(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】ヘッドレスト付きリクライニング椅子
(51)【国際特許分類】
A47C 7/38 20060101AFI20240305BHJP
A47C 1/036 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
A47C7/38
A47C1/036
(21)【出願番号】P 2019239268
(22)【出願日】2019-12-27
【審査請求日】2022-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000139780
【氏名又は名称】株式会社イトーキ
(74)【代理人】
【識別番号】100099966
【氏名又は名称】西 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】南 星治
(72)【発明者】
【氏名】東田 祐治
【審査官】細川 翔多
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-295516(JP,A)
【文献】特開平10-290728(JP,A)
【文献】特開2014-090991(JP,A)
【文献】特開2017-193263(JP,A)
【文献】特公昭49-004506(JP,B1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0171343(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47C 7/38
A47C 1/036
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性手段に抗して後傾動する背もたれと、前記背もたれに対して相対的に前向き回動し得るヘッドレストと、前記背もたれの後傾時に前記ヘッドレストを前記背もたれに対して相対的に前向き回動させる連動手段とを備えている構成であって、
前記ヘッドレストの下端部と前記背もたれの上端部とが、前記ヘッドレストに設けた上連結部材と前記背もたれに設けた下連結部材とを介して連結されていて、前記上連結部材が前記下連結部材に対して相対動することによって前記ヘッドレストが前記背もたれに対して相対回動することが許容されている一方、
前記連動手段として、チューブ内にワイヤーを挿通したワイヤーケーブルが使用されており、前記ワイヤーケーブル
は、前記背もたれの内部を通って
上方に延びていて上端が前記ヘッドレスト
の下端部に接続されている、
ヘッドレスト付きリクライニング椅子。
【請求項2】
前記背もたれは、前面に多数のリブが形成された背シェル体と、前記背シェル体の前面に配置されたクッション体とを備えており、前記背シェル体に、前記ワイヤーケーブルが配置される通路が、前記リブによって形成されている、
請求項1に記載したヘッドレスト付きリクライニング椅子。
【請求項3】
脚装置の上端に固定されたベースに後傾動自在に連結された傾動フレームと、前記背もたれの後傾動に連動して後退動又は前進動する座とを備えており、前記ベースに対する前記座又は前記傾動フレームの動き若しくは前記座と前記傾動フレームとの相対動に連動して前記ヘッドレストが前記背もたれに対して相対的に前向き回動するようになっている、
請求項1又は2に記載したヘッドレスト付きリクライニング椅子。
【請求項4】
前記ヘッドレストは、前記背もたれの左右中間位置を挟んだ左右両側の複数箇所において前記背もたれに連結されており、前記ワイヤーケーブルも、前記背もたれの左右中間位置を挟んだ左右両側の複数箇所に配置されてい
て、前記ワイヤーケーブルの上端は前記上連結部材に接続されている、
請求項1~3のうちのいずれかに記載したヘッドレスト付きリクライニング椅子。
【請求項5】
前記ヘッドレストは、前記背もたれに対して相対的に前進する方向に弾性体で付勢されており、前記背もたれが後傾していない状態では、前記ヘッドレストは前記ワイヤーケーブルで引っ張られて前記背もたれに対して相対的に後退動しており、前記背もたれが後傾すると、前記ヘッドレストに対する前記ワイヤーケーブルの引っ張りが解除されて前記ヘッドレストが前記背もたれに対して相対的に前向き回動するように設定されている、
請求項1~4のうちのいずれかに記載したヘッドレスト付きリクライニング椅子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、可動式ヘッドレストを備えたリクライニング椅子(すなわち、背もたれが後傾動可能な椅子)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヘッドレスト付き背もたれが例えば弾性手段に抗して後傾動するリクライニング椅子において、リクライニング時にヘッドレストを背もたれに対して相対的に前向き回動させることにより、リクライニング椅子に頭を起こした姿勢に保持する構成が提案されている。
【0003】
そして、リクライニングに際してヘッドレストを背もたれに対して相対的に前向き回動させるためには連動手段が必要であり、この連動手段として、特許文献1や特許文献2の第1~3実施形態にはリンク機構が開示されている。また、特許文献2の第4実施形態(
図15(C)の実施形態)には、チューブにワイヤーが挿通されたワイヤーケーブルを使用することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実公平5-46691号公報
【文献】特開2009-295516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
連動手段としてリンク機構を使用すると構造が複雑化する問題があるが、特許文献2の
図15(C)のようにワイヤーケーブルを使用すると、コンパクト化できると共に設計の自由性も格段に向上できる利点がある。
【0006】
しかし、特許文献2の
図15(C)では、ワイヤーケーブルは背もたれの外側に露出しているため、美観が劣る問題や、人の手や物がワイヤーケーブルに引っ掛かりやすくなるため、誤ってワイヤーケーブルを千切ってしまうといった問題が懸念される。
【0007】
本願発明は、このような現状を改善すべく成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明は様々な構成を有しており、その典型を各請求項で特定している。このうち請求項1の発明は上位概念を成すもので、
「弾性手段に抗して後傾動する背もたれと、前記背もたれに対して相対的に前向き回動し得るヘッドレストと、前記背もたれの後傾時に前記ヘッドレストを前記背もたれに対して相対的に前向き回動させる連動手段とを備えている」
という基本構成において、
「前記ヘッドレストの下端部と前記背もたれの上端部とが、前記ヘッドレストに設けた上連結部材と前記背もたれに設けた下連結部材とを介して連結されていて、前記上連結部材が前記下連結部材に対して相対動することによって前記ヘッドレストが前記背もたれに対して相対回動することが許容されている一方、
前記連動手段として、チューブ内にワイヤーを挿通したワイヤーケーブルが使用されており、前記ワイヤーケーブルは、前記背もたれの内部を通って上方に延びていて上端が前記ヘッドレストの下端部に接続されている」
という特徴を有している。
【0009】
請求項2の発明は請求項1を具体化したものであり、
「前記背もたれは、前面に多数のリブが形成された背シェル体と、前記背シェル体の前面に配置されたクッション体とを備えており、前記背シェル体に、前記ワイヤーケーブルが配置される通路が、前記リブによって形成されている」
という構成になっている。
【0010】
請求項3の発明は、請求項1又は2において、
「脚装置の上端に固定されたベースに後傾動自在に連結された傾動フレームと、前記背もたれの後傾動に連動して後退動又は前進動する座とを備えており、前記ベースに対する前記座又は前記傾動フレームの動き若しくは前記座と前記傾動フレームとの相対動に連動して前記ヘッドレストが前記背もたれに対して相対的に前向き回動するようになっている」
という構成になっている。この場合、座の動きに連動するとは、ワイヤーを座自体に連結している状態と、座を支持する座受けシェルのような中間部材にワイヤーを連結している場合との両方を含んでいる。
【0011】
請求項4の発明は、請求項1~3のうちのいずれかにおいて、
「前記ヘッドレストは、前記背もたれの左右中間位置を挟んだ左右両側の複数箇所において前記背もたれに連結されており、前記ワイヤーケーブルも、前記背もたれの左右中間位置を挟んだ左右両側の複数箇所に配置されていて、前記ワイヤーケーブルの上端は前記上連結部材に接続されている」
という構成になっている。
【0012】
請求項5の発明は、請求項1~4のうちのいずれかにおいて、
「前記ヘッドレストは、前記背もたれに対して相対的に前進する方向に弾性体で付勢されており、前記背もたれが後傾していない状態では、前記ヘッドレストは前記ワイヤーケーブルで引っ張られて前記背もたれに対して相対的に後退動しており、前記背もたれが後傾すると、前記ヘッドレストに対する前記ワイヤーケーブルの引っ張りが解除されて前記ヘッドレストが前記背もたれに対して相対的に前向き回動するように設定されている」
という構成になっている。
【発明の効果】
【0013】
本願発明では、ワイヤーケーブルは背もたれの内部を通ってヘッドレストの下端部に接続されているため、ワイヤーケーブルが背もたれの後ろに露出することはない。従って、美観の悪化を防止できると共に、人の手や物がワイヤーケーブルに引っ掛かることを無くしてワイヤーケーブルの破損事故を無くすことができる。
【0014】
また、ワイヤーケーブルはワイヤーがチューブ内でスライドするものであるため、ワイヤーケーブルを背もたれの内部に隠しても、ヘッドレストの作動には影響しない。従って、ヘッドレストの動きの確実性を保持しつつ、美観保持とワイヤーケーブルの損傷防止とを図ることができる。
【0015】
ワイヤーケーブルを背もたれに内蔵する構成は様々に具体化できるが、請求項2のようにリブを切り欠いて形成された通路にワイヤーケーブルを配置すると、背シェル体に高い強度を保持させつつ、ワイヤーケーブルをクッション体に触れないように配置できる。従って、ワイヤーケーブルを着座者の荷重(体圧)が掛からないように保護しつつ、背シェル体を高い強度に保持できる。
【0016】
ヘッドレストの動きをどの部材に連動させるかは任意に設定できるが、請求項3のように傾動フレーム又は座の動きに連動させると、ヘッドレストの相対動を確実化できる利点がある。特に、座の動きに連動させると、座の下方にはワイヤーケーブルを配置できる空間が空いているため、ワイヤーケーブルを外部に露出させることなく容易に配置できる利点がある。従って、座の動きに連動させると特に好適であると云える。座が背もたれに連動しない椅子の場合は、傾動フレームの動きに連動させたらよい。
【0017】
請求項4の構成を採用すると、ヘッドレストは左右複数箇所において背もたれに連結されているため、ヘッドレストを安定がよい状態に保持できる。また、ワイヤーケーブルを左右の複数箇所に配置しているため、例えば、使用者の頭をヘッドレストの右側又は左側に寄せている場合でも、ヘッドレストをこじれがない状態で軽快に回動させることができる。従って、請求項4では、ヘッドレストを安定性よく取り付けできると共に、作動を確実化できる。
【0018】
請求項5のように、ヘッドレストを弾性体によって付勢していると、非リクライニング状態でヘッドレストを安定良く保持できるため、例えば、背もたれを後傾させないニュートラル状態で使用者が身体を直立させて頭をヘッドレストに当てて使用する場合、ヘッドレストの振れを無くして高い使用感を得ることができる。
【0019】
さて、ヘッドレストを背もたれに相対動させる方法としては、ヘッドレストをばね手段によって後傾方向(後退方向)に付勢して、背もたれの後傾動に際して、弾性体の弾性に抗してヘッドレストを背もたれに対して前向き回動させる(前進させる)ということも可能であるが、この場合は、ワイヤーケーブルの引っ張りによってヘッドレストを前向き回動させるため、背もたれが後傾しきったときにヘッドレストが前進しきるように、背もたれの後傾動とヘッドレストの相対的な前向き回動とを正確に合わせておく必要があり、従って、部材の加工や組み立てに高い精度が必要になってコストが嵩むおそれがある。
【0020】
これに対して請求項5のように、ヘッドレストを弾性体によって前向き回動方向に付勢しておくと、ワイヤーケーブルが緩みながらヘッドレストが前向き回動するため、ヘッドレストが背もたれに対して相対的に前向き回動しきった状態でワイヤーが更に緩むことが許容されており、従って、例えば、背もたれがある程度後傾動したらヘッドレストが前無向き回動するように設定しておくと共に、ヘッドレストが弾性体によって前向き回動しきった状態で、ワイヤーとヘッドレストとの間に若干の遊びを設けておくことにより、ケーブルに阻害されることなく背もたれを傾動させることができる。
【0021】
従って、請求項5では、部材の加工精度や組み立て精度を過剰に高くすることなく、背もたれの傾動を阻害しない状態でヘッドレストの動きを確実化することができる。また、ヘッドレストが前向き回動した状態で、ヘッドレストを弾性体に抗して後ろ向きに回動させ得るため、使用者が頭でヘッドレストを押すことにより、頭を寝かせた状態にすることも可能になる。従って、使い勝手を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施形態の外観を示す図で、(A)は前方からの見た斜視図、(B)は側面図、(C)は後ろから見た斜視図である。
【
図2】(A)(B)は一部部材を分離した斜視図、(B)は骨組みを示す斜視図である。
【
図3】(A)は全体の分離斜視図、(B)は座受けシェルを分離した斜視図、(C)は座受けシェルの部分拡大図、(D)はワイヤーケーブルとホルダーとの分離斜視図である。
【
図4】(A)は背シェル体と傾動フレームとの分離斜視図、(B)は傾動フレームの斜視図である。
【
図5】(A)は背部全体の分離斜視図、(B)は背シェル体の分離斜視図である。
【
図7】(A)(B)はヘッドレスト装置の分離斜視図、(C)はナットの保持構造を示す分離斜視図である。
【
図8】(A)はヘッドレスト装置の分離斜視図、(B)はヘッドレストの本体を後ろから見た斜視図、(C)はスライドブロックを保持する角形凹所の拡大斜視図である。
【
図9】ヘッドレスト装置と背シェル体とを前方から見た分離斜視図、(B)はヘッドレスト装置と背シェル体を後ろから見た分離斜視図である。
【
図10】ヘッドレスト装置と背シェル体を後ろから見た分離斜視図である。
【
図11】ヘッドレスト装置と背シェル体を前から見た分離斜視図である。
【
図12】(A)は連動手段と背シェル体との分離斜視図、(B)~(D)は連結部材の斜視図である。
【
図13】
図6のXIII-XIII視方向から見た断面図である。
【
図14】
図7(B)のXIV-XIV視方向から見た断面図である。
【
図15】
図6の XV-XV視方向から見た断面図である。
【
図16】(A)はヘッドレストの平面図、(B)はヘッドレストの底面図、(C)は実施形態の動きを説明するための模式図、(D)は比較例の動きを示す模式図である。
【
図17】作用を示す図で、(A)はワイヤーが緩むメカニズムを示す概略側面図、(B)はワイヤーが緩んだ状態での連結部材の動きを示す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本願では、方向を特定するため前後・左右の文言を使用しているが、これは、椅子に普通に腰掛けた人から見た状態を基準にしている。正面図は着座した人と対向した方向である。
【0024】
(1).椅子の概略
まず、主として
図1~
図5を参照して、椅子の概略を説明する。
図1のとおり、椅子は、主要要素として、脚装置1、座2、背もたれ3を備えており、背もたれ3の上方にヘッドレスト装置4を配置している。また、本実施形態の椅子は、肘掛け5を標準品として装備している。脚装置1は、ガスシリンダより成る脚支柱6と放射方向に延びる枝部とを有しており、各枝部の先端にはキャスタを設けている。脚支柱6の上端には、上向きに開口した略箱状のベース7が固定されている。
【0025】
図3(B)に示すように、ベース7の前端部には、樹脂製やアルミダイキャスト製のフロントブロック8がボルトで固定されており、フロントブロック8には、左右一対のフロントリンク9がフロント軸を介して後傾動可能に取り付けられている。フロントリンク9は、人が着座していないニュートラル状態で、側面視で鉛直線に対して少し後傾している。
【0026】
同じく
図3(B)に明示するように、ベース7の左右両側には、傾動フレーム10の前向きアーム部11が配置されており、前向きアーム部11の先端が中空軸11aによってベース7に後傾動自在に連結されている。また、傾動フレーム10の後部に左右の支柱部12を設けており、支柱部12に背もたれ3と肘掛け5とが取り付けられている。傾動フレーム10を構成する前向きアーム部11の前端部は、既述のとおり左右長手の中空軸を介してベース7に連結されており、従って、背もたれ3は傾動フレーム10の前端部を中心にして後傾動する。そして、中空軸にはばね手段の一例としてのトーションバー(図示せず)が内蔵されており、傾動フレーム10は、トーションバーの弾性に抗して後傾動する。
【0027】
例えば
図4に示すように、傾動フレーム10において、左右の支柱部12には、平面視で後ろに膨らむ(前に凹む)ように緩く湾曲した下ステー13と上ステー14とが一体に繋がっており、左右支柱部12と上下ステー部13,14とによって傾動フレーム10の基部が構成されて、基部の左右両端部に、別体の前向きアーム部11が固定されている。もとより、前向きアーム部11を基部に一体に形成することは可能である。なお、傾動フレーム10の基部と前向きアーム部11とは、それぞれアルミダイキャスト品であるが、樹脂製品も採用可能である。
【0028】
図3(A)に示すように、座2は、樹脂製の座板(座インナーシェル)15にクッション体16を張った構造であり、座板15がその下方に配置された座受けシェル17に固定されている。そして、座受けシェル17の前部下面に左右一対ずつのフロント軸受け部17aを設けて、フロント軸受け部17aにフロントリンク9の上端部をフロントピン18によって連結している一方、座受けシェル17の後部下面に左右一対ずつのリア軸受け部19,20を設けて、リア軸受け部19,20に、傾動フレーム10の前向きアーム部11から突設したリアリンク21の上端をリアピン22で連結している。従って、座2は、背もたれ3が後傾すると一緒に後退及び後傾動する。
【0029】
図3に示すように、左右一対のリア軸受け部19,20のうち内側に位置したリア軸受け部20から補助リンク23を下向きに突設し、左右の補助リンク23に、リクライニング時にヘッドレスト装置4を操作する連動手段としてワイヤーケーブル24の一端を係止している。正確には、ワイヤーケーブル24は、撓み変形自在なチューブ25にワイヤー26を摺動自在に挿通した構造であり、チューブ25の一端に設けた下係止具27をホルダー35によってアーム部11に保持する一方、ワイヤー26の一端に設けた下ボール28を補助リンク23の下端に係止している。
【0030】
従って、補助リンク23の下端には、ボール挿通穴29が左右内向きに開口していると共に、ボール挿通穴29に連通したワイヤー挿通溝30が後ろ向きに開口している。ホルダー35は、ビス31によって傾動フレーム10の前向きアーム部11に固定されている。
【0031】
また、
図3(D)に示すように、ホルダー35は、ワイヤーケーブル24の下係止具27が部分的に嵌まるように正面視でコ字形になっており、前向きアーム部11の内側面に向けて開口させると共に、その内部に形成したリブ32に下係止具27の環状溝33を嵌め込むことにより、下係止具27を傾動フレーム10の前向きアーム部11に対して前後左右に移動不能に保持している。
【0032】
傾動フレーム10が後傾して背もたれ3がリクライニングすると、座受けシェル17及び座2は、傾動フレーム10に対して相対的に後退し、リクライニング時には、ワイヤーケーブル24のワイヤー26が緩む。この点を、
図17(A)を参照して説明する。
【0033】
さて、傾動フレーム10は中空軸11aの軸心を支点にして回動するが、座受けシェル17はリアリンク21に対してリアピン22で連結されているため、リアピン22は中空軸11aの中心を支点にして下向き回動する。また、ホルダー35も前向きアーム部11と一体に下向き回動(下降)する。
【0034】
他方、座受けシェル17の前端部は、ベース7に対して回動可能に連結されたリアリンク9にフロントピン18で連結されているため、フロントリング9は引き作用を受けて下降しつつ後退及び後傾するが、リアピン22が前向きアーム部11の回動支点O1よりも後ろに位置していて、リアピン22から前向きアーム部11の回動軸心までのスパンよりも、リアピン22からフロントリンク9の回動軸心までのスパンが長いため、リアピン22の下降量よりもフロントピン18の下降量が少なくなっており、従って、前向きアーム部11の回動角度よりもフロントリンク9の回動角度が小さくなっている。従って、座受けシェル17(及び座2)の後傾角度は前向きアーム部11の後傾角度よりも小さくなっており、その結果、補助リンク23は、前向きアーム部11に対して相対的に上昇しつつ後退していく。
【0035】
このように、補助リンク23が前向きアーム部11に対して相対的に(姿勢を変化させながら)後退することにより、補助リンク23の下端とホルダー35との間隔は、L1からL2へと縮小変化する。すると、ワイヤー26に(L1-L2)の寸法の緩みが発生する。この緩みを利用して、ヘッドレスト装置4を背もたれ3に対して前向き回動(前向き移動)させている。この点は、詳細を後述する。
【0036】
なお、図示は省略するが、フロントリンク9が取り付いている中空軸11aには、リクライニング時の弾性抵抗を調節するくさび部材(ベース7とフロントブロック8とで囲われた内部に配置されている)が被嵌しており、フロント軸の一端部に設けたハンドル34(
図3(A)(B)参照)の回転操作により、既述したトーションバーに対する所期弾性力を変化させてリクライニングに対する抵抗を調節できる。
【0037】
図5に示すように、背もたれ3は、合成樹脂製の下部シェル体36及び上部シェル体37とから成る背シェル体38を備えており、
図2(A)に示すように、背シェル体38の前面にクッション体39が配置されている。背シェル体38とクッション体39との全体が、袋状の表皮材(図示せず)によって覆われている。各図において表皮材は省略しているため、シェル体38に形成されたリブや穴、凹みなどが図面で現れているが、実際には、これらは表皮材で覆われていて露出はしない。
【0038】
図2に示すように、下部シェル体36の前面にはランバーパッド40が上下スライド自在に配置されている。他方、
図4に明示するように、傾動フレーム10を構成する上ステー14に設けた溝枠部41に、下方に露出した摘み42aを有するスライドレバー42が左右動自在に装着されており、スライドレバー42とランバーパッド40とがばね鋼等の弾性線材43によって連結されている。従って、スライドレバー42を左右動させると、ランバーパッド40が上下動する。
【0039】
なお、本実施形態では背シェル体38を上下のシェル36,37で構成したが、全体を一体の構成とすることもできる。
【0040】
(2).背もたれ
次に、従前の図に加えて
図6以下の部面も参照して背もたれ3及びヘッドレスト装置4を説明する。まず、背もたれ3について説明する。
【0041】
背もたれ3は、既述のように背シェル体38は上下のシェル36,37で構成されているが、例えば
図2に示すように、背シェル体38は、左右幅が下から上に向けて緩く拡大する略台形状の形態を成している。
図5(B)から理解できるように、上部シェル体37の下部37aが下部シェル体36の上部36aに後ろから重なっている。従って、下部シェル体36には後ろ段部36bが形成されて、上部シェル体37には前段部37bが形成されている。
【0042】
そして、上部シェル体38の下端に複数の位置決め突起44aを設けている一方、下部シェル体36の後ろ段部36bには、位置決め突起44aが嵌入する位置決め穴44bを形成している。上背シェル37と下部シェル体36とは、重なり合っている部分が左右複数本のビスで固定されている。ビスは後ろから挿通されており、下部シェル体36の前面に配置したナット45にねじ込まれている。
【0043】
例えば
図5に明示されているように、下部シェル体36の下部は手前に張り出しており、例えば
図4に示すように、左右の張り出し部の前端に、下方に開口した蟻溝状の雌形レール部46を形成している一方、傾動フレーム10における支柱部12の後面に、雌形レール部46が上から嵌合する蟻ホゾ状の雄形レール部47を一体に形成しており、雌形レール部46に雄形レール部47を上から嵌合させている。下部シェル体36は、傾動フレーム10の上ステー14に複数本のボルトで締結されている。
【0044】
図4(A)に示すように、支柱部12は上向きに開口した中空構造になっており、その内部に有底筒状の受け部材(図示せず)が嵌め込まれており、受け部材に後ろ向き開口するように形成したタップ穴に前向きボルトを後ろからねじ込むことにより、受け部材を支柱部12に固定している。また、肘掛け5は、受け部材に嵌入するボス部を有する本体と、本体の上面に装着したパッドとを有しており、本体は、上から挿通したボルトによって受け部材に固定されている。
【0045】
傾動フレーム10における上ステー14の上面には、既述の溝枠部41や位置決めリブ48が突設されている一方、下部シェル体36の下面には、溝枠部41や位置決めリブ48に被嵌する長溝49が形成されている。従って、下部シェル体36は、傾動フレーム10に強固に固定されている。
【0046】
(3).ランバーサポート装置・ワイヤーケーブル通線構造
図4(A)から理解できるように、長溝49の上底部には、スライドレバー42に上向き突設した連結部42bがスライド自在に嵌入する長穴50を空けており、連結部42aに弾性線材43の一端が係止されている(
図4(B)では、弾性線材43は連結部42aから分離した状態に表示している。)。
【0047】
例えば
図6に示すように、下部シェル体36の下端部には、最下段に位置した左右長手の底板51とその上方に位置した棚状板52とが形成されており、スライドレバー42の連結部42aは、底板51と棚状板52とで囲われた下部横長空間53に露出している。そして、下部シェル体36の左右中間部に、左右のセンターリブ54で挟まれたセンターガイド溝55が形成されており、センターガイド溝55に、後ろ向き開口コ字形のセンターガイド56が装着されており、弾性線材43はセンターガイド56の内部に配置されている。
【0048】
そして、
図2(B)に示すように、ランバーパッド40の後面に、後ろ向き開口コ字形で上下長手のガイドレール部58を形成して、このガイドレール部58を、
図6に明示するセンターガイド溝55に上下スライド自在に嵌め入れて、ガイドレール部58の上端に弾性線材43の上端を係止している。従って、スライドレバー42を左右動させると、弾性線材43の押し引き作用によってランバーパッド40が上下動する。
【0049】
下部シェル体36には、弾性線材43のスライドをガイドする湾曲したガイド樋59が、棚状板52に食い込んだ状態で形成されている。また、
図2(B)に示すように、ランバーパッド40の左右両端にサイドガイド片60が突設されている一方、
図6に明示するように、下部シェル体36には、サイドガイド片60が前向き移動不能で上下動自在に嵌まるサイドガイド61を形成している。
【0050】
背シェル体38を構成する下部シェル体36に、横長リブの一環として底板51と棚状板52とが形成されているが、上下のシェル体36,37には、同じく横長リブの一環として左右長手の第1リブ62が多段に形成されている。また、センターリブ54は縦長リブの一環を成しているが、縦長リブの一環として、上下長手の多数の第2リブ63が形成されている。これら縦横の多数のリブにより、背シェル体38は頑丈な構造になっている。
【0051】
また、
図6に示すように、上下シェル体36,37の左右両端寄りの2か所の部位に、第1リブ62及び第2リブ63に前向きの切り欠き64を形成することにより、ワイヤーケーブル24を配置するワイヤー通路を形成している。従って、ワイヤーケーブル24は、クッション体39から逃げた状態で配置されており、着座した人の荷重がワイヤーケーブル24に作用することはない。ワイヤー通路は、ランパーパッド40と緩衝しないように、下部シェル体36の下部ではランパーパッド40の外側に形成されている。
【0052】
また、
図6に示すように、ワイヤーケーブル24が通る通路のうち背シェル体38のおおよそ上下中間部に、ワイヤーケーブル24が前向き移動することを阻止するフック64aを形成している。ワイヤーケーブル24を押し込むと、フック64aがいったん弾性変形してから戻り変形することにより、フック64aでワイヤーケーブル24が抱持される。
【0053】
図6に示すように、上端に位置した第1リブ62に、ワイヤーケーブル24の他端に設けた上係止具67を上下動不能に装着する保持溝68が形成されている。すなわち、上係止具67の環状溝33が保持溝68の内周縁に嵌合することにより、上係止具57は上下動不能に保持されている。
【0054】
図6に示すように、下部シェル体36における底板51の左右中間部に、ワイヤーケーブル24を下部横長空間53に引き込む下部切り欠き65が形成されている。棚状板52の左右両端部の側方には、棚状板52の上下の空間に連通したサイド通路66が形成されている。なお、下部切り欠き65は左右方向に離れた複数箇所に形成することも可能である。
【0055】
図4(B)に示すように、傾動フレーム10の下ステー13は断面逆L形になっており、その下面にセンターカバー69及びサイドカバー70を配置することにより、下ステー13に前向きに開口した横長凹部が形成されており、横長凹部にワイヤーケーブル24を部分的に這わせている。そして、ワイヤーケーブル24は、横長凹部から上に引き出して背シェル体38の内部に引き込んでいる。なお、センターカバー69はビス71によって下ステー13に固定され、サイドカバー70は、下ステー13に係止すると共にセンターカバー69で押さえ保持されている。
【0056】
(4).ヘッドレスト装置の基本構造・首振り機構
既述のとおり、背もたれ3は左右幅が上に向けて小さくなるように略台形の形態を成しているが、例えば
図1に示すように、ヘッドレスト装置4は、背もたれ3の左右幅を小さくしつつ延長したような形態を成している。従って、デザイン的に背もたれ3と高い一体性を有している。
【0057】
そして、
図5に示すように、ヘッドレスト装置4は、上部シェル体37に前後回動可能に連結された本体72と、本体72の前面に上下動自在に配置された可動プレート73と、可動プレート73の前面に張られたクッション体74と、本体72を後ろから覆う裏カバー75とを備えている。クッション体74は図示しない表皮材で覆われている。上部シェル体37の上面には天キャップ76が重ね配置されている。裏カバー75は、係合爪を利用したスナップ係合によって本体72に取り付けている。
【0058】
請求項との関係では、本体72と可動プレート73とクッション体39と裏カバー45とが可動体としてのヘッドレストを構成しており、他の部材を含めてヘッドレスト装置4が構成されている。
【0059】
また、可動プレート73とクッション体74とにより、使用者の頭を支える可動式のヘッドサポート体が構成されているが、昇降式でない場合は、ヘッドサポート体としてのクッション体74を本体72の前面に配置した構成にしてもよい。この場合は可動プレート73を省略することも可能である。また、体圧支持体として、クッション体74以外で構成する態様を有り得る。例えば、フレーム状等の支持体に体圧支持体としてメッシュ材を張った構造も採用できる。従って、可動プレート72は支持体の一例であり、クッション体74は体圧支持体の一例である。つまり、ヘッドサポート体は、支持体と体圧支持体から構成される場合と、体圧支持体だけで構成される場合もあり得る。
【0060】
図9に示すように、上部シェル体37の上面には位置決め突起78を設けている一方、天キャップ76には位置決め突起78に嵌合する下向き開口の長溝79が形成されており、
図10に示すように、天キャップ76は複数本のビス80が上部シェル体37に固定されている。背もたれ3は平面視で前向きに凹む(後ろ向きに膨れる)ように緩く湾曲しているが、ヘッドレスト装置4も、背もたれ3と同様に、平面視で前向きに凹むように緩く湾曲している。
【0061】
次に、ヘッドレスト装置4の前後傾動機構(首振り機構)を説明する。例えば
図11,12に示すように、本体72は、左右両端寄りの2か所の部位が、上下の連結部材81,82により、前後回動し得るように上部シェル体37に取り付けられている。
【0062】
すなわち、まず、
図11,15に示すように、上連結部材81の略上半部は上下長手の板状部81aになって、略下半部は、側面視で前向きに凹んだ円弧ボス部81bになっており、板状部81aは、本体72に形成された下向き開口の凹所83に下方から入り込んで、上下2本のビス84(
図15参照)によって本体72に固定されている。
【0063】
他方、
図12や
図15に示すように、下連結部材82は、上連結部材81の円弧ボス部81bが横から嵌まる円弧溝85を有するホルダー部82aと、ホルダー部82aから下向き突出した板状部82bとを有している。板状部82bは、上部シェル体37に形成された凹所86に嵌め込まれて、ビス87によって上部シェル体37に固定されている。
図12,15に示すように、上連結部材81の円弧部81bと下連結部材82のホルダー部82aとの間には、摩擦係数が小さい樹脂で作られたブッシュ88が介在している。
【0064】
本実施形態では、上連結部材81が下連結部材82に対して上下スライドすることにより、本体72が背もたれ3に対して上昇しつつ前傾動する。下連結部材82における円弧溝85の曲率半径の中心85aは本体72(ヘッドレスト4)の回動中心(回動軸心、回動支点)になるが、
図15及び
図17(B)に示すように、回動中心85aは、連結部材81,82の箇所では本体72の下端部の前端の近傍に位置している一方、本体72が湾曲していることから、
図16に示すように、本体72(或いはヘッドレスト装置4)の中間部では、回動中心85aは本体72の下端部の前端よりも大きく手前にはみ出している(使用者の首(頚椎)のあたりに位置している。)。
【0065】
また、例えば
図13のとおり、本実施形態では、クッション体74は、側面視(及び平面視)で前向きに膨れているため、使用者の頭はクッション体74のうち側面視で最も前に位置した頂点部かその近傍の高さ位置に当たる。従って、本実施形態では、クッション体74のうち左右中間部でかつ前向きに突出した頂点部が、使用者の頭との当接点であるヘッドポイントになる。そして、
図15のとおり、ヘッドレスト4の回動中心85aはクッション体74よりも下方に位置しているため、必然的に、回動中心85aはヘッドポイント125よりも下方に位置している。
【0066】
図12(C)に明示するように、上連結部材81には、ワイヤーケーブル24の上ボール89が上から嵌まり込むボール保持穴90と、ワイヤー26の上端部が通るワイヤー挿通溝91とが、互いに連通した状態に形成されている。
図6を参照して説明したように、ワイヤーケーブル24の上係止具67は上部シェル体37のホルダー溝68に嵌合しているため、ワイヤー26の引っ張りにより、ヘッドレスト装置4は後ろ向きに回動しきった状態に保持され、ワイヤー26が緩むと、ヘッドレスト装置4を前向き回動させることができる。
【0067】
(5).ヘッドレスト装置の付勢構造
図11~
図13に示すように、天キャップ76の左右中間部に逃がし穴92を形成し、逃がし穴92に上から嵌め入れた固定ガイド体93を、ビス94によって上部シェル体37の位置決め突起78に固定している。
図12(A)に明示するように、固定ガイド体93は左右側板93aを有しており、左右側板93aの内面に円弧状ガイド溝95を形成している。円弧他状ガイド溝95の曲率半径の中心は、下連結部材81に形成した円弧溝85の曲率半径の中心85aと一致している。
【0068】
固定ガイド体93の内部には、左右側板96aを有する可動ガイド体96が配置されており、左右側板96aに、固定ガイド体93の円弧状ガイド溝95にスライド自在に嵌まり合うガイド軸97を横向き突設している。また、
図13に示すように、可動ガイド体96の上端はビス98によって本体72に固定されている。ビス98は可動ガイド体96に後ろから挿通されており、本体72に前面に配置したナット99にねじ込まれている。
【0069】
図13に示すように、可動ガイド体96はばね(圧縮コイルばね)100によって上向きに付勢されている。上部シェル体37の上面には、ばね100が嵌まるばね受け凹所101(
図12(A)も参照)が形成されている。また、可動ガイド体96の下面には、ばね100の上端を横ずれしないように保持する受け皿102が重なっており、受け皿102の左右両端にも、固定ガイド体93の円弧状ガイド溝95にスライド自在に嵌まる丸棒状のガイド軸103を形成している。
【0070】
可動ガイド体96のガイド軸97と受け皿102のガイド軸103とは棒状になっているため、可動ガイド体96と受け皿102とは、ガイド軸96,103の軸心回りに回動するように姿勢変更しつつ、固定ガイド体93の円弧状ガイド溝95にガイドされて上下動することができる。従って、本体72が上下連結部材81,82にガイドされて前後回動することが許容されている。
【0071】
本実施形態では、非リクライニング状態では、上連結部材81がワイヤー26で下向きに引っ張られていることにより、ヘッドレスト装置4は、ばね100に抗して後ろ向きに回動した状態に保持される。そして、既に説明したように、リクライニング状態では、座受けシェル17が傾動フレーム10に対して相対的に後退することにより、ワイヤー26が緩んで、ヘッドレスト装置4はばね100によって前向き回動する。
【0072】
つまり、
図17(B)に示すように、ワイヤー24のワイヤー26が下部において(L1-L2)だけ緩むため、ヘッドレスト4の本体72は、ばね100に押され(L1-L2)だけ上向きに移動するが、下連結部材82の円弧溝85は側面視で前向きに凹んでいるため、本体72を備えた可動式ヘッドレストは、背もたれ3に対して相対的に前向き回動(前向き移動)するのである。
【0073】
実施形態では、背もたれ3が後傾動しきるよりも少し前にヘッドレスト装置4が前傾動しきるように設定している。換言すると、背もたれ3の後傾終期にワイヤー26が緩みきるように設定している。従って、背もたれ3の後傾動がワイヤー26によって阻害されることはない。
【0074】
(6).可動プレートの昇降機構
次に、可動プレート73の昇降機構を説明する。例えば
図7や
図8(A)に示すように、可動プレート73の左右両端寄り部位の概ね上下中間高さ位置に、側面視横向きT形のスライドブロック106が後ろから重なっている。スライドブロック106の前端部は、可動プレート73の後面に形成した角形凹所107に嵌合している一方、スライドブロック106の後端部は本体72に形成された上下長手のサイドガイド溝108に挿通しており、スライドブロック106の後面に、
図8(B)に示す蓋部材109をビス110で固定している。
【0075】
可動プレート73のうち角形凹所107の手前側には、T形ナット111が回動不能に嵌まるナット保持部112を突設しており、ビス110をT形ナット111にねじ込むことにより、蓋部材109とスライドブロック106とを可動プレート73に共締めしている。
図8(C)に明示するように、角形凹所107の左右側縁には、スライドブロック106の姿勢保持向上のため左右の振れ止め突起113を設けている。
【0076】
図7,8に示すように、可動プレート73に左右中間部でかつ略上下中間部に、前後長手のロッド114が配置されている。ロッド114は、左右に張り出したフランジを有するダンパケース116に回転自在に装着されており、ダンパケース116のフランジは、上下長手のフランジ板115に固定されている。一方、可動プレート73の後面には、ダンパケース116とフランジ板115とが嵌合する凹所117を形成しており、フランジ板115が、
図7(A)や
図13に示す上下のビス118で可動プレート73に固定されている。可動プレート73において、凹所117の箇所は前向きに突出したランド部117aになっている。
【0077】
ロッド114の後端部は、本体72に形成された縦長のセンター長穴119に挿通しており、ピニオン(ギア)120がビス122によってロッド114に固定されている。そして、ピニオン120を、センター長穴119に設けたラック121に噛合させている。ロッド114は、ダンパケース116に内蔵したワンウエイクラッチ機構により、可動プレート73の下降動に対しては抵抗を発揮し、可動プレート73の上昇に対しては抵抗が発生しないように設定されている。すなわち、可動プレート73には、ワンウエイタイプのロータリダンパにより、下降動に対してだけ抵抗が付与されている。正確には、ロッド114とダンパケース116とにより、ロータリダンパが構成されている。
【0078】
なお、ロータリダンパを使用せずに、ピニオン120をラック121に対してある程度の強さで押圧することにより、可動プレート73の上下動に対して抵抗を付与することも可能であり、これもダンパ手段の一例である。
図8(B)に示すように、センター長穴119には、ピニオン120の後ろ向き離脱を阻止するストッパー板119aを設けている。
【0079】
実施形態では、ダンパ手段としてピニオン120とワンウエイ方式ロータリダンパを使用したが、他のダンパ手段として、ゴムローラのような弾性ローラも使用できる。また、ダンパ手段は、左右のスライド部に設けてもよい。実施形態のヘッドレストは任意の高さに調節できるが、爪と凹部との噛み合わせなどを利用して段階的に高さ調節することも可能である。但し、実施形態のようにダンパ機能付きで任意の高さに調節できる構造を採用すると、使用者の好みにフッィトさせることができると共に、クリック感を無くして高級感を醸し出せる。
【0080】
(7).ヘッドレストの動きの補足
図16(A)(B)に明示するように、ヘッドレスト装置4の本体72は平面視で前向きに凹んだ状態に湾曲しているため、本体72が背もたれ3に対して前向き回動することを許容するには、本体72の左右両端が背もたれ3の上端につかえない状態で回動させねばならない。
【0081】
この場合、
図16(D)に示すように、本体72の回動軸心123が本体72の後端にあってかつ固定式であると、非リクライニング状態で背もたれ3と本体72との間に隙間を空けておいて、背もたれ3の後端から突設した軸受け部材124に本体72を連結せねばならないが、この場合は、本体72が点線で示すように背もたれ3に対して前向き回動すると、ヘッドレスト装置4の装置の前面が使用者の頭に当たるヘッドポイント125は、下方に大きく移動する。
【0082】
このため、リクライニングに際して、ヘッドレスト装置4のクッション体74が使用者の頭を下方に滑り移動する現象(頭ずれ)が発生し、使用者に不快感や違和感を与えるおそれがある。リクライニング状態から戻るときも同様であり、クッション体74が使用者の頭を上方に滑り移動する現象が発生するおそれがある。また、背もたれ3と本体72との間に大きな空間が空いているため、空間を塞ぐ蛇腹状等のカバーが必要になって、コストが嵩むおそれもある。
【0083】
これに対して本願実施形態では、まず、回動軸心123が上下動するため、非リクライニング状態で本体72の下端を背もたれ3の上面に当接又は近接させつつ、本体72の前向き回動を許容できる。従って、空間を塞ぐ蛇腹状等の大きなカバーが不要であり、それだけ構造を簡単化できる(本体72が前向き回動すると、本体71と背もたれ3との間に隙間は空くが、この隙間は、裏カバー75の下向き延長部で塞ぐことができる。)。
【0084】
更に、本体72の回動中心85aは、
図16(A)(B)のとおり、本体72の下端部のうち左右中間部の前端よりも手前に大きくはみ出しているため、本体72が背もたれ3に対して相対的に上昇しながら前向きに回動しても、背もたれ3とヘッドポイントとの距離は殆ど変化しない(
図15参照)。従って、ヘッドポイント125が背もたれ3に対して大きく上下移動することによる頭ズレの現象も防止できる。この点、本実施形態の大きな利点の一つである。
【0085】
また、本実施形態では、本体72(或いはヘッドレスト装置4)を平面視で湾曲させつつ、左右両側部に連結部材81,82を配置しているが、このように構成すると、連結部材81,82は、本体72の左右中間部を基準にして、できるだけ前に配置しつつヘッドレスト4の内部に格納できるため、ヘッドレスト装置4の本体部をできるだけ薄くしつつ、回動中心85aを使用者の首(頚椎)のあたりに位置させて、使用者に快適な使用感を与えることができる。すなわち、ヘッドレストの動きを、リクライニング時に使用者が首を起こそうとする自然な動きに近づけることが可能となり、例えば、リクライニング時に視線を机上のモニターに向けた姿勢を的確にサポートすることができる。
【0086】
図16(C)では、ヘッドレスト装置4の回動支点123を本体72の下端部の前端に配置した状態を示しており、この図から、回動支点123をできるだけ前に位置させると、使用者の頭との当接点であるヘッドポイント125の上下動を抑制できることを理解できる。そして、本実施形態は、
図16(C)の回動支点123が円弧溝85に沿って上下動しながら前後動するもので、ヘッドレスト4は側面視姿勢を変えながら上下動する。これにより、頭ずれ現象を防止しつつヘッドレストを背もたれ3に対して相対的に前向き移動させることができる。
【0087】
(8).むすび
本実施形態は以上説明したとおりであるが、既に述べたように、ワイヤーケーブル24は背もたれ3の内部に隠れているため、美観の悪化や物等の引っ掛かりの問題を解消できる。また、ワイヤーケーブル24の上係止具67を背シェル体38(上部シェル体37)の第1リブ62に係止すると、補強用の第1リブ62を利用して上係止具67を係止できるため、構造を簡素化できる利点がある。
【0088】
また、ヘッドレストを左右2か所において背もたれ3に連結すること、及び、左右2本のワイヤーケーブル24によってヘッドレスト装置4の動きを制御することの利点は既に述べたが、2本のワイヤーケーブル24を使用するにおいて、背シェル体38の底板51に形成した1つの下部切り欠き65からワイヤーケーブル24を背もたれ3に引き込むと、それだけ構造を簡素化できる。また、2本のワイヤーケーブル24はクロスした状態で下部横長空間53に引き込むと、ワイヤーケーブル24が急激に曲がることを防止できるため、ワイヤー26のスライドをスムース化できる利点がある。
【0089】
ワイヤーケーブル24の緩みによってヘッドレストを前向き回動させることの利点も既に述べたが、この場合、座受けシェル17の前後動を利用してワイヤー26の引き及び戻しを行うと、ワイヤー26の前部は略水平姿勢のままでスライドするため、動きを確実化できて好適である。また、ワイヤーケーブル24の一部を傾動フレーム10の下ステー13で隠すことができるため、ワイヤーケーブル24の露出を極力少なくできる利点がある。
【0090】
実施形態のように天キャップ76を設けると、ヘッドレストと背もたれ3とを一体化したような外観を呈しつつ、ヘッドレストと背もたれ3との間に隙間が空くことを防止して美観を向上できと共に、指挟みも防止できる利点がある。
【0091】
本願発明は、他にも様々に具体化できる。例えば、実施形態のように傾動フレーム10が支柱部12を備えている場合、ワイヤーケーブル24を支柱部12に通してから背もたれ3の内部に引き込むことも可能である。また、本願発明は、背もたれ3が前後に開口した背フレームにメッシュ材を張った構造になっている椅子にも適用できる。この場合は、ワイヤーケーブル24を背フレームの内部に挿通したらよい。座についても、上下に開校したフレームにメッシュ材を張った構造であってもよい。また、実施形態では,背もたれ3がばね手段に抗して後傾動するタイプのリクライニング椅子に適用したが、例えば車両用椅子のように、ロッキングばねを備えずに側面視姿勢を段階的又は無段階的に調節できるタイプのリクライニング椅子にも適用できる。
【0092】
更に、ヘッドレストはその下端が背もたれの上面に密着している必要はないのであり、ヘッドレストと背もたれとの間に空間が空いていてもよい。ヘッドレスト装置の動きを座の動きに連動させる場合、ワイヤーの一端(下端)を座板に連結又は係止してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本願発明は、ヘッドレスト付きリクライニング椅子に具体化できる。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0094】
2 座
3 背もたれ
4 ヘッドレスト装置
7 ベース
8 フロントリンク
10 傾動フレーム
11 傾動フレームの前向きアーム
12 支柱部
13 下ステー
14 上ステー
17 座受けシェル
21 リアリンク
23 補助リンク
24 連動手段を構成するワイヤーケーブル
25 チューブ
26 ワイヤー
27,67 係止具
28,89 ボール
35 係止具を保持するホルダー
36 下部シェル体
37 上部シェル体
38 背シェル体
51 横長リブでもある底板
62 横長リブでもある第1リブ
63 縦長リブである第2リブ
65 切り欠き
72 ヘッドレストの本体
73 ヘッドレストの可動プレート
74 ヘッドレストのクッション体
75 ヘッドレストの裏カバー
81,82 連結部材
81a 円弧部
85 円弧溝
85a ヘッドレスト装置の回動中心
95 円弧状ガイド溝
97,102 ガイド軸
100 ばね
106 スライドブロック
109 サイドガイド溝
114 ロッド
119 センター長穴
120 ピニオン
121 ラック
125 使用者の頭との当接点であるヘッドポイント