(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-17
(45)【発行日】2024-04-25
(54)【発明の名称】経口組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 33/10 20160101AFI20240418BHJP
A23L 33/19 20160101ALI20240418BHJP
A61K 31/122 20060101ALI20240418BHJP
A61K 38/17 20060101ALI20240418BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20240418BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
A23L33/10
A23L33/19
A61K31/122
A61K38/17
A61P27/02
A61P43/00 121
(21)【出願番号】P 2020016377
(22)【出願日】2020-02-03
【審査請求日】2022-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】河本 啓
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2007/0253941(US,A1)
【文献】特表2009-500374(JP,A)
【文献】特開平11-199477(JP,A)
【文献】特開2005-068119(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A61K
A61P
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コエンザイムQ10を含有する、涙液分泌促進用の経口組成物
(但し、以下の(1)~(3)のいずれかに該当する場合を除く:
(1)アンギオゲニンを含む場合。
(2)(i)L-カルニチン、アルカノイルL-カルニチン、及びこれらの塩よりなる群から選択される少なくとも1種と(ii)オメガ-3多価不飽和脂肪酸とを含む場合。
(3)原発性胆汁性肝硬変の治療に使用される場合。)。
【請求項2】
更にラクトフェリンを含む、請求項1に記載の涙液分泌促進用の経口組成物。
【請求項3】
コエンザイムQ10が酸化型である、請求項1又は2に記載の涙液分泌促進用の経口組成物。
【請求項4】
コエンザイムQ10 100重量部当たり、ラクトフェリンを10~1000重量部含む、請求項2又は3に記載の涙液分泌促進用の経口組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、涙液分泌促進用途に使用される経口組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ドライアイ、眼精疲労、ピント調節機能の低下、眼の乾燥、異物感又は不快感等の症状は、涙液分泌の低下や涙液の安定性の低下が一因となっている。現代社会では、情報技術の発達に伴い、VDT(Visual Display Terminals)作業を長時間行う機会が増加しており、前記症状を訴える人が増加している。
【0003】
従来、涙液分泌の低下によって生じる症状の改善には、ヒアルロン酸等の粘弾性物質を配合した局所適用製剤(人工涙液や点眼剤)が主に使用されている。しかしながら、このような局所適用製剤では、一時的な対症療法に過ぎず、効果には限界がある。そこで、涙液分泌を促進できる食品や内服用医薬品が注目されている。例えば、特許文献1には、アスパラサス・リネアリス(Aspalathus linearis)抽出物の経口摂取により、涙液分泌を促進できることが開示されている。また、特許文献2には、セロトニン5-HT3受容体の作動薬又は拮抗薬を含む経口剤は、涙液分泌を促進できることが開示されている。
【0004】
このように、従来、涙液分泌を促進できる経口組成物については検討されているものの、製剤処方の多様化、機能性の向上等に対応するために、涙液分泌を促進できる新たな経口組成物の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-107924号公報
【文献】特開2017-119637号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、涙液分泌促進用途に使用される経口組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、コエンザイムQ10を経口摂取すると、効果的に涙液の分泌を促進できることを見出した。更に、本発明者は、コエンザイムQ10とラクトフェリンを組み合わせて摂取することにより、涙液分泌促進効果が飛躍的に向上することを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0008】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. コエンザイムQ10を含有する、涙液分泌促進用の経口組成物。
項2. 更にラクトフェリンを含む、項1に記載の涙液分泌促進用の経口組成物。
項3. コエンザイムQ10が酸化型である、項1又は2に記載の涙液分泌促進用の経口組成物。
項4. コエンザイムQ10 100重量部当たり、ラクトフェリンを10~1000重量部含む、項2又は3に記載の涙液分泌促進用の経口組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明の経口組成物によれば、コエンザイムQ10によって優れた涙液分泌促進効果を奏することができるので、ドライアイ、眼精疲労、眼の乾燥、涙液量低下による異物感又は不快感等の症状を効果的に予防又は改善することができる。また、本発明の経口組成物の一実施形態では、コエンザイムQ10とラクトフェリンを併用することにより、これらの相乗作用に基づいて格段顕著に優れた涙液分泌促進効果を奏することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の経口組成物は、涙液の分泌促進用途に使用されるものであって、コエンザイムQ10を有効成分として含むことを特徴とする。以下、本発明の経口組成物について詳述する。
【0011】
[コエンザイムQ10]
本発明の経口組成物は、涙液の分泌促進のための有効成分としてコエンザイムQ10を含有する。本発明において、コエンザイムQ10は、酸化型(ユビデカレノン)又は還元型(ユビキノール)のいずれか一方を単独で使用してもよく、これらを組み合わせて使用してもよい。コエンザイムQ10として、好ましくは酸化型が挙げられる。
【0012】
本発明の経口組成物におけるコエンザイムQ10の含有量については、経口組成物の形態、1回当たりの摂取量等に応じて適宜設定すればよいが、例えば5~70重量%、好ましくは10~60重量%、より好ましくは20~50重量%が挙げられる。
【0013】
[ラクトフェリン]
本発明の経口組成物は、コエンザイムQ10に加えて、更にラクトフェリンを含んでいてもよい。コエンザイムQ10とラクトフェリンを併用することにより、涙液分泌促進効果を飛躍的に向上させることが可能になる。
【0014】
ラクトフェリンは、乳、涙、唾液、及び血液等の体液中に存在する鉄結合性の糖蛋白質である。本発明で使用するラクトフェリンは、動物由来のもの又は遺伝子工学的手法を用いて製造されたものであってもよいが、動物由来であることが好ましい。ラクトフェリンは、例えば、ヒツジ、ヤギ、ブタ、マウス、水牛、ラクダ、ヤク、ウマ、ロバ、ラマ、ウシ、ヒト等の哺乳動物の乳に豊富に含まれていることが知られており、本発明では、哺乳動物の乳由来のラクトフェリンを好適に使用できる。哺乳動物の乳由来のラクトフェリンの中でも、牛乳由来のラクトフェリンは、涙液分泌促進効果を飛躍的に向上させ得るので、特に好適に使用できる。
【0015】
本発明の経口組成物にラクトフェリンを含有させる場合、コエンザイムQ10とラクトフェリンの比率については、特に制限されないが、例えば、コエンザイムQ10 100重量部当たり、ラクトフェリンが10~1000重量部、好ましくは20~500重量部、より好ましくは30~300重量部が挙げられる。
【0016】
本発明の経口組成物にラクトフェリンを含有させる場合、ラクトフェリンの含有量については、コエンザイムQ10の含有量、経口組成物の形態、1回当たりの摂取量等に応じて適宜設定すればよいが、例えば5~70重量%、好ましくは10~60重量%、より好ましくは20~50重量%が挙げられる。
【0017】
[その他の成分]
本発明の経口組成物は、前述する成分に加えて、他の栄養成分や薬理成分を含有していてもよい。このような栄養成分や薬理成分としては、食品や内服用医薬品に使用可能なものであれば特に制限されないが、例えば、ビタミン、アミノ酸、ミネラル、糖質、脂肪酸、香料、調味剤、植物エキス、抗酸化剤、血糖降下剤、抗コレステロール剤、免疫賦活剤等が挙げられる。これらの成分は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、これらの成分の含有量については、使用する添分の種類や経口組成物の用途等に応じて適宜設定される。
【0018】
更に、本発明の経口組成物は、所望の製剤形態に調製するために、必要に応じて前述する成分の他に、基剤や添加剤等が含まれていてもよい。このような基剤及び添加剤としては、食品や内服用医薬品に使用可能なものであれば特に制限されないが、例えば、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、結合剤、増粘剤、低級アルコール、固形油、高級アルコール、水溶性高分子、界面活性剤、多価アルコール、pH調整剤、緩衝剤、酸化防止剤、防腐剤、キレート剤、水等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、これらの基剤や添加剤の含有量については、使用する成分の種類や経口組成物の用途等に応じて適宜設定される。
【0019】
[剤型・製剤形態]
本発明の経口組成物の剤型については、経口摂取又は経口投与が可能であることを限度として特に制限されず、固体状、半固体状、又は液体状のいずれであってもよく、経口組成物の種類や用途に応じて適宜設定すればよい。
【0020】
本発明の経口組成物の製剤形態については、経口摂取又は経口投与が可能であることを限度として特に制限されないが、具体的には、飲食品及び内服用医薬品が挙げられる。
【0021】
本発明の経口組成物を飲食品の製剤形態にする場合、前述する成分を、そのまま又は他の食品素材や添加成分と組み合わせて所望の形態に調製すればよい。このような飲食品としては、一般の飲食品の他、特定保健用食品、栄養補助食品、機能性表示食品、病者用食品等が挙げられる。これらの飲食品の形態として、特に制限されないが、具体的には、錠剤(コーティング錠を含む)、カプセル剤(ソフトカプセル剤、ハードカプセル剤)、顆粒剤、散剤、ゼリー剤等のサプリメント;栄養ドリンク、果汁飲料、炭酸飲料、乳酸飲料等の飲料;団子、アイス、シャーベット、グミ、キャンディー等の嗜好品等が例示される。これらの飲食品の中でも、好ましくはサプリメント、より好ましくは錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤が挙げられる。
【0022】
本発明の経口組成物を内服用医薬品の製剤形態にする場合、前述する成分を、そのまま又は他の添加成分と組み合わせて所望の形態に調製すればよい。このような内服用医薬品としては、具体的には、カプセル剤(ソフトカプセル剤、ハードカプセル剤)、錠剤(コーティング錠を含む)、顆粒剤、散剤、ゼリー剤、シロップ剤、液剤等が挙げられる。これらの内服用医薬品の中でも、好ましくは、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤が挙げられる。
【0023】
[用途/摂取又は服用量]
本発明の経口組成物は、涙液の分泌を促進するために使用される。涙液の分泌促進は、ドライアイ、眼精疲労、眼の乾燥、ピント調節機能の低下、涙液量低下による異物感又は不快感等の症状の予防又は改善に有効であるので、本発明の経口組成物は、これらの症状の予防又は改善用途に好適に使用できる。
【0024】
本発明の経口組成物の摂取又は服用量については、特に限定されず、製剤形態、用途等に応じて適宜設定されるが、例えば、成人の場合、1日当たりのコエンザイムQ10の摂取又は服用量として、5~200mg程度、好ましくは10~100mg程度が挙げられる。
【実施例】
【0025】
次に、本発明を実施例により、更に詳細に説明するが、本発明は、これらの例によって何ら限定されるものではない。
【0026】
試験例1:涙液分泌機能の評価
文献(Simsek C, et al. Alterations of Murine Subbasal Corneal Nerves After Environmental Dry Eye Stress. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2018; 59(5): 1986-1995.)に示されている環境ストレスドライアイモデルを用いて、涙液分泌機能の評価を行った。具体的には、マウス(C57BL/6、5週齢,雄)を1週間馴化させた後に、3群(1群当たり12匹)に分け、表1に示す被験飼料を1か月自由摂取させて飼育した。被験飼料摂取の最後の3日間は、各マウスに環境ストレスを負荷することによりドライアイを誘発させた。環境ストレスは、各マウスを小さな空間に拘束し、前方から一定の速度(2m/s)で風を当てる操作を1日5時間行うことにより負荷した。
【0027】
【0028】
被験飼料の摂取前と、3日間の環境ストレス負荷後に、フェノールレッド綿糸法により各マウスの涙液の分泌量を測定した。フェノールレッド綿糸法による涙液の分泌量は、具体的には、フェノールレッドで染められた綿糸の先端をマウスの目尻に15秒間付着させ、涙液で濡れた綿糸の長さ(mm)をマウスの体重(kg)で除することにより、涙液分泌量(mm/kg)を算出した。
【0029】
得られた結果を表2に示す。この結果、比較例1(通常飼料摂取群)では、環境ストレス負荷後に涙液分泌量が著しく低下していたが、実施例1(コエンザイムQ10摂取群)では、環境ストレス負荷後の涙液分泌量の低下を効果的に抑制できていた。更に、実施例2(コエンザイムQ10&ラクトフェリン摂取群)では、環境ストレス負荷後でも、被験飼料摂取前と同程度の涙液分泌量であった。即ち、本結果から、コエンザイムQ10には涙液の分泌を促進する効果があり、特にコエンザイムQ10とラクトフェリンを併用することにより、涙液の分泌を促進する効果が飛躍的に高まることが明らかとなった。
【0030】