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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-08
(45)【発行日】2024-03-18
(54)【発明の名称】植物形質転換体
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20240311BHJP
   C12N 5/04 20060101ALI20240311BHJP
   A01H 5/10 20180101ALI20240311BHJP
   A01H 5/00 20180101ALI20240311BHJP
   C12P 19/56 20060101ALI20240311BHJP
   A01H 6/54 20180101ALI20240311BHJP
   C12N 15/54 20060101ALN20240311BHJP
   C12N 15/53 20060101ALN20240311BHJP
【FI】
C12N5/10
C12N5/04 ZNA
A01H5/10
A01H5/00 A
C12P19/56
A01H6/54
C12N15/54
C12N15/53
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020004640
(22)【出願日】2020-01-15
(65)【公開番号】P2021108633
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2022-11-21
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成29年度農林水産省「農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業」産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願)
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村中 俊哉
(72)【発明者】
【氏名】關 光
(72)【発明者】
【氏名】石本 政男
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 由紀子
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 恭子
(72)【発明者】
【氏名】矢野 亮一
【審査官】田中 晴絵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/163174(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/024437(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/020231(WO,A1)
【文献】特開2011-055807(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/10
C12N 5/04
A01H 5/10
A01H 6/54
A01H 5/00
C12P 19/56
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリチルリチン製造用のダイズ属(Glycine)由来の植物形質転換体であって、
β-アミリンからオレアナン型トリテルペノイド及びその配糖体を合成する代謝経路においてアグリコン部のC11位及びC30位以外の炭素位を水酸化する全ての内因性水酸化酵素の発現又は活性が抑制又は阻害されており、かつ
以下の(1)~(3)で示す3種類のタンパク質をコードする塩基配列を含む発現ベクターを含む、前記植物形質転換体。
(1)配列番号70で示すアミノ酸配列からなるCYP88D6タンパク質、配列番号70で示すアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、オレアナン型トリテルペノイドにおけるC11位を酸化する活性を有する変異型CYP88D6タンパク質、又は配列番号70で示すアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、オレアナン型トリテルペノイドにおけるC11位を酸化する活性を有するCYP88D6タンパク質オルソログのいずれか、
(2)配列番号71、87、又は88のいずれかで示すアミノ酸配列からなるCYP72A154タンパク質、配列番号71、87、又は88のいずれかで示すアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、オレアナン型トリテルペノイドにおけるC30位を酸化する活性を有する変異型CYP72A154タンパク質、又は配列番号71、87、又は88のいずれかで示すアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、オレアナン型トリテルペノイドにおけるC30位を酸化する活性を有するCYP72A154タンパク質オルソログのいずれか、及び
(3)配列番号72で示すアミノ酸配列からなるUGT73P12タンパク質、配列番号72で示すアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、オレアナン型トリテルペノイドモノグルクロニドにおけるグルクロン酸のC2位のヒドロキシ基にグルクロン酸を転移する活性を有する変異型UGT73P12タンパク質、又は配列番号72で示すアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、オレアナン型トリテルペノイドモノグルクロニドにおけるグルクロン酸のC2位のヒドロキシ基にグルクロン酸を転移する活性を有するUGT73P12タンパク質オルソログのいずれか
【請求項2】
前記内因性水酸化酵素がオレアナン型トリテルペノイドにおけるC21位、C22位、及びC24位を水酸化する活性を有する、請求項1に記載の植物形質転換体。
【請求項3】
前記代謝経路において、以下の(a)~(d)の内因性酵素のうち1つ以上の発現又は活性がさらに抑制又は阻害されている、請求項1又は2に記載の植物形質転換体。
(a)オレアナン型トリテルペノイドモノグルクロニドにおけるC3位のグルクロン酸のC2位のヒドロキシ基にガラクトース又はアラビノースを転移する活性を有する内因性糖転移酵素、
(b)オレアナン型トリテルペノイドのC3位のグルクロン酸+ガラクトース又はグルクロン酸+アラビノースのC2位のヒドロキシ基にグルコース又はラムノースを転移する活性を有する内因性糖転移性酵素、
(c)オレアナン型トリテルペノイドにおけるC22位のヒドロキシ基にアラビノースを転移する活性を有する内因性糖転移酵素、及び
(d)オレアナン型トリテルペノイドにおけるC22位のアラビノースのC3位のヒドロキシ基にキシロース又はグルコースを転移する活性を有する内因性糖転移酵素
【請求項4】
以下の(4)で示すタンパク質をコードする塩基配列を含む発現ベクターをさらに含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の植物形質転換体。
(4)配列番号91、69、又は93で示すアミノ酸配列からなるCSyGTタンパク質、配列番号91、69、又は93で示すアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、オレアナン型トリテルペノイドにおけるC3位のヒドロキシ基にグルクロン酸を転移する活性を有する変異型CSyGTタンパク質、又は配列番号91、69、又は93で示すアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、オレアナン型トリテルペノイドにおけるC3位のヒドロキシ基にグルクロン酸を転移する活性を有するCSyGTタンパク質オルソログのいずれか
【請求項5】
前記植物がβ-アミリンを生合成できる、請求項1~4のいずれか一項に記載の植物形質転換体。
【請求項6】
前記ダイズ属(Glycine)がダイズである、請求項1~5のいずれか一項に記載の植物形質転換体。
【請求項7】
種子又は不定胚である、請求項1~6のいずれか一項に記載の植物形質転換体。
【請求項8】
β-アミリンを含むダイズ属(Glycine)由来の植物を用いてグリチルリチンを製造する方法であって、
前記植物において、オレアナン型トリテルペノイドにおけるC21位、C22位、及びC24位を水酸化する活性を有する内因性水酸化酵素の発現又は活性を抑制又は阻害する抑制/阻害工程、
以下の(1)~(3)で示す3種類のタンパク質をコードする塩基配列を含む発現ベクターを前記植物に導入する導入工程
(1)配列番号70で示すアミノ酸配列からなるCYP88D6タンパク質、配列番号70で示すアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、オレアナン型トリテルペノイドにおけるC11位を酸化する活性を有する変異型CYP88D6タンパク質、又は配列番号70で示すアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、オレアナン型トリテルペノイドにおけるC11位を酸化する活性を有するCYP88D6タンパク質オルソログのいずれか、
(2)配列番号71、87、又は88のいずれかで示すアミノ酸配列からなるCYP72A154タンパク質、配列番号71、87、又は88のいずれかで示すアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、オレアナン型トリテルペノイドにおけるC30位を酸化する活性を有する変異型CYP72A154タンパク質、又は配列番号71、87、又は88のいずれかで示すアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、オレアナン型トリテルペノイドにおけるC30位を酸化する活性を有するCYP72A154タンパク質オルソログのいずれか、及び
(3)配列番号72で示すアミノ酸配列からなるUGT73P12タンパク質、配列番号72で示すアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、オレアナン型トリテルペノイドモノグルクロニドにおけるグルクロン酸のC2位のヒドロキシ基にグルクロン酸を転移する活性を有する変異型UGT73P12タンパク質、又は配列番号72で示すアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、オレアナン型トリテルペノイドモノグルクロニドにおけるグルクロン酸のC2位のヒドロキシ基にグルクロン酸を転移する活性を有するUGT73P12タンパク質オルソログのいずれか、並びに
前記抑制/阻害工程及び前記導入工程後に得られる植物形質転換体を培養する培養工程を含む、前記製造方法。
【請求項9】
前記植物形質転換体の不定胚を培養することを含み、前記不定胚は、前記内因性水酸化酵素の発現又は活性が抑制又は阻害されており、かつ前記(1)~(3)で示す3種類のタンパク質をコードする塩基配列を含む発現ベクターを含む、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記植物がβ-アミリンを生合成できる、請求項8又は9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記培養工程後の前記植物形質転換体から種子を取得する工程をさらに含み、前記種子は、前記内因性水酸化酵素の発現又は活性が抑制又は阻害されており、かつ前記(1)~(3)で示す3種類のタンパク質をコードする塩基配列を含む発現ベクターを含む、請求項8に記載の製造方法。
【請求項12】
前記種子からグリチルリチンを含む抽出液を抽出する工程をさらに含む、請求項11に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリチルリチン製造用の植物形質転換体、当該植物形質転換体から得られる種子又は不定胚、及びグリチルリチンを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カンゾウ(Glycyrrhiza uralensis:グリキルリザ ウラレンシス)は、マメ科の多年生草本植物である。この植物の根部及びストロン(stolon:地下茎)は、漢方上重要な生薬「甘草」として知られており、世界的に広く利用されている。甘草の主活性成分は、オレアナン型トリテルペノイドサポニンのグリチルリチン(glycyrrhizin)である(非特許文献1)。
【0003】
グリチルリチンは、砂糖の数百倍の甘味を持ち、抗炎症作用、肝臓賦活化作用等があることから、甘味料、機能性食品、医薬品として幅広く利用されている。昨今、グリチルリチンの需要が増大しているが、原料であるカンゾウは希少植物の代表格として挙げられており、供給量は制限されている。それ故、カンゾウからの抽出に依らないグリチルリチンの代替生産法が求められてきた。
【0004】
グリチルリチンは、多くの植物に共通に含まれ、かつオレアナン型トリテルペノイドに属するβ-アミリンを出発物質として、2段階の酸化反応及び2段階の配糖化反応により、カンゾウを始めとする一部の植物種において生合成される(図1)。本発明者らは、グリチルリチンのアグリコン(非糖部)であるグリチルレチン酸をβ-アミリンから生合成するために必要な4種の酵素、すなわち前記2段階の酸化反応の各々を触媒する酸化酵素CYP88D6(特許文献1)及びCYP72A154(特許文献2)、並びに前記2段階の配糖化反応の各々を触媒する糖転移酵素CSyGT(特許文献3)及びUGT73P12(特許文献4)の同定に成功した。
【0005】
グリチルリチン生合成に関わる上記酵素群をカンゾウ以外の栽培が容易な植物に導入すれば、カンゾウに依らないグリチルリチンの生産法を確立することができる。例えば、カンゾウと同じマメ科(Fabaceae)に属するダイズ(Glycine max)は、β-アミリンを含み、ソヤサポニンと総称されるトリテルペノイドサポニンを産生するが、グリチルリチンを産生することはできない(図3a)。そこで、ダイズにグリチルリチン生合成に関わる上記酵素群を導入すれば、ダイズを用いたグリチルリチンの生産法を確立することができると考えられる。
【0006】
実際、ダイズにおいて、β-アミリンから、グリチルリチンのアグリコンであるグリチルレチン酸を合成する試みが非特許文献2に開示されている。非特許文献2では、ダイズにおいてカンゾウ由来の酸化酵素CYP88D6及びCYP72A154を過剰発現することで、グリチルレチン酸の生合成を試みている。しかしながら、この実験では、中間生産物である11-オキソ-β-アミリン及び30-ヒドロキシ-11-オキソ-β-アミリンが確認されただけで、目的のグリチルレチン酸は確認されなかった。それ故、β-アミリンからグリチルリチンまでの生合成経路が明らかになった後もカンゾウ及びその近縁種以外の植物内ではグリチルリチンの生産は、不可能と考えられていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5526323号
【文献】特許第5771846号
【文献】特願2019-190060
【文献】特許第6344774号
【非特許文献】
【0008】
【文献】Gibson, M. R., 1978, Lloydia-the journal of Natural Products, 41(4): 348-354
【文献】Suzuki, H. et al., 2013, The Handbook of Plant Metabolomics, Chapter 12
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、グリチルリチンを製造することができる植物形質転換体、及び前記植物形質転換体を用いたグリチルリチンを製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記技術的背景の下、本発明者らは再度植物形質転換体によるグリチルリチンの製造を試みた。そして、上記課題を解決するために鋭意研究を行い、カンゾウ及びその近縁種以外の植物を用いてグリチルリチンを生合成させるためには、その生合成上障害となり得る全ての内因性酵素の発現を抑制する必要があるという結果に至った。そしてそのような発現抑制植物をグリチルリチンの生合成に必要な遺伝子群で形質転換することで、初めてグリチルリチンの生合成に成功した。本発明は、当該知見に基づくものであって以下を提供する。
【0011】
(1)グリチルリチン製造用の植物形質転換体であって、
β-アミリンからオレアナン型トリテルペノイド及びその配糖体を合成する代謝経路においてアグリコン部のC11位及びC30位以外の炭素位を水酸化する全ての内因性水酸化酵素の発現又は活性が抑制又は阻害されており、かつ
以下の[1]~[3]で示す3種類のタンパク質をコードする塩基配列を含む発現ベクターを含む、前記植物形質転換体。
[1]CYP88D6タンパク質、CYP88D6タンパク質のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有する変異型CYP88D6タンパク質、又はCYP88D6タンパク質のアミノ酸配列と60%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有するCYP88D6タンパク質オルソログのいずれか、
[2]CYP72A154タンパク質、CYP72A154タンパク質のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有する変異型CYP72A154タンパク質、又はCYP72A154タンパク質のアミノ酸配列と60%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有するCYP72A154タンパク質オルソログのいずれか、及び
[3]UGT73P12タンパク質、UGT73P12タンパク質のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有する変異型UGT73P12タンパク質、又はUGT73P12タンパク質のアミノ酸配列と60%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有するUGT73P12タンパク質オルソログのいずれか
(2)CYP88D6タンパク質が配列番号70で示すアミノ酸配列からなり、CYP72A154タンパク質が配列番号71、87、又は88のいずれかで示すアミノ酸配列からなり、及びUGT73P12タンパク質が配列番号72で示すアミノ酸配列からなる、(1)に記載の植物形質転換体。
(3)前記内因性水酸化酵素がオレアナン型トリテルペノイドにおけるC21位、C22位、及びC24位を水酸化する活性を有する、(1)又は(2)に記載の植物形質転換体。
(4)前記代謝経路において、以下の(a)~(d)の内因性酵素のうち1つ以上の発現又は活性がさらに抑制又は阻害されている、(1)~(3)のいずれかに記載の植物形質転換体。
(a)オレアナン型トリテルペノイドモノグルクロニドにおけるC3位のグルクロン酸のC2位のヒドロキシ基にガラクトース又はアラビノースを転移する活性を有する内因性糖転移酵素、
(b)オレアナン型トリテルペノイドのC3位のグルクロン酸+ガラクトース又はグルクロン酸+アラビノースのC2位のヒドロキシ基にグルコース又はラムノースを転移する活性を有する内因性糖転移性酵素、
(c)オレアナン型トリテルペノイドにおけるC22位のヒドロキシ基にアラビノースを転移する活性を有する内因性糖転移酵素、及び
(d)オレアナン型トリテルペノイドにおけるC22位のアラビノースのC3位のヒドロキシ基にキシロース又はグルコースを転移する活性を有する内因性糖転移酵素
(5)前記発現又は活性の抑制又は阻害が酵素をコードする遺伝子の遺伝子ノックダウン又はノックアウトである、(1)~(4)のいずれかに記載の植物形質転換体。
(6)以下の[4]で示すタンパク質をコードする塩基配列を含む発現ベクターをさらに含む、(1)~(5)のいずれかに記載の植物形質転換体。
[4]CSyGTタンパク質、CSyGTタンパク質のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有する変異型CSyGTタンパク質、又はCSyGTタンパク質のアミノ酸配列と60%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有するCSyGTタンパク質オルソログのいずれか
(7)CSyGTタンパク質が配列番号91、69、又は93で示すアミノ酸配列からなる、(6)に記載の植物形質転換体。
(8)前記植物がβ-アミリンを生合成できる、(1)~(7)のいずれかに記載の植物形質転換体。
(9)マメ科(Fabaceae)植物に由来する、(8)に記載の植物形質転換体。
(10)前記マメ科植物がダイズである、(9)に記載の植物形質転換体。
(11)(1)~(10)のいずれかに記載の植物形質転換体から得られる種子又は不定胚。
【0012】
(12)β-アミリンを含む植物を用いてグリチルリチンを製造する方法であって、
オレアナン型トリテルペノイドにおけるC21位、C22位、及びC24位を水酸化する活性を有する内因性水酸化酵素の発現又は活性を抑制又は阻害する工程、
以下の[1]~[3]で示す3種類のタンパク質をコードする塩基配列を含む発現ベクターを植物に導入する工程
[1]CYP88D6タンパク質、CYP88D6タンパク質のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有する変異型CYP88D6タンパク質、又はCYP88D6タンパク質のアミノ酸配列と60%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有するCYP88D6タンパク質オルソログのいずれか、
[2]CYP72A154タンパク質、CYP72A154タンパク質のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有する変異型CYP72A154タンパク質、又はCYP72A154タンパク質のアミノ酸配列と60%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有するCYP72A154タンパク質オルソログのいずれか、及び
[3]UGT73P12タンパク質、UGT73P12タンパク質のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有する変異型UGT73P12タンパク質、又はUGT73P12タンパク質のアミノ酸配列と60%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有するUGT73P12タンパク質オルソログのいずれか、並びに
前記工程後に得られる植物形質転換体を培養する工程
を含む、前記製造方法。
(13)植物形質転換体の不定胚を培養する、(12)に記載の製造方法。
(14)前記植物がβ-アミリンを生合成できる、(12)又は(13)に記載の製造方法。
(15)前記工程後に得られる植物形質転換体から種子を取得する工程をさらに含む、(12)~(14)のいずれかに記載の製造方法。
(16)前記種子からグリチルリチンを含む抽出液を抽出する工程をさらに含む、(15)に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明のグリチルリチン製造用の植物形質転換体、及びグリチルリチンを製造する方法によれば、カンゾウ又はその近縁種以外の様々な植物においてグリチルリチンを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】カンゾウにおけるβ-アミリンからグリチルリチンに至る生合成経路を示す図である。β-アミリンからグリチルリチンに至る生合成経路において中間生産物として生じる各オレアナン型トリテルペノイド、各変換反応に関与する酵素(CYP88D6、CYP72A154、CSyGT及びUGT73P12)の触媒位置を示す。
図2】β-アミリンを構成する各炭素原子の位置番号を示す図である。
図3】β-アミリンを出発物質とする、(a)ダイズと(b)カンゾウにおける生合成経路の差異を示す概要図である。ダイズでは、β-アミリンのC21位、C22位、及びC24位の炭素位がSg-5、CYP72A61、及びCYP93E1によって水酸化され、ソヤサポゲノールAが生合成される。さらにC3位及びC22位のヒドロキシ基にGmCSyGT、Sg-4、GmSGT2、Sg-3、及びSg-1等によって第1糖、第2糖、及び/又は第3糖が付加される。カンゾウでは、β-アミリンのC11位及びC30位の炭素位がCYP88D6及びCYP72A154によって酸化され、グリチルレチン酸が生合成される。さらにC3位のヒドロキシ基にGuCSyGT及びUGT73P12によって第1糖及び第2糖が付加する。図中、オレアナン型トリテルペノイド及び各糖残基において修飾を受ける炭素位の番号を示す。GlcUAはグルクロン酸、Galはガラクトース、Araはアラビノース、Rhaはラムノース、Glcはグルコース、Xylはキシロースを示す。
図4】組換えダイズ不定胚における(a)各種酵素の発現の概要と(b)各種遺伝子の発現をRT-PCRにより解析した結果を示す図である。「Jack」はソヤサポニンのC3位第2糖転移酵素Sg-4の自然変異体である。「JKMT」は、ソヤサポニンのC22位第2糖転移酵素Sg-1の自然変異体、C3位第3糖転移酵素Sg-3の自然変異体、C3位第2糖転移酵素Sg-4の自然変異体、及びC21位水酸化酵素Sg-5の自然変異体を交配し、変異を集積させた4重変異体である。「11-2」は、JKMT株において、CYP72A61、CYP93E1、及びGmSGT2の各遺伝子をRNAiによってノックダウンし、さらにカンゾウ由来のグリチルリチン生合成遺伝子であるCYP88D6、CYP72A154、及びUGT73P12の各遺伝子を導入した組換えダイズである。組換えダイズ「11-2-1-15」及び「11-2-1-16」は、「11-2」から再生させた植物から再度不定胚を誘導した後代である。RT-PCRでは陽性対照としてGy1を使用した。
図5】各種ダイズ株に由来する乾燥粉末サンプルの代謝物分析結果を示す図である。Jack株、JKMT株、及び組換えダイズ(JKMT株において、CYP72A61、CYP93E1、及びGmSGT2の各遺伝子をノックダウンし、さらにカンゾウ由来のCYP88D6、CYP72A154、及びUGT73P12の各遺伝子を導入した株;図4の「11-2」に対応する組換えダイズ)に由来する乾燥粉末サンプル、及びグリチルリチンの標準化合物について分析した。
図6】組換えダイズ不定胚に由来するカラム保持時間9 min(図5参照)のサンプルに対して質量分析を行った結果を示す図である。(a)は組換えダイズ(JKMT株において、CYP72A61、CYP93E1、及びGmSGT2の各遺伝子をノックダウンし、さらにカンゾウ由来のCYP88D6、CYP72A154、及びUGT73P12の各遺伝子を導入した株;図4における組換えダイズ「11-2」に対応する)の質量分析の結果を示し、(b)はグリチルリチンの標準化合物を用いた質量分析の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.植物形質転換体
1-1.概要
本発明の第1の態様は、グリチルリチン製造用の植物形質転換体である。本発明のグリチルリチン製造用の植物形質転換体は、特定の酵素の発現又は活性が抑制又は阻害されている一方、グリチルリチン生合成に関わる複数の酵素をコードする発現ベクターを包含する。本発明の植物形質転換体は、β-アミリンからグリチルリチンを生合成することができ、それによりグリチルリチンの生物生産系として利用することができる。
【0016】
1-2.定義
本明細書で頻用する用語について、以下で定義をする。
本明細書において「オレアナン型トリテルペノイド」とは、5環性のオレアナン骨格を有し、6個のイソプレン単位からなるC30のイソプレノイドをいう。本発明では最終目的物であるグリチルリチンの非糖部分(アグリコン)に相当する。本明細書に記載のオレアナン型トリテルペノイドは、特に断りの無い限り、3位の炭素にヒドロキシ基(OH基)を有するオレアナン型トリテルペノイドを意味する。オレアナン型トリテルペノイドの具体例として、限定はしないが、β-アミリン、11-オキソ-β-アミリン、30-ヒドロキシ-11-オキソ-β-アミリン、30-ヒドロキシ-β-アミリン、24-ヒドロキシ-β-アミリン、11-デオキソグリチルレチン酸、グリチルレチン酸、オレアノール酸、メジカゲニン酸、ソヤサポゲノールB、ソヤサポゲノールA、α-ボスウェリン酸、ヘデラゲニン、カメリアゲニン、及びサイコゲニン、プラチコジゲニン、プレセネギン、マスリン酸等が挙げられる。
【0017】
本明細書において「複数個」とは、例えば、2~20個、2~15個、2~10個、2~7個、2~5個、2~4個又は2~3個をいう。また、「アミノ酸同一性」とは、比較する2つのポリペプチドのアミノ酸配列において、アミノ酸残基の一致数が最大となるように、必要に応じて一方又は双方に適宜ギャップを挿入して整列化(アラインメント)したときに、全アミノ酸残基数における一致アミノ酸残基数の割合(%)をいう。アミノ酸同一性を算出するための2つのアミノ酸配列の整列化は、Blast、FASTA、ClustalW等の既知プログラムを用いて行うことができる。
【0018】
本明細書において「(アミノ酸の)置換」とは、天然のタンパク質を構成する20種類のアミノ酸間において、電荷、側鎖、極性、芳香族性等の性質の類似する保存的アミノ酸群内での置換をいう。例えば、低極性側鎖を有する無電荷極性アミノ酸群(Gly, Asn, Gln, Ser, Thr, Cys, Tyr)、分枝鎖アミノ酸群(Leu, Val, Ile)、中性アミノ酸群(Gly, Ile, Val, Leu, Ala, Met, Pro)、親水性側鎖を有する中性アミノ酸群(Asn, Gln, Thr, Ser, Tyr,Cys)、酸性アミノ酸群(Asp, Glu)、塩基性アミノ酸群(Arg, Lys, His)、芳香族アミノ酸群(Phe, Tyr, Trp)内での置換が挙げられる。これらの群内でのアミノ酸置換であれば、ポリペプチドの性質に変化を生じにくいことが知られているため好ましい。
【0019】
本明細書においてマメ科(Fabaceae)とは、植物分類学上のマメ科に属する全ての植物種が包含される。例えば、ラッカセイ属(Arachis)植物、ヒヨコマメ属(Cicer)植物、アスパラトゥス属(Aspalathus)植物、ツルサイカチ属(Dalbergia)植物、シタン属(Pterocarpus)植物、ヌスビトハギ属(Desmodium)植物、ハギ属(Lespedeza)植物、フジボグサ属(Uraria)植物、ゲンゲ連(Galegeae)植物、ゲンゲ属(Astragalus)植物、カンゾウ属(Glycyrrhiza)植物、オヤマノエンドウ属(Oxytropis)植物、ギンヨウエニシダ属(Augyrocytisus)植物、エニシダ属(Cytisus)植物、ヒトツバエニシダ属(Genista)植物、レタマ属(Spartium)植物、イワオウギ属(Hedysarum)植物、クアスタマメ属(Cyamopsis)植物、コマツナギ属(Indigofera)植物、ミヤコグサ属(Lotus)植物、ルピナス属(Lupinus)植物、フジ属(Wisteria)植物、キマメ属(Cajanus)植物、ナタマメ属(Canavalia)植物、デイゴ属(Erythrina)植物、ダイズ属(Glycine)植物、ハーデンベルギア属(Hardenbergia)植物、フジマメ属(Lablab)植物、トビカズラ属(Mucuna)植物、インゲン属(Phaseolus)植物、シカクマメ属(Psophocarpus)植物、クズ属(Pueraria)植物、ササゲ属(Vigna)植物、ハリエンジュ属(Robinia)植物、カスタノスペルマム属(Castanospermum)植物、イヌエンジュ属(Maackia)植物、オルモシア属(Ormosia)植物、クララ属(Sophora)植物、エンジュ属(Styphnolobium)植物、ウマゴヤシ属(Medicago)植物、フェヌグリーク属(Trigonella)植物、シャジクソウ属(Trifolium)植物、レンリソウ属(Lathyrus)植物、ヒラマメ属(Lens)植物、エンドウ属(Pisum)植物及びソラマメ属(Vicia)植物が挙げられる。
【0020】
本明細書において「その後代」とは、前記植物形質転換体第1世代の有性生殖を介した子孫であって、後述の「1-3-3.標的内因性酵素」で述べる内因性酵素の発現又は活性が抑制又は阻害されており、かつ、後述の「1-3-4.包含する発現ベクター」で述べる外因性グリチルリチン生合成酵素の発現ベクターを保持する宿主植物を意味する。例えば、本発明の植物形質転換体の実生が該当する。後代の世代は問わない。
【0021】
1-3.構成
1-3-1.構成の概要
本明細書における「植物形質転換体」は、β-アミリンからグリチルリチンを生合成できるように遺伝子改変された、宿主及びその後代をいう。より具体的には、本発明の植物形質転換体は、「1-3-3.標的内因性酵素」で述べるようにグリチルリチン生合成の障害となり得る内因性酵素の発現又は活性が抑制又は阻害されており、かつ、「1-3-4.包含する発現ベクター」で述べるようにグリチルリチン生合成に関わる外因性グリチルリチン生合成酵素の発現ベクターを包含する宿主及びその後代である。本発明の植物形質転換体は遺伝子組換え体であってもよい。
【0022】
1-3-2.宿主
本発明において形質転換される宿主はカンゾウ(G. uralensis)以外の植物である。宿主となる植物種は、限定しない。グリチルリチン生合成の出発物質であるβ-アミリンは、多くの植物が生合成することができる。本発明に使用する宿主は、β-アミリンを生合成できる植物、あるいは生合成できない植物のいずれであってもよい。すなわち、宿主におけるβ-アミリンの生合成は、内因的な合成系に基づくものであってもよいし、外因的な合成系に基づくものであってもよい。好ましくは、β-アミリンを生合成できる植物、すなわち内因的な合成系を有する宿主を利用することができる。例えば、アカザ科(Chenopodiaceae)、ウコギ科(Araliaceae)、キキョウ科(Campanulaceae)、セリ科(Apiaceae)、ヒメハギ科(Polygalaceae)、又はマメ科(Fabaceae)が挙げられる。より好ましくは、β-アミリン合成能が高く、繁殖力が旺盛で、育成しやすい植物種、例えばマメ科植物である。例えば、ダイズ属(Glycine)に属する種、ミヤコグサ属(Lotus)に属する種等が挙げられる。ダイズ属(Glycine)のダイズ(Glycine max)は、栽培が容易であり、その種子は様々な食品や飲料への加工が可能であるため、本発明に使用する宿主として好適である。
【0023】
本発明の植物形質転換体において宿主として使用する植物は、植物細胞若しくは植物体である。
本発明の植物形質転換体は、同一の遺伝情報を有するクローン体を包含する。植物形質転換体第1世代から採取した植物体の一部、例えば、表皮、師部、柔組織、木部若しくは維管束のような植物組織、葉、花弁、茎、根若しくは種子のような植物器官、又は植物細胞から植物組織培養法や挿し木、接木若しくは取り木によって得られるクローン体、あるいは根茎、塊根、球茎、ランナー等のような植物形質転換体第1世代から無性生殖で得られる栄養繁殖器官より新たに生じた新たなクローン体、植物形質転換体第1世代若しくはそれに由来するクローン体から脱分化処理によって誘導される不定胚等も本発明の植物形質転換体に含まれる。
【0024】
1-3-3.標的内因性酵素
本発明の植物形質転換体は、グリチルリチン生合成の障害となり得る内因性酵素の発現又は活性が抑制又は阻害されている。
本明細書では、本発明の植物形質転換体において発現又は活性を抑制又は阻害する標的となる内因性酵素を「標的内因性酵素」という。
以下では、標的内因性酵素を、植物形質転換体において、(1)必須標的内因性酵素と、(2)選択的標的内因性酵素に分けて説明する。
【0025】
(1)必須標的内因性酵素
本発明において、「必須標的内因性酵素」とは、発現又は活性が抑制又は阻害されることが必須である標的内因性酵素をいう。
【0026】
本発明の植物形質転換体において、「必須標的内因性酵素」とは、β-アミリンからオレアナン型トリテルペノイド及びその配糖体を合成する代謝経路においてアグリコン部のC11位及びC30位以外の炭素位を水酸化する全ての内因性水酸化酵素が標的となり得る(以下、しばしば「標的内因性水酸化酵素」と表記する)。なお、アグリコン部のC11位及びC30位を水酸化する酵素は対象から除かれる。C11位及びC30位の水酸化は、グリチルリチンに必要だからである。
【0027】
ここで、「β-アミリンから合成されるオレアナン型トリテルペノイド」の具体的な種類は、宿主として使用する植物種によって異なる。限定しないが、例えば11-オキソ-β-アミリン、30-ヒドロキシ-11-オキソ-β-アミリン、30-ヒドロキシ-β-アミリン、24-ヒドロキシ-β-アミリン、11-デオキソグリチルレチン酸、グリチルレチン酸、オレアノール酸、メジカゲニン酸、21-ヒドロキシ-β-アミリン、ソホラジオール、カントニエンシストリオール、ソヤサポゲノールA、ソヤサポゲノールB、α-ボスウェリン酸、ヘデラゲニン、カメリアゲニン、サイコゲニン、プラチコジゲニン、プレセネギン、マスリン酸が挙げられる(Man S. et al., Fitoterapia. 2010 Oct;81(7):703-14.; Lacaille-Dubois M.A., and Mitaine-Offer A.C., Phytochem Rev, 2005, 4:139.; Fukumitsu S., Mol Nutr Food Res., 2016 Feb;60(2):399-409.)。例えば、宿主がダイズである場合には、β-アミリンから合成されるオレアナン型トリテルペノイドには、21-ヒドロキシ-β-アミリン、ソホラジオール、カントニエンシストリオール、ソヤサポゲノールA、ソヤサポゲノールB、24-ヒドロキシ-β-アミリン、オレアノール酸等が含まれる。
【0028】
また、前記「その配糖体」の具体的な種類も、宿主として使用する植物種によって異なる。具体的には、ソヤサポニンI、ソヤサポゲノールBモノグルクロニド、グリチルレチン酸モノグルクロニド、DDMPサポニン、グループAサポニン、又はそのさらなる配糖体等が挙げられる。例えば、宿主がダイズである場合には、β-アミリンから合成されるオレアナン型トリテルペノイドの配糖体には、DDMPサポニン、グループAサポニン等が含まれる。
【0029】
本発明の植物形質転換体における標的内因性水酸化酵素は、宿主として選択する植物種によって異なる。宿主植物に含まれる内因性水酸化酵素の具体的な種類は、植物種によって異なるためである。具体的な標的内因性水酸化酵素は、限定しないが、例えばC21位水酸化酵素、C22位水酸化酵素、及びC24位水酸化酵素、C1位水酸化酵素、C2位水酸化酵素、C12位酸化酵素、C16位水酸化酵素、C23位水酸化酵素、C27位水酸化酵素、C28位水酸化酵素、C29位水酸化酵素等が挙げられる。
【0030】
例えば、宿主植物種がダイズである場合、必須標的内因性水酸化酵素は、それぞれ配列番号73~75で示すアミノ酸配列を有するC21位水酸化酵素(Sg-5)、C22位水酸化酵素(CYP72A61)、及びC24位水酸化酵素(CYP93E1)であってもよい。ダイズのC21位水酸化酵素(Sg-5)、C22位水酸化酵素(CYP72A61)、及びC24位水酸化酵素(CYP93E1)をコードする遺伝子の塩基配列としては、それぞれ配列番号76~78で示す塩基配列が挙げられる。
【0031】
本明細書において「内因性酵素の発現又は活性が抑制又は阻害されている」とは、内因性酵素の発現又は活性が野生型の宿主のそれと比較して低下していることを意味する。本発明の植物形質転換体において内因性酵素の発現又は活性が低下する程度は、植物形質転換体においてグリチルリチンが産生され、かつ、植物形質転換体の生存及び/又は生育が可能である限り、特に限定しない。例えば、野生型の宿主に比べて、内因性酵素の発現又は活性が、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、99%以上抑制、又は100%阻害されていてもよい。
【0032】
本発明の植物形質転換体において、「発現又は活性を抑制又は阻害」する具体的方法は限定しない。その具体的な方法については、第2態様の記載に準ずる。
【0033】
(2)選択的標的内因性酵素
本発明において、「選択的標的内因性酵素」とは、選択的に発現又は活性が抑制又は阻害される標的内因性酵素をいう。
本発明の植物形質転換体において、「選択的標的内因性酵素」とは、グリチルリチン生合成の障害となり得る内因性糖転移酵素である。
【0034】
本発明の植物形質転換体における標的内因性酵素は、グリチルリチンには存在しない糖修飾をオレアナン型トリテルペノイドに付加する糖転移酵素である。具体的には、β-アミリンからオレアナン型トリテルペノイド及びその配糖体を合成する代謝経路において、アグリコン部のC11位及びC30位以外で水酸化された炭素位に第1糖、第2糖、又は第3糖等を転移する糖転移酵素や、前記代謝経路において、オレアナン型トリテルペノイドモノグルクロニドにおけるC3位のグルクロン酸のC2位以外のヒドロキシ基に糖を転移する糖転移酵素、あるいはオレアナン型トリテルペノイドモノグルクロニドにおけるC3位のグルクロン酸のC2位のヒドロキシ基にガラクトース又はアラビノース以外の糖を転移する活性を有する内因性糖転移酵素が該当する。本発明の植物形質転換体における具体的な標的内因性酵素としては、β-アミリンからオレアナン型トリテルペノイド及びその配糖体を合成する代謝経路において、(a)オレアナン型トリテルペノイドモノグルクロニドにおけるC3位のグルクロン酸のC2位のヒドロキシ基にガラクトース又はアラビノースを転移する活性を有する内因性糖転移酵素、(b)オレアナン型トリテルペノイドのC3位のグルクロン酸+ガラクトース又はグルクロン酸+アラビノースのC2位のヒドロキシ基にグルコース又はラムノースを転移する活性を有する内因性糖転移性酵素、(c)オレアナン型トリテルペノイドにおけるC22位のヒドロキシ基にアラビノースを転移する活性を有する内因性糖転移酵素、及び(d)オレアナン型トリテルペノイドにおけるC22位のアラビノースのC3位のヒドロキシ基にキシロース又はグルコースを転移する活性を有する内因性糖転移酵素が挙げられる。上記(a)~(d)のいずれかに該当するダイズの内因性糖転移酵素の具体例には、上記(a)に該当し、配列番号79で示すアミノ酸配列を有するSg-4、上記(a)に該当し、配列番号81で示すアミノ酸配列を有するGmSGT2、上記(b)に該当し、配列番号80で示すアミノ酸配列を有するSg-3、及び上記(c)に該当し、配列番号82で示すアミノ酸配列を有するSg-1が挙げられ、各酵素をコードする遺伝子の塩基配列としては、それぞれ配列番号83、配列番号85、配列番号84、及び配列番号86で示す塩基配列が挙げられる。なお、Sg-4とGmSGT2は共に上記(a)に該当するが、Sg-4はアラビノースを転移する活性を有するのに対して、GmSGT2はガラクトースを転移する活性を有する点で異なる(Takagi K., et al., Phytochemistry. 2018 Dec;156:96-105.)。
【0035】
本発明の植物形質転換体において、発現又は活性を抑制又は阻害する標的として選択する内因性糖転移酵素の数は、限定しない。例えば、標的として、0、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、又は全ての内因性糖転移酵素を選択してもよい。あるいは、発現又は活性を抑制又は阻害する標的として、1つ以上、2つ以上、3つ以上、4つ以上、5つ以上、6つ以上、7つ以上、又は8つ以上の内因性糖転移酵素を選択してもよい。
【0036】
1-3-4.包含する発現ベクター
本発明の植物形質転換体は、グリチルリチン生合成に関わる外因性の酵素(以下、しばしば「外因性グリチルリチン生合成酵素」と表記する)の発現ベクターを包含する。
【0037】
本明細書において「外因性グリチルリチン生合成酵素」とは、β-アミリンからグリチルリチンに至る生合成経路を構成する各ステップのいずれかを触媒する活性を有するポリペプチド又はその活性断片である。限定はしないが、宿主とする植物には本来含まれていないものが好ましい。具体的には、β-アミリンの第1段階酸化反応及び第2段階酸化反応、オレアナン型トリテルペノイドの第1段階配糖化反応及び第2段階配糖化反応の各々を触媒する活性を有する4種のポリペプチド又はその活性断片が該当する。
【0038】
本明細書において「外因性グリチルリチン生合成酵素の発現ベクター」とは、外因性グリチルリチン生合成酵素をコードする塩基配列を含む発現ベクターを意味する。
【0039】
本発明の植物形質転換体は、(1)3種の必須発現ベクターを包含する場合と、選択的発現ベクターを包含し、計4種以上の発現ベクターを包含する場合のいずれであってもよい。
【0040】
以下、それぞれの場合について具体的に説明する。なお、以下の(1)及び(2)では、4種の発現ベクターをそれぞれ別個に記載しているが、各酵素の遺伝子は、それぞれ異なる発現ベクターに含まれていてもよいし、同一の発現ベクターに2種以上含まれていてもよい。
【0041】
(1)必須発現ベクター
本発明において、「必須発現ベクター」とは3種の必須の外因性グリチルリチン生合成酵素の発現ベクターをいう。
【0042】
本発明の植物形質転換体が包含する必須発現ベクターは、以下の(a)~(c)で示す3種類の発現ベクターからなる。
【0043】
(a)CYP88D6発現ベクター
「CYP88D6発現ベクター」は、オレアナン型トリテルペノイドにおけるC11位を酸化する活性を有するポリペプチドを発現可能な状態で含む発現ベクターである。前記活性を有するポリペプチドとして、例えばCYP88D6タンパク質若しくはその活性断片、変異型CYP88D6タンパク質、又はCYP88D6タンパク質オルソログ(本明細書では、しばしば「CYP88D6タンパク質等」と表記する)のいずれかをコードする遺伝子及びその断片(本明細書では、しばしば「CYP88D6遺伝子等」と表記する)が挙げられる。したがって、植物形質転換体内ではCYP88D6発現ベクターによりCYP88D6タンパク質等が発現する。
【0044】
前記CYP88D6タンパク質の具体例としては、限定はしないが、配列番号70で示すアミノ酸配列からなるカンゾウ由来のCYP88D6タンパク質が挙げられる。
【0045】
前記変異型CYP88D6タンパク質としては、オレアナン型トリテルペノイドにおけるC11位を酸化する活性を有し、配列番号70で示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチドが例示される。前記第1段階酸化の活性を有する変異型CYP88D6には、限定はしないが、具体的には、スプライシングバリアントやSNPs等に基づく突然変異体等が挙げられる。
【0046】
前記CYP88D6タンパク質オルソログとしては、配列番号70で示すアミノ酸配列と60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、82%以上、85%以上、87%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上で、100%未満の同一性を有するアミノ酸配列を有するオルソログが例示される。CYP88D6タンパク質は、例えば、レンゲ(Astragalus sinicus)等の種においてオルソログが存在し得る。CYP88D6タンパク質オルソログの具体例として、配列番号96で示すアミノ酸配列からなり、CYP88D6タンパク質と79%以上のアミノ酸同一性を有するレンゲ(Astragalus sinicus)CYP88D12が挙げられる。
【0047】
本明細書において、CYP88D6タンパク質の「活性断片」とは、CYP88D6タンパク質の一部領域を含み、かつその断片がオレアナン型トリテルペノイドにおけるC11位を酸化する活性を保持するポリペプチド断片をいう。例えば、CYP88D6タンパク質の基質結合部位を含むポリペプチド断片が挙げられる。本活性断片を構成するポリペプチドのアミノ酸の長さは、特に制限はしない。例えば、CYP88D6タンパク質において少なくとも10、15、20、25、30、50、100又は150アミノ酸の連続する領域であればよい。
【0048】
CYP88D6タンパク質をコードする遺伝子の具体例としては、配列番号4で示す塩基配列からなるカンゾウ由来のCYP88D6遺伝子が挙げられる。
【0049】
限定はしないが、本発明の植物形質転換体においては、CYP88D6発現ベクターから発現したCYP88D6タンパク質等の触媒活性等により、主にβ-アミリンを基質として、そのC11位を酸化して11-オキソ-β-アミリンを生産することができる。また、30-ヒドロキシ-β-アミリンを基質として、そのC11位を酸化して30-ヒドロキシ-11-オキソ-β-アミリンを生産することができる。さらに、また、11-デオキソグリチルレチン酸を基質として、そのC11位を酸化してグリチルレチン酸を生産することができる。
【0050】
CYP88D6発現ベクターにおけるプラスミド領域のより具体的な構成は、後述の第2態様の記載に準ずる。また、特許第5526323号に記載の発現ベクターを利用してもよい。
【0051】
(b)CYP72A154発現ベクター
「CYP72A154発現ベクター」は、オレアナン型トリテルペノイドにおけるC30位を酸化する活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子及びその断片(本明細書では、しばしば「CYP72A154遺伝子等」と表記する)を発現可能な状態で含む発現ベクターである。前記活性を有するポリペプチドとして、例えば、CYP72A154タンパク質若しくはその活性断片、変異型CYP72A154タンパク質、又はCYP72A154タンパク質オルソログ(本明細書では、しばしば「CYP72A154タンパク質等」と表記する)が挙げられる。したがって、植物形質転換体内ではCYP72A154発現ベクターによりCYP72A154タンパク質等が発現する。
【0052】
前記CYP72A154タンパク質の具体例として、限定はしないが、配列番号71で示すアミノ酸配列からなるカンゾウ由来のCYP72A154タンパク質、配列番号87で示すアミノ酸配列からなるグルキルリザ グラブラ(G. glabra)由来のCYP72A154タンパク質、及び配列番号88で示すアミノ酸配列からなるタルウマゴヤシ(Medicago truncatula)由来のCYP72A63タンパク質が挙げられる。
【0053】
前記変異型CYP72A154タンパク質としては、オレアナン型トリテルペノイドにおけるC30位を酸化する活性を有し、配列番号71、87、及び88のいずれかで示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドが例示される。前記酸化第2段階の活性を有する変異型CYP72A154には、限定はしないが、具体的には、スプライシングバリアントやSNPs等に基づく突然変異体等が挙げられる。
【0054】
前記CYP72A154タンパク質オルソログとしては、配列番号71、87、及び88のいずれかで示すアミノ酸配列と60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、82%以上、85%以上、87%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上で、100%未満の同一性を有するアミノ酸配列を有するオルソログが例示される。
【0055】
本明細書において、CYP72A154タンパク質の「活性断片」とは、CYP72A154タンパク質の一部領域を含み、かつその断片がオレアナン型トリテルペノイドにおけるC30位を酸化する活性を保持するポリペプチド断片をいう。例えば、CYP72A154タンパク質の基質結合部位を含むポリペプチド断片が挙げられる。本活性断片を構成するポリペプチドのアミノ酸の長さは、特に制限はしない。例えば、CYP72A154タンパク質において少なくとも10、15、20、25、30、50、100又は150アミノ酸の連続する領域であればよい。
【0056】
CYP72A154タンパク質をコードする遺伝子の具体例としては、配列番号12及び89で示す塩基配列からなるカンゾウ由来及びグルキルリザ グラブラ(G. glabra)由来のCYP72A154遺伝子、並びに配列番号90で示す塩基配列からなるタルウマゴヤシ(Medicago truncatula)由来のCYP72A63遺伝子が挙げられる。
【0057】
限定はしないが、本発明の植物形質転換体においては、CYP72A154発現ベクターから発現したCYP72A154タンパク質等の触媒活性等により、主にβ-アミリン及び11-オキソ-β-アミリンを基質として、そのC30位を酸化して、それぞれ30-ヒドロキシ-β-アミリン及び30-ヒドロキシ-11-オキソ-β-アミリンを生産することができる。また、30-ヒドロキシ-11-オキソ-β-アミリンを基質として、そのC30位をさらに酸化してグリチルレチン酸を生産することができる。
【0058】
CYP72A154発現ベクターにおけるプラスミド領域のより具体的な構成は、後述の第2態様の記載に準ずる。また、特許第5771846号に記載の発現ベクターを利用してもよい。
【0059】
(c)UGT73P12発現ベクター
「UGT73P12発現ベクター」は、オレアナン型トリテルペノイドモノグルクロニドにおけるグルクロン酸のC2位のヒドロキシ基にグルクロン酸を転移する活性(以下、しばしば「第2段階配糖化活性」と表記する)を有するポリペプチドをコードする遺伝子及びその断片(本明細書では、しばしば「UGT73P12遺伝子等」と表記する)を発現可能な状態で含む発現ベクターである。前記活性を有するポリペプチドとして、例えば、UGT73P12タンパク質若しくはその活性断片、変異型UGT73P12タンパク質、又はUGT73P12タンパク質オルソログ(本明細書では、しばしば「UGT73P12タンパク質等」と表記する)が挙げられる。したがって、植物形質転換体内ではUGT73P12発現ベクターによりUGT73P12タンパク質等が発現する。
【0060】
前記UGT73P12タンパク質の具体例として、限定はしないが、配列番号72で示すアミノ酸配列からなるカンゾウ由来のUGT73P12タンパク質が挙げられる。
【0061】
前記変異型UGT73P12タンパク質としては、前記第2段階配糖化活性を有し、配列番号72で示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチドが例示される。前記第2段階配糖化活性を有する変異型UGT73P12には、限定はしないが、具体的には、スプライシングバリアントやSNPs等に基づく突然変異体等が挙げられる。
【0062】
前記UGT73P12タンパク質オルソログとしては、配列番号72で示すアミノ酸配列と60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、82%以上、85%以上、87%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上で、100%未満の同一性を有するアミノ酸配列を有するオルソログが例示される。
【0063】
本明細書において、UGT73P12タンパク質の「活性断片」とは、UGT73P12タンパク質の一部領域を含み、かつその断片が第2段階配糖化活性を保持するポリペプチド断片をいう。例えば、UGT73P12タンパク質の基質結合部位を含むポリペプチド断片が挙げられる。本活性断片を構成するポリペプチドのアミノ酸の長さは、特に制限はしない。例えば、UGT73P12タンパク質において少なくとも10、15、20、25、30、50、100又は150アミノ酸の連続する領域であればよい。
【0064】
UGT73P12タンパク質をコードする遺伝子の具体例としては、配列番号19で示す塩基配列からなるカンゾウ由来のUGT73P12遺伝子が挙げられる。
【0065】
限定はしないが、本発明の植物形質転換体においては、UGT73P12発現ベクターから発現したUGT73P12タンパク質等の触媒活性等により、主にグリチルレチン酸モノグルクロニドにグルクロン酸を転移してグリチルリチンを生産することができる。
【0066】
UGT73P12発現ベクターにおけるプラスミド領域のより具体的な構成は、後述の第2態様の記載に準ずる。また、特許第6344774号に記載の発現ベクターを利用してもよい。
【0067】
(2)選択的発現ベクター
本発明において、「選択的発現ベクター」とは、上記必須発現ベクター以外で本発明の植物形質転換体が包含する1種以上の選択的な外因性グリチルリチン生合成酵素の発現ベクターをいう。
【0068】
本発明の植物形質転換体が包含する選択的発現ベクターは、限定はしないが、一例として以下の(d)で示す発現ベクターを含む。
【0069】
(d)CSyGT発現ベクター
「CSyGT発現ベクター」は、オレアナン型トリテルペノイドにおけるC3位のヒドロキシ基にグルクロン酸を転移する活性(以下、しばしば「第1段階配糖化活性」と表記する)を有するポリペプチドをコードする遺伝子及びその断片(本明細書では、しばしば「CSyGT遺伝子等」と表記する)を発現可能な状態で含む発現ベクターである。前記活性を有するポリペプチドとして、例えば、CSyGTタンパク質若しくはその活性断片、変異型CSyGTタンパク質、又はCSyGTタンパク質オルソログ(本明細書では、しばしば「CSyGTタンパク質等」と表記する)が挙げられる。したがって、CSyGT発現ベクターを包含する植物形質転換体内ではCSyGT発現ベクターによりCSyGTタンパク質等が発現する。
【0070】
前記CSyGTタンパク質は、適当な植物、例えば、マメ科植物から公知の方法を用いて単離することができる。限定はしないが、例えば、配列番号91で示すアミノ酸配列からなるダイズ(Glycine max)由来のCSyGT(GmCSyGT)タンパク質、配列番号69で示すアミノ酸配列からなるカンゾウ由来のCSyGT(GuCSyGT)タンパク質、及び配列番号93で示すアミノ酸配列からなるミヤコグサ(Lotus japonicus)由来のCSyGT(LjCSyGT)を例示することができる。
【0071】
前記変異型CSyGTタンパク質としては、前記第1段階配糖化活性を有し、配列番号91、69、及び93のいずれかで示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドが例示される。前記第1段階配糖化活性を有する変異型CSyGTには、限定はしないが、具体的には、スプライシングバリアントやSNPs等に基づく突然変異体等が挙げられる。
【0072】
前記CSyGTタンパク質オルソログとしては、配列番号91、69、及び93のいずれかで示すアミノ酸配列と60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、82%以上、85%以上、87%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上で、100%未満の同一性を有するアミノ酸配列を有するオルソログが例示される。CSyGTは、多くの植物種、特にマメ科(Fabaceae)植物種にオルソログが存在し得る。実際、ダイズGmCSyGTに対してGuCSyGTとLjCSyGTは、それぞれカンゾウとミヤコグサのCSyGTオルソログであるが、アミノ酸同一性は前述のように80%以上を有する。その他のCSyGTタンパク質オルソログの具体例として、配列番号98で示すアミノ酸配列からなり、GmCSyGT、GuCSyGT、及びLjCSyGTのいずれとも77%以上のアミノ酸同一性を有するレンゲ(Astragalus sinicus)AsCSyGTが挙げられる。
【0073】
本明細書において、CSyGTタンパク質の「活性断片」とは、CSyGTタンパク質の一部領域を含み、かつその断片が前記第1段階配糖化活性を保持するポリペプチド断片をいう。例えば、CSyGTタンパク質の基質結合部位を含むポリペプチド断片が挙げられる。本活性断片を構成するポリペプチドのアミノ酸の長さは、特に制限はしない。例えば、CSyGTタンパク質において少なくとも10、15、20、25、30、50、100又は150アミノ酸の連続する領域であればよい。
【0074】
CSyGTタンパク質をコードする遺伝子の具体例としては、配列番号92、95、及び94で示す塩基配列からなる、ダイズ由来、カンゾウ由来、及びミヤコグサ(Lotus japonicus)由来のCSyGT遺伝子が挙げられる。
【0075】
限定はしないが、本発明のCSyGT発現ベクターを包含する植物形質転換体においては、CSyGT発現ベクターから発現したCSyGTタンパク質等の触媒活性等により、主にグリチルレチン酸を基質として、そのC3位のヒドロキシ基にグルクロン酸を転移して、グリチルレチン酸モノグルクロニドを生産することができる。
【0076】
CSyGT発現ベクターにおけるプラスミド領域のより具体的な構成は、後述の第2態様の記載に準ずる。また、特願2019-190060に記載の発現ベクターを利用してもよい。
【0077】
1-4.効果
本発明の植物形質転換体によれば、従来グリチルリチンを生合成できなかった宿主であっても、β-アミリンを出発物質として、その代謝産物としてグリチルリチンを生合成できるようになる。
【0078】
本発明の植物形質転換体では、β-アミリンからオレアナン型トリテルペノイド及びその配糖体を合成する代謝経路においてアグリコン部のC11位及びC30位以外の炭素位を水酸化する全ての内因性水酸化酵素の発現又は活性が抑制又は阻害されていることによって、グリチルリチン生合成と競合し得る代謝反応による基質(例えばβ-アミリン)の消費が抑制され、導入された外因性グリチルリチン生合成酵素が認識し得る基質の量が増加することにより、グリチルリチンの生合成が可能となる。
【0079】
本発明の植物形質転換体では、内因性水酸化酵素に加えて内因性糖転移酵素の発現又は活性を抑制又は阻害すれば、グリチルリチン生合成の効率をさらに高めることができる。
【0080】
また、本発明の植物形質転換体では、選択的発現ベクターであるCSyGT発現ベクターが導入されていない場合(すなわち、必須発現ベクターであるUGT73P12発現ベクター、CYP72A154発現ベクター、及びCYP88D6発現ベクターの3種類のみが導入されている場合)であっても、オレアナン型トリテルペノイドにおけるC3位のヒドロキシ基にグルクロン酸を転移する活性を有する内因性の酵素の存在によって、グリチルリチンの生合成が可能となる。例えば、ダイズでは、オレアナン型トリテルペノイドにおけるC3位のヒドロキシ基にグルクロン酸を転移する活性を有する内因性の酵素として、配列番号91で示すアミノ酸配列からなるCSyGT(GmCSyGT)タンパク質が存在する。本発明では、必須発現ベクターに加えて、選択的発現ベクターであるCSyGT発現ベクターを導入すれば、グリチルリチン生合成の効率をさらに高めることができる。
【0081】
2.グリチルリチン製造用植物形質転換体の製造方法
2-1.概要
本発明の第2の態様は、グリチルリチン製造用植物形質転換体の製造方法に関する。本発明の植物形質転換体の製造方法によれば、グリチルリチンを製造することができる植物形質転換体を製造することができる。これによって、カンゾウ属植物以外の様々な植物でこれまでに生合成することのできなかったグリチルリチンを製造することが可能となる。
【0082】
2-2.方法
本発明のグリチルリチン製造用植物形質転換体の製造方法は、必須の工程として抑制/阻害工程、及び導入工程を含む。以下、各工程について具体的に説明をする。
【0083】
2-2-1.抑制/阻害工程
本態様において「抑制/阻害工程」とは、宿主植物においてグリチルリチン生合成の障害となり得る内因性酵素の発現又は活性を抑制又は阻害する工程である。
【0084】
本態様において発現又は活性を抑制又は阻害する標的とする内因性酵素は、前記第1態様の「1-3-3.標的内因性酵素」の記載に準じる。
【0085】
本工程において、グリチルリチン生合成の障害となり得る内因性酵素の発現又は活性を抑制又は阻害する方法には、当該分野において公知の任意の方法を用いることができる。限定しないが、既存の変異体の利用、変異原処理、遺伝子ノックダウン、遺伝子ノックアウト、及び/又は阻害剤の導入、あるいはその任意の組み合わせによって、内因性酵素の発現又は活性を抑制又は阻害することができる。以下、それぞれの方法について説明する。
【0086】
(1)既存の変異体の利用
本明細書において「既存の変異体の利用」とは、当該技術分野で既に存在している変異体を利用することを意味する。ここでいう「変異体」とは、標的遺伝子、すなわち各内因性酵素をコードする遺伝子に変異を生じた植物体をいう。変異は、各標的遺伝子の野生型遺伝子における付加、欠失、及び/又は置換が含まれる。変異体は、変異を含む標的遺伝子の機能が欠損、阻害、又は抑制されているものが好ましい。「既存の変異体」とは、過去に収集され、各種配布機関によって収集、保存、提供されており、適宜利用することができる変異体である。自然変異体、あるいは人為的に作出された既存の変異体のいずれであってもよい。また、既存の変異体同士の交配によって、複数の遺伝子に変異を生じた多重変異体を作出してもよい。例えば、宿主がダイズであれば、ソヤサポニンのC22位第2糖転移酵素Sg-1の自然変異体「きぬさやか」、C3位第3糖転移酵素Sg-3の自然変異体「御厨青」、C3位第2糖転移酵素Sg-4の自然変異体「Jack」、C21位水酸化酵素Sg-5の自然変異体「東北152号」を交配し、多重変異体を作出することができる。
【0087】
(2)変異原処理
本明細書において「変異原処理」とは、対象の植物に対して突然変異を誘発する処理をいう。処理方法は特に限定しない。例えば、X線や紫外線等の電磁波又は放射線を照射する処理、ニトロソグアニジン、ニトロソアミン、ブロモデオキシウリジン、N-エチル-N-ニトロソウレア、エタンスルホン酸メチル、ベンゾピレン、臭化エチジウム等の突然変異誘発剤を接触させる処理、ウイルスやトランスポゾン等を利用して核酸をゲノム中のランダムな位置に導入する処理等を挙げることができる。変異原処理によって、点変異や欠失変異、挿入変異等の突然変異が誘発される。変異原処理後、表現型等により標的遺伝子に変異を生じた候補変異体を分離し、PCRを用いた塩基配列決定により標的遺伝子への変異導入を確認することで目的とする標的遺伝子の変異体を得ることができる。
【0088】
(3)遺伝子ノックダウン
本明細書において「遺伝子ノックダウン」とは、標的遺伝子の発現レベルを減少させる操作をいう。例えば、標的遺伝子から転写されるRNAにハイブリダイズすることのできるアンチセンスDNAを用いて、RNaseHにより標的遺伝子のmRNAを分解するアンチセンス法や、siRNAやshRNAを用いて標的mRNAを分解することにより遺伝子の発現を転写後に抑制するRNA干渉法(RNAi)等が挙げられる。例えば、アンチセンス核酸やshRNAの発現ベクターを細胞に導入する方法や、人工核酸を含むアンチセンス核酸やshRNAを使用する方法が挙げられる。
【0089】
(4)遺伝子ノックアウト
本明細書において「遺伝子ノックアウト」とは、染色体上の標的遺伝子に挿入や欠失を加えることにより遺伝子の機能を破壊することをいう。遺伝子ノックアウトには、相同組換えを用いて内因性の遺伝子を改変する遺伝子ターゲティング法や、ZFNやTALEN等の人工のDNA切断酵素や、CRISPR/Cas等の部位特異的ヌクレアーゼを用いるゲノム編集技術を用いることができる。本発明における遺伝子ノックアウトは、条件付き遺伝子ノックアウトであってもよい。本明細書において「条件付き遺伝子ノックアウト」とは、部位特異的及び/又は時期特異的な遺伝子ノックアウトをいう。条件付き遺伝子ノックアウトは、例えば、DNA組換え酵素の認識配列を標的遺伝子の前後に導入し、部位特異的及び/又は時期特異的な活性を有するプロモーターの制御下でDNA組換え酵素を発現させ、部位特異的組換え反応を引き起こすことによって行うことができる。条件付き遺伝子ノックアウトでは、標的遺伝子が生存や生育に必須の遺伝子であっても、その遺伝子の機能が生存や生育に必須となる部位や時期以外において遺伝子を破壊することで、生存や生育が可能な個体を作出することができる。本発明では、例えば、標的内因性酵素遺伝子が必須遺伝子であっても、条件付き遺伝子ノックアウトによりグリチルリチンを豊富に産生し得る部位(例えば種子)及び/又は時期に限定して遺伝子を破壊すれば、生存や生育が可能な個体を作出することができるため、特に有用である。
【0090】
抑制/阻害工程において、アンチセンス核酸やshRNA等を導入するために発現ベクターを用いる場合の発現ベクターの構成や、発現ベクターの植物への導入方法は、後述の「2-2-2.導入工程」の記載に準じる。
【0091】
本工程において、標的内因性酵素の発現又は活性が抑制又は阻害されていることは、例えばリアルタイムPCRを用いてmRNAの量を定量することによって調べることができる。リアルタイムPCRに用いるための適切なプライマーやPCRの条件は、当業者であれば、適宜選択することができる。
【0092】
2-2-2.導入工程
本態様において「導入工程」は、外因性グリチルリチン生合成酵素の発現ベクターを宿主植物に導入する工程である。本工程で発現ベクターによって導入される外因性グリチルリチン生合成酵素遺伝子の構成は、前記第1態様の「1-3-4.包含する発現ベクター」の記載に準じる。したがって、ここでは、発現ベクターのその他の構成について述べる。
【0093】
本発明において「(遺伝子)発現ベクター」とは、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを目的とする植物細胞内に運搬して、当該ポリペプチドを発現させることのできる遺伝子発現システムである。例えば、プラスミド又はウイルスを利用した発現ベクターが挙げられる。本発明ではグリチルリチン生合成酵素遺伝子等を組み込んだグリチルリチン生合成酵素等を発現する発現ベクターや、前述の抑制/阻害工程においてアンチセンス核酸やshRNAを発現する発現ベクターが該当する。本明細書において、「(遺伝子)発現ベクター」とは、組換えベクターを包含するものとする。
【0094】
プラスミドを利用した発現ベクター(以下、しばしば「プラスミド発現ベクター」と表記する)の場合、プラスミドには、限定はしないが、例えば、pPZP系、pSMA系、pUC系、pBR系、pBluescript系(Agilent Technologies社)、pTriEXTM系(TaKaRa社)、又はpBI系、pRI系若しくはpGW系のバイナリーベクター等を利用することができる。
【0095】
ウイルスを利用した発現ベクター(以下、しばしば「ウイルス発現ベクター」と表記する)の場合、ウイルスには、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)、インゲンマメゴールデンモザイクウイルス(BGMV)、タバコモザイクウイルス(TMV)等を利用することができる。
【0096】
前記発現ベクターは、プロモーター及びターミネーターの発現調節領域が含まれる。この他にも、エンハンサー、ポリA付加シグナル、5'-UTR(非翻訳領域)配列、標識若しくは選抜マーカー遺伝子、マルチクローニング部位、複製開始点等を含むこともできる。それぞれの種類は、宿主細胞内でその機能を発揮し得るものであれば、特に限定されない。導入する植物細胞又は植物体の宿主に応じて当該分野で公知のものを適宜選択すればよい。
【0097】
プロモーターは、各種プロモーター、例えば、過剰発現型プロモーター、構成的プロモーター、部位特異的プロモーター、時期特異的プロモーター、及び/又は誘導性プロモーターを用いることができる。植物細胞で作動可能な過剰発現型で構成的プロモーターの具体例としては、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)由来の35Sプロモーター、Tiプラスミド由来のノパリン合成酵素遺伝子のプロモーターPnos、トウモロコシ由来のユビキチンプロモーター、イネ由来のアクチンプロモーター、タバコ由来PRタンパク質プロモーター等が挙げられる。様々な植物種のリブロース二リン酸カルボキシラーゼの小サブユニット(Rubisco ssu)プロモーター、又はヒストンプロモーターも使用することができる。
【0098】
ターミネーターは、例えば、ノパリン合成酵素(NOS)遺伝子のターミネーター、オクトピン合成酵素(OCS)遺伝子のターミネーター、CaMV 35Sターミネーター、大腸菌リポポリプロテインlppの3’ターミネーター、trpオペロンターミネーター、amyBターミネーター、ADH1遺伝子のターミネーター等が挙げられる。前記プロモーターにより転写された遺伝子の転写を終結できる配列であれば特に限定はしない。
【0099】
エンハンサーであれば、例えば、CaMV 35Sプロモーター内の上流側の配列を含むエンハンサー領域が挙げられる。活性ペプチドをコードする核酸等の発現効率を増強できるものであれば特に限定はされない。
【0100】
選抜マーカー遺伝子としては、薬剤耐性遺伝子(例えば、テトラサイクリン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、スペクチノマイシン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子、又はネオマイシン耐性遺伝子)、蛍光又は発光レポーター遺伝子(例えば、ルシフェラーゼ、β-ガラクトシダーゼ、β-グルクロニターゼ(GUS)、又はグリーンフルオレッセンスプロテイン(GFP))、ネオマイシンホスホトランスフェラーゼII(NPT II)、ジヒドロ葉酸還元酵素等の酵素遺伝子が挙げられる。
【0101】
本発明の発現ベクターによれば、前記第1態様に記載のポリヌクレオチドの操作及び/又は発現等の制御が容易となる他、宿主細胞内でのグリチルリチン生合成酵素の発現を操作することができる。
【0102】
前記ポリヌクレオチド又は組換えベクターの導入方法は、当該分野で公知の方法、例えば、アグロバクテリウム法、PEG-リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポソーム法、パーティクルガン法、マイクロインジェクション法を用いることができる。導入されたポリヌクレオチドは、宿主のゲノムDNA中に組み込まれてもよいし、導入されたポリヌクレオチドの状態(例えば、外来ベクターに含有されたまま)で存在していてもよい。さらに、導入されたポリヌクレオチドは、宿主のゲノムDNA中に組み込まれた場合のように宿主細胞内で維持され続けてもよいし、一過的に保持されてもよい。
【0103】
上述の方法で発現ベクターを宿主に導入した後、目的のポリヌクレオチドの導入の有無をPCR法、サザンハイブリダイゼーション法、ノザンハイブリダイゼーション法、in situハイブリダイゼーション等によって確認することができる。
【0104】
本態様の方法では、抑制/阻害工程、及び導入工程を実施する順序はいずれであってもよく、同時であってもよい。
【0105】
3.グリチルリチン製造用植物形質転換体から得られる種子又は不定胚
3-1.概要
本発明の第3の態様は、グリチルリチン製造用植物形質転換体から得られる種子又は不定胚である。本発明の種子又は不定胚は、グリチルリチン生合成の障害となり得る酵素の発現又は活性が抑制又は阻害されており、かつグリチルリチン生合成に関わる酵素の発現ベクターを包含する。
本発明の種子又は不定胚は、グリチルリチンを豊富に含有する種子や植物体として、またグリチルリチンを含有する食品等の原料として利用することができる。
【0106】
3-2.構成
本発明の種子は、通常の種子を得るための当該分野で公知の技術を用いて、第1態様のグリチルリチン製造用植物形質転換体から得ることができる。例えば、グリチルリチン製造用植物形質転換体を適切な土壌又は培地で栽培し、開花、結実させた後に得ればよい。
【0107】
本発明の不定胚は、通常の不定胚を得るための当該分野で公知の技術を用いて、第1態様のグリチルリチン製造用植物形質転換体から得ることができる。本発明の不定胚を作製する方法は限定しない。多くの植物種から不定胚を誘導する方法が知られており、例えば「形質転換プロトコール(植物編)」、田部井 豊編、化学同人、ISBN978-4-7598-1485-9に記載されている方法を用いることができる。例えば、植物形質転換体の宿主がダイズであれば、限定しないが、以下の方法が挙げられる。すなわち、栽培したダイズから種子の長径が3~5mmに達した莢を収穫し滅菌処理を行った後、未熟種子を取り出す。未熟種子から種皮と胚軸を取り除いて子葉を回収する。子葉を不定胚誘導培地(MSD40培地)に置床し4週間程度培養することによって不定胚を誘導することができる。MSD40培地は、例えば、「ダイズの生産・品質向上と栄養生理」(日本土壌肥料学会編、2005年、博友社)における「ダイズの生産・品質向上と栄養生理」(石本政男、Hanafy M. S.著、129-156頁)に記載のものを使用してもよい。ダイズ不定胚については、石本政男、西澤けいと著「体細胞胚モデル系を用いた大豆の種子成分制御機構の解析」(大豆たん白質研究、2007、Vol. 10)を参照することができる。
【0108】
4.グリチルリチン製造方法
4-1.概要
本発明の第4の態様は、グリチルリチンの製造方法である。本発明の製造方法は、第1態様のグリチルリチン製造用植物形質転換体を生物生産系として使用し、β-アミリンからグリチルリチンを製造することを特徴とする。
【0109】
4-2.方法
本発明の製造方法は、必須の工程として抑制/阻害工程、導入工程、及び培養工程を、また選択工程として種子取得工程、及び/又は抽出工程を含む。
【0110】
本明細書において「β-アミリンを含む植物」とは、β-アミリンを自ら生合成してβ-アミリンを含む植物、β-アミリンを生合成できないが培地への添加等によってβ-アミリンを細胞内に取り込んだ植物のいずれであってもよい。好ましくは、β-アミリンを生合成できる植物が使用される。
【0111】
以下、各工程について具体的に説明をする。
(1)抑制/阻害工程
本態様における「抑制/阻害工程」は、基本的には第2態様に記載の抑制/阻害工程に準ずればよい。本工程により宿主植物において標的内因性酵素の発現又は活性が抑制又は阻害される。
【0112】
(2)導入工程
本態様における「導入工程」は、基本的には第2態様に記載の導入工程に準ずればよい。本工程により宿主植物に外因性グリチルリチン生合成酵素の発現ベクターが導入される。
【0113】
(3)培養工程
本態様において「培養工程」は、抑制/阻害工程、及び導入工程によって得られた植物形質転換体を培養する工程である。
【0114】
培養工程は、培養される植物形質転換体によってグリチルリチンが生合成される限り、植物体、植物細胞、不定胚等のいずれを培養する工程であってもよい。
【0115】
培養に使用する培地には、宿主の培養に適した培地を適宜使用すればよい。例えば、限定はしないが、植物体を培養する場合であれば、適当な培養土や水耕栽培用培地等、植物細胞を培養する場合であれば、ムラシゲスクーグ培地、又はガンボーグB5培地等(Gamborg O.L. et al., Exp Cell Res, 1968 Apr;50(1):151-8.)、植物形質転換体の不定胚を培養する場合であれば、FN Lite培地等(Finer, J.J. and Nagasawa, A., Plant Cell Tiss Organ Cult, 1988, 15: 125.)が挙げられる。
【0116】
培地は、炭素源(例えば、グルコース、グリセリン、マンニトール、フルクトース、ラクトース等)、窒素源(例えば、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム等の無機窒素、カゼイン分解物、酵母抽出物、ポリペプトン、バクトトリプトン、ビーフ抽出物等の有機窒素源)、無機塩(例えば、二リン酸ナトリウム、二リン酸カリウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化カルシウム等)、ビタミン(ビタミンB1等)、薬剤(アンピシリン、テトラサイクリン、カナマイシン等の抗生物質)、β-アミリン等を適宜含有する。本発明の製造方法においてβ-アミリンを自ら生合成できない植物を宿主として用いる場合には、培地はβ-アミリンを含有することが好ましい。
【0117】
培養条件は、グリチルリチンの生合成に適切であれば特に限定されないが、通常10~45℃、15~40℃、18~37℃の温度下で、必要に応じて通気、照射、及び/又は攪拌をしながら、数時間~数百時間、数日~数か月、又は数日~数年培養する。
【0118】
本工程により植物形質転換体中でグリチルリチンが製造される結果、グリチルリチンを含む培養物、例えばグリチルリチンを含む植物体を得ることができる。本工程で植物体が種子を形成した場合には、その種子は次述の種子取得工程で使用することができる。
【0119】
(4)種子取得工程
本態様における「種子取得工程」は、前記培養工程で種子を形成した植物体からその種子を取得する工程である。種子を取得する方法は、当該分野で公知の方法を適宜選択すればよい。例えば、培養工程後に必要に応じて乾燥させた植物体を脱穀機に投入する等して脱穀し、種子のみを選別する方法が挙げられる。
【0120】
本工程により取得した種子は、次述の抽出工程における処理が容易であり、また、種子そのものを様々な食品や飲料への加工も可能である。例えば、植物形質転換体がダイズであれば、グリチルリチンを含有する豆乳、豆腐、味噌、きな粉、醤油、納豆等に加工して利用することもできる。
【0121】
(5)抽出工程
本態様における「抽出工程」は、前記培養工程で得られた培養物、及び/又は前記種子取得工程で得られた種子からグリチルリチンを抽出する工程である。
【0122】
本明細書において「培養物」とは、培養上清又は培養された植物形質転換体をいう。植物形質転換体の細胞はもちろんのこと培養上清も含む。上清にも植物形質転換体から分泌されたグリチルリチンが含まれ得るからである。
【0123】
培養物又は種子からのグリチルリチンの抽出には、公知の方法でグリチルリチンを抽出し、必要に応じて精製すればよい。例えば、カンゾウからグリチルリチンを抽出する方法と同様の方法を用いることができる。具体的には、培養物又は種子を乾燥及び/又は粉砕し、その粉状物から水、親水性有機溶媒、それらの混合物等を用いてグリチルリチンを含有する成分を抽出液として抽出する。さらに必要に応じてグリチルリチン濃度が高くなるように抽出液を濃縮してもよい。さらに、より純粋なグリチルリチンが必要な場合には抽出液をHPLC等で分離及び/又は精製することにより、目的のグリチルリチンを含むフラクションを取得できる。
【0124】
本発明の製造方法によって、カンゾウ以外の様々な植物形質転換体から、グリチルリチンを安定的かつ大量に製造することが可能となる。
【0125】
4-3.効果
本態様のリチルリチン製造方法によれば、カンゾウに依らないグリチルリチンの生産法を確立することができる。例えば、カンゾウ以外の栽培が容易な植物を宿主として用いれば、従来高価であったグリチルリチンを様々な植物種で、安定的に、かつ大量に製造することが可能となる。例えばダイズを宿主として用いれば、ダイズを用いたグリチルリチンの生産法を確立することができる。
【実施例
【0126】
以下の実施例において、本発明の一例を挙げて具体的に説明する。
【0127】
<実施例1:グリチルリチン生合成遺伝子発現用ダイズ組換えベクターの構築>
種子特異的に発現するインゲンマメ(Phaseolus vulgaris)のアルセリン遺伝子(arc5-I)のプロモーター(配列番号1)をフォワードプライマー(配列番号2)及びリバースプライマー(配列番号3)を用いて増幅したPCR産物、カンゾウのcDNA由来のCYP88D6遺伝子(配列番号4)をフォワードプライマー(配列番号5)及びリバースプライマー(配列番号6)を用いて増幅したPCR産物、arc5-Iのターミネーター(配列番号7)をフォワードプライマー(配列番号8)及びリバースプライマー(配列番号9)を用いて増幅したPCR産物をoverlap extension PCR法により連結し、得られたA5P-CYP88D6-A5T配列をpCR4Blunt-TOPOベクター(Invitrogen社)にクローニングした。同様に、arc5-Iのプロモーター(配列番号1)をフォワードプライマー(配列番号10)及びリバースプライマー(配列番号11)を用いて増幅したPCR産物、カンゾウのcDNA由来のCYP72A154遺伝子(配列番号12)をフォワードプライマー(配列番号13)及びリバースプライマー(配列番号14)を用いて増幅したPCR産物、arc5-Iのターミネーター(配列番号7)をフォワードプライマー(配列番号15)及びリバースプライマー(配列番号16)を用いて増幅したPCR産物をoverlap extension PCR法により連結し、得られたA5P-CYP72A154-A5T配列をpCR4Blunt-TOPOベクターにクローニングした。
【0128】
さらに同様に、arc5-Iのプロモーター(配列番号1)をフォワードプライマー(配列番号17)及びリバースプライマー(配列番号18)を用いて増幅したPCR産物、カンゾウのcDNA由来のUGT73P12遺伝子(配列番号19)をフォワードプライマー(配列番号20)及びリバースプライマー(配列番号21)を用いて増幅したPCR産物、arc5-Iのターミネーター(配列番号7)をフォワードプライマー(配列番号22)及びリバースプライマー(配列番号23)を用いて増幅したPCR産物をoverlap extension PCR法により連結し、得られたA5P-UGT73P12-A5T配列をpCR4Blunt-TOPOベクターにクローニングした。これらの3つのクローニングベクターより、A5P-CYP88D6-A5T、A5P-CYP72A154-A5T、A5P-UGT73P12-A5T配列をそれぞれKpnI/ApaI、ApaI/XhoI、SalI/EcoRIを用いて切り出し、ダイズ組換え用ベクターpUHR (Nishizawa K. et al., 2006, Plant Cell Rep. 25: 1355-1361)に挿入して、グリチルリチン生合成遺伝子発現用ダイズ組換えベクターpUHR:A5PCYP88D6+A5PCYP72A154+A5PUGT73P12を得た。
【0129】
<実施例2:ソヤサポニン生合成遺伝子発現抑制用ダイズ組換えベクターの構築>
実施例1で作製したpCR4Blunt-TOPOベクター(Invitrogen社)にA5P-CYP88D6-A5T配列をクローニングしたプラスミドを鋳型として、A5P配列の3’末端に設計したリバースプライマー(配列番号24)とA5T配列の5’末端に設計したフォワードプライマー(配列番号25)を用いて外向きに増幅したPCR産物(pCR4Blunt-TOPO配列にarc5-Iプロモーター及びターミネーター配列が連結した産物)を、発現抑制用ダイズ組換えベクターpUHR:P11S-IR(Nishizawa K. et al., 2010, Plant Biotech. 27: 409-420)よりXhoI/SacIIを用いて切り出したRNAiカセットと連結して、A5P-RNAi-A5T配列を有するクローニングベクターを得た。同クローニングベクターよりApaI/KpnIにより切り出したA5P-RNAi-A5T配列をダイズ組換え用ベクターpUHG(Khallafalla M. et al., 2005, Breed. Sci. 55: 257-263)に挿入し、arc5-Iのプロモーターとターミネーターを有する発現抑制用ダイズ組換えベクターpUHG:A5P-RNAi-A5Tを得た。
【0130】
温室で栽培したダイズ品種「Williams 82」の登熟中の種子を採取した。RNA抽出試薬RNAeasy Plant Mini Kit (QIAGEN社)を用いて添付のプロトコルに従い、トータルRNAを調製した。得られたトータルRNAを1μg用いて、QuantiTech Reverse Transcription Kit (QIAGEN社)を用いて添付のプロトコルに従いファーストストランドcDNA合成を行った。得られたファーストストランドcDNA各2.5μlを鋳型として、フォワードプライマー(配列番号26)及びリバースプライマー(配列番号27) を用いてPCR増幅を行い、ソヤサポニン生合成遺伝子CYP93E1のコーディング領域300bp(配列番号28)を得た。A5P-RNAi-A5Tと配列番号28を混合し、Gateway LR Clonase II Enzyme Mix(Invitrogen社)を用いて塩基配列特異的な組換え反応(Gateway attL x attR反応)により、配列番号28で示すDNA断片をpUHG:A5P-RNAi-A5Tに移し替えることでCYP93E1の発現抑制用ダイズ組換えベクターpUHG:A5PRNAi-CYP93E1を得た。
【0131】
同様にして、フォワードプライマー(配列番号29)とリバースプライマー(配列番号30)を用いて得られたDNA断片(配列番号31)を持つCYP72A61発現抑制用ダイズ組換えベクターpUHG:A5PRNAi-CYP72A61、フォワードプライマー(配列番号32)とリバースプライマー(配列番号33)を用いて得られたDNA断片(配列番号34)を持つGmSGT2発現抑制用ダイズ組換えベクターpUHG:A5PRNAi-GmSGT2を得た。
【0132】
<実施例3:JKMT(sg-1、sg-3、sg-4、sg-5)株の作出>
ソヤサポニンのC22位第2糖転移酵素Sg-1の自然変異体「きぬさやか」(Kikuchi, A. et al., Breeding Sci. 1999;49:167-171.;Takada Y. et al., Breeding Sci. 2010; 60:3-8.;Sayama T. et al., Plant Cell. 2012 May; 24(5): 2123-2138.)、C3位第3糖転移酵素Sg-3の自然変異体「御厨青」(Yano R. et al., Plant Cell Physiol. 2018 Apr 1;59(4):792-805.)、C3位第2糖転移酵素Sg-4の自然変異体「Jack」(Takada Y. et al., Breed Sci. 2012;61(5):639-645.)、C21位水酸化酵素Sg-5の自然変異体「東北152号」(Takada Y. et al., Theor Appl Genet. 2013 Mar;126(3):721-31.;Yano R. et al., Plant J. 2017 Feb;89(3):527-539.)を交配し、変異を集積させたJKMT株を作出した。
【0133】
交配で得られたF1種子の遺伝子型は、子葉からゲノムDNAを抽出(Kamiya M. and Kiguchi T., 2003, Breeding Science 53:277)し、Multiplex(QIAGEN社)を用いて解析した。遺伝子型を判定するためのプライマーは、Sg-1についてはフォワードプライマー(配列番号35)/リバースプライマー(配列番号36)の1組のプライマー対;Sg-3については、フォワードプライマー(配列番号37)/リバースプライマー(配列番号38)、及びフォワードプライマー(配列番号39)/リバースプライマー(配列番号40)の2組のプライマー対;Sg-5についてはフォワードプライマー(配列番号41)/リバースプライマー(配列番号42)、フォワードプライマー(配列番号43)/リバースプライマー(配列番号44)、フォワードプライマー(配列番号45)/リバースプライマー(配列番号46)、及びフォワードプライマー(配列番号47)/リバースプライマー(配列番号48)の4組のプライマー対を使用した。95℃を30秒、50℃を1分30秒、60℃を1分30秒のサイクルを35サイクル行い、各遺伝子を増幅後、3730 DNA Analyzer(Applied Biosystems)でフラグメント解析を行い、遺伝子型を決定した。
【0134】
<実施例4:組換えダイズ不定胚の作出>
実施例3で作出したJKMT(sg-1、sg-3、sg-4、sg-5)株の未熟胚から誘導した不定胚を遺伝子組換えに用いた。
【0135】
パーティクルガン法(Khalafalla, M. M. et al., Breed Sci, 2005, 5, 257-263.)により、実施例1、2で得られたグリチルリチン生合成遺伝子発現用ダイズ組換えベクターpUHR-A5PCYP88D6+A5PCYP72A154+A5PUGT73P12、及びソヤサポニン生合成遺伝子発現抑制用ダイズ組換えベクターpUHG-A5PRNAi-CYP93E1、pUHG-A5PRNAi-CYP72A61、pUHG-A5PRNAi-GmSGT2をJKMT株の不定胚に導入した。ハイグロマイシンで組換え不定胚の選抜を行い、ハイグロマイシン耐性未熟胚(以下、「組換えダイズ」又は「組換えダイズ不定胚」と表記する)を得た。
【0136】
得られたハイグロマイシン耐性未熟胚を成熟化し(Nishizawa, K., and Ishimoto, M., Plant Biotechnol. 2009, 26: 543-550.)、凍結乾燥後、RNA抽出試薬RNeasy Plant Mini Kit(QIAGEN社)を用いて添付のプロトコルに従い、トータルRNAを調整した。得られたトータルRNA200ngを用いて、QuantiTech Reverse Transcription Kit(QIAGEN社)を用いて添付のプロトコルに従いファーストストランドcDNA合成を行った。5倍希釈したファーストストランドcDNA各1uLを鋳型として、導入したグリチルリチン生合成遺伝子及びソヤサポニン生合成遺伝子の発現を確認した。
【0137】
CYP88D6の発現は、フォワードプライマー(配列番号49)/リバースプライマー(配列番号50)のプライマー対を用い、GoTaq Green HS(プロメガ社)でアニール温度60℃、反応温度68℃で25サイクルのPCRを行った。PCRで得られたDNA断片を1%アガロースゲルを用いて電気泳動を行い、発現を確認した(図4)。同様にして、CYP72A154の発現はフォワードプライマー(配列番号51)/リバースプライマー(配列番号52)、UGT73P12の発現はフォワードプライマー(配列番号53)/リバースプライマー(配列番号54)、CYP93E1の発現はフォワードプライマー(配列番号55)/リバースプライマー(配列番号56)、CYP72A61の発現はフォワードプライマー(配列番号57)/リバースプライマー(配列番号58)、GmSGT2の発現はフォワードプライマー(配列番号59)/リバースプライマー(配列番号60)、Sg-4の発現はフォワードプライマー(配列番号61)/リバースプライマー(配列番号62)の各プライマー対を用いて確認し(図4)、グリチルリチン生合成遺伝子が高発現し、かつソヤサポニン生合成遺伝子の発現が抑制された成熟不定胚「11-2」を得た。さらに、「11-2」から再生させた植物から再度不定胚を誘導した後代である「11-2-1-15」、「11-2-1-16」を得た。「Jack」又は「JKMT」と比較すると、「11-2」、「11-2-1-15」、及び「11-2-1-16」では、外因性遺伝子であるCYP88D6、CYP72A154、及びUGT73P12の各遺伝子が発現している一方で、内因性遺伝子であるCYP72A61、CYP93E1、GmSGT2、及びSg-4の各遺伝子の発現が低下、又は消失している(図4)。
【0138】
<実施例5:組換えダイズ不定胚のトリテルペノイドサポニン組成分析>
実施例4により得られた成熟不定胚の乾燥粉末サンプルに乾燥重量の10倍量の80%エタノールを添加し攪拌後、室温で1時間抽出したのち遠心分離し上清を回収した。GL Sciences 社のGL chromate disk 4A filter (ポアサイズ0.2 μm) でフィルター処理しLC-MS分析の試料とした。LC-MS分析には、ACQUITY UPLC/TQD-MS(Waters Corp.)とUPLC HSS C18 (2.1 mm x 150 mm, 1.7μm) 分析カラム(Waters Corp.)を使用した。分析条件はNomura Y. et al., 2019, Plant J., 99: 1127-1143に記載の条件を使用した。SIMモードを用いて最終目標産物のグリチルリチン (m/z 821.4)に焦点を絞った分析を行った。その結果、組換えダイズ不定胚「11-2」の抽出サンプルにおいて、グリチルリチンの標準化合物(図5d)と同じカラム保持時間(9 min)にピークが検出された(図5c)。一方、Jack株及びJKMT株では、同じピークは検出されなかった(図5a及びb)。次に、組換えダイズ不定胚「11-2」に由来するカラム保持時間9 minのサンプルに対して質量分析を行った結果、組換えダイズ不定胚「11-2」ではグリチルリチンに対応するピーク(m/z = 821.4)が検出された(図6)。グリチルリチンを示すピークは、野生型ダイズ自然変異体のJack株及び遺伝子導入のバックグランドに使用したJKMT株からは検出されなかった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
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