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特許7478302無線通信システム、受信装置、および無線通信方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-23
(45)【発行日】2024-05-02
(54)【発明の名称】無線通信システム、受信装置、および無線通信方法
(51)【国際特許分類】
   H04B 7/0413 20170101AFI20240424BHJP
   H04B 7/06 20060101ALI20240424BHJP
   G06N 20/00 20190101ALI20240424BHJP
   H04B 7/08 20060101ALI20240424BHJP
【FI】
H04B7/0413 200
H04B7/06 984
G06N20/00 130
H04B7/08 372Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023187437
(22)【出願日】2023-11-01
【審査請求日】2023-11-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】397036309
【氏名又は名称】株式会社インターネットイニシアティブ
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100138759
【弁理士】
【氏名又は名称】大房 直樹
(72)【発明者】
【氏名】柿島 純
【審査官】川口 貴裕
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2021/0377083(US,A1)
【文献】特開平06-268632(JP,A)
【文献】特開平07-059157(JP,A)
【文献】特表2010-521895(JP,A)
【文献】細川 文哉ほか,W-CDMA上りリンクにおけるRBFニューラルネットワークによる到来方位推定,電子情報通信学会論文誌A,2003年,第J86-A巻,第9号,pp.978-982
【文献】猪俣 政貴ほか,ニューラルネットワークを用いた波長多重光無線におけるMIMO伝搬チャネル行列推定の提案,電子情報通信学会技術研究報告,2021年,第121巻,第14号,pp.25-30
【文献】S. Y. Kung and Xinying Zhang,AN ASSOCIATIVE MEMORY APPROACH TO BLIND SIGNAL RECOVERY FOR SIMO/MIMO SYSTEMS,Neural Networks for Signal Processing XI: Proceedings of the 2001 IEEE Signal Processing Society Workshop,2001年,pp. 343-362
【文献】Muhang Lan et al.,Design of Energy Modulation Massive SIMO Transceivers via Machine Learning,Journal of Communications and Information Networks,2020年09月,Vol. 5, No. 3,pp. 358-368
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 27/00
H04B 1/00
H04B 7/02 - 7/12
H04L 1/02 - 1/06
H04B 7/24 - 7/26
H04W 4/00 - 99/00
G06N 20/00 - 20/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号を無線送信する送信装置と、前記無線送信された信号を受信する受信装置とを含む無線通信システムであって、
前記送信装置は、
複数の送信元信号を生成するように構成された信号生成部と、
前記複数の送信元信号をシリアルに送信する単一の送信アンテナと、
を備え、
前記受信装置は、
それぞれが前記送信装置の前記単一の送信アンテナからの前記送信元信号を受信するように配置された複数の受信アンテナと、
前記複数の受信アンテナの各々によって受信された信号がそれぞれ入力される複数の入力ノード、および前記送信装置の前記単一の送信アンテナが送信した前記送信元信号に対する推定信号を出力するように構成された1または複数の出力ノードを備えたニューラルネットワークと、
前記送信装置の前記単一の送信アンテナが既知の複数の送信元信号を送信したときの前記複数の受信アンテナの各々による受信信号と、前記既知の複数の送信元信号とを教師データとして、前記ニューラルネットワークを訓練するように構成された学習部と、
前記学習部により訓練された前記ニューラルネットワークを用いて、前記複数の受信アンテナの各々による受信信号から、前記送信装置の前記単一の送信アンテナが送信した送信元信号を推定するように構成された信号推定部と、
を備える、
無線通信システム。
【請求項2】
前記複数の受信アンテナは、アレイアンテナとして構成される、請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項3】
前記複数の受信アンテナの各々による前記受信信号は、互いに前記複数の受信アンテナの配置に応じた位相差を有する、請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項4】
前記既知の複数の送信元信号は、既知の複数のパイロット信号である、請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項5】
前記ニューラルネットワークの訓練に先立ち、前記送信装置は、前記既知の複数のパイロット信号と、前記既知の複数のパイロット信号の各々の送信順序とを含むパイロット信号テーブルを、前記受信装置へ送信し、
前記受信装置は、前記送信装置から送信された前記パイロット信号テーブルを前記複数の受信アンテナのうちの1つの受信アンテナのみを用いて受信し、前記教師データは、前記受信されたパイロット信号テーブルを含む、
請求項4に記載の無線通信システム。
【請求項6】
前記ニューラルネットワークの訓練のために、前記送信装置は、前記パイロット信号テーブルに規定された送信順序に従って前記既知の複数のパイロット信号を順次送信し、
前記受信装置の前記学習部は、前記複数の受信アンテナの各々によって受信された前記送信装置からのパイロット信号と、前記パイロット信号テーブルにおける前記既知の複数のパイロット信号のうち、前記送信順序により特定されるパイロット信号とを教師データとして、前記ニューラルネットワークを訓練する、
請求項5に記載の無線通信システム。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載された無線通信システムにおける、前記複数の受信アンテナ、前記ニューラルネットワーク、前記学習部、および前記信号推定部を備えた受信装置。
【請求項8】
信号を無線送信する送信装置と、前記無線送信された信号を受信する受信装置とを含む無線通信システムにおける無線通信方法であって、
前記送信装置が、複数の送信元信号を生成するステップと、
前記送信装置が、前記複数の送信元信号を、単一の送信アンテナを用いてシリアルに送信するステップと、
前記受信装置が、それぞれが前記送信装置の前記単一の送信アンテナからの前記送信元信号を受信するように配置された複数の受信アンテナを用いて、前記送信装置の前記単一の送信アンテナからの前記送信元信号を受信するステップと、
前記受信装置が、前記複数の受信アンテナの各々によって受信された信号がそれぞれ入力される複数の入力ノード、および前記送信装置の前記単一の送信アンテナが送信した前記送信元信号に対する推定信号を出力するように構成された1または複数の出力ノードを備えたニューラルネットワークを用いて、前記複数の受信アンテナの各々による受信信号から、前記送信装置の前記単一の送信アンテナが送信した送信元信号を推定するステップと、
を含み、
前記ニューラルネットワークは、前記送信装置の前記単一の送信アンテナが既知の複数の送信元信号を送信したときの前記複数の受信アンテナの各々による受信信号と、前記既知の複数の送信元信号とを教師データとして、事前に訓練されている、
無線通信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信システム、受信装置、および無線通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、無線通信を高速化する技術として、送信側と受信側にそれぞれ複数のアンテナを用いるMIMO(Multiple Input Multiple Output)が利用されている。またMIMOとニューラルネットワークを組み合わせた技術が特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2021-536078号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されたシステムは、単に受信側のデコーディング回路をニューラルネットワークに置き換えたものであり、送信側のプリコーディング回路は通常のMIMOと同じである。そのため、送受信間の無線伝搬環境が異なっても同じパラメータで通信を行っており、受信側で伝搬環境に応じた高品質な信号推定を行うことができない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、信号を無線送信する送信装置と、前記無線送信された信号を受信する受信装置とを含む無線通信システムであって、前記送信装置は、複数の送信元信号を生成するように構成された信号生成部と、前記複数の送信元信号をシリアルに送信する単一の送信アンテナと、を備え、前記受信装置は、それぞれが前記送信装置からの前記送信元信号を受信するように配置された複数の受信アンテナと、前記複数の受信アンテナの各々によって受信された信号がそれぞれ入力される複数の入力ノード、および前記送信装置が送信した前記送信元信号に対する推定信号を出力するように構成された1または複数の出力ノードを備えたニューラルネットワークと、前記送信装置が既知の複数の送信元信号を送信したときの前記複数の受信アンテナの各々による受信信号と、前記既知の複数の送信元信号とを教師データとして、前記ニューラルネットワークを訓練するように構成された学習部と、前記学習部により訓練された前記ニューラルネットワークを用いて、前記複数の受信アンテナの各々による受信信号から、前記送信装置が送信した送信元信号を推定するように構成された信号推定部と、を備える、無線通信システムが提供される。
【0006】
また、本発明の一態様によれば、前記複数の受信アンテナは、アレイアンテナとして構成されるのであってよい。
【0007】
また、本発明の一態様によれば、前記複数の受信アンテナの各々による前記受信信号は、互いに前記複数の受信アンテナの配置に応じた位相差を有するのであってよい。
【0008】
また、本発明の一態様によれば、前記既知の複数の送信元信号は、既知の複数のパイロット信号であるのであってよい。
【0009】
また、本発明の一態様によれば、前記ニューラルネットワークの訓練に先立ち、前記送信装置は、前記既知の複数のパイロット信号と、前記既知の複数のパイロット信号の各々の送信順序とを含むパイロット信号テーブルを、前記受信装置へ送信し、前記受信装置は、前記送信装置から送信された前記パイロット信号テーブルを前記複数の受信アンテナのうちの1つの受信アンテナのみを用いて受信し、前記教師データは、前記受信されたパイロット信号テーブルを含むのであってよい。
【0010】
また、本発明の一態様によれば、前記ニューラルネットワークの訓練のために、前記送信装置は、前記パイロット信号テーブルに規定された送信順序に従って前記既知の複数のパイロット信号を順次送信し、前記受信装置の前記学習部は、前記複数の受信アンテナの各々によって受信された前記送信装置からのパイロット信号と、前記パイロット信号テーブルにおける前記既知の複数のパイロット信号のうち、前記送信順序により特定されるパイロット信号とを教師データとして、前記ニューラルネットワークを訓練するのであってよい。
【0011】
また、本発明の一態様によれば、前記無線通信システムにおける、前記複数の受信アンテナ、前記ニューラルネットワーク、前記学習部、および前記信号推定部を備えた受信装置が提供される。
【0012】
また、本発明の一態様によれば、信号を無線送信する送信装置と、前記無線送信された信号を受信する受信装置とを含む無線通信システムにおける無線通信方法であって、前記送信装置が、複数の送信元信号を生成するステップと、前記送信装置が、前記複数の送信元信号をシリアルに送信するステップと、前記受信装置が、それぞれが前記送信装置からの前記送信元信号を受信するように配置された複数の受信アンテナを用いて、前記送信装置からの前記送信元信号を受信するステップと、前記受信装置が、前記複数の受信アンテナの各々によって受信された信号がそれぞれ入力される複数の入力ノード、および前記送信装置が送信した前記送信元信号に対する推定信号を出力するように構成された1または複数の出力ノードを備えたニューラルネットワークを用いて、前記複数の受信アンテナの各々による受信信号から、前記送信装置が送信した送信元信号を推定するステップと、を含み、前記ニューラルネットワークは、前記送信装置が既知の複数の送信元信号を送信したときの前記複数の受信アンテナの各々による受信信号と、前記既知の複数の送信元信号とを教師データとして、事前に訓練されている、無線通信方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、受信装置の無線通信環境に適応してニューラルネットワークが訓練されるので、送信装置から送信される信号を高い精度で推定することができ、それにより高品質な通信を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係る無線通信システムの例示的な構成を示すブロック図である。
図2】アレイアンテナの個々の受信アンテナによって受信される送信装置からの信号を示す模式図である。
図3】本実施形態による受信装置に備えられた例示的なニューラルネットワークを示す図である。
図4】本発明の一実施形態に係る無線通信システムにおいて受信装置のニューラルネットワークを訓練するための訓練フェーズの処理を示すフローチャートである。
図5】パイロット信号テーブルの一例である。
図6】本発明の一実施形態に係る無線通信システムにおいて、受信装置が訓練済みのニューラルネットワークを用いて送信装置からの送信データを取得する処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳しく説明する。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係る無線通信システムの例示的な構成を示すブロック図である。無線通信システム10は、送信装置100と受信装置200を備える。無線通信システム10における送信装置100と受信装置200は、互いに無線通信することができる。例えば、無線通信システム10は、4Gもしくは5G(第4、第5世代)モバイル通信を行うための通信システム、またはWi-Fi通信を行うための通信システムであってよい。しかしこれは本発明を限定するものではなく、無線通信システム10は他の方式の無線通信を行うシステムであってもよい。
【0017】
送信装置100は、例えば、スマートフォン、携帯電話端末、タブレット端末、ノートPC(パーソナルコンピュータ)、デスクトップPC、あるいは無線通信機能を備えた他のタイプの機器であってよい。受信装置200は、例えば、4Gもしくは5Gモバイル通信システムにおける基地局装置、またはWi-Fi通信システムにおけるアクセスポイント装置等であってよい。これらは単なる例示であり、無線通信機能を備えた任意の機器・装置が、送信装置100および受信装置200として適用され得る。なお、送信装置100が基地局装置等であり、受信装置200がスマートフォン等であるのであってもよい。
【0018】
送信装置100は、信号生成部110と、RF部130と、送信アンテナ140とを少なくとも備える。送信装置100は他の要素を備えてもよいが、ここではそれらについての説明は省略する。信号生成部110は、受信装置200へ送信するための複数の信号S,S,S,…を生成する。各信号S,S,S,…は、例えば、ユーザデータ(文書、画像、音声、動画等の各種アプリケーションデータ)のビット列であってよい。
【0019】
RF(Radio Frequency)部130は、信号生成部110によって生成されたベースバンドの信号を無線周波数の信号に変換(変調)する。なお、RF部130の変調方式は、本発明では特に限定されず、任意の方式を採用することができる。送信アンテナ140は、単一のアンテナから構成され、RF部130からの変調信号を無線通信路へ送り出す。これにより、信号生成部110で生成された複数の信号S,S,S,…は、受信装置200へシリアルに伝送される。
【0020】
受信装置200は、複数の受信アンテナ210と、複数のBB部220と、複数の受信バッファ225と、ニューラルネットワーク230と、学習部240と、信号推定部250とを少なくとも備える。受信装置200は他の要素を備えてもよいが、ここではそれらについての説明は省略する。
【0021】
複数の受信アンテナ210は、例えばr個の受信アンテナRA#1,RA#2,…,RA#rから構成される。各受信アンテナRA#1,RA#2,…,RA#rは、相互に所定の位置関係を有するように配置されており、送信装置100から送信された信号は、各受信アンテナRA#1,RA#2,…,RA#rにおいてそれぞれ異なる信号として受信される。例えば、複数の受信アンテナ210は、アレイアンテナとして構成することができる。
【0022】
図2は、アレイアンテナ210の個々の受信アンテナによって受信される送信装置100からの信号を示す模式図である。アレイアンテナ210の個々の受信アンテナRA#1,RA#2,…,RA#rは、隣接するアンテナ同士が一定距離dの間隔を空けて一列に配列されている。図2には、送信装置100からの送信電波が、アレイアンテナ210の配列方向に対して角度θの方向から到来する様子が示されている。このような配置の例において、送信装置100から信号Sが送信された場合に、アレイアンテナ210の受信アンテナRA#1において受信される信号Srcv#1が次式(1)のように表されるとすると、他の受信アンテナRA#2,RA#3,…,RA#rの各々において受信される信号は、それぞれ式(2)~(4)のように表すことができる。ただし、ω=2π/λは搬送波の角振動数、λは搬送波の波長である。
【0023】
【数1】
【0024】
図1および図2に示されるように、アレイアンテナ210の個々の受信アンテナの出力には、それぞれBB(Baseband)部220が設けられ、各BB部220の出力は、受信バッファ225を介してニューラルネットワーク230へ入力される。各BB部220は、対応する受信アンテナで受信された無線周波数の信号(すなわち上式で表される信号)をベースバンドの信号に変換(復調)して、受信バッファ225へ出力する。受信バッファ225は、例えばnビットバッファとして構成され、入力信号をnビット単位(nは所定の自然数。例えばn=16)で一時的に保持してnビットずつニューラルネットワーク230へ出力する。なお各BB部220が用いる復調方式は、送信装置100のRF部130で使用される変調方式と対応するものである。
【0025】
図3は、本実施形態による受信装置200に備えられた例示的なニューラルネットワーク230を示す図である。ニューラルネットワーク230は、複数の入力ノード231を有する入力層232と、各々が複数のノード233を有する1または複数の層からなる中間層234と、複数の出力ノード235を有する出力層236とを備える。各ノードは、重み付けパラメータによって特徴付けられる強度で、当該ノードが属する層に隣接する層の複数のノードと接続されている。
【0026】
入力層232の各入力ノード231は、アレイアンテナ210の個々の受信アンテナから出力される信号の各ビットと一対一に対応付けられている。すなわち、アレイアンテナ210における各受信アンテナによって受信された信号は、それぞれBB部220によってベースバンド信号に変換されて、対応する受信バッファ225にビットごとに一時保持され、受信バッファ225の各ビットが、ニューラルネットワーク230の対応する1つの入力ノード231に入力される。例えば、図2および図3に示されるように、アレイアンテナ210の受信アンテナRA#1による受信信号Srcv#1(式(1)参照)は、1番目の入力ノード群Nin#1_1、Nin#1_2、…、Nin#1_nに対応付けられており、受信信号Srcv#1の第1ビットは入力ノードNin#1_1に、第2ビットは入力ノードNin#1_2に、…、第nビットは入力ノードNin#1_nに、それぞれ入力される。同様に、受信アンテナRA#2による受信信号Srcv#2(式(2)参照)は、2番目の入力ノード群Nin#2_1、Nin#2_2、…、Nin#2_nに対応付けられており、受信信号Srcv#2の第1ビットは入力ノードNin#2_1に、第2ビットは入力ノードNin#2_2に、…、第nビットは入力ノードNin#2_nに、それぞれ入力される。他の受信アンテナRA#3~RA#rによる受信信号についても同様である。
【0027】
出力層236の複数の出力ノード235は、入力層232への入力(すなわちアレイアンテナ210によって受信された信号)に対して、送信装置100が送信した信号の各ビットを推定した信号を出力する。例えば、出力層236の1番目の出力ノードNout#1は、送信装置100が送信した信号の第1ビットに対応する推定信号Sest#1を出力し、出力層236の2番目の出力ノードNout#2は、送信装置100が送信した信号の第2ビットに対応する推定信号Sest#2を出力し、出力層236の3番目の出力ノードNout#3は、送信装置100が送信した信号の第3ビットに対応する推定信号Sest#3を出力し、…、出力層236のn番目の出力ノードNout#nは、送信装置100が送信した信号の第nビットに対応する推定信号Sest#nを出力する。ニューラルネットワーク230は、出力層236の各出力ノード235からこのような推定信号が出力されるように、ノード間の重み付けパラメータが設定される。
【0028】
各出力ノード235からの推定信号を適切なものとするために、ニューラルネットワーク230は、所定の教師データを用いて事前に訓練される。所定の教師データとして、複数の既知のパイロット信号を用いることができる。例えば、送信装置100は複数の既知のパイロット信号を順次に受信装置200へ送信し、受信装置200は、アレイアンテナ210で受信したパイロット信号と当該パイロット信号に対応するあらかじめ取得済みの正解信号とを教師データとして、ニューラルネットワーク230を訓練することができる。この訓練(学習)フェーズの処理について以下に説明する。
【0029】
図4は、本発明の一実施形態に係る無線通信システム10において受信装置200のニューラルネットワーク230を訓練するための訓練フェーズの処理を示すフローチャートである。ステップ402において、送信装置100の信号生成部110は、既知の複数のパイロット信号S,S,…,Sを決定し、決定した複数のパイロット信号と各パイロット信号の送信順序とを示すパイロット信号テーブルを作成する。図5は、パイロット信号テーブルの一例である。パイロット信号テーブルは、第1回目の送信時に送信番号「1」に対応するパイロット信号Sを送信し、第2回目の送信時に送信番号「2」に対応するパイロット信号Sを送信し、…、第N回目の送信時に送信番号「N」に対応するパイロット信号Sを送信することを示す。図5の例において、各パイロット信号S,S,…,Sは、16ビットの信号列として構成されている。この場合、216種類のパイロット信号がパイロット信号テーブルとして用意される(すなわちN=216である)。
【0030】
次にステップ404において、送信装置100と受信装置200の間にデータ通信路が確立される。なお、このデータ通信路の確立手順は、無線通信システム10の種類に応じた公知のものであり、ここではその詳細についての説明は省略する。続くステップ406において、送信装置100は、ステップ402で作成したパイロット信号テーブルを、ステップ404で確立されたデータ通信路を使って受信装置200へ送信する。受信装置200は、ステップ408において、複数の受信アンテナ210のうちの任意の1つの受信アンテナのみを用いて(例えば残りの全ての受信アンテナを停止することにより)、送信装置100から送信されたパイロット信号テーブルを受信する。1つの受信アンテナで受信されたデータをBB部220で復調することで、ニューラルネットワーク230の訓練が完了する前であっても(ニューラルネットワーク230を用いずに)、受信装置200はパイロット信号テーブルを取得することができる。受信装置200の学習部240は、取得されたパイロット信号テーブルをメモリに記憶する。
【0031】
次に、ステップ410において、送信装置100は、パイロット信号テーブルに記載された送信順序に従って、パイロット信号テーブルに記載された各パイロット信号を受信装置200へ送信する。具体的に、第1回目に、送信装置100の信号生成部110は、送信番号「1」に対応するパイロット信号Sを生成し、これにより第1回目のパイロット信号が送信アンテナ140から受信装置200へ送信される。次に第2回目に、第1回目と同様に、送信装置100の信号生成部110は、送信番号「2」に対応するパイロット信号Sを生成し、これにより第2回目のパイロット信号が送信アンテナ140から受信装置200へ送信される。第3回目以降についても同様である。
【0032】
続くステップ412において、受信装置200は、送信装置100から送信された各パイロット信号を複数の受信アンテナ210により受信し、受信装置200の学習部240は、受信された各パイロット信号と、ステップ408で取得済みのパイロット信号テーブルから特定されるパイロット信号とを教師データとして、ニューラルネットワーク230の重み付けパラメータを調整する。ここで、パイロット信号テーブルから特定される各送信番号に対応するパイロット信号は、ニューラルネットワーク230の出力層236の各出力ノード235から出力されるべき、当該送信番号で送信装置100が送信したパイロット信号に対する推定信号の正解を表している。
【0033】
例えば、受信装置200の複数の受信アンテナ(アレイアンテナ)210における各々の受信アンテナによって第1回目に受信されたパイロット信号の各ビットが、第1回目の重み付けパラメータ調整のための教師データの一部として、それぞれニューラルネットワーク230の対応する入力ノード231に入力される(図2図3参照)。ニューラルネットワーク230は、この入力に対して、各出力ノード235から対応するビットの推定信号を出力する。また、受信装置200の学習部240は、パイロット信号テーブルから第1回目の送信に対応するパイロット信号(例えば図5のパイロット信号テーブルにおける送信番号「1」に対応するパイロット信号S)を取得し、それを第1回目の重み付けパラメータ調整のための教師データの残りの一部として、ニューラルネットワーク230の出力ノード235からの推定信号(Sest#1,Sest#2,…,Sest#n)に適用する。例えば、学習部240は、次式(5)で表される目的関数Eを最小化するように、ニューラルネットワーク230の重み付けパラメータを調整する。ただしSk,iは、パイロット信号テーブルから取得された第k回目の送信に対応するパイロット信号Sの第iビットである。
【0034】
【数2】
【0035】
上記の第1回目と同様にして、受信装置200の学習部240は、第2回目以降のパラメータ調整を実施する。なお、このように受信装置200がパイロット信号を1回受信するごとにニューラルネットワーク230の重み付けパラメータを調整するのではなく、受信装置200がパイロット信号を複数回受信したときにまとめてパラメータ調整(目的関数Eの最小化)を実施することとしてもよい。
【0036】
以上の手順によって、既知のパイロット信号を用いることにより訓練済みのニューラルネットワーク230が生成される。このようにして訓練されたニューラルネットワーク230は、受信装置200で受信されたパイロット信号を用いて訓練されているため、送信装置100と受信装置200の間の無線通信路の特性を反映している。したがって、受信装置200の無線通信環境に適応してニューラルネットワーク230が訓練されるので、送信装置100から送信される信号を高い精度で推定することができる。
【0037】
図6は、本発明の一実施形態に係る無線通信システム10において、受信装置200が訓練済みのニューラルネットワーク230を用いて送信装置100からの送信データを取得する処理(すなわちニューラルネットワーク230の運用フェーズの処理)を示すフローチャートである。ステップ602において、送信装置100の信号生成部110は、ユーザデータに基づく複数の信号S,S,S,…を生成する。これら各信号は、パイロット信号と同じ長さのビット長を有する信号列として構成される。例えば図5の例のパイロット信号が用いられる場合、ステップ602で生成されるユーザデータに基づく各信号は、16ビットの信号列である。ステップ604において、ステップ602で生成された複数の信号が、順次、送信アンテナ140から受信装置200へ送信される。
【0038】
ステップ606において、受信装置200のアレイアンテナ210における各々の受信アンテナが、それぞれ、送信装置100から送信された複数の信号を順次受信する。ステップ608において、受信装置200の信号推定部250は、訓練済みのニューラルネットワーク230を用いて、ステップ606で順次受信された各信号に対する送信装置100からの送信信号を推定する。具体的に、受信装置200の信号推定部250は、ステップ606で信号が順次受信されるごとに、アレイアンテナ210の各受信アンテナの受信信号をニューラルネットワーク230の対応する入力ノード231に入力し(図2図3参照)、この入力に対してニューラルネットワーク230の出力ノード235から出力される推定信号を取得する。送信装置100においてステップ602で生成された各信号はニューラルネットワーク230の訓練に用いたパイロット信号のいずれかに一致するので、訓練済みのニューラルネットワーク230は、送信装置100が送信した信号(ユーザデータ)に対する推定信号を出力ノード235から出力することができる。これにより、受信装置200は、送信装置100からのユーザデータを取得することができる。
【0039】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明はこれに限定されず、その要旨を逸脱しない範囲内において様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0040】
10 無線通信システム
100 送信装置
110 信号生成部
130 RF部
140 送信アンテナ
200 受信装置
210 受信アンテナ
220 BB部
225 受信バッファ
230 ニューラルネットワーク
240 学習部
250 信号推定部
【要約】
【課題】受信装置において、送信装置から送信される信号を高い精度で推定する。
【解決手段】無線通信システムは、送信装置と受信装置を含む。送信装置は、送信元信号を生成する信号生成部と、送信元信号を送信する単一の送信アンテナとを備える。受信装置は、それぞれが送信装置からの送信元信号を受信する複数の受信アンテナと、複数の受信アンテナの各々によって受信された信号がそれぞれ入力される複数の入力ノード、および送信装置が送信した送信元信号に対する推定信号を出力する出力ノードを備えたニューラルネットワークと、送信装置が既知の送信元信号を送信したときの複数の受信アンテナの各々による受信信号と、既知の送信元信号とを教師データとして、ニューラルネットワークを訓練する学習部と、ニューラルネットワークを用いて、複数の受信アンテナの各々による受信信号から、送信装置が送信した送信元信号を推定する信号推定部とを備える。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6