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特許7488274クロストーク補正方法およびアクチュエータドライバ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-13
(45)【発行日】2024-05-21
(54)【発明の名称】クロストーク補正方法およびアクチュエータドライバ
(51)【国際特許分類】
   G03B 5/00 20210101AFI20240514BHJP
   G02B 7/04 20210101ALI20240514BHJP
   G03B 30/00 20210101ALI20240514BHJP
   H04N 23/57 20230101ALI20240514BHJP
【FI】
G03B5/00 J
G02B7/04 E
G03B30/00
H04N23/57
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021551162
(86)(22)【出願日】2020-09-24
(86)【国際出願番号】 JP2020036086
(87)【国際公開番号】W WO2021065679
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2023-03-31
(31)【優先権主張番号】P 2019183508
(32)【優先日】2019-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100133215
【弁理士】
【氏名又は名称】真家 大樹
(72)【発明者】
【氏名】前出 淳
(72)【発明者】
【氏名】塚本 拓人
(72)【発明者】
【氏名】吉田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】関本 芳宏
【審査官】三宅 克馬
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-120747(JP,A)
【文献】特開2007-114121(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03B 5/00
G02B 7/04
G03B 30/00
H04N 23/57
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カメラモジュールの補正方法であって、
前記カメラモジュールは、
撮像レンズおよび磁石を有する可動部と、
前記磁石が発生する磁気を検出する磁気検出素子を有し、前記可動部のZ軸方向の位置を示す位置検出信号を生成するオートフォーカス用位置検出手段と、
前記可動部を、光軸に沿ったZ軸方向に位置決めするオートフォーカス用アクチュエータと、
前記可動部を、前記撮像レンズの光軸方向と垂直な平面内において、直交するX軸方向およびY軸方向に位置決めする手振れ補正用アクチュエータと、
を備え、
前記補正方法は、
前記手振れ補正用アクチュエータを用いて、前記可動部を第1方向に変位させ、前記位置検出信号がピーク値をとるときの前記第1方向の位置を検出するステップと、
前記手振れ補正用アクチュエータを用いて、前記可動部を第2方向に変位させ、前記位置検出信号がピーク値をとるときの前記第2方向の位置を検出するステップと、
前記第1方向の位置および前記第2方向の位置にもとづく基準位置を保存するステップと、
前記手振れ補正用アクチュエータによる前記可動部の前記基準位置からの変位量と、前記位置検出信号の補正量との関係を示す補正情報を記憶するステップと、
手ブレ補正およびオートフォーカス動作中に、前記補正情報にもとづいて、前記可動部の前記基準位置からの変位量を取得し、当該変位量に対応する前記補正量を生成するステップと、
前記補正量を利用して前記位置検出信号を補正するステップと、
を備えることを特徴とする補正方法。
【請求項2】
前記基準位置からの前記第1方向、前記第2方向の変位量をそれぞれΔU、ΔVとしたとき、前記補正情報は、R=√(ΔU+ΔV)である半径Rと、前記補正量の関係を示すことを特徴とする請求項1に記載の補正方法。
【請求項3】
前記基準位置からの前記第1方向、前記第2方向の変位量をそれぞれΔU、ΔVとし、AU,AVを定数としたとき、前記補正情報は、R=√(AΔU+AΔV)である半径Rと、前記補正量の関係を示すことを特徴とする請求項1に記載の補正方法。
【請求項4】
前記可動部を前記第1方向に変位させるステップおよび前記可動部を前記第2方向に変位させるステップにおいて、オートフォーカスのためのフィードバック制御は行わないことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の補正方法。
【請求項5】
前記補正するステップよりも前の段階で、前記位置検出信号の線形補正を行うステップをさらに備えることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の補正方法。
【請求項6】
カメラモジュール用のアクチュエータドライバであって、
前記カメラモジュールは、
撮像レンズおよび磁石を有する可動部と、
前記可動部を、光軸に沿ったZ軸方向に位置決めするオートフォーカス用アクチュエータと、
前記磁石が発生する磁気を検出する磁気検出素子を有し、前記可動部のZ軸方向の位置を示す位置検出信号を生成するオートフォーカス用位置検出手段と、
前記可動部を、前記撮像レンズの光軸方向と垂直な平面内において、直交するX軸方向およびY軸方向に位置決めする手振れ補正用アクチュエータと、
を備え、
前記アクチュエータドライバは、
前記オートフォーカス用アクチュエータを制御するオートフォーカス用駆動部と、
前記手振れ補正用アクチュエータを制御する手振れ補正用駆動部と、
基準位置を保存する第1メモリと、
補正情報を保存する第2メモリと、
プロセッサと、
を備え、
キャリブレーション工程において、前記可動部を第1方向に変位させ、前記位置検出信号がピーク値をとるときの前記第1方向の位置が検出され、
前記キャリブレーション工程において、前記可動部を第2方向に変位させ、前記位置検出信号がピーク値をとるときの前記第2方向の位置が検出され、
前記キャリブレーション工程において、前記第1メモリに、前記第1方向の位置および前記第2方向の位置にもとづく基準位置が保存され、
前記キャリブレーション工程において、前記第2メモリに、前記手振れ補正用アクチュエータによる前記可動部の前記基準位置からの変位量と、前記位置検出信号の補正量との関係を示す補正情報が保存され、
前記プロセッサは、手ブレ補正およびオートフォーカス動作中に、前記補正情報にもとづいて、前記可動部の前記基準位置からの変位量に対応する前記補正量を生成し、前記補正量を利用して前記位置検出信号を補正することを特徴とするアクチュエータドライバ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、カメラモジュールにおける位置検出のクロストークの補正方法、およびクロストーク補正機能を備えたアクチュエータドライバに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォンなどに搭載されるカメラモジュールにおいては、撮像レンズとイメージセンサの相対位置(変位量)を検出して、この位置情報をフィードバックすることで、撮像レンズあるいはイメージセンサの位置を高精度かつ高速に制御する機能を取り入れるものが増加してきている。たとえば、光学手ブレ補正(OIS)としてフィードバック制御を取り入れることにより、高精度の手ブレ補正が可能となる。また、オートフォーカス(AF)機能においてフィードバック制御を取り入れることで、高速のフォーカス引き込みや焦点位置維持の高精度化を実現することができる。
【0003】
OIS機能とAF機能の両方にフィードバック制御を取り入れたカメラモジュールとして、さまざまな例が開示されている。たとえば、特許文献1には、撮像レンズをAFのために駆動し、AFアクチュエータ全体をOISのために駆動する例が開示されている。ここでは、AFの位置検出のための検出磁石がAF可動部に、磁気の変化を検出するホール素子が固定部に配置されている。
【0004】
特許文献1に記載のカメラモジュールでは、AFの位置検出のための検出磁石がAF可動部に、ホール素子が固定部に配置されているため、OISにともなう可動部の変位によって、AFの検出磁石も変位してしまうため、OIS変位によってAF位置検出信号が変化する、いわゆるクロストークが発生してしまう。このクロストークの対策として、AF位置検出磁石を円柱形状とし、手ぶれ補正が行われていないときの基準位置に対するX方向、Y方向の変位を半径換算して表し、この半径に応じたAF位置検出信号の誤差を相殺するようにクロストーク補正することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-120747号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、半径に応じたAFの位置検出信号の誤差を定式化できるのは、基準位置において位置検出磁石の中心がホール素子の感磁部の直上にある場合に限られる。しかしながら、実際のカメラモジュールでは、各部品の寸法公差、組み立てばらつきなどの影響によって、位置検出磁石の中心が、ホール素子の感磁部の直上にある保証はない。
【0007】
磁石中心とホール素子の感磁部がずれていると、検出される磁束密度は半径依存ではなく、方向性をもつことになるので、XY平面内の2次元分布にしたがって補正する必要が生じ、クロストーク補正が非常に複雑になってしまう。
【0008】
本開示はかかる状況に鑑みてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、組立ばらつき等の影響を抑えたクロストークの補正方法と、このようなクロストーク補正機能を備えたアクチュエータドライバを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示のある態様の補正方法は、カメラモジュールの補正方法に関する。カメラモジュールは、撮像レンズおよび磁石を有する可動部と、可動部を、光軸に沿ったZ軸方向に位置決めするオートフォーカス用アクチュエータと、磁石が発生する磁気を検出する磁気検出素子を有し、可動部のZ軸方向の位置を示す位置検出信号を生成するオートフォーカス用位置検出手段と、可動部を、撮像レンズの光軸方向と垂直な平面内において、直交するX軸方向およびY軸方向に位置決めする手振れ補正用アクチュエータと、を備える。補正方法は、手振れ補正用アクチュエータを用いて、可動部を第1方向に変位させ、位置検出信号がピーク値をとるときの第1方向の位置を検出するステップと、手振れ補正用アクチュエータを用いて、可動部を第2方向に変位させ、位置検出信号がピーク値をとるときの第2方向の位置を検出するステップと、第1方向の位置および第2方向の位置にもとづく基準位置を保存するステップと、手振れ補正用アクチュエータによる可動部の基準位置からの変位量と、位置検出信号の補正量との関係を示す補正情報を記憶するステップと、手ブレ補正およびオートフォーカス動作中に、可動部の基準位置からの変位量を取得し、補正情報にもとづいて、当該変位量に対応する補正量を生成するステップと、補正量を利用して位置検出信号を補正するステップと、を備える。
【0010】
本開示の別の態様は、カメラモジュール用のアクチュエータドライバに関する。カメラモジュールは、撮像レンズおよび磁石を有する可動部と、可動部を、光軸に沿ったZ軸方向に位置決めするオートフォーカス用アクチュエータと、磁石が発生する磁気を検出する磁気検出素子を有し、可動部のZ軸方向の位置を示す位置検出信号を生成するオートフォーカス用位置検出手段と、可動部を、撮像レンズの光軸方向と垂直な平面内において、直交するX軸方向およびY軸方向に位置決めする手振れ補正用アクチュエータと、を備える。アクチュエータドライバは、オートフォーカス用アクチュエータを制御するオートフォーカス用駆動部と、手振れ補正用アクチュエータを制御する手振れ補正用駆動部と、基準位置を保存する第1メモリと、補正情報を保存する第2メモリと、プロセッサと、を備える。キャリブレーション工程において、可動部を第1方向に変位させ、位置検出信号がピーク値をとるときの第1方向の位置が検出され、キャリブレーション工程において、可動部を第2方向に変位させ、位置検出信号がピーク値をとるときの第2方向の位置が検出され、キャリブレーション工程において、第1メモリに、第1方向の位置および第2方向の位置にもとづく基準位置が保存され、キャリブレーション工程において、第2メモリに、手振れ補正用アクチュエータによる可動部の基準位置からの変位量と、位置検出信号の補正量との関係を示す補正情報が保存され、プロセッサは、手ブレ補正およびオートフォーカス動作中に、可動部の基準位置からの変位量を取得し、補正情報にもとづいて、当該変位量に対応する補正量を生成し、補正量を利用して位置検出信号を補正する。
【0011】
本開示のある態様は、クロストーク補正方法に関する。クロストーク補正方法は、撮像レンズを変位させることによるオートフォーカス機能と手ぶれ補正機能を備え、オートフォーカスのための可動部の位置検出手段と手ぶれ補正のための可動部の位置検出手段を有し、オートフォーカスのための位置検出手段が、可動部に配置された位置検出磁石と、固定部に配置された磁気検出素子とから構成されたカメラモジュールにおける、位置検出信号のクロストーク補正方法であって、撮像レンズの光軸に垂直な2軸方向に可動部をそれぞれ変位させるプロセスと、前記変位によるオートフォーカスのための位置検出信号のピークを検出するプロセスと、前記ピークを検出したときの手ぶれ補正のための位置検出信号値を2軸方向それぞれで記憶するプロセスと、前記記憶された位置検出信号値を示す位置を基準位置として、前記基準位置からの変位量と、オートフォーカスのための位置検出信号の変化との関係をあらかじめ設定して記憶するプロセスを有し、手ぶれ補正動作中の前記基準位置からの変位量を検出し、記憶された関係に基づいて、前記変位量に応じてオートフォーカスのための位置検出信号の変化分を算出し、前記変化分をオートフォーカスのための位置検出信号から差し引くことでクロストーク補正を行うことを特徴としている。
【0012】
この態様によると、初期状態において位置検出磁石中心とホール素子の感磁部の位置がずれていた場合でも、位置検出磁石中心の延長線上にホール素子の感磁部が存在する条件を探索し、これを基準位置として、OIS動作中の基準位置からのずれ量を半径換算して、半径に応じた位置検出信号の誤差を補正できるので、容易にクロストーク補正が実現できるようになる。
【0013】
また、基準位置からの変位量をそれぞれΔX、ΔYとしたとき、R=√(ΔX+ΔY)によって半径換算し、Rの値に応じてオートフォーカスのための位置検出信号を補正してもよい。
【0014】
また、基準位置からの第1方向、前記第2方向の変位量をそれぞれΔX、ΔYとし、A,Aを定数としたとき、補正情報は、R=√(AΔX+AΔY)である半径Rと、補正量の関係を示してもよい。これにより、X方向とY方向で異なるクロストークが発生する場合に、正しく補正することができる。
【0015】
これにより、位置ずれと位置検出信号の補正量との関係を2次元から1次元に変換できるので、クロストーク補正のための補正係数の算出や補正の演算が容易になる。
【0016】
また、前記撮像レンズの光軸に垂直な2軸方向に可動部をそれぞれ変位させるプロセスにおいて、オートフォーカスのためのフィードバック制御は行わなくてもよい。
【0017】
これによると、オートフォーカスのためのフィードバック制御は行わないので、光軸方向での可動部の位置は基本的に一定であり、光軸に垂直な方向に可動部を変位させたときのAFの位置検出信号の変化をとらえることができる。
【0018】
また、前記変化分をオートフォーカスのための位置検出信号から差し引く処理を行うよりも前の段階で、オートフォーカスのための位置検出信号の線形補正を済ませておいてもよい。
【0019】
これによると、異なる曲線間のずれを補正するよりも、直線の状態にしてから補正した方が、補正が容易になる。
【0020】
本開示の別の態様は、アクチュエータドライバに関する。アクチュエータドライバは、上記のクロストーク補正を実現するための機能を有するアクチュエータドライバであって、撮像レンズの光軸に垂直な2軸方向に可動部を変位させたときに、オートフォーカスのための位置検出信号がピークを示す手ぶれ補正のための位置検出信号値を記憶するためのメモリと、基準位置からの変位量と、オートフォーカスのための位置検出信号の変化との関係を記憶するためのメモリと、手ぶれ補正動作中の基準位置からの変位量に応じて、オートフォーカスのための位置検出信号の変化分を算出するとともに、その変化分をオートフォーカスのための位置検出信号から差し引く処理を実施するためのプロセッサを有することを特徴としている。
【0021】
この態様によると、クロストーク補正を実現するためのメモリやプロセッサを有しており、初期状態において位置検出磁石中心とホール素子の感磁部の位置がずれていた場合でも、位置検出磁石中心の延長線上にホール素子の感磁部が存在する条件を探索し、これを基準位置として、OIS動作中の基準位置からのずれ量を半径換算して、半径に応じた位置検出信号の誤差を補正できるので、容易にクロストーク補正が実現できるアクチュエータドライバを提供できる。
【0022】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本開示の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本開示の態様として有効である。
【0023】
さらに、この課題を解決するための手段の記載は、すべての欠くべからざる特徴を説明するものではなく、したがって、記載されるこれらの特徴のサブコンビネーションも、本開示たり得る。
【発明の効果】
【0024】
本開示によれば、組立ばらつき等によって、初期状態(手ぶれ補正が行われず、電流印加が無い状態)において位置検出磁石中心とホール素子の感磁部の位置がずれていた場合でも、基準位置からのずれ量を半径換算して、半径に応じた位置検出信号の誤差を補正することが可能なクロストーク補正方法と、このようなクロストーク補正機能を備えたアクチュエータドライバを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実施の形態に係るカメラモジュールを示す図である。
図2】実施の形態に係るクロストーク補正のキャリブレーション工程のフローチャートである。
図3】実施の形態に係るクロストーク補正の実動作工程のフローチャートである。
図4】実施の形態に係るクロストーク補正を実現するカメラモジュールの概略構成を示す中央断面図である。
図5図4のカメラモジュールにおいて、AF位置検出磁石とホール素子との関係を示す斜視図である。
図6図4のカメラモジュールにおいて、AF位置検出磁石とホール素子との位置関係およびホール素子位置での磁束密度分布の例を示す側面図である。
図7】XY平面内で可動部を走査したときの磁束密度分布の変化の様子を示す図である。
図8】実施の形態に係るクロストーク補正の手順を示すフローチャートである。
図9】実施の形態に係るクロストーク補正を実現するアクチュエータドライバの構成例を示すブロック図である。
図10図10(a)~(c)は、線形補正とクロストーク補正を実施したときの位置検出信号の変化を示す図である。
図11】線形補正の手順を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本開示を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、開示を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも開示の本質的なものであるとは限らない。
【0027】
本明細書において、「部材Aが、部材Bと接続された状態」とは、部材Aと部材Bが物理的に直接的に接続される場合のほか、部材Aと部材Bが、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0028】
同様に、「部材Cが、部材Aと部材Bの間に設けられた状態」とは、部材Aと部材C、あるいは部材Bと部材Cが直接的に接続される場合のほか、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0029】
図1は、実施の形態に係るカメラモジュール100を示す図である。カメラモジュール100は、イメージセンサ102、コントローラ104、可動部110、AF位置検出手段120、AFアクチュエータ130、OIS位置検出手段140、OISアクチュエータ150を備える。
【0030】
イメージセンサ102は、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)センサやCCD(Charge Coupled Device)である。
【0031】
可動部110は、撮像レンズ112および位置検出用の磁石114を備える。撮像レンズ112は、イメージセンサ102より被写体側に設けられる。撮像レンズ112の光軸方向をZ軸、それと直交する平面に、X軸およびY軸をとるものとする。可動部110を、Z軸方向に変位させることにより、撮像レンズ112とイメージセンサ102の距離が制御され、イメージセンサ102上に、被写体の像を結像させることができる(AF動作)。また可動部110を、X軸方向およびY軸方向に変位させることにより、手ブレを補正することができる(OIS動作)。
【0032】
磁石114は、光軸を高さ方向とする円柱形状を有し、高さ方向に磁化された永久磁石である。AF位置検出手段120は、ホール素子などの磁気センサーを含み、磁石114が発生する磁界H(あるいは磁束密度B)を検出し、磁界Hに応じた位置検出信号Szを生成する。位置検出信号Szは、磁石114とAF位置検出手段120の距離、すなわち可動部110のZ軸方向の位置に応じて変化する。
【0033】
コントローラ104は、ピントが合うように、可動部110(撮像レンズ112)のZ方向の位置を制御する。AFアクチュエータ130は、コイルと永久磁石を含むボイスコイルモータである。AFアクチュエータ130は、コントローラ104からの位置指令Sz(REF)を受け、位置検出信号Szが示す位置zが、位置指令Sz(REF)が示す目標位置zREFに近づくように、コイルに流れる電流を調節し、フィードバック制御により可動部110をZ軸方向に位置決めする。
【0034】
OIS位置検出手段140は、ホール素子などの磁気センサーを含み、可動部110のX軸方向およびY軸方向の位置に応じた位置検出信号Sx,Syを生成する。
【0035】
OISアクチュエータ150は、手ブレが抑制されるように、可動部110を、撮像レンズ112の光軸方向と垂直な平面内において、X軸方向およびY軸方向に位置決めする。たとえばコントローラ104は、カメラモジュール100のピッチ軸まわりおよびヨー軸周りの回転を検出するジャイロセンサを含む。ジャイロセンサの出力を積分し、角度情報に変換することにより、X軸およびY軸の位置指令Sx(REF)およびSy(REF)を生成することができる。
【0036】
OISアクチュエータ150は、AFアクチュエータ130と同様に、コイルと永久磁石を含むボイスコイルモータである。OISアクチュエータ150は、位置検出信号Sx,Syが示す現在の可動部110の位置x,yが、位置指令Sx(REF),Sy(REF)が示す目標位置xREF,yREF近づくようにコイルに流れる電流を調節し、フィードバック制御により可動部110をX軸方向およびY軸方向に位置決めする。
【0037】
以上がカメラモジュール100の基本構成である。このカメラモジュール100において、AF位置検出手段120が生成する位置検出信号Szは、理想的には、可動部110のZ方向の位置のみに依存し、X方向およびY方向の位置には依存すべきではないが、実際には、可動部110がX-Y平面内で移動すると、AF位置検出手段120に入射する磁界Hが変化する。これをクロストークと称する。
【0038】
続いて、クロストーク補正について説明する。クロストーク補正は、キャリブレーション工程と、キャリブレーション工程で得られた補正情報にもとづいて位置情報を補正する実動作工程を含む。
【0039】
図2は、実施の形態に係るクロストーク補正のキャリブレーション工程のフローチャートである。はじめに、手振れ補正用アクチュエータを用いて、可動部110を第1方向(U軸方向)に変位させ(S100)、位置検出信号Szがピーク値をとるときの第1方向の位置uを検出する(S102)。
【0040】
同様にして手振れ補正用アクチュエータを用いて、可動部110を第2方向(V軸方向)に変位させ(S104)、位置検出信号Szがピーク値をとるときの第2方向の位置vを検出する(S106)。U軸およびV軸は、X軸およびY軸と一致してもよいし、一致していなくてもよい。
【0041】
そして、第1方向の位置uおよび第2方向の位置vにもとづく基準位置Pを保存する(S108)。
【0042】
そして、手振れ補正用アクチュエータ150による可動部110の基準位置Pからの変位量ΔPと、位置検出信号Szの補正量ΔSzとの関係を示す補正情報を記憶する(S110)。変位量ΔPは、第1方向の変位量ΔUと第2方向の変位量ΔVの組み合わせである。
【0043】
図3は、実施の形態に係るクロストーク補正の実動作工程のフローチャートである。手ブレ補正およびオートフォーカス動作中においては、可動部110の基準位置Pからの変位量ΔPが取得される(S120)。そして、補正情報にもとづいて、当該変位量ΔPに対応する補正量ΔSzを生成する(S122)。そして補正量ΔSzを利用して位置検出信号Szを補正する(S124)。
【0044】
以上がカメラモジュール100におけるクロストーク補正である。本開示は、図1のブロック図や図2図3のフローチャートとして把握される、あるいは上述の説明から導かれるさまざまな装置、方法に及ぶものであり、特定の構成に限定されるものではない。以下、本開示の範囲を狭めるためではなく、開示の本質や動作の理解を助け、またそれらを明確化するために、より具体的な構成例や実施例を説明する。
【0045】
図4は、実施の形態に係るクロストーク補正を実現するカメラモジュールの概略構成を示す中央断面図である。
【0046】
カメラモジュール1は、デジタルカメラやデジタルビデオカメラ、スマートフォンやタブレット端末に内蔵され、写真やビデオ撮影に利用される。カメラモジュール1は、AF機能とOIS機能を有し、それぞれ可動部の位置検出手段を備え、フィードバック制御が可能となっている。位置検出手段は磁石とホール素子とから構成される。ホール素子の代わりに、MR素子、GMR素子のような磁気抵抗素子を用いてもよい。OIS用の位置検出用磁石は、駆動用の磁石を兼用しているが、AF用については、駆動用とは別に位置検出用の磁石を設けている。
【0047】
図4に示すように、カメラモジュール1は、撮像レンズ2を光軸方向に位置決めするためのAFアクチュエータ3と、AFアクチュエータ全体を光軸に垂直な面内で位置決めするためのOISアクチュエータ4を含む。
【0048】
撮像レンズ2は、レンズバレル5内に収納される。撮像レンズ2は、図中では3個で表示しているが、4個以上であってもかまわないし、2個以下であってもかまわない。レンズバレル5は、レンズホルダー6内に位置決めして搭載される。レンズホルダー6は、上下2枚のAFバネ7a、7bによって、マグネットホルダー8に対して光軸方向可動に支持されている。マグネットホルダー8は、4本のサスペンションワイヤー9により、固定部であるベース10に対して光軸に垂直な方向(図のX軸方向およびY軸方向)に可動に支持されている。また、AFアクチュエータ3、OISアクチュエータ4全体を覆うように、カバー11がベース10上に設けられている。
【0049】
OIS駆動磁石12がマグネットホルダー8に搭載され、これに対向してベース10上にOISコイル13が固定されている。同じく、OIS駆動磁石12に対向して、ベース10にはOISホール素子14が固定されている。すなわち、OIS駆動磁石12は、OIS位置検出の目的も兼ねている。図示しているOIS駆動磁石12、OISコイル13、OISホール素子14は図のY軸用であり、90度回転した辺には、図示しないX軸用のOIS駆動磁石、OISコイル、OISホール素子が存在する。一方、図示しているOIS駆動磁石12等に対して反対側の辺には、AF位置検出手段が設けられる。具体的にはAF位置検出磁石15がレンズホルダー6に搭載され、これに対向してベース10にはAFホール素子16が固定されている。図示しているAF位置検出磁石15は、位置検出用途専用であり、駆動には使用されない。AFの駆動用磁石とコイル、すなわちAFアクチュエータ3は、90度回転した図示しない辺に存在する。AFの駆動用磁石はOISのX軸用の駆動用磁石と兼ねていてもよい。OISホール素子14は、マグネットホルダー8の光軸に垂直な方向(図ではY軸方向)の変位を検出し、AFホール素子16は、レンズホルダー6の光軸方向(図ではZ軸方向)の変位を検出する。
【0050】
以上のように、AF用の位置検出磁石はAF可動部に搭載され、AF用のホール素子は固定部であるベースに搭載されている。AF可動部はAF動作のため光軸方向に可動であるとともに、OIS動作時には光軸に垂直な方向にも変位する。そのため、AFの位置検出信号はOIS動作によって影響を受け、いわゆるクロストークが発生する。クロストークがあると、偽の位置検出信号を生成することになるため、クロストークの影響は極力除去することが望ましい。
【0051】
イメージセンサ17は、モジュール基板18に実装されるとともに、センサーカバー19によってカバーされている。ベース10は、センサーカバー19上に搭載されている。センサーカバー19の中央部には開口があり、IRカットガラス20によって開口が蓋をされている。AFアクチュエータ3、OISアクチュエータ4のコイルやホール素子の通電経路としてフレキシブルプリント回路(FPC)21が設けられ、モジュール基板18に接続されている。モジュール基板18には、AFアクチュエータ3、OISアクチュエータ4の位置検出信号を処理し、クロストークを補正して、コイルに適正な駆動電流を供給するアクチュエータドライバ22が実装されている。
【0052】
次に、AF位置検出磁石15とAFホール素子16の関係について、図5図6を用いて詳しく説明する。図5は、図4のカメラモジュールにおいて、AF位置検出磁石15とホール素子16との関係を示す斜視図である。図6は、図4のカメラモジュールにおいて、AF位置検出磁石15とホール素子16との位置関係およびホール素子位置での磁束密度分布の例を示す側面図である。
【0053】
図5に示すように、AF位置検出磁石15は、円柱形状を有する。円柱の中心軸の延長線上に、AFホール素子16の感磁部16aが存在すると仮定すると、この位置関係を基準位置Pとして、基準位置Pからの変位ΔP(AF位置検出磁石15がX軸、Y軸方向に動く)を半径Rに換算して、半径Rと磁束密度Bの関係のグラフ23を図6のように導くことができる。ここでは、AF位置検出磁石15の磁極をN極が下向きになるように設定しているため、磁束密度Bの座標軸は下向きに設定している。グラフ23は、AFホール素子16に対して、AF位置検出磁石15が光軸に垂直な方向に変位したとき、変位量Rと磁束密度Bとの関係を示している。グラフ23はR=0の原点(すなわち基準位置)に対して回転対称形状となり、Rが大きくなるにつれて磁束密度は小さくなる。これは、AF位置検出磁石15による磁束密度分布がそのようになっているせいで、中心軸上で磁束密度が最大となる。この関係を示すグラフ23は、ほぼ2次関数を示すので、BをRの2次関数として関数近似しておくとよい。
【0054】
ところが、初期状態(たとえば、OISによる振れ補正が行われておらず、電流印加が0のとき)において、図5に破線で示すように中心軸が偏芯した円柱磁石15aの場合、この状態を基準位置としてしまうと、基準位置からの変位を半径換算したとしても、半径Rでは磁束密度の変化を一義的に表すことができず、非常に複雑なクロストーク補正が必要になってしまう。そのため、クロストーク補正の前段階で、まずは円柱磁石の中心軸がホール素子の感磁部上に来るような位置を見つけ出し、この位置を基準位置とし、基準位置からの変位量を半径換算し、半径Rとホール素子の感磁部での磁束密度との関係をつかんでおく必要がある。
【0055】
なお、磁石15aは、回転対称の磁束密度分布を生成できればよく、その形状は円柱に限定されない。たとえば直方体の磁石であっても、そこからの距離が遠い領域の磁束密度分布は、実質的に回転対称とみなすことができる。あるいは非円柱の磁石を用い、その周囲に、磁束密度分布を回転対称とするような工夫をこらしてもよい。たとえば直方体の磁石に、円柱型の磁性体(バックヨーク)を接続し、磁束密度分布を回転対称としてもよい。
【0056】
次に、理想的な基準位置Pを見つける方法について、図7を用いて説明する。図7は、XY平面内で可動部を走査したときの磁束密度分布の変化の様子を示す図である。このプロセスは、工場出荷時やカメラ起動時のキャリブレーションにおいて実行し、基準位置Pを示すOISホール信号値を記憶しておくとよい。
【0057】
まず、OISアクチュエータ4によって、可動部を第1方向に走査する。ここでは第1方向をX軸方向にとるものとしX軸方向に走査する。たとえば、Y軸方向駆動の電流を0とし、X軸方向駆動の電流を変化させればよい。このとき、AF位置検出磁石15のY軸上のどの位置の延長線上にAFホール素子16の感磁部16aが存在するかはわからない。磁束密度の変化のグラフ23aから23eのように、感磁部16aの位置によって磁束密度の変化の大きさは変わるが、ピークを示す位置はX=0の位置となる。つまり、Y座標のどの位置を走査していたとしても、磁束密度のピークを示す位置がX=0であり、そのときのOIS位置検出信号値Hxが基準位置のX座標となるので、その値H0Xを記憶しておく。続いて、第2方向についても同様の処理を行う。ここでは第2方向をY軸方向に取るものとし、可動部をY軸方向に走査して、磁束密度のピークを示す位置をY=0とし、そのときのY軸のOIS位置検出信号値Hyの値H0Yを基準位置として記憶しておく。なお、X軸とY軸の走査の順番は逆でもかまわない。このように、基準位置Pを示すOIS位置検出信号値H0X,H0Yとなるためには、OISアクチュエータに一定の電流を印加することになる。
【0058】
以上のようにして、基準位置PのOIS位置検出信号値H0X,H0Yがみつかれば、それがX軸、Y軸の座標値となる。基準位置Pからの変位量R(=ΔP)と磁束密度の変化との関係を前もって把握しておき、その関係式にしたがって、X軸、Y軸方向に変位しても磁束密度の検出結果、すなわちAF位置検出信号値が変化しないように補正してやれば、AF位置検出信号はAFの変位のみによって変化することになり、クロストークが補正される。基準位置からの変位量は、OISの位置検出信号Hx,Hyをもとに、
ΔHx=Hx-H0X
ΔHy=Hy-H0Y
にしたがって算出されるので、X軸、Y軸の2次元の値ΔX、ΔYになるが、基準位置が円柱磁石の中心線上なので、
R=√(ΔX+ΔY
にしたがって半径換算でき、変位量はRという1次元の値で示すことができる。なお、実際には、変位量を距離の次元で示す必要はなく、すべての換算をホール素子による位置検出値(あるいはそのデジタルコード値)の中で実行すればよい。
R=√(ΔHx+ΔHy
【0059】
次に、クロストーク補正の全体の流れを、図8のフローチャートにしたがって説明する。図8は、実施の形態に係るクロストーク補正の手順を示すフローチャートである。なお、フローチャートにおけるプロセス31から36は、工場出荷時やカメラ起動時のキャリブレーションにおいて、事前に実行しておくべきもので、プロセス37から39は、オートフォーカス動作や手ぶれ補正動作中に実行すべきものである。
【0060】
まずは、図7でも説明したように、可動部をX軸方向に走査する(プロセス31)。このとき、AFのホール信号がピークを示すX方向の位置のホール信号H0Xを記憶する(プロセス32)。同様に、可動部をY軸方向に走査する(プロセス33)。このとき、AFのホール信号がピークを示すY方向の位置のホール信号H0Yを記憶する(プロセス34)。これにより、基準位置Pの座標値(ホール信号値H0X,H0Y)が記憶されるので、次には基準位置Pからの変位量とAFホール信号値Szの変化との関係を把握する。X方向、Y方向の基準位置からの変位をOISホール信号で表し、これをそれぞれΔH、ΔHとして、
R=√(ΔH +ΔH
により半径換算する(プロセス35)。そして、Rを変化させながら、そのときのAFホール信号値Szの変化との関係を測定し、両者の関係を関数化しておく(プロセス36)。なお、AFホール信号の変化を測定する際には、AFのフィードバック制御は行わない。フィードバック制御を行うと、AFの位置検出信号が一定になるようにAF可動部が光軸方向に変位してしまい、OIS変位してもAFの位置検出信号が変化せず、関係式が導けない。AFホール信号の変化を測定する際には、AFアクチュエータには電流を印加しないか、あるいは一定の電流を印加しておくとよい。
【0061】
プロセス36では、磁束密度Bが、基準位置Pについて完全な回転対称である場合、ΔH、ΔHの一方をゼロに固定し、他方を変化させることで、Rを変化させ、RとAFホール信号値Szの関係を測定してもよい。
【0062】
次に、実際のAF、OIS動作中の処理について説明する。手ぶれ補正動作によってOIS可動部は変位し、それによりOIS位置検出信号も変化する。基準位置の位置検出信号からの変化量ΔH、ΔHを求め、半径換算して変位量をRとして算出する(プロセス37)。ついで、プロセス36で設定した関数にしたがって、求めたRに対するAFの位置検出信号の補正値(クロストーク補正値)を算出する(プロセス38)。最後に、クロストーク補正値にしたがって、AFのホール信号値を補正する(プロセス39)。以上のプロセスにより、OIS変位によるAF位置検出信号へのクロストークが補正できる。
【0063】
続いて、上述のクロストーク補正機能を有するアクチュエータドライバについて説明する。図9は、実施の形態に係るクロストーク補正を実現するアクチュエータドライバ40(22)の構成例を示すブロック図である。アクチュエータドライバ40は、AF用(Z軸)駆動部と、OIS用のX軸、Y軸用の駆動部42,44,46を集積化したICである。
【0064】
駆動部42,44,46はそれぞれ、対応するアクチュエータ60,62,64をフィードバック制御可能に構成される。駆動部42,44,46は同様に構成される。
【0065】
位置検出素子51x、51y、51zはホール素子(図4では14、16に相当)であり、アクチュエータの可動部の変位に応じたホール電圧V,Vを発生し、アクチュエータドライバ40のホール検出ピン(HP,HN)に供給する。制御のためのターゲット情報は、アクチュエータドライバの外部から供給される。AFの場合は、イメージセンサによる焦点ずれ情報がコントラスト法にもとづいて検出され、CPU52によりターゲット情報としてアクチュエータドライバにもたらされる。OISの場合は、ジャイロセンサ53からの信号が手ぶれ信号としてアクチュエータドライバにもたらされる。ジャイロセンサ53で検出されるのは、手ぶれの角速度なので、アクチュエータドライバ内でこれを積分し、角度情報に変換するとよい。
【0066】
位置検出部510は、ホール電圧V,Vにもとづいて、アクチュエータの可動部の位置(変位)を示すデジタルの位置検出値PFBを生成する。位置検出部510は、ホール電圧を増幅するホールアンプ512と、ホールアンプ512の出力をデジタル値の位置検出値PFBに変換するA/Dコンバータ514を含む。
【0067】
温度補正が必要な場合は、温度検出部520を利用する。温度検出部520は、温度を示す温度検出値Tを生成する。温度は、位置検出素子51の温度を示すことが望ましいため、位置検出素子51であるホール素子を温度検出用としても利用する。これは、ホール素子の内部抵抗rが温度依存性を有することを利用したものである。温度検出部520は、ホール素子の内部抵抗rを測定し、温度を示す情報として利用する。温度検出部520は、定電流回路522とA/Dコンバータ524を含む。定電流回路522は、ホール素子に所定のバイアス電流IBIASを供給する。このバイアス電流IBIASは、ホール素子を動作させるために必要な電源信号でもあり、したがって定電流回路522は、ホールバイアス回路として把握することができる。
【0068】
ホール素子の両端間には、電圧降下IBIAS×rが発生する。この電圧降下は、ホールバイアスピン(HB)に入力される。A/Dコンバータ524は、HBピンの電圧VHB(=IBIAS×r)をデジタル値Tに変換する。バイアス電流IBIASは既知で一定であるから、デジタル値Tは内部抵抗rに比例する信号であり、したがって、ホール素子の温度の情報を含んでいる。内部抵抗rと温度の関係は事前に測定し、関数化し、またはテーブル化されており、後段の補正部530において、デジタル値Tが温度情報に変換される。
【0069】
AFのインタフェース回路540は、CPU52から、アクチュエータの可動部の目標位置を示すターゲットコードTCを受信する。OISのインタフェース回路541は、ブレ検出手段53であるジャイロセンサからピッチ角速度ω、ヨー角速度ωを受信する。たとえばインタフェース回路540、541が、IC(Inter IC)などのシリアルインタフェースであってもよい。AF用フィルタ550はインタフェース回路540が受信したターゲットコードTCをフィルタリングし、位置指令値PREFを生成する。位置指令値PREFが急激に変化すると、可動部の位置がリンギングするおそれがある。フィルタ550により、このリンギングが抑制される。OIS用フィルタ551は、ジャイロDSPであってもよい。ジャイロDSP551はインタフェース回路541が受信した角速度信号ω,ωを積分し、位置指令値PREFを生成する。
【0070】
補正部530は、位置検出部510からの位置検出値PFBを補正する。具体的には、補正部530は、線形補償部532、温度補償部534、メモリ536を含む。線形補償部532は、位置検出値PFBと実際の変位の関係の直線性を補正する。メモリ536には、補正のための関数や各種パラメータなどが格納される。メモリ536は、ROMやフラッシュメモリなどの不揮発性メモリであってもよいし、回路の起動のたびに外部のROMから供給されるデータを一時的に保持する揮発性メモリであってもよい。
【0071】
温度補償部534は、位置検出値PFBと実際の変位との関係に対して、温度変化によって関係が変化するのを補正する。
【0072】
コントローラ560は、位置指令値PREFと、補正部530による補正後の位置検出値PFB_CMPを受ける。ただし、AFについては、補正部530による補正後、さらにクロストーク補正も実施した後の位置検出値PFB_CMPを受ける。クロストーク補正については後述する。コントローラ560は、位置検出値PFB_CMPが位置指令値PREFと一致するように、制御指令値SREFを生成する。コントローラ560は、たとえば誤差検出器562とPID制御器564を含む。誤差検出器562は、位置検出値PFB_CMPと位置指令値PREFの差分(誤差)ΔPを生成する。PID制御器564は、PID(比例・積分・微分)演算によって、制御指令値SREFを生成する。PID制御器564に換えて、PI制御器を用いてもよいし、非線形制御を採用してもよい。
【0073】
ドライバ部570は、制御指令値SREFに応じた駆動電流をアクチュエータ60に供給する。
【0074】
次に、クロストーク補正について説明する。AFの補正部530の後段には、クロストーク補正DSP580が設けられる。クロストーク補正DSP580は、第1メモリ582、第2メモリ584、プロセッサ586を備える。
第1メモリ582は、基準位置Pの位置情報としてのOISのホール信号値(補正部530の出力)を記憶する。第2メモリ584は、基準位置Pからの変位量ΔP(=R)と、オートフォーカスのための位置検出信号の補正量との関係を示す補正情報を記憶する。プロセッサ586は、手ぶれ補正動作中の基準位置Pからの変位量ΔP(=R)に応じて、オートフォーカスのための位置検出信号PFB’の補正量を算出するとともに、その補正量をオートフォーカスのための位置検出信号から減算する。メモリ582,584内には、工場出荷時やカメラ起動時のキャリブレーションにおいて、予め必要な情報が記憶されている。
【0075】
AFおよびOISの動作中において、補正部530による補正後のOISのX軸、Y軸の位置検出値が分岐されて、それぞれクロストーク補正DSP580内に取り込まれる。クロストーク補正DSP580のプロセッサ586は、現在の位置検出値と、予め記憶された基準位置Pに相当する位置検出値との差分を演算し、X軸、Y軸それぞれの差分情報ΔX、ΔYに基づいて、
R=√(ΔX+ΔY
により半径換算し、予め記憶されたRとAFの位置検出値の変化との関係から現在のRに対するクロストーク補正値を演算し、AFの位置検出値のクロストークを補正して、位置検出値PFB_CMPを出力する。以上により、OIS変位によるAF位置検出信号へのクロストークが補正される。
【0076】
次に、図10(a)~(c)を用いて、実際のAF位置検出信号の補正例について説明する。図10(a)は、補正する前のAFのストローク位置と位置検出信号との関係を示している。グラフの縦軸は磁束密度として示しているが、磁束密度に比例した位置検出信号が得られるので、位置検出信号としても同等である。図6と同様、磁石のN極が下向きであることを想定しているので、グラフの縦軸の磁束密度の座標軸は下向きに設定している。磁束密度の絶対値としては、上にあるほど小さいことになる。AFストローク位置によってAF位置検出信号は変化しており、逆に言うとAF位置検出信号からAFストローク位置を特定することができる。AFストローク位置とAF位置検出信号との関係はリニアではなく、若干上に凸のカーブを描いている。また、基準位置からの変位量(半径換算してRで示す)によって、グラフは全体にオフセットしており、クロストーク成分を含むことがわかる。
【0077】
図10(a)では、Rの値に応じた位置検出値の変化量が、AFストローク位置によって変化しており、グラフの右側ほどRによる差が小さくなっている。したがって、この状態でRの値ごとにオフセット補正値を与えたとしても、AFストローク位置によって適正補正値が異なるため、ストロークの全領域で正しいクロストーク補正をすることができない。そこで、クロストーク補正をする前に、まず線形補正を実行する。図10(b)は、図10(a)の結果に対して線形補正を実施した後の結果を示している。線形補正の方法については、図11を用いて後述する。
【0078】
図10(b)の結果によると、Rの値ごとのAFストローク位置とAF位置検出値との関係は直線を示しており、それぞれがほぼ平行になっている。したがって、Rの値ごとにクロストーク補正のためのオフセットを与えると、図10(c)のように、複数の条件の結果がほぼ1本の直線に補正される。すなわち、線形補正とクロストーク補正の両方が実行されたことになる。
【0079】
次に、図11を用いて、線形補正について、若干補足説明をする。図11は、線形補正の手順を説明するための図である。グラフの横軸はAFストロークで、無限遠(Inf)側のメカ端位置から、マクロ(Macro)側のメカ端位置までの磁束密度(AF位置検出信号)の変化を実線で示している。Inf側メカ端でAF位置検出磁石とAFホール素子の距離は最接近し、そのため磁束密度の絶対値は最大値Biを示す。Macro側メカ端では距離が最も離れるので、磁束密度の絶対値は最小値Bmを示す。実線のグラフは、距離の関数となるため2次曲線を示し、上に凸となっている。このような関係を線形補正する。
【0080】
線形補正後の直線が、曲線グラフの両端を結んだ直線になるように補正する。この直線の関数になるように、AFストローク位置ごとのAFのホール信号を補正する。実線のグラフを高次の関数でフィットさせ、この関数の逆関数を求め、検出されたホール信号を逆関数に当てはめてストローク位置情報に変換し、ストローク位置で想定された直線に乗るようにホール信号を補正することで、線形補正が実現できる。
【0081】
以上のようなカメラモジュールは、スマートフォンなどの携帯機器などに用いられる。特に、本開示のカメラモジュールの好適な応用のひとつは、光学手ぶれ補正(OIS)機能とオートフォーカス(AF)機能の両方を備えたカメラモジュールであり、それぞれに位置検出手段を備えて、AFの位置検出信号がOIS動作によって影響を受ける、いわゆるクロストークが存在する場合に適用することが有効である。本開示を利用することで、組立ばらつき等によって、初期状態(手ぶれ補正が行われず、電流印加が無い状態)において位置検出磁石中心とホール素子の感磁部の位置がずれていた場合でも、基準位置からのずれ量を半径換算して、半径に応じた位置検出信号の誤差を補正することが可能なクロストーク補正方法と、このようなクロストーク補正機能を備えたアクチュエータドライバを提供することができる。
【0082】
(変形例1)
実施形態では、磁束密度Bが、基準位置Pについて完全な回転対称である場合を仮定したが、実際には、磁束密度Bの分布が楕円状に扁平している場合もあり得る。すなわち、図8のプロセス35において、基準位置から第1方向(u軸方向)にある距離だけ変位させたときのAFホール信号値Szと、基準位置から第2方向(y軸方向)に同じ距離だけ変位させたときのAFホール信号値Szの値が異なる場合もあり得る。この場合、2つの定数A、Aを導入し、R’=√(AΔU+AΔV)にもとづいて、半径換算し、R’とAFホール信号値Szの関係を補正情報として保持すればよい。
【0083】
第1方向および第2方向は、楕円の短軸方向および長軸方向(またはその逆)にとればよい。X軸方向が短軸、Y軸方向が長軸となる場合、R’=√(AΔH +AΔH )により半径換算すればよい。そして、実動作中には、R’=√(AΔH +AΔH )にもとづいて変位量R’を計算し、変位量R’に対応する補正量にもとづいて、AFホール信号値Szを補正すればよい。
【0084】
(変形例2)
図8のプロセス36において、換算半径Rと、AFホール信号値Szにもとづく補正量の関係を関数化して保存したがその限りでない。たとえば換算半径Rと補正量の関係をテーブルで保持しておき、プロセス38において、テーブル参照により、換算半径Rに対応する補正値を取得してもよい。テーブルは、すべての換算半径Rの値について保持しておくと、メモリ容量が大きくなる。そこで離散的な複数の換算半径R,R,R…Rと、補正値C,C,C…Cの関係をテーブルに保持しておき、中間的な値Rについては、線形補間によって補正値Cを算出するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本開示は、カメラモジュールにおける位置検出のクロストークの補正方法、およびクロストーク補正機能を備えたアクチュエータドライバに関する。
【符号の説明】
【0086】
1…カメラモジュール
2…撮像レンズ
3…AFアクチュエータ
4…OISアクチュエータ
5…レンズバレル
6…レンズホルダー
7a、7b…AFバネ
8…マグネットホルダー
9…サスペンションワイヤー
10…ベース
11…カバー
12…OIS駆動磁石
13…OISコイル
14…OISホール素子
15…AF位置検出磁石
16…AFホール素子
17…イメージセンサ
18…モジュール基板
19…センサーカバー
20…IRカットガラス
21…FPC
22…アクチュエータドライバ
40…アクチュエータドライバ
42…AF駆動部
44…OIS駆動部
46…OIS駆動部
51…位置検出素子(ホール素子)
52…CPU
53…ジャイロセンサ
60,62,64…アクチュエータ
100…カメラモジュール
102…イメージセンサ
110…可動部
112…撮像レンズ
114…磁石
120…AF位置検出手段
130…AFアクチュエータ
140…OIS位置検出手段
150…OISアクチュエータ
510…位置検出部
512…ホールアンプ
514…A/Dコンバータ
520…温度検出部
522…定電流回路
524…A/Dコンバータ
530…補正部
532…線形補償部
534…温度補償部
536…メモリ
540、541…インタフェース回路
550、551…フィルタ
560…コントローラ
562…誤差検出器
564…PID制御器
570…ドライバ部
580…クロストーク補正DSP。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11