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  • 特許-イオン伝導体材料および電池 図1
  • 特許-イオン伝導体材料および電池 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-23
(45)【発行日】2024-05-31
(54)【発明の名称】イオン伝導体材料および電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0562 20100101AFI20240524BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240524BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20240524BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240524BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20240524BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01M10/052
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01B1/06 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021527429
(86)(22)【出願日】2020-04-28
(86)【国際出願番号】 JP2020018123
(87)【国際公開番号】W WO2020261758
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2023-03-20
(31)【優先権主張番号】P 2019118813
(32)【優先日】2019-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004314
【氏名又は名称】弁理士法人青藍国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100143236
【弁理士】
【氏名又は名称】間中 恵子
(72)【発明者】
【氏名】大島 龍也
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 出
(72)【発明者】
【氏名】杉本 裕太
(72)【発明者】
【氏名】西山 誠司
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 晃暢
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/025582(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/035713(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0562
H01M 10/052
H01M 4/13
H01M 4/62
H01B 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質材料と、樹脂バインダーとを含み、
前記固体電解質材料は、Li、M、およびXを含み、
前記Mは、Li以外の金属元素および半金属元素からなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記Xは、F、Cl、Br、およびIからなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記固体電解質材料に対する、前記樹脂バインダーに含まれる変性基の物質量比が、0.0002以下である、
イオン伝導体材料。
【請求項2】
前記固体電解質材料は、下記の組成式(1)により表され、
Liαβγ ・・・式(1)
ここで、前記α、前記β、および前記γは、いずれも0より大きい値である、
請求項1に記載のイオン伝導体材料。
【請求項3】
前記Mは、イットリウムを含む、
請求項1または2に記載のイオン伝導体材料。
【請求項4】
前記樹脂バインダーは、熱可塑性エラストマーを含む、
請求項1から3のいずれか1項に記載のイオン伝導体材料。
【請求項5】
前記熱可塑性エラストマーは、スチレンを含む、
請求項4に記載のイオン伝導体材料。
【請求項6】
前記熱可塑性エラストマーは、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンである、
請求項5に記載のイオン伝導体材料。
【請求項7】
前記樹脂バインダーの酸価は、1mg-CH3ONa/g以下である、
請求項1から6のいずれか1項に記載のイオン伝導体材料。
【請求項8】
正極と、
負極と、
前記正極と前記負極との間に配置された電解質層と、
を備え、
前記正極、前記負極、および前記電解質層からなる群より選択される少なくとも1つは、請求項1から7のいずれか1項に記載のイオン伝導体材料を含む、
電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、イオン伝導体材料および電池に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、固体電解質と、熱可塑性エラストマーと、を含む電池が開示されている。熱可塑性エラストマーには、固体電解質と正極活物質との密着強度、固体電解質同士の密着強度、および、固体電解質と負極活物質との密着強度などの密着強度を向上させる官能基が導入されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2017/217079号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、電池の充放電効率を向上させるイオン伝導体材料を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様におけるイオン伝導体材料は、固体電解質材料と、樹脂バインダーとを含み、
前記固体電解質材料は、Li、M、およびXを含み、
前記Mは、Li以外の金属元素および半金属元素からなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記Xは、F、Cl、Br、およびIからなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記固体電解質材料に対する、前記樹脂バインダーに含まれる変性基の物質量比が、0.0002以下である。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、電池の充放電効率を向上させるイオン伝導体材料を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、実施の形態1に係るイオン伝導体材料1000の構成を示す模式図である。
図2図2は、実施の形態2に係る電池2000の概略構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示の第1態様に係るイオン伝導体材料は、固体電解質材料と、樹脂バインダーとを含み、
前記固体電解質材料は、Li、M、およびXを含み、
前記Mは、Li以外の金属元素および半金属元素からなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記Xは、F、Cl、Br、およびIからなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記固体電解質材料に対する、前記樹脂バインダーに含まれる変性基の物質量比が、0.0002以下である。
【0009】
第1態様に係るイオン伝導体材料は、電池に用いられた際に、当該電池の充放電効率を向上させることができる。
【0010】
本開示の第2態様において、例えば、第1態様に係るイオン伝導体材料では、前記固体電解質材料は、下記の組成式(1)により表されてもよい。
Liαβγ ・・・式(1)
ここで、前記α、前記β、および前記γは、いずれも0より大きい値である、
【0011】
第2態様に係るイオン伝導体材料によれば、固体電解質材料のイオン伝導率が向上するので、イオン導電率が向上し得る。これにより、第2態様に係るイオン伝導体材料は、電池に用いられた際に、当該電池の充放電効率をより向上させることができる。
【0012】
本開示の第3態様において、例えば、第1態様または第2態様に係るイオン伝導体材料では、前記Mは、イットリウムを含んでもよい。
【0013】
第3態様に係るイオン伝導体材料は、電池に用いられた際に、当該電池の充放電効率をより向上させることができる。
【0014】
本開示の第4態様において、例えば、第1から第3態様のいずれか1つに係るイオン伝導体材料では、前記樹脂バインダーは、熱可塑性エラストマーを含んでもよい。
【0015】
第4態様に係るイオン伝導体材料によれば、電池製造時において熱圧縮した際、イオン伝導体材料の高充填を実現できる。
【0016】
本開示の第5態様において、例えば、第4態様に係るイオン伝導体材料では、前記熱可塑性エラストマーは、スチレンを含んでもよい。
【0017】
スチレン系熱可塑性エラストマーは、高い電気化学的耐性および高い結着強度を有する。したがって、第5態様に係るイオン伝導体材料によれば、電池のサイクル性を向上させることができる。
【0018】
本開示の第6態様において、例えば、第5態様に係るイオン伝導体材料では、前記熱可塑性エラストマーは、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンであってもよい。
【0019】
スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンは、高い電気化学的耐性および高い結着強度を有する。したがって、第6態様に係るイオン伝導体材料によれば、電池のサイクル性を向上させることができる。
【0020】
本開示の第7態様において、例えば、第1から第6態様のいずれか1つに係るイオン伝導体材料では、前記樹脂バインダーの酸価は、1mg-CH3ONa/g以下であってもよい。
【0021】
第7態様に係るイオン伝導体材料は、電池に用いられた際に、当該電池の充放電効率をより向上させることができる。
【0022】
本開示の第8の態様に係る電池は、
正極と、
負極と、
前記正極と前記負極との間に配置された電解質層と、
を備え、
前記正極、前記負極、および前記電解質層からなる群より選択される少なくとも1つは、第1から第7態様のいずれか1つに係るイオン伝導体材料を含む。
【0023】
第8態様に係る電池によれば、優れた充放電効率を実現できる。
【0024】
以下、本開示の実施の形態が、図面を参照しながら説明される。
【0025】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係るイオン伝導体材料1000の構成を示す模式図である。実施の形態1におけるイオン伝導体材料1000は、固体電解質材料101と、樹脂バインダー102とを含む。固体電解質材料101は、Li、M、およびXを含む。ここで、Mは、Li以外の金属元素および半金属元素からなる群より選択される少なくとも1種であり、Xは、F、Cl、Br、およびIからなる群より選択される少なくとも1種である。固体電解質材料101に対する、樹脂バインダー102に含まれる変性基の物質量比が、0.0002以下である。
【0026】
以上の構成により、実施の形態1におけるイオン伝導体材料1000は、電池(例えば、全固体二次電池)に用いられた際に、当該電池の充放電効率を向上させることができる。
【0027】
本開示において、「半金属元素」とは、B、Si、Ge、As、SbおよびTeである。
【0028】
また、本開示において、「金属元素」とは、
(i)水素を除く、周期表1族から12族中に含まれるすべての元素、および、
(ii)B、Si、Ge、As、Sb、Te、C、N、P、O、S、およびSeを除く、周期表13族から16族中に含まれるすべての元素、
である。
【0029】
すなわち、本開示において、「半金属元素」および「金属元素」は、ハロゲン元素と無機化合物を形成した際にカチオンとなり得る元素群である。
【0030】
以下に、実施の形態1に係るイオン伝導体材料1000が詳しく説明される。なお、以下、固体電解質材料101は、「ハロゲン化物固体電解質材料」と記載されることがある。なお、本開示において「ハロゲン化物固体電解質材料」とは、ハロゲン元素を含み、かつ、硫黄を含まない固体電解質材料を意味する。また、本開示において、硫黄を含まない固体電解質材料とは、硫黄元素が含まれない組成式で表される固体電解質材料を意味する。したがって、ごく微量の硫黄成分、例えば硫黄が0.1質量%以下である固体電解質材料は、硫黄を含まない固体電解質材料に含まれる。ハロゲン化物固体電解質材料は、ハロゲン元素以外のアニオンとして、さらに酸素を含んでもよい。
【0031】
<ハロゲン化物固体電解質材料>
上述のとおり、ハロゲン化物固体電解質材料101は、Li、M、およびXを含む材料である。元素Mおよび元素Xは、上述のとおりである。以上の構成によれば、ハロゲン化物固体電解質材料101のイオン伝導率がより向上するので、実施の形態1におけるイオン伝導体材料のイオン導電率がより向上し得る。これにより、実施の形態1におけるイオン伝導体材料は、電池に用いられた場合に、当該電池の充放電効率を向上させることができる。また、実施の形態1におけるイオン伝導体材料は、電池に用いられた場合に、当該電池の熱的安定性を向上させることができる。また、ハロゲン化物固体電解質材料101は硫黄を含まないので、実施の形態1におけるイオン伝導体材料は、硫化水素ガスの発生を抑制することができる。
【0032】
例えば、ハロゲン化物固体電解質材料101は、下記の組成式(1)により表される材料であってもよい。
Liαβγ ・・・式(1)
ここで、上記の組成式(1)において、α、βおよびγは、いずれも0より大きい値である。γは、例えば4または6などであり得る。
【0033】
以上の構成によれば、ハロゲン化物固体電解質材料101のイオン伝導率が向上するので、実施の形態1におけるイオン伝導体材料のイオン導電率が向上し得る。これにより、実施の形態1におけるイオン伝導体材料は、電池に用いられた場合に、当該電池の充放電効率をより向上させることができる。
【0034】
上記組成式(1)において、元素Mは、Y(=イットリウム)を含んでもよい。すなわち、ハロゲン化物固体電解質材料101は、金属元素としてYを含んでもよい。
【0035】
Yを含むハロゲン化物固体電解質材料101は、例えば、下記の組成式(2)で表されてもよい。
LiaMebc6 ・・・式(2)
ここで、a、b、およびcは、a+mb+3c=6、および、c>0を満たしてもよい。元素Meは、LiおよびY以外の金属元素および半金属元素からなる群より選択される少なくとも1種である。mは、元素Meの価数を表す。なお、元素Meが複数種の元素を含む場合、mbは、各元素の組成比に当該元素の価数をかけた値の合計となる。例えば、Meが、元素Me1と元素Me2とを含む場合であって、元素Me1の組成比がb1で元素Me1の価数がm1、元素Me2の組成比がb2で元素Me2の価数がm2である場合、mb=m11+m22となる。上記組成式(2)において、元素Xは、F、Cl、Br、およびIからなる群より選択される少なくとも1種である。
【0036】
元素Meは、例えば、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Sc、Al、Ga、Bi、Zr、Hf、Ti、Sn、Ta、GdおよびNbからなる群より選択される少なくとも1種であってもよい。
【0037】
ハロゲン化物固体電解質材料101としては、例えば、以下の材料が用いられ得る。以下の材料によれば、ハロゲン化物固体電解質材料101のイオン導電率がより向上するので、実施の形態1におけるイオン伝導体材料のイオン伝導率がより向上し得る。これにより、実施の形態1におけるイオン伝導体材料は、電池に用いられた場合に、当該電池の充放電効率をより向上させることができる。
【0038】
ハロゲン化物固体電解質材料101は、以下の組成式(A1)により表される材料であってもよい。
Li6-3dd6 ・・・式(A1)
ここで、組成式(A1)において、元素Xは、Cl、Br、およびIからなる群より選択される少なくとも1種である。また、組成式(A1)において、dは、0<d<2を満たす。
【0039】
ハロゲン化物固体電解質材料101は、以下の組成式(A2)により表される材料であってもよい。
Li3YX6 ・・・式(A2)
ここで、組成式(A2)において、元素Xは、Cl、BrおよびIからなる群より選択される少なくとも1種である。
【0040】
ハロゲン化物固体電解質材料101は、以下の組成式(A3)により表される材料であってもよい。
Li3-3δ1+δCl6 ・・・式(A3)
ここで、組成式(A3)において、δは、0<δ≦0.15を満たす。
【0041】
ハロゲン化物固体電解質材料101は、以下の組成式(A4)により表される材料であってもよい。
Li3-3δ1+δBr6 ・・・式(A4)
ここで、組成式(A4)において、δは、0<δ≦0.25を満たす。
【0042】
ハロゲン化物固体電解質材料101は、以下の組成式(A5)により表される材料であってもよい。
Li3-3δ+a1+δ-aMeaCl6-x-yBrxy ・・・式(A5)
ここで、組成式(A5)において、元素Meは、Mg、Ca、Sr、Ba、およびZnからなる群より選択される少なくとも1種である。
【0043】
また、上記組成式(A5)は、
-1<δ<2、
0<a<3、
0<(3-3δ+a)、
0<(1+δ-a)、
0≦x≦6、
0≦y≦6、および
(x+y)≦6、
を満たす。
【0044】
ハロゲン化物固体電解質材料101は、以下の組成式(A6)により表される材料であってもよい。
Li3-3δ1+δ-aMeaCl6-x-yBrxy ・・・式(A6)
ここで、上記組成式(A6)において、元素Meは、Al、Sc、Ga、およびBiからなる群より選択される少なくとも1種である。
【0045】
また、上記組成式(A6)は、
-1<δ<1、
0<a<2、
0<(1+δ-a)、
0≦x≦6、
0≦y≦6、および
(x+y)≦6、
を満たす。
【0046】
ハロゲン化物固体電解質材料101は、以下の組成式(A7)により表される材料であってもよい。
Li3-3δ-a1+δ-aMeaCl6-x-yBrxy ・・・式(A7)
ここで、上記組成式(A7)において、元素Meは、Zr、HfおよびTiからなる群より選択される少なくとも1種である。
【0047】
また、上記組成式(A7)は、
-1<δ<1、
0<a<1.5、
0<(3-3δ-a)、
0<(1+δ-a)、
0≦x≦6、
0≦y≦6、および
(x+y)≦6、
を満たす。
【0048】
ハロゲン化物固体電解質材料101は、以下の組成式(A8)により表される材料であってもよい。
Li3-3δ-2a1+δ-aMeaCl6-x-yBrxy ・・・式(A8)
ここで、上記組成式(A8)において、元素Meは、TaおよびNbからなる群より選択される少なくとも1種である。
【0049】
また、上記組成式(A8)は、
-1<δ<1、
0<a<1.2、
0<(3-3δ-2a)、
0<(1+δ-a)、
0≦x≦6、
0≦y≦6、および
(x+y)≦6、
を満たす。
【0050】
ハロゲン化物固体電解質材料101として、より具体的には、例えば、Li3YX6、Li2MgX4、Li2FeX4、Li(Al、Ga、In)X4、Li3(Al、Ga、In)X6などが用いられ得る。ここで、これらの材料において、元素Xは、F、Cl、Br、およびIからなる群より選択される少なくとも1種である。なお、本開示において、式中の元素を「(Al、Ga、In)」のように表すとき、この表記は、括弧内の元素群より選択される少なくとも1種の元素を示す。すなわち、「(Al、Ga、In)」は、「Al、Ga、およびInからなる群より選択される少なくとも1種」と同義である。他の元素の場合でも同様である。
【0051】
<樹脂バインダー>
「背景技術」の欄に記載されているように、特許文献1は、固体電解質と、官能基が導入された熱可塑性エラストマーと、を含む電池を開示している。特許文献1に開示されている電池において、固体電解質は、特に、硫化物固体電解質または酸化物固体電解質である。すなわち、特許文献1に開示されている電池は、硫化物固体電解質または酸化物固体電解質と、変性基を有する樹脂バインダーとの混合物を含んでいる。特許文献1によれば、特許文献1に開示されている電池は、この構成によりトレードオフの関係にある密着強度と電池特性とを両立させることができる。
【0052】
本発明者らは、固体電解質材料と樹脂バインダーとを含む電池について検討した。その結果、本発明者らは、ハロゲン化物固体電解質材料と変性基を有する樹脂バインダーとが混合された場合、固体電解質材料のイオン伝導度が減少して電池の充放電効率が低下するという課題が生じることを見出した。この課題は、ハロゲン化物固体電解質材料と樹脂バインダーの変性基とが反応すること、または、ハロゲン化物固体電解質材料と樹脂バインダーの変性基とが相互作用することによって生じると考えられる。より詳しく説明すると、ハロゲン化物固体電解質材料が有するM-Xのようなイオン結合性が高い結合部位と、樹脂バインダーの変性基が有する電気陰性度が比較的高いOまたはNなどによる極性の高い結合部位とが、反応または相互作用することが理由であると考えられる。なお、このような現象は、硫化物固体電解質材料が有するP-S結合、および、酸化物固体電解質材料が有するM-O結合のような、共有結合性が高い結合部位では生じないと考えられる。すなわち、上記のような課題は、ハロゲン化物固体電解質材料特有の課題であると考えられる。
【0053】
本発明者らは、上記の知見に基づいて、さらに検討を進めた。その結果、ハロゲン化物固体電解質材料に対する樹脂バインダーの変性基量を抑制すること、具体的には、ハロゲン化物固体電解質材料に対する樹脂バインダーに含まれる変性基の物質量比を0.0002以下にすることにより、ハロゲン化物固体電解質材料が樹脂バインダーと組み合わされる構成であっても、ハロゲン化物固体電解質材料のイオン伝導度の減少を抑制できることが見出された。上述のとおり、実施の形態1におけるイオン伝導体材料1000において、ハロゲン化物固体電解質材料101に対する、樹脂バインダー102に含まれる変性基の物質量比は、0.0002以下である。これにより、実施の形態1におけるイオン伝導体材料1000は、ハロゲン化物固体電解質材料101の結着強度を保ちつつ、電池の充放電効率を向上させることができる。
【0054】
以下、「ハロゲン化物固体電解質材料101に対する、樹脂バインダー102に含まれる変性基の物質量比」は、「変性基の物質量比」と略されることがある。
【0055】
なお、実施の形態1におけるイオン伝導体材料1000において、変性基の物質量比は、0であってもよい。すなわち、樹脂バインダー102が変性基を含有しなくてもよい。樹脂バインダー102が変性基を含有しないことにより、ハロゲン化物固体電解質材料101のイオン伝導度減少がより抑制され得る。したがって、実施の形態1におけるイオン伝導体材料1000は、ハロゲン化物固体電解質材料101の結着強度を保ちつつ、電池の充放電効率をより向上させることができる。また、実施の形態1におけるイオン伝導体材料1000において、変性基の物質量比は、0以上であってもよい。
【0056】
実施の形態1におけるイオン伝導体材料1000において、変性基の物質量比が0.0002以下であれば、樹脂バインダー102は変性基を含有してもよい。変性基の物質量比が0.0002以下であれば、実施の形態1におけるイオン伝導体材料1000は、ハロゲン化物固体電解質材料101の結着強度を保ちつつ、電池の充放電効率を向上させることができる。
【0057】
実施の形態1における樹脂バインダー102としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、アラミド樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアクリルニトリル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチルエステル、ポリアクリル酸エチルエステル、ポリアクリル酸ヘキシルエステル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチルエステル、ポリメタクリル酸エチルエステル、ポリメタクリル酸ヘキシルエステル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリエーテル、ポリカーボネート、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ヘキサフルオロポリプロピレン、スチレンブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、およびエチルセルロースなどが挙げられる。また、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル、フッ化ビニリデン、クロロトリフルオロエチレン、エチレン、プロピレン、ブタジエン、スチレン、ペンタフルオロプロピレン、フルオロメチルビニルエーテル、アクリル酸エステル、アクリル酸、およびヘキサジエンからなる群より選択される2種以上をモノマーとして含む共重合体も、用いられ得る。これらは、1種が単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0058】
実施の形態1における樹脂バインダー102は、特に限定されるものではないが、結着性に優れる理由から、エラストマーであってもよい。なお、エラストマーとは、弾性を有するポリマーのことである。また、樹脂バインダー102として用いられるエラストマーは、熱可塑性エラストマーであってもよいし、熱硬化性エラストマーであってもよい。樹脂バインダー102が、熱可塑性エラストマーを含んでいてもよい。熱可塑性エラストマーとして、例えば、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン(SEBS)、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレン(SEPS)、スチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレン(SEEPS)、ブチレンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、スチレン-ブチレンゴム(SBR)、スチレン-ブタジエン-スチレン(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレン(SIS)、水素化イソプレンゴム(HIR)、水素化ブチルゴム(HIIR)、水素化ニトリルゴム(HNBR)、水素化スチレン-ブチレンゴム(HSBR)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、およびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等を挙げることができる。また、これらのうちから選択された2種類以上が、混合されて用いられもよい。樹脂バインダー102が熱可塑性エラストマーを含む場合、電池製造時において熱圧縮した際、イオン伝導体材料1000の高充填を実現できる。
【0059】
樹脂バインダー102に含まれる熱可塑性エラストマーは、スチレンを含むスチレン系熱可塑性エラストマーであってもよい。スチレン系熱可塑性エラストマーは、高い電気化学的耐性および高い結着強度を有するため、電池のサイクル性を向上させることができる。
【0060】
樹脂バインダー102に含まれる熱可塑性エラストマーは、SEBSであってもよい。SEBSは、高い電気化学的耐性および高い結着強度を有するため、さらに電池のサイクル性を向上させることができる。
【0061】
なお、実施の形態1における樹脂バインダー102としては、旭化成株式会社製のタフテックなどが用いられ得る。
【0062】
実施の形態1における樹脂バインダー102に含まれる変性基とは、ポリマー鎖の繰り返し単位に対して全てまたは一部、あるいは、ポリマー鎖末端が、置換または付加などにより化学的に修飾された官能基である。変性基としては、例えば、電気陰性度が比較的高いOまたはNなどの元素を含む官能基が挙げられ、このような官能基を持つことで樹脂バインダーに極性を付与することができる。変性基としては、例えば、カルボン酸基、無水マレイン酸基、アシル基、ヒドロキシ基、スルホ基、スルファニル基、リン酸基、ホスホン酸基、イソシアネート基、エポキシ基、シリル基、アミノ基、ニトリル基、およびニトロ基等を挙げることができる。
【0063】
実施の形態1における樹脂バインダー102の変性基量の調整方法としては、樹脂バインダーへの変性基導入量の制御、および、変性基を含む樹脂バインダーへの無変性樹脂バインダーの添加による希釈、などが用いられうる。
【0064】
変性基の物質量比は、例えば次の方法によって求められる。ハロゲン化物固体電解質材料101は不溶であって、かつ樹脂バインダー102が溶解する溶媒、例えばトルエンのような芳香族系溶媒で、樹脂バインダー102を抽出する。抽出された樹脂バインダー102について、赤外分光法(IR法)で変性基の物質量を求める。一方、抽出されずに残ったハロゲン化物固体電解質材料101の物質量を求める。変性基の物質量の測定値を、ハロゲン化物固体電解質材料101の物質量で割ることにより、変性基の物質量比を求めることができる。
【0065】
ハロゲン化物固体電解質材料101の物質量と、樹脂バインダー102を構成する全ての樹脂成分の酸価およびそれら樹脂成分の質量比とが明らかである場合は、上記方法の代わりに、ハロゲン化物固体電解質材料101の物質量、ならびに樹脂成分の酸価および質量比を用いて、後述の実施例に記載した方法で変性基の物質量比を算出することが可能である。
【0066】
実施の形態1におけるイオン伝導体材料1000において、樹脂バインダー102の酸価は、1mg-CH3ONa/g以下であってもよい。ここで、「mg-CH3ONa/g」は、酸価に関して、対象の化合物(ここでは、樹脂バインダー102)1g中に含まれる変性基の中和を行うために必要な「CH3ONa」の量を、単位をmgとして表す単位である。樹脂バインダー102の酸価が1mg-CH3ONa/g以下であることにより、実施の形態1におけるイオン伝導体材料1000は、ハロゲン化物固体電解質材料101の結着強度を保ちつつ、電池の充放電効率を向上させることができる。
【0067】
樹脂バインダー102の酸価は、滴定法、例えば、特許第4946387号に記載の滴定法で、求めることができる。
【0068】
実施の形態1における樹脂バインダー102の重量平均分子量は、例えば、1,000~1,000,000の範囲内であってもよく、10,000~500,000の範囲内であってもよい。樹脂バインダー102の重量平均分子量が1,000以上であることにより、ハロゲン化物固体電解質材料101の粒子間の十分な接着強度を得ることができる。樹脂バインダー102の重量平均分子量が1,000,000以下であることにより、ハロゲン化物固体電解質材料101の粒子間のイオン伝導が樹脂バインダー102によって阻害されないため、電池の充放電特性を向上させることができる。樹脂バインダー102の重量平均分子量としては、例えば、クロロホルムを溶離液として用いたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算値の重量平均分子量が用いられ得る。
【0069】
実施の形態1におけるイオン伝導体材料1000を製造する際の、ハロゲン化物固体電解質材料101と樹脂バインダー102との混合方法は、特に限定されない。例えば、乾式で機械的に粉砕混合する方法が挙げられる。このような手法を用いれば、簡便に、実施の形態1におけるイオン伝導体材料1000を作製できる。また、樹脂バインダー材料溶液または樹脂バインダー分散液中に、ハロゲン化物固体電解質材料を分散させ、乾燥する湿式手法が用いられてもよい。このような手法を用いれば、簡便かつ均一に樹脂バインダーをハロゲン化物固体電解質材料と混合することができるので、ハロゲン化物固体電解質材料の結着強度を向上させることができる。上記手法で用いられる溶媒としては、ハロゲン化物固体電解質と反応しない溶媒、例えばトルエンのような芳香族系溶媒が用いられ得る。
【0070】
次に、ハロゲン化物固体電解質材料101の製造方法について説明する。ここでは、上記の組成式(1)で表されるハロゲン化物固体電解質材料の製造方法について例示する。
【0071】
まず、目的の組成に応じて、二元系ハロゲン化物の原料粉を複数種用意する。二元系ハロゲン化物とは、ハロゲン元素を含む2種の元素からなる化合物のことをいう。例えば、Li3YCl6を作製する場合には、原料粉LiClと原料粉YCl3とを3:1のモル比で用意する。このとき、原料粉の種類を選択することで、組成式(1)における「M」および「X」の元素種を決定することができる。また、原料粉の種類、原料粉の配合比および合成プロセスを調整することで、組成式(1)における「α」、「β」および「γ」の値を調整できる。
【0072】
原料粉を混合および粉砕した後、メカノケミカルミリングの方法を用いて原料粉同士を反応させる。もしくは、原料粉を混合および粉砕した後、真空中又は不活性雰囲気中で焼結してもよい。焼成条件は、例えば、100℃~550℃の範囲内で、1時間以上の焼成を行えばよい。これらの方法により、ハロゲン化物固体電解質材料が得られる。
【0073】
なお、ハロゲン化物固体電解質材料の結晶相の構成(すなわち、結晶構造)は、原料粉同士の反応方法および反応条件により調整もしくは決定することができる。
【0074】
(実施の形態2)
以下、実施の形態2が説明される。上述の実施の形態1と重複する説明は、適宜、省略される。
【0075】
図2は、実施の形態2における電池2000の概略構成を示す断面図である。
【0076】
実施の形態2における電池2000は、正極202と、負極203と、電解質層201と、を備える。
【0077】
正極202、負極203、および電解質層201からなる群より選択される少なくとも1つは、上述の実施の形態1におけるイオン伝導体材料1000を含む。
【0078】
電解質層201は、正極202と負極203との間に配置される。
【0079】
以上の構成により、実施の形態2の電池は、充放電効率を向上させることができる。
【0080】
なお、実施の形態2における電池2000においては、正極202が、上述の実施の形態1におけるイオン伝導体材料1000を含んでもよい。
【0081】
以上の構成によれば、電池の充放電効率をより向上させることができる。
【0082】
実施の形態2における電池2000においては、電解質層201が、上述の実施の形態1におけるイオン伝導体材料1000を含んでもよい。
【0083】
なお、電解質層201は、上述の実施の形態1におけるイオン伝導体材料1000のみからなっていてもよい。
【0084】
以上の構成によれば、実施の形態2の電池は、充放電効率をより向上させることができる。
【0085】
電解質層201は電解質材料を含む層である。当該電解質材料は、例えば、固体電解質材料である。すなわち、電解質層201は、固体電解質層であってもよい。電解質層201に含まれる固体電解質材料としては、例えば、硫化物固体電解質材料、酸化物固体電解質材料、ハロゲン化物固体電解質材料、高分子固体電解質材料、および錯体水素化物固体電解質材料などが用いられ得る。固体電解質材料は、例えば、ハロゲン化物固体電解質材料であってもよい。
【0086】
本開示において「酸化物固体電解質材料」とは、酸素を含む固体電解質材料をいう。ここで、酸化物固体電解質材料は、酸素以外のアニオンとして、硫黄およびハロゲン元素以外のアニオンを更に含んでもよい。
【0087】
「ハロゲン化物固体電解質材料」は、実施の形態1で説明したとおりであって、上述の実施の形態1におけるイオン伝導体材料1000に含まれる固体電解質材料101に相当する。
【0088】
硫化物固体電解質材料としては、例えば、Li2S-P25、Li2S-SiS2、Li2S-B23、Li2S-GeS2、Li3.25Ge0.250.754、およびLi10GeP212などが用いられ得る。また、これらに、LiX、Li2O、MOq、および/またはLipMOqなどが添加されてもよい。ここで、「LiX」における元素Xは、F、Cl、BrおよびIからなる群より選択される少なくとも1種である。また、「MOq」および「LipMOq」における元素Mは、P、Si、Ge、B、Al、Ga、In、Fe、およびZnからなる群より選択される少なくとも1種である。また、「MOq」および「LipMOq」におけるpおよびqは、いずれも自然数である。
【0089】
酸化物固体電解質材料としては、例えば、LiTi2(PO43およびその元素置換体を代表とするNASICON型固体電解質材料、(LaLi)TiO3系のペロブスカイト型固体電解質材料、Li14ZnGe416、Li4SiO4、LiGeO4およびその元素置換体を代表とするLISICON型固体電解質材料、Li7La3Zr212およびその元素置換体を代表とするガーネット型固体電解質材料、Li3PO4およびそのN置換体、LiBO2、Li3BO3などのLi-B-O化合物をベースとして、Li2SO4、Li2CO3などが添加されたガラス、ならびに、ガラスセラミックスなどが用いられ得る。
【0090】
高分子固体電解質としては、例えば、高分子化合物とリチウム塩との化合物を用い得る。高分子化合物はエチレンオキシド構造を有していてもよい。エチレンオキシド構造を有する高分子化合物は、リチウム塩を多く含有することができる。このため、イオン導電率をより高めることができる。リチウム塩としては、LiPF6、LiBF4、LiSbF6、LiAsF6、LiSO3CF3、LiN(SO2F)2、LiN(SO2CF32、LiN(SO2252、LiN(SO2CF3)(SO249)、LiC(SO2CF33などを用い得る。リチウム塩は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0091】
錯体水素化物固体電解質としては、例えば、LiBH4-LiI、LiBH4-P25などが用いられ得る。
【0092】
なお、電解質層201は、固体電解質材料を、主成分として含んでもよい。すなわち、電解質層201は、固体電解質材料を、例えば、電解質層201の全体に対する質量割合で70%以上(70質量%以上)、含んでもよい。
【0093】
以上の構成によれば、電池の充放電特性をより向上させることができる。
【0094】
なお、電解質層201は、固体電解質材料を主成分として含みながら、さらに、不可避的な不純物、または、固体電解質材料を合成する際に用いられる出発原料および副生成物および分解生成物など、を含んでいてもよい。
【0095】
また、電解質層201は、固体電解質材料を、例えば、混入が不可避な不純物を除いて、電解質層201の全体に対する質量割合で100%(100質量%)、含んでもよい。
【0096】
以上の構成によれば、電池の充放電特性を、より向上させることができる。
【0097】
なお、電解質層201は、固体電解質材料として挙げられた材料のうちの2種類以上を含んでもよい。例えば、電解質層201は、ハロゲン化物固体電解質材料と硫化物固体電解質材料とを含んでもよい。
【0098】
電解質層201の厚みは、1μm以上かつ300μm以下であってもよい。電解質層201の厚みが1μm以上の場合には、正極202と負極203とが短絡する可能性が低くなる。また、電解質層201の厚みが300μm以下の場合には、高出力での動作が容易となる。すなわち、電解質層201の厚みが適切に調整されていると、電池の十分な安全性を確保できるとともに、電池を高出力で動作させることができる。
【0099】
電池2000に含まれる固体電解質材料の形状は、限定されない。固体電解質材料の形状は、例えば、針状、球状、楕円球状などであってもよい。固体電解質材料の形状は、例えば、粒子状であってもよい。
【0100】
正極202および負極203の少なくとも一方は、電解質材料を含んでもよく、例えば固体電解質材料を含んでもよい。固体電解質材料としては、電解質層201を構成する材料として例示された固体電解質材料が用いられ得る。以上の構成によれば、正極202または負極203内部のリチウムイオン伝導性が高くなり、高出力での動作が可能となる。
【0101】
正極202は、例えば、正極活物質として、金属イオン(例えば、リチウムイオン)を吸蔵かつ放出する特性を有する材料を含む。正極活物質として、例えば、リチウム含有遷移金属酸化物、遷移金属フッ化物、ポリアニオン材料、フッ素化ポリアニオン材料、遷移金属硫化物、遷移金属オキシ硫化物、遷移金属オキシ窒化物などを用い得る。リチウム含有遷移金属酸化物の例としては、Li(Ni、Co、Al)O2、LiCoO2などが挙げられる。正極活物質として、例えば、リチウム含有遷移金属酸化物を用いた場合、製造コストを安くでき、平均放電電圧を高めることができる。また、電池のエネルギー密度高めるために、正極活物質として、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムを用いてもよい。例えば、正極活物質は、Li(Ni、Co、Mn)O2であってもよい。
【0102】
正極202に含まれる固体電解質材料の形状が粒子状(例えば、球状)の場合、当該固体電解質材料のメジアン径は、100μm以下であってもよい。固体電解質材料のメジアン径が100μm以下である場合、正極活物質と固体電解質材料とが正極202において良好に分散し得る。これにより、電池の充放電特性が向上する。
【0103】
正極202に含まれる固体電解質材料のメジアン径は、正極活物質のメジアン径より小さくてもよい。これにより、固体電解質材料と正極活物質とが良好に分散し得る。
【0104】
正極活物質のメジアン径は、0.1μm以上かつ100μm以下であってもよい。正極活物質のメジアン径が0.1μm以上である場合、正極202において、正極活物質と固体電解質材料とが良好に分散し得る。この結果、電池の充放電特性が向上する。正極活物質のメジアン径が100μm以下である場合、正極活物質内のリチウム拡散速度が向上する。このため、電池が高出力で動作し得る。
【0105】
メジアン径とは、体積基準の粒度分布における累積体積が50%となる粒径をいう。体積基準の粒度分布は、レーザ回折散乱法によって求められる。以下の他の材料についても同様である。
【0106】
正極202に含まれる正極活物質と固体電解質材料の体積分率を「v1:100-v1」とするとき、30≦v1≦95が満たされてもよい。ここで、v1は、正極202に含まれる正極活物質および固体電解質材料の合計体積を100としたときの正極活物質の体積分率を示す。30≦v1を満たす場合、十分な電池のエネルギー密度を確保しやすい。v1≦95を満たす場合、電池の高出力での動作がより容易となる。
【0107】
正極202の厚みは、10μm以上かつ500μm以下であってもよい。正極の厚みが10μm以上の場合、十分な電池のエネルギー密度の確保が容易となる。正極の厚みが500μm以下の場合、電池の高出力での動作がより容易となる。
【0108】
負極203は、例えば、負極活物質として、金属イオン(例えば、リチウムイオン)を吸蔵かつ放出する特性を有する材料を含む。負極活物質としては、金属材料、炭素材料、酸化物、窒化物、錫化合物、珪素化合物などを用い得る。金属材料は、単体の金属であってもよく、合金であってもよい。金属材料としては、リチウム金属、リチウム合金などが挙げられる。炭素材料としては、天然黒鉛、コークス、黒鉛化途上炭素、炭素繊維、球状炭素、人造黒鉛、非晶質炭素などが挙げられる。珪素(Si)、錫(Sn)、珪素化合物、錫化合物など用いることで容量密度を向上させることができる。
【0109】
負極活物質のメジアン径は、0.1μm以上かつ100μm以下であってもよい。負極活物質のメジアン径が0.1μm以上である場合、負極203において、負極活物質と固体電解質材料とが良好に分散し得る。これにより、電池の充放電特性が向上する。負極活物質のメジアン径が100μm以下である場合、負極活物質内のリチウム拡散速度が向上する。このため、電池が高出力で動作し得る。
【0110】
負極活物質のメジアン径は、固体電解質材料のメジアン径よりも大きくてもよい。これにより、固体電解質材料と負極活物質とが良好に分散し得る。
【0111】
負極203に含まれる負極活物質と固体電解質材料の体積分率を「v2:100-v2」とするとき、30≦v2≦95が満たされてもよい。ここで、v2は、負極203に含まれる負極活物質および固体電解質材料の合計体積を100としたときの負極活物質の体積分率を示す。30≦v2を満たす場合、十分な電池のエネルギー密度を確保しやすい。v2≦95を満たす場合、電池の高出力での動作がより容易となる。
【0112】
負極203の厚みは、10μm以上かつ500μm以下であってもよい。負極の厚みが10μm以上である場合、十分な電池のエネルギー密度の確保が容易となる。負極の厚みが500μm以下である場合、電池の高出力での動作がより容易となる。
【0113】
正極活物質および負極活物質は、各活物質と固体電解質材料との界面抵抗を低減するために被覆材料により被覆されていてもよい。被覆材料としては、電子伝導性が低い材料が用いられ得る。被覆材料としては、酸化物材料および酸化物固体電解質材料などが用いられ得る。
【0114】
被覆材料に用いられる酸化物材料としては、例えば、SiO2、Al23、TiO2、B23、Nb25、WO3、およびZrO2などが用いられ得る。
【0115】
被覆材料に用いられる酸化物固体電解質材料としては、例えば、LiNbO3などのLi-Nb-O化合物、LiBO2、Li3BO3などのLi-B-O化合物、LiAlO2などのLi-Al-O化合物、Li4SiO4などのLi-Si-O化合物、Li2SO4、Li4Ti512などのLi-Ti-O化合物、Li2ZrO3などのLi-Zr-O化合物、Li2MoO3などのLi-Mo-O化合物、LiV25などのLi-V-O化合物、Li2WO4などのLi-W-O化合物などが用いられ得る。酸化物固体電解質材料は、イオン導電率が高く、高電位安定性が高い。このため、酸化物固体電解質材料が被覆材料として用いられることで、電池の充放電効率をより向上することができる。
【0116】
正極202、電解質層201、および負極203からなる群より選択される少なくとも1つには、リチウムイオンの授受を容易にし、電池の出力特性を向上する目的で、非水電解質液、ゲル電解質、またはイオン液体が含まれてもよい。
【0117】
非水電解液は、非水溶媒および非水溶媒に溶解したリチウム塩を含む。非水溶媒としては、環状炭酸エステル溶媒、鎖状炭酸エステル溶媒、環状エーテル溶媒、鎖状エーテル溶媒、環状エステル溶媒、鎖状エステル溶媒、およびフッ素溶媒などが用いられ得る。環状炭酸エステル溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートなどが挙げられる。鎖状炭酸エステル溶媒としては、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどが挙げられる。環状エーテル溶媒としては、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキソランなどが挙げられる。鎖状エーテル溶媒としては、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタンなどが挙げられる。環状エステル溶媒としては、γ-ブチロラクトンなどが挙げられる。鎖状エステル溶媒としては、酢酸メチルなどが挙げられる。フッ素溶媒としては、フルオロエチレンカーボネート、フルオロプロピオン酸メチル、フルオロベンゼン、フルオロエチルメチルカーボネート、フルオロジメチレンカーボネートなどが挙げられる。非水溶媒として、これらから選択される1種の非水溶媒が単独で使用されてもよいし、これらから選択される2種以上の非水溶媒の混合物が使用されてもよい。
【0118】
非水電解液には、フルオロエチレンカーボネート、フルオロプロピオン酸メチル、フルオロベンゼン、フルオロエチルメチルカーボネート、およびフルオロジメチレンカーボネートからなる群より選択される少なくとも1つのフッ素溶媒が含まれていてもよい。
【0119】
リチウム塩としては、LiPF6、LiBF4、LiSbF6、LiAsF6、LiSO3CF3、LiN(SO2F)2、LiN(SO2CF32、LiN(SO2252、LiN(SO2CF3)(SO249)、LiC(SO2CF33などが挙げられる。リチウム塩として、これらから選択される1種のリチウム塩が単独で使用されてもよいし、これらから選択される2種以上のリチウム塩の混合物が使用されてもよい。リチウム塩の濃度は、例えば、0.5mol/リットル以上かつ2mol/リットル以下であってもよい。
【0120】
ゲル電解質としては、ポリマー材料に非水電解液を含ませた材料が用いられ得る。ポリマー材料としては、ポリエチレンオキシド、ポリアクリルニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリメチルメタクリレート、エチレンオキシド結合を有するポリマーなどが挙げられる。
【0121】
イオン液体を構成するカチオンは、テトラアルキルアンモニウム、テトラアルキルホスホニウムなどの脂肪族鎖状4級カチオン、ピロリジニウム類、モルホリニウム類、イミダゾリニウム類、テトラヒドロピリミジニウム類、ピペラジニウム類、ピペリジニウム類などの脂肪族環状アンモニウム、ピリジニウム類、イミダゾリウム類などの含窒ヘテロ環芳香族カチオンなどであってもよい。イオン液体を構成するアニオンは、PF6 -、BF4 -、SbF6- -、AsF6 -、SO3CF3 -、N(SO2F)2 -、N(SO2CF32 -、N(SO2252 -、N(SO2CF3)(SO249-、C(SO2CF33 -などであってもよい。イオン液体はリチウム塩を含有してもよい。
【0122】
正極202および負極203の少なくとも一方は、電子導電性を高める目的で導電助剤を含んでもよい。導電助剤としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛類、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどのカーボンブラック類、炭素繊維、金属繊維などの導電性繊維類、フッ化カーボン、アルミニウムなどの導電性粉末類、酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー類、酸化チタンなどの導電性金属酸化物、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェンなどの導電性高分子などを用い得る。導電助剤として炭素材料を用いると、低コスト化を図ることができる。
【0123】
電池の形状は、例えば、コイン型、円筒型、角型、シート型、ボタン型、扁平型、積層型などが挙げられる。
【0124】
実施の形態2における電池は、例えば、正極形成用の材料、電解質層形成用の材料、負極形成用の材料をそれぞれ準備し、公知の方法で、正極、電解質層、および負極がこの順に配置された積層体を作製することによって製造してもよい。
【0125】
(実施例)
以下、実施例および比較例を用いて、本開示の詳細が説明される。なお、本開示のイオン伝導体材料および電池は、以下の実施例に限定されない。
【0126】
<実施例1>
[ハロゲン化物固体電解質材料の作製]
露点-60℃以下のアルゴングローブボックス内で、原料粉末としてYCl3とLiClとLiBrとを、YCl3:LiCl:LiBr=1:1:2のモル比で秤量した。その後、これらの原料粉末を混合し、得られた混合物を、電気炉を用いて、2時間、520℃で焼成処理し、ハロゲン化物固体電解質材料であるLi3YBr2Cl4(以下、「LYBC」と記載する)を得た。得られたLYBCにp-クロロトルエンを加え、湿式微粉砕・分散機を用いて粉砕後、乾燥することで、LYBC微粉(メジアン径D50=0.4μm)を得た。
【0127】
[硫化物固体電解質材料の作製]
露点-60℃以下のアルゴングローブボックス内で、原料粉末としてLi2SとP25とを、Li2S:P25=75:25のモル比で秤量した。これらの原料粉末を乳鉢で粉砕して混合した。その後、得られた混合物を、遊星型ボールミル(フリッチュ社製、P-7型)を用い、10時間、510rpmでミリング処理した。得られたガラス状の固体電解質を、不活性雰囲気中、270℃で、2時間熱処理した。以上により、ガラスセラミックス状の固体電解質材料であるLi2S-P25(以下、「LPS」と記載する)を得た
【0128】
[イオン伝導体材料を含む正極の作製]
露点-60℃以下のアルゴングローブボックス内で、LYBC微粉と無変性SEBS(旭化成株式会社製、タフテックN504、酸価0mg-CH3ONa/g)とを、LYBC微粉:無変性SEBS=1:0.022の質量比率で秤量した。秤量されたLYBC微粉および無変性SEBSを溶媒テトラリン中に溶解または分散させ、イオン伝導体材料スラリーを作製した。このイオン伝導体材料において、ハロゲン化物固体電解質材料はLYBCで構成され、樹脂バインダーは無変性SEBSで構成されていた。次に、LYBCとLi(Ni、Co、Mn)O2とがLYBC:Li(NiCoMn)O2=1:4.42の質量比率となるように、イオン伝導体材料スラリーおよびLi(Ni、Co、Mn)O2を秤量した。秤量されたイオン伝導体材料スラリーおよびLi(Ni、Co、Mn)O2を、自転・公転ミキサー(THINKY製、ARE-310)を用いて、1600rpmで6分間混練し、正極スラリーを作製した。集電体として、銅箔(厚さ12μm)が用いられた。この銅箔上に正極スラリーを塗布し、真空、100℃で1時間乾燥することで正極を作製した。
【0129】
[二次電池の作製]
絶縁性を有する外筒の中で、φ9.2mmに打ち抜いた正極と、20mgのLYBCと、60mgのLPSとを、この順に積層した。得られた積層体を740MPaの圧力で加圧成形することで、正極および固体電解質層の積層体が得られた。得られた正極および固体電解質層の積層体において、正極の厚さは60μmであった。
【0130】
次に、固体電解質層の正極と接する側とは反対側に、金属In(厚さ200μm)、金属Li(厚さ200μm)、金属In(厚さ200μm)をこの順に積層した。得られた積層体を80MPaの圧力で加圧成形することで、正極、固体電解質層、および対極からなる2極式の電気化学セルが得られた。この電気化学セルにおいて、正極は作用極であり、対極は参照極であった。
【0131】
次に、電気化学セルの上下にステンレス鋼集電体が配置された。ステンレス鋼集電体に、集電リードが付設された。
【0132】
次に、絶縁性フェルールを用いて、絶縁性外筒内部を外気雰囲気から遮断および密閉した。
【0133】
最後に、4本のボルトで電気化学セルを上下から拘束することで、電気化学セルに面圧150MPaを印加した。
【0134】
以上により、実施例1の二次電池が作製された。実施例1の二次電池においては、正極が、本開示のイオン伝導体材料を含んでいた。実施例1の二次電池に含まれるイオン伝導体材料において、ハロゲン化物固体電解質材料に対する、樹脂バインダーに含まれる変性基の物質量比は、0であった。イオン伝導体材料における樹脂バインダーの酸価は0であった。
【0135】
<実施例2>
イオン伝導体材料スラリーの作製において、LYBC微粉と、無変性SEBS(旭化成株式会社製、タフテックN504、酸価0mg-CH3ONa/g)と、無水マレイン酸変性SEBS(旭化成株式会社製、タフテックM1913、酸価10mg-CH3ONa/g)とが、LYBC微粉:無変性SEBS:無水マレイン酸変性SEBS=1:0.020:0.0022の質量比率で秤量された。このイオン伝導体材料において、ハロゲン化物固体電解質材料はLYBCで構成され、樹脂バインダーは無変性SEBSおよび無水マレイン酸変性SEBSで構成されていた。このこと以外の項目は、上述の実施例1の方法と同様に実施し、実施例2の二次電池を得た。
【0136】
実施例2の二次電池に含まれるイオン伝導体材料について、ハロゲン化物固体電解質材料に対する、樹脂バインダーに含まれる変性基の物質量比は、樹脂バインダーを構成する無変性SEBSおよび無水マレイン酸変性SEBSの酸価を用いて、以下の式(3)によって求められた。以下の式(3)から算出された、ハロゲン化物固体電解質材料であるLYBCに対する、樹脂バインダーに含まれる変性基の物質量比は、0.0002であった。
【0137】
変性基の物質量比=[{(無変性SEBSの酸価)×(無変性SEBSの含有質量)}/{(CH3ONaの分子量=54.02g/mol)×1000}+{(無水マレイン酸変性SEBSの酸価)×(無水マレイン酸変性SEBSの含有質量)}/{(CH3ONaの分子量×1000}]/{(LYBCの含有質量)/(LYBCの分子量=411.35g/mol)} ・・・(3)
【0138】
また、実施例2の二次電池に含まれるイオン伝導体材料について、樹脂バインダーの酸価が、以下の式(4)によって求められた。以下の式(4)から算出された樹脂バインダーの酸価は、1mg-CH3ONa/gであった。
【0139】
樹脂バインダーの酸価={(無変性SEBSの酸価)×(無変性SEBSの含有質量)+(無水マレイン酸変性SEBSの酸価)×(無水マレイン酸変性SEBSの含有質量)}/{(無変性SEBSの含有質量)+(無水マレイン酸変性SEBSの含有質量)} ・・・(4)
【0140】
<比較例1>
イオン伝導体材料スラリーの作製において、LYBC微粉と、無変性SEBS(旭化成株式会社製、タフテックN504、酸価0mg-CH3ONa/g)と、無水マレイン酸変性SEBS(旭化成株式会社製、タフテックM1913、酸価10mg-CH3ONa/g)とが、LYBC微粉:無変性SEBS:無水マレイン酸変性SEBS=1:0.017:0.0043の質量比率で秤量された。このイオン伝導体材料において、ハロゲン化物固体電解質材料はLYBCで構成され、樹脂バインダーは無変性SEBSおよび無水マレイン酸変性SEBSで構成されていた。このこと以外の項目は、上述の実施例1の方法と同様に実施し、比較例1の二次電池を得た。
【0141】
比較例1の二次電池に含まれるイオン伝導体材料について、ハロゲン化物固体電解質材料に対する、樹脂バインダーに含まれる変性基の物質量比は、樹脂バインダーを構成する無変性SEBSおよび無水マレイン酸変性SEBSの酸価を用いて、実施例2で用いられた上記式(3)によって求められた。上記式(3)から算出された、ハロゲン化物固体電解質材料であるLYBCに対する、樹脂バインダーに含まれる変性基の物質量比は、0.0003であった。
【0142】
また、比較例1の二次電池に含まれるイオン伝導体材料について、樹脂バインダーの酸価が、実施例2で用いられた上記式(4)によって求められた。上記式(4)から算出された樹脂バインダーの酸価は、2mg-CH3ONa/gであった。
【0143】
<比較例2>
イオン伝導体材料スラリーの作製において、LYBC微粉と無水マレイン酸変性SEBS(旭化成株式会社製、タフテックM1913、酸価10mg-CH3ONa/g)とが、LYBC微粉:無水マレイン酸変性SEBS=1:0.022の質量比率で秤量された。このイオン伝導体材料において、ハロゲン化物固体電解質材料はLYBCで構成され、樹脂バインダーは無水マレイン酸変性SEBSで構成されていた。このこと以外の項目は、上述の実施例1の方法と同様に実施し、比較例2の二次電池を得た。
【0144】
比較例2の二次電池に含まれるイオン伝導体材料について、ハロゲン化物固体電解質材料に対する、樹脂バインダーに含まれる変性基の物質量比は、樹脂バインダーを構成する無水マレイン酸変性SEBSの酸価を用いて、以下の式(5)によって求められた。以下の式(5)から算出された、ハロゲン化物固体電解質材料であるLYBCに対する、樹脂バインダーに含まれる変性基の物質量比は、0.002であった。
【0145】
変性基の物質量比=[{(無水マレイン酸変性SEBSの酸価)×(無水マレイン酸変性SEBSの含有質量)}/{(CH3ONaの分子量×1000}]/{(LYBCの含有重量)/(LYBCの分子量)} ・・・(5)
【0146】
また、比較例2の二次電池に含まれるイオン伝導体材料について、樹脂バインダーの酸価は、無水マレイン酸変性SEBSの酸価である、10mg-CH3ONa/gであった。
【0147】
<電池の評価>
[充放電試験]
上述の実施例1、実施例2、比較例1、および比較例2の電池をそれぞれ用いて、以下の条件で、充放電試験を実施した。
【0148】
電池を25℃の恒温槽に配置した。
【0149】
電池に対して、正極活物質(Li(Ni、Co、Mn)O2)の理論容量に対して0.05Cレート(20時間率)となる電流値の電流密度で、電圧3.7V(vs LiIn)まで充電した。次に、同じく0.05Cレートとなる電流値の電流密度で、電圧1.9V(vs LiIn)まで放電した。
【0150】
以上により、上述の実施例1、実施例2、比較例1、および比較例2、の電池のそれぞれの充電容量、放電容量、および充放電効率(=(放電容量/充電容量)×100)を得た。これらの結果を、表1に示す。
【0151】
【表1】
【0152】
<考察>
表1に示す実施例1および実施例2の結果と、比較例1および比較例2の結果との比較により、LYBCに対する樹脂バインダーに含まれる変性基の物質量比が0.0002以下のイオン伝導体材料を用いた電池の場合、正極の理論容量である200mAh/gに近い充電容量を示し、電池の充放電効率が向上することが確認された。
【0153】
以上より、本開示のイオン伝導体材料が用いられることで、電池の充放電効率が向上することが確認された。なお、本開示のイオン伝導体材料とは、Li、M、およびXを含む固体電解質材料と樹脂バインダーとを含み、前記Mは、Li以外の金属元素および半金属元素からなる群より選択される少なくとも1種であり、前記Xは、F、Cl、Br、およびIからなる群より選択される少なくとも1種であり、前記固体電解質に対する前記樹脂バインダーに含まれる変性基の物質量比が0.0002以下であるイオン伝導体材料である。
【産業上の利用可能性】
【0154】
本開示の電池は、例えば、全固体リチウムイオン二次電池などとして利用され得る。
【符号の説明】
【0155】
1000 イオン伝導体材料
101 固体電解質材料
102 樹脂バインダー
2000 電池
201 電解質層
202 正極
203 負極
図1
図2