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特許7482598化学反応装置及びそれを用いた太陽エネルギー利用システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-02
(45)【発行日】2024-05-14
(54)【発明の名称】化学反応装置及びそれを用いた太陽エネルギー利用システム
(51)【国際特許分類】
   C25B 15/02 20210101AFI20240507BHJP
   B01J 31/22 20060101ALI20240507BHJP
   C25B 3/25 20210101ALI20240507BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20240507BHJP
   C25B 9/65 20210101ALI20240507BHJP
   C25B 11/073 20210101ALI20240507BHJP
   C25B 11/04 20210101ALN20240507BHJP
【FI】
C25B15/02
B01J31/22 M
C25B3/25
C25B9/00 G
C25B9/65
C25B11/073
C25B11/04
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018114823
(22)【出願日】2018-06-15
(65)【公開番号】P2019218579
(43)【公開日】2019-12-26
【審査請求日】2021-04-07
【審判番号】
【審判請求日】2022-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】深野 達雄
(72)【発明者】
【氏名】水野 真太郎
(72)【発明者】
【氏名】竹田 康彦
【合議体】
【審判長】粟野 正明
【審判官】土屋 知久
【審判官】相澤 啓祐
(56)【参考文献】
【文献】特開昭54-95508(JP,A)
【文献】Energy & Environmental Science,2015年,Vol.8, No.7,p.1998-2002
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B1/00-15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビピリジン系配位子を有するルテニウム錯体を含む分子性触媒である還元触媒を電解液中で用い、
前記電解液は、pH範囲が6.0以上6.8以下の緩衝液であり、
前記電解液中の二酸化炭素(CO)の飽和溶解度を100%としたときの前記電解液中の二酸化炭素(CO)の濃度範囲が80%以上100%以下であり、
前記電解液の温度範囲が0℃以上40℃以下の条件を維持しながら動作することを特徴とする化学反応装置。
【請求項2】
請求項1に記載の化学反応装置であって、
前記ビピリジン系配位子は、2,2’-ビピリジン系配位子であることを特徴とする化学反応装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の化学反応装置であって、
ギ酸(HCOOH)を生成することを特徴とする化学反応装置。
【請求項4】
請求項3に記載の化学反応装置であって、
装置を構成する容器内に流れる電流密度j[mA/cm]、前記電解液を流す方向の前記還元触媒の長さL[cm]及び当該方向に直交する幅W[cm]、前記容器出口における前記電解液のギ酸(HCOOH)の濃度C[mol/L]、前記容器入口における前記電解液のギ酸(HCOOH)の濃度C[mol/L]及びファラデー定数F[C/mol]としたとき、前記容器への前記電解液の流入速度Qの範囲を、
(j×W×L)/{F×(C-C)}≦Q
とすることを特徴とする化学反応装置。
【請求項5】
請求項3に記載の化学反応装置であって、
装置を構成する容器内に流れる電流密度j[mA/cm]、前記電解液を流す方向の前記還元触媒の長さL[cm]及び当該方向に直交する幅W[cm]、二酸化炭素(CO)の分子量MCO2、前記電解液の二酸化炭素(CO)の飽和溶解度p[g/L]、前記容器入口における二酸化炭素(CO)の濃度Cin[%]及びファラデー定数F[C/mol]としたとき、前記容器への前記電解液の流入速度Qの範囲を、
(j×W×L×MCO2)/{p×F×(Cin/100-0.80)}≦Q
とすることを特徴とする化学反応装置。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の化学反応装置を含み、
太陽光エネルギーを利用して還元反応させることを特徴とする太陽光エネルギー利用システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学反応装置及びそれを用いた太陽エネルギー利用システムに関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光エネルギーを用いて水(HO)から水素(H)、水(HO)と二酸化炭素(CO)から一酸化炭素(CO),ギ酸(HCOOH),メタノール(CHOH)などを合成する人工光合成の技術が開示されている。
【0003】
二酸化炭素(CO)による加圧下、水に不溶な疎水性化合物を含む水媒体中で分子性触媒に電子を注入して、一酸化炭素(CO)及び/又は水素(H)を製造する方法が開示されている(特許文献1)。当該文献では、分子性触媒は、1つのカルボニル配位子及びターピリジル配位子とビピリジル配位子を有するルテニウム錯体及び/又はカルボニル配位子及びビピリジル配位子をそれぞれ2つ有するルテニウム錯体とすることが開示されている。このとき、二酸化炭素(CO)の圧力を0.5MPa以上とし、pHが4~11の範囲とすることが好ましいとされている。
【0004】
また、2,2’-ビピリジン系配位子を持つルテニウム錯体を含む分子性触媒を用いた太陽電池利用システムにおいて、電解液中の酸素濃度が0%のときのギ酸(HCOOH)の生成ファラデー効率は93%、酸素濃度が7%のときのギ酸(HCOOH)の生成ファラデー効率は76%となることが開示されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-62038号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Energy Environ. Sci. 2015, 8, 1998-2002
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1では、ギ酸(HCOOH)の生成に適した化学反応装置の動作条件は何ら開示されていない。また、非特許文献1では、電解液の温度やpH等の動作条件は記載されておらず、電解液中の二酸化炭素(CO)の濃度とギ酸(HCOOH)の生成ファラデー効率との関係が不明確である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の1つの態様は、ビピリジン系配位子を有するルテニウム錯体を含む分子性触媒である還元触媒を電解液中で用い、前記電解液は、pH範囲が6.0以上6.8以下の緩衝液であり、前記電解液中の二酸化炭素(CO)の濃度範囲が80%以上100%以下であり、前記電解液の温度範囲が0℃以上40℃以下の条件下において動作することを特徴とする化学反応装置である。
【0009】
ここで、前記ビピリジン系配位子は、2,2’-ビピリジン系配位子であることが好適である。また、ギ酸(HCOOH)を生成することが好適である。
【0010】
本発明の別の態様は、上記化学反応装置を含み、太陽光エネルギーを利用して還元反応させることを特徴とする太陽光エネルギー利用システムである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ビピリジン系配位子を有するルテニウム錯体を含む分子性触媒である還元触媒を用いて、高い反応効率においてギ酸(HCOOH)を生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施の形態における化学反応装置の構成を示す図である。
図2】本発明の実施の形態における化学反応装置の構成の別例を示す図である。
図3】本発明の実施の形態における還元反応用電極の構成を示す断面図である。
図4】本発明の実施の形態における酸化反応用電極の構成を示す断面図である。
図5】実施例1における実験方法を説明するための図である。
図6】実施例1における測定結果を示す図である。
図7】実施例2における測定結果を示す図である。
図8】実施例2における測定結果を示す図である。
図9】実施例2における測定結果を示す図である。
図10】実施例3における測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本発明の実施の形態に係る化学反応装置100の構成を示している。化学反応装置100は、還元反応用電極102と、その対極である酸化反応用電極104が電気的に接続されて構成される。ここで、図2に示すように、還元反応用電極102と、酸化反応用電極104との間にバイアス電源106を配置し、還元反応用電極102を酸化反応用電極104に対してバイアス電圧(0~1.4V)だけ負のバイアスがかかるように構成してもよい。
【0014】
還元反応用電極102は、還元反応によって物質を還元するために利用される電極である。還元反応用電極102は、図3の断面図に示すように、基板114上に形成される。還元反応用電極102は、導電層10及び導電体層12を含んで構成される。
【0015】
基板114は、還元反応用電極102を構造的に支持する部材である。基板114は、特に材料が限定されるものではないが、例えば、ガラス基板等とされる。また、基板114は、例えば、金属又は半導体を含んでもよい。基板114として用いられる金属は、特に限定されるものではないが、銀(Ag)、金(Au)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、カドミウム(Cd)、スズ(Sn)、パラジウム(Pd)、鉛(Pb)を含むことが好適である。基板114として用いられる半導体は、特に限定されるものではないが、酸化チタン(TiO)、酸化スズ(SnO)、シリコン(Si)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化タンタル(Ta)等とすることが好適である。基板114を金属又は半導体を含むものとした場合、表面に絶縁層を形成することが好適である。絶縁層は、特に限定されるものではないが、半導体の酸化物、窒化物や樹脂等とすることができる。
【0016】
導電層10は、還元反応用電極102における集電を効果的にするために設けられる。導電層10は、特に限定されるものではないが、酸化インジウム錫(ITO)、フッ素ドープ酸化錫(FTO)、酸化亜鉛(ZnO)等の透明導電層とすることが好適である。特に、熱的及び化学的な安定性を考慮するとフッ素ドープ酸化錫(FTO)を用いることが好適である。
【0017】
導電体層12は、還元触媒機能を有する材料を含む導電体から構成される。導電体は、カーボン材料(C)を含む材料から構成することができる。カーボン材料の構造体の単体のサイズが1nm以上1μm以下であることが好適である。カーボン材料は、例えば、カーボンナノチューブ、グラフェン及びグラファイトの少なくとも1つを含むことが好適である。グラフェン及びグラファイトであればサイズが1nm以上1μm以下であることが好適である。カーボンナノチューブであれば直径が1nm以上40nm以下であることが好適である。導電体は、エタノール等の液体に混ぜ合わせたカーボン材料をスプレーで塗布し、加熱することによって形成することができる。スプレーの代わりに、スピンコートによって塗布してもよい。また、スピンコートを用いず、直接溶液を滴下して乾かして塗布してもよい。導電体は、例えば、カーボンペーパー(CP)上にマルチウォールカーボンナノチューブ(Multi-Wall Carbon Nano-Tubes)を担持したものとすることができる。
【0018】
錯体触媒は、例えば、ビピリジン系配位子を持つルテニウム錯体とすることが好適である。錯体触媒は、例えば、[Ru{4,4’-di(1-H-1-pyrrolypropyl carbonate)-2,2’-bipyridine}(CO)(MeCN)Cl]、[Ru{4,4’-di(1-H-1-pyrrolypropyl carbonate)-2,2’-bipyridine}(CO)Cl]、[Ru{4,4’-di(1-H-1-pyrrolypropyl carbonate)-2,2’-bipyridine}(CO)、[Ru{4,4’-di(1-H-1-pyrrolypropyl carbonate)-2,2’-bipyridine}(CO)(CHCN)Cl]等とすることができる。
【0019】
また、錯体触媒は、例えば、ビピリジン系配位子を持つレニウム錯体とすることが好適である。錯体触媒は、例えば、((Re(dcbpy)(CO)P(OEt))),((Re(dcbpy)(CO)Cl)),Re(dcbpy)(CO)MeCN,Re(dcbqi)(CO)MeCN等とすることができる。
【0020】
錯体触媒による修飾は、錯体をアセトニトリル(MeCN)溶液に溶解した液を導電体層12の導電体の上に塗布することで作ることができる。また、錯体触媒による修飾は、電解重合法により行うこともできる。作用極として導電体層12の導電体の電極、対極にフッ素含有酸化スズ(FTO)で被覆したガラス基板、参照電極にAg/Ag電極を用い、錯体触媒を含む電解液中においてAg/Ag電極に対して負電圧となるようにカソード電流を流した後、Ag/Ag電極に対して正電位となるようにアノード電流を流すことにより導電体層12の導電体上を錯体触媒で修飾することができる。電解質の溶液には、アセトニトリル(MeCN)、電解質には、Tetrabutylammoniumperchlorate(TBAP)を用いることができる。
【0021】
このように形成された導電体層12は、還元反応用電極102を構成する導電層10上に担持、塗布又は貼付される。これにより、導電層10及び導電体層12を含む還元反応用電極102が形成される。
【0022】
酸化反応用電極104は、酸化反応によって物質を酸化するために利用される電極である。本実施の形態において、酸化反応用電極104は、特に限定されるものでなく、水(HO)を酸化できるものであればよい。酸化反応用電極104は、例えば、プラチナ(Pt)とすることができる。
【0023】
また、酸化反応用電極104は、図4の断面図に示すように、基板116上に形成された、導電層14及び酸化触媒層16を含んで構成してもよい。
【0024】
基板116は、酸化反応用電極104を構造的に支持する部材である。基板116は、特に材料が限定されるものではないが、例えば、ガラス基板等とされる。また、基板116は、例えば、金属又は半導体を含んでもよい。基板116として用いられる金属は、特に限定されるものではないが、銀(Ag)、金(Au)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、カドミウム(Cd)、スズ(Sn)、パラジウム(Pd)、鉛(Pb)を含むことが好適である。基板116として用いられる半導体は、特に限定されるものではないが、酸化チタン(TiO)、酸化スズ(SnO)、シリコン(Si)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化タンタル(Ta)等とすることが好適である。基板116を金属又は半導体を含むものとした場合、表面に絶縁層を形成することが好適である。絶縁層は、特に限定されるものではないが、半導体の酸化物、窒化物や樹脂等とすることができる。
【0025】
導電層14は、酸化反応用電極104における集電を効果的にするために設けられる。導電層14は、特に限定されるものではないが、酸化インジウム錫(ITO)、フッ素ドープ酸化錫(FTO)、酸化亜鉛(ZnO)等とすることが好適である。特に、熱的及び化学的な安定性を考慮するとフッ素ドープ酸化錫(FTO)を用いることが好適である。
【0026】
酸化触媒層16は、酸化触媒機能を有する材料を含んで構成される。酸化触媒機能を有する材料は、例えば、酸化イリジウム(IrOx)を含む材料とすることができる。酸化イリジウムは、ナノコロイド溶液として導電層14の表面上に担持することができる(T.Arai et.al, Energy Environ. Sci. 8, 1998 (2015))。
【0027】
化学反応装置100は、還元反応用電極102と酸化反応用電極104の間に電解液を導入することで機能する。例えば、還元反応用電極102と酸化反応用電極104の表面に反応物が溶解された電解液を供給する。反応物は、炭化化合物とすることができ、例えば、二酸化炭素(CO)とすることができる。また、電解液は、リン酸緩衝水溶液やホウ酸緩衝水溶液とすることが好適である。具体的な構成例では、二酸化炭素(CO)飽和リン酸緩衝液のタンクを設け、ポンプによって当該液を還元反応用電極102と酸化反応用電極104との表面に供給し、還元反応によって生じたギ酸(HCOOH)や酸素(O)を外部の燃料タンクに回収する。
【0028】
また、還元反応用電極102と酸化反応用電極104との間を電気的に接続し、バイアス電源106から適切なバイアス電圧を印加した状態としてもよい。バイアス電源106は、特に限定されるものではなく、化学的電池(一次電池、二次電池等を含む)、定電圧源、太陽電池等が挙げられる。このとき、酸化反応用電極104に正極が接続され、還元反応用電極102に負極が接続される。
【0029】
二酸化炭素(CO)からギ酸(HCOOH)等を合成する場合、水(HO)は酸化されて二酸化炭素(CO)に電子とプロトンを供給する。pH7付近では水(HO)の酸化電位は0.82V、還元電位は-0.41V(何れもNHE)である。また、二酸化炭素(CO)から一酸化炭素(CO)、ギ酸(HCOOH)、メチルアルコール(CHOH)への還元電位はそれぞれ-0.53V,-0.61V,-0.38Vである。したがって、酸化電位と還元電位の電位差は1.20~1.43Vである。
【0030】
<実施例1>
カーボンペーパー(CP)上にマルチウォールカーボンナノチューブ(Multi-Wall Carbon Nano-Tubes)を担持し、その表面上に2,2’-ビピリジン系配位子を有するルテニウム錯体を高分化して担持し、これをFTO膜付ガラス基板上にグラファイトペーストを用いて貼り合わせた構造を有する還元反応用電極102を用いた。すなわち、還元反応用電極102は、ルテニウム錯体(RuCP:Ru Complex Polymer)/マルチウォールカーボンナノチューブ(MWCNTs)/カーボンペーパー(CP)/グラファイトペースト(GP)/FTOの順に積層された構成とした。また、酸化反応用電極104(対極)にはプラチナ(Pt)ワイヤーを用い、基準電極にはHg/HgSO4電極を用いた三電極の化学反応装置を構成した。
【0031】
電解液としては、0.1M-KHPO+0.1M-KHPOで調整した燐酸緩衝液を用いた。電解液の容量は、15mlとした。
【0032】
本実施例では、電解液にギ酸(HCOOH)を加えて、還元反応用電極102の電気化学特性がどのように変化するかを調べた。測定中は、電解液中に100%の二酸化炭素(CO)を連続バブリングして二酸化炭素(CO)を連続供給した。このような構成において、ギ酸(HCOOH)を順次添加して、電解液のpHを測定、定電流モードでの電圧の時間変化(V-t)測定を行った。定電流モードでの電圧の時間変化(V-t)測定は、定電流密度を2mA/cmとし、測定時間を30minの測定条件にて行った。
【0033】
測定は、図5に示すように、ギ酸(HCOOH)を順次添加しつつ、上記測定を繰り返した。具体的には、ギ酸(HCOOH)を無添加の状態から、添加量1.0μl(総量1.0μl)、添加量1.0μl(総量2.0μl)、添加量4.0μl(総量6.0μl)、添加量5.0μl(総量11.0μl)、添加量16.7.0μl(総量27.7μl)、添加量27.7μl(総量55.4μl)を添加して、それぞれにおいて上記測定を繰り返した。
【0034】
図6は、各測定における電解液のpHとV-t測定結果を併せて示す。電解液のpHが6.0未満になるギ酸(HCOOH)濃度以上では、還元反応用電極102で水素(H)の気泡の生成がみられ、ギ酸(HCOOH)の生成の能力が低下した。すなわち、電解液中のギ酸(HCOOH)の濃度をpHが6.0以上6.8以下に維持することが好適であることがわかった。
【0035】
ここで、化学反応装置を構成する容器内に流れる電流密度j、電解液を流す方向の還元反応用電極102における還元触媒の長さL及び当該方向に直交する幅W、容器出口における電解液のギ酸(HCOOH)の濃度C、容器入口における電解液のギ酸(HCOOH)の濃度C及びファラデー定数Fとしたとき、容器への電解液の流入速度Qの範囲を、(j×W×L)/{F×(C-C)}≦Qの条件を満たすようにすれば、電解液中のギ酸(HCOOH)の濃度をpHが6.0以上6.8以下に維持することができる。
【0036】
例えば、電流密度j=5mA/cm、還元触媒の長さL=32cm及び幅W=32cm、容器入口における電解液のギ酸(HCOOH)の濃度をC=0、電解液のpHが6.0となる容器出口における電解液のギ酸(HCOOH)の濃度C=0.01mol/Lとすると、ファラデー定数F=9.65×10C/molであるので、容器への電解液の流入速度Qを5.3mL/sec以上とすればよい。
【0037】
<実施例2>
本実施例では、電解液の二酸化炭素(CO)の濃度を変えながら、還元反応用電極102の電気化学特性がどのように変化するかを調べた。電解液中の二酸化炭素(CO)の濃度は、溶存炭酸ガスセンサを用いて測定した。バブリング前の電解液中に溶存する二酸化炭素(CO)の濃度は0.0%であった。この電解液中に100%の二酸化炭素(CO)をバブリングすることにより、溶存する二酸化炭素(CO)の濃度を所定の濃度に設定した電解液を作製した。測定中は、二酸化炭素(CO)のバブリングは行わなかった。
【0038】
1つの還元反応用電極102の試料を用いて、二酸化炭素(CO)の濃度を0から100%に6段階に20%毎に増加させた電解液を用意して定電流モードでの電圧の時間変化(V-t)測定を行った。また、別の還元反応用電極102の試料を用いて、二酸化炭素(CO)の濃度を100%から0に6段階に20%毎に減少させた電解液を用意して定電流モードでの電圧の時間変化(V-t)測定を行った。定電流モードでの電圧の時間変化(V-t)測定は、定電流密度を2mA/cmとし、測定時間を30minの測定条件にて行った。還元反応用電極102の各々において、定電流モードでの電圧の時間変化(V-t)測定後、ギ酸(HCOOH)の生成量をイオンクロマトグラフィーで定量し、ギ酸(HCOOH)の生成量と積算電流量からファラデー効率を算出した。
【0039】
図7は、二酸化炭素(CO)の濃度を0から100%に6段階に20%毎に増加させた電解液についての測定結果を示す。この場合、すべての二酸化炭素(CO)の濃度において還元反応用電極102の表面から水素(H)又は一酸化炭素(CO)の気泡が発生した。また、すべての二酸化炭素(CO)の濃度において、ファラデー効率は40%未満であり、単位面積当たりのギ酸(HCOOH)の生成量も7.5μmol/cm未満であった。このとき、二酸化炭素(CO)の濃度が低い状態で使用した還元反応用電極102は、二酸化炭素(CO)の濃度を高くしてもその性能は回復しなかった。
【0040】
図8は、二酸化炭素(CO)の濃度を100%から0に6段階に20%毎に減少させた電解液についての測定結果を示す。この場合、二酸化炭素(CO)の濃度が60%以下において還元反応用電極102の表面から水素(H)又は一酸化炭素(CO)の気泡が発生した。また、二酸化炭素(CO)の濃度が60%以上において、ファラデー効率は59%以上であり、単位面積当たりのギ酸(HCOOH)の生成量も11.03μmol/cm以上であった。
【0041】
以上から、本実施の形態における還元反応用電極102を用いて安定してギ酸(HCOOH)を生成するためには、電解液中に溶存する二酸化炭素(CO)の濃度を80%以上100%以下にすることが好適であることがわかった。
【0042】
ここで、化学反応装置を構成する容器内に流れる電流密度j、電解液を流す方向の還元反応用電極102における還元触媒の長さL及び幅W、二酸化炭素(CO)の分子量MCO2、電解液の二酸化炭素(CO)の飽和溶解度p、容器入口における二酸化炭素(CO)の濃度Cin及びファラデー定数Fとしたとき、容器への電解液の流入速度Qの範囲を、(j×W×L×M CO2 )/{p×F×(Cin/100-0.80)}≦Qとすることで、二酸化炭素(CO)の濃度を80%以上100%以下に維持することができる。
【0043】
例えば、電流密度j=5mA/cm、還元触媒の長さL=32cm及び幅W=32cm、二酸化炭素(CO)の分子量MCO2=44、容器入口における二酸化炭素(CO)の濃度Cin=100%、電解液の温度が20℃のときの電解液の二酸化炭素(CO)の飽和溶解度p=1.7g/Lとすると、ファラデー定数F=9.65×10C/molであるので、容器への電解液の流入速度Qを6.9mL/sec以上とすればよい。
【0044】
以下、具体例を示す。化学反応装置の容器に二酸化炭素(CO)を溶解させた電解液を流す場合において、容器中の電解液を流す方向の還元反応用電極102の還元触媒の長さL=8.4cm、幅W=8.0cm、厚さd=2cmとした化学反応装置を組んだ。使用した電解液の温度が20oCであったったので電解液の二酸化炭素(CO)の飽和溶解度p=1.7g/Lとした。また、化学反応容器への電解液流入口での二酸化炭素(CO)の濃度Cin=100%とし、定電流として装置全体で100mAとした。したがって、還元反応用電極102の電流密度j=1.49mA/cmとなった。なお、容器への電解液の流入速度Qの範囲は、0.13mL/sec以下となった。
【0045】
図9は、化学反応装置への電解液の流入速度を変化させたときの定電流モードでの電圧の時間変化(V?t)測定を行った結果を示す。図9では、電解液の流入速度が0.9mL/sec及び6.0mL/secのときの電圧の時間変化を測定した結果を示す。
【0046】
本実験において電解液の流入速度は、上記の電解液の流入速度の範囲内に十分に含まれている。しかしながら、この条件下においても、流入速度の速い方が過電圧は低くなり、ギ酸(HCOOH)の生成に有利であることが分かった。これは、還元反応用電極102の表面で、電解液中の二酸化炭素(CO)の濃度がより濃い方が、ギ酸(HCOOH)の生成により優位であることが示された。すなわち、電解液の流入速度を制御することの重要性が示された。
【0047】
<実施例3>
本実施例では、電解液の温度を変えながら、還元反応用電極102の電気化学特性がどのように変化するかを調べた。測定中は、3電極の小容量セルをウォーターバスに入れて電解液の温度を調整した。また、測定中は、電解液中に100%の二酸化炭素(CO)を連続バブリングして二酸化炭素(CO)を連続供給した。各温度の電解液を用意して、定電流モードでの電圧の時間変化(V-t)測定を行った。定電流モードでの電圧の時間変化(V-t)測定は、定電流密度を2mA/cmとし、測定時間を30minの測定条件にて行った。定電流モードでの電圧の時間変化(V-t)測定後、ギ酸(HCOOH)の生成量をイオンクロマトグラフィーで定量し、ギ酸(HCOOH)の生成量と積算電流量からファラデー効率を算出した。
【0048】
図10は、電解液の温度を20℃~60℃まで10℃毎に昇温させた場合についての測定結果を示す。電解液の温度が40℃以下である場合、ファラデー効率は90%以上であり、単位面積当たりのギ酸(HCOOH)の生成量も17μmol/cm以上であった。一方、電解液の温度が50℃以上である場合、ファラデー効率は72%未満となり、単位面積当たりのギ酸(HCOOH)の生成量も14μmol/cm以下まで低下した。
【0049】
以上から、本実施の形態における還元反応用電極102を用いて安定してギ酸(HCOOH)を生成するためには、電解液中の温度を40℃以下に維持することが好適であることがわかった。なお、電解液の凍結を防ぐために、電解液の温度は0℃以上とすることが好適である。
【符号の説明】
【0050】
10 導電層、12 導電体層、14 導電層、16 酸化触媒層、100 化学反応装置、102 還元反応用電極、104 酸化反応用電極、106 バイアス電源、114 基板、116 基板。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10