(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-25
(45)【発行日】2024-04-02
(54)【発明の名称】印刷装置および管理方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20240326BHJP
B65H 26/02 20060101ALI20240326BHJP
B41J 11/42 20060101ALI20240326BHJP
B41J 15/04 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
B41J2/01 301
B41J2/01 451
B65H26/02
B41J11/42
B41J15/04
(21)【出願番号】P 2020216817
(22)【出願日】2020-12-25
【審査請求日】2023-06-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【氏名又は名称】西田 隆美
(72)【発明者】
【氏名】臼本 宏昭
【審査官】小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-327909(JP,A)
【文献】特開2015-107572(JP,A)
【文献】特開平5-72859(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
B65H 26/02
B41J 11/42
B41J 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺帯状の基材を所定の搬送経路に沿って長手方向に搬送する搬送機構と、
前記搬送機構により搬送される基材の表面にインクを吐出する複数のヘッドと、
装置内の複数の計測箇所の状態を計測する複数のセンサと、
前記複数のヘッドよりも前記搬送経路の下流側において、基材の表面を撮影するカメラと、
前記複数のセンサおよび前記カメラと通信可能に接続された制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記カメラから得られる撮影画像に基づいて、前記複数のヘッドから基材の表面に吐出されたインクの相互の位置ずれ量を検出する検出部と、
前記複数のセンサから計測値を取得するとともに前記検出部から前記位置ずれ量を取得し、前記計測値が前記位置ずれ量に及ぼす影響の度合いを示すインパクト値を、前記計測箇所ごとに算出する算出部と、
複数の前記インパクト値に基づいて、前記複数の計測箇所のうち、前記位置ずれ量に対する影響度が高い計測箇所を特定する特定部と、
を有する、印刷装置。
【請求項2】
請求項1に記載の印刷装置であって、
前記算出部は、前記計測箇所ごとに、前記インパクト値を時系列データとして算出し、
前記特定部は、前記インパクト値の経時変化に基づいて、前記位置ずれ量に対する影響度が高い計測箇所を特定する、印刷装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の印刷装置であって、
前記算出部は、複数の前記計測値と、前記位置ずれ量とを観測変数として、統計的因果探索プログラムにより、前記観測変数間の因果関係を推測するとともに、前記観測変数間の因果関係の強度に基づいて、前記インパクト値を算出する、印刷装置。
【請求項4】
請求項3に記載の印刷装置であって、
前記統計的因果探索プログラムは、LiNGAMプログラムである、印刷装置。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載の印刷装置であって、
前記算出部は、複数の前記観測変数間の複数の因果関係のうち、前記強度が閾値以上の因果関係を選択し、選択された因果関係の強度に基づいて、前記インパクト値を算出する、印刷装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の印刷装置であって、
前記制御部は、
前記特定部により特定された計測箇所の情報を出力する出力部
をさらに有する、印刷装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の印刷装置であって、
前記制御部は、
前記特定部により特定された計測箇所を、前記位置ずれ量が小さくなるように調整する調整部
をさらに有する、印刷装置。
【請求項8】
長尺帯状の基材を所定の搬送経路に沿って長手方向に搬送しつつ、複数のヘッドから基材の表面にインクを吐出する印刷装置の管理方法であって、
a)前記印刷装置内の複数の計測箇所の状態を計測する工程と、
b)前記複数のヘッドから基材の表面に吐出されたインクの相互の位置ずれ量を検出する工程と、
c)前記工程a)において取得される計測値が、前記工程b)において検出される位置ずれ量に及ぼす影響の度合いを示すインパクト値を、前記計測箇所ごとに算出する工程と、
d)複数の前記インパクト値に基づいて、前記複数の計測箇所のうち、前記位置ずれ量に対する影響度が高い計測箇所を特定する工程と、
を有する管理方法。
【請求項9】
請求項8に記載の管理方法であって、
前記工程c)では、前記計測箇所ごとに、前記インパクト値を時系列データとして算出し、
前記工程d)では、前記インパクト値の経時変化に基づいて、前記位置ずれ量に対する影響度が高い計測箇所を特定する、管理方法。
【請求項10】
請求項8または請求項9に記載の管理方法であって、
前記工程c)では、複数の前記計測値と、前記位置ずれ量とを観測変数として、統計的因果探索プログラムにより、前記観測変数間の因果関係を推測するとともに、前記観測変数間の因果関係の強度に基づいて、前記インパクト値を算出する、管理方法。
【請求項11】
請求項10に記載の管理方法であって、
前記統計的因果探索プログラムは、LiNGAMプログラムである、管理方法。
【請求項12】
請求項10または請求項11に記載の管理方法であって、
前記工程c)は、
c1)複数の前記観測変数間の複数の因果関係のうち、前記強度が閾値以上の因果関係を選択する工程と、
c2)前記工程c1)において選択された因果関係の強度に基づいて、前記インパクト値を算出する工程と、
を有する、管理方法。
【請求項13】
請求項8から請求項12までのいずれか1項に記載の管理方法であって、
e)前記工程d)により特定された計測箇所の情報を出力する工程
をさらに有する、管理方法。
【請求項14】
請求項8から請求項13までのいずれか1項に記載の管理方法であって、
f)前記工程d)により特定された計測箇所を、前記位置ずれ量が小さくなるように調整する工程
をさらに有する、管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長尺帯状の基材を所定の搬送経路に沿って長手方向に搬送しつつ、複数のヘッドから基材の表面にインクを吐出する印刷技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、長尺帯状の基材を長手方向に搬送しつつ、複数のヘッドからインクを吐出することにより、基材に画像を印刷するインクジェット方式の印刷装置が知られている。インクジェット方式の印刷装置は、複数のヘッドから、それぞれ異なる色のインクを吐出する。そして、各色のインクにより形成される単色画像の重ね合わせによって、基材の表面に多色画像を印刷する。従来の印刷装置については、例えば特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の印刷装置では、上述した複数の単色画像の間に、僅かな位置ずれ(いわゆる「見当ずれ」)が発生する場合がある。見当ずれは、基材を搬送するローラの回転誤差、モータのトルク、基材の伸縮、基材の上下変位などの、様々な要因により発生する。このため、見当ずれの原因となる箇所を特定することは、極めて困難であった。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、印刷装置内の複数の計測箇所のうち、インクの位置ずれに対する影響度が高い計測箇所を特定できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本願の第1発明は、長尺帯状の基材を所定の搬送経路に沿って長手方向に搬送する搬送機構と、前記搬送機構により搬送される基材の表面にインクを吐出する複数のヘッドと、装置内の複数の計測箇所の状態を計測する複数のセンサと、前記複数のヘッドよりも前記搬送経路の下流側において、基材の表面を撮影するカメラと、前記複数のセンサおよび前記カメラと通信可能に接続された制御部と、を備え、前記制御部は、前記カメラから得られる撮影画像に基づいて、前記複数のヘッドから基材の表面に吐出されたインクの相互の位置ずれ量を検出する検出部と、前記複数のセンサから計測値を取得するとともに前記検出部から前記位置ずれ量を取得し、前記計測値が前記位置ずれ量に及ぼす影響の度合いを示すインパクト値を、前記計測箇所ごとに算出する算出部と、複数の前記インパクト値に基づいて、前記複数の計測箇所のうち、前記位置ずれ量に対する影響度が高い計測箇所を特定する特定部と、を有する。
【0007】
本願の第2発明は、第1発明の印刷装置であって、前記算出部は、前記計測箇所ごとに、前記インパクト値を時系列データとして算出し、前記特定部は、前記インパクト値の経時変化に基づいて、前記位置ずれ量に対する影響度が高い計測箇所を特定する。
【0008】
本願の第3発明は、第1発明または第2発明の印刷装置であって、前記算出部は、複数の前記計測値と、前記位置ずれ量とを観測変数として、統計的因果探索プログラムにより、前記観測変数間の因果関係を推測するとともに、前記観測変数間の因果関係の強度に基づいて、前記インパクト値を算出する。
【0009】
本願の第4発明は、第3発明の印刷装置であって、前記統計的因果探索プログラムは、LiNGAMプログラムである。
【0010】
本願の第5発明は、第3発明または第4発明の印刷装置であって、前記算出部は、複数の前記観測変数間の複数の因果関係のうち、前記強度が閾値以上の因果関係を選択し、選択された因果関係の強度に基づいて、前記インパクト値を算出する。
【0011】
本願の第6発明は、第1発明から第5発明までのいずれか1発明の印刷装置であって、前記制御部は、前記特定部により特定された計測箇所の情報を出力する出力部をさらに有する。
【0012】
本願の第7発明は、第1発明から第6発明までのいずれか1発明の印刷装置であって、前記制御部は、前記特定部により特定された計測箇所を、前記位置ずれ量が小さくなるように調整する調整部をさらに有する。
【0013】
本願の第8発明は、長尺帯状の基材を所定の搬送経路に沿って長手方向に搬送しつつ、複数のヘッドから基材の表面にインクを吐出する印刷装置の管理方法であって、a)前記印刷装置内の複数の計測箇所の状態を計測する工程と、b)前記複数のヘッドから基材の表面に吐出されたインクの相互の位置ずれ量を検出する工程と、c)前記工程a)において取得される計測値が、前記工程b)において検出される位置ずれ量に及ぼす影響の度合いを示すインパクト値を、前記計測箇所ごとに算出する工程と、d)複数の前記インパクト値に基づいて、前記複数の計測箇所のうち、前記位置ずれ量に対する影響度が高い計測箇所を特定する工程と、を有する。
【0014】
本願の第9発明は、第8発明の管理方法であって、前記工程c)では、前記計測箇所ごとに、前記インパクト値を時系列データとして算出し、前記工程d)では、前記インパクト値の経時変化に基づいて、前記位置ずれ量に対する影響度が高い計測箇所を特定する。
【0015】
本願の第10発明は、第8発明または第9発明の管理方法であって、前記工程c)では、複数の前記計測値と、前記位置ずれ量とを観測変数として、統計的因果探索プログラムにより、前記観測変数間の因果関係を推測するとともに、前記観測変数間の因果関係の強度に基づいて、前記インパクト値を算出する。
【0016】
本願の第11発明は、第10発明の管理方法であって、前記統計的因果探索プログラムは、LiNGAMプログラムである。
【0017】
本願の第12発明は、第10発明または第11発明の管理方法であって、前記工程c)は、c1)複数の前記観測変数間の複数の因果関係のうち、前記強度が閾値以上の因果関係を選択する工程と、c2)前記工程c1)において選択された因果関係の強度に基づいて、前記インパクト値を算出する工程と、を有する。
【0018】
本願の第13発明は、第8発明から第12発明までのいずれか1発明の管理方法であって、e)前記工程d)により特定された計測箇所の情報を出力する工程をさらに有する。
【0019】
本願の第14発明は、第8発明から第13発明までのいずれか1発明の管理方法であって、f)前記工程d)により特定された計測箇所を、前記位置ずれ量が小さくなるように調整する工程をさらに有する。
【発明の効果】
【0020】
本願の第1発明~第14発明によれば、センサの計測箇所ごとに、計測値がインクの位置ずれ量に及ぼす影響の度合いを示すインパクト値を算出する。これにより、印刷装置内の複数の計測箇所のうち、インクの位置ずれに対する影響度が高い計測箇所を特定できる。
【0021】
特に、本願の第5発明および第12発明によれば、閾値以上の強度のみを選択することで、ノイズが除去され、かつ、演算負担を軽減しつつ、インパクト値を算出できる。
【0022】
特に、本願の第6発明および第13発明によれば、印刷装置のユーザが、出力された情報を確認することによって、インクの位置ずれに影響を及ぼしている計測箇所を把握できる。
【0023】
特に、本願の第7発明および第14発明によれば、各計測箇所が、インクの位置ずれに及ぼす影響を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図2】印刷部の付近における印刷装置の部分上面図である。
【
図3】制御部と印刷装置の各部との接続を示したブロック図である。
【
図4】制御部の機能を概念的に示したブロック図である。
【
図5】統計的因果探索プログラムにより推測される観測変数間の因果関係を示すチャートの例である。
【
図6】閾値以上の矢印のみを選択したチャートの例である。
【
図7】インパクト値の経時変化の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0026】
<1.印刷装置の構成>
図1は、本発明の一実施形態に係る印刷装置1の構成を示した図である。この印刷装置1は、長尺帯状の基材9を搬送しつつ、複数のヘッド21~24から基材9へ向けてインクの液滴を吐出することにより、基材9の表面に画像を印刷する装置である。基材9は、印刷用紙であってもよく、あるいは、樹脂製のフィルムであってもよい。また、基材9は、金属箔や、ガラス製の基材であってもよい。
図1に示すように、印刷装置1は、搬送機構10、印刷部20、複数のセンサ30、カメラ40、および制御部50を備えている。
【0027】
搬送機構10は、基材9をその長手方向に沿う搬送方向に搬送する機構である。本実施形態の搬送機構10は、巻き出し部11、複数の搬送ローラ12、および巻き取り部13を有する。基材9は、巻き出し部11から繰り出され、複数の搬送ローラ12により構成される搬送経路に沿って搬送される。各搬送ローラ12は、搬送方向に対して垂直な方向に延びる軸を中心として回転することにより、基材9を搬送経路の下流側へ案内する。基材9は、張力が掛かった状態で、複数の搬送ローラ12に掛け渡される。これにより、搬送中における基材9の弛みや皺が抑制される。搬送後の基材9は、巻き取り部13へ回収される。
【0028】
印刷部20は、搬送機構10により搬送される基材9に対して、インクの液滴(以下「インク滴」と称する)を吐出する処理部である。本実施形態の印刷部20は、第1ヘッド21、第2ヘッド22、第3ヘッド23、および第4ヘッド24を有する。第1ヘッド21、第2ヘッド22、第3ヘッド23、および第4ヘッド24は、基材9の搬送方向に沿って、間隔をあけて配列されている。基材9は、4つのヘッド21~24の下方を、印刷面を上方に向けた状態で搬送される。
【0029】
図2は、印刷部20の付近における印刷装置1の部分上面図である。
図2中に破線で示したように、各ヘッド21~24の下面には、基材9の幅方向と平行に配列された複数のノズル201が設けられている。各ヘッド21~24は、複数のノズル201から基材9の上面へ向けて、多色画像の色成分となるC(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)、K(ブラック)の各色のインク滴を、それぞれ吐出する。
【0030】
すなわち、第1ヘッド21は、搬送経路上の第1印刷位置P1において、基材9の上面に、C色のインク滴を吐出する。第2ヘッド22は、第1印刷位置P1よりも下流側の第2印刷位置P2において、基材9の上面に、M色のインク滴を吐出する。第3ヘッド23は、第2印刷位置P2よりも下流側の第3印刷位置P3において、基材9の上面に、Y色のインク滴を吐出する。第4ヘッド24は、第3印刷位置P3よりも下流側の第4印刷位置P4において、基材9の上面に、K色のインク滴を吐出する。
【0031】
なお、ヘッド21~24の搬送方向下流側に、基材9の印刷面に吐出されたインクを乾燥させる乾燥処理部が、さらに設けられていてもよい。乾燥処理部は、例えば、基材9へ向けて加熱された気体を吹き付けて、基材9に付着したインク中の溶媒を気化させることにより、インクを乾燥させる。ただし、乾燥処理部は、光照射等の他の方法で、インクを硬化または乾燥させるものであってもよい。
【0032】
複数のセンサ30は、装置の状態を計測する計測器である。複数のセンサ30は、印刷装置1内の複数の計測箇所において、それぞれ計測値を取得する。センサ30の計測項目には、例えば、搬送機構10を動作させるモータの回転速度、当該モータのトルク、一部の搬送ローラ12の回転速度、基材9の張力、基材9の上下変位(基材9に対して垂直な方向の変位量)、基材9のエッジの幅方向の位置、などを含めることができる。なお、同一の項目を計測するセンサ30が、搬送経路の複数の位置に配置されていてもよい。複数のセンサ30は、各計測箇所の状態を計測し、得られた計測値を示す信号を、制御部50へ出力する。
【0033】
カメラ40は、印刷部20を通過した基材9の上面を撮影する撮像装置である。カメラ40は、印刷部20よりも搬送経路の下流側の撮影位置P5において、基材9の印刷面に対向して配置される。カメラ40には、例えば、CCDやCMOS等の撮像素子が、幅方向に複数配列されたラインセンサが使用される。カメラ40は、基材9の印刷面を撮影することにより、印刷済みの基材9の画像データを取得する。そして、カメラ40は、得られた画像データを、制御部50へ送信する。
【0034】
制御部50は、印刷装置1の各部の動作制御するための情報処理装置である。
図3は、制御部50と、印刷装置1の各部との接続を示したブロック図である。
図3中に概念的に示したように、制御部50は、CPU等のプロセッサ501、RAM等のメモリ502、およびハードディスクドライブ等の記憶部503を有するコンピュータにより構成される。記憶部503内には、印刷処理を実行するためのコンピュータプログラム80が、記憶されている。
【0035】
また、
図3に示すように、制御部50は、上述した搬送機構10、4つのヘッド21~24、複数のセンサ30、およびカメラ40と、それぞれ通信可能に接続されている。制御部50は、コンピュータプログラム80および各種データに従って、これらの各部を動作制御する。これにより、基材9に対する印刷処理が進行する。
【0036】
<2.装置状態の管理機能について>
この印刷装置1では、4つのヘッド21~24が、インク滴を吐出することによって、基材9の上面に、それぞれ単色画像を印刷する。そして、4つの単色画像の重ね合わせにより、基材9の上面に、多色画像が形成される。したがって、仮に、4つのヘッド21~24から吐出されるインク滴の基材9上における位置が相互にずれていると、印刷物の画像品質が低下する。
【0037】
制御部50は、このような基材9上におけるインク滴の位置ずれが発生する原因を把握し、印刷装置1の状態を管理するための機能を有する。
図4は、制御部50の当該機能を、概念的に示したブロック図である。
図4に示すように、制御部50は、検出部51、算出部52、特定部53、出力部54、および調整部55を有する。検出部51、算出部52、特定部53、出力部54、および調整部55の各機能は、制御部50のプロセッサ501が、コンピュータプログラム80に従って動作することにより実現される。
【0038】
印刷装置1の稼働時には、上述した複数のセンサ30が、装置内の各計測箇所の状態を、常に計測する。また、印刷装置1の稼働時には、上述したカメラ40が、印刷後の基材9の上面を、常に撮影する。制御部50は、複数のセンサ30から計測値S1,S2,S3,…を取得するとともに、カメラ40から撮影画像Iを取得する。そして、これらの計測値S1,S2,S3,…および撮影画像Iに基づいて、検出部51、算出部52、特定部53、出力部54、および調整部55を動作させる。
【0039】
検出部51は、カメラ40から得られる撮影画像Iに基づいて、4つのヘッド21~24から基材9の上面に吐出されたインク滴の相互の位置ずれ量(以下「見当ずれ量R」と称する)を検出する。検出部51は、カメラ40から送信された撮影画像Iを、C、M、Y、Kの4つの単色画像に色分解する。そして、検出部51は、4つの単色画像の相互の位置ずれ量を、上述した見当ずれ量Rとして検出する。例えば、検出部51は、C色のインク滴の位置に対する、M色、Y色、およびK色の各インク滴の相対的な位置を、見当ずれ量Rとする。
【0040】
算出部52は、複数のセンサ30から計測値S1,S2,S3,…を取得するとともに、検出部51から見当ずれ量Rを取得する。算出部52は、複数種類の計測値S1,S2,S3,…と、見当ずれ量Rとを、それぞれ、経時的に変化する時系列データとして取得する。
【0041】
図4に示すように、算出部52は、統計的因果探索プログラム81を有する。統計的因果探索プログラム81は、上述したコンピュータプログラム80の一部として、記憶部503に記憶される。統計的因果探索プログラム81は、複数の観測変数の間の因果関係を推測するためのプログラムである。算出部52は、統計的因果探索プログラム81として、例えば、LiNGAM(Linear Non-Gaussian Acyclic Model)プログラムを用いる。LiNGAMプログラムは、複数の観測変数および各観測変数に影響を与える未観測係数(誤差変数)の関係が線型であり、かつ、未観測変数同士が互いに独立で非ガウス連続分布に従うと仮定したモデルに基づいて、観測変数間の因果関係を推測するプログラムである。
【0042】
算出部52は、上述した複数の計測値S1,S2,S3,…および見当ずれ量Rを観測変数として、統計的因果探索プログラム81を実行する。これにより、観測変数間の因果関係を推測する。
図5は、統計的因果探索プログラム81により推測される観測変数間の因果関係を示すチャートの例である。
図5の例では、第1モータの回転速度S1、第1モータのトルクS2、基材9の張力S3、基材9の上下変位S4、第2モータの回転速度S5、および第2モータのトルクS6の6つの計測値と、見当ずれ量Rとの、合計7つの観測変数についての因果関係が示されている。
【0043】
図5中の矢印は、2つの観測変数間の因果関係を示す。矢印の基端側は、影響を及ぼす観測変数(要因)である。矢印の先端側は、影響が及ぼされる観測変数(結果)である。また、
図5に示すように、統計的因果探索プログラム81を動作させると、これらの矢印ごとに、観測変数間の因果関係の強度が、数値として出力される。
【0044】
制御部50の記憶部503には、予め因果関係の強度に対する閾値が、記憶されている。算出部52は、統計的因果探索プログラム81により得られる各観測変数間の矢印のうち、強度が閾値未満となる矢印を無視し、強度が閾値以上となる矢印のみを選択する。例えば、
図5のチャートにおいて、閾値を0.06とすると、
図6のように、強度が0.06以上の矢印のみに着目したチャートが得られる。
【0045】
なお、各観測変数S1~S6,Rの値は、経時変化するため、各矢印の強度の値も経時変化する。このため、
図6において選択される矢印の組み合わせが、時間の経過とともに変化してもよい。
【0046】
続いて、算出部52は、選択された矢印の因果関係の強度に基づいて、各計測値S1,S2,S3,…が見当ずれ量Rに及ぼす影響の度合いを示すインパクト値V1,V2,V3,…を算出する。このインパクト値V1,V2,V3,…の算出処理は、上記のように、因果関係の強度が閾値以上の矢印のみについて実行される。閾値未満の強度を無視することで、ノイズが除去され、かつ、演算負担を軽減しつつ、インパクト値V1,V2,V3、…を算出できる。
【0047】
図6の例では、複数の計測値S1~S6のうち、基材9の上下変位S4および第2モータの回転速度S5は、見当ずれ量Rと、直接矢印で接続されている。すなわち、これらの計測値S4,S5は、見当ずれ量Rに対して、直接的に影響を及ぼす。この場合、算出部52は、見当ずれ量Rに対するこれらの計測値S4,S5の因果関係の強度を、そのままインパクト値V4,V5とする。すなわち、上下変位S4から見当ずれ量Rへ向かう矢印の強度を、上下変位S4のインパクト値V4とする。また、第2モータの回転速度S5から見当ずれ量Rへ向かう矢印の強度を、第2モータの回転速度S5のインパクト値V5とする。
【0048】
また、
図6の例では、複数の計測値S1~S6のうち、第1モータの回転速度S1、第1モータのトルクS2、および基材9の張力S3は、基材9の上下変位S4を介して間接的に、見当ずれ量Rと接続されている。すなわち、これらの計測値S1~S3は、見当ずれ量Rに対して、間接的に影響を及ぼす。この場合、算出部52は、これらの計測値S1~S3と見当ずれ量Rとの間に存在する複数の矢印の強度に基づいて、インパクト値V1~V3を算出する。
【0049】
例えば、第1モータの回転速度S1から上下変位S4へ向かう矢印の強度と、上下変位S4から見当ずれ量Rへ向かう矢印の強度と、の積算値を、第1モータの回転速度S1のインパクト値V1とする。また、第1モータのトルクS2から上下変位S4へ向かう矢印の強度と、上下変位S4から見当ずれ量Rへ向かう矢印の強度と、の積算値を、第1モータのトルクS2のインパクト値V2とする。また、張力S3から上下変位S4へ向かう矢印の強度と、上下変位S4から見当ずれ量Rへ向かう矢印の強度と、の積算値を、張力S3のインパクト値V3とする。
【0050】
また、
図6の例では、第2モータのトルクS6は、基材9の上下変位S4を介するルートと、第2モータの回転速度S5を介するルートの、2つのルートで、見当ずれ量Rと間接的に接続されている。この場合、算出部52は、2つのルートにおける複数の矢印の強度に基づいて、インパクト値V6を算出する。例えば、算出部52は、一方のルートにおける矢印の強度の積算値と、他方のルートにおける矢印の強度の積算値とを、合算した値を、第2モータのトルクS6のインパクト値V2とする。
【0051】
ただし、算出部52は、統計的因果探索プログラム81により出力された矢印の強度に基づいて、上記とは異なる計算方法で、各インパクト値V1,V2,V3,…を算出してもよい。
【0052】
このように、算出部52は、各計測値S1,S2,S3,…について、インパクト値V1,V2,V3,…を算出する。すなわち、算出部52は、センサ30の計測箇所ごとに、インパクト値V1,V2,V3,…を算出する。インパクト値V1,V2,V3,…は、時間の経過とともに変化する時系列データとして算出される。
図7は、インパクト値V1,V2,V3,…の経時変化の一例を示すグラフである。
【0053】
特定部53は、算出部52により算出されるインパクト値V1,V2,V3,…の経時変化に基づいて、複数の計測箇所のうち、見当ずれ量Rに対する影響度が高い計測箇所を特定する。
図7の例では、第1モータの回転速度S1のインパクト値V1が、周期的に高くなっている。このため、モータの回転速度S1は、見当ずれ量Rに周期的に影響を与えていることを把握できる。また、第2モータのトルクS6のインパクト値V6は、あるタイミングで瞬間的に非常に高くなっている。このため、第2モータのトルクS6は、見当ずれ量Rに一時的に強い影響を与えたことを把握できる。
【0054】
特定部53は、各インパクト値V1,V2,V3,…を、予め設定された閾値と比較することにより、見当ずれ量Rに対する影響度が高い計測箇所を特定する。ただし、特定部53は、各インパクト値V1,V2,V3,…を所定の数式に代入して算出される値を、閾値と比較することにより、見当ずれ量Rに対する影響度が高い計測箇所を特定してもよい。例えば、特定部53は、各インパクト値V1,V2,V3,…の変化率に基づいて、見当ずれ量Rに対する影響度が高い計測箇所を特定してもよい。
【0055】
出力部54は、特定部53により特定された計測箇所の情報を、出力する。出力部54は、例えば、
図7のような、インパクト値V1,V2,V3,…の経時変化のグラフを、そのまま出力してもよい。また、出力部54は、一部の計測値のインパクト値が、予め設定された閾値を超えた場合に、その計測値に対応する計測箇所の情報を出力してもよい。出力部54は、制御部50に接続されたディスプレイ56に、当該情報を表示出力する。ただし、出力の形態は、音声出力、他のコンピュータへのデータ送信、ランプの点灯、印刷、などであってもよい。印刷装置1のユーザは、出力された情報を確認することによって、見当ずれ量Rに影響を及ぼしている計測箇所を把握することができる。
【0056】
調整部55は、特定部53により特定された計測箇所を、調整する。例えば、第1モータの回転速度S1のインパクト値V1が高い状態が続いた場合、調整部55は、第1モータを調整する。このとき、調整部55は、見当ずれ量Rが小さくなるように、第1モータを調整する。また、特定部53により特定された計測箇所が複数ある場合には、調整部55は、それらの計測箇所をそれぞれ調整する。これにより、各計測箇所が見当ずれ量Rに及ぼす影響を低減できる。したがって、4つのヘッド21~24から基材9の上面に吐出されたインク滴の相互の位置ずれを抑制できる。
【0057】
<3.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではない。
【0058】
上記の実施形態では、特定部53により特定された計測箇所を、調整部55が自動的に調整していた。しかしながら、制御部50が調整部55を有することは、必須ではない。出力部54から出力された情報を確認したユーザが、特定部53により特定された計測箇所を、手動で調整してもよい。
【0059】
また、上記の実施形態では、算出部52が、2変数間の因果関係の強度が閾値以上のもののみを選択して、インパクト値V1,V2,V3,…を算出していた。しかしながら、算出部52は、全ての2変数間の因果関係の強度に基づいて、インパクト値V1,V2,V3,…を算出してもよい。
【0060】
また、上記の実施形態では、統計的因果探索プログラム81の例として、LiNGAMプログラムを挙げた。しかしながら、算出部52において使用される統計的因果探索プログラム81は、LiNGAMプログラム以外のプログラムであってもよい。統計的因果探索の手法は、LiNGAMのようなセミパラメトリックアプローチのものに限らず、パラメトリックアプローチまたはノンパラメトリックアプローチのものであってもよい。
【0061】
また、上記の実施形態では、
図2のように、各ヘッド21~24において、ノズル201が幅方向に一列に配置されていた。しかしながら、各ヘッド21~24において、ノズル201が2列以上に配置されていてもよい。
【0062】
また、上記の実施形態の印刷装置1は、4つのヘッド21~24を備えていた。しかしながら、印刷装置1が備えるヘッドの数は、2つ、3つ、あるいは5つ以上であってもよい。例えば、印刷装置1は、C,M,Y,Kの各色に加えて、特色のインクを吐出するヘッドを備えていてもよい。
【0063】
また、上記の実施形態や変形例に登場した各要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0064】
1 印刷装置
9 基材
10 搬送機構
20 印刷部
21 第1ヘッド
22 第2ヘッド
23 第3ヘッド
24 第4ヘッド
30 センサ
40 カメラ
50 制御部
51 検出部
52 算出部
53 特定部
54 出力部
55 調整部
56 ディスプレイ
80 コンピュータプログラム
81 統計的因果探索プログラム
I 撮影画像
R 見当ずれ量
S1~S6 計測値
V1~V6 インパクト値