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特許7459373蛍光体及びその製造方法、蛍光体を含む発光素子並びに発光装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-22
(45)【発行日】2024-04-01
(54)【発明の名称】蛍光体及びその製造方法、蛍光体を含む発光素子並びに発光装置
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/62 20060101AFI20240325BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20240325BHJP
   H01L 33/50 20100101ALI20240325BHJP
【FI】
C09K11/62
C09K11/08 B
H01L33/50
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023510229
(86)(22)【出願日】2021-12-10
(86)【国際出願番号】 JP2021045661
(87)【国際公開番号】W WO2022209033
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-04-04
(31)【優先権主張番号】P 2021056337
(32)【優先日】2021-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】篠倉 明日香
(72)【発明者】
【氏名】稲村 昌晃
(72)【発明者】
【氏名】小澤 行弘
【審査官】福山 駿
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/033830(WO,A1)
【文献】特開2007-112950(JP,A)
【文献】特開2017-088719(JP,A)
【文献】特開平07-242869(JP,A)
【文献】特開2013-077825(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00-11/89
H01L 33/50
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):MGa(式中、Mは、Ba、Sr及びCaからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含む。)で表される結晶相と、
式(2):MGa(式中、Mは、Ba、Sr及びCaからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含む。)で表される結晶相と、
発光中心となる元素Aと、
を含む、蛍光体。
【請求項2】
式(1):MGa(式中、Mは、Ba、Sr及びCaからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含む。)で表される結晶相と、発光中心となる元素Aとを含み、
CuKα線を用いたX線回折装置により測定されるX線回折パターンにおいて、2θ=27.55°以上28.30°以下の範囲、及び2θ=28.45°以上28.75°以下の範囲に回折ピークが観察される、蛍光体。
【請求項3】
蛍光体中に含まれる前記元素Mのモル量、前記元素Aのモル量、及びGaのモル量をそれぞれX、X、XGaとしたときのXGa/(X+X)が、1.6以上2.6以下である、請求項1又は2に記載の蛍光体。
【請求項4】
CuKα線を用いたX線回折装置により測定されるX線回折パターンにおいて、2θ=25.8°以上26.1°以下の範囲に観察される回折ピークの最大値Icに対する、2θ=27.9°以上28.36°以下の範囲に観察される回折ピークの最大値Iaの比Ia/Icが、0.4以上である、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の蛍光体。
【請求項5】
CuKα線を用いたX線回折装置により測定されるX線回折パターンにおいて、2θ=25.8°以上26.1°以下の範囲に観察される回折ピークの最大値Icに対する、2θ=28.4°以上28.86°以下の範囲に観察される回折ピークの最大値Ibの比Ib/Icが、0.4以上である、請求項1ないし4のいずれか一項に記載の蛍光体。
【請求項6】
前記発光中心となる元素Aが、Eu、Ce、Mn及びSmからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含む、請求項1ないし5のいずれか一項に記載の蛍光体。
【請求項7】
Ga、S、M(Mは、Ba、Sr及びCaからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含む。)及び発光中心となる元素Aを含む原料組成物を準備し、
前記原料組成物を、その一部が溶融した状態下で焼成する、蛍光体の製造方法であって、
前記焼成における昇温速度が1℃/min以上10℃/min以下であり、且つ焼成温度が1000℃以上1400℃以下である、蛍光体の製造方法。
【請求項8】
Ga、S、M(Mは、Ba、Sr及びCaからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含む。)及び発光中心となる元素Aを含む原料組成物を準備し、
前記原料組成物の焼成によって、式(1):MGa(式中、Mは、Ba、Sr及びCaからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含む。)で表される化合物と、式(2):MGa(式中、Mは、Ba、Sr及びCaからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含む。)で表される化合物とを生成させる、蛍光体の製造方法であって、
前記焼成における昇温速度が1℃/min以上10℃/min以下であり、且つ焼成温度が1000℃以上1400℃以下である、蛍光体の製造方法。
【請求項9】
請求項1ないし6のいずれか一項に記載の蛍光体と樹脂とを含む発光素子。
【請求項10】
請求項1ないし6のいずれか一項に記載の蛍光体及び励起源を備えた発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体及びその製造方法に関する。また本発明は、蛍光体を含む発光素子及び発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光源として例えば青色の発光ダイオード(LED)を用い、これに緑色の蛍光や赤色の蛍光を発光する蛍光体を組み合わせた色再現範囲の広い発光装置が種々開発されている。例えば緑色の蛍光を発光する蛍光体として、本出願人は先に特許文献1及び2に記載の硫化物を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許出願公開第2011/114985号明細書
【文献】米国特許出願公開第2012/018674号明細書
【発明の概要】
【0004】
蛍光体の外部量子効率は、吸収率と内部量子効率の積で表される。したがって、内部量子効率を高くすることで、蛍光体の発光強度を高めることが可能である。上述した特許文献1及び2に記載の蛍光体は内部量子効率が高いものであるが、発光表示デバイスの高輝度化や低消費電力が求められている現在、これまでよりも内部量子効率が高い蛍光体が必要とされている。
【0005】
したがって本発明の課題は、従来よりも内部量子効率が高い蛍光体及びその製造方法を提供することにある。
【0006】
本発明は、式(1):MGa(式中、Mは、Ba、Sr及びCaからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含む。)で表される結晶相と、
式(2):MGa(式中、Mは、Ba、Sr及びCaからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含む。)で表される結晶相と、
発光中心となる元素Aと、
を含む蛍光体を提供するものである。
【0007】
また本発明は、Ga、S、M(Mは、Ba、Sr及びCaからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含む。)及び発光中心となる元素Aを含む原料組成物を準備し、
前記原料組成物を、その一部が溶融した状態下に焼成する、蛍光体の製造方法を提供するものである。
【0008】
また本発明は、Ga、S、M(Mは、Ba、Sr及びCaからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含む。)及び発光中心となる元素Aを含む原料組成物を準備し、
前記原料組成物の焼成によって、式(1):MGa(式中、Mは、Ba、Sr及びCaからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含む。)で表される化合物と、式(2):MGa(式中、Mは、Ba、Sr及びCaからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含む。)で表される化合物とを生成させる、蛍光体の製造方法を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施例1の蛍光体におけるX線回折チャートである。
図2図2は、実施例2の蛍光体におけるX線回折チャートである。
図3図3は、実施例3の蛍光体におけるX線回折チャートである。
図4図4は、比較例1の蛍光体におけるX線回折チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の蛍光体は、ガリウム(Ga)及び硫黄(S)、並びに所定の金属元素(以下、この元素を「M」で表す。)を含有する硫化物の結晶を含有する。
【0011】
蛍光体は、「式(1):MGa」で表される化合物の結晶構造を含む。式(1)中、Mは、バリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)及びカルシウム(Ca)からなる群より選択される少なくとも1種の元素を含む。元素MとしてBa、Sr及びCaからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含むことで、発光色の調整がしやすいものとなる。
式(1)に由来する結晶相は、蛍光体中の主相であってもよく、副相であってもよく、好ましくは蛍光体中の主相である。本明細書における主相とは、蛍光体全体のうち、X線回折パターンの最大ピークが帰属する相をいう。また本明細書における副相とは、主相以外の結晶相をいう。
【0012】
本明細書における元素Mは、特に断りのない限り、1価又は2価の金属元素である。元素Mに包含される元素としては、上述したBa、Sr及びCaの各元素の他、Zn等の2価の金属元素が好ましく挙げられる。この元素Mに関する説明は、特に断りのない限り、本明細書において共通して適用される。
【0013】
上述のMのうち、式(1)で表される結晶構造は、式(1a):(Ba1-xSr)Ga(式(1a)中、xは好ましくは0.5以上1以下であり、より好ましくは0.6以上0.95以下である。)で示される化合物の結晶構造を含むことがより好ましい。このような結晶構造を含むことによって、内部量子効率が高いものとすることができるとともに、例えば赤緑青を三原色とするカラー画像表示装置の構成材料として、この蛍光体を適用した際に、上記装置で表示する緑色の彩度が高い、すなわち色純度の高い緑色の表示が可能となる。
【0014】
蛍光体がMGaで表される化合物の結晶構造を含むか否かは、例えばCuKα線を用いたX線回折によって測定される回折パターンにおいて、2θ=16.93°±0.5°、23.98°±0.5°、29.88°±0.5°、34.24°±0.5°、及び38.31°±0.5°に特徴的な回折ピークを示すことによって判断することができる。結晶構造に由来する回折ピークの同定には、例えばPDF番号01-077-1189や、00-025-0895のデータを用いることができる。
【0015】
蛍光体は、2θ=27.55°以上28.30°以下の範囲、及び2θ=28.45°以上28.75°以下の範囲に回折ピークを示すことが好ましい。つまり、蛍光体は、その一つの粒子内に、主相であるMGaに由来する回折ピークに加えて、上述の回折ピークが更に観察されることが好ましい。
上述の回折ピークは、MGaの純粋な結晶では観察されないピークであるところ、このような回折ピークが観察される蛍光体を用いることによって、光の吸収率が従来と同等でありながら、内部量子効率が高いものとなることを見出した。このような結晶構造は、例えば後述する製造方法にて得ることができる。
【0016】
蛍光体は、式(1)で示される上述の結晶構造に加えて、「式(2):MGa」で表される結晶構造を含むことが好ましい。つまり、蛍光体の一つの粒子内に、式(1)で表される結晶相と、式(2)で表される結晶相とが含まれていることが好ましい。式(2)中、Mは、Ba、Sr及びCaからなる群より選択される少なくとも1種を含む。式(2)に由来する結晶は、蛍光体中の主相であってもよく、副相であってもよく、好ましくは蛍光体中の副相である。
式(2)で表される結晶構造を含むことによって、光の吸収率が従来と同等でありながら、内部量子効率が高いものとなるとともに、外部量子効率の高いMGaの結晶相が得られやすくなり、高い発光効率を発現できる蛍光体が得やすくなる。
【0017】
蛍光体がMGaで表される化合物の結晶構造を含むか否かは、例えばCuKα線を用いたX線回折によって測定される回折パターンにおいて、2θ=27.55°以上28.30°以下の範囲、及び2θ=28.45°以上28.75°以下の範囲に特徴的な回折ピークを示すことによって判断することができる。結晶構造に由来する回折ピークの同定には、例えばPDF番号01-077-8955のデータを用いることができる。
【0018】
上述の各実施形態における蛍光体に含まれるMGaの結晶構造は、元素Mが2価のものである場合、元素Mが1モルに対してGaが2モルである量論比で表されるところ、元素Mが2価の元素である場合において、本発明の蛍光体中に含まれる元素M、後述する発光元素である元素A、及びGaの各モル量をそれぞれX、X、XGaとしたときに、元素Mのモル量と発光元素である元素Aのモル量との和(X+X)に対するGaのモル量XGaの比である「XGa/(X+X)」が所定の範囲であることが好ましい。
具体的には、XGa/(X+X)が、好ましくは1.6以上2.6以下、より好ましくは1.7以上2.5以下、更に好ましくは1.8以上2.4以下、特に好ましくは2.05以上2.35以下である。XGa/(X+X)がこのような範囲であることによって、融点を下げ、一部が溶融した状態で焼結が促進され、内部量子効率が高い蛍光体を生産性高く得ることができる。XGa/(X+X)は、例えば、製造時に用いる元素Mと元素A及びGaを含む原料の量を調整することで、適宜調整することができる。
【0019】
蛍光体は、CuKα線を用いたX線回折測定で得られる回折パターンにおいて、所定の回折ピークの比が特定の範囲であることが好ましい。
具体的には、2θ=27.9°以上28.36°以下の範囲に観察される回折ピークの最大値をIaとし、2θ=25.8°以上26.1°以下の範囲に観察される回折ピークの最大値をIcとする。このとき、Icに対するIaの比Ia/Icが、好ましくは0.4以上、より好ましくは1.0以上、更に好ましくは1.2以上である。また、Ia/Icは、50以下とすることが好ましく、10以下とすることがより好ましく、5以下とすることがさらに好ましい。
【0020】
Iaの基準となる回折ピークはMGaに由来するものと推定され、Icの基準となる回折ピークは、MGaに由来するものと推定される。したがって、このような結晶相に由来する回折ピークの比Ia/Icが上述の範囲となっていることによって、上述したMGaの結晶相が多く生成する環境下で製造されたことを意味するので、内部量子効率が高いものとすることができると共に、高い外部量子効率が発揮し易いMGaの結晶相が得られやすくなり、高い発光効率を発現できる蛍光体が得やすくなる。
本明細書における「回折ピークの最大値」とは、X線回折測定における、該回折角範囲で得られたX線回折強度の最大値を意味する。
【0021】
また、2θ=28.4°以上28.86°以下の範囲に観察される回折ピークの最大値をIbとし、2θ=25.8°以上26.1°以下の範囲に観察される回折ピークの最大値をIcとしたときに、Icに対するIbの比Ib/Icが、好ましくは0.4以上、より好ましくは0.5以上、更に好ましくは0.8以上である。また、Ib/Icは、50以下とすることが好ましく、10以下とすることがより好ましく、5以下とすることがさらに好ましい。
【0022】
上述したIbの基準となる回折ピークは、MGaに由来するものと推定される。したがって、このような結晶相に由来する回折ピークの比Ib/Icが上述の範囲となっていることによって、上述したMGaの結晶相が多く生成する環境下で製造されたことを意味するので、内部量子効率が高いものとすることができると共に、高い外部量子効率が発揮し易いMGaの結晶相が得られやすくなり、高い発光効率を発現できる蛍光体が得やすくなる。
【0023】
また、2θ=28.4°以上28.86°以下の範囲に観察される回折ピークの最大値をIbとし、2θ=27.3°以上27.8°以下の範囲に観察される回折ピークの最大値をIdとしたときに、Idに対するIbの比Ib/Idが、好ましくは1.8以上、より好ましくは2.0以上である。また、Ib/Idは、50以下とすることが好ましく、10以下とすることがより好ましく、5以下とすることがさらに好ましい。
【0024】
Idの基準となる回折ピークはMGaに由来するものと推定される。したがって、このような結晶相に由来する回折ピークの比Ib/Idが上述の範囲となっていることによって、上述したMGaの結晶相が多く生成する環境下で製造されたことを意味するので、内部量子効率が高いものとすることができると共に、高い外部量子効率が発揮し易いMGaの結晶相が得られやすくなり、高い発光効率を発現できる蛍光体が得やすくなる。
【0025】
蛍光体は、式(3):「MGa」で表される結晶相が観察されないことが更に好ましい。式(3)中、Mは、Ba、Sr及びCaからなる群より選択される少なくとも1種を含む。MGaで表される結晶相が観察されないことによって、上述したMGaの結晶相が多く生成する環境下で製造されたことを意味するので、内部量子効率が高いものとすることができると共に、高い外部量子効率が発揮し易いMGaの結晶相が得られやすくなり、発光効率の高い蛍光体用材料が得やすくなる。
【0026】
蛍光体がMGaで表される結晶相を含むか否かは、例えばCuKα線を用いたX線回折によって測定される回折パターンにおいて、2θ=25°以上27°以下の範囲、及び2θ=32°以上34°以下の範囲に特徴的な回折ピークを示すことによって判断することができる。結晶構造に由来する回折ピークの同定には、例えばPDF番号00-047-1130のデータを用いることができる。
【0027】
本明細書におけるCuKα線を用いたX線回折測定によって得られるX線回折パターンは、例えば以下の測定条件で得ることができる。
・装置:Rigaku ULITIMA IV
・管球:CuKα
・管電圧:50kV
・管電流:300mA
・測定回折角:2θ=10~80°
・測定ステップ幅:0.01°
・収集時間:2°/分
・検出器:高速1次元X線検出器 D/teX Ultra 250
・受光スリット幅:0.3mm
・発散スリット:2/3°
・発散縦制限スリット幅:10mm(Kβフィルターを使用)
【0028】
蛍光体は、上述した実施形態に係る元素に加えて、その発光中心として機能する元素Aとして、ユーロピウム(Eu)、セリウム(Ce)、マンガン(Mn)及びサマリウム(Sm)からなる群より選択される少なくとも1種の元素を含むことが好ましい。LEDから発生した青色光による励起での内部量子効率を更に高める観点から、蛍光体は、Euを含むことが好ましく、Euの二価イオン(すなわちEu2+)を含むことがより好ましく、上述の発光中心となる元素のうちEu2+のみからなることが更に好ましい。
【0029】
蛍光体における発光中心の比率は、発光強度を更に向上させる観点から、蛍光体中に含まれる元素Mのモル量と発光元素である元素Aのモル量との和(X+X)に対する元素のモル量Xの比(X/(X+X))が、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.07以上、更に好ましくは0.1以上である。また、濃度消光が発生することを防止する観点から、X/(X+X)が好ましくは0.3以下、より好ましくは0.25以下、さらに好ましくは0.2以下である。
【0030】
本発明の蛍光体は、波長250nm以上510nm以下の範囲の光によって励起され、波長420nm以上730nm以下の範囲に発光ピークを有する。具体的には、蛍光体は、例えば青色LEDから発せられた波長450nm前後の光によって励起され、緑色から黄色までの範囲の可視光を発するように発光する。
【0031】
以下に、蛍光体の好適な製造方法の一実施形態を説明する。本製造方法は、Ga、S、M(Mは、Ba、Sr及びCaからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含む。)及び発光中心となる元素Aを含む原料組成物を焼成するものである。
【0032】
まず、Ga、S及びMの各元素、並びに発光中心となる元素Aを含む原料組成物を準備する。原料組成物としては、これらの元素を一種以上含む単体、化合物又はその混合物とすることができる。この原料組成物は、典型的には固体である。
【0033】
Gaを含む原料としては、例えば、Ga単体、Ga、Ga等の化合物が挙げられる。
Sを含む原料としては、例えばS単体、HSガス、CS、Ga等の化合物が挙げられる。
Mを含む原料としては、例えばM単体の他、MS、MSO、MCO、M(OH)、MO等のBa含有化合物、Sr含有化合物、Ca含有化合物といった、元素Mの酸化物、水酸化物、硫化物、硫酸塩、炭酸塩等が挙げられる。
【0034】
発光中心となる元素Aを含む原料としては、該元素Aの酸化物、硫化物、ハロゲン化物、並びに各種の塩が挙げられる。ここで、発光中心となる元素AとしてEuを含む原料としては、例えば、Eu、EuS、EuF、EuCl等が挙げられる。また、Ceを含む原料としては、例えば、CeO、Ce、CeF、CeCl等が挙げられる。Mnを含む原料としては、例えば、MnO、Mn、MnF、MnCl等が挙げられる。Smを含む原料としては、例えば、Sm、Sm、SmF、SmCl等が挙げられる。
【0035】
原料組成物は、上述の各原料を乾式又は湿式によって混合するか、あるいは液中で湿式合成することによって得ることができる。
乾式による混合は、例えば、ペイントシェーカーやボールミル等の混合装置を用いて行うことができる。
湿式による混合は、各原料を液媒に懸濁させて懸濁液としたあと、該懸濁液を上述の混合装置内に投入して行うことができる。その後、この混合物を篩等を用いて固液分離して得られた固体分を乾燥することで、目的とする原料組成物を得ることができる。液媒としては、エタノールなどのアルコールや液体窒素等といった、後述する加熱条件において気化する溶媒を用いることができる。
【0036】
原料組成物を液中で湿式合成する場合には、例えば、ゾルゲル法、クエン酸錯体法、クエン酸錯体重合法、共沈法、金属水酸化物沈殿法、均一沈殿法、無機塩加水分解法、アルコキシド法、酸化還元法、水熱法、エマルジョン法、溶媒蒸発法、貧溶媒希釈法などの各種の製造方法で前駆体を得た後、HSやCS等の硫黄含有気体と該前駆体とを接触させて、該前駆体を硫化させることによって得ることができる。
【0037】
上述のX線回折パターンを有する結晶を効率的に得やすくして、内部量子効率を高める観点から、蛍光体中に含まれる元素M、元素A、及びGaの各モル量をそれぞれX、X、XGaとしたときのXGa/(X+X)が、好ましくは1.6以上2.6以下、より好ましくは1.7以上2.5以下、更に好ましくは1.8以上2.4以下、特に好ましくは、2.05以上2.35以下となるように、Ga含有原料、M含有原料及び発光中心元素A含有原料を混合することが好ましい。Ga含有原料、M含有原料及び発光中心元素A含有原料の仕込みモル比は、得られる蛍光体中のGa、M及び発光中心元素Aのモル比と概ね一致するので、このような範囲のモル比となるように原料を混合することによって、上述の特徴的な回折ピークの発現や、XGa/(X+X)を容易に達成しやすくして、内部量子効率が更に高い蛍光体を生産性高く得ることができる。
【0038】
続いて、上述の原料組成物を焼成する。本製造方法においては、固体の原料組成物の一部が溶融した状態下に焼成してもよい。
このような焼成を経て、式(1):MGaで示される結晶構造と、好ましくは式(2):MGaで示される結晶構造とを一粒子中に有する蛍光体用材料を生成させることができ、内部量子効率が更に高い蛍光体を生産性高く得ることができる。
【0039】
原料組成物の焼成温度は、各原料の存在割合に応じて適宜変化し得るが、結晶性を向上させる観点から、より高温で焼成させることが好ましい。具体的には、焼成温度は、好ましくは1000℃以上1400℃以下、より好ましくは1100℃以上1300℃以下、更に好ましくは1150℃以上1250℃以下である。
【0040】
式(1):MGaで示される化合物と、式(2):MGaで示される化合物を効率よく生成させて、内部量子効率に優れた蛍光体を得やすくする観点から、焼成によって、MGaを生成させたあと、そのMGaをMGaに変化させるように行うことが好ましい。
【0041】
このように焼成を行う温度条件の一実施形態としては、例えば、焼成における昇温速度を、好ましくは1℃/min以上10℃/min以下、より好ましくは2℃/min以上8℃/min以下、更に好ましくは3℃/min以上7℃/min以下とする。目的とする焼成温度に達したあと、好ましくは1時間以上12時間以下、より好ましくは2時間以上10時間以下、更に好ましくは3時間以上8時間以下維持して焼成させる。
【0042】
上述の原料組成物を用いた場合、500~900℃程度の温度域ではMGaが生成しやすく、1000℃以上の温度域ではMGaが生成しやすい。このような昇温速度、温度及び時間で焼成することによって、MGaの一部をMGaに変化させやすくして、内部量子効率をより一層高めることができる蛍光体が得られやすくなる。これに加えて、原料組成物中の元素Mに対するGaのモル比をMGaの量論比よりも多く含有させることによって、XGa/(X+X)が2超となりやすく、且つ内部量子効率の向上に寄与するMGaを更に効率的に生成させることができる点で有利である。
【0043】
焼成雰囲気は、窒素や二酸化炭素、アルゴンなどの不活性ガス、水素ガス等の還元性ガス、硫化水素や二硫化炭素などの硫黄含有ガス等が挙げられ、好ましくは硫黄含有ガスである。硫黄含有ガスを導入しながら焼成することによって、原料組成物中に硫黄を非含有とするか、又は硫黄の含有量が量論比よりも少ない場合でもガス中の硫黄と反応させて、目的とする生成物を生産性高く得ることができる。これに加えて、生成物の意図しない分解を抑制する点でも有利である。
【0044】
上述のように焼成した焼成物に硫化Gaを加え、さらに焼成しても良い。このことにより、MGaが更に生成し易くなる。このときの焼成温度や焼成時間は、上述した焼成時間や焼成温度と同様の条件とすることができる。
【0045】
以上の工程を経て得られた生成物は、塊状物、粒状物又は粉状物であるので、これをそのまま本発明の蛍光体として用いてもよい。これに代えて、以上の工程で得られた生成物に対して、必要に応じて、篩やミル、液体等を用いた解砕あるいは分級、アニール処理、被覆処理等の後処理工程を行って、目的とする蛍光体としてもよい。
【0046】
解砕を行う場合、スタンプミルやペイントシェーカー、らいかい機などを用いて、結晶構造に影響を及ぼさない緩やかな条件で解砕することが好ましい。
分級を行う場合、得られる蛍光体の取り扱い性と発光性とを高める観点から、生成物の粒子径を好ましくは0.01μm以上150μm以下、より好ましくは1μm以上50μm以下となるようにする。なお、ここでいう粒子径はレーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積50容量%における体積累積粒径を示す。
【0047】
液体を用いて分級を行う場合、超音波処理等によって、分散媒中に生成物を分散させ沈降させて沈降物を回収し、その後乾燥させることによって行うことができる。分散媒は、水や、エタノール等の有機溶媒を用いることができる。
【0048】
解砕又は分級を経た生成物は、更にアニール処理を行って、目的とする蛍光体としてもよい。アニール処理の条件は、上述の焼成条件における温度、時間及びモル比条件を適宜採用することができる。
【0049】
被覆処理を行う場合、蛍光体の耐湿性等の耐久性を向上させつつ、蛍光体が有する良好な発光性を維持させる観点から、SiO、ZnO、Al、TiO、ホウ素を含有する酸化物や、BaSO等の金属硫酸塩等の無機化合物の一種以上を用いて蛍光体の表面を被覆することが好ましい。
【0050】
以上の工程を経て得られた蛍光体は、好ましくは蛍光体の粒子の集合体からなる粉状物である。この蛍光体を用いて発光素子としたり、あるいは、発光素子と励起源とをそれぞれ単独で又は複数備えた発光装置としたりすることができる。詳細には、発光素子を、例えば照明用部材、窓用部材、電飾部材、導光板部材、プロジェクタのスクリーンなどの一般照明用の部材や、発光ディスプレイ等の画像表示機器や、液晶テレビ、パソコン、タブレット、スマートフォン等のモバイル機器、照明器具等のLED素子、μLED素子等の励起源を有する発光装置の構成部材として用いることもできる。
【0051】
発光素子は、蛍光体と樹脂とを含む。発光素子は、例えば、溶融状態の樹脂に蛍光体の粒子を添加して混練した後、これをインフレーション法、Tダイ法及びカレンダー法等によって、所定の形状に成形することによって得ることができる。
【0052】
これに代えて、蛍光体及び樹脂に加えて、蛍光体及び樹脂を分散可能な有機溶媒を含む液状の混合物を励起源の表面に配置して、励起源上に発光素子を直接成形することもできる。デバイス上に適用する液状混合物は、スクリーン印刷、グラビア印刷、オフセット印刷、フレキソ法等の各種印刷方法、バーやローラーやスプレーガン等によって塗工又は噴霧し、その後、溶媒を乾燥する方法が挙げられる。
【0053】
発光素子を構成する樹脂は、例えば熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、電離放射線硬化性樹脂及び二液混合硬化性樹脂を用いることができる。
【0054】
熱可塑性樹脂の例としては、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアクリル酸又はそのエステルやポリメタクリル酸又はそのエステル等のポリアクリル酸系樹脂、ポリスチレンやポリ塩化ビニル等のポリビニル系樹脂、トリアセチルセルロース等のセルロース系樹脂、ポリウレタン等のウレタン樹脂などが挙げられる。
【0055】
また、熱硬化性樹脂の例としては、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂などが挙げられる。電離放射線硬化性樹脂の例としては、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリエステルアルキド樹脂などが挙げられる。これらの樹脂は、ポリマーだけでなく、オリゴマー、モノマーも使用することができる。二液混合硬化性樹脂の例としては、エポキシ樹脂が挙げられる。
【実施例
【0056】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。以下の表中において「-」で示す欄は、測定又は評価を未実施であることを示す。
【0057】
〔実施例1ないし3、並びに比較例1及び2〕
元素Mを含む原料としてBaS及びSrS、発光中心となる元素Aを含む原料としてEuS、Gaを含む原料としてGaを準備し、各元素が以下の表1に示すモル比率で含まれるように秤量して、φ3mmのジルコニアボールを用いてペイントシェーカーで100分間混合して、原料組成物を得た。
得られた原料組成物を、HS雰囲気、昇温速度5℃/minにて、焼成温度を以下の表1に示す温度とし、焼成時間6時間にて焼成し、生成物を得た。なお、実施例はいずれも原料組成物の一部が溶融した状態下で焼成し、生成物を得た。そして、この生成物を、らいかい機(日陶科学社製「ALM-360T」)で1分間解砕し、目開き140メッシュ及び440メッシュの篩を用いて、目開き140メッシュの篩下で且つ目開き440メッシュの篩上を回収し、目的とする蛍光体の粉末を得た。
なお、比較例2は、原料組成物の全てが溶融してしまい、目的とする蛍光体を取り出すことができなかったので、以後の評価は行わなかった。
【0058】
〔X線回折測定〕
各実施例及び比較例1の蛍光体について、上述の条件でX線回折測定を行った。その結果、各実施例は、SrGaに由来するPDF番号01-077-1189のパターンと一致するとともに、BaGaに由来するものと推定される2θ=27.6°以上28.3°以下の範囲、及び2θ=28.45°以上28.75°以下の範囲に回折ピークが観察されたが、SrGaに由来するものと推定される回折ピークは観察されなかった。
一方、比較例1は、SrGaに由来する回折ピークは観察されたが、BaGaに由来するものと推定される回折ピークは観察されなかった。また比較例1は、SrGaに由来するものと推定される回折ピークが観察された。
各実施例及び比較例1の蛍光体についてのX線回折チャートを図1図4にそれぞれ示す。
また、回折ピークのIa、Ib、Ic及びId、並びにIa/Ic、Ib/Ic及びIb/Idを以下の表1に示す。
【0059】
〔蛍光体の吸収率及び内部量子効率の測定〕
実施例及び比較例で得られた蛍光体粉末について、以下のとおり、吸収率と内部量子効率とを測定した。
詳細には、分光蛍光光度計FP-8500、積分球ユニットISF-834(日本分光株式会社製)を用い、固体量子効率計算プログラムに従い行った。分光蛍光光度計は、副標準光源およびローダミンBを用いて補正した。
励起光を450nmとした場合の蛍光体の吸収率、内部量子効率および外部量子効率の計算式を以下に示す。この計算式は、日本分光社製、FWSQ-6-17(32)固体量子効率計算プログラムの取扱説明書の記載に準拠したものである。
吸収率及び内部量子効率の結果を以下の表1に示す。
【0060】
(λ)を標準白板スペクトルとし、P(λ)を試料スペクトルとし、P(λ)を間接励起試料スペクトルとする。
スペクトルP(λ)が励起波長範囲461nm~481nmで囲われる面積L(以下の式(i)参照)を、励起強度とする。
スペクトルP(λ)が励起波長範囲461nm~481nmで囲われる面積L(以下の式(ii)参照)を、試料散乱強度とする。
スペクトルP(λ)が励起波長範囲482nm~648.5nmで囲われる面積E(以下の式(iii)参照)を、試料蛍光強度とする。
スペクトルP(λ)が励起波長範囲461nm~481nmで囲われる面積L(以下の式(iv)参照)を、間接散乱強度とする。
スペクトルP(λ)が励起波長範囲482nm~648.5nmで囲われる面積E(以下の式(v)参照)を、間接蛍光強度とする。
【0061】
【数1】
【0062】
吸収率は、以下の式(vi)に示されるように、励起光の試料による減少分の入射光の比となる。
外部量子効率εexは、以下の式(vii)に示されるように、試料から放出される蛍光の光子数Nemを、試料に照射された励起光の光子数Nexで除した値となる。
内部量子効率εinは、以下の式(viii)に示されるように、試料から放出される蛍光の光子数Nemを、試料に吸収される励起光の光子数Nabsで除した値となる。
【0063】
【数2】
【0064】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明によれば、これまでよりも内部量子効率が高い蛍光体が提供される。また本発明によれば、そのような蛍光体を安定的に製造できる。
図1
図2
図3
図4