(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-14
(45)【発行日】2024-05-22
(54)【発明の名称】発光素子
(51)【国際特許分類】
H01L 33/06 20100101AFI20240515BHJP
H01L 33/32 20100101ALI20240515BHJP
H01S 5/343 20060101ALN20240515BHJP
【FI】
H01L33/06
H01L33/32
H01S5/343 610
(21)【出願番号】P 2020099551
(22)【出願日】2020-06-08
【審査請求日】2023-05-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】船越 良太
【審査官】高椋 健司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0361246(US,A1)
【文献】特開2007-109885(JP,A)
【文献】特表2019-530228(JP,A)
【文献】特開2007-066981(JP,A)
【文献】国際公開第2011/077473(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00-33/64
H01S 5/00- 5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
n側窒化物半導体層と、
p側窒化物半導体層と、
前記n側窒化物半導体層と前記p側窒化物半導体層の間に設けられ、窒化物半導体で形成された井戸層と窒化物半導体で形成された1又は複数の障壁層を含む活性層と、
を備え、
1又は複数の前記障壁層は、前記p側窒化物半導体層の最も近くに位置するp側障壁層を含み、
前記p側窒化物半導体層は、前記p側障壁層の側から順に、アンドープの第1層と、前記第1層よりもバンドギャップエネルギーが小さいアンドープの第2層と、p型不純物を含み前記p側障壁層よりバンドギャップエネルギーが大きい第3層と、を含み、
前記第1層、前記第2層、及び前記第3層は、窒化物半導体で形成され、
前記第1層の格子定数は前記第2層の格子定数より小さく
、
前記第1層の膜厚は、0.3nm以上、1.5nm以下であり、
前記第2層の膜厚は、0.3nm以上、1.5nm以下であり、
前記第1層は、Al
b1
Ga
1-b1
N(0.01<b1<0.1)からなり、
前記第2層は、In
a1
Ga
1-a1
N(0<a1<1)からなる、発光素子。
【請求項2】
前記第1層の膜厚は、前記第2層の膜厚以下である、
請求項1に記載の発光素子。
【請求項3】
前記第1層の膜厚と、前記第2層の膜厚は、前記p側障壁層の膜厚より小さい、請求項1又は2に記載の発光素子。
【請求項4】
前記p側障壁層は、前記第1層と接している、
請求項1~3のいずれか1項に記載の発光素子。
【請求項5】
前記第1層は、前記第2層と接している、
請求項1~4のいずれか1項に記載の発光素子。
【請求項6】
前記第1層の膜厚は、0.3nm以上、
0.5nm以下である、
請求項1~5のいずれか1項に記載の発光素子。
【請求項7】
前記第3層は、Al
b2Ga
1-b2N(0<b2<1、b1<b2)からなる、
請求項1~6のいずれか1項に記載の発光素子。
【請求項8】
前記井戸層は、In
a2Ga
1-a2N(0<a2<1、a1<a2)からなる、
請求項1~7のいずれか1項に記載の発光素子。
【請求項9】
前記p型不純物はマグネシウムである、
請求項1~8のいずれか1項に記載の発光素子。
【請求項10】
前記p側障壁層はアンドープの層である、
請求項1~9のいずれか1項に記載の発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザダイオード、発光ダイオード等の発光素子は、広範な分野にわたって用いられており、用途によっては特性に高い信頼性が求められる。発光素子は、n型半導体層と、活性層と、p型半導体層の積層体で形成され、ダブルヘテロ接合を有する。順方向に電圧をかけると、n側の半導体層から電子が、p側の半導体層からホールが活性層に流入し、伝導帯へ励起されたキャリアの再結合によって光が自然放出される。
【0003】
III-V族化合物半導体の場合、ホールを放出するp型の不純物として2価の金属イオンが一般的に添加される。窒化物半導体の場合は、p型不純物としてマグネシウム(Mg)が添加されることが多い。添加されたMgがp側の半導体層から活性層に拡散すると、発光効率が低下し、素子の信頼性を損なう要因となる。
【0004】
Mgの拡散を抑える層として、活性層のうち最もp側半導体層に近接する障壁層の上面に、p型半導体層よりもp型不純物濃度の低いAlGaNからなる保護層を配置する構成が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
p側半導体層と活性層の間にAlGaN層を配置することで、Mg等の不純物の拡散が抑制され発光効率の低下を抑制することができるが、素子の順方向電圧が悪化する傾向にある。
【0007】
本発明は、順方向電圧の上昇を抑制しつつ、信頼性を向上することのできる発光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様では、発光素子は、n側窒化物半導体層と、
p側窒化物半導体層と、
前記n側窒化物半導体層と前記p側窒化物半導体層の間に設けられ、窒化物半導体で形成された井戸層と窒化物半導体で形成された1又は複数の障壁層を含む活性層と、
を備え、
1又は複数の前記障壁層は、前記p側窒化物半導体層の最も近くに位置するp側障壁層を含み、
前記p側窒化物半導体層は、前記p側障壁層の側から順に、アンドープの第1層と、前記第1層よりもバンドギャップエネルギーが小さいアンドープの第2層と、p型不純物を含み前記p側障壁層よりバンドギャップエネルギーが大きい第3層と、を含み、
前記第1層、前記第2層、及び前記第3層は、窒化物半導体で形成され、
前記第1層の格子定数は前記第2層の格子定数より小さく、
前記第1層の膜厚は、0.3nm以上、1.5nm以下であり、
前記第2層の膜厚は、0.3nm以上、1.5nm以下であり、
前記第1層は、Al
b1
Ga
1-b1
N(0.01<b1<0.1)からなり、
前記第2層は、In
a1
Ga
1-a1
N(0<a1<1)からなる。
【発明の効果】
【0009】
上記の構成により、順方向電圧の上昇を抑制しつつ、素子の信頼性を向上することができる発光素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】実施形態の発光素子の不純物の拡散抑制効果を説明するための模式図である。
【
図3】作製したサンプルの光出力の維持率を示す表である。
【
図4】
図3の光出力の維持率の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<素子構成>
図1は、実施形態の発光素子10の断面模式図である。発光素子10は、基板11の上に、n側半導体層12、活性層13、及びp側半導体層14を含む積層体20を有する。積層体20のうち、破線で囲まれた領域の拡大模式図を併せて図示している。基板11はその表面に窒化物半導体を成長することのできる任意の基板である。基板11には、サファイア(Al
2O
3)基板、窒化ガリウム(GaN)基板などを用いることができる。基板11にサファイア基板やGaN基板を用いる場合、積層体20はサファイア基板やGaN基板のC面上に成長される。
【0012】
積層体20は、窒化物半導体で形成されている。窒化物半導体は、InxAlyGa1-x-yN(0≦x≦1,0≦y≦1,x+y≦1)なる化学式において組成比x及びyをそれぞれの範囲内で変化させた全ての組成の半導体を含む。窒化物半導体は、たとえば、GaN、窒化インジウムガリウム(InGaN)、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)である。n側半導体層12には、たとえばSiが添加されている。n側半導体層12の一部は、n側コンタクト層として用いられてもよい。
【0013】
基板11とn側半導体層12の格子定数が異なる場合は、基板11とn側半導体層12の間に、格子不整合を緩和するバッファ層が挿入されていてもよい。たとえば、サファイア基板の表面に窒化物半導体であるn側半導体層12を形成するときは、サファイア基板とn側半導体層12の間に、バッファ層としてGaN層、AlGaN層などを挿入してもよい。バッファ層の厚さは、サファイア基板とn側半導体層12の格子不整合が緩和される厚さであればよい。バッファ層の厚さは、たとえば、5nm以上30nm以下とすることができる。
【0014】
活性層13は、n側半導体層12の上面に配置されている。活性層13は、井戸層131と、1以上の障壁層132とを含む。複数の井戸層131と複数の障壁層132を用いる場合は、井戸層131と障壁層132が交互に繰り返し配置された多重量子井戸が形成される。この場合、障壁層132のうち最もp側半導体層14に近接する層を、「p側障壁層132p」と呼ぶ。p側障壁層132pと第1層141との間には井戸層131は設けられない。活性層13は、たとえば、InGaNの井戸層131と、GaNの障壁層132とが積層された積層構造で形成される。活性層13から光が放出される。具体的には、活性層13に順方向電圧が印加されることで活性層13から光が放出される。
【0015】
障壁層132の層数が一層のときは、p側半導体層14との境界に位置するp側障壁層132pのみを配置してもよい。この場合、p側障壁層132pとn側半導体層12に挟まれた井戸層131にキャリアが閉じ込められてもよい。
【0016】
井戸層131は、たとえば、インジウム(In)を含む窒化物半導体であるInGaNで形成される。井戸層131の一般式は、たとえば、InaGa1-aN(0<a<1)である。井戸層131としてInGaNを用いる場合、Inの混晶比aは、目的の発光波長の光が放出される混晶比に設定される。たとえば、井戸層131のInの混晶比aを0.075以上、0.325以下の範囲に設定することで、発光ピーク波長が385nm以上、460nm以下の光を放出させることができる。
【0017】
p側半導体層14は、p側障壁層132pの側から順に、アンドープの第1層141、アンドープの第2層142、及び、p型不純物がドープされた第3層143を含む。この明細書及び特許請求の範囲で「アンドープ」の層というときは、半導体層を成長するときに不純物を添加するための原料ガスを供給しないで成長させた層を意味する。したがって、最終製品として不可避的に混入する不純物を含む場合も、成膜時に不純物元素が導入されていない層は「アンドープ」の層となる。たとえば、チップ化された素子のアンドープの層に、5×1017/cm3以下の不純物が混入していてもよい。p側半導体層14は、第3層143上に、p型不純物を含むp側コンタクト層を有する。
【0018】
p側半導体層14の第1層141、第2層142、及び第3層143はいずれも窒化物半導体で形成されている。第3層143は、p型不純物を含む。p型不純物として、Mg、亜鉛(Zn)、炭素(C)等を含んでもよい。この例では、第3層143にp型不純物としてMgが添加される。第3層143は、p側障壁層132pよりも広いバンドギャップを有する。
【0019】
p側半導体層14の第1層141と第2層142は、活性層13と第3層143の間に位置する。第1層141は、p側障壁層132pと接することが好ましい。第1層141のバンドギャップエネルギーは、第2層142のバンドギャップエネルギーよりも大きく、かつ、第1層141の格子定数は第2層142の格子定数よりも小さい。第1層141を設けることで、第3層143から活性層13へのp型不純物の拡散を抑制することができる。ここで、第1層141及び第2層142の格子定数とは、基板11の表面に成長された窒化物半導体層のa軸方向における格子定数である。
【0020】
第2層142を、第1層141よりもバンドギャップエネルギーの小さい材料で形成することで、第3層143から活性層13へのホールの移動を促進し、第1層141を形成したことによる順方向電圧Vf(以下、単に「Vf」とする)の上昇を緩和する。
【0021】
第1層141の膜厚は、第2層142の膜厚以下であることが好ましく、第2層142の膜厚よりも薄いことがより好ましい。第2層142よりもバンドギャップエネルギーの大きい第1層141を薄く形成することで、Vfの上昇を抑制しつつ、第2層142によるVfの上昇を緩和する効果を効率よく得ることができる。また、第2層142を厚く形成することで、第3層143と第1層141との間の距離を大きくし、第3層143から第1層141へのp型不純物の拡散をさらに抑制できる。第2層142の膜厚は、たとえば、0.3nm以上1.5nm以下であることが好ましい。
【0022】
p側半導体層14の第1層141及び第3層143は、たとえば、アルミニウム(Al)を含む窒化物半導体のAlGaNで形成される。第1層141及び第3層143の一般式は、例えば、AlbGa1-bN(0<b<1)である。第1層141のAlの混晶比b1、第3層143のAlの混晶比b2とした場合、混晶比b1は混晶比b2よりも小さい(b1<b2)。
【0023】
第1層141として、AlGaNを用いる場合、Alの混晶比b1を大きくし格子定数をなるべく小さくする方がよい。しかしながら、Alの混晶比bが大きいAlGaNは、バンドギャップエネルギーが大きくなる傾向があり、活性層13に注入されるホールに対する障壁が高くなってVfが増大する。そのため、第1層141のAlの混晶比b1は、p型不純物の拡散を抑制できる程度に格子定数が小さく、かつバンドギャップエネルギーが大きくなることによるVfの上昇が抑制される範囲に設定されることが好ましい。第1層141のAlの混晶比b1は、たとえば、0.01以上、0.1以下とすることが好ましく、0.03以上、0.07以下とすることがさらに好ましい。第1層141のAlの混晶比b1は、たとえば、0.05程度とする。
【0024】
第3層143としてAlGaNを用いる場合、Alの混晶比b2は、たとえば、0.15以上、0.25以下とすることが好ましい。第3層143のAlの混晶比b2は、たとえば、0.2程度とする。
【0025】
p側半導体層14の第2層142と井戸層131は、たとえば、インジウム(In)を含むInGaNで形成される。第2層142および井戸層131として、InaGa1-aN(0<a<1)を用いる場合、第2層142のInの混晶比a1は、井戸層131のインジウムのInの混晶比a2よりも小さい(a1<a2)。これは、第2層142が井戸層として機能することを抑制するためである。第2層142は、p側半導体層14からのホールの移動を促進させ、第1層141の形成によるVfの上昇を緩和するための層である。したがって、第2層142のバンドギャップエネルギーは、井戸層として機能しない程度に大きく設定されるが、Vfの上昇を抑制できる程度に第1層141のバンドギャップエネルギーよりも小さく設定されることが好ましい。第2層142のInの混晶比a1は、たとえば、0.05である。
【0026】
上記の構成で、n側半導体層12は、たとえばアンドープのGaNやSiドープのGaNで形成された半導体層を含む。n側コンタクト層はSiドープのGaNで形成される。p側半導体層14の第3層143は、たとえばMgドープのAlGaNで形成される。p側コンタクト層は、たとえば、MgドープのGaNで形成される。
【0027】
n側半導体層12の一部は、活性層13及びp側半導体層14から露出し、露出されたn側半導体層12上にn側電極18が形成されている。p側半導体層14上には、p側電極17が形成されている。p側電極17及びn側電極18は、積層体20に電気的に接続され、p側電極17とn側電極18の間に電圧を印加することで活性層13から光が放出される。
【0028】
図2を参照して、
図1の発光素子10の構成による効果を説明する。発光素子10は、活性層13のうち、p側半導体層14に最も近い側に位置するp側障壁層132pを有する。そして、p側半導体層14は、p側障壁層132pの側から順に、第1層141、第2層142、及び第3層143が設けられている。
図2において、p型不純物をハッチングを付した丸で示し、p型不純物が第3層143から第1層141に拡散する方向を矢印で示している。
【0029】
活性層13とp側半導体層14の界面に第1層141と第2層142が設けられていない場合、第3層143に添加されているp型不純物が活性層13に拡散するおそれがある。第3層143に添加されているp型不純物は、活性層13にホールを注入して発光効率を高めるために添加されている。p型不純物が活性層13に拡散すると、活性層13の結晶性を悪化させる欠陥となり得る。活性層13に欠陥が存在すると、たとえば、キャリアが発光に寄与せず欠陥にトラップされ、発光素子の発光効率を低下させる要因になる。
【0030】
これに対し、p側障壁層132pと第3層143の界面に、格子定数が比較的小さい第1層141を配置することで、第3層143の側から活性層13へのp型不純物の拡散を抑制することができる。しかし、格子定数が比較的小さい窒化物半導体はバンドギャップエネルギーが大きくなる傾向があり、p側障壁層132pと活性層13との界面にp側障壁層132pよりもバンドギャップエネルギーの大きいアンドープの第1層141が挿入されることで、活性層13に注入されるホールに対する障壁が高くなる。活性層13に注入されるホールに対する障壁の影響を小さくするために、第1層141は、p型不純物の拡散を抑制できる範囲内で、できるだけ薄く形成されることが好ましい。一例として、アンドープのAlGaNで形成される第1層141の厚さは、0.3nm以上1.5nm以下であることが好ましく、0.3nm以上1nm以下であることがさらに好ましい。
【0031】
第2層142は、活性層13に注入されるホールに対する障壁を緩和するために、第1層141と第3層143の間に挿入される。たとえば、第1層141をAlGaNからなる層とし、第2層142をInGaNからなる層とした場合、第2層142のバンドギャップエネルギーは第1層141のバンドギャップエネルギーよりも小さい。このような比較的小さいバンドギャップエネルギーを持つ第2層142を設けることで、活性層13に注入されるホールに対する第1層141による障壁が低減される。その結果、第2層142を形成することで、比較的大きいバンドギャップエネルギーを有する第1層141を形成することによるVfの上昇を緩和できる。
【0032】
第1層141と第2層142の配置順序は、p側障壁層132pに最も近い側にp型不純物の拡散を抑制するための第1層141を配置し、その次に、Vfの上昇を抑制するための第2層142を配置するのが望ましい。第2層142の格子定数が比較的大きくなり、第3層143からp型不純物が第2層142に拡散されたとしても、活性層13へのp型不純物の拡散は第1層141により抑制される。
【0033】
本実施形態によれば、活性層13へのp型不純物の拡散を抑制して素子の信頼性を改善するとともに、Vfの上昇を抑制することができる。
【0034】
<素子の評価>
半導体層の積層構造の異なる複数のサンプルを作製し、各サンプルの特性を測定する。サンプルとして、実施例1のサンプルと、参考例1~参考例4のサンプルとを作製する。以下にそれぞれのサンプルにおける半導体層の積層構造について説明する。
【実施例1】
【0035】
実施例1のサンプルを以下のように作製する。
【0036】
まず、サファイアからなる基板11の上にn側半導体層12を形成する。n側半導体層12は、アンドープのGaNからなる層及びSiドープのGaNを含む。n側半導体層12の総膜厚は、11μm程度とする。
【0037】
次に、n側半導体層12の上に、InGaNからなる井戸層131と、GaNからなる障壁層132とを繰り返して積層し、量子井戸構造を備える活性層13を形成する。複数の障壁層132のうち、最後に形成する障壁層132がp側障壁層132pである。井戸層131の膜厚は、3.4nm程度とし、障壁層132の膜厚は、4nm程度とする。井戸層131のInの混晶比a2は、0.15とする。
【0038】
次に、p側障壁層132pの上に、アンドープのAlGaNからなる第1層141を形成する。第1層141の膜厚は、0.5nm程度とする。第1層141のAlの混晶比b1は、0.05程度とする。
【0039】
次に、第1層141の上に、アンドープのInGaNからなる第2層142を形成する。第1層141の膜厚は、0.5nm程度とする。また第2層142のlnの混晶比a1は、0.05程度とする。
【0040】
次に、第2層142の上に、AlGaNからなる第3層143を形成する。第3層143は、p型不純物としてMgがドープされている。第3層143の膜厚は、300nm程度とする。第3層143のMgの不純物濃度は、1×1019~3×1019/cm3程度とする。第3層143のAlの混晶比b2は、0.2程度とする。
【0041】
その後、第3層143の上にアンドープのGaNからなる層、及びMgドープのGaNからなる層を形成し、活性層13の上に第1層141、第2層142、及び第3層143を含むp側半導体層14を形成する。p側半導体層14の総膜厚は、0.1μm程度とする。
【0042】
以上のように、n側半導体層12と、活性層13と、p側半導体層14とを含む積層体20を形成したサンプルを実施例1のサンプルとする。
【0043】
<参考例1>
参考例1のサンプルは、実施例1のサンプルにおける第1層141及び第2層142を形成しないこと以外は、実施例1のサンプルと同様にして作製する。
【0044】
<参考例2>
参考例2のサンプルは、実施例1のサンプルにおける第1層141を形成しないこと以外は、実施例1のサンプルと同様にして作製する。
【0045】
<参考例3>
参考例3のサンプルは、実施例1のサンプルにおける第2層142を形成しないこと以外は、実施例1のサンプルと同様にして作製する。
【0046】
<参考例4>
参考例4のサンプルは、実施例1のサンプルにおける第1層141と第2層142の配置順序を逆にしたこと以外は、実施例1のサンプルと同様にして作製する。
【0047】
実施例1及び参考例1~4のサンプルに対して2000mAの電流を注入し続け、1時間~300時間の間の経過時間における各サンプルの光出力を測定する。光出力の測定時において、各サンプルはいずれもチップ化した状態で行う。各サンプルで1時間経過後の光出力を初期値として測定し、これを100%とする。そして、20時間経過後、160時間経過後、及び300時間経過後にそれぞれ光出力を測定し、測定した光出力の上記初期値に対する割合である光出力の維持率を計算する。
【0048】
図3は、各サンプルの各経過時間における光出力の維持率を示す表である。
図4は、
図3の維持率を折れ線グラフにした図である。
図4において、実施例1の維持率は黒の三角で示されている。参考例1の維持率は黒丸で示されている。参考例2の維持率は白のひし形で示されている。参考例3の維持率は白の四角で示されている。参考例4の維持率は黒のひし形で示されている。
【0049】
実施例1のサンプルと、第1層141のみを形成した参考例3は、300時間経過後も98.6%程度の光出力が維持されている。これは、活性層13に隣接してAlGaN層を配置することで活性層13へのp型不純物の拡散が抑制され、発光効率が高く保たれているためと考えられる。
【0050】
これに対し、第2層142のみを形成した参考例2では、20時間を超えたあたりから徐々に光出力が低下する。第1層141と第2層142の配置順序を入れ替えた参考例4では、光出力が低下し始めるのが速く、300時間経過時点では、参考例2と同程度に光出力が低下している。このことから、参考例2及び参考例4のように、p側障壁層132pに近い位置にInGaN層を配置しても、活性層へのp型不純物の拡散を効果的に抑制するのが難しく、参考例1よりも発光効率が低下していることが推測される。光出力の維持率の観点からは、実施例1と、AlGaN層のみを形成した参考例3が高い光出力の維持率を示す。ただし、Vf上昇の抑制を考えると、後述する特性検査の結果から、参考例3のようにAlGaN層のみを形成するだけでは不十分である。
【0051】
図5は、ウエハ状態(チップ化前の状態)での特性検査の結果を示す。この特性検査において、上述した実施例1、参考例1、及び参考例3に加えて、実施例2と参考例5についても測定する。参考例5は、参考例3の第1層141の厚さを1.0nmに変えたこと以外は、参考例3と同様に作製する。実施例2は、第2層142の厚さを1.0nmに変更したこと以外は、実施例1と同様にして作製する。
【0052】
測定項目のうち、Vf[V]は、ウエハ状態における複数のサンプルの順方向電圧を測定し、それらの測定値を平均した平均値である。Po[mW]は、常温(25℃)において、1000mAの電流で駆動させたときの光出力を示す。
【0053】
p側障壁層132pと第3層143の間に第1層141のみを形成した参考例3と参考例5では、参考例1と比較してVfが増大している。このことから、p側障壁層132pと第3層143との間に第1層141のみを形成した場合、Vfが増大することがわかる。第1層141の厚さが1.0nmの参考例5は、第1層141の厚さが0.5nmの参考例3のVfの値よりも大きくなっている。この結果から、第1層141の厚さを厚くするとVfが上昇する傾向があることがわかる。
【0054】
これに対し、実施例1、及び実施例2では、参考例3及び参考例5と比較してVfが減少している。これは、第2層142を形成したことで活性層13へのホールの移動が促進されたためであると考えられる。また、実施例1及び実施例2の結果から、第1層141及び第2層142を併せて用いる場合は、第1層141の膜厚よりも第2層142の膜厚を厚くすることで、高い光出力が得られていることがわかる。これは、第2層142によるホールに対する障壁を小さくする効果が得られやすくなり、Vfの上昇が抑制されていると推測される。
【0055】
図3~
図5の結果から、第1層141のみを形成した参考例3、及び参考例5では、光出力の維持率が改善されるが、Vfが高くなる。実施例1、及び実施例2のように、p側障壁層132pの側から順に第1層141と第2層142を形成することで、第1層141によるVfの上昇を抑制しつつ、高い光出力の維持率を得ることができる。参考例4のように、第1層141と第2層142の配置順序を逆にすると、時間の経過につれて光出力の維持率が低下し、信頼性が低下する傾向にあることがわかる。
【0056】
以上説明したように、実施形態では活性層とp側半導体層の間に、活性層の最もp側の障壁層から順に第1層141と第2層142を配置することで、Vfの上昇を抑制しつつ、素子の信頼性を向上させることができる。
【0057】
上述した実施形態は本発明の一例であって、種々の変形、置換が可能である。窒化物半導体として、2元、または3元の化合物だけではなく、AlInGaN等の4元化合物を用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0058】
実施形態の発光素子10は、車載光源、照明用光源、各種インジケータ用光源、ディスプレイ光源、バックライト用光源、センサ光源、信号機など、種々の光源に使用可能である。
【符号の説明】
【0059】
10 発光素子
11 基板
12 n側半導体層
13 活性層
131 井戸層
132 障壁層
132p p側障壁層
14 p側半導体層
141 第1層
142 第2層
143 第3層
20 積層体