(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-30
(45)【発行日】2024-05-10
(54)【発明の名称】サーマルプリントヘッドおよびサーマルプリンタ
(51)【国際特許分類】
B41J 2/335 20060101AFI20240501BHJP
B41J 2/34 20060101ALI20240501BHJP
【FI】
B41J2/335 101F
B41J2/335 101H
B41J2/34
(21)【出願番号】P 2020078279
(22)【出願日】2020-04-27
【審査請求日】2023-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135389
【氏名又は名称】臼井 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100200609
【氏名又は名称】齊藤 智和
(72)【発明者】
【氏名】仲谷 吾郎
【審査官】加藤 昌伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-014233(JP,A)
【文献】特開昭57-089980(JP,A)
【文献】特開昭53-090944(JP,A)
【文献】特開2013-045843(JP,A)
【文献】米国特許第05745147(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/315 - 2/345
B41J 2/42 - 2/425
B41J 2/475 - 2/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さ方向を向く主面を有する基板と、
主走査方向に配列された複数の発熱部を含むとともに、前記主面の上に形成された抵抗体層と、
前記抵抗体層の上に形成され、かつ前記複数の発熱部に導通する配線層と、
前記主面の一部と、前記複数の発熱部、および前記配線層と、を覆う保護層と、
前記保護層の一部を覆う被覆層と、を備え、
前記厚さ方向に視て、前記被覆層は、前記複数の発熱部に重な
る部分と、前記複数の発熱部よりも外方に位置する部分と、を含み、
前記被覆層は、前記保護層に接する下地層と、前記下地層に積層された本体層と、を有し、
前記下地層および前記本体層の各々は、金属元素を含み、
前記主面は、第1基面と、前記第1基面から前記厚さ方向に膨出する第1凸面と、を含み、
前記第1凸面は、前記主走査方向に沿って延びており、
前記複数の発熱部は、前記第1凸面の上に形成されており、
前記保護層は、前記厚さ方向において前記第1基面と同じ側を向く第2基面と、前記第2基面から膨出する第2凸面と、を有し、
前記厚さ方向に視て、前記第1凸面および前記被覆層の各々の全体は、前記第2凸面に重なって
おり、
前記被覆層は、副走査方向の両側に位置するとともに、前記第2凸面との界面から立ち上がる一対の端面を有し、
前記一対の端面の各々は、前記厚さ方向において前記第2凸面に対向する側に当該厚さ方向に対して傾斜している、サーマルプリントヘッド。
【請求項2】
前記金属元素は、金属結合により互いに結合されている、請求項1に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項3】
前記本体層のビッカース硬さは、前記保護層のビッカース硬さよりも大である、請求項2に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項4】
前記保護層は、ケイ素をその組成に含む、請求項3に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項5】
前記第1凸面は、前記第1基面に対して平行な頂面と、各々が前記頂面および前記第1基面につながり、かつ
前記副走査方向において互いに離れた一対の傾斜面と、を含み、
前記複数の発熱部は、前記頂面と、前記一対の傾斜面との少なくともいずれかと、の上に形成されている、請求項1ないし4のいずれかに記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項6】
前記配線層は、共通配線と、複数の個別配線と、を含み、
前記共通配線は、前記複数の発熱部に対して前記副走査方向の一方側に位置しており、
前記複数の個別配線は、前記複数の発熱部に対して前記副走査方向の他方側に位置しており、
前記共通配線の一部と、前記複数の個別配線の各々の一部と、は、前記一対の傾斜面のいずれかの上に形成されている、請求項5に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項7】
前記一対の傾斜面は、前記第1基面から前記頂面にかけて互いに近づくように前記第1基面に対して傾斜している、請求項5または6に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項8】
前記一対の傾斜面の各々は、前記第1基面につながる第1領域と、前記頂面および前記第1領域につながる第2領域と、を含み、
前記第1基面に対する前記第2領域の傾斜角は、前記第1基面に対する前記第1領域の傾斜角よりも小である、請求項7に記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項9】
前記基板は、半導体材料からなり、
前記半導体材料は、ケイ素を組成とする単結晶材料を含む、請求項1ないし8のいずれかに記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項10】
前記主面を覆う絶縁層をさらに備え、
前記抵抗体層は、前記絶縁層に接している、請求項1ないし9のいずれかに記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項11】
ヒートシンクをさらに備え、
前記基板は、前記厚さ方向において前記主面とは反対側を向く裏面を有し、
前記裏面は、前記ヒートシンクに接合されている、請求項1ないし10のいずれかに記載のサーマルプリントヘッド。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれかに記載のサーマルプリントヘッドと、
前記複数の発熱部に対向して配置されたプラテンと、を備える、サーマルプリンタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーマルプリントヘッドと、当該サーマルプリントヘッドを具備するサーマルプリンタとに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、サーマルプリントヘッドの一例が開示されている。当該サーマルプリントヘッドは、支持基板の上に配置された発熱抵抗体と、当該発熱抵抗体に設けられた複数の電極とを備える。複数の電極に電流が流れると、発熱抵抗体が発熱する。これにより、感熱紙などの記録媒体に印字がなされる。
【0003】
当該サーマルプリントヘッドは、発熱抵抗体、および複数の電極を覆う保護膜をさらに備える。当該保護膜は、支持基板の厚さ方向において当該保護膜の内部に作用する膜応力の分布が異なる特性を有する。この膜応力の分布について具体的に言及すると、当該厚さ方向において発熱抵抗体から徐々に遠ざかると、当該膜応力が徐々に大となるものである。これにより、保護膜の表面の硬度がより大きくなるため、記録媒体に対する当該サーマルプリントヘッドの耐摩耗性がより優れたものとなる。さらに、当該厚さ方向において、保護膜の内部に作用する膜応力が当該保護膜の表面から発熱抵抗体にかけて徐々に小となるため、発熱抵抗体の発熱に起因した熱応力の集中が抑制される。これにより、保護膜の硬度が比較的大であっても、当該保護膜に亀裂などが発生しにくくなる。
【0004】
しかし、当該保護膜は、スパッタリング法により形成される。当該保護膜の形成にあたっては、1回の成膜ごとにガス圧を調整しながら、比較的多くの成膜回数をかけてケイ化物の薄膜を積層させることが必要である。したがって、当該保護膜の形成は、当該サーマルプリントヘッドの製造効率が低下する要因となるため、この点について改善が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上述の事情に鑑み、製造効率の低下を抑制しつつ、記録媒体に対する耐摩耗性を向上させることが可能なサーマルプリントヘッドおよびその製造方法と、当該サーマルプリントヘッドを備えるサーマルプリンタとを提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の側面によって提供されるサーマルプリントヘッドは、厚さ方向を向く主面を有する基板と、主走査方向に配列された複数の発熱部を含むとともに、前記主面の上に形成された抵抗体層と、前記抵抗体層の上に形成され、かつ前記複数の発熱部に導通する配線層と、前記主面の一部と、前記複数の発熱部、および前記配線層と、を覆う保護層と、を備え、前記保護層の少なくとも一部を覆う被覆層をさらに備え、前記厚さ方向に沿って視て、前記被覆層は、前記複数の発熱部に重なり、前記被覆層は、前記保護層に接する下地層と、前記下地層に積層された本体層と、を有し、前記下地層および前記本体層の各々は、金属元素を含むことを特徴としている。
【0008】
本発明の実施において好ましくは、前記金属元素は、金属結合により互いに結合されている。
【0009】
本発明の実施において好ましくは、前記本体層のビッカース硬さは、前記保護層のビッカース硬さよりも大である。
【0010】
本発明の実施において好ましくは、前記保護層は、ケイ素をその組成に含む。
【0011】
本発明の実施において好ましくは、前記主面は、基面と、前記基面から前記厚さ方向に膨出する凸面と、を含み、前記凸面は、前記主走査方向に沿って延び、前記複数の発熱部は、前記凸面の上に形成されている。
【0012】
本発明の実施において好ましくは、前記厚さ方向に沿って視て、前記被覆層は、前記凸面に重なっている。
【0013】
本発明の実施において好ましくは、前記凸面は、前記基面に対して平行な頂面と、前記頂面および前記基面につながり、かつ副走査方向において互いに離れて位置する一対の傾斜面と、を含み、前記複数の発熱部は、前記頂面と、前記一対の傾斜面との少なくともいずれかと、の上に形成されている。
【0014】
本発明の実施において好ましくは、前記配線層は、共通配線と、複数の個別配線と、を含み、前記共通配線は、前記複数の発熱部に対して前記副走査方向の一方側に位置し、前記複数の個別配線は、前記複数の発熱部に対して前記副走査方向の他方側に位置し、前記共通配線の一部と、前記複数の個別配線の各々の一部と、は、前記一対の傾斜面のいずれかの上に形成されている。
【0015】
本発明の実施において好ましくは、前記一対の傾斜面は、前記基面から前記頂面にかけて互いに近づくように前記基面に対して傾斜している。
【0016】
本発明の実施において好ましくは、前記一対の傾斜面の各々は、前記基面につながる第1領域と、前記頂面および前記第1領域につながる第2領域と、を含み、前記基面に対する前記第2領域の傾斜角は、前記基面に対する前記第1領域の傾斜角よりも小である。
【0017】
本発明の実施において好ましくは、前記基板は、半導体材料からなり、前記半導体材料は、ケイ素を組成とする単結晶材料を含む。
【0018】
本発明の実施において好ましくは、前記主面を覆う絶縁層をさらに備え、前記抵抗体層は、前記絶縁層に接している。
【0019】
本発明の実施において好ましくは、ヒートシンクをさらに備え、前記基板は、前記厚さ方向において前記主面とは反対側を向く裏面を有し、前記裏面は、前記ヒートシンクに接合されている。
【0020】
本発明の第2の側面によって提供されるサーマルプリントヘッドの製造方法は、厚さ方向を向く主面を有する基材に対して、主走査方向に配列された複数の発熱部を含む抵抗体層を、前記主面に形成する工程と、前記複数の発熱部に導通する配線層を、前記抵抗体層の上に形成する工程と、前記主面の一部と、前記複数の発熱部、および前記配線層と、を覆う保護層を形成する工程と、を備え、前記保護層を形成する工程の後に、前記保護層の少なくとも一部を覆う被覆層を形成する工程をさらに備え、前記被覆層を形成する工程では、前記保護層に接し、かつ金属元素を含む下地層を形成する工程と、前記下地層に積層され、かつ金属元素を含む本体層を形成する工程と、を含み、前記本体層は、めっきにより形成されることを特徴としている。
【0021】
本発明の実施において好ましくは、前記被覆層を形成する工程では、スパッタリング法により前記下地層が形成され、前記被覆層を形成する工程では、前記下地層を導電経路とした電解めっきにより前記本体層が形成される。
【0022】
本発明の実施において好ましくは、前記主面は、基面と、前記基面から前記厚さ方向に膨出する凸面と、を含み、前記抵抗体層を形成する工程の前に、前記基面から前記厚さ方向に膨出し、かつ前記主走査方向に沿って延びるとともに、前記凸面を含む凸部を前記基材に形成する工程をさらに備え、前記抵抗体層を形成する工程では、前記複数の発熱部を前記凸面の上に形成する。
【0023】
本発明の実施において好ましくは、前記基材は、半導体材料からなり、前記半導体材料は、ケイ素を組成とする単結晶材料を含む。
【0024】
本発明の実施において好ましくは、前記凸部を形成する工程では、異方性エッチングにより前記凸部が形成される。
【0025】
本発明の第3の側面によって提供されるサーマルプリンタは、本発明の第1の側面によって提供されるサーマルプリントヘッドと、前記複数の発熱部に対向して配置されたプラテンと、を備える。
【発明の効果】
【0026】
本発明にかかるサーマルプリントヘッドおよびその製造方法によれば、製造効率の低下を抑制しつつ、記録媒体に対する耐摩耗性を向上させることが可能となる。
【0027】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面に基づき以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の第1実施形態にかかるサーマルプリントヘッドの平面図である。
【
図2】
図1に示すサーマルプリントヘッドの要部の平面図である。
【
図5】
図1に示すサーマルプリントヘッドの要部の断面図である。
【
図7】
図1に示すサーマルプリントヘッドの要部の製造工程を説明する断面図である。
【
図8】
図1に示すサーマルプリントヘッドの要部の製造工程を説明する断面図である。
【
図9】
図1に示すサーマルプリントヘッドの要部の製造工程を説明する断面図である。
【
図10】
図1に示すサーマルプリントヘッドの要部の製造工程を説明する断面図である。
【
図11】
図1に示すサーマルプリントヘッドの要部の製造工程を説明する断面図である。
【
図12】
図1に示すサーマルプリントヘッドの要部の製造工程を説明する断面図である。
【
図13】
図1に示すサーマルプリントヘッドの要部の製造工程を説明する断面図である。
【
図14】
図1に示すサーマルプリントヘッドの要部の製造工程を説明する断面図である。
【
図15】
図1に示すサーマルプリントヘッドの要部の製造工程を説明する断面図である。
【
図16】
図1に示すサーマルプリントヘッドの要部の製造工程を説明する部分拡大断面図である。
【
図17】
図1に示すサーマルプリントヘッドの要部の製造工程を説明する部分拡大断面図である。
【
図18】
図1に示すサーマルプリントヘッドの要部の製造工程を説明する断面図である。
【
図19】本発明の第2実施形態にかかるサーマルプリントヘッドの要部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明を実施するための形態について、添付図面に基づいて説明する。
【0030】
〔第1実施形態〕
図1~
図6に基づき、本発明の第1実施形態にかかるサーマルプリントヘッドA10について説明する。サーマルプリントヘッドA10は、後述するサーマルプリンタB10の主要部をなす。サーマルプリントヘッドA10は、要部および付随部により構成される。サーマルプリントヘッドA10の要部は、基板1、絶縁層2、抵抗体層3、配線層4、保護層5および被覆層6を備える。サーマルプリントヘッドA10の付随部は、配線基板71、ヒートシンク72、複数の駆動素子73、複数の第1ワイヤ74、複数の第2ワイヤ75、封止樹脂76およびコネクタ77を備える。ここで、
図1においては、保護層5、被覆層6、複数の第1ワイヤ74、複数の第2ワイヤ75、および封止樹脂76の図示を省略している。
図2および
図3においては、保護層5および
図6の図示を省略している。
【0031】
ここで、説明の便宜上、サーマルプリントヘッドA10の主走査方向を「x方向」と呼ぶ。サーマルプリントヘッドA10の副走査方向を「y方向」と呼ぶ。基板1の厚さ方向を「z方向」と呼ぶ。z方向は、x方向およびy方向の双方に対して直交している。以下の説明において、「z方向に沿って視て」とは、「厚さ方向に沿って視て」を指す。
【0032】
サーマルプリントヘッドA10においては、
図4に示すように、サーマルプリントヘッドA10の要部をなす基板1は、ヒートシンク72に接合されている。さらに、配線基板71は、y方向において基板1の隣に位置する。配線基板71は、基板1と同じくヒートシンク72に固定されている。基板1の上には、抵抗体層3の一部をなし、かつx方向に配列された複数の発熱部31(詳細は後述)が形成されている。複数の発熱部31は、配線基板71に搭載された複数の駆動素子73により選択的に発熱する。複数の駆動素子73は、コネクタ77を介して外部から送信される印字信号にしたがって駆動する。
【0033】
さらに、本発明にかかるサーマルプリンタB10は、
図4に示すように、サーマルプリントヘッドA10と、プラテンローラ79とを備える。サーマルプリンタB10において、プラテンローラ79は、感熱紙などの記録媒体を送り出すローラ状の機構である。プラテンローラ79が記録媒体を複数の発熱部31に押し当てることにより、当該複数の発熱部31が当該記録媒体に印字を行う。サーマルプリンタB10においては、プラテンローラ79に代えて、ローラ状ではない機構を採用できる。当該機構は、平坦な面を有する。ここで、平坦な面には、小さい曲率を有する曲面が含まれる。サーマルプリンタB10においては、プラテンローラ79のようなローラ状の機構と、当該機構とを含めて「プラテン」と呼ぶ。ここで、説明の便宜上、
図4において記録媒体の供給元の側(
図4における右側)を「上流側」と呼ぶ。
図4において記録媒体の排出先の側(
図4における左側)を「下流側」と呼ぶ。
【0034】
基板1は、
図1に示すように、z方向に沿って視てx方向に延びる帯状である。基板1は、半導体材料からなる。当該半導体材料は、ケイ素(Si)を組成とする単結晶材料を含む。
【0035】
図5に示すように、基板1は、主面10および裏面13を有する。基板1の結晶構造に基づく主面10および裏面13の面方位は、ともに(100)面である。主面10および裏面13は、z方向において互いに反対側を向く。
図4に示すように、サーマルプリントヘッドA10においては、主面10が示すプラテンローラ79に対向し、かつ裏面13が配線基板71に対向する。主面10は、基面11および凸面12をさらに含む。基面11は、裏面13に対して平行である。凸面12は、基面11からz方向に膨出している。凸面12は、x方向に沿って延びている。
【0036】
図6に示すように、凸面12は、頂面121、および一対の傾斜面122を有する。頂面121は、z方向において基面11から離れて位置し、かつ基面11に対して平行である。一対の傾斜面122は、y方向において互いに離れて位置する。一対の傾斜面122は、頂面121および基面11につながっている。一対の傾斜面122は、基面11から頂面121にかけて互いに近づくように基面11に対して傾斜している。基面11に対する一対の傾斜面122の各々の傾斜角αは、ともに同一である。
【0037】
図6に示すように、基板1には、凸部17が形成されている。凸部17は、基面11からz方向に膨出し、かつx方向に沿って延びている。凸面12は、凸部17の表面である。したがって、凸面12の構成は、凸部17の形状に基づいたものとなっている。
【0038】
絶縁層2は、
図6に示すように、基板1の主面10を覆っている。絶縁層2により、基板1は、抵抗体層3および配線層4に対して電気絶縁されている。絶縁層2は、たとえば、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)を原材料とした二酸化ケイ素(SiO
2)からなる。絶縁層2の厚さの例は、1μm以上15μm以下である。
【0039】
抵抗体層3は、
図5および
図6に示すように、基板1の主面10の上に形成されている。抵抗体層3は、絶縁層2に接している。これにより、サーマルプリントヘッドA10において、絶縁層2は、基板1と抵抗体層3との間に挟まれた構成となっている。抵抗体層3は、たとえば窒化タンタル(TaN)からなる。抵抗体層3の厚さの例は、0.02μm以上0.1μm以下である。
【0040】
図2、
図3および
図6に示すように、抵抗体層3は、複数の発熱部31を含む。抵抗体層3において、複数の発熱部31は、配線層4から露出する部分である。複数の発熱部31に対して配線層4から選択的に通電されることによって、複数の発熱部31は、記録媒体を局所的に加熱する。複数の発熱部31は、x方向に配列されている。複数の発熱部31のうち、x方向において隣り合う2つの当該発熱部31は、互いに離れて位置する。基板1の凸面12において、複数の発熱部31は、頂面121に形成されている。
図4に示すように、サーマルプリンタB10において、複数の発熱部31は、プラテンローラ79に対向している。凸面12において、複数の発熱部31は、頂面121と、一対の傾斜面122とのいずれかとを跨いで形成されてもよい。
【0041】
配線層4は、
図5および
図6に示すように、抵抗体層3の上に形成されている。配線層4は、抵抗体層3の複数の発熱部31に通電するための導電経路をなしている。配線層4の電気抵抗率は、抵抗体層3の電気抵抗率よりも小である。配線層4は、たとえば銅(Cu)からなる金属層である。配線層4の厚さの例は、0.3μm以上2.0μm以下である。この他、配線層4は、抵抗体層3の上に積層されたチタン(Ti)層と、当該チタン層の上に積層された銅層との2つの金属層からなる構成でもよい。この場合のチタン層の厚さの例は、0.1μm以上0.2μm以下である。
【0042】
図2に示すように、配線層4は、共通配線41、および複数の個別配線42を含む。共通配線41は、抵抗体層3の複数の発熱部31に対してy方向の一方側に位置する。複数の個別配線42は、複数の発熱部31に対してy方向の他方側に位置する。
図3に示すように、z方向に沿って視て、共通配線41と複数の個別配線42とに挟まれた抵抗体層3の複数の領域が、複数の発熱部31である。
【0043】
図2および
図3に示すように、共通配線41は、基部411、および複数の延出部412を有する。y方向において、基部411は、抵抗体層3の複数の発熱部31から最も離れて位置する。基部411は、z方向に沿って視てx方向に延びる帯状である。複数の延出部412は、y方向において基板1の凸部17に対向する基部411の端部から、複数の発熱部31に向けて延びる帯状である。複数の延出部412は、x方向に沿って配列されている。複数の延出部412の各々の一部は、基板1の一対の傾斜面122のうち、基部411に対向する当該傾斜面122の上に形成されている。したがって、共通配線41の一部は、一対の傾斜面122のいずれかの上に形成されている。共通配線41においては、基部411から複数の延出部412を介して複数の発熱部31に電流が流れる。
【0044】
図2および
図3に示すように、複数の個別配線42の各々は、基部421および延出部422を有する。y方向において、基部421は、抵抗体層3の複数の発熱部31から最も離れて位置する。複数の個別配線42の基部421は、x方向に対して千鳥配置となるように配列されている。延出部422は、y方向において基板1の凸部17に対向する基部421の端部から、複数の発熱部31に向けて延びる帯状である。複数の個別配線42の延出部422は、x方向に沿って配列されている。複数の個別配線42の各々の延出部422は、基板1の一対の傾斜面122のうち、複数の個別配線42の基部421に対向する当該傾斜面122の上に形成されている。したがって、複数の個別配線42の各々の一部は、一対の傾斜面122のいずれかの上に形成されている。複数の個別配線42の各々においては、複数の発熱部31のいずれかから延出部422を介して基部421に電流が流れる。z方向に沿って視て、複数の発熱部31の各々は、複数の個別配線42の延出部422のいずれかと、共通配線41の複数の延出部412のいずれかとに挟まれている。
【0045】
保護層5は、
図5に示すように、基板1の主面10の一部と、抵抗体層3の複数の発熱部31、および配線層4とを覆っている。保護層5は、電気絶縁性を有する。保護層5は、ケイ素をその組成に含む。保護層5は、たとえば、二酸化ケイ素、窒化ケイ素(Si
3N
4)および炭化ケイ素(SiC)のいずれからなる。あるいは、保護層5は、これらの物質のうち複数種類からなる積層体でもよい。保護層5の厚さの例は、1.0μm以上10μm以下である。サーマルプリンタB10において、記録媒体は、
図4に示すプラテンローラ79により複数の発熱部31を覆う保護層5の領域に押し当てられる。
【0046】
図6に示すように、保護層5には、配線開口51が設けられている。配線開口51は、z方向に保護層5を貫通している。配線開口51から、複数の個別配線42の基部421と、複数の個別配線42の延出部422の各々の一部とが露出している。
【0047】
被覆層6は、
図5に示すように、保護層5の少なくとも一部を覆っている。z方向に沿って視て、被覆層6は、抵抗体層3の複数に発熱部31に重なっている。さらに、z方向に沿って視て、被覆層6は、基板1の凸面12に重なっている。
図6に示すように、被覆層6は、下地層61および本体層62を有する。下地層61および本体層62の各々は、金属元素を含む。下地層61および本体層62の各々に含まれる金属元素は、金属結合により互いに結合されている。したがって、被覆層6は、電流を比較的流しやすい導電体とされる。下地層61は、保護層5に接している。下地層61は、保護層5に接するバリア層と、当該バリア層の上に積層されたシード層から構成される。バリア層に含まれる金属元素は、たとえばチタンである。シード層に含まれる金属元素は、たとえば銅である。本体層62は、下地層61に積層されている。本体層62の厚さは、下地層61の厚さよりも大である。本体層62のビッカース硬さ(HV)は、保護層5のビッカース硬さよりも大である。本体層62に含まれる金属元素は、たとえば銅である。この他、本体層62に含まれる元素は、ニッケル(Ni)でもよい。
【0048】
配線基板71は、
図4に示すように、y方向において基板1の隣に位置する。
図1に示すように、z方向に沿って視て、複数の個別配線42は、y方向において抵抗体層3の複数の発熱部31と、配線基板71との間に位置する。z方向に沿って視て、配線基板71の面積は、基板1の面積よりも大である。さらに、z方向に沿って視て、配線基板71は、x方向を長手方向とする矩形状である。配線基板71は、たとえばPCB基板である。配線基板71には、複数の駆動素子73、およびコネクタ77が搭載されている。
【0049】
ヒートシンク72は、
図4に示すように、基板1の裏面13と対向している。裏面13は、ヒートシンク72に接合されている。配線基板71は、ねじなどの締結部材によりヒートシンク72に固定されている。サーマルプリントヘッドA10の使用時において、抵抗体層3の複数の発熱部31から発生した熱の一部は、基板1を介してヒートシンク72に伝導される。ヒートシンク72に伝導された熱は、外部へと放熱される。ヒートシンク72は、たとえばアルミニウム(Al)からなる。
【0050】
複数の駆動素子73は、
図1および
図4に示すように、電気絶縁性を有するダイボンディング材(図示略)を介して配線基板71の上に搭載されている。複数の駆動素子73の各々は、種々の回路が構成された半導体素子である。複数の駆動素子73の各々には、複数の第1ワイヤ74の各々の一端と、複数の第2ワイヤ75の各々の一端とが接合されている。複数の第1ワイヤ74の他端は、複数の個別配線42の基部421に対して個別に接合されている。複数の第2ワイヤ75の各々の他端は、配線基板71に設けられ、かつコネクタ77に導通する配線(図示略)に接合されている。これにより、印字信号、制御信号、および抵抗体層3の複数の発熱部31に供給される電圧が、外部からコネクタ77を介して複数の駆動素子73に入力される。複数の駆動素子73は、これらの電気信号に基づき、複数の個別配線42に電圧を選択的に印加させる。これにより、複数の発熱部31が選択的に発熱する。
【0051】
封止樹脂76は、
図4に示すように、複数の駆動素子73、複数の第1ワイヤ74、および複数の第2ワイヤ75と、基板1および配線基板71の各々の一部とを覆っている。封止樹脂76は、電気絶縁性を有する。封止樹脂76は、たとえばアンダーフィルに用いられる黒色かつ軟質の合成樹脂である。
【0052】
コネクタ77は、
図1および
図4に示すように、配線基板71のy方向の一端に搭載されている。コネクタ77は、サーマルプリンタB10に接続される。コネクタ77は、複数のピン(図示略)を有する。当該複数のピンの一部は、配線基板71において、複数の第2ワイヤ75が接合された配線(図示略)に導通している。さらに、当該複数のピンの別の一部は、配線基板71において、共通配線41の基部411に導通する配線(図示略)に導通している。
【0053】
次に、
図7~
図18に基づき、サーマルプリントヘッドA10の製造方法の一例について説明する。ここで、
図7~
図18(ただし、
図16および
図17を除く。)の断面位置は、サーマルプリントヘッドA10の要部を示す
図5の断面位置と同一である。
【0054】
最初に、
図7および
図8に示すように、基材81に凸部17を形成する。
【0055】
まず、
図7に示すように、基材81を覆う第1マスク層891と、第1マスク層891の一部を覆う第2マスク層892とを形成する。基材81は、半導体材料からなる。当該半導体材料は、ケイ素を組成とする単結晶材料を含む。基材81は、シリコンウエハである。z方向に対して直交する方向において、複数の基板1にそれぞれ相当する領域が複数個連なったものが、基材81に相当する。基材81は、第1面81Aおよび第2面81Bを有する。第1面81Aおよび第2面81Bは、z方向において互いに反対側を向く。基材81の結晶構造に基づく第1面81Aおよび第2面81Bの面方位は、ともに(100)面である。第1マスク層891は、第1面81Aおよび第2面81Bを覆うように形成される。第1マスク層891は、二酸化ケイ素からなる。第2マスク層892は、第1面81Aを覆う第1マスク層891の領域を覆うように形成される。第2マスク層892は、窒化ケイ素からなる。第1面81Aを覆う第1マスク層891の領域と、当該領域を覆う第2マスク層892には、z方向に貫通するマスク開口893が形成されている。
【0056】
第1マスク層891および第2マスク層892の形成にあたっては、まず、熱酸化法により第1面81Aおよび第2面81Bを覆う二酸化ケイ素の薄膜を形成する。次いで、熱CVD(Chemical Vapor Deposition)により、第1面81Aを覆う第1マスク層891の領域を覆う窒化ケイ素の薄膜を形成する。最後に、リソグラフィパターニングと、反応性イオンエッチング(RIE:Reactive Ion Etching)とにより、第1面81Aを覆う二酸化ケイ素の薄膜の領域の一部と、当該領域を覆う窒化ケイ素の薄膜の一部とを除去する。これにより、第1マスク層891および第2マスク層892が形成されるとともに、第1面81Aを覆う当該第1マスク層891の領域と、当該領域を覆う第2マスク層892とにマスク開口893が形成される。
【0057】
次いで、
図8に示すように、基材81に主面10および凸部17を形成する。主面10および凸部17は、
図7に示すマスク開口893で露出した第1面81Aの領域に対して、水酸化カリウム(KOH)水溶液を用いたウエットエッチングにより形成される。当該エッチングは、異方性である。最後に、フッ化水素酸(HF)を用いたウエットエッチングにより第1マスク層891および第2マスク層892を除去する。以上により、基面11および凸面12を含む主面10と、凸部17とが、基材81に形成される。さらに、基材81の第2面81Bは、裏面13となる。凸面12は、基面11からz方向に膨出している。凸部17は、基面11からz方向に膨出し、かつx方向に沿って延びている。凸部17は、凸面12を含む。第1マスク層891および第2マスク層892に覆われていた第1面81Aの領域が、凸面12の頂面121となる。さらに、基面11に対する凸面12の一対の傾斜面122の各々の傾斜角αは、ともに同一である。これは、凸部17が異方性エッチングにより形成されることに起因している。
【0058】
次いで、
図9に示すように、基材81の主面10を覆う絶縁層2を形成する。絶縁層2は、プラズマCVDによりオルトケイ酸テトラエチル(TEOS)を原料ガスとして形成された二酸化ケイ素の薄膜を複数回にわたって積層させることによって形成される。
【0059】
次いで、
図10~
図13に示すように、抵抗体層3および配線層4を形成する。抵抗体層3は、x方向に配列された複数の発熱部31を含む。配線層4は、複数の発熱部31に導通する。さらに、配線層4を形成する工程では、共通配線41、および複数の個別配線42を形成する工程を含む。基材81において、共通配線41は、
図13に示す抵抗体層3の複数の発熱部31に対してy方向の一方側に位置する。基材81において、複数の個別配線42は、
図13に示す複数の発熱部31に対してy方向の他方側に位置する。
【0060】
まず、
図10に示すように、基材81の主面10の上に抵抗体膜82を形成する。抵抗体膜82は、絶縁層2の全面を覆うように形成される。抵抗体膜82は、スパッタリング法により窒化タンタルの薄膜を絶縁層2に積層させることによって形成される。
【0061】
次いで、
図11に示すように、抵抗体膜82の全面を覆う導電層83を形成する。導電層83は、スパッタリング法により銅の薄膜を複数回にわたって抵抗体膜82に積層させることによって形成される。この他、導電層83の形成にあたっては、スパッタリング法によりチタンの薄膜を抵抗体膜82に積層させた後、当該チタンの薄膜に対してスパッタリング法により銅の薄膜を複数回にわたって積層させる手法を採ってもよい。
【0062】
次いで、
図12に示すように、導電層83に対してリソグラフィパターニングを施した後、導電層83の一部を除去する。当該除去は、硫酸(H
2SO
4)および過酸化水素(H
2O
2)の混合溶液を用いたウエットエッチングにより行われる。これにより、共通配線41、および複数の個別配線42が、抵抗体膜82の上に形成される。したがって、本工程でもって配線層4の形成が完了する。さらに、基材81の頂面121(凸面12)の上に形成された抵抗体膜82の領域が配線層4から露出する。
【0063】
次いで、
図13に示すように、抵抗体膜82および配線層4に対してリソグラフィパターニングを施した後、抵抗体膜82の一部を除去する。当該除去は、反応性イオンエッチングにより行われる。これにより、抵抗体層3が、基材81の主面10の上に形成される。基材81の頂面121の上には、複数の発熱部31が現れる。
【0064】
次いで、
図14に示すように、基材81の主面10の一部と、抵抗体層3の複数の発熱部31、および配線層4を覆う保護層5を形成する。保護層5は、プラズマCVDにより窒化ケイ素の薄膜を積層させることによって形成される。
【0065】
次いで、
図15に示すように、z方向に貫通する配線開口51を保護層5に形成する。配線開口51は、保護層5に対してリソグラフィパターニングを施した後、保護層5の一部を除去することにより形成される。当該除去は、反応性イオンエッチングにより行われる。これにより、配線開口51から複数の個別配線42の一部(
図5に示す複数の個別配線42の基部421、および複数の個別配線42の延出部422の各々の一部)が露出する。
【0066】
次いで、
図16~
図18に示すように、保護層5の少なくとも一部を覆う被覆層6を形成する。被覆層6を形成する工程では、保護層5に接し、かつ金属元素を含む下地層61を形成する工程と、下地層61に積層され、かつ金属元素を含む本体層62を形成する工程とを含む。
【0067】
まず、
図16に示すように、保護層5と、保護層5の配線開口51で露出した複数の個別配線42の一部とを覆う下地層61を形成する。下地層61は、スパッタリング法によりチタンの薄膜を保護層5と、配線開口51で露出した複数の個別配線42の一部とに積層させた後、当該チタンの薄膜に対してスパッタリング法により銅の薄膜を積層させることによって形成される。
【0068】
次いで、
図17に示すように、下地層61の上に本体層62を形成する。本体層62は、銅からなる。本体層62は、下地層61に対してリソグラフィパターニングを施した後、めっきにより形成される。当該めっきは、電解めっきおよび無電解めっきのいずれかである。当該めっきが電解めっきである場合、本体層62は、下地層61を導電経路とすることにより形成される。
【0069】
次いで、
図18に示すように、本体層62に覆われていない下地層61の領域を除去する。当該除去は、硫酸および過酸化水素の混合溶液を用いたウエットエッチングにより行われる。これにより、被覆層6が形成される。
【0070】
次いで、基材81をx方向およびy方向に沿って切断することにより、基材81を個片に分割する。これにより、基板1を含むサーマルプリントヘッドA10の要部が得られる。次いで、配線基板71に複数の駆動素子73、およびコネクタ77を搭載する。次いで、基板1の裏面13、および配線基板71をヒートシンク72に接合させる。次いで、配線基板71に対して複数の第1ワイヤ74、および複数の第2ワイヤ75の接合を行う。最後に、基板1および配線基板71に対して、駆動素子73、複数の第1ワイヤ74、および複数の第2ワイヤ75を覆う封止樹脂76の形成を行う。以上の工程を経ることによって、サーマルプリントヘッドA10が得られる。
【0071】
次に、サーマルプリントヘッドA10の作用効果について説明する。
【0072】
サーマルプリントヘッドA10は、基板1の主面10の一部と、抵抗体層3の複数の発熱部31、および配線層4とを覆う保護層5と、保護層5の少なくとも一部を覆う被覆層6とを備える。z方向に沿って視て、被覆層6は、複数の発熱部31に重なっている。被覆層6は、保護層5に接する下地層61と、本体層62に積層された本体層62とを有する。下地層61および本体層62の各々は、金属元素を含む。これにより、サーマルプリントヘッドA10の使用時においては、記録媒体が被覆層6に接触することとなる。したがって、記録媒体が保護層5に接触しない構成となるため、当該記録媒体に対するサーマルプリントヘッドA10の耐摩耗性を向上させることが可能となる。
【0073】
被覆層6の下地層61は、金属元素を含む。これにより、下地層61は、スパッタリング法で形成することができる。さらに、被覆層6の本体層62も金属元素を含む。これにより、本体層62は、めっきにより下地層61に金属元素を析出させることで形成することができる。したがって、本構成によれば、被覆層6を比較的容易に、かつ効率よく形成することが可能となる。以上より、サーマルプリントヘッドA10によれば、製造効率の低下を抑制しつつ、記録媒体に対するサーマルプリントヘッドA10の耐摩耗性を向上させることが可能となる。
【0074】
被覆層6の下地層61および本体層62の各々に含まれる金属元素は、金属結合により互いに結合されている。これにより、下地層61および本体層62の各々は、電流を比較的流しやすい導電体とされる。したがって、本体層62は、下地層61を電流経路とした電解めっきにより形成することができる。これにより、サーマルプリントヘッドA10の製造効率の低下をさらに抑制することができる。
【0075】
被覆層6の本体層62のビッカース硬さは、保護層5のビッカース硬さよりも大である。このような物性は、記録媒体に対するサーマルプリントヘッドA10の耐摩耗性の向上を図る上で好ましい。さらに、本体層62の動摩擦係数は、より小であることが好ましい。これにより、サーマルプリントヘッドA10の使用時において、記録媒体に起因した紙かすが被覆層6に付着することを抑制できる。
【0076】
基板1の主面10は、基面11と、基面11からz方向に膨出する凸面12とを含む。凸面12は、x方向に沿って延びている。複数の発熱部31は、凸面12の上に形成されている。これにより、サーマルプリントヘッドA10の使用時において、サーマルプリントヘッドA10に対する記録媒体の接触面積をより小とすることができる。したがって、複数の発熱部31に起因した記録媒体における印字の品質を向上させることができる。
【0077】
さらに、凸面12は、基板1の基面11に対して平行な頂面121と、頂面121および基面11につながり、かつy方向において互いに離れて位置する一対の傾斜面122とを含む。複数の発熱部31は、頂面121の上に形成されている。共通配線41の一部と、複数の個別配線42の各々の一部とは、一対の傾斜面122のいずれかの上に形成されている。これにより、z方向に沿って視て、複数の発熱部31の各々のy方向の寸法をより小としつつ、サーマルプリントヘッドA10の使用時において、サーマルプリントヘッドA10に対して記録媒体の接触面積をさらに小とすることができる。したがって、サーマルプリントヘッドA10における発熱量を抑えつつ、記録媒体における印字の品質をさらに向上させることができる。
【0078】
基板1において、一対の傾斜面122は、基面11から頂面121にかけて互いに近づくように基面11に対して傾斜している。このような凸面12の形状は、サーマルプリントヘッドA10の製造方法において、異方性エッチングにより基材81に凸部17を形成することにより現れる。これは、基材81は、半導体材料からなることと、当該半導体材料がケイ素を組成とする単結晶材料を含むこととに起因する。
【0079】
サーマルプリントヘッドA10は、ヒートシンク72をさらに備える。基板1の裏面13は、ヒートシンク72に接合されている。これにより、サーマルプリントヘッドA10の使用時において、複数の発熱部31から発した熱の一部を、基板1およびヒートシンク72を介して速やかに外部に放出させることができる。
【0080】
〔第2実施形態〕
図19および
図20に基づき、本発明の第2実施形態にかかるサーマルプリントヘッドA20について説明する。これらの図において、先述したサーマルプリントヘッドA10と同一または類似の要素には同一の符号を付して、重複する説明を省略する。ここで、
図19の断面位置は、先述したサーマルプリントヘッドA10を示す
図5の断面位置と同一である。
【0081】
サーマルプリントヘッドA20においては、基板1の凸面12の構成と、抵抗体層3の複数の発熱部31の構成とが、先述したサーマルプリントヘッドA10の当該構成と異なる。
【0082】
図19および
図20に示すように、凸面12の一対の傾斜面122の各々は、第1領域122Aおよび第2領域122Bを含む。第1領域122Aは、基板1の基面11につながっている。第2領域122Bは、凸面12の頂面121、および第1領域122Aにつながっている。一対の傾斜面122の各々において、基面11に対する第2領域122Bの傾斜角α2は、基面11に対する第1領域122Aの傾斜角α1よりも小である。このような一対の傾斜面122は、
図8に示す工程と、
図9に示す工程との間に、頂面121と、一対の傾斜面122との境界およびそれらの近傍に、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)水溶液を用いたウエットエッチングを施すことにより形成される。
【0083】
図20に示すように、抵抗体層3の複数の発熱部31は、以下の態様により形成されている。第1に、複数の発熱部31は、凸面12の頂面121の上に形成されている。第2に、複数の発熱部31は、頂面121と、凸面12の一対の傾斜面122のうち下流側に位置する当該傾斜面122の第2領域122Bとを跨いで形成されている。第3に、複数の発熱部31は、頂面121と、一対の傾斜面122のうち下流側に位置する当該傾斜面122の第2領域122Bと、当該傾斜面122の第1領域122Aとを跨いで形成されている。第4に、複数の発熱部31は、一対の傾斜面122のうち下流側に位置する当該傾斜面122の第2領域122Bと、当該傾斜面122の第1領域122Aとを跨いで形成されている。これらの態様をまとめると、複数の発熱部31は、頂面121と、一対の傾斜面122の少なくともいずれかとの上に形成されている。
【0084】
次に、サーマルプリントヘッドA20の作用効果について説明する。
【0085】
サーマルプリントヘッドA20は、基板1の主面10の一部と、抵抗体層3の複数の発熱部31、および配線層4とを覆う保護層5と、保護層5の少なくとも一部を覆う被覆層6とを備える。z方向に沿って視て、被覆層6は、複数の発熱部31に重なっている。被覆層6は、保護層5に接する下地層61と、本体層62に積層された本体層62とを有する。下地層61および本体層62の各々は、金属元素を含む。したがって、サーマルプリントヘッドA20によっても、製造効率の低下を抑制しつつ、記録媒体に対するサーマルプリントヘッドA20の耐摩耗性を向上させることが可能となる。
【0086】
サーマルプリントヘッドA20においては、基板1の一対の傾斜面122(凸面12)の各々は、第1領域122Aおよび第2領域122Bを含む。第1領域122Aは、基板1の基面11につながっている。第2領域122Bは、凸面12の頂面121、および第1領域122Aにつながっている。一対の傾斜面122の各々において、基面11に対する第2領域122Bの傾斜角α2は、基面11に対する第1領域122Aの傾斜角α1よりも小である。本構成をとることにより、凸面12に沿って形成された保護層5の表面が、より滑らかなものとなる。さらに、被覆層6は、保護層5の表面に沿った形状となるため、被覆層6の表面もより滑らかなものとなる。したがって、サーマルプリントヘッドA20の使用時において記録媒体が被覆層6に接触する際、当該被覆層6に対する記録媒体の動摩擦力が低減するため、記録媒体に起因した紙かすが当該被覆層6に付着することを抑制できる。
【0087】
本発明にかかるサーマルプリントヘッドA10およびサーマルプリントヘッドA20が備える被覆層6は、下地層61および本体層62を有する。被覆層6は、半導体材料からなる基材81から製造されるサーマルプリントヘッドA10およびサーマルプリントヘッドA20の他に、以下のサーマルプリントヘッドにも適用される。第1に、アルミナ基板、または窒化アルミニウム(ALN)基板などのセラミックス基板、もしくはガラス基板などに、厚膜技術を利用して抵抗体層3の複数の発熱部31、配線層4、および保護層5などを形成する厚膜型のサーマルプリントヘッドである。この場合の複数の発熱部31の材料には、二酸化ルテニウム(RuO2)、TaSiO2、TaN(窒化タンタル)、TaSiNなどが使用される。第2に、上述したセラミックス基板、またはガラス基板などに、薄膜技術を利用して複数の発熱部31、配線層4、および保護層5などを形成する薄膜型のサーマルプリントヘッドである。この場合の複数の発熱部31の材料には、TaSiO2、TaN、TaSiNなどが使用される。
【0088】
本発明は、先述した実施形態に限定されるものではない。本発明の各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【符号の説明】
【0089】
A10,A20:サーマルプリントヘッド
1:基板
10:主面
11:基面
12:凸面
121:頂面
122:傾斜面
122A:第1領域
122B:第2領域
13:裏面
17:凸部
2:絶縁層
3:抵抗体層
31:発熱部
4:配線層
41:共通配線
411:基部
412:延出部
42:個別配線
421:基部
422:延出部
5:保護層
51:配線開口
6:下地層
61:下地層
62:本体層
71:配線基板
72:ヒートシンク
73:駆動素子
74:第1ワイヤ
75:第2ワイヤ
76:封止樹脂
77:コネクタ
79:プラテンローラ
81:基材
81A:第1面
81B:第2面
82:抵抗体膜
83:導電層
84:下地層
85:本体層
891:第1マスク層
892:第2マスク層
893:マスク開口
α,α1,α2:傾斜角