IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ダイハツ工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-車両のバッテリ固定構造 図1
  • 特許-車両のバッテリ固定構造 図2
  • 特許-車両のバッテリ固定構造 図3
  • 特許-車両のバッテリ固定構造 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-26
(45)【発行日】2024-05-09
(54)【発明の名称】車両のバッテリ固定構造
(51)【国際特許分類】
   B60R 16/04 20060101AFI20240430BHJP
   H01M 50/20 20210101ALI20240430BHJP
【FI】
B60R16/04 C
H01M50/20
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021023708
(22)【出願日】2021-02-17
(65)【公開番号】P2022125882
(43)【公開日】2022-08-29
【審査請求日】2023-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(72)【発明者】
【氏名】稲村 茂男
(72)【発明者】
【氏名】鏡 友則
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 育子
【審査官】池田 晃一
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-4025(JP,A)
【文献】特開2008-110636(JP,A)
【文献】特開2008-110634(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0266838(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 16/04
B62D 25/20
B60K 1/00 - 6/12
B60K 7/00 - 8/00 ; 16/00
H01M 50/20 - 50/298
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
段差形状のフロアパネルと、
前記フロアパネルにおける高段部に取り付けられたシート用スライドレールと、
前記フロアパネルにおける低段部に取り付けられたバッテリと、
前記フロアパネルの下面に取り付けられた帯部とを備え、
前記フロアパネルは、
前記高段部と前記低段部とをつなぐ連結部と、
前記高段部と前記連結部とをつなぐ上側角部と、
前記低段部と前記連結部とをつなぐ下側角部とを備え、
前記高段部と前記低段部とは、前記シート用スライドレールの後端部が前記バッテリの前面における車両上下方向の中間位置に配置されるように設けられており、
前記帯部は、
前記高段部から前記連結部を経て前記低段部にわたって車両前後方向に延びるように配置されており、
前記上側角部に向かい合うように配置された山折り部と、
前記下側角部に向かい合うように配置された谷折り部と、
前記バッテリの下面をわたるように前記低段部に配置された直線部とを備える、
車両のバッテリ固定構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載されるバッテリを固定する構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載されるように、従来、自動車の後方にバッテリが配置された自動車が利用されている。特許文献1は、フロアパネルの下面と後方シャシモジュールとの間にバッテリ及び燃料タンクが配置された構造を開示する。特許文献1は、上記の構造によって、後方衝突時に発生した荷重が車体側ロードパスとシャシ側ロードパスとに分けられることでバッテリ及び燃料タンクの損傷を防止することを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-117208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、シートがスライドレールに沿って車両前後方向に摺動可能に設けられた自動車が利用されている。スライドレールはシートの下方に配置されたフロアパネルに取り付けられている。このようなスライドレールを備える自動車において、スライドレールがバッテリよりも車両前方に配置されている場合に、後方衝突時にバッテリがスライドレールによって損傷することが考えられる。例えば自動車の部品レイアウト等によってはフロアパネルの下方にメインマフラー等を配置するために、スライドレールの後端部がバッテリの前面に重複するように配置される場合がある。この場合には後方衝突時にスライドレールの後端部とバッテリとが接触することが考えられる。上記の接触によってバッテリが損傷し得る。そのため、上記の接触を回避することが望まれる。
【0005】
そこで、本発明の目的の一つは、後方衝突時にバッテリがスライドレールによって損傷することを防止できる車両のバッテリ固定構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る車両のバッテリ固定構造は、段差形状のフロアパネルと、前記フロアパネルにおける高段部に取り付けられたシート用スライドレールと、前記フロアパネルにおける低段部に取り付けられたバッテリと、前記フロアパネルの下面に取り付けられた帯部とを備える。
前記フロアパネルは、前記高段部と前記低段部とをつなぐ連結部と、前記高段部と前記連結部とをつなぐ上側角部と、前記低段部と前記連結部とをつなぐ下側角部とを備える。
前記高段部と前記低段部とは、前記シート用スライドレールの後端部が前記バッテリの前面における車両上下方向の中間位置に配置されるように設けられている。
前記帯部は、前記高段部から前記連結部を経て前記低段部にわたって車両前後方向に延びるように配置されている。また、前記帯部は、前記上側角部に向かい合うように配置された山折り部と、前記下側角部に向かい合うように配置された谷折り部と、前記バッテリの下面をわたるように前記低段部に配置された直線部とを備える。
【発明の効果】
【0007】
上記の車両のバッテリ固定構造では、シート用スライドレールとバッテリとの間に後方衝突時に相対的に変形し易い箇所を備える。特に、帯部の山折り部はフロアパネルの上側角部を相対的に車両上方かつ車両後方に向かって押し上げるように変形可能である。結果として、シート用スライドレールの後端部は相対的に車両上方に向かって変位することでバッテリから離れる。従って、シート用スライドレールの後端部がバッテリの前面に重複するように配置されていても、後方衝突時にスライドレールの後端部がバッテリに接触することが回避される。詳細は後述する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態1に係る車両のバッテリ固定構造を車両下方からみた底面図である。
図2】実施形態1に係る車両のバッテリ固定構造を車両前後方向かつ車両上下方向に平行な平面で切断した断面を模式的に示す説明図であって、正常時の状態を示す。
図3】実施形態1に係る車両のバッテリ固定構造を車両前後方向かつ車両上下方向に平行な平面で切断した断面を模式的に示す説明図であって、後方衝突時の初期状態を示す。
図4】実施形態1に係る車両のバッテリ固定構造を車両前後方向かつ車両上下方向に平行な平面で切断した断面を模式的に示す説明図であって、後方衝突時の後期状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[実施形態1]
以下、図1から図4を参照して、本発明に係る車両のバッテリ固定構造を具体的に説明する。
図中の同一符号は、同一名称物を示す。図中の「FR」は車両の前方、「RR」は車両の後方、「LH」は車両の左方、「RH」は車両の右方、「UP」は車両の上方、「LWR」は車両の下方を示す。以下の説明では単に前方、後方等と呼ぶ。
図1の上下方向は車幅方向に相当する。図1の左右方向は車両前後方向に相当する。車両前後方向は車長方向に相当する。
図2から図4の上下方向は車両上下方向に相当する。図2から図4の左右方向は車両前後方向に相当する。
以下の説明では、各構成部材において車両上方に向かって配置された面を上面、車両前方に向かって配置された面を前面等と呼ぶ。各構成部材の長さは車両前後方向に沿った長さとする。各構成部材の幅は車幅方向に沿った長さとする。各構成部材の高さは車両上下方向に沿った長さとする。
図2図1に示すA-A切断線による断面図である。
【0010】
(概要)
実施形態1に係る車両のバッテリ固定構造1は、図1に示す車体2にバッテリ6(図2)を固定することに利用される。バッテリ6は、図示しない車載電装品に電力供給を行う。バッテリ6は車両の後方に配置されている。
【0011】
詳しくは、図1に示す車体2はフロアパネル3とサイドメンバ21とクロスメンバ22とを備える。フロアパネル3の下面にサイドメンバ21及びクロスメンバ22が取り付けられている。サイドメンバ21は前後方向に延びる補強部材である。一対のサイドメンバ21が車幅方向に間隔をあけてフロアパネル3の側方に配置されている。クロスメンバ22は車幅方向に延びる補強部材であり、両サイドメンバ21をわたるように配置されている。
【0012】
フロアパネル3は高段部31と低段部33とを有する二段の段差形状である。高段部31と低段部33との間には連結部32が配置されている。図2に示すように高段部31にはシート用スライドレール7が取り付けられている。低段部33にはバッテリ6が取り付けられている。高段部31は主として低段部33よりも前方に配置されている。そのため、シート用スライドレール7はバッテリ6よりも前方に配置されている。
【0013】
シート用スライドレール7の後端部7bとバッテリ6の前面6aとが上下方向に重複するように高段部31及び低段部33における上下方向の位置が調整されている。つまりバッテリ6の前面6aはシート用スライドレール7の後端部7bに向かい合って配置されている。この配置では、後方衝突時にシート用スライドレール7の後端部7bとバッテリ6とが接触することが考えられる。実施形態1の車両のバッテリ固定構造1は上記の接触を回避する構成を備える。具体的には実施形態1の車両のバッテリ固定構造1は帯部4を備える。帯部4はフロアパネル3の下面に取り付けられている。また、帯部4は高段部31から連結部32を経て低段部33にわたって前後方向に延びるように配置されている(図1も参照)。更に、帯部4は山折り部46と谷折り部48と直線部43とを備える。帯部4が特定の形状を有すると共に特定の配置であることで、後方衝突時にシート用スライドレール7とバッテリ6とは接触しないように変位できる。
以下、構成部材ごとに説明する。特に、帯部4を詳細に説明する。
【0014】
(フロアパネル)
フロアパネル3は上述のように車体2を構成する部材であり、車両の後方において車室と車外とを上下に仕切る。フロアパネル3の室内側の面である上面には上述のようにバッテリ6やシート用スライドレール7が取り付けられる。フロアパネル3の車外側の面である下面には燃料タンク9や図示しないメインマフラー等が取り付けられる。
【0015】
フロアパネル3は高段部31と連結部32と低段部33と上側角部36と下側角部38とを備える。高段部31は前後方向及び車幅方向に概ね平行すると共に上下方向に概ね直交するように配置されている。低段部33も前後方向及び車幅方向に概ね平行すると共に上下方向に概ね直交するように配置されている。高段部31は低段部33よりも上方に位置するように設けられている。また、高段部31の大部分は低段部33よりも前方に位置するように設けられている。詳しくは図1に示すようにフロアパネル3における前方に配置される部分が平面視で長方形状である。フロアパネル3における後方に配置される部分のうち一部が下方に向かって張り出している。この張り出した箇所の底部が低段部33である。フロアパネル3の後方部分は平面視でU字状である部分と低段部33とを含む。このU字状の部分と上述のフロアパネル3の前方部分とが高段部31である。高段部31における上記前方部分が低段部33よりも前方に配置されている。高段部31における上記後方部分は低段部33の後端部を除いて低段部33を囲むように設けられている。なお、本例の低段部33は平面視で多角形状である。また、低段部33の最大幅は高段部31の上記前方部分の幅よりも小さい。
【0016】
図2に示すように高段部31と低段部33との段差の高さhがバッテリ6の高さHよりも小さくなるように高段部31と低段部33とが設けられている。
【0017】
連結部32は上下方向にずれて配置されている高段部31と低段部33とをつなぐ。そのため、連結部32は上下方向に交差するように配置されている。本例では、連結部32は高段部31における上述のU字状の部分に対応して、図1に示すように平面視でC字状である(図1)。詳しくは、連結部32は前壁部32aと一対の側壁部とを備える。前壁部32aは連結部32のうち前方を向くように配置された部分である。前壁部32aは高段部31における上述の前方部分の後端縁と低段部33の前端縁とをつなぐ。各側壁部は前壁部32aよりも後方に配置されている。また、各側壁部は概ね側方を向くように前壁部32aの両側に配置されている。なお、図2に示すように高段部31の上記前方部分と連結部32の前壁部32aとで囲まれる下方の空間に燃料タンク9が配置されている。
【0018】
上側角部36は高段部31と連結部32とをつなぐ稜線部である。下側角部38は低段部33と連結部32とをつなぐ稜線部である。本例では、上側角部36において高段部31と連結部32の前壁部32aとをつなぐ稜線部は概ね車幅方向に沿って配置されている(図1)。この稜線部は上側角部36を構成する稜線部のうち前方に位置する。下側角部38において低段部33と連結部32の前壁部32aとをつなぐ稜線部は概ね車幅方向に沿って配置されている(図1)。この稜線部は下側角部38を構成する稜線部のうち前方に位置する。そのため、以下の説明では上側角部36,下側角部38において上述の前方に位置する稜線部を前方稜線部と呼ぶ。
【0019】
(シート用スライドレール)
シート用スライドレール7は、フロアパネル3の高段部31に配置されるシート70を前後方向に摺動させる金属部材である。一対のシート用スライドレール7が前後方向に沿って高段部31に取り付けられている。各シート用スライドレール7は車幅方向に所定の間隔をあけて配置されている。また、本例では、各シート用スライドレール7の後端部7bがフロアパネル3の上側角部36の前方稜線部よりも後方に配置されている。なお、図2ではシート70を二点鎖線で仮想的に示す。後述する図3図4ではシート70の図示を省略する。
【0020】
(バッテリ)
バッテリ6は代表的には直方体状である。本例では、バッテリ6の六面のうち一面が前方に向かって配置されるように、バッテリ6は図示しないブラケットによってフロアパネル3の低段部33に取り付けられている。バッテリ6の上記一面は前面6aである。バッテリ6の下面6bは低段部33に取り付けられる面である。バッテリ6は低段部33の上に以下のように配置されている。
・前面6aがフロアパネル3の連結部32の前壁部32aに向かい合う。
・前面6aの一辺が概ね車幅方向に沿って配置される。
・前面6aがフロアパネル3の下側角部38の前方稜線部に近接して配置される。そのため、シート用スライドレール7の後端部7bとバッテリ6の前面6aとの間における前後方向の距離はある程度小さい。ここでは上記距離はバッテリ6の長さより短い。
【0021】
バッテリ6の高さHは高段部31と低段部33との段差の高さhよりも大きい。そのため、低段部33に取り付けられたバッテリ6の上面は高段部31の上面よりも上方に位置する。また、シート用スライドレール7の後端部7bはバッテリ6の前面6aにおける上下方向の中間位置に配置されている。
【0022】
(帯部)
帯部4はフロアパネル3の下面に前後方向に延びるように取り付けられている(図1参照)。また、本例では、帯部4はフロアパネル3の下面における車幅方向の中央部に配置されている。詳しくは、帯部4はフロアパネル3の下面を車幅方向に二等分する中心線に概ね沿って配置されている。なお、ここでの「帯部4が前後方向に延びるように」配置された状態とは帯部4の長手方向が前後方向に一致するように又は実質的に一致するように配置された状態である。
【0023】
帯部4の長さは以下の二つの条件を満たすように調整されている。帯部4の長さは帯部4の長手方向に沿った大きさである。帯部4の長手方向は図1では左右方向である。
・帯部4の前端部がフロアパネル3における上側角部36の前方稜線部の近くに配置される。詳しくは、帯部4の前方部分は上側角部36の前方稜線部をわたるように上側角部36の前方稜線部の前後に配置されている。
・帯部4の後端部がフロアパネル3の低段部33の後端部に及ぶ。
帯部4の幅は帯部4の長さよりも短い。帯部4の幅は帯部4の長手方向に直交する方向に沿った大きさである。帯部4の長手方向に直交する方向は図1では上下方向である。
帯部4の厚さは適宜選択できる。
本例では帯部4は金属板をプレス成型してなるハット状の断面を有する。詳しくは、帯部4は樋状の本体と本体の両側から延びるフランジ部とを備える。帯部4のフランジ部がフロアパネル3等に固定されている。帯部4の本体は図2に示すようにフロアパネル3の下面に対して若干の隙間をあけて配置されている。
【0024】
帯部4は、フロアパネル3における帯部4が取り付けられる箇所の外形に概ね沿った外形を有する。帯部4は、高段部31の前方稜線部から連結部32の前壁部32a及び低段部33の前方稜線部を順に経て低段部33の後端部にわたって配置されるように設けられている。帯部4は前方から順にフランジ部41と山折り部46と傾斜部42と谷折り部48と直線部43とを備える。帯部4の前端部はフランジ部41の前端部である。帯部4の後端部は直線部43の後端部である。
【0025】
フランジ部41は高段部31に取り付けられている。本例では、フランジ部41は高段部31に直接取り付けられるのではなく、高段部31の下面に取り付けられたクロスメンバ22の底面部に取り付けられている。直線部43は低段部33に取り付けられている。フランジ部41は前後方向及び車幅方向に概ね平行すると共に上下方向に概ね直交するように配置されている。直線部43の大部分も前後方向及び車幅方向に概ね平行すると共に上下方向に概ね直交するように配置されている。
【0026】
本例では、直線部43の長さはフランジ部41の長さよりも長い。また、直線部43はフロアパネル3の低段部33における車幅方向の中央部の全長にわたって配置されている(図1参照)。そのため、直線部43はバッテリ6の下面6bをわたるように低段部33に配置されている。詳しくは、直線部43はバッテリ6の下面6bの前端縁から後端縁までの全長にわたって配置されている。このような直線部43はフロアパネル3においてバッテリ6が配置される箇所の剛性を高める部材として機能する。いわば直線部43はバッテリ6を下方から支持する補強部材として機能する。
【0027】
傾斜部42は上下方向にずれて配置されているフランジ部41と直線部43とをつなぐ。そのため、傾斜部42はフロアパネル3の連結部32と同様に上下方向に交差するように配置されている。
【0028】
山折り部46はフランジ部41と傾斜部42とをつなぐ稜線部である。山折り部46はフロアパネル3の上側角部36に向かい合うように配置されている。山折り部46は所定の荷重を加えられると、山折り部46における車外側の内角の角度が小さくなるように変形し易い形状を有する。このような変形が生じた場合、上記の配置によって山折り部46は上側角部36を下方から上方に向かって押し上げることが可能である。谷折り部48は直線部43と傾斜部42とをつなぐ稜線部である。谷折り部48はフロアパネル3の下側角部38に向かい合うように配置されている。谷折り部48は所定の荷重を加えられると、谷折り部48における車室側の内角の角度が小さくなるように変形し易い形状を有する。
【0029】
本例では、帯部4は二つの帯材が溶接等で接合されてなる一体物である。二つの帯材は前方に配置される前側帯材と後方に配置される後側帯材とである。前側帯材はフランジ部41と山折り部46と傾斜部42の大部分とを構成する。後側帯材は傾斜部42の残部と谷折り部48と直線部43とを構成する。帯部4が二つの帯材によって構成されることで、各帯材の材質、厚さ等の変更が行い易い。例えば直線部43を含む後側帯材の構成材料は前側帯材よりも剛性が高い材料が挙げられる。又は例えば後側帯材の厚さが前側帯材の厚さよりも厚いことが挙げられる。このような後側帯材は前側帯材よりも高い剛性を有する。そのため、後側帯材から構成される直線部43は、フロアパネル3の低段部33におけるバッテリ6の配置箇所の剛性をより高められる。一方、前側帯材は剛性が相対的に低い。そのため、前側帯材からなる山折り部46等は外部から荷重を受けた際に直線部43よりも変形し易い箇所といえる。
【0030】
その他、本例では、帯部4は以下のように配置されている。上下方向からの平面視において帯部4を前後方向に沿って延長させた仮想線がフロアパネル3の高段部31に取り付けられた各シート用スライドレール7に重複しない。つまりシート用スライドレール7と帯部4とが車幅方向にずれて配置されている。
【0031】
(剛性の関係)
フロアパネル3の高段部31においてシート用スライドレール7が取り付けられた箇所はフロアパネル3の上側角部36及び下側角部38よりも剛性が高い箇所である。フロアパネル3の低段部33においてバッテリ6が取り付けられた箇所は上側角部36及び下側角部38よりも剛性が高い箇所である。低段部33のバッテリ6の配置箇所は上述のように高剛性である帯部4の直線部43が取り付けられていることからも剛性が高い。一方、上側角部36及び下側角部38は剛性が相対的に低い。そのため、上側角部36及び下側角部38は外部からの荷重を受けた際に高段部31のシート用スライドレール7の取付箇所及び低段部33のバッテリ6の取付箇所よりも変形し易いといえる。なお、フロアパネル3の連結部32も剛性が相対的に低い。そのため連結部32も相対的に変形し易いといえる。このような実施形態1の車両のバッテリ固定構造1は、シート用スライドレール7とバッテリ6との間に外部からの荷重を受けた際に相対的に変形し易い箇所を備えるといえる。
【0032】
(後方衝突時の挙動)
以下、主に図3図4を参照して、実施形態1の車両のバッテリ固定構造1における後方衝突時の挙動を説明する。なお、図2から図4では、フロアパネル3の後端部の後方に配置されたバックドアを二点鎖線で仮想的に示す。
〈正常時〉
後方衝突が生じていない正常時の状態は上述の通りである。図2を参照されたい。
【0033】
〈後方衝突時:初期〉
図3に示すように後方衝突が生じて後方衝突に伴う荷重を受けると、相対的に高剛性であるフロアパネル3の低段部33及び帯部4の直線部43は相対的に前方に向かって変位する。そうすると、これら低段部33及び直線部43と相対的に高剛性である高段部31におけるシート用スライドレール7の取付箇所との間隔が狭められる。そのため、これら二つの高剛性の部材に挟まれた相対的に低剛性である部材が以下のように変形する。
【0034】
帯部4の直線部43が相対的に後方から前方に向かって変位することで、帯部4の山折り部46における車外側の内角が小さくなるように、山折り部46が変形する。この変形に伴って山折り部46は相対的に上方に変位する。この変位によって山折り部46はフロアパネル3の上側角部36を相対的に上方に向かって押し上げる。そのため、上側角部36における車外側の内角が小さくなるように、上側角部36も変形する。この変形に伴って上側角部36も相対的に上方に変位する。上側角部36における上述の変位に伴って、上側角部36につながる高段部31の前方稜線部及びその近傍の部分は相対的に上方に向かって変位する。そのため、高段部31に取り付けられたシート用スライドレール7の後端部7bも相対的に上方に向かって変位する。
【0035】
また、帯部4の直線部43が相対的に後方から前方に向かって変位することで、フロアパネル3の下側角部38における車室側の内角が小さくなるように、下側角部38が変形する。帯部4の谷折り部48における車室側の内角が小さくなるように、谷折り部48も変形する。
【0036】
〈後方衝突時:後期〉
図4に示すように最大荷重が加えられる後期には、フロアパネル3の低段部33及び帯部4の直線部43が相対的に前方に向かって変位することが拘束される。そのため、上記の荷重は主として上述の上側角部36及び山折り部46の変形、下側角部38及び谷折り部48の変形に利用される。上述の変形によって上側角部36及び山折り部46が相対的に上方に変位することに伴って、これらにつながるフロアパネル3の連結部32及び帯部4の傾斜部42も相対的に上方に変位する。一方、直線部43は変形し難い。そのため、下側角部38及び谷折り部48が上記の内角が小さくなるように変形しようとすることで、低段部33の後端部及び直線部43の後端部が相対的に下方に変位する。この変位に伴って、バッテリ6の前方かつ上方の角部は相対的に後方に変位する。いわばバッテリ6の前方かつ上方の角部はシート用スライドレール7の後端部7bから離れるように変位する。そのため、上述のように相対的に上方に向かって変位したシート用スライドレール7の後端部7bとバッテリ6の前面6aとの間に隙間が生じる。
【0037】
(主な効果)
実施形態1の車両のバッテリ固定構造1では、シート用スライドレール7の後端部7bがバッテリ6の前面6aに重複するように配置されている。しかし、上述のように後方衝突時にシート用スライドレール7の後端部7bとバッテリ6とが接触しない。このような実施形態1の車両のバッテリ固定構造1は、後方衝突時にシート用スライドレール7の後端部7bによってバッテリ6が損傷することを回避できる。
【0038】
その他、本例では、帯部4の直線部43の後端部寄りの部分に牽引用のフック8が取り付けられている。このような帯部4はフック8をフロアパネル3に取り付ける部材としても機能する。上述のように直線部43は剛性が相対的に高いため、牽引時の荷重を適切に受けられる。
【0039】
本発明は、これらの例示に限定されず、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
例えば、帯部4が以下の条件を満たすようにフロアパネル3の低段部33に取り付けられていてもよい。
・上下方向からの平面視において帯部4を前後方向に沿って延長させた仮想線がフロアパネル3の高段部31に取り付けられたシート用スライドレール7に重複する。つまりシート用スライドレール7と帯部4とが車幅方向にずれることなく前後方向に直列するように設けられている。
【符号の説明】
【0040】
1 車両のバッテリ固定構造
2 車体
21 サイドメンバ、22 クロスメンバ
3 フロアパネル
31 高段部、32 連結部、33 低段部、36 上側角部、38 下側角部
32a 前壁部
4 帯部
41 フランジ部、42 傾斜部、43 直線部、46 山折り部、48 谷折り部
6 バッテリ
6a 前面、6b 下面
7 シート用スライドレール
7b 後端部、70 シート
8 フック
9 燃料タンク
H,h 高さ
図1
図2
図3
図4