0028】
図6Aは対向部材および中心軸ノズルの部分断面図である。
図6Bは中心軸ノズルの下端部近傍を下方から見た模式図である。
図6Aにおける点線領域は基板Wの表面Wfの部分拡大図であり、表面Wfに形成されたパターンPTの一例が図示されている。中心軸ノズル60は回転軸線AX1に沿って上下方向に延設されたノズル本体61を有している。このノズル本体61の中央部には、ノズル本体61の上端面から下端面に貫通して5本の中央配管部(図示省略)が設けられている。それら5本の中央配管部の下端面側開口はそれぞれ薬液吐出口62a、DIW吐出口63a、IPA吐出口64a、乾燥前処理液吐出口65aおよび中央ガス吐出口66aとして機能する。
【0029】
薬液吐出口62aを有する中央配管部は、
図3に示すように、配管62bを介して薬液供給部(図示省略)と接続されている。この配管62bには、バルブ62cが介装されている。このため、制御部4からの開閉指令に応じてバルブ62cが開かれると、薬液が配管62bを介して中心軸ノズル60に供給され、薬液吐出口62aから基板Wの表面中央部に向けて吐出される。本実施形態では、薬液は基板Wの表面Wfを洗浄する機能を有しておればよく、例えば硫酸、硝酸、塩酸、フッ酸、リン酸、酢酸、アンモニア水、過酸化水素水、有機酸(たとえばクエン酸、蓚酸など)、有機アルカリ(たとえば、TMAH:テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイドなど)、界面活性剤、および腐食防止剤の少なくとも1つを含む液であってもよいし、これ以外の液体であってもよい。
【0030】
DIW吐出口63aを有する中央配管部は、
図3に示すように、配管63bを介してDIW供給部(図示省略)と接続されている。この配管63bには、バルブ63cが介装されている。このため、制御部4からの開閉指令に応じてバルブ63cが開かれると、IPA処理液が配管63bを介して中心軸ノズル60に供給され、DIW吐出口63aから基板Wの表面中央部に向けて吐出される。本実施形態では、後で説明するように薬液処理後の基板Wの表面Wfに対してリンス処理を行うリンス液としてDIWが用いられるが、その他のリンス液を用いてもよい。例えば炭酸水、電解イオン水、水素水、オゾン水、および希釈濃度(たとえば、10~100ppm程度)の塩酸水のいずれかをリンス液として用いてもよい。
【0031】
IPA吐出口64aを有する中央配管部は、
図3に示すように、配管64bを介してIPA処理液供給部(図示省略)と接続されている。この配管64bには、バルブ64cが介装されている。このため、制御部4からの開閉指令に応じてバルブ64cが開かれると、IPA処理液が配管64bを介して中心軸ノズル60に供給され、IPA吐出口64aから基板Wの表面中央部に向けて吐出される。本実施形態では、リンス処理後に基板Wの表面Wfに付着するリンス液(DIW)と置換する置換液として、IPA処理液が用いられるが、その他の液体を用いてもよい。より詳しくは、リンス液と乾燥前処理液の両方と溶け合う液体を置換液として用いることができる。例えばHFE(ハイドロフルオロエーテル)やIPAとHFEの混合液であってもよいし、IPAおよびHFEの少なくとも一方とこれら以外の成分とを含んでいてもよい。
【0032】
乾燥前処理液吐出口65aを有する中央配管部は、
図3に示すように、配管65bを介して乾燥前処理液供給部(図示省略)と接続されている。この配管65bには、バルブ65cが介装されている。このため、制御部4からの開閉指令に応じてバルブ65cが開かれると、乾燥前処理液が配管65bを介して中心軸ノズル60に供給され、乾燥前処理液吐出口65aから基板Wの表面中央部に向けて吐出される。本実施形態では、乾燥前処理液として、溶質に相当する昇華性物質と、昇華性物質と溶け合う溶媒と、を含む溶液を用いている。ここで、昇華性物質は、常温(室温と同義)または常圧(処理ユニット1A内の圧力。たとえば1気圧またはその近傍の値)で液体を経ずに固体から気体に変化する物質であってもよい。溶媒は、このような物質であってもよいし、これ以外の物質であってもよい。つまり、乾燥前処理液は、常温または常圧で液体を経ずに固体から気体に変化する2種類以上の物質を含んでいてもよい。
【0033】
昇華性物質は、たとえば、2-メチル-2-プロパノール(別名:tert-ブチルアルコール、t-ブチルアルコール、ターシャリーブチルアルコール)やシクロヘキサノールなどのアルコール類、フッ化炭化水素化合物、1,3,5-トリオキサン(別名:メタホルムアルデヒド)、樟脳(別名:カンフル、カンファー)、ナフタレン、ヨウ素、シクロヘキサノンオキシム、およびシクロヘキサンのいずれかであってもよいし、これら以外の物質であってもよい。
【0034】
溶媒は、たとえば、純水、IPA、HFE、アセトン、PGMEA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)、PGEE(プロピレングリコールモノエチルエーテル、1-エトキシ-2-プロパノール)、エチレングリコール、およびハイドロフルオロカーボン(hydrofluorocarbon)からなる群より選ばれた少なくとも1種であってもよい。
【0035】
中央ガス吐出口66aを有する中央配管部は、
図3に示すように、配管66bを介して窒素ガス供給部(図示省略)と接続されている。この配管66bには、バルブ66cが介装されている。このため、制御部4からの開閉指令に応じてバルブ66cが開かれると、窒素ガスが配管66bを介して中心軸ノズル60に供給され、
図6A中の1点鎖線矢印で示すように、中央ガス吐出口66aから基板Wの表面中央部に向けて吐出される。このように本実施形態では、中央ガス吐出口66aが本発明の「第1吐出部」の一例に相当している。また、中央ガス吐出口66aから吐出される窒素ガスが本発明の「第1気体」の一例に相当しており、以下においては適宜「垂直N2」と称する。
【0036】
このように5つの吐出口62a~66aが設けられた下端面61aは、
図3の実線で示すように、非遮断状態で基板対向面513aおよび中央傾斜面513bよりも上方側に後退する。一方、遮断状態では、
図6Aおよび
図6Bに示すように、下端面61aは基板対向面513aと上下方向において同一の高さに位置し、ノズル本体61の下端部61bは中央傾斜面513bに取り囲まれた状態で貫通孔515から下方に露出する。
【0037】
この下端部61bの側面には、回転軸線AX1を中心として略等角度間隔で6個の周縁ガス吐出口67が設けられている。これらの周縁ガス吐出口67には、ノズル本体61の側面からノズル本体61の上端面に延びる周縁配管部68が接続されている。周縁配管部68は、
図3に示すように、配管68bを介して窒素ガス供給部(図示省略)と接続されている。この配管68bには、バルブ68cが介装されている。このため、制御部4からの開閉指令に応じてバルブ68cが開かれると、窒素ガスが配管68bを介して中心軸ノズル60に供給され、周縁ガス吐出口67から回転軸線AX1を中心に略水平方向に吐出される。このように本実施形態では、周縁ガス吐出口67が本発明の「第2吐出部」の一例に相当している。また、周縁ガス吐出口67から吐出される窒素ガスが本発明の「第2気体」の一例に相当しており、垂直N2と区別するために、以下において適宜「水平N2」と称する。この水平N2は、
図6A中の点線矢印で示すように、中央傾斜面513bおよび基板対向面513aに沿って基板Wの表面周縁部に向けて案内される。
【0038】
上記したように本実施形態では、
図6Aに示すように、基板Wへの窒素ガスの供給態様として、
・基板Wの表面中央部を経由して基板Wの表面周縁部に供給する第1供給態様(同図中の1点鎖線矢印)と、
・基板Wの表面中央部を経由せずに基板Wの表面周縁部に供給する第2供給態様(同図中の点線矢印)と、
が存在する。そして、制御部4がバルブ66c、68cの開閉を制御することで、窒素ガスの供給を停止するモードと、第1供給態様のみを実行するモードと、第2供給態様のみを実行するモードと、第1供給態様および第2供給態様を同時に実行するモードとが選択的に切り替えられる。また、同図への図示を省略しているが、制御部4からの指令に応じて第1供給態様および第2供給態様で供給する窒素ガスの流量をそれぞれ独立して可変制御可能となっている。なお、本実施形態では、窒素ガスを本発明の「不活性ガス」として用いているが、これ以外に、除湿されたアルゴンガスなどの不活性ガスを用いてもよい。
【0039】
処理ユニット1Aでは、スピンチャック30を取り囲むように、排気桶70が設けられている。また、スピンチャック30と排気桶70との間に配置された複数のカップ72と、基板Wの周囲に飛散した薬液、リンス液(DIW)、IPA処理液、乾燥前処理液を受け止める複数のガード73とが設けられている。また、ガード73に対してガード昇降駆動機構71が連結されている。ガード昇降駆動機構71は制御部4からの昇降指令に応じてガード73を独立して昇降する。さらに、排気桶70には、排気機構74が配管75を介して接続されている。この排気機構74は、チャンバ20の内底面、排気桶70およびガード73で囲まれた空間を排気する。
【0040】
さらに、処理ユニット1Aでは、3つの流量計81~83が設けられ、装置各部における気体成分の流量を監視している。より具体的には、半密閉状の空間SPを臨むように第1流量計81が円板部511に取り付けられている。第1流量計81は空間SP内での気体成分の流量を計測し、その計測結果を制御部4に出力する。スピンチャック30の周辺空間を臨むように第2流量計82がスピンチャック30に取り付けられている。第2流量計82はスピンチャック30の周辺雰囲気における気体成分の流量を計測し、その計測結果を制御部4に出力する。排気桶70から排気機構74に延びる配管75に第1流量計81が取り付けられている。第3流量計83は上記配管75を流れる気体成分の流量を計測し、その計測結果を制御部4に出力する。
【0041】
制御部4は、CPU等の演算ユニット、固定メモリデバイス、ハードディスクドライブ等の記憶ユニット、および入出力ユニットを有している。記憶ユニットには、演算ユニットが実行するプログラムが記憶されている。そして、制御部4は、上記プログラムにしたがって装置各部を制御することで、
図7に示す基板処理を実行する。特に、制御部4は、以下に説明するように、昇華処理において水平N2の吐出開始を垂直N2の吐出開始よりも早める吐出タイミング制御および水平N2の流量を垂直N2の流量よりも多くする流量制御を行うことで基板Wの表面周縁部でのパターン倒壊の改善を図っている。
【0042】
図7は処理ユニットにおいて実行される基板処理の内容を示すフローチャートである。基板処理システム100における処理対象は、例えばシリコンウエハであり、パターン形成面である表面Wfに凹凸状のパターンPT(
図6A参照)が形成されている。パターンPTは、ロジック回路、DRAM(Dynamic Random Access Memory)やカルコゲナイド系合金の特異な性質を利用するPRAM(Phase-change Random Access Memory)を構成するものであってもよい。パターンPTは微細なトレンチにより形成されたライン状のパターンが繰り返し並ぶものであってもよい。また、パターンPTは、薄膜に、複数の微細穴(ボイド(void)またはポア(pore))を設けることにより形成されていてもよい。パターンPTは、たとえば絶縁膜を含む。また、パターンPTは導体膜を含んでいてもよい。より具体的には、パターンPTは、複数の膜を積層した積層膜により形成されており、さらには、絶縁膜と導体膜とを含んでいてもよい。パターンPTは単層膜で構成されるパターンPTであってもよい。絶縁膜はシリコン酸化膜やシリコン窒化膜であってもよい。また、導体膜は、低抵抗化のための不純物を導入したアモルファスシリコン膜であってもよいし、金属膜(例えばTiN膜)であってもよい。また、パターンPTは、フロントエンドで形成されたものであってもよいし、バックエンドで形成されたものであってもよい。さらに、パターンPTは、疎水性膜であってもよいし、親水性膜であってもよい。親水性膜として例えばTEOS膜(シリコン酸化膜の一種)が含まれる。
【0043】
また、
図7に示す各工程は、特に明示しないかぎり、大気圧環境下で処理される。ここで、大気圧環境とは標準大気圧(1気圧、1013hPa)を中心に、0.7気圧以上1.3気圧以下の環境のことを指す。特に、基板処理システム100が陽圧となるクリーンルーム内に配置される場合には、基板Wの表面Wfの環境は、1気圧よりも高くなる。
【0044】
未処理の基板Wが処理ユニット1Aに搬入される前においては、制御部4が装置各部に指令を与えて処理ユニット1Aは初期状態にセットされる。すなわち、シャッター開閉機構22によりシャッター23(
図1ないし
図3)は閉じられている。基板回転駆動機構34によりスピンチャック30は基板Wのローディングに適した位置に位置決め停止されるとともに、図示しないチャック開閉機構によりチャックピン31は開状態となっている。対向板51は対向板昇降駆動機構56により退避位置に位置決めされている。これにより、スピンベース32による対向板51の支持は解消され、対向板51の回転は停止されている。ガード73はいずれも下方に移動して位置決めされている。さらに、バルブ62c~66c、68cはいずれも閉じられている。
【0045】
未処理の基板Wが基板搬送ロボット111により搬送されてくると、シャッター23が開く。シャッター23の開成に合わせて基板Wは基板搬送ロボット111によりチャンバ20の内部空間21に搬入され、表面Wfを上方に向けたフェースアップ状態でスピンチャック30に受け渡される。そして、チャックピン31が閉状態となり、基板Wはスピンチャック30に保持される(ステップS1:基板搬入)。
【0046】
基板Wの搬入に続いて、基板搬送ロボット111がチャンバ20の外に退避し、さらにシャッター23が再び閉じる。その後で、制御部4は、対向板昇降駆動機構56を制御して、対向板51を対向位置に配置する。これにより、
図5に示すように対向板51に設けられた係合部材514が係合部材35によって受け止められ、対向板51および中心軸ノズル60がスピンベース32に支持される。また、対向板51とスピンベース32とが相互に近接して半密閉状の空間SPが形成される。その結果、スピンチャック30に保持された基板Wは空間SPに閉じ込められ、周辺雰囲気から遮断される。なお、本実施形態では、後で説明する昇華工程(ステップS8)が完了するまで、対向板51は対向位置に位置決めされる。
【0047】
空間SPへの基板Wの閉込完了に続いて、制御部4は、基板回転駆動機構34のモータ(図示省略)を制御してスピンベース32の回転速度を、所定の薬液処理速度(約10~1200rpmの範囲内で、たとえば約800rpm)まで上昇させ、その薬液処理速度に維持させる。このスピンベース32の回転に同伴して、対向板51が回転軸線AX1まわりに回転されるとともに、基板Wが回転軸線AX1まわりに回転される(ステップS2:基板回転開始)。なお、次の薬液処理に進むまでに、制御部4は薬液処理に対応するガード73を上昇させることで、当該ガード73を、対向板51の内周面513cとスピンベース32の外周面32bとの隙間GPに対向させる。
【0048】
基板Wの回転速度が薬液処理速度に達すると、次いで、制御部4はバルブ62cを開く。これにより、中心軸ノズル60の薬液吐出口62aから薬液が吐出され、基板Wの表面Wfに供給される。基板Wの表面Wf上では、薬液が基板Wの回転による遠心力を受けて基板Wの周縁部に移動する。これにより、基板Wの表面Wfの全体が薬液による薬液洗浄を受ける(ステップS3)。このとき、基板Wの周縁部に達した薬液は基板Wの周縁部から基板Wの側方に排出され、ガード73を介して機外の廃液処理設備に送られる。この薬液供給による薬液洗浄は予め定められた洗浄時間だけ継続され、それを経過すると、制御部4はバルブ62cを閉じて、中心軸ノズル60からの薬液の吐出を停止する。
【0049】
薬液洗浄に続いて、リンス液(DIW)によるリンス処理が実行される(ステップS4)。このDIWリンスでは、制御部4はバルブ63cを開く。これにより、薬液洗浄処理を受けた基板Wの表面Wfの中央部に対して中心軸ノズル60のDIW吐出口63aからDIWがリンス液として供給される。すると、DIWが基板Wの回転による遠心力を受けて基板Wの周縁部に移動する。これにより、基板W上に付着している薬液がDIWによって洗い流される。このとき、基板Wの周縁部から排出されたDIWは、基板Wの周縁部から基板Wの側方に排出され、薬液と同様にして機外の廃液処理設備に送られる。このDIWリンスは予め定められたリンス時間だけ継続され、それを経過すると、制御部4はバルブ63cを閉じて、中心軸ノズル60からのDIWの吐出を停止する。
【0050】
DIWリンスの完了後、置換処理(ステップS5)が行われる。置換処理(ステップS5)では、制御部4は、基板回転駆動機構34のモータ(図示省略)を制御して基板Wの回転速度を所定の置換回転速度に調整し、その置換回転速度に維持させる。また、制御部4は中央ガス吐出口66aおよび周縁ガス吐出口67からの窒素ガス、つまり垂直N2および水平N2の流量をそれぞれ調整する。これによって、半密閉状の空間SPに対して窒素ガスが供給され、空間SP内で窒素リッチとなる。また、空間SPと周辺雰囲気とを連通する唯一の箇所となる隙間GP(
図5参照)を介して周辺雰囲気から空間SPに外気が侵入するのを効果的に防止することができる。これにより空間SPは低酸素環境となる。ここで、「低酸素」とは、酸素濃度が100ppm以下であることを指す。
【0051】
また、制御部4は、置換処理に対応するガード73を隙間GPに対向させる。そして、制御部4は、バルブ64cを開く。それにより、DIWが付着している基板Wの表面Wfの中央部に向けて中心軸ノズル60のIPA吐出口64aからIPA処理液が低表面張力液体として吐出される。基板Wの表面Wfに供給されたIPA処理液は、基板Wの回転による遠心力を受けて基板Wの表面Wfの全域に広がる。これにより、基板Wの表面Wfの全域において、当該表面Wfに付着しているDIW(リンス液)がIPA処理液によって置換される。なお、基板Wの表面Wfを移動するIPA処理液は、基板Wの周縁部から基板Wの側方に排出され、上記ガード73に受け止められ、図示を省略する回収経路に沿って回収設備に送られる。このIPA置換は予め定められた置換時間だけ継続され、それを経過すると、制御部4はバルブ64cを閉じて中心軸ノズル60からのIPA処理液の吐出を停止する。
【0052】
IPA置換の次に、乾燥前処理液供給処理(ステップS6)が実行される。この乾燥前処理液供給処理では、制御部4は、基板Wの回転速度、垂直N2の流量および水平N2の流量をそれぞれ置換処理での値に維持している。制御部4は、乾燥前処理液供給処理に対応するガード73を隙間GPに対向させる。制御部4は、バルブ65cを開く。それにより、置換液が付着している基板Wの表面Wfの中央部に向けて中心軸ノズル60の乾燥前処理液吐出口65aから乾燥前処理液が吐出される。基板Wの表面Wfに供給された乾燥前処理液は、基板Wの回転による遠心力を受けて基板Wの表面Wfの全域に広がる。これにより、基板Wの表面Wfの全域においてIPA処理液から乾燥前処理液の置換が行われるとともに比較的厚い乾燥前処理液の液膜が形成される。乾燥前処理液の吐出は予め定められた時間だけ継続され、それを経過すると、制御部4はバルブ65cを閉じて中心軸ノズル60からの乾燥前処理液の吐出を停止する。
【0053】
こうして形成された液膜を所望厚さまで薄くするために、膜厚減少処理(ステップS7)が実行される。膜厚減少処理では、制御部4は、バルブ66c、68cを閉じて垂直N2および水平N2の吐出を停止させるとともに、基板回転駆動機構34のモータ(図示省略)を制御して基板Wの回転速度を置換回転速度よりも高いスピンオフ速度まで増速させる。そして、制御部4は予め定められた時間だけスピンオフ速度に維持させる。これにより、余分な乾燥前処理液が基板Wの表面Wfから除去されて乾燥前処理液の液膜の厚みが所望厚さに調整される。なお、本実施形態では、膜厚減少処理中の間、空間SPへの窒素ガスの供給を停止しているが、窒素ガス供給を行ってもよい。
【0054】
次に、基板W上の乾燥前処理液を凝固させ、昇華性物質を含む凝固体を基板Wの表面Wf上に形成する凝固体形成処理(ステップS8)が実行される。この凝固体形成処理では、制御部4は、基板回転駆動機構34のモータ(図示省略)を制御して基板Wの回転速度を凝固体形成速度に調整する。この凝固体形成速度は置換回転速度と同じであってもよいし、それ以上であってもよい。また、制御部4は、凝固体形成を促進させるために、バルブ66c、68cの少なくとも一方を開いて窒素ガスを吐出する。こうした凝固体形成処理により、乾燥前処理液の蒸発が促進され、基板W上の乾燥前処理液の一部が蒸発する。液膜中の昇華性物質の濃度が徐々に増加しながら、液膜の膜厚が徐々に減少していく。そして、基板Wの表面上面全域を覆う固化膜に相当する凝固体(
図8~
図11、
図15中の符号SB)が形成される。
【0055】
この凝固体形成処理に続いて、基板Wの表面Wf上の凝固体を昇華させて、基板Wの表面Wfから除去する昇華処理(ステップS9)が実行される。制御部4は、基板Wの回転速度を昇華速度に調整する。この昇華速度は、凝固体形成工程の最終速度と等しくてもよいし、異なっていてもよい。また、制御部4は、凝固体SBに対して窒素ガスを供給する。ここで、例えば
図8に示すように、従来技術と同様の手法、つまり垂直N2の供給のみにより昇華処理を行うと、既述の問題が生じる。
【0056】
図8は従来技術において実行される昇華処理を示す図である。同図中の上段グラフ(および後で説明する同様のグラフ)の横軸は昇華開始からの経過時間を示し、縦軸は垂直N2の流量を示している。従来技術では、
図6A中の1点鎖線矢印で示す第1供給態様のみにより窒素ガスが基板Wの表面Wfに供給される。つまり、垂直N2が基板Wの表面中央部を経由して基板Wの表面全体に行き渡っている。このため、
図8の下段模式図に示すように、昇華処理の初期段階(タイミングT01)では、凝固体SBの表層部分で昇華した気体状の昇華性物質SSが窒素ガスとともに基板Wの表面Wfから排除される。しかしながら、ある程度の時間が経過したタイミングT02では、基板Wの表面周縁部上に位置する凝固体SBの中央領域SB1に対しては常にフレッシュな窒素ガスが供給されるのに対し、基板Wの表面周縁部上に位置する凝固体SBの周縁領域SB2に対しては昇華性物質SSの濃度が高い窒素ガスが流れてくる。このため、凝固体SBの中央領域SB1と周縁領域SB2とで昇華処理の進行度が相違する。より具体的には、周縁領域SB2の昇華が抑制されることがあり、このことが基板Wの表面周縁部におけるパターン倒壊の主要因のひとつになっている。そこで、本実施形態では、窒素ガスの供給態様を2種類用意し、これらのON/OFFを適宜制御することで上記問題を解消している。
【0057】
図9は本発明の第1実施形態において実行される昇華処理を示す図である。本実施形態では、昇華処理(ステップS9)の開始時点で、制御部4はバルブ66cを閉じて垂直N2の吐出を停止させる一方で、バルブ68cを開いて流量F2で水平N2の吐出を開始する。これにより、水平N2のみを供給している間、周縁領域SB2に対して昇華性物質SSを含まないフレッシュな窒素ガスが常時供給される。その結果、例えばタイミングT11では、周縁領域SB2の昇華が進行する。一方、凝固体SBの中央領域SB1に対して窒素ガスは供給されないため、中央領域SB1の昇華は規制される。
【0058】
こうして本発明の「第2昇華工程」の一例に相当する周縁領域SB2の昇華が優先的に進行した、あるいは同昇華が完了したタイミングTswで、制御部4はバルブ68cを開いたままバルブ66cを開いて流量F1(<F2)で垂直N2の吐出を開始する。これにより、例えばタイミングT12での模式図(同図の下段右図)に示すように、中央領域SB1に対してフレッシュな窒素ガスが供給され、中央領域SB1を含めた凝固体SBの全体的な昇華が進行していく。これが本発明の「第1昇華工程」の一例に相当する。また、周縁領域SB2に対しては、フレッシュな水平N2が供給され続けており、昇華性物質SSの濃度は低く抑えられている。このため、タイミングTsw時点で周縁領域SB2の昇華が完了していない場合であっても、周縁領域SB2の昇華は進行していく。その結果、昇華処理(ステップS9)により、凝固体SB全体が確実に昇華除去される。
【0059】
図7に戻って説明を続ける。昇華処理の次に、制御部4は、基板回転駆動機構34のモータを停止制御して基板Wの回転を停止させる(ステップS10:基板回転停止)。それに続いて、制御部4は、対向板昇降駆動機構56を制御して対向板51を対向位置から上昇させて退避位置に位置決めする。さらに、制御部4は、全てのガード73を隙間GPから下方に退避させる。
【0060】
その後、制御部4がシャッター開閉機構22を制御してシャッター23(
図1~
図3)を開いた後で、基板搬送ロボット111がチャンバ20の内部空間に進入して、チャックピン31による保持が解除された処理済みの基板Wをチャンバ20外へと搬出する(ステップS10)。なお、基板Wの搬出が完了して基板搬送ロボット111が処理ユニット1Aから離れると、制御部4はシャッター開閉機構22を制御してシャッター23を閉じる。
【0061】
以上のように、第1実施形態では、垂直N2を供給することで凝固体SB全体を昇華させるのに先立って、水平N2が凝固体SBの周縁領域SB2に供給されて周縁領域SB2の優先的な昇華が行われている。また、垂直N2の供給を開始した後において、水平N2の流量F2は垂直N2の流量F1よりも多く設定されている。このため、垂直N2の供給開始後において、周縁領域SB2に流れ込む窒素ガス(=垂直N2+水平N2)中の昇華性物質SSの濃度は低い。したがって、垂直N2の供給開始時点で周縁領域SB2の一部が未昇華であったとしても、当該未昇華部分の昇華が中央領域SB1の昇華と並行して行われる。よって、第1実施形態によれば、基板Wの表面周縁部でのパターン倒壊を改善することができる。
【0062】
図10は本発明の第2実施形態において実行される昇華処理を示す図である。第2実施形態が第1実施形態と大きく相違する点は、垂直N2の吐出開始後における垂直N2(第1気体)および水平N2(第2気体)の流量制御のみである。その他の構成は第1実施形態と同一である。そこで、以下においては、相違点を中心に説明し、同一構成には同一符号を付して説明を省略する。
【0063】
第2実施形態では、昇華処理(ステップS9)において、周縁領域SB2の昇華が優先的に進行した、あるいは昇華が完了したタイミングTswで、制御部4はバルブ66cを開くとともに垂直N2の流量を徐々に増やすとともに水平N2の流量を徐々に減らした後でバルブ68cを閉じて水平N2の供給を停止する。
【0064】
この第2実施形態によれば、次の作用効果が得られる。凝固体SBの周縁領域SB2の昇華が優先的に行われており、タイミングTsw以降において昇華させるべき周縁領域SB2はゼロあるいは少量である。したがって、タイミングTsw以降に周縁領域SB2の昇華に主体的に寄与する水平N2の流量を絞ることで窒素ガスの消費量および排気機構74による排気量を抑えることができる。その結果、ランニングコストの低減を図ることができる。
【0065】
図11は本発明の第3実施形態において実行される昇華処理を示す図である。第3実施形態が第1実施形態と大きく相違する点は、垂直N2の吐出開始タイミングである。その他の構成は第1実施形態と同一である。そこで、以下においては、相違点を中心に説明し、同一構成には同一符号を付して説明を省略する。
【0066】
第3実施形態では、制御部4は、昇華処理(ステップS9)の開始時点より、バルブ66cを開いて流量F1で垂直N2の吐出を開始するとともにバルブ68cを開いて流量F2で水平N2の吐出を開始する。これにより、垂直N2が基板Wの表面中央部に供給されて凝固体SBの中央領域SB1の昇華が進行していく。この時に発生する気体状の昇華性物質SSは窒素ガスに含まれて表面周縁部に流れる。したがって、当該表面周縁部での昇華性物質SSが存在することになる。しかしながら、第3実施形態では、水平N2が、昇華処理の開始時点より垂直N2の流量F1よりも多くの流量F2で基板Wの表面周縁部に向けて供給される。このため、表面周縁部での窒素ガス(=垂直N2+水平N2)中の昇華性物質濃度は比較的低く、当該窒素ガスにより周縁領域SB2の昇華が中央領域SB1の昇華と並行して行われる。
【0067】
以上のように、第3実施形態では、制御部4は水平N2(第2気体)の流量F2を垂直N2(第1気体)の流量F1よりも多くする流量制御を行っている。その結果、基板Wの表面周縁部でのパターン倒壊を改善することができる。
【0068】
ところで、上記第1実施形態ないし第3実施形態では、対向部材50の対向板51を基板Wの表面Wfに近接させることで半密閉状の空間SPを形成して基板処理を行う処理ユニット1Aに対して本発明を適用しているが、本発明の適用対象はこれに限定されない。例えば特許文献1に記載の装置、つまり遮断板の下面を基板の上面と平行に近接配置した状態で基板処理する基板処理装置にも適用することができる。また、上記対向板51や遮断板よりも小型、つまり基板Wの外径よりも小さなガスノズルを用いて基板処理する処理ユニット(第4実施形態)や基板Wの表面Wfに沿ってスキャンノズルを走査して基板処理する処理ユニット(第5実施形態)などにも本発明を適用することができる。
【0069】
図12は本発明に係る基板処理装置の第4実施形態に相当する処理ユニットの構成を示す図である。
図13は
図12に示す装置の平面図である。
図14Aはガスノズルの構成を模式的に示す図である。
図14Bはガスノズルを鉛直下方から見た図である。第4実施形態が第1実施形態と大きく相違している点は、薬液、DIW、IPA処理液、乾燥前処理液および窒素ガスを基板Wに供給する構成である。その他の構成は第1実施形態と同一である。そこで、以下においては、相違点を中心に説明し、同一構成には同一符号を付して説明を省略する。
【0070】
処理ユニット1Bは、スピンチャック30に保持されている基板Wの表面Wfを保護する気流を形成するガスノズル54を有している。ガスノズル54は、基板Wの直径よりも小さな外径を有するノズル本体540を有している。このノズル本体540の外周面に、2つのガス吐出口541、542が設けられている。ガス吐出口541、542はガスノズル54の全周にわたって周方向に連続した環状のスリットであり、それぞれ基板Wの上方で放射状に窒素ガスを吐出可能となっている。ガス吐出口541、542はガスノズル54の下面よりも上方に配置されている。ガス吐出口542はガス吐出口541よりも上方に配置されている。なお、ガス吐出口541、542の直径は、互いに等しくてもよいし、互いに異なっていてもよい。
【0071】
ガス吐出口541は、
図14Aに示すように、ノズル本体540の側面から上端面に繋がる配管部543と接続されている。配管部543は配管544bを介して窒素ガス供給部(図示省略)と接続されている。この配管544bには、バルブ544cが介装されている。このため、制御部4からの開閉指令に応じてバルブ544cが開かれると、窒素ガスが配管544bを介してノズル本体540に供給され、ガス吐出口541から回転軸線AX1を中心に放射状に吐出される。
【0072】
ガス吐出口542は、ノズル本体540の側面から上端面に繋がる配管部545と接続されている。配管部545は、
図14Aに示すように、配管546bを介して窒素ガス供給部(図示省略)と接続されている。この配管546bには、バルブ546cが介装されている。このため、制御部4からの開指令に応じてバルブ546cが開かれると、窒素ガスが配管546bを介してノズル本体540に供給され、ガス吐出口542から回転軸線AX1を中心に放射状に吐出される。
【0073】
したがって、バルブ544c、546cの両方が開かれると、上下に重なった複数の環状の気流がガスノズル54のまわりに形成される。つまり、ガス吐出口542から窒素ガスが水平方向に吐出されて環状の窒素ガス流が形成される。また、当該窒素ガス流の下方側で、ガス吐出口541から窒素ガスが水平方向から若干下方に傾いて吐出されて円錐台状の窒素ガス流が形成される。この円錐台状に吐出された窒素ガスは基板Wの表面周縁部に向かって流れ、第1実施形態中の水平N2に相当し、本発明の「第2気体」として機能する。
【0074】
このように構成されたノズル本体540の中央部には、
図14Aおよび
図14Bに示すように、中心軸ノズル60が取り付けられている。中心軸ノズル60は回転軸線AX1に沿って上下方向に延設されたノズル本体61を有している。このノズル本体61の中央部には、ノズル本体61の上端面から下端面に貫通して5本の中央配管部(図示省略)が設けられている。それら5本の中央配管部の下端面側開口はそれぞれ薬液吐出口62a、DIW吐出口63a、IPA吐出口64a、乾燥前処理液吐出口65aおよび中央ガス吐出口66aとして機能する。これらの吐出口62a~66aには、第1実施形態と同様に、配管62b~66bが接続されている。そして、制御部4がバルブ62c~66cを開閉制御することで薬液、DIW、IPA処理液、乾燥前処理液および窒素ガスが選択的に基板Wの表面中央部に向けて吐出される。このように吐出口66aから鉛直下方に吐出される窒素ガス、つまり垂直N2が本発明の「第1気体」の一例に相当している。
【0075】
中心軸ノズル60が一体的に取り付けられたガスノズル54には、ノズル移動機構55が接続されている。ノズル移動機構55は、ガスノズル54を保持するノズルアーム551と、ノズルアーム551を移動させることにより、鉛直方向および水平方向にガスノズル54を移動させるノズル駆動部552とを有している。ノズル駆動部552は例えばスピンチャック30およびガード73のまわりで鉛直に延びるノズル回動軸線AX2まわりにガスノズル54を水平に移動させる旋回ユニットである。
【0076】
ノズル移動機構55は中央上位置(
図13において2点鎖線で示す位置)と待機位置(
図13において実線で示す位置)との間で、ガスノズル54を中心軸ノズル60と一体的に水平移動させる。ノズル移動機構55は、さらに、中央上位置と中央下位置との間でガスノズル54を鉛直に移動させる。待機位置は、平面視でガスノズル54がガード73のまわりに位置する位置である。中央上位置および中央下位置は、平面視でガスノズル54が基板Wの中央部に重なる位置(
図13において2点鎖線で示す位置)である。中央上位置は、中央下位置の上方の位置である。ノズル移動機構55が制御部4からの下降指令を受けてガスノズル54を中央上位置から中央下位置に下降させると、ガスノズル54の下面が基板Wの表面中央部に近づく。
【0077】
ガスノズル54が中央位置に配置されると、ガスノズル54が平面視で基板Wの表面中央部に重なる。このとき、ガスノズル54の下面および中心軸ノズル60の吐出口62a~66aが基板Wの上面中央部に対向する。そして、制御部4は基板回転駆動機構34のモータ(図示省略)を制御してスピンベース32と一緒に基板Wを回転させながらバルブ62c~66cを開閉制御することで第1実施形態と同様に一連の基板処理を行う。特に、昇華処理(ステップS9)では、制御部4がバルブ66cを開くことで垂直N2が本発明の「第2気体」として基板Wの表面中央部に供給される。また、制御部4がバルブ544c、546cを開くことでガスノズル54から放射状に広がる環状の窒素ガス流が基板Wの上方で形成される。そのうち、バルブ544cの開成によりガス吐出口541から窒素ガスが本発明の「第2気体」として基板Wの表面周縁部に向けて供給される。
【0078】
このように構成された処理ユニット1Bにおいては、第1実施形態と同様にして、
図7に示すフローに一連の基板処理(ステップS1~S11)が実行されるが、特に昇華処理(ステップS9)は以下のようにして実行される。
【0079】
図15は本発明の第4実施形態において実行される昇華処理を示す図である。第4実施形態では、ガスノズル54が中央下位置(
図15の下段模式図において実線で示す位置)に位置決めされた状態で昇華処理(ステップS9)は実行される。この昇華処理の開始時点で、制御部4はバルブ66cを閉じて垂直N2の吐出を停止させる一方で、同図に示すようにバルブ544cを開いて流量F2で水平N2の吐出を開始する。これにより、水平N2のみを供給している間、周縁領域SB2に対して昇華性物質SSを含まないフレッシュな窒素ガスが常時供給される。その結果、例えばタイミングT41では、周縁領域SB2の昇華が進行する。一方、凝固体SBの中央領域SB1に対して窒素ガスは供給されないため、中央領域SB1の昇華は規制される。なお、本実施形態では、バルブ546cを開いて水平N2の上方に環状の窒素ガス流(同図中の破線)を形成しているが、当該窒素ガス流を省略してもよい。
【0080】
こうして周縁領域SB2の昇華が優先的に進行した、あるいは昇華が完了したタイミングTswで、制御部4はバルブ244c、246cを開いたままバルブ66cを開いて流量F1(<F2)で垂直N2の吐出を開始する。これにより、例えばタイミングT42での模式図(同図の下段右図)に示すように、中央領域SB1に対してフレッシュな窒素ガスが供給され、中央領域SB1を含めて凝固体SBの全体的な昇華が進行していく。また、周縁領域SB2に対しては、フレッシュな水平N2が供給され続けており、昇華性物質SSの濃度は低く抑えられている。このため、タイミングTsw時点で周縁領域SB2の昇華が完了していない場合であっても、周縁領域SB2の昇華は進行していく。その結果、昇華処理(ステップS9)により、凝固体SB全体が確実に昇華除去される。
【0081】
以上のように、ガスノズル54を用いる処理ユニット1Bにおいて、第1実施形態と同様に、基板Wの表面周縁部でのパターン倒壊を改善することができる。
【0082】
図16は本発明に係る基板処理装置の第5実施形態に相当する処理ユニットの構成を示す図である。
図17は
図16に示す装置の平面図である。第5実施形態に係る処理ユニット1Cは、基板Wの表面Wfを上方から保護する構成(対向部材50やガスノズル54)を設けることなく、上記実施形態と同様に昇華処理を含む一連の基板処理を行う。特に、第5実施形態が第1実施形態と大きく相違している点は、ノズル構成と、昇華処理の内容とである。その他の構成は第1実施形態と同一である。そこで、以下においては、相違点を中心に説明し、同一構成には同一符号を付して説明を省略する。
【0083】
処理ユニット1Cは、中心軸ノズル60が一体的に取り付けられたスキャンノズル57と、スキャンノズル57を移動させるノズル移動機構55とを有している。ノズル移動機構55は、第4実施形態と同様に、スキャンノズル57を保持するノズルアーム551と、ノズルアーム551を移動させることにより、鉛直方向および水平方向にスキャンノズル57を移動させるノズル駆動部552とを有している。ノズル駆動部552は例えばスピンチャック30およびガード73のまわりで鉛直に延びるノズル回動軸線AX2まわりにスキャンノズル57を水平に移動させる旋回ユニットである。
【0084】
ノズル移動機構55は、中央上位置(
図17において2点鎖線で示す位置)を経由しながら第1待機位置(
図17において実線で示す位置)と第2待機位置(
図17において1点鎖線で示す位置)との間で、スキャンノズル57を中心軸ノズル60と一体的に水平移動させる。また、ノズル移動機構55は制御部4からの速度指令に応じてスキャンノズル57の移動速度を変更可能となっている。より具体的には、ノズル移動機構55は、
図17に示すように、第1待機位置、第1基板直上位置P1ないし第9基板直上位置P9および第2待機位置の間でスキャンノズル57の移動速度を変更可能となっている。そして、ノズル移動機構55は、昇華処理(ステップS9)を行う際にはスキャンノズル57を第1待機位置と第2待機位置との間でスキャンする一方、薬液処理(ステップS3)、リンス処理(ステップS4)、置換処理(ステップS5)、乾燥前処理液供給処理(ステップS6)、膜厚減少処理(ステップS7)および凝固体形成処理(ステップS8)を行う際にはスキャンノズル57を中央上位置(第5基板直上位置P5)に位置決めする。ここで、凝固体形成処理においては、スキャンノズル57を中央上位置から第1待機位置または第2待機位置にスキャンさせてよい。
【0085】
スキャンノズル57の中央部には、
図16に示すように、中心軸ノズル60が取り付けられている。中心軸ノズル60は回転軸線AX1に沿って上下方向に延設されたノズル本体61を有している。このノズル本体61の中央部には、第1実施形態と同様に、ノズル本体61の上端面から下端面に貫通して5本の中央配管部(図示省略)が設けられている。また、それら5本の中央配管部には、配管62b~66bが接続されている。そして、スキャンノズル57が中央上位置(第5基板直上位置P5)に位置決めされた中央位置決め状態で、制御部4がバルブ62c~66cを開閉制御することで薬液、DIW、IPA処理液、乾燥前処理液および窒素ガスが選択的に基板Wの表面中央部に向けて吐出される。このように中央位置決め状態で中心軸ノズル60から吐出される窒素ガスが本発明の「第1気体」の一例に相当している。また、スキャンノズル57が第1基板直上位置P1または第9基板直上位置P9に位置する間に中心軸ノズル60の中央ガス吐出口66aから吐出される窒素ガスが本発明の「第2気体」の一例に相当している。本実施形態では、中央ガス吐出口66aが本発明の「第1吐出部」および「第2吐出部」として機能している。
【0086】
このように構成された処理ユニット1Cにおいては、第1実施形態と同様にして、
図7に示すフローに一連の基板処理(ステップS1~S11)が実行されるが、特に昇華処理(ステップS9)は以下のようにして実行される。制御部4は、スキャンノズル57を第1基板直上位置P1(または第9基板直上位置P9)、つまり基板Wの表面周縁部の上方に移動される。また、基板Wの表面周縁部でのスキャンノズル57の下降により、スキャンノズル57の下面が基板Wの表面周縁部に近づく。これに続いて、制御部4がバルブ66cを開くことで、スキャンノズル57に保持された中心軸ノズル60から窒素ガスが基板Wの表面周縁部に供給される。これにより、まず最初に凝固体SBの周縁領域SB2に窒素ガスが供給されて周縁領域SB2の昇華が開始される。そして、周縁領域SB2の昇華が優先的に進行した、あるいは昇華が完了したタイミングで、制御部4は、中心軸ノズル60からの窒素ガスの吐出を継続させたまま、スキャンノズル57を基板Wの表面中央部の上方に向けて順次移動させる。そして、スキャンノズル57が中央上位置(第5基板直上位置P5)に位置することで、中心軸ノズル60から窒素ガスが基板Wの表面中央部に供給される。これにより、凝固体SBの中央領域SB1の昇華が最後に開始される。なお、本実施形態では、制御部4は、所定時間だけスキャンノズル57を中央上位置に位置させた後で、基板Wの表面周縁部の上方を経由してスキャンノズル57を待機位置に戻す。また、制御部4は、上記移動中に、スキャンノズル57の上昇によりスキャンノズル57の下面を基板Wの表面Wfから離間させるとともにバルブ66cを閉じて中心軸ノズル60からの窒素ガスの吐出を停止する。
【0087】
以上のように、第5実施形態においても、第1実施形態と同様に、基板Wの表面周縁部でのパターン倒壊を改善することができる。
【0088】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば上記第1実施形態、第2実施形態、第4実施形態および第5実施形態では、周縁領域SB2の昇華が優先的に進行した、あるいは昇華が完了したタイミングTswを昇華処理の開始からの経過時間で管理しているが、これ以外の指標に基づいて管理してもよい。例えば流量計81~83の検出値、つまり流量値に基づいてタイミングTswを決定してもよい。すなわち、昇華性物質を含有する気体の量が多くなるにしたがって粘性は高くなる傾向にある。一方、凝固体SBの周縁領域SB2の昇華が完了すると、半密閉状の空間SP、排気桶70で囲まれた回収空間または排気経路における気体状の昇華性物質の濃度が低くなる。つまり、チャンバ20の内部空間21および内部空間21から排気される排気経路は窒素ガスのみが存在する雰囲気に近づき、内部空間21および排気経路を流れる気体の流量が増大する。そこで、流量計81~83による計測値が所定のしきい値以上に変化することを捉えて上記タイミングTswを決定してもよい。また、計測値の微分値の変化に基づいて上記タイミングTswを決定してもよい。
【0089】
また、流量計に代えて昇華性物質の含有量を検出する昇華性物質検出センサを用いてもよい。また、第4実施形態や第5実施形態において、当該昇華性物質検出センサをガスノズル54やスキャンノズル57の外周面に取り付け、ノズルの周辺雰囲気における昇華性物質を検出してもよい。すなわち、昇華性物質検出センサによる検出値(含有量)が所定のしきい値以下に変化することを捉えて上記タイミングTswを決定してもよい。また、複数の流量計や昇華性物質検出センサの出力値の一つに基づいてタイミングTswを決定してもよいし、それらを総合的に検証してタイミングTswを決定してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明は、液体を経ずに気体に変化する昇華性物質で構成される凝固体に対して気体を供給して凝固体を昇華させて基板を乾燥させる基板処理技術全般に適用することができる。
【符号の説明】
【0091】
1A,1B,1C…処理ユニット(基板処理装置)
4…制御部
20…チャンバ
21…内部空間
66a…中央ガス吐出口(第1吐出部、第2吐出部)
67…周縁ガス吐出口(第2吐出部)
81~83…流量計
541,542…ガス吐出口(第2吐出部)
AX1…(凝固体の)回転軸線
PT…パターン
S9…昇華処理
SB…凝固体
SB1…(凝固体の)中央領域
SS…昇華性物質
W…基板
Wf…(基板の)表面