(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-22
(45)【発行日】2024-05-01
(54)【発明の名称】潤滑油組成物及び機械装置
(51)【国際特許分類】
C10M 125/02 20060101AFI20240423BHJP
C10M 133/38 20060101ALI20240423BHJP
C10M 169/04 20060101ALI20240423BHJP
F25B 1/02 20060101ALI20240423BHJP
F25B 1/04 20060101ALI20240423BHJP
C10M 101/02 20060101ALN20240423BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20240423BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20240423BHJP
C10N 40/02 20060101ALN20240423BHJP
C10N 40/30 20060101ALN20240423BHJP
【FI】
C10M125/02
C10M133/38
C10M169/04
F25B1/02 A
F25B1/04 A
C10M101/02
C10N30:00 Z
C10N30:06
C10N40:02
C10N40:30
(21)【出願番号】P 2019234469
(22)【出願日】2019-12-25
【審査請求日】2022-09-21
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】門田 隆二
(72)【発明者】
【氏名】今井 直行
【審査官】林 建二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/006812(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/004275(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/030412(WO,A1)
【文献】特開2006-017339(JP,A)
【文献】特開2006-046102(JP,A)
【文献】国際公開第2017/141825(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/004635(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/082917(WO,A1)
【文献】特開2019-029046(JP,A)
【文献】特開2017-014192(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
C10N
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油と液状のフラーレン誘導体とを含
み、
前記フラーレン誘導体は、式(1);
【化1】
(式中の、R
1
、R
2
およびR
3
は、同一または別異に、炭素原子数が少なくとも12の第1~第3のアルキル系置換基を示し、(Fu)はフラーレンを示し、Xはメチル基を示し、mは1~3であることを示す。)
で表わされ、
前記第1~第3のアルキル系置換基R
1
、R
2
およびR
3
は、それぞれ、アルキル(C
n
H
2n+1
)、アルコキシル(OC
n
H
2n+1
)、および、チオアルキル(SC
n
H
2n+1
)からなる群から選択される(ここでnは、12以上の整数である)潤滑油組成物。
【請求項2】
前記基油が、鉱物油または合成油である請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
式(1)中の、R
1
、R
2
およびR
3
は、ドデシルオキシ、ヘキサデシルオキシ、エイコシルオキシから選ばれる炭素数12~20の直鎖アルキルアルコキシル基を示し、(Fu)はC
60
である化合物を示し、Xはメチル基を示し、mは1または2もしく3であり、
前記基油が、鉱油である請求項1または2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
前記フラーレン誘導体は、
該フラーレン誘導体の構造中のフラーレンがC
60またはC
70である誘導体、あるいはそれら誘導体の混合物である請求項1または2に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
摺動部を有し、前記摺動部に請求項1~4のいずれかに記載の潤滑油組成物が付加されている機械装置。
【請求項6】
前記機械装置が、冷媒を圧縮する冷媒圧縮機である請求項5に記載の機械装置。
【請求項7】
前記機械装置が、冷凍装置である請求項5に記載の機械装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油組成物及び機械装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、電動要素と、電動要素により駆動され、摺動部を有し、冷媒を圧縮する圧縮要素とを備えており、摺動部を潤滑させる冷凍機油に直径が100pmから10nmのフラーレンが添加されている冷媒圧縮機が開示されている。さらに、この文献には、フラーレンが潤滑油組成物(冷凍機油)に最大限溶解する割合は、0.1から0.2%であることが開示されている。
【0003】
特許文献2には、圧縮機から吐出された気相冷媒中に含まれる冷凍機油をオイルセパレータで分離し、分離された冷凍機油は油戻し配管を通じて圧縮機吸入側に戻されることが開示されている
【0004】
特許文献3には、フラーレンを含むことを特徴とする精密研磨剤、及び、精密研磨剤において、前記フラーレンが凝集体であることを特徴とする精密研磨剤。フラーレン凝集体を含む研磨材が開示されている。
【0005】
特許文献4には、液状フラーレン誘導体及びその製造方法、並びに、液状フラーレン誘導体を含む導電性組成物、及び、液状フラーレン誘導体が少なくともその構成の一部とされている電気・電子素子、が開示されている。しかし、前記誘導体の潤滑油組成物への適用に関しては何も開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2017/141825号
【文献】特開平11-173706号公報
【文献】特開2005-146036号公報
【文献】特許第5121710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
例えば特許文献1に記載のように、フラーレンは潤滑性能を向上させるための潤滑油成分として好ましく用いられているが、フラーレンの潤滑油組成物(冷凍機油)に対する溶解度は高くない。そのため、より高濃度でフラーレンを使用しようとすると、使用中の温度などの環境変化でフラーレンが析出(凝集粒子の生成)することがあった。このようになった場合、例えば、特許文献2に記載のオイルセパレータで冷凍機油成分を戻せなくなったり、油戻し配管を詰まらせたり、あるいは、フラーレンの凝集粒子は特許文献3に記載のように研磨剤として作用し、潤滑油組成物が付加されている摺動面を損傷させてしまったり、種々の障害が生じることがあった。
【0008】
本発明は、以上の事情に鑑みてなされたものであり、潤滑油組成物中で前記凝集粒が生じにくい潤滑油組成物を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0010】
[1] 基油と液状のフラーレン誘導体とを含む潤滑油組成物。
[2] 前記基油が、鉱物油または合成油である前項[1]に記載の潤滑油組成物。
[3] 前記フラーレン誘導体は、式(1);
【化1】
(式中のR
1、R
2およびR
3は、同一または別異に、炭素原子数が少なくとも12の第1~第3のアルキル系置換基を示し、式中の(Fu)はフラーレンを、Xはメチル基を示し、mは1~3であることを示す。)
で表わされ、前記第1~第3のアルキル系置換基R
1、R
2およびR
3は、それぞれ、アルキル(C
nH
2n+1)、アルコキシル(OC
nH
2n+1)、および、チオアルキル(SC
nH
2n+1)からなる群から選択される(ここでnは、12以上の整数である)、
前項[1]または[2]に記載の潤滑油組成物。
[4] 前記フラーレン誘導体は、その構造中のフラーレンがC
60またはC
70である誘導体、あるいはそれら誘導体の混合物である前項[1]または[2]に記載の潤滑油組成物。
[5] 摺動部を有し、前記摺動部に前項[1]~[4]のいずれかに記載の潤滑油組成物が付加されている機械装置。
[6] 前記機械装置が、冷媒を圧縮する冷媒圧縮機である前項[5]に記載の機械装置。
[7] 前記機械装置が、冷凍装置である前項[5]に記載の機械装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、凝集粒になりにくいフラーレン誘導体を含む潤滑油組成物を提供することができる。そのため、前記凝集粒に起因する機械装置等の障害を避けることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態を挙げて詳細に説明する。なお、本発明はその要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0013】
本実施形態で得られる潤滑油組成物は、基油と液状のフラーレン誘導体とを含む。前記フラーレン誘導体は、液状であるため、潤滑油組成物やその溶媒などから析出しても凝集粒とはならず、前述の障害は生じない。前記溶媒としては、例えば、前記潤滑油組成物が冷凍機油であるならば冷媒が挙げられる。
【0014】
(基油)
本実施形態で使用される基油は、特に限定されるものではないが、通常、潤滑油の基油として広く使用されている鉱油及び合成油の使用が好ましい。
【0015】
前記鉱油は、内部に含まれる二重結合を水素添加により飽和炭化水素に変換したものが一般的である。例えば、パラフィン系,ナフテン系などの基油が挙げられる。
【0016】
前記合成油としては、合成炭化水素油、エーテル油、エステル油を挙げることができる。より、具体的には、ポリα-オレフィン、ジエステル、ポリアルキレングリコール、ポリアルファオレフィン、ポリアルキルビニールエーテル、ポリブテン、イソパラフィン、オレフィンコポリマー、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ジイソデシルアジペート、モノエステル、二塩基酸エステル、三塩基酸エステル、ポリオールエステル(トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール2-エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等)、ジアルキルジフェニルエーテル、アルキルジフェニルサルファイド、ポリフェニルエーテル、シリコーン潤滑油(ジメチルシリコーンなど)、パーフルオロポリエーテルなどが好適に使用できる。より好ましくは、ポリα-オレフィン、ジエステル、ポリオールエステル、ポリアルキレングリコール、ポリアルキルビニールエーテル、等を挙げることができる。
【0017】
これらの鉱油や合成油は単独で使用しても良く、またこれらの中から選ばれる2種以上の基油を任意の割合で混合して使用してもよい。
【0018】
(フラーレン誘導体)
フラーレン誘導体としては、液状のものであればよい。前記フラーレン誘導体は、通常、常温常圧(20℃、0.1MPa)で液状であればよいが、温度や圧力など、前記潤滑油組成物の使用環境が判明している場合は、その範囲においても液状であることが好ましい。
【0019】
前記フラーレン誘導体の具体例としては、例えば、特許文献4に記載の液状フラーレン誘導体等が挙げられる。すなわち、下記式(1);
【化2】
(式中のR
1、R
2およびR
3は、同一または別異に、炭素原子数が少なくとも12の第1~第3のアルキル系置換基を示し、式中の(Fu)はフラーレンを、Xはメチル基を示し、mは1~3であることを示す。)
で表わされ、前記第1~第3のアルキル系置換基R
1、R
2およびR
3は、それぞれ、アルキル(C
nH
2n+1)、アルコキシル(OC
nH
2n+1)、および、チオアルキル(SC
nH
2n+1)からなる群から選択される(ここでnは、12以上の整数である)、フラーレン誘導体が挙げられる。
【0020】
前記フラーレン誘導体の構造中のフラーレンは、特に限定されず、C60やC70、さらに高次のフラーレンであってもよく、原料となるフラーレンの入手しやすさの観点から、C60やC70が好ましくは、基油への着色が少なく得られる潤滑油組成物の劣化を色で判断しやすい観点からC60がより好ましい。前記フラーレン誘導体としては、これら誘導体の混合物であってもよい。この場合、C60を有する誘導体が50質量%以上に含まれることが好ましい。
【0021】
(機械装置)
本実施形態の機械装置としては、摺動部を有し、前記摺動部に前記潤滑油組成物が付加されている機械装置が挙げられる。特に、前記潤滑油組成物は、前記フラーレン誘導体による凝集粒を生じにくいので、例えば、潤滑油交換のメンテナンスを行いにくい機械装置などに好ましく適用できる。このような機械装置としてより具体的には、例えば、冷凍装置、特に、冷媒を圧縮する冷媒圧縮機が挙げられる。
【0022】
以上、本発明の好ましい実施形態について述べたが、本発明は特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【実施例】
【0023】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0024】
(フラーレン誘導体)
以下のフラーレン誘導体A,B,B2及びCについて、特許文献4に記載の方法で分析及び合成を行った。ただし、原料のフラーレンとしてC60(フロンティアカーボン(株)製、nanom(登録商標)SUH)を用いた。また、得られた各誘導体はすべて常温常圧(20℃、0.1MPa)で液状であった。
【0025】
フラーレン誘導体A: 前記式(1)において、R1、R2およびR3が-O(CH2)11CH3であり、mが1であり、(Fu)がC60である化合物N-メチル-2[2,4,6-トリ(ドデシルオキシ)フェニル]フレロピロリジンであり、特許文献4の実施例1の方法で得た。
【0026】
フラーレン誘導体B: 前記式(1)において、R1、R2およびR3が-O(CH2)15CH3であり、mが1であり、(Fu)がC60である化合物N-メチル-2[2,4,6-トリ(ヘキサデシルオキシ)フェニル]フレロピロリジンであり、特許文献4の実施例2の方法で得た。
【0027】
フラーレン誘導体B2: 前記式(1)において、R1、R2およびR3が-O(CH2)15CH3であり、mが2~3であり、(Fu)がC60である化合物の混合物であり、特許文献4の実施例2の方法でフラーレン誘導体Bをカラムクロマトグラフィーで精製する際、フラーレン誘導体Bの不純物として分離されたものである。
【0028】
フラーレン誘導体C: 前記式(1)において、R1、R2およびR3が-O(CH2)19CH3であり、mが1であり、(Fu)がC60である化合物N-メチル-2[2,4,6-トリ(エイコシルオキシ)フェニル]フレロピロリジンであり、特許文献4の実施例3の方法で得た。
【0029】
(摩擦摩耗試験)
試料とする潤滑油組成物について、摩擦摩耗試験機(製品名:ボールオンディスクトライボメーター、Anton Paar社製)を用いて、摩擦係数及び耐摩耗性を評価した。基板およびボールの材質を高炭素クロム軸受鋼鋼材SUJ2とした。ボールの直径を6mmとした。基板の一主面に潤滑油組成物を塗布した。次に、潤滑油組成物を介して、基板の一主面上にて、ボールが同心円状の軌道を描くように、ボールを摺動させた。基板の一主面上におけるボールの速度を50cm/秒、ボールによる基板の一主面に対する荷重を25Nとした。基板の一主面上におけるボールの摺動距離が積算10mの時の、平均の摩擦係数及び耐摩耗性を評価した。耐摩耗性の評価はボール面の擦り面(円形)を光学顕微鏡で観察し、擦り面の直径を測定した。
【0030】
(再溶解試験)
試料とする潤滑油組成物10mlを、250℃オイルバス中、ロータリーエバポレーターで留去物が観察されなくなくなるまで減圧濃縮した。得られた残留物の性状、及び、前記残留物に基油10mlを加えて攪拌したときの再溶解時の性状を、それぞれ観察した。
【0031】
(析出試験)
試料とする潤滑油組成物1質量部とイソブタン(代替フロンR600A)9質量部とを混合した。この混合物を攪拌しながら真空ポンプで減圧し、体積が1/5になるまで濃縮した。濃縮後の析出物の有無を観察した。これらの操作は、-18℃の環境で行った。
【0032】
(実施例1)
基油として鉱油(出光興産株式会社製、ダイアナフレシアU-46)250gとフラーレン誘導体A0.25gとを混合し潤滑油組成物を得た。さらに、この潤滑油組成物について、摩擦摩耗試験、再溶解試験および析出試験を行った。結果を表1に示した。
【0033】
(実施例2~4)
フラーレン誘導体Aの代わりに、フラーレン誘導体B(実施例2)、フラーレン誘導体B2(実施例3)またはフラーレン誘導体C(実施例4)を用いたことを除き、実施例1と同様に操作及び測定を行った。結果を表1に示した。
【0034】
(比較例1)
基油として鉱油(出光興産株式会社製、ダイアナフレシアU-46)250gと、フラーレンとしてC60(フロンティアカーボン(株)製、nanom(登録商標)SUH)0.25gとを混合し、室温でマグネチックスターラーを用いて36時間撹拌した。次に、孔径0.1μmのメンブランフィルターで濾過し、得られた濾液を潤滑油組成物としたことを除き、実施例1と同様に操作及び測定を行った。結果を表1に示した。
【0035】
(比較例2)
鉱油(出光興産株式会社製、ダイアナフレシアU-46)を潤滑油組成物としたこと、及び、再溶解試験を行わなかったこと、を除き実施例1と同様に操作及び測定を行った。結果を表1に示した。
【0036】
【0037】
表1より、本実施形態の潤滑油組成物(実施例1~4)は、摩擦摩耗試験でC60を用いた潤滑油組成物(比較例1)と同等の摩擦摩耗性能を有しているにもかかわらず、再溶解試験及び析出試験で析出物や固形物の残留が見られず、フラーレン化合物の凝集粒が生じにくいことが分かった。なお、比較例1の再溶解試験及び析出試験で生じた固形物は黒色でフラーレン凝集粒と考えられる。