(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-09
(45)【発行日】2024-05-17
(54)【発明の名称】血中コレステロール低下用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/366 20060101AFI20240510BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20240510BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20240510BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240510BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20240510BHJP
【FI】
A61K31/366
A61K47/36
A61P3/06
A61K9/08
A23L33/10
(21)【出願番号】P 2019231401
(22)【出願日】2019-12-23
【審査請求日】2022-11-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】立木 賢輔
(72)【発明者】
【氏名】比嘉 悠貴
【審査官】高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-534328(JP,A)
【文献】特表2009-500317(JP,A)
【文献】特開2004-298027(JP,A)
【文献】Int. J. Pharm. Sci. Rev. Res,2018年,Vol.50, No.2, Article No.11,p.68-71
【文献】The American Journal of Cardiology,1988年,Vol.62, No.11,p.10J-15J
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトン型モナコリンK、及びデキストリンを含
み、
ラクトン型モナコリンKの含有量が0.01重量%以上であり、且つラクトン型モナコリンK 1重量部当たりデキストリンが100~1000重量部である、血中コレステロール低下用組成物
(但し、サポニンを含む場合を除く)。
【請求項2】
ラクトン型モナコリンK 1重量部当たり、デキストリンを
300~1000重量部含む、請求項1に記載の血中コレステロール低下用組成物。
【請求項3】
飲食品である、請求項1又は2に記載の血中コレステロール低下用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラクトン型モナコリンKを含み、体内でラクトン型モナコリンKを酸型モナコリンKに効率的に変換でき、優れた血中コレステロール低下効果を奏し得る血中コレステロール低下用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
モナコリンK(ロバスタチンと称されることもある)は、紅麹によって産生される化合物であり、体内のコレステロール合成酵素であるHMG-CoAレダクターゼを阻害する作用があり、血中コレステロールを低下できることが知られている。
【0003】
従来、モナコリンKを利用した様々な血中コレステロール低下用組成物が報告されている。例えば、特許文献1には、紅麹及び/又は紅麹エキスを主体として、これにキトサンを混入してなる紅麹健康補助食品が、血圧降下や汚血浄化等に有効であることが開示されている。また、特許文献2には、モナコリンKを含有する食用油脂が、血中コレステロール濃度を低下させる調理・加工用の食用油脂として有用であることが開示されている。特許文献3には、モナコリンKを1mg以上含有する紅楸ドリンクによって、飲料として1日に必要なモナコリンKを一時に摂取可能になることが開示されている。
【0004】
モナコリンKには、以下に示すラクトン型と酸型が存在し、これらは相互に変換可能であることが知られている。また、モナコリンKは、生体内において、酸型が活性を示し、ラクトン型では不活性であることが知られている(非特許文献1)。
【化1】
【0005】
一方、紅麹等を用いて製造されるモナコリンKは、70~90%程度がラクトン型(即ち、不活性型)であり、モナコリンK摂取による血中コレステロール低下効果を有効に奏させるには、生体内でモナコリンKをラクトン型から酸型に効率的に変換させることが重要になる。しかしながら、従来、生体内でモナコリンKをラクトン型から酸型に効率的に変換させるための製剤技術については報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2001-190245号公報
【文献】特開2002-78449号公報
【文献】特開2010-94033号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Alfred W. Alberts, Cardiology 1990:77 (suppl 4): 14-21
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、ラクトン型モナコリンKを含み、体内でラクトン型モナコリンKを酸型モナコリンKに効率的に変換でき、優れた血中コレステロール低下効果を奏し得る血中コレステロール低下用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、ラクトン型モナコリンKとデキストリンを併用することによって、体内でラクトン型モナコリンKを酸型モナコリンKに効率的に変換することが可能になり、モナコリンKによる血中コレステロール低下効果を効率的に奏させ得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0010】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. ラクトン型モナコリンK、及びデキストリンを含む、血中コレステロール低下用組成物。
項2. ラクトン型モナコリンK 1重量部当たり、デキストリンを1~100000重量部含む、項1に記載の血中コレステロール低下用組成物。
項3. 飲食品である、項1又は2に記載の血中コレステロール低下用組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、体内で、ラクトン型モナコリンK(不活性型)を酸型モナコリンK(活性型)に効率的に変換できるので、モナコリンKによるHMG-CoAレダクターゼ阻害作用を効率的に発揮させ、優れた血中コレステロール低下効果を奏することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の血中コレステロール低下用組成物は、ラクトン型モナコリンK及びデキストリンを含むことを特徴とする。以下、本発明の血中コレステロール低下用組成物について詳述する。
【0013】
[ラクトン型モナコリンK]
本発明の血中コレステロール低下用組成物は、ラクトン型モナコリンKを含有する。ラクトン型モナコリンK自体は、HMG-CoAレダクターゼの阻害作用が低く、血中コレステロールの低下効果が微弱であるが、本発明によれば、体内で酸型モナコリンKに効率的に変換させ、優れた血中コレステロール低下効果を奏することができる。
【0014】
ラクトン型モナコリンKは、紅麹菌株モナスカス・ピローサス等のモナコリンK産生菌を用いて製楸する方法等の公知の製造方法で得ることができる。
【0015】
また、ラクトン型モナコリンKは、酸型モナコリンKと混合された状態のものを使用してもよく、また紅麹のエキス、紅麹の粉末化物等の状態のものを使用してもよい。
【0016】
本発明の血中コレステロール低下用組成物におけるラクトン型モナコリンKの含有量については、配合される他の成分の含有量、血中コレステロール低下用組成物の形態、1回当たりの摂取量等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、0.001~10重量%、好ましくは0.01~9.5重量%、より好ましくは0.1~9.5重量%、更に好ましくは0.1~9.1重量%が挙げられる。
【0017】
[デキストリン]
本発明の血中コレステロール低下用組成物は、デキストリンを含有する。本発明において、デキストリンは、体内でラクトン型モナコリンKが酸型モナコリンKに変換されるのを促進する役割を果たす。
【0018】
本発明で使用されるデキストリンは、直鎖状、分岐鎖状、又は環状のいずれであってもよいが、好ましくは鎖状が挙げられる。また、本発明で使用されるデキストリンにおいて、グルコース間の結合様式としては、例えば、α1,4-結合、α-1,6結合、β-1,2結合、β-1,3結合、β-1,4結合、β-1,6結合等のいずれであってもよく、単一の結合様式のみを含むものであっても、また、2種以上の結合様式方式を含むものであってもよい。体内における酸型モナコリンKへの変換効率をより一層向上させるという観点から、好ましくはα-1,4結合及びα-1,6結合のいずれか少なくとも一方を有するデキストリンが挙げられる。
【0019】
本発明において、「デキストリン」は、狭義のデキストリン及びマルトデキストリンを指しており、分子量が大きい難消化性デキストリンや焙焼デキストリンは包含されない。本発明で使用されるデキストリンのDEについては、1~20であればよいが、体内における酸型モナコリンKへの変換効率をより一層向上させるという観点から、好ましくは1~15、より好ましくは1~10、更に好ましくは2~8、特に好ましくは6~8が挙げられる。本発明において、デキストリンのDEとは、澱粉の分解程度を示す指標であるデキストロース当量であり、ソモギ変法(澱粉糖関連工業分析法11~13頁、澱粉糖技術部会編、食品化学新聞社発行)により測定される値である。
【0020】
本発明において、デキストリンは、1種の構造のものを単独で使用してもよく、また2種以上の構造のものを組み合わせて使用してもよい。
【0021】
本発明の血中コレステロール低下用組成物におけるデキストリンの含有量については、配合されるラクトン型モナコリンKの含有量、血中コレステロール低下用組成物の形態や用途、1回当たりの摂取量等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、5~99.995重量%、好ましくは10~99重量%、より好ましくは20~95重量%、更に好ましくは30~90重量%が挙げられる。
【0022】
また、本発明の血中コレステロール低下用組成物におけるラクトン型モナコリンKとデキストリンの比率としては、例えば、ラクトン型モナコリンK 1重量部当たり、デキストリンが1~100000重量部、好ましくは10~20000重量部、より好ましくは10~10000重量部、更に好ましくは100~1000重量部、特に好ましくは300~1000重量部が挙げられる。
【0023】
[その他の成分]
本発明の血中コレステロール低下用組成物は、前述する成分に加えて、他の栄養成分や薬理成分を含有していてもよい。このような栄養成分や薬理成分としては、食品や内服用医薬品に使用可能なものであれば特に制限されないが、例えば、ビタミン、アミノ酸、ミネラル、糖質、脂肪酸、香料、調味剤、植物エキス、抗酸化剤、血糖降下剤、抗コレステロール剤、免疫賦活剤等が挙げられる。これらの成分は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、これらの成分の含有量については、使用する添分の種類等に応じて適宜設定される。
【0024】
更に、本発明の血中コレステロール低下用組成物は、所望の製剤形態に調製するために、必要に応じて前述する成分の他に、基剤や添加剤等が含まれていてもよい。このような基剤及び添加剤としては、食品や内服用医薬品に使用可能なものであれば特に制限されないが、例えば、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、結合剤、増粘剤、低級アルコール、固形油、高級アルコール、水溶性高分子、界面活性剤、多価アルコール、pH調整剤、緩衝剤、酸化防止剤、防腐剤、キレート剤、水等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、これらの基剤や添加剤の含有量については、使用する成分の種類や血中コレステロール低下用組成物の用途等に応じて適宜設定される。
【0025】
[剤型・製剤形態]
本発明の血中コレステロール低下用組成物の剤型については、経口摂取又は経口投与が可能であることを限度として特に制限されず、固体状、半固体状、又は液体状のいずれであってもよく、血中コレステロール低下用組成物の形態に応じて適宜設定すればよい。
【0026】
本発明の血中コレステロール低下用組成物の製剤形態については、経口摂取又は経口投与が可能であることを限度として特に制限されないが、具体的には、飲食品及び内服用医薬品が挙げられる。
【0027】
本発明の血中コレステロール低下用組成物を飲食品の製剤形態にする場合、前述する成分を、そのまま又は他の食品素材や添加成分と組み合わせて所望の形態に調製すればよい。このような飲食品としては、一般の飲食品の他、特定保健用食品、栄養補助食品、機能性表示食品、病者用食品等が挙げられる。これらの飲食品の形態として、特に制限されないが、具体的には、カプセル剤(ソフトカプセル剤、ハードカプセル剤)、錠剤(コーティング錠を含む)、顆粒剤、散剤、ゼリー剤等のサプリメント;栄養ドリンク、果汁飲料、炭酸飲料、乳酸飲料等の飲料;団子、アイス、シャーベット、グミ、キャンディー等の嗜好品等が例示される。これらの飲食品の中でも、好ましくはサプリメント、より好ましくは錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤が挙げられる。
【0028】
本発明の血中コレステロール低下用組成物を内服用医薬品の製剤形態にする場合、前述する成分を、そのまま又は他の添加成分と組み合わせて所望の形態に調製すればよい。このような内服用医薬品としては、具体的には、カプセル剤(ソフトカプセル剤、ハードカプセル剤)、錠剤(コーティング錠を含む)、顆粒剤、散剤、ゼリー剤、シロップ剤、液剤等が挙げられる。これらの内服用医薬品の中でも、好ましくは、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤が挙げられる。
【0029】
[用途]
本発明の血中コレステロール低下用組成物は、体内でラクトン型モナコリンKを効率的に酸型モナコリンKに変換させて、優れたHMG-CoAレダクターゼ阻害作用を発揮できるので、血中コレステロール低下用途に使用される。
【0030】
[摂取又は服用量]
本発明の経血中コレステロール低下用組成物の摂取又は服用量については、特に限定されず、製剤形態、用途等に応じて適宜設定されるが、例えば、成人の場合、1日当たりのラクトン型モナコリンKの摂取又は服用量が、0.1~10mg程度、好ましくは0.5~10mgとなるように設定すればよい。
【実施例】
【0031】
次に、本発明を実施例により、更に詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0032】
試験例1
1.5ml容のマイクロチューブに、ラクトン型モナコリンK(東京化成工業株式会社)1mg、表1に示す各検体10mg、100mg又は300mg、及び人工胃液(100mMグリシン-塩酸溶液、pH2.2)0.1mlをこの順に添加し、25℃で1時間保温した。試験開始時と1時間保温後の液について、HPLCにて酸型モナコリンK量を定量し、下記算出式に従って、酸型モナコリンKへの変換率を算出した。
【数1】
【0033】
結果を表1に示す。ラクトン型モナコリンKと、片栗粉、グルコース又は結晶セルロースを共存させた場合には、ラクトン型モナコリンKから酸型モナコリンKへの変換がやや促進されていたが、酸型モナコリンKへの変換率はいずれも2%を下回っていた。これに対して、ラクトン型モナコリンKとデキストリンを共存させた場合には、ラクトン型モナコリンKから酸型モナコリンKへの変換が飛躍的に促進されていた。即ち、以上の結果から、ラクトン型モナコリンKとデキストリンを含む血中コレステロール低下用組成物は、胃内でラクトン型モナコリンKを酸型モナコリンKに効率的に変換させて、優れた血中コレステロール低下効果を奏し得ることが明らかとなった。本効果は、出発原料が同種の成分や賦形剤として汎用される原料の中でも、デキストリン特有の効果であることが示された。
【0034】
【0035】
製造例
表2に示す組成の粉末剤を調製した。得られた粉末剤を人工胃液に添加すると、ラクトン型モナコリンKから酸型モナコリンKに効率的に変換されることが確認された。
【0036】