(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】熱間鍛造材の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21J 5/00 20060101AFI20240312BHJP
B21J 17/00 20060101ALI20240312BHJP
B21J 3/00 20060101ALI20240312BHJP
B21J 13/02 20060101ALI20240312BHJP
C22F 1/10 20060101ALI20240312BHJP
C22C 19/03 20060101ALI20240312BHJP
C22C 19/05 20060101ALI20240312BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20240312BHJP
【FI】
B21J5/00 B
B21J17/00 A
B21J3/00
B21J13/02 M
C22F1/10 A
C22F1/10 H
C22C19/03 J
C22C19/05 D
C22F1/00 631B
C22F1/00 630K
C22F1/00 650A
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 691B
C22F1/00 694B
C22F1/00 694Z
C22F1/00 694A
(21)【出願番号】P 2020055805
(22)【出願日】2020-03-26
【審査請求日】2022-12-22
(31)【優先権主張番号】P 2019065238
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 翔悟
(72)【発明者】
【氏名】上野 友典
(72)【発明者】
【氏名】小林 信一
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 正一
(72)【発明者】
【氏名】松井 孝憲
【審査官】堀内 亮吾
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-174938(JP,A)
【文献】国際公開第2016/152982(WO,A1)
【文献】特開2017-094392(JP,A)
【文献】特開2016-068134(JP,A)
【文献】特開昭62-050429(JP,A)
【文献】特開2014-213362(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0084118(US,A1)
【文献】米国特許第04740354(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21J 5/00
B21J 17/00
B21J 3/00
B21J 13/02
C22F 1/10
C22C 19/03
C22C 19/05
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上型と下型の両方がNi基超耐熱合金製であり、熱間鍛造用素材を前記下型と前記上型とにより大気中で押圧することにより熱間鍛造材とする熱間鍛造工程を含む熱間鍛造材の製造方法において、
前記熱間鍛造用素材を加熱炉内で1025~1150℃の範囲内の加熱温度に加熱する素材加熱工程と、
前記上型と前記下型を950~1075℃の範囲内の加熱温度に加熱する金型加熱工程と、
マニピュレータにより前記熱間鍛造用素材を前記下型上まで搬送する
とき、前記マニピュレータの挟持部に前記熱間鍛造用素材を把持する把持治具を取り付けて、前記把持治具は前記熱間鍛造用素材の側面を覆うカバーを有し、前記把持治具を950℃以上で、且つ、前記熱間鍛造用素材加熱温度マイナス50℃~プラス100℃の温度範囲内に加熱しておき、前記把持治具を用いて大気に暴露された熱間鍛造用素材を搬送する搬送工程と、
を含み、
前記熱間鍛造用素材の加熱温度から前記上型と前記下型の加熱温度を引いた値が75℃以上であり、前記熱間鍛造工程での熱間鍛造中の熱間鍛造用素材のひずみ速度が常に0.001/sec以上であることを特徴とする熱間鍛造材の製造方法。
【請求項2】
前記Ni基超耐熱合金が、質量%で、W:7.0~16.0%、Mo:1.0~11.0%、Al:5.0~7.5%、選択元素として、Cr:7.5%以下、Ta:7.0%以下、Ti:7.0%以下、Nb:7.0%以下、Co:15.0%以下、C:0.25%以下、B:0.05%以下、N:0.015%以下、Zr:0.8%以下、Hf:0.8%以下、希土類元素:0.2%以下、Y:0.2%以下、Mg:0.03%以下、Ca:0.03%以下、残部はNi及び不可避的不純物の組成を有することを特徴とする請求項1に記載の熱間鍛造材の製造方法。
【請求項3】
前記熱間鍛造用素材が前記加熱炉内で前記加熱温度に加熱される前に、前記熱間鍛造用素材の表面に液体潤滑剤の塗布による潤滑被覆を設けることを特徴とする請求項1または2に記載の熱間鍛造材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱した金型を用いて行われる熱間鍛造材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
耐熱合金の鍛造において、鍛造用素材は変形抵抗を低くするため所定の温度に加熱される。耐熱合金は高温でも高い強度を有するため、その鍛造に用いる熱間鍛造用金型には高温での高い機械的強度が必要とされる。また、熱間鍛造において熱間鍛造用金型の温度が室温と同程度である場合、抜熱により鍛造用素材の加工性が低下するため、例えばAlloy718やTi合金等の難加工性材の鍛造は、素材とともに熱間鍛造用金型を加熱して行われる。従って、熱間鍛造用金型は、鍛造用素材が加熱される温度と同じかもしくはそれに近い高温で、高い機械的強度を有したものでなければならない。この要求を満たす熱間鍛造用金型として、大気中での金型温度1000℃以上の熱間鍛造に使用できるNi基超耐熱合金が提案されている(例えば、特許文献1~3参照)。
難加工性材の熱間鍛造には、鍛造用素材と近い温度に加熱した金型を用いて、例えば0.01~0.1/sec程度のひずみ速度で鍛造するホットダイ鍛造や、鍛造用素材と等温に加熱した金型を用いることでホットダイ鍛造より遅い、例えば0.001/sec以下のひずみ速度での鍛造が可能な恒温鍛造が適用される。特許文献1乃至3で提案されたNi基超耐熱合金製の金型を用いて大気中で行う熱間鍛造として、恒温鍛造の実施例が非特許文献1に、ホットダイ鍛造の実施例が特許文献4に示されている。熱間鍛造材を最終形状に近い形状とすることで歩留り向上と加工費低減が可能となるため、鍛造用素材費の点では、熱間鍛造材に金型による抜熱に伴う不均一変形部が存在しない恒温鍛造が有利である。一方、金型の温度が低い程金型の高温強度が高くなり型寿命が向上するため、金型費の点では、金型温度が比較的低いホットダイ鍛造が有利である。熱間鍛造材の組織に影響を及ぼすひずみ速度等の鍛造条件が許容範囲であるならば、ホットダイ鍛造と恒温鍛造との選択では、これらの費用に設備費や鍛造工程数等に依存する作業費などを加えた製造費が低い方が選ばれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭62-50429号公報
【文献】特公昭63-21737号公報
【文献】米国特許第4740354号明細書
【文献】特開平3-174938号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】Transactions of the Iron and Steel Institute of Japan Vol.28(1988) No.11 P.958-964
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2の実施例において従来合金として示されているMar-M200等のNi基超耐熱合金を金型に用いた場合、実機での難加工性材のホットダイ鍛造における一般的な金型の上限温度は金型寿命の点から900℃程度である。難加工性材の一般的な加熱温度は1000~1150℃であるため、金型温度は熱間鍛造用素材より100~250℃低い。熱間鍛造材を最終形状に近い形状とするためには金型温度と熱間鍛造用素材の温度差は小さい方が有利であり、特許文献1~3で提案されているような、高温強度に優れ、金型耐用寿命の点で有利なNi基超耐熱合金をホットダイ鍛造の金型に適用することで、熱間鍛造用素材との温度差を小さくすることができる。金型温度を向上させることによる効果を十分に得るために、この場合の金型温度は950℃以上である必要がある。
加熱炉内で加熱した熱間鍛造用素材の表面付近の温度は搬送中に低下する。熱間鍛造用素材と金型加熱温度の差が小さい場合、搬送中に表面付近が温度低下した熱間鍛造用素材を下型に載置すると、熱間鍛造用素材の表面付近の温度は金型の加熱温度未満となる。この状態で熱間鍛造すると、熱間鍛造中に上型と下型(一対の上型と下型のことを「金型」と記す)と接触する熱間鍛造用素材の上下底面付近では金型によって加熱されることで温度が複熱する一方、金型と接触していない熱間鍛造用素材の側面は温度が低下したままとなる。このような温度むらのある状態で熱間鍛造を行うと、変形抵抗の比較的低い上下底面付近が優先的に変形することによる、熱間鍛造材の側面におけるダブルバレリング状の鍛造欠陥の生じる可能性が高くなる。なお、本発明で言う上下底面とは、熱間鍛造用素材の上型と接する面、及び下型と接する面のことを言う。また、本発明で言うダブルバレリング状の鍛造欠陥とは、円柱状の鍛造用素材に対する一般的な据込み鍛造後の鍛造材の側面において、熱間鍛造用素材が外周方向に曲面状に膨出することで生じるバレリング部が上下底面付近に生じることでできる、鍛造材の側面における楕円状の凹みのことを言う。
図1に、熱間鍛造工程も含め、本発明で言うダブルバレリング状の鍛造欠陥を図示する。
一般的には、この鍛造欠陥が生じると、熱間鍛造材における最終形状以外の切り捨て部分の体積が増加するため歩留まりが低下する。
【0006】
先述した課題は特に大型の鍛造材を得る場合に顕著になる傾向がある。そのため、高温強度に優れた、金型耐用寿命で有利なNi基超耐熱合金を金型に適用したホットダイ鍛造では、金型材の変更とともに、ダブルバレリング状の鍛造欠陥の生じない製造方法を適用する必要が有る。
そのための第1の方法として、熱間鍛造用素材の表面温度の搬送中の低下は搬送時間の短縮により抑制可能である。しかしながら、金型温度900℃以下の一般的なホットダイ鍛造でも搬送時間の短縮は図られている。そのため、搬送時間の短縮以外の方法を検討する方が効果的である。
特許文献4には、鍛造用素材を鍛造温度以上の融点を有する金属材で被覆して鍛造するホットダイ鍛造が示されている。この方法を用いれば金型温度950℃以上でもダブルバレリング状の鍛造欠陥が生じないホットダイ鍛造を実施できる可能性がある。しかし、この特許文献4の方法では鍛造前の熱間鍛造用素材への被覆と鍛造後の被覆除去工程が必要となり、生産性が低下する。
金型温度が950℃以上のホットダイ鍛造において、生産性の低下を招かずにダブルバレリング状の鍛造欠陥の発生を防止する熱間鍛造材の製造方法の提案は見当たらないのが現実である。
本発明の目的は、ダブルバレリング状の鍛造欠陥の発生を防止可能な熱間鍛造材の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、金型温度が950℃以上であるホットダイ鍛造におけるダブルバレリング状の鍛造欠陥の発生を検討し、ダブルバレリング状の鍛造欠陥を抑制できる温度条件を見出し本発明に到達した。
すなわち本発明は、上型と下型の両方がNi基超耐熱合金製であり、熱間鍛造用素材を前記下型と前記上型とにより大気中で押圧することにより熱間鍛造材とする熱間鍛造工程を含む熱間鍛造材の製造方法において、前記熱間鍛造用素材を加熱炉内で1025~1150℃の範囲内の加熱温度に加熱する素材加熱工程と、前記上型と前記下型を950~1075℃の範囲内の加熱温度に加熱する金型加熱工程と、マニピュレータにより前記熱間鍛造用素材を前記加熱炉内から前記下型上まで搬送する搬送工程とを含み、且つ、前記熱間鍛造用素材の加熱温度から前記上型と前記下型の加熱温度を引いた値が75℃以上であり、且つ、前記熱間鍛造工程での熱間鍛造中の熱間鍛造用素材のひずみ速度が常に0.001/sec以上である熱間鍛造材の製造方法である。
また、前記Ni基超耐熱合金の組成は、質量%で、W:7.0~16.0%、Mo:1.0~11.0%、Al:5.0~7.5%、選択元素として、Cr:7.5%以下、Ta:7.0%以下、Ti:7.0%以下、Nb:7.0%以下、Co:15.0%以下、C:0.25%以下、B:0.05%以下、N:0.015%以下、Zr:0.8%以下、Hf:0.8%以下、希土類元素:0.2%以下、Y:0.2%以下、Mg:0.03%以下、Ca:0.03%以下、残部はNi及び不可避的不純物であることが好ましい。
また、前記熱間鍛造用素材が前記加熱炉内で前記加熱温度に加熱される前に、前記熱間鍛造用素材の表面に液体潤滑剤の塗布による潤滑被覆を設けることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によればダブルバレリング状の鍛造欠陥の発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】熱間鍛造により生じるダブルバレリング状の鍛造欠陥を示した図である。
【
図2】本発明に係る熱間鍛造材の製造方法の各工程と、工程間の流れを例示した模式図である。
【
図3】本発明に係る熱間鍛造材の製造方法の適用によるダブルバレリング状の鍛造欠陥の防止効果を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の実施形態を詳しく説明する。
<熱間鍛造用素材>
最初に、本発明の熱間鍛造材の製造方法で用いる熱間鍛造用素材(以下、素材ともいう)について説明する。
本発明は難加工性材からなる熱間鍛造用素材を熱間鍛造する熱間鍛造材の製造方法に好適である。難加工性材としてはNiを主成分とするNi基超耐熱合金やTiを主成分とするTi合金等が代表的である。なお、本発明で言う主成分とは、質量%で最も含有量の高い元素のことを指す。熱間鍛造用素材の形状と内部組織は特に限定しないが、一般的に熱間鍛造用素材として好適な形状や内部組織であればよい。なお、本発明で言う「Ni基超耐熱合金」とは、超合金、耐熱超合金、superalloyとも称される600℃以上の高温領域で使用されるNi基の合金であって、γ’などの析出相によって強化される合金を言う。
本発明における熱間鍛造用素材の形状は、ダブルバレリング状の鍛造欠陥の発生を防止する点から、熱間鍛造用素材を金型に載置した時の素材の高さを素材の最大幅(直径)で割った値が3.0以下であることが好ましく、2.8以下であることがより好ましく、2.5以下であることが特に好ましい。この値が3.0を超えると、ダブルバレリング状の鍛造欠陥の他に、座屈などの別の鍛造欠陥の生じる可能性が高くなるからである。
また、熱間鍛造用素材の表面は、スケールが形成された表面状態でも良いが、潤滑剤を均一に塗布するため、機械加工後に脱脂洗浄した金属面であることが好ましい。
【0011】
また、熱間鍛造時においては、熱間鍛造用素材表面と金型が高温且つ高い応力負荷状態で接触するため、成形荷重の低減、金型と鍛造用素材間の拡散結合による焼き付き防止、金型の摩耗の抑制等のため潤滑剤ないしは離型剤が用いられる。本発明のような、大気中での金型温度950℃以上での熱間鍛造では、潤滑剤ないしは離型剤として、グラファイト系の潤滑剤、窒化硼素系の離型剤、ガラス系の潤滑剤兼離型剤等が使用される。
本発明では、成形荷重低減の点と塗布作業性の点から、水などの分散剤にガラスフリットを分散させたガラス系液体潤滑剤を使用することが好ましい。ガラスフリットは、成形荷重低減の点で有利な粘度を有するホウケイ酸ガラスであることが好ましい。また、熱間鍛造用素材と金型における酸化腐食を助長する化学反応を抑制する点から、この液体潤滑剤のガラスのアルカリ成分含有量は低い方が好ましい。
前述したガラス系液体潤滑剤は、例えば、熱間鍛造用素材全面へのスプレー、刷毛塗り、浸漬による塗布や、金型表面へのスプレー、刷毛塗りなどにより、熱間鍛造用素材の表面に付与され、熱間鍛造用素材と金型の間に供給される。このうち、潤滑被膜の厚さの制御の点からスプレーによる塗布が塗布方法として最も好ましい。潤滑剤を塗布する前の熱間鍛造用素材は、液体潤滑剤に含まれる水等の分散剤の揮発を促進するため、塗布作業の前に室温以上の温度に加熱されていても良い。
塗布によるガラス系潤滑被膜の厚さは、熱間鍛造中における連続的な潤滑膜の形成のため100μm以上が好ましい。100μm未満では潤滑膜が部分的に破損し、熱間鍛造用素材と金型の直接接触による潤滑性の悪化に加え、金型の摩耗や焼き付きが生じやすくなるおそれがある。また、熱間鍛造用素材の搬送中の温度低下を抑制する点では、潤滑被膜の厚さは厚い方が好ましい。しかし、潤滑被膜の厚さが厚すぎると、複雑な形状の型彫り面を有する金型を用いた鍛造の場合、ガラスの型彫り面への堆積による鍛造品の寸法公差外れが生じるおそれがある。そのため、潤滑被膜の厚さは500μm以下であることが好ましい。
【0012】
<金型>
次に本発明で用いる金型について説明する。本発明でいう「金型」とは、上下一対の上型と下型とを言う。
本発明で用いる金型の材質は、高温強度に優れ金型耐用寿命の点で有利なNi基超耐熱合金とする。高温強度に優れた金型の材質として、Ni基超耐熱合金の他にもファインセラミックスやMo基合金をあげることができる。しかし、ファインセラミックス製の金型は、そのコストが高額である。また、Mo基合金製の金型であると、不活性雰囲気で使用しなければならないため専用の大規模かつ特殊な設備が必要となる。そのため、これらはNi基超耐熱合金に比べ製造コストの点で不利である。前記の理由から本発明で用いる金型の材質をNi基超耐熱合金とする。
前記高温強度に優れたNi基超耐熱合金の中でも、下記で説明する合金組成を有するNi基超耐熱合金は高温圧縮強度が優れているだけなく、高温の大気雰囲気中においても熱間鍛造用の金型として十分に使用できるだけの強度を有する合金である。
以下に、好ましい熱間鍛造用金型用のNi基超耐熱合金の組成について説明する。なお、化学組成の単位は質量%である。好ましいNi基超耐熱合金の組成は、質量%で、W:7.0~16.0%、Mo:1.0~11.0%、Al:5.0~7.5%、選択元素として、Cr:7.5%以下、Ta:7.0%以下、Ti:7.0%以下、Nb:7.0%以下、Co:15.0%以下、C:0.25%以下、B:0.05%以下、N:0.01%以下、Zr:0.8%以下、Hf:0.8%以下、希土類元素:0.2%以下、Y:0.2%以下、Mg:0.03%以下、Ca:0.03%以下、残部はNi及び不可避的不純物である。
【0013】
<W:7.0~16.0%>
Wは、オーステナイトマトリックスに固溶するとともに、析出強化相であるNi3Alを基本型とするガンマプライム相(γ’相)にも固溶して合金の高温強度を高める。一方、Wは、耐酸化性を低下させる作用や、TCP(Topologically Close Packed)相等の有害相を析出しやすくする作用を有する。高温強度を高め、且つ、耐酸化性の低下と有害相の析出をより抑制する観点から、本発明におけるNi基超耐熱合金中のWの含有量は7.0~16.0%とする。Wの効果をより確実に得るための好ましい下限は10.0%であり、好ましいWの上限は15.0%であり、更に好ましい上限は12.0%であり、より好ましくは11.0%である。
<Mo:1.0~11.0%>
Moは、オーステナイトマトリックスに固溶するとともに、析出強化相であるNi3Alを基本型とするガンマプライム相にも固溶して合金の高温強度を高める。一方、Moは、耐酸化性を低下させる作用を有する。高温強度を高め、且つ、耐酸化性の低下をより抑制する観点から、本発明におけるNi基超耐熱合金中のMoの含有量は1.0~11.0%とする。なお、Wと後述するTa、Ti、Nbの添加に伴うTCP相等の有害相の析出を抑制するため、Wと後述するTa、Ti、Nb含有量との兼ね合いで好ましいMoの下限を設定するのが好ましく、Taを含有する場合のMoの効果をより確実に得るための好ましい下限は2.5%であり、更に好ましい下限は4.0%であり、より好ましくは4.5%である。一方、Ta、Ti、Nbを含有しない場合のMoの好ましい下限は7.0%とすると良く、更に好ましい下限は9.5%である。また、好ましいMoの上限は10.5であり、更に好ましい上限は、10.2%である。
<Al:5.0~7.5%>
Alは、Niと結合してNi3Alからなるガンマプライム相を析出し、合金の高温強度を高め、合金の表面にアルミナの被膜を生成し、合金に耐酸化性を付与する作用を有する。一方、Alの含有量が多過ぎると、共晶ガンマプライム相を過度に生成し、合金の高温強度を低める作用もある。耐酸化性及び高温強度を高める観点から、本発明におけるNi基超耐熱合金中のAlの含有量は5.0~7.5%とする。Alの効果をより確実に得るための好ましい下限は5.5%であり、更に好ましい下限は6.1%である。また、好ましいAlの上限は6.7%であり、更に好ましい上限は6.5%である。
【0014】
<Cr:7.5%以下>
本発明におけるNi基超耐熱合金は、Crを含有することができる。Crは、合金表面もしくは内部におけるアルミナの連続層の形成を促進し、合金の耐酸化性を向上させる作用を有する。恒温鍛造に比べて熱間鍛造材の寸法公差が大きく、また、金型加熱温度の低いホットダイ鍛造の場合は、耐酸化性の重要性が比較的低くCrの添加は必須でないため、本発明におけるNi基超耐熱合金ではCrは必要に応じて添加される。なお、不純物としての含有を妨げない。また、Crの添加が必要な場合は、7.5%を超える範囲のCrの添加は1000℃以上における合金の圧縮強度も低下させるため避けなければならない。Crの効果を確実に得るための好ましい下限は0.5%であり、更に好ましい下限は1.3%であり、好ましいCrの上限は3.0%である。
<Ta:7.0%以下>
本発明におけるNi基超耐熱合金は、Taを含有することができる。Taは、Ni3Alからなるガンマプライム相にAlサイトを置換する形で固溶して合金の高温強度を高めるとともに、合金表面に形成された酸化物皮膜の密着性と耐酸化性を高め、合金の耐酸化性を向上させる作用を有する。恒温鍛造に比べて熱間鍛造材の寸法公差が大きく、また、金型加熱温度の低いホットダイ鍛造の場合は、耐酸化性と高温強度の重要性が比較的低いためTaの添加は必須でない。加えて、Taは高価あり、多量に添加すると金型費が高額となる。そのため、本発明におけるNi基超耐熱合金では、Taは必要に応じて添加される。なお、不純物としての含有を妨げない。また、Taの添加が必要な場合は、Taの含有量が多すぎると、TCP相等の有害相を析出しやすくする作用や、共晶ガンマプライム相を過度に生成し、合金の高温強度を低める作用もあるため、7.0%を超える範囲の添加は避けなければならない。Taの効果を確実に得るための好ましい下限は0.5%であり、更に好ましい下限は2.5%である。好ましいTaの上限は6.5%である。なお、後述するTi乃至はNbとともにTaを含有する場合は、これらの元素の含有量の総和が大きいと有害相の析出や共晶ガンマプライム相の過度な生成に伴い高温強度が低下するため、これらの元素の含有量の総和は7.0%以下であることが好ましい。
【0015】
<Ti:7.0%以下>
本発明におけるNi基超耐熱合金は、Tiを含有することができる。Tiは、Taと同様にNi3Alからなるガンマプライム相にAlサイトを置換する形で固溶して、合金の高温強度を高める。また、Taに比べて安価な元素であるため金型コストの点で有利である。恒温鍛造に比べて熱間鍛造材の寸法公差が大きく、また、金型加熱温度の低いホットダイ鍛造の場合は、高温強度の重要性が比較的低いためTiの添加は必須でない。そのため、本発明におけるNi基超耐熱合金では、Tiは必要に応じて添加される。なお、不純物としての含有を妨げない。また、Tiの添加が必要な場合は、Tiの含有量が多すぎると、TCP相等の有害相を析出しやすくする作用や、共晶ガンマプライム相を過度に生成し、合金の高温強度を低める作用もあるため、7.0%を超える範囲の添加は避けなければならない。Tiの効果を確実に得るための好ましい下限は0.5%であり、更に好ましい下限は2.5%である。好ましいTiの上限は6.5%である。なお、先述したTa乃至は後述するNbとともにTiを含有する場合は、これらの元素の含有量の総和が大きいと有害相の析出や共晶ガンマプライム相の過度な生成に伴い高温強度が低下するため、これらの元素の含有量の総和は7.0%以下であることが好ましい。
<Nb:7.0%以下>
本発明におけるNi基超耐熱合金は、Nbを含有することができる。Nbは、Ta、Tiと同様にNi3Alからなるガンマプライム相にAlサイトを置換する形で固溶して、合金の高温強度を高める。また、Taに比べて安価な元素であるため金型コストの点で有利である。恒温鍛造に比べて熱間鍛造材の寸法公差が大きく、また、金型加熱温度の低いホットダイ鍛造の場合は、高温強度の重要性が比較的低いためNbの添加は必須でない。そのため、本発明におけるNi基超耐熱合金では、Nbは必要に応じて添加される。なお、不純物としての含有を妨げない。また、Nbの添加が必要な場合は、Nbの含有量が多すぎると、TCP相等の有害相を析出しやすくする作用や、共晶ガンマプライム相を過度に生成し、合金の高温強度を低める作用もあるため、7.0%を超える範囲の添加は避けなければならない。Nbの効果を確実に得るための好ましい下限は0.5%であり、更に好ましい下限は2.5%である。好ましいTiの上限は6.5%である。なお、先述したTa乃至はTiとともにNbを含有する場合は、これらの元素の含有量の総和が大きいと有害相の析出や共晶ガンマプライム相の過度な生成に伴い高温強度が低下するため、これらの元素の含有量の総和は7.0%以下であることが好ましい。
<Co:15.0%以下>
本発明におけるNi基超耐熱合金は、Coを含有することができる。Coは、オーステナイトマトリックスに固溶し、合金の高温強度を高める。恒温鍛造に比べて熱間鍛造材の寸法公差が大きく、また、金型加熱温度の低いホットダイ鍛造の場合は、高温強度の重要性が比較的低いためCoの添加は必須でない。そのため、本発明におけるNi基超耐熱合金では、Coは必要に応じて添加される。なお、不純物としての含有を妨げない。また、Coの含有量が多すぎると、CoはNiに比べて高価な元素であるため金型コストを高め、また、TCP相等の有害相を析出し易くする作用もある。そのため、15.0%を超える範囲の添加は避けなければならない。Coの効果を確実に得るための好ましい下限は0.5%であり、更に好ましい下限は2.5%である。好ましい上限は13.0%である。
【0016】
<C及びB>
本発明におけるNi基超耐熱合金は、C、Bから選択される1種または2種の元素を含有することができる。C、Bは、合金の結晶粒界の強度を向上させ、高温強度や延性を高める。そのため、本発明におけるNi基超耐熱合金では、C、Bから選択される1種または2種の元素も必要に応じて添加される。なお、不純物としての含有を妨げない。また、C、Bの含有量が多すぎると、粗大な炭化物やホウ化物が形成され、合金の強度を低下させる作用もある。合金の結晶粒界の強度を高め、粗大な炭化物やホウ化物の形成を抑制する観点から、本発明におけるCの含有量の上限は0.25%、Bの含有量の上限は0.05%である。Cの効果を確実に得るための好ましい下限は0.005%であり、更に好ましい下限は0.01%である。また、好ましい上限は0.15%である。Bの効果を確実に得るための好ましい下限は0.005%であり、更に好ましい下限は0.01%である。また、好ましい上限は0.03%である。
経済性や高温強度が特に必要とされる場合はCのみを添加することが好ましく、延性が特に必要とされる場合はBのみを添加することが好ましい。高温強度と延性の両者が特に必要とされる場合は、CとBを同時に添加することが好ましい。
<N>
Nは、先述したTiとCを含有する場合、意図的に含有されることが好ましい。これは、Tiとともに形成した窒化物が結晶構造の似ているMC炭化物の析出核として作用する事で、MC炭化物を好ましい形状としつつ微細に分散させ、引張強度を高めるからである。一方、Nの含有量が多くなりすぎると、Nに由来するミクロポロシティが過度に発生し引張強度が低下する。そのため、本発明におけるNの含有量は0.015%以下とする。TiとCを含有する場合は、引張強度を高めるため0.0006%以上含有する事が好ましく、0.001%以上であることが更に好ましい。また、好ましいNの上限は0.009%であり、更に好ましい上限は0.008%である。
【0017】
<その他の任意の添加元素>
本発明におけるNi基超耐熱合金は、Zr、Hf、希土類元素、Y、Ca及びMgから選択される1種または2種以上の元素を含有することができる。なお、不純物としての含有を妨げない。Zr、Hf、希土類元素、Yは、合金表面に形成される酸化物被膜の結晶粒界への偏析によりその粒界での金属イオンと酸素の拡散を抑制する。この粒界拡散の抑制は、酸化物被膜の成長速度を低下させ、また、酸化物被膜の剥離を促進するような成長機構を変化させることで酸化物被膜と合金との密着性を向上させる。すなわち、これらの元素は、前述した酸化物被膜の成長速度の低下と酸化物被膜の密着性の向上によって合金の耐酸化性を向上させる作用を有する。
また、合金中にはS(硫黄)が不純物として少なからず含有される。このSは、合金表面に形成される酸化物被膜と合金との界面への偏析とそれらの化学結合の阻害により酸化物被膜の密着性を低下させる。Ca及びMgは、Sと硫化物を形成し、Sの偏析を防止することで酸化物被膜の密着性を向上させ、合金の耐酸化性を向上させる作用を有する。
なお、前記希土類元素のなかでもLaを用いるのが好ましい。Laは耐酸化性の向上の効果が大きいためである。Laは前述した拡散の抑制に加えてSの偏析を防止する作用も有し、且つ、それらの作用が優れているため、希土類元素のなかではLaを選択するのが良い。また、YにおいてもLaと同じ作用効果を奏するためYの添加も好ましく、LaとYを含む2種以上を用いるのが特に好ましい。
耐酸化性に加えて優れた機械的特性も必要な場合は、HfまたはZrを用いるのが好ましく、Hfを用いるのが特に好ましい。また、Hfを添加する場合は、HfはSの偏析を防止する作用が小さいため、Hfに加えてMgを同時に添加すると耐酸化性がより向上する。そのため、耐酸化性とともに機械的特性がもとめられる場合は、HfとMgを含む2種以上の元素を用いるのが更に好ましい。
【0018】
前述したZr、Hf、希土類元素、Y、Ca及びMgの元素の添加量が多すぎると、Ni等との金属間化合物を過度に生成して合金の靱性を低下させるため、これらの任意の添加元素は好適な含有量とすることが好ましい。また、Zr、HfはCとともに炭化物を形成し、引張強度を高める。
以上のことから、本発明におけるZr、Hfのそれぞれの含有量の上限は0.8%である。Zr、Hfのそれぞれの含有量の好ましい上限は0.5%であり、さらに好ましくは0.2%であり、より好ましくは0.15%である。Cを含有しない場合、Zr及びHfの好ましい上限は0.2%であり、より好ましくは0.1%である。
希土類元素、YはZr、Hfよりも靱性を低める作用が高いため、本発明におけるこれらの元素のそれぞれの含有量の上限は0.2%であり、好ましい上限は0.1%であり、さらに好ましくは0.05%であり、より好ましくは0.02%である。Zr、Hf、希土類元素、Yを含有させる場合の好ましい下限は0.001%である。Zr、Hf、希土類元素、Yの含有の効果を十分に発揮する好ましい下限は0.005%であり、更に好ましくは0.01%以上含有するのがよい。
また、Ca及びMgについては合金に含有される不純物Sと硫化物を形成させるために必要な量のみ含有すればよいため、Ca及びMgの含有量はそれぞれ0.03%以下とする。好ましい上限は0.02%であり、さらに好ましくは0.01%である。一方、それぞれMg添加による効果をより確実に発揮させるには0.005%を下限とするのがよい。また、MgはCaに比べて靭性や延性を低下させる作用が小さいため、S含有量が少なく、これらの元素を多量に含有する必要がない場合は、Mgのみを単独で用いることが好ましい。
以上説明する添加元素以外はNi及び不可避的不純物である。本発明におけるNi基超耐熱合金においてNiはガンマ相を構成する主要元素であるとともに、Al、Ta、Ti、Nb、Mo、Wとともにガンマプライム相を構成する。また、不可避的不純物としては、P、N、O、S、Si、Mn、Fe、Cu等が想定され、Ni基合金用として通常使用している炉でインゴットを鋳造した場合はVやReやRuが想定される。P、O、Sはそれぞれ0.003%以下であれば含有されていてもかまわなく、また、Si、Mn、Fe、Cu、V、Re、Ruはそれぞれ0.5%以下であれば含有されていてもかまわない。また、本発明のNi基合金は、Ni基耐熱合金と呼ぶこともできる。なお、前記不可避的不純物元素のうち、特にSについては0.015%以下とするのが好ましく、0.0010以下とするのが更に好ましい。
【0019】
ところで、本発明で用いる金型の形状は制限されず、熱間鍛造用素材乃至は熱間鍛造材の形状に応じた形状を選択してよい。
また、本発明では、作業性の向上等の点から、必要に応じて金型の成形面または側面の少なくとも一方の面を、酸化防止剤の塗布層を有する面とすることができる。これにより、高温での大気中の酸素と金型の母材の接触による金型表面の酸化とそれに伴うスケール飛散を防止し、作業環境の劣化及び形状劣化を防止できる。前述した酸化防止剤は、窒化物、酸化物、炭化物の何れか1種類以上でなる無機材料であることが好ましい。これは、窒化物や酸化物や炭化物の塗布層により緻密な酸素遮断膜を形成し、金型母材の酸化を防ぐためである。なお、塗布層は窒化物、酸化物、炭化物の何れかの単層でもよいし、窒化物、酸化物、炭化物の何れか2種以上の組み合わせの積層構造であってもよい。更に、塗布層は窒化物、酸化物、炭化物の何れか2種以上からなる混合物であってもよい。
【0020】
次に、「素材加熱工程」と「金型加熱工程」について説明する。上述したダブルバレリング状の鍛造欠陥を防止するには、(1)熱間鍛造用素材の加熱温度、(2)金型の加熱温度及び(3)それらの温度差が非常に重要となる。
本発明者は、金型温度が950℃以上であるホットダイ鍛造におけるダブルバレリング状の鍛造欠陥の発生を検討し、発生の主因が、搬送中の熱間鍛造用素材表面付近における温度低下と金型による素材の上下底面付近の復熱とによる熱間鍛造中の素材上下底面付近の優先的な変形であることを知見した。従って、前述の(1)~(3)を適切に管理することが重要となる。
<素材加熱工程>
上述した熱間鍛造用素材を用いて、その熱間鍛造用素材を所定の温度に加熱する。以降の工程は
図2にその一例を例示する。金型加熱工程と素材加熱工程はそれぞれ同時進行で行ってもよい。しかし、搬送工程はこれらの工程が全て完了した後に行われ、鍛造工程はこの搬送工程が完了した後に行われる。
熱間鍛造用素材は、加熱炉を用いて目的とする素材温度まで加熱される。本発明では、熱間鍛造用素材を加熱炉内で1025~1150℃の範囲内の加熱温度に加熱する。この加熱によって、熱間鍛造用素材の温度は加熱温度となる。加熱時間は、熱間鍛造用素材全体が均一な温度となる時間以上であればよい。加熱温度の下限については、熱間鍛造装置(熱間プレス機)への搬送中の熱間鍛造用素材表面付近における温度低下を見越してやや高めの1025℃とする。加熱温度が1025℃未満であるとダブルバレリング状の鍛造欠陥が生じやすくなる。一方、1150℃を超える温度となると、熱間鍛造用素材の金属組織が粗大化する問題が生じる。なお、実際の加熱温度は、熱間鍛造用素材の材質に応じて1025~1150℃の範囲内で決定すると良い。
【0021】
<金型加熱工程>
本発明においては熱間鍛造に用いる金型についても950~1075℃の範囲内の加熱温度に加熱する。この加熱によって、金型の温度は加熱温度となる。このとき、上記の好ましい組成を有するNi基超耐熱合金製の金型であると大気中で目的の温度まで加熱することができる。金型の加熱温度を950~1075℃としたのはホットダイ鍛造を行うのに必要な温度であることと、ダブルバレリング状の鍛造欠陥を防止するためである。この950~1075℃の範囲外ではダブルバレリング状の鍛造欠陥が生じるおそれがある。金型の加熱においては、少なくとも金型の押圧面の表面温度が目的の温度となっていれば良い。
そして、熱間鍛造用素材の加熱温度から前記金型の加熱温度を引いた値が75℃以上となるようにする。熱間鍛造用素材の加熱温度から金型の加熱温度を差し引いた温度差が75℃未満の場合、熱間鍛造用素材を下型に載置した時、搬送中の温度低下により熱間鍛造用素材の表面付近の温度が金型表面の温度未満となる。この状態で鍛造を行うと、熱間鍛造中に熱間鍛造用素材の上下底面付近では金型の熱によって復熱する一方、復熱されない熱間鍛造用素材の側面の表面付近では温度が上下底面付近に比べて低くなり、温度むらとそれに伴う変形抵抗の差が生じ、変形抵抗の比較的低い上下底面付近が優先的に変形することによって、ダブルバレリング状の鍛造欠陥が生じることになる。そのため、熱間鍛造用素材を下型に載置した時に熱間鍛造用素材の表面付近の温度が金型表面の温度以上となるように、熱間鍛造用素材の加熱温度から金型の加熱温度を差し引いた温度差を75℃以上として、意図的に両者に温度差を設けてダブルバレリング状の鍛造欠陥の発生を防止する。
なお、金型の加熱については、加熱炉、誘導加熱及び抵抗加熱等で所定の温度に加熱した金型を熱間鍛造装置へ搬送する方法、熱間鍛造装置に備えた加熱炉、誘導加熱装置及び抵抗加熱装置等で所定の温度に加熱する方法、または、これらを組み合わせる方法により、所定の温度とすれば良い。また、金型の加熱は熱間鍛造工程の押圧開始直前まで加熱しておくのが好ましい。なお、熱間鍛造中も上型または/及び下型を加熱し続けることが可能であれば、熱間鍛造中も金型を加熱しておくと、ホットダイ鍛造を連続する場合に、鍛造条件を一定とすることができ、安定した生産が行なえる。
【0022】
<搬送工程>
熱間鍛造用素材は、目的とする温度に加熱された後、マニピュレータによって加熱された下型上まで搬送される。一般的に、熱間鍛造用素材の搬送に使用されるマニピュレータとして、熱間鍛造用素材を左右から挟んで把持するための一対の挟持指を有し、且つ、所定の重量の把持と搬送が可能であるものが使用され、本発明でも同様の機能を有するマニピュレータを使用することが好ましい。
なお、マニピュレータでの搬送については、ダブルバレリング状の鍛造欠陥の発生を抑制する点からは搬送時間は短い方が好ましい。本発明の前記温度差の条件に加えて、搬送中の温度低下を抑制するため、マニピュレータの挟持部に熱間鍛造用素材の側面を覆うカバーを有する把持治具を取り付けることで、ダブルバレリング状の鍛造欠陥の発生をより確実に防止することができる。
また、前記熱間鍛造用素材を把持する把持治具を950℃以上で、且つ、前記熱間鍛造用素材加熱温度マイナス50℃~プラス100℃の温度範囲内に加熱しておき、その把持治具を用いて熱間鍛造用素材を搬送することが好ましい。これは、適当な温度に加熱した把持治具によりマニピュレータの挟持指との接触や搬送中の熱間鍛造用素材側面の大気への暴露による熱間鍛造用素材表面の温度低下が抑制でき、より確実にダブルバレリング状の鍛造欠陥の発生を抑制することができる。
<熱間鍛造工程>
それぞれ前述した所定の温度に加熱した熱間鍛造用素材及び金型(下型と上型)を用いて熱間鍛造する。熱間鍛造は、熱間鍛造用素材を下型上に載置し、その熱間鍛造用素材を下型と上型とにより大気中で押圧することにより行われる。これにより、ダブルバレリング状の鍛造欠陥の発生を防止した熱間鍛造材を得ることができる。熱間鍛造の作業時間が長いと、熱間鍛造用素材と金型との加熱温度の間に温度差を設けても、熱間鍛造の作業中に上下底面付近が復熱する一方で熱間鍛造用素材の側面の温度が低下してダブルバレリング状の鍛造欠陥が発生する。ダブルバレリング状の鍛造欠陥を防止するため、熱間鍛造中の熱間鍛造用素材のひずみ速度が常に0.001/sec以上である必要がある。ダブルバレリング状の鍛造欠陥をより確実に防止するためには、ひずみ速度が常に0.005/sec以上であることが好ましく、常に0.01/sec以上であることがより好ましい。
【実施例】
【0023】
以下の実施例で本発明をさらに詳しく説明する。
まず、本発明で使用される金型材として好ましいNi基超耐熱合金についての実施例を示す。真空溶解にて表1に示すNi基超耐熱合金のインゴットを製造した。表1に示す組成を有するNi基超耐熱合金は、表2に示すような優れた高温圧縮強度の特性を有するものである。なお、表1に示すインゴットに含有されているP、Oはそれぞれ0.003%以下であった。また、Si、Mn、Feはそれぞれ0.03%以下である。
表2に示す高温圧縮強度(圧縮耐力)は1100℃での歪速度10-3/secの条件で行ったものである。この条件で300MPa以上あれば熱間鍛造用の金型として十分な強度を有すると言える。表2に示す表1に示した組成のNi基超耐熱合金の圧縮耐力は、最も高い値で489MPa、最も低い値で332MPaである。そのため、これら全てが熱間鍛造用の金型として十分な強度を有することがわかる。なお、No.1については歪速度10-2/secと歪速度10-1/secの試験条件でも試験を行い、前者での値は570MPa、後者での値は580MPaであり、歪速度の比較的大きな条件でも優れた圧縮耐力を有することを確認した。また、表1に示した組成の1100℃以下の温度で用いた場合の高温圧縮強度は、表2に示した値以上となる。
この表1に示したNi基超耐熱合金から、代表例としてNo.1の組成の上型と下型とを作製した。
【0024】
【0025】
【0026】
表1のNo.1に示したNi基超耐熱合金製の金型(下型と上型)を用いて、金型加熱温度約1000℃、熱間鍛造用素材加熱温度約1100℃のホットダイ鍛造を大気中で行った。
熱間鍛造用素材はNi基超耐熱合金からなり、熱間鍛造用素材の高温圧縮強度は表1に示したNi基超耐熱合金以下である。また、その形状は直径約300mm、高さ約600mmの円柱であり、熱間鍛造用素材の表面を機械加工し、その機械加工面に対して、ホウケイ酸ガラスのフリットを含有した液体ガラス系潤滑剤を刷毛塗りにより塗布し、400μm程度の厚みで潤滑材を被覆した。その後、熱間鍛造用素材と金型を所定の温度に加熱した。
【0027】
熱間鍛造用素材及び搬送に用いる把持治具の温度が1100℃に、金型の温度が1000℃に到達した後、加熱した熱間鍛造用素材を前記把持治具を用いたマニピュレータによって加熱炉から取り出して下型上に載置した。その後、下型と上型とにより熱間鍛造用素材を押圧するホットダイ鍛造を行った。圧縮率は約70%程度である。また、ひずみ速度は常に0.001/sec以上であり、鍛造作業を通しておおむね0.01/secである。最大荷重は約4000トンであった。なお、熱間鍛造用素材を下型に載置した時に熱間鍛造用素材の表面付近の温度は金型表面の温度以上であった。金型の加熱は熱間鍛造の押圧中も行なった。
また、比較のため、金型加熱温度を1040℃とし、他は同じ条件であるホットダイ鍛造を行った。金型加熱温度を1000℃とした場合の熱間鍛造用素材と金型加熱温度の差は約100℃、金型加熱温度を1040℃とした場合は約60℃である。比較例の熱間鍛造用素材を下型に載置した時に熱間鍛造用素材の表面付近の温度は金型表面の温度未満であった。
図3(a)に、本発明例の熱間鍛造用素材と金型との加熱温度の差が約100℃の条件のホットダイ鍛造により製造した熱間鍛造材の外観の概念図を、
図3(b)に、比較例の熱間鍛造用素材と金型との加熱温度の差が約60℃の条件のホットダイ鍛造により製造した熱間鍛造材の外観の概念図を示す。
本発明例と比較例との違いは金型加熱温度のみであり、両者の生産性はほぼ同等であるにもかかわらず、
図3(a)と(b)から明らかなように、本発明の温度条件を適用したホットダイ鍛造により、鍛造欠陥の生じない熱間鍛造材を得ることができる。