IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アイシン精機株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-ハロゲン化物イオン電池用電解液 図1
  • 特許-ハロゲン化物イオン電池用電解液 図2
  • 特許-ハロゲン化物イオン電池用電解液 図3
  • 特許-ハロゲン化物イオン電池用電解液 図4
  • 特許-ハロゲン化物イオン電池用電解液 図5
  • 特許-ハロゲン化物イオン電池用電解液 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】ハロゲン化物イオン電池用電解液
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/36 20100101AFI20240409BHJP
【FI】
H01M10/36 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023503984
(86)(22)【出願日】2022-03-04
(86)【国際出願番号】 JP2022009546
(87)【国際公開番号】W WO2022186394
(87)【国際公開日】2022-09-09
【審査請求日】2023-04-13
(31)【優先権主張番号】P 2021034413
(32)【優先日】2021-03-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上坊寺 亨
(72)【発明者】
【氏名】佐口 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 規史
【審査官】村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/093272(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第111261954(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第四級アルキルアンモニウムフルオライド塩又はその水和物を9.0~11.0mol/kg含有する水溶液である、フッ化物イオン電池用電解液。
【請求項2】
前記水溶液中に含まれる前記第四級アルキルアンモニウムフルオライド塩又はその水和物が1種のみである、請求項1に記載のフッ化物イオン電池用電解液。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のフッ化物イオン電池用電解液を備える、フッ化物イオン電池。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のフッ化物イオン電池用電解液の製造方法であって、
前記第四級アルキルアンモニウムフルオライド塩又はその水和物に対して、水を滴下する工程
を備え、
前記水の滴下量が、前記第四級アルキルアンモニウムフルオライド塩又はその水和物100質量部に対して、13~30質量部である、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲン化物イオン電池用電解液に関する。
【背景技術】
【0002】
金属活物質へのハロゲン化物イオンのシャトル機構により充放電するハロゲン化物イオン電池は、ポストリチウムイオン電池の一つとして注目されており、特に、既存の電池にはない特に優れた体積エネルギー密度を有するハロゲン化物イオン電池の開発が期待されている。ハロゲン化物イオンのなかでも、特に、フッ化物イオンは、陰イオンのなかでサイズが最も小さく、電荷輸送に有益であるため、フッ化物イオン電池が特に注目されている。
【0003】
ハロゲン化物イオン電池のなかでも、従来から知られているフッ化物イオン電池は、高温で、イオン液体、有機電解液又は固体電解質を用いて作動する電池が多く報告されている。
【0004】
このため、ハロゲン化物イオン電池をより低温で充放電を行うことができるハロゲン化物イオン電池が模索されている。
【0005】
例えば、非特許文献1では、テトラアルキルアンモニウムフルオリドのエーテル溶液からなる電解質を用いた室温動作型のフッ化物イオン電池が報告されている。
【0006】
また、非特許文献2には、0.8mol/LのNaFを電解質に用いた水系フッ化物イオン電池が報告されている。非特許文献2では、フッ化物イオン電池が、水溶液中で動作することを示した初めての報告であるとされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Science.362,1144-1148(2018)
【文献】J.Electrochem.Soc.,166,A2419-A2424(2019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、非特許文献1では、テトラアルキルアンモニウムフルオリドの各種有機溶媒への溶解度は、最大でも2.3mol/L程度であったため、pHは8以下である。また、非特許文献2でも、NaFの濃度は0.8mol/Lであるため、pHは7未満である。このため、非特許文献1及び2ともに、反応中間体として遊離したフッ化水素が生成する可能性があり、安全性に懸念がある。
【0009】
また、非特許文献1においては、エーテル系電解質を用いているため、電解質の引火性が高く安全性にも懸念がある。
【0010】
また、非特許文献2では、NaFを使用しているために、電位窓が1.4Vと狭いため、高容量のハロゲン化物イオン電池は期待できない。
【0011】
本発明は、上記のような課題を解決しようとするものであり、安全性に優れ、電位窓が広いハロゲン化物イオン電池用電解質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、第四級アルキルアンモニウムハライド塩の濃厚水溶液は、含まれる水の状態が変化して強塩基となるためにフッ化水素が生成し得ないとともに、希薄水溶液の場合と比較して電位窓が著しく拡大することを見出した。この第四級アルキルアンモニウムハライド塩の濃厚水溶液は、第四級アルキルアンモニウムハライド塩に対して水を少量滴下することで、予想外にも製造することができた。本発明は、このような知見に基づいて更に研究を重ねた結果、完成されたものである。即ち、本発明は、以下の構成を包含する。
【0013】
項1.第四級アンモニウムハライド塩又はその水和物を9.0~11.0mol/kg含有する水溶液である、ハロゲン化物イオン電池用電解液。
【0014】
項2.前記水溶液中に含まれる前記第四級アンモニウムハライド塩又はその水和物が1種のみである、項1に記載のハロゲン化物イオン電池用電解液。
【0015】
項3.前記第四級アンモニウムハライド塩又はその水和物が第四級アンモニウムフルオライド塩又はその水和物である、項1又は2に記載のハロゲン化物イオン電池用電解液。
【0016】
項4.フッ化物イオン電池用電解液である、項1~3のいずれか1項に記載のハロゲン化物イオン電池用電解液。
【0017】
項5.項1~4のいずれか1項に記載のハロゲン化物イオン電池用電解液を備える、ハロゲン化物イオン電池。
【0018】
項6.フッ化物イオン電池である、項5に記載のハロゲン化物イオン電池。
【0019】
項7.項1~4のいずれか1項に記載のハロゲン化物イオン電池用電解液の製造方法であって、
前記第四級アンモニウムハライド塩又はその水和物に対して、水を滴下する工程
を備え、
前記水の滴下量が、前記第四級アンモニウムハライド塩又はその水和物100質量部に対して、13~30質量部である、製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、安全性に優れ、電位窓が広いハロゲン化物イオン電池用電解質を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】試験例1(実施例1~2及び比較例1~2の水溶液を用いたサイクリックボルタンメトリー)による電位窓測定の結果を示すグラフである。
図2】試験例1(テトラエチルアンモニウムフルオリド塩のモル濃度の異なる水溶液を用いたサイクリックボルタンメトリー)による電位窓測定の結果を示すグラフである。
図3】試験例2(テトラエチルアンモニウムフルオリド塩のモル濃度の異なる水溶液における水溶液濃度とpHとの関係)の結果を示すグラフである。
図4】試験例2(テトラブチルアンモニウムフルオリド塩のモル濃度の異なる水溶液における水溶液濃度とpHとの関係)の結果を示すグラフである。
図5】試験例3(実施例1の水溶液を用いた正極活物質及び負極活物質がCu又はCuFの場合のハーフセルの充放電曲線)の結果を示すグラフである。
図6】実施例1及び比較例1で得られた水溶液を用いて、製造例1の方法で製造した三極式電解セルによる充放電試験を2サイクル行った後の概観を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本明細書において、「含有」は、「含む(comprise)」、「実質的にのみからなる(consist essentially of)」、及び「のみからなる(consist of)」のいずれも包含する概念である。
【0023】
また、本明細書において、数値範囲を「A~B」で示す場合、A以上B以下を意味する。
【0024】
また、本明細書において、ハロゲン化物イオン電池としては、ハロゲン化物イオンを電荷担体として動作することができる電池を意味しており、ハロゲン化物イオン一次電池及びハロゲン化物イオン二次電池のいずれも包含する。
【0025】
また、本明細書において、フッ化物イオン電池としては、フッ化物イオンを電荷担体として動作することができる電池を意味しており、フッ化物イオン一次電池及びフッ化物イオン二次電池のいずれも包含する。
【0026】
1.ハロゲン化物イオン電池用電解液
本発明のハロゲン化物イオン電池用電解液は、第四級アンモニウムハライド塩又はその水和物を9.0~11.0mol/kg含有する水溶液である。
【0027】
第四級アンモニウムハライド塩としては、特に制限されないが、例えば、一般式(1):
【0028】
【化1】
【0029】
[式中、R、R、R及びRは同一又は異なって、アルキル基又はアリール基を示す。Xはハロゲン原子を示す。]
で表される第四級アンモニウムハライド塩が挙げられる。
【0030】
一般式(1)において、R、R、R及びRで示されるアルキル基としては、直鎖アルキル基及び分岐鎖アルキル基のいずれも採用でき、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等の炭素数1~30のアルキル基(特に炭素数1~20のアルキル基)が挙げられる。なかでも、安全性、電位窓、ハロゲン化物イオン電池を製造した際の容量等の観点から、直鎖アルキル基が好ましく、炭素数1~30の直鎖アルキル基がより好ましく、炭素数1~20の直鎖アルキル基がさらに好ましく、エチル基又はn-ブチル基が特に好ましい。
【0031】
一般式(1)において、R、R、R及びRで示されるアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントリル基、ビフェニル基、等が挙げられる。なかでも、安全性、電位窓、ハロゲン化物イオン電池を製造した際の容量等の観点から、フェニル基が好ましい。
【0032】
一般式(1)において、Xで示されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。これらハロゲン原子は、本発明のハロゲン化物イオン電池における電荷担体にあわせて選択することが好ましい。なかでも、陰イオンのなかでサイズが最も小さく、電荷輸送に有益であるため、フッ素原子が好ましい。つまり、第四級アンモニウムハライド塩は、第四級アルキルアンモニウムフルオライド塩であることが好ましい。
【0033】
以上のような条件を満たす第四級アンモニウムハライド塩としては、具体的には、
【0034】
【化2】
【0035】
等が挙げられ、
【0036】
【化3】
【0037】
等が好ましい。
【0038】
上記した第四級アンモニウムハライド塩は、水和物であってもよい。
【0039】
これら第四級アンモニウムハライド塩又はその水和物は、本発明のハロゲン化物イオン電池用電解液中に単独で含まれていてもよいし、複数含まれていてもよい。ただし、リチウムイオン二次電池においては複数のリチウム塩を混合すると共晶することにより電位窓が広がることが知られているが、第四級アンモニウムハライド塩又はその水和物においては、上記の第四級アンモニウムハライド塩又はその水和物を複数混合しても共晶せず、複数相に分離する。このため、電位窓、ハロゲン化物イオン電池を製造した際の容量等の観点からは、上記の第四級アンモニウムハライド塩又はその水和物を単独で(1種のみを)含ませることが好ましい。
【0040】
本発明のハロゲン化物イオン電池用電解液中に含まれる第四級アンモニウムハライド塩又はその水和物の濃度は、9.0~11.0mol/kg、好ましくは9.2~11.0mol/kg、より好ましくは9.5~10.9mol/kgである。第四級アンモニウムハライド塩又はその水和物の濃度が9.0mol/kg未満では、pHが低いために反応中間体として遊離したフッ化水素が生成する可能性があり安全性に懸念があるとともに、電位窓が狭く、高容量のハロゲン化物イオン電池は得られない。一方、第四級アンモニウムハライド塩又はその水和物の濃度が11.0mol/kgより大きい水溶液は、製造することが困難である。
【0041】
本発明のハロゲン化物イオン電池用電解液中には、上記した第四級アンモニウムハライド塩又はその水和物のみならず、従来からハロゲン化物イオン電池に使用できる電解質、例えば、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化ルビジウム、フッ化セシウム等のアルカリ金属フッ化物;リチウムビストリフルオロメタンスルホニルアミド、ナトリウムビストリフルオロメタンスルホニルアミド、カリウムビストリフルオロメタンスルホニルアミド、ルビジウムビストリフルオロメタンスルホニルアミド、セシウムビストリフルオロメタンスルホニルアミド等のアルカリ金属スルホニルアミド塩等を含ませることを排除するものではない。ただし、安全性、電位窓、ハロゲン化物イオン電池を製造した際の容量等の観点からは、これらの従来の電解質の含有量は極力少ないことが好ましく、例えば、0~1mol/kgが好ましく、0~0.1mol/kgがより好ましい。
【0042】
本発明のハロゲン化物イオン電池用電解液は、特に制限はないが、ハロゲン化物イオン電池の充放電中においても、反応中間体として遊離したフッ化水素が生成しにくく、電位窓を広げやすく、ハロゲン化物イオン電池を製造した際の容量が向上させやすい観点から、強塩基性であることが好ましい。具体的には、本発明のハロゲン化物イオン電池用電解液のpHは、8~14が好ましく、10~14がより好ましく、12~14がさらに好ましい。
【0043】
上記のような本発明のハロゲン化物イオン電池用電解液は、反応中間体として遊離したフッ化水素が生成することがないうえに引火もしにくいため安全性に優れ、電位窓も広いため、フッ化物イオン電池用電解液等のハロゲン化物イオン電池用電解液等の各種電解液等として有用である。特に、フッ化物イオン電池用電解液等のハロゲン化物イオン電池用電解液として使用した場合には、反応中間体として遊離したフッ化水素が生成することがないうえに引火もしにくいため安全性に優れ、電位窓も広いため、高容量のハロゲン化物イオン電池(特に高容量のフッ化物イオン電池)を製造することが可能である。
【0044】
2.ハロゲン化物イオン電池
本発明のハロゲン化物イオン電池(特にフッ化物イオン電池)は、上記した本発明のハロゲン化物イオン電池用電解液(特にフッ化物イオン電池用電解液)を備えていれば特に制限はない。
【0045】
本発明のハロゲン化物イオン電池(特にフッ化物イオン電池)は、例えば、
正極活物質層と、
負極活物質層と、
正極活物質層及び負極活物質層の間に形成され、上記した本発明のハロゲン化物イオン電池用電解液を含有する電解液層と、
正極活物質層の集電を行う正極集電体と、
負極活物質層の集電を行う負極集電体と、
これらの部材を収納する電池ケースとを
有することができる。
【0046】
以下、本発明のハロゲン化物イオン電池(特にフッ化物イオン電池)について、構成ごとに説明する。
【0047】
(2-1)電解質層
本発明のハロゲン化物イオン電池(特にフッ化物イオン電池)における電解質層は、正極活物質層及び負極活物質層の間に形成することができる。本発明のハロゲン化物イオン電池(特にフッ化物イオン電池)においては、電解質層は、上述した本発明のハロゲン化物イオン電池用電解液を含有する。電解質層の厚さは、電池の構成によって大きく異なるものであり、特に限定されるものではなく、常法にしたがい、用途に応じて適宜設定することができる。
【0048】
(2-2)正極活物質層
本発明のハロゲン化物イオン電池(特にフッ化物イオン電池)における正極活物質層は、少なくとも正極活物質を含有することができる。また、正極活物質層は、正極活物質の他に、導電材及び結着材の少なくとも一方をさらに含有することもできる。
【0049】
本発明のハロゲン化物イオン電池(特にフッ化物イオン電池)における正極活物質は、通常、放電時に脱ハロゲン化(特に脱フッ化)する活物質を採用することができる。
【0050】
正極活物質としては、例えば、金属単体、合金、金属酸化物、及びこれらのハロゲン化物(特にフッ化物)等を挙げることができる。正極活物質に含まれる金属元素としては、例えば、銅、銀、ニッケル、コバルト、鉛、セリウム、マンガン、金、白金、ロジウム、バナジウム、オスミウム、ルテニウム、鉄、クロム、ビスマス、ニオブ、アンチモン、チタン、スズ、亜鉛等を挙げることができる。なかでも、正極活物質は、Cu、CuF、CuCl、Fe、FeF、FeCl、Ag、AgF、AgCl等であることが好ましい。なお、上記xは、0よりも大きい実数である。
【0051】
また、正極活物質の他の例として、炭素材料及びそのフッ化物等を挙げることができる。炭素材料としては、例えば、黒鉛、コークス、カーボンナノチューブ等を挙げることができる。
【0052】
また、正極活物質のさらに他の例として、ポリマー材料等を挙げることができる。ポリマー材料としては、例えば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリアセチレン、ポリチオフェン等を挙げることができる。
【0053】
これらの正極活物質は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0054】
導電材としては、所望の電子伝導性を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば炭素材料を挙げることができる。
【0055】
炭素材料としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック等を挙げることができる。
【0056】
一方、結着材としては、化学的、電気的に安定なものであれば特に限定されるものではないが、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系結着材等を挙げることができる。
【0057】
また、正極活物質層における正極活物質の含有量は、容量の観点からはより多いことが好ましいが、常法にしたがい、用途に応じて適宜設定することができる。また、正極活物質層の厚さは、電池の構成によって大きく異なるものであり、特に限定されるものではなく、常法にしたがい、用途に応じて適宜設定することができる。
【0058】
(2-3)負極活物質層
本発明のハロゲン化物イオン電池(特にフッ化物イオン電池)における負極活物質層は、少なくとも負極活物質を含有することができる。また、負極活物質層は、負極活物質の他に、導電材及び結着材の少なくとも一方をさらに含有することもできる。
【0059】
本発明のハロゲン化物イオン電池(特にフッ化物イオン電池)における負極活物質は、通常、放電時にハロゲン化(特にフッ化)する活物質を採用することができる。また、負極活物質には、正極活物質よりも低い電位を有する任意の活物質が選択され得る。そのため、上述した正極活物質を負極活物質として用いることもできる。
【0060】
負極活物質としては、例えば、金属単体、合金、金属酸化物、及びこれらのハロゲン化物(特にフッ化物)等を挙げることができる。負極活物質に含まれる金属元素としては、例えば、ランタン、カルシウム、アルミニウム、ユウロピウム、リチウム、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、インジウム、バナジウム、カドミウム、クロム、鉄、亜鉛、ガリウム、チタン、ニオブ、マンガン、イッテルビウム、ジルコニウム、サマリウム、セリウム、マグネシウム、バリウム、鉛等を挙げることができる。なかでも、負極活物質は、Mg、MgF、MgCl、Al、AlF、AlCl、Ce、CeF、CeCl、La、LaF、LaCl、Ca、CaF、CaCl、Pb、PbF、PbCl等であることが好ましい。なお、上記xは、0よりも大きい実数である。また、負極活物質として、上述した炭素材料及びポリマー材料を用いることもできる。
【0061】
導電材及び結着材についても、上述した正極活物質層に記載した材料と同様の材料を用いることができる。また、負極活物質層における負極活物質の含有量は、容量の観点からはより多いことが好ましいが、常法にしたがい、用途に応じて適宜設定することができる。また、負極活物質層の厚さは、電池の構成によって大きく異なるものであり、特に限定されるものではなく、常法にしたがい、用途に応じて適宜設定することができる。
【0062】
(2-4)その他の構成
本発明のハロゲン化物イオン電池(特にフッ化物イオン電池)は、上述した負極活物質層、正極活物質層及び電解質層を少なくとも有することが好ましい。さらに通常は、正極活物質層の集電を行う正極集電体、及び負極活物質層の集電を行う負極集電体を有することができる。集電体の形状としては、例えば、箔状、メッシュ状、多孔質状等を挙げることができる。また、本発明のハロゲン化物イオン電池(特にフッ化物イオン電池)は、正極活物質層及び負極活物質層の間に、セパレータを有していてもよい。より安全性の高い電池を得ることができるからである。
【0063】
(2-5)ハロゲン化物イオン電池(フッ化物イオン電池)
本発明のハロゲン化物イオン電池(特にフッ化物イオン電池)は、上述した正極活物質層、負極活物質層及び電解質層を有するものであれば特に限定されるものではない。また、本発明のハロゲン化物イオン電池(特にフッ化物イオン電池)は、ハロゲン化物イオン一次電池(特にフッ化物イオン一次電池)であってもよく、ハロゲン化物イオン二次電池(特にフッ化物イオン二次電池)であってもよいが、なかでも、ハロゲン化物イオン二次電池(特にフッ化物イオン二次電池)であることが好ましい。繰り返し充放電でき、例えば、再生エネルギー蓄電用電池、車載用電池、スマートハウス用電池等として有用である。また、本発明のハロゲン化物イオン電池(特にフッ化物イオン電池)の形状としては、例えば、コイン型、ラミネート型、円筒型および角型等を挙げることができる。
【0064】
3.ハロゲン化物イオン電池用電解液の製造方法
上記した本発明のハロゲン化物イオン電池用電解液は、特に制限されるわけではないが、
前記第四級アンモニウムハライド塩又はその水和物に対して、水を滴下する工程
を備え、
前記水の滴下量が、前記第四級アンモニウムハライド塩又はその水和物100質量部に対して、13~30質量部である方法により製造することができる。
【0065】
前記第四級アンモニウムハライド塩は、室温(25℃)における水に対する溶解度は、最大でも2.3mol/kg程度であるため、水中に添加して溶解させようとしても、9.0~11.0mol/kgの濃厚水溶液を得ることができない。
【0066】
しかしながら、第四級アンモニウムハライド塩又はその水和物に対して少量の水を滴下した場合には、予想外にも、第四級アンモニウムハライド塩又はその水和物9.0~11.0mol/kgを含有する濃厚水溶液を得ることができる。
【0067】
また、第四級アンモニウムハライド塩又はその水和物を水に溶解させて希薄水溶液とした場合は室温(25℃)における電位窓が1.5V程度に過ぎないのと比較し、このようにして第四級アンモニウムハライド塩又はその水和物の濃厚水溶液を得た場合には、室温(25℃)における電位窓が3.0V程度にまで広げることが可能である。
【0068】
さらに、第四級アンモニウムハライド塩又はその水和物を水に溶解させて希薄水溶液とした場合は室温において中性領域であり、反応中間体として遊離したフッ化水素が生成する虞があり、安全性に懸念があることと比較して、このようにして第四級アンモニウムハライド塩又はその水和物の濃厚水溶液を得た場合には、第四級アンモニウムハライド塩又はその水和物自体は水酸化物イオンを有していないにも関わらず、水の状態が変化して強塩基となり、反応中間体として遊離したフッ化水素が生成し得ないため、安全性も飛躍的に向上させることができる。
【0069】
このように、第四級アンモニウムハライド塩又はその水和物に対して水を滴下する場合、水の滴下量は、前記第四級アンモニウムハライド塩又はその水和物100質量部に対して、13~30質量部、好ましくは14~27質量部、より好ましくは15~25質量部である。水の滴下量が5質量部未満では、第四級アンモニウムハライド塩又はその水和物を水に十分に溶解させることができず、ハロゲン化物イオン電池用電解液として機能させることができない。一方、水の滴下量が50質量部をこえると、第四級アンモニウムハライド塩又はその水和物の濃度が低くなり、室温(25℃)における電位窓を十分に広げることができないうえに、pHが小さくなり反応中間体として遊離したフッ化水素が生成する虞があり、安全性に懸念がある。
【0070】
第四級アンモニウムハライド塩又はその水和物に対して水を滴下する場合、その際の温度は特に制限されないが、通常室温近傍で行うことができ、例えば、20~50℃が好ましく、22~30℃がより好ましい。
【0071】
なお、上記では、本発明のハロゲン化物イオン電池用電解液の製造方法の一例を示したが、本発明のハロゲン化物イオン電池用電解液の製造方法は、上記のみに限定されることはなく、例えば、第四級アンモニウムハライド塩又はその水和物の希薄水溶液から脱水することによっても得ることができる。
【0072】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本開示の技術的範囲に包含される。
【実施例
【0073】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、以下の実施例は、本発明を制限するものではない。
【0074】
実施例において、第四級アルキルアンモニウムハライド塩又はその水和物としては、以下のものを使用した。
テトラエチルアンモニウムフルオリド塩(TEAF塩):東京化成工業(株)製(カールフィッシャー法による水分濃度から算出したモル濃度は19.1mol/kg;塩1モルに対して水分を2.9モル含有)
テトラブチルアンモニウムフルオリド塩(TBAF塩):東京化成工業(株)製(カールフィッシャー法による水分濃度から算出したモル濃度は21.7mol/kg;塩1モルに対して水分を2.6モル含有)。
【0075】
実施例1:TEAF濃厚水溶液
大気圧雰囲気下において、室温(25℃)で、テトラエチルアンモニウムフルオリド塩(TEAF塩)100質量部に対して、水15質量部を滴下した。この結果、テトラエチルアンモニウムフルオリド塩(TEAF塩)の濃厚水溶液(TEAF濃厚水溶液)を得た。得られたTEAF濃厚水溶液は、テトラエチルアンモニウムフルオリド塩(TEAF塩)のカールフィッシャー法による水分濃度から算出したモル濃度は10.0mol/kgであり、塩1モルに対して水分を5.5モル含有していた。つまり、このTEAF濃厚水溶液をハロゲン化物イオン電池用電解液として使用すれば、遊離したフッ化水素は生成しないため安全性に優れることが理解できる。
【0076】
実施例2:TBAF濃厚水溶液
大気圧雰囲気下において、室温(25℃)で、テトラブチルアンモニウムフルオリド塩(TBAF塩)100質量部に対して、水21質量部を滴下した。この結果、テトラブチルアンモニウムフルオリド塩(TBAF塩)の濃厚水溶液(TBAF濃厚水溶液)を得た。得られたTBAF濃厚水溶液は、テトラブチルアンモニウムフルオリド塩(TBAF塩)のカールフィッシャー法による水分濃度から算出したモル濃度は10.9mol/kgであり、塩1モルに対して水分を5.1モル含有していた。つまり、このTBAF濃厚水溶液をハロゲン化物イオン電池用電解液として使用すれば、遊離したフッ化水素は生成しないため安全性に優れることが理解できる。
【0077】
比較例1:TEAF希薄水溶液
大気圧雰囲気下において、室温(25℃)で、テトラエチルアンモニウムフルオリド塩(TEAF塩)100質量部を水670質量部に溶解させ、テトラエチルアンモニウムフルオリド塩(TEAF塩)の希薄水溶液(TEAF希薄水溶液)を得た。得られたTEAF希薄水溶液は、テトラエチルアンモニウムフルオリド塩(TEAF塩)のカールフィッシャー法による水分濃度から算出したモル濃度は1.0mol/kgであり、塩1モルに対して水分を55.5モル含有していた。
【0078】
比較例2:TBAF希薄水溶液
大気圧雰囲気下において、室温(25℃)で、テトラブチルアンモニウムフルオリド塩(TBAF塩)100質量部を水380質量部に溶解させ、テトラブチルアンモニウムフルオリド塩(TBAF塩)の希薄水溶液(TBAF希薄水溶液)を得た。得られたTBAF希薄水溶液は、テトラブチルアンモニウムフルオリド塩(TBAF塩)のカールフィッシャー法による水分濃度から算出したモル濃度は1.0mol/kgであり、塩1モルに対して水分を55.5モル含有していた。
【0079】
試験例1:電位窓の測定
作用極(正極)として直径3mmのグラッシーカーボン電極((株)イーシーフロンティア製)、対極として白金線、参照電極として銀/塩化銀電極を、実施例1~2及び比較例1~5で得られた水溶液中に浸漬し、電位窓測定用セル(フッ化物イオン二次電池)を製造した。
【0080】
製造した電位窓測定用セルに対して、ポテンショスタット(北斗電工(株)製)を使用して、測定温度室温(25℃)において、作用電極の電位を対極に対して一定速度(掃引速度0.5mV/秒)で掃引して流れる電流を測定し(LSV測定)、一定値(20μA/cm)に達したときの電位を極限酸化還元電位とすることで、電位窓を決定した。
【0081】
結果を図1に示す。この結果、図1からは、比較例1~2の希薄水溶液では電位窓が1.5~2.5Vであったのに対し、実施例1~2の濃厚水溶液では3.2~3.3Vと著しく広がっていた。
【0082】
また、実施例1において、滴下する水の量を適宜調整し、テトラエチルアンモニウムフルオリド塩(TEAF塩)のモル濃度の異なる水溶液(1.0ml/kg、3.0ml/kg、5.0ml/kg、7.0ml/kg及び10.0ml/kg)を製造し、同様に測定した結果を図2に示す。比較例1及び3~5の水溶液では、電流密度が立ち上がる電位が、比較例1では約-1.2V、比較例3及び4では約-1.4V、比較例5では約-1.5Vと、その絶対値が十分大きいとは言えないのに対し、実施例1の濃厚水溶液では、電流密度が立ち上がる電位が約-2.1Vと、その絶対値が十分大きくなっていた。
【0083】
試験例2:水溶液濃度とpHとの関係
実施例1~2において、滴下する水の量を適宜調整し、テトラブチルアンモニウムフルオリド塩(TBAF塩)のモル濃度の異なる水溶液を製造した。そのうえで、得られた水溶液のpHを測定し、水溶液濃度とpHとの関係を評価した。
【0084】
結果を図3~4に示す。この結果、テトラエチルアンモニウムフルオリド塩(TEAF塩)及びテトラブチルアンモニウムフルオリド塩(TBAF塩)は水酸化物イオンを含んでいないにも関わらず、テトラエチルアンモニウムフルオリド塩(TEAF塩)及びテトラブチルアンモニウムフルオリド塩(TBAF塩)のモル濃度が上昇するにつれてpHも上昇した。
【0085】
製造例1:三極式電解セル
後述の充放電試験においては、三極式電解セルであるビー・エー・エス(株)製の電気化学測定用VC-4ボルタンメトリー用セル(フッ化物イオン二次電池)を以下のように組み立てて試験した。
【0086】
正極活物質としては、平均粒子径100nmの銅ナノ粒子又はフッ化銅(CuF)試薬を使用した。
【0087】
その後、上記の正極活物質と、アセチレンブラックと、ポリテトラフルオロエチレン粉末とを、正極活物質の含有量が85質量%、アセチレンブラックの含有量が10質量%、ポリテトラフルオロエチレン粉末の含有量が5質量%となるように混合した。得られた混合物を、ポンチを用いて直径8mmとなるように成型して正極を得た。
【0088】
次いで、正極より大きいサイズのチタンメッシュ(100メッシュ)を正極集電体として用いて、得られた正極を積層させ、実施例1~2及び比較例1~2で得られた水溶液(電解液)に浸漬させた。
【0089】
また、上記正極及び正極集電体と全く同様に、負極及び負極集電体も製造し、負極集電体上に負極をさせ、実施例1~2及び比較例1~2で得られた水溶液(電解液)に浸漬させた。
【0090】
参照電極としては、銀/塩化銀電極を用いて、実施例1~2及び比較例1~2で得られた水溶液(電解液)に浸漬させた。
【0091】
試験例3:充放電試験
実施例1で得られた水溶液を用いて、製造例1の方法で製造した三極式電解セルによる充放電試験を行った。
【0092】
充放電条件は、銀/塩化銀電極に対して、-1.0~+0.6Vとし、充放電レートは、充電モード及び放電モードいずれも0.02Cとし、測定温度は室温(30℃)とした。
【0093】
結果を図5に示す。この結果、正極活物質及び負極活物質としてCuを使用した場合は、充電容量330mAh/g、放電容量290mAh/gであり、正極活物質及び負極活物質としてCuFを使用した場合は、充電容量210mAh/g、放電容量120mAh/gであった。
【0094】
また、実施例1及び比較例1で得られた水溶液を用いて、製造例1の方法で製造した三極式電解セルによる充放電試験を2サイクル行った後の概観を図6に示す。なお、この際の充放電試験においては、作用極(正極)としてCuを使用し、対極(負極)としてCuFを使用し、充放電条件は上記のとおりとした。この結果、実施例1では充放電試験を行っても析出物は見られなかったのに対し、比較例1では銅化合物と思われる析出物が見られた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6