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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】回転電機
(51)【国際特許分類】
   H02K 9/19 20060101AFI20240409BHJP
【FI】
H02K9/19 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021034657
(22)【出願日】2021-03-04
(65)【公開番号】P2022135072
(43)【公開日】2022-09-15
【審査請求日】2023-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 広輝
(72)【発明者】
【氏名】米田 啓洋
【審査官】所村 陽一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/179218(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/045516(WO,A1)
【文献】特開2019-170030(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 9/19
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータと、
ステータコア及びコイルを有し、前記ロータの回転中心よりも上側に締結用の径方向突出部を有するステータと、
前記ロータ及び前記ステータを収容し、前記径方向突出部が締結される収容部材と、
前記ロータの回転中心よりも上側、かつ、軸方向で前記ステータコアの延在範囲内に、軸方向に延在し、軸方向に視て前記径方向突出部よりも径方向外側に向けて油を吐出する吐出孔を有する油路部とを含む回転電機であって、
前記収容部材における前記ロータの回転中心よりも上側に設けられ、前記収容部材の内周面から径方向内側に突出し、上下方向に視て前記ステータコアに重なるリブ部をさらに有し
軸方向でリブ部の延在範囲内に、前記吐出孔が設けられ、
軸方向に視て前記油路部、前記径方向突出部、前記リブ部の順に位置する
回転電機。
【請求項2】
前記収容部材により収容される管状の部材を更に含み、
前記油路部は、前記管状の部材に形成される、請求項1に記載の回転電機。
【請求項3】
前記油路部は、前記収容部材に形成され、請求項1に記載の回転電機。
【請求項4】
前記油路部は、少なくとも一部が、軸方向に視て前記径方向突出部よりも径方向内側に位置する、請求項1から3のうちのいずれか1項に記載の回転電機。
【請求項5】
前記リブ部は、軸方向に視て前記径方向突出部よりも径方向外側に前記吐出孔から吐出された油のうちの、前記収容部材の内周面を伝う油を、前記ステータコアに向けて落下させる機能を有する、請求項1から4のうちのいずれか1項に記載の回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
ケースとの締結用の径方向突出部(「ボルト固定部」とも称される)を有するステータを備え、ロータの回転中心よりも上側に位置しかつ軸方向に延在するパイプ内の油路部を利用して、ステータコアの外周面に油を掛けてステータを冷却する技術が知られている。この技術では、ボルト固定部より下方の部分に油を適切に行き渡らせるために、回転機構によりパイプ自体を回転させて、パイプの吐出口から吐出される油の吐出方向を変化させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-170030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような従来技術では、回転機構を設ける等、複雑な構成であり、ステータを簡易な構成で適切に冷却することが難しい。
【0005】
そこで、1つの側面では、本開示は、径方向突出部を有するステータを簡易な構成で適切に冷却することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1つの側面では、ロータと、
ステータコア及びコイルを有し、前記ロータの回転中心よりも上側に締結用の径方向突出部を有するステータと、
前記ロータ及び前記ステータを収容し、前記径方向突出部が締結される収容部材と、
前記ロータの回転中心よりも上側、かつ、軸方向で前記ステータコアの延在範囲内に、軸方向に延在し、軸方向に視て前記径方向突出部よりも径方向外側に向けて油を吐出する吐出孔を有する油路部とを含む回転電機であって、
前記収容部材における前記ロータの回転中心よりも上側に設けられ、前記収容部材の内周面から径方向内側に突出し、上下方向に視て前記ステータコアに重なるリブ部をさらに有し
軸方向でリブ部の延在範囲内に、前記吐出孔が設けられ、
軸方向に視て前記油路部、前記径方向突出部、前記リブ部の順に位置する
回転電機が提供される。
【発明の効果】
【0007】
1つの側面では、本開示によれば、径方向突出部を有するステータを簡易な構成で適切に冷却することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施例による回転電機を概略的に示す平面図である。
図2】ステータの一例を示す斜視図である。
図3図1のラインA-Aに沿った概略的な断面図である。
図4図1のラインB-Bに沿った概略的な断面図である。
図5図1のラインC-Cに沿った概略的な断面図である。
図6図1のラインD-Dに沿った概略的な断面図である。
図7A】油路構造を概略的に示す図である。
図7B図4のラインE-Eに沿った断面図である。
図8】第1比較例による油路構造の説明図である。
図9】第2比較例による油路構造の説明図である。
図10】変形例による回転電機の要部の概略的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら各実施例について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率はあくまでも一例であり、これに限定されるものではなく、また、図面内の形状等は、説明の都合上、部分的に誇張している場合がある。また、図面では、見易さのために、複数存在する同一属性の部位には、一部のみしか参照符号が付されていない場合がある。
【0010】
図1は、本実施例による回転電機1を概略的に示す平面図である。図1には、右手座標系でX、Y、Z軸が定義されており、Y方向は、回転電機1の中心軸I0(設計上の中心軸I0)の延在方向に平行である。Z方向は、上下方向に対応し、Z方向正側は上側に対応する。なお、Z方向は、必ずしも重力方向と平行である必要はない。図1は、Y方向に視た平面図であり、ケース2の周壁部2aについてだけ断面図(XZ平面に沿った平面による断面)で示されている。以下では、軸方向、径方向、及び周方向は、中心軸I0まわりの回転体を基準とした方向を表す。図2は、ステータ3の一例を示す斜視図である。図3は、図1のラインA-Aに沿った概略的な断面図である。図4は、図1のラインB-Bに沿った概略的な断面図である。図5は、図1のラインC-Cに沿った概略的な断面図である。図6は、図1のラインD-Dに沿った概略的な断面図である。図3から図6には、Y方向に沿ったY1側(Y方向正側)とY2側(Y方向負側)が定義されている。
【0011】
回転電機1は、ケース2と、ステータ3と、ロータ4と、管状部材8とを含む。
【0012】
ケース2は、ステータ3を収容する室を形成する。ケース2は、ステータ3を支持する。ケース2は、例えばアルミによる鋳造により形成されてよい。ケース2は、2つ以上のケース部材により実現されてもよい。また、ケース2は、回転電機1以外の要素(例えば、図示しないインバータや動力伝達機構)が収容される室の一部を形成してもよい。
【0013】
ケース2は、締結部20と、ステータ保持部22と、側壁部26と、リブ部28とを有する。
【0014】
締結部20は、ケース2にステータ3を締結するための部位である。締結部20は、軸方向に視て、中心軸I0まわりに複数箇所設けられてもよい。本実施例では、一例として、締結部20は、後述するステータ3の径方向突出部34に合わせて、120度間隔で、3箇所設けられている。締結部20のそれぞれは、XZ平面に平行な座面部(径方向突出部34用の座面部)を形成するとともに、締結穴202(図3参照)を有する。締結穴202のそれぞれには、ボルトのような締結具90が螺着されてよい。なお、以下では、3つの締結部20のうちの、上側の締結部20を、「締結部20-1」とも表記する。
【0015】
ステータ保持部22は、ステータ3の姿勢を保つ機能(例えばステータ3の傾斜を防止する機能であり、「ステータ保持機能」とも称する)を有する。ステータ保持部22は、このようなステータ保持機能を実現するために、湾曲状の保持面221を形成する。湾曲状の保持面221は、軸方向に延在し、かつ、ステータコア31の外周面に対して径方向に対向する。湾曲状の保持面221とステータコア31の外周面との間の径方向の隙間(クリアランス)Δ0(図5参照)は、略0のような非常に小さい値であってよく、例えばステータコア31の外径の設計値(ノミナル値)に対する取りうる誤差範囲(許容公差等によって変動しうる範囲)の最大値に対応してよい。この場合、ステータコア31の個体によっては、湾曲状の保持面221は、ステータコア31の外周面に対して径方向に当接する場合がありうる。あるいは、湾曲状の保持面221とステータコア31の外周面との間の径方向の隙間Δ0(図5参照)は、ステータコア31の外径の設計値に対する取りうる誤差範囲の最大値よりもわずかに大きい値であってよい。いずれの場合でも、ステータ3の軸心が正規の中心軸I0に対して傾斜する態様でステータ3の姿勢が変化しようとすると、ステータコア31の外周面が湾曲状の保持面221に当たる。このようにして、ステータ保持機能によりステータ3の姿勢の変化が抑制される。以下では、隙間Δ0は、略0であるとして説明を続ける。
【0016】
湾曲状の保持面221は、好ましくは、中心軸I0まわりの円筒体の外周面の一部である。すなわち、湾曲状の保持面221は、好ましくは、正規の形態のステータコア31の外周面を径方向外側にオフセットした面により形成される。この場合、ステータコア31の外径が設計値(ノミナル値)どおりであるとき、湾曲状の保持面221とステータコア31の外周面との間の径方向の隙間Δ0(図5参照)は、湾曲状の保持面221の全周にわたって一定となる。
【0017】
ステータ保持部22は、複数設けられてもよい。本実施例では、ステータ保持部22は、締結部20-1を周方向に挟む関係で、周方向で締結部20-1の両側に設けられる。以下では、周方向で締結部20-1の両側に設けられる2つのステータ保持部22を、「対のステータ保持部22」とも称する。なお、ステータ保持部22は、周方向で締結部20-1の両側以外にも、設けられてもよい。図1に示す例では、ステータ保持部22は、締結部20のそれぞれの両側で対をなす態様で、合計3つ設けられる。
【0018】
ステータ保持部22(湾曲状の保持面221)の周方向の設定範囲(ステータコア31の全周におけるステータ保持部22に径方向で対向する周方向範囲)は、ステータ保持部22によるステータ保持機能が適切に実現されるように適合される。なお、ステータ保持部22の周方向の設定範囲が大きいほど、材料コストが増加する傾向があるので、ステータ保持部22の周方向の設定範囲は必要最小限に留められてよい。本実施例では、ステータ保持部22は、締結部20のそれぞれの両側で対をなす態様で、周方向で分散して配置されるので、効率的な配置を実現できる。
【0019】
同様に、ステータ保持部22(湾曲状の保持面221)の軸方向の設定範囲(ステータコア31の軸方向の全長におけるステータ保持部22に径方向で対向する軸方向範囲)は、ステータ保持部22によるステータ保持機能が適切に実現されるように適合される。なお、ステータ保持部22の軸方向の設定範囲が大きいほど、材料コストが増加する傾向があるので、ステータ保持部22の軸方向の設定範囲は必要最小限に留められてよい。
【0020】
側壁部26は、対のステータ保持部22よりもY方向Y2側において、中心軸I0に対して同心状に周方向に延在する。側壁部26は、Y方向Y2側で対のステータ保持部22のそれぞれに軸方向に隣接して設けられる。すなわち、側壁部26は、対のステータ保持部22のY2側の端部からY2側へと連続する態様で設けられる。なお、側壁部26は、対のステータ保持部22のそれぞれに別々に設けられてもよいし、周方向につながる態様で一体的に設けられてもよい。また、側壁部26は、締結部20よりもY2側に延在してよい。
【0021】
側壁部26は、径方向で湾曲状の保持面221よりも中心軸I0から離れる。図5に示す例では、側壁部26は、ステータコア31に径方向で対向することなく、Y2側のコイルエンド322に径方向で対向する。ただし、変形例では、側壁部26は、ステータコア31のY2側の端部に径方向で対向しかつY2側のコイルエンド322に径方向で対向してもよい。
【0022】
リブ部28は、ケース2に設けられる。本実施例では、リブ部28は、ケース2と一体に形成される。ただし、リブ部28は、ケース2とは別体に形成され、ケース2に取り付けられてもよい。リブ部28は、ケース2の周壁部2aの内周面20aから径方向内側に突出する。
【0023】
リブ部28は、ケース2の周壁部2aの内周面20aとステータ3との間の円環状の空間において、軸方向かつ径方向に延在する。すなわち、リブ部28は、ロータコア40の径方向外側、かつ、ケース2の周壁部2aの径方向内側で、軸方向かつ径方向に延在する。リブ部28は、径方向に視てステータコア31に重なる範囲内に延在する。すなわち、リブ部28は、ステータコア31の軸方向の延在範囲で軸方向に延在する。リブ部28は、径方向内側の端部がステータコア31の外周面に対して径方向で離間する態様で、径方向に延在する。
【0024】
本実施例では、リブ部28は、図5に示すように、Y2側がステータ保持部22に連続し、ステータ保持部22からY1側にY方向に延在する。そして、リブ部28は、図5に示すように、Y1側においては、ステータコア31のY1側端部と略同じ軸方向位置まで延在する。ただし、変形例では、リブ部28は、Y1側において、径方向に視てコイルエンド321と重なる軸方向位置まで延在してもよいし、図5に示す軸方向位置よりもY2側までしか延在しなくてもよい。
【0025】
リブ部28は、周方向で管状部材8との間に、締結部20-1(及びそれに伴い締結部20-1に締結される締結用の径方向突出部34)を挟む周方向位置に設けられる。すなわち、リブ部28は、締結部20-1が軸方向に視てリブ部28と管状部材8との間に位置するような周方向位置に設けられる。
【0026】
リブ部28は、後に図7Bを参照して後述するように、ケース2の周壁部2aの内周面20aを伝う油を、ステータコア31の外周面へと落下させる機能(以下、「油落下機能」とも称する)を有する。この油落下機能を実現するため、リブ部28は、上下方向(Z方向)に視て、ステータコア31に重なる。
【0027】
なお、リブ部28は、複数個分離して設けられてもよい。例えば、リブ部28は、軸方向に分離して複数個設けられてもよいし、周方向の異なる位置に複数個設けられてもよい。
【0028】
また、リブ部28の形態は、油落下機能を実現できる限り任意であり、例えば、湾曲部や屈曲部を有してもよい。なお、本実施例では、一例として、リブ部28は、軸方向に視て、矩形の形態である。この場合、リブ部28は、径方向内側に向かうほど周方向の幅が徐々に小さくなるテーパ状の形態を有してもよい。
【0029】
ステータ3は、中心軸I0に対して同心状に設けられる。すなわち、ステータ3の中心軸(軸心)は、中心軸I0と一致する。ステータ3は、ステータコア31と、コイル32とを有する。
【0030】
ステータコア31は、例えば電磁鋼板を積層して形成されてもよい。コイル32は、例えば断面平角状のコイル線の形態であり、ステータコア31のスロット311に巻装される。コイル32は、ステータコア31の軸方向両側に、コイルエンド321、322を形成する。
【0031】
本実施例では、ステータ3は、締結用の径方向突出部34を有する。締結用の径方向突出部34は、径方向に突出する形態であり、「ボルト固定部」とも称される。締結用の径方向突出部34は、ステータ3をケース2に締結により固定するために設けられる。径方向突出部34は、ステータコア31と一体的に形成されてもよいし、別体として形成されてステータコア31に結合されてもよい。締結用の径方向突出部34は、図2に示すように、ステータコア31の軸方向の全長にわたって設けられてよい。また、締結用の径方向突出部34は、周方向に等間隔で設けられてもよい。図2に示す例では、径方向突出部34は、120度間隔で、3箇所設けられている。
【0032】
締結用の径方向突出部34のそれぞれは、締結孔341を有する。締結孔341は、例えば軸方向に貫通する態様で形成される。締結孔341のそれぞれには、締結具90が挿通される。ステータ3は、図2及び図3に示すように、締結孔341を通る締結具90がケース2の締結部20に螺着されることで、ケース2に締結固定される。
【0033】
ロータ4は、ステータ3の径方向内側に設けられる。ロータ4は、図4に概略的に示すように、ロータコア40と、ロータシャフト42とを含む。
【0034】
ロータコア40は、例えば電磁鋼板を積層して形成されてもよい。ロータコア40には、永久磁石(図示せず)が埋設されてよい。
【0035】
ロータシャフト42は、好ましくは、図4に示すように、中空の部材である。この場合、ロータシャフト42の中空内部の軸心油路86に油を供給でき、油によりロータコア40及び/又は永久磁石を径方向内側から冷却できる。なお、ロータシャフト42は、遠心力を利用して軸心油路86内の油を、コイルエンド321、322に向けて吐出可能な油孔(図示せず)を有してもよい。
【0036】
管状部材8は、ケース2の周壁部2aの内周面20aとステータ3との間の円環状の空間において、軸方向に延在する。すなわち、管状部材8は、ロータコア40の径方向外側、かつ、ケース2の周壁部2aの径方向内側で、軸方向に延在する。以下では、管状部材8とは、特に言及しない限り、全体として管状部材のうちの、径方向でステータ3に重なる範囲内に延在する部分を指す。管状部材8は、径方向でステータ3に重なる範囲外では、径方向に屈曲等されてよい。なお、管状部材8は、例えば、Y1側からケース2内に挿入され、Y2側で自由端を有してよい。この場合、管状部材8は、Y2側の端部が閉塞された形態であってよい。例えば、管状部材8のY2側の端部(自由端)は、別部材である栓部材により閉塞されてよい。なお、変形例では、管状部材8は、例えば、Y2側からケース2内に挿入され、Y1側で自由端を有してよいし、自由端を有さずに、内部空間(油路80)がケース内油路(図示せず)に連通する構成であってもよい。
【0037】
管状部材8は、中心軸I0よりも上側に配置される。管状部材8は、好ましくは、ステータコア31の最も高い位置(径方向突出部34を除く部分の最も高い位置)よりも高い位置に設けられる。これにより、管状部材8から吐出される油によりステータ3を上から効率的に冷却できる。例えば、管状部材8は、図1に示すように、ケース2の周壁部2aの内周面20aとステータ3との間の円環状の空間のうちの、天頂部付近に設けられてもよい。なお、図1に示す例では、管状部材8は、中心軸I0まわりの最も上側の位置(天頂位置)に設定されるが、天頂位置に対して若干ずれた位置(例えば45度以内の位置)に設定されてもよい。
【0038】
管状部材8は、内部が油路80を形成する。管状部材8は、好ましくは、中空のパイプ状の形態である。この場合、管状部材8は、既存のパイプ材料により容易に形成できる。
【0039】
管状部材8の断面形状(XZ平面で切断した際の断面形状)は、例えば円形であるが、他の形状(例えば矩形)あってもよい。また、管状部材8の断面形状は、軸方向の略全長にわたって一定であってよい。なお、管状部材8の中心軸I1は、中心軸I0から同一距離(同一の径)であってよい。すなわち、管状部材8の中心軸I1は、中心軸I0と平行であってよい。
【0040】
管状部材8は、好ましくは、ケース2を含めた回転電機1全体としての径方向の体格の増加の要因となり難い径方向の位置に設けられる。例えば、管状部材8の最も径方向内側は、径方向で径方向突出部34の最も径方向外側よりも中心軸I0に近い。この場合、管状部材8の最も径方向外側が、径方向で中心軸I0から過大に離れてしまうことがないので、管状部材8に起因して回転電機1全体としての径方向の体格が増加してしまう可能性を、低減できる。
【0041】
本実施例では、管状部材8は、図4に示すように、ステータコア31の外周面に対して比較的小さい隙間Δ1だけ離れる態様で、ステータコア31の外周面に近接して設けられる。図4に示す例では、管状部材8とステータコア31の外周面との間の径方向の隙間Δ1(図4参照)は、上述したΔ0(図5参照)よりもわずかに大きくてよい。すなわち、管状部材8は、対のステータ保持部22(湾曲状の保持面221)よりも中心軸I0からわずかに離されている。このような隙間Δ1は、後述する油孔81からの油の吐出が可能となるような最小限の値であってよい。
【0042】
管状部材8は、図4に示すように、油路80に連通する油孔81を有する。油孔81は、軸方向一方側(Y1側)のコイルエンド321に向けて油を吐出できるように形成される。油孔81は、周方向に沿って及び/又は軸方向に沿って、複数設けられてもよい。この場合、油孔81は、コイルエンド321に向けて多様な方向で油を吐出でき、コイルエンド321の全周にわたって、より均一に冷却できる。例えば、軸方向に視て、コイルエンド321の外周部に対して接線方向に油を吐出するような油孔81が形成されてもよい。なお、コイルエンド321は、反リード側に延在してよい。
【0043】
また、管状部材8は、図4に示すように、油路80に連通する油孔82を有する。油孔82は、軸方向他方側(Y2側)のコイルエンド322に向けて油路80内の油を吐出できるように形成される。油孔82は、周方向に沿って及び/又は軸方向に沿って、複数設けられてもよい。この場合、油孔82は、コイルエンド322に向けて多様な方向で油を吐出でき、コイルエンド322の全周にわたって、より均一に冷却できる。例えば、軸方向に視て、コイルエンド322の外周部に対して接線方向に油を吐出するような油孔82が形成されてもよい。なお、コイルエンド322は、リード側に延在してよい。
【0044】
管状部材8は、Y1側のコイルエンド321に径方向で対向する油孔81に加えて、ステータコア31の外周面に径方向で対向する同様の油孔83、84を備える。
【0045】
油孔83は、軸方向でステータコア31の延在範囲内において、ステータコア31の軸方向の中心位置よりもY1側に設けられる。本実施例では、図4及び図5に示すように、油孔83は、軸方向でリブ部28の延在範囲内に、配置される(図7Bも参照)。油孔83は、周方向に沿って及び/又は軸方向に沿って、複数設けられてもよい。この場合、油孔83は、ステータコア31に向けて多様な方向で油を吐出でき、ステータコア31の全周にわたって、より均一に冷却できる。
【0046】
本実施例では、図7Bを参照して、後で詳説するが、油孔83は、周方向で径方向突出部34が配置されない側に油を吐出するための油孔830(図7B参照)と、周方向で径方向突出部34が配置される側に油を吐出するための油孔831(図7B参照)とを含む。例えば、油孔830は、軸方向に視て、ステータコア31の外周面に対して接線方向に油を吐出するような形成されてもよい。なお、油孔83は、油孔830と油孔831に加えて、真下(例えば中心軸I0に向かう方向に略同じ方向)に油を吐出する孔を含んでもよい。
【0047】
油孔84は、ステータコア31の軸方向の中心位置よりもY2側に設けられる。油孔84は、周方向に沿って及び/又は軸方向に沿って、複数設けられてもよい。この場合、油孔84は、ステータコア31に向けて多様な方向で油を吐出でき、ステータコア31の全周にわたって、より均一に冷却できる。例えば、軸方向に視て、ステータコア31の外周面に対して接線方向に油を吐出するような油孔84が形成されてもよい。
【0048】
本実施例では、上述したように、管状部材8は、ステータコア31の外周面との間に径方向の隙間Δ1を有するので、かかる油孔83、84(ステータコア31に径方向に対向する油孔83、84)からステータコア31の外周面へ油を吐出できる。これにより、ステータコア31を介して、スロット311内のコイル32を冷却できる。
【0049】
なお、本実施例では、管状部材8は、1本だけであるが、2本以上設けられてもよい。
【0050】
次に、図7Aを参照して、本実施例による管状部材8から吐出される油の流れについて説明する。
【0051】
図7Aは、本実施例による管状部材8を含む油路構造を概略的に示す図である。図7Aには、矢印R1から矢印R6により油の流れが模式的に示されている。
【0052】
本実施例による油路構造は、第1供給油路8aと、第2供給油路8bと、上述した油路80(管状部材8)と、上述した軸心油路86とを含む。
【0053】
第1供給油路8aは、油路80に連通する。第2供給油路8bは、軸心油路86に連通する。第1供給油路8a及び第2供給油路8bは、互いに接続され、油供給位置P1から油が供給される。なお、油は、オイルポンプ89及びオイルクーラ88を介して供給されてよい。
【0054】
第1供給油路8aに供給される油(矢印R2参照)は、油路80へと流入する(矢印R3参照)。油路80に流入した油は、油孔81を介してコイルエンド321に向けて吐出される(矢印R4参照)とともに、油孔82を介してコイルエンド322に向けて吐出される(矢印R7参照)。また、油孔83、84を介してステータコア31に向けて吐出される(矢印R5、R6参照)。
【0055】
第2供給油路8bに供給される油(矢印R1参照)は、軸心油路86に供給され、上述したように、ロータコア40及び/又は永久磁石の冷却に供される。
【0056】
なお、本実施例では、上述したように、油路80(管状部材8)は、Y1側の油孔81、83に加えて、Y2側の油孔82、84を有するが、油路80は、油孔81、83のみを有してもよいし、油孔81、83、84のみを有してもよい。この場合、コイルエンド322を冷却するための油路は、第2供給油路8b側に形成されてもよい。また、軸心油路86は、油路80とともに第1供給油路8aに接続されてもよい。また、油路80は、油孔83のみを有してもよいし、油孔83、84のみを有してもよい。
【0057】
次に、図7Bを参照して、油孔83から吐出される油の流れとリブ部28の油落下機能について説明する。以下の説明において、径方向突出部34とは、3つの径方向突出部34のうちの、上側の径方向突出部34を指す。
【0058】
図7Bは、図1に示すQ1部の範囲内における断面図であり、油孔831を通るラインE-E(図4参照)に沿った断面図である。図7Bには、矢印R60から矢印R65で油の流れが模式的に示されている。また、図7Bには、比較対照用の油の流れが点線の矢印R71及び矢印R72で模式的に示されている。
【0059】
管状部材8の油路80を流れる油は、図7Bに示すように、油孔83(油孔830、831)を介してステータコア31とケース2の内周面20aとの間の空間に吐出される。本実施例では、油孔83は、上述したように、周方向で径方向突出部34が配置されない側に油を吐出するための油孔830と、周方向で径方向突出部34が配置される側に油を吐出するための油孔831とを含む。
【0060】
油孔830は、矢印R60に示すように、ステータコア31の外周面に油が当たる態様で、径方向内側に油を吐出する。例えば、油孔830からの油の吐出方向は、ステータコア31の外周面に沿う方向(軸方向に視たときの接線方向)に適合されてもよい。これにより、周方向で径方向突出部34が配置されない側においては、油孔830から吐出された油は、ステータコア31の外周面を伝って重力により下方へと流れるので、ステータコア31(ステータコア31及びスロット311内のコイル32)を適切に冷却できる。
【0061】
これに対して、油孔831は、矢印R61に示すように、軸方向に視て径方向突出部34よりも径方向外側に向けて油を吐出する。例えば、油孔831からの油の吐出方向は、図7Bに示すように、ラインL7に沿った径方向突出部34の最外径位置P1とケース2の内周面20aの位置P2との間の、任意の位置に向かう方向であってよい。この場合、ラインL7は、軸方向に視て、中心軸I0を通り径方向突出部34の中心(例えば締結具90の中心)を通る直線であってよい。
【0062】
このような油の吐出方向を実現するために、油孔831は、図7Bに示すように、油孔830よりも上向きに開口し、かつ、油孔830よりも上側に配置されてもよい。
【0063】
また、油孔831は、吐出された油がケース2の内周面20aに安定的に当たるような位置及び向きで形成されてよい。この際、ケース2の内周面20aにおける油の当たる位置は、位置P2よりもリブ部28側であってよい。これにより、ケース2の内周面20aを伝ってリブ部28に向かう油の流れ(矢印R62参照)を安定的に形成できる。なお、変形例では、油孔831は、リブ部28の側面281(径方向突出部34側の側面281)に安定的に当たるような位置及び向きで形成されてよい。
【0064】
ここで、本実施例では、油孔831からの油の吐出側には、油孔830とは異なり、径方向突出部34が配置されている。従って、油孔831からの油の吐出方向が、油孔830と同様に、ステータコア31の外周面に油が直接的に当たる方向であると、径方向突出部34によって油の流れが阻まれる(矢印R71参照)。このような場合、周方向で径方向突出部34が配置される側においては、ステータコア31を適切に冷却できないおそれがある(図8を参照して後述)。
【0065】
これに対して、本実施例では、油孔831からの油の吐出側に径方向突出部34が配置されているものの、油孔831からの油の吐出方向が、上述したように、軸方向に視て径方向突出部34よりも径方向外側に向かう方向である。これにより、径方向突出部34によって油の流れが阻まれる(矢印R71参照)可能性を低減できる。
【0066】
ところで、本実施例では、油孔831からの油の吐出方向が、上述したように、軸方向に視て径方向突出部34よりも径方向外側に向かう方向であることから、径方向突出部34に阻害されない油の流れを実現できる反面、ケース2の内周面20aを伝って流れる油が生じる。ケース2の内周面20aを伝って流れる油は、そのまま、ケース2の内周面20aを伝って回転電機1の下方へと重力により流れていく傾向がある(矢印R72参照)。このような油の流れは、ステータコア31の冷却に有意に寄与しないので、周方向で径方向突出部34が配置される側においては、依然として、ステータコア31を適切に冷却できないおそれがある。
【0067】
これに対して、本実施例では、上述したように、リブ部28が設けられるので、リブ部28の油落下機能により、ケース2の内周面20aを伝って回転電機1の下方へと重力により流れていく油(矢印R72参照)を低減又は無くすことができる。
【0068】
具体的には、ケース2の内周面20aを伝う油は、リブ部28の側面281側の根本(内周面20a側の端部)に至ると、リブ部28により流れが阻害されることにより、リブ部28の側面281を伝って径方向内側に流れる(矢印R63参照)。リブ部28の側面281を伝って径方向内側に流れる油は、リブ部28の径方向内側の端部から重力により下方へと落下する(矢印R64参照)。そして、落下した油は、ステータコア31の外周面に当たる。すなわち、本実施例では、リブ部28は、上述したように、上下方向に視てステータコア31と重なるので、リブ部28から落下する油は、ステータコア31の外周面により受けられる。この結果、リブ部28から落下する油は、その後、ステータコア31の外周面を伝って重力により下方へと流れることができる(矢印R65参照)。このような油によって、ステータコア31(ステータコア31及びスロット311内のコイル32)を適切に冷却できる。
【0069】
このようにして、本実施例によれば、油孔831からの油の吐出方向を適切に設定しかつリブ部28の油落下機能を実現することで、周方向で径方向突出部34が配置される側においても、ステータコア31(ステータコア31及びスロット311内のコイル32)を適切に冷却できる。
【0070】
次に、図8及び図9を参照して、比較例との対比で、上述した油孔83によるステータ3(ステータコア31及びスロット311内のコイル32)の冷却に関して本実施例の効果を説明する。
【0071】
図8は、第1比較例による油路構造6Aの説明図であり、軸方向に視たときの油路構造6Aとステータ3とを概略的に示す図である。図8には、矢印R70、R71により油の吐出方向が模式的に示されるとともに、ハッチング領域S1により、吐出される油のカバー範囲(冷却可能エリア)が模式的に示されている。
【0072】
第1比較例による油路構造6Aは、管状部材600が本実施例と同様に設けられるものの、管状部材600からの油の吐出方向が、周方向のいずれの側においても、ステータ3の外周面に向かう方向である。
【0073】
このような第1比較例の場合、管状部材600を、図8に示すように、径方向突出部34と同様の径方向位置に配置すると、径方向突出部34によって油の放射が妨げられやすい(矢印R70に比べた矢印R71参照)。その結果、ハッチング領域S1に示すように、ステータコアに対する管状部材600から吐出される油のカバー範囲(ステータコアにおける冷却可能エリア)が、周方向に均一にならず、冷却不良が発生しやすくなる。
【0074】
これに対して、本実施例では、上述したように、管状部材8の油孔83のそれぞれから吐出される油に基づいて、周方向で管状部材8(又は径方向突出部34)のそれぞれの側において、ステータコア31及びスロット311内のコイル32に対して均一な冷却を実現できる。
【0075】
図9は、第2比較例による油路構造6Bの説明図であり、軸方向に視たときの油路構造6Bとステータ3とを概略的に示す図である。
【0076】
第2比較例による油路構造6Bは、ケースとは別体の管状部材600がY方向に延在する構成である。第2比較例では、上述した第1比較例とは異なり、管状部材600が径方向突出部34に比べてステータ3から離れた径方向位置に配置される。この場合、径方向突出部34によって油の放射が妨げられない(矢印R80に比べた矢印R81参照)ので、第1比較例で生じる不都合の一部を解消できる。
【0077】
しかしながら、このような第2比較例の場合、管状部材600がステータ3から離れた径方向位置に配置されることから、回転電機全体としての径方向の体格が大きくなりやすい。すなわち、管状部材600の搭載スペース分だけ、回転電機全体としての径方向の体格が大きくなりやすい。
【0078】
これに対して、本実施例では、上述したように、管状部材8は、径方向突出部34と同様の径方向位置に位置するので、管状部材8に起因して回転電機1全体としての径方向の体格が大きくなることを、防止できる。このようにして、本実施例によれば、ケース2を含めた回転電機1全体としての径方向の体格の低減及びコスト低減を図りつつ、周方向に均一な冷却を実現できる油路80を成立させることができる。
【0079】
次に、図10を参照して、上述した実施例に対する変形例について説明する。
【0080】
図10は、本変形例による回転電機1Aの要部の概略的な断面図であり、上述した図4に対応する断面(図1のラインB-Bに沿った断面)を示す図である。
【0081】
本変形例による回転電機1Aは、上述した実施例による回転電機1に対して、ケース2がケース2Aで置換された点が異なる。上述した実施例では、管状部材8が設けられるが、本変形例では、管状部材8に代えて、ケース2Aに形成した油路80Aにより同様の機能が実現される。具体的には、ケース2Aのステータ保持部22には、軸方向にY1側へと延在する油路形成部24が設けられる。油路形成部24は、ステータ保持部22と一体的に形成される。油路形成部24及びステータ保持部22には、油路80Aが形成される。油路80A自体は、上述した油路80と同じ構成であってよい。すなわち、油路80Aは、上述した油孔830、831等を備える。なお、図10では、油路80Aは、Y1側端部が閉塞されており、Y2側から油が供給されてよい。本変形例によれば、部品点数の低減を図りつつ、上述した実施例による効果を得ることができる。また、油路形成部24がステータ保持部22とは異なる管状の形態である場合には、ステータ保持部22の周方向の設定範囲を最小限に留めつつ(これにより、材料コストの低減を図りつつ)、ステータコア31(ステータコア31及びスロット311内のコイル32)やY1側のコイルエンド321を冷却する油路80Aを形成できる。
【0082】
以上、各実施例について詳述したが、特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、種々の変形及び変更が可能である。また、前述した実施例の構成要素を全部又は複数を組み合わせることも可能である。また、各実施形態の効果のうちの、従属項に係る効果は、上位概念(独立項)とは区別した付加的効果である。
【0083】
例えば、上述した実施例では、リブ部28は、ケース2と一体に形成されているが、ケース2とは別体であってもよく、その場合、リブ部28は、ケース2に溶接や固定具等により固定されてもよい。
【符号の説明】
【0084】
1・・・回転電機、3・・・ステータ、4・・・ロータ、8・・・管状部材(油路部)、31・・・ステータコア、32・・・コイル、34・・・径方向突出部、2・・・ケース(収容部材)、20a・・・内周面、24・・・油路形成部(管状の部材)、28・・・リブ部、80・・・油路、83(831)・・・油孔(吐出孔)、I0・・・中心軸(回転中心)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9
図10