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  • 特許-燃焼試験用4サイクルエンジン 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】燃焼試験用4サイクルエンジン
(51)【国際特許分類】
   F02B 67/06 20060101AFI20240521BHJP
   F16H 7/02 20060101ALI20240521BHJP
   F02B 77/00 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
F02B67/06 D
F16H7/02 A
F02B77/00 R
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020051315
(22)【出願日】2020-03-23
(65)【公開番号】P2021148105
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2023-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099966
【弁理士】
【氏名又は名称】西 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】前田 正弘
【審査官】稲本 遥
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-058890(JP,A)
【文献】特開平04-203638(JP,A)
【文献】特開2003-056356(JP,A)
【文献】中国実用新案第2623889(CN,Y)
【文献】特開2001-073729(JP,A)
【文献】特開平07-189617(JP,A)
【文献】中国実用新案第208669425(CN,U)
【文献】中国実用新案第207485557(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 61/00-79/00
F16H 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミラーが内蔵されたピストンと、前記ピストンが摺動自在に内挿されたシリンダと、前記ピストンを駆動するクランク軸と、上端はピストンピンを介して前記ピストンに連結されて下端はクランクピンを介して前記クランク軸に連結されたコンロッドと、前記クランク軸の1/2の回転数で回転する2本のカム軸と、前記カム軸が回転自在に保持されて前記シリンダの上面に配置されたヘッド部と、前記クランク軸と両カム軸との間に配置されていて前記クランク軸の回転を減速して前記カム軸に伝達する中間軸とを備えており、
前記ミラーに反射した燃焼状態がカメラで撮影されるようになっており、かつ、
前記クランク軸と中間軸との間の動力伝達には第1タイミングベルトが使用されて、 記中間軸とカム軸との間の動力伝達には第2タイミングベルトが使用されている構成であって、
前記中間軸は、前記ピストンが上死点にあるときの前記ピストンピンとクランクピンとの間の高さ位置において前記シリンダの箇所に配置されていて、前記第1タイミングベルトは前記第2タイミングベルトよりも短い長さであり、
更に、前記2本のカム軸は、クランク軸線方向から見て、前記クランク軸の軸心と前記中間軸の軸心とを結ぶ仮想線を挟んで対称の位置に配置されており、
かつ、前記タイミングベルトによって動力伝達するに際しての前記クランク軸に対する中間軸の減速比及び前記中間軸に対するカム軸の減速比をそれぞれ0.5よりも大きく1.0よりも小さい値とすることにより、前記クランク軸に対するカム軸の減速比が0.5に設定されている、
燃焼試験用4サイクルエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、燃焼室での燃焼状態をカメラで撮影できるようにした試験用の可視化4サイクルエンジンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
レシプロエンジンにおいて、燃焼室での燃料の燃焼状態は出力や排気ガス成分と直結した重要な事項であり、様々な方法で解析が行われている。その例として、燃焼状態をカメラで撮影できる試験用の可視化エンジンを作成し、燃焼状態を動画又は静止画として表示することにより、燃焼状態を視覚的に把握して改良の促進に供することが行われている(例えば特許文献1~3)。
【0003】
エンジンの燃焼と吸気・排気は密接に関連しており、実際のエンジンの燃焼状態を把握するには、バルブやカム軸は実機と同じ状態に製造する(或いは実機をそのまま使用する)べきである。また、4サイクルエンジンでは、カム軸はクランク軸の1/2の回転数で回転するので、試験用エンジンでも、必然的にカム軸はクランク軸の回転数の1/2に減速されることになる。
【0004】
試験用エンジンにおいては、結果としてカム軸がクランク軸の1/2の回転数になっておればよく、伝動構造は任意に設定できる。例えば、伝動手段として実機と同様にチェーンを使用して、クランク軸のスプロケットとカム軸のスプロケットとにチェーンを噛み合わせることができる。この場合は、カム軸のスプロケットの歯数をクランク軸のスプロケットの歯数の半分とすることにより、カム軸の回転数をクランク軸の1/2に減速できる。
【0005】
しかし、連動手段としてチェーンを使用すると、カム軸の回転をクランク軸の回転に正確に連動させることはできるが、注油の必要があるため試験室の環境が悪化するおそれや、騒音が発生しやすい等の問題がある。
【0006】
他方、連動手段としてタイミングベルトを使用することも可能であり、この場合は、カム軸の回転をクランク軸の回転に正確に連動させることができると共に、注油の必要はないため試験室の環境悪化の問題はなく、また、騒音の発生も防止できる。
【0007】
従って、タイミングベルトは連動手段として好適であるが、長さが長くなり過ぎると伸びの蓄積によってバルブの開閉タイミングに遅れが発生するおそれがある。この点、減速用の中間軸を採用して2本のタイミングベルトを使用すると、タイミングベルトの伸びによる悪影響を防止して、バルブの開閉タイミングをクランク軸の回転に正確に連動させることができるといえる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】実開昭57-120735号のマイクロフィルム
【文献】特開2009-209752号公報
【文献】特許第6578041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
さて、市販のタイミングベルトでは、歯間ピッチが相違するものが複数種類用意されている一方、中間軸を第1タイミングベルトでクランク軸の1/2に減速して、中間軸とカム軸とを第2タイミングベルトにて同じ回転数で回転させた場合、中間軸には、第1タイミングベルトが巻き掛けられた第1中間プーリと、第2タイミングベルトが巻き掛けられた第2中間プーリとが設けられるが、中間軸が1/2に減速されると、第1及び第2の中間プーリは歯数を確保するために外径が大きくなり、すると、カム軸に設けたカムプーリは第2中間プーリと同じ外径に設定してカム軸に対して1/2の減速比を確保することになる。
【0010】
しかし、軽自動車用エンジンのように吸気用カム軸と排気バルブとの間隔が小さい場合、第2中間プーリと同じ外径のカムプーリを取り付けると、吸気用カム軸と排気用カム軸との間隔が広がってしまって、実機に対応できなくなってしまう。
【0011】
このように、試験用エンジンにおいて、減速手段として中間軸を使用すること、及び、クランク軸とカム軸との連動手段としてタイミングベルトを使用することは好適であるが、軽自動車用エンジンのように吸気用カム軸と排気バルブとの間隔が小さい場合、市販のタイミングベルトでは必要な減速比を確保できないことがある。
【0012】
クランク軸とカム軸とを1本のタイミングベルトで連動させた場合も同様であり、吸気用カムプーリと排気用カムプーリとが干渉するため、市販のタイミングベルトでは実機に対応できない事態に至ることがある。
【0013】
本願発明はこのような現状に鑑み成されたものであり、試験用4サイクルエンジンにおいて、クランク軸とカム軸との連動手段としてタイミングベルトと中間軸とを使用しつつ、吸気用カム軸と排気用カム軸との間隔が小さくても適用できるようにしようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願発明の試験用4サイクルエンジンは、
ミラーが内蔵されたピストンと、前記ピストンが摺動自在に内挿されたシリンダと、前記ピストンを駆動するクランク軸と、上端はピストンピンを介して前記ピストンに連結されて下端はクランクピンを介して前記クランク軸に連結されたコンロッドと、前記クランク軸の1/2の回転数で回転する2本のカム軸と、前記カム軸が回転自在に保持されて前記シリンダの上面に配置されたヘッド部と、前記クランク軸と両カム軸との間に配置されていて前記クランク軸の回転を減速して前記カム軸に伝達する中間軸とを備えており、
前記ミラーに反射した燃焼状態がカメラで撮影されるようになっており、かつ、
前記クランク軸と中間軸との間の動力伝達には第1タイミングベルトが使用されて、 記中間軸とカム軸との間の動力伝達には第2タイミングベルトが使用されている」
という基本構成において、
「前記中間軸は、前記ピストンが上死点にあるときの前記ピストンピンとクランクピンとの間の高さ位置において前記シリンダの箇所に配置されていて、前記第1タイミングベルトは前記第2タイミングベルトよりも短い長さであり、
更に、前記2本のカム軸は、クランク軸線方向から見て、前記クランク軸の軸心と前記中間軸の軸心とを結ぶ仮想線を挟んで対称の位置に配置されており、
かつ、前記タイミングベルトによって動力伝達するに際しての前記クランク軸に対する中間軸の減速比及び前記中間軸に対するカム軸の減速比をそれぞれ0.5よりも大きく1.0よりも小さい値とすることにより、前記クランク軸に対するカム軸の減速比が0.5に設定されている」
という特徴を有している。
【0015】
本願発明において、クランク軸に対する中間軸の減速比と、中間軸に対するカム軸の減速比とは上記の範囲内で任意に設定できるが、例えば、クランク軸に対する中間軸の減速比を0.75、中間軸に対するカム軸の減速比を約0.67に設定することにより、クランク軸に対するカム軸の減速比を0.5に設定できる。すなわち、クランク軸の回転は、中間軸を介して2段階で減速されてカム軸に1/2で伝達される。
【発明の効果】
【0016】
本願発明では、クランク軸の回転は、中間軸を介して2段階で減速されてカム軸に伝達されるため、カム軸に設けたプーリの外径を過剰に大きくすることなく、市販のタイミングベルトを使用してクランク軸に対する1/2の減速比を実現できる。従って、軽自動車用エンジンのように吸気用カム軸と排気用カム軸との間隔が小さい場合であっても、実機と同じ条件で燃焼試験を容易に行うことができる。従って、現実性が高いデータを取得して実機の解析や改良に大きく貢献できる。
また、中間軸はクランク軸の真上に配置されて、2本のベルトはクランク軸線方向から見て、シリンダボア軸心を挟んで対称の姿勢に張られているため、ベルトの長さをできるだけ短くできる。これにより、伸びの影響を抑制できると共に、コストも抑制できる。また、アイドルプーリは不要であるため、構造も簡単化できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施形態に係るエンジンの正面図である。
図2】実施形態に係るエンジンの一部破断正面図である。
図3】実施形態に係るエンジンの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図2,3に示すように、エンジンは、ピストン1が摺動自在に嵌挿されたシリンダ2と、その上端に固定されたヘッド部3とを備えており、シリンダ2の下端はベース4に固定されている。
【0019】
図3に示すように、ベース4には、クランク軸5を構成する一対のジャーナル部6が回転自在に保持されており、一対のジャーナル部6にそれぞれクランクアーム7を固定し、クランクアーム7に固定されたクランクピン8に、コンロッド9を介してピストン1が連結されている。コンロッド9の小端部はピストンピン10でピストン1に連結され、コンロッド9の大端部は、コンロッドキャップによってクランクピン8に連結されている。
【0020】
ヘッド部3には、図示しない排気ポート及び排気ポートが形成されており、吸気ポートは吸気バルブ11で開閉されて、排気ポートは排気バルブ12で開閉される。本願発明との関連はないので図示は省略しているが、ヘッド部3は、吸気装置や燃料噴射インジェクタ、排気処理装置も設けている。すなわち、実機と同様の装置を付設している。カム軸14,15はヘッド部3に配置されている。
【0021】
図示は省略しているが、ピストン1の内部にはミラーを配置しており、ミラーによって反射した画像が図示しないカメラで撮影される。この点は、各特許文献に開示されているのと同様である。なお、ヘッド部3に、燃焼室の内部を撮影するカメラを設けることも可能である。
【0022】
吸気バルブ11は吸気用カム軸13で駆動されて、排気バルブ12は排気用カム軸14で駆動される。これらバルブ11,12とカム軸13,14とは実機と同じ寸法に作られている。カム軸13,14の一端部には、図示しないVVT装置を介してカムプーリ15,16が連結されている(VVT装置を備えていない場合は、カムプーリ15,16はカム軸13,14に直接固定されている。)。図3に明示するように、ヘッド部3は、ベース4から立設した前後の機枠17a,17bにも固定されている。
【0023】
エンジンは4サイクルであるので、カム軸13,14はクランク軸5の1/2の回転数で回転する。従って、クランク軸5とカム軸13,14とを、2:1の回転数で回転するように連動させる必要がある。そこで、ヘッド部3とベース4とを繋ぐ前機枠17aのうちシリンダ2に対応した箇所に、クランク軸5と平行な軸心回りに回転する中間軸18を設けて、中間軸18を介してクランク軸5の回転を1/2に減速してカム軸13,14に伝えている。
【0024】
すなわち、クランク軸5にはクランクプーリ19を設けて、中間軸18には第1中間プーリ20を設け、これらに第1タイミングベルト21を巻き掛けると共に、中間軸18に設けた第2中間プーリ22とカム軸13,14に設けたカムプーリ15,16とに第2タイミングベルト23を巻き掛けて、クランク軸5の回転を第1タイミングベルト21によって中間軸18に減速して伝達すると共に、中間軸18の回転を第2タイミングベルト23によってカム軸13,14に減速して伝達することにより、最終的に、クランク軸5の回転を1/2に減速してカム軸13,14に伝達している。
【0025】
この場合、例えば、第1中間プーリ20の歯数とクランクプーリ19の歯数との比率を1:0.75に設定する一方、カムプーリ15,16の歯数と第2中間プーリ22の歯数との比率を0.75:0.50に設定することにより、カム軸13,14がクランク軸5の1/2の回転数で回転するように設定している。図1においてピストン1は上死点にあるが、この状態で、中間軸18はピストンピン10とクランクピン8との間の高さに配置されている。
【0026】
機枠17a,17bは、クランク軸線方向から見てエンジンの前後両側に配置しており、中間軸18は、クランク軸5の真上に配置されている。従って、ベルト21,23は、クランク軸線方向から見て、シリンダボア軸心(クランク軸5と中間軸18の軸心とを結ぶ仮想線)を挟んで対称の姿勢に張られている。このため、ベルト21,23の長さをできるだけ短くできる。これにより、伸びの影響を抑制できると共に、コストも抑制できる。また、アイドルプーリは不要であるため、構造も簡単化できる。
【0027】
ベルト21,23が市販品であると、中間軸18をクランク軸6の真上に配置するとベルト21,23に弛みが発生する場合も有り得るが、この場合は、アイドルプーリ又はテンションプーリでベルト21,23を押したり、中間軸18を左右いずれかの方向にずらしたりしてもよい。
【0028】
カム軸13,14とクランクプーリ19とに1本のタイミングベルトを巻き掛けたり、クランク軸5と中間軸18とを同じ回転数で回転させたりした場合は、カムプーリ15,16の歯数はクランクプーリ19の歯数の2倍になり、すると、カムプーリ15,16の外径が過剰に大きくなって、2つのカムプーリ15,16を並べることができなくなってしまうことがあるが、本実施形態のように、中間軸18に設けた第1中間プーリ20によって1段目の減速を行うと、2つのカムプーリ15,16を互いに干渉しない外径に設定しつつ、クランク軸5の1/2の回転数で回転するように減速できる。
【0029】
従って、第2中間プーリ22に対するカムプーリ15,16の減速比は、カムプーリ15,16の許容可能な外径に応じて設定したらよい。すなわち、実機におけるカム軸13,14の間隔に応じて先にカムプーリ15,16の許容可能な外径が存在しており、カムプーリ15,16に形成できる歯数を基にして、カム軸13,14と中間軸18との減速比率と、クランク軸5と中間軸18との変速比率とを設定したらよい。
【0030】
以上、本願発明の実施形態を説明したが、本願発明は他にも様々に具体化できる。例えば、中間軸とカム軸とを等速で回転させて、中間軸をクランク軸に対して1/2に減速させることも可能である。また、ベース4や機枠17a,17bなどは、その機能を有する範囲で任意に変更できる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本願発明は、燃焼試験用4サイクルエンジンに具体化できる。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0032】
1 ピストン
2 シリンダ
3 ヘッド部
4 ベース
5 クランク軸
11,12 バルブ
13,14 カム軸
15,16 カムプーリ
17a 前機枠
18 中間軸
19 クランクプーリ
20 第1中間プーリ
21 第1タイミングベルト
22 第2中間プーリ
23 第2タイミングベルト
図1
図2
図3