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特許7491778走査型縮小投影光学系及びこれを用いたレーザ加工装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】走査型縮小投影光学系及びこれを用いたレーザ加工装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/064 20140101AFI20240521BHJP
   G03F 7/20 20060101ALI20240521BHJP
   B23K 26/57 20140101ALI20240521BHJP
   B23K 26/066 20140101ALI20240521BHJP
   B23K 26/03 20060101ALI20240521BHJP
   H01L 33/00 20100101ALI20240521BHJP
【FI】
B23K26/064 A
G03F7/20 502
B23K26/57
B23K26/066
B23K26/03
H01L33/00 L
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2020144610
(22)【出願日】2020-08-28
(65)【公開番号】P2021151666
(43)【公開日】2021-09-30
【審査請求日】2023-08-21
(31)【優先権主張番号】P 2019235371
(32)【優先日】2019-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】山岡 裕
(72)【発明者】
【氏名】仲田 悟基
(72)【発明者】
【氏名】宇佐美 健人
【審査官】松田 長親
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-67671(JP,A)
【文献】特表2015-534903(JP,A)
【文献】特表2013-520822(JP,A)
【文献】特開2006-41500(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00-26/70
H01L 33/00
G06F 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に位置する照射対象物に向けてマルチモードパルスレーザ光を照射し、反応を誘起させることを利用したレーザ加工装置において用いる光学系であって、
レンズアレイ型のズームホモジナイザー、スキャニングミラー、フォトマスク、及び、すくなくとも像側がテレセントリックである投影レンズ系を有し、
当該フォトマスクには、所定のピッチにて所定の形状の開口が複数配列され、
前記ズームホモジナイザーは、第1レンズアレイ及び第2レンズアレイ、並びにコンデンサーレンズを含む構成からなり、前記フォトマスク上の一の開口又は二以上の隣接する開口群をカバーする所定サイズの照射エリアを当該フォトマスク上に結像し、当該照射エリアの位置及びサイズ並びに当該照射エリア内のエネルギー強度分布の変動を補償し、
当該所定サイズは、前記一の開口又は二以上の隣接する開口群に隣接する他のいずれの開口にも当該照射エリアが及ばないサイズであり、
前記スキャニングミラーは、1軸以上の駆動軸制御装置により走査される、
走査型縮小投影光学系。
【請求項2】
前記投影レンズ系は、フィールドレンズと縮小投影レンズを含み、
当該フィールドレンズは、前記コンデンサーレンズと前記フォトマスクの間に位置する、請求項1に記載の走査型縮小投影光学系。
【請求項3】
前記スキャニングミラーは2軸のガルバノスキャナーで構成されている、請求項1又は2に記載の走査型縮小投影光学系。
【請求項4】
第1レンズアレイを構成する各レンズエレメントのサイズより小さいサイズを持つ開口が当該各レンズエレメントに対向して配列されている開口群からなるアレイマスクを、第1レンズアレイの直前又は第1レンズアレイと第2レンズアレイとの間に配置した請求項1乃至3のいずれかに記載の走査型縮小投影光学系。
【請求項5】
前記アレイマスクは、その基材の面内において、サイズ若しくは形状又は開口の数の異なる開口群を切り替えて使用することを可能とする複数の種類の開口群が配列されている、請求項4に記載の走査型縮小投影光学系。
【請求項6】
前記アレイマスクは、光軸周りの微小な回転調整を可能とするθ軸を含むマウントに設置されている、請求項4又は5に記載の走査型縮小投影光学系。
【請求項7】
前記マルチモードパルスレーザ光はエキシマレーザ光である請求項1乃至6のいずれかに記載の走査型縮小投影光学系。
【請求項8】
基板上に位置する照射対象物に向けてマルチモードパルスレーザ光を照射し、反応を誘起させることを利用したレーザ加工装置であって、
前記マルチモードパルスレーザ光を発振するレーザ装置と、
請求項1乃至6のいずれかに記載の走査型縮小投影光学系と、
前記基板を保持する、少なくともX軸とY軸の駆動軸を有するステージと、
を含むレーザ加工装置。
【請求項9】
前記基板はその表面に前記照射対象物が位置するドナー基板であり、
当該照射対象物に向けて当該ドナー基板の裏面から前記パルスレーザ光を照射することにより当該照射対象物を選択的に剥離又は分離し、当該ドナー基板と対向するレセプター基板上にリフトするための実装用若しくは再転写用、又はこれら兼用のリフト装置であって、
前記ステージは、当該ドナー基板をその裏面が前記パルスレーザ光の入射側となる向きにて保持するドナーステージであり、
さらに、前記レセプター基板を保持する、X軸、Y軸、鉛直方向のZ軸、及びX-Y平面内にθ軸を有するレセプターステージを有し、
前記走査型縮小投影光学系と前記ドナーステージは第1定盤に設置され、
前記レセプターステージは第2定盤又は基礎定盤に設置され、
第1定盤と第2定盤は、それぞれが独立して基礎定盤上に設置されている構造
である、請求項8に記載のリフト装置。
【請求項10】
前記スキャニングミラーの制御装置は、あらかじめ取得した前記ドナー基板上の照射対象物の位置情報、及び前記レセプター基板上へのリフト予定位置の情報に基づき選択された、前記フォトマスク上の開口に向け光軸を走査するスキャニングミラーの制御とパルスレーザ光の照射を制御する機能を含む、請求項9に記載のリフト装置。
【請求項11】
前記ドナーステージは、二以上のドナー基板を保持し、これらを切り替えて使用する、請求項9又は10に記載のリフト装置。
【請求項12】
前記ドナーステージは、第1定盤の下面に吊設された、請求項9乃至11のいずれかに記載のリフト装置。
【請求項13】
前記レーザ装置はエキシマレーザ装置であることを特徴とする、請求項8に記載のレーザ加工装置、又は請求項9乃至12のいずれかに記載のリフト装置。
【請求項14】
請求項9乃至13のいずれかに記載のリフト装置を用いて、ドナー基板上の照射対象物を対向するレセプター基板上にリフトする方法であって、
ドナー基板上の照射対象物の位置情報D、及びレセプター基板上への照射対象物のリフト予定位置である位置情報Rを取得する検査工程と、
ドナー基板上の領域を、所定のサイズの分割エリアDに区分する分割工程と、
位置情報D及び位置情報Rに基づき、分割エリアD内のリフトすべき照射対象物の位置を選択する選択工程と、
当該選択された照射対象物の位置に相対するフォトマスク上の開口を通過し照射されるレーザ光により、分割エリアD内の当該選択された照射対象物を対向する分割エリアRにリフトする転写工程と、
当該転写工程後、ドナー基板及び/又はレセプター基板を移動する移動工程と、
を含み、以降、前記転写工程と当該移動工程とを繰り返し、レセプター基板の全領域又は一部領域を対象に実装又は再転写を行うリフト方法。
【請求項15】
ドナー基板上の照射対象物の設計上の実装ピッチは、レセプター基板上に実装される照射対象物の設計上の実装ピッチに対し、1以上の整数分の1倍である、請求項14に記載のリフト方法。
【請求項16】
位置情報Dから算出される照射対象物の現実の実装ピッチと、位置情報Rから算出される設計上の実装ピッチRとの間において誤差がある場合において、
前記移動工程における各基板の移動量は、分割エリアDに内包される照射対象物の数に応じた累積誤差量を相殺する移動量である請求項15に記載のリフト方法。
【請求項17】
前記累積誤差量が、ドナー基板上の隣接する照射対象物間の間隔を上限とする任意の許容範囲を超える場合であって、
前記分割工程は、前記分割エリアDのサイズを縮小し、修正分割エリアDとする分割工程であり、
前記移動工程における各基板の移動量は、当該修正分割エリアD内において累積する誤差量を相殺する移動量である請求項16に記載のリフト方法。
【請求項18】
位置情報D、位置情報R、前記分割エリアDのサイズ、及び前記許容範囲をパラメータとしたシミュレーションプログラムにより、レセプター基板全域の実装又は再転写に要する時間が最短となるよう前記修正分割エリアDのサイズ、各ステージの移動量の組み合わせ、及び各工程の実施順を決定して行う、請求項17に記載のリフト方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査型縮小投影光学系及びこれを用いたレーザ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディスプレイ等の製造工程において用いられる技術として、ドナー基板上にマトリックス状に多数配置されたマイクロLEDなどの微小素子をレセプター基板に転写する技術がある。また、ドナー基板上に塗布された、導電性、粘着性等の各種の機能性膜や材料膜、有機EL膜等のレセプター基板への転写技術がある。例えば、リフト(LIFT:Laser Induced Forward Transfer)技術、スタンプ技術、ロール転写技術など様々である。しかし、いずれの技術もその工程に要求される高速処理と高い位置精度を両立させることは容易ではなく、高速であっても転写漏れや位置ずれなどが発生する。
【0003】
そこで出願人は、高速かつ高精度なリフト装置を開発した(特許文献1)。しかし、そのリフト装置において用いる前述のスタンプ技術やロール転写技術を用いた転写装置により転写され、実装されたドナー基板やレセプター基板上の微小素子等には、1%にも及ぶ不良が存在することがある。そこで、この不良箇所に対し微小素子等を再転写する技術やそれを用いた装置に対しても高精度化と高速化の両方を兼ね備えることが求められている。
【0004】
また、そのような技術は、ドナー基板からレセプター基板への再転写用のみならず、基板上に位置する不良の微小素子等の照射対象物や不要な材料の部分の除去用としても用いることができ、微小素子等の転写による実装工程のほか、不良の除去工程に用いることも期待される。
【0005】
他方、特許文献1とは異なり、ステップアンドリピート方式による高精度な転写技術がある。例えば、修正対象基板上の不良の微小素子等があらかじめ除去されたあとの無素子箇所に、再度、微小素子等を再転写する技術では、エキシマレーザ光を、レンズアレイを組み合わせてなるビームホモジナイザーを用いて均一なエネルギー分布を持つレーザ光に整形し、これをフォトマスクと縮小投影レンズを用いて(再転写用の)ドナー基板上に位置する微小素子等に向け縮小投影し、その微小素子等を修正対象基板上にリフトする。この技術は、高い位置精度を持つステージによりドナー基板上の微小素子等を正確に修正対象基板上へリフト(再転写)することが可能であるが、微小素子1個あたりの処理時間として1~2秒程度必要とするため、1%に及ぶ大量な不良箇所が発生する可能性のある、ディスプレイ等の製造工程に用いる再転写装置としては、その生産効率に照らしても実用的とは言えない。
【0006】
なお、高速化を可能とする技術として、ガルバノスキャナーとfθレンズを組み合わせた光学系により、レーザ光を高速でスキャンし照射対象物に照射する技術は周知であるが、この技術により、不良の微小素子等を高速で修正対象基板から除去することは、そのスキャナーによる位置精度が許容する限りにおいて可能であるが、その後の高い位置精度が要求される再転写においては、精度の限界ゆえ困難を伴う。
【0007】
そこで、このスキャナーによる位置精度の問題を解消するため、スキャンされるレーザ光を、fθレンズ等を介してフォトマスク上に配列された開口部に向け選択的に照射し、これを基板上に位置する所定の照射対象物に縮小投影することで、スキャナーの走査精度に対する依存度を下げた、高速かつ高い位置精度の走査型縮小投影光学系を構築することが可能である。特許文献2においては、Nd:YAGレーザのビームをガルバノミラーにて走査し、fθレンズとフォトマスクを介して縮小投影することにより、低い走査精度に起因するドナー基板上の照射エリアの位置ずれを補償する光学系の例が示されている。
【0008】
しかし、各基板の大型化やさらなる高速処理のためには、ドナー基板上の照射エリアを大きくとり、短時間に多くの照射対象物にスキャンされたレーザ光を縮小投影する必要がある。すなわち、フォトマスク上のスキャン可能な照射エリアを大きくとる必要がある。この場合、特許文献2において用いられているfθレンズや縮小投影レンズの口径を大きくする必要があり、且つテレセントリックな設計とするには高いコストがかかってしまう。
【0009】
さらに、微小素子等の照射対象物の極小化や高密度化に対応するためには、スキャナーの精度限界を補償することはもとより、隣接する照射対象物に干渉しないよう強度分布の安定且つ均一な極めて小さい照射エリアサイズのレーザ光がドナー基板上において必要である。加えて、そのような光学系を搭載した、特許文献1に記載の装置に代わるリフト装置や再転写装置、不良除去装置の実現も期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2020-4478号公報
【文献】特開2006-41500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、大口径の高額なfθレンズやテレセントリック縮小投影レンズを用いることなく、スキャナーの精度不足を補いながら、均一で変動のないエネルギー分布を持つ微小な照射エリアを広範囲で高精度且つ高速でスキャンすることのできる走査型縮小投影光学系と、これを搭載した実装用若しくは再転写用のリフト装置等を低コストで提供し、さらに、これらを用いたその実施方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1の発明は、基板上に複数配列されたミニLED若しくはマイクロLED等の微小素子、又は基板上に塗布若しくは印刷等により付着している材料膜や機能性膜などの照射対象物に向けてマルチモードのパルスレーザ光を照射し、照射対象物に直接、又は基板と照射対象物の間にある物質を介して反応を誘起させることを利用したレーザ加工装置において用いることのできる走査型縮小投影光学系であって、レンズアレイ型のズームホモジナイザー、1軸以上の駆動軸制御装置により走査されるスキャニングミラー、フォトマスク、及び、すくなくとも像側がテレセントリックである投影レンズ系をその構成光学素子として有し、前記フォトマスクには縮小投影される所定の形状の開口が所定のピッチにて複数配列されている。
【0013】
さらに、このホモジナイザーは、第1レンズアレイ及び第2レンズアレイ、並びにコンデンサーレンズを含み、第2レンズアレイとコンデンサーレンズにより無限遠補正光学系を構成するズームホモジナイザーであり、前記フォトマスク上の一以上の隣接する開口群をカバーする所定サイズの照射エリアをそのフォトマスク上に結像し、特に、当該照射エリアの位置及びサイズ並びに当該照射エリア内のエネルギー強度分布の変動を補償する。
【0014】
「変動を補償」とは、例えば発振状態の変動がレーザ光のビームポインティングスタビリティーやビームサイズ、さらにはビーム断面の強度分布に変動をきたすことが知られているが、このズームホモジナイザーにより、フォトマスク上に結像された照射エリア内において、その影響を回避する状態をいう。その結果として、マスク投影されるドナー基板上においては極めて高均一なエネルギー分布を持った微小エリアの結像が得られる。
【0015】
前記所定サイズは、前記開口群の周辺に隣接する他のいずれの開口にも当該照射エリアが及ばないサイズである。すなわち、スキャニングミラーの走査精度によるフォトマスク上の照射位置精度を考慮の上、仮に、レーザ光がその隣接する開口を通過して基板上の(照射が意図されていない)照射対象物に照射されたとしたならば、反応が誘起されてしまう閾値以上のエネルギー分布の境界(外縁)が、その照射エリアに内包される開口群に隣接するいずれの開口にも及ばない(かからない)サイズである。例として、図1において、一点鎖線で囲まれた照射エリア(DP)は、4つの開口(61)からなる開口群をカバーする照射エリアの許容可能な最大サイズを例示し、点線で囲まれた小さな照射エリアは1つの開口をカバーする照射エリアの最小サイズを例示する。図中では、いずれの照射エリアの例も、スキャナーの位置精度によるズレを表現するため二重に図示されている。
【0016】
例えば、この図1にて示すように開口(正方形)がフォトマスク(6)上にマトリックス状に配列されている場合において、そのうちn×n個(n≧1)を一括照射する照射エリア(正方形)の所定サイズの一辺(DP)は、各開口の一辺をMa、ピッチをPi、スキャナーによるフォトマスク上における走査位置精度をStとすると、次式の範囲にある。
Pi×(n-1)+Ma+St ≦ DP < Pi×(n+1)-Ma-St
この範囲を超える所定サイズの場合、意図しない隣接する開口(の一部)を通過した前記の閾値を超えたエネルギーを持つレーザ光が、同じく意図しない照射対象物に縮小投影され、反応を誘起してしまう可能性がある。開口の形状が正方形でない場合や、n×m個の一括照射における所定サイズ(DP)の範囲は設計事項である。
【0017】
マトリックス状に配列された開口をもつフォトマスクを一括照射に用いる場合、フォトマスク上の開口のピッチ(Pi)は、縮小投影レンズの縮小倍率を1/cとすると、レセプター基板上にリフト予定の照射対象物のピッチのc倍に固定される。
【0018】
なお、縮小投影レンズの仕様によっては、開口の数は図2のような1列に配列されたものから、上記の図1のようにマトリックス状に配列されたものまで様々なデザインを選択できる。これらはスキャニングミラーの走査可能範囲にも依存する。
【0019】
前記第1レンズアレイ及び第2レンズアレイを構成するレンズエレメントは、フライアイ型に限定されず、円筒型、球面型でもよい。従って、各レンズアレイが直交するレンズエレメントの組み合わせにより構成される場合もある。さらに、第3のレンズアレイが追加されたズームホモジナイザーの場合もある。
【0020】
第2の発明は、第1の発明において、前記投影レンズ系が、前記コンデンサーレンズとフォトマスクの間に配置されたフィールドレンズと、少なくとも像側がテレセントリックな縮小投影レンズを含む構成からなる走査型縮小投影光学系である。
【0021】
ここで、フィールドレンズの仕様は、ズームホモジナイザー、コンデンサーレンズ(3)及びテレセントリックレンズの仕様に基づき決定し、本発明においてその好適な位置は図3に示すようなフォトマスク(6)の直前である。このフィールドレンズ(5)の焦点距離はズームホモジナイザーからのレーザ光(第2レンズアレイ(2)のレンズエレメント数に相当する数の集光点)が像側テレセントリック縮小投影レンズ(8)の入射瞳位置に置かれた絞り(7)を通過できる曲率にて設計されている。
【0022】
第3の発明は、第1又は2の発明における前記スキャニングミラー(4)が2軸のガルバノスキャナーで構成されている走査型縮小投影光学系である。これにより、フォトマスク(6)上に複数列配列された開口に向けレーザ光の照射エリアをスキャンすることができる。スキャニングミラーの制御装置は、専用のコントローラによる場合や専用のボードとPCの組み合わせによる場合など様々である。いずれも、パルスレーザ光の発振タイミングの制御としても用いることができる。
【0023】
第4の発明は、第1乃至3のいずれかの発明において、レンズアレイを構成する各レンズエレメントのサイズより小さいサイズを持つ開口が当該各レンズエレメントに対向して配列されている開口群からなるアレイマスクを、第1レンズアレイの直前又は第1レンズアレイと第2レンズアレイとの間に配置したズームホモジナイザーを用いた走査型縮小投影光学系である。これにより、フォトマスク上の開口形状が縮小投影されたドナー基板上において、レンズエレメント間の迷光による虚像を取り除くとともに、安定かつ高均一なエネルギー分布をもつ極めて微小な結像が得られる。また、レンズエレメント形状によらず、フォトマスクの開口形状又は並びに合わせた任意形状の微小結像が得られる。
【0024】
レンズエレメントが円筒型の場合、細長い開口のアレイマスクを組み合わせて用いてもよい。なお、アレイマスクの位置は、第1レンズアレイの直前若しくは直後又は第1レンズアレイと第2レンズアレイ間に位置する範囲において、フォトマスク上の照射エリアをビームプロファイラー等で確認しながら決定する設計事項である。なお、レンズエレメントの数とアレイマスクの開口群の数は一致していなくても良い。例えば、アレイマスクの外周部の開口数を減らすことで光学系のNAを調整することができる。
【0025】
前記所定サイズの一例として、フライアイ型の第1レンズアレイのエレメントサイズ、又は第1レンズアレイの直前に配置された前記アレイマスクの開口のサイズをdA、第1レンズアレイの焦点距離をf1、第2レンズアレイの焦点距離をf2、これら第1及び第2レンズアレイ間の距離をa(ここではa=f2)とし、また、前記コンデンサーレンズの焦点距離をfC、前記投影レンズ系を構成するフィールドレンズの焦点距離をfF、これらのレンズ間隔をbとすると、前記フォトマスク上に結像する照射エリアの前記所定サイズ(DP)は、次式にて表される。
【0026】
【数1】
【0027】
しかし、この構成では、第1レンズアレイの収差の影響やアレイマスクによる回折が発生し好適とは言えない。そこで、第1レンズアレイを光源側に移動し、アレイマスクを第2レンズアレイの光源側焦点位置付近に置くことで、これらの問題を回避する。さらに、アレイマスクにより切り出されるパルスレーザ光の利用効率も高めることができる。
【0028】
第5の発明は、第4の発明における前記アレイマスクが、その基材の面内において、サイズ若しくは形状又は開口の数の異なる開口群を切り替えて使用することを可能とする複数の種類の開口群が配列されている走査型縮小投影光学系である。
【0029】
アレイマスクの開口の数が第1レンズアレイの各レンズエレメントの数より少ない場合は、異形照明の機能を持つアレイマスクとなる。この異形照明用の開口群と、レンズアレイのレンズエレメントと同数の対向する開口群が1枚の基材に配列されているアレイマスクの例を図4に示す。
【0030】
第6の発明は、第4又は5の発明において、前記アレイマスクが、光軸周りに微小な回転調整を可能とするθ軸を含むマウントに設置されている走査型縮小投影光学系である。
【0031】
第2レンズアレイの各レンズエレメントからの出射光がコンデンサーレンズによりフォトマスク上で重ね合わせることで均一性の高い結像が得られる。ここで、アレイマスクと第2レンズアレイの相対位置関係において、光軸に垂直な面内での位置ずれは均一性に影響しない。しかし、光軸周りの回転方向(θ)にずれがあると結像の輪郭がぼやけ、多重結像になる。その様子を図5に示す。(ここでは円形の開口形状を持つアレイマスクを用いている。)このような回転方向のずれの影響は、結像が小さくなるほど大きくなる。
【0032】
第7の発明は、第1乃至6のいずれかの発明における各種光学素子が、エキシマレーザによる発振波長に対応している走査型縮小投影光学系である。
【0033】
第8の発明は、基板上に位置する照射対象物に向けてマルチモードパルスレーザ光を照射し、反応を誘起させることを利用したレーザ加工装置であって、レーザ装置から発振するマルチモードパルスレーザ光を、第1乃至6のいずれかに記載の走査型縮小投影光学系により、少なくともX軸とY軸の駆動軸を有するステージに保持された基板上に縮小投影する構成のレーザ加工装置である。
【0034】
ここで基板上に位置する照射対象物には、前述した不良の微小素子や、回路基板上の機能性膜の不要な部分など様々である。また、ここでの誘起される「反応」には、機械的反応、光学的反応、電気的反応、磁気的反応、及び熱的反応を含み、これらに限定されない。
【0035】
第9の発明は、第8の発明において、前記基板がその表面に前記照射対象物の位置するドナー基板であり、その照射対象物に向けてドナー基板の裏面からパルスレーザ光を照射することにより照射対象物を選択的に剥離又は分離し、ドナー基板に対向するレセプター基板上にリフトするための、実装用若しくは再転写用、又はこれら兼用のレーザ加工装置であり、より具体的にはリフト装置である。
【0036】
また、前記ステージは、ドナー基板をその裏面が前記パルスレーザ光の入射側となる向きにて保持するドナーステージであり、さらに、前記レセプター基板を保持する、X軸、Y軸、鉛直方向のZ軸、及びX-Y平面内にて回転するθ軸を有するレセプターステージを有し、前記走査型縮小投影光学系とこのドナーステージは第1定盤に設置され、レセプターステージは第2定盤又は基礎定盤に設置され、さらに、第1定盤と第2定盤は、それぞれが独立して基礎定盤上に設置されている構造を特徴とする。
【0037】
ここで、照射対象物を選択的に剥離又は分離するとは、照射対象物が微小素子の場合は、その微小素子自体を選択的にドナー基板から剥離することを意味し、また、照射対象物が、ドナー基板上に印刷又は一葉に塗布された機能性膜等である場合は、フォトマスク上の開口を介して縮小投影されたレーザ光の結像位置とサイズに相当する部分の機能性膜等を選択的に剥離又は分離することを意味する。なお、この剥離又は分離においては、いわゆるアブレーションプロセスが介在しない場合も含む。
【0038】
なお、いずれのステージも、ステップアンドリピート動作を行うため、すなわち、レーザ光の照射時はいずれのステージも静止しているため、ガイドとの間で物理的に接触があり安定している転がり案内方式のほうが、エアベリング方式に比べ、コスト面も考慮して好適といえる。
【0039】
他方、これらのステージが設置される第1定盤、第2定盤や基礎定盤のいずれの定盤も、その材質は、鉄鋼、石材又はセラミック材などの剛性の高い部材を用いる必要がある。石材として好適には、グラナイト(花崗岩/御影石)に代表される石材を用いる。
【0040】
以上の構成により、レセプター基板上にリフトされる照射対象物の位置精度とその位置安定性は、これら走査型縮小投影光学系と振動を排除した各基板用ステージの設置構造により変動が抑制されたマスク、縮小投影レンズ及びドナー基板間の相対的位置関係、及びドナー基板上の照射対象物の配列位置精度により決定される。
【0041】
第10の発明は、第9の発明において、前記スキャニングミラーの制御装置が、あらかじめ取得した前記ドナー基板上の照射対象物の位置情報、及び前記レセプター基板上へのリフト予定位置の情報に基づき選択されたフォトマスク上の開口に向け、パルスレーザの光軸を走査するスキャニングミラーの制御とパルスレーザ光の照射を制御する機能とを含むリフト装置である。
【0042】
特に、リフト装置を再転写装置として用いる場合など、再転写用のドナー基板上に無素子箇所や不良素子が実装されている不良箇所が存在する可能性は否定できない。そこで、リフト先のレセプター基板とリフト元のドナー基板それぞれの不良箇所の情報を基に選択された、リフトされるべきドナー基板上の照射対象物にのみ走査型縮小投影光学系からのレーザ光が照射されるために、その選択された照射対象物に相対するフォトマスク上の開口に光軸が走査されるようスキャニングミラーを制御する。
【0043】
第11の発明は、第9又は10の発明において、前記ドナーステージが、二以上のドナー基板を保持することができ、且つこれらを切り替えて使用することができるリフト装置である。
【0044】
例えば、導電性ペースト膜が塗布された第1ドナー基板に対し、本発明に係る走査型縮小投影光学系により縮小投影された所定のサイズのパルスレーザ光を照射し、対向するレセプター基板上の位置にそのサイズに相当する部分の導電性ペースト膜をリフト(ペースト印刷)する。次に、ドナーステージの移動により、第1ドナー基板を第2ドナー基板(キャリア基板)に切り替え、そのキャリア基板上の微小素子(デバイス)をレセプター基板上の同一の位置にリフトし、導電性ペースト膜を介してこれを固定させる。
【0045】
第12の発明は、第9乃至11の発明において、前記ドナーステージが第1定盤の下面に吊設されているリフト装置である。
【0046】
ドナーステージを構成する軸の設置順は設計事項であるが、好適には、水平に設置された第1定盤の下面から、X軸、Y軸の順で、θ軸を含む場合はその下に吊設する。なお、レセプターステージの軸構成も同様に設計事項である。
【0047】
第13の発明は、前記レーザ装置がエキシマレーザ装置であることを特徴とする、第8の発明に係るレーザ加工装置、又は第9乃至12のいずれかの発明に係るリフト装置である。
【0048】
第14の発明は、第9乃至13の発明のいずれかに記載の、走査型縮小投影光学系を搭載した本発明に係るリフト装置を用いて、ドナー基板上の照射対象物を対向するレセプター基板上に実装のため、又は再転写のためのリフト方法であって、ドナー基板上の照射対象物の位置情報である「位置情報D」、及びレセプター基板上への照射対象物のリフト予定位置である「位置情報R」をあらかじめ取得する検査工程と、ドナー基板上の領域を、所定のサイズの「分割エリアD」に区分する分割工程と、位置情報D及び位置情報Rに基づき、リフトする分割エリアD内の照射対象物の位置を選択する選択工程と、この選択された照射対象物の位置に(縮小投影レンズを介して)相対するフォトマスク上の開口を通過しドナー基板に照射されるレーザ光により、分割エリアD内の選択された照射対象物を、便宜上これと対向するレセプター基板上のエリアとして定める「分割エリアR」に向けリフトする転写工程と、当該転写工程後、ドナー基板とレセプター基板を次のリフト領域に移動する移動工程とを含み、以降、転写工程と移動工程を繰り返し、レセプター基板のリフト予定である全領域を対象にドナー基板上の選択された照射対象物をレセプター基板上に実装又は再転写を行うリフト方法である。
【0049】
検査工程において、実装されている照射対象物の位置情報の取得方法は様々であるが、全ての又はサンプリングによる二以上の、個々の照射対象物の画像を処理することにより得られる個々の重心座標とするなど、設計事項である。またこれら座標の原点位置の決定も設計事項である。位置情報D及び/又は位置情報Rは、本リフト装置とは別の独立した検査装置を用いて検査し、その結果を本リフト装置の制御装置に通信手段を介して取得してもよいし、本リフト装置にてドナー基板とレセプター基板の位置決め(アライメント)の際の測定結果を基に、設計上の数値から算出してもよい。なお、この検査工程は、実装又は再転写の総タクトタイムにもよるが、分割工程の前に実施することが望ましい。
【0050】
分割エリアD内の選択された照射対象物の位置とは、本リフト方法を実装用として用いる場合、対向する分割エリアR内のリフト予定位置に相対する全てのドナー基板上の照射対象物(但し、不良箇所を除く。)の位置であり、再転写用として用いる場合、レセプター基板上の不良箇所(無素子箇所)に相対するドナー基板上の照射対象物(但し、不良箇所(無素子箇所)を除く。)の位置である。
【0051】
転写工程においては、スキャニングミラーの走査を止めずに、その選択された照射対象物の位置に光軸が走査された時刻と同期してパルスレーザ光を発振させる場合と、走査と停止を繰り返す場合のいずれも含む。
【0052】
さらに、位置情報Dには、ドナー基板に正常に実装された、照射対象物としての微小素子又は正常に剥離や分離が可能な照射対象物の位置座標はもちろんのこと、不良又は欠損していると識別される照射対象物の位置座標も(異常位置情報として)含むことができる。本リフト方法を再転写用として用いる場合における位置情報Rも同様である。
【0053】
分割エリアDの最大サイズは、本リフト装置に搭載される走査型縮小投影光学系を構成する縮小投影レンズに依存する。特にテレセントリック縮小投影レンズは、その製造コストに鑑み開口数と倍率が制限されるため、これらの仕様によっては1回の走査によりリフト可能なフォトマスク上の、ひいてはドナー基板上の領域は制限される。
【0054】
本リフト方法においては、本リフト装置が実装用として用いられるか、再転写用として用いられるかによらず、ドナー基板の領域に上記の分割エリアDを設定し、ドナー基板とレセプター基板を、これらを保持する各ステージのステップアンドリピート動作により移動し、これらステージの停止時に振動を回避して精度よくリフトする。
【0055】
第15の発明は、第14の発明において、ドナー基板上の照射対象物の設計上の実装ピッチが、本リフト方法を実装用として用いる場合には、位置情報Rから算出される設計上の実装ピッチに対し、又は再転写用として用いる場合には、既に実装されているレセプター基板上の照射対象物に対する設計上の実装ピッチに対し、1倍、1/2倍、1/3倍、、、となるような、1以上の整数分の1倍である場合のリフト方法である。
【0056】
なお、レセプター基板上におけるリフト予定位置がX×Yのマトリックス状の配列の場合は、対向する同一サイズのドナー基板上の実装ピッチが、X列において1/n倍、Y列において1/m倍(nとmは1以上の異なる整数)である場合も含むものとする。
【0057】
第16の発明では、先ず、検査工程にて取得した位置情報Dから算出されるドナー基板上の照射対象物の現実の実装ピッチと、同じく位置情報Rから算出されるレセプター基板上の実装ピッチとの間に、(ドナー基板上の実装密度との違いを考慮の上、)基板間において誤差がある場合を想定する。このレセプター基板上の実装ピッチは、本リフト方法を実装用に用いる場合、照射対象物のリフト予定位置(設計上の位置)から算出され、再転写用に用いる場合、すでに実装されている照射対象物の現実の実装ピッチである。
【0058】
ドナー基板の製造工程に照らし、ドナー基板上に不良素子や無素子箇所が存在しないドナー基板であっても、実装されている照射対象物の現実の実装ピッチは、設計上の実装ピッチに対して誤差(δPi)を持つ場合がある。そして、この誤差が、同一基板上の場所によって傾向的に変動することはないとしても、ドナー基板の製造ロット間、ひいてはドナー基板間にて差がある(誤差を持っている)場合が想定できるからである。この場合、分割エリアDに内包される照射対象物の数に応じて誤差δPiが累積される。
【0059】
そこで、第16の発明は、第15の発明の移動工程における各基板の移動量を、この「累積誤差量」を相殺する移動量とするリフト方法である。
【0060】
第16の発明において、誤差(δPi)が一定以上の大きさを持つドナー基板を用いて分割エリアD内の照射対象物をリフトしようとする場合、そのエリア内の照射対象物の位置(基準となる位置からの照射対象物の数)によっては、そこでの累積誤差量がリフト位置精度上、許容範囲を超える場合がある。レセプター基板上のリフト予定位置とリフトされるドナー基板上の照射対象物の位置のずれはさることながら、フォトマスク上の開口を通過したレーザ光がドナー基板上で結像する予定位置と、その照射を受けるべき照射対象物の位置とのずれは、ドナー基板上の照射対象物の実装密度が高くピッチが狭い場合、特に問題となる。
【0061】
そこで、第17の発明においては、ドナー基板上の隣接する照射対象物の間隔を上限とし、且つ、ドナー基板上の照射対象物に向け照射されるレーザ光の照射サイズと照射対象物のサイズの差、及びそれらの位置ずれがリフト位置精度に及ぼす影響を考慮の上、許容できる累積誤差量の範囲を定め、分割エリアD内における累積誤差量が最大となる位置(例えば左上端を基準とした場合における右下端)において、この許容範囲を超える場合、第16の発明の分割工程における分割エリアDのサイズを、その許容範囲以内にその位置における累積誤差量が収まるサイズにまでさらに縮小した「修正分割エリアD」とする。
【0062】
そして、その修正分割エリアD内の選択された照射対象物を、対向するレセプター基板上の同じく便宜上同サイズとして定めた「修正分割エリアR」内へ実装又は再転写する。その後、次の修正分割エリアRへのリフトのためドナー基板とレセプター基板をステージにより移動する移動工程を実施する。その際、前記累積誤差量を相殺するように各ステージの移動量を調整する。
【0063】
なお、この累積誤差量の許容範囲を定めるに際し、1つの分割エリアD内において、前述の最大値を超える累積誤差量が生じない場合であっても、レセプター基板全体に対しドナー基板上の(又はレセプター基板上の)設計上のピッチに従って移動工程を重ねた結果、その最大値を超える場合があることを想定して、又はあらかじめシミュレーションして、この許容範囲(修正分割エリアDのサイズ)を定めるとよい。
【0064】
第18の発明は、第17の発明において、位置情報D、位置情報R、前記分割エリアDのサイズ、及び前記許容範囲、をパラメータとして、シミュレーションプログラムにより、レセプター基板全域の実装又は再転写に要する時間が最短となるよう前記修正分割エリアDのサイズ、各ステージの移動量の組み合わせ、及び各工程の実施順を決定して行うリフト方法である。
【発明の効果】
【0065】
大口径のfθレンズやテレセントリック投影レンズを用いることなく、スキャニングミラーの走査精度不足を補いながら、均一で変動のないエネルギー分布を持つ微小且つ安定した照射エリアをフォトマスク上に配列された開口に向け高速スキャンし、照射対象物上に高均一且つ高精度に縮小投影する走査型縮小光学系と、これを搭載した不良除去装置や、実装用又は再転写用のリフト装置を低コストで実現する。
【図面の簡単な説明】
【0066】
図1】マトリックス状に開口が配列されたフォトマスクの様子を例示した概念図。
図2】一列に開口が配列されたフォトマスクの様子を例示した概念図。
図3】走査型縮小投影光学系の構成素子を配置した様子を例示した概念図。(アレイマスク無し)
図4】複数の開口群が配列されているアレイマスクの様子を例示した概略図。
図5】フォトマスク上の(θ軸ずれ)照射エリアのビームプロファイラー画像。
図6A】走査型縮小投影光学系を搭載したリフト装置の概略概念図(立体)。
図6B】走査型縮小投影光学系を搭載したリフト装置の概略概念図。
図7】ズームホモジナイザーの素子構成の概念図。
図8A】アレイマスクの概念図。
図8B】アレイマスクの写真。
図9】ズームホモジナイザーからドナー基板にかけての各光学素子の配置に関する概念図。
図10A】矩形アレイマスク挿入時のフォトマスク上の結像状態を示すビームプロファイル画像。
図10B】円形アレイマスク挿入時のフォトマスク上の結像状態を示すビームプロファイル画像。
図11】実施例1に用いたフォトマスクの概念図。
図12】ドナー基板上に縮小投影されたレーザ光のビームプロファイル画像。
図13】ドナー基板の有効なエリア全体に微小素子が実装されているエリアの様子の概念図。
図14】6インチのドナー基板上の領域を27の分割エリアに区分した様子の概念図。
図15】ドナー基板上の位置と累積誤差量の関係を表す概念図。
図16】不良位置情報Dと不良位置情報Rの重複する様子を表す概念図。
図17】相対する各基板の分割エリアごとに、対向させてリフトする様子を表す概念図。
図18】相対しない各基板分割エリアごとに、対向させてリフトする様子を表す概念図。
【発明を実施するための形態】
【0067】
以下、本発明を実施するための形態について、具体的な例と図を用いて説明する。なお、以下の説明では、便宜上前出の概念図等を用いる場合もある。
【実施例1】
【0068】
本実施例1においては、サイズが6インチのドナー基板上に、マトリックス状に不良なく配列されたサイズが30×60[μm](X軸×Y軸)の微小素子(マイクロLED素子)である照射対象物を、同一サイズのレセプター基板に対し、222×225個の合計49950個マトリックス状に実装するリフト装置の実施例を示す。レセプター基板上に実装されるこの約5万個の微小素子に要求されるリフト位置精度は、±2[μm]であり、各軸方向のピッチは450[μm]である。なお、ドナー基板上には、レセプター基板にリフト予定位置の実装ピッチに対し、1/2倍のピッチで微小素子が不良なく(無素子箇所なく)配列され、その総数は、約20万個である。そして、隣接する微小素子との距離(間隔)はX:195[μm]、Y:165[μm]である。本実施例においては簡単のため、レセプター基板サイズをドナー基板と同サイズとし、微小素子の配列ピッチはX軸、Y軸共に同じとしたが、いずれも設計事項である。
【0069】
はじめに、本発明の実施に係るリフト装置の外観の一例を図6Aに示す。この外観図の構成は、55インチサイズ以上のレセプター基板に対応可能である。また、主要構成部位の配置の概念図を図6Bに示す。なお、図6Bにおいてはレーザ装置、各種制御装置、その他各光学素子のマウント等の図示は省略し、X軸、Y軸及びZ軸方向は図中に示した。第1定盤(G11、G12)及び第2定盤(G2)には全てグラナイトを用いた石定盤とした。そして、基礎定盤(G)には剛性の高い鉄を用いた。
【0070】
また、各定盤間や各定盤と各ステージの間には、その設置角度(直交/平行)を微調整するための回転調整機構を有していることが望ましい。具体的には、上述の特許文献1に記載の回転調整機構が好適である。さらに、各基板の位置をモニターする高倍率カメラがその基板を保持するステージ等の振動系統とは異なる部位に設置されていることが望ましい。
【0071】
本実施例1において用いるレーザ装置は、発振波長を248[nm]とするエキシマレーザである。出射するレーザ光の空間的分布は、概ね8×24[mm]であり、ビーム拡がり角は1×3[mrad]である。いずれも(縦×横)の表記であり、数値はFWHMである。なお、エキシマレーザの仕様は様々であり、出力の違い、繰り返し周波数の違い、ビームサイズの違い、ビーム拡がり角の違い等はもとより、出射するレーザ光が縦長(前記縦と横を逆転したもの。)のものも存在するが、光学系の追加、省略又は設計変更により、本実施例において用いることができるエキシマレーザは多く存在する。また、レーザ装置は、その大きさにも依るが、一般的にリフト装置のステージ群が設置される基礎とは異なる定盤の上に設置される場合もある。
【0072】
エキシマレーザからの出射光はテレスコープ光学系に入射し、その先のズームホモジナイザーへと伝搬する。ここで、ズームホモジナイザーは、図6Bに示すとおり、その光軸がX軸に沿うように第1定盤(G11)上に配置されている。そして、このズームホモジナイザーに入射する直前におけるレーザ光は、概ね平行光となるようテレスコープ光学系により調整されており、ズームホモジナイザーの位置に依らず、概ね同一サイズにてX軸に沿ってこれに入射する。本実施例においては、そのサイズは、概ね25×25[mm](Z×Y)である。
【0073】
本実施例におけるズームホモジナイザーを構成する各レンズアレイ(1、2)は、図7に示す概念図に示すように、光軸に対し垂直なY-Z面内にて2枚一組の1軸シリンドリカルレンズアレイを直角に組み合わせたものである。レーザ光は、初段の組の第1レンズアレイ(1)に入射し、集光しながら後段の第2レンズアレイ(2)の光源側焦点位置付近に置かれたアレイマスク(10)を通過し、第2レンズアレイ(2)、コンデンサーレンズ(3)の順に伝搬する。
本実施例1においては、アレイマスクとして、0.75[mm]角の開口がマトリックス状に配列されているものを用いた。その概念図を図8Aに示す。この概念図においては、レンズアレイとの相対する様子を表すために、フライアイ型のレンズアレイ(1)の直前に配置されたアレイマスク(10)とその開口(101)の位置関係を概念図にて示している。本実施例において用いたアレイマスクの様子は図8Bに示す。
【0074】
ズームホモジナイザーからドナー基板にかけての各光学素子の配置について、その概念図を図9に示す。詳細な配置位置については設計事項である。前記ズームホモジナイザーから出射したレーザ光は、2軸構成のスキャニングミラー(4)とその制御装置により走査され、フィールドレンズ(5)へと伝搬し、フォトマスク(6)上において結像する。
【0075】
フォトマスク(6)上における結像面は、アレイマスク(10)の開口(101)を物体面として、第2レンズアレイ(2)とコンデンサーレンズ(3)により構成される無限遠補正光学系の像面である。
レーザ光は、スキャニングミラー(4)により走査され、そのフォトマスク(6)上の選択された1つの開口(61)に向けて伝搬され、所定サイズの照射エリアで結像する。図10Aはそのビームプロファイル画像である。この所定サイズは、選択されていない隣接するフォトマスク上の開口を介して意図していない照射対象物に照射されると反応が誘起されてしまう閾値以上を持つエネルギー分布の境界(外周・外縁)であり、本実施例においては概ね1[mm](FWHM)である。なお、図10Bは、アレイマスク(10)の開口形状が円形のものを用いた場合の、同じくフォトマスク(6)上のビームプロファイルである。
【0076】
本実施例1におけるフォトマスク(6)には、合成石英板にクロムメッキにてパターンが描画された(施された)ものを用いる。図11にその概念図を示す。レーザ光は、クロムメッキが施されていない白く示された窓部分(61)通過し、クロムメッキが施されている有色部分(62)にて遮断される。開口のサイズは60×100[μm]であり、これがX軸方向にピッチ600[μm]間隔にて74開口、Y軸方向に同じピッチで25開口、合計1850個配置されている。また、クロムメッキを施す面は、レーザ光の出射側であり、他方、入射側には248[nm]用の反射防止膜を施してある。さらに、クロムメッキに代えて、アルミ蒸着や誘電体多層膜を用いることもできる。
【0077】
なお、フォトマスク(6)及びアレイマスク(10)はそれぞれ専用のマウント(図示省略)に固定されており、このマウントは、X軸、Y軸、Z軸方向にそれぞれ移動するW軸、U軸、V軸、及びYZ面内の(光軸周りの)回転軸であるR軸(θ軸)、V軸に対する傾きを調整するTV軸及びU軸に対する傾きを調整するTU軸の計6軸調整機構を持つ。
【0078】
なお、ズームホモジナイザーを通過するレーザ光(の光軸)は、スキャニングミラー(4)によりフォトマスク上の開口部を高速で走査され、エキシマレーザ装置は、その光軸が各開口の位置に走査されたタイミングに同期してパルス発振している。
【0079】
フォトマスクパターンを通過したレーザ光は、絞り(7)を経て3/4の縮小倍率を持つ像側テレセントリック投影レンズ(8)に伝搬し、次にドナー基板(91)に向けその裏面から表面(下面)のサイズが30×60[μm](X×Y)の微小素子が実装されている位置に縮小投影される。図12はその投影されたレーザ光のビームプロファイル画像である。走査されるレーザ光の照射を受けたドナー基板上の微小素子は、ピッチ450[μm]にて次々と対向するレセプター基板上にマトリックス状にリフトされ、実装される。
【0080】
リフトされた30×60[μm]の照射対象物の数は、フォトマスク上の前述の74×25開口に相当する数であり、そのリフト範囲は、約33×11[mm]である。
【0081】
なお、縮小投影レンズ(8)は像側テレセントリックであり、これを保持するZ軸駆動のステージ等による調整のほか、ドナー基板のZ軸方向の調整機能(Z軸ステージ(Zd))を追加し、光吸収層への結像をサポートする構成とすることもできる。しかし、ドナーステージのへの加重負荷が増加することによるリフト位置精度の低下を考慮する必要がある。
【0082】
また、ドナー基板表面と光吸収層等の境界面における結像位置の調整の際には、マスク面と縮小投影レンズに対し共役の関係にある平面を撮像面に持つ共焦点ビームプロファイラー(BP)を用いたリアルタイムモニターが有効である。本実施例1においては、ドナー基板表面と微小素子との境界面に縮小投影されるレーザ光の空間的強度分布を、リアルタイム且つ高分解能にてモニターする。
【0083】
フォトマスク(6)上の全ての開口に向けレーザ光を走査し、結像位置の調整されたドナー基板上に配列された微小素子に向け、レーザ光を順次照射する。これにより、フォトマスク上の開口数に相当する1850個の微小素子が、レセプター基板上の同数のリフト予定位置へ実装される。なお、この1850ヵ所のリフト領域は、レセプター基板をX軸方向に3分割(A~C)、Y軸方向に9分割(1~9)、合計27分割(A1~A9、B1~B9、C1~C9)した際の1つのエリアに相当する。そのサイズは、スキャニングミラーの走査角と縮小投影レンズの開口径により決まる約33×11[mm]である。この1つのエリアに対するリフトが完了したのち、ドナー基板とレセプター基板を次のリフトエリアに移動する。例えば、X軸方向に33.3[mm]、Y軸方向に11.25[mm]の移動である。その後、再び1850ヶ所のリフトを行い、以降はリフト予定位置全体にこれを繰り返し、ドナー基板からレセプター基板への49950個の微小素子の実装が完了する。ドナー基板上には、前述のとおり、レセプター基板上へのリフト予定位置のピッチの1/2倍の高密度で微小素子が不良なく実装されているため、1枚のドナー基板により、4枚のレセプター基板への実装が行える。
【0084】
なお、レーザ光のドナー基板上への各開口の結像サイズとそのエネルギー密度の関係によって、フォトマスク上へのレーザ光の照射エリアの所定サイズ(DP)を、例えば図1において一点鎖線にて示すように4つの開口を一括にて照射できるサイズとすることができる場合、実装にかかる時間を約1/4とすることができる。
【0085】
また、図13に示すように、ドナー基板の形状がウェハー形状であり、且つその有効なエリア全体に微小素子が実装されているものを用いる場合などは、その微小素子の実装エリアに沿ったリフトエリア(図中、斜線にて示すエリア。)を設定し、スキャニングミラーの走査範囲をこれに合わせて走査することにより、隅々に位置する微小素子のリフトを行うこともできる。
【0086】
以上が、ドナー基板上の微小素子を対向するレセプター基板上へ実装するリフト装置、及び実装方法の具体例である。
【実施例2】
【0087】
本実施例2においは、転写不良が無いとしたならば、495×495=245025個の40[μm]角の微小素子が、隣接する素子と200[μm]のピッチにてマトリックス状に実装されている修正対象の6インチのレセプター基板(以下、本実施例2において単に「レセプター基板」という。)の約1%に相当する不良箇所への再転写による修正例を本発明に係る修正用のリフト装置を用いて示す。また、レセプター基板同様、6インチの修正用ドナー基板(以下、本実施例において単に「ドナー基板」という。)上に配列されている再転写(修正)に用いられる微小素子も約1%に及ぶ無素子箇所(と不良箇所)が分布しているものとする。なお、本実施例2におけるドナー基板上には、レセプター基板上に実装されている微小素子の設計上の実装ピッチに対し、設計上1/4倍のピッチである50[μm]で微小素子が配列され、その総数は390万以上である。よって隣接する微小素子との間隔は10[μm]である。その他、本実施例2のリフト装置に搭載される走査型縮小投影光学系の構成概略や装置の構造は実施例1と同様であるが、各光学素子の仕様やその配置位置、及びこれらにより定まるビームプロファイル形状は設計事項である。
【0088】
本実施例2におけるフォトマスク(6)上には、図1に示すように縮小投影レンズ(8)の倍率(1/4倍)と微小素子サイズ(40[μm]角)により定まる形状よりも一回り大きい200[μm]角の開口(Ma)が、800[μm]ピッチ(Pi)で165個×55個のマトリックスに配列されている。この配列はレセプター基板に実装されている微小素子の配列に対応している。走査型縮小投影光学系によりこのフォトマスク上に結像する照射エリアのサイズは、本実施例1と同様の約1[mm]角であり、フォトマスク上において隣接する開口に干渉することのなく照射できるサイズである。この開口を通過したレーザ光は像側テレセントリック縮小投影レンズ(8)を介してドナー基板(9)上の再転写(修正)に用いられる微小素子に向けて結像する。
【0089】
スキャニングミラー(4)の動作と同期してパルス発振した前記照射エリアサイズを持つエキシマレーザ光は、フォトマスク(6)上の200[μm]角の開口に照射される。この開口を通過したレーザ光は、1/4倍の縮小倍率の像側テレセントリック投影レンズ(8)を通過し、ドナー基板の裏面から、これに配列された微小素子に向け、10[μm]の間隔にて隣接する微小素子に干渉することなく照射される。本実施例において、照射されたパルスレーザ光はこの微小素子サイズより一回り大きい50[μm]角にてドナー基板の表面(下面)にて結像し、反応を誘起し、その位置にある微小素子をレセプター基板上の無素子箇所に向けてリフトする。
【0090】
以下、各工程に分けて具体的な再転写(修正)のためのリフト方法を示す。
(1)検査工程
ドナー基板上及びレセプター基板上に実装されている微小素子の位置情報として、設計上の位置情報と画像処理から得た現実の実装位置を取得する。具体的な座標は、微小素子の形状から得られる重心位置とし、座標原点は基板のオリフラの位置を参照して決定した。ここでは、ドナー基板上の位置情報を「位置情報D」、レセプター基板上の位置情報を「位置情報R」とした。
【0091】
位置情報Dは、再転写に用いるべきではない不良と認定される微小素子、及びそもそも実装されていない無素子箇所を含む。それらの位置座標は、隣接する微小素子から算出され、「不良位置情報D」として取得される。位置情報Rにおける「不良位置情報R」も同様である。
【0092】
また、本実施例において、ドナー基板上に配列された微小素子の設計上のピッチは、レセプター基板上に実装されている微小素子の設計上のピッチの1/4倍であり、その現実のピッチは、ドナー基板間、さらにはレセプター基板との間で誤差を持つ。そこで、この誤差を位置情報DとRから算出しておく。本実施例においては簡単のため、位置情報Rは設計上のピッチとし、そのピッチに対するドナー基板のピッチの誤差δPiの値は+0.0075[μm]である。
【0093】
(2)分割工程
6インチのドナー基板上の領域を実施例1と同様27の分割エリア(「分割エリアD」)に区分する。図14に示すとおり各エリアは、33×11[mm]であり、各分割エリアは便宜上A1~A9、B1~B9、C1~C9として図中に示す。レセプター基板も同様に27の「分割エリアR」として区分し、リフトは対向させる分割エリア間で行われる。
【0094】
なお、この分割エリアDのサイズは、実施例1と同様、縮小投影レンズの有効な開口径、その他の仕様により制限されるフォトマスクのサイズと、同じく縮小投影倍率により決定される設計事項である。
【0095】
ここで、分割エリアDに内包される照射対象物の長軸(X軸)方向の数660(-1)個に対し、前述の誤差δPiを掛けて得られる累積誤差量として許容できる範囲を±5[μm]と設定した。
この許容範囲は、図15に示すように、分割エリアD(一点鎖線)の左上端を位置合わせの基準とする場合、フォトマスク上(6)の開口(61)を通過したレーザ光がドナー基板上の40[μm]角の微小素子上で結像するサイズである50[μm]角(図中の破線)が、累積誤差量が最大となる右端の位置にある微小素子(実線)の全面を照射できる限界を基に、任意に設定したものである。なお、図中の二点鎖線の40[μm]角は設計上のドナー基板上の微小素子の実装位置であり、破線の結像サイズに対し、中央に位置している。本実施例においては、分割エリアD内に実装されているいずれの微小素子も、そこでの設計上の位置に対し、累積誤差量が前記許容範囲内(659×0.0075≒4.94)にあるので、この分割工程において、縮小された「修正分割エリアD」を設定する必要はない。
【0096】
(3)選択工程
分割エリアDに対向する同サイズの分割エリアRに対し、その分割エリアRに実装されている9075個の微小素子の約1%にあたる無素子箇所(約91ヶ所の不良位置情報R)に向け、分割エリアD内に配列されている微小素子の中のうち、これと対向する位置にある微小素子を、選択的に、1対1にてリフトする。
【0097】
しかし、分割エリアD内にも実装されている微小素子(660×220=145200個)のうち、約1%にあたる1452個の不良素子が存在し、これら(不良位置情報D)は不良位置情報Rと重複する可能性がある。図16にその様子を示す。ここでは、ドナー基板越しにレセプター基板を観察しているイメージである。ドナー基板上に配列されている微小素子の配列の一部のエリアが示されている。この図では、分割エリアA1のうち破線で囲まれた左上の付近を拡大して示しており、このエリア内に位置するドナー基板上の微小素子の配列の様子が図示されている。
【0098】
ここでは、あらかじめ除去工程によりレセプター基板から不良素子が取り除かれた無素子箇所の位置を、便宜上、白抜きの四角形(Mr)で示し、同じく正常にレセプター基板に実装されている微小素子の位置を黒色の四角形(Er)で、そのほかレセプター基板の16倍で高密度配列されたドナー基板上の微小素子の位置を灰色の四角形(Ed)で示した。(ErやMrと重なる位置のEdは図示省略。)前述のとおりドナー基板上の微小素子Edのピッチは、50[μm]であり、レセプター基板上の微小素子Erのピッチは200[μm]である。
【0099】
まず、初めて修正に用いるドナー基板により1枚目のレセプター基板を修正する場合について説明する。
(3-1) 不良位置情報Dと不良位置情報Rを基板単位にて照合し、無素子箇所(Mr)と不良素子位置(Md)が重複している位置を事前確認する。ここでの確認すべき重複の有無は、図中に示されたドナー基板のX軸方向に並ぶβ列群と、同じくY軸方向に並ぶα列群が交差する位置(計245025ヶ所/基板)における基板単位(27エリア全て)の重複を意味する。なお、他のα’、α’’、α’’’、β’、β’’及びβ’’’列群は、16倍の密度にて実装されているドナー基板上の他の微小素子の配列位置を表す。(図中、α列群は左から3列のみ矢印で図示、β列群は上から2列のみ矢印で図示。他の「’」列群も同様に限定的に矢印にて図示している。)
【0100】
重複がなければ、選択工程として、無素子箇所(Mr)に相対するドナー基板上の微小素子の位置(Ed)が選択される。重複が確認された場合は後述する。
【0101】
(3-2) 他方、修正に使用済みのドナー基板と、(1枚目又は)2枚目以降のレセプター基板の組み合わせによる修正の場合は、もともとドナー基板の持つ約1%の不良素子の位置情報(Md)に、さらに過去再転写に使われたことにより微小素子が欠損している使用済みの位置情報を加えた全ての位置情報(1%のMd+使用済みMd)とレセプター基板上の無素子箇所の分布位置情報(Mr)を照合し、重複の有無を事前確認する。その結果、重複がなければ、選択工程として、無素子箇所(Mr)に相対するドナー基板上の微小素子の位置(Ed)が選択される。
【0102】
(4)転写工程
上述(3-1)又は(3-2)の場合において、再転写に用いられるドナー基板上の微小素子の位置が選択されたあと、1枚目又は2枚目以降のレセプター基板の修正を前述の分割エリアA1から再転写を開始する。スキャニングミラー(4)によりフォトマスク(6)と縮小投影レンズ(8)を介して、レーザ光の光軸をドナー基板上のβの列に沿って走査する。このエリア内にて、選択された位置に、光軸が走査されたタイミングにて発振するエキシマレーザ光により、ドナー基板上の選択された位置に実装されている微小素子は、レセプター基板上の対向する無素子箇所(Mr)に向けてリフトされる。
【0103】
(5)移動工程
ドナー基板のエリアA1内の選択された位置にある微小素子によるレセプター基板のエリアA1への修正が終了後、次のエリアA2に対しても同様に修正を行う。エリアの移動は、各基板を保持するステージの移動により任意の順番(例えば、A1~A9→B1~B9→C1~C9)にて全てのエリアにおける修正を行う。なお、各分割エリアの移動時のステージ移動量については、前述の累積誤差量(約+4.95[μm])を相殺するように設定する。修正の必要な全分割エリアへの修正完了後は、このレセプター基板を次に修正するレセプター基板に交換する。
【0104】
他方、前述の(3-1)又は(3-2)における基板単位による照合において、重複のあることが確認された場合、照合対象の列群をαからα’列群へ、又は、βからβ’列群へ変更し、変更後の列群の組み合わせ(変更された列群の交点)において、前述の(3-1)又は(3-2)と同様に基板単位で照合し重複がないか確認する。この場合、可能な列群の組み合わせは、15通りである。基板単位にて重複の無い列群の組み合わせが見つかった場合、その組み合わせに基づき無素子箇所(Mr)に相対するドナー基板上の微小素子の位置(Ed)が選択される。なお、転写工程の前に、その列群の組み合わせに応じた基板の移動を行う。図17にて、各分割エリア(A1)間における再転写時の基板間の位置の様子を示す。
【0105】
また、前述の(3-1)又は(3-2)における基板単位の照合において、15通りのいずれの組み合わせにおいても、重複の無い列群の組み合わせが見つからない場合は、広い基板単位ではなく狭い対向する分割エリア単位で照合する。例えば、レセプター基板のエリアA1とこれに対向するドナー基板のエリアA1に限定して照合する。その結果、α列群とβ列群の交差する位置において重複がなければそのまま転写工程に移行し、重複があれば、少なくとも対向する各基板の分割エリア(A1)内において、重複のない他の列群の組み合わせ(例:α’列群とβ’’列群)を摸索する。その組み合わせは最多で16通り存在する。見つかった重複のない列群の組み合わせにおいて、ドナー基板の分割エリアA1によるレセプター基板の分割エリアA1の修正が完了したあと、次のエリアA2に対しても同様の照合を経て重複のない列群の組み合わせにおいてレセプター基板のエリアA2を修正する。以降、ドナーA3とレセプターA3、ドナーA4とレセプターA4、、、とこれを繰り返す。なお、例えば分割エリアB5同士間においてのみ重複があり、このエリアを除けば基板単位で重複がない場合、それ以前と以降のエリア限定の照合は不要である。
【0106】
前述の対向する分割エリア同士の照合(A1とA1、B1とB1、、)において、重複の無い列群の組み合わせが見つからなかった場合は、その時点で、照合の対象とするドナー基板上のエリアをこれと対向する分割エリア同士に限定した照合から、ドナー基板の他の26の分割エリアとの照合へと、その限定を外し、重複の無い列群の組み合わせをエリア単位で摸索する。図18にその様子を示す。ここでは、ドナー基板の分割エリアC5とレセプター基板の分割エリアA3の組み合わせにおいて、例えばα’’’群とβ’’’群の交差位置による再転写である。但し、この照合対象の分割エリアを変更した時点までに修正に使用されてしまった微小素子の欠損位置が反映された不良位置情報(Md)を考慮して、重複のない列群の組み合わせを分割エリア間にて模索しなければならない点に留意する。加えて、頻繁な列群の移動や対向させる分割エリアへの移動のためのステージ移動に要する時間も総合的に勘案し、妥当なタクトタイムが実現できるかを検討する(計算する)必要がある。その計算結果に従い、適宜、重複の照合範囲の選択やドナー基板の交換時期の判断を行う。
【0107】
なお、レセプター基板上へのレーザ光の直接照射が悪影響を及ぼさない限りにおいて、不良位置情報の重複の有無に拘わらず、転写工程を行ってしまい、例えば重複のために再転写されなかった無素子箇所については異なるドナー基板による2回目以降の修正に委ねる、などの選択肢も生じることになる。さらには基板ごとの照合と、分割エリアごとの照合を、タクトタイムのシミュレーションに基づき適時に組み合わせて行うこともでき、さらには、検査工程において予め取得した各基板の位置情報を基に、シミュレーションされた最もタクトタイムの短い各照合方法やその範囲の組み合わせを定めておくことも可能である。
【0108】
本実施例のように、分割エリアRごとに再転写する場合、すなわち、フォトマスク上の開口数(165×55個)ごとに約30個/秒のスキャン速度を持つスキャニングミラーを一気に走査して再転写する場合、基板間で不良位置の重複が無いとしたならば、1分割エリアあたりの(約90箇所の)修正に要する時間は約3秒であり、これを27の分割エリアに行う時間と、分割エリア移動のための各基板の移動時間を考慮しても、基板がセットされてから修正が終わるまでに要する時間は、おおむね90秒前後である。
【0109】
1箇所の微小素子の再転写に約1秒を要する前述の従来装置を用いた場合の約2450秒のタクトタイムと比較して圧倒的な速さで1%に及ぶ不良素子の修正を実現できる。また、照合(重複確認)に要する計算時間と、重複回避のための前記列群移動及び分割エリア移動に要するステージの移動時間を考慮しても、本実施例におけるタクトタイムの圧倒的優位性は維持できる。
【0110】
なお、分割エリアを対向する分割エリアに限らずランダムに照合する場合や、累積誤差量を考慮する場合においては、検査工程において取得する位置情報D、位置情報R、前記分割エリアDのサイズ及び前記累積誤差量の許容範囲をパラメータとしたシミュレーションプログラムにより、レセプター基板全域の実装又は再転写に要する時間が最短となるよう前記修正分割エリアDのサイズ、各ステージの移動量の組み合わせ 、及び各工程の実施順 を決定し、各工程の最適化を行うとよい。
【産業上の利用可能性】
【0111】
マイクロLEDディスプレイの製造工程の一部に利用可能である。
【符号の説明】
【0112】
1 第1レンズアレイ
10 アレイマスク
101 開口(アレイマスク上)
2 第2レンズアレイ
3 コンデンサーレンズ
4 スキャニングミラー
5 フィールドレンズ
6 フォトマスク
61 開口(フォトマスク上)
62 フォトマスクの遮蔽部
7 絞り(入射瞳)
8 縮小投影レンズ(像側テレセントリック)
91 ドナー基板
92 レセプター基板
BP ビームプロファイラー
CCD 高倍率カメラ
DP フォトマスク上におけるレーザ光の照射エリア(所定サイズ)
Ed ドナー基板上の微小素子の位置
Er レセプター基板上の微小素子の位置
G、G11、G12、G2 (基礎、第1(柱)、第1(梁)、第2)定盤
La レーザ光
Ma フォトマスク上の開口のサイズ
Md ドナー基板上の不良素子位置
Mr レセプター基板上の無素子箇所
Pi フォトマスク上に配列された開口のピッチ
St フォトマスク上におけるスキャナーの精度
Xd、Xr (ドナー、レセプター基板用)X軸ステージ
Yd、Yr (ドナー、レセプター基板用)Y軸ステージ
Zd、Zr (ドナー、レセプター基板用)Z軸ステージ
α、β (Y軸、X軸に沿って)ドナー基板上に配列される微小素子の列群
δPi 基板上に実装された素子のピッチの誤差
θd、θr (ドナー、レセプター基板用)θ軸回転ステージ

図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8A
図8B
図9
図10A
図10B
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18