(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-28
(45)【発行日】2024-04-05
(54)【発明の名称】回転摩擦溶接用回転押圧装置
(51)【国際特許分類】
B23K 20/12 20060101AFI20240329BHJP
【FI】
B23K20/12 D
B23K20/12 A
B23K20/12 G
(21)【出願番号】P 2020184151
(22)【出願日】2020-11-04
【審査請求日】2022-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】518283506
【氏名又は名称】エードス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】上谷 宏二
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-129080(JP,A)
【文献】特開2018-100770(JP,A)
【文献】特開2019-209340(JP,A)
【文献】特開2012-101283(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転対称体の形状を有するプラグの材軸基端部に取り付ける回転押圧装置であって、前記プラグの材軸周りに回転を与えつつ、前記プラグの材軸先端部を対象体との接触部に接触させて前記プラグの材軸方向に押し付け力を加え、前記回転および前記押し付け力をそれぞれ独立に時系列的に制御
し、
前記回転押圧装置は、前記プラグの前記材軸基端部を前記回転押圧装置に取り付ける取り付け機構、前記取り付け機構を介して前記プラグに前記回転を付与する回転機構、前記取り付け機構を介して前記プラグに前記押し付け力を付与する押圧機構および前記押し付け力による反力を保持する反力保持機構により構成され
、
前記回転機構は、回転作用部、回転伝達部、回転発生部および回転制御部により構成され、前記回転発生部にて発生された前記回転は、前記回転伝達部を介して前記回転作用部に伝達され
、
前記押圧機構は、押圧作用部、押圧伝達部、押圧発生部および押圧制御部により構成され、前記押圧発生部にて発生された押圧が、前記押圧伝達部を介して前記押圧作用部に伝達され、前記押し付け力として前記プラグに付与され
、
前記回転発生部と前記押圧発生部は、前記取り付け機構から離隔されてそれぞれ任意位置に配置され、
前記押圧伝達部は、可撓性を有し、前記回転伝達部は、可撓性を有するフレキシブルシャフトにより構成される
ことを特徴とする回転押圧装置。
【請求項2】
回転対称体の形状を有するプラグの材軸基端部に取り付ける回転押圧装置であって、前記プラグの材軸周りに回転を与えつつ、前記プラグの材軸先端部を対象体との接触部に接触させて前記プラグの材軸方向に押し付け力を加え、前記回転および前記押し付け力をそれぞれ独立に時系列的に制御
し、
前記回転押圧装置は、前記プラグの前記材軸基端部を前記回転押圧装置に取り付ける取り付け機構、前記取り付け機構を介して前記プラグに前記回転を付与する回転機構、前記取り付け機構を介して前記プラグに前記押し付け力を付与する押圧機構および前記押し付け力による反力を保持する反力保持機構により構成され
、
前記回転機構は、回転作用部、回転伝達部、回転発生部および回転制御部により構成され、前記回転発生部にて発生された前記回転は、前記回転伝達部を介して前記回転作用部に伝達され
、
前記押圧機構は、押圧作用部、押圧伝達部、押圧発生部および押圧制御部により構成され、前記押圧発生部にて発生された押圧が、前記押圧伝達部を介して前記押圧作用部に伝達され、前記押し付け力として前記プラグに付与され
、
前記押圧発生部は、発生部側液圧シリンダと前記発生部側液圧シリンダに直結された気圧シリンダとからなる気圧/液圧複合シリンダにより構成され
、
前記プラグと前記対象体との前記接触部近傍の材料組織の溶融による前記プラグの増分変位に伴って生じる前記押し付け力の急激な変動を、前記気圧シリンダにより抑制する
ことを特徴とする回転押圧装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の回転押圧装置は、回転対称体の形状を有するプラグを、対象体に対してプラグの材軸周りに回転を与えつつ、対象体との接触部に接触させてプラグの材軸方向に押し付け力を加えて、プラグを対象体に一体化するための装置であって、特に鋼構造の柱や梁など鋼構造骨組を構成する鋼材の接合に用いられる回転摩擦溶接のための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術として、回転を与えつつ押し付け力を加える装置は、多種存在する。例えば、
図13に示す摩擦圧接装置300がある。モーター330の回転ωを、ベルト332等を介して伝達し、一方の軸受315に設置された鋼材310を回転ωさせつつ、他方の軸受325に設置された鋼材320に油圧シリンダ340によって押し付け力Fを加えることによって、鋼材310と鋼材320との接触部370に生ずる摩擦により接触部370近傍の材料組織を溶融または軟化させた後、回転ωを停止させ、押し付け力Fを一定時間保持(アプセット圧力)することにより一体化させる。
【0003】
特許文献1には、ステンレス鋼の丸棒と黄銅の丸棒との先端を接するように接触部を加工して、接触部同士を押圧しつつ相互に相対回転させて生じる摩擦により接触部近傍の材料組織を溶融または軟化させて一体化させる摩擦圧接法および接合構造と共に回転を与えつつ押し付け力を加える装置が提示されている。
特許文献2には、2本の鉄筋の間に鉄筋と同断面形状短尺の接合補助材を挟むように接触させて配置し、接合補助材とそれぞれ鉄筋の先端に接触部を形成し、両側の鉄筋を接合補助材に押圧しつつ接合補助材を回転させることにより生じる摩擦により接触部近傍の材料組織を溶融または軟化させて一体化させる摩擦圧接法および接合構造と共に回転を与えつつ押し付け力を加える装置が提示されている。
【0004】
出願人らは、特許文献3にて「回転摩擦溶接」、特許文献4にて「回転摩擦圧接」を提示している。
ただし、特許文献3では回転摩擦溶接を実施するにあたって、回転軸方向の押し付け力を加える方法、回転軸回りの回転を加える方法は任意であるとして、回転を与えつつ、押し付け力を加える具体的な装置(以下、回転押圧装置という)は提示していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-301364号公報
【文献】特開2011-152563号公報
【文献】国際公開第2019/044862号
【文献】特開2018-111128号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図13に示す従来の摩擦圧接装置300は、油圧シリンダ340とモーター330が装置の内部の近接した位置に配置されている比較的大型の据え置き型の装置であり、建設現場等への搬入・運用は困難である。
【0007】
特許文献1では、異種金属丸棒材料の摩擦圧接に際し、従来のフライス盤を用いて、フライス盤テーブルに固定された材料に、上部から主軸にミーリングチャックを介して固定されたもう一方の材料を回転しつつ押し付ける方法が開示されている。回転はモーターによって与えられ、押し付け力は主軸に人力によって与えられる。本方法では、摩擦圧接の行われる個所とモーターが近接しており、装置が大がかりとなるという課題がある。
【0008】
従来の摩擦圧接法は、鉄筋のように比較的小規模な鋼材の接合に実用化されている。ただし、特許文献2の長尺の鉄筋の場合は、回転するのに大規模な設備が必要である。さらにこれらの方法を建築鋼構造の柱や梁のように大規模な鋼材の接合に適用しようとすると、押圧および摩擦を加えるために要する加圧機構や動力機構の性能が巨大化する。従って、建築鋼構造の工事現場での現場接合に適用することは困難である。一方現状では、建築鋼構造の柱や梁などの鋼構造骨組を構成する鋼材の接合は、溶接または高力ボルト摩擦接合のいずれかによる場合がほとんどである。ところが、高力ボルト摩擦接合の場合にはボルト孔による被接合鋼材の断面欠損やボルト孔の片側だけからの締め付けが困難といった欠点があり、また、溶接の場合には施工現場の環境や技術者の技量によって欠陥が生じ得る欠点があり、これらの課題を解決できる新しい接合方法の提供が要望されている。
【0009】
特許文献3の「回転摩擦溶接」の場合、回転力付与のためのモーター、押し付け力付与のための液圧装置を建築現場でオンサイトの溶接個所に設置し溶接作業を実施するには、装置が寸法、重量ともに相当大きくなる。すなわち、回転摩擦溶接の実施中、プラグの押し付け力は、段階的に一定の大きさを保持し、大きさの切り換えは速やかになされる必要がある。すなわち溶接実施部の油圧シリンダの圧力がこの条件を満たさねばならない。ところが、プラグ先端と空所底部の摩擦面近傍では両者の金属組織が溶融し、プラグが軸方向に増分変位を起こそうとし、プラグに直結されている油圧シリンダのシリンダ室を広げようとする。しかし、シリンダ室内の油は空気などと比べて弾力性が殆どなく(非圧縮性物質)、押し付け力が急激に低下する。この押し付け力を一定に保持するには、油圧シリンダに所要の量の油を注ぎ込まねばならない。つまり、押し付け力(圧力)一定保持機能が求められる。最も常識的な方法は、圧力制御機能の付いた油圧システムを用いることである。このような油圧システムは、油圧発生装置、油圧駆動装置、油圧制御装置で構成され、一般的には大掛かりかつ高価である。
また、溶接作業を想定した場合、プラグを差し込む方向は上向きや斜めなど様々であり、大きな装置を据えられない狭い場所での作業も必要となり困難な場合があった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項では、液圧とは、任意の液体による圧力を意味し、液体は、油や水などを含み、油圧や水圧による。液圧シリンダは、油圧シリンダや水圧シリンダを含む。気圧とは、任意の気体による圧力を意味し、気体は、空気、二酸化炭素、ヘリウム、アルゴンなどを含む。気圧および気圧シリンダは、気体が空気の場合、それぞれ空圧、空圧シリンダと称する。
気圧/液圧複合シリンダは、気圧シリンダと液圧シリンダのピストンロッドを共有、気圧シリンダの筒体と液圧シリンダの筒体とを直列に固定して繋なぎ、液圧シリンダと気圧シリンダのピストン面積の比を小さくとることで大きな液圧が得られる。気圧/液圧複合シリンダは、気体が空気であり、液体が油の場合、空圧/油圧複合シリンダと称する。
【0011】
請求項1の発明では、
回転対称体の形状を有するプラグの材軸基端部に取り付ける回転押圧装置であって、前記プラグの材軸周りに回転を与えつつ、前記プラグの材軸先端部を対象体との接触部に接触させて前記プラグの材軸方向に押し付け力を加え、前記回転および前記押し付け力をそれぞれ独立に時系列的に制御する。
ここで、プラグとは、回転対称体の形状を有する主として金属からなる部品であって、本発明の回転押圧装置に着脱容易に取り付けられる。
対象体とは、プラグと接触部にて接触して回転押圧装置から回転および押し付け力を受ける主として金属からなる部材である。プラグの回転対称体材軸方向の対象体との接触部側を材軸先端部、その他端側を材軸基端部と称したとき、材軸基端部にて回転押圧装置に取り付けられる。
プラグは対象体の孔部に嵌め込んで封止するための栓として機能する他、対象体が分割された物体からなる場合には分割された対象体を接属する接続体として機能する。
本発明の回転押圧装置は、プラグの材軸周りに回転を与えつつ、プラグの材軸先端部を対象体との接触部に接触させてプラグの材軸方向に押し付け力を加える装置であって、回転および押し付け力を制御することが可能な装置である。ここで、制御とは、対象体への工作の必要に応じて回転および押し付け力をそれぞれ独立に、または回転および押し付け力を所定の関係に従って、時系列的に且つ定量的に設定することを意味する。
【0012】
請求項2の発明では、
前記回転押圧装置は、前記プラグの前記材軸基端部を前記回転押圧装置に取り付ける取り付け機構、前記取り付け機構を介して前記プラグに前記回転を付与する回転機構、前記取り付け機構を介して前記プラグに前記押し付け力を付与する押圧機構および前記押し付け力による反力を保持する反力保持機構により構成される。
【0013】
請求項3の発明では、
前記回転機構は、回転作用部、回転伝達部、回転発生部および回転制御部により構成され、前記回転発生部にて発生された前記回転は、前記回転伝達部を介して前記回転作用部に伝達される。
ここで、回転の発生源は任意であるが、電動モーターによるもの、エンジン等の内燃機関によるものが例示される。また、回転の伝達は、軸、歯車、ベルト等による直接的な伝達方法のほか、ユニバーサルジョイント(自在継手)やフレキシブルジョイント等の回転伝達機構を含む。
【0014】
請求項4の発明では、
前記押圧機構は、押圧作用部、押圧伝達部、押圧発生部および押圧制御部により構成され、前記押圧発生部にて発生された押圧が、前記押圧伝達部を介して前記押圧作用部に伝達され、前記押し付け力として前記プラグに付与される。
ここで、押圧の発生源は任意であるが、重力による圧力、ゴムまたは螺旋型金属ばね等の弾性体による圧力、液体の圧力、気体の圧力または液体の圧力と気体の圧力の組み合わせによるものが例示される。
【0015】
請求項5の発明では、
前記取り付け機構は、前記プラグの前記材軸基端部を着脱可能に固定するプラグ着脱固定部、前記回転作用部を連結する回転作用部連結部および前記押圧作用部を摺接する押圧作用部摺接部を備える。
【0016】
請求項6の発明では、
前記反力保持機構は、回転作用部保持具および押圧作用部保持具により構成され、前記回転作用部保持具は、前記回転作用部に摺接する回転作用部摺接部を備え、前記押圧作用部保持具は、前記押圧作用部を接続する押圧作用部接続部と前記押し付け力による反力を保持する押圧反力保持部を備える。
【0017】
請求項7の発明では、
前記回転発生部と前記押圧発生部は、前記取り付け機構から離隔されてそれぞれ任意位置に配置され、前記回転伝達部と前記押圧伝達部は、可撓性を有する。
回転発生部と押圧発生部は大型装置であり、回転伝達部と押圧伝達部を介した回転作用部と押圧作用部は小型化されるとともに種々の方向、位置からのオンサイトの建築現場溶接が可能となる。
【0018】
請求項8の発明では、
前記回転伝達部は、フレキシブルシャフトにより構成される。
ここで、フレキシブルシャフトは、可撓性を有する棒状体で、曲がった状態で軸廻りの回転ωを伝達できる既製部品である。
【0019】
請求項9の発明では、
前記押圧伝達部は、液圧ホースにより構成される。
ここで、液圧ホースは、油圧ホースや水圧ホースを含み、可撓性を有して位置と向きを自在に変えることができる。
【0020】
請求項10の発明では、
前記押圧作用部は、作用部側液圧シリンダにより構成される。
ここで、液圧シリンダは、油圧シリンダや水圧シリンダを含む。押圧作用部は、軽小が求められるから、油圧シリンダを用いてプラグに力を作用させる。油圧シリンダは、最大圧力が大きくピストン面積が小さくて済む。
【0021】
請求項11の発明では、
前記押圧発生部は、発生部側液圧シリンダと前記発生部側液圧シリンダに直結された気圧シリンダとからなる気圧/液圧複合シリンダにより構成される。
【0022】
請求項12の発明では、
前記気圧シリンダは複動型シリンダである。
気圧シリンダは二室を有する複動式を採用し、気体コンプレッサに連結した給気弁および排気弁を操作して気圧シリンダのそれぞれの室の気圧を制御して、押し付け力の大きさを任意に制御することができる。
【0023】
請求項13の発明では、
前記対象体に前記プラグを前記材軸方向に容易に挿入しうる側周面と底部を有する回転対称形状の空所を加工し、前記プラグの前記材軸基端部に前記回転押圧装置を取り付け、前記プラグを前記空所に挿入し、前記プラグの前記材軸先端部と前記空所の前記底部との前記接触部に押し付け力を加えた状態で前記プラグを前記材軸周りに回転させて摩擦を生ぜしめ、前記摩擦による摩擦熱を利用して前記接触部近傍の材料組織を溶融させて溶融金属を生成し、液体化した前記溶融金属を前記プラグの前記材軸先端部に生じる押圧力と回転運動を利用して前記プラグの側周面と前記空所の前記側周面との隙間に充填させ、ついで前記回転運動を停止させて前記溶融金属を凝固させ前記隙間近傍の組織と一体化させることにより前記プラグと前記対象体とを回転摩擦溶接する。
本発明の回転押圧装置は、回転対称体の形状を有するプラグを介して対象体との接触部に回転を与えつつ押し付け力を加える装置として広範に適用可能である。すなわち、プラグは対象体の孔部に嵌め込んで封をする栓溶接としてプラグ溶接、プラグを円錐台状に加工して円錐台面を対象体に形成した円錐面と接触面に摩擦圧接する回転摩擦圧接(特許文献4参照)、また、プラグをドリル状に加工して対象体に穿孔するドリル穿孔などに適用できる。
さらに、本発明の回転押圧装置を、特許文献1で提示されている回転摩擦溶接(特許文献3参照)における接合金属としてのプラグに回転を与えつつ、押し付け力を加える装置として適用できる。
【0024】
請求項14の発明では、
前記プラグと前記対象体との前記接触部近傍の材料組織の溶融による前記プラグの増分変位に伴って生じる前記押し付け力の急激な変動を、前記気圧シリンダにより抑制する。
回転摩擦溶接において接触部近傍の材料組織の溶融によりプラグに増分変位が生じたときにも、気圧シリンダの給気弁および排気弁をすべて閉じたままでプラグの押し付け力を許容誤差の範囲で一定に保持できる。この機能は、液圧シリンダに封入された液体に比して、気圧シリンダに封入された気体が柔らかい気体ばねとして働くという効果を利用している。
【発明の効果】
【0025】
(1)本発明の回転押圧装置は、プラグの材軸周りに回転を与えつつ、プラグの材軸先端部を対象体との接触部に接触させてプラグの材軸方向に押し付け力を加える装置であって、対象体への作業の必要に応じて回転および押し付け力をそれぞれ独立に時系列的に且つ定量的に設定することが可能である。
(2)本発明の回転押圧装置は、空圧シリンダ/油圧シリンダ、電動モーターなど比較的大型となる回転発生部や押圧発生部を回転作用部、押圧作用部および取り付け機構から離隔して所定の箇所に据置くことができ、比較的コンパクトな回転作用部、押圧作用部および取り付け機構を、対象体への作業箇所の近傍に随時移動することができる。さらに、回転伝達部と押圧伝達部は可撓性を有するので、取り付け機構のプラグ材軸方向は、下向きだけでなく上向きや斜めなど様々な空間配置が可能であり、狭い場所での作業にも好適である。
(3)本発明の回転押圧装置は、回転摩擦溶接の実施に好適な装置となる。
(4)本発明の回転押圧装置は、回転摩擦溶接の実施の際にプラグの増分変位に伴って生じる押し付け力の急激な変動を、気圧シリンダの気体ばね効果を利用して比較的簡易かつ安価に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】回転押圧装置の全体構成を説明する概略図である。
【
図2】回転押圧装置の要部の構成を説明する詳細図である。
【
図3】複動型の空圧シリンダの構成を説明する図である。
【
図4】
図2のA-A断面図。作用部側油圧シリンダにおけるシリンダの配置を示す図であり、
図4(a)はセンターホール型シリンダが回転軸71と同軸に配置される図であり、
図4(b)、
図4(c)は複数のシリンダが回転軸71の周上に等間隔に配置される図である。
【
図5】回転摩擦溶接への適用例の第1実施形態を説明するアイソメ図である。
【
図6】回転摩擦溶接への適用例の第2実施形態を説明するアイソメ図である。
【
図7】回転摩擦溶接への適用例の第2実施形態を説明する平面図および縦断面図である。
【
図8】回転摩擦溶接への適用例の第3実施形態を説明する縦断面図である。
【
図9】回転摩擦溶接への適用例の第4実施形態を説明する縦断面図である。
【
図10】回転摩擦溶接への適用例の第5実施形態を説明する図である。
【
図11】回転摩擦溶接への適用例の第6実施形態である鋼構造建設現場における柱-柱接合を説明する図である。
【
図12】シリンダ内にある空気の等温下での状態方程式を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の実施形態を、図面を参照しつつ説明する。なお、同一構成要件については同一符号を付し、その説明を省略もしくは簡略化する。
【0028】
図1は本発明の回転押圧装置1の実施例の全体構成を説明する概略図である。
図2は、本発明の回転押圧装置1の主要部のより詳細な構成を説明する詳細図である。
回転押圧装置1は、回転対称体の形状を有するプラグ10の材軸基端部18に取り付ける回転押圧装置1であって、プラグ10の材軸71周りに回転ωを与えつつ、プラグ10の材軸先端部17を対象体60との接触部70に接触させてプラグ10の材軸71方向に押し付け力Fを加え、回転ωおよび押し付け力Fをそれぞれ独立に時系列的に制御する装置である。
回転押圧装置1は、プラグ10の材軸基端部18を回転押圧装置1に取り付ける取り付け機構20、取り付け機構20を介してプラグ10に回転ωを付与する回転機構30、取り付け機構20を介してプラグ10に押し付け力Fを付与する押圧機構40および押し付け力Fによる反力を保持する反力保持機構50により構成される。
取り付け機構20は、プラグ10の回転軸71と同軸の軸状本体部20a、軸状本体部20aの先端側に(ドリル)チャックのようにプラグ10の材軸基端部18を着脱可能に固定するプラグ着脱固定部20b、軸状本体部20aの基端側に回転作用部31を連結する回転作用部連結部20cおよび軸状本体部20aの基端側に押圧作用部41を摺接する押圧作用部摺接部20dを備える。
回転機構30は、回転作用部31、回転伝達部32、回転発生部33および回転制御部34により構成され、回転発生部33にて発生された回転ωは、回転伝達部32を介して回転作用部31に伝達される。
押圧機構40は、押圧作用部41、押圧伝達部42、押圧発生部43および押圧制御部44により構成され、押圧発生部43にて発生された押圧pが、押圧伝達部42を介して押圧作用部41に伝達され、押し付け力Fとしてプラグ10に付与される。
反力保持機構50は、回転作用部保持具52と押圧作用部保持具53により構成され、本実施例では保持フレーム98に接続される。
回転作用部保持具52は、回転する回転作用部31を保持する部品であって、回転作用部摺接部52aにより構成される。回転作用部摺接部52aは、内周面に回転ベアリング52aaを設けた鋼管52abであって、回転作用部31を挿入して回転ベアリング52aaを介して回転摺接させる。
図2に示すように、押圧作用部保持具53は、押圧作用部41がプラグ10より受ける反力を保持する部品であって、押圧作用部接続部53aと押圧反力保持部53bにより構成される。押圧作用部41は、平面視円形で中央に回転作用部31を挿通させる開口部53abを有する円形鋼板53aaである押圧作用部接続部53aに溶接等により接続される。押圧作用部接続部53aは、押圧反力保持部53bに接合されて、押圧pに伴う反力を保持する。
本実施例では、回転作用部摺接部52aの鋼管52abは押圧作用部接続部53aの円形鋼板53aaの開口部53abに溶接等で一体化されていて、保持フレーム98への接続は、押圧作用部接続部53aの円形鋼板53aaを介している。また、保持フレーム98の構造体99への接合は、容易に着脱可能な電磁石95による接合が施工の効率化のために好ましい。
なお、構造体99とは、反力を保持しうる基礎や構造物などであって、基礎や構造物につながる基体90や基体90に固定される対象体60を含む。
【0029】
回転発生部33と押圧発生部43は、取り付け機構20から離隔されてそれぞれ任意位置に配置され、回転伝達部32と押圧伝達部42は、可撓性を有する。
回転発生部33は、モーター本体33aおよびモーターのための電源部33bにより構成されて回転ωが発生され、回転ωの回転数は回転制御部34で電子的に制御される。回転発生部33で、発生された回転ωは、フレキシブルシャフト32aにより構成される回転伝達部32により回転作用部31に伝達される。フレキシブルシャフト32aは、可撓性を有する棒状体で、曲がった状態で軸廻りの回転ωを伝達できる既製部品である。フレキシブルシャフト32aの構造は、硬鋼線を右巻、左巻交互に数層巻いた構成で、柔軟性、強度と耐久性を有し、長さ10m直径10mmφで約4kgと軽量であり、位置と向きを自在に変えることができる。回転作用部31は、フレキシブルシャフト32aに連結される棒状部品で構成され、取り付け機構20に組み込まれる。
押圧発生部43は、発生部側油圧シリンダ43aと発生部側油圧シリンダ43aに直結された空圧シリンダ43bとからなる空圧/油圧複合シリンダ43cにより構成されて、押圧pが発生される。押圧pの大きさは、押圧制御部44であるエアーコンプレッサ44aに連結した給気弁44bおよび排気弁44cを操作して押圧pが制御される。押圧発生部43で発生された押圧pは油圧ホース42aにより構成される押圧伝達部42により押圧作用部41に伝達される。油圧ホース42aは、可撓性を有して位置と向きを自在に変えることができる。油圧ホース42aは、小さい曲げ半径でコンパクトな油圧配管が可能な既製部品である。押圧作用部41は、作用部側油圧シリンダ41aにより構成され、発生部側油圧シリンダ43aと油圧ホース42aと作用部側油圧シリンダ41aがオイルoの連通管として等圧場を形成して押圧pが伝達される。押圧作用部41としての作用部側油圧シリンダ41aは、複数のシリンダまたは単数のセンターホール型シリンダで構成され、取り付け機構20に組み込まれる。
図3に示すように、空圧/油圧複合シリンダ43cの空圧シリンダ43bは、発生部側油圧シリンダ43a側の空圧シリンダA室43baと発生部側油圧シリンダ43aの反対側の空圧シリンダB室43bbからなる複動型シリンダである。空圧シリンダA室43baと空圧シリンダB室43bbとは、それぞれ排気弁44ca、44cbを有し、給気弁44ba、44bbを介してエアーコンプレッサ44aに連結されていて、それぞれの室の空圧を制御する。後述のように、空圧シリンダA室43baの空圧と空圧シリンダB室43bbの空圧との差圧が、空圧/油圧複合シリンダ43cのピストンに作用して、発生部側油圧シリンダ43aの押圧pとなる。
取り付け機構20は、回転作用部31と同じ回転数で回転して回転ωをプラグ10に伝達すると共に押圧作用部41から作用する押圧pをプラグ10に伝達する。この際、取り付け機構20は回転するのに対して押圧作用部41は回転しないので、その境界面に水平ベアリング20daを介在させて押圧作用部摺接部20dを摺接させる。
【0030】
軸状のプラグ着脱固定部20bの対象体60の反対側に形成されるフランジ部20eが回転作用部連結部20cおよび押圧作用部摺接部20dとして機能し、フランジ部20eの表面の一部に回転作用部31の棒状部品が連結され、フランジ部20eの表面の他部に押圧作用部41の作用部側油圧シリンダ41aが摺接する。
【0031】
作用部側油圧シリンダ41aは、センターホール型シリンダまたは複数のシリンダで構成され、取り付け機構20のフランジ部20eの表面の他部に水平ベアリング20daを介在させて摺接する。
図4(a)に示すようにセンターホール型シリンダが回転軸71と同軸に配置される。
図4(b)に示すように2個のシリンダが回転軸71の周上に等間隔に配置される。あるいは、
図4(c)に示すように3個以上のシリンダが回転軸71の周上に等間隔に配置してもよい。ただし、複数のシリンダの配置が、回転軸71の周上に等間隔な配置に限定されるものではない。
【0032】
本発明の回転押圧装置1の回転摩擦溶接への適用例の第1実施形態を、
図5を参照して説明する。
図5に示す第1実施形態は、回転押圧装置1を用いて対象体60に設けられた空所61にプラグ10を挿入し、プラグ10と対象体60とを回転摩擦溶接により一体化させる適用例である。
対象体60にプラグ10を材軸71方向に容易に挿入しうる側周面63と底部62を有する回転対称形状の空所61を加工し、プラグ10の材軸基端部18に回転押圧装置1を取り付け、プラグ10を空所61に挿入し、プラグ10の材軸先端部17と空所61の底部62との接触部70に押し付け力Fを加えた状態でプラグ10を材軸71周りに回転させて摩擦を生ぜしめ、摩擦による摩擦熱を利用して接触部70近傍の材料組織を溶融させて溶融金属を生成し、液体化した溶融金属をプラグ10の材軸先端部17に生じる押圧力fと回転ωを利用してプラグ10の側周面12と空所61の側周面63との隙間に充填させ、ついで回転ωを停止させて溶融金属を凝固させ隙間近傍の組織と一体化させることによりプラグ10と対象体60とを回転摩擦溶接する。
【0033】
本発明の回転押圧装置1の回転摩擦溶接への適用例の第2実施形態を、
図6、
図7を参照して説明する。
第2実施形態は、
図6に示すように、
図5に示す第1実施形態におけるプラグ10を接合金属140とし、対象体60である第1の鋼材110と第2の鋼材120とを接合する方法としての回転摩擦溶接の適用例である。なお、
図6では、
図5における回転押圧装置1の図示を省略している。
第1の鋼材110および第2の鋼材120は、端面を持つ鋼材である。端面を持つ鋼材とは、例えば鋼板、H形鋼を構成するフランジおよびウェブ、角形鋼管や円形鋼管など閉鎖断面部材の管鋼板本体などが挙げられる。端面同士を対向させて配置した接合とは、具体的には突き合わせ接合である。第1の鋼材110と第2の鋼材120とを隣接した位置に配置すると共に第1の鋼材110の端面111と第2の鋼材120の端面121とを対向させて配置する。このとき、第1の鋼材110の端面111と第2の鋼材120の端面121とは、面接触(メタルタッチ)状に配置されることが望ましいが、不可避の建方誤差等に伴う微小のズレは許容される。空所150として、第1の鋼材110の端面111と第2の鋼材120の端面121とに跨り、第1の鋼材110の表面112と前記第2の鋼材120の表面122とに垂直な直線を回転軸171とし単調変化する曲線を母線とする回転対称形状の側周面152と、側周面152に連続する円錐体形状の底部151を加工する。
第1の鋼材110および第2の鋼材120は、それぞれSN400厚さ22mmの鋼板であり、第1の鋼材110の端面111には半径15mmの半円筒形状の空所150aを加工し、第2の鋼材120の端面121には半径15mmの半円筒形状の空所150bを加工する。半円筒形状の空所150aおよび半円筒形状の空所150bは、それぞれ頂点での開き角が122°の円錐体形状の底部151a、底部151bを有する有底空所であって、空所150a、空所150bの最深部の深さは17mmである。第1の鋼材110と第2の鋼材120とを隣接した位置に配置すると共に第1の鋼材110の端面111と第2の鋼材120の端面121とを対向させて配置すると、第1の鋼材110の端面111と第2の鋼材120の端面121とに跨る直径30mm、深さ17mmの円筒形状の側周面152、底部151を有する空所150が形成される。このとき、第1の鋼材110の端面111と第2の鋼材120の端面21とは、面接触(メタルタッチ)状に配置されることが望ましいが、不可避の建方誤差等に伴う微小のズレは許容される。一方、接合金属140は、SN400鋼材である直径29.5mmの円柱体の接合金属本体141と先端部147で構成される。先端部47は頂点での開き角が120°の円錐体形状の先端面147aを有する。なお、本実施形態では、接合金属140の側周面142に凹凸を設けていない。接合金属140を空所150に挿入する。次いで、
図7bに示すように、接合金属140に押し付け力Pを作用させながら回転軸171回りに回転ωを与えることにより接合金属140の先端部147と空所150の底部151との間の回転摩擦面162にて摩擦を生ぜしめる。回転数は3000rpmで押し付け力は7000Nである。摩擦熱によって液体化した溶融金属180を押し付け力Pによる押圧力と回転運動を利用して接合金属140の側周面142と空所150の側周面152との隙間161に充填させ、溶融金属180が隙間161の全域に充填されたときに回転運動を停止させる。その後の温度低下に伴って溶融金属180は凝固し、隙間161近傍の組織と一体化することにより接合が完了する。ところで、本実施形態では、空所の底部151および接合金属140の先端部147をそれぞれ円錐体形状としたが、それぞれ平坦面形状であってもよい。ところで、本実施形態では、空所150および接合金属140をそれぞれ円筒形状、円柱体としたが、第1実施形態のように、単調変化する曲線を母線とする回転対称形状の側周面152、142を有するものとしてもよい。
【0034】
本発明の回転押圧装置1の回転摩擦溶接への適用例の第3実施形態を、
図8を参照して説明する。
第3実施形態は、
図8に示すように、
図5に示す第1実施形態におけるプラグ10を接合金属140とし、対象体60である第1の鋼材110と第2の鋼材120とを接合する方法としての回転摩擦溶接の適用例である。なお、
図8では、
図5における回転押圧装置1の図示を省略している。
第1の鋼材110および第2の鋼材120は、表面と裏面とを持つ鋼材である。表面と裏面とを持つ鋼材とは、例えば鋼板、スプライスプレートなどの接合用鋼板、H形鋼を構成するフランジおよびウェブなどが挙げられる。裏面と表面とを対向させて配置した接合とは、具体的には重ね合わせ接合である。
本実施形態では、第1の鋼材110および第2の鋼材120は、それぞれSN400厚さ22mmの鋼板であり、第1の鋼材110には表面112から裏面113に貫く直径30mmの円筒形状の空所150cを加工し、第2の鋼材120には表面122から裏面123に貫く直径30mmの円筒形状の空所150dを加工し、第1の鋼材110と第2の鋼材120とを重ねた位置に配置すると共に第1の鋼材110の裏面113と第2の鋼材120の表面122を対向させ、且つ第1の鋼材110に加工した円筒形状の空所150cの中心と、第2の鋼材120に加工した円筒形状の空所150dの中心が回転軸171として一致するように配置すると、第1の鋼材110と第2の鋼材120とを貫く直線を回転軸171とする回転対称形状の空所150が形成される。さらに、第2の鋼材120の裏面123に空所150を塞ぐように裏当板155を付接して空所150の底部151を形成する。このとき、第1の鋼材110の裏面113と第2の鋼材120の表面122とは、面接触(メタルタッチ)状に配置されることが望ましいが、不可避の建方誤差等に伴う微小のズレは許容される。一方、接合金属140は、SN400鋼材であり接合金属本体141が直径29.5mmの円柱体であり、先端部147には先端直径29mm傾斜角度60°のテーパ部146を設ける。なお、本実施形態では、接合金属140の側周面142に凹凸を設けていない。接合金属140を空所150に挿入し、接合金属140に押し付け力を作用させながら回転対称軸171回りに回転を与えて摩擦を生ぜしめる。ここで回転数は3000rpmで押し付け力は7000Nである。摩擦熱によって生成された溶融金属180を、先端部147に生じる押圧力と回転運動を利用して接合金属140の側周面142と空所150の側周面152との隙間161に充填せしめ、隙間161の全域が充填されたときに回転運動を停止させる。その後の温度低下に伴って溶融金属180は凝固して組織が一体化し、接合金属140を介して第1の鋼材110と第2の鋼材120とを接合する。ところで、本実施形態では、空所150および接合金属140をそれぞれ円筒形状、円柱体としたが、第1実施形態のように、単調変化する曲線を母線とする回転対称形状の側周面152、142を有するものとしてもよい。
【0035】
第3実施形態の方法を応用すると、
図9に示すよう本発明の回転押圧装置1の回転摩擦溶接への適用例の第4実施形態として3以上の鋼材を重ね合わせて接合することができる。すなわち、第1の鋼材110、第2の鋼材120および第3の鋼材130の裏面と表面をそれぞれ重ね合わせて配置し、接合金属140を介して接合する。
【0036】
本発明の回転押圧装置1の第5実施形態は、
図10に示すように建築鋼構造の接合構造で多用されるH形鋼191、192への適用を表している。すなわち、H形鋼191、192のそれぞれのフランジプレートおよびウェブプレートの端面を突き合わせて、本発明の接合金属140を並列することによって、H形鋼191、192同士を接合することができる。角型鋼管や円形鋼管のような閉鎖断面鋼材に対しても本発明の接合方法が適用できる。
【0037】
図11は本発明の回転押圧装置1の回転摩擦溶接への適用例の第6実施形態である鋼構造200の建設現場における柱-柱接合を説明する図であり、基礎から3階までの1スパン部分を示す。鋼構造200は、H形鋼からなる柱201(第1節201a、第2節201b)とH形鋼からなる梁202(2階梁202a、3階梁202b、4階梁202c)からなるフレーム構造であり、柱201の梁202レベルには梁202との接合用のブラケット203(2階ブラケット203a、3階ブラケット203b、4階ブラケット203c)が溶接されている。基礎210の図示しないアンカーボルトに柱201の建て入れ、梁202の建て方、建て入れ直しの後、図示しないエレクションピースによる柱-梁接合部204および柱-柱接合部205の仮組が完了している。
図11は、回転押圧装置1による柱-柱接合部205の本接合の状況を示している。より詳しくは、柱-柱接合部205は、梁202の上端より約1m上部にあって、柱201の第1節201aの上端と柱201の第2節201bの下端のフランジ206a、206bおよびウェブ207a、207bをメタルタッチと回転摩擦溶接による突き合わせ接合との併用による接合部である。回転押圧装置1の取り付け機構20を柱-柱接合部205に対向する位置に設置する一方、可撓性を有する回転伝達部32および押圧伝達部42を介して、回転発生部33および押圧発生部43は基礎210上に設置する。また回転押圧装置1の反力保持機構50は、保持フレーム98を介して、上下の梁である2階梁202a、3階梁202bに取り付けられる。作業員Wは、プラグ10である接合金属140の材軸基端部148に取り付け機構20のプラグ着脱固定部20bを装着するとともに、接合金属140の材軸先端部147をフランジ206a、206bまたはウェブ207a、207bに加工された空所150に挿入し、回転押圧装置1を作動させる。接合金属140の空所150への接合が完了すると、作業員Wは、接合金属140の材軸基端部48からプラグ着脱固定部20bを取り外し、回転押圧装置1を次の接合部の空所150に移動して、次の接合金属140を装着する作業を繰り返す。
図11に示す回転伝達部32は、フレキシブルシャフト32aにより構成される。フレキシブルシャフト32aとは、曲げ変形させることが可能な棒状体で、曲がった状態で軸廻りの回転運動を伝達できる既製部品である。フレキシブルシャフト32aの構造は、硬鋼線を右巻、左巻交互に数層巻いた構成で、柔軟性、強度と耐久性を有し、10m、10mmφで約4kgと軽量である。
図11に示す押圧伝達部42は、油圧ホース42aにより構成される。油圧ホース42aは一般に高寿命、高耐疲労性を有し、小さい曲げ半径でコンパクトな油圧配管が可能である。本発明では一般の既製部品の適応が可能である。
図11に示す回転発生部33は、モーター33aおよびモーター33aのための電源部33bにより構成される。モーター33aは基礎実験での知見から、直径20mmのプラグであれば出力7.5kW、回転数3000rpmの電動モーターで十分である。しかし、この性能の機種でも寸法は約45cm、30cmφ、重量は約50kgと大型となる
図11に示す押圧作用部41は、作用部側油圧シリンダ41aにより構成される。作用部側油圧シリンダ41aは力の増幅に用いられ、出力や速度の制御も簡単にでき、遠隔操作も可能である。既製部品の仕様として大略3.5MPa~21MPaで30~160mmφであり本発明では十分適応が可能である。
図11に示す押圧発生部43は、発生部側油圧シリンダ43aと発生部側油圧シリンダ43aに直結された気圧シリンダ43bとからなる気圧/油圧複合シリンダ43cにより構成される。比較的大型である気圧シリンダ43bで発生させた圧力を小型の発生部側油圧シリンダ43aで受動し油圧ホース42aを介してそのままプラグ10に伝達する。20mmφのプラグ10に回転摩擦溶接の安定押し付け圧力である平均押圧力60MPaを作用する場合、気圧シリンダ43b径は185mmφ、発生部側油圧シリンダ43aでは28mmφと小型化できる。気圧シリンダ43bは、既製部品として0.2MPa~0.7MPa、シリンダ内径30~300mmであり本発明では十分適応可能である。
【0038】
図12を参照して、押圧機構40についてさらに詳細に説明する。なお、以下の数式に用いられる記号の主なものは
図12に併記するとともに、記号の説明を末尾にまとめて記載する。
図12ではシリンダ部分を強調して示し、その他の取り付け機構20等は抽象化して示している。
【0039】
押圧機構40の空圧/油圧複合シリンダ43cの空圧シリンダ43bのピストンと発生部側油圧シリンダ43aのピストンとはシャフトで連結されている。ピストンに作用する空圧と油圧の釣合式は次式のように書ける。
作用部側油圧シリンダ41aと発生部側油圧シリンダ43aとは可撓性で十分剛性の高い油圧ホース42aで連結されている。連通管の原理により両シリンダ室の圧力は等しい。
作用部側油圧シリンダ41aは取り付け機構20を介してプラグ10が取り付けられており、プラグ10の押し付け力F(=F
plug)と作用部側油圧シリンダ41aの室内圧力の間で次の釣合式が成り立つ。
力の釣合式(e1)~(e3)を用いて、次の関係式が導ける。
式(e4)より、所要のプラグ10の押し付け力Fを発現させるための、作用部側油圧シリンダ41a、発生部側油圧シリンダ43aおよび空圧シリンダ43bの断面積を求めることができる。ここで注意すべきは、プラグ10の押し付け力Fは、シリンダの容積に依存せずその断面積にのみに依存して、シリンダの長さはプラグ10の増分変位Δu
plugを吸収できる範囲内で任意に設定できることである。
さらに、式(e4)より、所要のプラグ10の押し付け力Fを発現させるため、空圧シリンダ43bのA室43ba及びB室43bbに付与する空圧値を求める実用式が次のように導かれる。
ここに、式(e5)左辺のp
airBは空圧シリンダ43bのB室43bbの空圧値である。右辺のF
plugはプラグ押し付け力の指定値。p
airAは空圧シリンダ43bのA室43baの空圧で任意値である。
【0040】
式(e4)によると、プラグ10の押し付け力Fは、空圧シリンダB室43bbの空圧pairBと空圧シリンダA室43baの空圧pairAとの差圧(pairB-pairA)により制御できることがわかる。すなわち、空圧シリンダA室43baおよび空圧シリンダB室43bbのそれぞれに同じ強さの空圧を注入して差圧を零とし、その後、空圧シリンダA室43baを排気して、差圧(pairB-pairA)を増大させることにより、プラグ10の押し付け力Fを所要値まで引き上げることができる。
【0041】
<シリンダの設計例>
プラグ10の押し付け力Fの目安としてプラグ10の断面積A
plugで除した
を、プラグ10の平均押付圧p
plugと定義する。
このとき、F
plugは、プラグ10の直径D
plugで、
と表される。
プラグ10の平均押付圧p
plugの最大値を「60MPa」と仮定し、油圧シリンダの最大油圧値を「30MPa」とし、空圧シリンダ43bの最大圧力を「0.7MPa」とし、作用部側油圧シリンダ41aの断面積A
oil2と発生部側油圧シリンダ43aの断面積A
oil1を同一の油圧シリンダ断面積A
oilとしたとき、
式(e4)と式(d2)により、プラグの直径D
plugを、15mm、20mm、25mm、30mmに対応して、
表1のように求められる。
表1. シリンダの断面積
表1によると、油圧シリンダは空圧シリンダに比較してコンパクトに設計できる。
【0042】
プラグ10の材軸先端部17の対象体60との接触部70で鋼材の溶融が進行すると、これに伴ってプラグ10に増分変位Δu
plugが生じる。ここでは、プラグ10の増分変位Δu
plugに伴って生じるプラグ10の押し付け力Fの変化を求める数式を誘導する。
(1)プラグ10の押し付け力変動量ΔF
plugと複動空圧シリンダ43bのA室43ba及びB室43bb内の空圧変動量Δp
airA、Δp
airBの関係
複動空圧シリンダ43bの気室に空気の出入りが無ければ、プラグ10の押し付け力F
plugと複動空圧シリンダ43bのA室43ba及びB室43bb内の空圧Δp
airA、Δp
airBとは、常に式(e4)を満たすように変動するので、プラグの増分変位Δu
plugに伴う押し付け力変動量をΔF
plug、複動空圧シリンダ43bのA室43ba及びB室43bb内の変動量をそれぞれΔp
airA、Δp
airBとすると、次式が成立つ。
式(e4)と式(e4)′より、プラグの増分変位Δu
plugに伴う、プラグ10の押し付け力変動量ΔF
plugと複動空圧シリンダ43bのA室43ba及びB室43bb内の空圧変動量Δp
airA、Δp
airBとの関係が次式で表される。
(2)プラグ10の増分変位Δu
plugと空圧シリンダ43bのシャフト増分変位Δu
airの関係
作用部側油圧シリンダ41aは、取り付け機構20およびプラグ10を介して対象体60に対して固定されている。従って、溶融によってプラグ10に生じる増分変位Δu
plugは、作用部側油圧シリンダ41aのピストン増分変位Δu
oil2と一致する。
この増分変位Δu
oil2は作用部側油圧シリンダ41aのシリンダ室の高さを増加させ、作用部側油圧シリンダ41aの内部へ体積ΔV
oil2の油が流入する。
作用部側油圧シリンダ41aへの油の流入と連動して、油圧ホース42aで連結された発生部側油圧シリンダ43aではピストン増分変位Δu
oil1が生じ、体積ΔV
oil1の油が流出する。
油は、圧力変動に対する体積変化が空気と比べて無視できるほど小さく、体積が一定を保つと仮定できる(非圧縮流体)。また、油圧ホース42aも剛強な材料で出来ており、油圧ホース42aの内部に閉じ込められている油の量は圧力変動に対して無視できるほど小さいと仮定する。これらの仮定の下では、作用部側油圧シリンダ41aの内部に流入する油の量と、発生部側油圧シリンダ43aから排出される油の量は等しくなる。
式(c2)及び式(c3)を式(c4)に代入すると、次式が得られる。
ここで注意すべきは、Δu
oil2がシリンダ室の高さの増加方向を正と定義しているのに対し、Δu
oil1はシリンダ室の高さの減少方向を正と定義していることである。
また、押圧発生部43の空圧シリンダ43bと発生部側油圧シリンダ43aのシャフトは連結されており、その軸変形は無視できるほど小さいと仮定すると次式が成立つ。
ここで、空圧シリンダ43bのピストン増分変位Δu
airは、B室43bbの高さが増加する方向を正と定義している。
式(c1),(c5),(c6)を用いて、プラグ増分変位Δu
plugと空圧シリンダ43bのピストン増分変位Δu
airの関係式が次のように導ける。
(3)プラグ10の押し付け力Fの変動量ΔF
plugとプラグ増分変位Δu
plugとの関係
等温条件下にある密閉気室内の気体の状態方程式(ボイルの法則)に従う。
元状態を(p,V)とし、状態変化後の押圧をp+Δp、体積をV+ΔVとすれば、次式が成立つ。
増分量に関する2次項を無視すれば、次の近似式が得られる。
空圧シリンダ43bの気室は円筒形であり、元状態の気筒の高さをL
air、気圧をp
airとする。この状態からピストンに生じる増分変位をΔu
airと置けば、これに伴う気圧の増分量Δp
airは、次式で表される。
空圧シリンダ43bのピストン増分変位Δu
airを、気筒の高さの増加する方向を正として定義すれば、これに伴う押圧の変動量は負、すなわち圧力は減少する。
式(s4)を空圧シリンダ43bのA室43ba及びB室43bbに対して適用し、それぞれの気筒の高さの変動量と空圧シリンダ43bのピストン増分変位で表した式Δu
airA=-Δu
air及びΔu
airB=Δu
airをそれぞれ用いると、次の関係式が得られる。
式(e6)に、式(s5), (s6)及び式(c7)を代入すると、プラグ増分変位Δu
plugに伴って生じるプラグ10の押し付け力Fの変動量ΔF
plugを与える式が次のように求まる。
また、プラグ10の押し付け力Fの変動率μは、次式によって評価できる。
【0043】
<プラグ10の押し付け力Fの変動率μの算定例>
プラグ10の押し付け力Fの変動率μの算定例として、
p
airA=0、A
oil1=A
oil2の場合、
となるので、Δu
plug=2.0mm、ΔL
airB=500.0mm のとき、
プラグ10の押し付け力Fの変動率μは0.4%に抑えられる。すなわち、プラグ10の増分変位Δu
plugに伴って生じる押し付け力Fの急激な変動を、空圧シリンダ43bにより抑制することができる(請求項14)ことが分かる。
【数式の記号の説明】
【0044】
Aair:空圧シリンダ43bのピストン受圧板の断面積、気筒の実効底面積
Aoil1:発生部側油圧シリンダ43aのピストン受圧板の断面積、油筒の実効底面積
Aoil2:作用部側油圧シリンダ41aのピストン受圧板の断面積、油筒の実効底面積
Fplug:プラグ10の押し付け力F
pairA:空圧シリンダ43bのA室43ba内の空圧
pairB:空圧シリンダ43bのB室43bb内の空圧
poil1:発生部側油圧シリンダ43a内の油圧
poil2:作用部側油圧シリンダ41a内の油圧
Δuplug:プラグ10の増分変位
Δuoil1:発生部側油圧シリンダ43aのピストン増分変位
Δuoil2:作用部側油圧シリンダ41aのピストン増分変位
Δuair:空圧シリンダ43bのピストン増分変位
ΔVoil1:発生部側油圧シリンダ43aからの油の流出量
ΔVoil2:作用部側油圧シリンダ41aへの油の流入量
LairB:空圧シリンダ43bの気室B43bb(加圧方向と反対側の気筒)の高さ
LairA:空圧シリンダ43bの気室A43ba(加圧方向と同じ側の気筒)の高さ
Lair:空圧シリンダ43bの気室合計高さ:Lair = LairA+LairB
pplug:プラグ10の平均押付圧
Dplug:プラグ10の直径
μ:プラグ10の押し付け力Fの変動率
【産業上の利用可能性】
【0045】
建築鋼構造の柱や梁などの鋼構造骨組を構成する鋼材の接合のための、溶接または高力ボルト摩擦接合に代わるまたは併用できる新しい接合装置を提供した。
【符号の説明】
【0046】
1:回転押圧装置
10:プラグ
11:プラグの本体
12:プラグの側周面
17:プラグの材軸先端部
18:プラグの材軸基端部
20:取り付け機構
20a:軸状本体部
20b:プラグ着脱固定部
20c:回転作用部連結部
20d:押圧作用部摺接部
20da:水平ベアリング
20e:フランジ部
30:回転機構
31:回転作用部
32:回転伝達部
32a:フレキシブルシャフト
33:回転発生部
33a:モーター本体
33b:電源部
34:回転制御部
40:押圧機構
41:押圧作用部
41a:作用部側油圧シリンダ(作用部側液圧シリンダ)
42:押圧伝達部
42a:油圧ホース(液圧ホース)
43:押圧発生部
43a:発生部側油圧シリンダ(発生部側液圧シリンダ)
43b:空圧シリンダ(気圧シリンダ)
43ba:空圧シリンダA室(発生部側油圧シリンダ側の室)
43bb:空圧シリンダB室(発生部側油圧シリンダの反対側の室)
43c:空圧/油圧複合シリンダ(気圧/液圧複合シリンダ)
44:押圧制御部
44a:エアーコンプレッサ(気体コンプレッサ)
44b:給気弁
44ba:空圧シリンダA室への給気弁
44bb:空圧シリンダB室への給気弁
44c:排気弁
44ca:空圧シリンダA室からの排気弁
44cb:空圧シリンダB室からの排気弁
50:反力保持機構
52:回転作用部保持具
52a:回転作用部摺接部
52aa:回転ベアリング
52ab:鋼管
53:押圧作用部保持具
53a:押圧作用部接続部
53aa:円形鋼板
53ab:開口部
53b:押圧反力保持部
60:対象体
61:空所
62:空所の底部
63:空所の側周面
70:接触部
71:回転軸
90:基体
95:電磁石
98:保持フレーム
99:構造体
110:第1の鋼材(被接合鋼材)
111:第1の鋼材の端面
112:第1の鋼材の表面
113:第1の鋼材の裏面
120:第2の鋼材(被接合鋼材)
121:第2の鋼材の端面
122:第2の鋼材の表面
123:第2の鋼材の裏面
130:第3の鋼材(被接合鋼材)
132:第3の鋼材の表面
133:第3の鋼材の裏面
134:上スプライスプレート
135:フランジプレート
136:下スプライスプレート
140:接合金属
141:接合金属本体
142:接合金属の側周面
146:接合金属の先端部のテーパ部
147:接合金属の先端部
147a:接合金属の先端面
148:接合金属の基端部
148a:接合金属の基端部に設けた鍔部
150:空所
150a:第1の鋼材に設けられる半円筒形状の空所
150b:第2の鋼材に設けられる半円筒形状の空所
150c:第1の鋼材に設けられる円筒形状の空所
150d:第2の鋼材に設けられる円筒形状の空所
151:空所の底部
151a:第1の鋼材に設けられる空所の底部
151b:第2の鋼材に設けられる空所の底部
152:空所の側周面
155:裏当板
160:接合金属の先端部と空所の底部との接触部
161:接合金属の側周面と空所の側周面との隙間
162:接合金属の先端部と空所の底部との間の回転摩擦面
162a:接合完了時における接合金属の先端部と空所の底部との間の回転摩擦面
171:回転対称体の回転軸
172:接合ユニット
180:溶融金属
191:第1のH形鋼
192:第2のH形鋼
200:鋼構造
201:柱(H形鋼)
201a:第1節
201b:第2節
202:梁(H形鋼)
202a:2階梁
202b:3階梁
202c:4階梁
203:ブラケット
203a:2階ブラケット
203b:3階ブラケット
203c:4階ブラケット
204:柱-梁接合部
205:柱-柱接合部
206:(H形鋼)フランジ
206a:第1節フランジ
206b:第2節フランジ
207:(H形鋼)ウェブ
207a:第1節ウェブ
207b:第2節ウェブ
210:基礎
300:従来の摩擦圧接装置
310:鋼材
315:一方の軸受
320:鋼材
325:他方の軸受
330:モーター
332:ベルト
334:クラッチ
336:ブレーキ
340:油圧シリンダ
370:接触部
F:押し付け力
ω:回転
p:押圧
f:押圧力
o:オイル(液体)
a:空気(気体)
W:作業員