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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-20
(45)【発行日】2024-05-28
(54)【発明の名称】ジルコニア焼結体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/486 20060101AFI20240521BHJP
   A61C 5/70 20170101ALI20240521BHJP
   A61C 13/00 20060101ALI20240521BHJP
【FI】
C04B35/486
A61C5/70
A61C13/00 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022000367
(22)【出願日】2022-01-05
(62)【分割の表示】P 2021535471の分割
【原出願日】2020-07-31
(65)【公開番号】P2022059605
(43)【公開日】2022-04-13
【審査請求日】2023-01-31
(31)【優先権主張番号】P 2019142362
(32)【優先日】2019-08-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301069384
【氏名又は名称】クラレノリタケデンタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004314
【氏名又は名称】弁理士法人青藍国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100174779
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 康晃
(72)【発明者】
【氏名】坂本 紘之
(72)【発明者】
【氏名】加藤 新一郎
(72)【発明者】
【氏名】松浦 篤
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/131782(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/056330(WO,A1)
【文献】特開2018-080160(JP,A)
【文献】特開2018-052806(JP,A)
【文献】国際公開第2019/166938(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/486
A61C 5/70
A61C 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体を焼成する焼成工程を有し、
前記焼成工程が、第1昇温工程(H1)、第2昇温工程(H2)、及び第3昇温工程(H3)の少なくとも3段階の昇温工程と係留工程とを含み、
第1昇温工程(H1)、第2昇温工程(H2)、第3昇温工程(H3)及び前記係留工程のすべてが連続し、
第1昇温工程(H1)の昇温速度をHR1、
第2昇温工程(H2)の昇温速度をHR2、
第3昇温工程(H3)の昇温速度をHR3としたとき、
HR1=50~500℃/min、
HR2=11~300℃/min、
HR3=10~299℃/min、
HR1/HR2>1.5であり、
HR2/HR3>1.2であり、
各昇温工程での開始温度は
H1において室温~500℃、
H2において900~1250℃、
H3において1300~1550℃であり、
各昇温工程での到達温度は
H1において900~1250℃、
H2において1300~1550℃、
H3において1400~1650℃であり、
前記焼成工程における前記第1昇温工程(H1)の昇温開始から最高焼成温度での係留時間の終了までの総焼成時間が50分以内であり、
前記ジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体が安定化剤を2~8mol%含み、
前記安定化剤がイットリアである、
ジルコニア焼結体の製造方法。
【請求項2】
HR2が13~280℃/minである、請求項1に記載のジルコニア焼結体の製造方法。
【請求項3】
HR3が13~250℃/minである、請求項1又は2に記載のジルコニア焼結体の製造方法。
【請求項4】
HR2/HR3>1.5である、請求項1~3のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体の製造方法。
【請求項5】
昇温工程における最高焼成温度が1400~1650℃であり、該最高焼成温度での係留時間が15分以内である、請求項1~4のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体の製造方法。
【請求項6】
昇温工程における最高焼成温度から1100℃まで降温し、その降温速度が10℃/min以上である降温工程を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体の製造方法。
【請求項7】
前記ジルコニア仮焼体の55%以上が単斜晶系である、請求項1~のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体の製造方法。
【請求項8】
前記ジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体において、前記イットリアの少なくとも一部がジルコニアに固溶していない、請求項1~7のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体の製造方法。
【請求項9】
前記ジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体が、歯科用製品の所定形状を備える、請求項1~のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体の製造方法。
【請求項10】
歯科用製品が、歯科補綴物である、請求項に記載のジルコニア焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はジルコニア焼結体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、歯科用製品(例えば、代表的な被覆冠、歯冠、差し歯等の補綴物、歯列矯正用製品、歯科インプラント用製品)としては、金属がよく用いられていた。しかしながら、金属は天然歯と色が明確に異なり、審美性に欠けるという欠点を有すると共に、金属の溶出によるアレルギーを発症することもあった。そこで、金属の使用に伴う問題を解決するため、金属の代替材料として、酸化アルミニウム(アルミナ)又は酸化ジルコニウム(ジルコニア)等のセラミックス材料が歯科用製品に用いられてきている。特に、ジルコニアは、強度において優れ、審美性も比較的優れるため、特に近年の低価格化も相まって需要が高まっている。
【0003】
一方、ジルコニアを用いて歯科補綴物を作製するためには、理想的な焼結体が得られる温度より400℃から700℃程度低い温度で仮焼させたブロック体もしくは円盤形状の切削加工用ワーク(被切削加工物)から、CAD/CAM設備を用いて歯科補綴物の所定の形状(未焼結ジルコニア加工体)を削り出し、削り出された未焼結ジルコニア加工体を最高温度1400℃から1650℃で係留し、焼結させるため、通常は昇温、係留、降温までの合計時間として6時間から12時間を必要とする。この時間について、近年は歯科医院での短時間焼成の需要が高まっており、特許文献1に記載されるような短時間での焼成を可能にする焼成炉も製造されている。しかしながら、短時間焼成では明度が上昇してしまう等の問題があり、短時間焼成において、通常焼成と同等の色調又は透光性を得ることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2015-531048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には短時間でジルコニアを含むセラミックスの焼成炉とスケジュール条件についての記載があるが、歯科用ジルコニア焼結体の特定の理想的な物性を得るためのスケジュールではなく理論的に達成可能な焼成炉についてであり、具体的な焼成体から得られる歯科補綴物としての必要な物性、色調等の記載がなく、審美要求を満たすための焼成条件を満たしていない。
【0006】
そこで本発明は、短時間でジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体を焼結させ、かつ理想的な歯科補綴物の審美要求と強度が通常焼成した場合と比較して、同程度に再現できるジルコニア焼結体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定の短時間焼成スケジュールをジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体に用いることで、色調(明度及び彩度)と透光性の再現性に優れた歯科補綴物を製造することができることを見出し、その知見に基づいてさらに研究を進め、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
[1]ジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体を焼成する焼成工程を有し、
前記焼成工程が、第1昇温工程(H1)、第2昇温工程(H2)、及び第3昇温工程(H3)の少なくとも3段階の昇温工程を含み、
第1昇温工程(H1)の昇温速度をHR1、
第2昇温工程(H2)の昇温速度をHR2、
第3昇温工程(H3)の昇温速度をHR3としたとき、
HR1=50~500℃/min、
HR2=11~300℃/min、
HR3=10~299℃/min、
HR1>HR2、
HR2/HR3>1であり、
各昇温工程での開始温度は
H1において室温~500℃、
H2において900~1250℃、
H3において1300~1550℃であり、
各昇温工程での到達温度は
H1において900~1250℃、
H2において1300~1550℃、
H3において1400~1650℃である、ジルコニア焼結体の製造方法。
[2]HR2が13~280℃/minである、[1]に記載のジルコニア焼結体の製造方法。
[3]HR3が13~250℃/minである、[1]又は[2]に記載のジルコニア焼結体の製造方法。
[4]HR2/HR3>1.5である、[1]~[3]のいずれかに記載のジルコニア焼結体の製造方法。
[5]昇温工程における最高焼成温度が1400~1650℃であり、該最高焼成温度での係留時間が15分以内である、[1]~[4]のいずれかに記載のジルコニア焼結体の製造方法。
[6]昇温工程における最高焼成温度から1100℃まで降温し、その降温速度が10℃/min以上である降温工程を含む、[1]~[5]のいずれかに記載のジルコニア焼結体の製造方法。
[7]前記焼成工程における前記第1昇温工程(H1)の昇温開始から最高焼成温度での係留時間の終了までの総焼成時間が50分以内である、[1]~[6]のいずれかに記載のジルコニア焼結体の製造方法。
[8]前記ジルコニア仮焼体の55%以上が単斜晶系である、[1]~[7]のいずれかに記載のジルコニア焼結体の製造方法。
[9]前記ジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体が安定化剤を2~8mol%含む、[1]~[8]のいずれかに記載のジルコニア焼結体の製造方法。
[10]前記ジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体において、前記安定化剤の少なくとも一部がジルコニアに固溶していない、[9]に記載のジルコニア焼結体の製造方法。
[11]前記安定化剤がイットリアである、[9]又は[10]に記載のジルコニア焼結体の製造方法。
[12]前記ジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体が、歯科用製品の所定形状を備える、[1]~[11]のいずれかに記載のジルコニア焼結体の製造方法。
[13]歯科用製品が、歯科補綴物である、[12]に記載のジルコニア焼結体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のジルコニア焼結体の製造方法によれば、短時間でジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体を焼結させ、かつ理想的な歯科補綴物の審美要求と強度が通常焼成した場合(6~12時間焼成)と比較して、同程度に再現できるジルコニア焼結体を製造することができる。また、本発明のジルコニア焼結体の製造方法を用いることにより、得られるジルコニア焼結体は色調の再現性に優れる。本発明のジルコニア焼結体の製造方法によれば、ジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体に含まれる複合酸化物の発色を促しつつ、適切な明度が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施例1に係る昇温工程の昇温速度を示す図である。
図2図2は、実施例2に係る昇温工程の昇温速度を示す図である。
図3図3は、実施例3に係る昇温工程の昇温速度を示す図である。
図4図4は、比較例1に係る昇温工程の昇温速度を示す図である。
図5図5は、比較例2に係る昇温工程の昇温速度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の焼成に用いる焼成炉は大気炉であり、箱型炉、ルツボ炉、管状炉、炉底昇降炉、連続炉、ロータリーキルンでもよく、抵抗加熱炉、誘導加熱炉、直通電型電気炉、IH炉,高周波炉、マイクロ波炉を用いてもよく、発熱体に金属発熱体、炭化ケイ素、二ケイ化モリブデン、ランタンクロマ糸、モリブデン、カーボン、タングステン等が用いられ、SiCを発熱体サセプターとして用いてもよい。これらのいずれか2つ以上を組み合わせた焼成炉であってもよい。また、焼成炉が有する、歯冠等の所定の形状を備えるジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体を静置する台座をもつ焼成炉室内体積は小さい方が、熱効率がよく、焼成に際し炉内の熱量維持を容易にすることができる。
【0012】
なお、本明細書において、数値範囲(昇温速度、降温速度、焼成時間、温度、速度比、各成分(例えば、安定化剤)の含有量等)の上限値及び下限値は適宜組み合わせ可能である。
【0013】
本発明のジルコニア焼結体の製造方法においては、少なくとも3段階の昇温工程を含む。各昇温工程について、第1昇温工程をH1とし、第2昇温工程をH2とし、第3昇温工程をH3とし、各昇温工程はそれぞれ異なる昇温速度をもつ。また、昇温工程は3段階のみでもよく、他の昇温工程を含んでもよい。
【0014】
[第1昇温工程(H1)]
本発明のジルコニア焼結体の製造方法における第1昇温工程(H1)では、室温もしくは室温超500℃以下まで加熱された焼成炉で、第1昇温工程(H1)の到達温度まで一気に昇温させて、ジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体を加熱する。第1昇温工程(H1)における焼成前のジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体としては、歯科用製品の所定の形状を備えるものが好ましい。歯科用製品としては、例えば、代表的な被覆冠、歯冠、差し歯等の歯科補綴物;歯列矯正用製品;歯科インプラント用製品等が挙げられる。加熱前のジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体は、歯科用CAD/CAM装置を用いて加工されていてもよく、歯科技工士が切削加工等により作製していてもよい。
【0015】
加熱前のジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体は、焼成の際に焼成炉のマッフル部材に直接静置してもよく、セラミック又は高融点金属からなるトレイ又は台座、ピンを用いて炉内で静置してもよく、セラミックビーズを用いて静置してもよい。
【0016】
第1昇温工程(H1)の開始温度は、室温~500℃であり、好ましくは室温~400℃であり、より好ましくは室温~300℃であり、さらに好ましくは室温~200℃である。第1昇温工程(H1)の到達温度は900℃~1250℃であり、より作業時間を短縮できる点から、好ましくは950℃以上であり、より好ましくは1000℃以上であり、さらに好ましくは1050℃以上である。また、得られるジルコニア焼結体の明度及び透光性により優れる点から、好ましくは1230℃以下であり、より好ましくは1220℃以下であり、さらに好ましくは1200℃以下である。
【0017】
また、第1昇温工程(H1)の昇温速度をHR1としたとき、HR1は、50℃/min以上であり、より作業時間を短縮できる点から、好ましくは60℃/min以上であり、より好ましくは70℃/min以上であり、さらに好ましくは80℃/min以上である。また、HR1は、500℃/min以下であり、好ましくは450℃/min以下であり、より好ましくは400℃/min以下であり、さらに好ましくは350℃/min以下である。HR1が500℃/minを超える場合、焼成中に割れ又はクラックの発生を誘発するおそれがある。第1昇温工程(H1)に供するジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体に、加工時に用いた水分や、着色用カラーリキッドが含まれている場合、300℃以下で1分以上20分以下、好ましくは5分以上15分以下の乾燥工程を経てから、第1昇温工程(H1)を開始してもよい。
【0018】
[第2昇温工程(H2)]
本発明のジルコニア焼結体の製造方法では、第2昇温工程(H2)の昇温速度をHR2としたとき、HR1>HR2である。HR1>HR2であることで、他の構成と組み合わせた際に、ジルコニア焼結体の色差△E*abが大きくなりすぎることを抑制でき、色調に優れる歯科用製品を得ることができる。ある好適な実施形態では、HR1/HR2>1.5であり、HR1/HR2>2であってもよい。また、HR2は、11℃/min以上であり、より作業時間を短縮できる点から、好ましくは13℃/min以上であり、より好ましくは15℃/min以上であり、さらに好ましくは20℃/min以上である。また、HR2は、300℃/min以下であり、得られるジルコニア焼結体の明度及び透光性により優れる点から、好ましくは280℃/min以下であり、より好ましくは260℃/min以下であり、さらに好ましくは250℃/min以下である。
【0019】
第2昇温工程(H2)の開始温度は900~1250℃であり、より作業時間を短縮できる点から、好ましくは950℃以上であり、より好ましくは1000℃以上であり、さらに好ましくは1050℃以上である。また、得られるジルコニア焼結体の明度及び透光性により優れる点から、開始温度は、好ましくは1230℃以下であり、より好ましくは1220℃以下であり、さらに好ましくは1200℃以下である。第2昇温工程(H2)の到達温度は1300~1550℃であり、より作業時間を短縮できる点から、好ましくは1310℃以上であり、より好ましくは1320℃以上であり、さらに好ましくは1350℃以上である。また、H2の到達温度は得られるジルコニア焼結体の明度、透光性及び彩度により優れ、ジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体に含まれる複合酸化物の発色性が優れる点から、好ましくは1540℃以下であり、より好ましくは1530℃以下であり、さらに好ましくは1520℃以下である。
【0020】
[第3昇温工程(H3)]
第3昇温工程(H3)の昇温速度をHR3としたとき、HR2/HR3>1であり、得られるジルコニア焼結体の明度、透光性及び彩度により優れ、ジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体に含まれる複合酸化物の発色性が優れる点から、好ましくはHR2/HR3>1.2であり、より好ましくはHR2/HR3>1.5であり、さらに好ましくはHR2/HR3>2である。また、HR3は、10℃/min以上であり、より作業時間を短縮できる点から、好ましくは11℃/min以上であり、より好ましくは12℃/min以上であり、さらに好ましくは13℃/min以上である。また、HR3は、得られるジルコニア焼結体の彩度により優れ、ジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体に含まれる複合酸化物の発色性が優れる点から、299℃/min以下であり、好ましくは270℃/min以下であり、より好ましくは250℃/min以下であり、さらに好ましくは200℃/min以下である。
第3昇温工程(H3)の開始温度は1300~1550℃であり、より作業時間を短縮できる点から、好ましくは1310℃以上であり、より好ましくは1320℃以上であり、さらに好ましくは1350℃以上である。また、H3の開始温度は得られるジルコニア焼結体の明度、透光性及び彩度により優れ、ジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体に含まれる複合酸化物の発色性が優れる点から、好ましくは1540℃以下であり、より好ましくは1530℃以下であり、さらに好ましくは1520℃以下である。
第3昇温工程(H3)の到達温度は1400~1650℃であり、得られるジルコニア焼結体の明度、透光性及び彩度により優れ、ジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体に含まれる複合酸化物の発色性が優れる点から、好ましくは1450℃以上であり、より好ましくは1500℃以上であり、さらに好ましくは1520℃以上である。また、H3の到達温度はより作業時間を短縮でき、得られるジルコニア焼結体の明度、透光性及び彩度により優れ、ジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体に含まれる複合酸化物の発色性が優れる点から、好ましくは1630℃以下であり、より好ましくは1620℃以下であり、さらに好ましくは1610℃以下である。第3昇温工程(H3)の開始温度と到達温度の差(到達温度-開始温度)は、30℃以上であることが好ましく、40℃以上であることがより好ましく、50℃以上であることがさらに好ましい。また、ある実施形態では、第3昇温工程(H3)の処理時間は、得られるジルコニア焼結体の明度、透光性及び彩度により優れ、ジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体に含まれる複合酸化物の発色性が優れる点から、第1昇温工程(H1)の処理時間よりも短いことが好ましい。さらに、他の実施形態では、第3昇温工程(H3)の処理時間は、得られるジルコニア焼結体の明度、透光性及び彩度により優れ、ジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体に含まれる複合酸化物の発色性が優れる点から、第2昇温工程(H2)の処理時間よりも短いことが好ましい。
【0021】
本発明のジルコニア焼結体の製造方法に用いるジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体としては、ジルコニアに加えて、ジルコニアの相転移を抑制可能な安定化剤を含むものが好ましい。ジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体としては、前記安定化剤の少なくとも一部はジルコニアに固溶していない、ジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体が好ましい。該安定化剤は、部分安定化ジルコニアを形成可能なものが好ましい。
【0022】
前記安定化剤としては、例えば、酸化カルシウム(CaO)、酸化マグネシウム(MgO)、イットリア、酸化セリウム(CeO)、酸化スカンジウム(Sc)、酸化ニオブ(Nb)、酸化ランタン(La)、酸化エルビウム(Er)、酸化プラセオジム(Pr11)、酸化サマリウム(Sm)、酸化ユウロピウム(Eu)及び酸化ツリウム(Tm)等の酸化物が挙げられる。安定化剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。本発明のジルコニア仮焼体及びその焼結体中の安定化剤の含有率は、例えば、誘導結合プラズマ(ICP;Inductively Coupled Plasma)発光分光分析、蛍光X線分析等によって測定することができる。本発明のジルコニア仮焼体及びその焼結体において、該安定化剤の含有率は、ジルコニアと安定化剤の合計molに対して、0.1~18mol%が好ましく、1~15mol%がより好ましく、2~8mol%がさらに好ましい。得られるジルコニア焼結体の強度及び透光性の観点から、ジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体は、安定化剤としてイットリアを含むことが好ましい。イットリアの含有率は、ジルコニアとイットリアの合計molに対して、3mol%以上が好ましく、3.5mol%以上がより好ましく、3.8mol%以上がさらに好ましく、4.0mol%以上が特に好ましい。イットリアの含有率が3mol%以上の場合、ジルコニア焼結体の透光性を高めることができる。また、イットリアの含有率は、ジルコニアとイットリアの合計molに対して、7.5mol%以下が好ましく、7.0mol%以下がより好ましく、6.5mol%以下がさらに好ましく、6.0mol%以下が特に好ましい。イットリアの含有率が7.5mol%以下の場合、得られるジルコニア焼結体の強度低下を抑制することができる。
【0023】
本発明のジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体において、前記安定化剤の少なくとも一部がジルコニアに固溶されていないことが好ましい。安定化剤の一部がジルコニアに固溶されていないことは、例えば、XRDパターンによって確認することができる。ジルコニア仮焼体のXRDパターンにおいて、安定化剤に由来するピークが確認された場合には、ジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体中においてジルコニアに固溶されていない安定化剤が存在していることになる。安定化剤の全量が固溶された場合には、基本的に、XRDパターンにおいて安定化剤に由来するピークは確認されない。ただし、安定化剤の結晶状態等の条件によっては、XRDパターンに安定化剤のピークが存在していない場合であっても、安定化剤がジルコニアに固溶されていないこともあり得る。ジルコニアの主たる結晶系が正方晶系及び/又は立方晶系であり、XRDパターンに安定化剤のピークが存在していない場合には、安定化剤の大部分、基本的に全部、はジルコニアに固溶しているものと考えられる。本発明のジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体においては、該安定化剤の全部がジルコニアに固溶されていなくてもよい。なお、本発明において、安定化剤が固溶するとは、例えば、安定化剤に含まれる元素(原子)がジルコニアに固溶することをいう。
【0024】
本発明のジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体において、ジルコニアに固溶されていないイットリア(以下において「未固溶イットリア」ということがある)の存在率fは、以下の数式(1)に基づいて算出することができる。未固溶イットリアの存在率fは、0%より大きいと好ましく、1%以上がより好ましく、2%以上がさらに好ましく、3%以上が特に好ましい。未固溶イットリアの存在率fの上限は、例えば15%以下であってもよいが、好適にはジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体におけるイットリアの含有率に依存する。イットリアの含有率が3mol%以上4.5mol%未満であるとき、fは7%以下とすることができる。イットリアの含有率が4.5mol%以上5.8mol%未満であるとき、fは11%以下とすることができる。イットリアの含有率が5.8mol%以上7.5mol%以下であるとき、fは15%以下とすることができる。
【0025】
本発明のジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体において、イットリアの含有率が3mol%以上4.5mol%未満であるとき、fは0.5%以上が好ましく、1.0%以上がより好ましく、2.0%以上がさらに好ましい。イットリアの含有率が4.5mol%以上5.8mol%未満であるとき、未固溶イットリアの存在率fは1%以上が好ましく、2%以上がより好ましく、3%以上がさらに好ましい。イットリアの含有率が5.8mol%以上7.5mol%以下であるとき、fは2%以上が好ましく、3%以上がより好ましく、4%以上がさらに好ましい。本発明のジルコニア仮焼体において、イットリアの含有率が3mol%以上4.5mol%未満であるとき、f/fは20~200が好ましく、25~100がより好ましく、30~60がさらに好ましい。イットリアの含有率が4.5mol%以上5.8mol%未満であるとき、f/fは5~45が好ましく、10~40がより好ましく、15~35がさらに好ましい。イットリアの含有率が5.8mol%以上7.5mol%以下であるとき、f/fは2~40が好ましく、5~35がより好ましく、10~30がさらに好ましい。fは後述するように、数式(2)で算出されるジルコニア中の単斜晶系の割合を意味する。
【0026】
【数1】
【0027】
数式(1)において、I(111)は、CuKα線によるXRDパターンにおける2θ=29°付近のイットリアの(111)面のピーク強度を示す。I(111)及びI(11-1)は、ジルコニアの単斜晶系の(111)面及び(11-1)面のピーク強度を示す。I(111)は、ジルコニアの正方晶系の(111)面のピーク強度を示す。I(111)は、ジルコニアの立方晶系の(111)面のピーク強度を示す。
【0028】
上記数式(1)は、I(111)の代わりに他のピークを代入することによって、イットリア以外の安定化剤の未固溶存在率の算出にも適用することができる。
【0029】
本発明のジルコニア仮焼体におけるジルコニアの主たる結晶系は単斜晶系であることが好ましい。本発明において、「主たる結晶系が単斜晶系である」とは、ジルコニア中のすべての結晶系(単斜晶系、正方晶系及び立方晶系)の総量に対して以下の数式(2)で算出されるジルコニア中の単斜晶系の割合fが50%以上の割合を占めるものを指す。本発明のジルコニア仮焼体において、以下の数式(2)で算出されるジルコニア中の単斜晶系の割合fは、単斜晶系、正方晶系及び立方晶系の総量に対して55%以上が好ましく、60%以上がより好ましく、70%以上がさらに好ましく、75%以上がよりさらに好ましく、80%以上が特に好ましく、85%以上がさらに特に好ましく、90%以上が最も好ましい。単斜晶系の割合fは、CuKα線によるX線回折(XRD;X-Ray Diffraction)パターンのピークに基づいて以下の数式(2)から算出することができる。なお、ジルコニア仮焼体における主たる結晶系は、収縮温度の高温化及び焼成時間の短縮化に寄与している可能性がある。
【0030】
本発明のジルコニア仮焼体においては、正方晶系及び立方晶系のピークが実質的に検出されなくてもよい。すなわち、単斜晶系の割合fが100%とすることができる。
【0031】
【数2】
【0032】
数式(2)において、I(111)及びI(11-1)は、それぞれジルコニアの単斜晶系の(111)面及び(11-1)面のピーク強度を示す。I(111)は、ジルコニアの正方晶系の(111)面のピーク強度を示す。I(111)は、ジルコニアの立方晶系の(111)面のピーク強度を示す。
【0033】
ジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体は、必要に応じて添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、バインダ、着色剤(顔料、複合顔料及び蛍光剤を含む)、アルミナ(Al)、酸化チタン(TiO)、シリカ(SiO)等が挙げられる。添加剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0034】
前記バインダとしては、例えば、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アクリル系バインダ、ワックス系バインダ(パラフィンワックス等)、ポリビニルブチラール、ポリメタクリル酸メチル、エチルセルロース、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン、アタクチックポリプロピレン、メタクリル樹脂、ステアリン酸等が挙げられる。
【0035】
前記顔料としては、例えば、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zn、Y、Zr、Sn、Sb、Bi、Ce、Pr、Sm、Eu、Gd、Tb及びErからなる群から選択される少なくとも1つの元素の酸化物(具体的には、NiO、Cr等)が挙げられ、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zn、Y、Zr、Sn、Sb、Bi、Ce、Pr、Sm、Eu、Gd、及びTbからなる群から選択される少なくとも1つの元素の酸化物が好ましく、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Zn、Y、Zr、Sn、Sb、Bi、Ce、Sm、Eu、Gd、及びTbからなる群から選択される少なくとも1つの元素の酸化物がより好ましい。また、本発明のジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体は、酸化エルビウム(Er)を含まないものであってもよい。前記複合顔料としては、例えば、(Zr,V)O、Fe(Fe,Cr)、(Ni,Co,Fe)(Fe,Cr)・ZrSiO、(Co,Zn)Al等の複合酸化物が挙げられる。蛍光剤としては、例えば、YSiO:Ce、YSiO:Tb、(Y,Gd,Eu)BO、Y:Eu、YAG:Ce、ZnGa:Zn、BaMgAl1017:Eu等が挙げられる。
【0036】
本発明に用いるジルコニア成形体の製造方法としては、特に限定されないが、例えば、ジルコニアと前記安定化剤からなる混合粉末を175MPa以上の圧力でプレス成形して、ジルコニア成形体を得る工程を含む製造方法等が挙げられる。前記圧力でプレス成形することにより、厚さによらずジルコニア成形体(ひいては得られるジルコニア焼結体)の嵩密度を高めることができる。なお、本明細書において、前記175MPa以上の圧力はプレス成形時の最大圧力を意味する。
【0037】
本発明に用いるジルコニア仮焼体の製造方法としては、特に限定されないが、例えば、ジルコニア粒子と安定化剤とを含む原料粉末から形成されたジルコニア成形体をジルコニア粒子が焼結に至らない温度で焼成(すなわち仮焼)する製造方法等が挙げられる。ジルコニア成形体は、上述したとおりである。本発明のジルコニア仮焼体の製造方法の一例を説明する。まず、ジルコニア成形体の原料粉末を製造する。単斜晶系のジルコニア粉末と安定化剤の粉末(例えば、イットリア粉末)とを用いて、所望の安定化剤(例えば、イットリア)の含有率となるように混合物を作製する。次に、この混合物を水に添加してスラリーを作製し、所望の粒径になるまでボールミルで湿式粉砕混合する。粉砕後のスラリーをスプレードライヤで乾燥させて造粒する。得られた粉末をジルコニア粒子が焼結に至らない温度(例えば、800~1200℃)で焼成して、粉末(一次粉末)を作製する。一次粉末には顔料を添加してもよい。その後、一次粉末を水に添加してスラリーを作製し、所望の粒径になるまでボールミルで湿式粉砕混合する。粉砕後のスラリーに必要に応じてバインダ等の添加剤を添加した後、スプレードライヤで乾燥させて、混合粉末(二次粉末)を作製する。所定の金型に、前記二次粉末を充填し、上面をすりきって上面を平坦にならし、上型をセットし、一軸プレス成形機によって、前記二次粉末をプレス成形して、ジルコニア成形体を得る。前記したように前記混合粉末をプレス成形する際の圧力は、175MPa以上が好ましい。なお、得られたジルコニア成形体をさらにCIP(Cold Isostatic Press)成形をしてもよく、しなくてもよい。
【0038】
ジルコニア仮焼体は、複層構造を有していてもよい。複層構造のジルコニア仮焼体を製造する場合には、ジルコニア成形体を複層構造とするために、前記製造方法において一次粉末を少なくとも2つ(好適には4つ)に分ければよい。
【0039】
次いで、上記のようにして得られたジルコニア成形体を仮焼して、ジルコニア成形体を得る。仮焼温度は、例えば、800℃以上が好ましく、900℃以上がより好ましく、950℃以上がさらに好ましい。また、仮焼温度は、寸法精度を高めるため、例えば、1200℃以下が好ましく、1150℃以下がより好ましく、1100℃以下がさらに好ましい。このような仮焼温度であれば、安定化剤の固溶は進行しないと考えられるためである。
【0040】
本発明に用いるジルコニア仮焼体としては、市販品を用いてもよい。市販品としては、「ノリタケ カタナ(登録商標) ジルコニア」(型番:ディスクUTML、ディスクSTML、ディスクML、ディスクHT、ディスクLT)(以上、クラレノリタケデンタル株式会社製)等の安定化剤としてイットリアを含有するジルコニア仮焼体が挙げられる。本発明のジルコニア焼結体の製造方法において、前記市販品のジルコニア仮焼体を歯科用製品の所定形状に切削加工して使用することが好ましい。
【0041】
本発明のジルコニア焼結体の製造方法では、上記した各昇温工程の開始温度、到達温度、昇温速度範囲、HR1>HR2、HR2/HR3>1の関係を満たす限り、上記した各昇温工程の昇温速度は、定速であってもよく、途中で変更して多段階としてもよい。例えば、ある実施形態では、第2昇温工程について、開始温度からの30秒間は150℃/minで昇温し、30秒経過後は、80℃/minで昇温してもよい。他の実施形態では、第3昇温工程について、開始温度からの30秒間は、60℃/minで昇温し、30秒経過後は、20℃/minで昇温してもよい。
【0042】
[係留工程]
本発明のジルコニア焼結体の製造方法では、最高焼成温度での係留時間が15分以内であることが好ましく、より作業時間を短縮でき、得られるジルコニア焼結体の強度に優れる点から、1~15分であることがより好ましく、5~15分であることがさらに好ましい。また、最高焼成温度は好適な実施形態としては1400~1650℃であり、得られるジルコニア焼結体の明度、透光性及び彩度により優れ、ジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体に含まれる複合酸化物の発色性が優れる点から、好ましくは1450℃以上であり、より好ましくは1500℃以上であり、さらに好ましくは1520℃以上である。また、最高焼成温度はより作業時間を短縮でき、得られるジルコニア焼結体の明度、透光性及び彩度により優れ、ジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体に含まれる複合酸化物の発色性が優れる点から、好ましくは1630℃以下であり、より好ましくは1620℃以下であり、さらに好ましくは1610℃以下である。係留工程は第3昇温工程の直後にあることが好ましいが、本発明の効果を奏する限り第3昇温工程と係留工程の間にさらに別の昇温工程があってもよい。上記以外の昇温工程を含まない実施形態では、H3の到達温度が最高焼成温度となる。
【0043】
焼成工程における前記第1昇温工程の昇温開始から前記最高焼成温度での係留時間の終了までの総焼成時間は、より作業時間を短縮できる点から、50分以内であることが好ましく、45分以内であることがより好ましく、40分以内であることがさらに好ましい。
【0044】
[冷却工程]
本発明のジルコニア焼結体の製造方法では、前記最高焼成温度で所定時間保持した後、冷却する工程を含むことが好ましい。冷却工程において、ジルコニア焼結体を得られる最高焼成温度から1100℃までの降温速度は10℃/min以上であると好ましく、30℃/min以上であるとより好ましく、50℃/min以上であるとさらに好ましい。降温方法は、外気導入冷却や水冷、空冷、徐冷、放冷のいずれかもしくは組み合わせを用いることができる。冷却工程の到達温度は、焼成炉の種類、性能等によって異なり、1300℃であってもよく、1050℃であってもよく、1000℃であってもよい。
【0045】
本発明の製造方法によって得られるジルコニア焼結体の色差△E*abは、歯科用製品として好適であることから、2.7以下であることが好ましく、2.0以下がより好ましく、1.6以下がさらに好ましく、0.8以下が特に好ましい。色差△E*abの比較測定対象は、通常焼成した場合(焼成の合計時間:6~12時間)のジルコニア焼結体の色調である。色調の評価方法は後記する実施例に記載のとおりである。
【0046】
本発明の製造方法によって得られるジルコニア焼結体の明度指数L*と、通常焼成した場合(焼成の合計時間:6~12時間)のジルコニア焼結体の明度指数L*との差は、歯科用製品として好適であることから、2.0以下であることが好ましく、1.5以下であることがより好ましく、1.0以下であることがさらに好ましい。本発明の製造方法によって得られるジルコニア焼結体のL*、a*、及びb*は、サービカル(歯頸部)、インサイザル(切縁部)等の目的の部位に応じて選択、設定することができる。
【0047】
本発明は、本発明の効果を奏する限り、本発明の技術的思想の範囲内において、上記の構成を種々組み合わせた実施形態を含む。
【実施例
【0048】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で多くの変形が当分野において通常の知識を有する者により可能である。
【0049】
[実施例1]
「ノリタケ カタナ(登録商標) ジルコニア」STML A1色のジルコニア円盤ワーク(クラレノリタケデンタル株式会社製)からDWX51D(Roland D.G社製)を用いて削り出された、1.7mm×5.2mm×20.2mmの直方体形状のサンプルを10本作製した。焼成炉としてProgramat(登録商標) CS4(イボクラ・ビバデント社製)を用いて、当該サンプルを表1で示した焼成スケジュールの条件で焼成した。第1昇温工程の昇温開始から最高焼成温度での係留時間の終了までの総焼成時間が50分以内で焼成し、ジルコニア焼結体を得た。
[3点曲げ強さの測定]
焼成によって得られたジルコニア焼結体を、回転研磨盤を用いて#1000の研磨紙にて研磨し、1.2mm×4mm×16mmの直方体形状の焼結体サンプルとした。該焼結体サンプルを用いて、ISO6872:2015に準拠したクロスヘッド速度0.5mm/min、支点間距離(スパン)は14mmの条件で3点曲げ強さを測定した。また、従来の焼成スケジュールで焼成した際の焼結体サンプルの3点曲げ強さを確認するため、焼成炉としてノリタケ カタナ(登録商標)F1-N(クラレノリタケデンタル株式会社製)を用い、表6に示した焼成スケジュールにて、前記方法と同様にして焼結体サンプルの3点曲げ強さの測定を行った。表7に示すように、実施例1の焼結体サンプルの3点曲げ強さは、従来の焼成スケジュールで焼成した場合と同等の値を示し、歯科用として問題ない強度であることを確認した。
【0050】
【表1】
【0051】
[明度、彩度、及び色差の測定]
次に、3点曲げ強さ測定にて使用したものと同じジルコニア円盤ワークからDWX51Dを用いて前歯歯冠形状を削り出し、焼成炉としてノリタケ カタナ(登録商標)F1-Nを用いた従来の焼成スケジュール(表6)と、焼成炉としてProgramat(登録商標) CS4を用いた表1に記載の焼成スケジュールとで、それぞれ同一形状のサンプルを焼成した。焼成後の焼結体サンプルについて、歯科用測色装置(オリンパス株式会社製、7band LED光源、「クリスタルアイ」(オリンパス株式会社製))を用いて測色を行い、L*a*b*表色系(JIS Z 8781-4:2013 測色-第4部:CIE 1976 L*a*b*色空間)における、明度、彩度、色差△E*abを評価した(n=5)。n=5の平均値を評価結果として表8に示す。色差△E*abは、CIE 1976 L*a*b*色空間における明度指数L*、色座標a*、b*を用いて、表6に記載の焼成スケジュールで得た焼結体サンプル(L*、a*、b*)と、表1に記載の焼成スケジュールで得た焼結体サンプルの2つのサンプル(L*、a*、b*)について、下記式(3)によって求められる色差ΔE*(ΔE*ab)のことをいう。
【0052】
【数3】
【0053】
表8に示すように、表1の焼成スケジュールで焼成した焼結体サンプルについて、表6に記載の従来の焼成スケジュールで焼成した焼結体サンプルに対する色差△E*abが2.7以下であることが確認できた。
【0054】
[実施例2]
焼成スケジュールを表2に記載のスケジュールとした以外は実施例1と同様の方法にて3点曲げ強さ及び色差△E*abを測定した。表7に示すように、実施例2の3点曲げ強さは、表6に示した従来の焼成スケジュールで焼成した場合と同等の値を示し、歯科用製品として問題ない強度であることを確認した。また、表8に示すように、表2の焼成スケジュールで焼成した焼結体サンプルについて、表6に記載の従来の焼成スケジュールで焼成した焼結体サンプルに対する色差△E*abが2.7以下であることが確認できた。
【0055】
【表2】
【0056】
[実施例3]
焼成炉としてSINTERMAT1600(The Dental Solution,Inc社製)用い、焼成スケジュールを表3に記載の焼成スケジュールとした以外は実施例1と同様の方法にて3点曲げ強さ及び色差△E*abを測定した。表7に示すように、実施例3の3点曲げ強さは、表6に示した従来の焼成スケジュールで焼成した場合と同等の値を示し、歯科用製品として問題ない強度であることを確認した。また、表8に示すように、表3の焼成スケジュールで焼成した焼結体サンプルについて、従来の焼成スケジュールで焼成した焼結体サンプルに対する色差△E*abが2.7以下であることが確認できた。
【0057】
【表3】
【0058】
[比較例1及び2]
焼成炉としてSINTERMAT1600(The Dental Solution,Inc社製)用い、焼成スケジュールを表4及び表5に記載の焼成スケジュールとした以外は実施例1と同様の方法にて3点曲げ強さ及び色差△E*abを測定した。表7に示すように、比較例の3点曲げ強さは、表6に示した従来の焼成スケジュールで焼成した場合と同様の値を示し、歯科用製品として問題ない強度であることを確認した。しかしながら、表8に示すように、表4(比較例1)及び表5(比較例2)の焼成スケジュールで焼成した焼結体サンプルは、表6に記載の従来の焼成スケジュールで焼成した焼結体サンプルに対する色差△E*abが2.7を超えており、従来の焼成スケジュールと同等の色調は得られなかった。また、比較例1及び2におけるジルコニア焼結体では、明度の上昇が見られた。
【0059】
【表4】
【0060】
【表5】
【0061】
【表6】
【0062】
【表7】
【0063】
【表8】
【0064】
さらに、実施例1~3のジルコニア焼結体は、50分以内という短い総焼成時間であるにもかかわらず、通常焼成した場合(焼成の合計時間:6~12時間)と比較して、同等の適度な透光性を有することを目視にて確認した。上記結果から、本発明の製造方法によって得られるジルコニア焼結体は、強度に優れ、明度の上昇を抑制し、適度な透光性を示し、色調に優れ、歯科用製品(例えば、歯科補綴物)として好適であることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明のジルコニア焼結体の製造方法は、短時間でジルコニア成形体又はジルコニア仮焼体を焼結させ、かつ得られるジルコニア焼結体は、理想的な歯科補綴物の審美要求(色調と透光性)と強度が通常焼成した場合(焼成の合計時間:6~12時間)と比較して、同程度に再現できたため、歯科用製品(歯科補綴物等)の製造に有用である。特に、色調に優れ、天然歯の前歯の切縁部のような透光性を有するため、差し歯等の歯科補綴物を製造するのに有用である。
図1
図2
図3
図4
図5