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特許7447381非晶質合金リボンの熱処理方法、及び非晶質合金リボンの熱処理装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】非晶質合金リボンの熱処理方法、及び非晶質合金リボンの熱処理装置
(51)【国際特許分類】
   C21D 6/00 20060101AFI20240305BHJP
   H01F 1/153 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
C21D6/00 C
H01F1/153
H01F1/153 133
H01F1/153 141
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022552035
(86)(22)【出願日】2021-09-22
(86)【国際出願番号】 JP2021034822
(87)【国際公開番号】W WO2022065370
(87)【国際公開日】2022-03-31
【審査請求日】2023-11-07
(31)【優先権主張番号】P 2020160807
(32)【優先日】2020-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(72)【発明者】
【氏名】佐野 博久
(72)【発明者】
【氏名】福山 建史
【審査官】河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】特開昭54-83622(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0059487(KR,A)
【文献】米国特許第5069428(US,A)
【文献】国際公開第2017/150440(WO,A1)
【文献】特表2013-511617(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 1/00-1/84、6/00-8/12
C21D 9/52-9/70
C22F 1/00
H01F 1/153
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶質合金リボンの熱処理方法であって、
非晶質合金リボンを、加熱した凸面に当接させつつ移動させるとともに、
前記非晶質合金リボンの、前記凸面に当接する部分を、当接している面の逆側からローラを介して移動可能なバンド部材で押さえ付けつつ移動させる工程を有することを特徴とする非晶質合金リボンの熱処理方法。
【請求項2】
前記バンド部材が金属部材であることを特徴とする請求項1に記載の非晶質合金リボンの熱処理方法。
【請求項3】
前記バンド部材を加熱しながら押さえつけることを特徴とする請求項2に記載の非晶質合金リボンの熱処理方法。
【請求項4】
前記工程を、前記凸面が当接する前記非晶質合金リボンの面を変えて複数回行うことを特徴とする請求項3に記載の非晶質合金リボンの熱処理方法。
【請求項5】
前記非晶質合金リボンが、ナノ結晶軟磁性材料であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の非晶質合金リボンの熱処理方法。
【請求項6】
非晶質合金リボンを移動させながら熱処理を行う非晶質合金リボンの熱処理装置であって、
非晶質合金リボンを当接させて加熱するための凸面を有する加熱部と、
前記非晶質合金リボンの当接する部分を、前記凸面に対して当接面の逆側から押さえ付ける押え付け部との組合せを有し、
前記押え付け部が、ローラを介して移動可能なバンド部材であることを特徴とする非晶質合金リボンの熱処理装置。
【請求項7】
前記バンド部材が、金属部材であることを特徴とする請求項6に記載の非晶質合金リボンの熱処理装置。
【請求項8】
前記ローラが前記バンド部材を加熱する加熱機構を有することを特徴とする請求項7に記載の非晶質合金リボンの熱処理装置。
【請求項9】
前記組合せを前記非晶質合金リボンの進行方向において複数有し、
隣り合う組合せにおいて、前記非晶質合金リボンに対する前記加熱部と前記バンド部材の位置関係が逆である請求項6から請求項8のいずれか一項に記載の非晶質合金リボンの熱処理装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非晶質合金リボンの熱処理方法、及び非晶質合金リボンの熱処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
非晶質合金リボンの特性を調整する方法として、加熱された凸面に非晶質合金リボンを接触させつつ移動させて熱を加える処理が知られている。具体的には、加熱したロール面に非晶質合金リボンを接触させつつ機械的拘束を掛けながら移動させて、急激な昇温と冷却で熱処理する方法が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】WO2011/060546公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の方法によれば、例えば、脆化を抑制しながら熱処理することができる。しかしながら、ロール面との十分な接触を確保するためには、リボンに大きなテンションをかける必要がある。更に、リボン面は必ずしも平坦では無く一定のうねりが残っている場合が有り、リボン全面をロールに充分に接触させる為に必要なテンションは増加する。その場合、リボンの方向によって磁気特性の異方性が強くなりすぎる懸念がある。磁気特性の異方性が大きいリボンは、用途が限定されてしまう。また、リボンとロールとの十分な接触を確保するためにリボンにかけられるテンションにも限界があり、リボンとロールの接触状態が不均一になることによって熱処理にムラが生じる恐れがあった。
【0005】
そこで本発明では、磁気特性の異方性の発生を抑制しつつ、非晶質合金リボンを均一に熱処理可能な、非晶質合金リボンの熱処理方法、および、熱処理装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、非晶質合金リボンの熱処理方法であって、非晶質合金リボンを、加熱した凸面に当接させつつ移動させるとともに、前記非晶質合金リボンの、前記凸面に当接する部分を、当接している面の逆側からローラを介して移動可能なバンド部材で押さえ付けつつ移動させる工程を有する。
【0007】
また、前記バンド部材が金属部材であることが好ましい。
【0008】
また、前記バンド部材を加熱しながら押さえつけることが好ましい。
【0009】
また、前記工程を、前記凸面が当接する前記非晶質合金リボンの面を変えて複数回行うことが好ましい。
【0011】
また、前記非晶質合金リボンが、ナノ結晶軟磁性材料であることが好ましい。
【0012】
本発明は非晶質合金リボンを移動させながら熱処理を行う非晶質合金リボンの熱処理装置であって、非晶質合金リボンを当接させて加熱するための凸面を有する加熱部と、前記非晶質合金リボンの当接する部分を、前記凸面に対して当接面の逆側から押さえ付ける押え付け部との組合せを有し、前記押え付け部が、ローラを介して移動可能なバンド部材である。
【0013】
また、前記バンド部材が、金属部材であることが好ましい。
【0014】
また、前記ローラが前記バンド部材を加熱する加熱機構を有することが好ましい。
【0015】
また、前記組合せを前記非晶質合金リボンの進行方向において複数有し、
隣り合う組合せにおいて、前記非晶質合金リボンに対する前記加熱部と前記バンド部材の位置関係が逆であることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、非晶質合金リボンに対して、大きなテンションを掛けなくても十分な熱接触を確保しながら熱処理を行うことができ、磁気特性の異方性の発生が抑制された非晶質合金リボンを製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第1の実施形態である、非晶質合金リボンの熱処理機の斜視概念図である。
図2】本発明の第1の実施形態における、非晶質合金リボンの熱処理方法の手順((a)~(f))を順に示した模式図である。
図3】本発明の第2の実施形態における、押え付け部と加熱部の拡大模式図である。
図4】本発明の第1の実施形態における、実施例1と、比較例1における磁気特性を示すグラフである。
図5】本発明の第1の実施形態における、実施例2と、比較例2における非晶質合金リボンを示す図である。
図6】本発明の第2の実施形態における、実施例2と、比較例2における磁気特性を示すグラフである。
図7】本発明の実施形態における、熱処理前後の非晶質合金リボンの変形状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(第1の実施形態)
以下、本発明の一つの実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
本実施形態の熱処理装置では、非晶質合金リボンを、加熱した凸面に当接させつつ移動させる。かかる熱処理装置は、非晶質合金リボンの当接する部分を、上記凸面に対して当接面の逆側から押さえ付ける押え付け部を有する点が特徴の一つである。非晶質合金リボンを押さえ付ける形態はこれを特に限定するものではないが、加熱した凸面の形状に追従するような柔軟部材を介して押さえ付けることが好ましい。ここで、「当接面」とは、非晶質合金リボンと上記凸面が面で接触していることを意味している。
図1に本実施形態の熱処理に用いる非晶質合金リボンの熱処理装置1の斜視概念図を示す。熱処理装置1は、ベース3上に設置されたリボンガイドスロープ4と、リボンテンション用ブレーキローラ5と、リボン幅方向制御機構11と、加熱ローラ6a、6b、6cと、リボン押え金属ベルト7と、熱電対8a、8b、8c(図1では不図示)とを備え、加熱ローラ6cとリボン押え金属ベルト7の間に非晶質合金リボン2を配置できるようにしている。リボン押え金属ベルト7は、柔軟部材の一例であり、ローラを介して移動可能なバンド部材である。柔軟部材(バンド部材)は、可撓性、強度、耐熱性の観点から、金属部材が好ましい。
【0021】
ここで、加熱ローラ6cは、非晶質合金リボンに直接接して、加熱するためのローラである。非晶質合金リボン2は、円柱状の加熱ローラ6c外周面の一部(周方向の一部領域)に当接(接触)し、加熱される。なお、ローラ6c自体は駆動源を持たず、リボン押え金属ベルト7により駆動されることで、複雑な機構無しに同期運転することができる。
リボン押え金属ベルト7を駆動するためのローラは、加熱ローラ6aと加熱ローラ6bの両方でも、どちらか一方でも構わない。本実施形態では、加熱ローラ6bに駆動力を持たせ、加熱ローラ6aは機械的に従属させる構成にしている。こうすることにより、加熱ローラ6aや加熱ローラ6bに対する電気的同期運転といった複雑な制御を回避することができ、更に、加熱ローラ6aと加熱ローラ6bの熱膨張差による同期ズレを修正する必要もなくなる。
【0022】
リボン押え金属ベルト7が、非晶質合金リボン2を加熱ローラ6cに押し付ける。すなわち、リボン押え金属ベルト7が、非晶質合金リボン2を、加熱ローラ6cの凸面(外周の曲面)に対して当接面の逆側から押さえ付ける。つまり、加熱ローラ6a、加熱ローラ6b、及びリボン押え金属ベルト7が、熱処理装置1における押え付け部を構成する。
【0023】
なお、加熱ローラ6cは、非晶質合金リボンを当接させて加熱するための凸面を有する加熱部の一例である。また、「凸面」とは、非晶質リボン側に盛り上がった面を意味し、図1に示すローラのように、円柱(円筒)形の側面の曲面の他、かまぼこ型部材の曲面のように部材の一部に構成された曲面など、非晶質リボンが追随して十分な接触が確保される形状であればよい。
【0024】
非晶質合金リボン2の材質はこれを特に限定するものではない。例えば、Fe-Si-B系、Fe-Si-B-C系等のFe基アモルファス合金や、ナノ結晶軟磁性材料であるFe-Si-B-Nb-Cu系、Fe-Si-B-Nb-Cu―Ni系等のFe基ナノ結晶合金等に適用することができる。Fe基ナノ結晶合金は、非晶質合金リボンに熱処理することでナノ結晶を晶出する組成を有する。
【0025】
熱処理装置1における押え付け部を構成するローラは、リボン押え金属ベルト7を駆動し、リボン押え金属ベルト7が非晶質合金リボン2を加熱ローラ6cに押し付ける機能を発揮するものであれば、必ずしも加熱されている必要はない。しかしながら、非晶質合金リボンの熱処理においては、非晶質合金リボンを例えば500℃まで上げることが必要になるので、高温になると輻射による熱損失が大きくなってしまう。特に、体積の小さいリボン押え金属ベルト7は、熱の蓄積が少ないため、直ぐに温度が下がってしまう。そこで、押付部を構成するローラを、加熱機構を備えた加熱ローラとすることで絶え間なく熱を供給することが可能となり、リボン押さえ金属ベルトの温度安定性が向上する。高温に保たれたリボン押さえ金属ベルトとロールで両面からリボンを挟むことでリボンへの熱供給速度が向上し、リボンの急速昇温が可能となると共に熱処理温度の安定性が期待できる。
【0026】
加熱ローラ6a、6b、6cの加熱温度は、非晶質合金リボン2がFe基アモルファス合金等である場合、夫々、350℃以上400℃以下が好ましく、Fe基ナノ結晶合金等の場合には、夫々、500℃以上が好ましい。
【0027】
リボン押え金属ベルト7の材質は、これを特に限定するものではない。例えば、耐熱性ステンレスやニッケル基の超耐熱合金などの耐熱性にすぐれた材質を用いることがより好ましい。
【0028】
テンションローラ5と、リボン幅方向制御機構11は、リボンの蛇行を防ぐためにセットで用いられる。テンションローラ5の直前にあるリボンが横にずれないようにリボン幅方向制御機構11が作用し、リボンがテンションローラ5の真ん中に入って行き、それに対して加熱ローラ6cとベルトに挟み込まれる位置が横にずれる(蛇行する)場合、テンションローラ5による張力により中央に戻そうとする力が発生し、蛇行が抑制されることになる。
【0029】
次に、本実施形態の熱処理方法について、熱処理装置1の断面を示す図2((a)~(f))を用いて順に説明する。本実施形態の熱処理方法では、非晶質合金リボンを、加熱した凸面に当接させつつ移動させる。その際に、非晶質合金リボンの当接する部分を、前記凸面に対して当接面の逆側から押さえ付けつつ移動させる。
まず、加熱ローラ6a、加熱ローラ6bにリボン押え金属ベルト7を架設し、リボン押え金属ベルト7と外側から当接するように加熱ローラ6cを配置してテンションを掛ける(図2(a))。リボン押え金属ベルト7は、加熱ローラ6a、加熱ローラ6bを介して移動可能に構成されている。
【0030】
加熱ローラ6a、6b、6cを、点線で図示した矢印方向に各々回転させながら、加熱ローラ6a、6bを例えば550℃に、加熱ローラ6cを例えば500℃まで加熱する。この際、熱電対8a、8b、8cにより加熱ローラ6a、6b、6c及びリボン押え金属ベルト7の温度を測定し、制御する(図2(b))。
【0031】
リボンテンション用ブレーキローラ5を図中の細矢印方向に上げた状態で、不図示のリボン巻出し機から出た非晶質合金リボン2を、リボンガイドスロープ4に沿って、図中の黒色矢印の方向に供給する(図2(c))。リボンガイドスロープ4の入り口には、リボンの蛇行を抑制するリボンテンション用ローラ5、およびリボン幅方向規制機構11が設置される。リボンテンション用ローラ5には、蛇行が防止される程度の小さなテンションが付与されるが、熱処理を行うためリボンが金属ベルト7と加熱ローラ6cの間に挟まれると、その入り口付近のクランプによる摩擦力がテンションを相殺するため、その後の熱処理区間では、リボンにテンションは掛からない。
【0032】
加熱ローラ6cの前後(両側)に、傾斜させたリボンガイドスロープ4を用いることで、非晶質合金リボン2をリボン押え金属ベルト7と加熱ローラ6Cに同時に接触して排出さることができる。つまり、リボンガイドスロープ4の傾き角度を調整して、非晶質合金リボン2の供給排出角度を設定することによって、非晶質合金リボン2の表と裏を同時に加熱及び冷却することが可能となる。リボンガイドスロープ延長線上に加熱ローラ6cの接線が一致するように配置することがより好ましい。
【0033】
非晶質合金リボン2が、リボン押え金属ベルト7と加熱ローラ6cに挟まると、リボンが自動で巻き込まれ始める。ここで、リボンテンション用ブレーキローラ5をセットする(図2(d))。
【0034】
非晶質合金リボン2は、加熱ローラ6cの凸面に当接しつつ移動し、リボン押え金属ベルト7によって、非晶質合金リボンの当接する部分が、加熱ローラ6cの凸面に対して当接面の逆側から押さえ付けられつつ移動することになる(図2(e))。
リボン押え金属ベルト7の速度と、非晶質合金リボン2の速度が異なり、滑りが生じていてもよいが、リボン押え金属ベルト7と非晶質合金リボン2とが一緒に移動することが好ましい。
【0035】
リボン押え金属ベルト7と加熱ローラ6a、6bで構成される押付部と加熱ローラ6cの間を通った非晶質合金リボン2は、リボンガイドスロープ4に沿って図中の白抜き矢印方向に排出される(図2(f))。排出された非晶質合金リボン2は、不図示のリボン巻取り機で巻き取られる。
【0036】
(第2の実施形態)
次に、本発明第2の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本実施形態の非晶質合金リボンの熱処理装置と、第1の実施形態の非晶質合金リボンの熱処理装置とは、加熱ローラとリボン押え金属ベルトで構成される押え付け部と加熱部だけが異なるので、その部分の拡大模式図を用いて説明する。また、第1の実施形態と同じ構成は、作用効果が同じなので、同じ記号を付して説明を省略する。
【0037】
図3は、第2の実施形態である非晶質合金リボンの熱処理装置における、押え付け部と加熱部の拡大模式図である。図3に示されるように、熱処理部分は、加熱ローラ―6a、6b、6c、6dと、リボン押え金属ベルト7、9と、ガイドローラー10とを備え、リボン押え金属ベルト7と9の間に非晶質合金リボン2を配置できるようにしている。
【0038】
つまり、非晶質合金リボン2の進行方向から見て、段違いに、かつ一部が重なるように、複数の加熱ローラ6a、6b、6c、6dが配置されている。非晶質合金リボン2の一方面を加熱するための加熱ローラ6a、6bと、他方面を加熱する加熱ローラ6c、6dとが、交互に配置され、一方面を加熱するための加熱ローラ6a、6bには、第1のバンド部材(リボン押え金属ベルト7)が掛け回され、他方面を加熱するためのローラ6c、6dには第2のバンド部材(リボン押え金属ベルト9)が掛け回されている。第1のバンド部材(リボン押え金属ベルト7)が掛け回された加熱ローラ6a、6bの部分では、第1のバンド部材は、非晶質合金リボン2の一方面に対する加熱部の一部となり、第2のバンド部材(リボン押え金属ベルト9)は押付け部となる。そして、第2のバンド部材(リボン押え金属ベルト9)が掛け回された加熱ローラ6c、6dの部分では、第2のバンド部材が、非晶質合金リボン2の他方面に対する加熱部の一部となり、第1のバンド部材(リボン押え金属ベルト7)は押付け部となる。
【0039】
リボン押え金属ベルト9は、リボン押え金属ベルト7と同様に、柔軟部材の一例であり、ローラを介して移動可能なバンド部材である。柔軟部材(バンド部材)は、可撓性、強度、耐熱性の観点から、金属部材が好ましい。
リボン押え金属ベルト7が、非晶質合金リボン2を、加熱ローラ6cの凸面(外周の曲面)に倣った、リボン押え金属ベルト9に押し付ける。すなわち、リボン押え金属ベルト7が、非晶質合金リボン2を、加熱ローラ6cの凸面(外周の曲面)に倣った、リボン押え金属ベルト9に対して当接面の逆側から押さえ付ける。同様に、リボン押え金属ベルト9が、非晶質合金リボン2を、加熱ローラ6bの凸面(外周の曲面)に倣った、リボン押え金属ベルト7に対して当接面の逆側から押さえ付ける。
つまり、本実施形態では、加熱ローラ6a、加熱ローラ6b、及びリボン押え金属ベルト7と、加熱ローラ6c、加熱ローラ6d、及びリボン押え金属ベルト9の各々が、熱処理装置1における押え付け部であると同時に、熱処理装置1における加熱部を構成する。
【0040】
ここで、加熱ローラ6a、6b、6c、6dのいずれか1つのみが駆動し、他のローラはリボン押え金属ベルト7、9を介して駆動されることにより、複雑な機構無しに同期運転できる。本実施形態では、加熱ローラ6bに駆動力を持たせ、加熱ローラ6a、6c,6dは、リボン押え金属ベルト7、9を介して機械的に従属させる構成にしている。こうすることにより、加熱ローラ6a、6b、6c、6dに対する電気的同期運転といった複雑な制御を回避することができ、更に、加熱ローラ6a、6b、6c、6dの熱膨張差による同期ズレを修正する必要もなくなる。
【0041】
次に本実施形態の熱処理方法について、第2の実施形態である非晶質合金リボンの熱処理装置における、熱処理部分の拡大模式図である図3を用いて説明する。
リボンガイドスロープ4に沿って供給された非晶質合金リボン2が、リボン押え金属ベルト7とリボン押え金属ベルト9に挟まると、リボンが自動で巻き込まれ始める。
【0042】
非晶質合金リボン2は、加熱ローラ6cの凸面(外周の曲面)に倣った、リボン押え金属ベルト9に当接しつつ移動し、リボン押え金属ベルト7によって、非晶質合金リボンの当接する部分が、加熱ローラ6cの凸面(外周の曲面)に倣った、リボン押え金属ベルト9に対して当接面の逆側から押さえ付けられつつ移動する。
【0043】
次に、非晶質合金リボン2は、加熱ローラ6bの凸面(外周の曲面)に倣った、リボン押え金属ベルト7に当接しつつ移動し、リボン押え金属ベルト9によって、非晶質合金リボンの当接する部分が、加熱ローラ6bの凸面(外周の曲面)に倣った、リボン押え金属ベルト7に対して当接面の逆側から押さえ付けられつつ移動する。
【0044】
リボン押え金属ベルト7とリボン押え金属ベルト9の速度と、非晶質合金リボン2の速度が異なり、滑りが生じていてもよいが、リボン押え金属ベルト7、リボン押え金属ベルト9、及び非晶質合金リボン2が一緒に移動することが好ましい。
【0045】
リボン押え金属ベルト7、9の間を通った非晶質合金リボン2は、ガイドローラー10に沿って図中の白抜き矢印方向に排出される。排出された非晶質合金リボン2は、リボンガイドスロープ4に沿って移動し、不図示のリボン巻取り機で巻き取られる。
【0046】
非晶質合金リボンを、例えば、モーターステータコアに用いる場合、真っすぐなリボンを使用する必要がある。第1の実施形態のように、一方向のみの凸面に当接させて処理を行うと、凸面の曲率方向に曲がりが生じてしまうので、その曲がりを矯正させるために、リボンの表裏を逆にして、再度、熱処理を行わなければならない。しかし、本実施形態のように、非晶質合金リボンを、異なる方向を向いた凸面に順次当接させれば、リボンの表裏を入れ替えることなく、凸面の曲率方向に生じた曲がりを矯正することができ、曲がりの少ない熱処理リボンを効率よく得ることが可能となる。
【実施例
【0047】
以下、実施例を説明する。
単ロール法によって形成された、幅60mm、厚さ24.8μmのFe基アモルファス合金からなる非晶質合金リボン2を準備した。
(実施例1)
ます、第1の実施形態を用いて、非晶質合金リボン2に張力を掛けずに、非晶質合金リボン2を200mm/sの速さで移動させつつ、リボンの両面を520℃で熱処理して実施例1を製造した。
その後、熱処理した非晶質合金リボン2の磁化曲線(B-H曲線)を測定した。測定にはB-Hアナライザー(岩崎通信機製SY-8218)に接続した単板試験器を用いた。測定に使用した上記の単板試験器は試料を挿入するボビン幅が25mmであり、かつヨーク長も25mmであるため、一辺25mmの正方形の試料であれば、試料の挿入方向を90°変えて各方向のB-H曲線を測定することにより、試料の磁気的な異方性を評価することができる。そこで熱処理後の非晶質合金リボン2から一辺25mmの正方形試料を切り出し、リボンの長さ方向と幅方向のB-H曲線をそれぞれ測定した。なお、上記正方形試料の切り出しの際には、非晶質合金リボン2の中央部付近から、一辺がリボンの長さ方向に平行に(従ってもう一辺は幅方向と平行に)なるように切り出した。各方向のB-H曲線を図4(a)に示す。
【0048】
(比較例1)
一方、加熱した凸曲面に非晶質合金リボンを接触させつつ機械的拘束を掛けながら移動させて、急激な昇温と冷却で熱処理する、従来の方法による結果を示す。ここで、凸曲面に安定して非晶質合金リボン2を接触させるには、非晶質合金リボン2にテンションを掛けて凸曲面に押し付ける必要がある。そこで、非晶質合金リボン2に、2[kgf]のテンションを掛けながら、非晶質合金リボン2を加熱したロール面に接触させつつ移動して熱処理を施して比較例1を製造し、実施例と同様に、非晶質合金リボンの長さ方向と、幅方向のB-H曲線を計測した。その結果を図4(b)に示す。
【0049】
従来の方法を用いて熱処理を行うと、図4(b)からわかるように、長さ方向、幅方向で、B-H曲線に差があり、磁気異方性が生じている。一方、本発明によると、図4(a)に示されたように、長さ方向と幅方向でB-H曲線に差はなく、磁気異方性は生じていない。なお、図4のB-H曲線はいずれも周波数1kHz、最大磁束密度1.5Tの条件で測定したものであるが、周波数(直流を含む)や最大磁束密度を変えてB-H曲線を測定した場合でも図4の結果(即ち磁気異方性の有無)に変化は無かった。
【0050】
(実施例2)
次に、第2の実施形態を用いて、非晶質合金リボン2に張力を掛けずに、非晶質合金リボン2を17mm/sの速さで移動させつつ、リボンの両面を480℃で熱処理して実施例2を製造した。
【0051】
(比較例2)
従来方法で熱処理した非晶質合金リボン2を比較例2として製造した。490℃に加熱した凸曲面に、2[kgf]のテンションを掛けながら、接触させつつ移動して、熱処理を施した。
【0052】
図5(a)、(b)、(c)は、それぞれ実施例1,実施例2と比較例2を示す図である。図5(a)の実施例1は、凸面熱処理によりリボンに曲がりが生じるため、リボンの両端が6mmほど浮き上がっているが、図5(b)の実施例2は、リボンの曲がりが矯正され、浮き上がりは見られないことが分かる。一方、図5(c)の比較例2は、リボンにテンションを掛けながら熱処理を施すため、実施例2と同様に、リボンに反りが生じていないことが分かる。
【0053】
次に、それぞれ真っすぐなリボンとなった、実施例2及び比較例2についてB-H曲線を測定した。その結果を図6に示す。
図6(a)は、磁界の強さ100A/mを、図6(b)は、磁界の強さ300A/mを、周波数はともに1kHzで加えた場合のB-H曲線である。
図6(a)と(b)ともに、実施例2の方が、比較例2と比較してB-Hループの立ち上がりが良好あり、磁気特性に優れていることがわかる。
【0054】
以上より、 本発明の実施形態を用いれば、非晶質合金リボンに対して必要以上に高い張力を掛けずに熱を伝えることができ、磁気特性の異方性及びリボン破断等を発生させずに非晶質合金リボンを製造することができる。特に、非晶質合金リボンがFe基ナノ結晶合金の場合、ナノ結晶を晶出する結晶化時の自己発熱により過剰昇温となり易いため、加熱ロールや凸曲面に熱を逃がす必要がある。従来はその実現のために、リボンに強いテンションを掛けることで加熱ロールや凸曲面にリボンを強く押しつけ、接触熱抵抗を低減により加熱ロールや凸曲面への放熱効率を上げ、過剰昇温の抑制を行っていた。
本発明の実施形態によれば、バンドによってリボンを押さえつけるので、過剰なテンションをリボンに印加することなく接触熱抵抗を低減することが可能となる。
【0055】
また、非晶質合金リボンの幅方向の両端には、鋳造時の冷却速度差に起因するリボンの波打ち(以下、側波と記す。)が存在することが多く、同部分はヒーターとの接触が悪くなる為、アニール処理が不完全になり易いが、本発明の実施形態を用いれば、加熱されたバンドでリボン全体を押さえつけるので、側波が存在しても充分な熱処理が可能となる。
【0056】
さらに、本発明の実施形態では、非晶質合金リボンの表裏をベルトやロールで押さえつけることになるで、非晶質合金リボンの結晶化時に生じやすい、非晶質合金リボンのシワやスジの変形を抑制することができる。ここで、本発明の実施形態における、熱処理前後の非晶質合金リボンの変形状態を表す例を図7に示す。具体的には、非晶質合金リボンの表面に、直径9.3mmの円環状の刻印パンチを、所定の加重で押し付けることによって形成した塑性加工溝の熱処理前後の変化を示している。図7(a)が熱処理前、図7(b)が熱処理後を示し、図7(a)では加工で生じた変形による反射や背景の歪みが見られるが、図7(b)では、本発明の実施形態による熱処理機構を経ると反射や歪みが解消されていることがわかる。
【0057】
ここまで、発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。特許請求の範囲において、内容を変更することが可能である。
【符号の説明】
【0058】
1 熱処理装置
2 非晶質合金リボン
3 ベース
4 リボンガイドスロープ
5 リボンテンション用ブレーキローラ
6a、6b、6c 加熱ローラ
7、9 リボン押え金属ベルト
8a、8b、8c 熱電対
10 ガイドローラー
11 リボン幅方向矯正機構

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7