(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-24
(45)【発行日】2024-05-07
(54)【発明の名称】高電圧モジュール
(51)【国際特許分類】
H01J 49/02 20060101AFI20240425BHJP
【FI】
H01J49/02 200
(21)【出願番号】P 2021010898
(22)【出願日】2021-01-27
【審査請求日】2023-05-16
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】オン ジーハオ
(72)【発明者】
【氏名】西元 琢真
(72)【発明者】
【氏名】古矢 勇夫
(72)【発明者】
【氏名】任田 浩
【審査官】鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-316788(JP,A)
【文献】特開2006-074901(JP,A)
【文献】実開平01-162781(JP,U)
【文献】国際公開第2019/187431(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 49/02
H02M 3/00- 3/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
参照信号と帰還信号とに基づいて、制御信号を出力する誤差増幅器と、前記制御信号に基づいて、供給用高電圧を出力する高電圧出力回路と、前記供給用高電圧に基づいて、前記帰還信号を出力する帰還回路とを備えた高電圧モジュールであって、
前記帰還回路は、
前記供給用高電圧が入力され、中間信号を出力する、抵抗素子から構成された第1部分回路と、
前記中間信号が入力され、前記帰還信号を出力する、第2部分回路と、
を備え、
前記高電圧モジュールは、
前記高電圧出力回路と、前記第1部分回路の一部とが実装された高電圧基板領域と、
前記誤差増幅器と、前記第2部分回路とが実装された低電圧基板領域とを備える基板
と、
所定の駆動周波数で駆動され、高電圧を生成する高電圧生成回路と、
を備え、
前記高電圧出力回路は、前記高電圧生成回路から出力される前記高電圧を電源とし、前記制御信号に基づいた前記供給用高電圧を出力し、
前記第2部分回路は、前記帰還回路のループゲインに関連する抵抗素子と容量素子とを備え
、
前記高電圧基板領域には、前記高電圧生成回路の少なくとも一部が実装され、
前記第2部分回路の周波数フィルタ特性は、前記所定の駆動周波数を除去する特性を有する、、
高電圧モジュール。
【請求項2】
請求項
1に記載の高電圧モジュールにおいて、
前記高電圧モジュールは、電源回路として用いられる、高電圧モジュール。
【請求項3】
参照信号と帰還信号とに基づいて、制御信号を出力する誤差増幅器と、前記制御信号に基づいて、供給用高電圧を出力する高電圧出力回路と、前記供給用高電圧に基づいて、前記帰還信号を出力する帰還回路とを備える、高電圧モジュールであって、
前記帰還回路は
、
前記供給用高電圧が入力され、中間信号を出力する第1部分回路と、
前記中間信号が入力され、前記帰還信号を出力する第2部分回路と、
を備え、
前記第1部分回路は、前記供給用高電圧の高電圧信号を低電圧信号に減衰する信号減衰機能を有し、
前記第2部分回路は、前記高電圧モジュールのループゲインに関連する位相補償機能を有し、
前記高電圧モジュールは、
前記高電圧出力回路と前記第1部分回路の一部とが実装される高電圧基板領域と、
前記誤差増幅器と前記第2部分回路とが実装される低電圧基板領域と、
を備える基板と、
前記基板
を収納する金属製筐体と、
を備え
、
前記高電圧基板領域と前記低電圧基板領域は、前記基板において排他的に配置されている、
高電圧モジュール。
【請求項4】
請求項
3に記載の高電圧モジュールにおいて、
前記高電圧基板領域で用いられる最高電圧は、300(V)以上であり、前記低電圧基板領域で用いられる最高電圧は、300(V)未満である、高電圧モジュール。
【請求項5】
請求項
3に記載の高電圧モジュールにおいて、
前記金属製筐体は、所定の電圧に電気的に接続されている、高電圧モジュール。
【請求項6】
参照信号と帰還信号とに基づいて、制御信号を出力する誤差増幅器と、前記制御信号に基づいて、供給用高電圧を出力する高電圧出力回路と、前記供給用高電圧に基づいて、前記帰還信号を出力する帰還回路とを備える、高電圧モジュールであって、
前記帰還回路は、
前記供給用高電圧が入力され、中間信号を出力する第1部分回路と、
前記中間信号が入力され、前記帰還信号を出力する第2部分回路と、
を備え、
前記第1部分回路は、前記供給用高電圧の高電圧信号を低電圧信号に減衰する信号減衰機能を有し、
前記第2部分回路は、前記高電圧モジュールのループゲインに関連する位相補償機能を有し、
前記高電圧モジュールは、
前記高電圧出力回路と前記第1部分回路の一部とが実装される高電圧基板領域と、
前記誤差増幅器と前記第2部分回路とが実装される低電圧基板領域と、
を備える基板と、
前記基板を収納する金属製筐体と、
を備え、
前記基板は、複数の個別基板を備え、
前記複数の個別基板のうちの第1個別基板に、前記高電圧基板領域が配置され、前記第1個別基板とは異なる第2個別基板に、前記低電圧基板領域が配置されている、高電圧モジュール。
【請求項7】
参照信号と帰還信号とに基づいて、制御信号を出力する誤差増幅器と、前記制御信号に基づいて、供給用高電圧を出力する高電圧出力回路と、前記供給用高電圧に基づいて、前記帰還信号を出力する帰還回路とを備える、高電圧モジュールであって、
前記帰還回路は、
前記供給用高電圧が入力され、中間信号を出力する第1部分回路と、
前記中間信号が入力され、前記帰還信号を出力する第2部分回路と、
を備え、
前記第1部分回路は、前記供給用高電圧の高電圧信号を低電圧信号に減衰する信号減衰機能を有し、
前記第2部分回路は、前記高電圧モジュールのループゲインに関連する位相補償機能を有し、
前記高電圧モジュールは、
前記高電圧出力回路と前記第1部分回路の一部とが実装される高電圧基板領域と、
前記誤差増幅器と前記第2部分回路とが実装される低電圧基板領域と、
を備える基板と、
前記基板を収納する金属製筐体と、
を備え、
前記高電圧モジュールは、所定の駆動周波数で駆動され、少なくとも一部が、前記高電圧基板領域に実装され、前記高電圧出力回路に高電圧を出力する高電圧生成回路を、さらに備え、
前記第2部分回路の周波数フィルタ特性は、前記駆動周波数を除去する特性を有する、高電圧モジュール。
【請求項8】
参照信号と帰還信号とに基づいて、制御信号を出力する誤差増幅器と、前記制御信号に基づいて、供給用高電圧を出力する高電圧出力回路と、前記供給用高電圧に基づいて、前記帰還信号を出力する帰還回路とを備える、高電圧モジュールであって、
前記帰還回路は、
前記供給用高電圧が入力され、中間信号を出力する第1部分回路と、
前記中間信号が入力され、前記帰還信号を出力する第2部分回路と、
を備え、
前記第1部分回路は、前記供給用高電圧の高電圧信号を低電圧信号に減衰する信号減衰機能を有し、
前記第2部分回路は、前記高電圧モジュールのループゲインに関連する位相補償機能を有し、
前記高電圧モジュールは、
前記高電圧出力回路と前記第1部分回路の一部とが実装される高電圧基板領域と、
前記誤差増幅器と前記第2部分回路とが実装される低電圧基板領域と、
を備える基板と、
前記基板を収納する金属製筐体と、
を備え、
前記高電圧モジュールは、前記第1部分回路と前記第2部分回路との間に接続されたインピーダンス整合回路を、さらに備える、高電圧モジュール。
【請求項9】
参照信号と帰還信号とに基づいて、制御信号を出力する誤差増幅器と、前記制御信号に基づいて、供給用高電圧を出力する高電圧出力回路と、前記供給用高電圧に基づいて、前記帰還信号を出力する帰還回路とを備える、高電圧モジュールであって、
前記帰還回路は、
前記供給用高電圧が入力され、中間信号を出力する第1部分回路と、
前記中間信号が入力され、前記帰還信号を出力する第2部分回路と、
を備え、
前記第1部分回路は、前記供給用高電圧の高電圧信号を低電圧信号に減衰する信号減衰機能を有し、
前記第2部分回路は、前記高電圧モジュールのループゲインに関連する位相補償機能を有し、
前記高電圧モジュールは、
前記高電圧出力回路と前記第1部分回路の一部とが実装される高電圧基板領域と、
前記誤差増幅器と前記第2部分回路とが実装される低電圧基板領域と、
を備える基板と、
前記基板を収納する金属製筐体と、
を備え、
前記第1部分回路と前記第2部分回路とは、電気的に絶縁された絶縁信号伝達回路によって接続されている、高電圧モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高電圧を出力する高電圧モジュールおよびそれを用いる質量分析装置に関し、例えば質量分析装置に搭載されるイオン源、イオンフィルタまたは/および検知器に、高電圧を供給する高電圧モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば容量性負荷を駆動する駆動回路を高電圧モジュールと見なした場合、高電圧モジュールは、例えば特許文献1に記載されている。特許文献1には、駆動回路にデジタル電圧増幅器を追加することで熱の発生を抑制し、演算増幅器と帰還回路との間にバッファーを追加することで安定性の向上を図ることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
高電圧モジュール(以下、質量分析装置等の装置に電源電圧を供給する用途に用いる場合、高電圧電源モジュールとも称する)は、一般的に、その消費電力の低減を図ると、その引き換えに低速化や不安定動作となる。
【0005】
一方、高電圧電源モジュールを搭載する装置、例えば質量分析装置では、分析の高スループット化と高感度化を図るために、搭載する高電圧電源モジュールに対して、更なる高速化や高安定動作性と言った電気特性の向上が求められている。また同時に、ユーザビリティの観点からは、容易な放熱設計や小型化を可能とするために、高電圧電源モジュールに対して低消費電力化も求められている。従って、高電圧電源モジュールでは、電気特性の向上と低消費電力化の両立が課題となっている。
【0006】
また、感電の防止やノイズ放射の低減を図るために、高電圧電源モジュールを実装した基板は、接地電圧等に接続された金属製(導体性)の筐体に収納され、金属製筐体と一体化された高電圧電源モジュールが装置に搭載されることになる。前記したように高電圧電源モジュールの小型化を図ると、金属製筐体と基板との間の距離が小さくなる。基板と金属製筐体との間には、不所望な寄生容量成分が発生するが、金属製筐体と基板との間の距離が小さくなると、発生する寄生容量成分は、距離に反比例して大きくなる。また、高電圧電源モジュールの絶縁性を高めるために、基板を収納した金属製筐体に絶縁性樹脂を充填する場合がある。金属製筐体と基板間距離以外に、基板と金属製筐体の間の誘電率に比例して発生する寄生容量成分も上昇するため、空気より誘電率が高い絶縁性樹脂があると寄生容量成分はさらに増加する。すなわち、高電圧電源モジュールの小型化・絶縁性の向上により、基板と筐体との間の距離が低減して誘電率が上昇し、その分発生する寄生容量成分が大きくなる。この寄生容量成分が大きくなることにより、高電圧電源モジュールが低速動作または/および不安定動作となる。
【0007】
特許文献1においては、アナログ増幅器の代わりにデジタル電圧増幅器を追加することで、パルス幅変調器によってパルス幅変調されたデジタル信号の電圧を増幅する。これにより、熱の発生を抑制することが可能となっている。また、演算増幅器と帰還回路との間にバッファーを追加することで、演算増幅器が決定するループゲインに帰還回路が影響するのを低減し、熱の抑制と駆動回路の安定性を両立している。
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、出力電圧が高くなるに従って帰還回路を流れる電流が増加し、発熱量も比例して増大する。そのため、ヒートシンクなしで帰還回路の発熱を抑制するには抵抗値を高く設計する必要がある。そうした場合、駆動回路全体の安定性は、演算増幅器だけでなく、帰還回路もループゲインを決定する回路部となるため、駆動回路を収納する金属製筐体と駆動回路が実装された基板間で発生する寄生容量成分が、駆動回路全体の安定性に強く影響することになる。特許文献1では、金属製筐体と基板間で発生する寄生容量成分による影響については、記載も認識もされていない。
【0009】
本発明の目的は、低消費電力で安定した高速動作が可能な高電圧モジュールを提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願において開示される実施の形態のうち代表的なものの概要を簡単に説明すれば下記の通りである。
【0012】
すなわち、高電圧モジュールは、参照信号と帰還信号とに基づいて、制御信号を出力する誤差増幅器と、制御信号に基づいて、供給用高電圧を出力する高電圧出力回路と、供給用高電圧に基づいて、帰還信号を出力する帰還回路とを備えている。帰還回路は、供給用高電圧が入力され、中間信号を出力する、抵抗素子から構成された第1部分回路と、中間信号が入力され、帰還信号を出力する、第2部分回路とを備えている。さらに、高電圧モジュールは、高電圧出力回路と、第1部分回路の一部とが実装された高電圧基板領域と、誤差増幅器と、第2部分回路とが実装された低電圧基板領域とを備える基板を備え、第2部分回路は、帰還回路のループゲインに関連する抵抗素子と容量素子とを備えている。
【発明の効果】
【0013】
本願において開示される発明のうち、代表的な実施の形態によって得られる効果を簡単に説明すると、低消費電力で安定した高速動作が可能な高電圧モジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施の形態1に係る高電圧モジュールの構成を示す回路図である。
【
図2】実施の形態2に係る高電圧モジュールの構成を示す回路図である。
【
図3】(A)および(B)は、実施の形態2を説明するための特性図である。
【
図4】実施の形態3に係る高電圧モジュールの構成を示す回路図である。
【
図5】実施の形態4に係る高電圧モジュールの構成を示す回路図である。
【
図6】実施の形態4の変形例に係る高電圧モジュールの構成を示す回路図である。
【
図7】実施の形態5に係る質量分析装置の構成を示す概略図である。
【
図8】実施の形態1に係る高電圧モジュールを説明するための式を示す図である。
【
図9】比較例に係る高電圧モジュールの構成を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施の形態の中で説明されている諸要素及びその組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0016】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係る高電圧モジュールの構成を示す回路図である。
図1において、HVMDは、高電圧モジュールを示している。高電圧モジュールHVMDは、高電圧モジュールが実装された基板(例えばプリント基板)SUBと基板SUBを収納する金属製筐体1とを備えている。基板SUBへの高電圧モジュールの実装は、例えば基板SUBに高電圧モジュールを構成する素子および素子間等を接続する配線等を基板SUBに実装することによって実現されている。
【0017】
金属製筐体1は、感電の防止およびノイズの放射を低減するために、接地電圧Vsのような所定の低電圧に電気的に接続されている。
図1では、金属製筐体1内に収納された基板SUBと金属製筐体1との間の距離が符号DDで示されている。
図1では、金属製筐体1と基板SUBとの間に、距離DDの隙間が設けられているが、これに限定されるものではない。例えば金属製筐体1と、その内部に配置された基板SUBとは当接していてもよい。また、金属製筐体1は、基板SUBの全面を覆うように配置されていてもよいし、基板SUBの一部を覆うようにしてもよい。
【0018】
基板SUBは、複数の基板領域によって構成されており、
図1では、この内の2つの基板領域2、3が示されている。基板領域2は高電圧基板領域を示し、
図1において斜線で示されている基板領域3は、低電圧基板領域を示している。基板SUBを、1枚の共通基板と見なした場合、基板SUBに高電圧基板領域2と低電圧基板領域3とが、排他的に配置され、高電圧基板領域2と低電圧基板領域3とは、互いに独立している。
【0019】
高電圧基板領域2と低電圧基板領域3とでは、それぞれの基板領域に実装された回路(実装された素子および配線等で構成された回路)で用いられる電圧の最高電圧値が異なっている。実施の形態1では、特に制限されないが、高電圧基板領域2内に実装された回路で用いられる最高電圧の電圧値は、例えば300(V)以上であり、低電圧基板領域3内に実装された回路で用いられる最高電圧の電圧値は、例えば300(V)未満である。勿論、300(V)未満の電圧で用いられる回路(素子、配線等)は、高電圧基板領域2内に実装される場合もある。
【0020】
また、金属製筐体1に収納される基板SUBは、複数の個別基板によって構成してもよい。この場合、高電圧基板領域2が、例えば1つの個別基板によって構成され、低電圧基板領域3は、高電圧基板領域2とは異なる個別基板によって構成される。
【0021】
高電圧モジュールHVMDには、参照信号Vinが供給され、高電圧モジュールHVMDは、参照信号Vinに基づいた安定した高速な供給用高電圧Voutを出力する。参照信号Vinは、目標とする供給用高電圧Voutの電圧値を指定する信号であり、低電圧のアナログの電圧信号であっても、低電圧のデジタル信号であってもよい。例えば、計算機あるいは制御ユニットから、参照信号Vinが高電圧モジュールHVMDに供給される。参照信号Vinがアナログ信号であった場合、参照信号Vinの電圧値は、供給用高電圧Voutよりも低い電圧値である。
【0022】
<高電圧モジュール>
次に、高電圧モジュールHVMDの回路構成を説明する。高電圧モジュールHVMDは、誤差増幅器5、高電圧出力回路7および帰還回路(フィードバック回路)10を備えている。
【0023】
誤差増幅器5は、参照信号Vinと帰還信号(フィードバック信号)4とを入力し、参照信号Vinと帰還信号4との間の差分を増幅し、制御信号6として出力する。誤差増幅器5は、例えば、参照信号Vinと帰還信号4とが供給され、制御信号6を出力するオペアンプを含んでいる。また、参照信号Vinがデジタル信号の場合、誤差増幅器5は、デジタル信号を低電圧のアナログ信号に変換し、オペアンプに供給する変換回路を含んでいる。
【0024】
高電圧出力回路7は、制御信号6を入力し、制御信号6に従った電圧値の供給用高電圧Voutを出力する。
【0025】
帰還回路10は、供給用高電圧Voutを高電圧信号として入力し、高電圧信号に基づいた帰還信号4を出力する。この帰還回路10は、次の2つの機能を備えている。すなわち、第1の機能は、高電圧信号を低電圧信号に減衰し、高電圧モジュールの動作周波数範囲における減衰係数を決定する信号減衰機能であり、第2の機能は、高電圧モジュールHVMDの安定性設計においてループゲインを決定する位相補償機能である。
【0026】
<比較例>
従来の高電圧モジュールにおける帰還回路では、前記の信号減衰機能と位相補償機能は、抵抗素子と容量素子とを組み合わせることで実現されていた。従来の高電圧モジュールの構成を、比較例を用いて説明する。
図9は、比較例に係る高電圧モジュールの構成を示す回路図である。
図1との相違点は、
図9では、帰還回路が変更され、符号が20となっていることである。
【0027】
帰還回路20は、帰還抵抗素子R20a、R20bと帰還容量素子C20とによって構成されている。この帰還抵抗素子R20a、R20bと帰還容量素子C20との組み合わせにより構成された組み合わせ回路によって、前記した信号減衰機能と位相補償機能の両方の機能が実現されている。帰還抵抗素子R20aと帰還容量素子C20とは並列接続され、並列接続により構成されたRC回路の一方の端部は、供給用高電圧Voutに接続され、RC回路の他方の端部は、帰還抵抗素子R20bを介して接地電圧Vsに接続されており、誤差増幅器5にも接続されている。ここで、帰還信号4の電圧をVfbと定義する。
【0028】
前記の両方の機能の設計において、帰還抵抗素子R20aとR20bとが共有されているため、互いに影響し合うことになる。互いに影響し合うことにより生じる課題を、次に一例を用いて説明する。
【0029】
図9において、Cpは、基板SUBと筐体1との間に発生する寄生容量成分を等価的に示した寄生容量である。
図9では、寄生容量Cpが、帰還信号4を生成するノードで発生した場合が描かれている。このときの帰還回路20の減衰係数β、位相補償の周波数帯域f1、f2および消費電力Pは、
図8に示す式(1)~(4)で簡略的に表される。
【0030】
例えば、低消費電力化を図る場合、供給用高電圧Voutの信号を減衰する帰還抵抗素子R20aの抵抗値を増加させる。これにより、式(4)から理解されるように、消費電力Pを低減させることが可能である。一方、式(3)から理解されるように、位相補償機能の一部である位相補償の周波数帯域f2は、帰還抵抗素子R20aと帰還容量素子C20の積によって決定される。そのため、低消費電力化を図るために、帰還抵抗素子R20aの抵抗値を増加させると、所望の位相補償の周波数帯域f2を得るためには、より小さな容量値の帰還容量素子C20を使用しなければならなくなる。
【0031】
加えて、式(2)から理解されるように、帰還容量素子C20の容量値を寄生容量Cpに比べて十分に大きく(Cp<<C20)すれば、寄生容量Cpを無視して、位相補償の周波数帯域f1を決定することが可能である。しかしながら、低消費電力化を図りながら、所望の位相補償の周波数帯域f2を得るために、帰還容量素子C20の容量値が小さくなると、Cp<<C20の関係が崩れることになる。さらに寄生容量Cpは、高電圧モジュールの小型化を図るために、基板SUBと筐体1との間の隙間の距離DDを小さくすることにより、寄生容量Cpの容量値は増加することになる。そのため、発生する寄生容量Cpの影響度が増加し、高電圧モジュールの安定性を保つことが困難になる。
【0032】
<帰還回路の構成>
これに対して、実施の形態1に係る高電圧モジュールHVMDにおいては、
図1に示すように、帰還回路10は、第1部分回路8と第2部分回路9に分離されている。第1部分回路8は、高電圧出力回路7に接続され、供給用高電圧Voutの高電圧信号が供給され、この高電圧信号に従った中間信号11を出力する。一方、第2部分回路9は、誤差増幅器5に接続され、中間信号11が供給され、帰還信号4を誤差増幅器5に出力する。第1部分回路8は減衰機能を有し、第2部分回路9はループゲインに関連する位相補償機能を有している。
【0033】
基板SUBにおいて、高電圧基板領域2には、高電圧出力回路7と第1部分回路8の一部分(高電圧部分)が実装され、低電圧基板領域3には、誤差増幅器5と第2部分回路9と第1部分回路8の一部分(低電圧部分)が実装されている。これは、実施の形態1に係る高電圧モジュールでは、高電圧出力回路7と第1部分回路8の高電圧部分で用いられる電圧の最高電圧が300(V)以上であり、誤差増幅器5と第2部分回路9と第1部分回路9の低電圧部分で用いられる電圧の最高電圧が300(V)未満であるためである。
【0034】
高電圧基板領域2に実装された部分(回路、素子)と低電圧基板領域3に実装された部分(回路、素子)との間で送受される信号を伝達する配線、例えば制御信号6および中間信号11を伝達する配線は、基板SUBに設けられ、高電圧基板領域2および低電圧基板領域3とは異なる中間基板領域(図示しない)に実装されていると見なしてもよい。また、接地電圧Vsを回路、素子等に伝達する配線については、高電圧基板領域2、低電圧基板領域3および中間基板領域の区別とは無関係に、基板SUBに実装されている。また、前記したように、高電圧基板領域2および低電圧基板領域3のそれぞれを、個別基板に実装する場合には、個別基板ごとに、接地電圧Vsを伝達する配線を実装することが望ましい。これにより、個別基板間でノイズが伝達するのを低減することが可能である。
【0035】
第1部分回路8および第2部分回路9は、種々の構成が考えられる。ここでは、一例を、
図1を用いて説明する。
【0036】
減衰機能を有する第1部分回路8は、高電圧出力回路7の出力ノードと、接地電圧Vsとの間で直列的に接続された帰還抵抗素子R8aとR8bとを備えている。高電圧出力回路7からの高電圧信号は、帰還抵抗素子R8aとR8bとによって抵抗分圧され、中間信号11として、第1部分回路8から出力される。すなわち、帰還抵抗素子R8aとR8bの比率で、帰還回路10の減衰係数β’が決定され、供給用高電圧Voutの高電圧信号が、低電圧の中間信号11に減衰される。この減衰係数β’は、
図8に示す式(5)によって表される。帰還抵抗素子R8aには、減衰する前の高電圧(最高電圧が300(V)以上)が印加される(用いられる)ため、帰還抵抗素子R8aは、第1部分回路8の高電圧部分として、高電圧基板領域2に実装されている。これに対して、帰還抵抗素子R8bには、減衰された電圧が印加される(用いられる)ため、帰還抵抗素子R8bは、第1部分回路8の低電圧部分として、低電圧基板領域3に実装されている。実施の形態1では、抵抗分圧により減衰が行われるため、帰還抵抗素子R8aおよびR8bは、分圧抵抗素子と見なしてもよい。
【0037】
位相補償機能を有する第2部分回路9は、演算増幅器(オペアンプ)12と、抵抗素子(位相補償抵抗素子)R9a、R9bと、容量素子(位相補償容量素子)C9a、C9bとによって構成された位相補償回路で構成されている。抵抗素子R9aと容量素子C9aとが、演算増幅器12の入力n2と演算増幅器12の出力n3との間で並列的に接続されている。また、抵抗素子R9aと容量素子C9aとが並列的に接続され、この並列接続で構成されたRC回路の一方の端部が、演算増幅器12の入力n2に接続され、RC回路の他方の端部に中間信号11が供給される。また、演算増幅器12の入力n1は、接地電圧Vsに接続され、演算増幅器12の出力n3から帰還信号4が出力される。第2部分回路9では、抵抗素子R9a、R9bおよび容量素子C9a、C9bの積によって、補正する周波数帯域を求めることができる。
図1において、Cpは、
図9で説明した寄生容量を示している。
図1でも、
図9と同様なノードにおいて寄生容量Cpが発生した場合が示されている。第2部分回路9によって得られる位相補償の周波数帯域f1’およびf2’が、
図8において式(6)および式(7)として示されている。
【0038】
第2部分回路9は、低電圧基板領域3に実装され、第1部分回路8によって減衰された低電圧信号が供給される。そのため、高電圧基板領域2に実装した場合に比べて、より抵抗値の小さな抵抗素子を用いても、消費電力の上昇を抑制することができる。結果的に、所望な周波数帯域での補正を得るために、寄生容量Cpの値を無視できるほど大きな容量値の容量素子C9aと低い抵抗値の抵抗素子R9a、R9bとの組み合わせで、帰還回路10を実現することが可能となり、寄生容量Cpからの影響度を低減できる。
【0039】
また、式(5)~(7)に示すように、減衰機能と位相補償機能とを設定する際に、共有となる素子が存在しない。すなわち、減衰機能は、式(5)に示すように抵抗素子R8a、R8bによって設定され、位相補償機能は、式(6)および(7)に示すように抵抗素子R9a、R9bおよび容量素子C9a、C9bによって設定される。そのため、第1部分回路8における帰還抵抗素子R8a、R8bは、高電圧モジュールの安定性に対して影響を与えずに、消費電力を低減するために所望の高抵抗値に設定することが可能である。
図1では、第1部分回路8として抵抗分圧を用いる例を示したが、これに限定されるものではない。例えば、演算増幅器を用いた反転増幅回路の構成を用いて、第1部分回路8を構成するようにしてもよい。
【0040】
以上により、帰還回路10を、機能(減衰機能、位相補償機能)ごとに回路を分離し、さらに実装される基板領域を分けることで、筐体と基板間に由来の寄生容量からの影響度を低減でき、低消費電力と安定した高速動作を両立する高電圧モジュールを提供することが可能である。
【0041】
(実施の形態2)
実施の形態2においては、
図1に示した高電圧モジュールHVMD内に、高電圧生成回路が設けられ、高電圧生成回路によって生成された高電圧が、高電圧出力回路7に供給される。高電圧出力回路7は、高電圧生成回路からの高電圧を電源として動作し、制御信号6に従った供給用高電圧Voutを出力する。実施の形態2に係る高電圧モジュールでは、高電圧生成回路が設けられるため、例えば、高電圧モジュールHVMDの外部から高電圧を供給しなくても、供給用高電圧Voutを出力することが可能である。しかしながら、高電圧モジュールHVMDに設けられた高電圧生成回路からノイズが電磁輻射されることが危惧される。実施の形態2においては、この輻射ノイズによる影響を低減することが可能な高電圧モジュールが提供される。
【0042】
図2は、実施の形態2に係る高電圧モジュールの構成を示す回路図である。
図2は、
図1と類似しているので、主に相違点を説明する。相違点は、
図2では、高電圧モジュールHVMDが、高電圧生成回路13を備えていることである。また、高電圧生成回路13の少なくとも一部は、高電圧基板領域2に実装され、高電圧生成回路13によって生成された高電圧は、高電圧出力回路7に、電源として給電される。
【0043】
高電圧生成回路13は、所定の駆動周波数の駆動信号で駆動される昇圧回路で構成されている。昇圧回路としては、例えばコッククロフト・ウォルトン(Cockroft-Walton)回路が用いられている。勿論、昇圧回路は、これに限定されるものではなく、駆動信号に従ってスイッチング動作を行い、高電圧を生成する回路であればよい。
【0044】
高電圧生成回路13は、所定の駆動周波数の駆動信号に従ってスイッチング動作をすることにより、高電圧を生成するが、スイッチング動作によって輻射ノイズを発生する。
図2では、輻射ノイズが、模式的に符号nzで示されている。この輻射ノイズnzが、特に低電圧基板領域3に実装され、精密な処理を実行する低電圧回路(第2部分回路、誤差増幅器5)に影響を及ぼす可能性が高い。
【0045】
実施の形態1で述べたように、低消費電力化および安定動作化を図るために、帰還回路10が第1部分回路8と第2部分回路9に分離され、第2部分回路9が低電圧基板領域3に実装されている。寄生容量Cpによる影響を低減し、安定動作化するために、容量素子C9bの値を大きくすることが必要となる。その分、抵抗素子R9a、R9bの抵抗値は小さく設定される。帰還回路10を機能ごとに分離すると、位相補償機能を実現する第2部分回路9は、高域通過フィルタの構成を取ることが多く、高周波ノイズに対してのノイズゲインも大きいため、原理的にノイズを受けやすく、増幅しやすい構成となる。すなわち、原理的に第2部分回路9は、輻射ノイズnzの影響を受けやすい構成となる。例えば輻射ノイズnzが、第2部分回路9に入り込むと、輻射ノイズnzは、第2部分回路9、誤差増幅器5および高電圧出力回路7によって増幅され、供給用高電圧Voutに重畳されることになる。結果として、高電圧生成回路13で発生した輻射ノイズnzの強度の何倍もの電圧ノイズが供給用高電圧Voutに重畳され、出力されることになる。供給用高電圧Voutが給電される負荷によっては、このような高電圧ノイズを許容できない場合がある。
【0046】
実施の形態2においては、高電圧生成回路13を駆動する駆動信号の駆動周波数がfn1からfn2に変更される。次に、駆動周波数fn1、fn2について、図面を用いて説明する。
図3は、実施の形態2を説明するための特性図である。
図3には、高電圧生成回路13からの輻射ノイズ強度と、第2部分回路9が扱う信号強度のイメージが示されている。
【0047】
図3(A)、(B)において、横軸は周波数を表し、縦軸は電圧強度を表している。高電圧生成回路13は、駆動周波数fn1の駆動信号でスイッチング動作をしている。そのため、高電圧生成回路13は、
図3(A)に示すように、駆動周波数fn1近辺でピークを持つ輻射ノイズが発生する。
【0048】
図9に示した比較例における帰還回路20の出力信号と、
図1に示した中間信号11の信号強度は、帰還回路20および第1部分回路8の減衰係数が同じであれば、基本的には同様な値となる。しかしながら、中間信号11が供給される第2部分回路9は、前記したようにノイズゲインが大きく、高域通過フィルタの構成を取るため、輻射ノイズを増幅しやすい。輻射ノイズが帰還回路10の信号帯域内にある場合、輻射ノイズを除去することができる低域通過フィルタ(LPF)を設けることが考えられるが、LPFが本来の信号も含めて減衰させることが考えられる。そのため、実施の形態2では、輻射ノイズを、さらに高帯域側に移動させ、本来の信号と輻射ノイズを分離してから、LPFで輻射ノイズを除去する。
【0049】
より具体的に述べると、実施の形態1では、帰還回路10の一部分(第2部分回路9および帰還抵抗素子R8b)が、低電圧基板領域3に実装され、第2部分回路9に供給される中間信号11が低電圧信号となっている。すなわち、第2部分回路9によって扱われる信号の電圧強度が低くなっている。
図3(A)において、実線15は、第2部分回路9の電圧強度の特性を示している。特性15が減衰する遮断周波数よりも、低い周波数帯域に、輻射ノイズが存在し、輻射ノイズの電圧強度が、特性15の電圧強度を超えているため、第2部分回路9は、輻射ノイズの影響を強く受けることになる。また、遮断周波数よりも低い周波数帯域に、輻射ノイズが存在するため、輻射ノイズを分離することも困難である。
【0050】
実施の形態2においては、高電圧生成回路13の駆動信号の駆動周波数が、fn1から、高電圧モジュールHVMDの動作周波数帯域よりも高い周波数fn2に変更される。これにより、
図3(B)に示すように、輻射ノイズのピークは、駆動周波数fn1近辺から駆動周波数fn2近辺にシフトする。これにより、輻射ノイズは、第2部分回路9の遮断周波数より高い周波数帯域に移動するため、輻射ノイズを分離することが可能となる。
【0051】
さらに、実施の形態2においては、第2部分回路9に設けられている抵抗素子R9aと容量素子C9aとに低域通過フィルタ(LPF)としての役割も兼用させる。抵抗素子R9aと容量素子C9aにより実現される低域通過フィルタの周波数特性(周波数フィルタ特性)は、
図3(B)において特性16として示されている。すなわち、第2部分回路9において、駆動周波数fn2近辺における輻射ノイズを除去する低域通過フィルタが構成される。これにより、抵抗素子R9aと容量素子C9aにより実現された低域通過フィルタに伝搬してきた高周波帯域における輻射ノイズを除去することが可能となる。すなわち、高電圧生成回路13の電磁輻射に起因したノイズを低減することが可能となる。
【0052】
実施の形態2に係る高電圧モジュールによれば、実施の形態1と同様に低消費電力化と安定した高速動作化を図ることが可能であるとともに、低ノイズ化も図ることが可能である。
【0053】
(実施の形態3)
実施の形態3においては、帰還回路10が備える第1部分回路8と第2部分回路9との間で、インピーダンスが整合していない場合、あるいは互いのインピーダンス特性が干渉し合う場合に好適な高電圧モジュールが提供される。
【0054】
図4は、実施の形態3に係る高電圧モジュールの構成を示す回路図である。
図4は、
図1と類似しているので、主に相違点を説明する。相違点は、
図4では、第1部分回路8と第2部分回路9との間に、インピーダンス整合回路17が追加されていることである。
【0055】
ここでは、第1部分回路8の出力インピーダンと第2部分回路9の入力インピーダンスが一致しない場合を例にして説明する。インピーダンス整合回路17を、第1部分回路8の出力と、第2部分回路9の入力との間に接続することによって、インピーダンス特性の整合を図ることが可能である。
【0056】
図4では、インピーダンス整合回路17は、演算増幅器によって構成されている。すなわち、演算増幅器によって、増幅率がほぼ1のボルテージフォロワー(以下、VFとも称する)回路が構成され、インピーダンス整合回路17として用いられている。VF回路には、前段である第1部分回路8からの中間信号11が供給され、VF回路は、中間信号11に従った整合信号18を第2部分回路9へ出力する。これにより、VF回路は、第1部分回路8の出力である中間信号11を高いインピーダンスで受け、低いインピーダンスで整合信号18を第2部分回路9へ出力する。その結果、第1部分回路8と第2部分回路9が、互いのインピーダンス特性を干渉することなく、正確な信号の伝送を実現することが可能である。
【0057】
実施の形態3によれば、帰還回路10における第1部分回路と第2部分回路のインピーダンス特性が互いに干渉しあう場合に、インピーダンス整合を行うことができ、種々の構成の第1部分回路および第2部分回路を用いて、帰還回路10を分離することが可能となり、実施の形態1と同様に、低消費電力と安定した高速動作を両立することが可能な高電圧モジュールを提供することができる。
【0058】
(実施の形態4)
実施の形態4においては、高電圧基板領域と低電圧基板領域とを電気的に絶縁することが可能な高電圧モジュールが提供される。
【0059】
図5は、実施の形態4に係る高電圧モジュールの構成を示す回路図である。
図5は、
図1と類似しているので、相違点のみを説明する。相違点は、第1部分回路が変更されていることである。
【0060】
図1において、中間信号11が、帰還抵抗素子R8aから出力されると見なした場合、中間信号11は、高電圧基板領域2と低電圧基板領域3との両方を跨ぐことになる。この領域間を電気的に絶縁するために、
図5では、第1部分回路2が、帰還抵抗素子R8aとトランス30とによって構成されている。すなわち、供給用高電圧Voutの高電圧信号と、接地電圧Vsとの間に、帰還抵抗素子R8aとトランス30の1次側が直列に接続され、トランス30の2次側から中間信号11が出力される。また、トランス30の1次側および帰還抵抗素子R8aは、高電圧基板領域2に実装され、トランス30の2次側は、低電圧基板領域3に実装されている。第1部分回路8の減衰率は、トランス30の1次側と2次側の巻き線比によって決定される。トランス30の1次側と2次側が磁気結合されているため、
図5に示した構成では、磁気で信号の伝送が行われるようになり、高電圧基板領域2と低電圧基板領域3とは電気的に絶縁されることになる。
【0061】
図5では、第1部分回路8の減衰率を、トランス30の巻き線比で決定する例を示したが、
図1に示した抵抗分圧比と組み合わせてもよい。例えば、抵抗分圧によって生成された電圧を、トランス30の1次側に供給し、2次側から中間信号11を出力するようにしてもよい。この場合、第1部分回路8の減衰率は、トランス30の巻き線比と抵抗分圧比によって決定されることになる。
【0062】
図5では、高電圧基板領域2と低電圧基板領域3とを電気的に絶縁する絶縁信号伝達回路の例として、磁気を用いて信号を伝送する例を示したが、絶縁信号伝達回路は、これに限定されるものではない。以下、変形例として、光を用いて信号を伝送する例を示す。
【0063】
<変形例>
図6は、実施の形態4の変形例に係る高電圧モジュールの構成を示す回路図である。
図6は、
図5と類似しているので、相違点を説明する。相違点は、第1部分回路8が、
図6では変更されていることである。第1部分回路8は、帰還抵抗素子R8aとフォトカプラ31によって構成されている。この場合、帰還抵抗素子R8aとフォトカプラ31の入力が、高電圧基板領域2に実装され、フォトカプラ31の出力が、低電圧基板領域3に実装される。このときの第1部分回路8の減衰率は、フォトカプラ31の電流伝達率(CTR)によって決定される。
【0064】
変形例においても、フォトカプラ31と
図1に示した抵抗分圧比とを組み合わせるようにしてもよい。組み合わせた場合、第1部分回路8の減衰率は、フォトカプラ31の電流伝達率と抵抗分圧比によって決定されることになる。
【0065】
図5および
図6では、第1部分回路8と第2部分回路9との間を電気的に絶縁する例を示したが、同様に誤差増幅器5と高電圧出力回路7との間を電気的に絶縁するようにしてもよい。この場合も、磁気あるいは光信号によって、制御信号6が、誤差増幅器5から高電圧出力回路7へ伝達される。勿論、中間信号11と制御信号6の両方が、磁気あるいは光信号によって伝達されるようにしてもよい。
【0066】
以上から,高電圧電源モジュール内の低電圧基板領域と高電圧基板領域とを、絶縁する必要がある場合でも、磁気あるいは光信号により中間信号11または/および制御信号6を伝送することが可能となり、実施の形態1で記載の効果に加えて、絶縁型の高電圧モジュールを提供することができる。
【0067】
(実施の形態5)
次に、実施の形態1~4で示した高電圧モジュールHVMDを搭載した質量分析装置(以下、単に分析装置とも称する)の例を、実施の形態5として説明する。分析装置は、例えば、試料を構成する原子の種類または量などを調べるために用いられる装置である。
【0068】
ここでは、高電圧モジュールHVMDとして、実施の形態1で説明したものを用いる場合を説明するが、これに限定されるものではない。例えば、実施の形態2~4で説明した高電圧モジュールHVMDまたは実施の形態1~4で説明した高電圧モジュールHVMDを組み合わせたものを、分析装置に搭載するようにしてもよい。
【0069】
図7は、実施の形態5に係る質量分析装置の構成を示す概略図である。
図7において、100は、分析装置を示している。分析装置100は、分析装置筐体110と、質量分析装置制御ユニット(以下、制御ユニットとも称する)101と、第1高電圧電源モジュールHVMD~第4高電圧電源モジュールHVMD4と、情報処理ユニット102とを備えている。
【0070】
分析装置筐体110は、質量分析の対象となる試料をイオン化するイオン源121と、イオン化された試料をフィルタ電極127でフィルタリングして、分析対象の質量をもつイオン分子のみを透過する質量分離部(イオンフィルタ)126とを備えている。分析装置筐体110は、さらに、イオン分子および電子のそれぞれの移動する軌道を制御する軌道制御部128、イオン分子を電子(電気)に変換するコンバージョンダイノード122と、当該電子を検出する検出器123とを備えている。コンバージョンダイノード122および検出器123は、軌道制御部128内に配置されている。なお、
図7において、124は、検出対象のイオンを示し、125は、不要イオンを示している。
【0071】
情報処理ユニット102は、検出器123により得られた電気信号から質量を計算する。
【0072】
第1高電圧電源モジュールHVMD1~第4高電圧電源モジュールHVMD4は、実施の形態1で説明した高電圧モジュールによって構成されている。制御ユニット101は、第1高電圧電源モジュールHVMD1~第4高電圧電源モジュールHVMD4を制御する。
図7では、制御ユニット101が、参照信号Vin1~Vin4を、対応する第1高電圧電源モジュールHVMD1~第4高電圧電源モジュールHVMD4に供給し、それぞれの高電圧電源モジュールが、供給された参照信号に従った供給用高電圧Vout1~Vout4を出力する。
【0073】
参照信号Vin1~Vin4は、100(V)未満の低電圧信号であり、供給用高電圧Vout1~Vout4は、イオン化やイオンの軌道を制御するのに適した300(V)以上の高電圧である。そのため、実施の形態5において用いられる高電圧モジュールにおいて、低電圧基板領域3(
図1)で扱われる最高電圧は、100(V)未満であり、高電圧基板領域2(
図1)で扱われる最高電圧は、300(V)以上である。
【0074】
図7では、特に制限されないが、分析装置筐体110に設けられている各部によって適した高電圧の電圧値が異なっている。そのため、各部ごとに対応する高電圧電源モジュールが搭載されている。すなわち、第1高電圧電源モジュールHVMD1は、参照信号Vin1に従った供給用高電圧Vout1を、イオン源121に出力し、第2高電圧電源モジュールHVMD2は、参照信号Vin2に従った供給用高電圧Vout2を、イオンフィルタ126内のフィルタ電極127に出力する。また、第3高電圧電源モジュールHVMD3は、参照信号Vin3に従った供給用高電圧Vout3を、コンバージョンダイノード122に出力し、第4高電圧電源モジュールHVMD4は、参照信号Vin4に従った供給用高電圧Vout4を、検出器123に出力する。
【0075】
図7では、イオン源121、イオンフィルタ126、コンバージョンダイノード122および検出器123に、実施の形態1で述べた高電圧モジュールから高電圧を供給する例が示されているが、これらの内の少なくとも1つに対して実施の形態1で述べた高電圧モジュールから高電圧を供給するようにしてもよい。
【0076】
分析装置筐体110に設けられた各部分のそれぞれに、同等の電圧値の高電圧を印加すればよい場合、1つの共通の高電圧電源モジュールを搭載するようにしてもよい。しかしながら、実際には、分析装置100の多機能化により、分析装置筐体110の各部分のそれぞれに異なる電圧値の高電圧を供給することが必要となっている。そのため、それぞれの電圧値に対応した高電圧電源モジュールを、分析装置100に搭載することが必要となり、高電圧電源モジュールの個数も増加する。実施の形態1に係る高電圧モジュールによれば、低消費電力化を図ることが可能であるため、それぞれの高電圧電源モジュールの放熱設計に必要なスペースを低減することや装置筐体110内の配置の簡易性などユーザビリティ向上につながる。また、分析装置100のスループットと検出感度は、高電圧電源モジュールの安定性や高速動作、加えてノイズ量に大きく左右される。このため、実施の形態1と実施の形態2とを組み合わせることで、高スループットで高感度な分析装置100を提供することが可能となる。
【0077】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0078】
1 金属製筐体
2 高電圧基板領域
3 低電圧基板領域
5 誤差増幅器
7 高電圧出力回路
8 第1部分回路
9 第2部分回路
10 帰還回路
13 高電圧生成回路
100 質量分析装置
C9a、C9b 容量素子
Cp 寄生容量
R8a、R8b 帰還抵抗素子
R9a、R9b 抵抗素子
DD 距離
HVMD、HVMD1~HVMD4 高電圧モジュール
SUB 基板
Vin、Vin1~Vin4 参照信号
Vout、Vout1~Vout4 供給用高電圧