IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三井金属鉱業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-接合材料及び接合構造 図1
  • 特許-接合材料及び接合構造 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-14
(45)【発行日】2024-03-25
(54)【発明の名称】接合材料及び接合構造
(51)【国際特許分類】
   B22F 7/08 20060101AFI20240315BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240315BHJP
   B22F 1/052 20220101ALI20240315BHJP
   B22F 1/054 20220101ALI20240315BHJP
   B22F 1/068 20220101ALI20240315BHJP
   B22F 1/107 20220101ALI20240315BHJP
   H01L 21/60 20060101ALI20240315BHJP
   H01L 23/14 20060101ALI20240315BHJP
【FI】
B22F7/08 C
B22F1/00 L
B22F1/052
B22F1/054
B22F1/068
B22F1/107
H01L21/60 301P
H01L23/14 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021511265
(86)(22)【出願日】2020-03-02
(86)【国際出願番号】 JP2020008654
(87)【国際公開番号】W WO2020202971
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-12-07
(31)【優先権主張番号】P 2019068289
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】穴井 圭
(72)【発明者】
【氏名】趙 亭來
【審査官】今井 拓也
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-201694(JP,A)
【文献】特開2013-196936(JP,A)
【文献】特開2017-039988(JP,A)
【文献】特開2015-090900(JP,A)
【文献】特表2018-501657(JP,A)
【文献】特開2013-209720(JP,A)
【文献】特開2016-011448(JP,A)
【文献】特開2011-219862(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00-8/00;10/00-12/90
C22C 1/04-1/059
H01L 21/447-21/449;21/60-21/607
H01L 23/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅箔と、その一方の面に形成された焼結可能な接合膜(ただし、熱硬化性樹脂を含む接合膜、及び融点が200℃以下の低融点金属粒子を含む接合膜を除く。)とを有する接合材料であって、
前記接合膜は銅粉と固体還元剤とを含み、
前記固体還元剤が下記式(1)又は(2)で表され、
金、銀、銅、ニッケル及びアルミニウムの少なくとも一種の金属を表面に有する接合対象物に接合するために用いられる接合材料。
【化1】
(式(1)又は(2)中、RないしRは、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、炭素原子数1以上10以下の炭化水素基、又は水酸基を有する炭素原子数1以上10以下の炭化水素基を表し、Rは炭素原子数1以上10以下の炭化水素基、又は水酸基を有する炭素原子数1以上10以下の炭化水素基を表す。式(1)中、RないしRのうちの4つ以上が水酸基を含み、式(2)中、RないしRのうちの4つ以上が水酸基を含む。)
【請求項2】
銅箔と、その一方の面に形成された焼結可能な接合膜とを有し、
前記接合膜は銅粉と固体還元剤とを含み、
前記固体還元剤が下記式(1)又は(2)で表される、ワイヤボンディング構造体を形成するために用いられる接合材料。
【化2】
(式(1)及び(2)中、RないしRは、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、炭素原子数1以上10以下の炭化水素基、又は水酸基を有する炭素原子数1以上10以下の炭化水素基を表し、Rは炭素原子数1以上10以下の炭化水素基、又は水酸基を有する炭素原子数1以上10以下の炭化水素基を表す。式(1)中、RないしRのうちの4つ以上が水酸基を含み、式(2)中、RないしRのうちの4つ以上が水酸基を含む。)
【請求項3】
前記接合膜が、前記銅粉100質量部に対し、前記固体還元剤を0.1質量部以上10質量部以下含む、請求項1又は2に記載の接合材料。
【請求項4】
前記銅粉は、銅を含有する球状の金属粒子を含み、
前記金属粒子は、走査型電子顕微鏡によって測定された累積体積50容量%における体積累積粒径DSEM50が30nm以上200nm以下である、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の接合材料。
【請求項5】
前記固体還元剤がビス(2-ヒドロキシエチル)イミノトリス(ヒドロキシメチル)メタン及び1,3-ビス(トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミノ)プロパンから選ばれる一種以上である、請求項1ないし4のいずれか一項に記載の接合材料。
【請求項6】
金、銀、銅、ニッケル及びアルミニウムの少なくとも一種の金属を表面に有する接合対象物と、銅箔とが、銅粉の焼結構造からなる接合層(ただし、熱硬化性樹脂の硬化物を含む接合層、及び融点が200℃以下の低融点金属粒子を含む接合層を除く。)を介して電気的に接続されてなる接合構造であって、
前記接合層に以下の構造(3)が形成されてなる、接合構造。
【化3】
(式中、RないしRは、それぞれ独立に、水酸基を有する炭素原子数1以上10以下の炭化水素基を表し、*は銅との結合部位を表す。)
【請求項7】
前記接合層の厚みが0.1μm以上950μm以下である、請求項6に記載の接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合材料及び接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の世界的な省エネルギー化の流れに伴い、インバータなど電力変換・制御装置としてパワーデバイスと呼ばれる半導体デバイスが盛んに用いられるようになってきている。半導体素子の高効率化及び省スペース化を実現するために、金属セラミックス基板上に複数の半導体素子が配されており、該半導体素子の上面に金属層及び金属ワイヤが配されたパワーモジュールと呼ばれる電子部品が用いられている。
【0003】
近年、パワーモジュールのハイパワー化や信頼性向上のために、パワーモジュールに配されている一般的な金属ワイヤであるアルミニウムワイヤを銅ワイヤに切り替える検討が進められている。しかし、銅ワイヤを半導体チップ直上に接合する場合、特殊な製造装置及び製造条件が更に要求されたり、半導体チップの接合時の熱機械的応力の負荷に起因する半導体チップの破損リスクが増大したりして、銅ワイヤへの切り替えは容易でなかった。
【0004】
このような不具合を解決すべく、銀や銅などの金属を焼結させた焼結材料が注目されている。特許文献1には、パワー半導体チップと太径ワイヤとの接続形成方法が開示されている。同文献には、パターニングされた金属成形体を、低温焼結技術で形成したAg層によって半導体上に取り付けたあと、成形体の上部側に太径ワイヤをボンディングすることも記載されている。
【0005】
また、非特許文献1には、半導体素子と接合するために用いられる、銅箔の一方の面に銀を含む接合用ペーストが塗布された接合材料が開示されている。また同文献には、銀を含む前記接合材料を焼結させることによって、半導体素子と銅箔とが、銀を含む接合部位によって電気的に接続されたパワーモジュールも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】US 2014/225247 A1
【非特許文献】
【0007】
【文献】Heraeus Electronics “Die Top System”、[online][2019年3月29日検索]、インターネット〈https://www.heraeus.com/en/het/products_and_solutions_het/material_systems/die_top_system/dts_page.aspx〉
【発明の概要】
【0008】
しかし、特許文献1に記載の接続形成方法では、搬送ホイル上に結合層を介した成形体に対して、リソグラフィー、エッチング等を予め施して回路を形成する必要があるため、製造プロセスが煩雑になってしまい、その結果、製造コストが高くなっていた。
【0009】
また、非特許文献1に記載の接合材料は、銀などの高価な金属原料を用いているので、製造コストが高くなってしまう。また、同文献に記載の接合材料をパワーモジュールに用いる場合、接合強度を高めるために、銅箔における半導体素子との対向面に、銀や金を含む金属層を形成する工程を別途行う必要があり、この点でも製造コストが高くなっていた。
【0010】
したがって、本発明の課題は、高い接合強度の発現と、製造コストの低減とが両立した接合材料及び接合構造を提供することにある。
【0011】
本発明は、銅箔と、その一方の面に形成された焼結可能な接合膜とを有する接合材料であって、
前記接合膜は銅粉と固体還元剤とを含み、
金、銀、銅、ニッケル及びアルミニウムの少なくとも一種の金属を表面に有する接合対象物に接合するために用いられる接合材料を提供するものである。
【0012】
また本発明は、銅箔と、その一方の面に形成された焼結可能な接合膜とを有し、
前記接合膜は銅粉と固体還元剤とを含む、ワイヤボンディング構造体を形成するために用いられる接合材料を提供するものである。
【0013】
更に本発明は、金、銀、銅、ニッケル及びアルミニウムの少なくとも一種の金属を表面に有する接合対象物と、銅箔とが、銅粉の焼結構造からなる接合層を介して電気的に接続されてなる接合構造であって、
前記接合層に以下の構造(3)が形成されてなる、接合構造を提供するものである。
【化1】

(式中、RないしRは、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、炭素原子数1以上10以下の炭化水素基、又は水酸基を有する炭素原子数1以上10以下の炭化水素基を表し、*は銅との結合部位を表す。)
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1(a)は、接合材料の一実施形態を示す側面模式図であり、図1(b)は、接合構造の一実施形態を示す側面模式図である。
図2図2(a)は、実施例1の接合構造の厚み方向断面における銅箔及び接合層の電子顕微鏡像であり、図2(b)は、実施例1の接合構造の厚み方向断面における接合層、金属層及び接合対象物の電子顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の接合材料及び接合構造を、その好ましい実施形態に基づき説明する。図1(a)に示すように、接合材料1は、銅箔2と、その一方の面に形成された接合膜3とを有している。接合膜3は、銅粉と固体還元剤とを含む。
【0016】
接合材料1は、金、銀、銅、ニッケル及びアルミニウムの少なくとも一種の金属を表面に有する接合対象物に接合する際に、低コストでありながら高い接合強度を発現する観点から好適に用いられる。接合対象物の表面に存在する金属の形態としては、接合対象物の表面に形成された層状の金属層が挙げられる。
【0017】
また接合材料1は、ワイヤボンディング構造体を形成するための接合基材として好適に用いられる。接合対象物としては、例えば銅、銀等の金属、半導体素子、セラミックス等が挙げられる。
【0018】
詳細には、接合膜3は焼結可能な構造となっている。接合材料1における接合膜3と接合対象物とを好ましくは加圧下で焼成することによって、接合材料1における銅箔2と、接合対象物5とを接合させることができる。焼成後における接合膜3は、図1(b)に示すように、銅粉の焼結構造からなる導電性の接合層30となる。該接合層30は、銅箔2と、金属層5Aが表面に形成された接合対象物5とを接合させるとともに導通させる。接合材料1は、例えば後述する製造方法によって得ることができる。なお、「焼結可能」とは、銅粉を構成する金属粒子どうしが融着していない状態で接合膜中に存在しており、該接合膜中の金属粒子を焼結させることによって、金属粒子どうしが融着した金属粒子の焼結構造からなる焼結体を形成できることをいう。
【0019】
接合材料1を構成する銅箔2は、例えばパワーモジュールにおけるボンディングワイヤの接続部位として好適に用いられる。銅箔自体の強度と、接合構造の導電性との両立の観点から、銅箔は、銅を好ましくは97質量%以上含み、より好ましくは99質量%以上含み、更に好ましくは銅及び残部不可避不純物からなる。また、本発明の効果を損なわない範囲で、防食等を目的として、銅箔の少なくとも一面が、ベンゾトリアゾール等の有機化合物によって表面処理されていてもよい。
【0020】
また同様の観点から、銅箔の厚みは、0.5μm以上1000μm以下であることが好ましく、1μm以上500μm以下であることが更に好ましい。銅箔の厚みは、例えば接合材料の厚み方向の断面を、走査型電子顕微鏡を用いて観察することで測定することができる。
【0021】
図1(a)に示すように、接合材料1における接合膜3は、好ましくは銅箔2の一方の面にのみ形成されている。また、接合膜3は、銅箔2の一方の面の全域に形成されていてもよく、あるいは銅箔2の一方の面に不連続に形成されていてもよい。接合膜3が銅箔2の一方の面に不連続に形成されている場合、接合膜3が形成されていない部位は銅箔2が露出した部位となっている。銅箔2と接合膜3との間には、何らの層も介在していないことが好ましい。接合膜3の好適な厚みは後述する製造方法にて詳述する。
【0022】
また、図1(a)に示すように、接合材料1において、接合膜3が形成されていない側の表面1Aには、追加の銅箔や追加の接合膜をはじめとする他の固体層は存在していないことが好ましい。同様に、接合材料1において、接合膜3の表面1Bには、追加の銅箔や追加の接合膜をはじめとする他の固体層は存在していないことも好ましい。尤も、本発明の効果が奏される限りにおいて、接合材料1における表面の少なくとも一方に他の固体層が存在することは妨げられない。
【0023】
接合膜3に含まれる銅粉は、銅を含む金属粒子の集合体からなる。銅粉は、金属粒子の含有態様として、例えば、(i)銅及び残部不可避不純物のみからなる銅粒子の集合体、(ii)前記銅粒子と、他の金属粒子との集合体、(iii)銅を50質量%以上含み且つ他の金属を含む銅合金粒子の集合体、(iv)前記銅粒子と前記銅合金粒子との集合体、或いは、(v)前記銅粒子、前記銅合金粒子及び他の金属粒子の集合体とすることができる。以下の説明では、これらの態様を総称して単に「銅粉」ともいい、また文脈に応じて、「銅粉」は、銅粉を構成する金属粒子のことを指すか、あるいは銅を含む金属粒子の集合体である銅粉そのものを指す。
【0024】
製造コストの低減と導電性の向上とを両立する観点から、銅粉は、銅を好ましくは50質量%以上含み、より好ましくは70質量%以上含み、更に好ましくは90%質量以上含む銅及び残部不可避不純物からなる銅粒子からなる。また同様の観点から、銅粉は、粒子の含有態様として、(i) 銅及び残部不可避不純物のみからなる銅粒子の集合体、(iii)銅を50質量%以上含み且つ他の金属を含む銅合金粒子の集合体、又は(iv)前記銅粒子と前記銅合金粒子との集合体のいずれかであることが好ましく、(i) 銅及び残部不可避不純物のみからなる銅粒子の集合体であることが更に好ましい。銅粉に金属粒子を複数含む場合、銅粉における銅の含有量は、銅粉を構成する全ての金属粒子を基準として算出する。
【0025】
銅粉を構成する金属粒子の形状は、例えば、球状、扁平状(フレーク状)、デンドライト状(樹枝状)、棒状等であり、これらを単独で又は複数組み合わせて用いることができる。金属粒子の形状は、その製造方法に依存する。例えば、金属粒子の製造方法として、湿式還元法やアトマイズ法を用いた場合には球状の粒子が得られやすい。電解還元法を用いた場合にはデンドライト状や棒状の粒子が得られやすい。扁平状の粒子は、例えば球状の粒子に機械的な外力を加えて塑性変形させることで得られる。
【0026】
銅粉は、銅を含有する球状の金属粒子を含むことが好ましい。この場合、球状の金属粒子の粒径は、走査型電子顕微鏡像の画像解析により測定できる。具体的には、マウンテック社製Mac-Viewを用い、金属粒子の画像データを読み込んだ後、データ上の金属粒子を無作為に50個以上選んで、該粒子の粒径(ヘイウッド径)、該粒子の二次元投影像の面積S、及び該粒子の二次元投影像の周囲長Lをそれぞれ測定する。次いで、得られたヘイウッド径から、粒子が真球であると仮定したときの体積を算出し、該体積の累積体積50容量%における体積累積粒径をDSEM50とする。
【0027】
また、金属粒子が球形であるか否かは、上述の方法で無作為に選んだ各粒子の面積Sと周囲長Lとから円形度係数4πS/Lを算出し、さらにその算術平均値を算出する。円形度係数の算術平均値が0.85以上、好ましくは0.90以上である場合に、金属粒子が球状であると定義する。
【0028】
球状の金属粒子の粒径は、上述した累積体積50容量%における体積累積粒径DSEM50で表して、30nm以上200nm以下であることが好ましく、40nm以上180nm以下であることが更に好ましい。このような構成となっていることによって、銅箔と接合対象物との接合の際に密な焼結構造を形成することができ、その結果、接合材料を用いた接合構造に、耐熱性と、高い接合強度とを両立して発現させることができる。これに加えて、比較的低温の焼結条件であっても密な焼結構造を形成することができるので、製造時における接合対象物への過度な熱負荷を抑制して、所望の性能を発現できる接合構造を得ることができる。
【0029】
SEM50は、測定対象の金属粒子を走査型電子顕微鏡像から無作為に50個以上選んで粒径(ヘイウッド径)をそれぞれ測定し、次いで、得られた粒径から、粒子が真球であると仮定したときの体積を算出して得られる。
【0030】
銅粉は、銅を含有する扁平状の金属粒子を含むことも好ましい。このとき、扁平状の金属粒子は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積50容量%における体積累積粒径D50が、0.3μm以上であることが好ましく、0.5μm以上あることがより好ましく、0.7μm以上であることが更に好ましい。またD50は、100μm以下であることが好ましく、70μm以下であることがより好ましく、50μm以下であることが更に好ましい。このような粒径の粒子を含むことによって、接合材料を用いた接合構造に、耐熱性と、高い接合強度とを両立して発現させることができる。これに加えて、比較的低温の焼結条件であっても密な焼結構造を形成することができる。扁平状とは、粒子の主面を形成している一対の板面と、これらの板面に交差する側面とを有する形状を指し、板面及び側面はそれぞれ独立して、平面、曲面又は凹凸面でありうる。
【0031】
金属粉が扁平状の金属粒子を含む場合、扁平状金属粒子は、その板面における短軸の長さに対する長軸の長さの比(以下、これをアスペクト比ともいう。)が2以上であることが好ましく、5以上であることが好ましい。また、アスペクト比は、80以下であることが好ましく、40以下であることがより好ましい。このような形状の粒子を更に含むことによって、緻密に焼結した塗膜を形成することができ、導電体どうしの高い接合強度と、導電信頼性の向上とを実現することができる。
【0032】
扁平状金属粒子における長軸及び短軸の長さは、以下のようにして求める。即ち、測定対象の粒子を、板面に水平な方向において360度回転させながら、各二次元投影像における仮想的な外接長方形を考えたときに、その中で外接長方形の一辺が最大となるものについて、その長辺を長軸とする。一方、測定対象の粒子を、板面に鉛直な方向において360度回転させながら、各二次元投影像における仮想的な外接長方形を考えたときに、その中で外接長方形の一辺が最大となるものを長辺とした際の、その短辺を短軸とする。同様にして、当該粒子を無作為に50個以上選んで長軸及び短軸をそれぞれ測定し、これらの算術平均値から求める。
【0033】
50の測定は、例えば、0.1gの測定試料と分散剤水溶液50mLとを混合し、超音波ホモジナイザ(日本精機製作所製、US-300T)で1分間分散させる。その後、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置として、例えばマイクロトラックベル製MT3300 EXIIを用いて粒度分布を測定する。
【0034】
接合膜3に含まれる固体還元剤は、室温(25℃)において固体であり、接合膜の焼成による銅粉の焼結を促進させるために用いられる。この目的のために、固体還元剤は少なくとも1個のアミノ基及び複数の水酸基を有する化学構造のものであることが有利である。このような構造を有する還元剤を用いることで、複数の水酸基を有し且つアミノ基を含まない還元剤と比較して、焼結時における銅粉の酸化を抑制することができるので、銅粉の焼結の促進に起因する緻密な焼結構造を得ることができる。そのため、還元剤が少量であっても、高い接合強度を持つ接合層を有する接合構造を得ることができる。「室温(25℃)において固体」とは、固体還元剤の融点が25℃超であることを指す。
【0035】
固体還元剤の融点は、銅粉の焼結温度以下であることが好ましい。また、固体還元剤の沸点は、後述する液媒体の沸点よりも高いことも好ましい。このような物性を有する固体還元剤を用いることによって、該固体還元剤は、接合膜中に固体として残留するので、該接合膜の保形性を高くすることができる。その結果、接合膜の焼成時に、該接合膜が加圧されても、接合対象物と銅箔との間から該接合膜がはみ出し難く、厚みの制御が一層容易になるので、接合強度の高い接合構造を得ることができる。また、接合膜を焼成する際に、還元剤が溶融して接合膜中に均一に広がることにより、銅粉の焼結が均一に促進され、より緻密な焼結構造を有する、耐熱性の高い接合構造を得ることができる。
【0036】
このような接合材料によれば、接合膜中に固体還元剤を含むことによって、接合対象物との焼結時において、銅粉を構成する金属粒子どうしが十分に焼結して、密な焼結構造が形成される。その結果、接合材料における銅箔と接合対象物との高い接合強度が得られる。また、接合膜及び銅箔はともに銅を含んでいるので、パワーモジュールの製造過程において、接合強度を高めるためのメタライズ等の表面処理工程を別途行わずに接合させることができ、その結果、高い接合強度を発現しつつ、製造コストを削減することができる。また、接合膜を構成する原料は比較的安価なものであるので、製造コストの更なる削減につながるという利点もある。
【0037】
接合時の高い接合強度と高い導電信頼性とを両立する観点から、固体還元剤として、以下の化学式(1)又は(2)で表されるアミノアルコール化合物を用いることが好ましい。「アミノアルコール化合物」とは、第一級ないし第三級アミンの少なくとも一種のアミンと、第一級ないし第三級アルコールの少なくとも一種のアルコールとを一つの化学構造中に有する有機化合物を指す。
【0038】
【化2】
【0039】
化学式(1)又は(2)中、RないしRは、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、炭素原子数1以上10以下の炭化水素基、又は水酸基を有する炭素原子数1以上10以下の炭化水素基を表す。炭化水素基としては飽和又は不飽和の脂肪族基が挙げられる。この脂肪族基は直鎖状のものであってもよく、あるいは分岐鎖状のものであってもよい。RないしRにおける炭化水素基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基などが挙げられる。
【0040】
式(2)中、Rは、炭素原子数1以上10以下の炭化水素基、又は水酸基を有する炭素原子数1以上10以下の炭化水素基を表す。炭化水素基としては飽和又は不飽和の脂肪族基が挙げられる。この脂肪族基は直鎖状のものであってもよく、あるいは分岐鎖状のものであってもよい。Rにおける炭化水素基の例としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基などが挙げられる。
【0041】
化学式(1)において、RないしRの少なくとも2つは水酸基を含んでいる。すなわち、RないしRの少なくとも2つは、水酸基であるか、又は水酸基を有する炭素原子数1以上10以下の炭化水素基である。また式(2)においては、RないしRの少なくとも2つは水酸基を含んでいる。すなわち、RないしRの少なくとも2つは、水酸基であるか、又は水酸基を有する炭素原子数1以上10以下の炭化水素基である。特に化学式(1)において、RないしRの少なくとも2つは水酸基を有する炭素数1以上4以下の炭化水素基であることが好ましい。また化学式(2)において、RないしRの少なくとも2つは水酸基を有する炭素数1以上4以下の炭化水素基であることが好ましい。この場合、ヒドロキシアルキル基における水酸基は、アルキル基の末端に結合していることが好ましい。
【0042】
化学式(1)で表される還元剤は、銅粉の焼結性を高める観点から、RないしRのうちの3つ以上が水酸基を含んでいることが好ましく、4つ以上が水酸基を含んでいることがより好ましく、RないしRのすべてが水酸基を含むことが更に好ましい。同様の観点から、化学式(2)で表される還元剤は、RないしRのうちの3つ以上が水酸基を含んでいることが好ましく、4つ以上が水酸基を含んでいることがより好ましい。
【0043】
化学式(1)又は(2)で表されるアミノアルコール化合物の具体例としては、ビス(2-ヒドロキシエチル)イミノトリス(ヒドロキシメチル)メタン(BIS-TRIS、融点:104℃、沸点:300℃超、化学式(1)に該当)、2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)-1,3-プロパンジオール(TRIS、融点:169~173℃、沸点:300℃超、化学式(1)に該当)、1,3-ビス(トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミノ)プロパン(BIS-TRIS propane、融点:164~165℃、沸点:300℃超、化学式(2)に該当)などが挙げられる。これらのうち、銅粉の焼結性を高めつつ、導電体どうしの高い接合強度を発現する接合構造を得る観点から、固体還元剤としてビス(2-ヒドロキシエチル)イミノトリス(ヒドロキシメチル)メタン(BIS-TRIS)を用いることが好ましい。
【0044】
上述した固体還元剤は、一種を単独で用いることができ、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。いずれの場合であっても、接合膜における固体還元剤の割合は、銅粉の焼結性を高める観点から、銅粉100質量部に対して0.1質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることが更に好ましい。また、接合層用組成物中に占める銅粉の割合を維持しつつ、銅箔への好適な塗布性能を発揮する観点から、10質量部以下とすることが現実的であり、8質量部以下とすることが好ましく、5質量部以下とすることが更に好ましい。
【0045】
接合膜は、沸点が300℃未満の液媒体を更に含んでいてもよい。液媒体は、接合膜を形成する際に、接合膜の成形性を良好にするために用いられる。このような観点から、上述の液媒体は室温(25℃)において液体であることが好ましい。
【0046】
接合膜に液媒体を含有させる場合、また、銅粉を構成する金属粒子の酸化を抑制する観点から、液媒体は非水媒体であることも好ましい。
【0047】
接合膜の成形性、液媒体の適度な揮発性を兼ね備える観点から、液媒体は、一価又は多価のアルコールであることが好ましく、多価アルコールであることが更に好ましい。多価アルコールとしては、例えばプロピレングリコール(沸点:188℃)、エチレングリコール(沸点:197℃)、ヘキシレングリコール(沸点:197℃)、ジエチレングリコール(沸点:245℃)、1,3-ブタンジオール(沸点:207℃)、1,4-ブタンジオール(沸点:228℃)、ジプロピレングリコール(沸点:231℃)、トリプロピレングリコール(沸点:273℃)、グリセリン(沸点:290℃)、ポリエチレングリコール200(沸点:250℃)、ポリエチレングリコール300(沸点:250℃)などが挙げられる。液媒体は一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、接合膜の保形性を高めるとともに、接合膜中の成分の分散性を高めて、均一且つ緻密な焼結構造とする観点から、液媒体が、ヘキシレングリコール、並びにポリエチレングリコール200及びポリエチレングリコール300等のポリエチレングリコールのうち一種以上を含むことが好ましい。
【0048】
接合膜が液媒体を含む場合、接合膜における液媒体の含有量は、接合膜の保形性を高める観点から、銅粉100質量部に対して9質量部以下であることが好ましく、7質量部以下であることが更に好ましい。接合膜における液媒体の含有割合は、例えば後述する製造方法に従って製造した場合、塗膜と、該塗膜を乾燥させた乾燥塗膜である接合膜とは、液媒体以外の各構成材料の含有量は実質的に同一となっているので、例えば、乾燥前後の塗膜の質量変化を測定して算出することができる。
【0049】
次に、上述した接合材料の製造方法、及び該接合材料を用いた接合構造の製造方法について説明する。接合材料1の製造方法は、例えば銅箔2の少なくとも一方の面に接合層用組成物を塗布して塗膜を形成する塗布工程、及び該塗膜を乾燥させて、乾燥塗膜である接合膜3を形成する乾燥塗膜形成工程をこの順で備える。
【0050】
まず、銅粉と固体還元剤とを含む接合層用組成物を銅箔の少なくとも一方の面に塗布して、塗膜を形成する。接合層用組成物の塗布の手段に特に制限はなく、公知の塗布手段を用いることができる。例えばスクリーン印刷、ディスペンス印刷、グラビア印刷、オフセット印刷などを用いることができる。接合層用組成物の塗布工程を効率よく行う観点から、接合層用組成物は、液媒体を含むペースト状又はインク状のものであることが好ましい。接合層用組成物は、上述した銅粉及び固体還元剤、並びに必要に応じて上述の液媒体を混合することによって得ることができる。
【0051】
形成する塗膜の厚みは、高い保形性を有する接合膜を得る観点、及び高い接合強度を安定的に有する接合構造を形成する観点から、塗布直後において1μm以上に設定することが好ましく、5μm以上に設定することが更に好ましい。また、形成する塗膜の厚みは、1000μm以下とすることが好ましく、700μm以下とすることが更に好ましい。
【0052】
接合層用組成物に液媒体を含む場合、接合層用組成物における液媒体の含有量は、接合層用組成物に適度な粘性を付与し、該接合層用組成物を銅箔上に塗布したときの塗膜の保形性を高める観点から、銅粉100質量部に対して40質量部以下であることが好ましく、35質量部以下であることが更に好ましい。
【0053】
接合層用組成物は、銅箔への塗膜の塗布性及び保形性を高める観点から、未加熱時において、せん断速度10s-1及び25℃における粘度が、20Pa・s以上200Pa・s以下であることが好ましく、25Pa・s以上180Pa・s以下であることが更に好ましい。接合層用組成物の粘度は、センサーをパラレルプレート型とし、レオメーター(粘弾性測定装置)にて測定することができる。
【0054】
接合層用組成物は、本発明の効果が奏される限りにおいて、他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えばバインダー成分、表面張力調整剤、消泡剤、粘度調整剤などが挙げられる。他の成分の割合は、その総量が、銅粉100質量部に対して0.1質量部以上10質量部以下であることが好ましい。
【0055】
次に、銅箔表面に形成した塗膜を乾燥させて、接合膜3と、銅箔2とを有する接合材料1を得る。本工程では、塗膜の乾燥を行うことによって、該塗膜から液媒体の少なくとも一部を除去して、塗膜中の液媒体の量が低減した接合膜3を銅箔の一方の面に形成する。塗膜から液媒体を除去することで、接合膜の保形性を一層高めることができる。更に、銅箔及び接合膜を有する接合材料と接合対象物とを接合させたときに、接合層の密着性を高め、接合強度を高いものとすることができる。接合膜は、上述のとおり、銅粉100質量部に対する液媒体の割合が9質量%以下のものである。本工程では、塗膜と、該塗膜を乾燥させた乾燥塗膜である接合膜とは、液媒体以外の各構成材料の含有量は実質的に同一となっている。また本工程で形成される接合膜は、接合膜中の銅粉を構成する金属粒子は互いに融着しておらず、焼結可能なものである。
【0056】
液媒体を乾燥して除去するためには、該液媒体の揮発性を利用した自然乾燥、熱風乾燥、赤外線の照射、ホットプレート乾燥等の乾燥方法を用いて、液媒体を揮発させればよい。本工程は、用いる接合層用組成物の組成に応じて適宜変更可能であるが、銅粉を構成する金属粒子の融点未満で行なうことが好ましく、例えば大気雰囲気下で、60℃以上150℃以下、大気圧、1分以上30分以下で行うことができる。
【0057】
接合膜3の厚みは、十分な接合強度を得る観点から、0.5μm以上であることが好ましく、3μm以上であることが更に好ましい。また、接合膜3の厚みは、電子部品の省スペース化を実現する観点から、980μm以下であることが好ましく、600μm以下であることが更に好ましい。接合膜3の厚みは、例えば上述の工程において形成する塗膜の厚さを適宜調整することによって調整することができる。接合膜3の厚みは、例えば接合材料の厚み方向断面を走査型電子顕微鏡を用いて観察することで測定することができる。
【0058】
以上の工程を経て得られた接合材料1は、これを接合対象物5とともに接合して、図1(b)に示す構造を有する接合構造10を得ることができる。この接合構造10は、金、銀、銅、ニッケル及びアルミニウムの少なくとも一種の金属を含む金属層5Aが表面に形成された接合対象物5と、銅箔2とが、銅粉の焼結構造からなる接合層30を介して電気的に接合されてなるものであることが好ましい。
【0059】
まず、上述の工程を経て接合材料1が得られたら、図1(b)に示すように、接合材料1における接合膜3と、接合対象物5とを対向させて、接合対象物5と、該接合材料1における銅箔2との間に接合膜3が配された積層体10Aを得る。詳細には、接合材料1における接合膜3の表面1Bと、接合対象物5の表面に形成された金属層5Aの表面とを互いに面接触させて、積層体10Aを得る。積層体10Aを形成した状態では、接合膜3は焼結されていない。
【0060】
次いで、この積層体10Aを加熱して、接合膜3に含まれる銅粉を焼結させることで、接合対象物5と銅箔2とを接合する接合層30を形成する。焼結時の雰囲気は、窒素等の不活性ガス雰囲気であることが好ましい。焼結温度は、好ましくは300℃未満、より好ましくは150℃以上300℃未満、更に好ましくは200℃以上300℃未満、一層好ましくは230℃以上300℃未満である。焼結時間は、焼結温度が前記範囲であることを条件として、好ましくは30分以下、より好ましくは0.5分以上25分以下、更に好ましくは1分以上20分以下である。
【0061】
焼結は、加圧下で行なうことが好ましく、このとき接合膜に加える圧力は、好ましくは0.001MPa以上、より好ましくは0.001MPa以上20MPa以下、更に好ましくは0.01MPa以上15MPa以下である。
【0062】
以上の工程を経て形成された接合層30は、接合膜3に含まれる銅粉の焼結構造となる。つまり、接合層30は、接合膜3に含まれる金属粒子の焼結体からなり、接合膜3が焼結されることによって形成されたものである。上述した化学式(1)又は(2)で表される固体還元剤が接合膜3に含まれる場合、銅粉中の銅と固体還元剤とに由来する以下の構造(3)が接合層30に形成されてなる。
【0063】
【化3】
【0064】
式中、RないしRは、それぞれ独立に水素原子、水酸基、炭素原子数1以上10以下の炭化水素基、又は水酸基を有する炭素原子数1以上10以下の炭化水素基を表す。RないしRの詳細は、上述した化学式(1)及び(2)の説明が適宜適用される。また、*は、銅との結合部位を表す。
【0065】
接合層30に前記構造(3)が形成されているか否かは、接合層の断面を対象として、TOF-SIMSによる質量分析等を行うことによって確認することができる。例えば固体還元剤としてBIS-TRISを用いる場合、TOF-SIMSでの正極側のマススペクトルにおいて、C-N(Cu)に起因する分子量152のフラグメントが観察される。
【0066】
接合層30は、その厚みが、銅箔と接合対象物とを確実に結合し、且つ十分に高い導電性及び熱伝導性となるように調整されることが好ましい。具体的には、接合層30の厚みを0.1μm以上とすることが好ましく、1μm以上とすることが更に好ましい。また、接合層30の厚みは、950μm以下とすることが好ましく、500μm以下とすることが更に好ましい。なお接合層30は、その製造過程において、接合膜3中の液媒体が存在しない状態となるので、接合層30の厚みは接合膜3の厚みと同一であるか、又は接合膜3の厚みよりも薄くなる。
【0067】
接合層30の厚みは、例えば上述した接合層用組成物を用いて形成した膜の厚み、或いは接合膜3の厚みを調整することで適宜制御できる。また、接合層30の厚みは、該接合層を樹脂包埋した後に研磨し、その研磨面を電子顕微鏡により観察することで測定される。
【0068】
上述した接合材料1、及び上述した接合層30を有する接合構造10は、その高い接合強度の発現、導電性、及び熱伝導性の特性を活かして、高温に曝される環境、例えば車載用電子回路やパワーデバイスが実装された電子回路に好適に用いられる。特に、接合材料1はパワーデバイスにおけるワイヤボンディング構造体を形成するための接合基材として好適に用いられる。また、本発明の接合構造が好適に用いられるワイヤボンディング構造体としては、例えば、複数の接合構造10と、リードフレーム等の電極とがそれぞれ、金、銅、アルミニウム等の金属からなる金属ワイヤを介して電気的に接続されている態様が挙げられる。金属ワイヤは、接合構造10における銅箔2上に単独で又は複数配されており、接合構造10及び電極をそれぞれ電気的に接続しているものである。
【実施例
【0069】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。
【0070】
〔実施例1〕
(1)接合層用組成物の調製
銅粉として、DSEM50が140nmである球状銅粒子(三井金属鉱業株式会社製)70質量部と、D50が4.9μmであり、アスペクト比が13.3である扁平状銅粒子(三井金属鉱業株式会社製)30質量部との混合物を用いた。固体還元剤としてBIS-TRIS(同仁化学株式会社製)を用いた。液媒体としてヘキシレングリコール(HG)(三井化学株式会社製)及びポリエチレングリコール300(PEG300)(日油株式会社製)の混合物を用いた。これらの材料を混合して、ペースト状の接合層用組成物を得た。固体還元剤の含有量は銅粉100質量部に対して2.5質量部とした。液媒体の含有量は、銅粉100質量部に対してHGを28質量部、PEG300を1質量部とした。また、せん断速度10s-1及び25℃における接合層用組成物の粘度は、70Pa・sであった。
【0071】
(2)接合材料の製造
ベンゾトリアゾールで表面処理された20mm四方の正方形の圧延銅箔(厚み0.2mm)の中央に、スクリーン印刷によって接合層用組成物を塗布して塗膜を形成した。塗膜は、5.5mm四方の正方形に形成した。このときの塗膜の厚みは100μmであった。この塗膜を熱風乾燥機中、大気圧、110℃、20分間乾燥させて液媒体を一部除去し、その後、室温下に放置して、乾燥塗膜からなる接合膜が銅箔の一方の面に形成された接合材料を得た。接合膜中の液媒体の含有量を確認した結果、1.1質量%であった。接合膜の厚みは70μmであった。
【0072】
(3)接合構造の製造
銀メタライズによって、銀からなる金属層5Aが表面に形成されたアルミナチップを接合対象物5として用い、該アルミナチップ(接合対象物5)の金属層5Aと接合材料1の接合膜3とが対向するように接合材料1を配して積層体10Aとした。次いで、この積層体10Aの厚み方向に9MPaの圧力を加えながら、窒素雰囲気下に280℃で5分間にわたり焼成を行い、接合対象物5と銅箔2とが接合層30を介して接合された接合構造10を得た。接合層30は銅粉の焼結構造からなるものであり、該接合層30に前記構造(3)で表される銅及び固体還元剤由来の構造が形成されていることを、TOF-SIMSによる質量分析によって確認した。形成された接合層30の厚みは43μmであった。
【0073】
次いで、実施例1で製造した接合構造10の厚み方向断面を走査型電子顕微鏡を用いて観察した。銅箔2及び接合層30の拡大画像を図2(a)に示し、銀でメタライズされたアルミナチップ(金属層5A及び接合対象物5)並びに接合層30の拡大画像を図2(b)に示す。
【0074】
図2(a)に示す接合層30と銅箔2との界面の接合度合、並びに図2(b)に示す接合層30と金属層5Aとの界面の接合度合の各観察結果から支持されるように、実施例の接合材料及びこれを用いた接合構造は、銅箔2と接合対象物5との高い接合強度が発現できていることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明によれば、高い接合強度の発現と、製造コストの低減とが両立した接合材料及び接合構造が提供される。
図1
図2