(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】シリコン単結晶製造装置
(51)【国際特許分類】
C30B 29/06 20060101AFI20240326BHJP
C30B 15/00 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
C30B29/06 502E
C30B15/00 Z
(21)【出願番号】P 2023105906
(22)【出願日】2023-06-28
【審査請求日】2023-11-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】橋本 祥史
(72)【発明者】
【氏名】森 隆
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-068888(JP,A)
【文献】特開2000-327480(JP,A)
【文献】特開2012-148906(JP,A)
【文献】特開2009-167073(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00 - 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン多結晶原料を収容する石英ルツボと、該石英ルツボ内の前記シリコン多結晶原料を加熱溶融して原料融液とするヒーターとが内部に配置されるチャンバーと、
該チャンバー内に不活性ガスを導入するためのガス導入配管と、
前記チャンバー内に導入された前記不活性ガスを排気するためのガス排気配管とを備えており、
前記原料融液からチョクラルスキー法によってシリコン単結晶を製造するシリコン単結晶製造装置であって、
前記ガス排気配管は、各々が継ぎ手部を有する複数の配管と、冷却水の通水により液冷可能な配管クランプとを有しており、
前記複数の配管の継ぎ手部同士がシール材を間に挟んで対向しており、かつ、該対向した継ぎ手部同士が前記配管クランプにより挟まれていることで、前記複数の配管同士が接続されており、
前記配管クランプの液冷により、前記継ぎ手部同士の間の前記シール材の冷却が可能なものであることを特徴とするシリコン単結晶製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はチョクラルスキー法(CZ法)によりシリコン単結晶を製造する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路の基本材料であるシリコン単結晶の製造方法としてチョクラルスキー法がある。CZ法においてはチャンバー内に設けられた石英ルツボ内に高純度のシリコン多結晶原料を投入し、石英ルツボの外周に配置されたヒーターにより加熱してシリコン多結晶原料を溶融させる。この原料融液(シリコン溶融液)に種結晶を浸し、該種結晶を回転しながら引上げることで単結晶を成長させ、円柱状のシリコン単結晶が製造される。
【0003】
CZ法では、シリコン単結晶の製造装置(引上げ機)にガス排気配管を介して真空ポンプが接続されており、真空ポンプにより、引上げ機に導入された不活性ガス(例えばArガス)を吸引する構成が排気方法として知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような構成での製造装置においては、ガス排気配管は複数の配管が接続されて成っており、その継ぎ手部の間にシール材(例えばOリング)を介して接続されている。そしてシリコン単結晶を製造する場合、チャンバー内の不活性ガスはヒーターによって加熱されるため、不活性ガスは高温となる。高温となった不活性ガスを真空ポンプにて排気するが、ガス排気配管の継ぎ手部を介し、シール材に熱が伝わり劣化し、シリコン単結晶製造中に不活性ガスがリークする恐れがある。リークがある場合、シリコン単結晶製造装置のチャンバー内の真空が保たれず、品質に影響を及ぼす場合がある。
【0006】
リークが発生した場合、リーク発生箇所の特定とシール材の交換を行う必要があるが、配管継ぎ手部は多数あるため、点検には時間を要し、その間はシリコン単結晶を製造することができない。
【0007】
また、シリコン単結晶製造中にはシリコン酸化物が発生し、ガス排気配管内にシリコン酸化物が堆積する為、シリコン単結晶の製造後にはガス排気配管を取り外してシリコン酸化物を除去している。掃除のため、ガス排気配管(複数の配管)は軽量で取り回しやすく、且つ取り外しの容易な構造が望まれていた。
【0008】
図3は従来技術のガス排気配管110の冷却機構の一例を示した説明図である。
図3の左図はガス排気配管110の軸方向から見た構成説明図であり、右図は左図のB-B’の断面における構成説明図である。隣接する2つの配管112(112a、112b)の継ぎ手部115同士がシール材114を介して円環状に2分割された配管クランプ113(113a、113b)をボルトで締め付けることにより接続されている。従来技術では継ぎ手部115が高温にならないようにガス排気配管110の管本体(つまり、配管112の管本体)の外周に水冷配管120を巻き付けて溶接しており、水冷配管120に通水することでガス排気配管110が高温にならないようにしていた。
【0009】
前記従来技術の手法ではガス排気配管の管本体の外周部を冷却するため、継ぎ手部やシール材付近は冷却されにくいことからシール材を熱で劣化させる場合があった。また、ガス排気配管の掃除の際にはばらして配管を取り外す必要がある。しかし配管には上記のように水冷配管を溶接しているため重く、作業性が悪化する。
【0010】
本発明は上記課題を解決するためになされたもので、ガス排気配管が取り回し易く、配管同士の間のシール材の劣化を防止することができるCZシリコン単結晶製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明は、シリコン多結晶原料を収容する石英ルツボと、該石英ルツボ内の前記シリコン多結晶原料を加熱溶融して原料融液とするヒーターとが内部に配置されるチャンバーと、
該チャンバー内に不活性ガスを導入するためのガス導入配管と、
前記チャンバー内に導入された前記不活性ガスを排気するためのガス排気配管とを備えており、
前記原料融液からチョクラルスキー法によってシリコン単結晶を製造するシリコン単結晶製造装置であって、
前記ガス排気配管は、各々が継ぎ手部を有する複数の配管と、冷却水の通水により液冷可能な配管クランプとを有しており、
前記複数の配管の継ぎ手部同士がシール材を間に挟んで対向しており、かつ、該対向した継ぎ手部同士が前記配管クランプにより挟まれていることで、前記複数の配管同士が接続されており、
前記配管クランプの液冷により、前記継ぎ手部同士の間の前記シール材の冷却が可能なものであることを特徴とするシリコン単結晶製造装置を提供する。
【0012】
このような本発明のシリコン単結晶製造装置であれば、配管クランプの液冷により、ガス排気配管での継ぎ手部同士の間のシール材を効果的に冷却することができ、シール材の熱による劣化を防止することができる。このため、従来装置においてシール材の劣化により必要となっていた、リーク点検、シール材の交換の必要性を無くす、あるいは少なくともその頻度を低減することができる。その結果、整備コストを下げることができるし、リーク発生を起因とするシリコン単結晶の品質低下が生じるのを防いでシリコン単結晶の製造ロスを低減することができる。
【0013】
また、従来装置のようにシール材の劣化防止用として水冷配管を配管の管本体の外周に溶接しなくとも十分にシール材を冷却することができるため、ガス排気配管を構成する複数の配管自体の軽量化を図ることができて取り回し易い。したがって配管内の堆積物の除去の際でも簡便に作業をすることができる。しかも、この液冷型の配管クランプを用いた改造費用の方が、従来の水冷タイプ(配管外周への水冷配管の溶接)の改造費用よりも安くすることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明のシリコン単結晶製造装置であれば、ガス排気配管におけるシール材の熱による劣化を防止することができる。そのため、劣化したシール材を起因とするガスのリークの発生を防ぐことができ、リークに伴う各種の作業の必要性やそれに要するコストの発生、単結晶品質の低下を防ぐことができる。しかも、配管自体も軽量なものとなり、配管内の掃除において作業性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明のシリコン単結晶製造装置の一例を示す概略側面図である。
【
図2】ガス排気配管の構成の一例を示す説明図である。左図は軸方向から見た構成説明図である。右図は左図のA-A’の断面における構成説明図である。
【
図3】従来装置におけるガス排気配管の冷却機構の一例を示す説明図である。左図は軸方向から見た構成説明図である。右図は左図のB-B’の断面における構成説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1に本発明のチョクラルスキー法によるシリコン単結晶製造装置の一例を示す。このシリコン単結晶製造装置1は、チャンバー2を有している。チャンバー2内に配置された黒鉛ルツボ3内の石英ルツボ4の内部に原料融液5が満たされており、シリコン単結晶6はこの原料融液5から引き上げられる。原料融液5を加熱するためのヒーター7はチャンバー2内で黒鉛ルツボ3の外周に設置され、このヒーター7の外周にはヒーター7からの熱を断熱するために断熱部材8が設置されている。
【0017】
またチャンバー2の上部にはガス導入配管9が配設されており、下部にはガス排気配管10が配設されている。そしてそのガス排気配管10の先には真空ポンプ11が接続されている。ガス導入配管9からはチャンバー2内を満たすアルゴン等の不活性ガスが導入され、そのガスは下方へ流動し、ガス排気配管10を通して真空ポンプ11によって外部へ排気されるようになっている。
【0018】
シリコン単結晶6の製造の際には、まず、シリコン多結晶原料を石英ルツボ4内に収容し、ヒーター7による加熱で原料融液5にする。ワイヤで吊るした種結晶Sを原料融液5に浸漬した後にワイヤを引き上げてシリコン単結晶6を育成する。なお、チャンバー2内にはガス導入配管9から不活性ガスを導入するとともに、ガス排気配管10から排出している。
【0019】
ここで本発明のシリコン単結晶製造装置1におけるガス排気配管10の構成について説明する。
図2にガス排気配管10の構成の一例を示す。
図2の左図はガス排気配管10の軸方向から見た構成説明図であり、右図は左図のA-A’の断面における構成説明図である。
【0020】
ガス排気配管10は主に複数の配管12(12a、12b)、液冷可能な配管クランプ13、シール材14を有している。
配管12自体は端部に継ぎ手部(フランジなど)15を有していればよい。
図2では特に右図からわかるように管本体から継ぎ手部15にかけて段差が設けられているが、本発明の配管12の形状はこれに限定されず、この段差が存在していなくともよい。
またシール材14としては例えばOリングが挙げられるがこれに限定されない。
図2の左図に示すように、隣接する複数の配管12(12a、12b)において、それぞれの継ぎ手部15同士がシール材14を間に挟んだ状態で対向している。そして右図に示すように、その対向した継ぎ手部15同士が配管クランプ13のクランプ部18により挟まれていることで、隣接する複数の配管12同士が接続されている。
なお、左図において円形の実線および点線がほぼ同心円状に描かれているが、これらは配管12やクランプ部18の部位を表している。左図の最内周の円形の実線は右図に示す配管12の内周面12sを表しており、左図の最外周の円形の点線は右図に示すクランプ部18の内底面18sを表している。
【0021】
配管クランプ13は配管12(継ぎ手部15)から着脱可能なものとすることができる。着脱可能であることで、配管クランプ13自体も配管12自体も共に取り扱いやすくなるし、配管12の内部を掃除する際に簡便である。一例としては
図2の左図に示すように二分割構造のものとすることができ(13a、13b)、熱伝導率の良い材質(例えばアルミニウム)で製作されている。もちろん分割数は特に限定されず、配管12の太さ等により適宜決定することができる。
【0022】
また配管クランプ13には冷却水の通水による液冷機構を有しており、例えば冷却水を内部に流すための貫通穴16が設けられている。そして貫通穴16の入口は、外部から冷却水送液配管17を接続するためのテーパーネジ形状となっている。つまり、貫通穴16の入口がめねじになっており、そこに挿入する冷却水送液配管17がおねじになっている。
貫通穴16の大きさ(太さ)は特に限定されないが、例えば配管クランプ13の厚さの40~50%のサイズとすることができる。貫通穴16の太さがこの程度あれば、より効率の良い液冷が可能である。また、テーパーネジ(おねじ、めねじ)については互いにそのサイズに合ったものとすることができる。
図2の貫通穴16は上下に通水させる直線形状となっているが、この形状も特に限定されず、冷却の効率性等を考慮して種々の形状とすることができる。
なお、ここでは貫通穴16と冷却水送液配管17とを接続するタイプについて説明したが、これとは別に例えば冷却水送液配管17を配管クランプ13の内部に貫通させるタイプとすることもできる。
【0023】
ガス排気配管10を組み立てる際は、複数の配管12(12a、12b)の継ぎ手部15同士をそれらの間にシール材14としてOリング等を挟み込んだ状態で対向させ、その対向させた継ぎ手部15同士の外周に対し、
図2の左図に示すように二分割されている配管クランプ13a、13bを左右から寄せる。そして
図2の右図に示すように、配管クランプ13a、13bのクランプ部18内に、対向させた継ぎ手部15同士を挿入して嵌め合わせ、
図2の左図に示すように配管クランプ13a、13b同士をボルト19で締め付けることでシールする。
図2の左図では左右の2つの配管クランプ13a、13bとの隙間に継ぎ手部15が見えている。
そして配管クランプ13に冷却水送液配管17を接続し、
図2の場合では冷却水を上側から下側へと通水するが、逆方向であっても良い。なお冷却水の温度は例えば20℃程度とすることができるが、この限りではない。冷却水の温度は、ガス排気配管10内のガスの温度やチャンバー2からの距離等に応じて適宜決定することができる。この冷却水の通水によって配管クランプ13自体が液冷され、該配管クランプ13が挟んでいる継ぎ手部15同士の間のシール材14を効果的に冷却可能である。
【0024】
従来装置のガス排気配管における冷却機構では、複数の配管の継ぎ手部同士(シール材が介在)の両側に位置する管本体の外周に溶接した水冷配管を利用して水冷していた。しかしながら、本発明の製造装置での冷却機構は上述したように配管の継ぎ手部同士(シール材が介在)を挟み込む配管クランプを液冷タイプのものとし、該配管クランプを冷却水により液冷することで、把持している継ぎ手部同士、さらにはその間のシール材を冷却するものである。
【0025】
ガス排気配管がこのような冷却機構を備えていることで、従来よりも配管自体の軽量性や取り回し性が優れているとともに、従来よりも極めて効果的にシール材を冷却可能であり、ガス排気配管を通る高温ガスの熱によるシール材の劣化を防ぐことができる。このため、配管内の堆積物の掃除作業が楽になるだけでなく、シール材の劣化のせいでガスのリークが発生するのを防止可能である。したがってリークが発生した場合の点検等の種々の作業やシール材の交換などの整備コストを削減することができるし、製造するシリコン単結晶の品質がガスリーク起因で低下してしまうのを防ぐことができる。
【0026】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0027】
1…本発明のシリコン単結晶製造装置、 2…チャンバー、 3…黒鉛ルツボ、
4…石英ルツボ、 5…原料融液、 6…シリコン単結晶、 7…ヒーター、
8…断熱部材、 9…ガス導入配管、 10…ガス排気配管、
11…真空ポンプ、 12(12a、12b)…配管、 12s…配管の内周面、
13(13a、13b)…配管クランプ(液冷型)、 14…シール材、
15…継ぎ手部、 16…貫通穴、 17…冷却水送液配管、
18…クランプ部、 18s…クランプ部の内底面、 19…ボルト、
S…種結晶。
【要約】
【課題】ガス排気配管が取り回し易く、配管同士の間のシール材の劣化を防止することができるCZシリコン単結晶製造装置を提供する。
【解決手段】石英ルツボと、該石英ルツボ内のシリコン多結晶原料を加熱溶融して原料融液とするヒーターとが内部に配置されるチャンバーと、ガス導入配管と、ガス排気配管とを備えており、CZ法によってシリコン単結晶を製造する装置であって、ガス排気配管は、各々が継ぎ手部を有する複数の配管と、冷却水の通水により液冷可能な配管クランプとを有しており、複数の配管の継ぎ手部同士がシール材を間に挟んで対向しており、かつ、該対向した継ぎ手部同士が前記配管クランプにより挟まれていることで、複数の配管同士が接続されており、配管クランプの液冷により、継ぎ手部同士の間のシール材の冷却が可能なものであるシリコン単結晶製造装置。
【選択図】
図1