(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-10
(45)【発行日】2024-04-18
(54)【発明の名称】水性インキ組成物、水性インキセット、インキ層付きフィルム、その製造方法、ラミネートフィルム及び包装材
(51)【国際特許分類】
C09D 175/08 20060101AFI20240411BHJP
C09D 175/06 20060101ALI20240411BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20240411BHJP
B32B 27/40 20060101ALI20240411BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20240411BHJP
【FI】
C09D175/08
C09D175/06
C09D5/02
B32B27/40
B32B27/00 H
(21)【出願番号】P 2024007483
(22)【出願日】2024-01-22
【審査請求日】2024-02-02
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100209347
【氏名又は名称】内田 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】大内 将郁
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-189685(JP,A)
【文献】特開2020-66698(JP,A)
【文献】特開2021-31572(JP,A)
【文献】特開2018-184512(JP,A)
【文献】特許第5157750(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性ウレタン樹脂と水性媒体とを含有する水性インキ組成物であって、
前記水性ウレタン樹脂が、水性ウレタン樹脂(A1)と水性ウレタン樹脂(A2)とを含有し、前記水性ウレタン樹脂(A1)が、ガラス転移温度が-70~-30℃のエーテル系ウレタン樹脂であり、前記水性ウレタン樹脂(A2)が、ガラス転移温度が60~120℃のエステル系ウレタン樹脂であり、前記水性ウレタン樹脂(A1)と前記水性ウレタン樹脂(A2)との合計の含有量が、前記水性インキ組成物中の不揮発分の総質量に対して、20~94質量%である、水性インキ組成物。
【請求項2】
前記水性ウレタン樹脂(A1)/水性ウレタン樹脂(A2)で表される質量比が、0.08~0.7である、請求項1に記載の水性インキ組成物。
【請求項3】
ワックスをさらに含有する、請求項1に記載の水性インキ組成物。
【請求項4】
顔料をさらに含有する、請求項1に記載の水性インキ組成物。
【請求項5】
前記水性インキ組成物中の前記顔料が1種である、請求項4に記載の水性インキ組成物。
【請求項6】
互いに色調が異なる複数の前記水性インキ組成物を混合して調色した水性インキ組成物についてザーンカップ#4で測定される25℃における粘度と、前記調色した水性インキ組成物を25℃で1週間静置した後の前記粘度との差が、±3秒未満である、請求項1に記載の水性インキ組成物。
【請求項7】
硬化剤をさらに含有する、請求項1に記載の水性インキ組成物。
【請求項8】
グラビア印刷用又はフレキソ印刷用である請求項1に記載の水性インキ組成物。
【請求項9】
互いに色調が異なる複数の水性インキ組成物を備える水性インキセットであって、
前記複数の水性インキ組成物が各々、水性ウレタン樹脂と水性媒体とを含有し、前記複数の水性インキ組成物の少なくとも一部が顔料をさらに含有し、
前記複数の水性インキ組成物の各々において、前記水性ウレタン樹脂が、水性ウレタン樹脂(A1)と水性ウレタン樹脂(A2)とを含有し、前記水性ウレタン樹脂(A1)が、ガラス転移温度が-70~-30℃のエーテル系ウレタン樹脂であり、前記水性ウレタン樹脂(A2)が、ガラス転移温度が60~120℃のエステル系ウレタン樹脂であり、前記水性ウレタン樹脂(A1)と前記水性ウレタン樹脂(A2)との合計の含有量が、前記水性インキ組成物中の不揮発分の総質量に対して、20~94質量%である、水性インキセット。
【請求項10】
前記複数の水性インキ組成物の各々において、前記水性ウレタン樹脂(A1)/水性ウレタン樹脂(A2)で表される質量比が、0.08~0.7である、請求項9に記載の水性インキセット。
【請求項11】
前記複数の水性インキ組成物が各々、ワックスをさらに含有する、請求項9に記載の水性インキセット。
【請求項12】
前記顔料を含有する水性インキ組成物中の前記顔料が1種である、請求項9に記載の水性インキセット。
【請求項13】
前記複数の水性インキ組成物のうち少なくとも2つを混合して調色した水性インキ組成物についてザーンカップ#4で25℃にて測定される粘度と、前記調色した水性インキ組成物を25℃で1週間静置した後の前記粘度との差が、±3秒未満である、請求項9に記載の水性インキセット。
【請求項14】
硬化剤をさらに備える、請求項9に記載の水性インキセット。
【請求項15】
グラビア印刷用又はフレキソ印刷用である請求項9に記載の水性インキセット。
【請求項16】
プラスチックフィルムと、前記プラスチックフィルム上に設けられたインキ層と、を備え、
前記インキ層が、請求項1~8のいずれか1項に記載の水性インキ組成物から形成されたインキ層であるインキ層付きフィルム。
【請求項17】
プラスチックフィルム上に、請求項1~8のいずれか1項に記載の水性インキ組成物を用いて印刷を施しインキ層を形成する、インキ層付きフィルムの製造方法。
【請求項18】
プラスチックフィルム上に、請求項9~15のいずれか1項に記載の水性インキセットが備える前記複数の水性インキ組成物のうち少なくとも1つをそのまま用いて印刷を施しインキ層を形成する、インキ層付きフィルムの製造方法。
【請求項19】
請求項9~15のいずれか1項に記載の水性インキセットが備える前記複数の水性インキ組成物のうち少なくとも2つを混合して調色された水性インキ組成物を調製し、
プラスチックフィルム上に、前記調色された水性インキ組成物を用いて印刷を施しインキ層を形成する、インキ層付きフィルムの製造方法。
【請求項20】
請求項16に記載のインキ層付きフィルムと、前記インキ層付きフィルムの前記インキ層上に設けられた接着層と、前記接着層上に設けられた樹脂層と、を備えるラミネートフィルム。
【請求項21】
請求項20に記載のラミネートフィルムを備える包装材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性インキ組成物、水性インキセット、インキ層付きフィルム、その製造方法、ラミネートフィルム及び包装材に関する。
【背景技術】
【0002】
食品や日用品等の包装に用いられるプラスチックフィルム等の軟包装材料には、グラビア印刷やフレキソ印刷を用いて意匠性や機能性が表示されている。従来、軟包装用インキとしては、有機溶剤を媒体とする油性インキが主流であったが、近年は環境問題などの観点から、水を媒体とする水性インキの要望が高まっている。
【0003】
水性インキとしては、バインダー樹脂としてアクリル樹脂やウレタン樹脂を含むものが知られている。ウレタン樹脂としては、エステル系、エーテル系、カーボネート系など様々なものが知られている。
特許文献1には、エステル系ウレタン樹脂とエーテル系ウレタン樹脂とを含む水性インキが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
水性インキは油性インキに比べて乾燥しにくい。プラスチックフィルム等の基材フィルムにインキを印刷して塗膜を形成する際、媒体の乾燥が不十分であると、印刷後の基材フィルムを巻き取った際にブロッキングが生じることがある。また、水性インキは、水の表面張力が大きいことから、印刷後のインキが十分に濡れ広がらない、レベリング不良が生じることがある。
【0006】
水性インキをアルコールで希釈することで、乾燥速度を早くし、耐ブロッキング性の向上を図るとともに、表面張力を低下させることで、レベリング性を向上させることができる。
しかし、特許文献1に記載された水性インキをはじめ、従来技術では、アルコール希釈性、顔料分散性、インキ流動性を十分に良好なものとすることはできていない。
エステル系ウレタン樹脂やカーボネート系ウレタン樹脂を水性インキに配合すると、アルコール希釈性が向上するが、インキ流動性が低下しやすくなる。インキ流動性が低下すると、インキの取り扱いが困難になるとともに、インキの貯蔵安定性が低下する。
エーテル系ウレタン樹脂を水性インキに配合すると、インキ流動性が向上するが、アルコール希釈性が低下する。アルコール希釈性が低下すると、アルコールで希釈した際に増粘や印刷塗膜の白化が発生しやすくなるため、アルコールを多く配合することが困難になる。
【0007】
したがって、本発明の目的は、アルコール希釈性及びインキ流動性に優れる水性インキ組成物及び水性インキセット、並びに前記水性インキ組成物を用いたインキ層付きフィルム、その製造方法、ラミネートフィルム及び包装材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]水性ウレタン樹脂と水性媒体とを含有する水性インキ組成物であって、
前記水性ウレタン樹脂が、水性ウレタン樹脂(A1)と水性ウレタン樹脂(A2)とを含有し、前記水性ウレタン樹脂(A1)が、ガラス転移温度が-70~-30℃のエーテル系ウレタン樹脂であり、前記水性ウレタン樹脂(A2)が、ガラス転移温度が60~120℃のエステル系ウレタン樹脂であり、前記水性ウレタン樹脂(A1)と前記水性ウレタン樹脂(A2)との合計の含有量が、前記水性インキ組成物中の不揮発分の総質量に対して、20~94質量%である、水性インキ組成物。
[2]前記水性ウレタン樹脂(A1)/水性ウレタン樹脂(A2)で表される質量比が、0.08~0.7である、[1]に記載の水性インキ組成物。
[3]ワックスをさらに含有する、[1]又は[2]に記載の水性インキ組成物。
[4]顔料をさらに含有する、[1]~[3]のいずれかに記載の水性インキ組成物。
[5]前記水性インキ組成物中の前記顔料が1種である、[4]に記載の水性インキ組成物。
[6]互いに色調が異なる複数の前記水性インキ組成物を混合して調色した水性インキ組成物についてザーンカップ#4で測定される25℃における粘度と、前記調色した水性インキ組成物を25℃で1週間静置した後の前記粘度との差が、±3秒未満である、[1]~[5]のいずれかに記載の水性インキ組成物。
[7]硬化剤をさらに含有する、[1]~[6]のいずれかに記載の水性インキ組成物。
[8]グラビア印刷用又はフレキソ印刷用である、[1]~[7]のいずれかに記載の水性インキ組成物。
[9]互いに色調が異なる複数の水性インキ組成物を備える水性インキセットであって、
前記複数の水性インキ組成物が各々、水性ウレタン樹脂と水性媒体とを含有し、前記複数の水性インキ組成物の少なくとも一部が顔料をさらに含有し、
前記複数の水性インキ組成物の各々において、前記水性ウレタン樹脂が、水性ウレタン樹脂(A1)と水性ウレタン樹脂(A2)とを含有し、前記水性ウレタン樹脂(A1)が、ガラス転移温度が-70~-30℃のエーテル系ウレタン樹脂であり、前記水性ウレタン樹脂(A2)が、ガラス転移温度が60~120℃のエステル系ウレタン樹脂であり、前記水性ウレタン樹脂(A1)と前記水性ウレタン樹脂(A2)との合計の含有量が、前記水性インキ組成物中の不揮発分の総質量に対して、20~94質量%である、水性インキセット。
[10]前記複数の水性インキ組成物の各々において、前記水性ウレタン樹脂(A1)/水性ウレタン樹脂(A2)で表される質量比が、0.08~0.7である、[9]に記載の水性インキセット。
[11]前記複数の水性インキ組成物が各々、ワックスをさらに含有する、[9]又は[10]に記載の水性インキセット。
[12]前記顔料を含有する水性インキ組成物中の前記顔料が1種である、[9]~[11]のいずれかに記載の水性インキセット。
[13]前記複数の水性インキ組成物のうち少なくとも2つを混合して調色した水性インキ組成物についてザーンカップ#4で25℃にて測定される粘度と、前記調色した水性インキ組成物を25℃で1週間静置した後の前記粘度との差が、±3秒未満である、[9]~[12]のいずれかに記載の水性インキセット。
[14]硬化剤をさらに備える、[9]~[13]のいずれかに記載の水性インキセット。
[15]グラビア印刷用又はフレキソ印刷用である、[9]~[14]のいずれかに記載の水性インキセット。
[16]プラスチックフィルムと、前記プラスチックフィルム上に設けられたインキ層と、を備え、
前記インキ層が、[1]~[8]のいずれかに記載の水性インキ組成物から形成されたインキ層であるインキ層付きフィルム。
[17]プラスチックフィルム上に、[1]~[8]のいずれかに記載の水性インキ組成物を用いて印刷を施しインキ層を形成する、インキ層付きフィルムの製造方法。
[18]プラスチックフィルム上に、[9]~[15]のいずれかに記載の水性インキセットが備える前記複数の水性インキ組成物のうち少なくとも1つをそのまま用いて印刷を施しインキ層を形成する、インキ層付きフィルムの製造方法。
[19][9]~[15]のいずれかに記載の水性インキセットが備える前記複数の水性インキ組成物のうち少なくとも2つを混合して調色された水性インキ組成物を調製し、
プラスチックフィルム上に、前記調色された水性インキ組成物を用いて印刷を施しインキ層を形成する、インキ層付きフィルムの製造方法。
[20][16]に記載のインキ層付きフィルムと、前記インキ層付きフィルムの前記インキ層上に設けられた接着層と、前記接着層上に設けられた樹脂層と、を備えるラミネートフィルム。
[21][20]に記載のラミネートフィルムを備える包装材。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、アルコール希釈性及びインキ流動性に優れる水性インキ組成物及び水性インキセット、並びに前記水性インキ組成物を用いたインキ層付きフィルム、その製造方法、ラミネートフィルム及び包装材を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。以下の実施の形態は、本発明を説明するための単なる例示であって、本発明をこの実施の形態にのみ限定することは意図されない。本発明は、その趣旨を逸脱しない限り、様々な態様で実施することが可能である。
本発明において、水性インキにおける「水性」とは、水性媒体を含むことを意味する。
「水性媒体」とは、水を含む液状媒体を意味する。
「液状媒体」とは、水、有機溶剤等の揮発可能な液体を意味する。
「水性ウレタン樹脂」とは、「水溶性ウレタン樹脂」及び「水分散性ウレタン樹脂(ウレタン樹脂エマルジョン、ウレタン樹脂ディスパージョン)」の総称である。本明細書中での水性ウレタン樹脂の含有量は、すべて不揮発分換算である。
インキ組成物の「不揮発分」とは、インキ組成物に含まれる成分のうち、液状媒体を除いた成分を指し、最終的にインキ層を形成することになる成分であり、具体的にはJIS K 5601-1-2:2008に準拠して測定したものである。水性ウレタン樹脂の不揮発分も同様である。
本明細書において「塗膜」とは、本発明の水性インキ組成物により形成される塗膜のことである。
【0011】
水性ウレタン樹脂のガラス転移温度は、JIS K 7121に準拠し、以下のようにして測定される。
示差走査熱量計を用い、水性ウレタン樹脂10mgを-100℃から160℃まで、20℃/分の条件で昇温させて得られる曲線(DSC曲線)におけるベースラインと吸熱カーブの接線との交点からガラス転移温度を求める。
【0012】
〔水性インキ組成物〕
本発明の一実施形態に係る水性インキ組成物は、水性ウレタン樹脂と水性媒体とを含有する。
水性インキ組成物は、アルカリ性付与剤をさらに含有していてもよい。
水性インキ組成物は、ワックスをさらに含有していてもよい。
水性インキ組成物は、顔料をさらに含有していてもよい。なお、水性インキ組成物が、濃度調整用として主に使用されるメヂウムである場合、典型的には顔料を含有しない。
水性インキ組成物は、硬化剤をさらに含有していてもよい。
水性インキ組成物は、水性ウレタン樹脂、水性媒体、アルカリ性付与剤、ワックス、顔料及び硬化剤以外の他の成分をさらに含有していてもよい。
【0013】
<水性ウレタン樹脂>
水性ウレタン樹脂は、バインダー成分である。
水性ウレタン樹脂は、アルコール希釈性、顔料分散性、インキ流動性の観点から、水性ウレタン樹脂(A1)と、水性ウレタン樹脂(A2)とを含有する。
【0014】
[水性ウレタン樹脂(A1)]
水性ウレタン樹脂(A1)は、ガラス転移温度が-70~-30℃のエーテル系ウレタン樹脂である。
水性インキ組成物が水性ウレタン樹脂(A1)を含有することで、顔料分散性やインキ流動性が良好でありながら、基材フィルムに対する密着性やラミネート強度が向上する。
【0015】
水性ウレタン樹脂(A1)のガラス転移温度が-70℃以上であると、耐ブロッキング性に優れる。水性ウレタン樹脂(A1)のガラス転移温度が-30℃以下であると、塗膜の基材フィルムに対する密着性、ラミネート強度、顔料分散性、インキ流動性に優れる。
水性ウレタン樹脂(A1)のガラス転移温度は、-70~-30℃が好ましく、-65~-32℃がより好ましく、-60~-35℃が特に好ましい。
【0016】
エーテル系ウレタン樹脂は、主鎖にエーテル結合を有するウレタン樹脂である。
エーテル系ウレタン樹脂としては、例えば多価イソシアネート化合物とポリエーテルポリオール化合物との反応生成物が挙げられる。多価イソシアネート化合物は、分子中に少なくとも2つのイソシアネート基を有する有機化合物である。ポリエーテルポリオール化合物は、分子中にエーテル結合を有し、少なくとも2つの水酸基を有する有機化合物である。
【0017】
多価イソシアネート化合物としては、例えば脂肪族、脂環式、芳香族等の多価イソシアネート化合物が挙げられる。多価イソシアネート化合物の具体例としては、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、1,2-プロピレンジイソシアネート、1,2-ブチレンジイソシアネート、2,3-ブチレンジイソシアネート、1,3-ブチレンジイソシアネート、2,4,4-又は2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,6-ジイソシアネートメチルカプロエート等の脂肪族ジイソシアネート;水添化ジフェニルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、1,3-シクロペンタンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、1,3-シクロヘキサンジイソシアネート、3-イソシアネートメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(イソホロンジイソシアネート)、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチル-2,4-シクロヘキサンジイソシアネート、メチル-2,6-シクロヘキサンジイソシアネート、1,4-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン等の脂環式ジイソシアネート;m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4-又は2,6-トリレンジイソシアネート、4,4’-トルイジンジイソシアネート、ジアニシジンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルエーテルジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;上記ジイソシアネートを用いて、アロファネート構造、ヌレート構造、ビウレット構造等を有する多量体化した多価イソシアネート化合物;1,3,5-トリイソシアネートベンゼン、2,4,6-トリイソシアネートトルエン、1,3,5-トリイソシアネートヘキサン等のトリイソシアネート;4,4’-ジフェニルジメチルメタン-2,2’-5,5’-テトライソシアネート等のポリイソシアネートが挙げられる。これらの多価イソシアネート化合物は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0018】
ポリエーテルポリオール化合物としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、グリセリン等の低分子量ポリオールを開始剤として用いて、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、テトラヒドロフラン等のオキシラン化合物を重合して得られるポリエーテルポリオールが挙げられる。これらのポリオール化合物は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0019】
水性ウレタン樹脂(A1)は、例えば多価イソシアネート化合物とポリエーテルポリオール化合物とを公知の方法により反応させることで得られる。必要に応じて、ポリアミンや、ポリオール等の鎖伸長剤や、モノアミン等の反応停止剤を反応に用いてもよい。また、反応生成物に対して、加水分解性ケイ素基含有化合物を反応させて、シラノール基を導入してもよい。
【0020】
水性ウレタン樹脂(A1)としては、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば荒川化学工業株式会社製の商品名「ユリアーノW」;日華化学株式会社製の商品名「エバファノールHA」;コベストロ社製の商品名「NeoRez」などが挙げられる。
水性ウレタン樹脂(A1)は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0021】
[水性ウレタン樹脂(A2)]
水性ウレタン樹脂(A2)は、ガラス転移温度が60~120℃のエステル系ウレタン樹脂である。
水性インキ組成物が水性ウレタン樹脂(A2)を含有することで、アルコール希釈性が良好でありながら、ボイル適性が向上する。
【0022】
水性ウレタン樹脂(A2)のガラス転移温度が60℃以上であると、耐ブロッキング性、ボイル適性に優れる。水性ウレタン樹脂(A2)のガラス転移温度が120℃以下であると、塗膜の基材フィルムに対する密着性、ラミネート強度、ボイル適性に優れる。
水性ウレタン樹脂(A2)のガラス転移温度は、60~120℃が好ましく、62~118℃がより好ましく、65~116℃が特に好ましい。
【0023】
エステル系ウレタン樹脂は、主鎖にエステル結合を有するウレタン樹脂である。
エステル系ウレタン樹脂としては、例えば多価イソシアネート化合物とポリエステルポリオール化合物との反応生成物が挙げられる。多価イソシアネート化合物は、前記したとおり、分子中に少なくとも2つのイソシアネート基を有する有機化合物である。ポリエステルポリオール化合物は、分子中にエステル結合を有し、少なくとも2つの水酸基を有する有機化合物である。
【0024】
多価イソシアネート化合物としては、前記と同様のものが挙げられる。
【0025】
ポリエステルポリオール化合物としては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,8-ノナンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールA、水添ビスフェノールA等の飽和又は不飽和のグリコール類と、アジピン酸、マレイン酸、フマル酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、コハク酸、シュウ酸、マロン酸、グルタル酸、ピメリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、スベリン酸等の二塩基酸又はこれらに対応する酸無水物やダイマー酸等とを脱水縮合して得られるポリエステルポリオール;前記二塩基酸又はそれらのジアルキルエステルと、前記ポリエーテルポリオールとを反応させて得られるポリエーテルエステルポリオールが挙げられる。これらのポリオール化合物は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0026】
水性ウレタン樹脂(A2)は、例えば多価イソシアネート化合物とポリエステルポリオール化合物とを公知の方法により反応させることで得られる。必要に応じて、ポリアミンや、ポリオール等の鎖伸長剤や、モノアミン等の反応停止剤を反応に用いてもよい。また、反応生成物に対して、加水分解性ケイ素基含有化合物を反応させて、シラノール基を導入してもよい。
【0027】
水性ウレタン樹脂(A2)としては、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば三井化学株式会社製の商品名「タケラックW」、「タケラックWS」、コベストロ社製の商品名「NeoRez」などが挙げられる。
水性ウレタン樹脂(A2)は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0028】
水性ウレタン樹脂(A1)と水性ウレタン樹脂(A2)との合計の含有量は、水性インキ組成物中の不揮発分の総質量に対して、20~94質量%であり、21~93.7質量%が好ましく、22~93.5質量%がより好ましい。水性ウレタン樹脂(A1)と水性ウレタン樹脂(A2)の合計の含有量が上記下限値以上であると、塗膜の基材フィルムに対する密着性、顔料分散性、インキ流動性、インキの貯蔵安定性、印刷適性に優れる。水性ウレタン樹脂(A1)と水性ウレタン樹脂(A2)の合計の含有量が上記上限値以下であると、インキ流動性、アルコール希釈性に優れる。
【0029】
水性ウレタン樹脂(A1)と水性ウレタン樹脂(A2)の合計の含有量は、インキ組成物の総質量に対して、7.5~29質量%が好ましく、9~27質量%がより好ましく、11~25質量%がさらに好ましい。水性ウレタン樹脂(A1)と水性ウレタン樹脂(A2)の合計の含有量が上記下限値以上であると、塗膜の基材フィルムに対する密着性、顔料分散性、インキ流動性、インキの貯蔵安定性、印刷適性がより優れる。水性ウレタン樹脂(A1)と水性ウレタン樹脂(A2)の合計の含有量が上記上限値を超過すると、インキ流動性、アルコール希釈性がより優れる。
【0030】
水性ウレタン樹脂(A2)の質量に対する水性ウレタン樹脂(A1)の質量の比、すなわち、水性ウレタン樹脂(A1)/水性ウレタン樹脂(A2)で表される質量比(以下、「(A1)/(A2)」ともいう。)は、不揮発分換算で、0.05~0.8が好ましく、0.08~0.7がより好ましく、0.1~0.6がさらに好ましい。(A1)/(A2)が上記下限値以上であると、顔料分散性、インキ流動性がより優れる。(A1)/(A2)が上記上限値以下であると、アルコール希釈性がより優れる。
【0031】
水性ウレタン樹脂は、水性ウレタン樹脂(A1)及び水性ウレタン樹脂(A2)以外の他の水性ウレタン樹脂をさらに含有していてもよい。
他の水性ウレタン樹脂としては、例えば、多価イソシアネート化合物と、ポリエーテルポリオール化合物及びポリエステルポリオール化合物以外の他のポリオール化合物との反応生成物が挙げられる。
【0032】
他のポリオール化合物としては、例えばポリエチレンポリオール、ポリプロピレンポリオール等のポリオレフィンポリオール;前記グリコール類と、メチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、エチレンカーボネート、ホスゲン等とを反応させて得られるポリカーボネートポリオールなどが挙げられる。これらのポリオール化合物は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0033】
<水性媒体>
水性媒体としては、水;水と有機溶剤との混合溶剤などが挙げられる。
有機溶剤としては、水に可溶であれば特に制限されないが、例えばメタノール、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノール、n-ブタノール、i-ブタノール等のアルコール系溶剤;アセトン等のケトン系溶剤;プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル系溶剤などが挙げられる。これらの有機溶剤は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0034】
水性媒体の含有量は、水性インキ組成物の総質量に対して、20~85質量%が好ましく、30~80質量%がより好ましく、35~75質量%がさらに好ましい。水性媒体の含有量が上記下限値以上であると、インキ流動性がより優れる。水性媒体の含有量が上記上限値以下であると、乾燥性がより優れる。
【0035】
<アルカリ性付与剤>
アルカリ性付与剤は、水性インキのpHを適切な範囲に維持する化合物である。水性インキのpHを適切な範囲に維持することで、インキの再溶解性を維持できる。
アルカリ性付与剤としては、例えばアンモニア;モルホリン、N,N-ジメチルアミノエタノール、N-メチルモルホリン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、エチレンジアミン、トリエチレンジアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン等の有機アミン;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属塩などが挙げられる。これらのアルカリ性付与剤は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0036】
アルカリ性付与剤としては、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えばANGUS社製の商品名「AMP-90」、「DMAMP-80」;日本乳化剤株式会社製の商品名「アミノアルコールPA」、「アミノアルコール2FA」、「アミノアルコール2Mabs」などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0037】
アルカリ性付与剤の含有量は、水性インキ組成物の総質量に対して、0.1~5質量%が好ましく、0.1~4質量%がより好ましく、0.1~3質量%がさらに好ましい。アルカリ性付与剤の含有量が上記下限値以上であると、インキ組成物中のpHを許容範囲で維持でき、インキの再溶解性がより優れる。アルカリ性付与剤の含有量が上記上限値以下であると、印刷適性がより優れる。
【0038】
水性インキ組成物のpHは、7~11が好ましく、7.5~11がより好ましく、8~11がさらに好ましい。水性インキ組成物中のpHが上記下限値以上であると、水性インキ組成物の貯蔵安定性がより優れる。水性インキ組成物中のpHが上記上限値以下であると、作業安全性がより優れる。
【0039】
<ワックス>
ワックスは、インキ層の耐擦過性の向上のために用いられる。
ワックスとしては、水性ワックスが好ましい。
水性ワックスとは、ワックスを水に分散してエマルジョン又はディスパージョンにしたものである。水に分散させるワックスは従来公知のワックスであってよく、例えばポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、変性パラフィンワックス、カルナバワックス、ポリテトラフルオロエチレンワックスが挙げられる。これらの水性ワックスは1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0040】
水性ワックス中の分散粒子の平均粒子径は、0.1~10μmが好ましく、1~7μmがより好ましく、1~5μmがさらに好ましい。平均粒子径が上記下限値以上であると、耐擦過性がより優れる。平均粒子径が上記上限値以下であると、発色性、ラミネート強度がより優れる。
水性ワックス中の分散粒子の平均粒子径は、コールターカウンター法により求められる。
【0041】
ワックスの針入度は、0.1~12が好ましく、0.1~11がより好ましく、0.1~10がさらに好ましい。ワックスの針入度が上記上限値以下であると、耐ブロッキング性がより優れる。
ワックスの針入度は、JIS K 2207に準拠して求められる。
【0042】
水性インキ組成物がワックスを含有する場合、ワックスの不揮発分換算での含有量は、水性インキ組成物の総質量に対して、0~10質量%が好ましく、0.5~8質量%がより好ましく、1~6質量%がさらに好ましい。ワックスの含有量が上記下限値以上であると、耐擦過性がより優れる。ワックスの含有量が上記上限値以下であると、発色性、ラミネート強度がより優れる。
【0043】
<顔料>
顔料としては、着色剤として公知の顔料であってよく、例えば有機顔料、無機顔料などが挙げられる。
有機顔料としては、例えばモノアゾ、縮合アゾ等のアゾ系顔料;アントラキノン系、ペリノン系、ペリレン系、チオインジゴ系等のスレン系顔料;フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン等のフタロシアニン系顔料;キナクリドン系顔料;ジオキサジン系顔料;イソインドリノン系顔料;ピロロピロール系顔料;アニリンブラック;有機蛍光顔料などが挙げられる。
無機顔料としては、例えばクレー、バライト、雲母、タルク等の天然物;紺青等のフェロシアン化物、硫化亜鉛等の硫化物;硫酸バリウム等の硫酸塩;酸化クロム、亜鉛華、酸化チタン、酸化鉄等の酸化物;水酸化アルミニウム等の水酸化物;珪酸カルシウム、群青等のケイ酸塩;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩;カーボンブラック、グラファイト等の炭素;アルミニウム粉、ブロンズ粉、亜鉛粉等の金属粉;焼成顔料などが挙げられる。
これらの顔料は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0044】
水性インキ組成物が顔料を含有する場合、水性インキ組成物中の顔料は1種であることが好ましい。水性インキ組成物中の顔料が1種であることで、調色の有無に関わらず、より彩度が高く、良好な外観の塗膜を形成することが可能となる。
【0045】
顔料の含有量は、水性インキ組成物の総質量に対して、1~50質量%が好ましく、1~48質量%がより好ましく、1~45質量%がさらに好ましい。顔料の含有量が上記下限値以上であると、隠蔽性、発色性がより優れる。顔料の含有量が上記上限値以下であると、塗膜の基材フィルムに対する密着性、インキ流動性がより優れる。
【0046】
<硬化剤>
硬化剤は、必要に応じて、ラミネート強度、基材フィルムに対する密着性のさらなる向上のために用いられる。
【0047】
硬化剤としては、公知のものを用いることができ、例えばイソシアネート系硬化剤、ブロックイソシアネート系硬化剤、カルボジイミド系硬化剤、オキサゾリン系硬化剤、エポキシ系硬化剤、アジリジン系硬化剤などが挙げられる。これらの中でも、ラミネート強度、基材フィルムに対する密着性がより向上する観点から、イソシアネート系硬化剤、カルボジイミド系硬化剤、エポキシ系硬化剤、アジリジン系硬化剤が好ましい。
これらの硬化剤は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0048】
イソシアネート系硬化剤は、1分子中に2個以上のイソシアネート基を含有する化合物である。イソシアネート系硬化剤としては、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば三井化学株式会社製の製品名「タケネートWD-720」、「タケネートWD-725」、「タケネートWD-726」、「タケネートWD-730」、「タケネートWD-220」、「タケネートXWD-HS7」、「タケネートXWD-HS30」;日本ポリウレタン工業株式会社製の製品名「アクアネート100」、「アクアネート110」、「アクアネート200」、「アクアネート210」;旭化成株式会社製の製品名「デュラネートWB40-100」、「デュラネートWB40-80D」、「デュラネートWT20-100」、「デュラネートWT30-100」、「デュラネートWL70-100」、「デュラネートWR80-70P」、「デュラネートWE50-100」;バイエルマテリアルサイエンス社製の製品名「Bayhydur 3100」、「Bayhydur 302」、「Bayhydur 304」、「Bayhydur 305」、「Bayhydur XP2451/1」、「Bayhydur XP2487/1」、「Bayhydur XP2547」、「Bayhydur XP2655」、「Bayhydur XP2700」;BASF社製の製品名「Basonat HW100」、「Basonat HA100」、「Basonat HW1180PC」が挙げられる。これらのイソシアネート系硬化剤は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0049】
ブロックイソシアネート系硬化剤は、1分子中に2個以上のブロックされたイソシアネート基を含有する化合物である。ブロックイソシアネート系硬化剤としては、例えばイソシアネート系硬化剤のブロック剤(例えば、アルコール系化合物、フェノール系化合物、オキシム系化合物、ラクタム系化合物、ピラゾール系化合物、及び活性メチレン化合物等)によるブロック体が挙げられる。これらのブロックイソシアネート系硬化剤は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0050】
カルボジイミド系硬化剤は、1分子中に2個以上のカルボジイミド基を含有する化合物である。カルボジイミド系硬化剤としては、例えばポリ(4,4’-ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド)、ポリ(ジイソプロピルカルボジイミド)が挙げられる。市販品のカルボジイミド系硬化剤としては、日清紡ケミカル株式会社製の製品名「カルボジライト」シリーズが挙げられる。これらのカルボジイミド系硬化剤は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0051】
オキサゾリン系硬化剤は、1分子中に2個以上のオキサゾリン基を含有する化合物である。オキサゾリン系硬化剤の具体例としては、2,2’-ビス-(2-オキサゾリン)、2,2’-メチレン-ビス-(2-オキサゾリン)、2,2’-(1,4-フェニレン)-ビス(2-オキサゾリン)等の多価オキサゾリンや、2-ビニル-2-オキサゾリン、2-ビニル-5-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-5-エチル-2-オキサゾリン等のオキサゾリン基含有単量体単位を有する重合体又は共重合体が挙げられる。オキサゾリン基含有単量体はそれぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を用いてもよい。また、オキサゾリン基含有単量体と、この単量体と共重合可能な他の単量体との共重合体であってもよい。市販品のオキサゾリン系硬化剤としては、株式会社日本触媒製の製品名「エポクロス」シリーズが挙げられる。これらのオキサゾリン系硬化剤は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0052】
エポキシ系硬化剤は、1分子中に2個以上のエポキシ基を含有する化合物である。エポキシ系硬化剤としては、例えばビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、トリグリシジルアミノフェノール、ビフェニルジグリシジルエーテル、トリグリシジルイソシアヌレート、ポリグリシジル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートとこれと共重合可能なビニル単量体との共重合体が挙げられる。市販品のエポキシ系硬化剤としては、三菱ケミカル株式会社製の製品名「jER」シリーズ、ナガセケムテックス株式会社製の製品名「デナコールEX」シリーズが挙げられる。これらのエポキシ系硬化剤は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0053】
アジリジン系硬化剤は、1分子中に2個以上のアジリジン基を含有する化合物である。アジリジン系硬化剤としては、例えば2,2-ビスヒドロキシメチルブタノール-トリス[3-(1-アジリジニル)プロピオネート]や4,4’-ビス(エチレンイミノカルボニルアミノ)ジフェニルメタンが挙げられる。市販品のアジリジン系硬化剤としては、株式会社日本触媒製の製品名「ケミタイト」シリーズが挙げられる。これらのアジリジン系硬化剤は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0054】
水性インキ組成物が硬化剤を含有する場合、硬化剤の不揮発分換算での含有量は、水性インキ組成物の総質量に対して、0.1~15質量%が好ましく、0.3~12質量%がより好ましく、0.5~10質量%がさらに好ましい。硬化剤の含有量が上記下限値以上であると、ラミネート強度、基材フィルムに対する密着性がより優れる。硬化剤の含有量が上記上限値以下であると、貯蔵安定性、インキ流動性がより優れる。
【0055】
<他の成分>
他の成分としては、例えば沈降防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、レベリング剤、増粘剤、消泡剤、滑剤、分散剤、安定剤などが挙げられる。これら他の成分は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0056】
他の成分の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲内であれば特に制限されないが、例えば水性インキ組成物の総質量に対して0~20質量%が好ましく、0~15質量%がより好ましく、0~10質量%がさらに好ましい。
水性インキ組成物が他の成分を含有する場合、他の成分の含有量は、水性インキ組成物の総質量に対して0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上がさらに好ましい。他の成分の含有量が上記下限値以上であれば、他の成分による効果が十分に発現される。
【0057】
<製造方法>
本実施形態の水性インキ組成物は、例えば水性ウレタン樹脂、並びに必要に応じてアルカリ性付与剤、ワックス、顔料、硬化剤及び他の成分のいずれか1以上を、水性媒体に溶解又は分散させることで得られる。
各成分の混合方法としては特に限定されず、種々の方法により各成分を混合することができる。
各成分を水性媒体に溶解又は分散させる方法としては特に制限されず、公知の分散機を用いて行うことができる。分散機としては、例えばペイントシェーカー、ボールミル、アトライター、サンドミル、ビーズミル、ダイノミル、ロールミル、超音波ミル、高圧衝突分散機などが挙げられる。このとき、1種の分散機を使用して1回又は複数回分散処理してもよいし、2種以上の分散機を併用して複数回分散処理してもよい。
後述する水性インキセットが備える前記複数の水性インキ組成物のうち少なくとも2つを混合することで、本実施形態の水性インキ組成物を調製してもよい。
【0058】
<用途>
本実施形態の水性インキ組成物は、典型的には任意の基材に印刷されてインキ層を形成する。
基材としては、例えばプラスチックフィルムが挙げられる。プラスチックフィルムと、プラスチックフィルム上に設けられたインキ層とを備えたインキ層付きフィルムは、例えば軟包装用として好適である。
ここで、「軟包装」とは、柔軟性を有する材料で構成されている包装材、すなわちフレキシブルパッケージのことであり、食品や日用品等の包装に用いられる。
【0059】
プラスチックフィルムとしては、例えばポリオレフィン(例えばポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等)、ポリエステル(例えばポリエチレンテレフタレート(PET)等)、ポリスチレン(PS)、延伸ポリプロピレン(OPP)、ポリアミド(NY)等のプラスチックフィルム(基材フィルム)が挙げられる。これらのプラスチックフィルムは1種を単独で用いてもよく2種以上を貼り合わせて使用してもよい。
【0060】
印刷方法としては、公知の印刷方法であってよい。
本実施形態の水性インキ組成物は、水と比較し乾燥速度の速いアルコールを高い比率で含有する希釈媒体を希釈に用いた場合でも、高い希釈率及び低粘度化が可能となり、高速印刷適正に優れる点から、グラビア印刷用又はフレキソ印刷用として好適である。
【0061】
印刷に先立って、水性インキ組成物を、アルコールを含有する希釈媒体で希釈してもよい。アルコールを含有する希釈媒体で希釈することで、乾燥速度を早くし、耐ブロッキング性の向上を図るとともに、表面張力を低下させることで、レベリング性を向上させることができる。
希釈媒体に用いるアルコールとしては、例えばメタノール、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノール、n-ブタノール、i-ブタノール等が挙げられる。これらのアルコールは1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
希釈媒体は、水を含有してもよい。
希釈媒体の使用量としては、印刷方法に応じ、希釈後の水性インキ組成物の粘度が印刷に適した粘度となるように、印刷方法に応じて適宜設定できる。例えばグラビア印刷の場合、希釈後の水性インキ組成物の粘度は、ザーンカップ#3を用いて測定される25℃における粘度として、13.5~18秒が好ましい。フレキソ印刷の場合、希釈後の水性インキ組成物の粘度は、ザーンカップ#4を用いて測定される25℃における粘度として、14~20秒が好ましい。
【0062】
プラスチックフィルム上に、本実施形態の水性インキ組成物を用いて印刷を施すことで、インキ層付きフィルムが得られる。
さらに、インキ層付きフィルムのインキ層上に接着層を設け、接着層上に樹脂層を貼り合わせる(ラミネート加工する)ことで、ラミネートフィルムが得られる。
【0063】
ラミネート加工としては、例えば押し出しラミネート法、ドライラミネート法、ノンソルラミネート法等が好適に挙げられる。
押し出しラミネート法では、インキ層付きフィルムのインキ層上にアンカーコート剤を塗工した後、又は塗工せずに、溶融ポリエチレン樹脂、溶融ポリプロピレン樹脂等を押し出して積層させる。
ドライラミネート法では、インキ層付きフィルムのインキ層上に有機溶剤で適当な粘度に希釈した接着剤を塗工、乾燥した後、シーラントフィルム(樹脂層)と熱圧着して積層させる。
ノンソルラミネート法では、インキ層付きフィルムのインキ層上に無溶剤の接着剤を塗工した後、シーラントフィルムと熱圧着して積層させる。
【0064】
ラミネートフィルムは、そのまま、又はヒートシール等により袋状等の形態に加工することで、軟包装用の包装材として使用できる。
包装材で食品、日用品等の被包装物を包装することで、包装体が得られる。
【0065】
<作用効果>
以上説明した本実施形態の水性インキ組成物は、水性ウレタン樹脂(A1)と水性ウレタン樹脂(A2)とを含有するので、アルコール希釈性及びインキ流動性に優れる。
【0066】
本実施形態の水性インキ組成物は、顔料分散性も良好である。水性インキ組成物の顔料分散性が良好であると、水性インキ組成物から形成されるインキ層の発色性が良好となる。
【0067】
本実施形態の水性インキ組成物は、調色安定性も良好である。
インキを実際に印刷する際には、色調の調整を行うため、複数の色のインキや、顔料を含有しない透明なインキ(メヂウム)を適宜混合する、調色と呼ばれる作業を行ったうえで、印刷に使用することが一般的である。そのため、インキには、調色した際に、インキの増粘や色相分離、ショックによる沈降や外観不良といった不具合が起こりにくい、良好な調色安定性が求められる。
【0068】
本実施形態の水性インキ組成物は、本実施形態の水性インキ組成物であって互いに色調が異なる複数の水性インキ組成物を混合したもの(以下、「調色した水性インキ組成物」ともいう。)についてザーンカップ#4で測定される25℃における粘度と、この調色した水性インキ組成物を25℃で1週間静置した後に同様に測定される粘度との差が、±3秒未満であることが好ましく、±2秒未満であることがより好ましい。この粘度の差が小さいほど、調色安定性に優れる。
この粘度の差を小さくする方法としては、例えば、混合する複数の水性インキ組成物に、共通したバインダー樹脂を使用することなどが挙げられる。
【0069】
本実施形態の水性インキ組成物によれば、インキ層とプラスチックフィルムとの密着性に優れるインキ層付きフィルム、ラミネート強度やボイル適性に優れるラミネートフィルムが得られる。
軟包装用途では、食品等を包装材で包装した包装体を、殺菌等の目的でボイルすることがある。ボイル適性が低いと、ボイル時に層間剥離(ラミ浮き)が生じるおそれがある。
【0070】
〔水性インキセット〕
本発明の一実施形態に係る水性インキセットは、互いに色調が異なる複数の水性インキ組成物を備える。
水性インキ組成物は各々、本実施形態の水性インキ組成物であり、水性ウレタン樹脂と水性媒体とを含有する。
水性インキ組成物の少なくとも一部は顔料をさらに含有する。水性インキ組成物のうち1つは、顔料を含有しない、いわゆるメヂウムであってよい。
水性インキ組成物は各々、アルカリ性付与剤をさらに含有していてもよい。
水性インキ組成物は各々、ワックスをさらに含有していてもよい。
水性インキ組成物は各々、水性ウレタン樹脂、水性媒体、アルカリ性付与剤、ワックス、顔料及び硬化剤以外の他の成分をさらに含有していてもよい。
水性インキセットは、硬化剤をさらに備えていてもよい。
【0071】
水性ウレタン樹脂、水性媒体、顔料、アルカリ性付与剤、ワックス、他の成分、硬化剤は各々、前記と同様であり、好ましい含有量も前記と同様である。
【0072】
本実施形態の水性インキセットは、本実施形態の水性インキ組成物と同様の用途に使用できる。
印刷に際しては、水性インキセットを構成する複数の水性インキ組成物のうち少なくとも1つをそのまま印刷に供してもよく、複数の水性インキ組成物の少なくとも2つを混合して調色したものを印刷に供してもよく、それらの両方を印刷に供してもよい。
【実施例】
【0073】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
「%」は、特に記載のない場合、「質量%」を意味する。
【0074】
[使用原料]
<水性ウレタン樹脂(A1)>
・A1-1:エーテル系ウレタン樹脂(荒川化学工業株式会社製、商品名「ユリアーノW」、ガラス転移温度:-50℃、粘度:30~1000mPa・s/25℃)。
・A1-2:エーテル系ウレタン樹脂(日華化学株式会社製、商品名「エバファノールHA」、ガラス転移温度:-40℃、粘度:500mPa・s/25℃未満)。
・A1-3:エーテル系ウレタン樹脂(三井化学株式会社製、商品名「タケラックW」、ガラス転移温度:25℃、粘度:50mPa・s/25℃)。
・A1-4:エーテル系ウレタン樹脂(三井化学株式会社製、商品名「タケラックWS」、ガラス転移温度:70℃、粘度:17mPa・s/25℃)。
【0075】
<水性ウレタン樹脂(A2)>
・A2-1:エステル系ウレタン樹脂(三井化学株式会社製、商品名「タケラックWS」、ガラス転移温度:70℃、粘度:200mPa・s/25℃)。
・A2-2:エステル系ウレタン樹脂(三井化学株式会社製、商品名「タケラックWS」、ガラス転移温度:115℃、粘度:30mPa・s/25℃)。
・A2-3:エステル系ウレタン樹脂(三井化学株式会社製、商品名「タケラックWS」、ガラス転移温度:50℃、粘度:20mPa・s/25℃)。
・A2-4:カーボネート系ウレタン樹脂(三井化学株式会社製、商品名「タケラックWS」、ガラス転移温度:120℃、粘度:20mPa・s/25℃)。比較品。
【0076】
<水性媒体>
・IPA:i-プロパノール。
・水:水道水。
【0077】
<アルカリ性付与剤>
・B-1:25%アンモニア水。
【0078】
<ワックス>
・C-1:ポリエチレンワックス(三井化学株式会社製、商品名「ケミパールW-500」、固形分40%、粒径:2.5μm、針入度:10)。
【0079】
<顔料>
・D-1:Pigment White6(堺化学工業株式会社製、商品名「タイトーンR-21」)。
・D-2:Pigment Red48:1(東洋カラー株式会社製、商品名「リオノールレッド TT-4804G」)。
・D-3:Pigment Red48:3(東洋カラー株式会社製、商品名「リオノールレッド TT-4803」)。
・D-4:Pigment Yellow83(BASFジャパン株式会社製、商品名「イルガライトイエローD1745」)。
・D-5:Pigment Yellow14(BASFジャパン株式会社製、商品名「イルガライトイエローD2175」)。
・D-6:Pigment Blue15:3(BASFジャパン株式会社製、商品名「ヘリオゲンブルーD7092」)。
・D-7:Pigment Blue15:4(東洋カラー株式会社製、商品名「リオノールブルー 7390)。
・D-8:Pigment Blue15:3(BASFジャパン株式会社製、商品名「ヘリオゲンブルーD7088」)。
・D-9:Pigment Blue15:3(BASFジャパン株式会社製、商品名「ヘリオゲンブルーD7086」)。
・D-10:Pigment Green7(東洋カラー株式会社製、商品名「リオノールグリーン 8948」)。
・D-11:Pigment Black7(CABOT社製、商品名「リーガル330」)。
・D-12:Pigment Red101(LANXESS社製、商品名「Bayferrox4100」)。
・D-13:Pigment Red146(東洋カラー株式会社製、商品名「リオノールレッド 5620」)。
・D-14:Pigment Orange13(DIC株式会社製、商品名「ピグメントオレンジG」)。
・D-15:Pigment Red122(BASFジャパン株式会社製、商品名「シンカシャピンクD4450」)。
・D-16:Pigment Violet23(東洋カラー株式会社製、商品名「リオノゲンバイオレット FG-6150」)。
・D-17:アルミニウムペースト(東洋アルミニウム株式会社製、商品名「アルミニウムペーストWJP-T95F」)。
・D-18:パール顔料、Pigment White 6/Pigment White 20(MERCK株式会社製、商品名「イリオジン6103アイシーホワイト」)。
【0080】
<他の任意成分>
・消泡剤:BYK社製、商品名「BYK-028」。
・硬化剤:カルボジイミド系硬化剤(日清紡ケミカル株式会社製、商品名「カルボジライトE-05」、固形分40%)。
【0081】
[実施例1~28、比較例1~16]
<水性インキ組成物の調製>
表1~9に示す組成に従って、水性ウレタン樹脂(A)、アルカリ性付与剤(B)、ワックス(C)、顔料(D)、他の任意成分を混合し、ダイノミル(ガラスビーズ使用)を用いて分散処理を行った。得られた混合物を、インバーター式撹拌機を用い、1000rpmの条件で水性媒体(E)に分散させることで、水性インキ組成物を得た。表1~9中、各成分の含有量は、水性インキ組成物の総質量に対する割合(%)である。水の「残分」は、水性インキ組成物の総質量が100%となる量である。
【0082】
得られた水性インキ組成物について、以下に示す手順で、グラビア印刷フィルム又はフレキソ印刷フィルム、ラミネートフィルムを作製し、アルコール希釈性、インキ流動性、発色性、密着性、ラミネート強度、ボイル適性を評価した。表1~9中、印刷方式の欄に「グラビア」と記載した例ではグラビア印刷フィルムを作製し、「フレキソ」と記載した例ではフレキソ印刷フィルムを作製した。評価結果を表1~9に示す。
【0083】
<グラビア印刷フィルムの作製>
調製した水性インキ組成物を、ザーンカップ#3を用いて測定される25℃における粘度が15秒となるように希釈溶剤(メタノール/IPA=8/2(質量比))で希釈して、印刷用のインキを調製した。ヘリオ175線/inchグラビア彫刻版を備えたグラビア印刷機(松尾産業株式会社製、商品名「Kプリンティングプルーファー」)を使用し、厚さ12μmの片面処理PETフィルム(東洋紡株式会社製、商品名「エステルフィルム8102」)の処理面に、調製した印刷用のインキを付与した後、25℃で24時間乾燥させてグラビア印刷フィルムを製造した。
【0084】
<フレキソ印刷フィルムの作製>
調製した各インキ組成物を、ザーンカップ#4を用いて測定される25℃における粘度が20秒となるように水で希釈して、印刷用のインキを調製した。セルボリューム13ccのアニロックスロールを使用し、インキを塗工する直前にコロナ処理を施し、フィルムの処理度をリフレッシュさせた厚さ12μmの片面処理PETフィルム(東洋紡株式会社製、商品名「エステルフィルム8102」)の処理面に、調製した印刷用のインキを付与した後、25℃で48時間乾燥させてフレキソ印刷フィルムを製造した。
【0085】
<ラミネートフィルムの作製>
前記グラビア印刷フィルム又は前記フレキソ印刷フィルムのインキ層側の表面に、ドライラミネート用接着剤(商品名:「セイカボンドE372/C-76」、大日精化工業社製)を、乾燥塗布量で3g/m2となるようにグラビア印刷にて塗布、乾燥した。その上にLLDPEフィルム(商品名「T.U.X HC」、三井化学東セロ社製、厚さ60μm)を重ね、熱圧着した。その後、40℃で48時間エージングを行い、ラミネートフィルムを得た。
【0086】
<アルコール希釈性の評価>
水性インキ組成物を希釈媒体(メタノール/IPA=8/2)で、希釈率50質量%(希釈媒体の質量が水性インキ組成物の質量×0.5)で希釈した希釈液について、ザーンカップ#3を用いて25℃における粘度(A)を測定した。
水性インキ組成物を希釈媒体(メタノール/IPA=8/2)で、希釈率100質量%(希釈媒体の質量が水性インキ組成物の質量×1)で希釈した希釈液について、ザーンカップ#3を用いて25℃における粘度(B)を測定した。
粘度(B)-粘度(A)で表される粘度差を算出し、以下の評価基準にてアルコール希釈性を評価した。
〇:1秒以下(増粘が発生せず、アルコール希釈性に優れている)。
△:1秒超、3秒以下。
×:3秒超。
【0087】
<インキ流動性の評価>
製造後の水性インキ組成物を透明容器に収容し、25℃で1日保管した後、透明容器を傾け、水性インキ組成物のインキ流動性を目視で確認し、以下の評価基準にて評価した。
〇:良好な流動性を有する。
△:チキソ性を有し、一部流動性が損なわれている。
×:流動性を有さない。
【0088】
<彩度の評価>
得られたグラビア印刷フィルム又はフレキソ印刷フィルムのインキ層のC*値を、測色計(x-rite社製、exact)を用いて測定した。C*値が高いほど、彩度に優れることを意味する。
【0089】
<発色性の評価>
得られたグラビア印刷フィルム又はフレキソ印刷フィルムのインキ層の発色性を目視で確認し、以下の評価基準にて評価した。発色性が良いほど、顔料分散性に優れることを意味する。なお、水性インキ組成物が顔料を含まない例については、発色性の評価は行わなかった。
○:十分な濃度を有し、鮮明である。
△:濃度、鮮明さのいずれかが損なわれている。
×:濃度が不足し、不鮮明である。
【0090】
<密着性の評価>
得られたグラビア印刷フィルム又はフレキソ印刷フィルムのインキ層側の表面に、セロハンテープ(ニチバン株式会社製)を貼り付けた後、このセロハンテープを速やかに剥がし、基材フィルム(片面処理PETフィルム)上に残ったインキ層の状態を目視にて確認し、以下の評価基準にてインキ層の基材フィルムに対する密着性を評価した。
5:インキ層が全く剥離していない。
4:インキ層の総面積に対して、剥離したインキ層の面積の割合が0%超、20%未満である。
3:インキ層の総面積に対して、剥離したインキ層の面積の割合が20%以上、50%未満である。
2:インキ層の総面積に対して、剥離したインキ層の面積の割合が50%以上、70%未満である。
1:インキ層の総面積に対して、剥離したインキ層の面積の割合が70%以上、100%未満である。
【0091】
<ラミネート強度の評価>
得られたラミネートフィルムを切断し、幅15mmの短冊状の試験片を作製した。万能型引張試験機(商品名「E3-L」、東洋精機製作所製)を使用し、作製した試験片を引張速度300mm/分の条件で引張剥離(T型剥離)して、剥離時の平均荷重を測定した。
【0092】
<ボイル適性の評価>
得られたラミネートフィルムを、85℃の熱水中で30分加熱処理した後、ラミネート強度の低下の有無、ラミ浮き(層間剥離)の有無を目視で確認し、以下の評価基準にてボイル適性を評価した。
〇:ラミネート強度の低下、ラミ浮きのいずれも確認されない。
△:軽度のラミネート強度の低下又はラミ浮きが確認される。
×:顕著にラミネート強度の低下又はラミ浮きが確認される。
【0093】
【0094】
【0095】
【0096】
【0097】
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】
【0102】
[応用例]
ヒートシールテスター(テスター産業株式会社製、製品名「TP-701-C ヒートシールテスター」)を用いて、実施例1のラミネートフィルムをヒートシールして、開口部を有する袋状の包装材を作製した。その中に試験物(酢:水:サラダ油=1:1:1(質量比)の混合物)を充填し、上記ヒートシールテスターで開口部をヒートシールして包装体を得た。この包装体について、ボイル適性、ラミネート強度に優れていることを確認し、使用上問題ないことを確認した。
【0103】
[実施例29~31、比較例17~18]
表10に示す複数の水性インキ組成物を等量ずつ混合して水性インキ組成物を調製した。
得られた水性インキ組成物について、上記と同様に、グラビア印刷フィルム又はフレキソ印刷フィルム、ラミネートフィルムを作製し、アルコール希釈性、インキ流動性、発色性、密着性、ラミネート強度、ボイル適性を評価した。また、以下の方法で、調色安定性を評価した。評価結果を表10に示す。
【0104】
<調色安定性の評価>
複数の水性インキ組成物を混合した直後の、ザーンカップ#4を用いて測定される25℃における粘度(C)と、25℃で1週間保管した後の、ザーンカップ#4を用いて測定される25℃における粘度(D)との差を算出し、以下の評価基準にて調色安定性を評価した。
〇:±3秒未満。
△:±3秒以上、±5秒未満。
×:±5秒以上。
【0105】
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明の水性インキ組成物は、アルコール希釈性、インキ流動性、顔料分散性及び調色安定性に優れており、グラビア印刷又はフレキソ印刷用のインキとして有用である。
【要約】
【課題】アルコール希釈性及びインキ流動性に優れる水性インキ組成物の提供。
【解決手段】水性ウレタン樹脂と水性媒体とを含有する水性インキ組成物であって、前記水性ウレタン樹脂が、水性ウレタン樹脂(A1)と水性ウレタン樹脂(A2)とを含有し、前記水性ウレタン樹脂(A1)が、ガラス転移温度が-70~-30℃のエーテル系ウレタン樹脂であり、前記水性ウレタン樹脂(A2)が、ガラス転移温度が60~120℃のエステル系ウレタン樹脂であり、前記水性ウレタン樹脂(A1)と前記水性ウレタン樹脂(A2)との合計の含有量が、前記水性インキ組成物中の不揮発分の総質量に対して、20~94質量%である、水性インキ組成物。
【選択図】なし