(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-08
(45)【発行日】2024-03-18
(54)【発明の名称】十分に構造制御された櫛形ポリマーの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 290/06 20060101AFI20240311BHJP
C04B 24/26 20060101ALI20240311BHJP
C04B 28/00 20060101ALI20240311BHJP
C08F 220/04 20060101ALI20240311BHJP
C08F 220/12 20060101ALI20240311BHJP
C04B 103/40 20060101ALN20240311BHJP
【FI】
C08F290/06
C04B24/26 E
C04B24/26 F
C04B28/00
C08F220/04
C08F220/12
C04B103:40
(21)【出願番号】P 2020555036
(86)(22)【出願日】2019-05-22
(86)【国際出願番号】 EP2019063197
(87)【国際公開番号】W WO2019228883
(87)【国際公開日】2019-12-05
【審査請求日】2022-05-13
(32)【優先日】2018-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】506416400
【氏名又は名称】シーカ テクノロジー アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100116975
【氏名又は名称】礒山 朝美
(72)【発明者】
【氏名】ユルグ バイトマン
(72)【発明者】
【氏名】マルクス フリードリヒ
(72)【発明者】
【氏名】クリスティーナ ハンペル
(72)【発明者】
【氏名】イェル ツィンマーマン
【審査官】藤原 研司
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-509028(JP,A)
【文献】特開2009-173943(JP,A)
【文献】国際公開第2017/050904(WO,A1)
【文献】特開平09-328346(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B
C08F
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブロック構造又はグラジエント構造を有する櫛形ポリマーの調製方法であって、
前記櫛形ポリマーの少なくとも一つの区域Aを、ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートを含有するモノマー混合物Mを重合することによって形成し、前記モノマー混合物Mが、前記モノマー混合物M中に存在する前記ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートの重量を基準として2重量%未満の(メタ)アクリル酸を含有し、
前記ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートが、一端をキャップしたポリアルキレングリコールを用いてアルキル(メタ)アクリレートをエステル交換することによって得られ、かつ
前記モノマー混合物Mが、1:0.2~1:4のモル比で前記ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート対前記アルキル(メタ)アクリレートを含有することを特徴とする、
方法。
【請求項2】
前記モノマー混合物Mが、前記モノマー混合物M中に存在する前記ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートの重量を基準として、1.8重量%未満の(メタ)アクリル酸を含有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートが、(メタ)アクリル酸も(メタ)アクリル酸の無水物も使用しない方法によって調製したものであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記エステル交換の開始時に、アルキル(メタ)アクリレート対一端をキャップしたポリアルキレングリコールのモル比が、1:1~50:1であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記エステル交換の間及び/又は後に、過剰のアルキル(メタ)アクリレートを反応混合物から部分的に除去することを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記モノマー混合物Mが、一端をキャップしたポリアルキレングリコール、エステル交換触媒、及び重合禁止剤を含む群から選択される少なくとも一種の化合物をさらに含有することを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1つの区域Aを形成するための前記モノマー混合物Mの前記重合と、前記櫛形ポリマーの調製のための追加の工程をリビングフリーラジカル重合によって行うことを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
ブロック構造又はグラジエント構造を有する前記櫛形ポリマーが、以下の構造単位を有すること特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法:
4~68mol%の式(IV)の構造単位S1、
10~95mol%の式(V)の構造単位S2、
0~85mol%の式(VI)の構造単位S3、及び
0~50mol%の構造単位S4、
【化1】
式中、
R
1は、それぞれ独立して、H又は-CH
3であり、
R
2は、それぞれ独立して、H、C
1~C
20-アルキル基、-シクロヘキシル基、又は-アルキルアリール基であり、
R
3は、それぞれ独立して、1~5個の炭素原子を有するアルキル基であり、
R
4は、それぞれ独立して、-COOM、-SO
2-OM、-O-PO(OM)
2、及び/又は-PO(OM)
2であり、
R
5は、それぞれ独立して、H、-CH
2COOM、又は1~5個の炭素原子を有するアルキル基であり、
R
6は、それぞれ独立して、H又は1~5個の炭素原子を有するアルキル基であり、
R
7は、それぞれ独立して、H、-COOM、又は1~5個の炭素原子を有するアルキル基であるか、R
4がR
7と共に環を形成して-CO-O-CO-(無水物)を与え、
Mは、独立して、H
+、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、二価若しくは三価の金属イオン、アンモニウムイオン、又は有機アンモニウム基であり;
Aは、C
2~C
4アルキレンであり、かつ
nは2~250であり、かつ
構造単位S4は、前記櫛形ポリマーに重合可能な不飽和モノマーから誘導される。
【請求項9】
ブロック構造又はグラジエント構造を有する前記櫛形ポリマーの前記少なくとも一つの区域Aを、区域A中の全ての構造単位を基準として、平均で少なくとも90mol
%の構造単位S1、S3、及び/又はS4から形成し、構造単位S1が区域Aに少なくとも10mol
%存在することを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の方法により調製された櫛形ポリマーの、微粉末用の分散剤としての使用。
【請求項11】
少なくとも1種の無機バインダーと、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法により調製された櫛形ポリマーとを含有する水性無機バインダー組成物を硬化することによって得られる成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブロック構造又はグラジエント構造を有する十分に構造制御された櫛形ポリマーの調製方法、及び分散剤としてのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
櫛形ポリマーは、コンクリート処理における高性能減水剤として長年使用されてきた。そのため、例えば処理性及び強度などのコンクリート特性を改善することが可能である。そのような櫛形ポリマーは、典型的には、酸基を有するポリマー主鎖とそれに結合しているポリエーテル側鎖とを有している。櫛形ポリマーは、典型的には、酸基を含むモノマーとポリエーテル鎖を含むモノマーとのフリーラジカル共重合によって調製される。櫛形ポリマーは、例えばポリメタクリル酸などのポリカルボキシレート中のカルボキシル基を、一端がキャップされたポリエーテルでポリマー類似エステル化を行うことにより得ることもできる。これら全ての櫛形ポリマーでは、酸基と側鎖はポリマー主鎖に沿ってランダムに分布している。
【0003】
モノマー単位がランダムに分布している櫛形ポリマーのみならず、酸基とポリマー主鎖に沿った側鎖とがランダムではない状態で分布している櫛形ポリマー、例えばブロック構造又はグラジエント構造を有する櫛形ポリマーも現在存在する。
【0004】
国際公開第2015/144886号パンフレットには、酸基を含むモノマーとポリエーテル鎖を含むモノマーとからなる、無機バインダー組成物用の分散剤としてのブロックコポリマーが記載されている。ブロックコポリマーは、酸基を含むモノマーとポリエーテル鎖を含む25mol%未満のモノマーとのブロック、及びポリエーテル鎖を含むモノマーと酸基を含む25mol%未満のモノマーとのブロックを含む。
【0005】
国際公開第2017/050907号パンフレットには、無機バインダー組成物の分散剤として、グラジエント構造を有するコポリマーが記載されている。コポリマーは、イオン化可能なモノマー単位と側鎖を有するモノマー単位とを含む。
【0006】
ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートは、ポリアルキレングリコール側鎖を含むブロック構造又はグラジエント構造を有する櫛形ポリマーの調製に特によく適している。
【0007】
国際公開第2006/024538号パンフレットには、(メタ)アクリル酸無水物を、少なくとも1つのOH基を有するポリアルキレングリコール化合物と1:1~1.095:1のモル比で反応させることによりポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートを調製する方法が記載されている。この反応は、反応する(メタ)アクリル酸無水物1モル当たり遊離(メタ)アクリル酸1モルを生じさせる。
【0008】
欧州特許第0884290号明細書には、ポリアルキレングリコールを過剰のメタクリル酸でエステル化し、次いでポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートとメタクリル酸とを含有する反応混合物を重合することによる、ポリカルボン酸の調製方法が記載されている。
【0009】
工業グレードの品質の多くの市販のポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートは、5重量%以上のメタクリル酸を含んでいる。
【0010】
典型的には蒸留による、反応混合物からのメタクリル酸の除去は、煩雑さが増すことを意味し、これはポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートの、ひいてはそれから調製される櫛形ポリマーのコストを明らかに増加させる。蒸留に必要な高温は、望ましくない副生成物、例えばジメタクリレートをもたらす可能性もあり、それを用いて調製されるポリマーの特性、特に分散剤としてのその効果を悪化させる。
【0011】
したがって、改善された特性を有するブロック構造又はグラジエント構造を有する櫛形ポリマー、及びその調製のための改善された低コストな方法が依然として必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、改善された特性を有するブロック構造又はグラジエント構造を有する櫛形ポリマーを調製できる方法を提供することである。櫛形ポリマーは、微粉末用の、特に無機バインダー組成物用の分散剤として利用可能である。方法は低コストでもある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的は、驚くべきことに、請求項1に記載の方法によって達成される。
【0014】
驚くべきことに、本発明の方法により調製された櫛形ポリマーは、分散剤として改善された機能を有していることが見出された。例えば、少なくとも1つの区域にポリアルキレングリコール側鎖を有し、この区域に酸基が存在していたとしても非常に少量しか含まないブロック構造又はグラジエント構造を有する櫛形ポリマーは、ポリエーテル側鎖を有する区域に酸基を含むブロック構造又はグラジエント構造を有する櫛形ポリマーよりも、無機粉末、特に水硬性建築材料のためのより優れた分散機能を有している。
【0015】
驚くべきことに、調製のために(メタ)アクリル酸無水物も(メタ)アクリル酸無水物の無水物も使用されていない方法によって調製されたポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートをモノマー混合物が含む場合には、改善された櫛形ポリマーを得ることができる。
【0016】
本発明のさらなる態様は、さらなる独立請求項の主題である。本発明の特に好ましい実施形態は、従属請求項の主題である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、ブロック構造又はグラジエント構造を有する櫛形ポリマーの調製方法であって、櫛形ポリマーの少なくとも1つの区域Aが、ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートを含有するモノマー混合物Mを重合することによって形成され、モノマー混合物Mが、モノマー混合物M中に存在するポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートの重量を基準として2重量%未満の(メタ)アクリル酸を含有する、方法を提供する。
【0018】
モノマー混合物Mは、好ましくは、モノマー混合物M中に存在するポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートの重量を基準として、1.8重量%未満、より好ましくは1.6重量%未満、更に好ましくは1.4重量%未満、更には1.2重量%未満、特には0.9重量%以下の(メタ)アクリル酸を含む。そのようなモノマー混合物Mは、十分に構造制御されたブロックポリマー及びグラジエントポリマーを調製するのに特によく適している。
【0019】
モノマー混合物Mの重合は、酸基をほとんど又は全く有さない少なくとも1つのポリマー区域Aを有する櫛形ポリマーを与えることができ、これは、櫛形ポリマーの特性、特に無機粉末用の分散剤としての特性を明らかに改善する。
【0020】
本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、メタクリル酸のエステルとアクリル酸のエステルの両方を意味すると理解される。同様に、「(メタ)アクリル酸」は、メタクリル酸とアクリル酸の両方を意味すると理解される。
【0021】
本明細書において、「一端がキャップされたポリアルキレングリコール(一端をキャップしたポリアルキレングリコール)」は、一端にヒドロキシル基を有し、他端に例えばアルコキシ、シクロアルコキシ、又はアルキルアリールオキシ基などの非反応性基を有するポリアルキレングリコールを意味すると理解される。
【0022】
本明細書において、「櫛形ポリマー」は、大部分が直鎖であるポリマー主鎖と、側鎖とを含むポリマーを意味すると理解される。本明細書において、「大部分が直鎖である」ポリマー鎖は、意図的に導入された分岐を含まないものを意味すると理解される。
【0023】
本明細書において、「ブロック構造又はグラジエント構造を有する櫛形ポリマー」は、モノマー単位がランダムではない配列で存在する櫛形ポリマーを意味し、配列がランダムに得られないことを意味すると理解される。そのような配列は、フリーラジカル共重合又はポリマー類似反応の通常の条件下では得られない。ランダムではない配列では、少なくとも1種のモノマー単位が、ポリマー主鎖の少なくとも1つの区域の中に多く存在する。
【0024】
本明細書において、「区域」又は「ポリマー鎖の区域」は、関連する側基を含むポリマー主鎖の一部を意味すると理解される。ブロックポリマー又はグラジエントポリマーでは、ポリマー主鎖に沿ったモノマーの配列はランダムではない。これは、異なる区域ではポリマー中に存在するモノマー単位の比率が異なることを意味する。
【0025】
本明細書において、「モノマー混合物」は、少なくとも1つのフリーラジカル重合性モノマーを含む溶液、液体、又は固体を意味すると理解される。
【0026】
モノマー混合物Mのポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートは、好ましくは式Iの構造を有する:
【化1】
(式中、
R
1はそれぞれ独立にH又は-CH
3であり、
R
2はそれぞれ独立にH、C
1~C
20-アルキル基、-シクロヘキシル基、又は-アルキルアリール基であり、
AはC
2~C
4アルキレンであり、
n=2~250である)。
【0027】
[A-O]nは、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、又はエチレングリコール単位とプロピレングリコール単位とからなるポリエーテルであることが有利であり、エチレングリコール単位とプロピレングリコール単位は、ブロックで又はランダムに配置されていてもよい。ポリエーテルは、少なくとも50mol%、好ましくは少なくとも70mol%、特には少なくとも90mol%のエチレングリコール単位からなることが有利である。
【0028】
特に好ましくは、[A-O]nはポリエチレングリコールである。
【0029】
好ましくは、n=5~200、より好ましくは8~160、更には9~130、特には10~120、又は12~70である。
【0030】
(メタ)アクリル酸も(メタ)アクリル酸の無水物も使用されない方法によって調製されたポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートが好ましい。
【0031】
ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートは、好ましくは一端がキャップされたポリアルキレングリコールで、アルキル(メタ)アクリレートをエステル交換することにより、又はヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートをアルコキシル化することにより得られる。
【0032】
結果として、存在する場合であっても非常に少量のみの(メタ)アクリル酸がモノマー混合物中に存在する。したがって、煩雑な方法でモノマー混合物から(メタ)アクリル酸を除去する必要がなく、これはコストを節約し、問題となり得る副生成物の形成を低減することになる。
【0033】
好ましい実施形態では、ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートは、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、好ましくはヒドロキシエチル(メタ)アクリレート又はヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートをアルコキシル化することにより得られる。この場合、式I中のR2はHである。この場合、モノマー混合物Mは、好ましくは、
- 適切な触媒を使用して、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを少なくとも1種のアルキレンオキシドで特に2~250の平均アルコキシル化度までアルコキシル化する工程、及び
- 任意選択的に触媒を除去する、及び/又は酸若しくはアルカリを添加する工程、
により得られる。
【0034】
特に好ましい実施形態では、ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートは、一端がキャップされたポリアルキレングリコールでアルキル(メタ)アクリレートをエステル交換することにより得られる。この場合、式I中のR2はC1~C20-アルキル基、-シクロヘキシル基、又は-アルキルアリール基である。この場合、モノマー混合物Mは、好ましくは、
- 反応混合物から形成されるアルキルアルコールを連続的に除去しながら、一端がキャップされたポリアルキレングリコールを用いて、一端がキャップされたポリアルキレングリコールを基準として少なくとも60mol%の転化率まで、アルキル(メタ)アクリレートをエステル交換する工程、及び
- 任意選択的に過剰のアルキル(メタ)アクリレートを留去する工程、
により得られる。
【0035】
エステル交換のためには、式IIのアルキル(メタ)アクリレート及び式IIIの一端がキャップされたポリアルキレングリコールを使用することが好ましい:
【化2】
(式中、
R
1、R
2、A、[A-O]
n、及びnは上述した通りであり、ここでのR
2はH
+ではなく、
R
3は、それぞれ独立に1~5個の炭素原子を有するアルキル基、好ましくはメチル基又はエチル基、特にメチル基である)。
【0036】
好ましくは、式III中のnは、10~120、特には12~70の整数である。式IIのアルキル(メタ)アクリレートはメチルメタクリレートであることが好ましい。式IIIの一端がキャップされたポリアルキレングリコールは、ポリエチレングリコールモノメチルエーテルであることが好ましい。
【0037】
エステル交換は、過剰のアルキル(メタ)アクリレートを用いて行われることが有利である。好ましくは、エステル交換反応の開始時に、アルキル(メタ)アクリレート対一端がキャップされたポリアルキレングリコールのモル比は、1:1~50:1、更には1.5:1~20:1、特には2:1~10:1である。
【0038】
過剰のアルキル(メタ)アクリレートは、反応速度を増加させ、反応転化率を改善することができる。
【0039】
エステル交換は、例えば40~100℃などの高温で行われることが有利である。
【0040】
エステル交換のためにエステル化触媒が使用されることが有利である。基本的に全ての標準的な触媒が適している。適切な触媒は、例えばアルカリ性又は酸性の触媒である。
【0041】
特に有利な触媒は、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属アルコキシド、硫酸、スルホン酸(p-トルエンスルホン酸等)、強塩基性若しくは酸性のイオン交換体、リン化合物(例えばリン酸、ホスホン酸、若しくは次亜リン酸、又はそれらの塩)、又はチタン若しくはジルコニウム化合物である。このようなエステル交換触媒は当業者に公知である。
【0042】
特にはRAFT機構により、リビングフリーラジカル重合を妨害する触媒が使用される場合、これは、櫛形ポリマーの調製に使用される前に反応混合物から除去されることが有利である。リビングフリーラジカル重合を妨害せず、そのため必ずしも反応混合物から分離する必要がない触媒が好ましい。
【0043】
エステル交換中のアルキル(メタ)アクリレート及び/又はポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートの重合を防止するために、重合禁止剤が使用されることが有利である。重合禁止剤は当業者に公知である。禁止剤の非限定的な例は、ヒドロキノン、ヒドロキノンメチルエーテル、フェノチアジン、又はフェノールである。
【0044】
禁止剤の添加量は、エステル交換反応中のモノマーの重合が防止されるのに十分な高いレベルであるが、後続の重合のための重合開始剤の添加量が多くなりすぎないような高いレベルでのみ選択されることが有利である。
【0045】
エステル交換の間及び/又は後に、過剰のアルキル(メタ)アクリレートが反応混合物から部分的に又は完全に除去(特には留去)されることが好ましい。
【0046】
これは、大過剰、特に10倍を超えるモル量のアルキル(メタ)アクリレートがエステル交換に使用された場合に特に有利である。エステル交換反応後に得られる反応混合物は、櫛形ポリマーを調製する重合のための追加の後処理工程なしで使用されることが好ましい。これにより、コスト及び時間が節約される。
【0047】
モノマー混合物Mは、一端がキャップされたポリアルキレングリコールを用いてアルキル(メタ)アクリレートをエステル交換することにより得られる反応混合物を含むことが有利であり、またポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートだけでなく、アルキル(メタ)アクリレート、一端がキャップされたポリアルキレングリコール、エステル交換触媒、及び重合禁止剤を含む群から選択される少なくとも1種の化合物も含む。
【0048】
驚くべきことに、モノマー混合物が、特に一端がキャップされたポリアルキレングリコールを用いてアルキル(メタ)アクリレートをエステル交換することにより得られたものである場合、特にはRAFT重合によりブロック構造又はグラジエント構造を有する櫛形ポリマーを調製するための特定の精製工程なしで非常に効率的にこれを使用することができる。
【0049】
好ましくは、モノマー混合物Mは、1:0~1:10、好ましくは1:0.01~1:8、更には1:0.1~1:6、特には1:0.2~1:4のモル比でポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートとアルキル(メタ)アクリレートを含有する。
【0050】
モノマー混合物Mは、ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートだけでなく、ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートと共重合可能な少なくとも1種の追加の非イオン性モノマー、特にはアルキル(メタ)アクリレート、酢酸ビニル、スチレン、及び/又はヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートも含有することが有利である。
【0051】
これらのモノマーは、エステル交換反応又はアルコキシル化の終了と重合の開始との間の任意の時点で、モノマー混合物Mに添加することができる。
【0052】
好ましくは、モノマー混合物Mは、10重量%~90重量%、特には20重量%~60重量%の溶液の形態である。この目的のためには、エステル交換又はアルコキシル化の後、溶媒が反応混合物に添加されてもよい。好ましい溶媒は、水又は水混和性有機液体、好ましくは水である。モノマー混合物Mが溶媒を全く含まない特定の場合も有利な場合がある。
【0053】
水性モノマー混合物Mは、1.5~10、特には2~8のpHを有することが有利である。
【0054】
ブロック構造又はグラジエント構造を有する櫛形ポリマーは、リビングフリーラジカル重合により調製されることが有利である。リビングフリーラジカル重合の技術としては、特に、ニトロキシド介在重合(NMP)、原子移動ラジカル重合(ATRP)、又は可逆的付加開裂連鎖移動重合(RAFT)が挙げられる。リビングフリーラジカル重合は、不可逆的な移動反応又は停止反応が本質的にない状態で進行する。活性鎖末端の数は少なく、重合の間、本質的に一定に保たれる。これは、例えばRAFT剤と少量のみの開始剤を使用することによるRAFT重合の場合に達成される。これにより、重合プロセス全体にわたって継続する本質的に同時の鎖成長が可能になる。この結果、このプロセスを使用してブロックポリマー又はグラジエントポリマーを調製する選択肢が得られ、それに応じてポリマーの分子量分布又は多分散度が狭くなる。これは、従来の「フリーラジカル重合」又は非リビング形式で行われるフリーラジカル重合の場合には不可能である。
【0055】
ブロック構造又はグラジエント構造を有する櫛形ポリマーは、好ましくはRAFT重合により調製される。有利なRAFT剤は、ジチオエステル、ジチオカルバメート、トリチオカーボネート、又はキサンテートである。有利な開始剤は、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、α,α’-アゾジイソブチラミジン二塩酸塩(AAPH)、又はアゾビスイソブチラミジン(AIBA)である。
【0056】
少なくとも1つの区域Aを形成するためのモノマー混合物Mの重合と、櫛形ポリマーの調製のための追加の工程は、特にはエステル交換の直後に、好ましくは同じ反応器内で、リビングフリーラジカル重合、好ましくはRAFT重合により行われることが好ましい。これにより、保管コスト、輸送コスト、及び時間を節約することができる。
【0057】
モノマー混合物Mは、
- 一端がキャップされたポリアルキレングリコールを用いてアルキル(メタ)アクリレートをエステル交換することにより、又はヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを少なくとも1種のアルキレンオキシドを用いてアルコキシル化することにより得られる反応混合物Mを、好ましくは水を用いて10重量%~90重量%まで希釈する工程、
- 任意選択的に1種以上のモノマーを添加する工程、
- 反応混合物にRAFT剤と重合開始剤を添加する工程、及び
- ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートを基準として50~95mol%の転化率まで反応混合物を重合する工程、
により区域Aを形成するために重合されることが好ましい。
【0058】
ブロック構造又はグラジエント構造を有する櫛形ポリマーは、好ましくは以下の構造単位:
4~68mol%、好ましくは10~40mol%の式IVの構造単位S1、
10~95mol%、好ましくは20~85mol%の式Vの構造単位S2、
0~85mol%、好ましくは2~35mol%の式VIの構造単位S3、及び
0~50mol%の構造単位S4、
【化3】
を有し、式中、
R
1はそれぞれ独立にH又は-CH
3であり、
R
2はそれぞれ独立にH、C
1~C
20-アルキル基、-シクロヘキシル基、又は-アルキルアリール基であり、
R
3はそれぞれ独立に1~5個の炭素原子を有するアルキル基であり、
R
4はそれぞれ独立に-COOM、-SO
2-OM、-O-PO(OM)
2、及び/又は-PO(OM)
2であり、
R
5はそれぞれ独立にH、-CH
2COOM、又は1~5個の炭素原子を有するアルキル基であり、
R
6はそれぞれ独立にH又は1~5個の炭素原子を有するアルキル基であり、
R
7はそれぞれ独立にH、-COOM、又は1~5個の炭素原子を有するアルキル基であるか、
又はR
4がR
7と共に環を形成して-CO-O-CO-(無水物)を与え、
Mは、独立に、H
+、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、二価若しくは三価の金属イオン、アンモニウムイオン、又は有機アンモニウム基であり;
A=C
2~C
4アルキレンであり、
n=2~250であり、
構造単位S4は、櫛形ポリマーに重合可能な不飽和モノマー、特には酢酸ビニル、スチレン、及び/又はヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートから誘導される。
【0059】
構造単位S1は主に区域Aに存在し、構造単位S2は主に区域A以外の櫛形ポリマーの区域に存在する。構造単位S3及びS4は、互いに独立に、ブロック構造又はグラジエント構造を有する櫛形ポリマーの全ての区域に存在し得る。
【0060】
構造単位S1、S2、並びに任意選択的なS3及び/又はS4を含むブロック構造又はグラジエント構造を有する特に有利な櫛形ポリマーは、式中の
R1及びR5がそれぞれ独立にH又は-CH3であり、
R2とR3が-CH3であり、
R4が-COOMであり、
R6とR7がHであり、
Aがそれぞれ独立にエテニル又はプロペニル、好ましくはエテニルであり、
n=5~200、特には10~120であり、
Mがそれぞれ独立にH+、アルカリ金属イオン、又はアルカリ土類金属イオンであるものである。
【0061】
好ましい実施形態では、ブロック構造又はグラジエント構造を有する櫛形ポリマーは、構造単位S1とS2からなる。同様に、櫛形ポリマーが構造単位S1、S2、及びS3を含む場合も有利な場合がある。
【0062】
櫛形ポリマー中の構造単位S1対構造単位S2のモル比は、1:0.5~1:6、好ましくは1:0.7~1:5、特には1:0.9~1:4.5、更に好ましくは1:1~1:4、又は1:2~1:3.5であることが有利である。
【0063】
櫛形ポリマー中の構造単位S1対構造単位S3のモル比は、1:0~1:10、好ましくは1:0.01~1:8、更には1:0.1~1:6、特には1:0.2~1:4であることが有利である。
【0064】
構造単位S4は、全ての構造単位S1、S2、S3、及びS4の合計を基準として、0~50mol%、更には2~35mol%、特には3~30mol%、又は5~20mol%で櫛形ポリマー中に存在することが有利である。
【0065】
ブロック構造又はグラジエント構造を有する櫛形ポリマーの少なくとも1つの区域Aは、区域A中の全ての構造単位を基準として、平均で少なくとも90mol%、好ましくは少なくとも95mol%、特には少なくとも98mol%の程度まで構造単位S1、S3、及び/又はS4から形成され、構造単位S1が区域Aに少なくとも10mol%、好ましくは少なくとも20mol%、より好ましくは少なくとも50mol%の程度まで存在することが有利である。
【0066】
少なくとも1つの区域Aは、少なくとも90mol%程度の構造単位S1及びS3からなり、構造単位S1は、区域Aに少なくとも10mol%、好ましくは少なくとも20mol%、より好ましくは少なくとも50mol%の程度まで存在することが好ましい。
【0067】
好ましくは、ポリマー鎖の少なくとも1つの区域Aは、少なくとも90mol%、より好ましくは95mol%程度の構造単位S1から構成される。
【0068】
そのような構造を有する櫛形ポリマーは、微粉末用の分散剤として特に優れた適合性を有している。
【0069】
ブロック構造又はグラジエント構造を有する櫛形ポリマーは、少なくとも1つの区域Aだけでなく、少なくとも1つの区域Bも有することが好ましい。少なくとも1つの区域Aは、ポリマー鎖の開始点にあることが好ましく、「ポリマー鎖の開始」とは、リビングフリーラジカル重合で最初に形成されるポリマー主鎖の領域を意味する。
【0070】
少なくとも1つの区域Bは、ポリマー鎖の末端にあることが好ましく、「ポリマー鎖の末端」は、リビングフリーラジカル重合で最後に形成されるポリマー主鎖の領域を意味する。したがって、区域Bは、区域Aに対してポリマー鎖の他端にあることが好ましい。
【0071】
好ましくは、少なくとも1つの区域Bは、区域Bの全ての構造単位を基準として、平均で少なくとも40mol%、更には少なくとも60mol%、特には少なくとも80mol%の構造単位S2を有する。
【0072】
好ましくは、少なくとも1つの区域Bは、60mol%以下、特には50mol%以下、好ましくは40mol%以下の構造単位S1を有する。
【0073】
好ましくは、少なくとも1つの区域Bは、モノマー混合物Mが以下の工程によって区域Aを与えるように重合されたリビングフリーラジカル重合を継続することにより直接形成される:
- 区域Aを得るためのモノマー混合物Mの重合後に存在する反応混合物に、酸基を含む少なくとも1種のモノマーと、任意選択的な追加のモノマーとを添加する又は量り入れる工程、及び
- そのようにして得た混合物を、酸基を含むモノマーを基準として少なくとも90mol%の転化率まで更に重合する工程。
【0074】
それぞれの場合におけるポリマー鎖の1つの区域は、独立に、少なくとも5個、特には少なくとも7個、特には少なくとも10個の構造単位を有することが有利である。好ましくは、区域Aは、5~70個、特には7~60個、好ましくは20~50個の構造単位を有する。好ましくは、区域Bは、5~70個、特には7~60個、好ましくは20~50個の構造単位を有する。
【0075】
櫛形ポリマーは、区域Cも有することが有利である。区域Cは、区域AとBとの間に存在することが有利である。この場合の区域Cは、好ましくは、区域Aの構造と区域Bの構造との間に中間領域を形成する。
【0076】
区域Cは、好ましくは、中間領域として、区域A及びBにも存在する構造単位を含む。区域Cは、主に構造単位S3及び/又はS4を有する自己充足型領域も含んでいてもよい。また、区域Cは、区域A及びBに隣接して存在していてもよく、主に構造単位S3及び/又はS4を含んでいてもよい。
【0077】
櫛形ポリマーは、1.5未満、好ましくは1.0~1.4の範囲、特には1.1~1.3の範囲の多分散度を有することが有利である。多分散度は、数平均分子量Mnに対する重量平均分子量Mwの比を意味し、共にg/molで表されると理解される。櫛形ポリマー全体の重量平均分子量MWは、特には8,000~100,000g/mol、有利には10,000~80,000g/mol、特には12,000~50,000g/molの範囲である。本発明との関係において、重量平均分子量MWや数平均分子量Mnなどの分子量は、標準としてポリエチレングリコール(PEG)を用いたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により決定される。
【0078】
改善されたブロック構造又はグラジエント構造を有する櫛形ポリマーの好ましい調製方法は、以下の工程を含む:
i)反応混合物から形成されたアルキルアルコールを連続的に除去しながら、2~250、好ましくは10~120、より好ましくは12~70のアルキレングリコール単位を有する一端がキャップされたポリアルキレングリコール(特にはポリエチレングリコールモノメチルエーテル)を用いて、アルキル(メタ)アクリレート(特にはメチルメタクリレート)を、一端がキャップされたポリアルキレングリコールを基準として少なくとも60mol%、好ましくは少なくとも70mol%、更には少なくとも80mol%、特には少なくとも90mol%の転化率までエステル交換する工程であって、アルキルメタクリレート対一端がキャップされたポリアルキレングリコールのモル比が好ましくは1:1~50:1、更には1.5:1~20:1、特には2:1~10:1である工程、
ii)任意選択的に、特にアルキル(メタ)アクリレート対ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートの最大モル比が10:1になるまで、過剰のアルキル(メタ)アクリレートを留去する工程、
iii)得られた反応混合物を、好ましくは水で、10重量%~90重量%、特には20重量%~60重量%まで希釈する工程、
iv)任意選択的に、アルキル(メタ)アクリレート、酢酸ビニル、スチレン、及びヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを含む群から特に選択される1種以上のモノマーを添加する工程、
v)RAFT剤及び重合開始剤を反応混合物に添加する工程、
vi)反応混合物を、ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートを基準として50~95mol%の転化率まで重合する工程、
vii)酸基を含む少なくとも1種のモノマーと、アルキル(メタ)アクリレート、酢酸ビニル、スチレン、及びヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを含む群から特に選択される任意選択的な追加のモノマー(好ましくはヒドロキシエチルアクリレート)を反応混合物に添加する又は量り入れる工程、並びに
viii)このようにして得られた混合物を、酸基を含むモノマーを基準として少なくとも90mol%の転化率まで更に重合する工程。
【0079】
改善されたブロック構造又はグラジエント構造を有する櫛形ポリマーの更に好ましい調製方法は、以下の工程を含む:
i)適切な触媒を使用して、少なくとも1種のアルキレンオキシド、特にはエチレンオキシド及び/又はプロピレンオキシドを用いて、特には2~250、好ましくは5~200、より好ましくは8~160、特に好ましくは9~130、特には10~120、又は12~70のアルコキシル化度まで、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、特にはヒドロキシエチルメタクリレート又はヒドロキシプロピルアクリレートをアルコキシル化する工程、
ii)任意選択的に触媒を除去する、及び/又は酸若しくはアルカリを添加する工程、
iii)得られた反応混合物を、好ましくは水で、10重量%~90重量%、特には20重量%~60重量%まで希釈する工程、
iv)任意選択的に、アルキル(メタ)アクリレート、酢酸ビニル、スチレン、及びヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを含む群から特に選択される1種以上のモノマーを添加する工程、
v)RAFT剤及び重合開始剤を反応混合物に添加する工程、
vi)反応混合物を、ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートを基準として50~95mol%の転化率まで重合する工程、
vii)酸基を含む少なくとも1種のモノマーと、アルキル(メタ)アクリレート、酢酸ビニル、スチレン、及びヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートを含む群から特に選択される任意選択的な追加のモノマー(好ましくはヒドロキシエチルアクリレート)を反応混合物に添加する又は量り入れる工程、並びに
viii)このようにして得られた混合物を、酸基を含むモノマーを基準として少なくとも90mol%の転化率まで更に重合する工程。
【0080】
酸基を含むモノマーは、好ましくは、式Vの構造単位S2によって重合形態で表されるモノマーである。酸基を含むモノマーは、好ましくはアクリル酸及び/又はメタクリル酸であり、より好ましくはメタクリル酸である。
【0081】
ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートの調製のための工程、すなわち工程i及びiiは、ここでは重合(すなわち工程v~viii)とは別個に、特には異なる反応器の中で空間的に別々に、及び/又は数時間、数日、若しくは数週間の時間をおいて行われてもよい。工程iii及びivは、ここでは、それぞれ独立に、工程iiの直後、特には同じ反応器内で、又は工程vの直前まで時間的及び/又は空間的に分離されて行われてもよい。重合からのポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートの調製を空間的に分離すると、反応容器を更によく利用することができ、ひいてはコストを削減することができる。また、全ての工程i~viiiが、1つの同じ反応器内で、時間的に直接連続して行われる場合も有利な場合がある。これにより、同様に例えば輸送や保管などのコストや時間を節約することができる。
【0082】
本発明は、更に、本発明の方法により調製された櫛形ポリマーの、微粉末用の、特に無機バインダー用の分散剤としての使用を提供する。
【0083】
適切な無機バインダーは、特に、水和反応において水の存在下で反応して固体水和物又は水和物相を与えるバインダーである。特に、水で、更には水中で硬化可能な水硬性バインダーのための分散剤として、特には水との添加剤の作用下で凝結するセメント又は潜在性水硬性バインダーなど、特にはスラグ砂又はポゾランバインダーなど、特にフライアッシュ又はシリカダスト、或いは石膏半水和物又は無水石膏などのための分散剤として櫛形ポリマーを使用することが有利である。
【0084】
特に有利な用途は、セメント用途、特にセメントペースト、モルタル、又はコンクリートである。本発明の方法により調製される櫛状ポリマーは、これらの用途において、非常に優れた可塑化作用、及び存在するとしてもごくわずかな凝結の遅延を示す。
【0085】
本発明は、更に、少なくとも1種の無機バインダーと上述した方法により調製された櫛形ポリマーとを含む水性無機バインダー組成物を硬化することにより得られる成形体、特に構築構造体の構成要素を提供する。構築構造体は、例えば橋、建物、トンネル、道路、又は滑走路であってもよい。
【0086】
本記載の櫛形ポリマーは、非水硬性粉末の分散にも非常に適している。そのような粉末の例は、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、ケイ酸カルシウム水和物(CSH)粒子、炭塵、顔料、粉砕セメント、石膏二水和物、又は二酸化チタンである。
【0087】
本発明の更に有利な実施形態は以下の実施例から明らかになるであろう。
【実施例】
【0088】
ポリマーの分子量及び多分散度、並びにポリマー溶液の固形分の決定
ポリマーの重量平均分子量MW及び数平均分子量Mnは、標準としてポリエチレングリコール(PEG)を用いたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により決定した。
使用したカラムカスケード:3本の8×300mmのSuprema GPCカラム(10μm、2×1000Å、1×30Å、プレカラム付き)、PSS Polymer Standards Service,Germanyより、
0.1NのNaNO3溶液、NaOHでpHを12に調整済、
流量:0.8ml/min
検出器:Waters,USAの2414 RI検出器、
カラムオーブンと検出器の温度:45℃。
多分散度は、Mw/Mn比として計算した。
溶液の固形分は、Mettler Toledo,SwitzerlandのHG63ハロゲンドライヤーで決定した。
【0089】
モノマー混合物M1の調製
温度計、攪拌機、及び蒸留アタッチメントを有するVigreuxカラムを備えた三口フラスコの中で、60.1g(0.6mol)のメチルメタクリレートと150g(0.3mol)のポリエチレングリコールモノメチルエーテル(Mw500)を混合し、次いで撹拌しながら2.94gの濃硫酸と2.1gのフェノチアジンを添加した。反応混合物を撹拌しながら120℃まで加熱した。反応中に形成されたメタノールを連続的に留去した。8時間後、温度を135℃まで上げ、メタノールと残存するメタクリル酸メチルを留去した。
【0090】
ブロック構造を有する櫛形ポリマーP1の調製
調製後、モノマー混合物M1を同じ反応容器内で600mlの水で希釈し、80℃まで加熱した。穏やかな不活性ガス流(N2)を、加熱中及び残りの反応時間を通して撹拌されている溶液に通過させた。4-シアノ-4-(チオベンゾイルチオ)ペンタン酸7.7g(0.027mol;RAFT剤)を添加した。物質が完全に溶解した後、1.34gのアゾビスイソブチロニトリル(0.008mol)を添加した。それ以降、HPLCを使用して一定の間隔で転化率を決定した。メトキシポリエチレングリコールメタクリレートを基準とした転化率が85%を超えてすぐに95.3gのメタクリル酸(1.1mol)を反応混合物に添加した。HPLC測定によれば、2.5時間後に全てのメタクリル酸が反応していた。赤みを帯びたポリマー溶液が得られた。ポリマーの分子量Mwは36,200g/molであり、多分散度は1.21であった。
【0091】
グラジエント構造を有する櫛形ポリマーP2の調製
モノマー混合物M1の調製を、上述したものと同じ量で繰り返した。調製後、同じ反応容器中で600mlの水を用いて反応混合物を希釈し、80℃まで加熱した。穏やかな不活性ガス流(N2)を、加熱中及び残りの反応時間を通して撹拌されている溶液に通過させた。4-シアノ-4-(チオベンゾイルチオ)ペンタン酸7.7g(0.027mol;RAFT剤)を添加した。物質が完全に溶解した後、1.34gのアゾビスイソブチロニトリル(0.008mol)を添加した。それ以降、HPLCを使用して一定の間隔で転化率を決定した。メトキシポリエチレングリコールメタクリレートを基準とした転化率が50%を超えてすぐに95.3gのメタクリル酸(1.1mol)を反応混合物に20分以内に添加した。その後、反応混合物を80℃で更に2時間撹拌した。赤みを帯びたポリマー溶液が得られた。ポリマーの分子量Mwは35,900g/molであり、多分散度は1.20であった。
【0092】
モノマー混合物M2~M9
櫛形ポリマーの調製に使用したモノマー混合物M2~M9は、表1に示す組成を有していた。
【0093】
表1は、mol%単位でのモノマー混合物M2~M9の組成、重量%単位での混合物の含水率、及びメトキシポリエチレングリコール-1000メタクリレートを基準としたメタクリル酸の重量%を示している。
【0094】
【0095】
ブロック構造を有する櫛形ポリマーP3の調製
櫛形ポリマーP3の調製のために、還流冷却器と、撹拌系と、温度計と、不活性ガス導入管とを備えた丸底フラスコに、800gのモノマー混合物M2(0.3mol)を最初に入れた。撹拌しながら反応混合物を80℃まで加熱した。穏やかな不活性ガス流(N2)を、加熱中及び残りの反応時間を通して溶液に通過させた。4-シアノ-4-(チオベンゾイルチオ)ペンタン酸7.7g(0.027mol;RAFT剤)を添加した。物質が完全に溶解した後、1.34gのアゾビスイソブチロニトリル(0.008mol)を添加した。それ以降、HPLCを使用して一定の間隔で転化率を決定した。メトキシポリエチレングリコールメタクリレートを基準とした転化率が85%を超えてすぐに95.3gのメタクリル酸(1.1mol)を反応混合物に添加した。混合物を更に2時間反応させたままにした。冷却後、赤みを帯びたポリマー溶液が得られ、これに水を添加して固形分を約40重量%に調整した。
【0096】
ブロック構造を有する櫛形ポリマーP4~P10の調製
モノマー混合物M2ではなく表1に示すモノマー混合物M3~M9を櫛形ポリマーP4~P10のために使用したことを除いては櫛形ポリマーP3と同様に櫛形ポリマーP4~P10を調製した。各場合において、合計0.3molのモノマーが含まれるモノマー混合物の量を使用した。
【0097】
モルタルでの試験
モルタル混合物の準備
試験目的のために使用されるモルタル混合物は、表2に記載されている乾燥組成を有している。
【0098】
【0099】
モルタル混合物を調合するために、砂、石灰石フィラー、及びセメントをホバートミキサーの中で1分間乾式混合した。30秒以内に、表3によるそれぞれのポリマーが予め混合されている352.5gの補給水を添加し、混合物を更に2.5分間撹拌した。湿式混合の合計時間は、いずれの場合も3分であった。
【0100】
分散作用の決定
ポリマーの分散性を決定するために、調合したモルタル混合物のスランプをそれぞれ様々な時点で測定した。モルタルのスランプは、EN1015-3に従って決定した。
【0101】
モルタル試験の結果
表3は、実施したモルタル試験(T1~T8)の概要を示している。それぞれの櫛形ポリマーの添加量は、セメントの重量を基準として、40重量%のポリマー溶液のうちの0.5重量%であった。W/C(セメントに対する水の重量比)は0.47であった。
【0102】
【表3】
本明細書に開示される発明は以下の態様を含む:
[1]ブロック構造又はグラジエント構造を有する櫛形ポリマーの調製方法であって、
前記櫛形ポリマーの少なくとも一つの区域Aを、ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートを含有するモノマー混合物Mを重合することによって形成し、前記モノマー混合物Mが、前記モノマー混合物M中に存在する前記ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートの重量を基準として2重量%未満の(メタ)アクリル酸を含有する、
方法。
[2]前記モノマー混合物Mが、前記モノマー混合物M中に存在する前記ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートの重量を基準として、1.8重量%未満、好ましくは1.6重量%未満、更に好ましくは1.4重量%未満、更には1.2重量%未満、特には0.9重量%又はこれ未満の、(メタ)アクリル酸を含有することを特徴とする、上記[1]に記載の方法。
[3]前記ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートが、(メタ)アクリル酸も(メタ)アクリル酸の無水物も使用しない方法によって調製したものであることを特徴とする、上記[1]又は[2]に記載の方法。
[4]前記ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートが、一端をキャップしたポリアルキレングリコールを用いてアルキル(メタ)アクリレートをエステル交換することによって得られるか、又はヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートをアルコキシル化することによって得られることを特徴とする、上記[1]~[3]のいずれか一つに記載の方法。
[5]前記エステル交換反応の開始時に、アルキル(メタ)アクリレート対一端をキャップしたポリアルキレングリコールのモル比が、1:1~50:1、更には1.5:1~20:1、特には2:1~10:1であることを特徴とする、上記[4]に記載の方法。
[6]前記エステル交換の間及び/又は後に、過剰のアルキル(メタ)アクリレートを反応混合物から部分的に又は完全に除去し、特には留去することを特徴とする、上記[4]又は[5]に記載の方法。
[7]前記モノマー混合物Mが、一端をキャップしたポリアルキレングリコールを用いてアルキル(メタ)アクリレートをエステル交換することによって得られる反応混合物を含み、かつ前記ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートに加えて、アルキル(メタ)アクリレート、一端をキャップしたポリアルキレングリコール、エステル交換触媒、及び重合禁止剤を含む群から選択される少なくとも一種の化合物を含有することを特徴とする、上記[1]~[6]のいずれか一つに記載の方法。
[8]前記モノマー混合物Mが、1:0~1:10、好ましくは1:0.01~1:8、更には1:0.1~1:6、特には1:0.2~1:4のモル比でポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートとアルキル(メタ)アクリレートを含有することを特徴とする、上記[1]~[7]のいずれか一つに記載の方法。
[9]前記少なくとも1つの区域Aを形成するための前記モノマー混合物Mの前記重合と、前記櫛形ポリマーの調製のための追加の工程を、特には前記エステル交換の直後に、好ましくは同じ反応器内で、リビングフリーラジカル重合によって行うことを特徴とする、上記[1]~[8]のいずれか一つに記載の方法。
[10]ブロック構造又はグラジエント構造を有する前記櫛形ポリマーが、以下の構造単位を有すること特徴とする、上記[1]~[9]のいずれか一つに記載の方法:
4~68mol%、好ましくは10~40mol%の式(IV)の構造単位S1、
10~95mol%、好ましくは20~85mol%の式(V)の構造単位S2、
0~85mol%、好ましくは2~35mol%の式(VI)の構造単位S3、及び
0~50mol%の構造単位S4、
【化4】
式中、
R
1
は、それぞれ独立して、H又は-CH
3
であり、
R
2
は、それぞれ独立して、H、C
1
~C
20
-アルキル基、-シクロヘキシル基、又は-アルキルアリール基であり、
R
3
は、それぞれ独立して、1~5個の炭素原子を有するアルキル基であり、
R
4
は、それぞれ独立して、-COOM、-SO
2
-OM、-O-PO(OM)
2
、及び/又は-PO(OM)
2
であり、
R
5
は、それぞれ独立して、H、-CH
2
COOM、又は1~5個の炭素原子を有するアルキル基であり、
R
6
は、それぞれ独立して、H又は1~5個の炭素原子を有するアルキル基であり、
R
7
は、それぞれ独立して、H、-COOM、又は1~5個の炭素原子を有するアルキル基であるか、R
4
がR
7
と共に環を形成して-CO-O-CO-(無水物)を与え、
Mは、独立して、H
+
、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、二価若しくは三価の金属イオン、アンモニウムイオン、又は有機アンモニウム基であり;
Aは、C
2
~C
4
アルキレンであり、かつ
nは2~250であり、かつ
構造単位S4は、前記櫛形ポリマーに重合可能な不飽和モノマー、特には酢酸ビニル、スチレン、及び/又はヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートから、特にはヒドロキシエチルアクリレートから誘導される。
[11]ブロック構造又はグラジエント構造を有する前記櫛形ポリマーの前記少なくとも一つの区域Aを、区域A中の全ての構造単位を基準として、平均で少なくとも90mol%、好ましくは少なくとも95mol%、特には少なくとも98mol%まで構造単位S1、S3、及び/又はS4から形成し、構造単位S1が区域Aに少なくとも10mol%、好ましくは少なくとも20mol%、より好ましくは少なくとも50mol%まで存在することを特徴とする、上記[1]~[10]のいずれか一つに記載の方法。
[12]下記の工程を特徴とする、ブロック構造又はグラジエント構造を有する櫛形ポリマーの調製方法:
- 反応混合物から形成されたアルキルアルコールを連続的に除去しながら、一端をキャップしたポリアルキレングリコールを用いて、アルキル(メタ)アクリレートを、一端をキャップしたポリアルキレングリコールを基準として少なくとも60mol%の転化率までエステル交換すること、
- 任意選択的に、過剰のアルキル(メタ)アクリレートを留去すること、
- 得られた前記反応混合物を、好ましくは水で、10重量%~90重量%まで希釈すること、
- 任意選択的に一種又は複数のモノマーを添加すること、
- RAFT剤及び重合開始剤を前記反応混合物に添加すること、
- 前記反応混合物を、ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートを基準として50~95mol%の転化率まで重合すること、
- 酸基を含む少なくとも一種のモノマーと、任意選択的な追加のモノマーを前記反応混合物に添加するか又は量り入れること、及び
- このようにして得た前記混合物を、酸基を含むモノマーを基準として少なくとも90mol%の転化率まで更に重合すること。
[13]下記の工程を特徴とする、ブロック構造又はグラジエント構造を有する櫛形ポリマーの調製方法:
- 適切な触媒を使用して、少なくとも一種のアルキレンオキシドを用いて、特には2~250のアルコキシル化度まで、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートをアルコキシル化すること、
- 任意選択的に前記触媒を除去し、かつ/又は酸若しくはアルカリを添加すること、
- 得られた反応混合物を、好ましくは水で、10重量%~90重量%まで希釈すること、
- 任意選択的に一種又は複数のモノマーを添加すること、
- RAFT剤及び重合開始剤を前記反応混合物に添加すること、
- 前記反応混合物を、ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートを基準として50~95mol%の転化率まで重合すること、
- 酸基を含む少なくとも一種のモノマーと、任意選択的な追加のモノマーを前記反応混合物に添加するか又は量り入れること、及び
- このようにして得た前記混合物を、酸基を含むモノマーを基準として少なくとも90mol%の転化率まで更に重合すること。
[14]上記[1]~[13]のいずれか一つに記載の方法により調製された櫛形ポリマーの、微粉末用の、特には無機バインダー用の分散剤としての使用。
[15]少なくとも1種の無機バインダーと、上記[1]~[13]のいずれか一つに記載の方法により調製された櫛形ポリマーとを含有する水性無機バインダー組成物を硬化することによって得られる成形体、特には構築構造体の構成要素。