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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-22
(45)【発行日】2024-04-01
(54)【発明の名称】加飾用液状組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/34 20060101AFI20240325BHJP
   A61K 8/02 20060101ALI20240325BHJP
   A61K 8/19 20060101ALI20240325BHJP
   A61K 8/81 20060101ALI20240325BHJP
   A61Q 1/00 20060101ALI20240325BHJP
   A61Q 1/02 20060101ALI20240325BHJP
   A61Q 1/04 20060101ALI20240325BHJP
   A61Q 1/10 20060101ALI20240325BHJP
   A61Q 1/12 20060101ALI20240325BHJP
   A61Q 5/00 20060101ALI20240325BHJP
【FI】
A61K8/34
A61K8/02
A61K8/19
A61K8/81
A61Q1/00
A61Q1/02
A61Q1/04
A61Q1/10
A61Q1/12
A61Q5/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020074566
(22)【出願日】2020-04-20
(65)【公開番号】P2021172589
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2023-02-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(74)【代理人】
【識別番号】100125313
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 浩幸
(74)【代理人】
【識別番号】100067644
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 裕
(72)【発明者】
【氏名】喜納 貫
【審査官】松元 麻紀子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/156165(WO,A1)
【文献】特開2006-062980(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/34
A61K 8/02
A61K 8/19
A61K 8/81
A61Q 1/00
A61Q 1/02
A61Q 1/04
A61Q 1/10
A61Q 1/12
A61Q 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の(a)~(c)成分を含有することを特徴とする固形化粧料の表面を加飾するために用いられる加飾用液状組成物。
(a)エタノール
(b)(ジメチルアクリルアミド/アクリロイルジメチルタウリンNa)クロスポリマー
(c)パール剤
【請求項2】
さらに(d)ノニオン性界面活性剤を含有することを特徴とする請求項1記載の固形化粧料の表面を加飾するために用いられる加飾用液状組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載する固形化粧料の表面を加飾するために用いられる加飾用液状組成物で表面を加飾した固形化粧料。
【請求項4】
請求項1又は2に記載する固形化粧料の表面を加飾するために用いられる加飾用液状組成物を固形化粧料の表面に噴射して加飾を行うことを特徴とする固形化粧料の加飾方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口紅、アイシャドー、ファンデーション等の固形化粧料の表面を加飾するための加飾用液状組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
口紅、アイシャドー、ファンデーション等の固形化粧料においては、消費者の関心を引きつけることができるよう美麗な外観とするため、光沢を有するパール剤(雲母チタン等)などを用いて化粧料の表面に模様や文字で加飾する技術が重要となる。
【0003】
化粧料表面への加飾は、液状媒体にパール剤を分散した液状組成物を用い、これをインクジェット印刷法により、ノズルの先端から固形化粧料の表面に噴霧して行うが、液状媒体が水であると、霧状化した小滴は油性の固形化粧料の表面では、はじかれてしまうため、化粧料表面にパール剤を密着させて模様等を描くことは難しい。
【0004】
また、粒径が比較的大きいパール剤は、液状組成物の中で沈降し易く、液中で均一に分散した状態を保持することが困難であるため、化粧料表面への加飾が安定しないばかりか、ノズル内で目詰まりを起こし、量産工程に於いて作業を中断するなどの問題を起こしやすい。
【0005】
さらに、液状組成物の乾燥後に化粧料表面に形成される装飾の塗膜が強固であると、化粧料を掬い取ることが困難となり、使用性を損なうこととなる。このため、装飾の塗膜はある程度、脆弱なものとし、化粧料が備える本来の使用性が損なわれる事態を避けることが望ましい。
【0006】
以上により、化粧料の表面を美麗に装飾するとともに、量産に適した安定性の高い加飾用液状組成物の開発が重要となる。
【0007】
【文献】特開2008-174712号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、光沢を有する雲母チタン等からなるパール剤を固形化粧料の表面に密着させるとともに、量産に適した安定性の高い加飾用液状組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために本発明者が検討を行った結果、エタノールを媒体とし、これに適した増粘剤を配合した加飾用液状組成物を用いると、パール剤を固形化粧料の表面に確実に密着させることができ、化粧料の表面を美麗に装飾できること、また、ノニオン性界面活性剤を配合することにより、装飾の塗膜は崩れ易くなり、化粧料が備える本来の使用性を損なうことを防止できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、次の(a)~(c)成分を含有することを特徴とする固形化粧料の表面を加飾するために用いられる加飾用液状組成物である。
(a)エタノール
(b)(ジメチルアクリルアミド/アクリロイルジメチルタウリンNa)クロスポリマー
(c)パール剤
【0011】
また本発明は、さらに(d)ノニオン性界面活性剤を含有することを特徴とする固形化粧料の表面を加飾するために用いられる加飾用液状組成物である。
【0012】
さらに本発明は、前記の固形化粧料の表面を加飾するために用いられる加飾用液状組成物で表面を加飾した固形化粧料である。
【0013】
さらに本発明は、前記の固形化粧料の表面を加飾するために用いられる加飾用液状組成物を固形化粧料の表面に噴射して加飾を行うことを特徴とする固形化粧料の加飾方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の加飾用液状組成物によれば、光沢を有するパール剤を固形化粧料の表面に確実に密着させることができ、化粧料の表面を美麗に装飾することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の加飾用液状組成物を以下に詳細に説明する。
【0016】
加飾用液状組成物は、(a)エタノール、(b)増粘剤、及び(c)パール剤を含有することを特徴とする。
【0017】
(a)成分のエタノールは、本発明の加飾用液状組成物における溶媒として含有される。エタノールは、低粘度であるとともに乾燥性にすぐれるため、各成分を溶解あるいは分散した状態で、霧状に噴射し易く、加飾後は短時間で乾燥するため、加飾工程に要する時間を短くすることができる。
【0018】
(b)成分の増粘剤は、エタノールを増粘する効果を備えるものを用いることができ、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、(ジメチルアクリルアミド/アクリロイルジメチルタウリンNa)クロスポリマー等を用いることができる。
【0019】
(c)成分のパール剤は、干渉色、真珠光沢、あるいは金属光沢を呈する板状又は球状の粉末であり、塗料や化粧料の分野において汎用される。このような光沢性を有するパール剤で油性固形化粧料の表面を加飾すると、加飾による模様や文字等が光輝性を呈して強調され、優れた美感を備えることができる。
【0020】
板状のパール剤としては、例えば、雲母チタン、酸化鉄被覆雲母チタン、カルミン被覆雲母チタン、カルミン・コンジョウ被覆雲母チタン、酸化鉄・カルミン処理雲母チタン、コンジョウ処理雲母チタン、酸化鉄・コンジョウ処理雲母チタン、酸化クロム処理雲母チタン、黒酸化チタン処理雲母チタン、アクリル樹脂被覆アルミニウム末、シリカ被覆アルミニウム末、酸化チタン被覆マイカ、酸化チタン被覆オキシ塩化ビスマス、酸化チタン被覆タルク、着色酸化チタン被覆マイカ、酸化チタン被覆合成マイカ、酸化チタン被覆シリカ、酸化チタン被覆アルミナ、酸化チタン被覆ガラス粉、ポリエチレンテレフタレート・ポリメチルメタクリレート積層フィルム末、オキシ塩化ビスマス、魚鱗箔等が挙げられる。
【0021】
これらの市販品の具体例としては、BASF社のCLOIZONNEシリーズ、MERCK社のCOLORONA(登録商標)シリーズ、TIMIRON(登録商標)シリーズ、CQV社のCosmeticaシリーズ、日本光研工業社のTWINCLEPEARL(登録商標)シリーズ、日本板硝子社のメタシヤイン(登録商標)シリーズ等が挙げられる。
【0022】
球状のパール剤としては、球状の二酸化ケイ素、アルミナ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、ナイロン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル等の表面を二酸化チタン、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化鉄等で被覆した複合粉末が挙げられるが、この複合粉末については特開平11-236315号公報に記載がある。
【0023】
パール剤の粒径は、6~110μmが好ましいが、さらには6~70μmが好ましく、特に、6~50μmが好ましい。このような粒径のパール剤を使用することで、インクジェットのノズルからパール剤の分散液を安定に噴射することができ、しかも乾燥後の化粧料においてすぐれた使用性を得ることが可能となる。パール剤の配合量は、0.1~70質量%の範囲とする。
【0024】
(d)成分としてノニオン性界面活性剤を配合することにより、固形化粧料の表面に形成された装飾の塗膜は崩れ易くなるため、使用開始あるいは使用途中で塗膜が化粧料表面から剥離するという問題を効果的に解消することができる。使用者は、塗膜を少しずつ崩しながら化粧料をすくい取ることができ、化粧行為を円滑に行うことができる。特に、増粘剤がヒドロキシセルロースなどのセルロース系増粘剤の場合には、ノニオン性界面活性剤を配合することにより、塗膜の崩れやすさを付与することができる。
【0025】
(d)成分のノニオン性界面活性剤は、親油性又は親水性のものを、適宜選択して配合することができる。
【0026】
親油性ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンモノイソステアレート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンセスキオレエート、ソルビタントリオレエート、ペンタ-2-エチルヘキシル酸ジグリセロールソルビタン、テトラ-2-エチルヘキシル酸ジグリセロールソルビタン等のソルビタン脂肪酸エステル類;モノ綿実油脂肪酸グリセリン、モノエルカ酸グリセリン、セスキオレイン酸グリセリン、モノステアリン酸グリセリン、α, α’-オレイン酸ピログルタミン酸グリセリン、モノステアリン酸グリセリンリンゴ酸等のグリセリンポリグリセリン脂肪酸類;モノステアリン酸プロピレングリコール等のプロピレングリコール脂肪酸エステル類のほか、硬化ヒマシ油誘導体、グリセリンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン共重合体などが例示される。
【0027】
親水性ノニオン性界面活性剤としては、例えば、POEソルビタンモノオレエート、POE-ソルビタンモノステアレート、POE-ソルビタンモノオレート、POE-ソルビタンテトラオレエート等のPOEソルビタン脂肪酸エステル類;POE-ソルビットモノラウレート、POE-ソルビットモノオレエート、POE-ソルビットペンタオレエート、POE-ソルビットモノステアレート等のPOEソルビット脂肪酸エステル類;POE-グリセリンモノステアレート、POE-グリセリンモノイソステアレート、POE-グリセリントリイソステアレート等のPOEグリセリン脂肪酸エステル類;POEモノオレエート、POEジステアレート、POEモノジオレエート、システアリン酸エチレングリコール等のPOE脂肪酸エステル類;POEラウリルエーテル、POEオレイルエーテル、POEステアリルエーテル、POEベヘニルエーテル、POE2-オクチルドデシルエーテル、POEコレスタノールエーテル等のPOEアルキルエーテル類;POEオクチルフェニルエーテル、POEノニルフェニルエーテル、POEジノニルフェニルエーテル等のPOEアルキルフェニルエーテル類;ブルロニック等のプルアロニック型類;POE・POPセチルエーテル、POE・POP2-デシルテトラデシルエーテル、POE・POPモノブチルエーテル、POE・POP水添ラノリン、POE・POPグリセリンエーテル等のPOE・POPアルキルエーテル類;テトロニック等のテトラPOE・テトラPOPエチレンジアミン縮合物類;POEヒマシ油、POE硬化ヒマシ油、POE硬化ヒマシ油モノイソステアレート、POE硬化ヒマシ油トリイソステアレート、POE硬化ヒマシ油モノピログルタミン酸モノイソステアリン酸ジエステル、POE硬化ヒマシ油マレイン酸等のPOEヒマシ油硬化ヒマシ油誘導体;POEソルビットミツロウ等のPOEミツロウ・ラノリン誘導体;ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド、ラウリン酸モノエタノールアミド、脂肪酸イソプロパノールアミド等のアルカノールアミドのほか、POEプロピレングリコール脂肪酸エステル、POEアルキルアミン、POE脂肪酸アミド、ショ糖脂肪酸エステル、POEノニルフェニルホルムアルデヒド縮合物、アルキルエトキシジメチルアミンオキシド、トリオレイルリン酸などが例示される。
【0028】
(d)成分のノニオン性界面活性剤は、例示した化合物をそれぞれ単独で用いてもよく、また、適宜組み合わせて用いてもよい。
【0029】
本発明の加飾用液状組成物は、インクジェットのノズルから噴射され、口紅、アイシャドー、ファンデーション等の固形化粧料の表面に付着し、化粧料を美麗に加飾することを可能とするものであるが、必ずしもインクジェットに限らず、他の方法により塗布した場合にも、同様の効果を得ることができる。
【0030】
また、加飾用液状組成物による加飾は、口紅、ヘアスティック等の油性固形化粧料に限られず、アイシャドー、ファンデーション等の粉末固形化粧料など広く固形化粧料に用いることができる。
【実施例
【0031】
本発明の加飾用液状組成物について行った評価試験の結果を実施例として記載する。
【0032】
試料は、まずエタノールに油分、増粘剤、ノニオン性界面活性剤を溶解した溶液を調整し、つぎに、この溶液100質量部に対し、パール剤をアウトパーツとして10質量部配合することにより作製した。
【0033】
各試料をインクジェットにより口紅の表面に噴射し、乾燥した後の塗膜の密着性(印刷適性)を評価した。塗膜の密着性(印刷適性)が良好である場合は〇(合格)、一部に欠けや剥がれが認められる場合は×(不合格)と判定した。
【0034】
インクジェットには、HOLBEIN社製のエアブラシを用い、ノズルの孔径:0.2mm、噴射圧力:0.15MPa、噴射量:0.03ml/秒、噴射時間:1秒を条件とした。
【0035】
インクジェットのノズルの詰まりは、皿状の容器に充填した口紅10個の表面に連続して噴射できることを基準として評価した。ノズルが詰まることなく、口紅10個の表面に連続して噴射できた場合は〇(合格)、ノズルが詰まり、口紅10個の表面に連続して噴射できない場合は×(不合格)と判定した。
【0036】
つぎに、使用する際に塗膜が徐々に崩壊し、適量の化粧料を円滑に塗布することができるか、化粧料の塗布し易さ(使用性)について評価した。
【0037】
塗布しやすさ(塗膜の崩壊性)は、通常行う化粧操作で口紅を使用したときの塗膜が崩壊する状態について評価した。塗膜が徐々に崩壊し、問題なく口紅を使用できる場合は〇(合格)、塗膜が崩壊せず、口紅の使用に問題が生じる場合は×(不合格)と判定した。
【0038】
【表1】
【0039】
表1に、塗膜の密着性(印刷適性)とインクジェットのノズルの詰まりについて評価した結果を示す。表1に示すように、(a)乃至(c)成分を配合した試料(試験例1~9)は、良好な評価結果を確認することができた。
【0040】
【表2】
【0041】
表2に、化粧料の塗布し易さ(塗膜の崩壊性)について評価した結果を示す。(b)成分としてヒドロキシプロピルセルロースを配合した試験例10乃至14において、(d)成分のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を配合することにより、化粧料の塗布し易さ(塗膜の崩壊性)の評価が向上することを確認することができた。