(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-02
(45)【発行日】2024-04-10
(54)【発明の名称】仮固定用組成物、接合構造体の製造方法及び仮固定用組成物の使用
(51)【国際特許分類】
H01L 21/52 20060101AFI20240403BHJP
H01L 25/07 20060101ALI20240403BHJP
H01L 25/18 20230101ALI20240403BHJP
【FI】
H01L21/52 E
H01L25/04 C
H01L21/52 D
(21)【出願番号】P 2023575387
(86)(22)【出願日】2023-07-26
(86)【国際出願番号】 JP2023027334
【審査請求日】2023-12-12
(31)【優先権主張番号】P 2022138645
(32)【優先日】2022-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】穴井 圭
(72)【発明者】
【氏名】西川 丞
(72)【発明者】
【氏名】松山 敏和
【審査官】井上 和俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-109787(JP,A)
【文献】特開2020-109134(JP,A)
【文献】国際公開第2017/013808(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/52
H01L 25/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
25℃において固体であり、かつ、窒素中での質量95%減少温度が300℃以下である第1有機成分を42質量%以上95質量%以下の割合で含み、
第1被接合材と第2被接合材とを接合するのに先立ち両者を仮固定するために用いられる仮固定用組成物。
【請求項2】
25℃において液体であり、かつ、窒素中での質量95%減少温度が300℃以下である第2有機成分を5質量%以上58量%以下の割合で含む、請求項1に記載の仮固定用組成物。
【請求項3】
塗布後の固化時間が240秒以下である、請求項1又は2に記載の仮固定用組成物。
【請求項4】
有機高分子化合物を実質的に非含有である、請求項1又は2に記載の仮固定用組成物。
【請求項5】
第1被接合材と、第2被接合材との間に、仮固定用組成物を介在させて両者を仮固定し、
仮固定された両者に対して焼成を行い両者を接合する工程を含む、接合構造体の製造方法であって、
前記仮固定用組成物として
25℃において固体であり、かつ、窒素中での質量95%減少温度が300℃以下である第1有機成分を42質量%以上95質量%以下の割合で含む組成物を用いる、
接合構造体の製造方法。
【請求項6】
前記仮固定用組成物は、25℃において液体であり、かつ、窒素中での質量95%減少温度が300℃以下である第2有機成分を5質量%以上58質量%以下の割合で含む、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
第1被接合材及び第2被接合材のうちの少なくとも一方が、金属微粒子を含む構造体の焼結前駆体からなる、請求項5又は6に記載の製造方法。
【請求項8】
25℃において固体であり、かつ、窒素中での質量95%減少温度が300℃以下である第1有機成分を42質量%以上95質量%以下の割合で含む組成物の、第1被接合材と第2被接合材とを接合するのに先立ち両者を仮固定するための使用。
【請求項9】
25℃において液体であり、かつ、窒素中での質量95%減少温度が300℃以下である第2有機成分を5質量%以上58質量%以下の割合で含む前記組成物の、前記第1被接合材と前記第2被接合材とを接合するのに先立ち両者を仮固定するための、請求項8に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二つの被接合材を接合するのに先立ち両者を仮固定するために用いられる組成物及びその使用に関する。また本発明は該組成物を用いた接合構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インバータなど電力変換・制御装置として、パワーデバイスと呼ばれる半導体デバイスが盛んに用いられるようになってきている。パワーデバイスは、メモリやマイクロプロセッサといった集積回路と異なり、高電流を制御するためのものであるため、動作時の発熱量が非常に大きくなる。したがって、より放熱性のある素材を使うことが必要であり、パワーデバイスには、従来のはんだを用いることに代えて、有害な化学物質の使用を制限した金属微粒子を含むペーストを用い、これを各種の塗工手段によって対象物に塗布し、焼成する技術が種々提案されている。
【0003】
例えば特許文献1には、半導体チップとチップ搭載部の間に銀粒子を含むペーストを配し、銀粒子の焼結体によって半導体チップとチップ搭載部とを接合する方法が記載されている。この方法においては、チップ搭載部と接触する部分を有するようにタック性を有する仮止剤を供給し、且つ半導体チップの裏面の一部が仮止剤と接触するように半導体チップをペースト上に搭載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の仮止剤は液状であるため、塗布後、固化しなかったり、固化時間が長くなったりしてしまうことにより、チップ搭載時のプロセス時間が長くなる。そうすると接合体となるペーストの乾燥膜に、該仮止剤が経時的に浸透してしまうことで、タック性が不十分となる課題があった。
したがって本発明の課題は、塗布後の固化時間が早い仮固定用組成物、該組成物を用いた接合構造体の製造方法、及び該組成物の使用方法を提供することにある。
【0006】
本発明は、25℃において固体であり、かつ、窒素中での質量95%減少温度が300℃以下である第1有機成分を42質量%以上95質量%以下の割合で含み、
第1被接合材と第2被接合材とを接合するのに先立ち両者を仮固定するために用いられる仮固定用組成物を提供するものである。
【0007】
また、本発明は、第1被接合材と、第2被接合材との間に、仮固定用組成物を介在させて両者を仮固定し、
仮固定された両者に対して焼成を行い両者を接合する工程を含む、接合構造体の製造方法であって、
前記仮固定用組成物として
25℃において固体であり、かつ、窒素中での質量95%減少温度が300℃以下である第1有機成分を42質量%以上95質量%以下の割合で含む組成物を用いる、
接合構造体の製造方法を提供するものである。
【0008】
更に、本発明は、25℃において固体であり、かつ、窒素中での質量95%減少温度が300℃以下である第1有機成分を42質量%以上95質量%以下の割合で含む組成物の、第1被接合材と第2被接合材とを接合するのに先立つ両者を仮固定するための使用を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1(a)ないし(d)は、本発明の仮固定用組成物を用いて二つの被接合材を接合する工程を順次示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は仮固定用組成物に関する。仮固定用組成物は、第1被接合材と第2被接合材とを接合する(すなわち本固定する)のに先立ち両者を仮固定するために用いられるものである。仮固定された第1被接合材と第2被接合材とは、次工程、例えば焼成工程によって接合されて接合構造体となる。
「仮固定」とは、第1被接合材と第2被接合材とが固定されている状態であって且つ大きな外力が加わったときに固定状態が変化するものの小さな外力(例えば第1被接合材と第2被接合材との仮固定物を、両被接合材の接合面が鉛直方向を向くように載置したときに、第1又は第2被接合材のどちらかが自重により落下する程度の力)によっては固定状態に変化がない態様をいう。
【0011】
第1被接合材及び第2被接合材の種類に特に制限はない。一般的には、第1被接合材及び第2被接合材はいずれも、それらの接合対象面に金属を含むことが好ましい。例えば第1被接合材及び第2被接合材の少なくとも一方として、金属からなる面を有する部材を用いることができる。
【0012】
また、第1被接合材及び第2被接合材の少なくとも一方として、金属微粒子を含む構造体を用いることができる。この構造体としては、例えば金属微粒子と、樹脂及び有機溶媒の少なくともいずれかを含むペーストの乾燥体もしくはシートとすることができる。具体的には、第1被接合材として、金属からなる面を有する部材を用い、第2被接合材として、前記構造体を用いることができる。なお、前記構造体にペーストの乾燥体を用いる場合には、銅等の金属からなる支持基材にペーストを塗工し乾燥することで乾燥体とすることが好ましい。また、前記構造体にシートを用いる場合には、銅等の金属からなる支持基材にシートを圧着することもできるし、圧着せず使うこともできる。なお、圧着せずに使う場合は、シートと銅等の金属からなる支持基材との間に仮固定用組成物を用いることが好ましい。
【0013】
なお、上述した「構造体」は、例えば次工程において加熱された場合には該構造体中に含まれる該金属微粒子どうしが焼結するので、該構造体は焼結前駆体とみなすことができる。したがって本明細書においては、これ以降、「構造体」のことを「焼結前駆体」ともいう。
【0014】
第1被接合材が金属からなる面を有する部材からなり、第2被接合材が焼結前駆体からなる場合、第1被接合材における金属と、第2被接合材における金属微粒子の金属とは、同種であってもよく、異種であってもよい。ここでいう「金属」とは、他の元素と化合物を形成していない金属そのもの、又は2種類以上の金属の合金のことである。金属の種類に特に制限はないが、本発明の仮固定用組成物が、はんだ代替の接合部材と併用されるものであることを考慮すると、はんだの融点よりも高い融点を有する金属を用いることが有利である。そのような金属としては例えば銅、銀、金、アルミニウム、チタン、ニッケル又はそれらの2種以上の組み合わせからなる合金が挙げられる。
【0015】
第1被接合材及び第2被接合材のうちの少なくとも一方が、金属からなる面を有する部材である場合、該金属からなる面は一種の金属から構成されていてもよく、あるいは二種以上の金属から構成されていてもよい。二種以上の金属から構成されている場合には、当該面は合金であってもよい。金属からなる面は一般には平面であることが好ましいが、場合によっては曲面であってもよい。
【0016】
構造体に含まれる金属微粒子は、一種の金属から構成されていてもよく、あるいは二種以上の金属の合金から構成されていてもよい。また、金属微粒子は、金属種の異なる二種以上の金属微粒子の混合物から構成されていてもよい。
【0017】
金属微粒子の体積累積粒径DSEM50は、0.01μm以上30μm以下であることが第1被接合材と第2被接合材との接合を良好に保つ点から好ましい。同様の観点から、DSEM50は0.03μm以上20μm以下であることが更に好ましく、0.05μm以上15μm以下であることが一層好ましい。
体積累積粒径DSEM50は、例えば、以下の測定方法によって求められる。10,000倍以上150,000倍以下の範囲で、走査型電子顕微鏡(SEM)にて輪郭のはっきりした金属微粒子を撮影する。マウンテック社製Mac-Viewを用い、金属微粒子のSEM像を読み込んだ後、SEM像上の金属微粒子を無作為に50個以上選んで、該粒子の粒径(ヘイウッド径)を測定する。次いで、得られたヘイウッド径から、粒子が真球であると仮定したときの体積を算出し、該体積の累積体積50容量%における粒径を体積累積粒径DSEM50とする。
【0018】
金属微粒子の形状に特に制限はなく、例えば、球状、多面体状、扁平状、不定形、又はそれらの組み合わせなどが挙げられる。また金属微粒子はその粒度分布に二つ以上のピークを有していてもよい。
【0019】
金属微粒子は、その表面に表面処理剤が付着していてもよい。金属微粒子の表面に表面処理剤を付着させておくことで、金属微粒子の過度の凝集と酸化を抑制することができる。
【0020】
表面処理剤は特に限定されるものではなく、例えば、脂肪酸、脂肪族アミン、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤等を用いることができる。これらを用いることで、粒子の表面と相互作用しペースト中に含まれる有機溶媒やシート中の樹脂との相溶性を向上させペーストの流動性を向上させることや、粒子表面の酸化を防止することができる。
脂肪酸あるいは脂肪族アミンの具体例としては、安息香酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ラウリルアミン、オレイルアミン、ステアリルアミンなどが挙げられる。これらの脂肪酸、脂肪族アミンは、それぞれ1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
前記ペースト及びその乾燥体である焼結前駆体には、ペーストや焼結前駆体の各種特性を調整するための調整剤を適宜含有させてもよい。調整剤としては、例えば還元剤、粘度調整剤、表面張力調整剤が挙げられる。
還元剤としては、銅粒子の焼結を促進させるものがよく、例えばモノアルコール、多価アルコール、アミノアルコール、クエン酸、シュウ酸、ギ酸、アスコルビン酸、アルデヒド、ヒドラジン及びその誘導体、ヒドロキシルアミン及びその誘導体、ジチオスレイトール、ホスファイト、ヒドロホスファイト、亜リン酸及びその誘導体等が挙げられる。
粘度調整剤としては、前記ペーストの粘度の高低を調整できるものであればよく、例えばケトン類、エステル類、アルコール類、グリコール類、炭化水素、ポリマーなどが挙げられる。
表面張力調整剤としては、前記ペーストの表面張力を調整できるものであればよく、例えばアクリル系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、アルキルポリオキシエチレンエーテル、脂肪酸グリセロールエステルなどのポリマーやアルコール系、炭化水素系、エステル系、グリコール等のモノマーが挙げられる。
【0022】
ペーストから乾燥体を得る場合、有機溶媒はその全量が除去される必要はなく、ペーストの塗膜が流動性を失う程度に有機溶媒が除去されていればよい。したがって、焼結前駆体中には有機溶媒が残存していてもよい。焼結前駆体に含まれる有機溶媒の割合は、例えば15質量%以下とすることができ、特に10質量%以下とすることができる。
【0023】
前記の有機溶媒はその種類に特に制限はなく、金属微粒子を分散させてペースト状にすることができるものであればよい。有機溶媒の例としては、モノアルコール、多価アルコール、多価アルコールアルキルエーテル、多価アルコールアリールエーテル、ポリエーテル、エステル類、含窒素複素環化合物、アミド類、アミン類、テルペンアルコール類、ケトン類、及び飽和炭化水素などが挙げられる。これらの有機溶媒は、一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0024】
モノアルコールとしては、例えば1-プロパノール、1-ブタノール、1-ペンタノール、1-ヘキサノール、シクロヘキサノール、1-ヘプタノール、1-オクタノール、1-ノナノール、1-デカノール、グリシドール、ベンジルアルコール、メチルシクロヘキサノール、2-メチル1-ブタノール、3-メチル-2-ブタノール、4-メチル-2-ペンタノール、2-プロパノール、2-エチルブタノール、2-エチルヘキサノール、2-オクタノール、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、2-n-ブトキシエタノール、2-フェノキシエタノールなどを用いることができる。
【0025】
多価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ヘキシレングリコール等を用いることができる。
【0026】
多価アルコールアルキルエーテルとしては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル等を用いることができる。
【0027】
多価アルコールアリールエーテルとしては、エチレングリコールモノフェニルエーテル等を用いることができる。ポリエーテルとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等を用いることができる。エステル類としては、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、γ-ブチロラクトン等を用いることができる。含窒素複素環化合物としては、N-メチルピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等を用いることができる。アミド類としては、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド等を用いることができる。アミン類としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン等を用いることができる。テルペンアルコール類としては、イソボルニルシクロヘキサノール、テルピネオール等を用いることができる。ケトン類としては、メチルエチルケトン等を用いることができる。飽和炭化水素としては、例えばヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカンなどを用いることができる。
【0028】
また、金属微粒子が樹脂中に分散したシートからなる焼結前駆体では、当該樹脂として、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、及びそれらの共重合体などの各種のポリオレフィン樹脂、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、ナイロン11、メタキシリレンアジパミド(mXD6)、ヘキサメチレンテレフタラミド(6T)、及びそれらの共重合体などの各種のポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレン-2,6-ナフタレート(PEN)、ポリメチレンテレフタレート(PMT)、ポリプロピレンテレフタレート(PPT)、ポリエチレン-p-オキシベンゾエート(PEOB)、ポリ-1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート(PCT)、及び共重合成分として、例えば、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリアルキレングリコールなどのジオール成分や、アジピン酸、セバチン酸、フタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸などのジカルボン酸成分などを共重合したポリエステルなどの各種のポリエステル樹脂、その他、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリアセタール(POM)樹脂、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)やポリ塩化ビニリデン(PVdC)などの塩素含有樹脂などの熱可塑性樹脂が挙げられる。また、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂等の熱硬化性樹脂を用いてもよい。
【0029】
本発明においては、第1被接合材と、第2被接合材との間に、仮固定用組成物を介在させて両者を仮固定し、仮固定された両者を接合することで、接合構造体が製造される。仮固定用組成物の成分は、焼結前駆体を形成するために用いられる構造体のペーストあるいはシートに含まれる有機溶媒や樹脂の種類、該ペーストあるいは樹脂に含まれる金属微粒子の表面に付着している表面処理剤の種類との関係で選択されることが好ましい。
【0030】
仮固定用組成物は、25℃において固体であり、かつ、窒素中での質量95%減少温度が300℃以下、好ましくは280℃以下である第1有機成分を含むものである。25℃において固体であることで、仮固定用組成物が塗布後固化することができる。また、かかる第1有機成分を含むことにより、塗布することができ、塗布後に速やかに固化した上でタック性を有することができ、また、残留物を残さずに焼成することができる。なお、「塗布」とは、仮固定用組成物を物質上に滴下又はディスペンス、ピン転写、インクジェット、スクリーン印刷等の方法で対象物あるいは対象部分に付着させることを意味する。「固体」とは変形あるいは体積変化が全く起らないか又は非常に小さい剛体であり、容器の形に合わせて流動することがなく、拡散して容器全体を占めることもないような物質を意味する。例えば石状、岩状、ロウ状、ワックス状のもの等が挙げられる。
【0031】
前記第1有機成分は、仮固定用組成物100質量%中に42質量%以上、好ましくは55質量%以上、より好ましくは60質量%以上の割合で含む。仮固定用組成物100質量%中に42質量%以上含むことにより、25℃雰囲気下へ塗布後、短時間、例えば、240秒以内に固化することができる。一方、前記第1有機成分は、仮固定用組成物100質量%中に95質量%以下、より好ましくは85質量%以下であることが好ましい。仮固定用組成物100質量%中に95質量%を超えて含むと、塗布時の流動性が低下し、例えばノズル詰まりを起こし塗布できない可能性がある。
前記第1有機成分を含むことにより、固化時間を短縮化、具体的には240秒以下、好ましくは40秒以下、より好ましくは5秒以下とすることができ、上述した構造体、すなわち焼結前駆体への、当該組成物の経時的な浸透を抑制でき、第1被接合体及び第2被接合体を接合する際のプロセス時間が長くても、これら被接合材に対するタック性を担保することができる。
なお、上述の質量95%減少温度は、窒素流通下、25℃から昇温速度2℃/minで40℃まで昇温し15分間保持後、昇温速度10℃/min、窒素雰囲気下(例えば窒素流通下)、試料質量30mgの条件で熱重量示差熱分析したときの質量95%減少温度である。
【0032】
第1有機成分としては、モノアルコール、多価アルコール、多価アルコールアルキルエーテル、多価アルコールアリールエーテル、エステル類、複素環化合物、アミド類、アミン類、飽和炭化水素、環式テルペンアルコール類及びその誘導体、ケトン類、カルボン酸類などを挙げることができる。これらの有機成分は、一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、飽和脂肪族モノアルコール、飽和脂肪族多価アルコール、飽和脂肪酸エステル、環式テルペンアルコール誘導体、含酸素複素環化合物及び飽和脂肪族モノカルボン酸が好ましい。望ましくは、これらの炭素数が6~21のものであることが好ましい。これらの中でも特に好ましくは、ミリスチルアルコール、パルミチルアルコール、ステアリルアルコール、1,6-ヘキサンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、トリメチロールプロパン、ステアリン酸メチル、ボルネオール、2,4,6-トリイソプロピル-1,3,5-トリオキサン、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、などが好ましく用いられる。これらの化合物は一種を単独で用いることができ、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
仮固定用組成物には、第1有機成分に加えて、第1有機成分と異なる種類の第2有機成分が含まれることが好ましい。仮固定用組成物に含まれる第2有機成分は、第1被接合材と第2被接合材とを仮固定した場合に、これらの被接合材を変質させづらく、且つ両被接合材が仮固定状態の間に容易に揮発し得る物質である。
【0034】
第2有機成分は、25℃において液体であり、かつ、窒素中での質量95%減少温度が300℃以下、好ましくは280℃以下であることが望ましい。かかる第2有機成分を第1有機成分と合わせて用いることにより、仮固定用組成物としてのタック性を保持しながら、塗布時に流動性を持たすことができ、作業性良く、かつ、残留物を残さずに焼成することができる。なお、質量95%減少温度は第1有機成分と同様の手順で測定したものである。
【0035】
第2有機成分は、仮固定用組成物100質量%中に5質量%以上、好ましくは15%以上含むことにより、塗布時の流動性を担保することができる。一方、前記第2有機成分は、仮固定用組成物100質量%中に58質量%以下、好ましくは45質量%以下、より好ましくは40質量%以下含むことが望ましい。仮固定用組成物100質量%中に第2有機成分の含有率を58質量%以下とすることで、塗布後の固化時間が短くなり、かつ、タック性を担保することができる。
【0036】
第2有機成分は、第1有機成分との組み合わせにより、仮固定用組成物の固化時間を短時間化、具体的には240秒以下、好ましくは40秒以下、より好ましくは5秒以下となるように選択されることが好ましい。これによって、上述のように、仮固定用組成物の固化時間を短時間化できるため、上述した構造体、すなわち焼結前駆体への、当該組成物の経時的な浸透を抑制でき、第1被接合体及び第2被接合体を接合する際のプロセス時間が長くても、これら被接合材に対するタック性を担保することができる。
【0037】
第2有機成分としては、上述のように、前記焼結前駆体の様態を変化させないものであり、かつ、塗布時の流動性を担保することができるものであればよい。このようなものとして、例えばモノアルコール、多価アルコール、多価アルコールアルキルエーテル、多価アルコールアリールエーテル、エステル類、複素環化合物、アミド類、アミン類、飽和炭化水素、環式テルペンアルコール類及びその誘導体、ケトン類、カルボン酸類など、上述の有機溶媒として列挙したものと同様のものが挙げられる。これらの有機成分は、一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、飽和脂肪族多価アルコール、不飽和脂肪族モノアルコール、不飽和脂肪酸エステル、第三級アミン、環式テルペンアルコール誘導体、不飽和脂肪族モノカルボン酸及び飽和脂肪族炭化水素が好ましい。望ましくは、これらの炭素数が3~21のものであることが好ましい。これらの中でも特に好ましくは、グリセリン、1,2,4-ブタントリオール、オレイルアルコール、オレイン酸メチル、トリエタノールアミン、4-(1’-アセトキシ-1’-メチルエチル)-シクロヘキサノールアセテート、イソボルニルシクロヘキサノール、オレイン酸、ノルマルデカンなどが好ましく用いられる。これらの化合物は一種を単独で用いることができ、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。
なお、上述の「焼結前駆体の様態を変化させない」とは、焼結前駆体上に1μLの有機成分を滴下し、110℃以下の条件で乾燥させた焼結前駆体を、顕微鏡で倍率140倍にて観察したときに、滴下前後で焼結前駆体に変化が認められないことを指す。また、この「変化が認められない」とは、滴下前後で焼結前駆体に変化が全く観察されないことのほか、接合後の超音波探傷像においても滴下の痕跡がみられないことも包含する。
【0038】
第1有機成分と第2有機成分との好ましい組み合わせとしては、例えば以下のものが挙げられる。
・第1有機成分としてのC8-C21の飽和脂肪族モノカルボン酸と、第2有機成分としてのC8-C21の飽和脂肪族炭化水素との組み合わせ。
・第1有機成分としてのC8-C21の飽和脂肪族モノカルボン酸と、第2有機成分としてのC8-C21の環式テルペンアルコール誘導体との組み合わせ。
・第1有機成分としてのC8-C21の飽和脂肪酸エステルと、第2有機成分としてのC8-C21の環式テルペンアルコール誘導体との組み合わせ。
・第1有機成分としてのC8-C21の飽和脂肪族モノカルボン酸と、第2有機成分としてのC8-C21の不飽和脂肪族モノアルコールとの組み合わせ。
・第1有機成分としてのC8-C21の飽和脂肪族モノカルボン酸と、第2有機成分としてのC8-C21の不飽和脂肪族モノカルボン酸との組み合わせ。
・第1有機成分としてのC8-C21の飽和脂肪族モノアルコールと、第2有機成分としてのC8-C21の環式テルペンアルコール誘導体との組み合わせ。
・第1有機成分としてのC8-C21の飽和脂肪族モノアルコールと、第2有機成分としてのC8-C21の飽和脂肪族炭化水素との組み合わせ。
・第1有機成分としてのC8-C21の飽和脂肪族モノアルコールと、第2有機成分としてのC8-C21の不飽和脂肪族モノアルコールとの組み合わせ。
・第1有機成分としてのC8-C21の飽和脂肪族モノアルコールと、第2有機成分としてのC8-C21の不飽和脂肪族モノカルボン酸との組み合わせ。
好ましくは、タック性及び固化時間が短いとの理由から、
・第1有機成分としてのC8-21の飽和脂肪族モノカルボン酸と、第2有機成分としてのC8-21の飽和脂肪族炭化水素との組み合わせ。
・第1有機成分としてのC8-21の飽和脂肪族モノカルボン酸と、第2有機成分としてのC8-21の環式テルペンアルコール誘導体との組み合わせ。
・第1有機成分としてのC8-21の飽和脂肪酸エステルと、第2有機成分としてのC8-21の環式テルペンアルコール誘導体との組み合わせ。
・第1有機成分としてのC8-21の飽和脂肪族モノカルボン酸と、第2有機成分としてのC8-21の不飽和脂肪族モノアルコールとの組み合わせ。
・第1有機成分としてのC8-21の飽和脂肪族モノカルボン酸と、第2有機成分としてのC8-21の不飽和脂肪族モノカルボン酸との組み合わせ。
・第1有機成分としてのC8-21の飽和脂肪族モノアルコールと、第2有機成分としてのC8-21の環式テルペンアルコール誘導体との組み合わせ。
が好ましい。
【0039】
仮固定用組成物は、上述した第1有機成分及び第2有機成分に加えて本発明の効果を阻害しない範囲で他の成分を含んでいてもよい。
【0040】
仮固定用組成物は、有機高分子化合物を実質的に非含有であることが好ましい。有機高分子化合物は一般に不揮発性であるか揮発しづらい物質であることから、有機高分子化合物が仮固定用組成物中に含まないことにより、例えば、固化時間を短縮化することができ、当該組成物の経時的な浸透を抑制できるようになる。それにより、第1被接合体及び第2被接合体を接合する際のプロセス時間が比較的長い場合でも、被接合材に対するタック性を担保できる。この観点から、仮固定用組成物は、有機高分子化合物を非含有であることが好ましい。同様の観点から、仮固定用組成物は、無機化合物を実質的に非含有であることも好ましい。「有機高分子化合物を実質的に非含有」とは、仮固定用組成物に意図的に有機高分子化合物を含有させないが、仮固定用組成物に不可避的に有機高分子化合物が混入することは許容することを意味する。「無機化合物を実質的に非含有」も同様の意味である。
【0041】
前記の有機高分子化合物としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン及びエチレン-α-オレフィン共重合体等のポリオレフィン;ポリエチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレート等のポリエステル;ポリ塩化ビニル及びポリスチレン等のビニルポリマー;ポリ(メタ)アクリル酸及びポリ(メタ)アクリル酸アルキル等の(メタ)アクリル酸系ポリマー;ポリエチレングリコール、テルペン重合体、テルペンフェノール重合体などのテルペンポリマー;ポリカーボネート、ポリエーテルサルホンなどが挙げられる。
【0042】
仮固定用組成物は、第1有機成分と第2有機成分とを30℃以上70℃以下に加熱した状態で混合して調整することができ、また、第1有機成分と第2有機成分とを混合した後、30℃以上70℃以下に加熱して調整することもできる。
【0043】
次いで、本発明の仮固定用組成物の使用方法について説明する。
図1(a)ないし(d)には仮固定用組成物を用いて第1被接合材と第2被接合材とを接合する工程が模式的に示されている。まず
図1(a)に示すとおり、基板10上に、金属微粒子及び有機溶媒を含むペーストを塗布して塗膜を形成し、この塗膜から有機溶媒を除去して、該ペーストの乾燥体である焼結前駆体、すなわち第2被接合材11を形成する。あるいは、基板10上に金属微粒子が樹脂中に分散してなるシートを配設して焼結前駆体、すなわち第2被接合体11を形成する。
【0044】
図1(a)では、一枚の基板10の表面上に第2被接合材11としての焼結前駆体が形成されている状態が示されている。基板10としては例えば銅、銀、ニッケル、金、アルミニウムなどの金属、又はアルミナ、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウムなどのセラミックスが挙げられる。また当該金属やセラミックス上に銅、銀、ニッケル、金、アルミニウムなどの金属めっきや金属パターンが片面又は両面に形成されていてもよい。
【0045】
次に
図1(b)に示すとおり、第2被接合材11の表面に仮固定用組成物12を塗布する。塗布時の仮固定用組成物の温度は30℃~70℃であることが好ましく、仮固定用組成物が塗布される第2被接合材11は予熱・加熱などされたものでなく、20℃~25℃であることが好ましい。また、本工程を行う部屋の室温は20~25℃であることが好ましい。仮固定用組成物12の付与は、同図に示すとおり第2被接合材11の一部(例えば焼結前駆体11の隅部)にのみ行ってもよく、あるいは第2被接合材11の全域にわたって行ってもよい。仮固定用組成物12の付与には、公知の方法、例えばディスペンス、ピン転写、インクジェット、スクリーン印刷などを採用することができる。
【0046】
次に
図1(c)に示すとおり、第2被接合材11上に、第1被接合材13を重ね合わせる。第1被接合材13は、第2被接合材11との対向面が金属から構成されている。この重ね合わせによって、両被接合材11,13間に仮固定用組成物12が介在する。仮固定用組成物12中には、好適には、第2被接合材11である焼結前駆体の様態を変化させる成分は含まれていないので、第2被接合材11はその形状が安定して保たれる。また、仮固定用組成物12中には、好適には、粘着性の高い成分が含まれているので、両被接合材11,13の仮固定状態が安定して保たれる。
【0047】
次に、仮固定された両被接合材11,13を加熱する。加熱によって第2被接合材11、すなわち焼結前駆体中に含まれる金属微粒子が焼結して、両被接合材11,13が接合する。この工程が
図1(d)に示されている。加熱は通常加熱炉(図示せず)で行われることから、
図1(c)に示す仮固定された両被接合材11,13は、搬送手段(図示せず)によって、ステージから加熱ステージへと搬送される。両被接合材11,13は、仮固定用組成物12によって確実に短時間で仮固定されているので、搬送中に両被接合材11,13間に位置ずれが生じることが効果的に防止される。その結果、加熱炉において両被接合材11,13は、当初の接合予定位置で確実に接合される。
【0048】
両被接合材11,13を加熱するに当たり、加圧部材14を用いて加圧を行う場合がある。特に第1被接合材13が半導体デバイスである場合には、第1被接合材13と第2被接合材11との接合信頼性を高くする必要があることから、緻密な焼結構造を形成する目的で加圧部材14を用いる場合がある。加圧部材14を用いると、仮固定された状態の両被接合材11,13間に位置ずれが生じやすいが、本発明の仮固定用組成物12を用いて両被接合材11,13を仮固定すれば、加圧部材14によって両被接合材11,13を加圧した場合であっても両被接合材11,13間に位置ずれが生じにくくなる。
【0049】
加熱時の加圧部材14による加圧は、0.01MPa以上40MPa以下であることが、両被接合材11,13の接合を確実に行う点から好ましい。加熱温度は200℃以上300℃以下であることが好ましい。この温度で加熱することで、第2被接合材11である焼結前駆体中の金属微粒子を確実に焼結させることができ、また仮固定用組成物12を熱によって除去することができる。焼成雰囲気は、大気等の酸素含有雰囲気、窒素等の不活性雰囲気、及び水素含有雰囲気のいずれを用いることもできる。この加熱工程により、基板10、被接合材11及び13が一体に接合される。
【0050】
なお、本開示は以下の発明をも包含するものである。
〔1〕25℃において固体であり、かつ、窒素中での質量95%減少温度が300℃以下である第1有機成分を42質量%以上95質量%以下の割合で含み、
第1被接合材と第2被接合材とを接合するのに先立ち両者を仮固定するために用いられる仮固定用組成物。
〔2〕25℃において液体であり、かつ、窒素中での質量95%減少温度が300℃以下である第2有機成分を5質量%以上58質量%以下の割合で含む、〔1〕に記載の仮固定用組成物。
〔3〕塗布後の固化時間が240秒以下である、〔1〕又は〔2〕に記載の仮固定用組成物。
〔4〕有機高分子化合物を実質的に非含有である、〔1〕ないし〔3〕のいずれか1つに記載の仮固定用組成物。
〔5〕第1被接合材と、第2被接合材との間に、仮固定用組成物を介在させて両者を仮固定し、
仮固定された両者に対して焼成を行い両者を接合する工程を含む、接合構造体の製造方法であって、
前記仮固定用組成物として
25℃において固体であり、かつ、窒素中での質量95%減少温度が300℃以下である第1有機成分を42質量%以上95質量%以下の割合で含む組成物を用いる、
接合構造体の製造方法。
〔6〕前記仮固定用組成物は、25℃において液体であり、かつ、窒素中での質量95%減少温度が300℃以下である第2有機成分を5質量%以上58質量%以下の割合で含む、〔5〕に記載の製造方法。
〔7〕第1被接合材及び第2被接合材のうちの少なくとも一方が、金属微粒子を含む構造体の焼結前駆体からなる、〔5〕又は〔6〕に記載の製造方法。
〔8〕25℃において固体であり、かつ、窒素中での質量95%減少温度が300℃以下である第1有機成分を42質量%以上95質量%以下の割合で含む組成物の、第1被接合材と第2被接合材とを接合するのに先立ち両者を仮固定するための使用。
〔9〕25℃において液体であり、かつ、窒素中での質量95%減少温度が300℃以下である第2有機成分を5質量%以上58質量%以下の割合で含む前記組成物の、前記第1被接合材と前記第2被接合材とを接合するのに先立ち両者を仮固定するための、〔8〕に記載の使用。
【実施例】
【0051】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0052】
〔実施例1-5及び比較例1-2〕
(1)仮固定用組成物の調製
第1有機成分としてラウリン酸(25℃で固体、95%減少温度256℃)を用いた。第2有機成分としてノルマルデカン(25℃で液体、95%減少温度144℃)を用いた。両者とも50℃にした状態で混合して仮固定用組成物を調製した。仮固定用組成物における第1有機成分の比率及び第2有機成分の比率は表1に示すとおりである。これらの仮固定用組成物には有機高分子化合物及び無機化合物が含まれていなかった。
【0053】
(2)接合用ペーストの調製
湿式法で合成された2種類の銅粒子(球状、DSEM50=0.14μm;フレーク状DSEM50=4.7μm)と、有機溶媒としてヘキシレングリコール及びポリエチレングリコール(数平均分子量300)と、固体還元剤などのその他調整剤を混合して接合用ペーストを調製した。固体還元剤としてはビス(2-ヒドロキシエチル)イミノトリス(ヒドロキシメチル)メタン(以下「BIS-TRIS」ともいう。)を用いた。
接合用ペーストにおける銅粒子の割合は74%であり、ヘキシレングリコールの割合は23.4%であり、ポリエチレングリコールの割合は0.74%であった。また、銅粒子に占める球状粒子の割合は70%であり、フレーク状粒子の割合は30%であった。また、固体還元剤として使用されたBIS-TRISの割合は1.85%であった。
【0054】
(3)焼結前駆体からなる第2被接合材の形成
銅板(20mm×20mm、厚み0.5mm)からなる基板上に接合用ペーストをスクリーン印刷により塗布して、0.6cm×0.6cmの寸法を有する矩形の厚み100μmの塗膜を形成した。この塗膜を大気雰囲気下で110℃、20分乾燥させて有機溶媒を除去することで、乾燥体である焼結前駆体からなる第2被接合材を形成した。
【0055】
(4)仮固定用組成物の滴下又は塗布及び第1被接合材の重ね合わせ
仮固定用組成物の滴下は、(3)で形成した焼結前駆体の温度が室温22℃と同等になり次第、速やかに行った。半導体デバイスのモデル部材として、第1被接合材としてAgめっきしたアルミナチップを用意した(0.5cm×0.5cm、厚み0.5mm、質量50mg)。このアルミナチップと(3)で形成した焼結前駆体との重ね合わせには、コンパクトマウンター(奥原電気社製 SMT-64RH)を用いた。プラスチックニードルを装着した10mlシリンジ(いずれも武蔵エンジニアリング社製)に(1)で調製した仮固定用組成物を注入し、マウンターに備え付けの温調ユニットにセットした。温調ユニットは、ファン式ペルチェ温調ユニット PELTIER MASTER(武蔵エンジニアリング社製)を用いた。温調を50℃に設定し、仮固定用組成物の温度が安定するまで30分間静置した。その後、吐出圧、吐出時間及び背圧を調整し、塗布量を1滴当り0.04mgになるように合わせた。マウンターのプログラムにより焼結前駆体の隅部に1滴ずつ仮固定用組成物を塗布し、引き続き焼結前駆体上にアルミナチップのAgめっき面を重ね合わせ、0.8MPa、2秒の荷重をかけた。アルミナチップの重ね合わせ位置は、アルミナチップ及び焼結前駆体のそれぞれ対角線の交点を一致させ、更にアルミナチップと焼結前駆体部が各辺平行になるようにした。仮固定用組成物の塗布位置は、アルミナチップの各端部が各塗布物の中心となるようにした。これらの位置合わせは、マウンタープログラム内の画像処理にて行った。なお、塗布を含めたこれらの作業は室温22℃の下で行い、第2被接合材の予熱などは行わなかった。
【0056】
〔実施例6-10〕
表2に示すとおり、第2有機成分として、ノルマルデカンの代わりに4-(1’-アセトキシ―1’-メチルエチル)-シクロヘキサノールアセテート(25℃で液体、95%減少温度236℃)を用いた以外は、実施例1-5の(4)第1被接合材の重ね合わせまで同様にして作製した。
【0057】
〔実施例11〕
表3に示すとおり、第1有機成分として、ラウリン酸の代わりにステアリン酸メチル(25℃で固体、95%減少温度298℃)を用いた以外は、実施例6-10の(4)第1被接合材の重ね合わせまで同様にして作製した。
【0058】
〔実施例12〕
表3に示すとおり、第2有機成分として、ノルマルデカンの代わりにオレイルアルコール(25℃で液体、95%減少温度295℃)を用いた以外は、実施例1-5の(4)第1被接合材の重ね合わせまで同様にして作製した。
【0059】
〔実施例13〕
表3に示すとおり、第2有機成分として、ノルマルデカンの代わりにオレイン酸(25℃で液体、95%減少温度321℃)を用いた以外は、実施例1-5の(4)第1被接合材の重ね合わせまで同様にして作製した。
【0060】
〔実施例14〕
表3に示すとおり、第1有機成分として、ラウリン酸の代わりにパルミチルアルコール(25℃で固体、95%減少温度270℃)を用いた以外は、実施例6-10の(4)第1被接合材の重ね合わせまで同様にして作製した。
【0061】
〔比較例3〕
表4に示すとおり、第1有機成分として、ラウリン酸の代わりにステアリン酸(25℃で固体、95%減少温度314℃)を用いた以外は、実施例6-10の(4)第1被接合材の重ね合わせまで同様にして作製した。
【0062】
〔比較例4〕
表4に示すとおり、第1有機成分として、ラウリン酸の代わりに、ラウリルアルコール(25℃で液体、95%減少温度229℃)を用いた以外は、実施例6-10の(4)第1被接合材の重ね合わせまで同様にして作製した。
【0063】
<第1有機成分及び第2有機成分の95%質量減少温度>
第1有機成分及び第2有機成分について、窒素流通下、昇温速度2℃/minで25℃から40℃まで昇温し15分間保持後、昇温速度10℃/min、窒素流通下、試料質量30mgの条件で、ブルカー・エイエックスエス社製の示差熱・熱重量同時測定装置TG-DTA2000SAにより熱重量示差熱分析したときの質量95%減少温度から導出した。
【0064】
<固化時間の評価>
焼結前駆体に50℃にて仮固定用組成物を、室温22℃と同等の温度の第2被接合材へ滴下又は塗布してから仮固定用組成物が固化するまでの時間を固化時間とした。固化するとは、仮固定用組成物が滴下又は塗布後、増粘により白濁することを目視で確認できたときとした。また、固化後は焼結前駆体への浸透がなく、滴下物又は塗布物の大きさの経時的な変化はなかった。なお、比較例1は、第1有機成分の添加量が96質量%であることから塗布時の流動性が担保できず塗布不可となったため、固化時間の評価が行えず、データなし(-)とした。比較例3は、第1有機成分に窒素中での質量95%減少温度が314℃のものを用いたため、塗布時の流動性が担保できず塗布不可となり、固化時間の評価が行えず、データなし(-)とした。比較例2及び4については、塗布できたものの、固化しなかったため(×)とした。
【0065】
<タック性の評価>
アルミナチップを重ね合わせた後、24時間静置を行った。その後、前記の銅板とアルミナチップとの接合面が鉛直方向を向くように立て、5秒静置後、水平に戻した。この操作を計6回実施した。6回の操作のいずれにおいてもアルミナチップが銅板から脱落しない場合をA、いずれかの操作の段階で脱落したものをBとした。なお、比較例1及び比較例3については塗布不可となったため、タック性の評価が行えず、データなし(-)とした。
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
各表から明らかなように、実施例においては、固化時間が短く、タック性に優れることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明によれば、仮固定用組成物が固化時間の短いものとすることができる。それにより、当該仮固定用組成物の、接合材への経時的な浸透を抑制でき、二つの被接合材を接合する際のプロセス時間が長くても、該被接合材に対するタック性を担保することができる。
【要約】
本発明の仮固定用組成物は、25℃において固体であり、かつ、窒素中での質量95%減少温度が300℃以下である有機成分を42質量%以上95質量%以下の割合で含む。前記仮固定用組成物は、第1被接合材と第2被接合材とを接合するのに先立ち両者を仮固定するために使用される。本発明の接合構造体の製造方法は、第1被接合材と、第2被接合材との間に、該仮固定用組成物を介在させて両者を仮固定し、仮固定された両者に対して焼成を行い両者を接合する工程を含む。