(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-16
(45)【発行日】2024-05-24
(54)【発明の名称】電気化学デバイス用電極および電気化学デバイス
(51)【国際特許分類】
H01G 11/48 20130101AFI20240517BHJP
H01G 11/24 20130101ALI20240517BHJP
【FI】
H01G11/48
H01G11/24
(21)【出願番号】P 2020559191
(86)(22)【出願日】2019-12-02
(86)【国際出願番号】 JP2019047075
(87)【国際公開番号】W WO2020121878
(87)【国際公開日】2020-06-18
【審査請求日】2022-11-11
(31)【優先権主張番号】P 2018230776
(32)【優先日】2018-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100131495
【氏名又は名称】前田 健児
(72)【発明者】
【氏名】坂田 基浩
(72)【発明者】
【氏名】松村 菜穂
(72)【発明者】
【氏名】竹下 昌利
【審査官】馬場 慎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/181441(WO,A1)
【文献】特開2003-178799(JP,A)
【文献】国際公開第2018/143048(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 11/48
H01G 11/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性高分子を活物質として含み、
前記導電性高分子は、ポリアニリン類を含み、
前記導電性高分子の比表面積が15m2/g以上であり、
前記導電性高分子は粒形状を有し、且つ、前記導電性高分子に対する
、Cu-Kα線(λ=1.5418Å)を用いたX線回折測定
による強度分布パターンは、回折角2θが18°~21°の範囲において第1ピークと、回折角2θが24°~26°の範囲において第2ピークと、を有
し、
前記導電性高分子は、前記第1ピークに対応する結晶子サイズをL1(nm)は、50nm~200nmであり、前記第2ピークに対応する結晶子サイズをL2(nm)は、100nm~400nmであり、前記導電性高分子の比表面積をS(m2/g)としたとき、関係式:
L1・S/L2≧7.6
を満たす、電気化学デバイス用電極。
【請求項2】
正極と、負極と、これらの間に介在するセパレータと、電解液と、を具備し、
前記正極が、請求項1に記載の電気化学デバイス用電極である、電気化学デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性高分子を含む活物質を具備する電気化学デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池と電気二重層キャパシタの中間的な性能を有する電気化学デバイスが注目を集めており、例えば導電性高分子を正極材料として用いることが検討されている(例えば、特許文献1)。正極材料として導電性高分子を含む電気化学デバイスは、アニオンの吸着(ドープ)と脱離(脱ドープ)により充放電を行うため、反応抵抗が小さく、一般的なリチウムイオン二次電池と比べて高速充放電が可能で、高い出力を有している。
【0003】
特許文献2には、フィブリル構造を有するポリアニリンおよびその製造方法が開示されており、二次電池の電極としての利用が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-35836号公報
【文献】特開昭62-22830号公報
【発明の概要】
【0005】
電気化学デバイスの正極材料に導電性高分子を用いる場合、低温においてアニオンの拡散性が低下し易い。結果、低温における性能(例えば、容量)が低下し易い。
【0006】
上記に鑑み、本発明の一局面に係る電気化学デバイス用電極は、導電性高分子を活物質として含む。前記導電性高分子は粒形状を有し、且つ、前記導電性高分子に対するX線回折測定よる強度分布パターンは、回折角2θが18°~21°の範囲において第1ピークと、回折角2θが24°~26°の範囲において第2ピークと、を有する。
【0007】
本発明の他の一局面に係る電気化学デバイスは、正極と、負極と、これらの間に介在するセパレータと、電解液と、を具備し、前記正極が、上記電気化学デバイス用電極である。
【0008】
本発明によれば、低温環境における性能低下が抑制された電気化学デバイスを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1A】
図1Aは、粒形状に合成された導電性高分子のSEM写真である。
【
図1B】
図1Bは、フィブリル構造に合成された導電性高分子のSEM写真である。
【
図2】
図2は、導電性高分子のX線回折パターンの一例を示す図である。
【
図3】
図3は、本開示の一実施形態に係る電気化学デバイスの断面模式図である。
【
図4】
図4は、同実施形態に係る電極群の構成を説明するための概略図である。
【
図5】
図5は、パラメータX(=L
1・S/L
2)と、電気化学デバイスの低温下(-10℃)における容量維持率Rとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態に係る電気化学デバイス用電極は、導電性高分子を活物質として含む。導電性高分子は粒形状を有し、且つ、導電性高分子に対するX線回折測定よる強度分布パターンは、回折角2θが18°~21°の範囲において第1ピークと、回折角2θが24°~26°の範囲において第2ピークと、を有する。ここで、第1ピークおよび第2ピークの回折角2θは、Cu-Kα線(λ=1.5418Å)を用いた場合の値とする。
【0011】
粒形状の導電性高分子とは、フィブリル構造以外の構造を有する導電性高分子であり、導電性高分子の粒子が単独で存在している場合もあれば、粒子同士が結束して連なっている場合もあり得る。粒界から、個々の粒子の輪郭線を決定できる。個々の粒子は、球形状に限られず、多面体、円柱、多角柱、直方体などの形状、あるいは、球からずれたいびつな形状をしていてもよい。粒子のアスペクト比(最大径の、最大径に直交する最大幅に対する比)は、例えば、5.0以下、3.0以下または2.0以下である。アスペクト比は、以下のようにして求められる。
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて活物質に含まれる導電性高分子の写真画像を得る。得られた画像から複数(100個以上が望ましい)の粒子を任意に選択し、粒子の輪郭線の画像解析を行う。アスペクト比は、選択した複数粒子に対して平均を求めることにより算出される。
【0012】
粒形状の導電性高分子は、フィブリル構造の導電性高分子と比較して比表面積を大きくでき、充放電に寄与するアニオンが導電性高分子内に拡散し易い。結果、低温環境においてもアニオンが導電性高分子の結晶構造の内部にまで拡散し易くなり、低温における容量の低下が抑制され得る。
【0013】
粒形状の導電性高分子は、例えば、原料モノマーの電解重合により合成することができる。電解重合は、ドーパントと原料モノマーとを含む反応液を用いて行われる。電解重合を促進する酸化剤を反応液に添加してもよい。合成後の導電性高分子が粒状であるか、フィブリル構造であるかは、ドーパント種、および、反応液の溶媒(および、酸化剤)の組み合わせに依存する。
同様に、化学重合は、ドーパントと酸化剤と原料モノマーとを含む反応液を用いて行われる。ドーパント種、酸化剤、および反応液の溶媒の組み合わせにより、合成後の導電性高分子が粒状であるか、フィブリル構造であるかを選択することが可能である。
【0014】
通常、反応液の溶媒には水が用いられる。ドーパントは、例えば硫酸イオンを含む。しかしながら、例えばポリアニリンの電解重合において、溶媒として水を用い、ドーパントに硫酸イオンを含む場合、フィブリル構造のポリアニリンが合成され易い。これに対し、非水溶媒を用いると、粒形状のポリアニリンが合成され易い。この理由として、粘度の高い非水溶媒を用いることで、アニリンの重合反応がゆっくりと進行し、分子鎖長の短い高分子が合成され、分子鎖長の短い高分子同士が等方的に広がりながら凝集するためと考えられる。
非水溶媒としては、エチルアルコール、メチルアルコール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールなどアルコール類、アセトン、アセトニトリル等が挙げられる。なかでも、アニリンの溶解度の高さや、硫酸に対する化学的安定性から、エチレングリコールが好ましい。
【0015】
図1Aに、上記の方法で合成した導電性高分子(ポリアニリン)のSEM写真を示す。これに対し、
図1Bに、フィブリル構造の導電性高分子(ポリアニリン)のSEM写真を示す。
図1Aでは、多数の導電性高分子の微粒子(粒径300nm程度)が連なり、複雑な立体構造が形成されていることが分かる。この結果、
図1Aに示す導電性高分子の比表面積は、
図1Bに示すフィブリル構造の導電性高分子と比べて格段に大きくなっている。
【0016】
上記の方法で合成した粒形状の導電性高分子のX線回折測定を行うと、低回折角側の第1ピークと、高回折角側の第2ピークとが観察され得る。X線回折パターンから、導電性高分子は、直方晶(斜方晶)の結晶構造をとっており、低回折角側の第1ピークは、(110)面に起因するものであり、高回折角側の第2ピークは、(200)面に起因するものであると推定される。
【0017】
図2に、本開示の方法で合成した粒形状の導電性高分子(ポリアニリン)のX線回折パターンを示す。低
回折角側の第1ピークと
高回折角側の第2ピークとの2つのピークが観察される。
【0018】
導電性高分子は、第1ピークに対応する結晶子サイズをL1(nm)とし、第2ピークに対応する結晶子サイズをL2(nm)とし、比表面積をS(m2/g)としたとき、L1・S/L2≧7.6を満たすことが好ましい。この条件を満たす電気化学デバイス用電極を正極に用いた電気化学デバイスにおいて、低温における容量低下が顕著に抑制されることが分かった。理由は未だ解明中であるが、比表面積Sに応じて、結晶子サイズL1およびL2が適度な結晶子サイズの比を有していることで、導電性高分子内をアニオンが拡散し易くなっていると考えられる。これにより、低温下においてもアニオンが導電性高分子の結晶の内部まで入り込むことができるため、容量低下が抑制されると考えられる。
【0019】
導電性高分子は、固相において、分子鎖同士が一方向に配向して一次元鎖を形成し、一次元鎖同士が同一平面上に配列して導電性高分子の層を形成していると考えられる。この場合に、X線回折測定の結果を考慮すると、(110)面間の距離は、層内または層間において隣接する導電性高分子間の最短の距離に関連すると考えられ、(200)面間の距離は、一次元鎖内において隣接する導電性高分子間の距離に関連すると考えられる。この場合、L1が大きいほど、隣接する導電性高分子間の距離が大きくなるため、隣接する導電性高分子の間にアニオンが拡散できる空間が広がる。したがって、L1が大きいほどアニオンが拡散し易い。一方で、L2が大きいと、一次元鎖内をアニオンが拡散する際の経路長が長くなる。したがって、L2が小さいほど導電性高分子内をアニオンが拡散し易い。また、比表面積Sが大きいほど、アニオンは導電性高分子内に拡散し易い。この結果として、アニオンの拡散性は、L1/L2の比とSとの積に依存すると考えられる。しかしながら、上記は発明者の現時点における一見解を示すものであり、本発明を限定するものではない。
【0020】
結晶子サイズL(L1、L2)は、下記の式に基づき、回折X線の対応するピークの広がり(半値幅)を用いて、Scherrer法により算出される。
L=K・λ/βcosθ
【0021】
ここで、KはScherrer定数であり、K=0.89とする。λはX線の波長であり、βは被検試料(導電性高分子)の回折X線の半値幅である。半値幅は、半値全幅とする。
【0022】
X線回折測定に用いられるX線に制限はないが、Cu-Kα線(λ=1.5418Å)を精度よく、かつ簡便に用いることができる。Cu-Kα線以外のX線を用いる場合、上記の第1ピークおよび第2ピークの回折角2θは、測定された回折角を、Cu-Kα線を用いて測定した場合の回折角に換算することで求められる。X線回折測定のための装置として、例えば、リガク製RINT2000を用いることができる。
【0023】
比表面積Sは、BET比表面積を意味する。比表面積Sは、充放電時においてアニオンが導電性高分子内に吸蔵または放出され易くして、反応抵抗を低く維持する観点から、7.8m2/g以上であることが好ましく、15m2/g以上がより好ましい。一方で、比表面積Sが過大であると、電極に占める導電性高分子の量が少なくなり、容量が低下し易い。比表面積Sは、体積当たりの容量を高く維持する観点から、100m2/g以下であることが好ましい。
【0024】
電気化学デバイス用電極中の活物質のBET比表面積は、以下の方法で算出される。
先ず、粒状の導電性高分子が露出した表面を有する電気化学デバイス用電極を所定の大きさ(例えば、4cm×5cm)に切り出す。
【0025】
次に、切り出した電極片を揮発性溶媒(例えば、ジメチルカーボネート)に2分間浸漬した後、溶媒を除去する。これを2回繰り返す(洗浄工程1)。
さらに、電極片を同様に揮発性溶媒に浸漬した後、-0.09MPa(ゲージ圧)に減圧した空間内に5分間放置する。その後、大気圧に戻して、溶媒を除去する。この溶媒の浸漬と除去を2回繰り返す(洗浄工程2)。
続いて、電極片を-0.10MPa(ゲージ圧)に減圧した空間内に30分間放置する(乾燥工程)。その後、大気圧に戻して、BET比表面積の測定を行う。
【0026】
上記の洗浄工程および乾燥工程は、例えば、Micromeritics社製Vacprep 061を使用して行うことができる。BET比表面積の測定は、例えば、島津製作所製Tristar IIを使用して行うことができる。
【0027】
結晶子サイズL1は、例えば50nm~200nmであり、80nm~170nmであってもよい。結晶子サイズL2は、例えば100nm~400nmであり、160nm~340nmであってもよい。
【0028】
導電性高分子としては、ポリアニリン類が好ましい。なお、ポリアニリンとは、アニリン(C6H5-NH2)をモノマーとし、C6H4-NH-C6H4-NH-のアミン構造単位、および/または、C6H4-N=C6H4=N-のイミン構造単位を共役関係で有するポリマーを指す。しかしながら、導電性高分子として用いることのできるポリアニリンは、これに限られるものではない。例えば、ベンゼン環の一部にメチル基などのアルキル基が付加された誘導体や、ベンゼン環の一部にハロゲン基等が付加された誘導体なども、アニリンを基本骨格とする高分子である限り、ポリアニリン類に含まれる。
【0029】
本実施形態に係る電気化学デバイスは、正極と、負極と、これらの間に介在するセパレータと、電解液と、を具備する。正極には、上記電気化学デバイス用電極を用いる。
【0030】
正極は、正極材料である導電性高分子を含む。負極は、負極材料を含む。導電性高分子は、正極側において、アニオンをドープおよび脱ドープすることにより、充放電に寄与する。一方、負極材料は、負極側において、カチオンを吸蔵および放出することにより、充放電に寄与する。カチオンは、好ましくは、リチウムイオンである。
【0031】
≪電気化学デバイス≫
以下、本実施形態に係る電気化学デバイスの構成について、適宜図面を参照しながら、より具体的に説明する。
図3は、本実施形態に係る電気化学デバイス100の断面模式図であり、
図4は、同電気化学デバイス100が具備する電極群10の一部を展開した概略図である。
【0032】
電気化学デバイス100は、
図3に示すように、電極群10と、電極群10を収容する容器101と、容器101の開口を塞ぐ封口体102と、封口体102から導出されるリード線104A、104Bと、各リード線と電極群10の各電極とを接続するリードタブ105A、105Bと、を備える。容器101の開口端近傍は、内側に絞り加工されており、開口端は封口体102にかしめるようにカール加工されている。
【0033】
電極群10は、
図4に示すように、正極11と、負極12と、これらの間に介在するセパレータ13と、を備える。
【0034】
(正極)
正極11は、例えば、正極集電体と、正極集電体上に形成されたカーボン層と、カーボン層上に形成された活性層と、を備える。カーボン層は導電性炭素材料を含み、活性層は導電性高分子を活物質として含む。
【0035】
正極集電体は、例えば金属材料により構成されており、その表面には、自然酸化被膜が形成され易い。そこで、正極集電体と活性層との間の抵抗を低減するために、導電性炭素材料を含むカーボン層を正極集電体上に形成することができる。カーボン層は形成しなくてもよいが、カーボン層を設けることで、正極集電体と活性層との間の抵抗を低く抑えることができる。また、電解重合や化学重合により活性層を形成する場合には、活性層の形成が容易になる。
(正極集電体)
正極集電体には、例えば、シート状の金属材料が用いられる。シート状の金属材料としては、例えば、金属箔、金属多孔体、パンチングメタル、エキスパンデッドメタル、エッチングメタルなどが用いられる。正極集電体の材質としては、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、チタンなどを用いることができ、好ましくは、アルミニウム、アルミニウム合金が用いられる。
正極集電体の厚みは、例えば、10~100μmである。
【0036】
(カーボン層)
カーボン層は、例えば、導電性炭素材料を含むカーボンペーストを正極集電体の表面に塗布して塗膜を形成し、その後、塗膜を乾燥することで形成される。カーボンペーストは、例えば、導電性炭素材料と、高分子材料と、水または有機溶媒との混合物である。
通常、カーボンペーストに含まれる高分子材料として、電気化学的に安定なフッ素樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、合成ゴム(例えば、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)等)、水ガラス(珪酸ナトリウムのポリマー)、イミド樹脂等が用いられる。
【0037】
導電性炭素材料には、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン、カーボンブラックなどを用いることができる。なかでも、カーボンブラックは、薄くて導電性に優れたカーボン層112が形成され易い点で好ましい。導電性炭素材料の平均粒径D1は特に限定されないが、例えば、3~500nmであり、10~100nmであることが好ましい。平均粒径とは、レーザー回折式の粒度分布測定装置により求められる体積粒度分布におけるメディアン径(D50)である(以下、同じ)。なお、カーボンブラックの平均粒径D1は、走査型電子顕微鏡で観察することにより、算出してもよい。
【0038】
カーボン層の厚みは、0.5μm以上、10μm以下であることが好ましく、0.5μm以上、3μm以下であることがより好ましく、0.5μm以上、2μm以下であることが特に好ましい。カーボン層の厚みは、正極11の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、任意の10箇所の平均値として算出することができる。活性層の厚みも同様にして算出できる。
【0039】
(活性層)
活性層は、導電性高分子を活物質として含む。活性層は、例えば、正極集電体を、導電性高分子の原料モノマーを含む反応液に浸漬し、正極集電体の存在下で原料モノマーを電解重合することにより形成される。このとき、正極集電体をアノードとして電解重合を行うことにより、導電性高分子を含む活性層は、カーボン層の表面を覆うように形成される。活性層の厚みは、例えば、電解の電流密度や重合時間を適宜変えることで容易に制御することができる。活性層の厚みは、例えば、10~300μmである。
【0040】
活性層は、電解重合以外の方法で形成されてもよい。例えば、原料モノマーを化学重合することにより、導電性高分子を含む活性層を形成してもよい。あるいは、予め調製された導電性高分子もしくはその分散体(dispersion)や溶液を用いて活性層を形成してもよい。
【0041】
電解重合または化学重合で用いられる原料モノマーは、重合により導電性高分子を生成可能な重合性化合物であればよい。原料モノマーは、オリゴマ―を含んでもよい。原料モノマーとしては、例えばアニリン、ピロール、チオフェン、フラン、チオフェンビニレン、ピリジンまたはこれらの誘導体が用いられる。これらを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。カーボン層の表面に活性層が形成され易い点で、原料モノマーはアニリンであることが好ましい。
【0042】
導電性高分子としては、π共役系高分子が好ましい。π共役系高分子としては、例えば、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフラン、ポリアニリン、ポリチオフェンビニレン、ポリピリジン、または、これらの誘導体を用いることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。導電性高分子の重量平均分子量は、特に限定されないが、例えば1000~100000である。
【0043】
なお、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフラン、ポリアニリン、ポリチオフェンビニレン、ポリピリジンの誘導体とは、それぞれ、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフラン、ポリアニリン、ポリチオフェンビニレン、ポリピリジンを基本骨格とする高分子を意味する。例えば、ポリチオフェン誘導体には、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)などが含まれる。例えばポリアニリンの場合、ポリアニリンおよびその誘導体は、上述の通り、ポリアニリン類と総称される。
【0044】
電解重合または化学重合は、アニオン(ドーパント)を含む反応液を用いて行うことが望ましい。導電性高分子の分散液や溶液もまた、ドーパントを含むことが望ましい。π電子共役系高分子は、ドーパントをドープすることで、優れた導電性を発現する。例えば、化学重合では、ドーパントと酸化剤と原料モノマーとを含む反応液に正極集電体を浸漬し、その後、反応液から引き揚げて乾燥させればよい。また、電解重合では、ドーパントと原料モノマーとを含む反応液に正極集電体と対向電極とを浸漬し、正極集電体をアノードとし、対向電極をカソードとして、両者の間に電流を流せばよい。
【0045】
反応液の溶媒には、水を用いてもよいが、粒状の導電性高分子が得られ易い点で、非水溶媒を用いることが好ましい。非水溶媒は、モノマーの溶解度が高いものが好ましい。さらに、非水溶媒は、粒状の導電性高分子が得られ易いため、粘度の高いものが好ましい。導電性高分子の分散媒あるいは溶媒としても、水や上記非水溶媒が挙げられる。
【0046】
ドーパントとしては、硫酸イオン、硝酸イオン、燐酸イオン、硼酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、ナフタレンスルホン酸イオン、トルエンスルホン酸イオン、メタンスルホン酸イオン(CF3SO3
-)、過塩素酸イオン(ClO4
-)、テトラフルオロ硼酸イオン(BF4
-)、ヘキサフルオロ燐酸イオン(PF6
-)、フルオロ硫酸イオン(FSO3
-)、ビス(フルオロスルホニル)イミドイオン(N(FSO2)2
-)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン(N(CF3SO2)2
-)などが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
ドーパントは、高分子イオンであってもよい。高分子イオンとしては、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリアクリルスルホン酸、ポリメタクリルスルホン酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸、ポリアクリル酸などのイオンが挙げられる。これらは単独重合体であってもよく、2種以上のモノマーの共重合体であってもよい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
反応液、導電性高分子の分散液あるいは導電性高分子の溶液のpHは、活性層が形成され易い点で、0~4であることが好ましい。
【0049】
活性層は、導電性高分子のほか、導電剤、結着剤などを含んでいてもよい。導電剤および結着剤としては、後述の負極材料層において例示されるものを使用することができる。
【0050】
(負極)
負極は、例えば、負極活物質を含む負極材料層を有する。負極材料層は、通常、負極集電体に担持される。負極集電体には、例えば、シート状の金属材料が用いられる。シート状の金属材料としては、例えば、金属箔、金属多孔体、パンチングメタル、エキスパンデッドメタル、エッチングメタルなどが用いられる。負極集電体の材質としては、例えば、銅、銅合金、ニッケル、ステンレス鋼などを用いることができる。
【0051】
負極活物質は、電気化学的にカチオンを吸蔵および放出する作用を有する。このような作用を有する材料として、炭素材料、金属化合物、合金、セラミックス材料などが挙げられる。カチオンは、例えば、リチウムイオンである。炭素材料としては、黒鉛、難黒鉛化炭素(ハードカーボン)、易黒鉛化炭素(ソフトカーボン)が好ましく、特に黒鉛やハードカーボンが好ましい。金属化合物としては、ケイ素酸化物、錫酸化物などが挙げられる。合金としては、ケイ素合金、錫合金などが挙げられる。セラミックス材料としては、チタン酸リチウム、マンガン酸リチウムなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、炭素材料は、負極の電位を低くすることができる点で好ましい。
【0052】
負極材料層には、負極活物質の他に、導電剤、結着剤などを含ませることが望ましい。導電剤としては、カーボンブラック、炭素繊維などが挙げられる。結着剤としては、フッ素樹脂、アクリル樹脂、ゴム材料、セルロース誘導体などが挙げられる。フッ素樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体などが挙げられる。アクリル樹脂としては、ポリアクリル酸、アクリル酸-メタクリル酸共重合体などが挙げられる。ゴム材料としては、スチレンブタジエンゴムが挙げられ、セルロース誘導体としてはカルボキシメチルセルロースが挙げられる。
【0053】
負極材料層は、例えば、負極活物質と、導電剤および結着剤などとを、分散媒とともに混合して負極合剤ペーストを調製し、負極合剤ペーストを負極集電体に塗布した後、乾燥することにより形成される。
【0054】
カチオンとしてリチウムイオンを用いる場合、負極には、予めリチウムイオンをプレドープすることが望ましい。これにより、負極の電位が低下するため、正極と負極の電位差(すなわち電圧)が大きくなり、電気化学デバイスのエネルギー密度が向上する。
【0055】
リチウムイオンの負極へのプレドープは、例えば、リチウムイオン供給源となる金属リチウム層を負極材料層の表面に形成し、金属リチウム層を有する負極を、リチウムイオン伝導性を有する電解液(例えば、非水電解液)に含浸させることにより進行する。このとき、金属リチウム層からリチウムイオンが非水電解液中に溶出し、溶出したリチウムイオンが負極活物質に吸蔵される。例えば負極活物質として黒鉛やハードカーボンを用いる場合には、リチウムイオンが黒鉛の層間やハードカーボンの細孔に挿入される。プレドープさせるリチウムイオンの量は、金属リチウム層の質量により制御することができる。
【0056】
負極にリチウムイオンをプレドープする工程は、電極群を組み立てる前に行なってもよく、電解液とともに電極群を電気化学デバイスのケースに収容してからプレドープを進行させてもよい。
【0057】
(セパレータ)
セパレータとしては、セルロース繊維製の不織布、ガラス繊維製の不織布、ポリオレフィン製の微多孔膜、織布、不織布などが好ましく用いられる。織布や不織布を構成する繊維としては、ポリオレフィンなどのポリマー繊維、セルロース繊維、ガラス繊維などが挙げられる。これらの材料が併用されていてもよい。
【0058】
セパレータの厚みは、例えば10~300μmである。セパレータ13の厚みは、微多孔膜の場合には、例えば10~40μmであり、織布や不織布の場合には、例えば、100~300μmである。
【0059】
(電解液)
電極群は、非水電解液を含む。
非水電解液は、リチウムイオン伝導性を有し、リチウム塩と、リチウム塩を溶解させる非水溶媒とを含む。このとき、リチウム塩のアニオンは、正極へのドープと脱ドープとを、可逆的に繰り返すことが可能である。一方、リチウム塩に由来するリチウムイオンは、可逆的に負極に吸蔵および放出される。
【0060】
リチウム塩としては、例えば、LiClO4、LiBF4、LiPF6、LiAlCl4、LiSbF6、LiSCN、LiCF3SO3、LiFSO3、LiCF3CO2、LiAsF6、LiB10Cl10、LiCl、LiBr、LiI、LiBCl4、LiN(FSO2)2、LiN(CF3SO2)2などが挙げられる。これらは1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、アニオンとして好適なハロゲン原子を含むオキソ酸アニオンを有するリチウム塩およびイミドアニオンを有するリチウム塩よりなる群から選択される少なくとも1種を用いることが望ましい。非水電解液中のリチウム塩の濃度は、例えば0.2~4モル/Lであればよく、特に限定されない。
【0061】
非水溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートなどの環状カーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネートなどの鎖状カーボネート、ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチルなどの脂肪族カルボン酸エステル、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトンなどのラクトン類、1,2-ジメトキシエタン(DME)、1,2-ジエトキシエタン(DEE)、エトキシメトキシエタン(EME)などの鎖状エーテル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフランなどの環状エーテル、ジメチルスルホキシド、1,3-ジオキソラン、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキソラン、アセトニトリル、プロピオニトリル、ニトロメタン、エチルモノグライム、トリメトキシメタン、スルホラン、メチルスルホラン、1,3-プロパンサルトンなどを用いることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0062】
非水電解液に、必要に応じて添加剤を含ませてもよい。例えば、負極表面にリチウムイオン伝導性の高い被膜を形成する添加剤として、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、ジビニルエチレンカーボネートなどの不飽和カーボネートを添加してもよい。
【0063】
(製造方法)
以下、本発明の電気化学デバイスの製造方法の一例について、
図3および
図4を参照しながら説明する。ただし、本発明の電気化学デバイスの製造方法はこれに限定されるものではない。
【0064】
電気化学デバイス100は、例えば、正極集電体にカーボンペーストを塗布して塗膜を形成した後、塗膜を乾燥してカーボン層を形成する工程と、カーボン層上に導電性高分子を含む活性層を形成して、正極11を得る工程と、得られた正極11、セパレータ13および負極12をこの順に積層する工程と、を備える方法により製造される。さらに、正極11、セパレータ13および負極12をこの順に積層して得られた電極群10は、非水電解液とともに容器101に収容される。活性層の形成は、用いられる酸化剤やドーパントの影響により、通常、酸性雰囲気下で行われる。
【0065】
カーボンペーストを正極集電体に塗布する方法は特に限定されず、慣用の塗布方法、例えば、スクリーン印刷法、ブレードコーター、ナイフコーター、グラビアコーターなどの各種コーターを利用するコーティング法、スピンコート法等が挙げられる。
【0066】
活性層は、上記のとおり、例えば、カーボン層を備える正極集電体の存在下で、原料モノマーを電解重合あるいは化学重合することにより形成される。電解重合あるいは化学重合は、原料モノマーおよび非水溶媒を含む反応液を用いて行ってもよい。あるいは、導電性高分子を含む溶液もしくは導電性高分子の分散体等を、カーボン層を備える正極集電体に付与することにより形成される。
【0067】
上記のようにして得られた正極11に、リード部材(リード線104Aを備えるリードタブ105A)を接続し、負極12に他のリード部材(リード線104Bを備えるリードタブ105B)を接続する。続いて、これらリード部材が接続された正極11と負極12との間にセパレータ13を介在させて捲回し、
図4に示すような、一端面よりリード部材が露出する電極群10を得る。電極群10の最外周を、巻止めテープ14で固定する。
【0068】
次いで、
図3に示すように、電極群10を、非水電解液(図示せず)とともに、開口を有する有底円筒形の容器101に収容する。封口体102からリード線104A、104Bを導出する。容器101の開口に封口体102を配置し、容器101を封口する。具体的には、容器101の開口端近傍を内側に絞り加工し、開口端を封口体102にかしめるようにカール加工する。封口体102は、例えば、ゴム成分を含む弾性材料で形成されている。
【0069】
上記の実施形態では、円筒形状の捲回型の電気化学デバイスについて説明したが、本発明の適用範囲は上記に限定されず、角形形状の捲回型や積層型の電気化学デバイスにも適用することができる。
【0070】
[実施例]
以下、実施例に基づいて、本発明をより詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0071】
《電気化学デバイスA1》
(1)正極の作製
厚さ30μmのアルミニウム箔を正極集電体として準備した。一方、アニリンおよび硫酸がエチレングリコールに溶解したアニリン溶液を準備した。
【0072】
カーボンブラック11質量部およびポリプロピレン樹脂粒子7質量部を混合した混合粉末と、水とを混錬して、カーボンペーストを調製した。得られたカーボンペーストを、正極集電体の裏表の全面に塗布した後、加熱により乾燥して、カーボン層を形成した。カーボン層の厚さは、片面あたり2μmであった。
【0073】
カーボン層が形成された正極集電体と対向電極とを、アニリン溶液に浸漬し、1.7mA/cm2の電流密度で45分間、電解重合を行ない、硫酸イオン(SO4
2-)がドープされた導電性高分子(ポリアニリン)の膜を、正極集電体の裏表のカーボン層上に付着させた。
【0074】
硫酸イオンがドープされた導電性高分子を還元し、ドープされていた硫酸イオンを脱ドープした。こうして、硫酸イオンが脱ドープされた導電性高分子を含む活性層を形成した。次いで、活性層を十分に洗浄し、その後、乾燥を行なった。活性層の厚さは、片面あたり35μmであった。
【0075】
(2)負極の作製
厚さ10μmの銅箔を負極集電体として準備した。一方、ハードカーボン97質量部と、カルボキシセルロース1質量部と、スチレンブタジエンゴム2質量部とを混合した混合粉末と、水とを、重量比で40:60(混合粉末:水)の割合で混錬したカーボンペーストを調製した。カーボンペーストを負極集電体の両面に塗布し、乾燥して、厚さ35μmの負極材料層を両面に有する負極を得た。次に、負極材料層に、プレドープ完了後の電解液中での負極電位が金属リチウムに対して0.2V以下となるように計算された分量の金属リチウム箔を貼り付けた。
【0076】
(3)電極群の作製
正極と負極にそれぞれリードタブを接続した後、
図4に示すように、セルロース製不織布のセパレータ(厚さ35μm)と、正極、負極とを、それぞれ、交互に重ね合わせた積層体を捲回して、電極群を形成した。
【0077】
(4)電解液の調製
プロピレンカーボネートとジメチルカーボネートとの体積比1:1の混合物に、ビニレンカーボネートを0.2質量%添加して、溶媒を調製した。得られた溶媒にリチウム塩としてLiPF6を所定濃度で溶解させて、アニオンとしてヘキサフルオロ燐酸イオン(PF6
-)を有する非水電解液を調製した。
【0078】
(5)電気化学デバイスの作製
開口を有する有底の容器に、電極群と非水電解液とを収容し、
図1に示すような電気化学デバイスを組み立てた。その後、正極と負極との端子間に3.8Vの充電電圧を印加しながら25℃で24時間エージングし、リチウムイオンの負極へのプレドープを進行させた。このようにして、電気化学デバイスA1を作製した。
【0079】
《電気化学デバイスA2~A6》
正極の作製において、電解重合によるポリアニリン合成において流す電流および電流を流す時間を変更した。
これ以外については、電気化学デバイスA1と同様にして、電気化学デバイスA2~A6を作製した。
【0080】
表1に、電気化学デバイスA1~A6において、電解重合によりポリアニリンを合成したときの条件を示す。電気化学デバイスA1~A5では、重合に要した時間と重合時に流した電流密度との積を略一定とし、重合時に流した電荷量を略一定とした。
【表1】
【0081】
電気化学デバイスA1~A6について、正極の表面をSEM観察したところ、いずれもポリアニリンが粒状に形成されていることを確認した。
また、電気化学デバイスA1~A6について、上述の方法で、活性層のBET比表面積S、結晶子サイズL1およびL2を測定した。測定結果を表2に示す。
【0082】
電気化学デバイスA1~A6について、以下の方法に従って評価した。
【0083】
25℃の環境下で、電気化学デバイスを3.8Vの電圧で充電した後、5.0Aの電流で2.5Vまで放電した。途中3.3Vから3.0Vに低下する間に流れた放電電荷量を電圧変化ΔV(=0.3V)で除算し、初期容量C0(F)とした。
【0084】
続いて、電気化学デバイスを-10℃の環境に置いた。-10℃の環境下で、電気化学デバイスを3.8Vの電圧で充電した後、5.0Aの電流で2.5Vまで放電した。途中3.3Vから3.0Vに低下する間に流れた放電電荷量を電圧変化ΔV(=0.3V)で除算し、容量C1(F)を求めた。
【0085】
初期容量C0に対する、-10℃環境下における容量C1の割合(%)を、容量維持率として評価した。すなわち、容量維持率Rを、R=C1/C0×100により評価した。
【0086】
表2に、電気化学デバイスA1~A6の結晶子サイズL1およびL2、BET比表面積S、パラメータX(=L1・S/L2)、および、容量維持率Rの評価結果を示す。
【0087】
【0088】
表2より、BET比表面積Sが大きいほど、容量維持率Rに優れるという全体的な傾向が見て取れる。しかしながら、電気化学デバイスA2~A4を比較すると、BET比表面積Sの小さな電気化学デバイスA2が、電気化学デバイスA3およびA4よりも高い容量維持率Rを示している。この理由は、電気化学デバイスA3およびA4では結晶子サイズL2がL1と比較して相対的に大きく、L1/L2が小さいためと考えられる。
【0089】
図5は、表
2の結果をグラフにしたものである。X(=L
1・S/L
2)が5を下回ると、容量維持率Rが急激に低下することが分かる。一方で、Xが7.6以上の範囲では、高い容量維持率を維持できる。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本開示に係る電気化学デバイスは、各種電気化学デバイス、特にバックアップ用電源として好適である。
【符号の説明】
【0091】
10:電極群
11:正極
12:負極
13:セパレータ
14:巻止めテープ
100:電気化学デバイス
101:容器
102:封口体
104A、104B:リード線
105A、105B:リードタブ