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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-11
(45)【発行日】2024-03-19
(54)【発明の名称】シフトバイワイヤシステム
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/32 20060101AFI20240312BHJP
   H02P 29/00 20160101ALI20240312BHJP
【FI】
F16H61/32
H02P29/00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020186195
(22)【出願日】2020-11-06
(65)【公開番号】P2022075415
(43)【公開日】2022-05-18
【審査請求日】2023-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】石浦 一昭
(72)【発明者】
【氏名】北畑 剛
(72)【発明者】
【氏名】柴田 宏
(72)【発明者】
【氏名】市岡 英二
(72)【発明者】
【氏名】荻野 淳人
(72)【発明者】
【氏名】内田 豊
(72)【発明者】
【氏名】石川 康太
【審査官】藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-148608(JP,A)
【文献】特開2018-138790(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0178373(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/32
H02P 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シフト位置を切り替えるシフトバイワイヤシステムであって、
周面に前記シフト位置に対応する複数の凹部を有し、回動軸線周りに回動可能に設けられたディテントプレートと、
前記ディテントプレートの前記凹部に係合する係合部を有し、前記係合部を前記ディテントプレートの前記周面側に押圧し、前記係合部が前記凹部を押圧する回動位置で前記ディテントプレートを保持するディテントスプリングと、
回転電機と、
前記回転電機が出力する回転電機トルクを前記ディテントプレートに動力伝達する歯車装置と、
前記回転電機トルクを制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記シフト位置を切り替えるために前記ディテントプレートを回動方向に回動させる前記回転電機トルクを前記回転電機から出力させた後、前記係合部の押圧によって前記ディテントプレートに生じるディテントトルクが前記回動方向とは反対の方向である反回動方向から前記回動方向に反転し、反転した前記ディテントトルクによる前記歯車装置におけるガタ部のガタ詰めが終了するよりも前に、前記回転電機トルクを反転させるように構成されている
ことを特徴とするシフトバイワイヤシステム。
【請求項2】
前記制御装置は、反転した前記ディテントトルクによる前記ガタ部のガタ詰めが開始される前に、反転した前記回転電機トルクにより前記ガタ部のガタ詰めを終了させる
ことを特徴とする請求項1に記載のシフトバイワイヤシステム。
【請求項3】
前記制御装置は、前記ディテントトルクが前記反回動方向から前記回動方向に反転した直後に、前記回転電機トルクを反転させる
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のシフトバイワイヤシステム。
【請求項4】
前記制御装置は、前記ディテントプレートの回動角度に基づいて前記回転電機トルクを反転させる
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1に記載のシフトバイワイヤシステム。
【請求項5】
前記制御装置は、前記ディテントプレートの回動角度を前記回転電機の回転角度から推定する
ことを特徴とする請求項4に記載のシフトバイワイヤシステム。
【請求項6】
前記制御装置は、前記歯車装置でのガタ詰めが行われる期間のうち前記ガタ詰めが終了する直前において前記回転電機トルクを低減する
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1に記載のシフトバイワイヤシステム。
【請求項7】
前記制御装置は、前記シフト位置の切替制御中における前記回転電機の角速度変化率及び前記回転電機トルクに基づいて前記ディテントトルクを推定し、推定された前記ディテントトルクに基づいて前記回転電機トルクを反転させる制御タイミングを補正する
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1に記載のシフトバイワイヤシステム。
【請求項8】
前記制御装置は、前記ディテントトルクが推定される前記シフト位置の切替制御が終了した後に、前記制御タイミングの補正を実施する
ことを特徴とする請求項7に記載のシフトバイワイヤシステム。
【請求項9】
前記歯車装置は、多段式歯車対を有し、
前記ガタ部は、前記多段式歯車対のうち前記歯車装置における動力伝達経路上で最も前記回転電機側に位置する歯車対にある
ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1に記載のシフトバイワイヤシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機が出力するトルクをディテントプレートに動力伝達する歯車装置を備えるシフトバイワイヤシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
シフトバイワイヤシステムにおいて、回転電機が出力するトルクを、歯車装置である歯車対を介してディテントプレートに動力伝達し、シフト位置を切り替えるように構成されたものが知られている。例えば、特許文献1に記載されたシフトバイワイヤシステムがそれである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-80807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されたシフトバイワイヤシステムでは、シフト位置が切り替えられる場合に、ディテントスプリングによってディテントプレートに生じるディテントトルクがディテントプレートの回動方向とは反対の方向である反回動方向から回動方向に反転すると、歯車装置のガタ詰め状態が反転してガタ打ち音(例えば、歯車対における歯同士の衝突音)が発生するという課題があった。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、シフト位置が切り替えられる場合における歯車装置でのガタ打ち音を低減できるシフトバイワイヤシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明の要旨とするところは、シフト位置を切り替えるシフトバイワイヤシステムであって、(a)周面に前記シフト位置に対応する複数の凹部を有し、回動軸線周りに回動可能に設けられたディテントプレートと、(b)前記ディテントプレートの前記凹部に係合する係合部を有し、前記係合部を前記ディテントプレートの前記周面側に押圧し、前記係合部が前記凹部を押圧する回動位置で前記ディテントプレートを保持するディテントスプリングと、(c)回転電機と、(d)前記回転電機が出力する回転電機トルクを前記ディテントプレートに動力伝達する歯車装置と、(e)前記回転電機トルクを制御する制御装置と、を備え、(f)前記制御装置は、前記シフト位置を切り替えるために前記ディテントプレートを回動方向に回動させる前記回転電機トルクを前記回転電機から出力させた後、前記係合部の押圧によって前記ディテントプレートに生じるディテントトルクが前記回動方向とは反対の方向である反回動方向から前記回動方向に反転し、反転した前記ディテントトルクによる前記歯車装置におけるガタ部のガタ詰めが終了するよりも前に、前記回転電機トルクを反転させるように構成されていることにある。
【0007】
第2発明の要旨とするところは、第1発明において、前記制御装置は、反転した前記ディテントトルクによる前記ガタ部のガタ詰めが開始される前に、反転した前記回転電機トルクにより前記ガタ部のガタ詰めを終了させることにある。
【0008】
第3発明の要旨とするところは、第1発明又は第2発明において、前記制御装置は、前記ディテントトルクが前記反回動方向から前記回動方向に反転した直後に、前記回転電機トルクを反転させることにある。
【0009】
第4発明の要旨とするところは、第1発明乃至第3発明のいずれか1の発明において、前記制御装置は、前記ディテントプレートの回動角度に基づいて前記回転電機トルクを反転させることにある。
【0010】
第5発明の要旨とするところは、第4発明において、前記制御装置は、前記ディテントプレートの回動角度を前記回転電機の回転角度から推定することにある。
【0011】
第6発明の要旨とするところは、第1発明乃至第5発明のいずれか1の発明において、前記制御装置は、前記歯車装置でのガタ詰めが行われる期間のうち前記ガタ詰めが終了する直前において前記回転電機トルクを低減することにある。
【0012】
第7発明の要旨とするところは、第1発明乃至第6発明のいずれか1の発明において、前記制御装置は、前記シフト位置の切替制御中における前記回転電機の角速度変化率及び前記回転電機トルクに基づいて前記ディテントトルクを推定し、推定された前記ディテントトルクに基づいて前記回転電機トルクを反転させる制御タイミングを補正することにある。
【0013】
第8発明の要旨とするところは、第7発明において、前記制御装置は、前記ディテントトルクが推定される前記シフト位置の切替制御が終了した後に、前記制御タイミングの補正を実施することにある。
【0014】
第9発明の要旨とするところは、第1発明乃至第8発明のいずれか1の発明において、(a)前記歯車装置は、多段式歯車対を有し、(b)前記ガタ部は、前記多段式歯車対のうち前記歯車装置における動力伝達経路上で最も前記回転電機側に位置する歯車対にあることにある。
【発明の効果】
【0015】
第1発明のシフトバイワイヤシステムによれば、(a)周面に前記シフト位置に対応する複数の凹部を有し、回動軸線周りに回動可能に設けられたディテントプレートと、(b)前記ディテントプレートの前記凹部に係合する係合部を有し、前記係合部を前記ディテントプレートの前記周面側に押圧し、前記係合部が前記凹部を押圧する回動位置で前記ディテントプレートを保持するディテントスプリングと、(c)回転電機と、(d)前記回転電機が出力する回転電機トルクを前記ディテントプレートに動力伝達する歯車装置と、(e)前記回転電機トルクを制御する制御装置と、が備えられ、(f)前記制御装置は、前記シフト位置を切り替えるために前記ディテントプレートを回動方向に回動させる前記回転電機トルクを前記回転電機から出力させた後、前記係合部の押圧によって前記ディテントプレートに生じるディテントトルクが前記回動方向とは反対の方向である反回動方向から前記回動方向に反転し、反転した前記ディテントトルクによる前記歯車装置におけるガタ部のガタ詰めが終了するよりも前に、前記回転電機トルクを反転させるように構成されている。この構成では、反転したディテントトルクによるガタ部の反回動方向側へのガタ詰めが終了するよりも前に、反転した回転電機トルクによりガタ部の反回動方向側へのガタ詰めが開始される。このように反転した回転電機トルクによるガタ部の反回動方向側へのガタ詰めが行われるので、それが行われない場合に比べて、反転したディテントトルクによるガタ部の反回動方向側へのガタ詰めに必要なガタの大きさであるガタ詰め必要量が減少する。それにより、ガタ部においてディテントプレート側に配設された歯車が反転したディテントトルクにより増速される期間が短くなるため、ガタ部でのガタ打ち音を低減することができる。
【0016】
第2発明のシフトバイワイヤシステムによれば、第1発明において、前記制御装置は、反転した前記ディテントトルクによる前記ガタ部のガタ詰めが開始される前に、反転した前記回転電機トルクにより前記ガタ部のガタ詰めを終了させる。反転したディテントトルクによりガタ部の反回動方向側へのガタ詰めが行われようとしても、すでに反転した回転電機トルクにより反回動方向側へのガタ詰めが終了しており、反転したディテントトルクによるガタ詰め必要量は零である。そのため、ガタ部においてディテントプレート側に配設された歯車が反転したディテントトルクにより増速される期間がないため、ガタ部でのガタ打ち音を低減することができる。
【0017】
第3発明のシフトバイワイヤシステムによれば、第1発明又は第2発明において、前記制御装置は、前記ディテントトルクが前記反回動方向から前記回動方向に反転した直後に、前記回転電機トルクを反転させる。ディテントトルクが反転した直後に回転電機トルクが反転させられるため、回転電機トルクの反転によるディテントプレートの回動方向への角速度の低下量を低減することができ、シフト位置が切り替えられるまでの時間が長引くのを抑制することができる。
【0018】
第4発明のシフトバイワイヤシステムによれば、第1発明乃至第3発明のいずれか1の発明において、前記制御装置は、前記ディテントプレートの回動角度に基づいて前記回転電機トルクを反転させる。ディテントプレートの回動角度に応じてディテントトルクが変化するため、ディテントプレートの回動角度に基づいて回転電機トルクを反転させることで回転電機トルクを反転させるタイミングを精度良く制御することができる。
【0019】
第5発明のシフトバイワイヤシステムによれば、第4発明において、前記制御装置は、前記ディテントプレートの回動角度を前記回転電機の回転角度から推定する。ディテントプレートの回動角度を検出するセンサを設ける必要が無くなるため、シフトバイワイヤシステムのコストを低減することが可能となる。
【0020】
第6発明のシフトバイワイヤシステムによれば、第1発明乃至第5発明のいずれか1の発明において、前記制御装置は、前記歯車装置でのガタ詰めが行われる期間のうち前記ガタ詰めが終了する直前において前記回転電機トルクを低減する。ガタ詰めが終了する直前すなわち歯車装置の一方の歯車が他方の歯車に衝突する直前に回転電機トルクが低減されるため、ガタ詰めが終了する直前に回転電機トルクが低減されない場合に比べて、ガタ打ち音を低減することができる。
【0021】
第7発明のシフトバイワイヤシステムによれば、第1発明乃至第6発明のいずれか1の発明において、前記制御装置は、前記シフト位置の切替制御中における前記回転電機の角速度変化率及び前記回転電機トルクに基づいて前記ディテントトルクを推定し、推定された前記ディテントトルクに基づいて前記回転電機トルクを反転させる制御タイミングを補正する。実際のディテントトルクには、例えば歯車装置の製造ばらつきやディテントプレートが有する複数の凹部の製造ばらつきが影響する。実際の回転電機の角速度変化率及び回転電機トルクに基づいてディテントトルクが推定されて回転電機トルクを反転させる制御タイミングが補正されるため、製造ばらつきの影響を考慮して制御タイミングが遅く設定される場合に比べて、回転電機トルクを反転させる制御タイミングを早くすることができる。これにより、反転した回転電機トルクによる歯車装置のガタ部のガタ詰めが速やかに行われるため、ガタ打ち音が低減されやすい。
【0022】
第8発明のシフトバイワイヤシステムによれば、第7発明において、前記制御装置は、前記ディテントトルクが推定される前記シフト位置の切替制御が終了した後に、前記制御タイミングの補正を実施する。回転電機の角速度変化率の演算はSN比が悪いため、好適にはフィルタを通して演算される。しかし、フィルタを通した演算では遅れが生じるため、ディテントトルクが演算すなわち推定されているシフト位置の切替制御中に制御タイミングの補正を実施しようとしても、回転電機の角速度変化率の演算での遅れのために適切な制御タイミングを逃してしまうおそれがある。ディテントトルクが推定されているシフト位置の切替制御が終了した後に制御タイミングの補正が実施されるようにすることで、例えば角速度変化率の演算において演算の遅れがない非因果的ゼロ位相フィルタを使用できるため、ディテントトルクを精度よく推定することができる。
【0023】
第9発明のシフトバイワイヤシステムによれば、第1発明乃至第8発明のいずれか1の発明において、(a)前記歯車装置は、多段式歯車対を有し、(b)前記ガタ部は、前記多段式歯車対のうち前記歯車装置における動力伝達経路上で最も前記回転電機側に位置する歯車対にある。歯車装置が多段式歯車対を有する場合には、多段式歯車対における歯車対のそれぞれにガタ部がある。反転したディテントトルクによる多段式歯車対のガタ部のガタ詰めでは、歯車装置における動力伝達経路にある各歯車がディテントプレート側から回転電機側に向かって次々と増速していくため、歯車装置における動力伝達経路上で最も回転電機側に位置する歯車対にあるガタ部でのガタ打ち音が大きくなりやすい。しかし、反転したディテントトルクによる最も回転電機側に位置する歯車対にあるガタ部のガタ詰めが終了するよりも前に反転した回転電機トルクによりガタ詰めが開始されることで、歯車装置における最も回転電機側に位置するガタ部でのガタ打ち音を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の実施例に係るシフトバイワイヤシステムを備える車両における各種制御のための制御機能の要部を説明する図である。
図2】シフトバイワイヤシステム及び駆動輪を回転不能に固定するパーキングロック装置の一部斜視図である。
図3】回動されたディテントプレートと係合ローラとの位置関係を説明する図である。
図4】シフト位置が切り替えられる場合におけるディテントプレートの回動位置を切替制御するためのサーボ機構の一例である。
図5】ディテント回動角度とディテントトルクとの予め定められた関係を表すディテントトルクプロファイルの一例である。
図6】第1ガタ部を例にして、減速歯車装置におけるガタ部の状態を説明する図であって、(a)は回動方向側のガタ詰め状態を示し、(b)は反回動方向側のガタ詰め状態を示している。
図7】非Pシフト位置からPシフト位置へシフト位置が切り替えられる場合に、ガタ打ち音を抑制して静粛性を確保するSBW-ECUの制御作動を説明するフローチャートの一例である。
図8図7のフローチャートが実行された場合におけるタイムチャートの一例である。
図9】比較例に係るタイムチャートの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本明細書において、「回動」とは、「回転」のうち回転角度の範囲が限定されている場合をいい、「回動」と「回転」とは、実質的に同義である。
【0026】
以下、本発明の実施例について図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比及び形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例
【0027】
図1は、本発明の実施例に係るシフトバイワイヤシステム40を備える車両10における各種制御のための制御機能の要部を説明する図である。
【0028】
車両10は、パーキングスイッチ12、シフトスイッチ14、車両電源スイッチ16、エンジン制御用ECU(Electronic Control Unit)20、SBW(Shift By Wire)-ECU30、モータ32、エンコーダ36、シフト切替機構42、表示部84、メータ86、エンジンを含む駆動機構88、エンジン回転速度センサ90、サイドブレーキスイッチ92、及び勾配センサ94を備える。なお、SBW-ECU30、モータ32、エンコーダ36、及びシフト切替機構42は、シフトバイワイヤシステム40を構成している。
【0029】
パーキングスイッチ12は、走行モードをパーキングモード(以下、「Pモード」と記す。)とパーキングモード以外の「非パーキングモード」(以下、「非Pモード」と記す。)とを切り替えるためのスイッチであって、シフトスイッチ14の近傍に別スイッチとして設けられている。「非パーキングモード」は、例えば後進走行モードであるリバースモード(Rモード)、ニュートラル状態とするためのモードであるニュートラルモード(Nモード)、全ての前進ギヤ段を用いて自動変速制御が実行される前進走行モードであるドライブモード(Dモード)などである。パーキングスイッチ12は、インジケータ12aと入力部12bとを有する。ドライバは、入力部12bを操作することで、例えば走行モードを非PモードからPモードに切り替える。入力部12bは、例えば、モーメンタリスイッチである。入力部12bに入力されたドライバからの指示を示すP指令信号Spswは、SBW-ECU30に出力される。インジケータ12aは、SBW-ECU30から入力された信号に基づいて、後述するシフト切替機構42における現在のシフト位置の状態を表示する。
【0030】
シフトスイッチ14は、例えばリバースモード(Rモード)、ニュートラルモード(Nモード)、及びドライブモード(Dモード)を選択するための操作スイッチである。シフトスイッチ14に入力されたドライバからの指示を示すシフト信号Ssftは、SBW-ECU30に出力される。
【0031】
車両電源スイッチ16は、車両電源のオン・オフを切り替えるためのスイッチである。車両電源スイッチ16は、例えばイグニッションスイッチである。車両電源スイッチ16に入力されたドライバからの指示を示す信号は、エンジン制御用ECU20に入力される。
【0032】
エンジン制御用ECU20は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の駆動機構88における各種制御を実行する。
【0033】
SBW-ECU30は、エンジン制御用ECU20と同様に、所謂マイクロコンピュータを含んで構成されている。なお、SBW-ECU30は、本発明における「制御装置」に相当する。SBW-ECU30は、モータ32を介してシフト切替機構42を制御する。また、SBW-ECU30は、シフトスイッチ14から入力されたシフト信号Ssftに基づき、エンジン制御用ECU20を介して駆動機構88における走行モードを切り替える制御を実行する。
【0034】
モータ32は、例えばステップモータであって、SBW-ECU30から出力されるモータ制御信号Smにより駆動制御される。なお、モータ32は、本発明における「回転電機」に相当する。
【0035】
エンコーダ36は、モータ32のモータシャフト34が実際に回転した回転角度量であるモータ回転角度量θmamt[rad]を検知する。SBW-ECU30は、エンコーダ36から出力されるモータ回転角度量θmamtを表す信号を取得してモータ32を駆動するフィードバック制御を実行する。
【0036】
シフト切替機構42は、Pモードが選択された場合に切り替えられるPシフト位置「P」と、非Pモードが選択された場合に切り替えられる非Pシフト位置「NotP」と、の間でシフト位置を切り替える機構である。
【0037】
表示部84は、エンジン制御用ECU20及び/又はSBW-ECU30が出力したドライバに対する指示や警告などを表示する。メータ86は、車両10の機器の状態やシフト位置の状態などとともに現在のシフト位置の状態を、ドライバに知らせる。駆動機構88は、例えば周知の無段変速機構や有段変速機構で構成されている。
【0038】
エンジン回転速度センサ90は、車両10に搭載された内燃機関(例えば、エンジン)の回転速度を検出する。エンジン回転速度センサ90は、検出されたエンジン回転速度Ne[rpm]を表す信号をエンジン制御用ECU20に出力する。
【0039】
サイドブレーキスイッチ92は、駐停車中の車両10の位置を保持させる不図示のサイドブレーキ(パーキングブレーキともいう。)の状態(作動状態及び非作動状態)を検出し、検出されたサイドブレーキの状態を表す信号をエンジン制御用ECU20に出力する。
【0040】
勾配センサ94は、車両10が停止中或いは走行中の路面の勾配を検出する。勾配センサ94は、例えば加速度センサで構成され、検出された路面の勾配を表す信号をエンジン制御用ECU20に出力する。
【0041】
図2は、シフトバイワイヤシステム40及び駆動輪(不図示)を回転不能に固定するパーキングロック装置60の一部斜視図である。前述したように、シフトバイワイヤシステム40は、モータ32、エンコーダ36、シフト切替機構42、及びSBW-ECU30を備える。SBW-ECU30によりアクチュエータであるモータ32が駆動制御されることで、シフト切替機構42が作動させられてシフト位置が切り替えられる。
【0042】
シフト切替機構42は、減速歯車装置76、マニュアルシャフト44、板状のディテントプレート46、及び板ばね56を備える。
【0043】
ディテントプレート46は、マニュアルシャフト44にかしめ、圧入等により相対回転不能に固設されている。ディテントプレート46及びマニュアルシャフト44は、いずれも回動軸線CL3周りに回動可能であり、これらは相対回転不能に一体的に回動する。マニュアルシャフト44には、エンコーダ82が配設されている。エンコーダ82は、マニュアルシャフト44と一体的に回動し、マニュアルシャフト44及びディテントプレート46が実際に回動した回動角度量であるディテント回動角度量θdamt[rad]を検知する。
【0044】
ディテントプレート46の上方に位置する外周端縁には、波形形状の凹凸面48が設けられている。凹凸面48には、非Pシフト位置「NotP」に対応した回動位置にディテントプレート46を位置決めするための非P谷部50(図3参照)と、Pシフト位置「P」に対応した回動位置にディテントプレート46を位置決めするためのP谷部52(図3参照)と、が形成されている。なお、非P谷部50及びP谷部52は、本発明における「凹部」に相当する。
【0045】
凹凸面48には、基端部が固定された板ばね56の先端部に設けられた係合ローラ58が接触させられている。係合ローラ58は、板ばね56の基端部に対して回動可能に支持されている。なお、板ばね56及び係合ローラ58は、本発明における「ディテントスプリング」及び「係合部」にそれぞれ相当する。板ばね56は、凹凸面48に向けて係合ローラ58を所定の押圧力F[N](図3参照)で押圧している。係合ローラ58は、所定の押圧力Fで凹凸面48を押圧し、凹凸面48との接触位置が凹凸面48の谷位置に向かうようにディテントプレート46を付勢している。ディテントプレート46の凹凸面48に形成された非P谷部50及びP谷部52のいずれかに係合ローラ58が落ち込むことにより、ディテントプレート46の回動位置が位置決めされる。
【0046】
減速歯車装置76は、モータ32とマニュアルシャフト44との間での動力伝達が可能に配設されている。減速歯車装置76は、二段式歯車対である1段目歯車対78及び2段目歯車対80と、出力シャフト38と、を有する。なお、減速歯車装置76は、本発明における「歯車装置」に相当し、1段目歯車対78及び2段目歯車対80は、本発明における「多段式歯車対」に相当する。
【0047】
1段目歯車対78は、互いに噛み合っている第1歯車78a及び第2歯車78bで構成されている。1段目歯車対78のギヤ比ρ1(=第2歯車78bの歯数/第1歯車78aの歯数)は、1よりも大きい。2段目歯車対80は、互いに噛み合っている第3歯車80a及び第4歯車80bで構成されている。2段目歯車対80のギヤ比ρ2(=第4歯車80bの歯数/第3歯車80aの歯数)は、1よりも大きい。減速歯車装置76全体のギヤ比ρ(=ρ1×ρ2)は、1よりも大きい。
【0048】
モータシャフト34は、回転軸線CL1を回転中心とするモータ32の回転軸である。第1歯車78aは、モータシャフト34に相対回転不能に固設されている。第2歯車78b及び第3歯車80aは、回転軸線CL2を共通の回転中心とする回転軸にそれぞれ固設されている。出力シャフト38は、マニュアルシャフト44と共通の回動軸線CL3周りに回動可能な回転軸である。出力シャフト38とマニュアルシャフト44とは、スプライン嵌合部74においてスプライン嵌合によって相対回転不能に連結されている。第4歯車80bは、出力シャフト38に相対回転不能に固設されている。第1歯車78a、第2歯車78b、第3歯車80a、及び第4歯車80bは、例えば斜歯歯車であり、1段目歯車対78及び2段目歯車対80における噛み合い率を大きくして動力伝達を静かでトルク変動が少ないものとしている。
【0049】
モータ32が出力するモータトルクTm[Nm]は、モータシャフト34、1段目歯車対78、2段目歯車対80、出力シャフト38、及びマニュアルシャフト44を順次経由してディテントプレート46に動力伝達される。なお、モータトルクTmは、本発明における「回転電機トルク」に相当する。
【0050】
パーキングロック装置60は、パーキングギヤ62、パーキングロックポール64、パーキングロッド68、及びスプリング70を備える。パーキングギヤ62は、駆動輪に連結されたギヤである。パーキングロックポール64は、一軸線周りに回動させられることでパーキングギヤ62に接近及び離間可能とされる。パーキングロックポール64は、パーキングギヤ62に接近させられた場合にパーキングギヤ62に噛み合う爪部66を有し、爪部66がパーキングギヤ62に噛み合わされることにより駆動輪を回転不能に固定する。パーキングロッド68の一端部は、パーキングロックポール64に係合するテーパ部材72が挿し通されてテーパ部材72を支持する。パーキングロッド68の他端部は、ディテントプレート46の下端部に連結されている。テーパ部材72は、ディテントプレート46の回動によりパーキングロッド68が移動させられてテーパ部材72の小径側又は大径側へ移動させられる。スプリング70は、テーパ部材72をその小径側へ付勢する。
【0051】
図2は、ディテントプレート46がPシフト位置「P」に対応する回動位置にある状態を示している。この状態では、パーキングロックポール64の爪部66がパーキングギヤ62に噛み合うことでパーキングギヤ62に連結された駆動輪の回転が阻止されている。この状態でモータ32が矢印Aの方向に回転させられると、マニュアルシャフト44が矢印Bの方向に回動させられ、パーキングロッド68の一端部が矢印Cの方向へ移動させられてその一端部の先端部に設けられたテーパ部材72の移動によりパーキングロックポール64が矢印Dの方向へ移動させられる。そして、パーキングロックポール64が矢印Dの方向へ移動させられることで爪部66がパーキングギヤ62に噛み合わない位置へ移動させられて、パーキングギヤ62に連結された駆動輪のロックが解除される。
【0052】
図3は、回動されたディテントプレート46と係合ローラ58との位置関係を説明する図である。図3では、回動軸線CL3方向に見たディテントプレート46と係合ローラ58とが示されている。係合ローラ58が非P谷点50a、山点M、及びP谷点52aを押圧しているそれぞれの場合が、太い実線、破線、及び細い実線でそれぞれ示されている。
【0053】
非P谷点50a及びP谷点52aは、係合ローラ58が落ち込む非P谷部50及びP谷部52のそれぞれの谷底点であって、係合ローラ58がディテントプレート46の非P谷点50a及びP谷点52aを押圧している場合に後述のディテントトルクTd[Nm]の絶対値が極小となる点である。山点Mは、凹凸面48において非P谷部50とP谷部52との間に形成された凸面部の頂点であって、係合ローラ58がディテントプレート46の山点Mを押圧している場合に後述のディテントトルクTdが零となる点である。すなわち、係合ローラ58がディテントプレート46の山点Mを押圧している場合、係合ローラ58の凹凸面48に対する所定の押圧力Fの向きが回動軸線CL3に向かう向きとなる。
【0054】
ディテント回動角度θd[rad]は、ディテントプレート46の回動角度(回動位置)を表すものであり、例えば、基準線DLと、回動中心である回動軸線CL3とディテントプレート46の非P谷点50aとを結ぶ直線と、がなす角度で表される。なお、基準線DLは、ディテント回動角度θdを定めるために予め設定された基準となる線であり、回動中心である回動軸線CL3とディテントプレート46の非P谷点50aとを結ぶ直線が基準線DLに一致する場合、ディテント回動角度θdが零となる。ディテントプレート46が矢印Bの方向に回動した場合には、ディテント回動角度θdが増加し、ディテントプレート46が矢印Bとは反対の方向に回動した場合には、ディテント回動角度θdは減少するものとする。図3に示すように、係合ローラ58が非P谷点50a、山点M、P谷点52aをそれぞれ押圧している場合におけるディテント回動角度θdを、それぞれ角度θdnp、角度θdmt、角度θdpとする。角度θdnpは、非Pシフト位置「NotP」に対応して係合ローラ58が非P谷点50aを押圧している場合のディテントプレート46の回動位置を表し、角度θdpは、Pシフト位置「P」に対応して係合ローラ58がP谷点52aを押圧している場合のディテントプレート46の回動位置を表わす。角度θdpは、角度θdnpよりも小さい。また、角度θdmtは、角度θdnpと角度θdpとの間の値である。
【0055】
モータ回転角度θm[rad]は、モータ32の回転角度(回転位置)を表すものであり、例えば、ディテント回動角度θdと同様に、不図示のモータ32用の基準線に対するモータ32の回転角度で表される。モータ32用の基準線は、モータ回転角度θmを定めるために予め設定された基準となる線であり、モータ32のモータシャフト34の回転位置がモータ32用の基準線に一致する場合、モータ回転角度θmが零となる。なお、ディテント回動角度θdが零である場合のモータ回転角度θmは零であり、ディテント回動角度θdが角度θdnpである場合のモータ回転角度θmは角度θmnpであり、ディテント回動角度θdが角度θdpである場合のモータ回転角度θmは角度θmpであるとする。モータ32が矢印Aの方向に回転した場合には、モータ回転角度θmが増加し、モータ32が矢印Aとは反対の方向に回転した場合には、モータ回転角度θmは減少するものとする(図2参照)。なお、本実施例では、モータ回転角度θmが増加する方向(矢印Aの方向)は、ディテント回動角度θdが増加する方向(矢印Bの方向)と同じであり、モータ回転角度θmが減少する方向(矢印Aとは反対の方向)は、ディテント回動角度θdが減少する方向(矢印Bとは反対の方向)と同じである。
【0056】
ここで、「板ばね56による係合ローラ58の凹凸面48への押圧力Fによってディテントプレート46に生じる回動軸線CL3周りに回動させようとするトルク」をディテントトルクTd[Nm]と定義する。係合ローラ58が山点Mよりも非P谷部50側を押圧している場合には、ディテントトルクTdは、ディテントプレート46が非Pシフト位置「NotP」に対応する回動位置となるように作用する。係合ローラ58が山点MよりもP谷部52側を押圧している場合には、ディテントトルクTdは、ディテントプレート46がPシフト位置「P」に対応する回動位置となるように作用する。
【0057】
図4は、シフト位置が切り替えられる場合におけるディテントプレート46の回動位置を切替制御するためのサーボ機構の一例である。前述したように、ディテント回動角度θdが角度θdnpである場合のモータ回転角度θmが角度θmnpであり、ディテント回動角度θdが角度θdpである場合のモータ回転角度θmが角度θmpである。
【0058】
例えば、非Pシフト位置「NotP」からPシフト位置「P」にシフト位置が切り替えられる切替制御の場合、ディテント回動角度θdが角度θdnpから角度θdpとなるようにモータ32によりディテントプレート46が回動させられる。この場合、切替制御後の角度θdpと切替制御前の角度θdnpとの差分である目標ディテント回動角度量θdtgt(=θdp-θdnp)に対してギヤ比ρを乗じた総角度量θtotal[rad](=θdtgt×ρ)が、モータ32を回転させる目標角度量である目標モータ回転角度量θmtgtとなる。すなわち、モータ32は、モータ回転角度θmが切替制御前の角度θmnpから切替制御後の角度θmpとなるように目標モータ回転角度量θmtgtだけ回転させられる。目標モータ回転角度量θmtgtは、モータ回転角度指令値として図4に示すサーボ機構に入力される。
【0059】
第1減算器100は、目標モータ回転角度量θmtgtからモータ32が実際に回転した回転角度量であるモータ回転角度量θmamtを減算した偏差(=θmtgt-θmamt)を出力する。角度制御部102は、第1減算器100から入力された信号に基づいて角速度指令値を生成して出力する。
【0060】
第1リミッタ104には、作動状態と非作動状態とがある。第1リミッタ104が非作動状態である場合には、第1リミッタ104は、角度制御部102から入力された角速度指令値を変更せず、そのままモータ32の角速度であるモータ角速度ωm[rad/sec]に対する指令値すなわちモータ角速度指令値ωmtgtとして出力する。第1リミッタ104が作動状態である場合には、第1リミッタ104は、角度制御部102から入力された角速度指令値に対して制限をかけて出力する。第1リミッタ104には、予め第1リミッタ値ωmlmt1[rad/sec]が設定されている。角度制御部102から第1リミッタ値ωmlmt1を超える角速度指令値が入力された場合、作動状態である第1リミッタ104は、その角速度指令値を第1リミッタ値ωmlmt1に変更してモータ角速度指令値ωmtgtとして出力する。角度制御部102から第1リミッタ値ωmlmt1を超えない角速度指令値が入力された場合、作動状態である第1リミッタ104は、その角速度指令値を変更せずそのままモータ角速度指令値ωmtgtとして出力する。第1リミッタ104における作動状態と非作動状態との切り替えについては、後述する。
【0061】
第2減算器106は、第1リミッタ104から出力されたモータ角速度指令値ωmtgtからハイパスフィルタ118からの出力を減算した偏差を出力する。角速度制御部108は、第2減算器106から出力された偏差に基づいてトルク指令値を生成して出力する。
【0062】
第2リミッタ110は、角速度制御部108から入力されたトルク指令値に対して制限をかけて出力する。第2リミッタ110には、予め第2リミッタ値Tmlmt2[Nm]が設定されている。第2リミッタ値Tmlmt2は、モータ角速度ωmが定格回転速度を超えないように予め設定されたトルク指令値である。角速度制御部108から第2リミッタ値Tmlmt2を超えるトルク指令値が入力された場合、第2リミッタ110は、そのトルク指令値を第2リミッタ値Tmlmt2に変更して出力する。これにより、モータ角速度ωmが定格回転速度を超えないように制御される。角速度制御部108から第2リミッタ値Tmlmt2を超えないトルク指令値が入力された場合、第2リミッタ110は、そのトルク指令値を変更せずそのまま出力する。
【0063】
トルク制御部112は、第2リミッタ110から入力されたトルク指令値に基づいてモータ32から出力されるモータトルクTmを制御するモータ制御信号Smを生成して出力する。このモータ制御信号Smにより、モータ32の回転駆動が制御される。モータ32には、モータ回転角度θmに応じて変化するディテントトルクTdも作用している。モータ角速度ωmは、このディテントトルクTdによっても増減される。
【0064】
エンコーダ36は、モータ角速度ωmを積分してモータ回転角度量θmamtを出力する。エンコーダ36から出力されたモータ回転角度量θmamtは、第1減算器100に入力される。
【0065】
第1リミッタ値設定部116は、切替制御前のモータ回転角度θmである角度θmnpにエンコーダ36から入力されたモータ回転角度量θmamtを加算することで、実際のモータ32の回転位置を表すモータ回転角度θm(=θmnp+θmamt)を算出する。次に、第1リミッタ値設定部116は、モータ回転角度θmとディテントトルクTdとの予め定められた関係(例えば、後述するディテントトルクプロファイルTd(θm))に基づいて、実際のモータ回転角度θmからディテントトルクTdを算出する。第1リミッタ値設定部116は、算出したディテントトルクTdをモータシャフト34周りに換算したトルク(=Td/ρ)がモータ32から出力されるとした場合のモータ32の動力値をディテントトルク動力値gとして算出する。そして、第1リミッタ値設定部116は、ディテントトルク動力値gと第1リミッタ104に設定する第1リミッタ値ωmlmt1との予め定められた関係に基づいて、算出されたディテントトルク動力値gから第1リミッタ値ωmlmt1を生成し、第1リミッタ104に設定されている第1リミッタ値ωmlmt1を再設定すなわち更新する。
【0066】
ハイパスフィルタ118は、モータ回転角度量θmamtに基づいて実際のモータ角速度ωmに応じた信号を生成して第2減算器106に出力する。
【0067】
図5は、ディテント回動角度θdとディテントトルクTdとの予め定められた関係を表すディテントトルクプロファイルの一例である。図5は、非Pシフト位置「NotP」(ディテント回動角度θdが角度θdnp)からPシフト位置「P」(ディテント回動角度θdが角度θdp)へシフト位置が切り替えられる場合のディテント回動角度θdとディテントトルクTdとの関係を表している。
【0068】
ここで、非Pシフト位置「NotP」及びPシフト位置「P」の一方から他方へシフト位置が切り替えられる場合において、ディテントプレート46が回動させられる方向を「回動方向」と定義する。また、その「回動方向」とは反対の方向を「反回動方向」と定義する。非Pシフト位置「NotP」からPシフト位置「P」へシフト位置が切り替えられる場合、モータ32によりディテントプレート46(マニュアルシャフト44も同様)が図3に示す矢印Bとは反対の方向(負側に向かう方向)に回動させられる。この場合、「回動方向」は、図3に示す矢印Bとは反対の方向(負側に向かう方向)である。ディテント回動角度θdは、角度θdnpから角度θdpへ負側に変化する。この変化において、係合ローラ58は、非P谷点50aから山点Mを越えてP谷点52aに落ち込むように移動させられる。
【0069】
ここで、ディテントトルクTdの向きが回動方向と同じである場合には、ディテントトルクTdを正の値とし、ディテントトルクTdの向きが反回動方向と同じである場合には、ディテントトルクTdを負の値とする。例えば、回動方向が負側に向かう方向である場合、ディテントトルクTdの向きが回動方向(負側に向かう方向)と同じであれば、ディテントトルクTdは正の値となり、ディテントトルクTdの向きが反回動方向(正側に向かう方向)と同じであれば、ディテントトルクTdは負の値となる。モータ32によりディテントプレート46を回動方向に回動させる場合、負の値のディテントトルクTdは、ディテントプレート46の回動を抑制する負荷トルクとなり、正の値のディテントトルクTdは、ディテントプレート46の回動を促進する駆動トルクとなる。
【0070】
係合ローラ58が凹凸面48のうち非P谷点50aと山点Mとの間を押圧している場合には、ディテントトルクTdは反回動方向(正側に向かう方向、負の値)のトルクである。係合ローラ58が凹凸面48のうち山点MとP谷点52aとの間を押圧している場合には、ディテントトルクTdは回動方向(負側に向かう方向、正の値)のトルクである。
【0071】
図5に示すように、ディテント回動角度θdが角度θdnpから角度θdmtまでの間では、ディテントトルクTdは負の値となり、ディテント回動角度θdが角度θdmtから角度θdpまでの間では、ディテントトルクTdは正の値となる。ディテント回動角度θdが角度θdmtの時、ディテントトルクTdは零であり、負の値から正の値へ反転する変化点となっている。つまり、ディテント回動角度θdが角度θdmtになるまでは、ディテントトルクTdは負の値となり、ディテント回動角度θdが角度θdmtになった後は、ディテントトルクTdは正の値となる。シフト位置の切替制御では、ディテント回動角度θdが角度θdmtになるまではディテントトルクTdに抗してモータトルクTmによりディテントプレート46を回動方向に回動させる必要があるが、ディテント回動角度θdが角度θdmtになった後は、ディテントトルクTdによりディテントプレート46は回動方向に回動させられる。
【0072】
なお、Pシフト位置「P」から非Pシフト位置「NotP」へシフト位置が切り替えられる場合においても、ディテント回動角度θdが角度θdmtになるまでは、ディテントトルクTdは負の値となり、ディテント回動角度θdが角度θdmtになった後は、ディテントトルクTdは正の値となる。
【0073】
ところで、減速歯車装置76には、ガタ(回転方向において形成される歯車やスプライン嵌合部での接触面同士の隙間)がある。1段目歯車対78における第1歯車78aと第2歯車78bとの間には、ガタg1が存在する部分である第1ガタ部G1があり、2段目歯車対80における第3歯車80aと第4歯車80bとの間には、ガタg2が存在する部分である第2ガタ部G2があり、スプライン嵌合部74には、ガタg3が存在する部分である第3ガタ部G3がある。以下、特に区別しない場合には、第1ガタ部G1、第2ガタ部G2、及び第3ガタ部G3を「ガタ部G」と記す。なお、第1ガタ部G1は、本発明における「ガタ部」に相当する。本実施例の減速歯車装置76のように二段式歯車対である1段目歯車対78及び2段目歯車対80を有する場合には、減速歯車装置76における動力伝達経路上で最もモータ32側に位置する1段目歯車対78にある第1ガタ部G1が、本発明における「ガタ部」に相当する。
【0074】
図6は、第1ガタ部G1を例にして、減速歯車装置76におけるガタ部Gの状態を説明する図であって、(a)は回動方向側のガタ詰め状態を示し、(b)は反回動方向側のガタ詰め状態を示している。図6において、実線の矢印X及び実線の矢印Yは、駆動側の歯車における回動方向を示し、破線の矢印X及び破線の矢印Yは、被駆動側の歯車における回動方向を示している。
【0075】
図6(a)に示すように、第1歯車78aが矢印Xの回動方向にモータトルクTmにより回転駆動され、第2歯車78bが矢印Yの回動方向に第1歯車78aによって回転駆動されている場合には、回動方向側において第1歯車78aの歯と第2歯車78bの歯とが接触した状態となっている。この状態では、第1ガタ部G1のガタg1は反回動方向側にある。この状態を「回動方向側のガタ詰め状態」ということとする。図6(b)に示すように、第2歯車78bが矢印Yの回動方向にディテントトルクTdにより回転駆動され、第1歯車78aが矢印Xの回動方向に第2歯車78bによって回転駆動されている場合には、反回動方向において第1歯車78aの歯と第2歯車78bの歯とが接触した状態となっている。この状態では、第1ガタ部G1のガタg1は回動方向側にある。この状態を「反回動方向側のガタ詰め状態」ということとする。
【0076】
同様に、回動方向側において第3歯車80aの歯と第4歯車80bの歯とが接触した状態(ガタg2が反回動方向側にある状態)を「回動方向側のガタ詰め状態」といい、反回動方向側において第3歯車80aの歯と第4歯車80bの歯とが接触した状態(ガタg2が回動方向側にある状態)を「反回動方向側のガタ詰め状態」ということとする。また、回動方向側において出力シャフト38の嵌合歯とマニュアルシャフト44の嵌合歯とが接触した状態(ガタg3が反回動方向側にある状態)を「回動方向側のガタ詰め状態」といい、反回動方向側において出力シャフト38の嵌合歯とマニュアルシャフト44の嵌合歯とが接触した状態(ガタg3が回動方向側にある状態)を「反回動方向側のガタ詰め状態」ということとする。
【0077】
ガタ部Gにおいて、「回動方向側のガタ詰め状態」及び「反回動方向側のガタ詰め状態」のいずれでもない状態(例えば「回動方向側のガタ詰め状態」及び「反回動方向側のガタ詰め状態」の一方から他方へ変化する過渡状態)を「非ガタ詰め状態」ということとする。「反回動方向側のガタ詰め状態」及び「非ガタ詰め状態」のいずれかから「回動方向側のガタ詰め状態」への変化を「回動方向側へのガタ詰め」といい、「回動方向側のガタ詰め状態」及び「非ガタ詰め状態」のいずれかから「反回動方向側のガタ詰め状態」への変化を「反回動方向側へのガタ詰め」ということとする。また、「回動方向側のガタ詰め状態」及び「反回動方向側のガタ詰め状態」の一方から他方への変化を「ガタ詰め状態の反転」ということとする。
【0078】
ここから、減速歯車装置76にガタ部Gがある場合におけるディテント回動角度θdとモータ回転角度θmとの関係について説明する。このディテント回動角度θdとモータ回転角度θmとの関係の説明では、理解を容易とするため、減速歯車装置76全体のギヤ比ρが「1」であるものとして説明する。
【0079】
非Pシフト位置「NotP」からPシフト位置「P」へシフト位置が切り替えられる場合と、Pシフト位置「P」から非Pシフト位置「NotP」へシフト位置が切り替えられる場合と、のいずれであっても、ディテント回動角度θdの角度θdnp、角度θdmt、角度θdpはそれぞれ同じ回動角度であって変わらない。これら角度θdnp、角度θdmt、角度θdpは、係合ローラ58が非P谷点50a、山点M、P谷点52aを押圧している場合におけるディテント回動角度θdであるため、一意に定められるからである。
【0080】
モータトルクTmによりディテントプレート46を回動方向へ回動させる場合、モータ32の回転開始からガタ部Gにおける回動方向側へのガタ詰めが終了するまでは、モータ32は回動方向に回転するが、ディテントプレート46は回動しない。したがって、モータ回転角度θmは、ディテント回動角度θdに対して先行して回動方向に変化する。ガタ部Gの全てで回動方向側へのガタ詰めが終了した後からディテント回動角度θdが角度θdmtになるまでの期間は、ガタ部Gがそれぞれ回動方向側のガタ詰め状態とされ、モータ回転角度θmがディテント回動角度θdに先行した状態でモータ回転角度θm及びディテント回動角度θdの両者が回動方向に変化する。ディテント回動角度θdが角度θdmtになった直後に、ガタ部Gにおいて反回動方向側へのガタ詰めが開始される。ガタ部Gにおいて反回動方向側へのガタ詰めが行われている期間において、ディテント回動角度θdがモータ回転角度θmを追い越してディテント回動角度θdがモータ回転角度θmに対して先行する。ディテント回動角度θdが角度θdmtになった後であってガタ部Gの全てで反回動方向側へのガタ詰めが終了した後の期間は、ガタ部Gがそれぞれ反回動方向側のガタ詰め状態とされ、ディテント回動角度θdがモータ回転角度θmに先行した状態でモータ回転角度θm及びディテント回動角度θdの両者が回動方向に変化する。
【0081】
このようなディテント回動角度θdとモータ回転角度θmとの関係は、非Pシフト位置「NotP」からPシフト位置「P」へシフト位置が切り替えられる場合と、Pシフト位置「P」から非Pシフト位置「NotP」へシフト位置が切り替えられる場合と、のそれぞれの場合で予め実験的に或いは設計的に定められる。したがって、図5に示したディテント回動角度θdとディテントトルクTdとの予め定められた関係と同様に、モータ回転角度θmとディテントトルクTdとの予め定められた関係であるディテントトルクプロファイルTd(θm)を求めることができる。ディテントトルクプロファイルTd(θm)は、記憶部30dに記憶されており、必要に応じて第1リミッタ値設定部116に読み出される。
【0082】
図1に戻り、SBW-ECU30には、入力部12b、シフトスイッチ14、及びエンコーダ36から、P指令信号Spsw、シフト信号Ssft、及びモータ回転角度量θmamtが、それぞれ入力される。SBW-ECU30からは、モータ32にモータ制御信号Smが出力される。
【0083】
SBW-ECU30は、駆動制御部30a、第1回転角度判定部30b、第2回転角度判定部30c、記憶部30d、及びトルク推定部30eを、機能的に備える。
【0084】
駆動制御部30aは、例えば前述の図4に示すサーボ機構が用いられてシフト位置が切り替えられる場合におけるディテント回動角度θdを制御するために、モータ32から出力されるモータトルクTmを制御する。前述したように、モータ回転角度θmが角度θmmtになるまでは、ディテントトルクTdは負の値(反回動方向のトルク)である。駆動制御部30aは、ディテントプレート46が回動方向に回動するように、モータ32から回動方向のモータトルクTmを出力させる。これにより、ディテントプレート46の回動方向への回動が開始される。このとき、ガタ部Gのそれぞれが「回動方向側のガタ詰め状態」で、ディテントプレート46が回動方向へ回動される。
【0085】
第1回転角度判定部30bは、モータ回転角度θmが所定の第1回転角度θm1であるか否かを判定する。所定の第1回転角度θm1は、ディテントトルクTdが反回動方向から回動方向へ反転した以後(すなわち、ディテントトルクTdが負の値から正の値へ反転した以後)であって反転したディテントトルクTdによる第1ガタ部G1での反回動方向側へのガタ詰めが終了するよりも前の、予め定められたモータ32の回転角度である。なお、「反転したディテントトルクTdによる第1ガタ部G1のガタ詰めが終了するよりも前」とは、「反転したディテントトルクTdのみによって第1ガタ部G1のガタ詰めが行われるとした場合におけるそのガタ詰めが終了するよりも前」という意味である。本実施例では、所定の第1回転角度θm1を、ディテント回動角度θdが角度θdmtである場合に対応したモータ回転角度θmである角度θmmtとする。
【0086】
モータ回転角度θmが所定の第1回転角度θm1ではない、すなわちモータ回転角度θmが所定の第1回転角度θm1に達していないと第1回転角度判定部30bにより判定された場合、駆動制御部30aは、モータ32に回動方向のモータトルクTmを出力させる。
【0087】
モータ回転角度θmが所定の第1回転角度θm1(=θmmt)である、すなわちモータ回転角度θmが所定の第1回転角度θm1に達したと第1回転角度判定部30bにより判定された場合、駆動制御部30aは、モータトルクTmを回動方向から反回動方向に反転させる。このようにディテントトルクTdが反回動方向から回動方向に反転すると、駆動制御部30aは、ディテントトルクTdが反転した直後にモータトルクTmを回動方向から反回動方向に反転させる。モータ32に反回動方向のモータトルクTmを出力させる場合、駆動制御部30aは、第1リミッタ104を非作動状態から作動状態に切り替える。すなわち、駆動制御部30aは、モータ角速度指令値ωmtgtを第1リミッタ値ωmlmt1に制限する。このモータ32から出力される反回動方向のモータトルクTmにより、第1歯車78aが減速し、第1ガタ部G1において「回動方向側のガタ詰め状態」から「反回動方向側のガタ詰め状態」への「ガタ詰め状態の反転」が行われる。前述したように、モータ回転角度θmが角度θmmtになった後は、ディテントトルクTdは正の値(回動方向のトルク)である。ディテントトルクTdが回動方向のトルクであるため、駆動制御部30aがモータ32から反回動方向のモータトルクTmを出力させてもディテントプレート46の回動方向へ回動が継続される。
【0088】
第2回転角度判定部30cは、モータ回転角度θmが所定の第2回転角度θm2であるか否かを判定する。所定の第2回転角度θm2は、第1ガタ部G1での反回動方向側へのガタ詰めが終了したと推定される、予め定められたモータ32の回転角度である。所定の第2回転角度θm2は、予め実験的に或いは設計的に求められる。
【0089】
モータ回転角度θmが所定の第2回転角度θm2ではない、すなわちモータ回転角度θmが所定の第2回転角度θm2に達していないと第2回転角度判定部30cにより判定された場合、駆動制御部30aは、第1リミッタ104の作動状態を維持する。
【0090】
モータ回転角度θmが所定の第2回転角度θm2である、すなわちモータ回転角度θmが所定の第2回転角度θm2に達したと第2回転角度判定部30cにより判定された場合、駆動制御部30aは、第1リミッタ104を作動状態から非作動状態へ切り替える。その後、ディテントプレート46がディテントトルクTdにより回動方向へ回動させられて、ディテント回動角度θdが切替制御後のシフト位置に対応した角度となる(すなわち、モータ回転角度θmが切替制御後のシフト位置に対応した角度となる)。
【0091】
図7は、非Pシフト位置「NotP」からPシフト位置「P」へシフト位置が切り替えられる場合に、ガタ打ち音を抑制して静粛性を確保するSBW-ECU30の制御作動を説明するフローチャートの一例である。このシフト位置の切り替えでは、モータ回転角度θmは、角度θmnpから角度θmpに変化する。
【0092】
まず、駆動制御部30aの機能に対応するステップS10において、モータ32から回動方向のモータトルクTmが出力されてモータ32の回動方向への回転が開始される。これにより、ガタ部Gのそれぞれで回動方向側へのガタ詰めが行われる。ガタ部Gの全てでガタ詰めが終了すると、ディテントプレート46の回動方向(図3に示す矢印Bとは反対の方向)への回動が開始される。そしてステップS20が実行される。
【0093】
第1回転角度判定部30bの機能に対応するステップS20において、モータ回転角度θmが所定の第1回転角度θm1であるか否かが判定される。ステップS20の判定が肯定された場合は、ステップS30が実行される。ステップS20の判定が否定された場合は、ステップS10が再度実行される。
【0094】
駆動制御部30aの機能に対応するステップS30において、モータ32から反回動方向のモータトルクTmが出力される。そしてステップS40が実行される。
【0095】
駆動制御部30aの機能に対応するステップS40において、第1リミッタ104が作動状態とされる。ステップS30及びステップS40におけるモータ32からの反回動方向のモータトルクTmにより、第1歯車78aが減速させられ、第1ガタ部G1において「ガタ詰め状態の反転」が行われる。そしてステップS50が実行される。
【0096】
第2回転角度判定部30cの機能に対応するステップS50において、モータ回転角度θmが所定の第2回転角度θm2であるか否かが判定される。ステップS50の判定が肯定された場合は、ステップS60が実行される。ステップS50の判定が否定された場合は、ステップS30が再度実行される。
【0097】
駆動制御部30aの機能に対応するステップS60において、第1リミッタ104が非作動状態とされる。その後、ディテントプレート46がディテントトルクTdにより回動方向へ回動させられて、モータ回転角度θmが切替制御後のPシフト位置「P」に対応した角度θmpとなる。そして終了となる。
【0098】
図8は、図7のフローチャートが実行された場合におけるタイムチャートの一例である。図8において、横軸は時間t[sec]であり、縦軸は上から順に、モータ回転角度θm及びディテント回動角度θd、モータトルクTm及びディテントトルクTd、モータ角速度指令値ωmtgt及びモータ角速度ωm、ガタ部Gにおけるガタ部位相差、ガタ部Gにおいて噛み合っている歯同士の間の相対角速度である。図8に示すガタ部位相差θg1,θg2,θg3は、ギヤ比の影響を相殺した位相差であって、それぞれ第1ガタ部G1での位相差(=第1歯車78aの回転角度-第2歯車78bの回転角度/ρ1)、第2ガタ部G2での位相差(=第3歯車80aの回転角度-第4歯車80bの回転角度/ρ2)、第3ガタ部G3での位相差(=出力シャフト38の回動角度-マニュアルシャフト44の回動角度)である。また、図8に示す相対角速度Δωg1,Δωg2,Δωg3は、ギヤ比の影響を相殺した相対角速度であって、それぞれ第1歯車78aと第2歯車78bとの角速度差(=第1歯車78aの角速度-第2歯車78bの角速度/ρ1)、第3歯車80aと第4歯車80bとの角速度差(=第3歯車80aの角速度-第4歯車80bの角速度/ρ2)、出力シャフト38とマニュアルシャフト44との角速度差(=出力シャフト38の角速度-マニュアルシャフト44の角速度)である。なお、減速歯車装置76全体のギヤ比ρのため、モータ回転角度θmにおける角度θmnpと角度θmpとの差(=θmnp-θmp)は、ディテント回動角度θdにおける角度θdnpと角度θdpとの差(=θdnp-θdp)のρ倍である。
【0099】
時刻t1は、非Pシフト位置「NotP」からPシフト位置「P」へのシフト位置の切替制御が開始される時刻であって、ディテントプレート46を回動方向(負側に向かう方向)に回動させるモータトルクTmがモータ32から出力される開始時刻である。時刻t1において、ディテント回動角度θdは角度θdnpであり、モータ回転角度θmは角度θmnpである。時刻t1以前は、モータ32、減速歯車装置76、マニュアルシャフト44、及びディテントプレート46は、いずれも回転及び回動が停止している。したがって、相対角速度Δωg1,Δωg2,Δωg3は、いずれも零である。例えば、時刻t1においてガタ部Gにおけるガタg1,g2,g3がそれぞれの回動方向側及び反回動方向側に半分ずつある非ガタ詰め状態であるとすると、ガタ部位相差θg1,θg2,θg3はいずれも零である。
【0100】
時刻t1から時刻t2(>t1)までの期間においてモータ32が回動方向へ回転すると、第1歯車78aが回動方向に回転させられて第1ガタ部G1で回動方向側へのガタ詰めが行われる。この期間、相対角速度Δωg1が負側に大きくなり、ガタ部位相差θg1が負側に大きくなる。時刻t2において、第1ガタ部G1での回動方向側へのガタ詰めが終了する。これにより、時刻t2以降は、相対角速度Δωg1は零となり、ガタ部位相差θg1は時刻t2での値が維持される。
【0101】
同様に、時刻t2から時刻t3(>t2)までの期間において、第2ガタ部G2で回動方向側へのガタ詰めが行われ、時刻t3から時刻t4(>t3)までの期間において、第3ガタ部G3で回動方向側へのガタ詰めが行われる。
【0102】
時刻t4において、ガタ部Gの全てで回動方向側へのガタ詰めが終了する。時刻t4以降は、ガタ部Gのそれぞれは回動方向側のガタ詰め状態であり、回動方向のモータトルクTmによりマニュアルシャフト44及びディテントプレート46が回動方向に回動させられて、モータ回転角度θm及びディテント回動角度θdが次第に減少する。ディテントプレート46が回動されることで、ディテントプレート46には、反回動方向(負の値)のディテントトルクTdが作用する。
【0103】
時刻t5(>t4)において、モータ回転角度θmは所定の第1回転角度θm1(=角度θmmt)となる。このとき、ディテント回動角度θdは角度θdmtであり、ディテントトルクTdは零となる。モータ回転角度θmが所定の第1回転角度θm1となると、モータトルクTmが回動方向から反回動方向に反転させられる。また、第1リミッタ104が非作動状態から作動状態に切り替えられ、モータ角速度指令値ωmtgtが第1リミッタ値ωmlmt1に制限される。
【0104】
時刻t5以降の期間において、ディテントプレート46には回動方向(正の値)のディテントトルクTdが作用する。時刻t5から時刻t6(>t5)までの期間において、回動方向のディテントトルクTdによりマニュアルシャフト44の回動方向への回動が増速させられて第3ガタ部G3で「回動方向側のガタ詰め状態」から「反回動方向側のガタ詰め状態」への「ガタ詰め状態の反転」が行われる。この期間、相対角速度Δωg3が正側に大きくなり、ガタ部位相差θg3が正側に大きくなる。時刻t6において、第3ガタ部G3での反回動方向側へのガタ詰めが終了する。これにより、時刻t6以降は、相対角速度Δωg3は零となり、ガタ部位相差θg3は時刻t6での値が維持される。
【0105】
同様に、時刻t6から時刻t7(>t6)までの期間において、第2ガタ部G2での「ガタ詰め状態の反転」が行われる。時刻t7において、第2ガタ部G2での反回動方向側へのガタ詰めが終了する。
【0106】
一方、時刻t5から時刻tb(t5<tb<t7)までの期間において、反回動方向のモータトルクTmにより第1歯車78aが減速させられて第1ガタ部G1で「回動方向側のガタ詰め状態」から「反回動方向側のガタ詰め状態」への「ガタ詰め状態の反転」が行われる。この期間、相対角速度Δωg1が正側に大きくなり、ガタ部位相差θg1が正側に大きくなる。時刻tbにおいて、第1ガタ部G1での反回動方向側へのガタ詰めが終了する。ディテントトルクTdによって第3ガタ部G3及び第2ガタ部G2の反回動方向側のガタ詰めが終了した後で行われる第1ガタ部G1の反回動方向側へのガタ詰めが開始される時刻t7よりも前に、反回動方向のモータトルクTmにより第1ガタ部G1での反回動方向側へのガタ詰めが終了している。時刻t7において、ガタ部Gの全てで反回動方向側へのガタ詰めが終了する。なお、厳密には時刻tbから時刻t7までの期間において、第2ガタ部G2での「ガタ詰め状態の反転」は、反転したディテントトルクTdとともに反転したモータトルクTmによっても行われる。
【0107】
時刻tc(>t7)において、モータ回転角度θmが所定の第2回転角度θm2となる。モータ回転角度θmが所定の第2回転角度θm2となったことで、第1リミッタ104が作動状態から非作動状態に切り替えられ、モータ角速度指令値ωmtgtの第1リミッタ値ωmlmt1への制限が解除される。
【0108】
時刻t8(>tc)において、ディテント回動角度θdが角度θdpとなり、モータ回転角度θmが角度θmpとなって、マニュアルシャフト44及びモータ32の回動及び回転が停止する。これにより、非Pシフト位置「NotP」からPシフト位置「P」へのシフト位置の切替制御が終了する。
【0109】
ところで、第1ガタ部G1における反回動方向側へのガタ詰めが終了する時刻tb直前を含む時刻ta(t5<ta<tb)から時刻tbまでの期間において、時刻taよりもモータトルクTm(絶対値)が低減されている。モータトルクTmが低減されることで、低減されない場合に比べて、時刻tbにおける第1ガタ部G1でのガタ詰めの終了に伴うガタ打ち音が低減される。また、例えば1段目歯車対78及び2段目歯車対80が斜歯歯車で構成されている場合には、ガタ詰めの終了時に衝突した歯車が軸方向に打ち出されてその歯車がケースに衝突することで発生する異音も抑制され得る。
【0110】
図1に戻り、トルク推定部30eは、シフト位置の切替制御中におけるモータトルクTm及びモータ角速度ωm(例えば、図8のタイムチャートに示した波形変化)に基づいて、ディテントトルクTdを推定する。ディテントプレート46の回動に関する運動方程式に基づいて、ディテントトルクTdは、式(1)から算出される。なお、α[rad/sec2]は、モータ角速度ωmの変化率である角速度変化率(角加速度)であり、I[Kg・m2]は、ディテントプレート46及びそれとともに駆動されるマニュアルシャフト44、減速歯車装置76などの慣性モーメントである。
Tm × ρ - Td = I × α ・・・ (1)
【0111】
それぞれのモータ回転角度θmにおいてディテントトルクTdが随時算出されることにより、モータ回転角度θmとディテントトルクTdとの関係であるディテントトルクプロファイルTd(θm)がリアルタイムで求められる。トルク推定部30eで推定されたディテントトルクプロファイルTd(θm)は、記憶部30dに上書きされて随時更新される。これにより、例えば減速歯車装置76の製造ばらつきやディテントプレート46が有する凹凸面48の製造ばらつきの影響を受けない実際のディテントトルクプロファイルTd(θm)がシフト位置の切替制御に用いられる。例えば、シフト位置の切替制御においてリアルタイムで更新されたディテントトルクプロファイルTd(θm)に基づいて、モータ回転角度θmが角度θmmt(=所定の第1回転角度θm1)となったタイミングが判定されることで、制御タイミングの補正が実施される。なお、同様の方法でディテント回動角度θdとディテントトルクTdとの関係を求めることも可能である。
(比較例)
【0112】
ここから、比較例に係るタイムチャートについて説明する。図9は、比較例に係るタイムチャートの一例である。図9のタイムチャートは、前述した実施例における図8のタイムチャートに対応するものである。
【0113】
図9のタイムチャートは、図8のタイムチャートと略同じであるが、以下の点で異なる。図8では、ディテントトルクTdによって第3ガタ部G3及び第2ガタ部G2の反回動方向側のガタ詰めが終了した後で行われる第1ガタ部G1の反回動方向側へのガタ詰めが開始される時刻t7よりも前に、モータトルクTmが回動方向から反回動方向に反転していた。一方、図9では、ディテントトルクTdによる第1ガタ部G1の反回動方向側のガタ詰めが終了する時刻td(>t7)よりも後に、モータトルクTmが回動方向から反回動方向に反転している。そのため、図8と異なる部分を中心に説明することとし、実質的に共通する部分には同一の符号を付して説明を適宜省略する。
【0114】
時刻t5において、モータ回転角度θmは角度θmmtとなり、ディテント回動角度θdは角度θdmtとなってディテントトルクTdは零となる。しかし、モータトルクTmは回動方向の駆動トルクが出力され続ける。また、第1リミッタ104も非作動状態が維持される。
【0115】
時刻t5以降の期間において、ディテントプレート46には回動方向のディテントトルクTdが作用する。ディテントトルクTdにより、時刻t5から時刻t6までの期間に第3ガタ部G3で反回動方向側へのガタ詰めが行われ、時刻t6から時刻t7までの期間に第2ガタ部G2で反回動方向側へのガタ詰めが行われる。また、時刻t7から時刻tdまでの期間において、ディテントトルクTdにより第1ガタ部G1で反回動方向側へのガタ詰めが行われる。時刻tdにおいて、第1ガタ部G1での反回動方向側へのガタ詰めが終了し、これによりガタ部Gの全てで反回動方向側へのガタ詰めが終了する。
【0116】
時刻td以降の時刻te(>td)において、モータトルクTmが回動方向から反回動方向に反転している。時刻t8(>te)において、ディテント回動角度θdが角度θdpとなり、モータ回転角度θmが角度θmpとなって、マニュアルシャフト44及びモータ32の回動及び回転が停止する。
【0117】
本比較例では、時刻t5で反回動方向から回動方向に反転したディテントトルクTdにより、減速歯車装置76における動力伝達経路上にある回転軸及び歯車がディテントプレート46側からモータ32側に向かって次々と増速していく。そのため、減速歯車装置76における動力伝達経路上で最もモータ32側に位置する1段目歯車対78にある第1ガタ部G1でのガタ打ち音が大きくなりやすい。
【0118】
本実施例によれば、(a)周面にシフト位置に対応する非P谷部50,P谷部52を有し、回動軸線CL3周りに回動可能に設けられたディテントプレート46と、(b)ディテントプレート46の非P谷部50,P谷部52に係合する係合ローラ58を有し、係合ローラ58をディテントプレート46の周面側に押圧し、係合ローラ58が非P谷部50,P谷部52のそれぞれを押圧する回動位置でディテントプレート46を保持する板ばね56と、(c)モータ32と、(d)モータ32が出力するモータトルクTmをディテントプレート46に動力伝達する減速歯車装置76と、(e)モータトルクTmを制御するSBW-ECU30と、が備えられ、(f)SBW-ECU30は、シフト位置を切り替えるためにディテントプレート46を回動方向に回動させるモータトルクTmをモータ32から出力させた後、係合ローラ58の押圧によってディテントプレート46に生じるディテントトルクTdが回動方向とは反対の方向である反回動方向から回動方向に反転し、反転したディテントトルクTdによる減速歯車装置76における第1ガタ部G1のガタ詰めが終了するよりも前に、モータトルクTmを反転させるように構成されており、(g)SBW-ECU30は、反転したディテントトルクTdによる第1ガタ部G1のガタ詰めが開始される前に、反転したモータトルクTmにより第1ガタ部G1のガタ詰めを終了させる。このように、反転したディテントトルクTdにより第1ガタ部G1の反回動方向側へのガタ詰めが行われようとしても、すでに反転したモータトルクTmにより反回動方向側へのガタ詰めが終了しており、反転したディテントトルクTdによる第1ガタ部G1の反回動方向側へのガタ詰めに必要なガタg1の大きさであるガタ詰め必要量は零である。反転したディテントトルクTdによるガタ詰め必要量が少ないほど、第2歯車78bが反転したディテントトルクTdにより増速される期間が短くなる。本実施例では、第1ガタ部G1においてディテントプレート46側に配設された第2歯車78bが反転したディテントトルクTdにより増速される期間がないため、第1ガタ部G1でのガタ打ち音を低減することができる。
【0119】
本実施例によれば、SBW-ECU30は、ディテントトルクTdが反回動方向から回動方向に反転した直後に、モータトルクTmを反転させる。ディテントトルクTdが反転した直後にモータトルクTmが反転させられるため、モータトルクTmの反転によるディテントプレート46の回動方向への角速度の低下量を低減することができ、シフト位置が切り替えられるまでの時間が長引くのを抑制することができる。
【0120】
本実施例によれば、SBW-ECU30は、予め実験的に或いは設計的に定められたディテント回動角度θdとモータ回転角度θmとの関係が用いられて、ディテント回動角度θdをモータ回転角度θmから推定する。これにより、例えばモータ回転角度θmが所定の第1回転角度θm1(=θmmt)となった場合にディテントトルクTdが反回動方向から回動方向に反転したとして、モータトルクTmが反転するようにSBW-ECU30を構成できる。ディテント回動角度θdを検出するセンサであるエンコーダ82を設ける必要が無くなるため、シフトバイワイヤシステム40のコストを低減することが可能となる。
【0121】
本実施例によれば、SBW-ECU30は、減速歯車装置76の第1ガタ部G1での反回動方向側へのガタ詰めが行われる期間のうちガタ詰めが終了する直前においてモータトルクTmを低減する。ガタ詰めが終了する直前すなわち減速歯車装置76の一方の第1歯車78aが他方の第2歯車78bに衝突する直前にモータトルクTmが低減されるため、ガタ詰めが終了する直前にモータトルクTmが低減されない場合に比べて、ガタ打ち音を低減することができる。
【0122】
本実施例によれば、SBW-ECU30は、非Pシフト位置「NotP」からPシフト位置「P」へのシフト位置の切替制御中におけるモータ32の角加速度すなわち角速度変化率α及びモータトルクTmに基づいてディテントトルクTdを推定し、推定されたディテントトルクTdに基づいてモータトルクTmを反転させる制御タイミングを補正する。実際のディテントトルクTdには、例えば減速歯車装置76の製造ばらつきやディテントプレート46が有する非P谷部50,P谷部52の製造ばらつきが影響する。実際のモータ32の角速度変化率α及びモータトルクTmに基づいてディテントトルクTdが推定されてモータトルクTmを反転させる制御タイミングが補正されるため、製造ばらつきの影響を考慮して制御タイミングが遅く設定される場合に比べて、モータトルクTmを反転させる制御タイミングを早くすることができる。これにより、反転したモータトルクTmによる減速歯車装置76の第1ガタ部G1のガタ詰めが速やかに行われるため、ガタ打ち音が低減されやすい。
【0123】
本実施例によれば、(a)減速歯車装置76は、二段式歯車対である1段目歯車対78及び2段目歯車対80を有し、(b)反転したディテントトルクTdによるガタ詰めが開始される前に反転したモータトルクTmによりガタ詰めが終了させられる第1ガタ部G1は、二段式歯車対のうち減速歯車装置76における動力伝達経路上で最もモータ32側に位置する1段目歯車対78にある。減速歯車装置76が二段式歯車対である1段目歯車対78及び2段目歯車対80を有する場合には、1段目歯車対78及び2段目歯車対80のそれぞれに第1ガタ部G1及び第2ガタ部G2がある。反転したディテントトルクTdによる第1ガタ部G1及び第2ガタ部G2のガタ詰めでは、減速歯車装置76における動力伝達経路上にある各歯車78a,78b,80a,80bがディテントプレート46側からモータ32側に向かって次々と増速していくため、減速歯車装置76における動力伝達経路上で最もモータ32側に位置する1段目歯車対78にある第1ガタ部G1でのガタ打ち音が大きくなりやすい。しかし、反転したディテントトルクTdによる最もモータ32側に位置する1段目歯車対78にある第1ガタ部G1の反回動方向側へのガタ詰めが開始される前に、反転したモータトルクTmにより反回動方向側へのガタ詰めが終了させられることで、第1ガタ部G1でのガタ打ち音を低減することができる。
【0124】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0125】
前述の実施例では、減速歯車装置76は、二段式歯車対である1段目歯車対78及び2段目歯車対80を有する態様であったが、本発明はこれに限らない。例えば、減速歯車装置76は、一段式歯車対(例えば、モータ32とマニュアルシャフト44との間が1つの1段目歯車対78のみ)を有する態様であっても良いし、3以上の多段式歯車対を有する態様であっても良い。なお、減速歯車装置76が多段式歯車対を有する場合、減速歯車装置76における動力伝達経路上で最もモータ32側に位置する歯車対にあるガタ部が、本発明における「ガタ部」に相当する。
【0126】
前述の実施例では、予め実験的に或いは設計的に定められたディテント回動角度θdとモータ回転角度θmとの関係が用いられて、モータ回転角度θmが所定の第1回転角度θm1(=θmmt)となった場合にディテントトルクTdが反回動方向から回動方向に反転したとして、モータトルクTmが反転するようにSBW-ECU30が構成された態様であったが、本発明はこれに限らない。例えば、マニュアルシャフト44に設けられたエンコーダ82により検出されるディテント回動角度θdが角度θdmtとなった場合に、モータトルクTmが反転するようにSBW-ECU30が構成された態様であっても良い。すなわち、SBW-ECU30は、ディテント回動角度θdに基づいてモータトルクTmを反転させる態様であっても良い。ディテント回動角度θdに応じてディテントトルクTdが変化するため、ディテント回動角度θdに基づいてモータトルクTmを反転させることでモータトルクTmを反転させるタイミングを精度良く制御することができる。
【0127】
前述の実施例では、時刻tb直前においてモータトルクTmが低減されたが、必ずしもモータトルクTmは低減されない態様であっても良い。モータトルクTmが低減されなくても、モータトルクTmが反転されない場合に比べれば、第1ガタ部G1でのガタ打ち音を低減することができる。
【0128】
前述の実施例では、SBW-ECU30のトルク推定部30eは、ディテントトルクプロファイルTd(θm)を随時更新していたが、本発明はこれに限らない。例えば、トルク推定部30eは、シフト位置の切替制御中にモータ回転角度θm、モータトルクTm、及びモータ角速度ωmの各数値を蓄積して、その蓄積した各数値に基づいてディテントトルクプロファイルTd(θm)を求める態様であっても良い。この態様では、シフト位置の切替制御が終了した後に、推定されたディテントトルクプロファイルTd(θm)が記憶部30dに上書きされて更新され、更新されたディテントトルクプロファイルTd(θm)に基づいて制御タイミングの補正が実施される。モータ32の角速度変化率αの演算はSN比が悪いため、好適にはフィルタを通して演算される。しかし、このフィルタを通した演算では遅れが生じるため、ディテントトルクTdが演算すなわち推定されているシフト位置の切替制御中に制御タイミングの補正を実施しようとしても、モータ32の角速度変化率αの演算での遅れのために適切な制御タイミングを逃してしまうおそれがある。ディテントトルクTdが推定されているシフト位置の切替制御が終了した後に制御タイミングの補正が実施されるようにすることで、例えば角速度変化率αの演算において演算の遅れがない非因果的ゼロ位相フィルタを使用できるため、ディテントトルクTdを精度良く推定することができる。
【0129】
前述の実施例では、反転したディテントトルクTdによる第1ガタ部G1の反回動方向側へのガタ詰めが開始される前に、反転したモータトルクTmにより第1ガタ部G1の反回動方向側へのガタ詰めが終了した態様であったが、本発明はこれに限らない。例えば、モータトルクTmを反転させるタイミングがディテントトルクTdが反転し、反転したディテントトルクTdによる第1ガタ部G1の反回動方向側へのガタ詰めが終了するよりも前である態様であっても良い。この態様では、反転したモータトルクTmによる第1ガタ部G1の反回動方向側へのガタ詰めが行われるので、それが行われない場合に比べて、反転したディテントトルクTdによる第1ガタ部G1の反回動方向側へのガタ詰め必要量が減少する。それにより、第1ガタ部G1においてディテントプレート46側に配設された第2歯車78bが反転したディテントトルクTdにより増速される期間が短くなるため、第1ガタ部G1でのガタ打ち音を低減することができる。また、モータトルクTmを反転させるタイミングがディテントトルクTdが反転し、反転したディテントトルクTdによる第2ガタ部G2の反回動方向側へのガタ詰めが終了するよりも前である態様であっても良い。この態様によってもディテントトルクTdにより増速される期間が短くなるため、第1ガタ部G1でのガタ打ち音を低減することができる。
【0130】
前述の実施例では、非Pシフト位置「NotP」からPシフト位置「P」にシフト位置が切り替えられる切替制御であったが、本発明は、Pシフト位置「P」から非Pシフト位置「NotP」にシフト位置が切り替えられる切替制御にも適用できる。また、ディテントプレート46に2つの凹部がある態様であったが、ディテントプレート46に、3以上の凹部がある場合(例えば、Pモード、Rモード、Nモード、及びDモードが選択された場合にそれぞれ切り替えられるPシフト位置、Rシフト位置、Nシフト位置、及びDシフト位置に対応した回動位置に位置決めするための4つの凹部がある場合)にも本発明は適用できる。
【0131】
前述の実施例では、シフトスイッチ14とは別にパーキングスイッチ12が設けられた態様であったが、本発明はこれに限らない。例えば、本発明は、シフトスイッチ14においてPモードが電気的に選択可能な態様に適用されても良く、そのような態様の場合には、パーキングスイッチ12は設けられる必要がない。
【0132】
なお、上述したのはあくまでも本発明の実施例であり、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0133】
30:SBW-ECU(制御装置)
32:モータ(回転電機)
40:シフトバイワイヤシステム
46:ディテントプレート
50:非P谷部(凹部)
52:P谷部(凹部)
56:板ばね(ディテントスプリング)
58:係合ローラ(係合部)
76:減速歯車装置(歯車装置)
78:1段目歯車対(多段式歯車対)
80:2段目歯車対(多段式歯車対)
CL3:回動軸線
G1:第1ガタ部(ガタ部)
Td:ディテントトルク
Tm:モータトルク(回転電機トルク)
α:角速度変化率
θd:ディテント回動角度(ディテントプレートの回動角度)
θm:モータ回転角度(回転電機の回転角度)
θdnp:角度(回動位置)
θdp:角度(回動位置)
図1
図2
図3
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図5
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図8
図9