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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-06
(45)【発行日】2024-03-14
(54)【発明の名称】味の検出方法及び検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/64 20060101AFI20240307BHJP
   G01N 21/27 20060101ALI20240307BHJP
   G01N 21/78 20060101ALI20240307BHJP
   G01N 33/02 20060101ALI20240307BHJP
【FI】
G01N21/64 F
G01N21/27 Z
G01N21/78 C
G01N33/02
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019234445
(22)【出願日】2019-12-25
(65)【公開番号】P2021103124
(43)【公開日】2021-07-15
【審査請求日】2022-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(72)【発明者】
【氏名】林 宣之
(72)【発明者】
【氏名】氏原 ともみ
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-033347(JP,A)
【文献】特開2017-133978(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0084769(US,A1)
【文献】鈴木 由佳 ほか,清酒の苦味度の予測について~ANS法による清酒中の疎水度と苦みの相関~,日本醸造協会誌,2012年12月,巻/号 107巻12号,923-930
【文献】林宣之,食品の味評価へ向けた水中における分子認識化学の挑戦,食品研究部門研究ニュース,2017年03月,第36号,p. 2-p. 5
【文献】HAYASHI, Nobuyuki et al.,Recognition of caffeine by a water-soluble acyclic phane compound,Tetrahedron,2014年01月28日,Volume 70, Issue 4,845-851,http://dx.doi.org/10.1016/j.tet.2013.12.035
【文献】KOSTERELI, Ziya et al.,Array-based sensing of purine derivatives with fluorescence dyes,Organic & Biomolecular Chemistry,2015年07月30日,vol. 13,p. 9231-p. 9235
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 ー G01N 21/958
G01N 33/02 ー G01N 33/14
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
味物質を含む試料と、味物質検出剤とを混合し、測定試料を得て、
前記測定試料に対し、前記味物質検出剤と味物質との共存に起因して変化する光の光強度を測定し、味物質の量と味の強度との関係を示す情報に基づき、その測定値と前記測定試料の味の強度とを関連付けることを含む、味の検出方法であって、
前記味物質検出剤が、下記一般式(1-1)で表される化合物若しくは下記一般式(1-2)で表される化合物又はそれらのイオン若しくは塩を含有する、味の検出方法。
【化3】
【化4】
[式(1-1)及び式(1-2)中、
及びX は、それぞれ独立して、単結合、又は炭素原子数1~6の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレン基を表し、該アルキレン基中の1個又は非隣接の2個以上の-CH -はそれぞれ独立して-O-、-CO-、-COO-、-OCO-、-CONH-、又は-NHCO-によって置換されていてもよい。
及びR は、それぞれ独立して、スルホ基、カルボキシ基、リン酸基、-N(R (ここで、前記R は、水素原子又は炭素原子数1~4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を表す。複数存在するこれらR は、同じ基の中で、互いに同一でも異なっていてもよい。)、-B (R 、-B (OR 、-B (ここで、前記R は炭素原子数1~4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、Zはハロゲン原子を表す。複数存在するこれらR 及びZは、同じ基の中で、互いに同一でも異なっていてもよい。)、又はオニウム基を表す。
は、炭素数1~4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、ハロゲン原子又は水酸基を表す。
n1はR の数を表し、1~7のいずれかの整数であり、n1が2以上のとき、2個以上のR 同士は互いに同一でも異なっていてもよい。
n2はR の数を表し、1~7のいずれかの整数であり、n2が2以上のとき、2個以上のR 同士は互いに同一でも異なっていてもよい。
n3はR の数を表し、0~4のいずれかの整数であり、n3が2以上のとき、2個以上のR 同士は互いに同一でも異なっていてもよい。]
【請求項2】
前記味物質と、前記味物質検出剤とが、複合体を形成する、請求項1に記載の味の検出方法。
【請求項3】
前記味が、渋味、苦味、及びうま味からなる群から選ばれるいずれか一種以上である、請求項1又は2に記載の味の検出方法。
【請求項4】
前記味が渋味であり、渋味を呈する前記味物質がポリフェノールである、
前記味が苦味であり、苦味を呈する前記味物質がキサンチン類、ポリフェノール、又はアミノ酸である、或いは、
前記味がうま味であり、うま味を呈する前記味物質がヌクレオチド又はアミノ酸である、請求項1~3のいずれか一項に記載の味の検出方法。
【請求項5】
前記光が、味物質検出剤に由来する蛍光である、請求項1~4のいずれか一項に記載の味の検出方法。
【請求項6】
前記測定試料が液体である、請求項1~5のいずれか一項に記載の味の検出方法。
【請求項7】
前記味物質検出剤の検出対象である味物質が、ポリフェノール、アミノ酸、ヌクレオチド、及びキサンチン類からなる群から選ばれるいずれか一種以上である、請求項1~6のいずれか一項に記載の味の検出方法
【請求項8】
前記味物質検出剤と、前記味物質と、味物質検出剤複合体を形成する、請求項1~7のいずれか一項に記載の味の検出方法
【請求項9】
請求項1~のいずれか一項に記載の味の検出方法に用いられ、
前記測定試料に対して光を検出する光検出器を備える検出部と、
前記検出部により得られた検出結果を味と関連付ける算出部と、を備える、検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、味の検出方法及び検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
味は食品の性質を特徴づける最も重要な要素のひとつであり、美味しさと密接に関係している。したがって食品産業では、マーケティング戦略の分析と立案、新商品の開発、品質管理、消費者へのアピール等のために、食品の味評価が行われており、近年は食品市場の急速なグローバル化によって、その重要性が益々大きくなっている。
食品の味評価は、一般的にはヒトの官能によって行われる。官能評価は伝統的で優れた味評価方法であるが、味の質や強度の違いを再現性よく識別するには、評価者は十分な訓練を受ける必要があり、その育成と維持は容易ではない。また、官能評価の際の疲労を考慮すると、同時に実施できる試験数も限られたものになる。さらに、官能評価の実施時期が隔たった試験結果の比較も困難である。これらの点は、最近のようにビッグデータが要求される場合には満足できる方法とは言い難い。
【0003】
その解決策の一つとしてセンサ技術が注目を集めている。この20年間に、食品の味評価を目的とするセンサの開発研究は急速に増加してきた。検出原理に基づくと、これらは以下の方法に分類される。
(1)電気化学的方法:最もよく利用される方法で、potentiometry(電位)、amperometry(電流)又はcyclic voltammetry(酸化還元電位)の変化を観測する。作用電極には、脂質膜(例えば、特許文献1~2参照)、イオン選択性電極、貴金属等が利用され、参照電極との出力差を評価する。Taste sensor(味センサ)に分類される一例を除き、Electronic tongue(電気の舌)に分類される。
(2)インピーダンス法:電気化学的方法の一種であるが、参照電極を必要としないことが他の方法と異なっている。薄膜を貼った作用電極を用いる。Electronic tongue (電気の舌)に分類される。
【0004】
現在、上記のセンサ装置として2種の製品が市販されており、そのシステムはどちらもpotentiometryを利用した電気化学的方法を採用している。このうち、味センサ(taste sensor)と見なされているものは1種類のみである。
味センサとは味に応答するセンサと定義づけられる。味センサは、基本五味(甘味、塩味、酸味、苦味、うま味)と渋味の各々に対して応答を得ることを目的とした装置である。より上位の概念であるelectronic tongueでは、味と直接は関係の無い応答を示すセンサ群のデータを数的処理によって味と関連付けるものも含んでいるが、味センサは、その他のelectronic tongueよりも、高度な技術と位置付けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平3-54446号公報
【文献】国際公開第96/30753号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、市販の味センサには、例えば、以下に挙げる問題がある。
・検出原理が電気化学的なものであり、水中で電荷を持たない(イオンにならない)味物質は検知不可能である。
・センサプローブは、その劣化により再現性が低下する。
・センサプローブは消耗品であり、維持管理費が高価になる。
・センサプローブによる測定は、長時間を要する(例えば、8試料で約6.5時間を要する)
【0007】
本発明は、上記のような問題点を解消するためになされたものであり、従来の電気化学的手法とは異なる、新たな手法によって味の評価を可能とする、味の検出方法、検出剤、複合体及び検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討した結果、光学的に味を検出することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の態様を有する。
【0009】
<1>味物質を含む試料と、味物質検出剤とを混合し、測定試料を得て、
前記測定試料に対し、前記味物質検出剤と味物質との共存に起因して変化する光を検出し、その検出と前記測定試料の味とを関連付けることを含む、味の検出方法。
<2>味物質を含む試料と、味物質検出剤とを混合し、測定試料を得て、
前記測定試料に対し、前記味物質検出剤と味物質との共存に起因して変化する光の光強度を測定し、その測定値と味の強度とを関連付けることを含む、前記<1>に記載の味の検出方法。
<3>前記味物質と、前記味物質検出剤とが、複合体を形成する、前記<1>又は<2>に記載の味の検出方法。
<4>前記味が、渋味、苦味、及びうま味からなる群から選ばれるいずれか一種以上である、前記<1>~<3>のいずれか一つに記載の味の検出方法。
<5>前記味が渋味であり、渋味を呈する前記味物質がポリフェノールである、
前記味が苦味であり、苦味を呈する前記味物質がキサンチン類、ポリフェノール、又はアミノ酸である、或いは、
前記味がうま味であり、うま味を呈する前記味物質がヌクレオチド又はアミノ酸である、前記<1>~<4>のいずれか一つに記載の味の検出方法。
<6>前記検出する光が、味物質検出剤に由来する蛍光である、前記<1>~<5>のいずれか一つに記載の味の検出方法。
<7>前記測定試料が液体である、前記<1>~<6>のいずれか一つに記載の味の検出方法。
<8>前記味物質が電荷を持たない、前記<1>~<7>のいずれか一つに記載の味の検出方法。
<9>下記一般式(1)で表される化合物又はそのイオン若しくは塩を含有する味物質検出剤。
【化1】
[式(1)中、
及びXは、それぞれ独立して、単結合、又は炭素原子数1~6の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレン基を表し、該アルキレン基中の1個又は非隣接の2個以上の-CH-はそれぞれ独立して-O-、-CO-、-COO-、-OCO-、-CONH-、又は-NHCO-によって置換されていてもよい。
及びRは、それぞれ独立して、スルホ基、カルボキシ基、リン酸基、-N(R(ここで、前記Rは、水素原子又は炭素原子数1~4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を表す。複数存在するこれらRは、同じ基の中で、互いに同一でも異なっていてもよい。)、-B(R、-B(OR、-B(ここで、前記Rは炭素原子数1~4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、Zはハロゲン原子を表す。複数存在するこれらR及びZは、同じ基の中で、互いに同一でも異なっていてもよい。)、又はオニウム基を表す。
は、炭素数1~4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、ハロゲン原子又は水酸基を表す。
n1はRの数を表し、0~7のいずれかの整数であり、n1が2以上のとき、2個以上のR同士は互いに同一でも異なっていてもよい。
n2はRの数を表し、0~7のいずれかの整数であり、n2が2以上のとき、2個以上のR同士は互いに同一でも異なっていてもよい。
n3はRの数を表し、0~4のいずれかの整数であり、n3が2以上のとき、2個以上のR同士は互いに同一でも異なっていてもよい。]
<10>前記味物質検出剤の検出対象である味物質が、ポリフェノール、アミノ酸、ヌクレオチド、及びキサンチン類からなる群から選ばれるいずれか一種以上である、前記<9>に記載の味物質検出剤。
<11>前記<9>に記載の味物質検出剤と、味物質と、の複合体である、味物質検出剤複合体。
<12>前記味物質検出剤が、前記<9>又は<10>に記載の味物質検出剤である、前記<1>~<8>のいずれか一つに記載の味の検出方法。
<13>前記<1>~<8>のいずれか一つに記載の味の検出方法に用いられ、
前記測定試料に対して光を検出する光検出器を備える検出部と、
前記検出部により得られた検出結果を味と関連付ける算出部と、を備える、検出装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、光学的に味を検出可能な、味の検出方法、味物質検出剤、味物質検出剤複合体及び検出装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態の味の検出方法における、味物質と味物質検出剤との相互作用による、蛍光発光スペクトルの変化の様子の一例を説明する図である。
図2】実施形態の味の検出方法における、味物質と味物質検出剤との相互作用による、蛍光発光スペクトルの変化の様子の一例を説明する図である。
図3】実施形態の味の検出方法における、味物質と味物質検出剤との相互作用による、蛍光発光スペクトルの変化の様子の一例を説明する図である。
図4】実施形態の検出装置の構成の一例を示す模式図である。
図5】実施形態の検出装置の構成の一例を示す模式図である。
図6】実施形態の検出装置の構成の一例を示す模式図である。
図7】(a)測定試料に対する味の測定結果を示す図である。(b)~(e)測定試料に対する味の測定結果の一例を示す図である。
図8】測定試料に対する味の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の味の検出方法、味物質検出剤、味物質検出剤複合体及び検出装置の実施形態を説明する。
【0013】
≪味の検出方法≫
実施形態の味の検出方法は、
味物質を含む試料と、味物質検出剤とを混合し、測定試料を得て、
前記測定試料に対し、前記味物質検出剤と味物質との共存に起因して変化する光を検出し、その検出と前記測定試料の味とを関連付けることを含むものである。
【0014】
本明細書において「味物質」とは、ヒトの官能評価にて味を呈すると認識される物質全般を包含する概念であり、実施形態の味の検出方法においては、検出に際し、味物質を変化させた物(例えば、味物質の断片、複合体、又は多量体)を味物質として用いることも含まれる。
【0015】
味物質の味としては、例えば、基本味とも称される塩味、酸味、甘味、苦味及びうま味の他、渋味および辛味が挙げられる。本実施形態においては、前記味が、渋味、苦味、及びうま味からなる群から選ばれるいずれか一種以上であることが好ましい。
【0016】
前記味が渋味である場合に、渋味を呈する前記味物質の種類は特に限定されるものではないが、前記味物質は、渋味を呈するポリフェノールに該当するものであってもよい。
ポリフェノールは、フラボノイドに該当する成分であってよく、それらから誘導されたタンニンであってもよい。
ポリフェノールとしては、例えば、渋味を呈する、カテキン類、テアフラビン類、テアルビジン類、アントシアニン、タンニン酸等が挙げられる。カテキン類としては、エピガロカテキン、エピカテキン、カテキン、エピガロカテキン-3O-ガレート、エピカテキン-3O-ガレート等が挙げられる。
【0017】
前記味が苦味である場合に、苦味を呈する前記味物質の種類は特に限定されるものではないが、前記味物質は、苦味を呈するキサンチン類、ポリフェノール、又はアミノ酸に該当するものであってもよい。
苦味を呈するキサンチン類としては、キサンチン誘導体であってよく、メチルキサンチン類が好ましい。キサンチン類としては、例えば、カフェイン、テオフィリン、テオブロミン等が挙げられる。
ポリフェノールとしては、上記に例示したもののうち、苦味を呈するものであってよい。
苦味を呈するアミノ酸としては、フェニルアラニン、トリプトファン、イソロイシン、ロイシン、システイン、リシン、チロシン、アルギニン、バリン、メチオニン、ヒスチジン等が挙げられる。
【0018】
前記味がうま味である場合に、うま味を呈する前記味物質の種類は特に限定されるものではないが、前記味物質は、うま味を呈する、クレオチド又はアミノ酸に該当するものであってもよい。
うま味を呈するクレオチドとしては、例えば、イノシン酸、グアニル酸、アデニル酸等が挙げられる。
うま味を呈するアミノ酸としては、例えば、グルタミン酸、アスパラギン酸、テアニン等が挙げられる。
【0019】
前記味物質は、測定試料において電荷を持たない状態であってよい。従来の電気化学的手法による分析では、その測定原理上、測定試料において電荷を持たない味物質は検知できなかった。対して、実施形態の味の検出方法では、光学的に味物質を検出できるため、測定試料において電荷を持たない味物質であっても検出が可能である。
【0020】
本明細書において「味物質検出剤」とは、前記味物質検出剤と味物質との共存に起因して、検出される光に変化を生じさせるものであってよい。ここでいう変化とは、光強度の変化や、光波長の変化(例えば、発色が変化する)等が挙げられる。当該変化は、例えば、味物質検出剤と味物質との両方を含む試料と、当該試料と対比可能に味物質検出剤を含み味物質が除かれた試料とで、検出される光に対する比較により求めることができる。味物質検出剤については、後に詳細に説明する。
【0021】
味物質検出剤は、光を発する物質であってよい。
味物質検出剤が光を発する物質である場合、味物質検出剤は、味物質検出剤と味物質との両方を含む試料(味物質共存下)で光を発し、当該試料と対比可能に味物質検出剤を含み味物質が除かれた試料(味物質非共存下)と比較し、検出される光強度が低下又は上昇するものであってよい。この場合の低下とは、光が非検出となる場合も含む。この場合、味物質は味物質検出剤の発光阻害物質又は発光促進物質として機能するといえる。
或いは、味物質非共存下では光を発さず、味物質共存下において、光強度が上昇するものであってよい。この場合の上昇とは、光が非検出から検出となる場合を含む。この場合、味物質は味物質検出剤の発光促進物質として機能するといえる。
【0022】
前記光の変化は、味物質検出剤と味物質との相互作用によって生じるものと考えられる。例えば、前記味物質と、前記味物質検出剤とが、複合体を形成してもよい。
【0023】
上記の味物質検出剤と味物質との共存に起因して変化する光とは、味物質検出剤と味物質との相互作用に起因して変化する光であってよい。
上記の味物質検出剤と味物質との共存に起因して変化する光とは、味物質検出剤と味物質との複合体形成に起因して変化する光であってよい。
【0024】
味物質検出剤が光を発する物質である場合、味物質検出剤は、例えば、以下のi)又はii)の特徴を示すものであってよい。
i) 味物質を含まない味物質非共存下では発光が生じず、味物質検出剤と味物質との両方を含む測定試料において、発光が生じる。
ii)味物質を含まない味物質非共存下で発光が生じ、味物質検出剤と味物質との両方を含む測定試料で、味物質非共存下よりも、発光の光強度が低下する。
iii)味物質を含まない味物質非共存下で発光が生じ、味物質検出剤と味物質との両方を含む測定試料で、味物質非共存下よりも、発光の光強度が上昇する。
【0025】
図1は、上記i)の場合の、発光スペクトルの変化の様子の一例を説明する図である。味物質Xを含まない味物質非共存下では発光が生じず、味物質検出剤Yと味物質Xとの両方を含む測定試料において、これらの複合体が形成され発光が生じる。
【0026】
図2は、上記ii)の場合の、発光スペクトルの変化の様子の一例を説明する図である。味物質Xを含まない味物質非共存下で味物質検出剤Yに由来する発光が生じ、味物質検出剤Yと味物質Xとの両方を含む測定試料で、これらの複合体が形成され、発光強度が低下する。
【0027】
図3は、上記iii)の場合の、発光スペクトルの変化の様子の一例を説明する図である。味物質Xを含まない味物質非共存下で味物質検出剤Yに由来する発光が生じ、味物質検出剤Yと味物質Xとの両方を含む測定試料で、これらの複合体が形成され、発光強度が上昇する。
【0028】
味物質検出剤は、蛍光を発することのできる蛍光物質であってよい。
なお、本明細書において、味物質を含まない味物質非共存下では蛍光を発さず、味物質との共存下で蛍光を発することのできるものも、ここでいう蛍光物質に含めるものとする。
【0029】
本発明の味の検出方法一実施形態として、
味物質を含む試料と、味物質検出剤とを混合し、測定試料を得て、
前記測定試料に対し、前記味物質検出剤と味物質との共存に起因して変化する蛍光を検出し、その検出と前記測定試料の味とを関連付けることを含む、味の検出方法を提供する。
【0030】
味物質検出剤が蛍光物質である場合、前記検出する光は、味物質検出剤に由来する蛍光であってよく、味物質検出剤に由来する特定の蛍光波長の蛍光強度であってよい。蛍光は、通常、特定の波長にて励起および発光が生じるものであることから、測定に適した特定の励起波長及び蛍光波長を求めることができる。その蛍光強度の測定を採用することで、味物質検出剤に由来する蛍光の検出が容易となり、味物質検出における信頼性が向上する。
【0031】
実施形態の味の検出方法において、「味物質を含む試料」としては、味物質を含むものであれば特に限定されるものではないが、例えば、飲料品、食品、経口投薬剤等を例示できる。
【0032】
実施形態の味の検出方法において、測定試料の状態は、特に制限されるものではないが、測定試料は、液体であることが好ましい。測定試料が液体であると、味物質を含む試料と、味物質検出剤との混合状態も良好である。また、後述の検出装置の例示されるような、流路を介した測定試料の送液を採用でき、解析の高速化が容易である。
ここでいう、液体の測定試料とは、液体成分中に、味物質、味物質検出剤又は後述の味物質検出剤複合体が溶解したものを含む概念とする。
【0033】
また、一般的な食品における味を検出することを想定し、測定試料は水を含むものであることが好ましい。当該水は、味物質、味物質検出剤又は後述の味物質検出剤複合体を溶解させることができる。
【0034】
測定試料に配合される味物質検出剤の量は、特に制限されるものではなく、味物質を含む試料に応じて、適宜定めることできる。
【0035】
測定される測定試料の温度は、一例として、0~40℃であってよく、10~30℃であってもよい。
【0036】
<第一実施形態>
以下、実施形態の味の検出方法として、上記i)の場合であって、味物質検出剤が蛍光物質である場合の検出方法について説明する。
【0037】
本実施形態の味の検出方法は、
味物質を含む試料と味物質検出剤とを混合し、測定試料を得る混合工程と、
前記測定試料に対し、前記味物質検出剤と味物質との共存に起因して発せられ、味物質検出剤に由来する蛍光波長の蛍光を検出する光検出工程と、
前記光検出工程で得られた検出結果と味とを関連付ける、味検出工程と、を含む。
【0038】
(混合工程)
本実施形態における混合工程は、味物質を含む試料と味物質検出剤とを混合する工程である。混合は、味物質を含む試料に味物質検出剤を添加してもよく、味物質検出剤に味物質を含む試料を添加してもよい。当該混合される前の味物質検出剤は、蛍光を発するものではないが、当該混合により、味物質と味物質検出剤との相互作用により、味物質と味物質検出剤とが混合された測定試料は、蛍光を発するものとなる。例えば、前記味物質と、前記味物質検出剤とが、複合体(味物質検出剤複合体)を形成してもよく、この場合、味物質検出剤複合体が蛍光を発することができる。
【0039】
(光検出工程)
次いで、前記測定試料に対し、励起光を照射し、蛍光を検出する。蛍光の検出に伴い、蛍光強度の測定を実施してもよい。蛍光の検出及びその強度の測定は、公知の光検出器を用いて行うことができ、例えば、分光蛍光光度計を使用することができる。
【0040】
なお、実施形態の味の検出方法において、広範囲にわたる光波長のスペクトルを取得することは必須ではない。味物質検出剤の種類は予め把握されているので、通常、測定試料に照射する励起光の最適波長と、励起光を照射された測定試料から取得できる蛍光の最適波長も特定される。そこで、例えば使用する味物質検出剤の3次元蛍光スペクトルを予め取得しておき、そのスペクトルのピーク解析からそれぞれに適した特定の励起波長と、蛍光波長との値を予め取得することができる。そして、前記測定試料に対し、特定の波長の励起光を照射し、特定の波長の蛍光を検出してもよい。
【0041】
(味検出工程)
味検出工程は、光検出工程で得られた検出結果と味とを関連付け、味の検出結果を得る工程である。
測定試料としては、例えば、食品を例示でき、種々の物質を含み得るが、本実施形態の味物質検出剤は、味物質との共存によってはじめて、蛍光を発するものであるので、測定試料から蛍光が検出されたことをもって、測定試料中の味物質の存在を検出できる。
【0042】
実施形態の味検出工程では、味物質と味との関係を示す情報に基づき、測定試料の味に関する値を取得すればよい。実施形態の味の検出方法では、上記味物質の味の情報が取得されていることが好ましい。例えば、使用する味物質検出剤が、どのような味物質との共存により蛍光を発するものであるのかの情報を取得し、かかる情報に基づき、光検出工程で得られた検出値と味とを関連付けることができる。例えば、味物質検出剤が苦味を呈する味物質との共存で蛍光を発するものであるとき、測定試料から蛍光が検出されたことで、測定試料が苦味を呈するものであるとの結果を得ることができる。
【0043】
味物質検出剤は、味物質に対して特異性の高いものであることが好ましいが、使用する味物質検出剤が複数種類の味物質との共存で、それぞれ蛍光を発するものであり、複数種類の味物質の呈する味がそれぞれ異なる場合も想定される。このような場合、検出される味は複数の味であって、それらは区別されなくともよい。例えば、味物質検出剤が、渋味を呈する味物質と、苦味を呈する味物質の両方を検出可能な場合、検出される味は、渋味及び/又は苦味としてよい。
【0044】
別法として、測定試料に含まれる複数種類の味物質のうち、特定の味物質を分離する操作を行ってもよい。例えば、測定試料が渋味を呈する味物質と、苦味を呈する味物質の両方を含有し、味物質検出剤が、渋味を呈する味物質と、苦味を呈する味物質の両方を検出可能な場合、測定試料から渋味を呈する味物質を除去する操作を行い、その結果検出される味を苦味と特定してよい。
【0045】
<第二実施形態>
次に、実施形態の味の検出方法として、上記ii)の場合であって、味物質検出剤が蛍光物質である場合の検出方法について説明する。
【0046】
本実施形態の味の検出方法は、
味物質を含む試料と味物質検出剤とを混合し、測定試料を得る混合工程と、
前記測定試料に対し、前記味物質検出剤と味物質との共存に起因して変化する、蛍光波長の蛍光強度を測定する第一光測定工程と、
前記第一光測定工程で得られた測定値と味とを関連付ける、味検出工程と、を含む。
上記の第一実施形態の味の検出方法と同様の構成を有する内容については、説明を省略する。
【0047】
(混合工程)
本実施形態における混合工程は、味物質を含む試料と味物質検出剤とを混合する工程である。当該混合される前の味物質検出剤は、蛍光を発するものである。当該混合により、味物質検出剤と味物質との相互作用が生じ、得られた測定試料では、混合される前の味物質検出剤と比べ、蛍光強度が低下する。例えば、前記味物質と、前記味物質検出剤とが、複合体(味物質検出剤複合体)を形成してもよい。この場合、味物質検出剤複合体からは、蛍光が発せられないか、味物質検出剤と比較して発せられる蛍光強度が低下している。
【0048】
なお、上記iii)の場合では、当該混合により、得られた測定試料では、混合される前の味物質検出剤と比べ、蛍光強度が上昇してもよい。この場合も、前記味物質と、前記味物質検出剤とが、複合体(味物質検出剤複合体)を形成してもよく、味物質検出剤複合体から発せられる蛍光強度は、味物質検出剤と比較して発せられる蛍光強度よりも上昇している。
【0049】
(光測定工程)
次いで、前記測定試料に対し、励起光を照射し、蛍光強度を測定する。ここでは、上記の蛍光強度の低下(又は、例えば上記iii)の場合では上昇)に係る値が、味物質検出剤と味物質との共存に起因して変化する光の測定値となるので、低下(又は、例えば上記iii)の場合では上昇)の基準となる蛍光強度のベース値を取得することが好ましい。上記ベース値は、味物質非存在下の前記味物質検出剤に由来する蛍光強度であってよい。上記ベース値は、例えば、測定試料と対比可能に味物質検出剤を含み、味物質を含まない試料に対して蛍光強度を測定することで取得することができる。混合される前の味物質検出剤に対し、当該蛍光強度の値を取得し、それをベース値としてもよい。仮に、測定試料が味物質を含む試料で、味物質検出剤に由来する蛍光と区別されない蛍光物質が含まれている場合には、測定試料由来の蛍光の影響を極力少なくなるように、味物質検出剤に対する励起波長と検出波長を変化させてよい。又は、予め、味物質を含む試料に対して測定して得られた蛍光強度も、ベース値に算入してよい。
或いは、所定の量(例えば所定の濃度)の味物質の存在下での味物質検出剤の蛍光強度をベース値とすることもできる。所定の値は任意である。ここで所定の量を変えて、味物質検出剤の蛍光強度の値を複数取得することで、後述の“光強度と味物質量との関係を表す検量線”を作成することもできる。
したがって、本実施形態の味の検出方法は、味物質非存在下又は所定の量の味物質の存在下での前記味物質検出剤に由来する蛍光強度を測定する第二光測定工程を更に有してもよい。
【0050】
(味検出工程)
味検出工程は、光測定工程で得られた測定値と味とを関連付け、味の測定結果を得る工程である。
例えば、本実施形態における第一光測定工程で得られた測定値は、第二光測定工程で得られた、味物質非存在下の味物質検出剤に由来する蛍光強度の測定値よりも、低い値であり、この値の低下が検出されたことで、測定試料中の味物質の存在を検出できる。
【0051】
例えば、味物質検出剤が苦味を呈する味物質との共存で蛍光が低下するものであるとき、味物質を含まない試料と比較し、味物質及び味物質検出剤を含む測定試料において蛍光が低下したことで、測定試料が苦味を呈するものであるとの結果を得ることができる。
【0052】
なお、上記iii)の場合では、例えば、第一光測定工程で得られた測定値は、第二光測定工程で得られた、味物質非存在下の味物質検出剤に由来する蛍光強度の測定値よりも、高い値であり、この値の上昇が検出されたことで、測定試料中の味物質の存在を検出できる。
【0053】
上記の第二光測定工程を実施した場合には、第二光測定工程と、第一光測定工程との測定値との比較により得られた値と、味とを関連付けることができる。例えば、第二光測定工程と、第一光測定工程との測定値の差の値を、味とを関連付けてもよい。
【0054】
なお、上記の第一実施形態及び第二実施形態の説明では、蛍光を測定する場合を例に説明したが、本発明に係る実施形態の味の検出方法において、光の種類は限定されず、上記の「蛍光」は、「光」全般と読みかえることができる。光としては、例えば、発光、透過光、反射光等が挙げられる。
【0055】
<味の強度について>
実施形態の味の検出方法において、光強度の測定値を得た場合、上記の測定値は測定試料に含まれる味物質の含有量を反映していると推定され、測定試料の味強度に関する値を取得できる。
【0056】
例えば、予め作成した、上記の光強度と味物質量との関係を表す検量線に、測定試料に対して測定された上記の光強度の値を照らし合わせて、測定試料中の味物質の量を測定することができる。当該検量線は、複数の所定の量(例えば所定の濃度)の味物質の存在下での味物質検出剤の蛍光強度を取得し、所定の量を変えて、味物質検出剤の蛍光強度の値を複数取得することで、作成することができる。検量線の作成にあたっては、使用される味物質検出剤の量は一定としてよく、使用される味物質検出剤の量に関する値も取得しておくことが好ましい。
そして、味物質の量と味強度との関係を示す情報に基づき、測定試料の味強度に関する値を取得すればよい。
【0057】
すなわち、本発明に係る実施形態の味の検出方法の一例として、
味物質を含む試料と、味物質検出剤とを混合し、測定試料を得て、
前記測定試料に対し、前記味物質検出剤と味物質との共存に起因して変化する光の光強度を測定し、その測定値と味の強度とを関連付けることを含む、味の検出方法を例示できる。
【0058】
上記の光強度としては、特定の光波長における光強度を測定するものであってよい。
【0059】
上記の味物質検出剤と味物質との共存に起因して変化する光の光強度とは、味物質検出剤と味物質との相互作用に起因して変化する光の光強度であってよい。
上記の味物質検出剤と味物質との共存に起因して変化する光の光強度とは、味物質検出剤と味物質との複合体形成に起因して変化する光の光強度であってよい。
【0060】
実施形態の味の検出方法は、従来技術に属する電気化学的な検知方法と組み合わせて実施することができる。例えば、実施形態の味の検出方法により、渋味に関する情報を得る一方で、電気化学的な味の検出方法により、酸味に関する情報を得て、それらを統合して測定試料の味の検出結果を得てもよい。
【0061】
実施形態の味の検出方法は、以下の利点を有することができる。
実施形態の味の検出方法によれば、光学的な検知方法により味物質を検知するので、従来の電気的な検知方法では検出が困難であった電荷をもたない味物質を含む試料に対しても、味を検出できる。
実施形態の味の検出方法によれば、味物質と、味物質検出剤との相互作用を検出原理として用い、味物質検出剤の物質選択性を、広域選択的から、特異的まで自由なレベルを選択できる。
実施形態の味の検出方法によれば、味物質検出剤は、化学物質であってよく、通常の化学分析の手法により実施形態の味の検出方法を実施できる。この際、試薬と汎用の分析機器(例えば、高速液体クロマトグラフィー装置、蛍光分光光度計、紫外可視分光光度計など)を転用して実施することも可能であり、実施が簡便である。
実施形態の味の検出方法によれば、味物質検出剤は、検出ごとに常に新しいものを使用することができ、従来の味センサで問題となっているセンサプローブの劣化に関する問題が生じないため、再現性の高い検出が実現される。
【0062】
≪味物質検出剤≫
上記の実施形態の味の検出方法において、使用される味物質検出剤は、特に制限されるものではないが、本発明者らによる鋭意検討の結果、上記のとおり光学的な味検出に好適な化合物を見出した。
【0063】
実施形態の味物質検出剤として、下記一般式(1)で表される化合物(以下「化合物(1)」と略記することがある。)、又はそのイオン若しくは塩を含有する味物質検出剤を提供できる。
【0064】
【化2】
【0065】
[式(1)中、
及びXは、それぞれ独立して、単結合、又は炭素原子数1~6の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレン基を表し、該アルキレン基中の1個又は非隣接の2個以上の-CH-はそれぞれ独立して-O-、-CO-、-COO-、-OCO-、-CONH-、又は-NHCO-によって置換されていてもよい。
及びRは、それぞれ独立して、スルホ基、カルボキシ基、リン酸基、-N(R(ここで、前記Rは、水素原子又は炭素原子数1~4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を表す。複数存在するこれらRは、同じ基の中で、互いに同一でも異なっていてもよい。)、-B(R、-B(OR、-B(ここで、前記Rは炭素原子数1~4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、Zはハロゲン原子を表す。複数存在するこれらR及びZは、同じ基の中で、互いに同一でも異なっていてもよい。)、又はオニウム基を表す。
は、炭素数1~4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、ハロゲン原子又は水酸基を表す。
n1はRの数を表し、0~7のいずれかの整数であり、n1が2以上のとき、2個以上のR同士は互いに同一でも異なっていてもよい。
n2はRの数を表し、0~7のいずれかの整数であり、n2が2以上のとき、2個以上のR同士は互いに同一でも異なっていてもよい。
n3はRの数を表し、0~4のいずれかの整数であり、n3が2以上のとき、2個以上のR同士は互いに同一でも異なっていてもよい。]
【0066】
及びXの炭素原子数1~6の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ヘキシレン基等を例示できる。
及びXがアルキレン基である場合、該アルキレン基の炭素原子数は1~3が好ましく、1~2がより好ましい。
【0067】
上記の-X-及び-X-は、それぞれ独立して、-O-、-CO-、-COO-、-OCO-、-CONH-、又は-NHCO-であってよく、-CONH-、又は-NHCO-が好ましい。
【0068】
上記のR及びRは、スルホ基である場合が好ましく、実施形態の味物質検出剤としては、その塩が好ましい。
【0069】
上記のR及びRのオニウム基としては、スルホニウム基、オキソニウム基、アンモニウム基、フルオロニウム基、クロロニウム基、ホスホニウム基等が挙げられる。
【0070】
、R及びRの炭素数1~4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等を例示できる。
【0071】
及びZの前記ハロゲン原子は、F,Cl,Br,I等の周期表において第17族に属する元素であり、F又はClが好ましい。
【0072】
-X-及び-X-の結合位置が特定される場合として、前記一般式(1)で表される化合物としては、例えば、下記一般式(1-1)及び一般式(1-2)で表される化合物が挙げられる。
【0073】
【化3】
【0074】
[式中、X、X、R、R、R、n1、n2及びn3は、前記一般式(1)におけるものと同じである。]
【0075】
【化4】
【0076】
[式中、X、X、R、R、R、n1、n2及びn3は、前記一般式(1)におけるものと同じである。]
【0077】
一般式(1-1)で表される化合物において、-X-及び-X-が、-CONH-である場合、下記一般式(1-1-1)で表される化合物が挙げられる。
【0078】
【化5】
【0079】
[式中、R、R、R、n1、n2及びn3は、前記一般式(1)におけるものと同じである。]
【0080】
上記の下記一般式(1-1-1)で表される化合物として、例えば、R及びRが、スルホ基であり、n1が1~2のいずれかの整数であり、n2が1~2のいずれかの整数であり、n3が0であるものを例示できる。
【0081】
一般式(1-2)で表される化合物において、-X-及び-X-が、-CONH-である場合、下記一般式(1-2-1)で表される化合物が挙げられる。
【0082】
【化6】
【0083】
[式中、R、R、R、n1、n2及びn3は、前記一般式(1)におけるものと同じである。]
【0084】
上記の下記一般式(1-2-1)で表される化合物として、例えば、R及びRが、スルホ基であり、n1が1~2のいずれかの整数であり、n2が1~2のいずれかの整数であり、n3が0であるものを例示できる。
【0085】
実施形態の味物質検出剤として、化合物(1)のイオン若しくは塩を含有する味物質検出剤を例示できる。
【0086】
化合物(1)のイオンとしては、化合物(1)がアニオンとなったものでもよく、化合物(1)がカチオンとなったものでもよい。
化合物(1)がアニオンとなったものとしては、例えば、化合物(1)がスルホ基(-SOH)を有する場合、その少なくとも一つからプロトンが除かれて、-SO -で表されるアニオン部となったもの等が挙げられる。
化合物(1)がカチオンとなったものとしては、例えば、化合物(1)がアミノ基(-NH)を有する場合、その少なくとも一つにプロトンが付加して-NH で表されるカチオン部となったもの、或いは-N(R のように四級アンモニウムとなったもの(前記Rは炭素原子数1~4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を表し、複数存在するRは、同じ基の中で、互いに同一でも異なっていてもよい。)が挙げられる。
【0087】
化合物(1)の塩としては、化合物(1)がカチオンとなってアニオン(無機アニオン又は有機アニオン)とともに形成された塩であってもよく、化合物(1)がアニオンとなってカチオン(無機カチオン又は有機カチオン)とともに形成された塩であってもよい。
【0088】
化合物(1)がカチオンとなったものと共に化合物(1)の塩を形成する前記アニオンは、特に限定されない。
前記アニオンのうち、好ましいアニオンとしては、水酸化物イオン、硝酸イオン、炭酸イオン、炭酸水素イオン、硫酸イオン、リン酸イオン、ハロゲン化物イオン、スルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン等が例示できる。
【0089】
化合物(1)がアニオンとなったものと共に化合物(1)の塩を形成する前記カチオンは、特に限定されない。
前記カチオンのうち、好ましいカチオンとしては、水素イオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、アンモニウムイオン、四級アンモニウムイオン等が例示できる。
【0090】
化合物(1)のイオン又は塩は、水への溶解性が向上し、測定試料の調整が良好となるため好ましい。
【0091】
一般式(1-1-1)において、R及びRがスルホ基であり、n1及びn2が2であり、n3が0である場合の、当該化合物のイオンの一例として、例えば、式(1-I)表される化合物が挙げられる。
【0092】
【化7】
【0093】
一般式(1-2-1)において、R及びRがスルホ基であり、n1及びn2が2であり、n3が0である場合の、当該化合物のイオンの一例として、例えば、式(1-II)表される化合物が挙げられる。
【0094】
【化8】
【0095】
実施形態の味の検出方法として、前記味物質検出剤が、上記の化合物(1)又はそのイオン若しくは塩である、味の検出方法を例示できる。
【0096】
上記一般式(1)で表される化合物又はそのイオン若しくは塩は、味物質を含まない味物質非共存下で蛍光を発することのできる蛍光物質であってよい。
【0097】
上記一般式(1)で表される化合物又はそのイオン若しくは塩は、既報(“An acyclic phane receptor with a pair of disulfonaphthalene arms recognizing 2,3-trans-gallate-type catechins in water” Tetrahedron(2009) Volume 65, Issue 39, Pages 8209-8215)の内容に沿って、製造することができる。
【0098】
前記味物質検出剤の検出対象である味物質としては、特に限定されるものではないが、ポリフェノール、アミノ酸、ヌクレオチド、及びキサンチン類からなる群から選ばれるいずれか一種以上を例示できる。これらの化合物としては、上記の「味の検出方法」で説明したものを例示でき、ここでの説明を省略する。
【0099】
≪味物質検出剤複合体≫
本発明の一実施形態の味物質検出剤複合体として、上記の化合物(1)又はそのイオン若しくは塩と、味物質と、の複合体を提供する。前記味物質としては、上記の≪味の検出方法≫で例示したものが挙げられ、ポリフェノール、アミノ酸、ヌクレオチド、及びキサンチン類からなる群から選ばれるいずれか一種以上を例示できる。
味物質検出剤複合体は、実施形態の味の検出方法における、味の検出に有用である。
【0100】
後述する実施例において示されるように、緩衝液中で味物質検出剤と味物質が共存するときに味物質検出剤に由来する蛍光強度の変化が観測されるということは、これらの複合体形成を示す根拠となる。(実施例で用いた緩衝液中ではpH変化による蛍光強度変化は生じないため。)
味物質検出剤と味物質との複合体の形成は、核磁気共鳴(NMR)のスペクトルの化学シフト変化により確認することができる。
また、より直接的な複合体形成の根拠は、NOESYスペクトルによっても確認できる。NOESYスペクトルにおいて、分子間で水素原子間に交差ピークが観測される場合、それらの分子は複合体を形成していると判断することができる。
【0101】
≪検出装置≫
実施形態の検出装置は、上記の実施形態の味の検出方法に用いられ、前記測定試料に対して光を検出する光検出器を備える検出部と、前記検出部により得られた検出結果を味と関連付ける算出部と、を備えるものである。
【0102】
図4は、実施形態の検出装置の構成の一例を示す模式図である。実施形態の検出装置1は、検出部2と、算出部3と、表示部4と、混合部5とを備える。混合部5では、味物質を含む試料と、味物質検出剤とが混合される。
【0103】
実施形態の検出装置1Aでは、試料供給経路が並列化されている。
味物質検出剤収容部には第一の味物質検出剤10aが収容され、それに接続された流路f10aから、第一の味物質検出剤10aが供給される。第一の試料収容部には第一の試料11aが収容され、それに接続された流路f11aから、第一の試料11aが供給される。これらが供給された各流路の合流により、第一の味物質検出剤10aと味物質を含む第一の試料11aとが混合され、流路f21内に第一の測定試料が得られる。
同様に、味物質検出剤収容部に接続された流路f20aから、第一の味物質検出剤10aが供給され、第二の試料収容部に接続された流路f11bから、第二の試料11bが供給される。これらが供給された各流路の合流により、味物質検出剤10aと味物質を含む第二の試料11bとが混合され、流路f22内に第二の測定試料が得られる。
【0104】
実施形態の検出装置は、味物質検出剤、試料及び測定試料の送液を行うポンプを備えることができる。
【0105】
第一の測定試料及び、第二の測定試料は、各流路f21,f22を通じてそれぞれ独立に検出部2に導入される。検出部2では、第一の測定試料21及び第二の測定試料22に対して、それぞれ光が検出される。このように試料供給経路が並列化されていることで、複数種類の試料の検出に要する時間が大幅に短縮される。
【0106】
検出部2としては、公知の分光光度計の構成を適用することができる。分光光度計としては、例えば、紫外可視分光光度計、赤外分光光度計、蛍光分光光度計等が挙げられる。光検出器としては、例えば、公知のフォトダイオード等である。光検出器は、光の強度を測定できるものであってよい。検出部2は、検出に用いる光を発する光源(例えば励起光を発生させる励起光源)や、回折格子、ミラー等を備えることができる。光波長ごとにスペクトルを取得する場合には、光を分光する分光器を更に備えることができる。
ここで測定試料から検出される光とは、測定試料が発光物質を含む場合には測定試料そのものから発せられる発光や、光源により励起された蛍光、光源からの光の透過光、反射光等が挙げられる。
【0107】
算出部3は、検出部2により得られた検出結果(検出信号)に基づいて、味に関する情報を出力する。算出部では、検出手法に応じて、検出結果の値として、光強度のほか、吸光度や透過率等の値を用いることができる。算出部は、例えば、特定の光波長の光の光強度と、味物質の量と、味物質の呈する味との関係を表す情報が入力されると、それらの相関関係を表す演算式を生成することができる。算出部は、検出部2により測定試料に対して測定された光強度の値から、例えば上記式を適用して味物質の量を算出し、測定試料における味に関する情報を推定する演算処理を実行し、味に関する情報を提示する。
ディスプレイ等の表示部4に、算出部3から取得された味に関する情報を含む算出結果が表示される。
【0108】
実施形態の検出装置は、CPU等のプロセッサを含む制御部(不図示)が、算出部3を含んで構成されてよい。制御部は、記憶装置に記憶されたプログラムの指令により、ポンプの動作、検出信号の取得、上記の算出等を制御することができる。
【0109】
図5は、実施形態の検出装置1Bの構成を示す模式図である。実施形態の検出装置1Aでは、複数種類の試料(第一の試料11a,第二の試料11b)が独立して混合されていたが、実施形態の検出装置1Bでは、複数種類の味物質検出剤(第一の味物質検出剤10a,第二の味物質検出剤10b)が独立して混合に供され、流路f21およびf22内に各測定試料が得られる。
その他の構成は、上記の検出装置1Aと同様であり、説明を省略する。
実施形態の検出装置1Bによれば、複数種類の味物質検出剤を適用することができ、複数種類の味に関する情報の取得に要する時間が大幅に短縮される。
【0110】
図6は、実施形態の検出装置1Cの構成を示す模式図である。実施形態の検出装置1Cでは、複数種類の試料(第一の試料11a,第二の試料11b)、及び複数種類の味物質検出剤(第一の味物質検出剤10a,第二の味物質検出剤10b)が混合に供されて混合され、流路f21,f22,f23,f24内に各測定試料が得られる。実施形態の検出装置1Cは、オートサンプラ50を備えており、試料及び味物質検出剤の供給と混合は、オートサンプラ50により行われる。例えば、流路f21内には、第一の試料11aと第一の味物質検出剤10aとが混合された測定試料が得られ、流路f22内には、第一の試料11aと第二の味物質検出剤10bとが混合された測定試料が得られ、流路f23内には、第二の試料11bと第一の味物質検出剤10aとが混合された測定試料が得られ、流路f24内には、第二の試料11bと第二の味物質検出剤10bとが混合された測定試料が得られる。
その他の構成は、上記の検出装置1Bと同様であり、説明を省略する。
実施形態の検出装置1Cによれば、複数種類の試料及び味物質検出剤を適用することができ、複数種類の試料及びそれらの味に関する情報の取得に要する時間が大幅に短縮される。
【0111】
なお実施形態の検出装置1A及び検出装置1Bが、オートサンプラ50を備える構成とすることもでき、各味物質検出剤と味物質を含む各試料の供給と混合、各測定試料の流路への供給等が、オートサンプラ50により行われてもよい。
【0112】
なお、検出装置1A,1B,1Cでは、測定試料の供給経路の並列数は2(流路f21及びf22)又は4(流路f21、f22、f23及びf24)であるが、経路の並列数は2以上の整数であってよく、その数は任意である。
【0113】
また、本発明に係る実施形態の検出装置において、測定試料の供給経路は並列化されていなくともよく(つまり、測定試料の供給経路数は1であってもよく)、測定試料が順次供給されて、検出部により検出されてもよい。
【0114】
なお、実施形態の検出装置は、従来技術に属する電気化学的な検知方法と組み合わせた構成とすることもできる。例えば、実施形態の検出装置は、電気化学的に味物質を検出する味センサを、さらに備えることができる。例えば、味物質検出剤を用いた実施形態の味の検出により、渋味に関する情報を得る一方で、センサプローブを用いた電気化学的な味の検出により、酸味に関する情報を得て、それらが統合された測定試料の味の検出結果を得てもよい。
【0115】
実施形態の検出装置による検出では、上記の味の検出方法で説明した利点に加え、以下の利点を有することができる。
実施形態の検出装置は、味センサとして利用可能である。
実施形態の検出装置によれば、検出に要する時間は、光の検出が可能な程度であればよく、市販のセンサプローブを用いた味センサよりも短くできる(例えば1/600以下。)。また、複数の測定試料を解析に供することができ、多種の試料を短時間で検出できる。
実施形態の検出装置によれば、光の検出が可能な程度の量の測定試料を用意すればよいため、検出に要する試料量を少なくできる(例えば、市販の味センサの1/12~1/100程度。)また、実施形態の検出装置によれば、検出に要する味物質検出剤の使用量を少なくできる(例えば10~100nmol程度。)。
【実施例
【0116】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0117】
実施例の検出方法に用いた成分を以下に示す。
(味物質)
・ポリフェノール系 渋味物質
エピガロカテキン-3-O-ガレート(EGCg)(和光純薬工業社製、059-05411)
エピカテキン-3-O-ガレート(ECg)(和光純薬工業社製、058-06743)
エピガロカテキン(EGC)(和光純薬工業社製、052-06763)
エピカテキン(EC)(和光純薬工業社製、059-06753)
・キサンチン系 苦味物質
カフェイン(Caffeine)(和光純薬工業社製、0033-06791)
テオフィリン(Theophylline)(東京化成工業社製、T0179)
・核酸系 うま味物質
アデノシン5′-リン酸二ナトリウム(AMP-Na)(ORIENTAL YEAST社製、45110000)
グアノシン5′-リン酸二ナトリウム(GMP-Na)(和光純薬工業社製、078-04361)
イノシン5′-リン酸二ナトリウム(IMP-Na)(MP Biomedicals社製、102050)
・アミノ酸系 苦味物質
L-フェニルアラニン(Phe)(和光純薬工業社製、161-01302)
【0118】
(味物質検出剤)
・上記式(1-I)で表される化合物の4Na塩
【0119】
【化9】
【0120】
・上記式(1-II)で表される化合物の4Na塩
【0121】
【化10】
【0122】
[実験1]
・測定試料の調製
上記式(1-I)で表される化合物の4Na塩(20μmol/L)を、pH6.0の100mMリン酸緩衝液に溶解させ、液(A)を得た。
上記式(1-I)で表される化合物の4Na塩(20μmol/L)と、味物質(1.0mmol/L)とを、pH6.0の100mMリン酸緩衝液溶解させ、液(B)を得た。液(B)は、味物質ごとにそれぞれ用意した。
【0123】
・測定試料の測定
分光蛍光光度計(日本分光社製、FP-6300)を用い、上記の液(A)と、各味物質を含む液(B)とに対し、25℃にて253nmの励起光を照射し、466nmの蛍光発光強度を観測した。液(A)から液(B)での蛍光強度の変化率=[液(A)の蛍光強度)-液(B)の蛍光強度)]/液(A)の蛍光強度、を応答値としてグラフにプロットした。
上記式(1-I)で表される化合物は蛍光を発し、味物質との相互作用により蛍光が消光されるので、味物質が添加されていない液(A)よりも、味物質が添加された液(B)で蛍光強度が低下すると、応答値が高くなる。
結果を図7(a)に示す。
【0124】
[実験2]
・測定試料の調製
上記式(1-I)で表される化合物の4Na塩に代えて、上記式(1-II)で表される化合物の4Na塩を用いた以外は、上記の実験1と同様にして、液(A)及び液(B)を用意した。液(B)は、味物質ごとにそれぞれ用意した。
【0125】
・測定試料の測定
348nmの励起光を照射し、486nmの蛍光発光強度を観測した以外は、上記の実験1と同様にして、測定を行った。
上記式(1-II)で表される化合物は蛍光を発し、味物質が添加されていない液(A)よりも、味物質が添加された液(B)で蛍光強度が低下すると、応答値が高くなる。
結果を図8に示す。
【0126】
図7(a)及び図8に示される結果から、上記の味物質検出剤を用いて、各種味物質を検出可能であることが示された。
図7(a)及び図8に示される結果から、味物質と味物質検出剤とが複合体を形成しており、味物質検出剤と味物質との複合体形成に起因して変化する光を検出し、各種味物質を検出できた。
【0127】
また、渋味物質について、応答値の大きさが異なっており、この応答値が高いほど、実際の官能評価での渋味の度合いも高いものであった。
したがって、上記の味物質検出剤を用いて、味の強度を測定可能であることが示された。
【0128】
[実験3]
上記実験1において、味物質検出剤は、渋味、苦味、うま味の全てを検出できる。一方、仮に測定試料がこれら全ての味物質を含む場合には、渋味、苦味、うま味を示すシグナルは分離されないが、測定試料において、上記の味物質を分離することができる。その方法を以下に例示する。
【0129】
(1)上記実験1において、ポリフェノール系渋味物質、キサンチン系苦味物質、及び核酸系うま味物質の混合液を仮定する。まず、蛍光測定により、混合液の蛍光強度の総和を得る(図7(a)対応)。
(2)上記(1)の混合液にポリビニルポリピロリドン(PVPP、固体粉末)を加え、液相からポリフェノール系渋味物質を除去する。遠沈管内でPVPP処理を行い、遠心分離後に上澄みをメンブレンフィルタで濾過後、その蛍光強度を観測することによって、キサンチン系苦味物質と核酸系うま味物質の応答値の和を得る(図7(b)対応)。
(3)上記(2)の混合液からキサンチン系苦味物質をクロロホルムを用いて抽出除去する。上澄みの水相中には核酸のみが残るため、この溶液の蛍光強度を測定することで核酸系うま味物質のみの応答値を得て、核酸系うま味の情報が得られる(図7(c)対応)。
(4)上記(2)の応答値から、上記(3)の応答値を差し引くことにより、キサンチン系苦味物質の情報が得られる(図7(d)対応)。
(5)上記(1)の応答値から、上記(2)の応答値を差し引くことにより、ポリフェノール系渋味物質の情報が得られる(図7(e)対応)。
【0130】
各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。また、本発明は各実施形態によって限定されることはなく、請求項(クレーム)の範囲によってのみ限定される。
【産業上の利用可能性】
【0131】
実施形態の発明は、客観的に味を評価することを可能とするものであり、食品製造業、食品流通業、小売業、貿易業を含む、食品産業全体で広く利用可能であり、特に、食品分析業や分析装置製造業においても利用可能である。
【符号の説明】
【0132】
X…味物質、Y…味物質検出剤、1A,1B,1C…検出装置、2…検出部、3…算出部、4…表示部、5…混合部、50…オートサンプラ、10a…第一の味物質検出剤、10b…第二の味物質検出剤、11a…第一の試料、11b…第二の試料、f10a,f10b,f11a,f11b,f20a,f21,f22,f23,f24…流路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8