(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-21
(45)【発行日】2024-05-29
(54)【発明の名称】飼料混合比率決定システム、及び飼料混合比率決定用プログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 33/10 20060101AFI20240522BHJP
【FI】
G01N33/10
(21)【出願番号】P 2024025344
(22)【出願日】2024-02-22
【審査請求日】2024-02-22
(31)【優先権主張番号】P 2023072736
(32)【優先日】2023-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 直樹
(72)【発明者】
【氏名】吉川 好文
(72)【発明者】
【氏名】林 征幸
(72)【発明者】
【氏名】金子 真
(72)【発明者】
【氏名】細田 謙次
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼井 智之
(72)【発明者】
【氏名】後藤 慎吉
【審査官】高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-530982(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第2377392(EP,A1)
【文献】国際公開第1983/002158(WO,A1)
【文献】国際公開第2005/067704(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/035756(WO,A1)
【文献】近赤外分析計による混合飼料の成分分析,兵庫農技研報(畜産),第38号,2002年,P5-9
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/10
A01K 5/01
G06Q 50/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
混合飼料の原料となる飼料の複数の梱包単位のうちの一部の梱包単位を標本としてサンプリングし、サンプリングされた標本の成分を分析して、前記分析の結果に基づき、確率分布に従う乱数を発生させ、前記乱数に基づき前記複数の梱包単位の対象成分の値の仮定値を計算する飼料原料成分算出部と、
前記飼料原料成分算出部で仮定された前記複数の梱包単位の対象成分の値の仮定値に従い、製造される混合飼料の対象成分の値を計算する混合飼料成分計算部と、
前記混合飼料の対象成分の値の計算結果に従い、前記混合飼料の特性を評価する評価部と
を備える飼料混合比率決定システム。
【請求項2】
前記飼料原料成分算出部は、前記標本の対象成分の値の平均値及び標準偏差を算出し、前記平均値及び前記標準偏差に基づいて、確率分布に従う乱数を発生させる、請求項1に記載の飼料混合比率決定システム。
【請求項3】
混合飼料の原料となる飼料の種類の数、及び飼料の名称を入力可能にされた飼料情報入力部を更に備える、請求項1に記載の飼料混合比率決定システム。
【請求項4】
前記飼料原料成分算出部は、前記複数の梱包単位の対象成分の値を固定値とするか変動値とするかを決定し、前記変動値とする場合において、前記対象成分の値の平均値及び標準偏差を算出する、請求項1に記載の飼料混合比率決定システム。
【請求項5】
前記飼料原料成分算出部は、前記複数の梱包単位の対象成分の値を固定値とする場合、固定値である前記対象成分の値の入力を受け付ける、請求項1に記載の飼料混合比率決定システム。
【請求項6】
前記飼料原料成分算出部は、前記対象成分の値の上限値及び下限値を設定可能に構成され、前記乱数に基づき設定される前記対象成分の値が上限値を超え又は下限値を下回る場合、前記対象成分の値を前記上限値又は前記下限値に設定する、請求項1に記載の飼料混合比率決定システム。
【請求項7】
前記評価部は、前記混合飼料の原料となる飼料の複数の梱包単位に関し計算された前記仮定値に従い、前記飼料の複数の梱包単位の前記対象成分に関する評価を実行する、請求項1に記載の飼料混合比率決定システム。
【請求項8】
混合飼料の原料となる飼料の複数の梱包単位のうちの一部の梱包単位を標本としてサンプリングし、サンプリングされた標本の成分を分析して、前記分析の結果に基づき、確率分布に従う乱数を発生させ、前記乱数に基づき前記複数の梱包単位の対象成分の値の仮定値を計算するステップと、
仮定された前記複数の梱包単位の対象成分の値に従い、製造される混合飼料の対象成分の値を計算するステップと、
前記混合飼料の対象成分の値の計算結果に従い、前記混合飼料の特性を評価するステップと
をコンピュータに実行させるよう構成された、飼料混合比率決定用プログラム。
【請求項9】
前記標本の対象成分の値の平均値及び標準偏差を算出するステップを更に備え、前記平均値及び前記標準偏差に基づいて、確率分布に従う乱数を発生させる、請求項8に記載の飼料混合比率決定用プログラム。
【請求項10】
混合飼料の原料となる飼料の種類の数、及び飼料の名称をオペレータに入力させるステップを更に備える、請求項8に記載の飼料混合比率決定用プログラム。
【請求項11】
前記複数の梱包単位の対象成分の値を固定値とするか変動値とするかを決定させ、前記変動値とする場合において、前記対象成分の値の平均値及び標準偏差を算出する、請求項8に記載の飼料混合比率決定用プログラム。
【請求項12】
前記複数の梱包単位の対象成分の値を固定値とする場合、固定値である前記対象成分の値の入力を受け付ける、請求項8に記載の飼料混合比率決定用プログラム。
【請求項13】
前記対象成分の値の上限値及び下限値を設定し、前記乱数に基づき設定される前記対象成分の値が上限値を超え又は下限値を下回る場合、前記対象成分の値を前記上限値又は前記下限値に設定する、請求項8に記載の飼料混合比率決定用プログラム。
【請求項14】
前記混合飼料の原料となる飼料の複数の梱包単位に関し計算された前記仮定値に従い、前記飼料の複数の梱包単位の前記対象成分に関する評価を実行する、請求項8に記載の飼料混合比率決定用プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飼料の混合比率を決定するための飼料混合比率決定システム、及び飼料混合比率決定用プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
畜産業において、混合飼料(牛の場合はTMR(Total Mixed Ration)と呼ばれる)が広く用いられている。混合飼料は、家畜の栄養面を考慮し、繊維の多い粗飼料(生草、サイレージ、乾草等)と、栄養価の高い濃厚飼料(配合飼料、トウモロコシ、大豆、穀実など)や食品残渣を混ぜ合わせて生成される飼料である。単独の飼料では栄養成分に偏りがあり、それぞれを家畜に個別に与えると飼料によって選好性が異なることから、一部の飼料のみを摂食する、所謂「選び食い」が生じることがあり、家畜の成長にとって好ましくない。
【0003】
飼料を混合することにより、栄養的にバランスの取れた飼料となり、家畜による選び食いも抑制することができる。また、混合飼料が大規模な飼料生産組織で生産されることにより、その提供を受ける畜産経営体では各種飼料を混ぜ合わせる手間を省略することができる。この飼料調製に係る労働負担が軽減されることにより、畜産経営体では家畜管理に専念することが可能となり、これにより畜産業の生産性を向上させることができる。
【0004】
混合飼料を製造するにあたり、複数種類の飼料の混合比率等を決定する必要がある。しかし、生成される混合飼料の品質を均一にするためには、原料となる飼料の成分が比較的安定していることが重要となる。このため、混合飼料に用いられる粗飼料には、海外の広大な農地で大規模に生産され、比較的品質が安定している輸入粗飼料が多用されている。ところが、その輸入粗飼料は、国産粗飼料に比べ高価格で、しかも輸出国の作況や需要等に左右され、安定的な調達が容易ではない。それに対し、国産粗飼料は輸入粗飼料よりも安定的でより安価な調達が可能である。また、国産粗飼料の利用により、畜産において生産費の大部分を占める飼料費を抑制することができ、これにより畜産業の収益率を向上させることができる。従って、混合飼料の生産に当たっては、積極的に国産粗飼料を使用すべきであると考えられる。
【0005】
しかし、国産粗飼料は小規模に生産されることが多く、施肥管理や収穫時の生育ステージなどにより含有成分等が変動しやすく、品質が不安定になりやすい。このため、国産粗飼料を混合飼料の原料として使用する場合は、飼料設計が難しくなるだけでなく、生成された混合飼料の成分が安定しない問題が生じる虞がある。場合によっては、家畜に有害な成分(例えば硝酸態窒素(NO3-N))が多く含有される可能性もあるため、その場合は有害成分が基準値を上回らないように混合飼料の生成を行う必要がある。
【0006】
上記のような環境から、含有成分等が一定しない国産粗飼料を混合飼料の原料とした場合であっても、生成される混合飼料の品質を安定させることができる手法が求められている。従来の飼料設計用プログラムでは、原料として使用される飼料の各種特性値が固定値であることを前提としており、このような要求に応えられるものではない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】農研機構編(2017)日本飼養標準・乳牛(2017年版)、日本中央畜産会
【文献】飼料設計アドバイスシステム(フィードバランサー) https://livestockjapan.com/feedbalancer/
【文献】農研機構(2010)プログラムEcofeed_ver2.xls(豚用エコフィード設計プログラム) の提供https://www.naro.affrc.go.jp/archive/nilgs/contents/program/ecofeed/index.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、含有成分等が一定しない国産粗飼料などを混合飼料の原料とした場合であっても、生成される混合飼料の品質を安定させることを容易にする飼料混合比率決定システムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明に係る飼料混合比率決定システムは、混合飼料の原料となる飼料の複数の梱包単位のうちの一部の梱包単位を標本としてサンプリングし、サンプリングされた標本の成分を分析して、前記分析の結果に基づいて、確率分布に従う乱数を発生させ、前記乱数に基づき前記複数の梱包単位の対象成分の値の仮定値を計算する飼料原料成分算出部と、前記飼料原料成分算出部で仮定された前記複数の梱包単位の値の仮定値に従い、生成される混合飼料の対象成分の値を計算する混合飼料成分計算部と、前記混合飼料の対象成分の値の計算結果に従い、前記混合飼料の特性を評価する評価部とを備える。
【0010】
また、本発明に係る飼料混合比率決定用プログラムは、混合飼料の原料となる飼料の複数の梱包単位のうちの一部の梱包単位を標本としてサンプリングし、サンプリングされた標本の成分を分析して、前記分析の結果に基づいて、確率分布に従う乱数を発生させ、前記乱数に基づき前記複数の梱包単位の対象成分の値の仮定値を計算するステップと、仮定された前記複数の梱包単位の対象成分の値に従い、生成される混合飼料の対象成分の値を計算するステップと、前記混合飼料の対象成分の値の計算結果に従い、前記混合飼料の特性を評価するステップとをコンピュータに実行させるよう構成される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、含有成分等が一定しない国産粗飼料などを混合飼料の原料とした場合であっても、生成される混合飼料の品質を安定させることを容易にする飼料混合比率決定システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施の形態に係る飼料混合比率決定システム1の全体構成を説明する概略図である。
【
図2】混合飼料に含まれる有害成分の一種としての硝酸態窒素含有量と、そのような混合飼料を牛に給与する際の危険の有無(程度)と注意点を示した一覧表である。
【
図3】本発明の実施の形態の飼料混合比率決定システム1の動作の概要を説明するフローチャートである。
【
図4】ステップS2及びS3の詳細な実行手順を説明するフローチャートである。
【
図5】混合飼料の原料となる飼料の評価の実行手順の更なる詳細を説明するフローチャートである。
【
図6】管理用コンピュータ30における各種情報の入力画面の一例を示す。
【
図7】乱数の発生(又は固定値の入力)に従い、複数種類の飼料(A、B、C)の複数の梱包単位に割り当てられた対象成分の値を示す表の一例を示す。
【
図8】粗飼料A、Bについて得られた対象成分(硝酸態窒素)の分布を示すヒストグラムの一例を示す。
【
図9】
図8のヒストグラムが示す数値に加え、対象成分の値の数値範囲毎のコメント(評価)を付した一覧表の一例を示す。
【
図10】
図8のヒストグラムが示す数値に加え、対象成分の値の数値範囲毎のコメント(評価)を付した一覧表の一例を示す。
【
図11】複数の飼料を混合して生成される混合飼料の対象成分の計算の手順の詳細を説明するフローチャートである。
【
図12】管理用コンピュータ30における各種情報の入力画面の一例を示す。
【
図13】混合飼料の生成に関する演算を説明する表である。
【
図14】混合飼料の対象成分の含有量の分布を示すため管理用コンピュータ30で表示されるヒストグラムの一例である。
【
図15】評価部13における評価の手順の詳細を説明するフローチャートである。
【
図16】
図15のヒストグラムが示す数値に加え、混合飼料の対象成分の値の数値範囲毎のコメント(評価)の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して本実施形態について説明する。添付図面では、機能的に同じ要素は同じ番号で表示される場合もある。なお、添付図面は本開示の原理に則った実施形態と実装例を示しているが、これらは本開示の理解のためのものであり、決して本開示を限定的に解釈するために用いられるものではない。本明細書の記述は典型的な例示に過ぎず、本開示の特許請求の範囲又は適用例を如何なる意味においても限定するものではない。
【0014】
本実施形態では、当業者が本開示を実施するのに十分詳細にその説明がなされているが、他の実装・形態も可能で、本開示の技術的思想の範囲と精神を逸脱することなく構成・構造の変更や多様な要素の置き換えが可能であることを理解する必要がある。従って、以降の記述をこれに限定して解釈してはならない。
【0015】
図1は、本発明の実施の形態に係る飼料混合比率決定システム1の全体構成を説明する概略図である。
図1に示すように、この飼料混合比率決定システム1は、複数種類の飼料の特性を計算すると共に、それら複数種類の飼料を所定の混合比率で混合して得られる混合飼料の特性を計算し、特性に関する評価を行う。オペレータは、その計算結果及び評価に基づいて、混合飼料における混合比率を決定することができる。このシステム1によれば、国産粗飼料のように成分にバラつきのある原料の利用が容易になり、混合飼料の適切な飼料設計が容易になり得る。飼料混合比率決定システム1は、一例として、サーバコンピュータ10と、データベース20と、管理用コンピュータ30とから構成され得る。
【0016】
サーバコンピュータ10と管理用コンピュータ30とは、ネットワークNWを介して接続されて情報を送受信可能にされている。また、サーバコンピュータ10は、収穫された粗飼料CFからサンプリングされた飼料の対象成分の値(例えば硝酸態窒素の含有量)を計測するための測定装置40(例えば分光計測装置)と連携可能に構成される。
【0017】
測定装置40により計測されたデータは、サーバコンピュータ10において解析され、サーバコンピュータ10において、混合対象の飼料の特性、及び混合後の混合飼料の特性が計測されると共に、その評価がなされる。ここでの「評価」とは、混合飼料の原料となる飼料、又は混合後の混合飼料が対象家畜の飼料に適する飼料成分を有しているか否か、有害成分が基準値以下であるか否かなどに関する判断や、それに関する助言等を含む。サーバコンピュータ10は、一例として、飼料原料成分計算部11、混合飼料成分計算部12、及び評価部13を備える。飼料原料成分計算部11、混合飼料成分計算部12、及び評価部13は、サーバコンピュータ10にインストールされた飼料混合比率決定用プログラムにより実現される。
【0018】
飼料原料成分計算部11は、混合飼料の原料となり、混合の対象となる飼料(粗飼料、又は濃厚飼料)の対象成分の値を計算する役割を有する。また、混合飼料成分計算部12は、飼料原料成分計算部11での計算結果に従い、混合後の混合飼料の対象成分の値を計算する役割を有する。評価部13は、混合飼料成分計算部12で対象成分の値を計算された混合飼料についての評価を実行する役割を有する。
【0019】
ここで、原料となる飼料や混合飼料の「対象成分」は、一例としては、硝酸態窒素であり得る。その他、対象成分は、粗タンパク質、粗灰分、粗脂肪、粗繊維、可消化養分などであり得るが、特定のものに限定されるものではない。以下では、主に対象成分として硝酸態窒素を測定・分析の対象とする場合を中心に説明を行う。
【0020】
データベース20は、サーバコンピュータ10における各種判断を実行するために用いられる各種データを蓄積する記憶部である。一例としてデータベース20は、混合の対象となる粗飼料の種別に関する粗飼料種別データ、混合の対象となる粗飼料の成分に関する粗飼料成分データ、混合の対象となる濃厚飼料の種別に関する濃厚飼料種別データ、濃厚飼料の成分に関する濃厚飼料成分データ、各種の飼料における有害成分の基準値に関する有害成分基準値データ、過去に生産された混合飼料に関するデータである混合実績データ等を格納している。格納されるデータに、上記に例示する以外のものが追加されてもよいし、類似の性質のデータにより置き換えられても良いことは言うまでもない。
【0021】
管理用コンピュータ30は、本システム1を管理するオペレータにより操作されるコンピュータであり、例えばCPU201、ROM202、RAM203、ハードディスクドライブ204、入出力制御部205、通信制御部206、及び表示制御部207を備える。
【0022】
管理用コンピュータ30には、サーバコンピュータ10との間の各種情報の送受信、入出力等のためのプログラムが格納されている。管理用コンピュータ30は、図示しない各種入力手段(キーボード、タッチパネル、マウス等)と、各種出力装置(ディスプレイ、プリンタ等)を備え、各種の命令やデータを入力手段から入力してサーバコンピュータ10に送信すると共に、計算結果等を受信して出力装置に出力させる。管理用コンピュータ30は、混合飼料の原料となる飼料の種類の数、及び飼料の名称等を入力可能にされた飼料情報入力部14を更に備える。
【0023】
図2は、混合飼料に含まれる有害成分の一種としての硝酸態窒素含有量と、そのような混合飼料を牛に給与する際の危険の有無(程度)と注意点を示した一覧表である。
図2に示すように、混合飼料の乾物1kg当たりの硝酸態窒素含有量が1000mg以下であれば、給与に関する制限はない。混合飼料の乾物1kg当たりの硝酸態窒素含有量が1001~1500mg/kgの飼料の場合、妊娠牛以外には制限はないが、妊娠牛には給与総量の50%以下に抑制することが求められる。混合飼料の乾物1kg当たりの硝酸態窒素含有量が1501~2000mg/kgの飼料の場合、全ての牛について給与総量の50%以下に抑制することが求められる。
【0024】
混合飼料1kgの乾物当たりの硝酸態窒素含有量が2001~3500mg/kgの飼料の場合、妊娠牛に対しては給与不可であり、妊娠牛以外に対しても給与総量の35~40%以下に抑制することが求められる。混合飼料の乾物1kg当たりの硝酸態窒素含有量が3501~4000mg/kgの飼料の場合、妊娠牛に対しては給与不可であり、妊娠牛以外に対しても給与総量の25%以下に抑制することが求められる。混合飼料の乾物1kg当たりの硝酸態窒素含有量が4001mg/kg以上の飼料の場合、給与は不可である。
【0025】
混合飼料を生産する場合、混合する複数種類の原料の対象成分の値(例えば硝酸態窒素含有量)が一定であれば、混合飼料における特性の予測も容易である。しかし、前述のように、特に国産粗飼料を原料として混合して混合飼料を生産する場合、その品質の不安定さから、混合飼料における特性の正確な予測は容易ではなくなる。この点、本実施の形態を用いることで、含有成分等が一定しない国産粗飼料等を原料とした場合であっても、混合飼料の特性をより正確に計算することが可能になる。
【0026】
図3は、本発明の実施の形態の飼料混合比率決定システム1の動作の概要を説明するフローチャートである。このシステム1では、例えば粗飼料の原料となる牧草を栽培し、収穫した後、梱包する。粗飼料(例えば牧草)は、牧草ロールやキューブなど、一定の重量及びサイズの梱包単位に梱包される。なお、濃厚飼料も同様に一定の梱包単位(例えば紙袋、フレコンバッグなど)に梱包される。
【0027】
本システム1では、収穫された粗飼料の複数の梱包単位のうちの一部をサンプリングして(ステップS1)、対象成分の所定の値を計測する。サンプリングされなかった梱包単位の特性に関しては、サンプリング及び計測の結果を得た後に、計測結果に従って推定される。その後、計測結果及び推定結果に従い、混合飼料の設計が行われる(ステップS2)。そして、その設計の結果に従い、混合飼料が生成され、その特性が評価される(ステップS3)。なお、母集団を構成する複数の梱包単位のうち、サンプリングされて標本とされるのは、例えば100個のうちの5~10個程度であり得る。サンプリングは破壊調査であるため、全数調査は好ましくなく、非効率でもある。
【0028】
図4のフローチャートを参照して、本発明の実施の形態に係る飼料混合比率決定システム1におけるステップS2及びS3の詳細な実行手順を説明する。生産された粗飼料の複数個の梱包単位(母集団)のうちの一部がサンプリングの対象とされ、その成分分析が実行され、サンプリングされた標本の対象成分(例えば硝酸態窒素)の成分量が測定される。その測定値の平均値と標準偏差が、飼料原料成分計算部11において算出される(ステップS11)。
【0029】
続いて、算出された平均値及び標準偏差を基にして、確率分布データに従う乱数を発生させ、その乱数に基づいて、サンプリングされなかった梱包単位も含む母集団の梱包単位の各々について対象成分の成分量を仮定する(仮定値を設定する)(ステップS12)。ここでの確率分布データは、原料となる粗飼料の種類毎に予め過去の収穫データ等に基づいて得られている分布データである。確率分布データは、一例としては正規分布データであるが、対数正規分布など他の分布データであってもよい。
【0030】
そして、その成分量を仮定された母集団の梱包単位についての仮定データ(仮定値)を利用し、さらに混合対象の粗飼料や濃厚飼料の配合比率を決定し、これら仮定データ及び配合比率データに基づき、生成されるべき混合飼料の対象成分(例えば硝酸態窒素)の成分量を計算する(ステップS13)。そして、決定された成分量に従い、混合飼料の特性(当該混合飼料の安全性等を含む)を評価する(ステップS14)。評価の結果は管理用コンピュータ30に表示され、オペレータは、その評価の結果に従い、混合比率を再調整するなどして、適宜混合比率を決定することができる。
【0031】
図5のフローチャートを参照して、混合飼料の原料となる飼料の評価の実行手順の更なる詳細を説明する。このフローチャートでは、複数種類の粗飼料(例えば粗飼料A、Bの2種類)と、1種類の濃厚飼料Cが混合飼料の原料となり、それら複数種類の粗飼料についての分析が行われる場合を説明している。
【0032】
収穫された複数種類の粗飼料について、それぞれ複数の梱包単位が得られると、オペレータは、管理用コンピュータ30の、例えば
図6に例示する入力画面を介して、複数種類の粗飼料のうちの1つについて、管理用コンピュータ30のディスプレイの入力画面において、成分を推定する対象とする飼料の種類数を入力する(ステップS21)。成分を推定する対象とする飼料の種類数が2以上である場合、その種類の数だけ以下の手順が繰り返される(ステップS22)。
【0033】
続いて、混合飼料の原料となり且つ成分を推定する対象とする一の飼料の名前と、それぞれについて得られた梱包単位の数を、例えば
図6に例示する入力画面を介して入力する(ステップS23)。
【0034】
続いて、その飼料において分析の対象とする対象成分を固定値として扱うか、又は変動値(乱数に基づき変化する値)として扱うかが、例えば
図6に例示する入力画面を介してオペレータにより入力される(ステップS24)。
【0035】
対象成分を固定値として扱う場合には、ステップS28に移行し、飼料原料成分計算部11は、その対象成分の成分値(固定値)を、例えば管理用コンピュータ30から入力させる(固定値の入力を受け付ける)。入力を行う代わりに、当該飼料の特性データを予めサーバコンピュータ10に保持しておき、混合飼料成分計算部12に取り込むようにしてもよい。入力又は取り込まれた値は、当該飼料の個々の梱包単位の当該対象成分についての成分値とされ、そのデータが当該飼料についてのデータリストとして混合飼料成分計算部12に保存される(ステップS29)。一例として、対象飼料が濃厚飼料Cである場合には、予め保持されている濃厚飼料Cの成分データに従い、固定値を入力又は取り込むことができる。
【0036】
一方、対象成分を変動値とする場合には(ステップS24)、ステップS11で得られた対象成分の平均値及び標準偏差が、例えば管理用コンピュータ30のディスプレイの入力画面において入力されるか、又は自動的に取り込まれる(ステップS25)。ここでのデータ入力は、管理用コンピュータ30におけるオペレータの指令がトリガとされてもよいし、測定装置40(
図1)での測定の終了の検知をトリガとして行われてもよい。
【0037】
続いて、対象成分の平均値及び標準偏差に加えて、対象成分の上限値及び下限値を設定するか否かが判断される(ステップS26)。設定する場合には、ステップS27において、当該上限値及び下限値が、管理用コンピュータ30から、例えば
図6に例示する入力画面を介してオペレータにより入力される。上限値及び下限値を設定しない場合には、ステップS27をスキップしてステップS30に移行する。
【0038】
ステップS30では、乱数の発生に用いる確率分布を設定する。確率分布は、飼料の種類毎に予めサーバコンピュータ10に記憶されている。1つの飼料について複数の確率分布を予め記憶しておくことも可能であり、その場合、複数の確率分布の中から1の確率分布が、例えば管理用コンピュータ30においてオペレータにより選択され得る。
【0039】
続くステップS31では、ステップS25で入力された平均値及び標準偏差に基づいて、ステップS30で設定された確率分布に従い、乱数を対象の飼料の梱包単位の数だけ乱数を発生させる。発生させた乱数の値は、対象の飼料の複数の梱包単位に対象成分の値(例:硝酸態窒素含有量)の仮定値として割り当て、その割り当てたデータをリストとして保存する。なお、上限値及び下限値をステップS27において設定した場合においては、この上限値を超えるか又は下限値を下回る乱数がある場合には、その上限値又は下限値に乱数を置き替えて、当該梱包単位における対象成分の値とすることができる。以上のステップS23~S31が、設定される飼料の種類の数だけ繰り返される。
【0040】
全ての飼料の梱包単位について対象成分の値の仮定(仮定値の設定)が終了すると、続いて、その仮定された対象成分の値の分布が、管理用コンピュータ30において、例えばヒストグラムの形で出力される(ステップS33)。この分布に従い、評価部13は、対象成分別に梱包単位の評価を実行し、その評価の結果を同様に管理用コンピュータ30において表示することができる(ステップS34)。なお、上記の例では、粗飼料に関する各種数値に加え、混合飼料の原料となる濃厚飼料に関する対象成分の特性値(例えば平均値)等を入力可能とされていてもよい。
【0041】
図7に、乱数の発生(又は固定値の入力)に従い、複数種類の飼料(A、B、C)の複数の梱包単位に割り当てられた対象成分の値を示す表の一例を示す。また、
図8に、粗飼料A、Bについて得られた対象成分(硝酸態窒素)の分布を示すヒストグラムの一例を示す。
【0042】
図9、及び
図10は、
図8のヒストグラムが示す数値に加え、対象成分の値の数値範囲毎のコメント(評価)を付した一覧表の一例を示す。硝酸態窒素の含有量の大小に基づき、
図9及び
図10に例示されるようなコメント(評価)が表示されることにより、オペレータは、当該飼料の使用の是非について判断し、適切な混合比率を決定することができる。
【0043】
図11のフローチャートを参照して、複数の飼料を混合して生成される混合飼料の対象成分の計算の手順の詳細を説明する。まず、飼料原料成分計算部11で計算されたデータのリストが、混合飼料成分計算部12に引き継がれる(ステップS41)。そして、混合飼料の製造数(梱包単位数)と、混合飼料1個当たりの乾物重量を、管理用コンピュータ30から、例えば
図12に示すような入力画面を介して入力する(ステップS42)。
【0044】
続いて、混合飼料の原料となる飼料の梱包単位の乾物重量と、混合飼料に使用する飼料の混合比率を、例えば
図12に示すような入力画面を介して入力する(ステップS43)。
【0045】
続いて、ステップS44では、混合飼料の梱包単位の製造数だけ、次のステップS45を繰り返すよう指令が出される。ステップS45では、混合飼料の複数の梱包単位の各々についての対象成分の計算を実行する。具体的には、ステップS43で設定された混合比率に基づき、混合飼料を混合飼料成分計算部12において仮想的に製造する。混合飼料の製造において、混合の対象とする各種飼料を、定められた混合比率に従って対応する梱包単位から消費する。飼料の梱包単位の重量が不足した場合には、リストの中の次の梱包単位を使用して飼料を消費して混合飼料の製造に割り当てる。製造した混合飼料の梱包単位について、対象成分の含有量を計算し、その結果をリストに保存する。
【0046】
図13の表を参照して、混合飼料の製造に関する演算を説明する。一例として、混合飼料の原料となる飼料A、B、Cの混合比率が40:50:10と決定され、混合飼料の梱包単位1個当たりの乾物重量が400kgと設定され、さらに飼料A、B、Cの梱包単位1個当たりの乾物重量が、それぞれ200kg、250kg、500kgである場合を想定する。この場合、混合飼料の1個の梱包単位を製造する際に消費する飼料A、B、Cの重量は、それぞれ160kg、200kg、40kgと計算される。ステップS45では、この計算された重量に従って各飼料A、B、Cを消費し、混合飼料を仮想的に製造する。
【0047】
続いて、ステップS46では、混合飼料の梱包単位の製造数だけ、次のステップS47を繰り返すよう指令が出される。ステップS47では、ステップS45で計算された混合飼料の対象成分の含有量の分布を示すヒストグラムを生成し、例えば管理用コンピュータ30のディスプレイに表示させる(一例を
図14に示す)。以上のようにして生成された混合飼料のリストデータは、評価部13に引き継がれる。
【0048】
図15のフローチャートを参照して、評価部13における評価の手順の詳細を説明する。評価部13は、混合飼料成分計算部12から混合飼料のリストデータを引き継ぐ(ステップS51)。そして、評価部13は、混合飼料の対象成分の複数の評価基準を設定し、その評価基準に該当する混合飼料の個数を混合飼料成分計算部12での計算結果に従い特定し、リスト化する(ステップS52)。そして、その評価基準毎のコメントを生成し(ステップS53)、リスト中に表示する(
図16参照)。
図16に示すようなリスト中のコメントとは別に、別欄でコメントを表示することも可能である。
【0049】
以上説明したように、本実施の形態の飼料混合比率決定システム1によれば、設定された混合飼料における混合率に従い、生成される混合飼料の対象成分の値、及びその混合飼料に関する評価(コメント)が得られるため、オペレータは、その評価に基づいて、混合飼料の採否や、混合率の再調整などを判断することができる。従って、本実施の形態によれば、含有成分等が一定しない国産粗飼料を混合飼料の原料とした場合であっても、生成される混合飼料の品質を安定させることを容易にする飼料混合比率決定システムを提供することができる。
【0050】
なお、本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、上記の実施例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、本発明は、必ずしも説明した全ての構成を備える態様に限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能である。また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、削除したり、他の構成を追加・置換したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0051】
1…飼料混合比率決定システム
10…サーバコンピュータ
11…飼料原料成分計算部
12…混合飼料成分計算部
13…評価部
14…飼料情報入力部
20…データベース
30…管理用コンピュータ
40…測定装置
201…CPU
202…ROM
203…RAM
204…ハードディスクドライブ
205…入出力制御部
206…通信制御部
207…表示制御部
【要約】
【課題】含有成分等が一定しない国産粗飼料などを混合飼料の原料とした場合であっても、生成される混合飼料の品質を安定させることを容易にする飼料混合比率決定システムを提供する。
【解決手段】本開示に係る飼料混合比率決定システムは、混合飼料の原料となる飼料の複数の梱包単位のうちの一部の梱包単位を標本としてサンプリングし、サンプリングされた標本の成分を分析して、分析の結果に基づき、確率分布に従う乱数を発生させ、乱数に基づき複数の梱包単位の対象成分の値の仮定値を計算する飼料原料成分算出部と、飼料原料成分算出部で仮定された複数の梱包単位の値の仮定値に従い、製造される混合飼料の対象成分の値を計算する混合飼料成分計算部と、混合飼料の対象成分の値の計算結果に従い、混合飼料の特性を評価する評価部と、を備える。
【選択図】
図1