(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-18
(45)【発行日】2024-04-26
(54)【発明の名称】錠剤組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 36/9068 20060101AFI20240419BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20240419BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20240419BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20240419BHJP
A61K 47/04 20060101ALI20240419BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20240419BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20240419BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20240419BHJP
【FI】
A61K36/9068
A61K9/20
A61K47/02
A61K47/38
A61K47/04
A61K47/36
A61P3/04
A61P3/06
(21)【出願番号】P 2022084726
(22)【出願日】2022-05-24
(62)【分割の表示】P 2018104527の分割
【原出願日】2018-05-31
【審査請求日】2022-06-23
(31)【優先権主張番号】P 2017156131
(32)【優先日】2017-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】赤木 淳二
(72)【発明者】
【氏名】塩見 隆史
【審査官】長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-196990(JP,A)
【文献】特開2014-214125(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0061102(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第105362766(CN,A)
【文献】防風通聖散(簡体字)(オンライン),https://www.zhzyw.com/zycs/zyfj/f/0811113F83C9D290CDKKB49A2.html など,例えば、「麻症集成」は、1879年発行。
【文献】Journal of Ethnopharmacology,2012年,Vol. 144,pp. 720-725
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
防風通聖散エキスを含有し、
前記防風通聖散エキスの抽出に使用された生薬調合物が、前記生薬調合物の100重量部当たりショウキョウを2~5重量部含み、
前記生薬調合物の100重量部当たり硫酸ナトリウムを3~6重量部含み、
前記防風通聖散エキスを60~95重量%含む
、錠剤組成物。
【請求項2】
カルメロースカルシウムを0.5~10重量%含む、請求項
1に記載の錠剤組成物。
【請求項3】
軽質無水ケイ酸を3~25重量%含む、請求項1
又は2に記載の錠剤組成物。
【請求項4】
デンプンを含む、請求項1~
3のいずれかに記載の錠剤組成物。
【請求項5】
防風通聖散エキスが、生薬由来成分の総量100重量部当たり、6-ギンゲロールを0.02~0.04重量部含む、請求項1~
4のいずれかに記載の錠剤組成物。
【請求項6】
賦形剤及び/又は結合剤と崩壊剤とを含む添加剤を含む、請求項
1に記載の錠剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、錠剤に成形された際に優れた硬度及び崩壊性を奏する錠剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、漢方エキスを乾燥させたエキス末は吸湿性が高く、錠剤として成形されると崩壊性の遅延が起こりやすい。そのため漢方エキスを含有する錠剤の作製にあたっては、崩壊性や溶出性を向上させる目的で崩壊剤が添加される事が多い。しかし、崩壊性を高めるために錠剤中の崩壊剤の含量を増やす事は、錠剤中の漢方エキスの含量の低下に繋がり、十分な効能を得るために多くの錠剤を服用しなければならないという問題が生じる。
【0003】
また、錠剤の設計においては、崩壊性だけでなく硬度についても考慮する必要がある。通常、崩壊性を高めると硬度が下がる傾向にあり、成形しづらいという問題が生じる。また、包装工程や輸送中の衝撃を考慮すると、これらの衝撃に耐えることができる十分な硬度が求められる。しかし、硬度が高すぎると崩壊性や溶出性の遅延に繋がる。
【0004】
そのため、これまでに実用的な硬度と崩壊性を得るために様々な検討がなされている。例えば、特許文献1では、漢方エキスを含有する錠剤組成物に、クロスカルメロースナトリウム及び炭酸水素ナトリウムを配合する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これまでの漢方エキス含有錠剤においては、錠剤中の漢方エキスの含有率が高い場合、錠剤の崩壊時間が遅延したり、崩壊時間にばらつきが生じたり、硬度が出難いなど、硬度と崩壊性の良好な錠剤を製造することは依然として困難であった。
【0007】
本発明の目的は、錠剤に成形された際に優れた硬度及び崩壊性を奏する錠剤組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、生薬調合物100重量部当たりショウキョウを2~5重量部含む生薬調合物から抽出した防風通聖散エキスを錠剤組成物に配合することにより上記目的を達成できることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0009】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 防風通聖散エキスを含有し、前記防風通聖散エキスの抽出に使用された生薬調合物が、前記生薬調合物の100重量部当たりショウキョウを2~5重量部含む、錠剤組成物。
項2. 前記生薬調合物の100重量部当たり硫酸ナトリウムを3~6重量部含む、項1に記載の錠剤組成物。
項3. 前記防風通聖散エキスを60~95重量%含む、項1又は2に記載の錠剤組成物。
項4. カルメロースカルシウムを0.5~10重量%含む、項1~3のいずれかに記載の錠剤組成物。
項5. 軽質無水ケイ酸を3~25重量%含む、項1~4のいずれかに記載の錠剤組成物。
項6. デンプンを含む、項1~5のいずれかに記載の錠剤組成物。
項7. 防風通聖散エキスが、生薬由来成分の総量100重量部当たり、6-ギンゲロールを0.02~0.04重量部含む、項1~6のいずれかに記載の錠剤組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明の錠剤組成物によれば、錠剤に成形された際に優れた硬度及び崩壊性を奏することができる。従って、製錠時において必ずしも高い打圧を必要とせず、打錠装置の長寿命化も図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の錠剤組成物は、防風通聖散エキスを含有し、防風通聖散エキスの抽出に使用された生薬調合物が、当該生薬調合物の100重量部当たりショウキョウを2~5重量部含むことを特徴とする。以下、本発明の錠剤組成物について詳述する。
【0012】
防風通聖散エキス
防風通聖散を構成する生薬は、「一般用漢方処方の手引き」(厚生省薬務局監修、日薬連漢方専門委員会編集、薬業時報社発行)によれば、トウキ、シャクヤク、センキュウ、サンシシ、レンギョウ、ハッカ、ショウキョウ、ケイガイ、ボウフウ、マオウ、ダイオウ、ボウショウ、ビャクジュツ、キキョウ、オウゴン、カンゾウ、セッコウ、及びカッセキである。書簡によっては、前記生薬の内、ビャクジュツを含まないもの(例えば「経験漢方処方分量集」、大塚敬節・矢数道明監集、医道の日本社発行)や、オウゴンを含まないもの(例えば「続漢方あれこれ」大阪読売新聞社編、浪速社発行)がある。本発明で使用される防風通聖散エキスは、これらのいずれの防風通聖散から得られるものであってもよい。
【0013】
また、防風通聖散を構成する各生薬の分量は、「一般用漢方処方の手引き」(厚生省薬務局監修、日薬連漢方専門委員会編集、薬業時報社発行)、「第十七改正日本薬局方」等によれば、トウキ1.2重量部、シャクヤク1.2重量部、センキュウ1.2重量部、サンシシ1.2重量部、レンギョウ1.2重量部、ハッカ1.2重量部、ショウキョウ0.3~1.2重量部、ケイガイ1.2重量部、ボウフウ1.2重量部またはハマボウフウ1.2重量部、マオウ1.2重量部、ダイオウ1.5重量部、ボウショウ(硫酸ナトリウム無水物換算量)0.6~1.5重量部、ビャクジュツ2重量部、キキョウ2重量部、オウゴン2重量部、カンゾウ2重量部、セッコウ2~3重量部、及びカッセキ3~5重量部である。また、書簡によっては、前記分量中、1.2重量部を全て1.5重量部としているものもある(例えば「明解漢方処方」、西岡一夫、高橋真太郎共著、浪速社発行)。
【0014】
防風通聖散エキスの製造に供される生薬調合物における各生薬の分量については、前記で例示した書簡に示されている各生薬の分量のうち、好適な例として、トウキ1.2重量部、シャクヤク1.2重量部、センキュウ1.2重量部、サンシシ1.2重量部、レンギョウ1.2重量部、ハッカ1.2重量部、ケイガイ1.2重量部、ボウフウ1.2重量部、マオウ1.2重量部、ダイオウ1.5重量部、ボウショウ(硫酸ナトリウム無水物換算量)0.6~1.5重量部、ビャクジュツ2重量部、キキョウ2重量部、オウゴン2重量部、カンゾウ2重量部、セッコウ2~3重量部(好ましくは2重量部)、及びカッセキ3~5重量部(好ましくは3重量部)であり、且つショウキョウが0.6~1.5重量部、好ましくは0.8~1.4重量部、更に好ましくは1~1.3重量部、特に好ましくは1.2重量部であるもの(以下、「態様A」と表記することもある)が挙げられる。防風通聖散エキスの製造に供される生薬調合物におけるショウキョウの分量を前記範囲に調節することによって、錠剤の硬度及び崩壊性を向上させることができる。また、前記の態様Aにおいて、ボウショウの分量が、硫酸ナトリウム無水物換算で、好ましくは1~1.5重量部、更に好ましくは1.3~1.5重量部、特に好ましくは1.5重量部が挙げられる。さらにボウショウの分量がこのような範囲を充足することによって、錠剤の硬度及び崩壊性を向上させることが可能になる。なお、本発明において、「防風通聖散エキスの製造に供される生薬調合物」とは、防風通聖散エキスの製造において、抽出に供される原料調合物、即ち、防風通聖散を構成する所定量の生薬を含む調合物である。また、ボウショウの硫酸ナトリウム無水物換算とは、ボウショウとして硫酸ナトリウムの水和物を使用する場合には、当該水和物を無水物重量に換算することを指す。なお、ボウショウとしては、硫酸ナトリウムの水和物(例えば、10水和物)及び/又は硫酸ナトリウム無水物が使用され、好ましくは硫酸ナトリウム無水物が使用される。
【0015】
本発明で使用される防風通聖散エキスの製造に供される生薬調合物は、当該生薬調合物の全量100重量部当たり、ショウキョウが2~5重量部である。本発明では、ショウキョウの比率を適宜調整した生薬調合物から防風通聖散エキスを得ることによって、錠剤の硬度及び崩壊性を向上させることが可能になる。錠剤の硬度及び崩壊性をより向上させる観点から、防風通聖散エキスの製造に供される生薬調合物は、当該生薬調合物の全量100重量部当たり、ショウキョウが好ましくは3~5重量部、更に好ましくは4~5重量部、特に好ましくは4~4.5重量部含まれているものが挙げられる。
【0016】
また、本発明で使用される防風通聖散エキスの製造に供される生薬調合物の好適な例として、当該生薬調合物の全量100重量部当たり、ボウショウが硫酸ナトリウム無水物換算で3~6重量部、好ましくは4~6重量部、更に好ましくは5~6重量部、特に好ましくは5~5.5重量部含まれているものが挙げられる。このような比率で生薬調合物中にボウショウが含まれることによって、錠剤の硬度及び崩壊性を向上させることが可能になる。
【0017】
また、本発明で使用される防風通聖散エキスの好適な例として、生薬由来成分の総量100重量部当たり、6-ギンゲロールが0.02~0.04重量部、好ましくは0.025~0.04重量部、更に好ましくは0.03~0.04重量部、特に好ましくは0.035~0.04重量部含まれているものが挙げられる。6-ギンゲロールは、ショウキョウに含まれている成分であり、従来の防風通聖散エキスでは、通常、生薬由来成分の総量100重量部当たり6-ギンゲロールが0.05重量部以上含まれている。本発明では、6-ギンゲロールの含有量が低減された防風通聖散エキスを使用することによって、錠剤の硬度及び崩壊性を向上させるとともに、効能を効率的に発揮させることが可能になる。ここで、生薬由来成分とは、防風通聖散を構成する生薬から抽出された成分である。即ち、賦形剤等の添加剤が配合されていない防風通聖散エキス末の場合であれば、当該エキス末の重量が生薬由来成分の総量になり、賦形剤等の添加剤が配合されている防風通聖散エキス末の場合であれば、当該エキス末の重量から含有する添加剤の重量を差し引いた重量が生薬由来成分の総量になる。
【0018】
ショウキョウに含まれる6-ギンゲロール含量は、ショウキョウの産地や生育年数等に応じて異なり、またショウキョウからの6-ギンゲロールの抽出効率も抽出条件等によって変動する。そのため、6-ギンゲロールを前記比率で含む防風通聖散エキスを得るには、ショウキョウに含まれる6-ギンゲロール含量に応じて、生薬調合物におけるショウキョウの比率や、抽出に供されるショウキョウ(即ち、生薬調合物に使用されるショウキョウ)の形状等を適宜設定すればよい。ショウキョウは、1~8mm程度角となるように細切物したものを抽出に供するよりも、厚さ1~3mm程度にスライス状にした加工品を抽出に供した方が、6-ギンゲロールの抽出量を低減でき、6-ギンゲロールを前記比率で含む防風通聖散エキスを好適に得ることができる。例えば、生薬調合物の全量100重量部当たりのショウキョウの比率を前述する態様Aに示す範囲に設定したうえで、ショウキョウの形状を調整することにより、6-ギンゲロールを前記含有量の範囲内で含む防風通聖散エキスを好適に得ることができる。
【0019】
本発明で使用される防風通聖散エキスは、前記生薬調合物を公知の手法で抽出することによって得ることができる。前記生薬調合物を抽出する方法については、従来の防風通聖散エキスの抽出法と同様の方法で行えばよく、例えば、前記生薬調合物に対して、約10~20倍量の水を加え、80~100℃程度で1~3時間程度撹拌して抽出する方法が挙げられる。抽出後に、遠心分離、濾過等の固液分離に供して固形分を除去し、必要に応じて、濃縮処理や乾燥処理に供することによって防風通聖散エキスが得られる。
【0020】
防風通聖散エキスをエキス末として得るには、固形分を除去した抽出液を、必要に応じて濃縮した後に、スプレードライ、減圧濃縮乾燥、凍結乾燥等の乾燥処理に供すればよい。また、乾燥処理(特に、スプレードライによる乾燥処理)に供する際に、必要に応じて抽出液に、賦形剤を添加してもよい。このように賦形剤を添加することにより、乾燥時間を短縮することが可能になる。添加される賦形剤の種類や添加量については、一般的な漢方エキス末を製造する場合と同様である。
【0021】
また、防風通聖散エキスを軟エキスとして得るには、形分を除去した抽出液を、減圧濃縮等によって濃縮すればよい。また、軟エキスに、適当な吸着剤(例えば無水ケイ酸、デンプン等)を加えて吸着末としてもよい。
【0022】
本発明で使用される防風通聖散エキスは、エキス末又は軟エキスのいずれであってもよいが、硬度及び崩壊性に優れた錠剤を得る観点から、エキス末であることが好ましい。
【0023】
その他の成分
本発明の錠剤組成物は、防風通聖散エキス単独からなるものであってもよく、製剤形態に応じた添加剤や基剤を含んでいてもよい。本発明の錠剤組成物が添加剤や基材を含む場合、錠剤組成物中に含まれる防風通聖散エキスの含有量としては、60~95重量%、好ましくは70~94重量%、更に好ましくは80~93重量%、特に好ましくは90~93重量%が挙げられる。このような比率で防風通聖散エキスを含むことによって、錠剤の硬度及び崩壊性を向上させるとともに、効能を効率的に発揮させることが可能になる。
【0024】
添加剤及び基剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、等張化剤、可塑剤、分散剤、乳化剤、溶解補助剤、湿潤化剤、安定化剤、懸濁化剤、粘着剤、コーティング剤、光沢化剤、水、油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、高級アルコール類、エステル類、水溶性高分子、界面活性剤、金属石鹸、低級アルコール類、多価アルコール、pH調整剤、緩衝剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、防腐剤、矯味剤、香料、粉体、増粘剤、色素、キレート剤等が挙げられる。これらの添加剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、これらの添加剤及び基剤の含有量については、錠剤として成形できることを限度として、使用する添加剤及び基剤の種類等に応じて適宜設定される。
【0025】
具体的には、添加剤及び基剤としては、少なくともデンプンを含むことが好ましい。これによって、錠剤の硬度及び崩壊性を向上させることが可能になる。デンプンとしては、バレイショデンプン、トウモロコシデンプン等が挙げられ、好ましくはバレイショデンプンが挙げられる。本発明の錠剤組成物中に含まれるデンプンの含有量としては、0.5~3重量%、好ましくは1~2.5重量%、更に好ましくは1.5~2.5重量%、特に好ましくは1.5~2重量%が挙げられる。デンプンがこのような比率で含まれることによって、錠剤の硬度及び崩壊性を向上させることが可能になる。
【0026】
添加剤及び基剤としては、上述のデンプンの他、カルメロースカルシウム、軽質無水ケイ酸、ステアリン酸マグネシウム、合成ケイ酸アルミニウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、合成ハイドロタルサイト、無水リン酸水素カルシウム、カルメロース、クロスカルメロースナトリウム、デンプングリコール酸ナトリウム、クロスポピドンが挙げられ、好ましくは、カルメロースカルシウム、軽質無水ケイ酸、ステアリン酸マグネシウム、及び合成ケイ酸アルミニウムが挙げられる。これらの添加剤及び基材は、上述デンプンと共に含まれることが好ましい。
【0027】
デンプン以外の添加剤及び基材も、使用する添加剤及び基剤の種類に応じて適宜設定されるが、好ましくは、カルメロースカルシウムの含有量として、例えば0.5~10重量%、好ましくは1~7重量%、より好ましくは1~1.5重量%、更に好ましくは1~1.2が挙げられ、軽質無水ケイ酸の含有量として、例えば3~25重量%、好ましくは4~15重量%、より好ましくは4~5、更に好ましくは4~4.3が挙げられ、ステアリン酸マグネシウムの含有量として、例えば0.2~1重量%、好ましくは0.5~0.7重量%が挙げられ、合成ケイ酸アルミニウムの含有量として、例えば0.5~10重量%、好ましくは1~10重量%が挙げられる。カルメロースカルシウム、軽質無水ケイ酸、及び/又は合成ケイ酸アルミニウムがこのような比率で含まれることによって、錠剤の硬度及び崩壊性を向上させることが可能になる。
【0028】
また、本発明の錠剤組成物は、防風通聖散エキスの他に、必要に応じて、他の栄養成分や薬理成分を含有していてもよい。このような栄養成分や薬理成分としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、制酸剤、健胃剤、消化剤、整腸剤、鎮痙剤、粘膜修復剤、抗炎症剤、収れん剤、鎮吐剤、鎮咳剤、去痰剤、消炎酵素剤、鎮静催眠剤、抗ヒスタミン剤、カフェイン類、強心利尿剤、抗菌剤、血管収縮剤、血管拡張剤、局所麻酔剤、生薬エキス、ビタミン類、メントール類等が挙げられる。これらの栄養成分や薬理成分は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、これらの成分の含有量については、使用する成分の種類等に応じて適宜設定される。
【0029】
製剤形態
本発明の錠剤組成物は、錠剤として成形される。錠剤の形状及び大きさ等は特に限定されない。錠剤形状としては、丸型、楕円型、三角型、四角型等が挙げられる。丸型錠の場合にあっては、直径6~12mm、好ましくは8~10mmが挙げられる。錠剤の厚みとしては、3~8mm、好ましくは4~7mmが挙げられる。一錠当たりの重量としては、200~800mg、好ましくは300~600mgが下られる。本発明の錠剤組成物は、錠剤の硬度及び崩壊性に優れているため、一錠当たりの重量の割に厚みを薄くすることが可能である。
【0030】
本発明の錠剤組成物から製造される錠剤は、素錠(裸錠)であってもよいし、薬剤の安定化、及び矯味や矯臭等の目的で表面にコーティングを施したコーティング錠であってもよい。コーティング錠としては、糖衣錠や、水溶性、腸溶性または胃溶性の高分子基剤を含むフィルムで被覆したフィルムコーティング剤(胃溶錠、腸溶錠)が挙げられる。本発明の錠剤組成物は、錠剤の硬度に優れているため、素錠であっても物理的に安定である。本発明の錠剤組成物から製造される素錠の硬度としては40N以上、好ましくは50N以上、より好ましくは70N以上、さらに好ましくは80N以上、一層好ましくは100N以上、特に好ましくは130N以上が挙げられる。
【0031】
製造方法
本発明の錠剤組成物は、防風通聖散エキス、及び必要に応じて添加される添加剤、基剤、及び薬理成分を用いて、医薬分野で採用されている通常の製剤化手法に従って製造することができる。好ましくは、本発明の錠剤組成物の製造方法は、防風通聖散エキス、又は必要に応じ添加剤、基材、他の栄養成分、及び/又は他の薬理成分と混合した防風通聖散エキス混合物を造粒する造粒工程、及び造粒物を打錠する打錠工程を含む。打錠工程における打錠圧としては、例えば200~490mg/錠の錠剤を製造する場合、4~20kN、好ましくは4~15kNが挙げられる。本発明の錠剤組成物は硬度に優れているため、低い打錠圧で製造しても優れた硬度を達成することができる、従って、打錠装置への負荷を少なくすることで、打錠装置の長寿命化を図ることもできる。打錠装置への負荷を少なくする観点から、打錠圧は、より低い4~12kNとしてもよい。
【0032】
用途
本発明の錠剤組成物は、錠剤に成形される用途で用いられ、さらに、本発明の錠剤組成物から製造される錠剤は、防風通聖散エキスの効能が期待される用途であればどのような用途で用いられてもよい。
【0033】
本発明の錠剤組成物から製造される錠剤は、例えば加齢性肥満の予防又は改善のための錠剤(以下、加齢性肥満改善剤と記載する場合がある。)に使用されることが好ましい。加齢性肥満とは、加齢によって脂質の分解能や代謝能が低下している肥満であり、加齢性肥満の人として、例えば、中高年以上(45歳以上)で肥満(例えば、体脂肪率が25%以上)の人が挙げられる。
【0034】
本発明の錠剤組成物から製造される加齢性肥満改善剤は、摂取したコレステロール等の脂質の便中への排泄を促進させる作用もある。このように、脂質の便中への排泄を促進させる作用を併せ持つことによって、加齢性肥満において、脂質の過剰摂取による健康障害(体重増加、内臓脂肪増加等)を効果的に改善又は回避することが可能になる。
【0035】
また、加齢性肥満の人の中でも、脂質の分解能や代謝能が本質的に低下した体質の人では、従来の肥満改善剤では、脂質の分解能や代謝能の改善が期待できず、従来の肥満改善剤を服用する習慣がなかったが、本発明の錠剤組成物から製造される加齢性肥満改善剤によれば、脂質の便中への排泄を促進させる作用を合わせ持つことにより、このような脂質の分解能や代謝能が本質的に低下した、加齢性肥満に対しても、脂質の過剰摂取による健康障害(体重増加、内臓脂肪増加等)を効果的に改善又は回避することが可能になる。このような本発明の効果を鑑みれば、本発明の錠剤組成物から製造される加齢性肥満改善剤の好適な適用対象として、脂質の分解能や代謝能が本質的に低下した体質の加齢性肥満が挙げられる。このような体質の加齢性肥満としては、具体的には、中高年以上(45歳以上)で、体脂肪率が25%以上でウエストサイズが85cm以上である状態が5年以上続いている人;下記脂肪分解力評価試験で測定される脂肪分解力が5mEq/g以下、好ましくは3mEq/g以下、より好ましくは1mEq/g以下、さらに好ましくは0.5mEq/g以下、特に好ましくは0.3mEq/g以下である脂肪組織を有する人等が挙げられる。
<脂肪分解力評価試験>
先ず、対象者の皮下から脂肪組織を採取する。得られた脂肪組織をKrebs Ringer緩衝液(pH7.4)で洗浄する。洗浄後の脂肪組織の重量を計測し、洗浄後の脂肪組織0.2gに、1μg/mLのノルアドレナリン、及び2重量%牛血清アルブミン(BSA)を含むKrebs Ringer緩衝液(pH7.4)5mLに加え、37℃で2時間インキュベートする。その後、上清を回収し、ノルアドレナリン刺激により上清中に放出された遊離脂肪酸量を測定し、脂肪組織1g当たりの遊離脂肪酸の放出量(mEq/g)を脂肪分解力として求める。
【0036】
なお、脂肪組織はノルアドレナリン刺激により活性化され、蓄積した脂肪が分解し、遊離脂肪酸を放出することが知られている。前記脂肪分解力評価試験では、脂肪組織の分解力を、この遊離脂肪酸の放出量を測定することで評価している。
【0037】
また、本発明の錠剤組成物から製造される錠剤は、脂肪分解力の低下の予防又は低下した脂肪分解力の改善のために使用されることも好ましい。脂肪分解力が低下している状態は、ノルアドレナリン刺激に対する脂肪細胞の応答能力が低下している状態であり、脂肪の燃焼や消費の低下を引き起こしていることが多い。したがって、脂肪分解力が低下している人として、例えば、中高年以上(45歳以上)の人、及び/又は肥満(例えば、体脂肪率が25%以上)の人が挙げられ、特に、中高年以上(45歳以上)且つ肥満(例えば、体脂肪率が25%以上)の人が挙げられる。
【0038】
また、脂肪分解力が低下している人では、ノルアドレナリン刺激に対する応答能自体が低下しているため、従来の脂肪分解促進剤では脂肪分解力の改善が期待できず、従来の脂肪分解促進剤を服用する習慣がなかったが、本発明の錠剤組成物から製造される脂肪分解力改善剤によれば、ノルアドレナリン刺激に対する応答能自体を高めることができるため、脂肪分解力を効果的に改善又は脂肪分解力の低下を効果的に回避することが可能になる。このような本発明の効果を鑑みれば、本発明の錠剤組成物から製造される脂肪分解力改善剤の好適な適用対象として、加齢により脂肪分解力が低下した体質を持つ人、及び脂肪分解力の低下に起因する脂肪の燃焼や消費の低下により肥満である人が挙げられる。このような体質の人としては、具体的には、中高年以上(45歳以上)で、体脂肪率が25%以上でウエストサイズが85cm以上である状態が5年以上続いている人;上記の脂肪分解力評価試験で測定される脂肪分解力が5mEq/g以下、好ましくは3mEq/g以下、より好ましくは1mEq/g以下、さらに好ましくは0.5mEq/g以下、特に好ましくは0.3mEq/g以下である脂肪組織を有する人等が挙げられる。
【0039】
用量・用法
本発明の錠剤組成物から製造される錠剤は、経口投与によって使用される。本発明の錠剤組成物から製造される錠剤の用量については、投与目的、投与対象者の年齢、性別、体質等に応じて適宜設定されるが、例えば、ヒト1人に対して1日当たり、防風通聖散エキスの生薬由来成分の総量が1~10g程度、好ましくは1.5~8g程度、より好ましくは1.5~6g程度、特に好ましくは4~6g程度となる量で、1日1~3回、好ましくは2又は3回の頻度で服用すればよい。服用タイミングについては、特に制限されず、食前、食後、又は食間のいずれであってもよいが、食前(食事の30分前)又は食間(食後2時間後)が好ましい。上述の用量及び用法は、特に、本発明の錠剤組成物から製造される錠剤が加齢性肥満改善剤又は脂肪分解力改善剤である場合において適用されることが好ましい。
【0040】
また、本発明の錠剤組成物から製造される加齢性肥満改善剤による脂質の便中への排泄促進効果は、継続的な服用によって奏されるので、当該加齢性肥満改善剤は、継続的な服用(具体的には6日間以上の継続的な服用、好ましくは12日間以上の継続的な服用)を行うことが好ましい。
【0041】
さらに、本発明の錠剤組成物から製造される脂肪分解力改善剤によるノルアドレナリン刺激に対する応答能の改善は、継続的な服用によって奏されるので、本発明の脂肪分解力改善剤は、継続的な服用(具体的には6日間以上の継続的な服用、好ましくは12日間以上の継続的な服用)を行うことが好ましい。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0043】
防風通聖散エキスの製造及び分析
1.防風通聖散エキス末の製造
表1に示す各生薬を細切又はスライスして、所定の分量を混合し、細切して生薬調合物を得た。生薬調合物に、重量比で20倍量の水を加えて、約100℃で1時間撹拌しながら抽出を行った。その後、遠心分離にて抽出液を回収し、減圧濃縮した後に、スプレードライヤーを用いて乾燥させ、防風通聖散エキス末を得た。
【0044】
なお、製造例1及び2では、ショウキョウは1~8mm角に細切したものを使用し、製造例3では、ショウキョウは厚さ1~3mmのスライス状にしたものを使用した。また、スプレードライヤーによる乾燥は、抽出液を回転数10000rpmのアトマイザーに落下させ、150℃の熱風を供給することにより行った。
【0045】
【0046】
2.防風通聖散エキス末中の6-ギンゲロール含量の測定
防風通聖散のエキス末約1gを精密に量り、共栓遠心沈殿管に入れ、メタノール/水混液(メタノール:水の容量比3:1)30mLを加え、20分間振り混ぜた後、遠心分離し、抽出液を分取した。残留物にメタノール/水混液(メタノール:水の容量比3:1)30mLを加えて、更にこの操作を2回繰り返した。全抽出液を合わせ、メタノール/水混液(メタノール:水の容量比3:1)を加えて正確に100mLとし、試料溶液とした。別に定量用6-ギンゲロール約5mgを精密に量り、メタノール/水混液(メタノール:水の容量比3:1)に溶かし、正確に100mLとし、標準溶液とした。試料溶液及び標準溶液10μLずつを正確にとり、次の試験条件で液体クロマトグラフィーによる測定を行った。
(試験条件)
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:205nm)
カラム:内径4.6mm、長さ15cmのステンレス管に5μmの液体クロマトグラフィー用オクタデシルシリル化シリカゲルを充填したもの(COSMOSIL 5C18 MS-II(5μm,4.6
×150mm)(ナカライテスク株式会社))。
カラム温度:40℃付近の一定温度
移動相:水/アセトニトリル/リン酸混液(水:アセトニトリル:リン酸の容量比3800:2200:1)
流速:6-ギンゲロールの保持時間が約19分になるように調整した。
【0047】
下記式に従って、試料溶液中の6-ギンゲロール量を算出し、各防風通聖散のエキス末中の6-ギンゲロール含量を求めた。
【数1】
【0048】
結果を表2に示す。生薬調合物100重量部に対するショウキョウの比率が1.11重量部と低い生薬調合物から得られた防風通聖散エキスでは、6-ギンゲロールの含有量が0.010重量%と低くなっていた(製造例1)。また、抽出に供するショウキョウを厚さ1~3mmのスライス状にした場合には、1~8mm角に細切した場合に比べて、得られた防風通聖散エキス中の6-ギンゲロールの含有量が低減されていた(製造例2及び3)。
【0049】
【0050】
参考試験例1:内臓脂肪及び体重の低減効果の評価
若齢性肥満モデルマウスの作製
若齢マウス(C57BL/6Jマウス、5週齢、雄)に高脂肪食(HFD32、日本クレア株式会社)を4週間自由摂食させて飼育し、若齢性肥満モデルマウスを作製した。
【0051】
また、加齢マウス(C57BL/6Jマウス、40-60週齢、雄)に高脂肪食(HFD32,日本クレア株式会社)を1週間自由摂食させて飼育し、加齢性肥満モデルマウスを作製した。
【0052】
また、上記で作製した若齢性肥満モデルマウス及び加齢性肥満モデルマウス各3匹から副睾丸周囲脂肪を摘出し、脂肪分解力の測定を行った。具体的には、先ず、副睾丸周囲から摘出した脂肪組織をKrebs Ringer緩衝液(pH7.4)で洗浄した。洗浄後の脂肪組織の重量を計測し、洗浄後の脂肪組織0.2gに、1μg/mLのノルアドレナリン、及び2重量%牛血清アルブミン(BSA)を含むKrebs Ringer緩衝液(pH7.4)5mLに加え、37℃で2時間インキュベートした。その後、上清を回収し、ノルアドレナリン刺激により上清中に放出された遊離脂肪酸量をNEFA-Cテストワコー(和光純薬工業株式会社)にて測定し、脂肪組織1g当たりの遊離脂肪酸の放出量(mEq/g)を脂肪分解力として求めた。
【0053】
防風通聖散エキスの投与試験
前記で作製した若齢性肥満モデルマウスの体重を測定後、各群の平均体重が約26gとなるようにコントロール群A(対照例)、及び試験群Aに分けた(各群6~11匹)。また、前記で作製した加齢性肥満モデルマウスの体重を測定後、各群の平均体重が約42gとなるようにコントロール群B(対照例)、及び試験群Bに分けた(各群6匹)。
【0054】
試験群Aでは、前記高脂肪食に製造例1の防風通聖散エキス末を2重量%となるように配合した飼料を21日間給餌した。試験群Bでは、前記高脂肪食に製造例1の防風通聖散エキス末を2重量%となるように配合した飼料を21日間給餌した。コントロール群A及びBでは、防風通聖散エキスを配合していない高脂肪食を21日間給餌した。試験最終日に各マウスの体重を測定し、更に内臓脂肪を摘出し重量を測定した。
【0055】
コントロール群Aの試験最終日のマウスの平均体重を100%として、試験群Aの試験最終日のマウスの平均体重の相対値を算出した。また、コントロール群Bの試験最終日のマウスの平均体重を100%として、試験群Bの試験最終日のマウスの平均体重の相対値を算出した。コントロール群Aの試験最終日のマウスの内臓脂肪の平均重量を100%として、試験群Aの試験最終日のマウスの平均体重の相対値を算出した。コントロール群Bの試験最終日のマウスの内臓脂肪の平均重量を100%として、試験群Bの試験最終日のマウスの内臓脂肪重量の相対値を算出した。
【0056】
結果
得られた結果を表3に示す。この結果から、若齢性肥満モデルマウス及び加齢性肥満モデルマウス共に、防風通聖散エキス末によって体重及び内臓脂肪の低減が認められたが、加齢性肥満モデルマウスでは、若齢性肥満モデルマウスよりも、体重及び内臓脂肪の低下量が高まっていた。
【0057】
なお、副睾丸周囲脂肪における脂肪分解力は、若齢性肥満モデルマウスでは平均値が5.6mEq/gであるのに対して、加齢性肥満モデルマウスは0.28mEq/gであり、加齢に伴い脂肪分解力は20分の1にまで低下していた。このように脂肪分解力が低下している加齢性肥満マウスモデルでも、防風通聖散エキス末によって、効果的な体重及び内臓脂肪の低下が認められたことは、極めて予想外の結果である。このように、製造例1の防風通聖散エキス末によって、特に加齢性肥満に対して優れた体重及び内臓脂肪の低減効果が奏されたことから、6-ギンゲロール含有量をより多く含む製造例2の防風通聖散エキス末によっても特に加齢性肥満に対して優れた体重及び内臓脂肪の低減効果が奏されることが容易に推認できる。
【0058】
【0059】
参考試験例2:年代別の体重の低減効果の評価
脂質の分解能や代謝能が本質的に低下した体質の人に対する防風通聖散エキスの体重低減効果を評価した。具体的には、体脂肪率が25%以上でウエストサイズが85cm以上である状態が5年以上続いている男女9名(各年代(20代、30代、40~50代)の平均体重の差が5kg以内になるように選定した)について、製造例1の防風通聖散エキス末5000mgを1日3回に分けて2週間服用させ、服用開始前に対する体重変化を測定した。
【0060】
結果を表4に示す。脂質の分解能や代謝能が本質的に低下した体質の人に対して、防風通聖散エキスを服用させることによって、全体の平均で約1kgの体重の減少が認められた。防風通聖散エキスの効果を世代別に解析すると、加齢とともにその効果は高まり、40~50歳代の人の加齢性肥満に対する改善効果が特に優れていた。40~50歳代の人の加齢性肥満では、脂質の分解能や代謝能が本質的に低下しているため、従来、防風通聖散エキスでは効果が認められないと考えられていたが、防風通聖散エキスには、後述する参考試験例3で示しているように便中への脂質排泄促進作用があり、当該作用が一因となって加齢性肥満に対して優れた体重低下効果が奏されたと考えられる。このように、製造例1の防風通聖散エキス末によって、特に加齢性肥満に対して優れた体重低下効果が奏されたことから、6-ギンゲロール含有量をより多く含む製造例2の防風通聖散エキス末によっても特に加齢性肥満に対して優れた体重低下効果が奏されることが容易に推認できる。
【0061】
【0062】
参考試験例3:脂質の糞便中への排泄促進効果及び体重低減効果の評価
マウス(C57BL/6Jマウス、5週齢、雄)に高脂肪食(HFD32、日本クレア株式会社)を4週間自由摂食させて飼育し、肥満モデルマウスを作製した。この肥満モデルマウスの体重を測定後、各群の平均体重が約26gとなるようにコントロール群(対照例)及び試験群の2つの群に分けた(各群6~11匹)。試験群では、肥満モデルマウスに、前記高脂肪食に製造例2の防風通聖散エキスを4重量%となるように配合した飼料を20日間給餌した。コントロール群では、防風通聖散エキスを配合していない高脂肪食を20日間給餌した。試験期間中に糞便を2日分毎に回収した。回収した糞便は凍結乾燥した。
【0063】
凍結乾燥した糞便から低極性溶媒で脂質を抽出し、重量法にて糞便中の総脂質量を測定した。具体的には、凍結乾燥した糞便を粉砕後、100mgを秤取し、クロロホルム/エタノール溶液(クロロホルム:エタノール(容量比)=2:1)500μLで2回抽出し、この抽出液を30℃で真空乾燥後、抽出物(脂質)の重量を測定した。以下の算出式に従って各群の総脂質排泄量を求め、各群の総脂質排泄量を各群のマウスの頭数で除することにより、マウス1匹当たりの総脂質排泄量を算出した。
【数2】
【0064】
更に、試験開始から12~14日目の間で排泄された糞便から抽出した抽出物(脂質)については、イソプロパノールに再溶解し、コレステロールEテストワコー(和光純薬工業株式会社)を用いてキット付属の取扱説明書に従い操作することで、コレステロールの重量を測定し、以下の算出式に従って各群のコレステロール排泄量を求め、各群のコレステロール排泄量を各群のマウスの頭数で除することにより、マウス1匹当たりのコレステロール排泄量を求めた。
【数3】
【0065】
コントロール群のマウス1匹当たりの総脂質排泄量を100%として、試験群におけるマウス1匹当たりの総脂質排泄量の相対値を算出した。また、同様に、コントロール群のマウス1匹当たりのコレステロール排泄量を100%として、試験群におけるマウス1匹当たりのコレステロール排泄量の相対値を算出した。
【0066】
また、飼育開始時(0日目)と飼育最終日(20日目)の各群の肥満モデルマウスの体重を測定した。各群の飼育開始時の体重を100%として、飼育最終日の体重の割合を体重変化率(%)として算出した。
【0067】
総脂質排泄量の結果を表5、コレステロール排泄量の結果を表6、及び体重変化率を表7に示す。
【0068】
【0069】
【0070】
【0071】
飼育期間中、全てのマウスにおいて下痢は認められなかった。また、各マウスの1日当
たりの糞便量は乾燥重量にて211.5~315.1mg/日/匹であり、群間で有意な差は認められなかった。
【0072】
表5から分かるように、防風通聖散エキス末を摂取させた試験群では、飼育6日目以降において、コントロール群に比して総脂質の排泄量の増大が認められた。群間での乾燥糞便量に有意な差はなかったため、防風通聖散エキス末を摂取させることで、糞便中の脂質濃度が増加していたことが明らかとなった。
【0073】
また、表6から明らかなように、総脂質の排泄量の結果と同様、防風通聖散エキス末を摂取させた試験群では、コントロール群に比してコレステロールの排泄量が増大していた。
【0074】
また、表7に示されているように、コントロール群では飼育開始時に比べて飼育終了時に体重が増加していたのに対して、防風通聖散エキスを摂取させた試験群では体重の増加が抑えられていた。このような防風通聖散エキスによる体重の増加抑制は、脂質の糞便中への排泄を促進する作用が一因になっていると考えられる。
【0075】
試験例1:防風通聖散エキス末を含有する錠剤の製造1
表8~13に示す処方に従い防風通聖散エキス末を含有する錠剤(1錠当たり400mg)を調製した。防風通聖散エキス末として、前記製造例1又は2に従い製造したエキス末を使用した。得られた錠剤はいずれも糞便中への脂質排泄促進効果が期待される錠剤であった。また、得られた錠剤の硬度及び崩壊時間を測定したところ、防風通聖散エキス末として、製造例1の防風通聖散エキス末を使用した場合(比較例1)に比べて、製造例2の防風通聖散エキス末を使用した場合(実施例1)の方が硬度が高く、崩壊しやすい特性を有していた。
【0076】
通常、錠剤において、漢方エキス末を含有する場合、一般的な薬物に比べて1日に摂取する有効成分(漢方エキス末)の量が多いため、錠剤が大きくなったり、1回服用錠数が多くなったりするため、消費者にとって服用し難いという欠点がある。このような欠点を克服するためには、錠剤中の漢方エキス末の含有量を高めることが有効になるが、錠剤中の漢方エキス末の含有量を高めると、相対的に賦形剤の含有量が少なくなり、その結果、錠剤の硬度が低下するという問題がある。このような状況において、製造例2の防風通聖散エキス末であれば、硬度の高い錠剤とすることができることから、エキス末の含有量を高めることができ(相対的に賦形剤の含有量を少なくできる)、錠剤を小型化したり、1回の服用錠数を少なくすることができることが分かった。
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
【0082】
【0083】
試験例2:防風通聖散エキス末を含有する錠剤の製造2
表14に示す処方に従い、製造例1又は製造例2で得た防風通聖散エキス末及び他の成分を混合し、造粒した後、5kN又は7kNの打圧で打錠することで錠剤(重さ200mg、直径8mm)を作製した。
【0084】
【0085】
製造した錠剤について、日本薬局方(第十七改正)記載の崩壊試験法に従って崩壊性の評価を実施した。崩壊時間は錠剤6個の平均値とした。また、硬度はロードセル式錠剤硬度計を用いて、破断動作速度0.5mm/分で測定した。結果を表15及び表16に示す。
実施例2の錠剤は、比較例2の錠剤と同じ打圧(7kN)で成形されたにも関わらず、厚さがより薄い錠剤が得られた。さらに、実施例2の錠剤は、比較例2の錠剤よりも硬度が高く、物理的安定性により優れていた。さらに、実施例2の錠剤は、比較例2の錠剤よりも硬度が高いにも関わらず、崩壊時間が大きく短縮されていた。また、実施例3の錠剤では、実施例2の錠剤を成形した打圧(7kN)よりも低い打圧(5kN)で成形されたにも関わらず、より高い打圧(7kN)で成形した比較例2の錠剤と同程度の硬度とより優れた崩壊性とが達成されている。従って、実施例3の錠剤を製造する際は、打錠装置の負荷が少なく、打錠装置の長寿命化を図ることができる。
【0086】
【0087】
【0088】
参考試験例4:脂肪分解力改善効果の評価
週齢の異なる2種類の雄性C57BL/6Jマウス(若齢:9週齢,加齢:43-63週齢)をそれぞれコントロール群と試験群(防風通聖散エキス投与群)とに分けた(各群5-8匹、計4群)。コントロール群には高脂肪食(HFD32、日本クレア)を4週間給餌し、試験群には製造例2の防風通聖散エキス末を前記高脂肪食に2重量%となるように配合した飼料を4週間給餌した。
【0089】
給餌後、それぞれの群のマウスから副睾丸周囲脂肪を摘出し、ノルアドレナリン刺激に対する応答能(脂肪分解力)を評価した。具体的には、先ず、副睾丸周囲から摘出した脂肪組織をKrebs Ringer緩衝液(pH7.4)で洗浄した。洗浄後の脂肪組織の重量を計測し、洗浄後の脂肪組織0.2gに、1μg/mLのノルアドレナリン、及び2重量%牛血清アルブミン(BSA)を含むKrebs Ringer緩衝液(pH7.4)5mLを加え、37℃で2時間インキュベートした。その後、上清を回収し、ノルアドレナリン刺激により上清中に放出された遊離脂肪酸量をNEFA-Cテストワコー(和光純薬工業株式会社)にて測定し、脂肪組織1g当たりの遊離脂肪酸の放出量を脂肪分解力として求めた。若齢マウスのコントロール群における脂肪分解力を100%とした場合の各群における脂肪分解率と、防風通聖散投与による脂肪分解率の変化率を表17に示す。
【0090】
結果
表17に示すとおり、若齢および加齢マウスのコントロール群について比較したところ、加齢マウスの脂肪分解力は若齢マウスの53.1%と大きく減少していた。一方、試験群の脂肪分解力は、若齢および加齢マウスともにそれぞれのコントロール群よりも高値を示した。その変化率は若齢マウスで1.196倍、加齢マウスで1.386倍であり、加齢マウスの方が、脂肪分解力の改善の程度が高かった。このことから、防風通聖散にはノルドレナリン刺激に対する脂肪分解力を高める作用があり、さらに若齢マウスよりも加齢マウスに対して優れた効果を示すことが明らかとなった。
【0091】